寺島でございます。富山に環日本海というテーマで参上して、改めてこのテーマについて考える機会を与えていただいたことに感謝いたします。このシンポジウムのパンフレットとして、日本海を中心にした「逆さ地図」というものが配布されています。これをじっくりと眺めると、まさに日本海というのはユーラシア大陸と日本列島との内海、瀬戸内海のような内海なのだなということをつくづく感じます。今、冷戦が終わって１０年といわれていますが、この内海である日本海の意味が、今まで政治体制の違いということで、ある種の大きな距離感を感じさせる存在で横たわっていたわけです。しかし、明らかに友好と協力と共生の海のように、だんだん中身が変わってきたということを多分どなたも実感しておられると思います。冒頭の話として、一当然、経済の話が主力なのですが一どうしても今、この地域に生きている人間として、そのことについてやはり、しっかり考えて展望しておかなければいけない話題が北朝鮮との関係です。この話を抜きにして経済交流や文化交流という話をしていてもかなり底の浅いものになってしまい、本音の議論からだいぶん離れてくると私は感じます。重大な問題として北朝鮮との国交問題について、冒頭に少し、私なりの体験的な考え方をお話ししたいと思います。小泉さんが平壌に行かれました。小泉さんがこの国のリーダーでなくても、この国の責任者であるならば、北朝鮮問題というのはやはり、北東アジアの安全保障の問題から考えたときに、経済を安定させるには政治及び安全保障の問題が非常に重要になる訳です。これは、喉仏に突き刺さった骨みたいなテーマでもあるわけです。正面きってリーダーとしてチャンスに賭けるということで平壌に行かれたことは、大変勇気のあることだし、大変評価したいというのが私の基本的な立場です。ただ、この話は単純ではありません。この地域に住んでいる人間がしっかりこの問題を軸にして考えておかなければいけないテーマが横たわっているという話をしておきたいのです。なぜ、北朝鮮は、この時期に急速に態度を変えてきたのか。経緯の筋道をたどって、我々自身のものの見方をきちんと揃えておく必要があります。思い出していただきたいのは、２年前の２０００年６月です。わずか２年前なのに、早くも記憶のかなたのようになっていますが、南北朝鮮会談が行われました。韓国の金大中大統領が平壌に行きました、。南北朝鮮会談というのは、一体何だったのかということなのです。あれはアメリカがお膳立てして、準備して仕切った会談ではなく、朝鮮半島に住んでいる人たちが朝鮮半島の将来を決めていくのだという気迫に満ちた会談です。ようやくアジアにも本格的な冷戦後のパラダイムが見えてきたかと、熱気に満ちた報道がなされていたことは皆さんもご記憶だと思います。ところが去年の夏、わずか１年たって、朝鮮半島に吹いている風は変わったなと、みんなが感じたと思います。北朝鮮の金日正が、１週間シベリア鉄道に揺られてモスクワに行くというシーンが映し出されたのが去年の夏でした。私はワシントンとニューヨークで１Ｏ年仕事をしてきた人間なものですから、今でも定点観測のようにアメリカに行く機会が非常に多いのです。昨年の３月、ちょうどアメリカにブッシュ政権がスタートした翌月に、やはりワシントンに行っていました。ちょうど韓国の金大中大統領がワシントンに来ていました。ようやくブッシュ政権のアジア外交チームが明らかになったということで、ホワイトハウスのＮａｔｉｏｎａ１ＳｅｃｕｒｉｔｙＣｏｍｃｉ１を中心にして、アジア外交の責任のある立場の人たちといろいろ議論してきたのだそうです。私は、金大中大統領の訪米を迎えるアメリカ側の態度に「おやっ！？」と引っか、かるものがあったのです。不思議な印象を受けたのです。異様なほど冷たい対応だな、突き放したようなコメントだなという印象だったのです。理由が二つありました。一つは、アメリカの大統領選挙において金大中はかなり正面きって在米の韓国系の人たちに働きかけて、ブッシュにとっては対立侯補であるゴアを押したのです。ゴアを押したことに対する意趣返しです。仕返しです。そこまで底意地の悪い対応をするものかなというのが私の印象でした。そういうことよりももっと重要だったのは、二つ目の理由です。それは、何かといいますと、朝鮮半島を仕切っているのはアメリカだということを金大中に教える必要があるねと言わんばかりのコメントだったのです。