学 位 の 種 類 博 士 (理 学) 学位記番号 理第 2 7 5 9 号 学位 - 東北大学

た
した
しん
や
氏 名 ・(本 籍 )
田 下
真
也
学 位 の 種 類
博
学 位 記 番 号
理 第 2 7 5 9号
学位授与年月 日
平成2
5年 3月 2
7日
学位授与 の要件
学位規則第 4条第 1項該当
研究科, 専攻
東北大学大学院理学研究科 (
博士課程)化学専攻
学位論文題 目
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理
学)
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(アルキ ンおよび ビニ リデ ン錯体 のゲルマニウム類縁体 に関す る合成研究)
論文審査委員
(
主査)
教
授
飛
田 博
実
教
授
小
林
長
夫
教
授
山 下
正
贋
准教授
橋
久
子
論
文
本
目 次
Cha
p
t
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.Ge
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ll
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i
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n
論
第-章
文
内 容 要
旨
緒言
遷移金属 アルキ ン錯体 やその異性体であ るビニ リデ ン錯体 は,遷移金属 を用 いたアルキ ンの触媒的変換
反応 における重要 な中間体 と して, その構造や反応性 に関す る研究が数多 く行われている.特 に, アルキ
ン錯体 とビニ リデ ン錯体間の異性化 は触媒的なアルキ ンの二量化反応 などにおける鍵 ステ ップ と して知 ら
れてお り,活発 に研究 されている.一方, アルキ ン錯体 や ビニ リデ ン錯体 の骨格炭素が高周期1
4族元素 に
-2
1
3-
置 き換わ った錯体 は合成例が非常 に限 られてお り, その構造や反応性 はほとん どわか っていない. そ こで
本研究ではアルキ ンおよび ビニ リデ ン錯体 の高周期元素類縁体の化学 を明 らか にす るため,ゲルマニウム
類縁体であるジゲル ミン錯体および ジゲルマ ビニ リデ ン錯体 の合成研究 を行 った (
図 1)
.
第二章
(クロロゲル ミレン)パ ラジウム錯体 の合成 と構造およびその還元反応
hf
t
)
,
Ge
C1
2
C(
Si
Me
,
)
,と配位不飽和 な どスホスフィンパ ラジウム
トルエ ン中で クロロゲル ミレノイ ドLi(
錯体 pd(
PCy
3
)
2(
Cy - シクロへキ シル)とを反応 させ ることによ り, ジゲル ミン錯体 の前駆体 となる (ク
スキーム 1).
ロロゲル ミレン)パ ラジウム錯体 1の合成 に成功 した (
錯体 1の Ⅹ線結晶構造解析 を行 った ところ,Ge周 りはほぼ平面構造であ り,Pd-Ge間距離 (
2.
3037(
6
)
A)は既知 の (ジア ミノゲル ミレン)パ ラジウム錯体 (
Et
,
P)
2
Pd-Gem (
Si
Me
,
)
2
]
2の Pd-Ge間距離 (
2.
33
0(
5
)
A)と同程度であ った (図2). これ らの結果 は,錯体 1がパ ラジウムーゲルマニウム間に二重結合 を もっ
PdP面 と Cl
Ge
C面がつ くる二面角 は 8
6.
1
7
ゲル ミレン錯体であることを示 している. また,錯体 lの P-
(
9)
Oであ り, はば直交 した構造が見 られた.DFTに基づ いて 1の構造 に関す る理論計算 を行 った ところ,
T逆供与か らな り,
パ ラジウムーゲルマニウム間の二重結合 は Geか らpdへの q 供与 と pdか ら Geへの 7
ppdP面 と cl
Ge
C面 が同一平面上 にあ るよ りも直交 した方が強 く7
t逆供与 が起 こるため錯体 lは直交
構造 をとることがわか った.
