「格差社会」の形成

横山史帆■「格差社会」の形成
「格差社会」の形成
―メディアがつくり上げた格差と貧困―
The Process of the Gap-Widening Society
横山
史帆
東洋大学社会学部
メディアコミュニケーション学科 4 年
要
旨
日ごろよく耳にする「ワーキングプア」「格差社会」という言葉は一体、誰
がつくり上げたものであるのか。また、格差が拡大しているという事もよく
耳にはするが、本当にそれが広がっているのか。
2006 年 7 月に放映された NHK スペシャル「ワーキングプア~働いても働
いても豊かになれない~」の放送以降に急速に広まった「ワーキングプア」
という言葉は、メディアの力によって、人々の意識に深く根付き、現在に至
る。NHK だけではなく、その他のテレビ局でも貧困に関するテレビ番組が放
送された事によって、貧困は身近なものとして捉えられる事が多くなった。
本論では、①貧困者(非正規雇用労働者)の実態と、②メディア上の貧困
を取り上げた。①では、海外の貧困者の事例を取り上げ、日本で定義されて
いる貧困との相違点を見出す事ができる。更に、派遣社員を中心とした非正
規雇用労働者を取り巻く現状についても研究し、今後の派遣労働のありかた
を考えることができた。一方、②では、新聞、雑誌、テレビ番組の分析を行
った。格差という意識が人々に広まったのは、「ワーキングプア」以降だとい
う事は紛れもない事実であり、更に、近年の貧困報道は、エンタテインメン
ト化されつつある。
「格差社会」はメディアの手によって、再認識されつつある。昨今は経済
状況の悪化などにより、ますます人々の生活が苦しくなり、格差が拡大する
事が考えられる。格差をなくすためには、人々が現実を受け入れ、自ら解決
策を考えていくことも必要ではないか。
キーワード:格差社会、貧困、マスメディア、報道
横山‐1
目
次
序
第1章
はじめに
1.1
日本の「貧困」
1.2
なぜ貧困・格差社会が発生したのか
1.3
ワーキングプアのはじまりとこれまで
1.4
貧困層の規模・実態
第2章
「格差社会」の現場と実態
2.1
格差の中の「難民」
2.2
海外の貧困事例
2.3
ニート、フリーターとワーキングプア
第3章
広がる格差と非正規雇用
3.1
貧困と富裕
3.2
非正規雇用
3.3
派遣労働の実態
第4章
メディアに晒される貧困者たち
4.1
NHK スペシャル「ワーキングプア」
4.2
増えるメディアへの露出
4.3
メディアでの取り上げられ方の変化
第5章
結論
参考文献・引用資料
横山‐2
横山史帆■「格差社会」の形成
序
1
研究の背景
日本の中で、所得格差やワーキングプアと呼ばれる低所得者層が増えてきていると言われてい
る。「格差」「下流」などの表題をもつ本がベストセラーになることからも分かるように、日本の
社会では経済格差が拡大している、という認識が多くの人に広がっている。十年に及ぶ長期不況
で失業率も上昇し、大都市では、住む家を失った人も増えた。夕方のニュースの中で、そういっ
たホームレスやネットカフェ難民、日雇い派遣労働者の現状を「格差社会」として頻繁に報じ、
2006 年には、NHK がワーキングプアをテーマに、2 度にわたる特集を組み、大反響をよんだ。
その後、作家の雨宮処凛やホームレス支援のNPO法人「もやい」の湯浅誠、首都圏青年ユニオ
ンの河添誠氏らの声が、マスコミ各誌などで取り上げられているように、ワーキングプア問題は、
社会の強い関心を集め、時代のトレンドとなったかのようである。
しかし、本当に彼らは増えているのだろうか。格差やワーキングプアは、メディアが生み出し
た社会現象というだけなのかもしれない。本論では、貧困層の現状、彼らと社会の関係を中心に、
メディアがそれをどう報じたため、現在のような結果が生まれたのか、研究を進めていきたい。
本論文の構成
第一章ではまず、貧困層のはじまりと、なぜ貧困層が日本国内において増えたのかを調べてい
く。第二章では、ネットカフェ難民やワーキングプアの実態、そして日本だけではなく、海外の
ワーキングプアについて調べ、貧困の解決策を探っていきたい。第三章では、貧困の中心と言わ
れている、非正規雇用労働者に焦点を当て、彼らを取り巻く現状や、世の中の動きに着目してい
きたい。そして、第 4 章では、メディアの報道のありかたを分析し、どのように人々に「貧困」
を見せているのか、また、どのようなイメージを与えているのかを調べていく。
研究の方法
研究の方法は、新聞記事、雑誌記事、データベース、書籍等から「ワーキングプア」や「ネッ
トカフェ難民」「格差社会」に関する記述がある記事を収集し、調べていく。また、「ワーキング
プア」と「格差社会」に関しては、2006 年 1 月から 2008 年 10 月までの雑誌と新聞の引用記事
数の推移を調べ、格差がどの程度、メディア露出されたかを検証していく。
横山‐3
1
ワーキングプア・ネットカフェ難民のはじまりと貧困
1.1
日本の「貧困」
(1)貧困層の増加
生活格差がひろがる昨今、生活そのものが立ち行かない世帯が増加している。正規職員の非正
規雇用化促進は、最低賃金に依拠して働く労働者を増大させ、いわゆる「ワーキングプア」
(働く
貧困層)を生み出す原因となっている。
ワーキングプアの大量存在という認識は、現在の政府のみならず、日本社会の中では長らく強
い影響力を持ってはいなかった。勤労能力がある働き手を持つ世帯が貧困生活に陥ってしまうの
は例外的(堕落し、ギャンブルなどで多額の借金を抱えてしまう、等といった理由)、あるいは一
時的な事態であるはずだ、という理解が支配的だったからである。
「そもそも、ワーキングプアが
大量に存在しているという事は、1960 年代初期の日本社会ではごく普通のものであった(後藤,
2007)。」という見解もある。そのため、現在のワーキングプア問題は、その「再発見」なのであ
る。では、なぜこの問題が、長い間眠っていて、近年、「再発見」されたのだろうか。
ワーキングプア世帯などの貧困を急増させた近年の社会変動は、1998 年~2004 年頃までの数
年を中心に生じている。この時期には、ワーキングプア世帯を含む貧困世帯数が大幅に上昇した。
では、実際に、この期間の間に、どの程度貧困者数が増加したのだろうか。
表 1.1 は、就業構造基本調査を用いた、国内のワーキングプア世帯数と、それを含む貧困世帯
総数の推計結果である。貧困基準としては、生活保護を受給する世帯ごとに計算される「最低生
活費」の世帯人数別全国平均値(1 人暮らしの場合は 15 万円前後、夫婦と幼い子供 2 人の計 4
人暮らしの場合は 20 万円前後)および、それに給与水準所得控除を加えた額(雇用世帯労働者
向け)を用いた。
貧困世帯数、世帯率ともに 1997 年と 2002 年を比較すると増加している。2002 年の貧困世帯
数は 1105 万世帯(22.3%)であり、そのうちワーキングプア世帯数は 656 万世帯(勤労世帯の
18.7%)であった。よって、日本の世帯の実に 5 戸に 1 戸が貧困世帯ということが表から読み取
れる。
なお、勤労世帯についてみてみると、貧困世帯数および貧困率の上昇幅は世帯数 3 人以上が多
く、単身世帯は貧困世帯数全体の、およそ 23%であった。
貧困率は貧困基準の取り方によって変化するため、上記の数字そのものには議論の余地があろ
横山‐4
横山史帆■「格差社会」の形成
表 1.1
日本国内の貧困世帯総数
総世帯数(万)
1997 年
2002 年
貧困世帯数(万)
増減
1997 年
2002 年
貧困世帯率(%)
増減
1997 年
2002 年
勤労世帯
3569.2
3517.6
-51.6
458.4
656.5
198.1
12.8
18.7
就業世帯
3531.3
3445.2
-86.1
441.8
620.3
178.5
12.5
18
失業世帯
37.9
72.4
34.5
16.6
36.2
19.6
43.8
50.0
総世帯
4625
4960.5
335.5
756
1105
349.1
16.3
22.3
(総務省統計局就業構造基本調査より引用、表作成)
うが、大量のワーキングプアが現代の日本社会に存在していること、それ自体は、もはや疑いよ
うの無い事実である。
次に、図 1.1 について説明する。
この図は、東京都足立区の就学援助受給率を表したものであるが、先に述べたように、1998
年から 2004 年の間の数年間、その受給率が大幅に上がった。2005 年の受給率は前年と比べると
若干、減少はしたものの、東京都全体の平均受給率 24.8%、大阪府の平均受給率 27.9%と比較す
ると、非常に高い位置にあると考えられる。また、本来なら就学援助というのは、就学が困難な
児童・生徒に対して、教科書図書購入費、学校給食費、通学・帰省に要する経費、付添い人の交
通費、寄宿舎費、修学旅行費、学用品購入費の経費が、保護者の経済的負担能力に応じて支給さ
れるものだが、家庭が貧困をきわめるあまり、その就学援助費も生活費の一部として使ってしま
う家庭も少なくはないという(後藤,2007)。
45
40
39.1
35
34.8
31.4
30
27.7
25
20
15
41.5 42.5 42.2
21.9
19.5 17.9
16.7 15.8
19.2
16.4 17.8
21.3
24.1
(%)
10
5
0
1989年 1991年 1993年 1995年 1997年 1999年 2001年 2003年 2005年
(総務省統計局就業構造基本調査より引用、グラフ作成)
図 1.1
足立区の就学援助率の推移
横山‐5
1.2
なぜ貧困・格差社会が発生したのか
なぜ、先進国といわれる日本で、格差社会が起こってしまったのか。内閣府は、貧困層の拡大
は「見かけ上」のものに過ぎないとして、その理由を①人口の高齢化による高齢者の単独世帯の
増加、②独身などの単独世帯の増加を挙げている。
国別にみた、1990 年後半における先進国の市場所得と貧困率の推移を表したものが図 1.2 であ
る。図 1.2 を見ると、市場所得(market income:税金や保険など、社会保障費を控除する前の所
得)だけを見ると、他の先進国よりも貧困率は低い。しかし税や社会保障の給付を除いた可処分
所得(disposable income)を見ると、アメリカに次ぐ貧困率の高さとなる。つまり、日本政府の
社会保障給付および税による所得格差の縮小分が他の先進国に比べて少ないのである。すなわち、
日本は「所得の再分配」の割合が極めて低く、その結果、可処分所得の貧困者の割合が多くなっ
ているのである(板垣,2007)。
(出典:Income Distribution and Poverty in OECD countries in the Second Half of the 1990s)
図 1.2
先進国別
市場所得と貧困率の推移
経済協力開発機構(OECD)が,日本経済の現状を分析した 2006 年版「対日経済審査報告書」