どういうことかというと、建前としては、金大中大統領が掲げている太陽政策を支持すると言っていましたが、本音の中に、アメリカの頭越しに北朝鮮にアクセスして、南北朝鮮会談を実現して、その延長線上でノーベル平和賞まで取っていった金大中に対するさい疑心というものがにじみ出ていました。それ以降、米国と韓国の関係は非常にさざなみが立ってきました。ところが、皮肉なことに昨年９月１１日にニューヨーク、ワシントン同時テロが起こりました。９．１１が起こって、日本は、テロ特措法まで作って、何が何でもインド洋に自衛隊を送らなければいけないといい、えらく興奮状態に入って前のめりになって突っ込んでいきました。ところが、隣の韓国は不思議なほど冷静でした。微動だにしませんでした。一兵も送りませんでした。国際社会を動いていると、「日本の興奮と韓国の冷静が、コントラストですね」と、「対照的ですね」とからかわれたものです、。そうこうしているうちに、アメリカのアジア政策の担当者の間から出てきている発言やレポートの中に、朝鮮半島に二つの国家、つまり、二つの政権を並存させておく必要がないのではないかというようなコメントまで、白昼堂々と出始めたのです。韓国の大統領選挙が迫っていますが、アメリカの本音は金大中の静かなる退場を祈るということです。親米的に路線的により協調できる政権ができて、アメリカの北朝鮮に対する強烈なプレッシャーに協力してくれるような体制になっていくことが好ましいということです。表面的には太陽政策支持といいながら、だんだん本音の部分にそういう色合いがくっきり見え始めてきたのです。そこで、今年の４月に中国の藩陽で日本の領事館に北朝鮮からの亡命者が駆け込むという事件があったのを覚えておられると思います。あのとき、二つの見方がありました。この先、北朝鮮はどうなるかということについてです。一つは、北朝鮮は、アメリカの圧力、つまり、ＫＥＤ ○ を実質的に凍結し、強烈な圧力をかけてくるアメリカに対して、ますますねじれて、ならず者国家化して、亡命者や難民があふれ出てくるのではないかという見方です。もう一つの見方は、北朝鮮は折れるというものです。妥協するということです。ポキンと折れて国際協調路線に転じるという見方です。今、我々が目撃しているこの秋のシーンはこの後者のシナリオが展開されているということなのです。私は小泉さんが北朝鮮に行くことを発表したときからいろいろとコメントを求められ、言っていたことがあります。「最大のキーワードは米国の本音である。アメリカの本音がどこにあるのか読み間違えたらこの話はねじれるぞ」と。その後の経緯を静かに考えていただいたら、まさにその懸念がストーリーとして浮かび上がってきています。要するに、今回、日本が意思決定したシナリオは一体何か。一言で言うと、韓国の金大中大統領の掲げている太陽政策支持を鮮明にしたということなのです。つまり、北朝鮮と国交を正常化して、その暁には経済協力をして、北朝鮮を国際杜会の責任ある関与者として招き込んで、やがて熟柿作戦ではないですが、朝鮮半島が平和的に統一される機会が来たならば、それはそれで結構な話だという路線を支持するというか、選択したということなのです。ところが、このことが、何を意味するかということなのです。ここのところ、相次いで日本にやって来ているアメリカの政権および共和党系の人たちと議論をしていて感じるのは、やはり、日本の考えている構図と大きな温度差があるなという気持ちです。一言こういうふうに説明しておけば、私の申し上げたいことが伝わると思うのですが、今、朝鮮半島にアメリカの軍隊が３万６０００人駐留しています。日本には、４万７０００人の米軍が駐留していて、その７５％が沖縄に集中していることは皆さんもご承知のとおりです。これは、アメリカにとってみると前方展開兵力というのです。今、太平洋方面に展開しているアメリカの軍事力というのは、サンディエゴの基幹基地を別にして、ハワイに３万３０００人なのです。グアム島に３０００人なのです。いかに前方展開兵力が大きいかということです。アメリカの、軍のビューロクラットの本音としては、今、日本が取ろうとしているシナリオがそのままスムースに進んでいけば何を意味するかということなのです。