次 に得 られた錯体 1について,還元剤 と してKC8
を用 いた還元的カ ップ リングによる (ジゲル ミン) ジ
PCy。
)
2およ
パ ラジウム錯体Aの合成 を試 みた. しか し, 目的の ジゲル ミン錯体 の生成 は確認 されず,pd(
び遊離 の PCy,を含む未同定混合物が得 られた (スキーム 1).
第三章
(クロロゲル ミル) メタロゲル ミレンの合成 と構造および ジゲルマ ビニ リデ ン錯体 の合成 の試 み
Nへテ ロサイ ク リックカルベ ン (
M
c
I
'
Pr
) によ り安定化 された (クロロゲル ミル) ク ロロゲル ミレン
Ge
Cl(
Ge
Cl(
Me
s
)
2
)(
"
c
r
pr
)(
2
)と cp*配位子 (
cp*-n5
C5
Me
5
) を もっアニオ ン性 タ ングステ ン錯体 [
cp*
W
(
co)
3
] との脱塩反応 を行 った ところ,2の クロロ基 の置換反応 とゲル ミル基 の置換反応が競合 して起 こ
り, (クロロゲル ミル) メタロゲル ミレン 3およびクロロメタロゲル ミレン4が生成比 1:1の混合物 と し
て得 られた (
式 1).錯体 4が生成 す る際 に起 こる 2の Ge-Ge結合切 断 は金属上 の Cp*配位子 と 2の
Me
s基 との立体反発 によ り誘起 されて いると考 え,次 によ り嵩 の小 さい Cp配位子 (
cp -1
15
C5
H5
)をも
つ アニオ ン性 6族金属錯体 [
cpM(
CO)
3
]
ー(
M -W,Mo) との反応を検討 した.
cpM(
CO)
3
] (
M -W,Mo) と (クロロゲル ミル) クロロゲル ミレン 2との反応 を
アニオ ン性金属錯体 [
行 った ところ,ゲル ミレン上 の クロロ基 の置換反応が選択的に進行 し, メタロゲル ミレン5
aおよび 5
bが
主生成物 と して得 られた (
式 2).錯体 5
aの Ⅹ線結晶構造解析 を行 った ところ,αGe周 りは三角錐構造
aおよび 5
bの 1
H NMR を測
をとり,不斉 中心 となっていることが明 らか にな った (
図 3). また,錯体 5
s基が非等価 に観測 された. これ は,不斉 な α-Geの存在 によ って
定 した ところ, β-Ge上 の二 つの Me
s基が互 いに ジアステ レオ トピックとな ったためである.
二つの Me
次 に錯体 5aを前駆体 と し,種 々の試薬 (
AgBF4
,[
Li(
Et
2
0)
2
5
日B(
C6
F5
)
4
]
,B(
C6
F5
),
) を用 いて,塩化物
イオ ンの引 き抜 き反応 によるカチオ ン性 ジゲルマ ビニ リデ ン錯体 の合成 を試 みた. しか し, いずれの反応
において も目的物 の生成 は確認 で きなか った.現在の ところ,金属 フラグメ ン トが十分 に電子豊富でない
ため,生成す るカチオ ン性 ジゲルマ ビニ リデ ン錯体 を安定化で きていないためであると考 えている. そ こ
で,第四章で はメタロゲル ミレンか ら7
t電子受容性 の CO 配位子が一つ少 ないゲル ミリン錯体 を ジゲルマ
ビニ リデ ン錯体 の前駆体 と して用 いることを検討 した.
-2
1
4-
第四章
(クロロゲル ミル)ゲル ミリン錯体の合成 と構造および ジゲルマ ビニ リデ ン錯体への変換
ベ ンゼ ン中で メタロゲル ミレン 5aおよび 5bに光照射す ることによ り,金属上の CO配位子が解離 し
金属 -ゲルマニウム間に多重結合を もつゲル ミリン錯体 6aおよび 6bが生成 した (スキーム 2).次 いで
ゲル ミリン錯体 6aおよび 6bを B(
C6F,
)
,と反応 させた ところ, ジゲルマ ビニ リデ ン錯体 7aおよび 7b
が NMR および I
R によ り観測 された. これまでにジゲルマ ビニ リデ ン錯体 はま った く合成例がな く, こ
れが初めての例である.錯体 7bの 1
1
BNMRでは, -1
6.
