平成 16 年度拠点システム構築委託事業実施報告書 課題 開発途上国

平成 16 年度拠点システム構築委託事業実施報告書
課題
開発途上国における障害児教育分野の教育協力モデル開発に関する
基礎的研究
■ 日本の障害児教育事典
第Ⅰ部
木舩憲幸・中田英雄
代表者
中
田
英
編
雄
筑波大学教育開発国際協力研究センター
はしがき
今回の「日本の障害児教育事典」は,平成16年度拠点システム構築委託事業の一環として、諸
外国における教育協力の資料として活用してもらう事を目的として作成しました。この目的にかなう
事典の条件としては,様々なものが考えられます。どの様な事典が適切なのか,本事業協力者は
何度も議論を繰り返しました。外国の障害児教育に携わる人々に活用してもらうことを前提にす
るのであれば、項目立ては「目的指向型」ないし「課題解決型」の項目にする必要があること,
「ノウハウ本」としてハンディな形態、簡明かつ具体的な内容が適切である事,内容に関しては
「日本の障害児教育経験」を分かりやすく紹介したほうが、理論を中心とした学術的な内容より
も好ましいこと,等々多くの意見がでてきました。これらの意見をふまえて,日本の特殊教育を
整理し、教育協力の資料として活用してもらいたいという基本的な考え方に立ち,事典の内容とし
ては,日本の障害児教育を全体として取りあげること,日本独自の内容を優先的に取りあげること
にしました。さらに,事典全体の構成を二部構成として,第Ⅰ部は,「日本の特別支援教育の基
礎的事項」として日本の特別支援教育に関する全体像を示すこと,第Ⅱ部は,「日本の特別
支援教育の実際」として途上国の人々に活用してもらうことを前提に、いわゆる「ノウハウ本」と
してハンディな形態、簡明かつ具体的な内容とする。内容に関しては「日本の経験」を分かり
やすく紹介するものとすることにしました。今回は,第Ⅰ部のみを作成しました。第Ⅱ部は次年
度に編纂する予定です。また,第Ⅰ部,第Ⅱ部ともに英文翻訳をしたいと考えております。
最後になりましたが,今回の執筆に当たっては全国の大学と特殊教育諸学校の多くの教員に事
典執筆にご協力いただきました。記して感謝の意を表します。
平成17年2月21日
福岡教育大学障害児教育講座教授
木舩 憲幸
筑波大学教育開発国際協力研究センター長
中田 英雄
日本の障害児教育事典
はしがき
第1部 基礎的事項
1)序論
①障害児教育の歴史・変遷
落合俊郎・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
②障害児教育教員養成
中村貴志・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
2)障害児教育制度概論
①盲学校
小林秀之・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
②聾学校
武居 渡・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
③養護学校
松崎保弘・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
④特殊学級
池谷尚剛・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
➄通級による指導
石坂郁代・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
3)教育関係法令
①学校教育法
河合 康・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
②学校教育法施行令
河合 康・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22
4)教育課程
①学習指導要領
河合 康・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25
②個別の指導計画
安藤隆男・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27
③教育課程の編成
・ 盲学校
小林秀之・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29
・ 聾学校
武 居 渡・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34
・ 養護学校
佐々木正志・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37
5)交流教育と訪問教育
①交流教育
北村博幸・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・56
②訪問教育
佐々木正志・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・61
6)就学指導
①就学指導
納富恵子・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・66
②就学指導委員会
佐々木正志・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・68
7)最近の動向
①今後の特別支援教育の在り方(最終報告)
落合俊郎・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・71
②特殊教育と特別支援教育
落合俊郎・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・73
③特別な教育的ニーズ
落合俊郎・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・75
④盲・聾・養護学校制度の見直し「特別支援学校,センター機能」
北村博幸・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・79
⑤小・中学校における特別支援教育の推進体制の整備
「LD等への支援体制,特別支援教室」
北村博幸・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・81
➅特別支援教育コーディネーター
北村博幸・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・83
➆個別の教育支援計画
吉川明守・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・85
➇生涯にわたる支援「早期教育,学校教育,社会参加・自立」
木舩憲幸・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・87
➈巡回指導
北村博幸・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・89
8)障害児教育関連領域
①障害児教育と医療・福祉・労働の連携
岡 川 暁・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・92
②障害者基本法
倉本義則・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・94
③障害者基本計画
倉本義則・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・97
④障害者プラン
中村貴志・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・100
⑤障害者職業センター
倉本義則・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・102
⑥療育センター
倉本義則・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・105
➆通園施設・通所施設
倉本義則・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・107
➇授産施設
倉本義則・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・110
➈小規模作業所
倉本義則・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・112
9)人名
河 合 康・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・115
第Ⅰ部 日本の障害児教育の基礎的事項
1
1)序論
2
①障害児教育の歴史・変遷
<特殊教育の歴史>
江戸時代末期の寺子屋で既に障害のある子どもたちの教育が行われていたが、公教育制
度として確立されたのは明治以降に入ってからである。1872 年の学制では、「廃人学校あ
るべし」という指摘はされているが、具体的な内容については言及されなかった。1878 年
に古河太四郎によって、京都盲唖院が設立されることとなる。1890 年の改正小学校令の制
定にあたって盲唖学校の設置に関する規定が設けられた。1891 年の文部省令では、これら
の学校の教員の資格、任用、解職や教則についても規定されることとなり、盲唖学校の制
度上の基礎が明確になった。他の工業国と比較すると英国では、1899 年の初等教育法によ
って障害児の教育が確立され、カナダのブリティッシュ
コロンビア州で障害児学校が設
立されたのは 1849 年であった。大韓民国では 1884 年から盲教育が開始され、1896 年に平
壌女盲学校が設立されている。デンマークでは 1855 年、ドイツでは、1784 年盲学校が始め
て設立され、フランスでは 1760 年に聾唖学校が設立されている。
日本では、盲・聾教育から障害児教育が出発し、他の障害カテゴリーの教育は、やや遅
れて出発した。知的障害児については学校教育よりも社会福祉の分野での対応が早く、学
校教育分野では義務教育就学率の上昇によって、知的障害のある児童・生徒も就学してく
るようになり、知的障害児の教育の必要性がでてきた。1890 年が知的障害児学級の起源と
されている。1902 年には、小学校への就学率が 90%に達し、1907 年から義務教育年限が4
年から6年に延長され、教育内容も高度化することによって、学業不振がますます顕在化
し、これらの子どもたちの教育の必要性に迫られた。同年文部省は、師範学校規定制定の
訓令の中で、各師範学校附属小学校に特別学級を設け、その研究を奨励した。1940 年に日
本で最初の知的障害学校が始まり。肢体不自由児教育については、整形外科の分野では、
これらの子ども達の療育の必要性があげられていたが、1932 年に東京市が各種学校として
始め、 1957 年に最初の肢体不自由養護学校と改称した。
病弱・身体虚弱児の教育は、当時青少年の結核予防対策が大きな課題となり、これらの
子ども達への教育が始まった。常設的な組織は、1917 年に林間学校としてはじめ、その後
養護学級と称する身体虚弱児のための学級が設けられた。
特殊教育諸学校のうち、盲学校と聾学校については、1938 年の教育審議会答申が盲・聾
教育の義務化を提言する程進歩した。また同審議会は、他の分野の障害児のための教育の
3
振興を講ずるよう提言しているが、戦時体制への道と戦局の悪化によって、特殊教育の進
展は見られず、戦後の新たな出発を待つこととなった。
第二次世界大戦が終了し、米国教育使節団によって、心身障害児のための学校の設置と
就学の義務を課す必要があるという報告が出された。そして、障害児もための学校として、
盲学校、聾学校に加えて養護学校という三種類の学校を設け、小学校、中学校及び高等学
校には特殊学級を置くことができるということになった。盲学校と聾学校については、1948
年に義務制にすることが決定された。そして、特殊教育諸学校への就学を奨励するため、
1954 年に「盲学校、ろう学校及び養護学校への就学奨励に関する法律」が制定された。1979
年養護学校義務制実施が行われ、重度・重複障害児も学校教育に就学することとなり、義
務教育の完成が実施された。そして、盲・ろう・養護学校の重複学級に在籍する重複障害
児の割合は、2003 年現在 43.5%であり、特に肢体不自由養護学校では、74.8%に達している。
同年の就学猶予・免除を受けている障害児は、130 人、児童自立支援施設・少年院にいる児
童生徒は 134 人となっている。1993 年、通級指導教室が制度化され、通常の学級に在籍し
て時間を限って通級指導教室で教育を受けることとなった。
<特殊教育の課題と展望>
特殊教育の振興について、その対象とすべき児童生徒の範囲を明確にするため、文部省
は全国規模の調査を二回行っている。1953 年から 1955 年にかけての実態調査では、特殊教
育対象の学齢児童生徒の出現率(1955)は、6.14%とした。その内訳は、盲 0.03%、 強度弱視
0.04%、聾 0.05%、高度難聴 0.08%、精神薄弱 4.25%、肢体不自由 0.34%、病弱 0.51%、 身
体虚弱 0.84%であった。1967 年にも調査が行われ、推定率を 3.69%とした。しかし、2003
年現在、義務教育年限で障害児教育制度に在籍している児童生徒の割合は、1.55%であり、
1955 年の出現率からすれば4分の1、1967 年の推定率と比較すると2分の1以下である。
他の工業国と比較すると、特殊教育制度に在籍している児童・生徒の割合が著しく低い。
例えばイギリスの 2.9%、イタリアの 2.0%、ドイツの 5.00%、アメリカ合衆国の 12.00%、カ
ナダの 5%、オーストラリアの2%、アイスランドの7%に比べて低い。障害の推定率が疫
学的に差がないとすれば、日本の小・中・高等学校の通常の学級には、他の国にまして障
害のある子どもたちが在籍していることとなる。このような状況の中で軽度発達障害児へ
の教育的支援や通常の学級からの長期欠席児童生徒の割合が障害児教育制度に在籍する児
童生徒よりも多いなどの課題がある。
4
盲・聾・養護学校に在籍する児童・生徒一人当りの学校教育費は、9、291、777 円で、小
学校の約 10.1 倍、中学校の約 9.3 倍である。日本の特殊教育の原則は、「手厚い教育を場
所を別にして行う」ことであり、文字どおり世界でも例を見ない程の「手厚い教育」であ
ることは間違いない。しかし、中央教育審議会(中間報告)が述べているように、「我が
国社会は、障害の有無にかかわらず、国民誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合う共生
社会に移行しつつある。」この準備を学校教育段階から行うことが急務であり、障害者基
本法では、そのための具体策として「障害のある児童生徒と障害のない児童生徒との交流
及び共同学習の積極的推進による相互理解の促進を行う」よう改定され、中教審の中間報
告では、学習指導要領の総則で述べられている「交流の機会を設けること」が徹底されて
いないことに言及している。
国連や OECD の動きにも注目しなければならない。1990 年にユネスコが「万人のための
教育に関する世界会議で、途上国では義務教育の完全実施、少女やマイノリティーに対す
る基礎的教育の充実と拡大、義務教育が完成している工業国においては、全ての子どもが
参加できる落ちこぼれのない学校経営をめざすことがうたわれている。また、1993 年第 48
回国連総会で「障害者機会均等実現に関する基準原則」が出され、1994 年ユネスコからサ
ラマンカ声明が出され、インテグレーションやインクルージョンへと動きつつある。場所
を別にして手厚い教育を行い、限られた障害児のみの教育的支援を行う「特殊教育」から、
ニーズのある多くの子ども達に教育的支援を行う体制に変わるべきであり、今後の特別支
援教育の在り方について(最終報告)、障害者基本法の改定や発達障害者支援法等が出さ
れる理由である。「手厚い教育」を行ったことよって、治療教育的手法や重度・重複障害
児の教育が大きく進歩したといっても良い。今般、本書に日本が培ってきた特殊教育の財
産をまとめた。途上国の皆様のお役にたてば幸いである。しかし、中央教育審議会で特別
支援教育への移行が具体的に議論されている時、本書は我々にとっても「特殊教育」を特
別支援教育へとつなぐ重要な意味があると考える。(落合俊郎)
5
②障害児教育教員養成
教員免許とその養成に関しては、教育職員免許法、教育職員免許法施行令及び教育職員免許
法施行規則により、詳細が定められている。教員免許状の種類としては、普通免許状・特別免許
状・臨時免許状がある。
普通免許状には、専修免許状、一種免許状、二種免許状の 3 種類があり、取得に必要な基礎資
格が教育職員免許法で定められている(表 1)。表 1 にしめすように、普通免許状を有する教員の養
成は大学・大学院・短期大学等で行われる。
表1
普通免許状の取得のための基礎資格(学校教育法より)
免許状の種類
基礎資格
幼稚園・小学 専修免許状
修士の学位を有すること。
校・中学校・
一種免許状
学士の学位を有すること。
高等学校教
二種免許状
学校教育法第69条の2第7項に定める準学士の称号を有すること。
諭
盲学校・聾学 専修免許状
修士の学位を有すること及び小学校、中学校、高等学校又は幼稚園の
校・養護学校
教諭の普通免許状を有すること。
教諭
一種免許状
学士の学位を有すること及び小学校、中学校、高等学校又は幼稚園の
教諭の普通免許状を有すること。
二種免許状
小学校、中学校、高等学校又は幼稚園の教諭の普通免許状を有する
こと。
障害児教育の教員免許状である盲学校・聾学校・養護学校教諭普通免許状については、「小学
校、中学校、高等学校又は幼稚園の教諭の普通免許状を有すること」が必要であり(表 1)、これは、
学校教育法第 71 条に、盲学校、聾学校又は養護学校の目的の一つとして「・・・幼稚園、小学校、
中学校又は高等学校に準ずる教育を施し、・・・」と記載されていることに基づいている。
盲学校・聾学校・養護学校教諭免許状を取得するために必要な科目の内容と単位数は、学校教
育法施行規則において定められている(表 2)。
6
表 2 盲学校、聾学校又は養護学校の教諭の普通免許状の授与を受ける場合の特殊教育に
関する科目の単位の履修方法(学校教育法施行規則より)
最低履修単位数
特殊教育
に関する
科目
第一欄
教育の基礎
第二欄
第三欄
第四欄
心身に障害のある 心身に障害のある 心身に障害の
選択
科目
理論に関する 幼児児童又は生
幼児児童又は生
ある幼児児童
科目
徒心理、生理及
徒についての教
又は生徒につ
び病理に関する
育課程及び指導
いての教育実
科目
法に関する科目
習
合計
免許状
の種類
専修免許状
4
6
6
3
4*
47**
一種免許状
4
6
6
3
4*
23
二種免許状
2
4
4
3
0
13
* 4 単位は、第一欄から第四欄の選択科目から修得すること。
** 24 単位は大学院又は専攻科の科目である。
教員養成を行う大学等は、教員養成を行う学部・大学院等の組織、学生定員、教育課程、教
員、施設、設備等を整備して、文部科学大臣の認定を受けなければならない。
上記のような大学・大学院等による養成以外に、免許法認定講習・免許法認定公開講座・免許
法認定通信教育等による教員養成も行われている。(中村貴志)
7
2)障害児教育制度概論
8
①盲学校
盲学校は、視覚に障害のある幼児、児童、生徒に対して、幼稚園、小学校、中学校、高等学校
に準ずる教育を行うとともに、その障害に基づく種々の困難を主体的に改善・克服するために必要
な知識、技能、態度および習慣を養うことを目的としている。具体的に「準ずる教育」とは、視覚に
障害があるために幼稚園、小学校、中学校、高等学校の教育とまったく同一の内容を同一の方法
で教育することはできないため、障害の状態および能力・適性を十分に配慮した上で、幼稚園、小
学校、中学校、高等学校と同等の「各教科」、「道徳」、「特別活動」、「総合的な学習の時間」の授
業を行う。さらに、「障害に基づく種々の困難を改善・克服する」ために、小学校等にはない「自立
活動」が設定されている。また、重複障害のあるもののために教育課程の特例をとることもできる。
日本における盲学校は、1878 年の「京都盲唖院」や 1880 年の「楽善会訓盲院」における教育か
ら開始し、1948 年から学年進行で義務制に移行した。2003 年には、国立1校、都道府県立 66 校
(うち分校1校)、市立2校、私立2校の計 71 校が設置されている。盲学校の全体の在学者は 1959
年の 10、264 名をピークとし 2003 年には 3、882 名となり、減少傾向にある。
さらに、現在は在籍者に対する教育だけでなく、盲学校のもつ専門性や施設・設備を活かして
地域の視覚障害教育に関する支援センターとしての役割も果たしており、地域の学校の在籍する
視覚障害児への教育も担っている。
教育組織
盲学校には、幼稚部、小学部、中学部、高等部が設置されている。多くの盲学校では、これらの
学部が一貫して設置されているが、中学部までが設置されている盲学校や、高等部のみの盲学校
などもある。さらに、高等部には専攻科が設置されており、理療科、保健理療科、理学療法科、音
楽科など高度な職業教育を行っている。また、各盲学校の学区は非常に広範囲にわたることが多
いため、寄宿舎が設置されている。
各学部の学級編成基準については、小・中学部については1学級6名、高等部については1学
級8名、小・中・高等部とも重複障害学級においては3名となっている。
盲学校の対象者と在籍者数
盲学校の教育対象となる視覚障害の程度は、学校教育法施行令第 22 上の3で「両眼の視力が
おおむね 0.3 未満のもの又は視力以外の視機能障害が高度のもののうち、拡大鏡等の使用によっ
9
ても通常の文字、図形等の視覚による認識が不可能又は著しく困難な程度のもの」と規定されてい
る。解釈上、「視力がおおむね 0.3 未満」は、視力がこれよりも高くても文字等の認識に支障をきた
す場合もあるため「おおむね」と規定し、視力 0.5 程度まで想定できるようにしている。さらに、「視覚
による認識が著しく困難」とは、必ずしも点字による教育を想定しているわけではなく、視覚を活用
した通常の文字等による教育を行うことを示している。具体的な「著しく困難」とは、小・中学校に在
籍している児童・生徒と比較して文字等の認識にかなりの時間を要するとともに、すべての教科等
の指導において特別の支援や配慮を必要とし、かつ障害を改善・克服するための特別な指導が系
統的・継続的に必要とすることを意味している。すなわち、盲学校には、点字により教育を受ける盲
幼児・児童・生徒だけでなく、通常の文字により教育を受ける弱視幼児・児童・生徒も在籍してい
る。この点を 2003 年度の盲学校における教科書でみると、小学部における点字教科書使用者は
315 名、活字教科書使用者は 249 名、中学部における点字教科書使用者は 213 名、活字教科書
使用者は 259 名、高等部本科普通科における点字教科書使用者は 261 名、活字教科書使用者は
336 名であり、点字教科書を用いているものは 789 名、活字教科書を用いているものは 844 名で、
半数以上が視覚を活用して学んでいる弱視である。
また、各学部の在籍者数を見ると、2003 年では幼稚部 272 名、小学部 639 名、中学部 508 名、
高等部 2、463 名と年齢が上がるにつれて増加している。さらに、盲学校には視覚にだけ障害のあ
るものばかりでなく、いわゆる重複障害といわれる他の障害をあわせ有する幼児・児童・生徒も在籍
している。表1に 1980 年から 2000 年までの盲学校小学部の重複障害児の割合を示した。重複障
害児の占める割合は増加傾向にあり、2000 年度には半数以上の児童が重複障害である。ただし、
割合は増加傾向にあるものの実数は減少傾向にある。(小林秀之)
表1 盲学校小学部における重複障害の割合
年度
重複障害児数 在籍児童数
割合
1980 年
643
2,142
30.0%
1985 年
561
1,567
35.8%
1990 年
488
1,109
44.0%
1995 年
472
953
49.5%
2000 年
449
823
54.7%
10
②聾学校
聾学校の数と学部編成: 日本には、2005 年 2 月現在、聾学校が 106 校あり、国立が1校、私立
が1校、市立が4校で、残りは都道府県立の聾学校である。各県に1校以上は必ず聾学校が存在