世の中にパンドラの箱をひっくり返すという表現がありますが、１本ピンを抜くようなものなのです。すでに韓国ではそういう種類の議論が始まっていますが、もし、北東アジアにとって日本と北朝鮮の国交が正常化して、北朝鮮が脅威ではないという存在になっていったならば、在韓米軍は何のために存在しているのだ、在日米軍は何のために存在しているのだということになります。今まで、前方展開兵力が１Ｏ万人いる根拠として一番説得力があったのは、北朝鮮が南進してきたら、そのときに備えておかなければいけないということが大きかったのです。もし北朝鮮はそういう脅威ではないという存在になっていったならば、この構図が変わるのです。したがって、私が言いたいのは、もしこのシナリオを進めていくならば覚悟と長期戦略がいるということです。まさに今、この覚悟と長期戦略が試される局面になったのです。どういうことかと言えば、要するに、北朝鮮との国交を正常化していく路線を踏み出していくならば、当然のことながらアメリカとの関係の再設計が必要になります。具体的にいえば日米安保の見直し、つまり、日本における基地の縮小とか地位協定の改定とかという問題をテーブルに乗せていかざるをえなくなるのです。さらには、北東アジアの安全保障を高めていくための多国間の安全保障の仕組みが、例えば、ロシアや中国、北朝鮮、韓国、日本、台湾などを含む多国間の安全保障の仕組みということについて、何らかの共通のテーブルを作る努力とかが必要になってくると思います。「そういう長期戦略と覚悟なしに、なかなかこのシナリオは進みませんよ。なぜならば、アメリカの本音とずれがあるから」ということを言っていたのです。ところが、その後、アメリカはご承知のように北朝鮮の核疑惑というカードをスパッと切ってきました。実際問題として日本が北朝鮮と国交を正常化しようにも、国内的には国民が拉致疑惑ということにものすごくいら立たしく思っています。また、国際的にはアメリカからくる核疑惑のプレッシャーの中で、実質的な交渉のテーブルに着くことさえ難しく、交渉がフリーズされてしまったような状況にあることはもう皆さんもお気づきだと思います。そこからなのです、私が申し上げたいのは。アジアはアジアで主体的に、この地域の安全保障を考えていく覚悟と構想力が問われているということなのです。戦後の我々の世代というのはアメリカというフィルターを通じてしか世界を見ないという思考態度にあまりにも慣れきっていますから、必ずこの種の問題で主体的に動き始めようとすると、ある制約にぶつかって動けなくなるのです。時問がありませんし、その問題が今日長々と話すテーマでもないので、すっきり私の本音だけ申し上げておきます。アメリカのアジア政策というものは、特に戦後のアジア政策を特色付けるキーワードは分断統治なのです。「ディバイド・アンド・ルール」う二国関係、米・韓という二国間関係、といいます。米・中という二国間関係、要するに、アメリカは、日・米とい米・北朝鮮という二国間関係、米・ロシアという二国間関係は成立するけれども、地域に多角的なスキームというか、多国間で形成するスキームが成立しません。例えば、欧州において、ＮＡＴＯだとか、欧州の経済統合だとかというスキームに協力していくのとはまるで違って、アジアに対しては二国間関係に分断し、アジアにおける多国間のスキームというのはなかなか積極的に首を縦に振りません。ＡＰＥＣというのがありますが、ＡＰＥＣはあくまでもフォーラムであって、強制力のあるような機関でも何でもない訳です。それさえもアメリカは今、実質的にＡＰＥＣに対して取っている態度は、あたかもＡＰＥＣの空洞化を望んでいるかのような態度に変わりつつあるのは、たぶん大部分の方がお感じになったと思います。いずれにしましても、そのアメリカの対アジア政策によって、我々は大きく影響を受けざるをえない立場にある訳です。その中から主体的なものの考え方が、ものすごく大事だということを私は言いたいのです。したがって、今、我々が、こういうフォーラムにおいて、この地域の地域間協力みたいな話をしようとしていますが、実は、こういう仕組みを通じてアメリカというフィルターを通じてではなくて、アジアに安定や発展をもたらす仕組みを構想していくことが、思想的にいっても大変大切なのだということを私は痛感します。余談ですが、アジアという言葉の語源というのは、ＡＳＳＯＳという言葉からきています。