6ppm と四配位 ホウ素 に典型的な高磁場領域 に シ
CI
B(
C6F5
)
,
「 を持つ錯体であることを示唆 して
グナルが観測 された. これは錯体 7bが クロロボ レー ト[
いる.錯体 7bの I
R スペク トルでは,CO配位子 の対称伸縮振動および逆対称伸縮振動の吸収 ピークが約
1:2の強度で観測 され, また錯体 6bに比べ CO伸縮振動 の大 きな高波数 シフ ト (
6b:1
8
05,1
8
8
2c
m1
,
7b:1
891
,1
955c
m り が見 られた. この結果か ら,錯体 7は二つの CO配位子が互 いに トランス配置 と
なる構造を とり,金属 中心 に高 い正電荷を もっ錯体であると考え られ る. また興味深 いことに,錯体 7a
に DMAP (
4(
di
me
t
hyl
a
mi
no
)
pyr
idi
ne
) を反応 させたところ, クロロ基が タングステ ンか らβGe上へ 1
,
3
転位 し,ゲル ミリン錯体 6aが再生 した.
本研究の成果 は, これまで未開拓だ った ビニ リデン錯体の高周期元素類縁体の化学 における発展の糸 口
になる可能性がある.
第五章
結語
本研究を総括 した.
R
R- Ge≡ Ge- R
【
M
】
=
。
e
=
G
g
\
l
【
M】
R
ジゲルミン錯体
ジゲルマビニリデン錯体
図 1 アルキンおよびビニリデン錯体のゲルマニウム類縁体
+Li
(
t
hf
)
3
GeC1
2
C(
Si
Me3
)
3
ゲルミレノイド
Pd(
PCy
3
)
2
::
3:
,
;I
,d
-Ge
(C
■
cy3P
革
t
c
(
si
M3
)
3
′
e
THF
室温
(
クロロゲルミレン)
パラジウム錯体
1
スキーム1
12
1
5-
`
"e3
Si
'
3
気
G.
e
'C'
Si
"e3
'
3
pl
d1、
Fd
cy
3
P/
\pcy
3
(
ジゲルミン)
ジパラジウム錯体
1
己7
図2 (
クロロゲルミレン)
パラジウム錯体1の構造式(
a)
および結 晶構造(
b)
N
Me
s
トー Ge-de-Mes
+l
Li
(
t
hf)2]
l
Cp
*
W(
CO
R
)3]
.
A
,
e
Ge
C・(M e
s
,
2. .
(
# ok
C
蓋
経
i
C.
(
.,
吊 ・
㌻
(
クロロゲルミル)
クロロゲルミレン
2
こ
occ げ
メ
タ
(
クロロゲ ルミ
ル) ロゲル ミレン
クロロメタロゲルミレン
3
:
P
・es M
Me
+1.
5当量 【
Na(
dme)
2
】
【
CpM(
CO)
3
】
>
N
Me
s
l
・
・
∼ Ge- Ge- Me
s
N
l l
>
CI CL
ルミル)クロロゲル ミレン
(クロ ロゲ
4
(
M =W,Mo)
雫 P
oc
一/
M
r占e
/GeCl
(
Mes)
2
・
(
2)
THF
3
50
C一室温
ーLi
C1
2
材
oc co
(
クロロゲルミル)
メタロゲルミレン
5a(
M ≡w)
5b(
M =Mo)
- 216-
(
a)
雫 ㌢
/
w
t
oc.C c
Ga
'
e
:GeC
:"es'
2
-
I
_
t
.