し、聴覚に障害のある0歳から21歳までの子どもたちが教育を受けている。多くの聾学校は、普通
学校に準じて、幼稚部(3 歳∼5 歳)、小学部(6 歳∼12 歳)、中学部(13 歳∼15 歳)、高等部(16
歳∼18 歳)から構成されている。聾学校では、普通学校に準ずるカリキュラムで授業が行われ、障
害に配慮しながら、読み書きなどの言語力や学力をつけ、社会自立ができるよう、手厚い指導が行
われている。また、教科指導のほかに、障害に配慮した指導を行う「自立活動」の時間が用意さ
れ、聴覚活用や言語指導、アイデンティティの確立など、聴覚障害に関わる支援がすべての学部
で行われている。また、聾学校に特徴的なのは幼稚部の存在である。小学部を有しているほとんど
の聾学校が幼稚部も有し、聴覚障害を早期に発見し、早期に補聴をし、コミュニケーションや言語
についての支援を行っている。また、保護者に対しても、家庭内でのコミュニケーションについて相
談にのったり、支援をしたりし、聴覚障害児だけでなくその保護者に対する支援も聾学校幼稚部が
果たすべき大きな業務の一つである。
教育相談
幼稚部を有する聾学校のほとんどは、教育相談を行っている。教育相談とは主に 0 歳から 2 歳ま
での聴覚障害児の指導や相談を行っている部門であり、遊びを通して、聴覚活用やことばの指
導、多様な手段を用いたコミュニケーション支援などを行っている。また、母親に対して、聴覚障害
に関わる様々な講座を開設し、豊かな家庭環境の中で聴覚障害児が成長できるよう支援を行って
いる。聴覚障害は、早期発見、早期教育が重要であると言われ、他の障害に先駆けて、0 歳からの
教育が公教育の場で行われているのが特徴である。
職業指導と専攻科
また、高等部卒業後、かなりの聾学校が専攻科の課程を用意している。専攻科とは、高等部卒
業後、社会的に自立ができるよう職業指導を中心とした 2 年または 3 年の課程を言う。かつては理
容科や被服科、印刷科、木工科、歯科技巧科などがあり、手に職をつけて卒業するということを意
図した専攻科が多かったが、最近では情報処理科や造形芸術科などに改組し、将来、会社に入る
と必要とされるコンピュータの基本操作や専門技術などを学び、卒業後、職業人として自立できる
よう、社会のニーズに応じた専攻科を開設している。
寄宿舎
11
1 県に複数のろう学校がある場合は、自宅から聾学校へ通学することができるが、郡部では 1 県
に聾学校が1校しかなく、県下から通学することが物理的に不可能な場合も少なくない。そのため、
かなりの聾学校が寄宿舎を有し、自宅が聾学校が遠い児童・生徒は、寄宿舎から学校に通えるよう
になっている。寄宿舎の中では、集団生活を通して、連帯感や思いやりの心、対人関係などを学
ぶことになる。寄宿舎での指導は、子どもたちの自立と自治が中心であり、寄宿舎指導員の指導の
下、家庭的な雰囲気の中で、子どもたちの要望や計画によって運営、実施されている。
1 クラスあたりの人数
聾学校における 1 学級あたりの人数は、「学校教育法施行規則」によって、幼稚部は 8 人以下、
小・中学部は 10 人以下、高等部は 15 人以下と定められている。ただしこの規則は、私立学校にも
適用されるものであり、公立学校に限ればより厳しい基準が設けられている。「公立義務教育諸学
校の学級編成及び教職員定数の標準に関する法律」では、公立の聾学校において、小・中学部 6
人以下、高等部 8 人以下、重複障害学級については 3 人以下と定められている。聾学校では、他
者の話を読話や手話など視覚的に理解する必要があるため、教室内では、子どもたちの机が弧型
に配置されることが多く、互いの顔が見えるようになっている。
重複障害
近年、聾学校には、聴覚障害に加えて他の障害も併せ持つろう重複障害児が多く在籍するよう
になった。現在、聾学校では、普通学校に準ずる教育が謳われ、小学部以降は普通学校と同様の
教科指導が中心になるが、重複障害学級に関しては、知的障害養護学校の教育課程あるいは自
立活動が中心の教育課程で指導をすることが多い。(武居 渡)
12
③養護学校
知的障害、肢体不自由又は病弱・身体虚弱のある児童生徒を教育するための学校として養護
学校が設けられている。養護学校の教育は、昭和 54 年度から義務制になり、それを境に多くの養
護学校が設置された。平成 15 年5月1日時点で、知的障害養護学校が 523 校、肢体不自由養護
学校が 199 校、病弱養護学校が 96 校設置されており、それぞれ 63、382 人、18、537 人、3、976
人の幼児児童生徒が教育を受けている。
養護学校には小学校、中学校、高等学校及び幼稚園に準じて小学部、中学部、高等学校及
び幼稚部がある。一般的には、小学部、中学部の2つの部、又は小学部、中学部、高等部の3つ
の部を設置している。幼稚部の設置は少なく、平成 15 年度において全国で 48 学級である。なお、
充実した職業教育を行うため、高等部単独の高等養護学校の設置もある。
養護学校の学級編制は、児童生徒一人ひとりにきめ細かな指導を行うため、1学級の児童生
徒数の標準を小学部・中学部で6人、高等部で8人に定めている。さらに、障害を2以上併せ有す
る児童生徒で編制する重複障害学級の児童生徒数は3人を標準としている。実際には、通常の
学級が同一学年の児童生徒で編成することになっているため、標準より少ない人数で編制するこ
とが多い。
養護学校への就学は、学校教育法施行令第 22 条の3に定められている障害の程度を基本とし
て、障害者の教育や医療などの専門家で構成する就学指導委員会の意見に基づいて教育委員
会が判断することになっている。しかし、養護学校への就学が適当と判断された児童生徒であっ
ても、保護者の意向により認定就学者として小学校や中学校に就学する事例も少なくない。
養護学校の教育課程は、障害に基づく種々の困難を改善・克服するための「自立活動」という
領域を設け、さらに児童生徒の実態に応じた弾力的な教育課程が編成できるような諸々の特例を
学級編成の標準及び1学級あたりの平均人数
(平成15年5月1日現在)
通常の学級
重複障害学級
標 準
平 均
標 準
平 均
小学部
6
3.4
3
2.7
中学部
6
4.0
3
2.6
高等部
8
6.6
3
2.7
13
認めている。また、知的障害養護学校の各教科の目標や内容は、学習指導要領に独自に示され
ており、障害や児童生徒の特性に対応した指導を行うようになっている。なお、障害のために通
学して教育を受けることが困難な児童生徒については、可能な限り教育を受ける機会を提供する
趣旨から、教員を家庭や病院などに派遣して指導を行う訪問教育を行っている。
養護学校の高等部卒業生の進路としては、社会福祉施設が最も多く、次いで一般企業に就労
する者が多い。病弱養護学校や肢体不自由養護学校の卒業生には大学などへ進学する者もい
る。特に高等部では、産業現場での実習などを実施しながら、きめ細かな進路指導が行われてい
る。また、公共職業安定所、地域障害者職業センター等の関係機関と連携し、ジョブコーチなど
の制度を在学中から活用する場合もある。
なお、最近の動向として、児童生徒の障害の重度・重複化に対応して、知的障害と肢体不自由
を併置した養護学校を設置している事例がある。こうした事例を踏まえ、障害別に設置する盲学
校、聾学校及び養護学校から、特別支援学校への制度変更が検討されている。(松崎保弘)
養護学校高等部卒業生の進路
(平成15年3月)
知 的障 害
進学
職 業能力開発 校等
就職
社 会福祉施設 等
その他
肢体 不自 由
病
弱
0%
50%
100%
14
④特殊学級
学校教育法第 75 条は、知的障害、肢体不自由、身体虚弱、弱視、難聴、その他の心身の故障
をもつ児童生徒のために、小学校、中学校および高等学校に特殊学級をおくことができる旨を規
定している。その呼称は、学校教育法に従えば特殊学級となるが、「特殊」の語感にたいする忌避
感や、特殊教育理念への批判意識から障害児学級と言い換えられてきた。他方で、狭義の障害の
有無にかかわらず、特別な教育的ニーズをもつ児童生徒を対象とすべきだという立場からは、障害
児学級という呼称は対象を狭められるものととらえられる。このような背景から、理念や対象でなく根
拠法令に即して 75 条学級という呼称が用いられている。なお都道府県によっては、心身障害学級
(心障学級)、養護学級、育成学級など、多様な呼称が用いられている。
区 分
75 条学級における障害程度
知的障害
肢体不自
知的発達の遅滞があり、他人との意思疎通に軽度の困難があり日常生活を営むの
に一部援助が必要で、社会生活への適応が困難である程度のもの
補装具によっても歩行や筆記等日常生活における基本的な動作に軽度の困難が
ある程度のもの
由
病弱・虚弱
弱
視
難
聴
言語障害
情緒障害
一 慢性の呼吸器疾患その他疾患の状態が持続的又は間欠的に医療又は生活
の管理を必要とする程度のもの
二 身体虚弱の状態が持続的に生活の管理を必要とする程度のもの
拡大鏡等の使用によっても通常の文字、図形等の視覚による認識が困難な程度
のもの
補聴器等の使用によっても通常の話声を解することが困難な程度のもの
口蓋裂、構音器官のまひ等器質的又は機能的な構音障害のある者、吃音等話し
言葉におけるリズムの障害のある者、話す、聞く等言語機能の基礎的事項に発達
の遅れがある者、その他これに準ずる者(これらの障害が主として他の障害に起因
程度がするものではない者に限る。)で、その程度が著しいもの
一 自閉症又はそれに類するもので、他人との意思疎通及び対人関係の形成が
困難である程度のもの
二 主として心理的な要因による選択性かん黙等があるもので、社会生活への適
応が困難である程度のもの
基本的性格
相対的に軽度の障害をもつ児童生徒を対象として想定されており、学級編制基準なども、通常
学級と盲、聾、養護学校の中間的な水準におかれている。しかし、障害の重い子どもの学校教育
についても、居住地域との近接性などを重視してその可能性を論ずる立場もあり、対象規定はいま
だ論争課題である。他方、通級指導との対比においては、75 条学級の「固定式学級」としての性格
15
が重視される必要がある。通級指導を、通常学級での学習活動におおむね参加可能な児童生徒
に、特別な教育的ケアを部分的に提供する教育形態と理解するならば、それと区別される 75 条学
級は、在籍児童生徒の学校生活総体に責任をもち、その課題にこたえるためのカリキュラムを自立
的に提供する教育形態ととらえるべきである。もちろんこの性格規定は、75 条学級の自立的な教育
計画にもとづく通常学級との合同学習や 75 条学級在籍児への必要な通級・巡回サービスの保障
などを否定するものではない。
現状と課題
現在、学校教育法第 75 条に明示された 5 つの障害種別に通達(2002 年文科初第 291 号)で示
されている言語障害と情緒障害を加えた 7 種類の学級が全国で 31、000 弱設定されており、86、
000 人余の児童生徒が在籍している(2003 年度)。その際、小学校および中学校に設置されている
ほかに、児童福祉施設や医療機関のなかにも開設されている。しかし、特定種別の学級を開設し
ていない地方自治体、学級の開設・存続に必要な在籍児童生徒数を独自に定めている地方自治
体などの存在によって、75 条学級の利用可能性には都道府県によるいちじるしい格差が生じてい
る。また、少人数学級の増加や、在籍児童生徒の障害の重度化・多様化、担当教員の定着と専門
的力量形成の困難などの問題も指摘されている。さらに、学校教育法に明記されているにもかかわ
らず実施されていない高等学校への 75 条学級の設置も、早急に実現されるべき課題であろう。
(池谷尚剛)
2003.5.1 現在
区 分
小学校
学級数
中学校
在籍者数
学級数
合 計
在籍者数
学級数
在籍者数
知的障害
12、170
36、406
6、002
18、489
18、172
54、895
肢体不自
1、440
2、594
475
747
1、915
3、341
病弱・虚弱
579
1、205
261
455
840
1、660
弱
視
146
183
42
54
188
237
難
聴
421
803
187
342
608
1、145
言語障害
311
1、151
28
48
339
1、199
情緒障害
6、317
17、077
2、542
6、379
8、859
23、456
21、384
59、419
9、537
26、514
30、921
85、933
由
総
計
16
➄通級による指導
通級による指導は、通常の学級に在籍する軽度の障害のある児童生徒の教育的ニーズに適切
に対応するために、平成 5 年度から開始された。通級による指導とは、「小学校又は中学校の通常
の学級に在籍している軽度の障害がある児童生徒に対して、各教科等の指導の大部分は通常の
学級で行いつつ、障害に応じた特別の指導を特別の場(いわゆる通級指導教室)で行うものである
(就学指導資料、文部科学省初等中等教育局特別支援教育課、平成 14 年 5 月、より)。通級による
指導の法的根拠としては、「学校教育法施行規則第 73 条の 21 及び 22」と「平成5年 1 月 28 日文
初特第 278 号文部省初等中等教育局長通達」がある。
表1
学校教育法施行規則第 73 条の 21 及び 22
〔通級による指導〕
第七十三条の二十一
小学校又は中学校において、次の各号の一に該当する児童又は生徒(特殊学級の児童及び生徒を
除く。)のうち当該心身の故障に応じた特別の指導を行う必要があるものを教育する場合には、文部大
臣が別に定めるところにより、第二十四条第一項、第二十四条の二及び第二十五条の規定並びに第五
十三条第一項及び第二項、第五十四条及び第五十四条の二の規定にかかわらず、特別の教育課程に
よることができる。
一 言語障害者
二 情緒障害者
三 弱視者
四 難聴者
五 その他心身に故障のある者で、本項の規定により特別の教育課程による教育を行うことが適当なも
の
〔他校通級〕
第七十三条の二十二
前条第一項の規定により特別の教育課程による場合においては、校長は、児童又は生徒が、当該小
学校又は中学校の設置者の定めるところにより他の小学校、中学校又は盲学校、聾学校若しくは養護
学校の小学部若しくは中学部において受けた授業を、当該小学校又は中学校において受けた当該特
別の教育課程に係る授業とみなすことができる。
17
通級による指導の対象となる障害の種類は、言語障害、情緒障害、弱視、難聴、肢体不自由、
病弱・身体虚弱であり、知的障害と LD・ADHD は対象となっていない。通級による指導の対象とな
る児童生徒は、先生から、あるいは保護者からの申し出で、通常は就学指導委員会にかけられて
から、教育委員会が通級を許可する。
通級による指導の教育課程は、学校教育法施行規則第 73 条の 21 にあるとおり、特別な教育課
程によることができる。その内容は、障害に応じた特別な指導として、自立活動を中心とし、特に必
要がある場合には各教科の補充指導を含むことができる。週あたりの指導時間数としては、1ー3 単
位時間が標準であり、各教科の補充指導を含む場合でも週 8 単位時間内が標準である。
通級による指導を行う場である「通級指導教室」は、すべての小学校・中学校に設置されている
わけではない。そこで、「通級指導教室」が設置されていない小・中学校の児童生徒が通級による
指導をうける場合には、通級指導教室が設置されている別の小・中学校の通級指導教室に通うこと
になる。このような場合を「他校通級」と呼ぶ。学校教育法施行規則第 73 条の 22 では、他の小・中
学校で受けた教育を当該学校の教育とみなすことができると規定している。当該児童生徒の在籍
する小・中学校に「通級指導教室」が設置されており、そこに通う場合には「自校通級」と呼ぶ。
通級指導教室は、指導対象児童生徒に合わせて、通常の教室等の施設設備や構造を改造し
て整えられることが多い。通級による指導を担当する教諭には盲・聾・養護学校の教員免許状の保
持は義務づけられていないが、障害について知識と指導技術を持つことが望ましい。通級による指
導を担当する教諭の仕事は、児童生徒の指導にとどまらず、保護者との相談、在籍学級の担任教
諭への情報提供等があり、幅広いマネージメント能力が要求される。
中央教育審議会「特別支援教育を推進するための制度の在り方について(中間報告)、平成 16
年 12 月」では、通級による指導における指導時間数の制限の緩和や対象となる障害の種類に
LD・ADHD を加えることを含め、弾力的運用が可能となる方向での見直しを提言している。
(石坂郁代)
18
3)教育関係法令
19
①学校教育法
1
学校教育法の位置づけ
日本における教育に関する基本的枠組みは、「日本国憲法→教育基本法→学校教育法→
同施行令・同施行規則→通達、通知、告示(例:学習指導要領)等」、という体系に基づいて
組織されている。憲法第 26 条では、すべて国民の教育を受ける権利の保障を規定し、教育
基本法第 3 条では、教育の機会均等の原則が示されている。このように、憲法、教育基本
法では、障害児を含めた全ての児童生徒が有する教育に対する普遍的な権利が示されてい
るが、障害児教育に関する個別の基本的枠組みを定めているのは学校教育法からである。
学校教育法の全体構成は表に示す通りとなっている。
第1条では、「この法律で、学校とは、小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、大
学、高等専門学校、盲学校、聾学校、養護学校及び幼稚園とする」とされ、盲・聾・養護
学校が他の学校種と同様の教育の一環をなす学校であることが明記されている。また、第
22 条では盲・聾・養護学校の小学部への就学義務が、また第 39 条では中学部への就学義務
が記されている。両条文と2で述べる第6章第 74 条の盲・聾・養護学校の設置義務の規定
により、日本における障害児教育の義務教育制度は明文化されている。その一方で、第 23
条では就学義務の猶予・免除規定がなされている。1979 年以前はこの規定により、障害が
重いために就学していない児童生徒が存在していたが、現在ではその対象者は全学齢児童
生徒の 0.001%に過ぎない。
障害児教育の基本的枠組みを定めたのが第6章であり、「特殊教育」というタイトルが
付されている。つまり、障害児教育は現行の法令上「特殊教育」と呼ばれている。
表
2
第6章「特殊教育」の内容
第6章は、第 71 条∼第 76 の全6条で構成されて
いる。
最初の条文の第 71 条では、盲・聾・養護学校の
目的が示されている。一つは「準ずる教育を施す」
ことであり、いま一つは「欠陥を補うために、必要
第1章
第2章
第3章
第4章
第5章
第6章
第7章
第8章
第9章
学校教育法の構成
総則
(第1∼16条)
小学校 (第17∼34条)
中学校 (第35∼40条)
高等学校(第41∼51条)
大学
(第52∼70条)
特殊教育(第71∼76条)
幼稚園 (第77∼82条)
雑則
(第83∼88条)
罰則
(第89∼108条)
な知識技能を授けること」である。ここで注意しな
ければならない点は、前者の「準ずる」というのは、「準優勝」等で使用される場合にみ
20
られる、「レベルが下の」という意味ではなく、「基準」等で使用される「同等の」とい
う意味であるという点である。
第 71 条の2では、盲・聾・養護学校への就学基準に関わる規定を行っている(「学校教
育法施行令」を参照)。第 72 条では、盲・聾・養護学校の幼稚部及び小・中・高等部の設
置に関して記されている。同条により、盲・聾・養護学校には幼稚部から高等部までが設
置可能となっており、幅広い年齢層の児童生徒が在籍している。その一方で、幼稚部や高
等部のみの盲・聾・養護学校も存在する。第 73 条の 1 では、盲・聾・養護学校の教育課程
に関する規定がなされており、これを受けて学校教育法施行規則第 73 条の 7∼15 でその詳
細が定められている。第 73 条の 2 及び 3 は盲・聾・養護学校に設置される寄宿舎に関する
規定であり、第 74 条は、盲・聾・養護学校の設置義務を都道府県に課している。盲・聾・
養護学校は都道府県単位での設置となるため、遠距離通学せざるをえない状況となる可能
性があり、そのため寄宿舎の規定がなされている。ただし、都市部で人口が集中している
地域では寄宿舎がない盲・聾・養護学校もある。第 75 条は小・中・高等学校に設置される
特殊学級についての規定である。法律では特殊学級の種類は、「知的障害、肢体不自由、
身体虚弱、弱視、難聴、その他」とされているが、実際は「その他」として「情緒障害」
と「言語障害」があるため、全部で7種類の特殊学級が存在している。第 76 条は準用規定
である。
以上が第6章の概要であるが、通常の学級に在籍する障害児についての視点が含まれて
いないこと、特殊学級は小・中学校に設置されているにも拘わらず該当する章で扱われて
いないこと、「特殊」、「欠陥」などの用語は適切でないこと、などの問題点がある。第
6章はタイトルも含めて、近い将来改正される可能性が大きい。(河合
21
康)
②学校教育法施行令(第22条の3を中心に)
キーワード:就学基準
就学手続き
認定就学者
学校教育法施行令では、主に障害児の就学手続きに関する規定がなされている。図は、
就学手続きの一連の流れを示したものである。この中でも、盲・聾・養護学校に就学する
児童生徒の基準を示した第 22 条の3が重要となる。市町村教育委員会は、10 月 31 日まで
に翌年度の入学者の学齢簿を作成し、11 月 30 日までに就学時の健康診断を行うが、その結
果に基づいて就学先を決定する際の判断基準となるのが第 22 条の3である。同条は、学校
教育法第 71 条の2の規定を受けて定められたもので、具体的な内容は表に示す通りとなっ
ている。
第 22 条の3は 1962 年に定められた規定であるが、2001 年に 40 年ぶりに改訂されている。
改正の要点としては、従来の規定が医学的観点が中心であったのに対し、教育的・心理学
的観点を加えながら、障害を周りの環境との相互関係の中で捉えようとしているところに
ある。このことは、数値の前に「おおむね」という語が付されており、就学先の決定に際
して弾力がもたされているところにも表われている。つまり、「障害の種類と程度」と「教
育の場」は必ずしも一致するわけではなく、相対的なものであるという点が重要となる。
また、2001 年の改正により、その第5条で「盲者等のうち、市町村教育委員会が、その
者の心身の故障の状態に照らして、当該市町村の設置する小学校又は中学校において適切
な教育を受けることができると特別な事情があると認める者(以下「認定就学者」という)」
についての規定がなされたことにより、施行令第 22 条の3の基準に該当する者であっても、
障害に対応した施設・設備が整備されていたり、指導面で専門性の高い教員が配置されて
いるなどの環境が整っていれば、認定就学者として小・中学校に在籍することが可能とな
った。この新しい手続きは、図の太い矢印で示されている。なお、就学指導に際しては、
市町村と都道府県の教育委員会に設置されている就学指導委員会が大きな役割を果たして
いる。(河合
康)
22
第
22
条
の
3
に
該
当
す
る
盲
・
聾
・
養
護
学
校
学齢簿の作成
就学時の健康診断
市町村教委
市町村教委
第
22
条
の
3
に
該
当
し
な
い
小
・
中学
校
都道府県教委へ
盲・聾・養護学校へ
保 護 者 へ
入学期日御呼び学校
の就学を適当とする
指定の通知
通知
都道府県教委
都道府県教委
小・中学校において
保 護 者 へ
適切な教育を受ける
ことができる特別の
入学期日および学校
事情があると認める
指定の通知
場合
市町村教委
市町村教委
時期 10 月 1 日
10 月 31 日
(5 月前)
関係 学校教育法施行令
学校保健法施行令
法令
第2条
第1条
学校教育法施行規則
学校教育法施行令
第 31 条
第 22 条の 3
11 月 30 日
12 月 31 日
1 月 31 日
(4 月前)
(3 月前)
(2 月前)
学校教育法施行令
学校教育法施行令
第 11 条
第 5 条・第 14 条
図 就学手続きの流れ
23
4)教育課程
24
①学習指導要領
1.法的位置づけ
盲・聾・養護学校における教育課程については、学校教育法第 73 条で、「…文部科学大
臣がこれを定める」とされ、詳細については下位の法令に委ねられている。これに該当す
るのが、学校教育法施行規則第 73 条の 7∼15 である。さらに同規則の第 73 条の 10 で、盲・
聾・養護学校の教育課程については、盲・聾・養護学校学習指導要領によるものとする、
とされている。すなわち、盲・聾・養護学校における教育課程の基本的な枠組みは、学校
