資産除去債務に該当する環境債務の計上について - みずほ情報総研

2008 年 3 月
資産除去債務に該当する環境債務の計上について
~対象となる環境関連法と将来キャッシュフロー計上プロセスの整理~
みずほ情報総研株式会社
環境・資源エネルギー部
チーフコンサルタント
•
光成美樹
国際会計基準との収斂の中で、国内でも建物などの固定資産の除去時に必要な将来費
用を債務として認識する会計基準「資産除去債務に関する会計基準」が施行されるこ
とが決まった。本会計基準では、固定資産に有害物質が含まれ、その除去について法
令等による対策が求められている場合には、その除去費用等が資産除去債務に該当す
ることが記載されている。
•
国内では、アスベストやポリ塩化ビフェニル(PCB)、土壌汚染などに関する環境法
により、建物解体時や施設閉鎖時には、一定の措置が義務付けられており、本会計基
準の対象となる固定資産は幅広くあることが予想される。
•
会計基準案では、有害物質を特定していないが、該当する有害物質の処理費用等を資
産除去債務として計上することは、一定の事務手続きが予想される。円滑に作業を進
めるには対象法令や会計処理の解釈について、関係者の理解や情報共有が重要になる。
•
本稿では、資産除去債務の実施において該当する国内環境法と将来キャッシュフロー
の見積りプロセスを整理し紹介すると共に、いくつかの課題を提示したい。
1.はじめに
2007 年 12 月 27 日に企業会計基準委員会から「資産除去債務に関する会計基準(案)」
及び「同適用指針(案)」が公表された。すでに 2007 年 5 月 30 日に「資産除去債務の会計
処理に関する論点整理」
(以下論点整理)において、当該会計基準の概要や主要な論点が整
理されていたが、基準案の公表によって具体的な会計処理の手法や手順が明らかになった。
本会計基準は、論点整理や基準案にも記載されているように、国際会計基準との収斂の
一環として取り組まれるものである。その後 2007 年 8 月の「東京合意」において、資産除
去債務に関する会計基準は短期プロジェクトのひとつとして、2008 年 3 月頃までに会計基
準として公表されることが予定されている。
この基準は、固定資産の将来の環境対策費用を財務諸表に反映させるという点で、環境
債務の一部が該当するものであるが、国内基準案においては、環境対策の推進という目的
1
は明記されていない。しかし、基準案では企業が所有する有形固定資産に特定の有害物質
が使用されており、法律等でその処理方法が規定されている場合には、当該有害物質を除
去する費用が資産除去債務に該当する旨が記載されている。したがって、実質的には将来
の環境対策費用等である環境債務が該当するものになるといえる。
すでに基準が施行されている米国において、基準化のきっかけとなった原子力施設の閉
鎖費用の問題の背景には廃棄物や解体処理における環境問題としての配慮があり、後述す
る 2001 年の資産除去債務に関する会計基準 FAS143 号においては、アスベストや PCB 等
の記載がされているケースが多い。
国内の環境法においても建物等有形固定資産の除去時に有害物質等に関して措置を求め
る法令や条例もあるため、資産除去債務の計上に当たっては、当初の作業としてそれらの
法令情報を取りまとめる必要がある。
2.本稿の対象範囲と背景等
本稿は、会計処理をする上で、資産除去債務に該当する国内の主な環境法を整理し、該
当する法的債務や債務認識時期の考え方、将来キャッシュフローの見積りに関するプロセ
スをとりまとめ紹介したものである。将来キャッシュフローの算出のプロセスまでの段階
で、会計基準に記載されていないいくつかの課題も整理した。将来キャッシュフローの算
出から、資産除去債務の計上・開示については、会計基準によりその処理方法が大きく異
なることから、ここでは限定的な言及にとどめ、会計基準の公布後に譲りたい。
なお、本稿は、環境経営において先進的な一企業の資産除去債務等の計上プロセス等を
共同実施した過程において得た知見をもとに取りまとめたものである。
3.資産除去債務に関する会計基準
a)
国内基準(案)
ここで、まず資産除去債務とはなにか、またその会計基準とはどのようなものかを確認
するために、2007 年末に公表された「資産除去債務に関する会計基準(案)」の概要を整理
したい。資産除去債務とは、固定資産の除去に伴い発生する将来費用のことであり、具体
的には固定資産の取得、建設、開発または通常の使用によって生じ、当該資産の除去時に、
法令または契約等によって義務付けられている処理に要する将来の費用である。
資産の除去とは、固定資産の売却、廃棄、リサイクルその他の方法による処分等を対象
としており、転用や用途変更、一時的な遊休状態にあるものは含まれない。
資産除去債務に関する会計基準では、これらの将来費用を債務の取得時点までの価値に
割戻し、財務会計上で資産・負債の両建て処理をするとともに、資産の使用期間(耐用年
数)にわたって減価償却費として費用化する処理等が求められる。会計基準の採用年まで
の減価償却費は一括して特別損失として費用計上する予定となっている。
2
b)
米国基準
米国では、
2001 年 6 月に資産除去債務に関する会計として Asset Retirement Obligations
(FAS143 号)が基準化された。国内で公表された基準案と同様に、資産の除去時に求めら