の日本語概要には、「日本の相対的貧困率は今や OECD 諸国で最も高い部類に属する」と記され
ている。7 月 20 日の OECD 発表記者会見では「OECD 加盟国中第 2 位になった」と表明してい
る。相対的貧困率とは、国民を所得順に並べて,中心部分に位置する人の順位(中位数)の半分
以下 2005 年、日本の相対的貧困率はメキシコ、米国、トルコ、アイルランドに次ぐ第5位だっ
たが,ついに世界第 2 位の格差社会国家になったという事である。
なぜ、戦後は高度経済成長期を経験し、敗戦国から一気に世界トップクラスの経済水準の先進
国にまで上り詰めた日本が、現在では格差の大きい国になってしまったのか。格差社会の一番の
原因として、小泉純一郎元首相が行った、規制緩和が大きいのではないかと考えるものは多い。
規制が緩和されたことによって、株式会社の上場基準が軽くなり、ベンチャー企業でも上場で
きるようになったことが大きい。図 1.3 は、近年の、株式会社の上場数の推移を表したものであ
横山‐6
横山史帆■「格差社会」の形成
る。2001 年 9 月 11 日にアメリカで発生した、同時多発テロの影響から生じた経済不況を受け、
2002 年、2003 年は一旦企業の上場数が減少したものの、2004 年は回復を見せた。それ以降の 3
年間は、2007 年のサブプライム・ショックまで、上場数は増加の傾向にあり、一見すると、誰も
が会社を立ち上げられるような経済社会になったように感じられる。
規制緩和によって、それまでは専売、もしくは公営だった業種が民営化されたり、競合他社が
創業されるようになり、その企業が大きく企業価値を上げることができ、かつ、その企業に投資
した人が富を得られる機会が増えたように考えられる。しかし、その一方で、貧困層が増大し格
差が拡大したのである。
出典:株式会社ジャフコ IR 資料集
図 1.3
過去 9 年分の上場企業数の推移
規制緩和は、富める層とワーキングプアのような働いてはいるものの貧しい層を増大させた原
因であるという認識がある。なぜ、小泉政権の打ち出した規制緩和の政策によって格差が増大し
たと言えるのか。その理由として、「『景気回復 → 企業の設備投資増加 → 企業収益増加 → 個
人所得増加 → 個人消費拡大 → 景気拡大』という、旧来の循環図式をもって経済を回復させよ
うと考えていたにも関わらず、この改革が、同時に旧来の日本の社会構造を破壊してきたことに
気づけなかったからである(志位,2006)。」という見解がある。景気回復により、企業は史上
空前の増収増益を記録した。しかしそれが一向に株価に反映されていないのが、その証拠である。
また、志位氏は同紙で以下のようにも述べている。
生活保護世帯、教育扶助、生活援助を受ける児童・生徒の比率、貯蓄ゼロの世帯の数
が激増している。首相が、格差拡大を「見かけ」という内閣府の資料で、いくら事実に
目をふさごうとしても、同じ内閣府の国民生活白書(2005 年度版)でさえ、「若年層で
横山‐7
パート・アルバイトが増加し、所得格差が広がっている」と、はっきり指摘がなされて
いる。
(志位,2006)
このような事から、5 年 5 ヶ月の在任期間で、小泉元首相が作り出したのは、現在の「格差社
会」であり、その格差を前提とした、社会のごく一部だけが享受する「景気回復」であるという
事が分かる。人々の、将来に対する経済的な不安が増大している時に、個人消費が増えるはずは
ないだろう。
また規制緩和だけでなく、事業の海外移転も格差を発生させる大きな原因の一つになったと考
えられる。中国をはじめとする途上国の工場が低価格製品を出すようになり、各企業は、それま
で国内で作っていた製品を海外で生産し、より安い人件費で製品を生み出せるようになった。そ
れに伴い、それまで国内の工場で働いていた労働者が解雇され、賃金が比較的安いサービス業に
シフトしていったのである。
このような現状を考えると、日本においてワーキングプアは今に始まったことではなく、ずっ
と存在し続けていたものであったが、近年の貧困者の急増によって再び社会の関心を集めたのだ
と考えられる。
1.3
ワーキングプアのはじまりとこれまで
次に、歴史的背景と近年の社会変動などを踏まえたうえで、ワーキングプア、ネットカフェ難
民などの実態をさぐっていきたい。
ワーキングプアが日本社会で「再発見」され、社会問題にまで発展したのは、メディア露出の
影響が大きい。現在では毎日のように新聞記事やテレビ、雑誌等で「格差の実態」
「年金と生活保
護」
「ネットカフェ難民」といった、貧困層の実態が映し出された記事や番組を目にする。そうい
った貧困報道が、人々の意識に残り、強く印象付けられたため、このように多くの関心をあつめ、
問題視されるようになっていったのである。
では、どのようなプロセスで、貧困やワーキングプアのメディア露出が増えていったのか。こ
こでは、「ワーキングプア」と、「ネットカフェ難民」の 2 つの言葉が、どのようにして広まって
いったのかを調べていきたい。
(1)ワーキングプア
「ワーキングプア」という言葉が国内で一般的に使われるようになったのは、2006 年からであ
る。それ以前も用いられることがあったが、国会や経済白書等で海外の貧困・労働状況の例を挙
げる場合に限られていた。
(前略)アメリカでは、賃金が伸縮的なため非製造業が多くの雇用を吸収し、低賃金に
よる「ワーキングプアー」を生み出している。日本は両国の経験を活かし、第三の道を
探らなければならない。
(朝日新聞夕刊 1996 年 7 月 26 日 全国)
横山‐8
横山史帆■「格差社会」の形成
【パリ 27 日村田昭夫、白戸秀和】27 日閉幕した経済協力開発機構(OECD)閣僚理事会
は財政再建を最優先課題とし、経済的規制を原則撤廃することで合意した。いずれも小
さな政府、市場経済を目指すものだが、雇用問題など各国が直面する問題を解決するに
十分な処方箋なのか、と言えば疑問が残る雇用をめぐる議論で、こんなやり取りがあっ
た。(省略)「失業の減少は低所得労働者(ワーキングプアー)をつくる。所得格差の
拡大が問題だ」。ルクセンブルクが切り出した。(省略)これに対して柔軟な労働市場
を誇る米国は「所得格差は技術の差で生じるもの」と考え、低所得労働者を否定した。
(毎日新聞朝刊 1997 年 5 月 28 日 東京)
2006 年以降の引用のされ方は、以下の通りである。
内閣府が年初に発表した世論調査結果によれば、日ごろの生活で不安を感じている人
は 7 割近くにのぼった。1958 年の調査開始以来の最高だ。不安の内容は「老後の生活設
計」が最も多い。年金制度への不安が重くのしかかっているとみることができる。働く
ものの 3 人に 1 人が非正規雇用で、生活保護受給者は 105 万世帯に及ぶという数字もあ
る。今年は生活保護世帯より所得の低い「ワーキングプア」や、住居が無くネットカフ
ェやマンガ喫茶などに寝泊りする「ネットカフェ難民」の存在もクローズアップされた。
格差を拡大した小泉改革の影の部分である。それに対して十分な手立てを講じてこなか
った政治の責任は大きい。安倍政権はポスト小泉政治を提案しながらも中途半端で幕を
閉じた。後を継いだ福田康夫首相はいま、衆議院と参議院で多数党が異なる「ねじれ国
会」の中に身を置いて翻弄(ほんろう)されている。
(毎日新聞朝刊 2007 年 12 月 31 日 東京)
世界の貧困と飢餓は人類が直面する未解決の大問題の一つである。世界の人口の 5 人
にひとりが 1 日 1 ドル未満の極貧で生活し、約 7 人にひとりが飢餓に苦しんでいる。し
かし、こうした世界的貧困、飢餓問題への日本の国民的意識は極めて低い。国内の格差
問題やワーキングプア問題の議論は大いに盛り上がるが、世界的な格差、貧困問題への
関心は薄いようだ。
(日本経済新聞 2007 年 6 月 21 日 全国)
2006 年に、大きな変革が起こる。7 月 23 日に、NHK で「ワーキングプア~働いても働いて
も豊かになれない」が放送され、放送直後から大きな反響を呼び、同時にワーキングプアという
言葉が急速に社会へ広まっていった。その後 NHK はこの番組の続編や、海外のワーキングプア
を取り上げた番組を製作し、国内だけにとどまらない、働く貧困層の実態を伝えた。この、貧困
層の実態については 2 章で詳しく説明していく。
構造改革のゆがみ、格差社会の弊害という現実を、働いても、
「豊かになれない」人々を通じて
映像化したこの番組は、現代の日本社会の負の側面を鋭く切り取り、放送後に、ワーキングプア
という言葉を瞬く間に定着させた、優れた一種のキャンペーン報道として高評価されたといえる。
(2)ネットカフェ難民
ワーキングプアという言葉が使われ始めたのとほぼ同時期に「ネットカフェ難民」という言葉
も広まった。きっかけは日本テレビの水島宏明ディレクターにおるドキュメンタリー番組、
「 NNN
ドキュメント 2007
ネットカフェ難民~漂流する貧困者たち~」
(2007 年 1 月 28 日放送)であ
る。これを機に、ネットカフェ難民という言葉そのものが格差社会の象徴としてワーキングプア
とともに各メディアで取り上げられるようになって社会に定着し、2007 年新語・流行語大賞のト
ップテンに選ばれたほどである。
横山‐9
1.4
貧困層の規模・実態
2007 年は、公的機関によるネットカフェ難民に関する実態調査が数多く行われた。厚生労働省
では「住居喪失不安定就労の実態に関する調査」という名目で、ホームレス調査とは全く別に、
聞き取り調査と宿泊客に対するアンケートを主体とした、ネットカフェ難民の雇用や生活の実態
を調べている。京都府でも 2007 年 7 月、府と京都府警が共同で、京都市内のインターネットカ
フェで聞き取り調査を行った。
厚生労働省の結果によると、店舗への調査から推計される 2007 年時点でのネットカフェ難民
の人数は 5400 人だったという。また、当初は 10~20 歳代の若年労働者が中心であると想定され
ていたが、調査の結果では、50 歳や 30 歳代など幅広い年齢層にわたっており、性別は男性 6 割
に対し女性が 4 割であるとされた。また、雇用形態は非正規雇用が中心であるものの、完全失業
している者や正社員として働いているネットカフェ難民もいたという。これに関しては 2 章でよ
り詳しく説明をしていきたい。
2
「格差社会」の現場と実態
2.1
格差の中の「難民」
第 1 章では、格差社会の原因となった要因についてや、ワーキングプア、ネットカフェ難民の
はじまりについて述べた。今章ではそれら貧困層のより深い実態、現状、そして海外の貧困層の
事例について考察していく。
まず、ネットカフェ難民について簡単に説明したい。ネットカフェ難民とは、決まった住まい
がなく、二十四時間営業のインターネットカフェや漫画喫茶を泊まり歩いている人のことである。
ネットカフェ難民の多くは、不安定な非正規雇用、特に日雇い派遣労働に従事している者の割
合が高いという。1980 年代から 1990 年代のフリーターなら安い部屋を借りて生活を維持できた