教育法施行規則と学習指導要領(幼稚部については教育要領)によって定められているの
である。
2.盲・聾・養護学校の学習指導要領の変遷
障害児教育における最初の学習指導要領は、1957 年に盲・聾学校の小学・中学部につい
て出され、高等部については 1960 年に出されている。養護学校については、精神薄弱養護
学校の小・中学部編と肢体不自由・病弱養護学校の小学部編が 1963 年に、また、肢体不自
由・病弱養護学校中学部編が 1964 年にそれぞれ出されている。盲・聾学校については、1964
年に小学部、1965 年に中学部、1966 年に高等部の改訂が行われている。
1971 年には、5校種すべての小・中学部の学習指導要領の改訂が行われた。改訂の主要
な点としては、障害に対応した指導を行う「養護・訓練」という新しい領域や、精神薄弱
養護学校の小学部に「生活科」という新しい教科が設けられたこと、教育課程編成に際し
ての特例が示されたこと、などが挙げられる。また、翌 1972 年には、盲・聾学校の高等部
の学習指導要領が改訂されると共に、3種の養護学校の高等部の学習指導要領が出され、
全校種の高等部の学習指導要領が明示されることになった。
養護学校教育の義務制が実施された 1979 年には、従来学校種別に示されていた学習指導
要領が一本化された。また、小・中学部における訪問教育に関する規定がなされた。1989
年の改訂では、幼稚部についても「盲学校、聾学校及び養護学校幼稚部教育要領」が示さ
れ、ここに、幼、小、中、高の一貫した教育課程の基準が示されることになった。1999 年
3 月の現行の学習指導要領は、これに次ぐものである。
3.現行の学習指導要領の概要
25
1999 年の盲・聾・養護学校の学習指導要領の主要な改正点としては、①障害に対応した
指導を行う「養護・訓練」を「自立活動」に改めたこと、②自立活動と重複障害者の指導
に際しては個別の指導計画を作成することとしたこと、③特例措置の一つである下学年適
用の範囲が拡大されたこと(高等部は小学部までに、小・中学部は幼稚部までに)、④知
的障害養護学校の中学部と高等部に選択教科として英語が導入されたこと、⑤知的障害護
学校の高等部に流通業やサービス産業に関する「流通・サービス」が選択教科として新設
されたこと、⑥高等部の訪問教育に関する規定がなされたこと、等が挙げられる。
表は、現行の小学部・中学部の学習指導要領の構成を示したものである。盲・聾・養護
学校の教育課程は、各教科、道徳、特別活動、自立活動、総合的な学習の時間、の5つの
柱で構成されており、各教科から自立活動まではそれぞれの領域に応じて章が構成されて
いることがわかる。「総合的な学習の時間」については第1章の総則で取り上げられてい
る。(河合
康)
表
盲・聾・養護学校小学部・中学部学習指導要領の構成
第1章
総則
第1節
教育目標
第2節
教育課程の編成
第1
一般方針
第2
内容等の取扱いに関する共通事項
第3
選択教科の内容等の取扱い
第4
総合的な学習の時間の取扱い
第5
重複障害者等に関する特例
第6
授業時数等の取扱い
第7
指導計画の作成等に当たって配慮すべき事項
第2章
各教科
第1節
小学部
第1款
盲学校、聾学校及び肢体不自由者又は
病弱者を教育する養護学校
第2款
第2節
知的障害者を教育する養護学校
中学部
第1款
盲学校、聾学校及び肢体不自由者又は
病弱者を教育する養護学校
第2款
知的障害者を教育する養護学校
第3章
道徳
第4章
特別活動
第5章
自立活動
26
②個別の指導計画
個別の指導計画は、1999(平成 11)年3月に告示された盲学校、聾学校及び養護学校学習指
導 要領(以下、学習指導要領とする)において次のように規定された。ひとつは、第1章「総則」第
2節「教育課程の編成」の第7「指導計画の作成等に当たって配慮すべき事項」における『重複障
害者の指導に当たっては、個々の児童又は生徒の実態を適切に把握し、個別の指導計画を作成
すること。』であり、もうひとつは第5章「自立活動」第3「指導計画の作成と内容の取扱い」における
『自立活動の指導に当たっては、個々の児童又は生徒の障害の状態や発達段階等の的確な把握
に基づき、指導の目標及び指導内容を明確にし、個別の指導計画を作成するものとする。』である
(いずれも小学部・中学部学習指導要領)。前者は重複障害者の指導を、後者は自立活動の指導
を前提としてはいるが、これは必ずしも対象者や領域を限定して作成することを意味するものでは
ない。学校教育法施行規則第 73 条7から9に規定されるように、自立活動は盲学校、聾学校、養
護学校の教育課程の編成領域として明示されているため、原則的にすべての幼児児童生徒にお
いて指導されるものである。したがって、自立活動の指導に当たって個別の指導計画の作成を義
務づけたことは、すべての幼児児童生徒においてこれが作成されなければならないとされる。これ
に対して、重複障害者の指導に当たって作成することは配慮事項であり、自立活動の指導におけ
る位置づけとは若干異なる。なお、特殊学級及び通級による指導においても特別な教育課程を編
成する場合、学習指導要領の規定に基づくことになるので、個別の指導計画の作成義務が生じる
と解される。
さて、学習指導要領の改訂の背景には次のような教育課程の基準の改善のねらいがある。第一
は、豊かな人間性や社会性、国際社会に生きる日本人としての自覚を育成すること、第二は自ら
学び、自ら考える力を育成すること、第三はゆとりのある教育活動を展開する中で、基礎・基本の確
実な定着を図り、個性を生かす教育を充実すること、最後に各学校が創意工夫を生かし特色ある
教育、特色ある学校づくりを進めることである。これらは、多くの知識を教え込む教育から子どもの
関心や意欲を生かして主体的な学びを育成する教育へと転換するものであり、個性を生かす教育
を実現しようとするものである。そのために、教育課程の基準の一層の大綱化やその運用の弾力
化を図ろうとするものである。個別の指導計画は、このような背景をもった学習指導要領の改訂によ
って新たに提起されたものであり、個に応じた指導の具現及び教育における説明責任を果たすた
めに作成されるものである。したがって、作成することが目的ではなく、一人一人の子どもの障害に
基づく学習や生活上の困難さや教育的なニーズを見極め、子どもの学びを実現する授業を創造
27
するところに意義がある。
自立活動は移行措置により 2000(平成 12)年度から実施された。それゆえに多くの学校では個
別の指導計画を学習指導要領の完全実施を前にいち早く作成した。すでに作成から5年が経過し
ようとする現在、どのような現状と課題にあるのであろうか。確かに子ども一人一人の実態把握を行
い、何をどのように指導するのかの道筋を示すことに一定の成果を得たものの、作成に要した時間
や労力の割に授業の創造や改善につながらないであるとか、教員間及び保護者などとの連携に
おいて機能していないであるとか、さまざまな課題が浮き彫りになっている。
わが国は特殊教育から特別支援教育へと大きく転換しようとしている。その中で、就学期間を
見通し、なおかつ就学前及び卒業後の専門家・関係機関との連携を一層明確にした個別の教育
支援計画が作成されることとなった。個別の指導計画は、今後、より長期的な視点にたって、関係
者とのより明確な連携協力を前提とした個別の教育支援計画へと機能的な昇華を果たしていかな
ければならない。そのためにも改めて個別の指導計画作成の上で直面する諸課題について解決
していく必要がある。その意味では、個別の指導計画はさらなる役割の付与とその遂行が期待され
ている。(安藤隆男)
28
③教育課程の編成
・盲学校
学校教育法第 71 条により、盲学校は、視覚障害児に対して、幼稚園、小学校、中学校又は高
等学校に準ずる教育を施し、あわせてその欠陥を補うために、必要な知識技能を授けることを目的
としている。この目的を達成するために、いくつかの教育課程の編成がとられるが、ここでは「準ず
る教育課程」と「重複障害児に対する教育課程編成の特例」について整理する。さらに、盲学校に
おける職業教育についても触れる。
準ずる教育課程
盲学校の小学部の教育課程は、国語、社会、算数、理科、生活、音楽、図画工作、家庭及び体
育の各教科、道徳、特別活動、自立活動並びに総合的な学習の時間によって編成される。また、
中学部の教育課程は、国語、社会、数学、理科、音楽、美術、保健体育、技術・家庭及び外国語
の必修教科、選択教科、道徳、特別活動、自立活動及び総合的な学習の時間によって編成され
る。
学校教育法第 71 条にある「準ずる教育」とは、原則として指導上の配慮を施した上で同等の教
育を行うことを意味している。その配慮とは、各教科を通じて、例えば、各学習が言葉だけの理解
にならぬように体験的な学習を積極的に行うこと、盲児に対しては触覚教材を、弱視児には視覚補
助具や拡大教材を活用の上で、細部にまでわたった指導上の工夫を行うことなどがあげられる。
さらに、小学部においては、国語、社会、算数、理科、中学部においては、国語、社会、算数、
理科、外国語(英語)の点字教科書が文部科学省著作教科書として刊行されている。この点字教
科書では、例えば理科であれば、豆電球を使用する実験を盲児にも理解しやすいように電子オル
ゴールを使った実験に修正したり、「魚や人のたんじょう」という単元において、原典教科書ではメ
ダカが題材にされているのに対して、触覚による観察がしやすいカエルを題材に替えたりするなど
の修正が行われている。
一方、学校教育法第71条にある「その欠陥を補うために、必要な知識技能を授けることに」関し
ては、小・中学校の教育課程にはない「自立活動」の領域において指導することとなっている。自
立活動は、学習指導要領において「健康の保持」、「心理的な安定」、「環境の把握」、「身体の動
き」、「コミュニケーション」の5つの内容と、それぞれの内容の下、22項目が示されているが、これら
は具体的な指導内容が示されているのではなく、指導内容を構成する要素として位置づけられて
29
いる。教科の内容の示し方との違いを表1に示したが、自立活動の指導にあたっては、個々の児
童・生徒の障害の状態や発達段階等の適切な判断に基づき、指導内容を設定することとなってい
る。なお、表2に自立活動における視覚障害児童生徒に対する代表的な指導事項を示した。
さらに、自立活動は学校教育活動全体を通じて適切に行うものとされ、特設された「自立活動の
時間」と教育活動全体を通じて行う「自立活動の指導」との密接な関係を保つことが必要である。
表1 教科と自立活動の内容の示し方の違い(香川ら、2000)
教科の内容の示し方
自立活動の内容の示し方
・標準発達を踏まえている
・標準発達に対する考え方はない
・具体的な指導内容そのものを示そうとして
・具体的な指導内容の構成要素を示している
いる
・標準発達をとげている児童には、すべての ・示されている内容は必要に応じて指導する
指導を行うことが前提である
メニュー方式である
重複障害児に対する教育課程編成の特例
現在の盲学校では、小学部の在籍児童の半数以上が重複障害児であり、教育課程編成の特例
が認められている。なお、2000 年の盲学校における視覚障害と合併する障害の種類を、知的障
害、肢体不自由およびその他の大枠で整理すると、知的障害を合併するものの割合は 80%以上
を占めている。
重複障害児に認められる教育課程の特例の概要は次の通りである。
下学年(下学部)適用の教育課程:各教科・科目の各学年の目標および内容の一部または全部
を下学年(下学部)の目標および内容に替えることができる。また、小・中学部では、幼稚部の各領
域のねらいおよび内容の一部を取り入れることができる。
知的障害養護学校の各教科との代替:知的障害養護学校の各教科または各教科の目標および
内容の一部に替えることができる。また、下学部のものに替えることもできるが、この場合、教科の
名称は替えることができない。なお、知的障害養護学校の小学部の教科には、生活、国語、算数、
音楽、図画工作および体育があるが、教科の名称は小学校と同じであっても目標や内容は独自に
定められている。
自立活動を主とした教育課程:重複障害で著しく学習が困難な児童・生徒は、各教科、道徳、特
別活動の目標および内容の一部を自立活動に替えられる。さらに、各教科と総合的な学習の時間
30
については、全部を替えて自立活動を主として指導を行うことができる。
教科・科目をあわせた授業:特に必要な場合は、各教科(科目)の全部または一部についてあわ
せて授業を行うことができる。
領域をあわせた授業:各教科、道徳、特別活動および自立活動の全部または一部をあわせて授
業をおこなうことができる。
特別な教育課程:重複障害の児童生徒を教育する場合または訪問教育を行う場合は特別な教
育課程をとることができる。
これらの中で、盲学校においては、あわせ有する障害の程度が比較的軽度の場合は、下学年
(下学部)適用の教育課程、下学年適用では難しく主として知的障害に着目して指導する場合は、
知的障害養護学校の各教科との代替、発達段階が6歳未満の重複障害児には自立活動を主とし
た教育課程がとられることが多い。
盲学校における職業教育
盲学校高等部には、普通教育を行う本科と並んだ職業学科と専攻科に職業学科が置かれてい
る。本科の職業学科には、保健理療科、音楽科、家政科、生活技能科があり、専攻科には理療
科、保健理療科、理学療法科、音楽科、情報処理科などがある。
これらの中で、理療科教育は 1881 年に開始し、現在も盲学校における職業教育の根幹をなして
いる。2003 年には、高等部本科保健理療科は全国で 49 学科、高等部専攻科理療科は 60 学科、
専攻科保健理療科は 32 学科設置され、計 1、665 名の生徒が学んでいる。なお、専攻科の入学資
格は、高等学校または盲学校高等部以上の卒業であり、修業年限は3年間である。
また、保健理療科は、あん摩・マッサージ・指圧師養成課程であり、専攻科は、あん摩・マッサー
ジ・指圧師・はり師・きゅう師養成課程である。これらの課程を修了することにより資格取得のための
国家試験受験資格が得られ、試験に合格して免許状を取得する必要がある。卒業後は、病院や
診療所、治療院に等に就職したり、本人が治療院を開業したりすることもある。(小林秀之)
31
表2 自立活動における視覚障害児童生徒に対する代表的な指導事項
・両手によって対象物の手触り、形、大きさ、構造、機能等を観察する指導
・保有する視覚によって、対象物の形や大きさ、色彩、構造、機能等を観察する指導
・近用や遠用の弱視レンズ類を用いて、対象物を巧みに認知する指導
・直接音や反響音によって物の存在や環境の状態を認知する指導
・においや味によって飲食物の状態や環境の状態を認知する指導
・ボディーイメージや身体座標軸、空間座標軸を形成する指導
・教室、廊下、建物、道路、市街等の地理的空間概念を形成する指導
・座位や立位において正しい姿勢を保持する指導
・バランスよくまっすぐに歩く指導
・たえず変化する環境の状況を把握しながら歩行や運動を行う指導
・自分の歩行軌跡を表現したり、表現した軌跡どおりに歩いたりする指導
・白杖を用いて、安全で能率的に歩く指導
・道路の構造や交通規則を理解して、歩行環境を総合的にまとめあげる指導
・安全で能率的な歩行を行うために、事前に必要な情報を収集し計画を立てる指導
・手指の粗大運動や微細運動を巧みに行う指導
・作業の種類に応じて、安全で能率的な姿勢を保持する指導
・ブロックや粘土等を用いて立体の構成を行う指導
・線状のゴム磁石等を用いて、平面上に図形を表現する指導
・表面作図器等を用いて、作図や描画を行う指導
・調理等において、二つ以上の作業を並行して行う指導
・マナーを含めて、適切に食事を行う指導
・適切な動作で排泄する指導
・洗面、手洗い、洗髪、髪の手入れ等ができ、身だしなみに気をつける指導
・引き出し、タンス等を整理して、必要な物をいつでも取り出せる指導
・衣服の洗濯やプレス、繕い等で衣服を管理する指導
・買い物や金銭のやり取りを行う際、貨幣や紙幣を見分ける指導
・献立の作成、材料の購入、調理、後かたづけ等を円滑に行う指導
・室内外の清掃、部屋の換気や温度調節、家具の配置等を適切に行う指導
・身ぶりサインや一語文等を用いて意思の相互伝達を行う指導
32
・場に応じて声量を調節し、相手の声の調子から、言語以外の情報を聞き取る指導
・相手の方を向いて話す等、場に応じて自然な形で対話できる指導
・点字タイプライター、各種の点字器あるいは携帯点字器を用いて、点字を書く指導
・中途失明者に対する点字の指導
・盲児に対する普通の文字の指導
・コンピュータ等を用いて、点字と普通の文字の相互変換を行う指導
・コンピュータを用いたさまざまな情報処理のための指導
・自己の障害についての理解に関する指導
・自己の障害との関連における、生活規制や医療的ケアに関する指導
33
・聾学校
準ずる教育:
聴覚障害教育の目的は、聾学校は、聾児に対し、普通学校に準ずる教育
を施し、あわせてその障害を補うために必要な技能や知識を授けることにある、と学校教
育法には定められている。簡潔にいえば、①普通学校に準ずる教育、②障害補償の教育、
の 2 つが聴覚障害教育の大きな柱になる。聾学校では、この 2 つの柱を基礎とした教育課
程が組まれている。聾学校の教育対象となる障害の程度は、従来、両耳の聴力レベルが 100dB
以上であるか、60dB 以上 100dB 未満で補聴器の使用によっても通常の話声を解することが
不可能あるいは著しく困難な者とされていた。しかし、近年では、聴力レベルの数値のみ
で一律に判定するのではなく、地方自治体の状況や保護者の意向なども加味しながら、聴
覚障害児の就学先を決定できるようになり、聾学校が対象とする障害の程度に関する基準
は撤廃された。
自立活動
特殊学校では、障害に配慮した指導や支援を行う時間として、「自立活動」の時間が設
けられており、聾学校においても、幼稚部から高等部まで、障害に配慮した時間として「自
立活動」の時間がある。子どもの状態や発達課題にあわせて、聾学校の自立活動の内容が
決められる。例えば、幼稚部の自立活動は、個別指導の形で行われることが多く、聴覚活
用や発音指導、語彙指導や文法指導など、聴覚障害ゆえに生じる日本語獲得の支援を、子
どもの状態に応じて指導することが多いようである。小学部では、聴覚活用や発音指導に
加えて、作文や日記指導、読書指導などの日本語の指導、障害受容、健康指導なども行わ
れている。中学部や高等部では、社会に出る上で必要な技能や知識として、エチケットや
マナーの指導、公共機関の使用に関する指導、福祉制度についての学習、進路指導などが
自立活動の時間に行われている。他の各教科と密接な関連を持たせながら、組織的、計画
的に自立活動の指導が行われることが重要である。
幼稚部:
聾学校幼稚部では、幼児の主体的活動を促し、心身の調和のとれた発達の基
礎を培うことを基本としている。普通幼稚園の指導領域として、「健康」「人間関係」「環
境」「言葉」「表現」の 5 つが挙げられているが、聾学校幼稚部ではこの 5 つの領域に加
えて、「自立活動」の 6 領域から構成されている。ただし、小学部以降の教科指導のよう
34
に各領域が独立に扱われるので
表 1
聾学校幼稚部の 1 日のスケジュール
はなく、生活や子どもに興味に密着
9:00
登校
したかたちで、これらの領域が複合
9:30
朝の会
的に扱われる。普通幼稚園では、1
9:50
絵本の読み聞かせ
日の教育時間が 4 時間に決められて
10:50
おやつ
いるが、聾学校幼稚部では、4 時間
11:10
運動
以上のところが多い。表 1 に典型的
12:00
給食
な聾学校幼稚部のスケジュールを
13:00
絵日記指導(個別指導)
示す。幼稚部の指導内容としては、
13:40
帰りの会
①カレンダーワーク(朝の挨拶や天
14:00
下校
補聴器調べ
個別指導
カレンダーワーク
音遊び
トイレ
トピックス
歌
言語指導
自由遊び
リズム遊び
工作
自由遊び
歌
個別指導(14:40 まで)
気や曜日の確認、当番の引継ぎな
ど)、②トピックス活動(家であったことを各自が報告し、話し合う)、③絵本の読み聞
かせ、④絵日記指導、⑤言葉遊びや歌遊び、⑥言語に着目した指導、⑦音楽リズム、⑧絵
画・工作、⑨散歩、などが挙げられる。また、近年では早期から手話を導入し、友達同士
の会話や教師と子どもとの会話が手話で行われ、より深いコミュニケーションが可能にな
ったという報告もある。また、わが子に聴覚障害があると宣告され、大きな悲しみと戸惑
いの中にいる両親を、両親の思いを理解しながら、聴覚障害の専門家として支援していく
ことも大切な業務の一つである。
小学部
小学部では、コミュニケーション手段や教材・教
表 2
聾学校小学部 1 年の時間割
具の使い方など、障害に配慮しながら、普通学校に
月
火
水
木
金
準ずる教育を行っている。小学部では、国語、算数、 1
国語
国語
図工
算数
国語
理科、社会、体育、音楽、図工、家庭科、生活のよ
2
算数
算数
図工
国語
特活
うな各教科に加え、道徳や特別活動なども普通学校
3
生活
生活
国語
体育
体育
に準じたカリキュラムで実践されている。表 2 に聾
4
自立
国語
算数
音楽
国語
学校小学部 1 年の時間割を示した。1 コマの授業は、 5
国語
道徳
国語
45 分で構成され、4 時間目と 5 時間目の間に給食が
用意されている。教科指導では、普通学校と同じ教科書を用い、授業が行われているが、
国語と音楽については、聾学校独自の教科書も作成されており、普通学校用の教科書と平
35
行して聾学校用の教科書を使用している聾学校もある。教科書は無償で配布される。児童
の実態は多様化しており、通常の進度で十分に教科内容を理解できる児童もいる一方、か
なりの支援が必要な児童もおり、子どもの実態にあわせて、下学年の教科書を使用しなが
ら確実に理解を積み上げる場合もある。特に小学部では、話し言葉から書き言葉への移行
に力点を置き、教科指導のなかでも言語指導や語彙指導など、必要に応じて自立活動的な
内容を扱うことが多い。また、自立活動の時間には、聴覚活用や発音などの言語指導だけ
でなく、障害認識に関わる授業や集団による活動などを取り入れ、対人関係や自己受容を
ねらっている。
中学部
中学部段階においても、普通中学校に準ずる教育を行うことが求められており、教科指
導の内容は、普通中学校に準じたものになっている。ただし、教科内容については、生徒
の障害に配慮し、実態にあわせて教科内容を決定することが多い。そのため、1 学年から 2
学年低い段階の教科書を用いて授業を行っていることも少なくない。小学部までは、ほと
んどの教科を学級担任が指導していたのが、中学部になると教科ごとに指導者が変わる教
科担任制をとる。また、学習内容も小学部に比べると格段に増え、難しくなっているため、
効率的に専門用語や概念を伝達するために、手話が有効な伝達手段になる。自立活動の時
間には、小学部に引き続き、聴覚活用や発音指導などに当てられることもあるが、手話や
社会適応に必要な一般常識やマナーについて扱ったり、身近な生活用語や時事問題につい
て扱ったりすることもあり、多様な内容を自立活動の時間に指導している。
高等部・専攻科
中学部までは義務教育の範囲内であったが、高等部は義務教育ではない。しかし、中学
部に在籍する聴覚障害児の95%以上は、高等部に進学する。かつては、高等部は卒業後
自立できるよう職業教育に力点をおいた教育課程を作成していた聾学校が多く、職業科が
中心であった。高等部職業科では、情報デザイン科や生活情報科など、各聾学校で様々な
特色を有した学科を用意している。このような高等部職業科では、高等部 2 年から 3 年に
かけて、職業的な内容を扱う授業が増え、普通教科の時間が少なくなっていることが特色
である。一方、近年では大学や短大に進学することを前提とした普通科をおく聾学校も増
えてきた。普通科では、普通高校に準ずる教育が用意されている。高等部では、職業科で
36
は特に、教科学習の進度を遅らせ、下学年の教科書を用いて授業をしているところも多く、
生徒のやる気を失わせないような指導が求められている。そのため、英語検定や漢字検定、
簿記試験やワープロ検定など、各種資格取得に挑戦するなど、具体的な目標を作りながら、
学習を進めていくことが大切である。また、高等部の自立活動では、発音や言語指導より
むしろ、社会に出てから困らないような力をつけることを意図した内容を扱うことが多く
なってくる。例えば、一般常識や敬語の使い方、礼儀などを扱うことがある。さらに、自
分を肯定的に受け止め、聴覚障害のある自分に自信を持って生きていく力を育てるために、
聾者集団と個人の間に連帯を持つのに必要な手話を学習したり、先輩の聾者の話を聞いた
