消費増税後の物価動向 - みずほ総合研究所

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日本経済
2014 年 4 月 18 日
消費増税後の物価動向
経済調査部エコノミスト
4 月のコアCPIは上振れるのか
03-3591-1418
風間春香
[email protected]
○ 消費増税直後における東大日次物価指数の上昇などを根拠に、4月のコアCPI前年比(消費増税
の影響を除く)が大幅に高まるとの観測が浮上している
○ 実際には、値上げ品目と値下げ品目が拮抗することにより、消費増税分以外の価格上昇はわずかに
とどまっている模様であり、現時点ではコアCPIの4月の上振れは小幅にとどまると予想
○ より重要なのは5月以降の物価の方向性。輸入物価のピークアウトと需給緩和を背景に、5月以降の
コアCPI(消費増税の影響を除く)前年比プラス幅は緩やかに縮小する見通し
1.はじめに
4月から消費税率が5%から8%へ3%Pt引き上げられた。課税品目に増税分がフル転嫁された場合、
生鮮食品を除く総合消費者物価指数(以下、コアCPI)は2%Pt程度上昇する計算となる(4月は一
部の商品・サービスに旧税率が適用されるため、+1.7%Pt程度1)。もっとも、これはあくまで機械
的な試算値であり、現実の物価は企業の価格政策などにより上振れることも、下振れることもありう
る。報道等では、物価が増税分以上に上昇する可能性が指摘され、2月時点で前年比+1.3%であった
コアCPIが4月には税込みで同+3%台半ば、税抜きで同+1%台後半~2%近くまで上昇するとの見
方も浮上している(図表 1)。
図表 1
(前年比、%)
▲
▲
▲
▲
▲
2.2
2.0
1.8
1.6
1.4
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
消費者物価指数(コアCPI)
図表 2
(前年比、%)
14年4月
2%に近づく?
その他
サービス(外食除く)
耐久消費財
食料(生鮮食品・酒類除く)
エネルギー
コアCPI
2014年
4/1~
1.5
1.0
1.0
0.5
0.5
0.0
0.0
▲0.5
▲0.5
▲1.0
▲1.0
▲1.5
▲1.5
▲2.0
▲2.0
▲2.5
▲2.5
▲3.5
日次物価
▲3.0
7日間移動平均
▲3.5
▲4.0
13/4
(注)消費増税の影響除く。
(資料) 総務省「消費者物価指数」
13/7
13/10
14/1
14/4
(年/月)
(前年比、%)
1.5
▲3.0
13/1
東大日次物価指数
1997年
4/1~
▲4.0
3/1
4/1
3/1
4/1
(月/日)
(注)2014年は3月1日~4月15日。1997年は3月1日~4月30日。
(資料)東大日次物価指数プロジェクト(全国)
1
2.4 月の物価動向
物価上振れ観測の根拠の一つになったのが、「東大日次物価指数」が増税直後の一週間で急速に上
昇をみせたことである。東大日次物価指数とは東京大学の渡辺努教授らが開発・作成した物価指標の
ことで、スーパーマーケットのPOS(販売時点情報管理)情報を通じて集められた価格データ(食
料品・日用品等)をもとに算出されている。同指数が対象とする品目と同一品目で再集計したCPI
との連動性が高く、CPIの先行指標としても注目されている。東大日次物価指数の前年比は3月下旬
にかけてマイナス幅が拡大傾向にあったが、4月1日を境にプラス圏に転じた(前ページ図表 2)。同
指数は税抜価格にもとづいて計算されている。このため、4月に入ってからの急上昇は消費税を除く本
体価格の値上げが行われた可能性を示唆するものとして、先述した4月のコアCPIの上振れ観測が出
てきたのである。もっとも、同指数の動きをみると、4月の第二週に入ると上昇テンポは和らいでいる。
消費税率が3%から5%に引き上げられた前回増税時(1997年)も、今回同様に増税直後に上昇したも
のの、その後は横ばいないし緩やかな下落傾向に戻っている。同指数は4月末にかけてまだ変動する可
能性があり、また同指数のカバーする範囲は食料品など一部に限られる。したがって、4月の物価を予
想するにあたっては、個別企業の価格設定や個別品目の動きを幅広く、つぶさに確認しておくことが
必要となる。