これはトルコの地名なのです。ギリシャ側から見たら、ＡＳＳＯＳという町があって、その後ろには、中国やインドやジパングだとか、何だかよくわからないけれども、荘漠たる背後に横たわっている存在というか、民族がいるのだという意味で、ＡＳＳＯＳという地名からアジアという言葉がきたといわれます。要するに、西洋に対する対置概念なのです。私は、アメリカで十数年生活してきた人間ですから、アメリカの国勢調査に何回も書き込まされた思い出があります。「あなたは、どこの民族ですか」というコーナーがあって、チェックしなければいけないときに、です。ぎょっとなった思い出があります０Ｒ１ＥＮＴＡＬ＆ＰＡＣ１Ｆ１Ｃ１ＳＬＡＮＤＥＲＳというコーナーがあるの。だから、自分が０Ｒ１ＥＮＴＡＬ＆ＰＡＣ１Ｆ１Ｃ１ＳＬＡＮＤＥＲＳなのかとアイデンティティを感じたときがあります。岡倉天心は、昔、「アジアはひとつ」という言葉をいっていましたが、アジアという言葉白体が西洋の対置概念なのです。だから、我々はサッカーの予選というと、サウジアラビアとかそういうところと戦うような枠組みの中でやっている訳ですが、きわめてざっくりとした対置概念としてのアジアがそこに存在していた訳です。そういう中で、今度は我々の側から地域の共同や連携という話が大変重要になってきているのだということを、私は、外を動き回って最近非常に強く感じています。アジアが、決して単純な意味でひとつではないです。だけれども、ある意味では、この中から、共通の利益と、共通の未来というものを求めて、いろいろな交流やものの見方や考え方が主体的に出てきていいという局面にあることだけはまちがいないだろうと思います。そこで、肝心な、今日の話にだんだん入っていく訳です。先程知事がお話になっていたように、日本海地域の連携というものが、日本の国内においても大変活力あるものになってきて、青森から山口までの地域にいる人たちが、「緑の国土軸」という言葉において、非常に志の高いビジョンを掲げて動き始めておられることを私は大変尊敬します。そういう動向をじっくり読ませていただいて感じることなのですが、私は、世界中元気な地域といわれている地域を見て歩くのも仕事のうちみたいなものなので、ここのところ、いろいろな元気な地域を私なりに見て歩いています。元気な地域には、今、一定の共通性があります。一つは、グローバルな地携域連に成功している地域というのは、非常に元気だなという印象があります。例えば欧州です。これはかなり環日本海構想と近いイメージなのですが、バルト海を内海とする地域です。北欧やかつてソビエトの中にあったバルト三国、それから北ドイツなどが連携してバルト海都市連合という表現を使っているようですが、約１５０のバルト海を取り巻く都市が連携関係を深めて、経済的にも産業的にも文化的にも、ここのところ大変ダイナミックな交流をしています。北欧の、例えばノキアという携帯電話の会杜はバルト海の三国に生産立地したり、北ドイツとの連携の中で、ますます発展のパラダイムを求めたり、バルト海路支援号というのが、我々が理解している欧州の国境線の入った地図を越えて、大変アクティブに活動しているのが印象付けられます。それから、欧州の南の方も、国境を越えたグローバルな地域連携がここのところ非常に活力を持っています。例えば、南フランスを中心にしてスペインのバルセロナ地区と、イタリアの北イタリアの連携を「地中海アーチ」という言葉を使っています。ここは、ＥＵの通貨統合も受けて、通貨までが共通化していることもあり、例えば、北イタリアは南イタリアと連携していくよりも、横の南フランスやバルセロナの連携の方にはるかに力を入れ始めています。ですから、我々が古い地図で、つまりメルカトル図法で国境線が書き込まれているような地図で欧州を意識していたら、欧州でのビジネスの戦略が展開できないという言葉が交わされるぐらい、欧州は変わってきています。それは、グローバルな地域連携が一つの大変大きなキーワードになりつつあるということです。もう一つ、地域が活性化しているところにおける共通の要素は何かというと、アカデミズム連携なのです。アカデミズム連携とは、例えば、現在新しいビジネスモデルなどを展開しようとしたならば、バイオにしてもＩＴにしてもナノテクノロジーにしても、きわめて先端的な技術知識なしには新しいビジネスモデルにはアプローチできないのです。