りするなどの機会を自立活動の中で提供している聾学校も増えてきた。また、高等部で最
も重視しているのが、進路指導である。高等部卒業後、就職する生徒は年々少なくなり、
多くは進学をする。2002 年の文部科学省の調査では、高等部卒業後、31%が就職をし、50%
が進学をしている。そのほか、職業訓練機関や社会福祉施設に入所する生徒が 17%ほどで
あり、卒業後行き先のない生徒は極めて少ない。進学を希望している生徒の多くは、聾学
校専攻科に進学するが、中には大学や短大に進学する生徒も 10%程度いる。わが国には、
聴覚障害者と視覚障害者を対象とした高等教育機関として筑波技術短期大学があり、わが
国では唯一の障害学生を対象とした大学である。筑波技術短期大学に進学する生徒もおり、
中には4年制の大学に進学し、さらに大学院に進学する聴覚障害者も増えてきている。
(武居
37
渡)
・養護学校
盲学校、聾学校及び養護学校小学部・中学部学習指導要領の第 1 章第 2 節教育課程の編
成の第1一般方針において、「各学校においては、法令及びこの章以下に示すところに従
い、児童又は生徒の人間として調和のとれた育成を目指し、その障害の状態及び発達段階
や特性等並びに地域や学校の実態を十分考慮して、適切な教育課程を編成するものであ
る。」とし、第2内容等の取り扱いに関する共通的事項では、「1第 2 章以下に示す各教
科(中学部においては、必修教科とする。2 において同じ。)、道徳、特別活動及び自立活
動の内容に関する事項は、特に示す場合を除き、いずれの学校においても取り扱わなけれ
ばならない。2学校において特に必要がある場合には、第 2 章以下に示していない内容を
加えて指導することができる。また、第 2 章第 1 節第 1 款及び同章第 2 節第1款において
準ずるものとしている小学校学習指導要領第 2 章及び中学校学習指導要領第 2 章第 1 節か
ら第 9 節までに示す各教科の内容の取扱いのうち内容の範囲や程度等を示す事項は、すべ
ての児童又は生徒に対して指導するものとする内容の範囲や程度等を示したものであり、
学校において特に必要がある場合には、この事項にかかわらず指導することができる。た
だし、これらの場合には、第 2 章以下に示す各教科、道徳、特別活動及び自立活動並びに
各学年、各分野又は各言語(知的障害者を教育する養護学校においては、各教科、道徳、
特別活動及び自立活動)の目標や内容の趣旨を逸脱したり、児童又は生徒の負担過重とな
ったりすることの内容にしなければならない。」としている。
また、茨城県学校教育指導方針、学校教育推進の柱の5自立と社会参加をめざす特別支
援教育の推進における努力事項1障害の状態等を踏まえた適切な指導計画の作成と指導法
の充実において、自立と社会参加をめざした教育課程の編成を以下のように示している。
・一人一人の障害の状態や特性等の的確な把握と、学習の進度等を踏まえた指導計画
を作成
・自立活動を中心とした個別の指導計画の作成
・系統性を踏まえた指導計画の工夫
・幼稚園、小学校、中学校、高等学校の教科、領域の目標・内容との関連や系統を踏
まえた指導計画の工夫
・「教科別、領域別の指導」及び「領域・教科を合わせた指導」の目標の達成めざし、
相互の関連を踏まえた指導計画の工夫
38
本校においても、基本的方針として以下の項目を挙げている。
ア
関係法令及び学習指導要領の規定に基づき、
本稿の教育目標、児童生徒の実態及び将来への進路を考慮し、弾力的な編成を行う。
イ
各教科、道徳、特別活動等で編成し、教育活動全体をとおして社会自立・参加をし得
る「生きる力」を培うために、個に応じた指導が行える教育課程を編成する。
ウ
児童生徒の障害、特性等を考慮し、一人一人の個性を生かすことができるよう、教育
内容の選を図る。
エ
児童生徒の年齢相応の特性を考慮し、全人的な発達を図り、健全な社会生活を営む上
での豊かな人間性、倫理観を培うよう編成する。
オ
対人関係などのあり方について学習を深めるとともに、社会性を養うための特別活動
の内容を工夫する。
これらのことに留意しながら、教育課程の編成を行った。〔小学部(表1:平成17年
度一般A、一般B、重複A、重複B、訪問教育の教育課程編成表)、中学部(表2:平成
17年度一般A、一般B、重複A、重複B、訪問教育の教育課程編成表)、高等部(表3:
平成17年度一般A、一般B、重複A、重複B、訪問教育の教育課程編成表)〕
(佐々木正志)
39
学校名
茨 城 県 立 鹿 島 養 護 学 校
学校種別
一
般
知 的 障 害
部名
小 学 部
A
学 年
1
2
3
4
5
6
17
17
指導形態名
領域・教科を合わせた指導
日常生活の指導
5
5
遊びの指導
生活単元学習
2 1
0
2 1
0
作 業 学 習
生
活
国
語
1 0
教科別の指導
5
算
数
1 0
5
音
楽
1 0
図画工作
1 0
5
7
0
育
7
0
1 4
0
領域別の指導
道
1 0
5
5
体
1 0
5
1 4
0
徳
特別活動
3
5
3
5
自立活動
合
計
945
945
○自立活動(日常生活の指導、遊びの指導、生活単元学習、国語、算数、音楽、図画工作、
体育、特別活動)
40
一
般
B
学 年
1
2
3
4
5
6
指導形態名
領域・教科を合わせた指導
日常生活の指導
2 3
8
遊びの指導
21
0
6
8
生活単元学習
7
0
2 0
4
1 7
5
1 7
5
17
5
1 7
5
7
0
2 1
0
2 1
0
2 8
0
2 8
0
2 8
0
作 業 学 習
生
活
国
語
3
教科の指導
4
算
数
3
4
音
7
0
楽
3
5
6
8
7
0
7
0
1 0
5
育
1 0
1 0
5
1 0
1 0
5
7
0
1 4
0
7
0
5
7
1 0
5
7
1 0
0
7
0
0
5
7
2
領域別の指導
道
7
1 0
0
7
0
0
5
図画工作
体
7
0
7
0
1 4
0
1 4
0
徳
特別活動
3
4
3
5
3
5
3
5
3
5
3
5
自立活動
合
計
7 8
8 4
9 1
9 4
9 4
9 4
2
0
0
5
5
5
○自立活動(日常生活の指導、遊びの指導、生活単元学習、国語、算数、音楽、図画工作、
体育、特別活動)
41
重
複
A
学 年
1
2
3
4
5
6
指導形態名
領域・教科を合わせた指導
日常生活の指導
2 3
8
遊びの指導
2 1
0
6
8
生活単元学習
7
0
1 3
6
1 7
5
1 7
5
1 7
5
1 7
5
7
0
1 7
5
2 1
0
2 8
0
2 8
0
2 8
0
作 業 学 習
教科の指導
生
活
国
語
算
数
音
楽
6
8
1 0
5
1 0
5
図画工作
7
0
体
育
1 0
2
領域別の指導
道
1 0
5
7
0
1 0
5
1 0
5
7
0
1 4
0
1 0
5
7
0
1 4
0
1 4
0
徳
特別活動
3
4
自立活動
3
5
1 3
6
合
1 0
5
計
5
1 4
0
7 8
2
3
5
1 4
0
8 4
0
3
5
1 4
0
9 1
0
42
3
5
1 4
0
9 4
5
3
1 4
0
9 4
5
9 4
5
重
複
B
学 年
1
2
3
4
5
6
指導形態名
領域・教科を合わせた指導
日常生活の指導
2 3
8
2 1
0
1 7
5
1 7
5
1 7
5
1 7
5
遊びの指導
生活単元学習
作 業 学 習
教科の指導
生
活
国
語
算
数
音
楽
図画工作
領域別の指導
体
育
道
徳
特別活動
3
4
自立活動
5 1
0
合
3
5
計
5 9
5
7 8
2
3
5
7 0
0
8 4
0
3
5
7 3
5
9 1
0
43
3
5
7 3
5
9 4
5
3
5
7 3
5
9 4
5
9 4
5
訪 問 教 育
学 年
1
2
3
4
5
6
指導形態名
領域・教科を合わせた指導
日常生活の指導
遊びの指導
生活単元学習
作 業 学 習
教科の指導
生
活
国
語
算
数
音
楽
図画工作
領域別の指導
体
育
道
徳
特別活動
自立活動
2 1
0
合
計
2 1
0
2 1
0
2 1
0
2 1
0
2 1
0
44
2 1
0
2 1
0
2 1
0
2 1
0
2 1
0
2 1
0
学 校 名
学校種別
一
般
茨
知
的
障
害
城
県
立
鹿
島
部 名
養
護
中
学
学
校
部
A
学
年
1
2
3
指導形態名
領域・ 教科を合わせ
た指導
日常生活の指導
140
140
140
生活単元学習
70
70
70
140
140
140
105
105
105
105
105
105
作
業
学 習
教科別の指導
国
語
社
会
数
学
理
科
音
楽
70
70
70
美
術
70
70
70
保健体育
140
140
140
70
70
70
35
35
35
35
35
35
980
980
980
職業・家庭
選択
外国語
領域別の指
導
道
徳
特別活動
自立活動
総 合 的 な 名 きらきら
学習の時間 称 タイム
合
計
○自立活動(日常生活の指導、生活単元学習、作業学習、国語、数学、音楽、美術、保健
体育、職業・家庭、特別活動、総合的な学習の時間)
45
一
般
B
学
年
1
2
3
指導形態名
領域・教科を合わ
せた指導
140
140
140
生活単元学習
140
140
140
作
140
140
140
70
70
70
70
70
70
教科別の指導
日常生活の指導
業
学 習
国
語
社
会
数
学
理
科
音
楽
70
70
70
美
術
70
70
70
保健体育
140
140
140
70
70
70
35
35
35
35
35
35
980
980
980
職業・家庭
選択
外国語(
領域別の指
導
道
)
徳
特別活動
自立活動
総 合 的 な 名 きらきらタイム
学習の時間 称
合
計
○自立活動(日常生活の指導、生活単元学習、作業学習、国語、数学、音楽、美術、保健
体育、職業・家庭、特別活動、総合的な学習の時間)
46
重
複
A
学
年
1
2
3
指導形態名
領域・教科を合わ
せた指導
日常生活の指導
140
140
140
生活単元学習
140
140
140
作
140
140
140
教科別の指導
業
学 習
国
語
社
会
数
学
理
科
音
楽
70
70
70
美
術
70
70
70
保健体育
140
140
140
70
70
70
特別活動
35
35
35
自立活動
140
140
140
35
35
35
980
980
980
職業・家庭
選択
外国語(
領域別の指
導
道
)
徳
総 合 的 な 名 きらきらタイム
学習の時間 称
合
計
47
重
複
B
学
年
1
2
3
指導形態名
領域・教科を合わ
せた指導
日常生活の指導
140
140
140
特別活動
35
35
35
自立活動
770
770
770
35
35
35
980
980
980
生活単元学習
作
業
学 習
教科別の指導
国
語
社
会
数
学
理
科
音
楽
美
術
保健体育
職業・家庭
選択
外国語(
領域別の指
導
道
)
徳
総 合 的 な 名 きらきらタイム
学習の時間 称
合
計
48
訪 問 教 育
学
年
指導形態名
1
2
3
領域・教科を合わ
せた指導
日常生活の指導
生活単元学習
作
業
学 習
教科別の指導
国
語
社
会
数
学
理
科
音
楽
美
術
保健体育
職業・家庭
選択
外国語(
領域別の指
導
道
)
徳
特別活動
自立活動
210
210
210
210
210
210
総 合 的 な 名 きらきらタイム
学習の時間 称
合
計
49
平成17年度教育課程編成表
学校名
茨 城 県 立 鹿 島 養 護 学 校
学校種別
知 的 障 害
部名
高 等 部
一 般 A
学 年
指導形態名
1
2
3
領域・教科を
合わせた指導
日常生活の指導
生活単元学習
105
105
105
作 業 学 習
280
280
280
70
70
70
70
70
70
教科別の指導
選択
国
語
社
会
数
学
理
科
音
楽
70
70
70
美
術
70
70
70
保健体育
140
140
140
職
業
70
70
70
家
庭
70
70
70
35
35
35
70
70
70
1050
1050
1050
外 国 語(
選択
情
領域の指導
道
)
報
徳
特別活動
自立活動
学校設定科目(
総合的な
名
学習の時間 称
合
)
ふれあいタイム
計
○自立活動(生活単元学習、作業学習、国語、数学、音楽、美術、保健体育、職業、家庭、
50
特別活動、総合的な学習の時間)
一 般 B
学 年
指導形態名
1
2
3
領域・教科を合わ
せた指導
日常生活の指導
生活単元学習
175
175
175
作 業 学 習
280
280
280
70
70
70
70
70
70
教科別の指導
選択
国
語
社
会
数
学
理
科
音
楽
70
70
70
美
術
70
70
70
保健体育
140
140
140
70
70
70
35
35
35
70
70
70
職
業
家
庭
外 国 語(
選択
情
領域の指導
道
)
報
徳
特別活動
自立活動
学校設定科目(
総合的な
学習の時間
合
)
名 ふれあい
称
タイム
計
1050
1050
1050
○自立活動(生活単元学習、作業学習、国語、数学、音楽、美術、保健体育、職業、家庭、
特別活動、総合的な学習の時間)
51
重
複
A
学 年
指導形態名
1
3
領域・教科を合わ
せた指導
日常生活の指導
105
105
105
生活単元学習
70
70
70
作 業 学 習
280
280
280
教科別の指導
選択
国
語
社
会
数
学
理
科
音
楽
70
70
70
美
術
70
70
70
保健体育
140
140
140
70
70
70
特別活動
35
35
35
自立活動
140
140
140
70
70
70
職
業
家
庭
外 国 語(
選択
情
領域別の指導
道
)
報
徳
学校設定科目(
)
総 合 的 な 名 ふれあい
学習の時間 称
タイム
合
2
計
1050
52
1050
1050
重
複
B
学 年
指導形態名
1
領域・教科を合わ
せた指導
2
3
105
105
105
特別活動
35
35
35
自立活動
840
840
840
70
70
70
1050
1050
日常生活の指導
生活単元学習
作 業 学 習
国
語
社
会
数
学
教科別の指導
理
科
音
楽
美
術
保健体育
職
業
家
庭
選択
外 国 語(
選択
情
領域別の指導
道
報
徳
学校設定科目(
)
総 合 的 な 名 ふれあい
学習の時間 称
タイム
合
)
計
1050
53
訪 問 教 育
学 年
指導形態名
1
2
3
領域・教科を合わ
せた指導
日常生活の指導
生活単元学習
作 業 学 習
国
語
社
会
数
学
教科別の指導
理
科
音
楽
美
術
保健体育
職
業
家
庭
選択
外 国 語(
選択
情
領域別の指導
道
)
報
徳
特別活動
自立活動
学校設定科目(
210
210
210
)
総 合 的 な 名 ふれあい
学習の時間 称
タイム
合
計
210
54
210
210
5)交流教育と訪問教育
55
①交流教育
文部科学省では昭和 62 年度から特殊教育諸学校の中から、「心身障害児交流活動地域推
進研究校」を指定し、これらの学校の子ども達と地域社会の人々との交流活動について実
践研究を進めている。茨城県では平成 10 年度より「いばらき教育プラン」により障害児の
教育の推進として、「障害児地域交流活動推進事業」「交流教育推進事業」「養護学校施
設開放事業」「ウィークエンドインストラクター養成事業」「心と心のふれあいフェステ
ィバル事業」「特殊教育諸学校姉妹校交流事業」「交流教育地域推進事業」「障害児理解
啓発推進事業」を計画し、障害のある子どもと、障害のない子ども及び地域の人々とが、
様々な機会において活動を共にする交流教育の一層の推進に努めている。これは、子ども
の経験を広めて積極的な態度を養い、社会性や豊かな人間性をはぐくむために、小中学校
の子ども達や地域の人々との交流(一部の教科や特別活動などの時間に活動を共にしたり、
地域の行事に参加したり、文化祭や学校公開を計画する。)の場を設定すること、子ども
達の思いやりの気持ちを育んだり、地域の人々が障害のある子どもやその教育について理
解を深めたりするよい機会となっている。平成 2 年度からの地域交流活動推進事業〔学校
間交流、地域交流:(表 1)平成 16 年度交流団体と本校学年について、(表 2)大洋中学
校の友達と交流をしよう<略案>〕は全特殊教育諸学校実施になり、本校でも活動をはじ
めた。また居住地校交流も実施しており、平成 16 年度は小学部 4 名が居住地にある小学校
で交流している(表 3)。
56
表1
本校交流学部・
平成16年度交流計画
学校間交流相手校(交流
学校間交流相手校(交流地
本校交流学部・学年
地域団体)
学年
域団体)
小学部3年
鹿嶋島市立中野西小学校
中学部全学年
鹿島中学校カトレア会
鹿嶋市社会福祉連絡協議
小学部全学年
鹿嶋市立鹿嶋小学校
高等部全学年
会ボランティアグループふ
れんず
麻生町社会福祉連絡協議
小学部4年
鹿嶋市立豊郷小学校
小学部第1、2学年
会ボランティアグループ虹
の会
小学部5年
潮来市立徳島小学校
小学部6年
玉造町立玉川小学校
中学部1年
波崎町立波崎第4中学校
中学部2年
鹿嶋市立高松中学校
中学部3年
大洋村立大洋中学校
高等部1年
県立潮来高等学校
高等部2年
県立鹿島高等学校
小学部1、2年
鹿島学園高等学校
高等部3年
表2
大洋中学校の友達と交流をしよう<略案>
中学部第3学年
総合的な学習の時間
1
単元
2
単元設定の理由
指導案
(略)
大洋中学校の友達と交流をしよう
本学年は男子14名、女子5名、計19名の生徒で構成されている。コミュニケーショ
ンについては、会話や身振りを用いて自ら周囲の人達と積極的に接することができる生徒、
自ら接することは難しいが、話しかけられたり促されたりすることで周囲の人達と一緒に
活動することができる生徒、慣れた人と決まった方法でのみやりとりを行うことができる
生徒など多様である。
本学年の生徒は、中学部 1 年時に麻生中学校、2 年時に高松中学校の生徒と交流教育を行
い、飾りの製作、イス取りゲーム、カレー作りなどを行ってきた。そして今年度は大洋中
学校の 3 年生との交流教育を行う。本単元は 2 回予定されている直接交流の 1 回目で、交
57
流相手の生徒と初めて対面するため、本学年の生徒がすでに経験し、見通しを持って落ち
着いて取り組みやすいうどん作りを実施することを考案した。このように調理を行い、そ
れを食べるという活動は本学年の生徒たちにもわかりやすく、楽しく活動することができ
た経験があるため、興味・関心が高い。また、調理を行う際には様々な工程があるので、
本学年の生徒の様々な実態に応じた活動を行うことが可能となるものと考えられる。この
ように経験があり、楽しく取り組める可能性の高い活動を実施することにより、その中で
かかわりが促進されるのではないかと考え、本単元を設定した。
指導においては、かかわりのきっかけとしてビデオレターを用い、言葉以外の身振りや
表情によっても大洋中学校の生徒とコミュニケーションがとれるようにしたい。また、一
緒にうどんを作る際には手順などにも映像などを用いて、生徒が具体的に活動のイメージ
を持てるようにしたり、教師が間に入り本学年の生徒に合ったコミュニケーション手段の
模範を示すことで、生徒間のかかわりを深める支援を行う。そして、交流をビデオで振り
返ったり、大洋中学校の生徒へ手紙を書いたりすることで、次回大洋中学校で行うことが
予想される交流活動への意欲につながるようにしていきたい。
3
目標
○
大洋中学校の友達とコミュニケーションをとることができる。
○
大洋中学校の友達と一緒に、楽しく活動をすることができる。
4
指導時間(12時間扱い)
略
6
本児の指導(1)目標
全体目標
準備・資料
ア
5
生徒の実態
略
イ
略
個別目標と支援の手だて
略(2)
略
(3)展開
支援の手だて・評価
時間
学習内容および活動
(・支援の手だて、◇評価、□自立活動)
9:50
10:00
1 大洋中生徒到着
・学級委員(3 名)は昇降
口で出迎える。
・他の生徒は体育館で学
級ごとに整列し、待機
する。
・出迎えは、各クラスの学級委員と T5 が行う。元気よく
挨拶できるように促す。
・静かに待つことができるようにする。
2 対面式(体育館)
(1)はじめの言葉
(2)歓迎の言葉
(3)学校長の話
(4)大洋中生徒代表挨拶
(5)日程説明
・司会生徒の補助および日程説明は T1 が行う。
・担当の生徒には、大きな声ではっきりとできるように事
前の練習を十分にしておく。
・日程については表を掲示し分かりやすくする。
58
(6)終わりの言葉
∼中略∼
3 班ごとに分かれ、うどん
作りを行う。
(1)うどん作りの準備。
(2)うどんを打つ。
・小麦粉と塩水を混ぜる。
・小麦粉を練る。
・足で踏む。
・うどんを切る。
(3)うどんをゆでる。
(4)具材を切る。
4 会食
(1)手を洗う。
(2)配膳する。
(3)会食する。
(4)片づけをする。
5 自由時間
(班ごと)
6 お別れの式(体育館)
(1)はじめの言葉
(2)感想発表
・T8 は M・K につき、班の友達と一緒に落ち着いて活
動できるように言葉かけを行う。
□A・Y と T・M については T7 が友達と一緒に作業の
手順を確認するように促し、見通しを持って活動がで
きるように促す。(自立 2−(3))
・ペアの友達が O・M に対して話した内容を T2 が確認
することにより、話しを良く聴いて作業が行えるように
支援する。
□T7 は A・Y の身振りの意図がペアのスムーズに伝わ
るように支援する。(自立 5−(2))
・U・Y と O・H が活動する場を離れずに一緒に活動が
できるよう、T5 が言葉かけを行う。
・S・S に対して、 自分から積極的に活動に取り組むよう
に T7 が言葉かけをする。
・O・K とペアの友達との間に T4 が入り、作業の内容な
どの会話を行うように促す。
・K・K および O・M については、小麦粉を練る際にボー
ルを支えてもらうなど、ペアの友達にお願いするよう
に促す(K・K には T1、O・M には T2)。
・I・F は友達と手をつないで一緒に踏むことができるよう
に T3 が言葉かけを行う。
・T・Y はペアの友達と一緒にうどんを踏むことで、友達
を意識したかかわりができるように支援する。
・S・T がうどんを切る際には、まずペアの生徒が見本を
見せるように T1 が促す。
・G・R のゆっくりでも丁寧に取り組む様子を T4 が賞賛
することにより、ペアの友達が G・R に意識を向けるき
っかけを作る。そして一緒に賞賛することで G・R が
ペアの友達を意識することができるように支援する。
・それぞれの班で分担し、調理室でうどんを茹でる作業
と、体育館で具材をきる作業を並行して行う。
・T2、T6、T8 は生徒と一緒に調理室へ移動し、茹でる
作業を支援する。
・体育館に残った生徒が具材を切るよう T1 は言葉かけ
を行う。
□T8 が O・Y とペアの友達の間に入り、O・Y が積極的
に話しかけるように促す。また話しかけた内容がスム
ーズに伝わっていない際には間に入り、支援する。
(自立 5−(2))
・I・F は包丁の扱いに気をつけるように T3 が支援する。
◇大洋中学校の友達と、楽しく活動をすることができた
か。
◇大洋中学校の友達と、自分なりの手段でコミュニケー
ションをとることができたか。
・O・T には T2 がつき、ペアの友達と一緒に準備が行え
るよう支援する。
・班ごとに食べる。
・楽しい雰囲気で会食できるよう支援する(全 T)。
・時間を見て、片づけを行う。
・生徒同士が楽しく過ごせるように支援する(全 T)。
・トイレに行くよう声かけをする。(清掃はなしとする。)
・発表する生徒は大きな声ではっきり言えるようにする。
その他の生徒は静かに話が聞けるようにする。
59
(3)感謝の言葉
(4)終わりの言葉
13:45
表3
7 見送り
・全員昇降口の所か
らバスを見送る。
・感謝の気持ちを込めて挨拶や見送りができるように促
す。
平成16年度居住地校交流計画
本校児童学年
交流相手校
交流教科・内容
実施回数
小学部第1学年児童
鹿嶋市立中野東小学校
体育の授業への参加
週1回
月4回
年間9回
小学部第4学年児童
小学部第5学年児童
神栖町立横瀬小学校
神栖町立大野原小学校
生活単元学習の授業、学級活
学期1回
動の参加
年間1回
生活単元学習・図画工作の授
週1回
業への参加
月4回
年間23回
小学部第6学年児童
鹿嶋市立鹿島小学校
生活単元学習・家庭科の授
