福岡大学における第一例目の脳死肺移植

福岡大医紀(Med. Bull. Fukuoka Univ.): 34
(2), 131 138, 2007
The 1st Lung Transplantation from Brain Dead Donor
at Fukuoka University Hospital
Takeshi SHIRAISHI1), Masafumi HIRATSUKA1), Mitsuteru MUNAKATA1),
Satoshi MAKIHATA1), Jun YANAGISAWA1), Yasuteru YOSHINAGA1),
Satoshi YAMAMOTO1), Akinori IWASAKI1), Yasushi YAMAUCHI2),
Kouji MIKAMI2), Tomoaki NORITOMI2), Yu ichi YAMASHITA2),
Takashige KURAKI3), Kentaro WATANABE3), Hideto SAKOH4),
Hiroaki NISHIKAWA4), Keijiro SAKU4), Yasushi TAKAMATSU5),
Shin ichi WAKAMATSU5), Kazuo TAMURA5), Masanobu YASUMOTO6),
Takamitsu HAMADA6), Shigenori IWAKIRI6), Kazuo HIGA6),
Mami SAKAMOTO7), Noritsugu MORISHIGE8), Hidehiko IWAHASHI8),
Tadashi TASHIRO8), Masaki KUBOTA9), Takao IWASAKI9),
Kazuki NABESHIMA10), Manami TAKAISHI11) and Takayuki SHIRAKUSA1)
1) Lung
Transplantation Service at the Department of Thoracic, Endocrine and Pediatric Surgery
of Gastroenterological Surgery
3) Department of Respiratory Medicine
4) Department of Cardiology
5) First Department of Internal Medicine
6) Department of Anesthesiology
7) Fukuoka University Hospital Nursing Service
8) Department of Cardiovascular Surgery
9) Department of Rehabilitation
10) Department of Surgical Pathology
11) Fukuoka University Hospital Transplant Coordinator, Fukuoka University School of Medicine and
Hospital, Fukuoka, Japan
2) Department
Abstract:On July 1st 2005, the lung transplantation service at Fukuoka University Hospital
was officially authorized to perform clinical lung transplantations from brain dead donors and
therefore started to gather possible transplant candidates for the Japan Organ Transplant Network(JOTNW)waiting list. On October 28th 2006 a lung graft from a brain dead donor in Fukushima prefecture was identified which suitably matched one of the Fukuoka candidates and
therefore a left lung transplantation was performed immediately after the long range transport
of the lung graft from the donor hospital. After the transplantation operation was performed,
the postoperative course was uneventful and the recipient was discharged from hospital 60 days
after surgery. The patient required continuous high dose oxygen inhalation 24 hours a day before transplant, however, he became free from oxygen support by 30 days after surgery. The
postoperative performance status of the recipient had shown a dramatic improvement at the
time of discharge. He is now preparing to make a full return to his previous work and social
life.
Key words:Lung transplantation, Brain dead donor, Bronchiolitis obliterans, GVHD, PBSCT
別刷請求先:〒8140180 福岡市城南区七隈7451 福岡大学医学部外科呼吸器・乳腺内分泌・小児外科 白石武史
Tel:0928011011 Fax:09286182
71
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福岡大学における第一例目の脳死肺移植
白石 武史1) 平塚 昌文1) 宗像 光輝1)
巻幡 聰1) 柳沢 純1) 吉永 康照1)
山本 聡1) 岩崎 昭憲1) 山内 靖2)
三上 公治2) 乗富 智明2) 山下 裕一2)
久良木隆繁3) 渡辺憲太朗3) 佐光 英人4)
西川 宏明4) 朔 啓二郎4) 高松 泰5)
若松 信一5) 田村 和夫5) 安元 正信6)
濱田 孝光6) 岩切 重憲6) 比嘉 和夫6)
坂本 真美7) 森重 徳継8) 岩橋 英彦8)
田代 忠8) 久保田正樹9) 岩崎 敬雄9)
鍋島 一樹10) 高石真奈美11) 白日 高歩1)
1) 福岡大学医学部外科学教室 呼吸器・乳腺内分泌・小児外科部門 肺移植チーム
2) 福岡大学医学部外科学教室 消化器外科部門肝移植チーム
3) 福岡大学病院呼吸器科
4) 福岡大学病院循環器科
5) 福岡大学病院血液糖尿科
6) 福岡大学病院麻酔科・SICU
7) 福岡大学病院手術室看護部
8) 福岡大学医学部心臓血管外科
9) 福岡大学医学部リハビリテーション部
10) 福岡大学病院病理部
11) 福岡大学病院看護部臓器移植コーディネーター
要旨:福岡大学病院は2005年6月に心肺移植関連学会協議会により脳死肺移植の実施施設認定を受け
た.同年7月より九州一円より希望患者を受け入れ,厳重な評価の後に患者登録を行ってきたが,2006年
10月28日に福島県で発生した脳死臓器提供者の肺が福岡大学病院より登録した待機患者と適合することが
明らかとなり,同日中に脳死左肺移植手術を実施した.術後は極めて安定して推移し,患者は術後60日目
に自宅への退院を果たした.術前は毎分 5L の酸素吸入を要し移動には電動車いすを必要とする状態で
あったが,退院時は酸素を必要とせず独歩での退院であった.この患者は現在,復職を含めた社会復帰の
為に外来でリハビリテーションを実施中である.