れる措置に関わる費用を将来の資産除去債務として認識することを求めており、法的に求
められるものだけでなく、契約等で定められている原状回復等の措置に伴う費用も資産除
去債務に含められることが示されている。FAS143 号は 2002 年 6 月より施行されており、
上場企業だけでなく、中小企業でも対象となっている。
しかし、その後民間の非営利団体等が調査した結果、上場企業でも多くの企業が資産除
去債務を計上していないことが明らかになった1。
また、上院議員からの要請によって上
場企業が適切に環境情報を開示しているかどうかを連邦会計監査院(General Accounting
Office, GAO)が調査をはじめ、2004 年には、証券取引委員会(SEC)は企業の環境費用に関
する財務諸表への反映について何らかの仕組みを改善すべきであると勧告する報告書が公
表された。その後、財務会計基準審議会は、FAS143 号で明らかになっていなかった事項を
解釈指針として記載した FIN47 号を公表し、FAS143 号の適用に関する事例を含めた解釈
を示すことになった。具体的には、資産除去債務に当たる固定資産の除去時の費用につい
て、その時期や手法が明らかになっていない債務を条件付資産除去債務(Conditional Asset
Retirement Obligations, CARO)とし、条件付資産除去債務も、FAS143 号の資産除去債
務に該当するという考え方を示した。現在法律があり、固定資産の除去時にはその法律に
従って措置をしなければならないアスベストなどが典型的な例といえるだろう。実際
FIN47 の適用事例には、アスベストが含まれる建物の事例が記載されている。
また資産除去債務において、見積りをするうえで十分な情報がない場合には、見積りが
算出できないため債務として計上しないことが認められている。その判断として何が十分
な情報に当たるのかについても FIN47 は記載することになった。
見積りに足る十分な情報とは、措置の時期またその時期の範囲がわかること、措置の方
法や潜在的な方法があること、多くの不確かな要素が含まれる場合には、措置の時期とそ
の方法の組み合わせが確率を用いて表現できることとしている。
さらに、具体的な事例としてアスベストが含まれる建物の事例を記載しており、アスベ
ストが含まれる建物においては、アスベストの除去について州法等で除去の手続きが法的
に規定されている場合には、その除去の時期や手法が明確になっていない場合でも、資産
除去債務に含まれることを示している。
資産除去債務に関して環境債務であるという認識の通り、実際、固定資産の解体や除却
などの時期に、環境法において調査や除去、その計画に関する届出など一定の措置が義務
付けられているケースは国内外で多い。
The Rose Foundation が 2004 年に公表したレポートは、資産除去債務だけに特化したものではなく、企
業が環境関連の費用や債務を財務諸表に反映させていないことを指摘したものである。
1
3
ちなみに米国では、資産除去債務とは別に環境浄化債務(Environmental Remediation
Liabilities)に関する会計処理(Statement of Position 96-1, SOP96-1)により 1996 年か
ら偶発債務(FAS5)の一部として規定されている。これは、土壌汚染に関する法的に義務
付けられた浄化費用について、債務として認識することを求めているものであり、米国で
制定された 1980 年の包括的環境対処補償責任法(CERCLA, 通称スーパーファンド法)と、
1976 年の資源保護回復法(RCRA)を対象としたものである。米国の土壌汚染浄化の法律
では、自社所有の土地でない場合でも、過去に所有していた、または操業していた土地な
どにおいて関係者が無過失の連帯責任を負うことになっている。このため、企業は過去に
所有していた土地に土壌汚染が発見された場合には、連帯責任者として浄化費用を負担さ
せられる可能性がある。企業は、同 2 法において一定の手続きに入った際に、負担額等が
見積もることができる場合には、その額を環境浄化債務として記載することが求められて
いる。実際に米国の企業では、土壌汚染の浄化費用を数百億円規模で記載している企業が
多数あり、開示している金額的には資産除去債務よりも大きい場合もある。
図表 1:資産除去債務等に関する会計処理(日米)≫*日本は基準案
米国
適用時期(予定)
会計基準
日本
1997年
2002年
2010年度~(予定)
環境浄化債務
(SOP96-1)
資産除去債務
(FAS143)
資産除去債務
債務
法的債務
法的債務
推定的債務
法的債務
契約上の義務等
認識
法的に義務付けられる措
置に伴う費用
資産の除去時に支出す
る費用
資産の除去時に支出する費
用
見積もり方法
最頻値または既知の下
限
合理的で説明可能な仮定及
公正価値
び予測に基づく自己の見積
(複数のキャッシュフロー
を使用した期待現在価値) もり(最頻値または期待値)
(現在価値への)割引
しない
する
する
含める費用
外部の請負費用
弁護士費用等
資本コスト
政府プログラム費用
社内人件費等
外部の請負費用
弁護士費用等
資本コスト
直接支出費用だけでなく、保
管や管理のための支出も含
まれる
記載事例
土壌汚染(スーパーファン
ド、RCRA)
アスベスト
PCB等
N.A.