が、日雇い派遣では家賃・光熱費など数万円のまとまったお金が作りにくい。毎日仕事に入れる
とは限らない上に、日払いの賃金がその日暮らしを維持することに使われる。主に住む場所、エ
ネルギーの摂取を目的としてネットカフェのフリードリンクで水分や糖分・カロリーを摂取し、
テレビ、パソコン、漫画など最低限度の文化や情報に接し、睡眠をとる場として彼らはネットカ
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横山史帆■「格差社会」の形成
フェを利用する。近年、宿泊型の個室を売り物にするインターネットカフェなどが大都市圏を中
心に急増した。ビジネスホテルよりも安上がりで 24 時間営業の店も多いことから、若者や会社
員らに人気を集めている。
2006 年 11 月にザ・ワイドで放送されたネットカフェ難民の特集によると、インターネットオ
ークションを利用して貴重なイベントチケットを転売する、いわゆる「ダフ屋」行為や、秋葉原
のフィギュア店で廃棄処分されたフィギュアやプラモデル、雑誌などを入手し、ネット上のオー
クションや近隣の買い取りショップなどで転売し、日銭を稼ぐ人も存在しているという。また、
新宿・歌舞伎町には、多額の借金を抱えたため、家賃を払うことができずにマンションを追い出
され、性風俗店等で働きながらネットカフェで寝泊りする、10 代から 20 代の若い女性たちの姿
が映し出されていた。
日雇い派遣労働の求人がなく、給与を得られなかった日は、ネットカフェに泊まる費用も捻出
できないため、2000 年代後半に増加したファストフード店の 24 時間営業店舗で夜を明かす人々
もいるが、彼らはネットカフェ難民と類似する呼び方で、
「マック難民」とも呼ばれている。この
造語は 2007 年頃より使用されている。このような事から、必ずしも彼らの従事している仕事が
日雇い派遣業務で、寝泊りしている場所がネットカフェのみであるとは限らない。
厚生労働省は 2007 年に行った「住居喪失不安定就労者の実態に関する調査」において、ネッ
トカフェなどを週三日以上利用する人を「住居喪失不安定就労者」と定義している。この推計に
よれば、それらの人々は、全国に約五千四百人、東京二十三区内に約二千人いるという。
都の調べでは三十五歳未満の若年層の割合が 36%と非常に多く、その一割が女性だという。若
年層の 8 割はネットカフェを週三日以上利用し、7 割弱はファストフード店で寝泊まりしている。
過去に正社員の経験がある人が七割を占ており、現在の月収は平均 10 万 7 千円で、半数以上は
「ハローワークを利用していない」と答えている。
では、なぜネットカフェ難民が社会に多く露出してきたのか。これには環境的要因と社会経済
的要因が大きく関係している。
環境的要因としては、身の回りの荷物の収納を安価で使用できるコインロッカー、シャワー施
設を完備し、低額料金のナイトパックで利用できる個室席を完備したネットカフェが増加したか
らである。これによってネットカフェ難民になることへの敷居が低くなったと考えられる(後藤,
2007)。
社会経済的要因としては、バブル崩壊後のフリーターの増加が大きな原因のひとつと考えられ
る。多くの企業ではコスト削減・価格競争力を維持するために派遣労働者の割合を高めてデフレ
経済の中での生き残り策を模索し、それに比例して正社員雇用の採用が低下した。特に、1990
年代から 2004 年までのいわゆる就職氷河期には、大学を卒業しても正社員として働けず、非正
規雇用の職に就いた者も多数存在している。このように、ネットカフェ難民は、幾つかの要因が
重なり合った日本経済の雇用実態の姿を映し出している。
ネットカフェのような施設は、便利である反面、危険な一面ものぞかせている。
2008 年 10 月、大阪市浪速区の個室ビデオ店「試写室キャッツなんば店」で、火災が発生し、
宿泊客を含む 15 人が死亡した。ここでは、宿泊も可能な「個室型店舗」の防災上の危うさが浮か
横山‐11
んでいる。事故の直接原因は利用客による放火であったが、多くの犠牲者が出た背景に、店舗構
造の問題点などを指摘する声もある。
カラオケボックスやネットカフェは、部屋ごとに間仕切りが設けられているため、火災に気づ
きにくい構造である場合が多く、各個室は狭い空間に密集した施設形態となっており、煙や熱が
滞留しやすく、避難路が断たれやすいという。そのうえ、深夜や未明に利用する客が仮眠を取っ
ているケースもあり、避難行動が遅れて被害が拡大する危険性がある(総務省消防庁,2008)と、
以前から専門家から指摘されていた。
神戸市の消防局が 2007 年 6 月から 7 月にかけて、市内の個室ビデオ店やネットカフェを査察
したところ、市内に存在する店舗 44 店のうち 8 割に当たる 35 店で、消防訓練の未実施などの違
反が確認された。この事から、経営者の防火意識も低いとされる。
事件が起こったのは今回が初めてではない。雑居ビルにおける火災に対応するため、過去にも
法令が見直されてきた。2001 年 9 月に起きた東京・新宿の歌舞伎町の雑居ビルで飲食店の客や
従業員など 44 人が死亡した火災では、消防法を改正し、火災報知機の設置対象を、より小規模
な雑居ビルなどにも義務付けるなどした。さらに昨年1月、兵庫県宝塚市のカラオケ店で客3人
が死亡した火災の後、消防庁は今年 7 月、消防法施行令を改正した。カラオケボックスやネット
カフェなど「遊興のための設備を個室で提供する店舗」を対象に、店舗面積にかかわらず火災報
知機の設置を義務付け、に施行されていた。
一方で、宿泊可能とうたいながら、今回のような個室ビデオ店は旅館業法の許可は受けていな
い。この法の対象になるのは、布団や枕、寝間着などの寝具を利用客に提供する施設で、保健所
が定期的に監視する。しかし、個室ビデオ店などのようにベッドだけを置いている店舗は法の対
象外であり、市保健所は実態を把握していなかったのである。
ワーキングプアの問題に詳しい専門家は、以下のように述べている。
「不安定な雇用形態として
社会問題化している日雇い派遣労働者などは、仕事と収入が途切れ家賃が支払えなくなると、ネ
ットカフェや個室ビデオ店を転々とする『難民』になることが多い」(関根,2008)
人が生活するうえで、衣食住は必要不可欠なものである。衣・食・住、この 3 つの要素すべて
を、一定の住居が無くてもまかなえてしまうのが現代の日本の便利さであり、問題になっている
部分ではないだろうか。食と住はネットカフェでまかなえる。その中でも食に関しては、繁華街
には至る所に飲食店が立ち並んでいるため、廃棄処分となった物を探せば食事にありつける事も
できる。そればかりではなく、NPO や様々なホームレス・貧困者支援の団体が、定期的に、公園
などで炊き出しを行っているため、栄養失調で衰弱してしまうという事は、他の国の貧困層と比
べても低い。衣も、安価で質のよい衣類が手に入る。安いコインロッカーに入れておけば、衣装
タンスが無くても衣類を収納しておけるし、街の至るところにコインランドリーが置かれている
ため常時洗濯ができるため、清潔なものを身に着けることができる。
また、さまざまな手段で日銭を稼ぐことも可能である。
ワーキングプアとは多少論点と捉えられ方が異なるが、ホームレスに関しては、ビッグイシュ
ーという雑誌を販売する仕事を提供し、ホームレスの自立・社会復帰をサポートするための事業
が、全国の主要都市を中心に行われている。自ら進んで仕事をしようという意欲があれば、支援
横山‐12
横山史帆■「格差社会」の形成
の手を差し伸べてくれる状態でもある。
便利な日本の文化、しくみ、そして社会的背景が、たとえ貧困層であっても、死なない程度に、
生きてゆける環境を築いてきた。しかし、この現状が、逆に貧困状態を維持させているともいえ
る。目に見えるホームレスや貧困層は、年々増加している。
2.2
海外の貧困事例
「ワーキングプア」
「難民」は国内だけにとどまらない。海外の先進国にも、ネットカフェ難民
と同等な生活を強いられている貧困層の人々が多く存在する。彼らは、どういった生活を強いら
れているのか、また、日本の貧困層とはどういった相違点があるのかを見ていき、そこから改善
策を見出せるのかを考えていく。
2008 年 1 月 23 日、国際労働機関(ILO)は、2007 年の世界雇用報告を発表した。そこには、
国連が「ワーキングプア」と定義する一日 2 ドル(約 210 円)未満で生活する労働者は〇七年に
十二億九千四百五十七万人に及んでおり、世界の労働者の 43.5%、つまり 5 人に 2 人強が、貧困
を強いられているという実態が表されている。
以下では、2007 年 12 月に放送されたNHKスペシャル「ワーキングプアⅢ~解決への道~」
では、韓国とアメリカの状況が映し出された。本節では、この番組の内容と、2008 年 7 月に出
版された、同タイトルの文献、そして海外の統計データを参照して、それぞれの国の貧困者と、
国内の現状を、以下に記していきたい。
(1)韓国の例
韓国では、大学を出ても正社員になれない人の割合が高い。日本同様に雇用の格差が社会問題
となっており、2006 年 8 月の政府統計でも全労働者 1535 万人のうち、半数以上のおよそ 845 万
人が、契約社員やアルバイト・パート勤務、派遣社員といった非正規雇用労働者として働いてい
るという。図 2.1 は、日本と韓国、それぞれの労働者に占める非正規様の割合を示したものであ
る。
繁華街内の古びたビル内に、月額 3 万円弱、広さ 2 畳ほどの貸し勉強スペース「考試院」(コ
シウォン)が存在しているが、近年、ここで生活する貧困者が増加しているという。番組で取材
した、考試院に寝泊りする 30 代の飲食店勤務の男性は、大学を卒業後、企業の研究職を志望し
ていたものの、正社員として雇用してくれる企業が無かったため、仕方なく非正規雇用労働者と
して働き続け、現在に至ったという。
考試院を住処とする貧困層の人々の姿は、日本のネットカフェ難民と全く同じ状況ではないだ
ろうか。なぜ、人々が住まいを失い、こういった場所で生活せざるをえなくなってしまったのか。
これは 10 年前の経済危機によって、外資系の企業に買収される事を恐れた国内企業が生き残り
をかけ、人件費を削減するべく非正規の雇用を大幅に増やしたためである。その結果、賃金労働
横山‐13
者に占める非正規雇用の割合は労働者の半数を超え、現在に至った。しかしこれに伴い、
「勤労貧
困層」、すなわちワーキングプアの急増が社会で深刻な問題となったため、政府は 2007 年 1 月、
「期間制(契約)及び短時間勤労者(パート労働者)保護等に関する法律」
(非正規職法)を施行
した。これによって雇用主は、2 年を超える契約職は、
「期限の定めのない契約職」に転換しなけ
ればならなくなった。また賃金や労働条件などにおける不合理な差別を禁止し、差別を受けたと
する非正規職員は、労働委員会に対し是正命令を求めることが可能になった。だが、この法が施