したがって、地場の大学や国境を越えてもいいのですが、アカデミズムとの連携の中で新しいビジネスモデルを作っていくような動きが非常に重要になってきています。しかも、それが必要になってきているのです。どうしても新しい先端的なビジネスモデルを作ろうとすれば、そういう傾向が強まっています。実は私もここのところ、そういう目的意識もあって、中国の北京にある清華大学との連携というものに大変力を注いでいます。そして、何回となく北京の清華大学を訪れていて、清華大学からもさまざまな人が、訪ねてきてくれるようになりました。何を考えているかというと、中国に対する評価ということでもあるのです。中国についていうと、我々の少し古い中国感は労働コストが２０分の１から３０分の１だから、労働コスト優位性を牛かした企業進出ということで、世界の工場というか、世界の生産力が中国に吸い寄せられていくというイメージで、中国をとらえていたと思います。確かに中国に行ってみると、東北地域や上海の地域や、さらには華南経済圏も含めて世界中から工場が牛産立地し、欧州の企業も工場進出しているし、アメリカの企業も続々と中国に進出しています。労働コストがこれだけ世界中の生産力を吸収していくと、やがて、だんだん高くなっていくだろうと我々は見ていました。確かに相対的に少し高くなってはいますが、まだまだ優位性というものは圧倒的に高いです。やはり人ロパワーなのです。まだ農村部に９億人の人間がスタンバイしているといわれています。しかも、日本が４年後からいよいよ人口が減っていくというパラダイムに入っていくのです。日本は２００６年にピークアウトして、それから毎年、毎年６０万人ずつ人口が減っていくのです。人口予測はよほどのことをしないかぎり当たります。この国は２０５０年には１億人を割るといわれています。一方、中国は少子化政策として一人っ子政策を懸命にやっていますが、それがかなり有効にうまくいったとして２０５０年に日本が、１億人を割るだろうといわれているときに、中国の人口は１７億に近づいているだろうといわれています。今、中国の人口は１２億７０００万ともいわれていますが、ちょうど日本の１０倍なのです。日本が１億人を割るというときに、１７倍にはなっているということなのですしたがって。、中国の人ロパワーというのは依然、非常に大きな意味があって、我々が予測していた以上に労働コストが上がらないというのもあります。ですから、世界の工場としての中国の潜在力というのは決して衰えはしないだろうと思います。ただ、目がそこの部分にだけに行っていると中国の本当の力を見誤るということが、私の申し上げたいポイントなのです。今、中国は技術の研究開発力においても、決してただ生産工場という位置付けの国だけではなくなってきています。カリフォルニア大学にローズ・クラウスという先牛がいて、こういう表現をしていました。「２１世紀の世界は、頭脳国家アメリカ対身体国家中国という構図になる。つまり、アメリカが研究開発して技術開発したものを中国が生産するというパターンの世界になっていく」という論文を書いていました。中国は身体国家という世界の工場という性格をも維持しながら、実は一歩前に出始めていると。その存在の象徴みたいなのが、実はその清華大学なのです。朱鋳某さんも、清華大学の出身です。今度、江沢民さんの跡を引き継ぐといわれている胡錦濤さんも清華大学の出身です。中国は、こういう科学技術系の人が最高指導者になっていくところに最近の特色があります。いずれにしましても、清華大学は中国でも最も優れた科学技術系の大学だといわれています。清華大学を研究していると実感するのは、よく我々は産学連携という言葉を使うようになっていますが、産学連携どころではないというか、学そのものが産の世界に大きく睦み込んできているぐらいダイナミックに動き始めています。清華大学が持っている会社だけでも上場企業で３０杜を超えています。一番大きな会社が清華紫光という会杜ですが、そこと今、我々は提携を深めようとしています。一つだけ例を挙げると、中国における産学連携がどれほどすさまじいものなのかということなのですが、中国におけるパソコン市場は、第１位のシェアを持っているのは聯想という会社です。これは皆さんもよく知っていると思います。