2
5
a
L
:
図3 (
クロロゲルミル)
メタロゲルミレン5aの構造式(
a)
および結晶構造 (
b)
+B(
C6F5
)
3
雫
雫 を
P
oc一/1
-占
・
e
,GeCl
(
Mes)
2
hv
M
準
oc co
/MtGe
/GeCl
(
Mes)
2
;
=oc
/
C6
H6
5o
C
- CO
oc
耳
(
クロロゲルミル)
メタロゲルミレン
(
クロロゲルミル)
ゲルミリン錯体
5a(
M ≡w)
5b(
M =Mo)
6a(
M =W)
6b(
M Mo)
=
スキーム2
ー 217-
C6D6
室温
+DMAP
岩
萱
覇
Cl
-@/
h
t
もGe
^
,
Ge(
Mes)
2
O/
(
C6
F5
)
3
B
三;N
t
.
7 .
c
A t
(
推定構造)
ジゲルマビニリデン錯体
ー(
DMAP)
B(
C6F5
)
3
7a(
M≡w)
7a(
M≡w)
7b(
M=
Mo)
論文審査の結果の要 旨
遷移金属 アルキ ン錯体やその異性体であるビニ リデ ン錯体 は,遷移金属を用 いたアルキ ンの触媒反応に
おける鍵中間体 として数多 くの研究が行われている。一方で, これ らアルキ ン錯体や ビニ リデ ン錯体の骨
4族元素 に置 き換わ った錯体の研究例 はほとんどなか った。田下 は, アルキ ンおよび ビニ
格炭素が高周期 1
リデ ン錯体の高周期元素類縁体の化学を明 らかにす るため,それぞれ これ らのゲルマニウム類縁体 に当た
るジゲル ミン錯体およびジゲルマ ビニ リデ ン錯体の合成 に関する研究を行 った。本研究の成果を以下 に要
約す る。
(1) ジゲル ミン錯体の前駆体 となる (クロロゲル ミレン)パ ラジウム錯体の合成 に成功 した。Ⅹ線結
晶構造解析 によりパ ラジウムとゲルマニウムとの間に二重結合を持っ ことを明 らかに し, さらに理論計算
によってパ ラジウムか らゲルマニウムへの逆供与が効率的に起 こる立体構造 となっていることを確認 した。
(2) タングステ ン錯体およびモ リブデ ン錯体を用 いて, ジゲルマ ビニ リデ ン錯体の前駆体 となる (ク
ロロゲル ミル) メタロゲル ミレンの合成 に成功 した。Ⅹ線結晶構造解析 によ り,金属 と結合 した α-ゲル
マニウム原子が孤立電子対を もち ピラ ミッ ド化 していることを明 らかに した。
(3) もう一つの ジゲルマ ビニ リデ ン錯体の前等
区体 として,上記 の (クロロゲル ミル) メタロゲル ミレ
ンか ら金属上の C
O配位子を光 によって解離 させ ることにより (クロロゲル ミル)ゲル ミリン錯体の合成
ゲルマニウム原子上か ら塩化物 イオ ンを引 き抜 くためにルイス酸
に成功 した。 さ らに, この錯体 の β-
B(
C6F5
)
,と反応 させ ることによ り, カチオ ン性の ジゲルマ ビニ リデ ン錯体が生成す ることを NMR およ
びI
R スペク トルによ り確認 した。
(1)および
(2) は目的 とす る錯体 の前駆体の合成 と構造に関する成果であ り,高周期典型元素 と遷
移金属問に結合 を持っ錯体 の構造 の理解 に有用な情報 を与えた。 (3) はこれまで全 く合成例がなか った
ビニ リデ ン錯体の高周期元素類縁体の初めての合成例であ り,その成果 は高 く評価で きる。
以上のように,本論文 における研究成果 は高周期 1
4族元素を用いた有機金属化学の発展 に重要 な貢献を
するものであり,田下が 自立 して研究活動を行 うに必要な高度の研究能力 と学識を有す ることを示 してい
る。 したが って,田下真也提出の博士論文 は,博士 (
理学)の学位論文 として合格 と認 める。
-2
1
8-