週2回
業、学級活動の参加
月8回
年間45回
(佐々木正志)
60
②訪問教育
盲学校、聾学校及び養護学校学習指導要領において、訪問教育に関する特例が次のように
示されている。「障害のため通学して教育を受けることが困難な児童生徒は、障害が重度
であるか又は重複しており、各教科の学習が著しく困難な場合が多いと考えられるので、
各教科、道徳若しくは特別活動の目標及び内容に関する事項の一部又は各教科若しくは総
合的な学習の時間に替えて、自立活動を主として指導を行うことができる。また、特に必
要があるときは、実情に応じた授業時数を適切に定めるものとする。」
この訪問教育を茨城県においては、特殊教育諸学校国公立合わせて 21 校中 16 校が実施
しており、平成 16 年 5 月1日現在で 99 名の児童生徒が対象になっている。その内訳は知
的障害養護学校 15 校中 13 校で 65 名(小学部 32 名、中学部 17 名、高等部 16 名)、肢体
不自由養護学校2校で 12 名( 小学部 5 名、中学部 5 名、高等部 2 名)、病弱養護学校1
校で 22 名(小学部 13 名、中学部 8 名、高等部 1 名)である。
本校においては、10 名が対象になっている。内訳は小学部が 6 名、中学部が3名、高等
部が 1 名である。鹿行地区 10 市町村に本校1校という現状から、対象児は鹿嶋市、潮来市、
神栖町、波崎町、玉造町と多方面に住んでおり、遠方では片道約 50kmという地域に指導
に出向いている。児童生徒の障害の状態は、身障者手帳では1種1級がほとんどであり、
全面介助、経管補給・栄養、痰の吸引、要酸素吸入等が必要な児童生徒が多い。指導の実
際は在宅訪問日課表(一人当たり週3日×2時間)により、午前の場合9時 30 分から 11
時 30 分まで、午後の場合 13 時 30 分から 15 時 30 分まで、自立活動において、健康調査・
個別学習を実施している。年間指導時間は領域別の指導(自立活動)で210時間とし、
目標として
○個々の障害に応じて、興味や関心を生かしながら運動機能・視覚・聴覚・触覚などの感
覚機能を高める。○より多くの体験を通して、基本的生活習慣の向上を目指す。○健康状
態の維持・改善や安全に留意しながら、心身の発達を促す。をあげ、個々のニーズにあっ
た指導内容(例:小学部6年自立活動学習指導案<略案>)を計画するとともに、訪問で
の指導以外に学校行事への参加、スクーリングなども計画している。
61
自立活動学習指導案
場
所
対象児童
1
単
元
2
単元設定の理由
児童自宅
小学部1年
きいて、みて、かんじてみよう
本児童は、原因や病名が分からないが、疾病による不随意運動等を伴う両上肢機能障
害、及び移動機能障害による肢体不自由を伴う重度の知的障害児である。首が座ってな
く、座位をとったり、寝返りをすることは難しい。生活のほとんどが仰臥位で、布団の
上での生活が多い。また、過敏な反応が多く見られ、体調が悪くなると、緊張も強くな
る。暑かったり、眠かったり、便意を感じると、体調が悪くなり、体全体をバタバタさ
せたり、泣いたりして、動きが止まらなくなる。汗もかいて体力もかなり使うので、こ
のような時は、母と祖母が交代で抱っこをして様子を見る。1時間抱いていても落ち着
かず、疲れてしまうときもあれば、一晩眠れないようなときもある。
訪問の学習の中では、体調のよいときは、落ち着いて学習を行うことが出来る。ゆら
ゆらじゅうたんで大きな揺れを楽しむことは好きであるが、あまり刺激の強い物では、
体のバタつきが出てしまうこともあるので、穏やかに学習できるように心がけている。
本単元では、本児がリラックスして学習できるように音楽を聴いたり、本の読み聞か
せを行ったり、揺れを感じたりして、楽しい気持ちで学習が出来るようにしていきたい。
3
目
標
○
人との関わりを楽しみ、感情の表現を豊かにすることができる。
○
心身のリラックスを図り、健康の維持・増進に努めることができる。
4
指導計画
5
児童の実態
略
病名・障害……疾病による不随意運動等を伴う両上肢機能障害、及び移動機能障害
身
体
身辺生活
……首が座っていない。過敏な反応により体をバタつかせることがある。
……全面介助。ペースト状の食事、脱水症状を防ぐため、3時間おきに
62
経管より水分補給。
健康状態
……呼吸状態が悪く、喘鳴がきこえる。体温が高く(平熱37度)汗を
かきやすい。
情
緒
……うれしいときは笑顔がでる。眠くなったときも笑顔がでる。
運動・動作……便意を感じると体をバタバタさせる。座位保持椅子に座ったり、慣
れない人に抱っこされたりすることを嫌う。
6
本時の指導
展
開
学習内容及び活動
1
健康観察をする。
・あいさつ
2
始めの会をする。
(1)始まりの歌を聞いて、
呼名に応じる。
指導上の留意点(支援・手立て)
準備・資料
評価
・母親から今日の体調を聞くとともに、
1(表
母親との接触の様子を観察、注意事項
情)
(身
を確認する。
体)
・始まりの歌の中で呼名をしたり、握手 鍵盤楽器
をすることによって学習の始まりを
2(表
意識できるようにする。
情)
(身
(2)今日の日付けや天気、 ・体の動きや目の動きなどを見て、称賛 カ レ ン ダ 体)
学習予定を聞く。
ー、お天気
する。
シール
3
今月の歌を歌う。
・鹿養祭を意識しながら、歌に合わせて
・「勇気100%」
一緒に歌ったり、手拍子をしたりし CDラジカ
・「とんぼのめがね」
て、楽しむ。
3(表
セ
情)
(身
・「おもちゃのちゃちゃち ・鈴、タンバリンを使ってリズム打ちを
体)
(発
して楽しむ。
ゃ」
声)
・落ち葉やどんぐりなどを使って秋の様 鈴
4
秋の景色を作ろう。
子を画用紙にはる。
タンバリン
画用紙
・母親と教師でじゅうたんブランコを揺 落ち葉、木 4 ( 表
5
ゆらゆらじゅうたんあ
らし、揺れを楽しむ。
63
の実
情)
(身
じゅうたん 体)
そび
・ゆったりとした雰囲気の中で聞き、お ブランコ
5(表
話のおもしろさ、楽しさを味わう。
6
(身
絵本「ブレ 情)
絵本の読み聞かせを聞
く。 「ブレーメンの音 ・学習を振り返り、良くできたところ、 ーメンの音 体)
楽隊」
頑張ったところをほめる。
楽隊」
6(表
・次回の学習のお知らせをする。
7
鍵盤楽器
終わりの会
情)
・今日の学習のまとめ
・終わりの歌
7(表
・あいさつ
情)
(佐々木正志)
64
6)就学指導
65
①就学指導
1日本の就学指導の法的背景
日本では、保護者は学校教育法第 2 章小学校第 22 条により、子女を満 6 歳に達した日の
翌日以後の最初の学年の初めから、満 12 歳に達した日の属する学年の終わりまで、これを
小学校又は盲学校、聾学校もしくは養護学校の小学部に就学させる義務を負うことが定め
られている。また第 3 章中学校においても、第 39 条に、中学校、中等教育学校の前期課程
又は盲学校、聾学校もしくは養護学校に就学させる義務を負うとされている。つまり、障
害の有無に関わらず、学齢生徒の保護者は、就学の義務があるため、こどもを前述のいず
れかの学校に就学させなくてはならない。
第 6 章特殊教育第 71 条には、盲学校、聾学校又は養護学校は、それぞれ盲者、聾者、聾
者、または知的障害者、肢体不自由者もしくは病弱者に対して、幼稚園、小学校、中学校
または高等学校に準ずる教育を施し、あわせてその欠陥を補うために、必要な知識技能を
授けることを目的としていることが定められている。この故障の程度については、後述の
就学基準で解説される。
また、平成 14 年 4 月に学校教育法施行令が一部改正されて、就学規準及び就学手続きの見直
しが行われた。これにより、盲・聾・養護学校に就学すべき障害の程度(就学基準)であっ
ても、小・中学校において適切な教育を受けることが出来る特別の事情があると認められ
る場合には、「認定就学者」として小・中学校に就学することができるようになった。
2日本の就学指導
障害のある児童・生徒にふさわしい就学の場を決定するためには、個別のニーズを査定
するために専門的知見にもとづく客観的な判断が必要である。そのために市町村の教育委
員会や、県の教育委員会では、医学、教育学、心理学の専門家からなる就学指導委員会を
設けて対応してきた。これは「教育上特別な取り扱いを要する児童・生徒の取り扱いにつ
いて」(昭和 53 年 10 月 6 日文初特第 309 号)に基づき普及した。
この就学指導委員会の活動は現在全国に普及しているが、認定就学者の検討という新た
な作業が加わったために、一人ひとりの児童生徒の障害の状態を、医学面のみならず、教
育的な知見を重視し、総合的に詳細に把握する必要がある。このようなことから、市町村
教育委員会は、就学指導を行う際には、専門的・技術的知見に基づく客観的な判断を行う
ために、専門家の意見の聴取が義務付けられている。(学校教育施行令第 18 条の 2)
66
就学指導委員会が設置されていれば、専門家からの総合的意見聴取の機会としても、ま
た、保護者への教育相談により情報提供を行うこともでき有用である。就学指導には、総
合的判断のための資料の収集、適切な教育の場についての小・中学校長への情報提供、就
学後の経過観察を行い、さらに保護者への説明責任をはたすことを通じて、就学指導のプ
ロセスを通じて保護者が適切に関与できるように取り組む必要がある。(納富
67
恵子)
②就学指導委員会
県教育委員会発行の障害児就学指導の手引きのⅠ基本的事項の5就学指導体制の整備に
おいて、「市町村の条例、教育委員会規則等により就学指導委員会を設置する場合におい
ては、障害のある児童生徒について、その障害の種類、程度等の的確な判断を行うために
必要な各方面の専門家により構成することが大切である。こうしたことから、市町村の教
育委員会は、当該小・中学校において整備されている就学環境下で適切な教育を受けるこ
とが出来るかを適切に判断できるよう、専門的・技術的知見に基づく客観的な判断を行う
ために専門家の意見を聴取することが義務付けされている(学校教育法施行令第 18 条の 2)。
市町村の教育委員会は、障害のある児童生徒の就学に関して、学校の校長との連絡が重要
であるとともにその障害に応じた教育内容等について保護者の意見を聴いた上で就学先に
ついて総合的な見地から判断することが大切である。具体的には、就学指導委員会におい
て保護者の意見表明の機会を設ける等の方法が考えられる。また、教育委員会は就学指導
に当たり障害のある児童生徒の教育内容等について専門家の意見を聴く機会を提供する
等、保護者に対し情報の提供に努めることが大切である(就学指導の手順について:新学
齢児の就学手順<図 1>、県立特殊教育諸学校在学児の就学手順<図2>)。さらに、児童
生徒の就学後においても、障害の状態の変化等に応じて適切な教育が行われることが大切
である、学校内の就学指導委員会、教育委員会の醜悪指導委員会等により、就学指導のフ
ォローアップが適切に行われることが重要である。」としている。
本校においても、委員として学校長、教頭2、教務主任、学部主事3、教育支援部長、
生徒指導主事、保健主事、学習指導部長、訪問教育主任、養護教諭、当該学年主任、当該
児童生徒の担任の構成により校内就学指導委員会を組織している。委員会の目的としては
本校に在籍する児童生徒及び新就学児の就学に関して、また本校に転入学を希望する児童
生徒について、教職員が保護者及び児童生徒にとって適正な就学指導を実施するための情
報を共有し就学指導の円滑化を図るものである。具体的な内容は、本校より小学校等へ、
訪問教育から通学へ、通学から訪問教育への措置変更に関すること。また児童生徒の一般
学級及び重複学級の認定、新就学児の通学及び訪問教育の措置、新就学児の一般学級及び
重複学級の措置、本校に転入学を希望する児童生徒の就学に関することなどを審議してい
る。この審議を開く前に、適切な就学指導を進める過程においては、保護者等との十分な
相談や情報交換など、その措置が対象児童生徒にとって十分適応し得ることを確認しなが
68
ら、密接な連携を図ることが必要である。(佐々木正志)
学齢簿の作成
(1)
(2)
障害児の早
期発見
就学時の健康診断
(3)
市町村就学
指導委員会
で審議
市町村就学
相談の実施
(5)
(4)
(7)
教育措置に
ついての判
断
保護者等へ
の就学指導
の徹底
(8)
就学の
手続き
(6)
県教委への助言依頼
県教委へ報告
図 1 新学齢児(含就学義務猶予・免除解除児)の就学指導
<手順>
県教育委員会手引きから
(1)
(2)
対象児の把握
(4)
校内就学指導
委員会で審議
措置変更先と
の連携
(3)
県教委へ報告
図2
県立特殊教育諸学校在学児の就学指導
<手順>
県教育委員会手引きから
69
(5)
教育措置変更
の手続き
7)最近の動向
70
①今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)
(1)特別支援教育とは
2003 年3月に「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)が出され、2004 年 12
月に中央教育審議会によって「特別支援教育を推進するための制度の在り方について(中
間報告)」が出された。この二つの報告を説明する。特別支援教育の対象は、従来の特殊
教育の対象の障害だけでなく、LD、ADHD、高機能自閉症、アスペルガー症候群を含
めて、障害のある児童生徒の自立や社会参加に向けて、その一人一人の教育的ニーズを把
握して、その持てる力を高め、生活や学習上の困難を改善又は克服するために、適切な教
育や指導を通じて必要な支援を行うものである。そのために 「個別の教育支援計画」をも
とにして、 障害のある子どもを生涯にわたって支援する観点から、一人一人のニーズを把
握して、関係者・機関の連携による適切な教育的支援を効果的に行うために、教育上の指
導や支援を内容とする「個別の教育支援計画」の策定、実施、評価(「Plan-Do-See」のプ
ロセス)が重要であるとしている。特別支援教育コーディネーターは教育的支援を行う人・
機関を連絡調整するキーパーソンの役割を担う。 学校内、または、福祉・医療等の関係機
関との間の連絡調整役、あるいは、保護者に対する学校の窓口の役割を担う者として特別
支援教育コーディネーターを学校に置くこととしている。更に広域特別支援連携協議会等
(質の高い教育支援を支えるネットワーク)を設け、地域における総合的な教育的支援の
ために有効な教育、福祉、医療等の関係機関の連携協力を確保するための仕組を作り、都
道府県行政レベルで部局横断型の組織を設け、各地域の連携協力体制を支援すること等が
提案されている。
(2) 特別支援教育を推進する上での学校の在り方
・盲・聾・養護学校から特別支援学校(仮称)へ
障害の重複化や多様化を踏まえ、障害種にとらわれない学校設置を制度上可能にすると
ともに、地域において小・中学校等に対する教育上の支援(教員、保護者に対する相談支
援など)をこれまで以上に重視し、地域の特別支援教育のセンター的役割を担う学校とし
て「特別支援学校」の制度に改めることについて、視覚障害教育部門、知的霜害教育部門
等の障害種別に応じて教育課程の編成や教員組織等の単位となる「教育部門」を設けるか、
複数障害に対応した併置型養護学校のように固定的組織にするか。名称も引き続き盲・ろ
71
う・養護学校を使用するかどうかは、設置者等にゆだねることとしている。一人一人の教
育的ニーズに対応する特別支援教育の理念や、障害の重度・重複化に対応するという特別
支援学校の主旨に照らし、可能な限り複数の障害に対応できるようにするという視点、障
害のある児童生徒が、できる限り地域の身近な場で教育を受けられるようにするべきとの
視点、障害の特性に応じて、同一障害の幼児児童生徒による一定規模の集団が学校教育の
中で確保される必要があるという視点、学校の形態に応じて、各障害種別の専門性が確保
され、専門的指導により幼児児童生徒の能力を可能な限り発揮できるようにする視点、特
別支援教育のセンター機能が効果的に発揮されるようにする視点で運営するよう提言して
いる。センター的機能の具体的内容として、次のような機能が期待されている
①小・中学校等の教員への支援機能
②特別支援教育等に関する相談・情報提供機能
③障害のある児童生徒等への指導機能
④医療、福祉、労働等の関係機関との連絡・調整機能
⑤小・中学校等の教員に対する研修協力機能 ⑥地域の障害のある児童生徒等への施設設
備等の提供機能。
・小・中学校における特殊学級から学校としての全体的・総合的な対応へ
LD、ADHD等を含めすべての障害のある子どもについて教育的支援の目標や基本的な
内容等からなる「個別の教育支援計画」を策定すること、すべての学校に特別支援教育コ
ーディネーターを置くことの必要性とともに、特殊学級や通級による指導の制度を、通常
の学級に在籍した上での必要な時間のみ「特別支援教室(仮称)」の場で特別の指導を受
けることを可能とする制度に一本化するための具体的な検討が必要としていたが、「特別
支援教室(仮称)」の構想を実現するための制度的見直しについては、研究開発学校やモ
デル校などによる先導的な取組を早急に開始するとともに、固定式の学級が有する機能を
維持できるような制度の在り方や、教職員配置及び教員の専門性の確保の在り方について、
具体的に検討を進めることが適当であるとした。そして、特殊学級における交流及び共同
学習の促進と担当教員の活用や通級による指導の見直し、特別支援教育の観点から弾力的
な運用が可能となる方向で見直しを行う必要があるとしている。
今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)は、中央教育審議会の答申を受けて、
法制化され実現される予定である。(落合俊郎)
72
②特殊教育と特別支援教育
盲・聾・養護学校の重複学級に在籍する重複障害児の割合は、2003 年現在 43.5%であり、
特に肢体不自由養護学校では、74.8%に達している。同年の就学猶予・免除を受けている障
害児は 130 人となった。障害児教育制度に在籍している児童生徒の割合は、義務教育年限
で約 1.6%であり、軽度発達障害のある子ども達は、その対象となっていない。そして盲・
聾・養護学校に在籍する児童・生徒一人当りの学校教育費は、9、291、777 円で、文字どお
り世界でも例を見ない程の「手厚い教育」であることは間違いない。
しかし、他の工業国と比較すると、障害児教育制度に在籍している児童・生徒の割合が
著しく低い。例えばイギリスの 2.9%、イタリアの 2.0%、ドイツの 5.00%、アメリカ合衆国
の 12.00%、カナダの 5%、オーストラリアの2%、アイスランドの7%に比べて低い。この
割合の違いは、軽度発達障害児の教育的支援を行っているかどうかの違いといっても良い。
文部科学省の調査によると、小中学校の通常の学級に在籍し、知的な遅れをともなわない
が、LD、ADHD、高機能自閉症に類似した行動をとり、学習や行動に課題のある児童生徒
は 6.3%、つまり、通常の学級に2∼3人いても不思議ではないという結果がでている。
更に、中央教育審議会(中間報告)が述べているように、「我が国社会は、障害の有無
にかかわらず、国民誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合う共生社会に移行しつつあ
る。」この準備を学校教育段階から行うことが急務であり、障害者基本法では、そのため
の具体策として「障害のある児童生徒と障害のない児童生徒との交流及び共同学習の積極
的推進による相互理解の促進を行う」よう改定された。
一方、世界の障害児教育の動向や国連や OECD の動きにも注目しなければならない。世
界の障害児教育の流れは、1960 年代の障害が病理学的なモデルで考えられ、治療教育優先
で、固定型の教育がよしと考えられた時代から、1980 年代に特別な教育的ニーズの考え方
のもとで障害児教育が実施され、保護者の権利や、障害児と非障害児との連続性、統合教
育やノーマライゼーションが行われた。そして 1990 年代には、システム アプローチの時
代、これは本人と専門家、保護者と専門家、組織と専門家、専門家どうし、組織と組織の
パートナーシップを形成することをめざし、このパートナーシップがなければ、情報や支
援体制のつながりがうまく行かず、効率の悪い体制になるという反省から出たアプローチ
である。財政問題の解決、アカウンタビリティー、組織間のパートナーシップの形成を目
73
的とする流れになった。
場所を別にして手厚い教育を行い、限られた障害児のみの教育的支援を行う「特殊教育」
から、ニーズのある多くの子ども達に教育的支援を行う体制に変わるべきであり、今後の
特別支援教育の在り方について(最終報告)、障害者基本法の改定や発達障害者支援法等
が出される理由である。
特別支援教育の対象は、従来の特殊教育の対象の障害だけでなく、LD、ADHD、高
機能自閉症、アスペルガー症候群を含め、その対象とするとしている。「個別の教育支援
計画」をもとにして、 障害のある子どもを生涯にわたって支援する観点から、一人一人の
ニーズを把握して、関係者・機関の連携による適切な教育的支援を効果的に行うこと。特
別支援教育コーディネーターを学校内、または、福祉・医療等の関係機関との間の連絡調
整役、あるいは、保護者に対する学校の窓口の役割を担う者として学校に置くこととして
いる。更に広域特別支援連携協議会等を設け、教育、福祉、医療等の関係機関の連携協力
を確保するための仕組を作り、都道府県行政レベルで部局横断型の組織を設け、各地域の
連携協力体制を支援すること等が提案されている。
盲・聾・養護学校は特別支援学校(仮称)へと変更し、障害の重複化や多様化を踏まえ、
障害種にとらわれない学校設置を制度上可能にするとともに、地域において小・中学校等
に対する教育上の支援(教員、保護者に対する相談支援など)をこれまで以上に重視し、
地域の特別支援教育のセンター的役割を担うとしている。障害種別に応じて教育課程の編
成や教員組織等の単位となる「教育部門」を設けるか、複数障害に対応した併置型養護学
校のように固定的組織にするか。名称も引き続き盲・ろう・養護学校を使用するかどうか
は、設置者等にゆだねることとしている。
小・中学校における特殊学級や通級指導教室は学校としての全体的・総合的な対応へ、
その役割を変えることを提言している。LD、ADHD等を含めすべての障害のある子ど
もについて「個別の教育支援計画」を策定すること、特殊学級における交流及び共同学習
の促進と担当教員の活用や通級による指導の見直し、特別支援教育の観点から弾力的な運
用が可能となる方向で見直しを行う必要があるとしている。
世界的な動向と比較すると、特殊教育から特別支援教育への変化は、制度の上では20
年間で起きたことを、数年間で実行するということになる。つまり、治療教育優先のパラ
ダイム、特別な教育的ニーズというパラダイム、そしてシステムアプローチのパラダイム
への変換である。現場の教師には、このような急激な動きは堪え難いものかもしれない。
74
しかし、軽度発達障害児支援の急務、共生社会への準備、それに財政問題等を考えると特
別支援教育への移行は急務であると考える。(落合俊郎)
75
③特別な教育的ニーズ(Special Educational Needs)
キーワード:ウォーノック報告、保護者の権利、統合教育、障害の非カテゴリー化
特別な教育的ニーズとウォーノック報告を切り離して考えることはできない。連合王国
(英国)で 1978 年にウォーノック報告が出された。ウォーノック報告の主たる内容は以下
の通りである。
1.
障害カテゴリーの見直し:障害の法的なカテゴリーをなくして、Special Educational
Needs の考え方を提起している。
2.
就学前教育の推進。
3.
Named Person:保護者が指定できる仲介人・後見人制度の提案。
4.
統合教育の推進:様々なスタイルの統合教育の提言:必要な援助を受けながら全時間
を通常の学級で学習する方式、通常の学級で学習するが一部の時間は特殊学級・ユニ
ットで学習する方式、特殊学級・ユニットで学習するが一部の時間は通常の学級で学
習する方式、全時間を特殊学級・ユニットで学習するが、通常の学級との社会的接触
の機会をもつ方式を提案している。
5.
六人に一人、約 20%の児童生徒に特別な教育的ニーズがあると推定。
6.
義務教育終了後の教育の継続。
7.
特殊教育諸学校の特殊教育センター化、リソースセンター化。
8.
教員の専門性について:日本でいう大学での専攻科と認定講習による教師の再教育、
全ての教員養成学部学生への特殊教育分野の単位履修の義務化。
9.