行される前に、多くの企業が非正規労働者を解雇するという自体が国内各地で起こった。韓国政
府は、これを労使間の問題として、そのままにしていたため、結局、非正規雇用労働者を守るた
めの法律を作っても実態は変わらないという現実が横たわったままである。韓国の放送局、CBS
の世論調査によると、国民のおよそ 4 割が今回の法を再度改正すべきだという意見を持っている
という。政府は働く側である市民の声にもっと耳を傾け、国内の雇用や貧困の問題を解決してい
こうとする姿勢を持つことが何よりも大事である事を物語っている。
日本
韓国
(『ワーキングプア
図 2.1
解決への道』より引用、作成)
日韓それぞれの賃金労働者に占める非正規雇用の割合
横山‐14
横山史帆■「格差社会」の形成
35000
32557
30000
25000
22526
20000
10000
(人)
16832
15000
12314
5000
0
2003 年
2004 年
2005 年
2006 年
(内閣府青少年白書より引用、作成)
図 2.2
韓国人の出国目的別出国者(留学)の推移
日本学生支援機構(JASSO)によると、2007 年度における韓国から日本への留学生の数は、1
万 7274 人(前年比 1300 人増)であるという。図 2.2 は、韓国人の外国への留学状況を表したグ
ラフである。2006 年までの統計であるが、2006 年度は、海外への留学者のおよそ半数が、日本
へ留学している事が分かる。
韓国から海外に留学している学生は 2007 年 12 月末現在 20 万人(アメリカ 5 万 2000 人、中
国 1 万 3000 人など)であるという。その中でも留学生が最も多い国はアメリカであり、現在、
大学の学部課程に 2 万 3000 人、大学院修士・博士課程に 2 万 4000 人の韓国人留学生が在学し
ている(韓国教育人的資源部,2008)。だが、こうした留学生の 90%は海外で就職することがで
きないまま、最近韓国に戻ってきているのが現状であるという。例えば、アメリカに留学し大学
に通うと、授業料や生活費合わせて年間約 3000 万~7000 万ウォン(約 210 万~490 万円)の費
用がかかる。4 年制大学を卒業するには 1 億 5000 万~2 億 8000 万ウォン(約 1050 万~2450 万
円)の費用がかかる。しかし、このように莫大な学費を投じたにもかかわらず、就職できない者
が数多く存在しているという。
サムスン、LG、ヒュンダイなど、韓国を代表する大企業は毎年欧米諸国を訪問し、上位レベル
の大学(ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学、ケンブリッジ大学など)に通う韓国人留
学生を対象に就職説明会を行い、毎年 500 人程度を採用している。しかし有名大学であるからと
言って誰でも無条件で採用している訳ではなく、実力あると認められた人材のみを厳選して採用
している。また採用試験も国内大卒者が受けるのと同様、筆記試験・面接という手続きを踏んで
いる。
「 優れた研究実績のある修士・博士は別途待遇するが、そうでない一般の留学生に対しては、
国内の大学卒業生と同額の賃金が支払われる」と、サムスン電子人事チームのキム・ヒョンド部
長は話しているという(中嶋,2007)。
外国企業へも、国内の大企業へも就職ができなかった留学生は、国内に戻ってくると、上述し
た非正規雇用に従事したり、最悪の場合、失業者生活を送らざるを得なくなったりとなってしま
横山‐15
う。このような人々の多くがその場しのぎの仕事として働くのが、ソウル江南地域の英語・中国
語・日本語などの語学学校である。しかし、語学学校の講師に採用されるのも外国語に堪能な者
のみに限られており、特に優秀な成績を修めた訳ではない留学経験者は、厳しい道を歩かざるを
得ないのである。
(2)アメリカの例
次に、アメリカの貧困者の例を見ていきたい。アメリカでは、以前は年収 1000 万円のプログ
ラマーだったのが、会社の拠点が海外に移されたことをきっかけに解雇され、現在はファストフ
ード店で休み無く働いても月収 15 万円、健康保険の無い状態でキャンピングカー生活を余儀な
くされている人たちがいる。アメリカにおける貧困層の実態、そして貧困が発生した原因につい
て考えると、グローバル化による事業の海外進出、人件費の削減といった要素が下へ下へと転嫁
されていき、そのしわ寄せが結果的にワーキングプアを生み出しているのだと考えられる。
グローバル化が賃金の低下や貧困者の増加を引き起こしたその一方で、経営陣は莫大な財を築
いているという現実も存在する。第 2 章で、日本国内の富裕層の増加した原因について述べたが、
これはアメリカでも同様のことが言えると考えて良いだろう。貧困者を保護する法や制度の無い
アメリカでは、貧しい人は更に貧しい生活を送らなくてはならないのだと推測できる。
米国勢調査局(Census Bureau)が 2005 年 8 月 30 日に発表した、2004 年度におけるアメリ
カ合衆国の貧困者数・貧困率を表したものが図 2.3 である。貧困率は 12.7%で、人数にするとお
よそ 3700 万人が貧困ライン以下の生活(夫婦と、子供 2 人の計 4 人暮らしで、年間世帯収入が
19157 ドル以下の過程を、貧困家庭と定義する)を送っている。
人種別でみると、アジア系米国人のみ貧困率が減少しており、2003 年度の 11.8%から 2004 年
度は 9.8%となっている。最も貧困率が上昇しているのは白人層で、2003 年度の 8.2%から 2004
年度は 8.6%に上昇した。その他、アフリカ系やラテンアメリカ系アメリカ人の貧困率はこれよ
りも高いが、過去と比較してもほぼ横ばい状態であり、白人の貧困率のみ徐々に上昇している。
アメリカにおける貧困層の問題で、よく取り沙汰されるのが健康保険と肥満の問題である。
2007 年 8 月、マイケル・ムーア監督による、国民皆保険制度がないアメリカの医療問題を扱っ
た作品現在『シッコ』が公開され、日本をはじめとする、全世界で話題となったことが記憶に新
しい。アメリカの総人口はおよそ 2 億 8142 万人(2000 年国税調査に基づく)であるが、国が運
営する国民皆保険制度がないため、国民の多くは民間の保険会社に加入するしかなく、6 人に 1
人が無保険状態で、毎年 1.8 万人が治療を受けられずに命を落としているという。2004 年度にお
ける米国民の医療保険未加入率は 15.7%で、およそ 4580 万人が医療保険未加入であり、前年か
ら 80 万人ほど増加した。
なぜ、このように国民の多くが医療保険という生活に無くてはならない福祉制度を欠いた状態
での生活を余儀なくされているのか。アメリカの医療保険の大半は、HMO(健康維持機構)と
いう、民間の保険会社が医師に報酬を支払って管理するシステムを採用している。
ここから生まれる弊害は、保険料を払っているのに、いざ病気になると保険金が支払われない
という状態を引き起こしている。診察や治療を行った医師が、
「この治療は不要である」と判断す
横山‐16
横山史帆■「格差社会」の形成
出典:Census Bureau 2005
図 2.3
アメリカの貧困層人口と貧困者の割合の推移
る事によって、保険会社は「無駄な保険料を払わなくて済んだ」という事で、医師へ報奨金を支
払っているためである。利潤を追求する民間企業が医療という人間が生きていくためには必要不
可欠な分野に関与することによって、高額な医療費を請求されてしまい、必要な治療を受けられ
ず、それによって命を落とす患者が絶えないという(マイケル,2006)。日本でも、失業してい
たり、生活保護を受けていたりなど様々な理由によって国民健康保険料を払えない人が多い。ま
た、現在は国民年金保険料や社会保険等の保険料の収納業務が民間に委託されているなど類似し
ている面も多い。
問題となっているのは医療保険制度だけではない。国民の肥満問題も、貧困層と関連付けて、
考えられることが多い。大量生産で市場に送り出される安価なファストフード、レトルト食品、
そして飲料等が、低所得層の食生活の中心になっている事が原因と言われている。スナック菓子
やファースト・フードなど、安価で大量生産ができる高カロリーの食物がアメリカ国内に根付い
ている。この結果、二つの要因の重なりが、低所得者層の心臓疾患や糖尿病のリスクを高め、現
在のアメリカを肥満大国にした主要因ともいえる(堤,2008)。
その一方で、現在ではオーガニック(有機農法、有機栽培)やヘルシーな日本食がブームとな
っている。ハリウッドスターやセレブがこれに飛びついたのをきっかけにこの市場は毎年拡大す
る一方である。どのスーパーにもオーガニック製品が並び、専門店も人気を博している。日本食
も、特別な店でしか食べることのできないものではなくなり、近年は豆腐やおから等が、身近な
スーパーの食品売り場で見かける機会が多くなった。この事から、人々の食意識のなかに、いか
に強くヘルシー志向が根付いたかが伺えるであろう。
横山‐17
「こういった、健康的で安全な食品を進んで買い求める人は教育水準が高く、食に対する十分
な知識を持っており、さらに買い求められるだけの所得を得ていると考えられる。今、アメリカ
のオーガニック市場は、
『 買う』という選択をできる人たちだけをターゲットに拡大を続けている。
ここでいう、賢い消費者というのは、
『富める人』と同義語であると言えるだろう(堤,2008)。」
という見解もある。
人々の、健康や食生活に対する意識や配慮は所得格差と結びついている。現に、高所得者層で
健康への意識の高い人々は、アメリカ同様、マクロビオティック(玄米や穀物菜食をメインとし
た長寿法)やオーガニック、ロハスといった健康的な食生活を取り入れていたり、関心を持った
りする人が多い。その一方で、昨今のように報じられている中国産食品から、様々な有害化学物
質が検出された、というニュースは、所得の低い人々は健康や安全に配慮するよりも安価な外国
産食品を購入し食べざるを得ない、という事を暗示しているのともいえる。アメリカにおける事
実は、決して人ごととは言えない。
2.3
ニート、フリーターとワーキングプア
また、現在はニートとフリーターの問題も、貧困に直結した問題として取り上げられている。
2005 年の労働経済白書によると,ニートの数は全国で 64 万人,フリーターは 213 万人とされて
いる。ニートのうち 25 歳から 29 歳は 19 万人,30 歳から 34 歳までは 18 万人という結果であっ
た。定職をもたず、様々なアルバイトを転々とする「フリーター」の増加、そして高齢化が懸念
されている。
内閣府は、2008 年 11 月 21 日、2008 年版の「青少年の現状と施策」(青少年白書)を発表し
た。この中では、若者の間で派遣や契約社員、フリーターなど非正規雇用の割合が増えており、
10 代後半では、ここ 15 年間で 72%に倍増。内閣府は「中卒や高卒の若者が正規雇用職員になれ
