その2 シミュレーション解析 - 日本大学

日本建築学会大会学術講演梗概集
(北 陸) 2002年 8 月
21402
張力導入型トグル制震装置に関する研究
(その2 シミュレーション解析)
正会員
同
同
制震改修
オイルダンパー
§2−1
伝統的木造建築
摩擦減衰
○杉本 直之*4
石垣 秀典*2
西村 陽介*4
同
同
石丸 辰治*1
秦 一平*3
増幅機構
を行った。また、同図においては伸び側と縮み側で若干異な
はじめに
本報では、前報(その1)の試験体を対象に骨組解析モデ
る特性を有しているが、本解析においては両者とも同一な特
ルを作成し、実験結果と比較する事によりモデル化の妥当性
性でモデル化を行った。解析に用いた減衰特性を図 2-2 に示
を示すとともに、張力導入型トグル制震装置のエネルギー吸
す。
収機構を明らかにする。
10
上部梁
解析モデル
作成した解析モデルは、図
cd
cd
2-1 に示すような平面骨組モデ
kc
ルであり、各部材の諸元は実
c 部材
験用試験体と一致するように
d 部材
定めてある。その諸元を表 2-1
中段梁
に示す。木造フレームの接合
50
100 150 200 250
速度 v (mm/sec)
300
オイルダンパーの減衰特性
力
ては線形ばねを用いてモデ
kd
cd
性回転ばねによりモデル化し、
kc=980N/mm
ル化を行っており、kd はダ
cd
ンパーcd と並列に配置して
:摩擦回転ばね KR
:木材接合部回転ばね KJ
ヤング
係数 E
(KN/mm2)
F=0.0044v2
V1=30mm/sec
2
コイルばね kc、kd につい
kd
部分は、摩擦を考慮した弾塑
F=F1+0.0196(v-V1)
・コイルばねのモデル化
b 部材
ばねによるモデル化を行った。
表 2-1
4
図 2-2
込み剛性を考慮して線形回転
解析を行った。
6 F = 4.0KN
1
0
柱
a 部材
また、トグル部材の連結ピン
8
0
柱
部は、後述する接合部のめり
部材
減衰力 F (KN)
§2−2
図 2-1
各部材諸元
解析モデル
部材長
L
(mm)
断面積
A
(mm2)
断面2次
モーメント
(mm4)
8
ある。各ばね定数を図 2-3
に示す。
図 2-3
kd=98N/mm
変位
コイルばねの特性
・ボルト接合部におけるすべり剛性の評価
試験体でのトグル各部材と木造フレームとの接合は、貫通
ボルトによる鋼板添え板接合方式を採用しているため、本解
析においては、そのすべり剛性 ks を(2-1)式
1)
により評価す
柱
9.8 ※
4,234
55,225
2.54×10
上部梁
9.8 ※
2,112
55,225
2.54×108
中段梁
9.8 ※
11,250
2.11×10
7
によりトグル部材の全体軸方向剛性を算出した。その算出結
4
果を表 2-2 に示すが接合部のすべりを評価した時の剛性は、
2,112
る事とし、トグル部材の軸方向剛性と ks との直列ばね結合
a部材
205
1,690
572
2.61×10
b部材
205
583
1,350
3.16×105
部材長と断面から算出される軸方向剛性の 1/6∼2/3 程度に低
c部材
205
557
1,350
3.16×105
d部材
205
942
572
2.61×104
減されている事が分かる。
※
ks = 2.4d 7 / 4 × E 3 / 4 (2 − 1)
木材の繊維方向のヤング係数
ここで、d : ボルト径(cm)
オイルダンパー減衰係数 cd、コイルばね kc、kd、摩擦回転ば
E : 木材の繊維方向ヤング係数
ね KR 及び木造フレーム接合部の回転ばね KJ に関しては、以
(kgf / cm 2 )
下のように決定している。
表 2-2
・オイルダンパーのモデル化
実験に使用したオイルダンパーは、図 1-2(前報その1)に
部材
トグル部材の軸方向剛性
軸方向剛性
EA/L
(KN/mm)
すべり剛性
ks
(KN/mm)
直列ばね結合に
よる有効剛性
(KN/mm)
有効
剛性率
示したような減衰特性を有しているため、解析においては速
a部材
69.4
136.2
46.0
66%
度 30mm/sec 以下の領域では速度の2乗に、30mm/sec 以上で
b部材
474.7
90.8
76.2
16%
は速度に正比例して減衰力を発揮するような特性でモデル化
c部材
496.9
90.8
76.8
15%
d部材
124.5
136.2
65.0
52%
Reserch on Pretensioning Toggle-Damper System
SUGIMOTO Naoyuki, ISHIMARU Shinji,
(Part 2
ISHIGAKI Hidenori, HATA Ippei and