アセスメントの段階的実施:第一段階;学校の力量範囲内で教育可能かどうかの検討。
第二段階;専門的指導力をもつ校内の教師または地方教育委員会から派遣されるアド
バイスを行う教師との協議を経て、校長と学級担任が対策を決定。第三段階;第二段
階で効果があがらない場合、巡回指導教師、教育心理専門家、保健機関、社会福祉機
関の専門家によって Multi-Professional Assessment によって査定し、非常勤講師の導入
などによって、できるかぎり校内で対策を行う。第四段階;医療専門家、保健士、教
育心理官、ソーシャルワーカー、学区の教師、地方教育委員会の助言のための教師、
行政担当官いよるアセスメント。第五段階;第四段階とほぼ同じ専門家メンバーであ
るが、教育関係の専門家を必ず含めて、適切な教育的措置を決めることを提案してい
る。
76
10. イングランド、ウェールズそれにスコットランドで行われていた特殊学校と特殊学級
の教員に支給されていた特別手当を廃止することを提案。
11. イングランドとウェールズにおいて、盲・ろう・難聴の児童生徒に工芸科、家庭科、
手工科を教える教師には特殊教育の付加的な免許が免除されていたが、その規定を撤
廃するよう提案。
ウォーノック報告にはこの他様々な改革について提言しているが、その中のいくつか
を紹介した。
ウォーノック報告を基盤に英国では 1981 年法ができた。しかし、1988 年法による学校間
の競争原理の導入、学区にとらわれない学校選択、統一カリキュラム、統一テスト結果に
よる予算の傾斜配分、競争意識の鼓舞などがあげられ、特別な教育的ニーズのある児童生
徒にとっては、困難な時期があった。1993 年法による「特別な教育的ニーズコーディネー
ター」(Special Needs Coordinator: SENCO)制度の導入によって、1981 年法にうたわれていた
ウォーノック報告の精神、特にアセスメントの段階的実施が実行されることになった。
この「特別な教育的ニーズ」という考え方は、以後の世界の特殊教育の考え方を大きく
変えた。障害状況は、医学上の基準に基づいて分類するアプローより、もっと広範で多様
で複雑であるという立場をとること。子どもが抱えている教育上の課題や発達の遅れは、
子ども自身の問題として内在すると見るのではなく、まず子どもを取り巻く環境を整備す
ることからはじめるという考え方である。保護者は、自分の子どもに対して権利をもって
いるということを尊重されなければならないと同時に、子どもの成長のために保護者が貴
重な役割を演じていて、専門家や教師を有効に使うことによって、この役割が一層効果的
になるという考え方。早期教育の価値とそれが重要であるという認識。障害児と通常児の
間には、決定的な境界線を引くことは難しく、むしろ連続線上に存在し、個々のそれぞれ
違ったニーズの連続なのだという考え方。全ての青少年ができるかぎり充実し、独立した
普通の生活をおくる権利があるので、ノーマリゼーション、通常の社会生活、学校生活に
可能な限り、統合教育をめざす権利がある。以上のような考え方が出てきて、これまでの
治療教育的なアプローチに加え、保護者の権利を認める、ノーマリゼーションや統合教育
を進めるための新たなアプローチが加わった。
特別支援教育と「特別な教育的ニーズ」に共通点がいくつかある。「個別の教育支援
計画」によって、就学前から学校教育終了後の生活までの連携が述べられている点、教師
の専門性の強化、小中学校の通常の学級に障害児が在籍することを認める、特殊教育諸学
77
校のセンター化等類似している点がある。ウォーノック報告では、障害カテゴリーの見直
し、調整手当ての廃止、アセスメントの段階的実施、Named Person の提案等、特別支援教
育では見られない点もある。今後、特別支援教育が「特別な教育的ニーズ」の考え方を取
り入れる必要があるかどうか検討すべきであろう。(落合俊郎)
78
④盲・聾・養護学校制度の見直し「特別支援学校、センター機能」
1999 年の「盲学校、聾学校及び養護学校教育要領・学習指導要領」(文部省)において、
盲・聾・養護学校は「地域の実態や家庭の要請等により、障害のある幼児、児童及び生徒
又はその保護者に対して教育相談を行うなど、各学校の教師の専門性や施設・設備を生か
した地域における特殊教育に関する相談のセンターとしての役割を果たすよう努めるこ
と。」と規定された。これまで、特殊教育諸学校は、在籍する幼児児童生徒に対する障害
特性に応じた教育をすることが本務であったが、これをきっかけに地域におけるセンター
機能を果たすことが新たに求められることとなった。
さらに、2001 年の「21世紀の特殊教育の在り方について(最終報告)」(文部科学省)
において、学習指導要領で示された教育相談に加えて、地域の特殊教育のセンターとして、
地域の幼稚園や小学校・中学校を様々な方法で支援することの必要性が示された。
また、2003 年に「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」(文部科学省)
が報告され、これまでの特殊教育から特別支援教育への大きな転換が示された。特別支援
教育は、従来の特殊教育の対象である障害に加え、LD、ADHD、高機能自閉症等とい
った軽度発達障害のある児童生徒に対して、その一人ひとりの教育的ニーズに応じた教育
や指導を通じて必要な支援を行うものである。この特別支援教育を推進する上での学校の
在り方として、盲・聾・養護学校から特別支援学校への大きな制度転換の考え方が示され
た。
現在、盲・聾・養護学校での教育を希望する児童生徒の障害の状況に関しては、重度・
重複・多様化しているのが現状である。また、盲・聾・養護学校が居住地域に設置されて
おらず、長時間の遠距離通学や寄宿舎への入寮を余儀なくされている場合も多い。しかし、
盲学校は視覚障害、聾学校は聴覚障害、養護学校は知的障害、肢体不自由及び病弱といっ
た障害の種類と程度に応じた教育をする学校として制度上位置づけられているため、地域
や障害の状況に応じて柔軟に学校を設置することは困難である。
このような課題に対応するために、2004 年に「特別支援教育を推進するための制度の在
り方について(中間報告)」(中央教育審議会)により具体的な提案がなされた。
どのような形態の特別支援学校をいかに配置するかについては、それぞれの地域の地理
的状況や障害種別ごとの教育的ニーズにより判断されることになるが、その際、以下の5
つの視点を充分に検討することの必要性が示された。
79
①可能な限り複数の障害に対応する
②障害のある児童生徒が、できる限り地域の身近な場で教育を受けられるようにする
③障害の特性に応じて、同一障害の児童生徒等による一定規模の集団が学校教育の中で
確保されるようにする
④学校形態に応じて、各障害種別ごとの専門性が確保され、専門的指導により児童生徒
の能力を可能なかぎり発揮できるようにする
⑤特別支援教育のセンター的機能が効果的に発揮されるようにする
5 番目の視点の特別支援学校に期待される地域の教育的支援のセンター機能を例示する
と、以下の通りである。
①地域の保護者の相談窓口
②地域の幼稚園、小・中学校の教員の相談窓口
③地域の幼稚園、小・中学校の教員の支援
④地域の教育的ニーズを持つ幼児児童生徒への支援
⑤地域の小・中学校に置かれた特別支援教育コーディネーターとの連携
⑥地域の幼稚園、小・中学校や教員の研修・研究協力
⑦教材・教具の共同開発や提供
⑧医療、福祉、労働などの関係機関等との連絡調整・連携
⑨地域の教育的ニーズを持つ幼児児童生徒への施設設備の提供
⑩地域の保護者の理解啓発
⑪アセスメントセンター機能
⑫地域資源の開発
これらセンター機能を果たすためのキーパーソンは、特別支援学校におかれる特別支援
教育コーディネーターであるといえる。(北村博幸)
80
⑤小・中学校における特別支援教育の推進体制の整備
「LD等への支援体制、特別支援教室」
近年、小学校や中学校の通常学級に在籍するLD等の軽度発達障害のある児童生徒に対
する指導が充分になされていないことが指摘され、適切な教育的対応が求められていた。
そのような中、2003 年に「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」(文部
科学省)が報告され、これまでの特殊教育から特別支援教育への大きな転換が示された。
特別支援教育は、従来の特殊教育の対象である障害に加え、軽度発達障害のある児童生徒
に対して、その一人ひとりの教育的ニーズに応じた教育的支援を行うものであるとされた。
この最終報告を受け、2004 年に文部科学省は「小・中学校におけるLD(学習障害)、A
DHD(注意欠陥多動性障害)、高機能自閉症の児童生徒への教育支援体制の整備のため
のガイドライン(試案)」を作成し、全ての小学校と中学校へ配付した。
小・中学校で特別支援教育を推進するにあたっては、校内委員会、特別支援教室、特別
支援教育コーディネーターといった、これまでの通常教育にはなかった新しい組織、校務、
教室の必要性が示された。
校内委員会の主な役割として、以下のものが考えられている。
①学習面や行動面において特別な教育的ニーズを持っている児童生徒に早く気付く
②特別な教育的支援の必要な児童生徒に関する実態の把握を行う
③保護者との連携を図る
④校内の関係者との連携を図る
⑤実態把握の結果に基づき、個別の教育支援計画を策定する
⑥個別の教育支援計画に基づき具体的な指導計画を作成する
⑦少人数指導、個別指導のためのティームティーチングの態勢づくり
⑧専門家チーム等の外部の機関との連携について検討する
⑨学校外の関係諸機関と連携する
⑩校内の共通理解を図ると同時に、校内研修を推進する
⑪保護者の相談の窓口となるとともに、保護者の理解促進の中心となる
校内委員会の設置の仕方については、それぞれの学校の状況により工夫する必要がある
が、以下の方法が考えられる。
①新しい委員会としてとらえ、新たに校内委員会を設置する
81
②これまでにあった校内組織に、校内委員会の機能を持たせる
③これまでにあったいくつかの校内組織を再編・統合して校内委員会を設置する
校内委員会の構成メンバーとしては、校長、教頭、特別支援教育コーディネーター、教
務主任、生徒指導主事、学年主任、教育相談担当教員、特殊学級担任、通級指導教室担当
教員、養護教諭、対象となる児童生徒の学級担任等が考えられる。学校の規模や実情に応
じてメンバー構成されることになる。ただ、決して名目だけの会議に終わらせず、機動性
と実効性をもつ組織となるように留意しなければならない。
特別支援教室の考え方は、小・中学校の軽度発達障害を中心とした特別な教育的支援を
必要とする児童生徒が、原則としては通常学級に在籍し、そのニーズに応じて必要な時間、
必要な指導や支援を受ける形態であるといえる。
特別支援教室の形態としては、障害の状態によって以下の3つの場合が考えられる。
①従来の通級指導の対象となる児童生徒のように週に数時間のみ特別支援教室で指導を
受ける
②従来の特殊学級における教育の対象となる児童生徒のように週の相当の時間を特別支
援教室で指導を受ける
③小学校の低学年で集中的に個別の指導を特別支援教室で受け、高学年ではほとんどの
時間を通常学級で他の児童と共に学習する
特別支援教室の形態に関しては、これ以外のもあると考えられるが、従来の特殊教育の
機能を包含しつつ弾力的な対応ができることが重要である。
これらの特別支援教育を小・中学校において推進する際に最も大切なことは、校内体制
を整備すると同時に、障害をもつ児童生徒の保護者や指導を担当する教員だけではなく、
障害のない児童生徒の保護者や学校の全ての教職員に軽度発達障害を中心とした障害特性
と特別支援教育の意義を充分に理解してもらう努力をすることである。(北村博幸)
82
⑥特別支援教育コーディネーター
2003 年、文部科学省より「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」が報告
され、これまでの特殊教育から特別支援教育への転換が示された。
特別支援教育は、従来の特殊教育の対象である障害に加え、LD、ADHD、高機能自
閉症等といった軽度発達障害のある児童生徒に対して、その一人ひとりの教育的ニーズに
応じた適切な教育的支援を行うものである。この特別支援教育において、最も重要な役割
を担うのが特別支援教育コーディネーターである。
特別支援教育コーディネーターは、全ての小学校と中学校、盲学校・聾学校・養護学校
といった特殊教育諸学校において校務として位置づけられ、配置される。実際の指名は、
それぞれの学校や地域の実情に応じて校長により行われることになる。小学校や中学校で
は、教頭、教務主任、生徒指導主事を指名する場合、教育相談担当者、養護教諭を指名す
る場合、特殊学級や通級指導教室の担当教員を指名する場合が考えられる。校務分掌上の
位置づけとしては、新たに校内委員会の役割の一つとしての位置づけ、既存の生活指導部
や教育相談部等の組織に位置づけが考えられる。特殊教育諸学校では、学部主事、教務主
任、生徒指導主事、進路指導主事を指名する場合、教育相談担当者、自立活動担当者を指
名する場合が考えられる。校務分掌上の位置づけとしては、新たに地域支援部等の独立し
た組織を設置する場合が望ましいといえるが、従来の組織に位置づける場合も考えられる。
特別支援教育コーディネーターの資質としては、障害のある児童生徒の発達や障害特性
に関する知識を持ち、カウンセリング・マインドを有することが求められている。併せて、
学校全体及び地域の関係機関に目を配ることができ、必要な支援を行うために教職員の力
を結集できる力量を持っていることが求められている。
その役割としては、保護者や関係機関に対する学校の窓口、学校内外の関係者との連絡
調整役等があげられるが、小学校や中学校に置かれた場合と特殊教育諸学校に置かれた場
合でその役割に大きな違いがある。小学校や中学校の場合には、校内支援を主たる役割と
するため校内型の特別支援教育コーディネーター、特殊教育諸学校の場合は、地域支援を
主たる役割とするため地域型の特別支援教育コーディネーターと、その役割の違いにより、
区別して呼ばれる場合もある。
小学校と中学校に置かれた特別支援教育コーディネーターの中心的な役割として、次の
3つがあげられる。一つ目は、校内における連絡調整に関する役割である。その具体的な
83
内容として、教育的ニーズを有する児童生徒の指導について困っている担任教員からの相
談窓口、校内の教育的ニーズを有する児童生徒に関する情報収集、校内委員会の準備と実
施、担任教員への支援、等が考えられる。二つ目は、外部の関係機関との連絡調整に関す
る役割である。その具体的な内容として、地域の関係機関についての情報収集、専門機関
への相談のための資料整理と連絡調整、地域の特殊教育諸学校の特別支援教育コーディネ
ーターとの連携、専門家チームや巡回相談員との連携、等が考えられる。三つ目として、
保護者への支援に関する役割である。その具体的な内容として、保護者に対する相談窓口、
保護者への情報提供、保護者の理解啓発、等が考えられる。
特殊教育諸学校に置かれた特別支援教育コーディネーターの中心的な役割として、次の
三つがあげられる。一つ目は、地域における相談・支援に関する役割である。具体的な内
容として、地域の保護者からの相談窓口、地域の幼稚園や小学校・中学校の教員からの相
談窓口、地域の幼児児童生徒への直接的支援、地域の幼稚園や学校への教材教具の提供、
等が考えられる。二つ目として、アセスメントセンターとしての役割である。具体的な内
容としては、WISC−Ⅲ、K−ABCといった標準化された心理検査の実施、実際の授業
場面や活動場面における観察、アセスメント結果から導いた指導プログラムの提供、等が
考えられる。三つ目として、地域における理解啓発・専門研修に関する役割である。具体
的には、地域の学校の校内研修における講師、校内型の特別支援教育コーディネーターの
専門研修の実施、保護者への理解啓発研修の実施、等が考えられる。
このように、小学校と中学校に置かれた特別支援教育コーディネーターの役割はコーデ
ィネーションを特徴としており、特殊教育諸学校に置かれた特別支援教育コーディネータ
ーの役割はコンサルテーションを特徴としていると言い換えることができる。(北村博幸)
84
⑦個別の教育支援計画
障害のある子供の発達段階に応じて、教育、福祉、医療、労働等の関係支援機関が適切
な役割分担の下に、一人一人のニーズに対応して支援を行う計画、いわゆる「個別の支援
計画」のうち、幼稚園(幼稚部)から学校卒業までの段階において、関係支援機関との連
携協力の下に、教育機関が中心になって策定する個別の支援計画である(図参照)。盲・
聾・養護学校においては、平成 17 年度までに「個別の教育支援計画」を策定することが、
平成 14 年 12 月に障害者基本計画重点施策実施5カ年計画の中で示された。
[策定の目的と意義]個別の教育支援計画を策定する目的は、障害のある児童生徒等の一
人一人のニーズに対応して、幼稚園(幼稚部)から学校卒業までの段階を通じて、関係支
援機関との連携協力の下に、一貫して的確な教育的支援を行うことにある。このように福
祉、医療、労働等の支援機関と一体となって支援を行うことを目的としているので、策定
にあたっては他の支援機関との密接な連携協力を確保し、十分な情報の交換が必要となる。
また、他の支援機関で同様の視点から「個別の支援計画」が策定される場合は、その計画
を活用することも必要となる。このように個別の教育支援計画を策定することで、関係部
局も含めた支援機関相互の情報の共有が図られると共に、他の支援機関等との連携協力が
確保され、障害のある児童生徒等に対して、より効率的かつ効果的な支援が実施できると
考えられる。
[盛り込む内容]策定の目的を達成するための内容を必要に応じて盛り込むことになる。
全国特殊学校長会が平成 16 年5月に作成した「盲・聾・養護学校における「個別の教育支
援計画」についての中間まとめ」では、盛り込む内容として、①策定を担当した機関等の
名称、②児童生徒等の実態と特別な教育的ニーズの内容、③適切な教育的支援の目標と内
容(障害の状態を改善・克服するための教育・指導を含め、必要となる教育的な支援の目
標及び基本的内容を明らかにする。福祉、医療、労働等教育以外の分野からの支援につい
ても一人一人のニーズに応じて内容や支援者等を併せて記述する。)、④教育的支援を行
う者・機関等、⑤評価の実施時期・方法・内容・関与する者(保護者を含め、教育的支援
を行う者及び関係支援機関等と、その役割の具体化を図る。)、⑥すでに実施した評価結
果と改善内容、⑦引継の際の留意事項等、以上、7点のものが取り上げられている。
[個別の指導計画との関係]「個別の指導計画」は、学校の教育課程を具現化したもので、
学校の教育課程や指導計画を踏まえ、一人一人の障害の状態等に応じたきめ細やかな指導
85
を行うことを目的として、各教科や領域ごとに、一人一人の特別な教育的ニーズに対応し
て指導の目標や指導の内容・方法を盛り込んで作成されるものである。これに対して、「個
別の教育支援計画」は関係機関と連携協力して教育的支援を行っていくための道具となる
ものである。したがって両者の関係は、「個別の教育支援計画」を踏まえて「個別の指導
計画」を作成するという関係になる。
[個別の移行支援計画との関係]「個別の移行支援計画」は、盲・聾・養護学校卒業後の
進路全体を視野に入れた支援計画である。労働、福祉等の関係支援機関との連携の下に、
本人及び保護者の意向を踏まえて、在学中及び卒業後の支援が的確なものなのとなるよう
に生徒一人一人について作成されるものであり、「個別の教育支援計画」と同様の趣旨で
作成されるものである。したがって「個別の移行支援計画」は、「個別の教育支援計画」
の一部である。(吉川明守)
個別の教育支援計画
個別の教育支援計画作成に関係する支援機関等
保護者
NPO
保護者
NPO
福祉・医療等
関係支援機関
保育所
学校入学前
保護者
福祉・医療・労働等関係機関
高校
NPO
幼稚園
小学校 中学校
大学
幼稚部
小学部 中学部 高等部 専攻科
盲・聾・養護学校
在園・在学中
福祉・医療・労働
等
関係支援機関
学校卒業後
個別の移行計画(学校卒業後の進
路全体を視野に入れた個別の支援計画)
個別の教育支援計画
(在園・在学期間中に教育機関が中心となって策定する
個別の支援計画)
個別の支援計画(障害のある子供の発達段階に応じて、関係支援機関が適切な
役割分担の下に、一人一人のニーズに対応して支援を行う計画)
86
⑧生涯にわたる支援
障害者への生涯にわたる支援は、教育・福祉・医療・労働等のあらゆる分野にわたって重要な課
題である。障害者基本法(平成 16 年 6 月最終改正)の第1条では、「この法律は、障害者の自立及
び社会参加の支援等のための施策に関し、基本的理念を定め、及び国、地方公共団体等の責務
を明らかにするとともに、障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策の基本となる事項を
定めること等により、障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策を総合的かつ計画的に
推進し、もつて障害者の福祉を増進することを目的とする。」と述べている。
平成 13 年 1 月の「21 世紀の特殊教育の在り方について∼一人一人のニーズに応じた特別な支
援の在り方について∼ (最終報告) 」「今後、障害のある者と障害のない者が同じ社会に生きる人
間としてお互いを正しく理解し、共に助け合い、支え合って生きていくことが大切である。このような
考え方の下に、障害のある児童生徒等が、地域社会の一員として、生涯にわたって様々な人々と
交流し、主体的に社会参加しながら心豊かに生きていくことができるようにするためには、教育、福
祉、医療、労働等の各分野が一体となって社会全体として、当該児童生徒等の自立を生涯にわた
って支援していく体制を整備することが必要である。」と述べて、生涯にわたる支援の重要性を強
調している。さらに、「障害のある児童生徒等の教育についても、その児童生徒等が持つ能力や可
能性を最大限に伸ばし、将来、社会的に自立し、社会参加することができるよう、その基盤となる
「生きる力」を培うために、福祉、医療、労働等との連携を強化し、社会全体の様々な機能を活用し
て障害のある児童生徒等の教育の充実に努める必要がある。」として、障害者の社会参加と自立
へ向けて教育の果たすべき役割を述べている。
平成 15 年 3 月の「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」では、「就学前の子ども
に対する教育相談や、乳幼児期からの「個別の教育支援計画」の作成に盲・聾・養護学校の幼稚
部や小学部が積極的に関わることが重要であり、乳児期から療育に取り組む福祉関係機関に対し
積極的に協力、支援を行うことが求められる。また、障害のある者に対し、卒業後の学習機会の充
実のため、盲・聾・養護学校は、関係機関と連携して、生涯学習を支援する機関としての役割を果
たしていくことも重要である。」と述べており、障害者の自立と社会参加を目指した「生涯にわたる支
援」として、早期教育・学校教育・卒後教育という一連のプロセスを強調している。
1.早期教育から学校教育へそして卒後教育への流れ
教育と福祉の一体化による幼稚園と保育所の一体化による教育・保育等が試みられている。早期
教育から学校教育への移行に関しては、乳児期から療育に取り組む医療・福祉関係機関と協力し
87
て、就学前の子どもへの教育相談や、乳幼児期からの「個別の教育支援計画」の作成に盲・聾・養
護学校が積極的に関わり、一人一人のニーズに応じた適切な就学と教育的対応を目指している。
学校教育においては、障害児の自立と社会参加を目指して長期的視点に立った「個別の指導計
画」の作成が行われている。学校から社会への移行のための「移行計画」を作成して、福祉・労働・
医療等の関係機関と協力して就労を含めた自立と社会参加を目指している。
2.生涯にわたる支援のための「個別の教育支援計画」
平成 15 年 3 月の「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」では個別の教育支援計
画について、「障害のある子どもを生涯にわたって支援する観点から、一人一人のニーズを把握し
て、関係者・機関の連携による適切な教育的支援を効果的に行うために、教育上の指導や支援を
内容とする「個別の教育支援計画」の策定、実施、評価(「Plan-Do-See」のプロセス)が重要。」と述
べている。この個別の教育支援計画は、早期教育から学校教育への移行計画、学校における個
別の指導計画、学校から社会への移行計画という大きく分けて 3 つの計画から構成されると考えて
よい。その 3 つの計画を一貫する考え方が「生涯にわたる支援」である。(木舩憲幸)
88
⑨巡回相談
小学校や中学校の通常学級に在籍するLD、ADHD、高機能自閉症等といった軽度発
達障害のある児童生徒に対する適切な相談・支援の必要性が指摘される中、2003 年に「今
後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」(文部科学省)が報告された。これま
での特殊教育から、軽度発達障害を含めた障害のある児童生徒に対して、教育的ニーズに
応じた教育的支援を行う特別支援教育への大きな転換が示された。特別支援教育体制にお
ける有効な支援一つとして、専門家チームと巡回相談の利用が挙げられた。
この専門家チームと巡回相談については、最終報告を受けて文部科学省が作成した「小・
中学校におけるLD(学習障害)、ADHD(注意欠陥多動性障害)、高機能自閉症の児
童生徒への教育支援体制の整備のためのガイドライン(試案)」に具体的に示された。
専門家チームは、小・中学校からの依頼に応じてLD等の軽度発達障害か否かの判断と
対象となる児童生徒への教育的対応について専門的意見や助言を行うことを目的として教
育委員会に設置されるものである。
役割としては、以下のようなことが求められる。
①LD、ADHD、高機能自閉症か否かの判断
②対象となる児童生徒への教育的支援についての専門的意見の提示
③学校の支援体制についての指導・助言
④特別支援教育コーディネーターとの連携
⑤校内委員会との連携
⑥本人・保護者への説明
⑦校内研修への支援
位置づけは、教育委員会や特殊教育センター等における専門家による相談機関とされ、
その構成員としては、教育委員会の職員、特殊学級や通級指導教室の担当教員、通常学級
の教員、盲・聾・養護学校の教員、心理の専門家、医師等が考えられる。さらに、福祉関
係者、保健関係者、保護者、大学教員やその他の専門家が必要に応じて参加できるシステ
ムにしておくことにより、適切で有効な支援が可能になると考えられる。
巡回相談は、巡回相談員が学校を訪問し、児童生徒の教育的ニーズを把握し、必要とす
る支援の内容と方法を明らかとするために、担任、特別支援教育コーディネーター、保護
者など支援を実施する人からの相談を受け、助言することを目的としている。
89
役割としては、以下のようなことが求められる。
①対象となる児童生徒、学校や教員の教育的ニーズの把握
②対象となる児童生徒の指導内容・方法に関する助言
③校内の支援体制作りへの助言
④個別の教育支援計画、個別の指導計画作成への協力
⑤専門家チームと学校の間をつなぐ
⑥校内での実態把握の方法や実施に関する助言