出所:FAS143, 157,
SOP96-1, Rogers Presentation 、国内会計基準案等よりみずほ情報総研作成
このように米国内では、SOP96-1 と FAS143 によって土壌汚染やアスベストなど固定資
産に関連する将来の環境対策費を財務諸表に計上することになっている 2 。一般には、
SOP96-1 に 規 定 さ れ た 環 境 浄 化 債 務 に つ い て は 将 来 の 土 壌 汚 染 浄 化 費 用 を 、
FAS143/FIN47 に規定された資産除去債務についてはアスベスト除去費用などを記載して
2
固定資産に関連しないものについても、10 万ドル以上の訴訟や重要な環境影響など、環境関連の財務諸
表記載事項が整理されている。
4
いる例が多いが、将来の環境費用として、大気汚染や水質汚染対策などの費用を環境対策
費用として計上し、記載している例も見られる3。
なお、参考までに米国では公会計(GASP49 号)においても 2007 年 11 月から環境浄化
債務が施行され、民間企業だけでなく公的な組織にも環境浄化費用を認識することが義務
付けられている。これにより米国の地方自治体の保有する州立の大学・学校や病院などに
も汚染浄化費用などを債務として計上することが求められている。また、米国以外の地域
では、カナダですでに資産除去債務に関する会計基準が適用されているほか、国際会計基
準を適用する欧州では、偶発債務の会計処理については、検討が進んでいる4。
4.固定資産の有害物質に関する国内の主な環境法と除去時の対応等
ここで、有形固定資産について、国内の環境法で規制の対象となっている主な有害物質
に関する、固定資産除去時の規定と債務性について考えてみたい。建物等の固定資産に含
まれる有害物質としては、建設副産物リサイクル広報推進会議「建築物の解体等に伴う有
害物質等の適切な取り扱い」(2007 年 9 月)に物質別の規定が示されている。主なものと
してアスベストがあり、数年前のアスベストの社会問題からも想像できるように、1960 年
代から断熱材等として使用されてきたアスベストは、飛散防止措置など健康被害の防止措
置が講じられている場合も含め、現在も建物に多く残されている。また、トランスやコン
デンサに含まれる PCB、冷媒として使用されているフロンなどがある。一方、土地に関し
ては重金属や揮発性有機化合物(VOCs)による土壌汚染が、債務として認識されるべきも
のとしてあげられる。
a)
アスベスト
アスベストに関する規制は、労働者の労働環境確保の視点及び一般大気の環境保全の視
点から、労働安全衛生法及び大気汚染防止法、廃棄物処理法等により一定の規制が行われ
ていた。具体的には、1975 年に改正された特定化学物質等障害予防規則によって重量で 5%
を超えるアスベストを含有する吹付けが禁止された。アスベスト含有量が 5%以下の場合も
含めて吹付け使用が禁止されたのは 1995 年 3 月である5。
1991 年にアスベスト廃材は特定管理産業廃棄物に指定され、撤去したアスベストの処理
米国化学・自動車メーカー等の 10-Kレポート
国際会計基準は資産除去債務に関する独自基準はないが、偶発債務の会計処理について国際会計基準
(IAS 37 号)は 2005 年に公表されたドラフトを改訂中である。資産の解体、撤去又は原状回復費用につ
いては、固定資産の付随費用として資産取得時に見積額を取得原価に含める処理(IAS16 号)が行われて
いる。
5 1987 年にアスベストの吹きつけを用いた構造を耐火構造の指定から除外、また大手メーカーがアスベス
ト含有吹付け建材の製造を中止しているが、法的な禁止は 1995 年。
3
4
5
は通常の産業廃棄物より厳格な手続きに基づき、指定された管理型廃棄物処理施設での処
理が義務付けられることになっている。その後 1996 年に大気汚染防止法が改正され、アス
ベストを含む建築物の解体工事が特定粉じん作業に指定され、作業前に調査を行い、作業
環境や処理方法について自治体に届出を行うことになった。
その後、2002 年から施行された建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律(建設リ
サイクル法)においても、解体工事の開始前に事前調査をし、記録を義務付けているほか、
作業において特定の管理者を設置することを規定している。2005 年に制定・施行された石
綿障害予防規則(石綿則)では、これらの法律を横断的にまとめて、事前調査や届出、廃
棄に関する手続きを規定している。
これらの解体時の規定は、作業レベルに対応するアスベストの分類に応じて規定されて
おり、飛散性の高い作業はレベル 1、アスベスト含有建材など、切断等を伴わない場合は飛
散性がない作業なのでレベル3と位置づけている6。
レベル 1 のアスベストについては、(石綿障害予防規則によって)事業者に飛散防止措置
など安全性の確保を求めているため、事業者として多くの企業では、囲いこみ等の飛散防
止措置を講じている。これらの囲い込みをしたアスベストは、解体時には、上記の法律・
規則等に定められた手続きで除去をする必要がある7。
一方、レベル2やレベル3のアスベストに関しては、飛散性が少ないため事業者等に
現状の把握や対策を講じることが義務付けられているわけではない。しかしながら実際の
建物解体時には、調査を行い、規定された手続きに基づいて処理をする必要がある。国土
交通省では、アスベスト含有建材のデータベースを公表しており、個別に調査をすること
は可能である。現実には建築年度や設計図面を確認して、保有資産のアスベスト含有建材
の量をすべて調査することは、かなりの作業を要することになる。
6
アスベスト含有建材は 2006 年までは含有率1% 超を対象としていたが、労働安全衛生法施行令(昭和
47 年政令第 318 号)及び石綿障害予防規則(平成 17 年厚生労働省令第 21 号。以下「石綿則」という。)
の一部が改正され、平成 18 年9月1日から、これら法令に基づく規制の対象となる物の石綿の含有率(重
量比)が1%から 0.1%に改められたことから、石綿等がその重量の 0.1%を超えて含有するか否かについ