索引用語:肺移植,脳死肺移植,造血幹細胞移植,閉塞性細気管支炎,移植片対宿主病
理の下でこれら認定施設のみに臓器が配分される為,認
は じ め に
定施設以外では脳死臓器移植を実施することは不可能で
ある.これら施設における初期の安定した肺移植成績に
わが国における脳死臓器移植は諸外国に遅れること10
より2005年6月には認定施設が拡大されることとなり,
数年,1997年の「臓器移植法」制定を以って開始された.
福岡大学は厳重な審査の結果脳死肺移植実施施設として
当初は心肺移植関連学会協議会による審査を受け,これ
追加認定を受けた.これにより福岡大学病院は九州地方
を認められた4大学すなわち東北大学・大阪大学・京都
における肺移植施設として移植希望患者を九州一円より
大学・岡山大学の医学部付属病院のみが実施施設として
受け入れ,厳重な検査評価の後に移植適応基準を満たす
認定された.脳死移植臓器は日本臓器移植ネットワーク
患者の JOTNW への登録を開始した.
(Japan Organ Transplant Network:JOTNW)によ
2006年10月28日未明に福島県で発生した脳死臓器提供
る脳死判定やマッチング(提供臓器と移植を受ける人
者の肺が福岡大学病院より登録した一人の待機患者と適
[レシピエント]との適合性評価)等に関する厳格な管
合することが明らかとなり,同日中に福岡大学第一例目
福岡大学における第一例目の脳死肺移植(白石・他)
― 133 ―
図 1 術前および術後肺機能の推移 FEV1.0:一秒量 FVC:努力肺活量
の脳死左肺移植手術が実施された.本報告は福岡大学病
加わったにもかかわらず呼吸機能の低下は制御できず,
院における臓器移植関連各科の総力を挙げて取り組み,
閉塞性細気管支炎発症の1カ月後には FEV1.0=1.07L
成功裏に終わったこの脳死肺移植症例の治療経緯であ
(26%)に至り在宅酸素療法が開始された.呼吸不全の進
る.
行の状況を図 1に示す.
症 例
肺移植適応評価
本症例は福岡大学肺移植検討会(福岡大学外科・呼吸
肺移植適応の理由に関する病歴
器科・血液糖尿病科)で肺移植の適応ありと判定され,
移植時32歳の男性.28歳時に原因不明の汎血球減少症
この後に中央肺移植検討会にデータを送付し公的な審査
および脾腫を来たし,脾原発悪性リンパ腫を疑われ脾摘
を受けた後,2006年1月23日に正式に脳死肺移植待機患
出術を施行.悪性リンパ腫(T cell type)と診断された.
者として認められた.患者はこの後,福岡大学病院にお
29歳時にリンパ腫の骨髄浸潤が確認され THP COP 療
いて血液内科・呼吸器科・外科による注意深い外来観察
法(プレドニン・エンドキサン・オンコビン・ピノルビ
を受けながら脳死臓器提供を待った.