⑦アセスメントの実施
特に、校内の特別支援教育のキーパーソンであり窓口となる特別支援教育コーディネー
ターとの連携を深めるとともに、専門家チームと有機的・効果的に連携協力していくこと
は特に重要である。(北村博幸)
教育委員
学
校
専門的意見の呈示
助言
巡回相談
相談
校内委員
相談
専門家チー
ム
児童生徒
家
教育センター
図
庭
専門機関
保護者
校内委員会・巡回相談・専門家チームの関係(文部科学省、2004)
90
8)障害児教育関連領域
91
①障害児教育と医療・福祉・労働の連携
障害児・者の医療・福祉・労働は、障害者福祉施策として体系的に捉えられている。障
害者福祉施策の体系は、以下の 1)から 3)のとおりである。
1)「在宅福祉対策」および「福祉施設利用施策」に大別される。
2)原則として、身体障害、知的障害、精神障害の各施策に大別される。ただし、身体障害
と知的障害は同じ体系、精神障害は別の体系として捉えられることもある。
3)18 歳未満の児童と、18 歳以上の成人の施策に大別される。ただし、知的障害は児童と
成人を通して捉えられることもある。
次に「在宅福祉対策」および「福祉施設利用施策」を説明する。
(1)「在宅福祉対策」とは、障害児・者が日常生活を営むのに支障が生じた場合でも、引き
続き在宅のまま地域社会の中で日常生活を楽しく営むことができるようにとの目的で、国
および地方自治体により提供されるさまざまな対策で、身体障害児・者および知的障害児・
者を対象として
(a) 手帳の交付・相談援助…手帳の交付、健康診査、訪問診査・更生相談、療育相談・指
導
(b) 医療・補装具等援護施策…育成医療、更生医療、補装具の給付・修理、日常生活用具
の給付・貸付
(c) 在宅介護施策…訪問介護(ホームヘルプ)、短期入所(ショートステイ)、日帰り介護(デ
イサービス)
(d) 社会参加促進施策…身体障害者の社会参加促進・在宅リハビリテーション等施策、知
的障害者の社会参加促進等施策
(e) 経済援助施策…障害基礎年金の支給、障害者手帳の支給、税制上の優遇措置、利用料
等の割引、公営住宅優先入居等
が定められている。また、精神障害者の在宅福祉施策は別に定められている。
(2)「福祉施設利用施策」に基づき、
(a) 心身障害児施設…知的障害児施設、知的障害児通園施設、自閉症児施設、肢体不自由
児施設、肢体不自由児通園施設、肢体不自由児療護施設、盲児施設、ろうあ児施設、
難聴幼児通園施設、重症心身障害児施設、情緒障害児短期治療施設、心身障害児総合
通園センター
92
(b) 知的障害者施設…知的障害者更生施設(入所・通所)、知的障害者授産施設(入所・通所)、
知的障害者福祉ホーム、知的障害者通勤寮、知的障害者福祉工場、在宅知的障害者デ
イサービスセンター
(c) 身体障害者施設
①更生施設…肢体不自由者更生施設、視覚障害者更生施設、聴覚・言語障害者更生施
設、内部障害者更生施設、重度身体障害者更生施設
②生活施設…身体障害者療護施設、身体障害者福祉ホーム、
③作業施設…身体障害者授産施設(入所・通所)、重度身体障害者授産施設、身体障害者
福祉工場
④地域利用施設…身体障害者福祉センター(A 型・B 型)、在宅障害者デイサービスセン
ター、障害者更生センター、点字図書館、点字出版施設、聴覚障害者情報提供施設、
補装具製作所、補助犬訓練施設、盲人ホームが設置されている。また、精神障害者
施設については別に定められている。
障害者の就労形態は、一般雇用と福祉的就労に大別される。一般雇用とは、企業や公官
庁などにおける雇用で、障害者雇用制度に基づく「重度障害者多数雇用事業所」、「第三
セクター方式による重度障害者雇用企業」、「特例子会社」等がある。福祉的就労は、福
祉工場・授産施設・地域作業所における就労である。
また、前述の福祉施設に関して、最近の特筆すべき動向を 3 つあげる。
(1) 平成 12 年(2000 年)より、利用者の規模が 10 人以上であれば、小規模通所授産施設と
しての設置が制度化された。
(2) 障害種別の施設の相互利用が可能となった。たとえば、平成 11 年(1999 年)より、知的
障害者と精神障害者が相互に通所授産施設を利用できるようになった。
(3) 平成 13 年(2003 年)度以降、障害者福祉施設類型が一部変更され、重度身体障害者更生
援護施設と重度身体障害者授産施設は、施設類型としては廃止された。
障害児・者が地域の中で自立した生活を営むためには、以上の福祉サービスを有効に利
用することが必要不可欠となる。これとともに、地域での生活を充実させる地域福祉政策
の一層の進展もまた必要不可欠である。また、障害者のケアマネジメント体制を整えるこ
と、地域における権利擁護体制を整えること、も重要となる。障害者の権利を擁護するう
えで、新しい成年後見制度に注目する必要がある。新たな成年後見制度とは、知的障害、
93
精神障害、痴呆性高齢などのために判断能力が不十分な人が、財産管理や遺産分割などの
法律行為を自分で行うことが困難であったり、悪徳商法等の被害に遭うおそれがあったり
するために、保護し、支援する制度である。さまざまな福祉サービスを利用するには、本
人が契約を結ぶ必要があるが、たとえ契約能力がない重度の障害者であっても、この制度
を利用すれば福祉サービスを利用できるようになる。(岡川
94
暁)
②障害者基本法
障害者基本法は 1970 年に制定された「心身障害者対策基本法」が基となっており、1993
年に全面的に改訂されて「障害者基本法」となった。この法律は障害者に関するさまざま
な施策における基本的理念を定めたものである。したがって、障害児・者に対する具体的
な福祉等の施策はこの法の理念に基づいた個々の法律によって規定されることになる(佐
藤)。つまり、この法律は「障害者計画」などの方針や基盤に関する事項を規定するもの
である。法律の目的については「障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策に関し、
基本的理念を定め、及び国、地方公共団体等の責務を明らかにするとともに、障害者の自
立及び社会参加の支援等のための施策の基本となる事項を定めること等により、障害者の
自立及び社会参加の支援等のための施策を総合的かつ計画的に推進し、もって障害者の福
祉を増進すること」(第1条)とされている。近年では、障害者の自立と社会参加の一層
の促進を図るためとして 2004 年に改訂されている。この改訂によって、次の点が明確に規
定されることとなった。
・基本的理念として障害者に対して障害を理由として差別その他の権利利益を侵害する行
為をしてはならないこと、
・何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害す
る行為をしてはならないこと、
・国民は、社会連帯の理念に基づき、障害者の人権が尊重され、障害者が差別されること
がない社会の実現に寄与するよう努めなければならないこと(国民の責務の追加)
また、施策の基本的方針として、障害者の福祉に関する施策を講じる際には障害者の自主
性を十分に尊重すること、障害者が可能な限り地域において自立した生活を営むことがで
きるように配慮することが追加されている。
そのほか、この法律によって、国、都道府県、市町村は障害者のための施策に関する基
本的な計画である「障害者計画」をそれぞれ策定する義務があるとされ、その計画の策定
に関する審議を行うための「障害者施策推進協議会」の設置が求められている。また、国
の同協議会の委員には障害者を含めるとしているが、障害者の代表を施策立案に関与する
ことを求めた最初の法律である。
これ以外にも、国・地方公共団体に対して次のようなことを求めている。
医療・介護に関しては、障害者が医療、介護、生活支援その他の自立のための適切な支
95
援を得られるようにしなければならないこと、教育に関しては、障害のある生徒とない生
徒等の交流や共同学習により相互理解を促進すること。
職業に関連するものとしては、障害者が地域で行う作業活動の場や職業訓練の施設を拡
充するため、必要な費用の助成等を講じること。
バリアフリーに関しては、公共的施設のバリアフリー化を図るため官公庁施設、交通施
設その他の公共的施設を障害者が利用しやすくするよう、施設の構造及び設備の整備等を
計画的にすすめることがもとめられており、これは交通施設その他の公共的施設を設置す
る事業者に対しても同様に取り組みが求められている。情報の利用におけるバリアフリー
化では、障害者が情報を利用し、また自らの意思を表示できるようにするため、障害者が
利用しやすい電子計算機及びその関連装置その他情報通信機器を普及することなどが求め
られている。ここでも、電気通信、放送、電子計算機などの情報通信機器の製造等を行う
事業者に対して障害者の利用の便宜を図るように努めることを求めている。
また、障害の予防に関して、障害の原因となる難病等の予防及び治療が困難であること
から、障害の原因となる難病等の調査及び研究を推進することや、難病等に起因する障害
があるため継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける者に対する施策をきめ細
かく推進するよう努めることを求めている。なお、この法律では障害者は「身体障害、知
的障害、精神障害があるため長期にわたり日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける者」
であると規定しているが、国会の付帯決議でてんかん、自閉症、難病についても障害者の
範囲に含まれることが示されている(佐藤)。
障害者の日に関しても従来と異なり、障害者週間(12 月3日から同月9日までの1週間)
として新たに設定することとされた。(倉本義則)
引用
佐藤久夫(1997):「障害者基本法」、障害児教育大辞典、373、旬報社
96
③障害者基本計画
国際障害者年を受け、日本においては、1982 年に「国連障害者の十年」の国内行動計画
として「障害者対策に関する長期計画」が策定された。この計画は障害者施策に関する初
めての長期計画であると言われている。10 年後の 1992 年にはその後継計画として、1993
年度からおおむね 10 年間を計画期間とする「障害者対策に関する新長期計画」が策定され
ている。この計画は、同年 12 月に改正された「障害者基本法」によって、同法に基づく「障
害者基本計画」と位置付けられた。「障害者基本計画」は、2004 年の同法改正にともない、
国、都道府県、市町村がそれぞれ策定する義務があるとされている。いずれにしても、日
本の障害者施策は、これらの長期計画に沿って、ノーマライゼーションとリハビリテーシ
ョンの理念の下に取り組まれてきた。ちなみに、1995 年には、「障害者対策に関する新長
期計画」の後期重点施策実施計画として「障害者プラン」(ノーマライゼーション7カ年
計画)が策定され、障害者施策の分野で初めて数値による施策の達成目標が掲げられた。
「障害者対策に関する新長期計画」(従来の障害者基本計画)、「障害者プラン」がい
ずれも 2003 年で終期を迎えたことを踏まえ、新たに 2003 年度から 2012 年度までの 10 年
間を期限とした障害者基本計画が策定された。この計画により、期限である 10 年間の間に
どのような障害者施策を講ずべきかについて、その基本的方向性が定められたことになる。
新たな障害者基本計画では、21 世紀に日本が目指すべき社会は、障害者が社会の対等な
構成員として人権を尊重され、自己選択と自己決定の下に社会のあらゆる活動に参加、参
画するとともに、社会の一員としてその責任を分担するような、障害の有無にかかわらず
人格と個性を尊重し支え合う共生社会であるとし、そのために、障害者の活動を制限し、
社会への参加を制約している諸要因を除去すること、障害者が自らの能力を最大限発揮し
自己実現できるよう支援すること、国民一人一人の理解と協力を促進し、社会全体として
その具体化を着実に推進していくことが重要であるとしている。
こうした考え方に基づいて、4つの横断的視点と4つの重点項目が定められている。
(横断的視点)
1 社会のバリアフリー化の推進
障害の有無にかかわらず誰もが安全に安心して生活できるように建物、移動、情報、制
度、慣行、心理などソフト、ハード両面にわたる社会のバリアフリー化を強力に推進する。
また、ユニバーサルデザインの観点から、すべての人にとって生活しやすいまちづくり、
97
ものづくりを推進する。
2 利用者本位の支援
地域での自立した生活を支援することを基本に、障害者個々のニーズに対応してライフ
サイクルの全段階を通じ総合的かつ適切な支援を実施する。利用者が自らの選択により、
適切にサービスを利用できるよう、相談、利用援助などの体制づくりを行うとともに、多
様かつ十分なサービスを確保する。
3 障害の特性を踏まえた施策の展開
個々の障害に対応したニーズを的確に把握し、障害の特性に応じた適切な施策を推進す
る。
また、現在障害者施策の対象となっていない障害等に対しても必要性を踏まえ適切に対
応する。
4 総合的かつ効果的な施策の推進
(1)行政機関相互の緊密な連携
(2)広域的かつ計画的観点からの施策の推進
地域間、障害種別によりサービス水準の格差が生じないよう計画的・総合的に施策を推
進する
(3)施策体系の見直しの検討
障害者福祉施設サービスの再構築を図るなど適宜必要な施策・事業の見直しを行う。
(重点的に取り組むべき課題)
1.活動に参加する力の向上
・疾病、事故等の予防・防止、治療・医学リハビリテーション
・福祉用具等の研究開発とユニバーサルデザイン化の推進
・IT 革命への対応
IT の利用機会や活用能力による格差を解消する、地域ネットワークの構築などで IT を
活用する。
2.活動し参加する基盤の整備
・自立生活のための地域基盤の整備
・経済的自立基盤の強化
3.精神障害者施策の総合的な取り組み
4.アジア太平洋地域における域内協力の強化
98
このほか、分野別の基本方針、推進体制について定められている。(倉本義則)
参考文献
内閣府(2003):平成 15 年度版障害者白書
99
④障害者プラン
「障害者プラン∼ノーマライゼーション 7 か年戦略∼」は、平成 5 年度から始まる「障害者対策
に関する新長期計画」の重点施策実施計画という性格をもち、この計画のなかの平成 7 年度
から 14 年度までを期間とするものである。障害者プランでは、障害者の生活全般を支援する
ための施策が、障害の種別を超えて横断的かつ総合的に整備され、障害者施策上初めて具
体的な数値目標が掲げられた。また、市町村障害者計画策定指針を公表することで、市町村
への権限委譲の方向を示した点にも特徴がある。障害者プランの重点的な施策課題は、以下
の7つである。
① 地域で共に生活するために:ノーマライゼ−ションの理念の実現に向けて、障害のある
人々が社会の構成員として地域の中で共に生活を送れるように、ライフステージの各段
階で、住まいや働く場ないし活動の場や必要な保健福祉サービスが的確に提供される
体制を確立する。
② 社会的自立を促進するために:障害者の社会的な自立に向けた基盤づくりとして、障
害の特性に応じたきめ細かい教育体制を確保するとともに、教育・福祉・雇用等各分野
との連携により障害者がその適性と能力に応じて、可能な限り雇用の場に就き、職業を
通じて社会参加することができるような施策を展開する。
③ バリアフリー化を促進するために:障害者の活動の場を拡げ、自由な社会参加が可能
となる社会にしていくため、様々な政策手段を組み合わせ、道路、駅、建物等生活環境
面での物理的な障壁の除去に積極的に取り組む。
④ 生活の質(QOL)の向上を目指して:障害者のコミュニケーション、文化、スポーツ、レク
リエーション活動等自己表現や社会参加を通じた生活の質的向上を図るため、先端技
術を活用しつつ、実用的な福祉用具や情報処理機器の開発・普及を進めるとともに、
余暇活動を楽しむことのできるようなソフト・ハード面の条件整備等を推進する。
⑤ 安全な暮らしを確保するために:災害弱者といわれる障害者を、地震、火災、水害、土
砂災害等の災害や犯罪から守るため、地域の防犯・防災ネットワークや緊急通報システ
ムの構築を急ぐとともに、災害を防ぐための基盤づくりを推進する。
⑥ 心のバリアを取り除くために:子供の頃から障害者との交流の機会を拡げ、ボランティ
ア活動等を通じた障害者との交流等を進めるとともに、様々な行事・メディアを通じて啓
発・広報を積極的に展開することにより、障害及び障害者についての国民の理解を深
100
める。また、障害者に対する差別や偏見を助長するような用語、資格制度における欠格
条項の扱いの見直しを行う。
⑦ わが国にふさわしい国際協力・国際交流を:アジア太平洋障害者の十年の期間中でも
あり、我が国の障害者施策で集積されたノウハウの移転や障害者施策推進のための経
済的支援を行うとともに、各国の障害者や障害者福祉従事者との交流を深める。
次に、障害者プランのなかでも障害児教育に関連する内容についてまとめてみると表1のよ
うになる。
表1 障害児教育に関連する内容
①地域における障害児療育システム:
重症心身障害児(者)通園事業、療育拠点施設事業、短期入所生活介護事業
(ショートステイ)、日帰り介護事業(デイサービス)の整備
②障害のある子供達に対する教育:
盲・聾・養護学校、小・中学校の特殊学級における指導内容・方法の充実
③教育相談体制・研修:
教育、医療、福祉等の関係機関との連携による教育相談体制・研修の充実
④後期中等教育段階における施策:
盲・聾・養護学校と労働・福祉関係機関や企業との連携や、高等部における
職業教育・進路指導の充実
⑤障害者への理解を深めるための教育:
盲・聾・養護学校と小・中学校や、特殊学級との交流教育等の推進
平成 14 年 12 月には、障害者プランに引き続くものとして、新たに「障害者基本計画」が閣議
決定され、「重点施策実施 5 か年計画」いわゆる「新障害者プラン」が策定された。この計画の
基本的な考え方は、リハビリテーションとノーマライゼーションの理念を継承するとともに、共生
社会の実現を目指すものである。とくに、特別支援教育に関連する内容としては、①地域にお
ける一貫した相談支援体制、②小・中学校における学習障害、注意欠陥/多動性障害等の
児童生徒への教育支援体制、③地域における盲・聾・養護学校の教育のセンター的役割、④
特殊教育に係る免許制度、等の整備・改善の必要性が明記されている。(中村貴志)
101
⑤障害者職業センター
「障害者職業センター」は、日本の職業リハビリテーションを規定している「障害者の
雇用の促進等に関する法律」において”障害者の職業生活における自立を促進するための
施設”として設置・運営することが定めている(第 19 条)。
障害者が企業に就職しようとする場合、厚生労働省の機関である公共職業安定所から企
業を紹介される場合が多いが、その際、障害者の障害特性を理解した職業相談や職業紹介
が求められる。障害者職業センターはこうした公共職業安定所が行う職業紹介が円滑に行
われるよう、障害者の職業相談、職業評価を行う専門機関として 1970 年代後半から整備さ
れるようになった。その後、障害の重度多様化に伴い、組織が整えられ、さまざまな職業
リハビリテーションサービスを提供するようになった。日本の職業リハビリテーションは
法定雇用率制度、納付金制度、職業リハビリテーションサービスの3つを大きな柱として
いる。障害者職業センターは現在、職業リハビリテーションサービスを提供する中核的な
機関として位置づけられており、独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構が運営を行って
いる。
障害者職業センターには障害者職業総合センター、広域障害者職業センター、地域障害
者職業センターの3種類の施設がある。
障害者職業総合センターは全国で1カ所(千葉市)設置されている。ここでは主に、1.
職業リハビリテーションに関する調査・研究、2.障害者の雇用に関する情報の収集、分析、
提供、3.後述する障害者職業カウンセラーや、知的障害者などの職場適応を援助する「職
場適応援助者」の養成・研修を行うことになっている。研究では、(1)職業リハビリテ
ーション技法の研究・開発(障害種類と職業的特性との関連の解明、それに基づく職業評
価、職業指導、カウンセリング、職業能力開発等)、 (2)事業主に対する支援方法の研
究(職域拡大、雇用管理、作業環境の改善等やジョブコーチの活用による支援、障害者の
雇用拡大に役立つ就労支援機器やソフトウェアの研究・開発等)、(3)障害者雇用に関
する制度・施策など、障害者の就労を支える社会的基盤の整備に関する研究などが行われ
ている。支援技法の開発については、センター内で新たな支援プログラム等を試行的に実
施し、その成果を後述する地域障害者職業センターに普及することが行われている。また、
研究成果は資料集・報告書や研究発表会における発表などのほか、開発した機器類を業者
等を通じて市販することもある。職業リハビリテーション関係の人材養成・研修では、 障
102
害者職業カウンセラー・職場適応援助者以外にも、 医療・福祉等の分野に携わる人に対し
てジョブコーチや職業リハビリテーションに関する研修を実施している。このように、障
害者職業総合センターは職業リハビリテーション分野における国レベルの研究・研修機能
を有している。
広域障害者職業センターは全国に3カ所(埼玉県、岡山県、福岡県)設置されている。
地域障害者職業センターが都道府県単位を対象としてサービスを提供するのに対し、広域
障害者職業センターでは都道府県の枠を超えた広範囲に対応する。また、広域障害者職業
センターは医療リハビリテーション機関や職業能力開発機関と併設されており、医学リハ
ビリテーションから職業リハビリテーションへのスムースな移行が行われるよう、これら
と一体となったサービスを提供するのが特徴である。
地域障害者職業センターは職業センターの中でも最も古く設立・整備された。現在では
基本的に各都道府県に1カ所設置されている。地域障害者職業センターでは都道府県内の
就職を希望する障害者に対して相談・支援等を直接行っている。本来の主たる対象者は公
共職業安定所に職業紹介を求めた者のうち、より専門的な相談・支援の必要性があると考
えられた者であるが、現在では養護学校の卒業を控えた障害児、リハビリテーション病院
の退院を控えた者、福祉施設に在籍していながら就職を目指している者などの利用が多く
なっている。また、知的障害、身体障害、精神障害のほか、障害者手帳を所持していない
ものであっても職業上永続するような障害がある者であれば利用できるため、近年では高
機能自閉症者、LDなどの利用も増加している。障害者に対するサービスとしては、(1)
職業評価(職業能力や適性等を評価し、その障害者に必要な職業リハビリテーションの措
置・援助内容を検討する)、(2)職業指導・職業カウンセリング(職業選択や職場適応
のため相談)、(3)職業準備支援事業(就職や職業生活を可能としていくための基本的
な労働習慣である「職場のルール」、「作業遂行力」、「作業態度」等を体得させるたり、
職業に必要な知識及び技能を習得させるための講習)、(4)ジョブコーチ事業(障害者
に対して職場で個別に支援を行う)などがある。そのほか、障害者を受け入れる側の事業
主に対する支援も重視されている。受け入れ、職場配置・配置転換、職場定着などに関す
る相談を行い、知的障害者などを雇用した事業主が適切に雇用管理できるよう助言を行っ
ている。こうした一連のサービスは、公共職業安定所と特に緊密な連携の下で実施される。
障害者職業センターで専門的な支援を行うスタッフは「障害者職業カウンセラー」であ
る。「障害者の雇用の促進等に関する法律」では、障害者職業カウンセラーは「厚生労働
103
大臣が指定する試験に合格し、かつ、厚生労働大臣が指定する講習を修了した者」か、そ
の他厚生労働省令で定める資格を有する者でなければならない」とされている。
近年、より地域に密着した支援を行う障害者就業・生活支援センター、障害者雇用支援
センターが設立されるようになったが、障害者職業センターはこうした機関に対しても専
門的な立場で協力を行っている。
(倉本義則)
104
⑥療育センター
「療育」は高木憲次が治療教育というドイツ語を「療育」と訳したことが最初であり、
その後、治療的・教育的なものだけでなく幅広いかかわりを指す場合が多いと言われてい
る(金山)。いずれにしても、障害のある児童の育成はできるだけ早期に、特に発達期に
ある乳幼児に必要な治療と指導訓練を行うことによって障害の軽減や基本的な生活能力の
向上を図り、将来の社会参加へつなげていく必要がある。そのため、障害の早期発見を行
う健康診査、療育施設の整備が重要となる。また、乳幼児・児童のうち、心身に障害があ
る、あるいはその疑いがある場合、療育センターと呼ばれる施設において早期の対応が図
られる。療育センターは医学・心理学・福祉などの各分野の総合的な診断を行うとともに、
療育を実施する機関であり、これらにより早期援助のための総合的なサービスを提供する
施設である。療育センターは医学的診断と治療を行うための病院と専門的な指導訓練を行
うための児童福祉施設(肢体不自由施設など)を併設する施設が基本となる。たとえば、
横浜市地域療育センターでは、「心身に障害のある児童及びその疑いのある児童の地域に
おける療育体制の充実及び福祉の向上を図るため」に設置されており、サービスの内容は
(1)児童に対する療育訓練、(2)児童に関する相談及び指導、(3)児童の医学的、
心理的、教育的及び社会的な診断、治療、検査、判定及び評価、さらに、(4)地域への
巡回相談及び指導、(5)その他前各号に準ずる事業としている。また、利用者としては
知的障害者の保護措置を受けた児童などであり、上記の事業を行うため知的障害児通園施
設、肢体不自由児通園施設(いずれも児童福祉法第 43 条に規定された施設)、診療所を設
置することとしている。神戸市総合療育センター条例では、「療育」を「心身障害者又は
心身障害児に対し,医療を行い,及び養育すること」として、療育センターは「心身障害
者及び心身障害児の福祉の増進並びに地域の交流活動,福祉活動等の促進を図るため」設
置するとしている。ここでもサービスの内容は身障害者及び心身障害児に係る相談、医学
的・心理学的判定、療育,指導,検査及び機能回復訓練に関すること、心身障害児の保護
者に対する適切な療育の方法についての指導等であり、そのために診療所、児童福祉施設
などを置くとしている。このような治療、訓練や発達相談のほかに、「療育相談室」等に
より地域の障害児に関する相談、在宅障害児(者)の医療・療育的サービス、外来および
訓練や緊急一時入所等の受け入れ、歯科治療、ディケアセンター、地域サポートセンター
といったサービスを展開するところもある。
105
支援に携わるスタッフは、病院と児童福祉法による障害児施設であることから医師や看
護師、リハビリテーションスタッフ、保育士、介護福祉士などであり、多くの専門職が関
わっている。このようなセンターを利用することにより、対象児一人一人が機能・能力を
向上あるいは維持していくことを目指している。
(倉本義則)
引用文献
金山
学(1997):「療育相談」、障害児教育大辞典、822−823、旬報社
106
⑦通園施設・通所施設
日本の障害者福祉は従来、施設への収容・保護を重視しており、そのために入所施設が
長期にわたって設置されてきた。しかし、ノーマライゼーションやインテグレーションの