て分析を行うことになった。
7 アスベストを含む建築物に関する処理の手続きは国土交通省 HP に掲示されている。
http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/region/recycle/pdf/fukusanbutsu/asbest/20061001medemiruasbest_5
.pdf
6
図表 2:作業レベルに応じたアスベストの大分類
概要
作業レベル
レベル 1
飛散性
発じん量の高い作業で、高濃度の
あり
粉塵を飛散する可能性が高く、厳
例
吹きつけアスベスト、アスベ
スト含有ロックウール等
重な暴露対策が必要なもの
レベル 2
発じんしやすい製品の対策であ
あり
り、高い暴露対策が必要
レベル 3
石綿保温材、けいそう土保温
材、パーライト保温材等
発じん性は低いが、切断等の作業
なし
に伴い暴露する可能性があるも
上記以外のアスベスト含有建
材等
の
石綿等を含む物質のうち、白石綿のみを含有し、含有量(重量)が 0.1%を超えるものを対象としている(石
綿障害予防規則第二条第 2 項)
出所:国土交通省「アスベストの分類と対応方針」(2005)等をもとにみずほ情報総研作成
図表 3:石綿含有建築物等の解体等に係る主要法令*と概要
石綿障害予防規則を中心とした、解体等に伴う石綿除去業務の実施事項
作業レベル
建材の種類
事前調査・記録
作業計画
解
体
工
事
の
開
始
前
計画の届出
作業の届出
特別教育
作業主任者の選任
工
事
中
工
事
完
了
後
レベル1
石綿含有吹付け材
耐火・
その他
準耐火建築物
レベル2
レベル3
石綿含有保温材、耐
火被覆材、断熱材
その他の石綿含有建
材(成形板等)
○
○
○
(開始14日前
迄)
○
○
○
○
○
○
-
-
○
○
○
○
保護具等の使用
湿潤化
作業場所の隔離
作業者以外の立入り禁止
関係者以外の立入り禁止
発注者の配慮
廃棄物区分
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
特別管理産業廃棄物
○
○
○
○
○
○
特別管理産業廃棄物
最終処分場
管理型最終処分場
管理型
安定型(中間処理済
みの場合)
その他法令
労働安全衛生法
大気汚染防止法
建設リサイクル法
廃棄物処理法
建築基準法
建設リサイクル法
労働安全衛生法
大気汚染防止法
○
○
○
○
-
建設リサイクル法
(技術管理者)
大気汚染防止法
(作業基準の遵守)
○
○
産業廃棄物
安定型
建設リサイクル法
廃棄物処理法
出所:石綿障害予防規則、国土交通省「目で見るアスベスト建材」(2006年3月)、東京都環境局建築物等に係るア
スベスト飛散防止対策マニュアル(第2次改訂版)(2006年10月)よりみずほ情報総研作成
*法令は、各法令の施行令および施行規則を含むが、条例は含まれない
b)
PCB
PCB 廃棄物は、2001 年に制定された「ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に
関する特別措置法(PCB 特別措置法)」で、日本環境安全事業株式会社の設立が規定され、
処理方法等が定められた。事業者は、毎年、都道府県知事等に保管量を届け出なければな
らず、2016 年までに処分するか、処分を委託しなければならない。
7
PCB 処理の委託を受ける日本環境安全事業株式会社では、現在全国 5 箇所に PCB 処理施
設を持ち、規定の単価で順次処理を行っており、処理単価は重量毎等の区分で同社ホーム
ページに掲載されている。
PCB 廃棄物等を保有する企業は、自社で処理事業を実施していない場合には、現在その
処理を待っている状態にある場合が多く、いわば廃棄物を保管している状態にある場合が
多いと考えられる。
c)
土壌汚染
土壌汚染に関する環境法は 2003 年 2 月に施行された土壌汚染対策法で、汚染された土壌
の直接摂取及び地下水等の汚染を経由して生じる健康影響を考慮し、有害物質等を使用し
た施設の廃止時に、施設の所有者等に対して汚染調査及び報告を求めている8。法が求める
土壌汚染の調査の機会は2つあり、1つは、水質汚濁防止法で定める有害物質使用特定施
設の使用を廃止するとき(第 3 条調査)の調査の義務である。しかし、引き続き事業所と
して使用する場合には調査が猶予され、実際には調査が猶予された施設が全体の約 8 割に
のぼっている9。2つめは都道府県が土壌地下水汚染により健康被害が生じるおそれがある
と認める場合には、調査義務が課される(第 4 条調査)。
一方、土壌汚染対策法に先駆けて、土壌の環境基準が規定されたのは 1991 年 8 月であり、
その後 1994 年に揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds, VOC)の基準が、2001 年に
はフッ素、ホウ素の基準が追加されている。現在、土壌汚染対策法では、第一種特定有害
物質(VOCs)11 種、第二種特定有害物質(重金属等)9 種、第三種特定有害物質(農薬等)
5 種のあわせて 25 種類について、土壌溶出量基準が規定されており、重金属等(または第
二種)については含有量基準も規定されている。
上記の法第 3 条調査によって基準を超える汚染が発覚した場合には、指定区域として指
定され、都道府県等から公表されることになっている。土壌汚染対策法では、汚染土壌の
対策として、拡散防止のための封じ込めなどの措置を認めているものの、指定区域の解除
には汚染を基準値以下まで浄化するか、汚染土壌を除去することが必要になる。
このように法律において土地所有者等が調査を実施しうる第一義的な責任者となってお
り、汚染が発覚し、指定区域に指定された場合には、汚染の除去をしなければ指定区域か
らの解除が認められない。一方、土壌環境センターの会員向け調査によると、法律によっ
て実施する調査は、調査全体の1%程度にとどまり、条例を含めても法的に義務付けられ
る調査は 2 割未満にとどまり、それ以外は法律で求められる調査ではない。しかし、現実
8
施設の所有者等には、所有者以外に施設の占有者、利用者等が含まれるが、土地の所有者が第一義的に