Elasto-plastic Simulation of Pretensioning Toggle-Damper System)
NISHIMURA Yosuke
̶803̶
よりモデル化を行った。(2-2)式より求まる柱・梁接合部 1 箇
50
40
30
20
10
0
-10
-20
-30
-40
-50
-50 -40 -30 -20 -10 0
10 20
頂部変位(mm)
所あたりの回転剛性 KJ の値は 2.78×106KN・mm/rad である。
図 2-4
・木造フレーム接合部の剛性
木造フレームの水平抵抗に関しては、柱の傾斜復元力や
荷重(KN)
柱・梁接合部の回転抵抗などが考えられるが、本解析におい
ては、中段梁を含んだ接合部 6 箇所の木材めり込み剛性によ
るモーメント抵抗力 M を考慮する事とした。柱を剛体と仮
定した時のめり込み剛性は(2-2)式
2)
を用いて算出しており、
それにより求められる回転剛性を有する線形回転ばね KJ に
x p y p C y E ⊥  1 2 Z0 
 +
θ (2 - 2)
 3 3x 
Z0
p 

ここで、 x p , y p : 部材断面の幅・丈
3
荷重(KN)
M=
E ⊥ : 繊維直交方向ヤング係 数 (繊維方向の1 / 50)
C y : ここでは 1を採用
Z0 : めり込み側の部材厚
θ : 節点回転角
・トグル部材ピン接合部の摩擦力
前報(その1)で述べたよ
荷重(KN)
4.9KN・mm
グル部材は既製の高力ボ
ルトと鋼板により接合さ
回転角
れているが、摩擦力の定
量的な把握が難しいため、
ここでは静的加力実験結
図 2-3
果の荷重−変位履歴を参
ピン接合部摩擦力
のモデル化
考にして、図 2-4 のような摩擦力を想定し、バイリニア型の
お、摩擦力の大きさは全ての接合部で同一であるという仮定
のもとで解析を行っている。
解析結果および考察
荷重(KN)
§2−3
50
40
30
20
10
0
-10
-20
-30
-40
-50
-50 -40 -30 -20 -10 0
10 20
頂部変位(mm)
本節では、前節で述べた解析モデルを用いて骨組の弾塑性
解析を行った結果について報告する。
まず、静的加力実験についてシミュレーション解析を行っ
た結果を実験結果と比較して図 2-4 に示す。履歴面積がやや
小さく、全体的な剛性も低めに評価されているものの履歴特
性は比較的よく一致しており、モデル化の妥当性が示された
ものと思われる。次に、周期 0.7 秒、1.0 秒および 3.0 秒の動
50
実験結果
解析結果
30
40
50
実験結果
解析結果
30
40
50
周期 1.0 秒
50
40
30
20
10
0
-10
-20
-30
-40
-50
-50 -40 -30 -20 -10 0
10 20
頂部変位(mm)
図 2-5
40
周期 0.7 秒
50
40
30
20
10
0
-10
-20
-30
-40
-50
-50 -40 -30 -20 -10 0
10 20
頂部変位(mm)
(b)
履歴を有する回転ばね KR によりモデル化する事とした。な
30
静的加力実験のシミュレーション解析
(a)
モーメント 摩擦力
うに、実験用試験体のト
実験結果
解析結果
実験結果
解析結果
30
40
50
(c) 周期 3.0 秒
動的加力実験のシミュレーション解析
的加力実験についても同様に解析を行った。その結果を図 2-
謝辞
5 に示す。周期 0.7 秒の結果では履歴面積が大きめに評価さ
「環境・防災都市に関する研究」の一部として行ったものであ
本研究は、日本大学理工学部・学術フロンティア推進事業
れており、それ以外の結果では全体的な剛性がやや不足して
る。ここに謝意を表する。
いる事が分かる。しかし、全ての図から張力導入型トグル制
参考文献
震装置のエネルギー吸収性能を評価するには十分な精度を有
1. 日本建築センター:大断面木造建築物設計施工マニュアル,1988
するモデル化が行われたものと思われる。
2. 稲山正弘:めり込み抵抗接合の設計,建築技術,1995.11
*1 日本大学理工学部
教授・工博
*1 Prof, College of Science and Technology, Nihon University, Dr. Eng
*2 日本大学理工学部
助手
*2 Assistant, College of Science and Technology, Nihon University
*3 日本大学理工学研究所
技手
*4 日本大学大学院理工学研究科
*3 Assistant Eng, Research Institute of Science and Technology, Nihon University
*4 Graduate School of Science and Technology, Nihon University
̶804̶