ず、非正規雇用に流れるケースが増えたのが要因」としている(内閣府、2008)。
総務省の就業構造基本調査によると、雇用者全体に占める非正規雇用者の割合は、15-19 歳が
1992 年の 36%から 2007 年には 72%に、20 歳から 24 歳の層は 17%から 43%にそれぞれ増え
た。非正規雇用の比率は全年代で増えているが、25-29 歳(12%から 28%)、30-34 歳(14%
から 26%)に比べると、24 歳以下の増加幅が大きいという。
また、図 2.4 の、文部科学省による、
「学校基本調査」の「卒業者にしめる就職も進学もしない
者の割合(大学学部卒)」というデータを見てみると、2004 年度の該当者の割合は約 20%であっ
た。これは、図で考えると 10 万人である。
横山‐18
横山史帆■「格差社会」の形成
(文部科学省「学校基本調査」より引用)
図 2.4
卒業者に占める就職も進学もしない者の割合(大学学部卒)
一般に大学卒と言えば、世間では十分に高学歴であるとみなされる。しかし就職もせず、進学
もしない大卒の人間は、一体どのような生活を送っているのか。
水月昭道著の『高学歴ワーキングプア』という本があるが、ここでは、彼らの貧困の現状が記
されている。有名国立大の大学院を修了したにも関わらず、非正規雇用労働に従事している者が
少なくない。家庭教師やコンビニのアルバイトを掛け持ちしながら働いても、月収 15 万ほどに
しかならない男性の生活や苦悩がつづられている。こういった例は比較的稀な例であるし、学部
卒者との相違点も見受けられると思うが、高学歴にも関わらず、そのような厳しい生活を送って
いる人が存在することも忘れてはならないと思う。
次に、ニートについて考えたい。定職を持たず収入のないニートの増加は、個々人においても
将来の生活設計やマネープランなどを考えると大きな問題をはらんでいるばかりか、日本全体と
しても競争力を低下させ、税収の減少につながり様々な面で日本経済への負の影響が懸念される。
かつての日本社会は、非行少年を社会が受け入れ更正を促す「寛容と育成のメカニズム」を持
っていた。彼らを受け入れる人と職場のネットワークが機能して,非行少年は社会に組み込まれ,
「社会性を持つ大人」になることができた。そのメカニズムの弱体化が,フリーターやニートを
生む要因の一つとなっている、とする見解(浜井,2007)もある。
彼らを問題視するにあたって注目すべき点は、所得が少ない、もしくはゼロであるため、安定
した生活を送っていくことが難しいという事である。フリーターを例にとって考えると、定年ま
で働いた場合の生涯賃金を正社員と比較すると、何倍もの開きがある。表 2.1 は、正規雇用であ
る正社員と、非正規雇用それぞれの平均年収と生涯賃金を比較したものである。
横山‐19
表 2.1
雇用形態別の平均年収・生涯賃金
平均年収(万円)
生涯賃金(万円)
フリーター
106
6176
派遣・契約社員
266
1 億 4800
正社員
489
2 億 4221
(厚生労働省
2005 年賃金構造基本統計調査より引用、作成)
このように、年収、生涯賃金を見ると、フリーターは正社員と比較すると 4 倍以上もの開きが
ある。そればかりではない。正社員にはボーナスが支給されるし、住宅手当、扶養手当、社会保
険などといった、目に見えない福利厚生の制度も受けられるため、若いうちはフリーターの方が
給与が良かったとしても、やはり正社員のほうが安定しているといって良いだろう。また、老後
には更に格差が広がる。退職金や年金制度の問題が絡んでくるからだ。フリーターの場合、将来
受けられる年金は国民年金(老齢基礎年金)のみであり、老齢基礎年金は月額にして 6.6 万円が
上限で、未納期間に応じて少なくなる。
昨今「消えた年金」問題で、毎月しっかり年金を払っていたにも関わらず、未納扱いされてい
たという事が問題になっており、今後、正社員でも正しく年金を受給できるかどうかは疑問では
あるが、いずれにせよ、フリーターをはじめとする非正規雇用よりは福利厚生制度の面で優遇さ
れているという事は変わらない。
こうした年収・福利厚生に関連した格差以外にも、金融機関を利用する際の信用問題という事
にまで、正社員と非正社員の間には格差が存在しているのが現実である。
フリーターという働き方を選択している人々は、その就労形態だけではなく、人生設計までも
おおきな影響を受けるのである。
3
広がる格差と非正規雇用
格差が広がっているのは日本だけではない。他の先進国でも同様、格差社会化がおこっている
のである。1 章では、近年における貧困層の拡大と、ワーキングプア、ネットカフェ難民のはじ
まりについて、そして 2 章では、アメリカと韓国の貧困層の事例について述べた。では、その格
差というのはどのような原因から生じたのか。今章では、格差が発生した原因を、雇用と所得の
2つの視点から考えていきたい。
横山‐20
横山史帆■「格差社会」の形成
3.1
貧困と富裕
貧困層が増える一方で、富裕層の割合も同時に増加している。
第一生命経済研究所の経済関連レポート『富裕層ビジネスは 10 兆円の消費市場』によると、
年間所得 2,000 万円超の人の数が、1990 年~2005 年の 15 年間でおよそ 1.9 倍に増加した。その
消費総額は、2006 年の推計でなんと 10.4 兆円である。これは、全国民が 1 年間に負担する消費
税総額に匹敵する規模であり、2002 年の約 8 兆円から 4 年間で 30%増となっているのだという
(熊野,2007)。
図 3.1 は、現在、日本では富裕層の人口が、インドの人口増加率(1.4%)を上回る勢いで増殖
している事を表している。純金融資産を 1 億円以上持つ、富裕層~超富裕層が、日本国内の世帯
内中、全体の 1.8%しかいないのに対し、国内の金融資産のおよそ 5 分の 1 を保有しているとい
うのが現状である。
(出典:週間ダイヤモンド 2008 年 8 月 30 日号)
図 3.1
国内の富裕層の実態
では、このような層が増加した理由は一体何なのか。その理由としては、景気拡大のほか、株
式の新規公開(IPO)や企業の合併や買収(M&A)の積極化が挙げられる。2006 年の日本企業
の M&A 件数は 2,775 件と、史上最高を記録した。また、株式公開件数も 155 件と、2000 年の
横山‐21
157 件に次ぐ実績を記録した(室佳,2007)。このような要因から、戦後最長の景気拡大が続く
中、新興企業の台頭と企業再編の活発化が富裕層の拡大をもたらしたと言えるであろう。
貧困と富裕という、この相反する層がなぜ、この 10 年間で同時に増えたのか。筆者は、近年
問題化している派遣労働者やフリーターなど、非正規雇用の労働者が増加したのが直接の原因だ
と考えた。非正規雇用者の増加によって新たなビジネスが作られ、経営者らはそのビジネスに成
功し、巨額の富を得て、裕福な層になった。しかしその一方で、働き手となる労働者達は人件費
を抑えられて搾取され、結果としてワーキングプアのような貧困状態に陥ってしまわざるを得な
くなってしまったのである。それが現在、格差と呼ばれるものである。
3.2
非正規雇用
前項では、格差というものは非正規雇用の増加から生じたのではないかと記述した。今項では、
非正規雇用労働者の定義や彼らをとりまく環境、社会について説明していきたい。
非正規雇用とは、パートやアルバイト、派遣、契約社員のように、有期雇用で、正社員以外の
雇用形態の事を指す。反対に、特定の企業と継続的な雇用関係をもち、雇用先の企業においてフ
ルタイムで働くような雇用形態の事を正規雇用という。非正規雇用は現在、特に若年層において
の人数が増加しているといわれているが、なぜ増えたのかという理由については、雇用される側
は高校や大学を卒業したにも関わらず就職口が無く、非正規雇用で働かざるを得ない状況がある
ことなどにも起因しているといわれている(具体的な非正規雇用者の増加の推移は、図 3.2)。
(出典:週刊ダイヤモンド 8 月 13 日号)
図 3.2
雇用形態別雇用者の推移と派遣社員数
横山‐22
横山史帆■「格差社会」の形成
企業が非正規雇用を行うメリットとしては、雇用保険料や社会保険料を支払わなくてすむため、
人件費といったコストが正規雇用に比べてかからない、低コストで効率的に仕事を進められるた
め、生産効率性が向上する、といった事が挙げられる。だがその一方で、仕事のノウハウの蓄積
や伝承が難しい、外部への機密漏えいのリスクがある、といったデメリットも存在する。
現在はもはや、非正規雇用の労働者が、賃金労働者の 3 分の 1 以上を占めている。その割合は、
1987 年から 2007 年までの遍歴をたどると、ここ 10 年間で大きく増加しており、中でも契約社
員や派遣社員の増加率が顕著である。これは、派遣の規制が緩和されたことが大きな理由である。
ここで、契約社員と派遣社員について、簡単に説明する。契約社員とは、企業の従業員のうち、
企業と有期間で雇用契約を結んで働く労働者の事である。契約社員は、ある一定の期間の間だけ、
直接企業と雇用契約を結んでいる点で正社員や派遣社員とは区別する。つまり、契約社員は有期
雇用契約である。アルバイトとの明確な区別はないが、通常アルバイトは雇用契約書を交付しな
いことが多く、給与体系は時給制で、勤務時間もある程度希望が取れ、選択できる(シフト制)
のに対し、契約社員では雇用契約書を交付し、給与体系は月給制で勤務時間もフルタイムでの出
勤、もしくは固定された時間で働くことが求められるなど、正社員とほぼ同等の処遇になってい
るケースが多い。だが、先にも述べたように、有期雇用契約であるため、継続的な雇用は保証さ
れておらず、アルバイトや派遣社員同様、通常短期での労働形態となっている。また、社会保険
など、福利厚生の面において不十分な場合が多い。
(出典:日本経済新聞 2008 年 9 月 8 日
図 3.3
国内の派遣社員数の推移
横山‐23
夕刊)
その一方、派遣社員は、労働者派遣法のもと、派遣事業主と雇用契約を結び、他の事業主のた
めに派遣された労働者の事を指す。請負とは異なり、事業主の指揮下に直接入って働く。正社員
やパート、アルバイトが直接雇用とされるのに対し、派遣社員は間接雇用とされ、派遣先の事業
主にとっては必要な時に必要な人材を必要な期間だけ確保することができるため、利便性が高い
のが特徴である。
3.3
派遣労働の実態
前項では、非正規雇用形態の概要について述べた。そこで今項では、近年、その労働実態や雇
用契約などが社会問題に発展している、派遣労働について、より深く論じていきたい。
前述の通り、派遣労働者は、派遣先である他の事業主に派遣されて派遣先の指揮命令を受けて、
そこで働く労働者のことを指す(図 3.4)。
図 3.4
派遣労働のしくみ
労働者保護の観点から、派遣業は許認可制となっており、業種や期間も労働者派遣法によって
制限されている。また、派遣の形態によって呼称が区別されている。自社の常用雇用者を派遣す