各種報道等によれば、4月1日以降の価格設定は商品・サービスごとに大きく異なる模様である(図
表 3)。さらに、同じ品目でも企業によって対応が分かれているケースもある。デフレ脱却を目指す
図表 3
消費増税への各社の対応状況
図表 4
消費者庁「物価モニター調査」の結果
値上げする例
外食
吉野家「牛丼並盛」
280円⇒300円(+7.1%)
ドトールのコーヒーSサイズ
200円⇒220円(+10.0%)
交通・通信 鉄道(JR/大宮⇒新宿:IC乗車券)
サービス
450円⇒464円(+3.1%)
(JR/大宮⇒新宿:切符)
450円⇒470円(+4.4%)
タクシー初乗り:東京地区
710円⇒730円(+2.8%)
価格変動率
(単位:%)
食料品(18品目平均)
果実飲料
生中華麺
マヨネーズ
ソーセージ
カップ麺
牛乳
食用油
卵
豆腐
カレールウ
ビール
食パン
豚肉(ロース)
ポテトチップス
(注1)
はがき
50円⇒52円(+4.0%)
QBハウス
1,000円⇒1,080円(+8.0%)
東京ディズニーランド1日券(大人)
6,200円⇒6,400円(+3.2%)
USJ1日券(大人)
6,790円⇒6,980円(+2.8%)
値下げ、価格を据え置く例
外食
小売
サービス
すき家「牛丼並盛」
280円⇒270円(▲3.6%)
マクドナルド(注2)のチーズバーガー
150円⇒133円(▲11.3%)
無印良品
大半の商品で価格を据え置き
イオンのPB商品
過半数の商品で価格を据え置き
アイスクリーム、シャーベット
おにぎり
まぐろ(ツナ)缶
茶飲料
耐久消費財(4品目平均)
サンリオピューロランド1日券(大人、平日) 4,400円⇒3,300円(▲25.0%)
TOHOシネマズの一般料金(注3)
1,800円で据え置き
(注)1.消費者物価指数では、IC乗車券と切符のうち安い方の運賃が反映される。
2.大半の商品は増税分を転嫁。
3.女性やシニアなど割引料金は値上げ。
(資料)各種報道等よりみずほ総合研究所作成
自転車
電気冷蔵庫
電子ピアノ
自動炊飯器
0.4
1.6
1.3
1.1
0.9
0.8
0.6
0.5
0.4
0.3
0.3
0.3
0.2
0.2
0.2
0.0
0.0
▲0.2
▲0.5
▲0.8
0.1
▲0.9
▲1.0
▲1.3
価格変動率
(単位:%)
雑貨・衣料等(10品目平均)
ティッシュペーパー
シャンプー
婦人用ストッキング
紙おむつ
洗濯用洗剤
ノート
ワイシャツ(長袖)
ラップ
コンタクトレンズ
LED電球
サービス等(8品目平均)
ガソリン
洗濯代
灯油
コーヒー
パーマネント代(女性用)
親子丼
レンタカー
ハンバーガー
0.1
1.2
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0.0
▲0.2
▲0.3
▲1.1
▲0.3
1.4
1.0
0.5
0.3
0.3
▲0.1
▲0.2
▲5.6
全体(計40品目平均)
0.1
CPIのウェイトで加重平均
0.4
(注)1.物価モニター調査とは、全国4,000名の物価モニターが同一店舗・同一商品の店頭表示価格を調査
したもの。速報段階では、電子モニター2,516名が報告したデータが利用されている。
2.価格変動率は3月(2014年3月7日~11日)と4月(2014年4月4日~8日)の税抜価格の比較。
3.食料品、耐久消費財、雑貨・衣料等、サービス等、全体の数値は、品目別の単純平均。
4.表中の価格変動率は速報段階の数値であるため、4月24日に公表される確報で変わる可能性がある。
(資料)消費者庁「平成26年度第1回物価モニター調査(価格調査)」結果」(平成26年4月11日公表)より
みずほ総合研究所作成
2
政府により円滑な価格転嫁が奨励される中、端数の切り上げ処理の関係で増税分以上に値上げするケ
ースがみられる。また、価格改定のタイミングで、増税分と合わせてこれまでの仕入コストや人件費
上昇分を転嫁する動きもある。他方、税込価格を据え置いたり、逆に値下げをしているケースもあり、
企業側の対応には相当バラツキがあるようだ。
消費者庁が公表した「物価モニター調査」(速報)も増税後の価格動向を知る上で参考になる(前
ページ図表 4)。増税前の3月(7~11日)と4月(4~8日)の税抜価格を比較すると、調査対象全体(40