第２位のシェアを持っているのは北京大学が持っている会社なのです。北大方正というのが、第２位のパソコンのシェアを持っています。大学がパソコンというハードまで作っているということなのです。それから、第３位がこの清華大学が持っている清華紫光です。第４位にＩＢＭがくるのです。中国という国は学そのものが産だという言い方をしたのはそういうイメージなのです。それぐらい非常に現実的プラクティカルに、大学というものと産業が連携しながらものすごく新しいパラダイムを牛み出しているのです。したがって、よく産学連携の国際的な話題といえば、シリコンバレーとスタンフォード大学の関係がよく話題になるのですが、中国はそれどころではないぐらいの連携のまっただ中にあるのです。しかも、ここのところ中国から、特に清華大学の卒業生の動きを見ていますと、ものすごい数の人たちがアメリカに留学しています。アメリカの企業のそこがよさなのですが、アメリカに留学してきた中国の卒業生、っまり中国から来た留学の卒業生をビジネスの世界の人たちがチャンスを与えて、ハイランクのポジションにまで引き上げて活用し、そういう人たちが箔をつけて中国に戻っていっています。したがって、中国の北京のハイテクパークといわれている中間村あたりに行くと、ＩＴ関係の有力企業のトップクラスの人たちは、まだ３０代から４０代の人が多いのですが、ことごとくアメリカ留学帰り組みなのです。日本にこれだけ多くの中国人の留学生の人が来て、私も今、アジア太平洋研究科という早稲田大学の大学院大学で教授をやっているのですが、３分の１ぐらいは中国からの留学生の人たちです。実感するのは、日本の企業に留学してきて卒業したあと、その人たちにチャンスを与えて育てて、中国に戻ったとしても非常に高いポジションに迎え入れられるような人を育てきっていないのです。この辺りの問題が、やがて大きな問題になってくるでしょう。中国では、今、「留美派」という言葉があります。留学の留に、美しいと書きます。美と何かと言うと、中国では米国のことを「美国」と書くのです。日本みたいに「米国」ではないのです。したがって、「留美派」という、アメリカに留学して帰ってきた人たちが、実は中国の産業界、行政、それから政治のリーダーになってのし上がってこようとしているのです。この辺りも、実は今後、中国と我々が連携関係を深めていくときに、我々サイドでよく考えて対応しなければいけないテーマの一つだろうなと私は思っております。そういう中で、日本海を取り巻く地域の連携ということに関連して、残された時間の中で、できるだけ具体的なイメージのわくような話をしておきたいと思います。グローバルな地域連携やアカデミズムとの連携ということを視界に入れながら、やらなければいけないことに関連して、いくつか私なりの考えに触れておいて話を終えたいと思います。一つは、やはり本当の意味での共通のインフラを作る努力をしなければいけないだろうなと思います。例えばＩＴの分野での連携ということで、日本・シンガポール白由貿易協定というのができたのは、皆さんご承知かと思います。日本とシンガポールの白由貿易協定の重要性というのは一体何かと言うと、シンガポールのような淡路島の面積もないような小さい国で、しかもさしたる工業生産力もない国と自由貿易協定を作っても大した意味がないのではないかと思う人がいるのですが、そうではないのです。ＮＥＷＡＧＥＦＴＡということなのです。新しい時代のＦｒｅｅＴｒａｄｅＡｇｒｅｅｍｅｎｔという言い方をしていますが、何が新しい時代なのかといいますと、例えば電子政府だとか電子認証だとかいういわゆる電子、ＩＴの分野での連携ということを視界に入れた白由貿易協定ということを模索しているがゆえに、日本とシンガポールの白由貿易協定は非常に意味があると思います。私白身もそのためにサポートして動いてきたつもりなのですが、今度アジアにおけるＩＴの連携ということが非常に重要になってきます。そういう意味で、この環日本海地域においても、今、日韓の自由貿易協定というのがテーブルの上に乗り始めているのはご承知かと思いますが、その延長線上で、アジアのＩＴ連携を、やはり真剣に進めていく必要があるだろうと思います。