5.太陽光から効率的に燃料を生産するための新たな方法(米国)

NEDO海外レポート NO.1072, 2011.3.30
【再生可能エネルギー】酸化セリウム
ゼロエミッションサイクル
太陽光から効率的に燃料を生産するための新たな方法(米国)
カリフォルニア工科大学(California Institute of Technology: Caltech)材料科学およ
び化学工学部の Sossina Haile 教授は、自動洗浄式オーブンに最も良く使われるありふれ
た金属を使用して、我々のエネルギーの未来を変えたいと考えている。その金属とは酸化
セリウム(セリアともいう)で、同教授の研究チームが開発した有望な新技術の要である。
その新技術を用いれば、太陽エネルギーを一点に集中させて使用することにより、二酸化
炭素(CO2)と水から効率的に燃料を作り出すことができる。
太陽エネルギーは、我々のエネルギー問題に対する最上の解決策として、長い間大いに
喧伝されてきた。太陽エネルギーは豊富に存在し無料で使用することができるが、これを
日当たりの良い地域から太陽エネルギーを必要とする日当たりの悪い地域へ、瓶に詰めて
輸送することはできない。しかし同研究チームが開発したプロセスは、それを可能にする
かもしれない。
研究者たちは、太陽光を一点に集中させて吸収する空間とクオーツ(水晶)の窓を持つ高
さ 2 フィート(60.96cm)のプロトタイプの反応炉を設計し、建設した。集光機は、太陽
光を一点に集めるために「子供の頃に使った虫眼鏡」のような役割を果たすと Haile 教授は
語る。
この反応炉の中心には、円筒状に酸化セリウムが設置されている。この酸化セリウムは、
通常、自動洗浄オーブンの壁(食物や、オーブンの壁に張り付いたべたつきなどを分解す
る反応を触媒する)に埋め込
まれた金属酸化物で、太陽エ
ネルギーを利用した反応を促
進する。酸化セリウムには、
非常に高温になると自らの水
晶様の結晶構造から酸素を
「放出し」
、低温では酸素を結
晶構造内に「吸収する」とい
う能力があるが、反応炉は、
この能力を利用するものであ
る。
Haile 教授は、
「この材料の
特別なところは、すべての酸
卓上熱化学炉の横に立つ Sossina Haile と William
Chueh は、太陽炉の実現のために、さまざまな材料を検
討した。
31
NEDO海外レポート NO.1072, 2011.3.30
素を放出するわけではないことである。その
ために、酸素が放出されても、材料の結晶構
造が損傷を受けずに済む。再び温度を下げた
ときに、材料は熱力学的に好ましい状態に戻
ろうとして、構造内へ酸素を吸収するのだ」
と説明した。
特に、吸収された酸素は炉に引き込まれた
CO2 または CO2 または H2O ガスから解離さ
れたもので、その結果一酸化炭素(CO)や水
素ガス(H2)を生成させる。H2 は、燃料電
池の燃料水素として利用することができる。
CO は、H2 と混ぜて合成ガス(液体炭化水素
燃料の前駆体)の生産に利用することができ
る。一方で、合成ガスに他の触媒を添加すれ
ば、メタンを生産できる。酸化セリウムは、
セリウムの酸化還元反応を伴う 2 段階
の熱化学サイクルを利用して、水と二酸
化炭素から水素と一酸化炭素を作る、カ
リフォルニア工科大学の ETH-Caltech
太陽炉
完全に許容量まで酸化されると、再度元の温度まで昇温が可能となり、新たなサイクルが
また始まる。
これらのすべてのプロセスを実現するためには、炉内の温度を非常に高くしなければな
らない(およそ華氏 3,000 度、または 1,648.9℃)
。Haile 教授の研究チームは、電気炉を
使用してこのような高温を達成した。同氏によれば、実試験では、
「光子を使う必要があっ
たため、スイスへ行った」とのことである。ポール・シェラー(Paul Scherrer)研究所太
陽技術研究室 Aldo Steinfeld 研究員率いるスイスの研究者たちと米国の研究者たちは、同
研究所の大容量太陽光線シミュレータで、太陽 1,500 個分の熱に匹敵する熱を発生させる
ことができる大型の太陽シミュレータ上に反応炉を設置した。
2010 年春に実施された実験で、Haile 教授の研究チームは、過去に達成したのとは「桁
違いに」良好な CO2 分解率を実現したと同氏は言う。CO2 を分離するに当たり、炉の処理
効率は並はずれて高かった。同氏によれば、その理由の一つは、
「特定の波長だけでなく、
太陽光スペクトル全体を使用しているから」である。また、電気分解とは異なり、水への
CO2 の低溶解度に分離率が左右されない。さらに、同教授は、高温で炉を運転することで、
高額なレアメタルの触媒を使わなくても高速で触媒が行われたと説明した(実のところ、
酸化セリウムは最もありふれた希土類金属で、銅と同じくらい豊富に存在する)
。
Haile 教授の研究チームは、短期的には、反応温度を低くすることができるよう酸化セ
リウムの化学的組成を変更し、炉を再設計し、効率を向上させる計画である。システムは
現時点で、受け取る太陽エネルギーの 1%未満しか利用しておらず、熱の状態で炉の壁か
32
NEDO海外レポート NO.1072, 2011.3.30
ら逃げたり、クオーツ(水晶)の窓から再放射されたりして、ほとんどのエネルギーが失
われる。
「我々が炉を設計したときには、こうしたエネルギーのロスをほとんどコントロー
ルすることはなかった」と Haile 教授は語る。Science 誌に掲載された本研究に関する論
文の筆頭著者と Caltech の元院生の William Chueh 氏が開発した熱力学的モデルによれ
ば、効率を 15%以上に高めることも可能である。
最終的には、このプロセスを大規模エネルギープラントに応用すれば、太陽由来電力を
昼夜を問わず利用できると教授は言う。車両から排出された CO2 を集めて燃料に変換する
こともできるが、
「それは至難の業」だと教授は述べる。より現実的なシナリオは、石炭火
力発電所から排出される CO2 を回収して、輸送用燃料に変換することである。
「こうすれ
ば、炭素を効果的に二度利用することができる」のである。あるいは、
「ゼロエミッション」
サイクルで炉を使用することもできるという。ゼロエミッションサイクルとは、水と CO2
をメタンに変換して、さらに多くの CO2 と水を発生させる発電所の燃料として使用するこ
とで、プロセスを持続するというものである。
本研究に関する論文「不定比セリアを使用した大容量太陽光照射による熱化学的分解
( High-Flux Solar-Driven Thermochemical Dissociation of CO2 and H2O Using
Nonstoichiometric Ceria)」は、Science 誌の 2010 年 12 月 23 日号に掲載された。同研究
は米国立科学財団(National Science Foundatio : NSF)
、再生可能エネルギーと環境のた
めのミネソタ州イニシアティブ、およびスイス国立科学財団により助成を受けた。
翻訳: NEDO(担当
総務企画部
吉野 晴美)
出典:本資料は、カリフォルニア工科大学の以下の記事を、許可を得て翻訳したものであ
る。
New Reactor Paves the Way for Efficiently Producing Fuel from Sunlight
(http://media.caltech.edu/press_releases/13398)
33