ン)を開始された.その後,DOP 療法(オンコビン・
ペプロマイシン・デカドロン),CHASE 療法(エトポ
移植実施決定まで
シド・シタラビン・シクロフォスファミド・デキサメタ
2006年10月28日(待機期間278日目),午前02時21分,
ゾン)を施行されたが病勢のコントロールに至らず,30
JOTNW より福岡大学肺移植チーム宛に脳死肺提供の
歳時に HLA 適合の実姉から造血幹細胞移植を受けた.
第一報があった.福島県いわき市の30歳男性からの提供
移植後の急性期には消化管・皮膚に GVHD(Graft ver-
であり,医学的理由で右肺は移植に耐えられないが左肺
sus Host Disease)を来たしたものの造血幹細胞移植後
のみであれば移植可能である,また適合条件を満たした
27日目の骨髄穿刺では正常造血の回復が認められ染色体
待機患者が他の肺移植実施施設にも在り福岡大学の候補
検査では98%が XX シグナルを示しドナー幹細胞の生
者はその時点で第3候補であるという内容であった.肺
着が確認された.その後患者は完全寛解状態に入り外来
移植チームは急ぎ病院へ集合し,あらかじめ定められた
通院を続けていたが,31歳時(造血幹細胞移植後11カ月
マニュアルに沿い準備を開始した.午前02時33分に受け
目)に急激な呼吸困難感・頚部および縦隔気腫を来たし
た第2報では他の施設の待機患者が2名とも医学的理由
救急搬送された.肺に対する GVHD としての閉塞性細
で移植を断念したため福岡大学の適合患者が第1候補に
気管支炎の発症と考えステロイドパルス療法が施行さ
上がったということであった.
れ,症状はやや改善したものの呼吸困難は持続し呼吸機
JOTNW への最終的な意思確認の発信は午前0
3時40
能検査上,FVC=3.53L(74%),FEV1.0=1.31L(31%)
分に行った。福岡大学外科肺移植チームおよび肝移植
の高度閉塞性呼吸障害を示した.その後閉塞性細気管支
チームの4名からなる臓器摘出チームは福岡空港発羽田
炎の進行抑制の為にタクロリムスによる免疫抑制療法が
行き初発便で摘出病院へ向け出発し,レシピエントチー
― 134 ―
ムは院内に残り移植手術の準備を開始した.
術 後 経 過
ドナーチーム
ドナーチームは手術機材,臓器保存液,冷却用スラッ
患者は高度気腫性肺疾患であり,正常に近いコンプラ
シュアイス,手術用消耗品等の大量の機材を持参して摘
イアンス持った移植肺と病的に上昇したコンプライアン
出病院に向かい,現地で心臓・肝臓・腎臓・膵のチーム
スを持った自己肺(右)を個別に有効換気させる為,術
と摘出手順に関する打ち合わせをした後,左肺グラフト
後早期は分離肺換気チューブを挿入した状態で2台の人
を摘出した.大動脈遮断時刻は15時36分であった.帰路
工呼吸器を用い左右肺別換気を行った.循環動態は術後
は二組に分かれ臓器搬送グループは福島県警警察車両
早期より安定しており,術翌日より免疫抑制剤としてタ
先導のタクシーで福島空港へ向かい,福島空港からは
クロリムス,ミコフェノール酸モフェチル,ステロイド
チャーター機(プロペラ機)で福岡空港へ帰着した.ド
を使用した.術後4日目に人工呼吸器から離脱し気管
ナーチームの別の一組はドナーの御遺体の縫合およびお
チューブを抜管した.術後7日目と14日目に強い全身倦
見送りの為福島に残留し,翌日帰福した.
怠感とレントゲン上移植肺の透過性低下および軽度の発
熱を認め急性拒絶反応と診断したが,ステロイドパルス
レシピエントチーム
療法でいずれも問題なく改善した.感染に関しては術後
学内に残ったレシピエントチームは移植準備を開始
7日目の喀痰培養より緑膿菌およびメチシリン耐性ブド
し,麻酔科・心臓血管外科・手術部・呼吸器科等の関連
ウ球菌の発育を認めたが,感染症状を伴わなかった為抗
各科と術中術後に関し詳細な打ち合わせを繰り返した.