その中で、例えば、一つのイマジネーションとして申し上げているのですが、環日本海地域を活性化させるために、非常にとぼけた発想かもしれませんが、日本海の真ん中に静止衛星の一つぐらいポンと打ち上げて、ＧＰＳの衛星を共通で打ち上げましょうという構想が出てきても、今すぐでなくても、やがて出てきても不思議ではないと思います。ＧＰＳの衛星とは何かというと、ご承知かと思いますが、カーナビゲーションの使っている衛星です。カーナビの技術とは何だということは、昨日たまたまＮＨＫの「プロジェクトＸ」で、パイオニアのカーナビの話が紹介されていました。しかし、あの話に紹介されていない背後が重要なのです。今、カーナビは、アメリカの軍事衛星が、２４個地球を取り巻いていますが、その衛星につないで自分の位置を測定させてもらっている訳です。しかも、アメリカは、ただで使わせてくれているのです。欧州は今度共通で、ガリレオという名前のＧＰＳの衛星を打ち上げることにしたのです。中国も白前のＧＰＳの衛星を打ち上げようかという話を、この間行ったら、北京のこの分野の専門家の人たちが話題にしてきているということを言っていましたが、日本ではこういう話題は一切ないのです。なぜならば、「アメリカがただで使わせてくれているのだから、それでいいじゃないか。」という話なのです。ところが、一このＩＴの分野についてあまり深く、今日は、話す気はありませんが、一カーナビの話の根幹は一体何かと言うと、カーナビは逆探知できるのかということなのです。つまり、だれが今どこを動き回っているのかというのが掌握できるのかという話なのです。そういうことは簡単にできるのです。今度、ＫＤＤＩが発表したＧＰＳ携帯電話というのは、俳個老人に持たせて、俳個老人がどこを俳個しているのか逆探知するサービスがついている訳です。要するに、被害妄想みたいな話ではないのです。アメリカの情報の管理巧綴の高さという言い方をしておきますが、要は、軍事衛星にただでつないで使わせてもらっているけれども、このシステムがどういうシステム設計によって成り立っているのかということをじっくり考えたら、セキュリティという問題意識において、次に、我々白身が、例えば強い問題意識を持って、自前のＧＰＳの衛星の一つぐらい持ち合わせなければいけないという時代が迫っているのだということぐらいは考えておかなければいけないということなのです。何もアメリカに敵対するとかという話ではないです。すべてアメリカに寄りかかって、すべてのインフラが出来上がっているという状況から、やはり自分の脳みそを使って、主体性を回復していく努力をさまざまな意味において積み上げなければいけないのです。そういう意味合いにおいて、例えば、アジアの広域というか、日本海を取り巻く地域で、衛星の一つも打ち上げて、それもＧＰＳ用に使うだけではなくて、モンゴルの相撲中継でも結構ですし、さまざまな共通の情報交流の基点みたいなものを作り上げていこうとする努力みたいなものは、これから大変重要になってくると思います。もう一つは交通インフラです。共通の高速交通インフラです。これは富山を起点にしてすでに３か所、中国とかロシアとの航空便が飛んでいるそうですが、今後、海をべ一スにした高速のネットワークみたいなものができることを、私は大いに期待したいです。かつて、敦賀一ウラジオストックというのは、大変な基幹ルートだった訳です。与謝野晶子が、与謝野鉄幹を追いかけてパリに行った渡辺淳一のドキュメンタリーみたいな本が出ていますが、あのとき、与謝野晶子はどうやってパリに行ったかというと、船で南まで行った訳ではないのです。敦賀から船でウラジオに渡って、そこから汽車でパリまで行っているのです。少し夢のあるような、ロシアと協力して、欧州方面にじっくり時間をかけて、オリエント特急ではないですが、同じように船で渡ってから、ロシアから欧州に展開していくようなインフラができても、非常にいいだろうと思います。そういう意味で、いわゆる交通インフラの部分において力を合わせられる分野というのは、まだまだあるのではないかなと思います。それから、その他、この地域における、いわゆる共同プロジェクトとして視界に入れるべきことというのは、いろいろなお立場の方が、それぞれ推進しておられると思います。例えば気になるプロジェクトだけ申し上げると、エネルギーと食料の、この地域の安定供給を図るようなさまざまなプロジェクトが、今後、非常に重要になってくると思います。