る形態をとるものを「特定労働者派遣」、臨時・日雇い労働者など特定労働者派遣以外のものを「一
般労働者派遣」、派遣先企業への就職を前提とし、一定期間の就労の後、派遣先企業と派遣労働者
の合意があれば派遣先企業へ就職することを前提とした「紹介予定派遣」がある。一般労働者派
遣の中で、1 日限りの日雇い派遣のことを「スポット派遣」と呼ぶ場合もある。
労働者派遣法が施行されたのは 1986 年である。それ以前は、派遣は職業安定法が禁止する労
働者供給事業にあたるとして認められていなかった。しかし、労働需要のマッチングをはかるた
めの例外として禁止が解除されたのだ。その当時の派遣業務というと、専門性が高く、かつ一時
的に人材が必要となる 13 の業種(IT、福祉など)に限られていた。
その後、産業構造の変化や労働者側のニーズの高まりなどもあり、1999 年の労働者派遣法の改
横山‐24
横山史帆■「格差社会」の形成
正によって、派遣業務の原則自由化が認められた。それによって、禁止業種(警備、建設、港湾
業務等)以外の 26 業務への派遣が可能になった。更に 2004 年には、製造業務への労働者派遣が
可能となり、対象となる業種の範囲が大幅に拡大し、派遣社員の受け入れ期間も原則 1 年から 3
年に伸び、26 業務は上限期間が撤廃された。
しかし、この規制緩和に伴い、雇用者と雇用される側の間で様々な障害が生じるようになった。
日雇い派遣の禁止など、労働者派遣法の改正が議論されるなか労働派遣のあり方への関心が高ま
ってきている。
昨年、厚生労働省は派遣労働者の労災件数を初めて明らかにした。表 3.1 は、厚生労働省が発
表した、過去 10 年間の「労災かくし」による送検件数の推移である。労災隠しとは、
「故意に労
働者死傷病報告を提出しないこと」又は「虚偽の内容を記載した労働者死傷病報告を所轄労働基
準監督署長に提出すること」をいい、このような労災かくしは適正な労災保険給付に悪影響を与
えるばかりでなく、労働災害の被災者に犠牲を強いて自己の利益を優先する行為で、労働安全衛
生法に違反する。労災の形態によっては、管理者が業務上過失致死傷罪などの刑事責任を問われ
ることがある(厚生労働省、2006)。本来は労働者が労働災害により負傷した場合などには、休
業補償給付などの労災保険給付の請求を労働基準監督署にしなければならない。しかし、この報
告届出を面倒に思い提出しなかったり、あるいは、労災発覚による会社のイメージ低下や入札の
指名停止被処分などの実害を嫌悪し、労災が起きたこと自体を使用者が隠匿し、
「労災隠し」を行
う場合がある。給付が行われない分は使用者が補償したり、より悪質な場合はそのまま自費で治
療させたりする。これには被災した労働者の「これ以上迷惑を掛けたくない」
「自分は派遣労働者
だから」という意識もあろうと推察される。しかしこれは使用者の優越的な立場を悪用した強制
のみならず、同業や他業への展開を妨げ、対策の確立や再発防止・予防を妨げる行為であり、発
覚時には使用者がより厳しく罰されるのだが、なかなか絶えないのが現実である。
派遣の規制緩和、そして非正規雇用労働者の増加に伴い、件数が年々増加しているのが分かる。
派遣労働者の安全確保が十分には行われていないことがわかる。
労災は、製造業における発生が多数を占め、以前から認められている専門業務ではほとんどみ
られない。特に日雇い派遣などに見られる短期の派遣では、労働者が日々変わり仕事をするうえ
での安全教育がおろそかになることは容易に予想される。実際「現場に行かないと仕事の内容が
分からない」という労働者の声が少なくないのが現状である。経営者が人集めの容易な派遣労働
を重宝がる気持ちも分かるが、労災防止は最低限の責任だ。厳しい現状を示した、表1のデータ
は、派遣の在り方の見直しが早急に行われるべきであることを物語っている。
表 3.1
「労災かくし」による検察庁への送検件数の推移
(労働安全衛生法第100条及び第120条違反)
平成 10 年 平成 11 年 平成 12 年 平成 13 年 平成 14 年 平成 15 年 平成 16 年 平成 17 年 平成 18 年 平成 19 年
件数
79 件
74 件
91 件
126 件
97 件
132 件
132 件
115 件
138 件
140 件
(厚生労働省,2008)
横山‐25
また、図 3.5 のように、正社員と非正規社員の賃金の格差にも大きな違いが出ている。正社員
の賃金が一貫して上昇しているのに対し、非正規社員は上昇率が少なく、30 代後半からほぼ横ば
いになり、その後は 25 万円前後で推移しているのが分かる。これは男性の雇用形態間の賃金格
差を表したものであるが、女性は男性よりも更に非正規雇用者が多く、働く女性の中で、正規雇
用者は全体の 3 割にとどまっている。男性以上に正規社員との賃金格差が大きいと考えられる。
年間給与所得 200 万円以下の「貧困者」の多数を女性が占めているのではないかとも考察される。
これらの問題は、ワーキングプアが発生する理由と同根といえるだろう。
(出典:週間ダイヤモンド 2008 年 8 月 30 日号)
図 3.5
雇用形態間賃金格差
さらに、2008 年は、派遣労働をめぐり、様々な問題があった年である。
グッドウィルやフルキャストといった、大手日雇い派遣会社が、法律で禁止されている港湾運
送への派遣や二重派遣を繰り返したため、業務停止処分を受けた。これによって業界最大手のグ
ッドウィルは 7 月に廃業に追い込まれ、フルキャストも 2009 年 9 月までに日雇い派遣業務から
完全撤退すると発表した。これをきっかけに、政府の労働政策審議会は、日雇い派遣はワーキン
グプアの温床になるとして、日雇いまたは 30 日以内の短期派遣を原則として禁止し、派遣会社
が同一グループ内に派遣する人員の割合を 8 割以下にすることなどを求めた建議をまとめた。そ
して現在、法案化に向けて進行中である。
しかし、日雇い派遣が原則禁止になると、今以上に多くの問題が生じてくる。厚生労働省の調
査によると、日雇い派遣で働く労働者の半数は、
「働く日時を選べて便利」だと答えている。また、
その日働いた分の給与が当日に支払われる場合が多いため、給料日を待たず、すぐに給与が渡さ
れるという事も、労働者にとっては大きな魅力のひとつではないかと考えられる。日雇いが禁止
横山‐26
横山史帆■「格差社会」の形成
されてしまうと、引越しや運送業務など、常に人手不足で、労働者の多くをスポット派遣の労働
者に依存している業界が大きなダメージを受けてしまうことになる。また、労働者にとっても多
数のデメリットが生じるであろう。日雇い派遣労働に従事しているのは、それを生業として生計
を立てている人だけではない。子育ての合間に生活費を得ようとする主婦や、休日の副業にあて
るサラリーマンなどにとっても日雇いは便利な働き方として定着している。日雇いの禁止は、彼
らから稼ぐ手段を奪うことにもなりかねない。
また、東京大学の佐藤博樹教授は、
「正社員で働きたいがやむなく派遣で働いている人には、正
社員の転換を支援する政策が必要だ。」と話しているように、非正規雇用労働者に対する、早急な
労働環境の改善が必要とされている。
職場では苗字で名前を呼んでもらうのではなく、「アルバイト」「派遣さん」などと言われ、社
会保険等、福利厚生も正社員とは大きく待遇や条件が異なり、
「いつ契約を打ち切られるのか」と
いう不安に晒されながら働く非正規雇用者たち。就業時間外は一切労働せず、あくまでビジネス
に徹し、時給 3000 円を稼ぐホワイトカラーの“スーパーハケン”は、まさにドラマの中だけの
存在であろう。実際には上述のような厳しい現状が存在する。
非正規という雇用形態を選んで、もしくは選ばざるを得ない状況で働いている人には、派遣と
いう働き方の特徴を生かした処遇、労働環境の改善を考えていく視点が重要でないかと思われる。
NHK の「ワーキングプア」シリーズ放送後、各地でワーキングプアをテーマとしたシンポジ
ウムが開かれ、それに関係する書物も多く出版された。国会でも取り上げられるようになり、以
前は消極的だった政府も対策案を打ち出すようになった。
2008 年 7 月に開催された洞爺湖サミットに先駆け、厚生労働省は 6 月に、5 月 11 日から 13
日にかけて新潟県で開催された「G8労働大臣会合2008」の議長総括などを公表した。内容
は「グローバル化と長寿化を背景に、個人の人生の充実を図るための方策を議論。G8各国の経
済・生活は平均としては高水準であるものの、一方では格差が拡大していることから、平均像で
はなく個別の労働者1人ひとりに着目した対応が必要であるという点で合意」したとされている。
金融市場の動向、労働分配率の低下等を踏まえ、生活・賃金水準や格差解消が課題だとしている。
しかし、ワーキングプアの問題は、雇用や社会保障、高齢化や経済のグローバル化など、様々
な要因が複雑に絡み合っており、解決はそう容易いことではない。この問題とどう向き合い、ど
う解決していこうと考えるのかが、大きな鍵を握っているのではないだろうか。
横山‐27
4
メディアに晒される貧困者たち
4.1
NHK スペシャル「ワーキングプア」
日本では、数年前から格差の広がりが盛んに議論されている、しかし、日本の「貧困」をテー
マにした論評やレポートは、ほとんど目にすることができなかった。ましてや、それをテレビな
どのメディアで報道する機会もほとんどなかった。その上、格差の論議は往々にして妙な言い逃
れをうんでいた。例えば「格差は本当にあるのか」
「例え格差があったとしても、それが競争社会・
成果主義の結果であるならば仕方ないのではないか」といった流れになっていたのである。
そんな中、NHKは豊かな日本社会において、働いても生活保護水準以下の暮らしを強いられ
ている「ワーキングプア」が急増している現実を 2006 年 7 月 23 日と、同年 12 月 10 日の 2 回
に渡って報じた。
景気回復から取り残された地方経済、労働政策のしわ寄せのあおりを受ける若者、高齢者や母
子家庭に焦点を当て、この貧困が構造的な社会問題である事を告発した作品であった。現代日本
社会の負の側面を鋭く切り取り、放送後に「ワーキングプア」という言葉を国民に定着させたキ
ャンペーン報道として高く評価され、2007 年度の新聞協会賞の編集部門において、協会賞を受賞
した。
「戦後最長の好景気といわれているが、それを実感できないのはなぜなのか」
「真面目に働いて
いるのに、貧しい人たちがいるのはどうしてなのか」。そのような疑問から、NHK のワーキング
プア取材は始まったのだと、NHK 報道局取材センター社会部副部長の中嶋太一氏は、受賞イン
タビューで述べている。
格差も貧困者数も年々拡大しているのが現状で、NHKの「ワーキングプア」の報道をきっか
けに、マスコミでは格差社会の一部として「働く貧困層」を頻繁に取り上げるようになった。夕
方のニュースやドキュメンタリー番組、新聞、政治番組など、さまざまな場面で露出が増え、言
葉が定着していったといえ、影響は大きかったといえる。