品目)の単純平均は0.1%の上昇となった。食料品(+0.4%)が上昇する一方、雑貨・衣料等(+0.1%)
はほぼ横ばい、耐久消費財(▲0.8%)、サービス等(▲0.3%)は下落した。内訳をみると、果実飲
料やティッシュペーパー、ガソリンなど身の回り品が上昇しているものの、極端な値上げが広がって
いる状況ではなさそうだ。他方、自動炊飯器や電子ピアノなど耐久消費財は値下がりが目立つ。駆け
込み需要の反動減や消費者の節約・低価格志向への警戒が、企業の価格決定に影響した可能性がある。
総合的にみれば、値上げ品目と値下げ品目が拮抗することにより、40品目平均では消費増税分以外の
価格上昇はわずかにとどまっている。
3.コアCPIの 4 月の上振れは小幅にとどまると予想
物価モニター調査40品目の個別の価格変動率を、CPIのウェイトで加重平均すると+0.4%となる。
そこで4月のコアCPI(原数値)が3月に比べて0.4%上昇すると仮定し、前年比に引き直すと、+1.4%
~+1.5%程度となる(なお、現時点では未公表の3月については、東京都区部の3月の上昇率を踏まえ、
前年比を+1.3%~+1.4%と想定)。物価モニター調査が対象とする40品目のコアCPIに占めるウ
ェイトは10%弱(うち2%程度はガソリン)であり、これらの動きがコアCPI全体の上昇率と一致す
るわけでは必ずしもない。したがって、物価モニター調査の結果だけでCPI全体の動きを推測する
ことに限界があることは確かである。ただし、CPIにおける40品目で作成した合成指数(原数値)
について、2000年以降の4月の前月比をみると、▲3.8%~+1.4%(平均値は▲0.1%)のレンジであ
図表 5
(前年比、%)
1.5
1.2
0.9
消費者物価指数(コアCPI)の見通し
見通し
食料(酒類・生鮮食品除く)
米国基準コアCPI
エネルギー
コアCPI
0.6
0.3
0.0
▲ 0.3
▲ 0.6
▲ 0.9
12/1
12/7
13/1
13/7
(注)消費増税の影響除く。3月以降はみずほ総合研究所予測値。
(資料)総務省「消費者物価指数」よりみずほ総合研究所作成
3
14/1
14/7
(年/月)
ったことから、0.4%の上昇率は平均よりもやや高めの伸びと言える。他方、同時期のコアCPIの4
月の動きをみると、前月比▲0.1%~+0.4%の範囲となっており、0.4%の上昇率はレンジの上限であ
る。40品目以外も前月比0.4%上昇するという今回の想定は、必ずしも低すぎるわけではないと思われ
る。
40品目以外の価格の動きは、25日に公表される「4月の東京都区部消費者物価指数(中旬速報値)」
をはじめ、今後明らかになってくる情報を丁寧に確認することが必要である。しかしながら、先に述
べた考え方で試算した結果を踏まえると、現時点では、4月のコアCPIは一部で言われているほど大
幅な上昇にはならないと予想している。
加えて、万が一4月のコアCPI前年比が当社予測よりも上振れたとしても、5月以降再びペースダ
ウンする可能性には注意が必要だ。企業が一旦値上げしたとしても、個人消費の戻りが鈍ければ再び
値下げの動きが強まる可能性もあるからだ。みずほ総合研究所は、円安効果の一巡による輸入物価の
ピークアウト、増税後の消費落ち込みに伴う需給緩和(GDPギャップのマイナス幅拡大)を受けて、
コアCPI前年比プラス幅は緩やかに縮小すると予測している(前ページ図表 5)。
1
総務省によると、経過措置がとられる品目の 4 月の物価指数は旧税率にもとづいて算出される。具体的な品目としては、
「電気
代」、
「都市ガス代」、
「プロパンガス」、
「固定電話通信料」、
「携帯電話通信料」があげられる。また、
「水道料」、
「下水道料」
、
「し
尿処理手数料」については、各自治体の条例により料金改定が行われるため、条例の中で経過措置が定められている場合には、
その期間において旧税率が適用される。
「航空運賃」についても、一部旧税率が適用されるようだ。経過措置がとられる品目がコ
アCPIに占めるウエイトは 10.3%なので、3%増税による押し上げ幅 2%のうち、4 月分の物価指数に反映される増税の影響は
1.7%(=2%-(3%×10.3%))となる。
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