というのは、エネルギーについていえば、例えば中国は９３年に石油の輸入国に転じて、今、１日１５０万バーレルぐらいの石油を輸入する国になってしまったのです。日本は今、５００万バーレルを輸入しています。日本という国は、１日５００万バーレルの石油を飲んで牛きている牛きものみたいなものです中国はまたたく間に輸出国から輸入国に転じて去年。、、１５０万バーレルの石油を輸入する国になってしまったのです毎日ですやがて北京オリピン。ックが。、ある２００８年ぐらいまでには、中国の石油輸入量は日本と肩を並べるだろうといわれています５００万バ。ーレルぐらいの石油を輸入する国になってくるのではないかといわれています。なぜならば、ものすごい勢いでモータリゼーションが進んでいるからです。エコノミストの分析レポートからすると、モータリゼーションというのは１人当りの国民所得が１０００ドルにならないと進まないという話になっていたのですが、中国はそうではないのです。もう前倒しでモータリゼーションが来ています。中国に進出していって、日本企業で大もうけしている会社は意外なほど少ないのです。我々がとりわけ注目するほどうまくいっているのが、ホンダです。ホンダの広州は、５万台のアコードを今年売り切って、来年から１２万台に増産するそうです。来年はいよいよ日もトヨタも、本格的に中国に動くという話を発表し始めています。本当は、アコードが５万台中国でれるということは、理論的には変なのです。なぜならば、年収が平均２０万円ぐらいなのです。中国で産売では、アコード１台を４００万円で売っているのです。２０年分の年収をはたいて人が車を買うだろうかという話で、常識からいえば「？」なのです。ところが、中国の場合には、売れるのです。なぜかというと、富裕層がものすごい勢いで育ってきているのです。たった１％しか富裕層がいないとしても、人口１２億７０００万というと、１２００万 ∼１３００万になるのです。例え１％としても東京都の人口ぐらいの人が富裕層として浮上してきているから、我々の理論では考えられないようなもので売れるのです。それぐらいにダイナミズムが出てきているということだろうと思います。そうなってくると、そのモータリゼーションの先に、中国の石油の安定供給、需給ということが非常に大きく横たわってきます。石油だけではありません。エネルギー全般です。食料についても全く同じです。『だれが中国を食べさせるのか』というタイトルの本が、アメリカにおいて出されています。要するに、このあと半世紀の間に、人口１７億に迫っていく中国の食料の安定需給というのは大変大きなテーマになってきます。これは他人の国のことではないのです。やはり広域の食料の安定需給の構想というのは非常に問われてきます。日本の食糧牛産技術を協力し合って中国に持ちかけていくとかは、大変重要です。例えば、ロシアにも流通のロジスティックス関係の技術が食料の安定たのめに非常に重、要になってくるだろうといわれています。どうしてかというと、統計上はロシアは国民が腹いっぱい食べても余りあるほど食料の生産をしているのですが流通のロジスティックスが弱いから、途中でかな、りの量が腐ってしまうのです。したがって、保冷庫だとかいうようにこれからものを腐らせない技術、、つまり流通を支えているロジスティックスな技術がものすごく重要になってくるといわれていますそ。ういう中で、エネルギー、食料の安定にかかわるような地域協力が大変大きなテーマになってくるだろうなと思います。それから、もう一つは、先程、知事も話題になされていましたが、当然のことながら環境です。のモータリゼーションが、それだけの勢いで進むということは、れていましたが、さまざまな意味での環境保全型技術や、さらにが大変重要になってきます。そういう意味においても、広域の、通テーマになってくるだろうと思います。その中からさまざまな中国やはり、かつて公害という言葉でいわは車の排ガスに関わる新しい車の技術この地域の環境保全がすごく重要な共プロジェクトが見えてくる気がします。いずれにしましても、この地域の中に、横たわっているテーマを深く考えて、我々がより具体的な一歩を踏み出すべき局面にきているのだろうということを申し上げて、時間が参りましたので、私の話を終えさせていただきます。今日は、どうもありがとうございました（拍手）。