責任を負うことになる。所有者以外が汚染原因者である場合には、所有者が汚染原因者に対策費用等を求
償できることが規定されているが、民間同士の契約であり、国が汚染原因者に対して措置を求めるわけで
はなく、原則として土壌汚染の調査や対策は土地所有者責任となっている。
9 2003 年 2 月 15 日から 2007 年 2 月 14 日までの 4 年間に有害物質使用特定施設の廃止は 3,102 件あるが、
調査猶予となったものが 2,479 件あり、調査を実施した例は 666 件に留まっている。環境省「土壌汚染対
策法の施行状況及び土壌汚染調査・対策事例等に関する調査結果」2007 年 10 月。
8
には不動産取引において、買い手が汚染地を所有するリスクを回避するため、土地売買の
際には、土壌汚染調査を実施することが通例となっており、基準を超えた汚染の場合には、
汚染土壌を掘削除去する手法が最も多く採用されている10。土地売買においては、土壌汚染
地は、汚染を完全に浄化するか、浄化費用を差し引いて取引されることが大部分であり、
不動産鑑定評価基準でも土壌汚染がある場合には、その費用を考慮して鑑定評価をするこ
とが定められている11。
環境経営を推進している企業では、環境保全と企業責任の視点から土壌環境基準への適
合を目指しているケースも多い。社会や市場での関心を考慮すれば、基準を超えた土壌汚
染がある場合には、計画的に浄化や除去等の措置をとる管理方針をもつ上場企業は、少な
くないといえるだろう。
5.資産除去債務の計上プロセス
資産除去債務の計上プロセスは、大きく分類すると以下のような流れになる。まず会社
が保有する固定資産の分類をし、対象物件の選別や実施計画をたて、対象となる資産を洗
い出す。対象となる資産の除去に関する法令や契約条件から債務性を評価し、除去費用に
関する見積り等の情報を収集・整理する。そこから除去債務の将来キャッシュフロー、す
なわち割引前の将来キャッシュフローを特定する。そして、それらの債務を債務認識時点
まで割戻し、固定資産の耐用年数にわたって減価償却費を計上する。会計基準採用年度ま
でに減価償却費として計上している金額を特別損失として計上し、その後の固定資産の残
存耐用年数にわたり減価償却費として費用化するものである。(図表 4 参照)
図表 4:資産除去債務計上の流れ
会社方針・環境方針
CRE方針等
対象物件の
選別・範囲・計画
対象物件の
洗い出し
債務性評価
見積りデータ等
の収集・整理
環境部・施設管理部(法務部等)
将来キャッシュ
フローの
試算
減価償却費
会計処理
報告内容の整理
経理財務部(IR部・経営計画部等)
出所:みずほ情報総研
10 東京地裁平成 18 年 9 月 5 日判時 1973 号 84 項では、基準超の土壌汚染がある場合に不動産の価値が下
がっていることを指摘し、土壌汚染の蓋然性の可能性がある土地利用をしている場合、売主が買主にその
情報を通知する義務があることを示している。太田秀夫「汚染土地の売主の責任」NBL(no.874) 2008.2.1.
参照
11 (社)不動産鑑定協会「土壌汚染に関わる不動産鑑定評価上の運用指針Ⅱ」等
9
【プロジェクト体制】
資産除去債務の計上プロセスでは、これまで比較的つながりが少なかった企業内の環境
部と施設管理部、そして財務・経理、法務部などの担当部署のメンバーが共同で実施する
作業となる。具体的には、対象資産の洗い出し、債務性の評価から将来キャッシュフロー
の特定については、施設管理や有害物質の管理を行う担当部署が実施する場合が多く、法
務部等の協力も必要な場合がある。
将来キャッシュフローを現在価値に割戻し、除去債務を確定するとともに、各期の減価
償却費を計上し、財務諸表に記載するまでの段階は、固定資産管理を担当する財務・経理
の担当者が行うことになる。その間、過去の環境・CSR 報告書等や IR 方針との整合性及び
固定資産システムに係る各担当部署のメンバーが参画する可能性もある。所有資産やリー
ス資産を海外にも保有している場合には、当然海外の担当部署とも連携して実施する作業
である。
各企業によって担当部署が異なるが、環境問題に関連する資産除去債務では、アスベス
ト、土壌汚染、PCB に関する担当者がかかわることが必須である。
図表 5:資産除去債務に係る将来キャッシュフロー試算のまとめ(一部例)
固定資産情報
対象物質
アスベスト
アスベスト
アスベスト
土壌汚染
土壌汚染
その他
事業所・社
名
建物名
場所
資産除去債務対象
竣工年
将来費用
アスベスト等
現時点の措
耐用年数 の対象面積
今後の対策
置の方法
(m2)
A社
**
**
1970
200 囲いこみ
A社
**
**
1970
100 囲いこみ
B社
**
**
1990
3000 囲いこみ
C社
**
**
1990
未調査
D社
**
**
1980
未調査
D社
**
**
1980
調査費
対策費
モニタリング
費
解体時除去
資料:みずほ情報総研株式会社
【全体の実施計画と初期調査】
連結財務諸表の有形固定資産の資産除去債務計上スケジュールを立てる場合には、企業
内に債務計上に向けた情報がどの程度あるのかを考慮して決定することが望ましいだろう。
具体的は、過去にこれらの環境関連の調査や対策をどの程度実施しているのか、対象資産
やグループ内の会社別に調査をすることである。
すでに予定している対策について、外部の調査会社や浄化会社などから見積りを得てい
る場合でも、それらの見積りが資産除去債務を計上するに当たって十分な情報が含まれて
いるかを検証する必要がある。見積りの区分が不十分であったり、廃棄費用や運搬費用な
どが含まれていない場合があるためである。また、過去の実績値として活用する場合には、
見積り区分や見積り時期等も確認する必要がある。過去の情報は、将来費用の見積りや参
考情報として有効であるため、他サイトの見積りを検証する上でも活用できる。
10
このようして得た見積りを、将来の資産除去時、すなわち残存耐用年数の時点まで、イ
ンフレ率等をかけ合わせて将来価値として計算し、その後、設定した割引率を用いて、債