NHKの放送後は、他局でもネットカフェ難民、路上で宿泊する人や貧困家庭を追うドキュメ
ンタリー、実際に取材者が携帯電話を利用して人材派遣会社からの仕事を体験しそれを番組にす
るなど、貧困層たちの悲惨な現状が報道されていった。NHK の番組はこのきっかけとなった。そ
こで、次項以降、格差とメディアの関係を考察していく。
横山‐28
横山史帆■「格差社会」の形成
4.2
増えるメディアへの露出
もはや「格差」という言葉を目にしたり、耳にしたりしない日は無いのではないだろうか。第
1章で述べたように、昨今は、格差や貧困が、盛んにメディアに取り上げられ、その数は年々増
えてきている。では、実際、
「ワーキングプア」や「格差」、
「ネットカフェ難民」といった言葉は
どの程度、人々の意識に定着したのか。
表 4.1、表 4.2 は、1988 年 1 月 1 日から 2008 年 9 月 30 日までの主要 5 誌(朝日、毎日、読
売、日経、産経)の、「ワーキングプア」「格差社会」という言葉が新聞記事内でどの程度使用さ
れているのかを調べたものである。NHK のワーキングプア放送後の 2006 年以降、大幅に使用さ
れる頻度が高くなっていることが表から読み取れる。
表 4.1
「ワーキングプア」という言葉が取り上げられた新聞記事数
1988 年
1994 年
1996 年
朝日新聞
1997 年
1件
毎日新聞
1件
1件
読売新聞
日経新聞
1件
産経新聞
表 4.2
1988 年
朝日新聞
2件
毎日新聞
1件
読売新聞
2007 年
2008 年
27 件
143 件
97 件
13 件
94 件
71 件
7件
86 件
83 件
39 件
47 件
36 件
6件
24 件
20 件
「格差社会」という言葉が取り上げられた新聞記事数
1999 年
1件
2000 年
2001 年
2004 年
2005 年
2006 年
2007 年
2008 年
1件
1件
7件
71 件
273 件
126 件
109 件
1件
1件
3件
29 件
204 件
261 件
91 件
4件
24 件
119 件
114 件
173 件
6件
61 件
58 件
22 件
4件
73 件
63 件
26 件
日経新聞
産経新聞
2006 年
1件
2007 年、2008 年は、「ワーキングプア」「格差社会」というキーワードを用いられた記事数が
大幅に増えた。中でも社説、読者の投書欄での掲載が特に目立った。2007 年は、NHK「ワーキ
ングプア」シリーズの論評や、格差社会と日本の経済政策を関連付けた記事数が多かった。2008
年は、6 月に秋葉原で起こった連続殺傷事件などの殺人・傷害事件や、同年大ブレイクした小林
多喜二のプロレタリア小説『蟹工船』や大手派遣会社の廃業、日雇い派遣の原則禁止といった出
来事を格差や貧困問題と関連付け、意見を述べているものが多かった。この事から、人々は格差
横山‐29
や貧困を、自分たちの身近な問題として受け止め、考えている姿勢がうかがえる。
次に雑誌記事について考察していく。
図 4.1、4.2 は、2006 年 1 月 1 日から 2008 年 10 月 31 日までのおよそ 3 年間の間に、
「格差社
会」
「ワーキングプア」という言葉が記事中に含まれている雑誌の数を月別に表しているものであ
る。前述の新聞記事のデータと比較・検討していきたい。
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
1月
5月
9月
図 4.1
1月
5月
9月
1月
5月
9月
月別雑誌引用記事数(ワーキングプア)
50
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
1月
4月
7月 10月 1月
図 4.2
4月
7月 10月 1月
4月
7月 10月
月別雑誌引用記事数(格差社会)
1 章で述べたとおり、NHK「ワーキングプア」報道以前は、「ワーキングプア」という言葉が
メディアで取り上げられる場合は、海外における貧困事例を引用する場合においてのみであった。
しかしこの番組が大きな反響を呼んだため、2006 年の 7 月の放送後は、少しずつではあるが、
引用されはじめ、2006 年の 12 月には番組の再放送と続編の放送があった。このため、年明けに
記事数が増加し、翌年初春から初夏にかけて、多くの雑誌、新聞記事でワーキングプアに関する
記事数が目立ったと考えられる。
横山‐30
横山史帆■「格差社会」の形成
4.3
メディアでの取り上げられ方の変化
それ以前は別の捉え方をされてメディアで報じられてきたことが、格差と関係付けられ、とら
えられるようになったものがある。ここでは、そのケースを紹介していきたい。
(1)大家族
「○男○女!大家族奮闘記!」といったタイトルで、各テレビ局で年に数回は大家族を取り上
げた特別番組が放送されている。その中でも、近年は「格差」の意味合いが含められ放送される
ようになってきたようである。それまでの大家族と言うと、子沢山で、生活苦ながらも家族みん
なで協力し合いながら生活している、いきいきとした取り上げられ方をされていた。しかし最近
はそういった要素だけではなく、格差や貧困と結び付けられ、特別番組のみならず夕方のニュー
ス番組などでも放送されるようになった。このような形の放送が多くなった理由としては、やは
り、近年の、人々における、格差社会に対する関心があるといえよう。
大家族番組のメインターゲットは恐らく、30 代から 40 代の主婦層であろう。この世代は、結
婚して子供もおり、他の家庭に対しての興味や関心が強い。それゆえ、自分の家とは異なる環境
の家庭を「のぞき見」したいと思っている人々が多いのであろう。だが、他人の家を見るにして
も、自分の家庭と似たようなところを見たのでは何の面白みも感じない。そのため、非日常的で
特別な家庭、すなわち大家族がそこで取り上げられるのであろう。
一般的な家庭の何倍も多くの子供を抱え、3DK の営団アパートで家族全員が寝起きをする。父
親の給料日まではギリギリの極貧生活…。そういった、格差社会の一片を織り交ぜた、非日常的
な状況をテレビが映し出し、主婦たちがそれを見ることによって「うちはあそこまで酷くないか
ら大丈夫」
「やっぱり、貧乏子沢山っていうのは本当よねぇ」などと感じ、今日のような格差社会
においても、自分たちの生活はまだ大家族よりは優れているということを再認識する事ができる
ような、一種のアンチテーゼであるといえる。
(2)お笑い・バラエティ番組内における「貧乏ネタ」
昨今、元「貧乏」タレントが人気を博している。お笑い芸人である麒麟の田村浩は、自ら中学
生時代に体験した公園での生活を『ホームレス中学生』として書籍化し、大きな反響を呼んだ。
また過去には貧乏暮らしをする人々の生活を映し出したバラエティ番組も存在していた。2007
年 12 月まで放送されていた「銭形金太郎」である。番組内では、「ビンボーバトル」と称して、
お笑い芸人達が全国の極貧生活をしている人々を取材し、彼らがどれだけ「ビンボー」であるか
をスタジオゲストに判断してもらい、各回で一番ビンボーだと判断された人には賞金をプレゼン
トする、といった番組内容であった。
横山‐31
(2005 年 4 月 6 日放送分)
図 4.3
(2004 年 8 月 28 日放送分)
バラエティ番組「銭形金太郎」(テレビ朝日)
しかし、取材前にテレビ製作側から指示を受けて、わざと貧乏生活を送っているように見せか
けるなどしており、実はビンボー生活はやらせであった事が発覚する。やらせの内容としてはス
タッフが取材対象者の食事メニューを捏造したり、生活費、月収をより低く見せるために誇張し
たり部屋を必要以上に汚くみせていた、などが挙げられる。それ以降は、ビンボー生活の放送は
するものの「大自然の中、自給自足で生活するビンボーさん」を紹介する方向へ変化していった。
(3)派遣労働者を題材にしたドラマ
昨今は、派遣労働者や、契約社員など、非正規雇用労働者をメインキャラクターとしたドラマ
が少なくない。その中で最も有名なものとしては、2007 年に、日本テレビ系列で放映されたドラ
マ「ハケンの品格」が記憶に新しい。
(日本テレビ
ハケンの品格 2007 年 3 月 14 日放送分より引用)
図 4.5
日本テレビドラマ「ハケンの品格」
横山‐32
横山史帆■「格差社会」の形成
これは、正社員と派遣社員のバトルを描いたもので、給料は「時給制でボーナスなし」「交通費
は原則自己負担」「3 ヶ月ごとに雇用契約の見直し」という労働環境で働く派遣社員・大前春子が主
人公である。彼女が働くのは東京・丸の内にある一流企業。そこには「正社員>派遣社員」という明
確な「格差」が存在していた。今の世相を映したどこにでもあるような会社。その中で、「時給 3000
円」の「スーパーハケン」大前春子だけが「わずらわしい人間関係は一切排除」というモットーのも
と、不遜な態度をとり続ける。 派遣社員を差別する正社員に対しては、「働かない正社員がいてく
れるおかげで、筆者たち派遣はお時給をいただけるのです。それが何か?」「筆者は会社に縛られる
ような奴隷にはなりたくなりません」と見事な反撃をしたり、社内でトラブルが発生した際は、ピ
ンチを救ったりと、様々な活躍を見せていた。
また、2008 年 10 月には、同じ日本テレビ系列で、
「OL にっぽん」が放映された。主人公は正
社員であるものの、海外からの派遣労働者や、業務委託など、派遣に関する問題点が多く存在し
た内容となっており、派遣労働者の多い昨今の企業風景をリアルに描写した作品となっていた。
(4)企業の内定取り消し・業績悪化による派遣解雇報道
昨今は、急速に景気が悪化している。会社の経営が悪化し、倒産したりして、そこで働く労働
者たちは解雇を余儀なくされてしまったり、入社前の学生が内定を取り消しされてしまう、とい
うパターンが少なくない。
2008 年は内定取り消しと、派遣労働者の解雇や、生産工場閉鎖のニュースが目立った。以下の
文は、内定取り消し報道および派遣切りに関する新聞記事である。
日本銀行が 15 日発表した企業短期経済観測調査(短観)は、米国発の金融危機によ
る今回の不況が、第一次石油危機(73 年)や金融危機(97 年)といった過去の深刻な
景気後退期に匹敵する恐れがあることを示した。雇用や設備の過剰感も急速に悪化して
おり、企業から個人へ向けた負の連鎖も避けられない情勢だ。(省略)特に目立ったの
は雇用環境の悪化だ。雇用判断 DI は全規模・全産業で 6 ポイント幅悪化のプラス4と
なり、04 年 9 月調査以来の過剰に転じた。各企業は従業員の余剰感を強めており、自
動車産業などではじまった非正規社員を中心としたリストラの波が、正社員にも及んで
きた。ソニーは国内外で合計 1 万 6 千人以上の従業員を削減するが、このうち 8 千人は
正社員だ。
内定取り消しなどの問題が深刻化している新卒採用にも影響が出ている。09 年 4 月
に向けた新卒採用計画は全規模で 5.5 ポイント悪化してマイナス 3.7 となり、12 月の短