生物質の投与は行わず経過を観察した.リハビリテー
福岡大学へのドナー肺到着が20時30分頃の予測である旨
ションは気管チューブ抜管直後より呼吸訓練およびベッ
の連絡を受け,レシピエント手術開始を18時30分とし
ド上での筋力トレーニングを開始し,14日目には病棟内
た.ドナーチーム・レシピエントチームの作業時系列を
歩行を出来るまでに改善した.拒絶反応の病理学的検索
図
は2度目の急性拒絶反応の治療が終了した直後の18日目
2に示す.
と53日目に気管支鏡肺生検により施行したがいずれも拒
左片肺移植手術(図 3a,b)
絶反応を全く認めない A 0 判定であった.酸素投与は
術後1カ月の時点で完全に Off とした.呼吸機能は漸
レシピエント手術はドナー班から寄せられる逐次の情
次改善し,移植3カ月前には 0.85L(20%)まで低下し
報に従い,移植臓器の虚血時間を最小限に止めかつレシ
ていた一秒量(率)は移植後 2カ月目で 2.26L(54%)
ピエントの麻酔時間が可及的に短くなるよう配慮しなが
まで改善した(図 1).これに伴い運動能も極めて向上
ら行われた.左肺門を剥離し肺動静脈および気管支を分
し,移植直前は 5L 酸素を吸入してもなお移動は電動車
離して肺切除が可能な状態とした段階でドナー肺の到着
いすを必要とし,着衣や簡単な日常動作でも強い呼吸困
を待ち,到着後直ちに移植を行った.気管支・肺静脈・
難を伴う Hugh Jones Ⅳ 度であったのが,術後2カ月
肺動脈の順に吻合し,気管支は 4 0 PDS 糸により膜
目には酸素吸入を必要とせず充分な自力歩行および日常
様部は連続,軟骨部は結節縫合で吻合し,肺静脈および
生活での自立が可能となった(Hugh Jones Ⅱ度)
.患
肺動脈は 5 0 Prolene 糸で2点吊り上げによる連続縫
者は就職を含めた日常生活への復帰に強い意欲を見せな
合で吻合した.移植操作中の体外循環は,必要に応じて
がら術後60日目に酸素吸入なしの独歩で退院した.
大腿動静脈送脱血による PCPS(Percutaneous Cardiopulmonary Support)で行う予定とし心臓外科チー
考 察
ムには術中待機を依頼したが,患者は移植手術中分離肺
換気による右肺単独換気で十分な酸素化能および心機能
臨床肺移植の現実的な成功例は移植後10カ月の生存を
を示し,実際には補助体外循環は必要なかった.吻合終
果たした1971年の Derom の報告と思われる1).しかし
了後,左房からエア抜きを行いながら血行遮断を解除
適切な免疫抑制療法が未開発であったことに加え高率に
し,同時に麻酔科に再換気開始および肺血管抵抗減弱の
発生した気管支吻合部関連の合併症のため,その後多く
為に一酸化窒素(15ppm),プロスタグランディンの持
の研究者は肺移植そのものに否定的であった.しかしト
続投与開始を依頼した.移植肺は良好に換気を開始し,
ロント総合病院の Cooper らがシクロスポリンが使用可
虚血再還流障害に伴う肺浮腫を来たすことなく順調に機
能となった1980年代初めに拘束性肺疾患に対する片肺移
能した.ドナー大動脈遮断から移植終了後の血行遮断解
植から開始した肺移植プログラムを次々と成功させ,実
除に至る総虚血時間は7時間16分,移植開始から血行遮
施件数は瞬く間に上昇した2) 5).1993年には全世界での
断解除までの温阻血時間は1時間31分であった(図 2).
年間実施例が1000件を超える状況となり,終末期呼吸不
福岡大学における第一例目の脳死肺移植(白石・他)
図 2 脳死肺移植実施に至る手順
― 135 ―
― 136 ―
図 3a 手術写真 吻合準備中(血管トリミング)の左肺グラフト
図 3b 移植手術場面
全に対する有力な治療手段の一つとして定着した.一方
山大学における生体両側下葉移植として開始され,脳死
わが国では脳死臓器移植そのものの開始が諸外国より遅
肺移植の第一例目は2000年3月に実施された.このとき
れ,1997年の臓器移植法制定を持ってこれが開始され
ドナー肺は左右に分離され大阪大学と東北大学へ送られ
た.開始当初は制限された指定施設(東北大学・京都大
それぞれ片肺移植として別個の患者に移植された6) 8).