務認識時点まで割り戻す。環境関連の資産除去債務については、資産取得時よりもそれら
の環境法ができた時点であることが多いため、環境法の公布時点等を確認する必要がある12。
費用化する期間が明確になり、割引率を決定すると、各期の減価償却費が計上される。
これらのうち、会計基準適用年度までに費用化するものは、特別損失として計上し、それ
以降の分は減価償却費として各期に配分する。
6.資産除去債務における除去時の債務性と会計処理における課題等
a)
国内環境法を踏まえた債務性
ここで国内の環境法令を踏まえ、資産除去債務に該当する有害物質の法的債務について
考えてみたい。結論から述べると、アスベストとPCBについては資産除去時や廃棄時に
法的に措置が規定されている場合が大部分である。一方、土壌汚染については、現段階で
は法的債務は売却時等資産除去時に土地の原状回復義務が明記されている場合を除いて、
法定調査など限定的であると考えられる。具体的には、以下の通りである。
アスベストは、その作業レベルに応じて石綿障害予防規則等で、建物解体時の事前調査
を含め、法律での措置や手続きが義務付けられている。飛散防止のため囲い込みをしたア
スベストも、解体時すなわち資産除去時には、事前調査をし、各種法律(下表参照)に沿
った措置をする必要がある。石綿障害予防規則のもとでは対象となるアスベストは、レベ
ル1だけでなく、レベル2・3のアスベストも含まれることになる13。
またPCBは、特別措置法により 2016 年までに廃棄処理を終了することになっている。
建物の除去時に、PCBを処理する場合には、資産除去債務に含まれる可能性もあるが、
実際には、使用済みPCB廃棄物を処理時期まで保管している場合が大部分であると考え
られる。このため、資産除去債務ではなく、その発生確率や費用が見積もられている場合
には、引当処理の対象になると考えられる。資産除去債務に該当するものは、限定的であ
るといえるだろう。
土壌汚染は、土壌汚染対策法において施設閉鎖時に義務付けられていることは、法定調
査に限定されており、対策は義務付けられているわけではない。閉鎖時に用途変更等をし
ない場合には調査猶予になり、実際に市場では調査猶予が大半となっている。米国基準で
は、債務の実施が不確実な場合でも債務認識することが規定されているが(FIN47)、国内
では、調査猶予に関する会計上の取り扱いは、明記されていない。
12 国内基準案では、債務認識時点が環境法の公布時であるのか、施行時であるのかについて、見解が示さ
れていない。
13 ちなみに資産の除去時以前にも、吹付けアスベスト等の飛散性のあるアスベストについて飛散防止措置
を講じていない場合には、石綿則によって飛散防止措置が求められている。その費用は、資産除去債務で
はなく、発生の確率が高く見積りがある場合には、引当処理の対象となると考えられる。
11
土壌汚染対策法は、封じ込めなどの飛散や拡散防止等の比較的費用も安い措置も認めて
いる。しかし実際に、土壌環境基準以上の汚染が確認された場合には、土地売買など資産
除去時に契約の相手方から除去を求められるか、費用を控除して取引される場合が大部分
である。環境基準は国内法として、健康面の安全確保の基準として規定されているもので
あるが、土壌汚染対策法では、汚染の除去などの直接的な措置が求められるケースは現在
まではあまりない14。一方、特定施設の廃止時の法定調査において基準超えの汚染が発見さ
れ、指定区域に指定された場合には、汚染を除去することが指定区域解除の条件になって
いる。不動産鑑定評価基準では、土壌汚染のある場合には、それを鑑定評価に考慮するこ
とと規定されており、不動産売却時に原状回復として土壌環境基準まで土壌汚染を浄化す
ることが売主から条件となるか、土地価格から汚染除去費用等が減額されるのが通例であ
る。このため、実質的には土地売買契約等において、汚染の除去が市場で求められている
といえるだろう。
したがって、現在の土壌汚染対策法のもとでは、土地の原状回復等が契約条件等におい
て明示されていない場合には、資産除去債務としては、特定施設の廃止時の法定調査が認
識されるだけである15。基準を超えた土壌汚染がある場合には、将来の浄化費用として引当
処理等をすることになると考えられる。一方、土地建物を売却する予定があり、契約条件
等により土壌浄化が条件となっている場合には、汚染浄化費用及びその後の廃棄処理やモ
ニタリング費用も資産除去債務に含まれる可能性がある。
14
4 条調査の結果、基準超えの汚染が発見された場合には、都道府県知事により措置が求められる場合が
ある。
15
条例等で一定規模以上の土地改変の際に、調査等が義務付けられている地域では、売却時等に資産除去
債務に該当する条例対応調査等があると考えられる。(例:東京都、愛知県、広島県等)
12
図表 6:固定資産に係る主な有害物質と国内法を踏まえた除去時の債務性の考え方
有害物質
法的債務
至急
資産除去
(健康被
時
契約上の義務等
その他
害防止)
至急
資産除去
(健康被
時
自主的取り組み
その他
至急(健
資産除去
康被害防
時
害防止)
止)
アスベスト
飛 散性ア
解体に伴
(石綿則、建
ス ベスト
う調査や
(囲い込み等、措置済
設リサイク
( レベル
除去(レ
みアスベストの除去
ル法、大気汚
1)の飛散
ベル 1、
等)
染防止法等)
防 止措置
2、3)
-
-
その他
契約上の取り決め等
-
-
-
-
-
-
( 囲い込
み等)
PCB
建物内の
使用済み
(PCB特
ト ラ ン
P C B
別措置法)
ス、コン
(廃棄処
デンサ等
理待ちの
-
-
-
-
状態)
土 壌 汚 染
都 道府県
特定施設
現状回復の契約等が
調 査・浄
法対象外
操業中の
(土壌汚染
知 事によ
廃止時の
ある場合の、調査や浄
化等
の施設の
調査や浄
対策法)
る 調査命
調査
化
建替え時
化
-
令
等の調査
や浄化
* 上記表には、条例は含まれない。
出所:各種資料よりみずほ情報総研作成
b)
資産除去債務の会計処理における課題等
続いて、将来キャッシュフローの見積りまでのプロセスにおけるいくつかの課題を整理
したい。
(1) 将来キャッシュフローの見積り方法