観としては 04 年以来のマイナスとなった。みずほ総合研究所の草場洋方シニアエコノ
ミストは「これまで非正規社員を増やしてきた企業は雇用調整に走りやすい。失業率や
賃金水準の悪化は年明けに向けて続くと見られる」と話す。
(朝日新聞夕刊
2008 年 12 月 15 日
全国)
《前略》最低気温が 3 度台まで下がった 11 月下旬の週末。買い物客でごった返す名
古屋駅前で、大きな荷物を抱えた女性 2 人が立ち尽くしていた。自動車部品工場を 20
日ほど前に解雇され、寮を追われた沖縄県出身の女性(46)と、寮で同室だった鹿児島
県出身の友人(48)。電球 100 万個のイルミネーションが 2 人を照らす。女性は目の前
にそびえる高層ビルを見上げている。トヨタ自動車の営業部隊が入る高さ 247 メートル
の「ミッドランドスクエア」。07 年春に全面開業した。その年、トヨタの生産台数は世
界一に躍り出た。あの絶頂期からわずか 1 年半。世界的な経済危機で、トヨタは赤字の
瀬戸際まで追い込まれた。減産の波は下請け、孫受けへと広がる。市街の炊き出しの列
には 20~40 代の働き盛りが目立ち始めた。女性も今春まで数ヶ月間、トヨタの工場で
請け負い社員として働いた。内部部品の組み付けは重労働だった。ある日、せきが止ま
横山‐33
らなくなった。肋骨(ろっこつ)にヒビが入っていることがわかり、職場を変えた。
「あ
のトヨタがこんなに景気が悪くなるなんて」風が強くなり、女性はしわが目立ち始めた
コートの襟を立てた。「夜、屋根の無いところでじっとしてるとね。なんで自分がこん
な目にって考えちゃう。悔しいよね」(以下略)
(朝日新聞朝刊 2008 年 12 月 22 日 全国)
◆息子の学費、生活どうすれば
「仕事はもうありません。12 月 20 日をもって解雇します」。京都府に住む女性事務員
(49)は、先月始め、派遣先の会社の上司と派遣会社の担当者から、契機満了より 3
ヶ月も早いクビを言い渡された。電子部品などを扱うこの会社で 8 年以上、正社員同様
に仕事をしてきたという誇りを持ち、厄介者だとでも言わんばかりの言葉も浴びせられ
た。
「あなたには、社会保険料とか経費もかかってるんですよ」
(解雇は)少なくとも 30
日前に予告しなければならない。本来、労働者の権利を守るための労働基準法の規定を
逆手にとって「予告すれば、解雇できる」と横行する、派遣切り。その予感はあった。
(読売新聞朝刊 2008 年 12 月 19 日 大阪)
内定取り消しの報道は、2008 年 12 月に入り、急激に増加した。それ以前の内定取り消しの
報道は、企業から内定を貰った学生が事件や事故を起こしたため会社側から内定を取り消される
というものであった。だが、昨今の報道は来春から期待で胸がいっぱいの中、突然内定取り消し
を告知され絶望感でいっぱいになってしまう、といったパターンが多い。
マンション分譲業界大手の日本総合地所は今年 11 月、内定者 53 人全員の内定を取り消し、そ
れがメディアでも大きく取り上げられ、批判された。これによって、日本各地の内定を取り消さ
れた学生、その学生の通う大学への取材などメディアの報道はエスカレートした。学生を哀れみ、
企業をバッシングする方向に走っていった。
昨今の、世界的な大恐慌で、どの業界も、業績が大幅に悪化している。それをメディアは取り
消された側の視点で映し出すため、企業側が悪者のようにイメージさせてしまっているように思
う。内定取り消しだけを見ると、直接的には格差や貧困と結びついているようには見えない。し
かし不況や会社倒産報道と関連付けて考えると「将来の貧困者予備軍」として捉えられてしまい
かねない。こういった現状も実際はメディアが作り上げたものだという事が、内定取り消し報道
から伺い知ることができる。
(5)派遣社員の解雇報道
次に、企業の派遣社員の解雇報道について考えたい。
企業が倒産もしくは経営状況が悪化したため、コストを最小限に抑えるべく、その企業で働く
従業員を解雇する、という事は過去にも多く行われていた。しかし最近では、そういった企業側
の事情による解雇を、労働者視点でメディアが取り上げている事に注目できる。
工場閉鎖、派遣切りなど、昨今の派遣労働者を取り巻く環境は厳しいように思う。派遣契約を
打ち止めにされ、それまで済んでいた住居を追い出され、住む場所を失ってしまった元派遣労働
者達は決して少なくはない。そういった人々を、
「会社の持っていた持ち駒の一つ」として考える
のではなく、
「一人の派遣労働者」と見て、その視点から経済の悪化、派遣切り、工場の減産とい
う事実を捉えて報道するのが昨今の傾向といえる。
横山‐34
横山史帆■「格差社会」の形成
5
結論
(1)本論のまとめ
第一章ではまず、日本におけるワーキングプアの始まりについて述べた。そこでは、この研究
を始めるにあたっての先行研究や、貧困と関連性のある研究を取り上げて紹介した。そこで、日
本国内では確実に貧困者数が増加している事と、ワーキングプアは、近年に始まったものではな
い。長らくその存在が注目されておらず、メディア露出がほとんど無かったため人々に認識され
ていなかった、という事を認識することができた。
それ以降の章では、より深い実態に関する研究やメディアの報道を紹介した。第二章では、格
差の実態、主に昨今では問題視され、メディアでも頻繁に取り上げられた「ネットカフェ難民」
の定義や実態、官公庁側が彼らについて研究した事象、海外における貧困の事例を取り上げた。
これらを取り上げることによって、当事者の視点からだけではなく、多面的な視点で現状を知る
ことができるため、解決策を見出すことができるきっかけになるのではないか。
第 3 章では、非正規雇用、その中でも主として派遣労働者の実態や、彼らを取り巻く近年の動
向を紹介した。労災隠しや派遣元の会社が廃業するなど、彼らを取り巻いている環境は決して生
易しいものではなく、厳しい存在が明らかになった。
そして第 4 章では、メディアに取り上げられている貧困や格差社会について、実際に資料を集
め、分析したものを取り上げた。昨今における報道のされ方を分析することにより、貧困や格差
というものがエンターテインメント化の傾向にある事と、人々が身近な事と関連付け、考えてい
る傾向がある事が分かった。
これまでの各章から、貧困が拡大しているという事は、紛れも無い事実であるという事と、我々
はメディアの影響を受け、格差や貧困を、非常に身近な事として考えているという事が分かった。
(2)NHK スペシャル「ワーキングプア」が我々に残したものは
2006 年 7 月に放送された NHK スペシャル「ワーキングプア~働いても働いても豊かになれない
~」がきっかけで、国内では貧困における事実が再認識された。番組タイトル通り、働いている
にも関わらず、収入は増えず、生活が豊かにならない人々、つまり貧困者層は日本国内において、
確実に増加している。その一方で、ひところは「ヒルズ族」等と言われた様に、新興ビジネスで
成功し、経済的に豊かになったものも増加しているのが現状である。
豊かな者と貧しい者が今、日本国内で増えつつある。そのような中で、NHK の「ワーキングプ
ア」放送は、国民に大きな衝撃を与えたのではないか。3 部作にわたり放映されたこの番組では、
各回で、それぞれ異なった職業、家族構成、国、状況下で働く人々の姿が映し出されていた。異
なる状況下にいる人々をとらえたのは、製作側が我々視聴者に対して、自らが貧困を解決するた
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めの手段を考え、そしてそれを行って欲しい、という要求があったからではないか。様々なタイ
プの貧困者を、テレビを通して視聴者に見せることができれば、視聴者は自分と類似した境遇、
環境下にいる人を見つけられ、その人と自分を重ね合わせて考えることができる可能性もある。
貧困から抜け出すためには、政府や支援団体等による、経済的な支援も必要だが、自らが、自ら
の現状を見つめなおし、解決策を考え、それを実行して貧困を抜け出そうとする姿勢が非常に重
要である。
(3)今後の課題は何か
貧困層の大半が、非正規雇用労働者であるという。しかし彼らを取り巻いている現状、環境は、
依然として厳しい。雇用契約期間内であるにも関わらず、突然解雇を言い渡されたり、派遣元の
会社が廃業に追いやられたり、正社員と同等の仕事をしているにも関わらず、低賃金であったり
と、待遇は正社員と比較して、悪いのが現状である。
生産側(=企業)は、コストを抑えながらも生産性を高めるため、より安い賃金で生産をしよう
という事に余念が無い。そのため、正社員と比較して人件費の安い大量の非正規雇用労働者は、
企業にとってなくてはならない存在である。しかし、まだまだ経済的な面においても、福利厚生
的な面においても、正社員との差が大きいのが現状である。正社員としてではなく、あえて非正
規雇用という働き方を選び、働く労働者も少なからず存在していることだろう。そういった人々
が、働きやすい職場にするためにも、企業や国レベルで労働者に対する制度や権利を向上させる
べきではないだろうか。
住む場所も、働くところも無く、窮地に立たされている派遣労働者が増え続けている。2008 年
31 日から 2009 年 1 月 5 日までの間、「年越し派遣村」が、東京都の日比谷公園内につくられた。
そこでは「日比谷で年末年始を行きぬく」がキャッチコピーとして掲げられ、住居を失った労働
者達の住まいや食事が確保された。更には生活保護の申請や、求職相談窓口なども設けられ、自
立を支援する制度が十分に設けられたように伺える。
今後、ますます経済状況が悪化していった場合、今以上に職も住まいも失ってしまう労働者が
増えることだろう。しかしその反面で、今回のように、NPO や自治体などの団体、更には国が支
援する姿勢を積極的に示すのではないか。貧困を抜け出すためには、当事者達の自助努力だけで
は解決する事が困難な面もあるだろう。本当に困った人に支援の手を差し伸べ、自立の支援を推
し進めていく姿勢が、今後の日本の社会にとって、必要な課題ではないだろうか。
横山‐36
横山史帆■「格差社会」の形成
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横山史帆(よこやま・しほ)
1986 年生まれ。山形県立米沢東高等学校出身。
[趣味]料理、水泳、庭園鑑賞
[サークルなど]ノートテイクボランティア
[関心]途上国支援、新宿二丁目(笑)
[一言コメント]
4 年間の大学生活は、私にとって非常に刺激的であり、
どうしたら良いのか戸惑った事もありました。ですが、
楽しいことも嫌なことも沢山経験をして、自分の人間
性と、今後の可能性を見つけ出すことができたように
思います。
私を支えてくれた皆さん、本当にありがとうございま
す!
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