学・大阪大学・岡山大学)のみが脳死肺移植の実施を認
わが国における肺移植はその後伸び悩む脳死臓器提供
められ,これら施設を通じて臓器待機登録を行った患者
数に苦慮しつつも生体肺移植をオプションに加えること
のみが JOTNW より脳死臓器の提供を受けられるシス
により順調に発展し,先行諸外国と比肩する長期生存率
テムであった.わが国における実際の肺移植は1998年岡
を達成している(図 4).次第に日本全国に肺移植に対
福岡大学における第一例目の脳死肺移植(白石・他)
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図 4a わが国の肺移植成績 全移植成績 1Y:80.9%,2Y:76.6%,3Y:73.5%,4Y:73.5%,5Y:7
0.5%
図 4b 脳死肺移植・生体肺移植別成績
日本の生体肺移植(n=5
7)vs 脳死肺移植(n=3
0),生体肺移植の5
年生存率は77.1%,脳死肺移植の5年生存率は57.2%
する需要が高まり,先行4施設のみでは地域的偏りが著
唯一の実施例であり,もちろん九州で初の脳死肺移植で
しい状況となった為,2005年に新規実施施設として福岡
ある.本症例は GVHD による閉塞性細気管支炎を原因
大学・獨協大学・千葉大学・長崎大学が指定された.
とする呼吸不全であり,肺移植適応疾患としては比較的
今回我々が経験した移植は臓器移植法に基づくわが国
稀なグループに属す.この疾患群に肺移植を適応する場
48件目の脳死臓器提供によるものであり,脳死肺移植と
合,現疾患の治癒(寛解)の程度が最も重要な要素の一
しては29例目となる.また第2次認定を受けた4施設中
つであるが,本症例の病理像は Low grade non Hodg-
― 138 ―
kin Lymphoma であり,同種幹細胞移植が生着した場
合 GVL(Graft versus Leukemia)反応による完全寛
参 考 文 献
解が得られる確率が極めて高いと考えられている.閉塞
性細気管支炎は進行性かつ免疫抑制療法が加わったにも
かかわらず制御が困難であり,発症よりまもなく呼吸不
全症状は重篤(Hugh Jones Ⅳ 度)な状況に陥った.呼
吸不全の進行が予後を規定する可能性が非常に高く推定
予後は2年に満たないものと考え,我々は関連の呼吸器
内科・血液内科と協議の結果,Lung Transplantation
International Guideline に沿ってこの症例を肺移植適
応と考えた9).更にこれを学外肺移植適応判定委員会の
ひとつである近畿肺移植検討会(大阪大学・京都大学・
近畿中央病院を主体とした関西地方の肺移植適応判定委
員会)に提出し第3者判定として同様の意見を得た後に
中央肺移植検討会(肺移植の適応を最終的に判定する
中央委員会)に提出した.中央判定委員会でも肺移植
の適応と判定され,この結果2
006年1月23日に本症例
は左右いずれかあるいは両肺の肺移植適応患者として
JOTNW に登録された.患者はこの後,福岡大学病院
において血液内科・呼吸器科・外科により注意深い外来
観察を受けながら脳死臓器提供を待った.
待機期間2
78日目.日本の臓器移植システムでは移植
を受けた患者の平均待機日数が809日,待機中死亡率が
3
6.6%である現実を考えると,今回のケースは極めて幸
運に恵まれたものであるといえよう.移植実施に際して
は2005年以来周到に準備した肺移植システムが関連各科
の積極的な協力を得られて極めて順調に稼動した.肺移
植にかかわらず脳死臓器移植は広く病院を挙げた協力が
不可欠であり,逆に高度先進医療機関としての実力と内
部の協調性が試される課題でもある.我々は今回の移植
の成功により名実共に肺(脳死)移植医療への参入を果
たした訳であり,今後も九州における肺移植基幹施設と
して努力を続ける必要がある.
謝 辞
福岡大学外科教室肺移植チームは,肺移植実施に際し
て様々な助力を下さった福岡大学病院の関連全部門に対
し深くお礼申し上げます.
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