適用指針(案)においては割引前将来キャッシュフローの見積りにあたっては次の情報
を基礎として自己の支出見積りとしての将来キャッシュフローを見積もることとしている。
資産除去債務に関する会計処理の適用指針(案)3
(1) 対象となる有形固定資産の除去に必要な平均的な処理作業に対する価格の見積り
(2) 対象となる有形固定資産を取得した際に、取引価額から控除された当該資産に係
る控除費用の算定の基礎になった数値
(3) 当該有形固定資産への投資の意思決定を行う際に見積もられた費用
(4) 有形固定資産の除去に係るサービス(除去サービス)を行う業者など第三者から
の情報
出所:企業会計基準適用指針公開草案第 27 号(2007 年 12 月 27 日)
13
基準案には、将来費用(将来キャッシュフロー)の見積りについて、
「合理的で説明可能
な仮定及び予測に基づく自己の支出見積りとする」と記載されているが、FIN47 に示され
ているような見積りに十分な情報等の目安が共有されることも重要であると考えられる16。
米国では、環境浄化債務に関する土壌汚染対策費用等の見積り ASTM E2137-06「環境問題
の金銭債務の見積りに関する基準ガイドライン」が広く活用されている。ここに記載され
ているような期待現在価値技法、最頻値、既知の下限値など、また見積もりに必要な情報
量や試算の可能性などを踏まえた考え方を示すことは実務上役立つだろう。
将来費用に含まれる項目として、資産除去債務には、第三者費用だけでなく、保管・管
理費用などを含むとされているが、調査費用、モニタリング費用等についての費用範囲が
明確になっていない。米環境保護庁(Environmental Protection Agency, EPA)でまとめられ
た「環境浄化費用の見積りに関するガイドライン」に関する資料で、費用区分がなされて
いるように、なんらかの費用に関する考え方を示すことも有用であると考えられる17。
固定資産の売買金額に除去費用相当額が控除された場合、それらを基礎として資産除去
債務を見積もることができると記載されているが(適用指針案 20)、過去の売買金額におけ
る参考資料としての位置づけ等の明確化が必要であると考えられる。
第三者見積りにおいては、将来費用を算出するにあたりインフレ率等の使用における、
人件費、設備費、利益率等の考えかたが示されることも有効である。国内では、利益率等
について見積りに記載する方法は一般的ではないため、見積り区分の目安を示すことも実
務上有効であろう。
自社や連結対象のグループ会社が調査や対策を実施する場合には、費用調整が必要であ
るため、費用について見積り段階から区分する必要もある(調査費用、モニタリング費用、
運搬費用等)
。
図表 7:将来キャッシュフローの見積り方法(概要)
将来費用の算出方法
公正価値に
概
該当するか
期待値
要
費用の大きさと発生確率についてのシナリオを作成し、各シナリオに
基づく費用を発生確率に加重平均して求める方法。過去の実績などを
○
もとにする手法やシナリオを策定して求める手法がある。発生確率は
統計的なデータ等をもとにすべきであるが、情報の不確実性は残る。
最もあり得そうな値
起こる可能性が最も高いシナリオ(例:表明された優先修復措置策)
(Most Likely Value,
の費用を算出する方法。期待値を求めるやり方が現実的ではない、ま
MLV)
×
たは適切ではない場合に、活用する。MLV は、高い費用見積と低い
費用見積の間の中間地点となるわけではないため、最も起こる可能性
が高い、技術上および規制上のシナリオを使用するべき
FIN47 では、見積りに足る十分な情報とは、措置の時期またその時期の範囲がわかること、措置の方
法や潜在的な方法があること、措置の時期と方法に関連する確率があることとしている。
17 USEPA, A guide to developing and documenting cost estimates during the feasibility study, 2000
16
14
費用の上限下限表
示
期待値を求めるやり方が現実的ではない、または適切ではない場合に
用いる。上限下限表示は、合理的な仮定に基づき行うべきであり、上
×
限と下限の間にある結果のなかに他よりも発生確率が高いものがあ
る場合、MLV または期待値を追加見積りすることが望ましい
既知の最小値
結果と費用の不確実性が非常に大きいとき
×
上限下限表示または MLV を見積るには時期尚早のとき
確実な個々の費用を含んだ最小値
出所:ASTM E2137-06「環境問題の金銭債務の見積りに関する基準ガイドライン」等よりみず
ほ情報総研株式会社まとめ
(2) 債務性の判断と債務の認識時期
また、債務性が明確でないものや債務認識時期について、会計処理の考え方等を示すこ
とも望まれる。たとえば以下のようなケースが挙げられる。
„
発生原因による判断及び文書管理の困難さ:通常の使用により発生するものについて、
資産除去債務の対象とし、事故や不適切な操業に基づくものは引当金として処理する
旨が記載されているが、国内の固定資産に係る環境法が比較的遅く法制化されたこと
を踏まえても、法制度前に使用したなどの理由による有害物質や汚染は発生原因を特
定することは難しい。
„
処理方法が明確でない有害物質等の将来費用:低濃度 PCB、アスベスト含有成形板の
取り扱い。
„
特定施設の廃止時における土壌汚染の調査猶予における債務性の判断。
„
債務の認識時期:アスベストが含まれる建築物の大部分は、1980 年代以前に建設され
た建築物であり、債務の取得した年度は法律施行年になるため、債務認識時の共有が
必要である。企業担当者の間では施行時期に対する周知が高いため、各環境法の施行
時が分かりやすいと考えられるが、公布時点になる場合には、施行規則の公布時点等
の明確化が必要である。
15
図表 8:固定資産の除去時における法的義務と該当法及び施行年
有害物質
アスベス
ト
法律
除去時の規定等
公布年
施行年
廃棄物処理法改正
特別管理廃棄物に規定
1991 年
1992 年
大気汚染防止法改正
吹付けアスベスト除去工事を特定
粉じん作業として届出等義務付け
1996 年