考え方が浸透するとともに、施設内ではなく地域での生活を重視する方向に流れが大きく
転換している。このため、現在では地域で生活しながら通園・通所により必要なサービス
を受けることが重視されている。
児童福祉法では児童を満 18 歳に満たない者としており、同法において国及び地方公共団
体は、児童の保護者とともに、児童を心身ともに健やかに育成する責任を負うと規定して
いる。これを実現するために設けられているのが児童福祉施設である。これには
知的障
害児通園施設、難聴幼児施設、肢体不自由児施設、肢体不自由児施設、情緒障害児短期治
療施設などが含まれる。これらのうち、通園によるものが通園施設である。
知的障害児通園施設は、”知的障害児を日々保護者のもとから通わせて保護するととも
に、独立自活に必要な知識、技能を与えることを目的とする”施設とされている(児童福
祉法第 43 条)。全国に約 240 カ所あり、9千人弱の児童が利用している。現在では民間の
設置によるものが公立より多くなっている。利用児童は3∼5歳のものが多いこともあり、
保育所・幼稚園に並行して通園することも多く、それらとの連携が増加している。在園期
間は1年未満のものが1/3で最も多く、退園後は特殊教育を受ける者が半数近くになる。
通園形式では母子通園が約9割となっている。なお、知的障害児通園施設での療育は保育
士、言語療法士、作業療法士、医師のチームによって行われている(北川)。
難聴幼児通園施設は、強度の難聴児が通所によって利用する施設であり、全国で25の
施設ある。現状では、利用者の約6割は難聴を主たる障害とする者であるものの他の障害
を重複してる者や発達障害児などが利用する場合もあるという。難聴児は乳幼児期に難聴
を発見し、適切な措置を行うことで小学校就学までに年齢相応の言語力を習得することが
出来る。現在では新生児スクリーニング機器によって容易に、かつ早期に難聴を発見する
ことが可能となりつつある。難聴幼児通園施設は、こうして発見された乳幼児期の難聴児
の療育を行っている(内山)。
肢体不自由児通園施設は、肢体不自由児童を対象としており、診療所・病院と併設され
ている(全国で89カ所)。利用児童の多くは早期に障害が発見されたもので、したがっ
て0,1歳児が全体の40%を占めている。また、気管切開や人工呼吸が必要な重度の障
107
害児童が増加しているほか、大半が知的障害を重複しているという。治療や療育は、医師
をはじめ理学療法士、言語療法士、看護士、保育士がチームとなって取り組んでいる(山
根)。情緒障害児短期治療施設通所部は、軽度の情緒障害を有する児童を、短期間、保護
者の下から通わせて、その情緒障害を治し、あわせて退所した者について相談その他の援
助を行うことを目的とする施設であるとされている。
このほか、先に挙げた施設を2つ以上設置し、知的障害、肢体不自由、難聴幼児などを
総合的に療育する「心身障害児総合通園センター」がある。この施設は中核都市または人
口 20 万人以上の都市が設置主体となるとされており、全国に 16 カ所設置されている。利
用児童の療育等のほか、療育相談や研修会などを行っており、地域において中核的な存在
となっている(高橋)。
また、市町村が地域に通園の場を設けて在宅の障害児童に対して通園による指導を行う
「通園デイケアサービス」が全国で 600 カ所を越えて開始されている。これは地域で生活
している児童が安心して成長できるようにするために、地域の療育体制を整備していく一
環として設置されているものである。
一方、通所施設は、18 歳以上の成人を対象とした施設のうち、通所により利用する施設
である。これらには知的障害者福祉法、身体障害者福祉法に基づく通所更生施設、通所授
産施設、あるいは法外施設である小規模作業所などがある。現在では、授産施設は通所施
設が入所施設の数を大幅に上回っており、更生施設も増加の伸びは通所施設が大きい(江
澤)。また、地域生活を支援するためにデイサービス事業が開始されている。これは利用
者の自立の促進や生活の質の向上を目的に行われるもので、入浴、食事の提供、機能訓練、
社会生活への適応のための訓練など、あるいは介護者に対して介護方法を指導するなど、
利用者のニーズに応じたサービスが提供される。(倉本義則)
引用文献
江澤嘉男(2003):「知的障害者通所施設」、発達障害白書2004,99-102,日本文化科
学社
北川聡子(2003):「知的障害児通園施設」、発達障害白書2004,43-44,日本文化科学
社
高橋
脩(2003):「心身障害児総合通園センター」、発達障害白書2004,47-48,日本
文化科学社
108
山根希代子(2003):「肢体不自由児通園施設」、発達障害白書2004、45-46、日本
文化科学社
内山
勉(2003):「難聴幼児通園施設」,発達障害白書2004、44-45、日本文化科学
社
参考文献
内閣府(2003):平成 15 年度版障害者白書
注)文中の施設数等は 2003 年度のもの(厚生労働省調べ)である。
109
⑧授産施設
授産施設は、一般就労が困難な障害者に就業する機会を提供する社会福祉施設(峰島)
であり、現在は「社会就労センター」という名称も用いられている。授産施設は 18 歳以上
の身体障害者、知的障害者などを対象としており、入所、あるいは通所による授産施設が
ある。このうち身体障害者授産施設は全国に 128 施設あり、8348 人の定員となっている。
同様に、身体障害者通所授産施設は 259 カ所、6799 人、知的障害者授産施設は 229 カ所、
14261 人、知的障害者通所授産施設は 957 施設、36620 人の定員となっている。また、知的
障害者小規模通所授産施設は定員が 10∼19 名の規模の授産施設であり、71 施設、1221 人
の定員である。近年の動向では、障害種別ごとに授産施設を設置したり利用するのではな
く、異なる障害であっても複合的に利用できるようにすること、入所ではなく通所の授産
施設が増加していること、また、障害者が利用しやすいように市町村単位の身近な地域に
小規模の施設を整備することなどが主流となっている。したがって、授産施設の中でも小
規模の通所授産施設が著しく増加している。授産施設利用者が一般企業への就労に移行す
るケースは従来から少なく、そこで一貫して働く障害者が多くを占めており(峰島)、利
用者の高齢化も進んでいる。同時に、利用者の流動化がないため、新規に学校を卒業した
障害者が利用できない傾向が慢性的に続いている。国の障害者福祉の基本的方針は入所施
設から地域生活への移行を図ることにあるため、それが促進されるよう、現在では世話人
付きの共同住宅の整備などが取り組まれている。
授産施設は、職業に従事している者に事業収入から事業に必要な経費を控除した額に相
当する金額を工賃として支払わなければならないと定められており、利用者は授産施設で
の労働によって工賃を得ている。 しかし、工賃の月額は、授産施設によって異なるが、知
的障害者の授産施設で1万1∼2千円程度、身体障害者の場合は2万4∼9千円程度(き
ょうされん調べ:2000 年度)にとどまっている、同年度の最低賃金の平均が日額 6000 円程
度であることを考えると工賃は非常に低額にとどまっているといえる。なお、授産施設の
場合は、労働基準法などの労働三法等の適用は受けず、最低賃金法は適用されない(峰島)。
授産施設で行われる作業にはさまざまなものがある。大阪府の資料によると、バック、
ポシェット、マフラー、携帯ティッシュペーパーケース、ランチョンマット、木製品、ポ
プリなどの製造、人形・マスコットなどインテリア洋品やキーホルダーなどのアクセサリ
ーの製造、メモ帳、ペンケースなどの文具類、パン、ケーキなどの製造、名刺、チラシ・
110
ポスター制作や印刷、喫茶、弁当販売などが行われている。また、プログラム作成やホー
ムページ作成、データ入力といったパソコンを活用した作業もみられる。一方で、梱包や
紙箱製造、空き缶のリサイクルなどの軽作業も行われている。これらは、企業から受託し
て行うものもあれば自主生産として製造等を行っているものもある。授産施設での作業に
関しては、地域の実情、製品の需給状況等を考慮して選定すること、また、利用者にとっ
て過重な負担とならないように配慮することが規定されている。いずれにしても、授産施
設ではこうした作業によって得た収益と国・地方自治体からの補助金が主な収入源となる。
近年ではより付加価値の高い作業を導入し、成功している例もある。
授産施設の日課についても施設によって多少の違いがある。東京都港区の資料によると、
ある通所授産施設では月曜日から金曜日まで開所しており、通常は 9 時までに出勤、朝礼・
体操の後に午前中の作業を行う。1時間の昼食休憩の後、午後3時 30 分まで作業がある。
その後、清掃や終礼があり、4時には退勤する。作業の合間には 15 分程度の休憩を設けて
いる。また、リクレーションを行う曜日を設定したり、夏季・冬季の休暇を設けたり、利
用者が主体となって旅行などの行事を計画するところもある。施設側としては、家族会と
の定期的な情報交換、一時的に通所できない状態になった場合の送迎、休日等の余暇・外
出についての援助、工賃など金銭の使途などについての指導・援助も行われる。授産施設
に配置する職員については、施設長、医師、生活指導員、作業指導員などを配置すること
とされており、 入所施設や規模の大きな施設では保健師や栄養士等の配置が必要になる。
職員数は利用者の数、入所か通所施設かによって異なり、30 名の通所施設であれば生活指
導員、作業指導員をあわせて合計4名配置することになる。先の施設を例にとると、定員
30 人に対して職員は施設長 1 人
支援員 7 人
事務員 1 人
調理員 2 人
嘱託医 1 人とな
っている(非常勤職員を含めた配置数であり、常勤職員はこれより少ない)。(倉本義則)
引用文献
峰島
厚(1997):「授産施設」、障害児教育大辞典、341−342、旬報社
参考文献
厚生労働省(2002):社会福祉施設等調査
内閣府(2003):平成 15 年度版障害者白書
111
⑨小規模作業所
小規模作業所は、就労が困難な、障害が重い障害者が、必要な作業や生活の訓練や援助
を受けつつ働く、地域の小規模な通所施設をいう。福祉法に基づく社会福祉施設ではなく、
法外の施設であるため無認可小規模作業所とも言われる。また、本人や家族、関係者が地
域住民と共同して設置し、運営することから共同作業所とも呼ばれる。そのほか、小規模
授産所、福祉作業所などの名称で呼ばれることもある(峰島)。施設数は現在では全国で
約 6000 を超えると言われている(きょうされん調べ)。小規模作業所は、養護学校を卒業
したものの授産施設等を利用できないため在宅となる障害者に対して、障害児の保護者が
活動の場を用意するために設置したのが始まりであるといわれている。現在は、保護者以
外の、障害者問題に理解のある者などが設立する場合も多い。また、利用者は養護学校を
卒業して授産施設等の入所を待機しているものをはじめ、中途障害など病院を退院したば
かりの者、就職したものの離職し、再就職先を探している者などである。障害種別による
利用制限がない場合も多い。法的な規定の外にある施設であり、また、利用者の小規模作
業所に対するニーズが多様であることから、作業所での活動はさまざまである。たとえば
企業への就職に向けた準備を重視するところもあれば、余暇活動など作業所内での生活の
充実に力点をおくところもある。しかし、共通するのは国・地方自治体からの補助ある(法
外だが補助は行われている)ものの財政的に厳しく、また利用者の工賃が月額5千円程度
(きょうされん調べ)と授産施設に比べても低水準にあることである。作業所の運営は補
助金、作業収益、バザーなどの収益でまかなわれているが、作業は不況の影響を受けやす
く安定した収益をあげるのが難しい場合が多い。
こうした小規模作業所の運営の安定化を図るために 2001 年度に「小規模通所授産施設」
が制度化された。これはたとえば定員数を下げるなど授産施設の要件を緩和することによ
って設立しやすくした施設であり、小規模作業所より多くの補助が受けられるものである。
しかし、この緩和した基準にも満たない小規模作業所も多く、小規模通所授産施設の制度
が設けられた後も増加し続けている。
盲学校の保護者や教職員が中心となって開設されたある作業所では、重度・重複の視覚
障害者を対象としており、利用者は 18∼45 歳の知的障害・肢体不自由との重複を含む視覚
障害者 14 名である。職員は常勤が5名、非常勤が7名である。週5日、午前 10 時から午
後3時までの間、通所による活動が行われている。日課には午前、午後に仕事が組み込ま
112
れているが、肢体不自由者には機能訓練、重度障害者には散歩など、利用者のニーズや発
達段階に対応するよう工夫されている。作業では手作りの和紙封筒、天然酵母パンの製造
を行っており、バザーや学校で販売を行っている(内閣府)。また、自閉症が主に利用し
ている作業所では、作業に関係する活動として重度障害者はボランティアの協力により近
隣の清掃(ゴミ拾い)を行い、軽度の障害者は企業から受注した紙箱製造を行っている。
近隣の清掃は地域への貢献の点でも障害者理解に関する啓発としても有用であるとして導
入されている。また、ここでは企業への就労を希望するものもおり、個別に職場実習に出
向くこともある。その際には、小規模作業所のスタッフと地域障害者職業センターが連携
し、ジョブコーチ事業による支援を受けている。小規模作業所では一般に重度障害者が多
く、しかも異なる障害、多様なニーズを持つ障害者が利用している場合もある。このため、
本来ならある程度の数のスタッフが必要となる。しかしながら、現実では財政的な理由か
ら多くのスタッフを配置するのは困難である。作業所によっては20名近い利用者に対し
て3名程度のスタッフで対応するところもある。このため、先の例のようにボランティア
等を活用するなどの工夫が行われている。また、障害者職業センターなどの関係機関と連
携することによって、利用者にとって有用なサービスを提供する場合もある。
いずれにしても、小規模作業所は障害者や彼らを取り巻く人々の現実的なニーズから生
まれてきた施設であり、現在では地域で障害者が生活する上で拠点の1つとなっている。
(倉本義則)
引用文献
峰島
厚(1997):「小規模作業所(無認可作業所、共同作業所)」、障害児教育大辞
典、396、旬報社
内閣府(2003):「小規模作業所」、平成 15 年度版障害者白書、55、2003
113
9)人名
114
石井亮一(1867∼1937)
日本で最初に知的障害児者の教育と福祉に取り組ん
だ人物で、佐賀県の出身である。佐賀勧輿小学校、佐賀
中学校で学んだ後、1884 年に立教大学に入学する。学
生時代に洗礼を受け、キリスト教徒としての道を歩み始
める。1891 年に立教女学院の教頭となり、女子教育に
従事し始めた。この年に濃尾地方大地震が起き、震災で
家を失った孤女が人身売買されていることを知り、彼女
らを保護するために孤女学院を設立し、20名以上の女
児の教育と世話を行った。その中に知的障害と思われる
少女がいたことから、次第に石井の知的障害教育への関
心が高まっていった。
石井の孤女学院は下谷黒門町で活動を開始し、その後
北豊島郡滝乃川に移転した。1896 年にキリスト教関係
者の支援により、アメリカの知的障害者教育・福祉を視
上記の写真は、下記の出版社
の許可を得ています。
編集 津曲裕次、写真・絵画
集成 日本の障害児教育 全 3
巻 、 日 本 図 書 セ ン タ ー 2004
察するために留学し、帰国後の 1897 年に、孤女学院の
名称を「滝乃川学園」と改め、知的障害児を対象とする施設とした。石井は孤女学院の事
業を保母養成部に改組し、低年齢の女子には教育と養護を行い、年長者には保母教育を行
った。1906 年に付近に陸軍の武器弾薬製造工場ができると、石井は環境の悪化を懸念し、
学園を西巣鴨へ移転させた。その後学園は徐々に社会的な支援を受けて充実していった。
1920 年に園児の火遊びにより火災にあい、人命や土地を失うこととなるが、1928 年に財団
法人として再建し、現在の国立市谷保に移転した。
石井は2度アメリカに渡り知的障害教育の視察と資料収集を行った。その成果は、1904
年に「白痴児-其研究及教育-」としてまとめられた。同書は日本で最初の知的障害児教育の
専門書であり、その後の知的障害教育の在り方を先導するものとなった。
彼の教育の特徴は第一に、生理学に基づいた一人ひとりに適合した教育を行おうとした
点にある。石井は「白痴の使徒」と呼ばれたフランスのセガン(1812∼1880)を尊敬して
おり、セガンの「生理学的教育法」を教育の基本方針としていた。そして、第二に手工業
115
を中心た作業を重視し、第三に宗教教育を重んじた。石井の教育実践は、厚い宗教的信仰
に裏打ちされたものであったが、それに加えて科学的・客観的なな判断に基づくものでも
あった。
滝乃川学園には、知的障害児者の教育・福祉に熱意を持った関係者が訪問し、石井の指
導を受けて各地で実践を展開した。例えば、脇田良吉(1875∼1948)の白川学園(1909 年)、
岩崎佐一(1876∼1962)の桃花塾(1916 年)、川田貞治郎(1879∼1959)の藤倉学園(1919
年)などの諸施設は滝乃川学園と同様に日本の知的障害教育・福祉を先導する役割を担っ
た。また石井は、1934 年の日本精神薄弱者愛護協会(現日本知的障害者福祉協会)の発足
に際しては初代会長を務めるなど、日本の知的障害教育・福祉の中心的人物として活動を
行った。
石井は滝乃川学園での教育や施設運営に従事する一方、児童保護における鑑別・相談活
動にも従事した。例えば、内務省主催の感化教育講習会などの講師として啓発活動を行っ
たり、1935 年には東京府の児童研究所長として重責を担った。
石井は、1937 年に逝去しているが、妻筆子が2代目の園長となり、夫の志を継いでいる。
滝乃川学園は、第二次世界大戦後の 1952 年に児童福祉法に基づく施設として認可され、そ
の後、1979 年の養護学校教育の義務制が実施されるまで、就学猶予・免除された子どもの
養育を担うなど、知的障害児教育・福祉に大きく貢献した。(河合
康)
参考文献
1)津曲裕次編
『写真・絵画集成
日本図書センター
日本の障害児教育
第2巻
あたらしい教育の誕生』
2004 年
2)児童問題史研究会 『日本児童問題文献選集
116
第 18 巻』 日本図書センター
1984 年
小西信八(1854∼1938)
日本の戦前の盲・聾教育を先導した人物である。新
潟県十日町市に生まれ、東京師範学校卒業後、千葉県
の学校や東京女子師範学校(現お茶の水大学)の附属
写真
幼稚園に勤務した。小西は同園で3代目監事となり、
保育方法、教育課程、教材・教具、図書などの整備充
実に尽力し、日本における幼稚園教育の基礎を築い
た。1886 年から盲聾教育に関わるようになり、日本
で2番目の盲聾学校である楽善会訓盲院に務めるよ
うになり、1893 年に東京盲唖学校(1890 年に楽善会
訓盲院が改称)の校長となった。「盲唖学校」という
名称が示すように、当時は、盲児と聾児が同一の学校
に在籍しており、小西は盲児と聾児の両者の教育にお
いて大きな役割を果たすことになった。
まず、盲教育についてみてみる。当時東京盲唖学校
上 記 の 写 真 は 、下 記 の 出 版 社 の
許可を得ています。
編 集 津 曲 裕 次 、写 真・絵 画 集
成 日本の障害児教育 全 3 巻、
日 本 図 書 セ ン タ ー 2004
の盲児は凸字によって学習していたが、凸字の触読には大きな努力が必要であった。小西
は盲児にとって読み書きが容易な文字はないかと模索し、1887 年に東京教育博物館の手島
精一(1849∼1918)に盲児の指導について相談した。手島から、フランスのブライユ(1809
∼1852)が開発した点字こそが盲人にとって最良の記号であるとの教えを受けた小西は、
彼から点字用器具や関連図書を借り受けた。そして、盲生徒の小林新吉にアルファベット
版の点字を用いてローマ字を読ませて、かなりの効果があることを確認し、日本版の点字
を開発することを決意した。小西は、日本版の点字の翻案を同僚の石川倉次に依頼し、石
川の努力を陰から支えた。そして、1890 年に日本版の点字が完成することになった。同年
は小学校令の改正により、盲唖学校が「小学校に類する各種学校」の位置づけを得ており、
盲学校の発展期にあたる年でもあった。日本版点字は、1901 年4月に小西により官報で報
告され、公式に認められることになった。
一方当時の聾教育は、手話や筆談による教育が主流であったが、小西は聾生徒の話すこ
との労苦に心を痛めていた。小西は伊沢修二(1851∼1917)の唱える口話法に影響を受け、
117
2名の聴覚障害児を連れて伊沢のところへ通い、口話法を習得した。小西は生徒を連れて、
各地を回り、講演や実演を行い、口話法の必要性を唱えた。小西は 1886 年7月の東京盲唖
学校の学校規則の改正の際、尋常科の読みの指導に発音と口話を加えている。その他、聾
児の発音検査、成就表作成、ベル(1847∼1922)による発音図の五十音翻案などにも取り
組んだ。
さらに小西は 1896 年から、アメリカ、フランス、ドイツに留学し、盲聾教育についての
知識を吸収し、帰国後、欧米諸国の事情を紹介し、日本への導入に尽力した。特に小西は、
当時盲児と聾児が同一の学校で教育されている形態に疑問を保ち、欧米の視察から得た教
訓を基に、こうした教育形態は指導法や施設設備などの違いを考慮に入れると適切でない
と主張した。そして、1899 年7月に盲学校と聾学校を別々に設置することを文部大臣に申
し出ている。小西の主張に従い、東京盲唖学校は 1910 年に東京盲学校と東京聾唖学校に分
かれ、彼は後者の校長となった。小西の提唱した盲学校と聾学校の分離は、国レベルでみ
ると 1921 年の「盲学校及聾唖学校令」で実現し、今日の日本の盲学校及び聾学校の基礎が
制度的に形成されることになった。小西は 1925 年3月に校長を辞めたが、日本聾唖協会の
会長や日本聾唖教育会の会長を歴任するなど、日本の盲聾教育に大きな影響を及ぼした。
(河合
康)
文献
1)津曲裕次編
『写真・絵画集成
日本図書センター
日本の障害児教育
第2巻
あたらしい教育の誕生』
2004 年
2)精神薄弱問題史研究会編
『人物でつづる障害者教育史
1988 年
118
日本編』
日本文化科学社
高木憲次(1888∼1963)
日本の肢体不自由教育の父と呼ばれている人物
である。高木憲次は、東京で開業医の次男として生
まれ、東京帝国大学医学部を卒業した。1916 年に
写真
同大の助手、1924 年に整形外科学科の第二代の教
授となり、1948 年に定年退官した。高木は大学に
勤務後、貧民街で肢体不自由者の実態調査を行った
り、小学校の児童について整形外科的な疾病調査を
行った。これらの結果から明らかになった問題を解
決するために、1918 年に教育と治療の両者を目的
とする「夢の楽園教療所」の説を提唱した。その後、
ドイツに留学し、ドイツの肢体不自由児施設である
「クルッペルハイム」を視察した。高木は帰国後の
1924 年に「クリュペルハイムに就て」と題する論
文を発表し、日本においてもドイツと同様の施設の
上記の写真は、下記の出版社の許可
を得ています。
編 集 津 曲 裕 次 、写 真・絵 画 集 成 日
本の障害児教育 全 3 巻、日本図書セ
ン タ ー 2004
必要性を訴えた。高木が構想した施設は、治療、教
育、職業訓練の三者を備えた施設であった。
高木は、1925 年に、現在の日本肢体不自由児協会の前身である「肢節不完児福利会」の
設立に尽力し、初代の会長となた。その際、高木は「隠すなかれ運動」と「好意の無関心」
という2点を提唱した。前者は、肢体不自由児・者を隠すことなく、彼らの社会参加を促
すことにより、肢体不自由に対する迷信や誤った考え・態度を改めるようとするものであ
った。後者は、肢体不自由児・者を特別視や特別扱いもせず、また差別視や差別的待遇も
しないという高木の根本理念から生まれたものであった。また、高木は、当時肢体不自由
者に対して使用されていた「不具」、「奇形」、「片輪」、「廃疾」、「カタチンバ」と
いった軽蔑的な用語に代えて、1928∼1929 年にかけて「肢体不自由」という用語を案出し、
その使用を提唱した。また、「教育」と「治療」の両者を合わせた「療育」という用語を
用いたのも高木であった。
高木は肢体不自由児のための学校を作るための運動を行い、1927 年に東京市の教育局長
を訪れ、学校設立の必要性を訴えた。こうした努力が、1932 年の日本で最初の肢体不自由
119
学校である「光明学校」の設立につながった。高木はドイツ留学の経験を参考に、校長の
人選や教育の在り方などについて助言し、指導法や学校運営において大きな影響を及ぼし
た。
一方、高木は当初からの目標であった教療所の設置に向けての運動を開始し、1933 年か
ら再度、肢体不自由児の実態調査を行うと共に、財界などへの働きかけも精力的に行った。
そのような中で、高木が 1934 年に日本医学会総会で行った「整形外科学の進歩とクリュッ
ペルハイム」と題する演説は大きな社会的反響を呼んだ。演説では、当時治ることがない
と考えられていた肢体不自由が治療により改善し、社会生活も可能であることを映像で示
し、肢体不自由児・者のための施設の必要性を訴えた。こうした影響により、1937 年には
「肢体不自由者療護園建設委員会」が設置され、同委員会は 1939 年に「財団法人肢体不自
由者療護園」となり、高木が理事長に就任した。この法人は 1941 年に「整肢療護会」と名
前を改め、翌 1942 年に医療と教育と職業教育を行う「整肢療護園」が東京の板橋に開設さ
れ、ここに高木の長年の夢が実現することになった。
高木は第二次世界大戦後も、児童福祉法の起草に関与し、戦時中に大半を焼失した「整
肢療護園」を同法における肢体不自由児施設として位置づけ、再建した。また、退官後も、
日本肢体不自由児協会会長、中央身体障害者福祉審議会会長、社会福祉審議会委員などを
歴任し、日本の肢体不自由児者の教育・福祉の先覚者として一生を捧げた。(河合
康)
文献
1)津曲裕次編
『写真・絵画集成
日本図書センター
日本の障害児教育
第2巻
『高木憲次―人と業績―』
1967 年
2004 年
2)日本肢体不自由児協会
120
あたらしい教育の誕生』
日本の特殊教育事典
編者
木舩憲幸(福岡教育大学)
中田英雄(筑波大学)
執筆者(五十音順)
安藤隆男(筑波大学)
池谷尚剛(岐阜大学)
石坂郁代(福岡教育大学)
岡川
暁(日本福祉大学)
落合俊郎(広島大学)
河合
康(上越教育大学)
北村博幸(筑波大学附属大塚養護学校)
木舩憲幸(福岡教育大学)
倉本義則(京都女子大学)
小林秀之(広島大学)
佐々木正志(茨城県立鹿島養護学校)
武居
渡(金沢大学)
中村貴志(福岡教育大学)
納富
恵子(福岡教育大学)
松崎保弘(沖縄県西崎養護学校)
吉川明守(筑波大学久里浜養護学校)
121
平成 16 年度
拠点システム構築委託事業実施報告書
課題
開発途上国における障害児教育分野の教育協力モデル開発に関する基礎的研究
■ 日本の障害児教育事典
木舩憲幸・中田英雄
発行日
2005 年 2 月
発行者
中田英雄
編
筑波大学教育開発国際協力研究センター
〒305-8572 つくば市天王台 1-1-1
電話
印刷所
029-853-7287
前田印刷株式会社
筑波支店