1996 年
建設リサイクル法
建物解体時における元請事業者に
よる事前調査及び対策の義務付け
2002 年
2002 年
石綿障害予防規則
建物解体時に事前調査、対策、廃棄
等の方法を規定
2005 年
2005 年
PCB
PCB 特別措置法
使用済み PCB の廃棄処理方法の規定
(時期も限定している)
2001 年
2001 年
土壌汚染
土壌汚染対策法
水質汚濁防止法の特定施設の廃止
時に法定調査の義務付け
2002 年
2003 年
出所:各法律等よりみずほ情報総研作成
7.企業における環境債務の把握と管理
a)
企業における環境債務の把握
企業はこれまで土壌汚染、アスベスト、PCB のような、将来環境対策費用を支出する必
要が高いもの、すなわち環境債務になる可能性があるものについて、地域住民や従業員の
健康被害の防止、また環境や生態系への悪影響を防止するための対策を進めてきた。土壌
汚染対策法以降は、土壌汚染による土地価格の減損による財務への影響、さらに汚染情報
の不十分な開示による企業の社会的責任も問題として取上げられるようになっている。環
境法令により将来の対策が求められるようなものについて、企業は説明責任を果たすこと
が望まれるようになっている。すなわち、環境債務の対象を特定し、その将来の処理費用
を見積もり、財務の面で将来適切に処理できる責任能力を、情報開示によりステークホル
ダー並びに地域社会に示すことが企業責任となってきているといえるだろう。
資産除去債務の計上にあたっては、企業の経理部門、環境部門、施設部門等、様々な専
門知識が必要になる。各組織の情報をわかりやすく伝達すると共に、保有情報・公表情報
に対する客観的な視点が重要になるだろう。
b)
自主的取り組みの推進が成果に
環境面における資産除去債務の計上では、これまでの自主的な調査や浄化の取り組みが
大きく貢献する。環境経営を推進し、土地建物等の固定資産に関しても、土壌汚染やアス
ベストの状況調査や対処を進めている場合には、これまでの環境活動で得た情報の管理を
活用することができる。また、グループ環境マネジメント体制が確立していることにより、
複数部署に亘る取組みを円滑に進めることができる。
16
資産除去債務は、資産の除去時に必要な除去費用を債務計上するもので、施設の稼働中
に実施する環境浄化費用が含まれないことになっている。自主的な調査に加え、計画的に
操業中浄化を進めることで、環境面でのリスク低減だけでなく、財務諸表に係る事務的な
手続きも軽減できることになる。また意思決定の推進にもつながるだろう。
8.おわりに
近年、企業の社会的責任(CSR)に関する関心の高まりに、社会や環境面など非財務情
報の開示が広まり、国内でも上場企業を中心に 1000 社あまりが環境や CSR 報告書を発行
している。一方で、環境費用と財務諸表をつなげる動きが広がっている。環境対策に係る
費用が一定程度になり、財務諸表に反映させる動きも顕在化しつつある。昨年は、地球温
暖化問題に対する情報を財務諸表に反映させるような意見書がだされ、今年に入り金融機
関を中心とした気候変動に対するアクションプランも公表されている18。また、企業買収等
の取引時点に、環境関連の偶発債務や資産除去債務を公正価値で見積り、開示することも
決まり、欧米企業では 2009 年から施行される予定となっている19。
2010 年度から国内で施行される資産除去債務に関する会計処理は、将来費用を資産・負
債に両建て処理という処理方法そのものも、国内の会計基準になかったあらたな処理方法
であるが、さらに将来の環境対策費用を財務諸表に反映する点についても、あらたな処理
であるといえる。
企業への財務情報の開示責任に加え、環境関連情報に対する関心が国際的に高くなって
いる。国内の会計基準の施行にあたって、企業の開示に対する姿勢やその内容、適切な説
明を行うことが、企業の内外へのリスクマネジメントにつながることになるだろう。
NPO や年金基金の署名による SEC に対する請願書が 2007 年 9 月に提出されている。 また、2008 年
2 月には CEREs から気候変動に関するアクションプランも公表された。
19 FAS141R。非金融負債については公正価値の適用(FAS157)の施行時期が 1 年延期された。
18
17
(参考文献等)
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環境省、
「ポリ塩化ビフェニル(PCB)廃棄物の適正な処理に向けて(2006 年版)」2006
年
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環境省:土壌汚染をめぐるブラウンフィールド対策手法検討調査検討会「土壌汚染を
めぐるブラウンフィールド問題の実態等について 中間とりまとめ」2007 年 3 月
環境省ホームページ
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社団法人日本石綿協会「法規則対応マニュアル」2007 年 10 月版
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United States Environmental Protection Agency, Memorandum Guidance on Distributing the
“Notice of SEC Registrants” Duty to Disclose Environmental Legal Proceedings in EPA
Administrative Enforcement Actions, January 19, 2001
謝辞:本稿執筆の過程で、関係者の皆様に貴重なご意見を頂きましたことを、深く御礼申
し上げます。
注:本稿執筆時点では、国内資産除去債務に関する会計基準(案)の段階であり、本稿に
記載した項目と関連する項目が変更される場合には、上記記載内容と異なる可能性があり
ます。
注)無断転載は禁じます。
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