5 管内哺育育成農家における肺炎発生事例 倉吉家畜保健衛生所 ⃝湯口 俊之 前田 佳奈 1. はじ め に 哺育育成農家において肺炎の多発蔓延は仔牛の死亡、発育不良の原因となり、経済的損 失も大きい。今回、哺乳ロボットを導入している管内哺育育成農家A農場において春先よ り仔牛の肺炎が散発しており、病性鑑定を実施。また、聞き取りにてその農場内に同症状 の肺炎が多発していたことから対策を行った。 2. 病性 鑑 定 病性鑑定を行ったのは、5月29日生のF1♀。5種混ワクチンを接種していたが、4 0日齢より発熱、治療回復するも50日齢で再度発熱、発咳、鼻汁といった症状を呈し、 75日齢で死亡した仔牛について行った。その結果は図1,図2のとおりであった。 図1 解剖結果 外見:削痩 気管:泡沫物貯留 胸水貯留 肺(前∼中葉): 膿瘍形成 胸膜とのゆ着 肺門リンパ節:腫大 図2 微生物検査結果 ○細菌検査 検体:肺、肺門リンパ節 検査方法:DHL、馬血液寒天培地微好気培養 →パスツレラ(+) ○マイコプラズマ検査:陰性 ○ウィルス検査 PI-3、IBR、AD-7、BVD-MD:抗体価上昇無 RS:抗体価の有意な上昇1頭 外貌 肺 、肺 門リンパ 節の 菌分 離を 実施 3. 同居 牛 への 対応 同症状の牛が多数居た事から、同居牛について体温測定、血液検査を実施。その結果は 図3に示すとおりで、発熱と白血球数の上昇、A/G比の減少がみられた。 これらの結果より、症状が出ているものや発熱しているもの、白血球数の上昇している ものについて応急処置として解熱剤、抗生物質での治療を行った。 (図4は体温による治療経過) 図3 同居牛の血液検査成績 体温 Ht W BC TP ALB A/G GGT GOT A 39.5 34 1 2900 6 .2 2 .9 0 .9 30 63 111 6.9 106 B 40.1 35 1 6000 7 .5 2 .4 0 .5 33 57 107 8.7 80 C 39.8 32 8 200 6 .3 2 .5 0 .7 34 64 118 11 69 D 40.1 40 3 2000 6 .9 2 .5 0 .6 51 158 91 7.3 17 TCHO BUN GLU F 40.1 28 1 5600 7 .4 2 .6 0 .5 33 60 106 5.6 80 G 39.2 37 1 1900 6 .4 2 .7 0 .7 40 69 126 <5 72 H 39.8 37 1 7800 6 2 .4 0 .7 44 88 95 9.2 50 I 39.3 23 1 0100 5 .7 2 .7 0 .9 32 59 89 8.9 72 J 40.0 21 9 200 4 .6 2 .4 1 .1 47 35 56 10 74 K 39.6 30 1 0400 5 .1 2 .7 1 .1 90 54 122 8.8 72 L 39.5 34 1 2200 6 .2 2 .8 0 .8 28 69 128 8.5 86 M 39.2 24 5 200 5 .4 2 .4 0 .8 37 51 102 6.6 80 N 39.3 35 1 0600 5 .8 2 .3 0 .7 30 80 101 7.4 81 図4 体温経過 ℃ 41 A B 40.5 C D 40 E F 39.5 G H 39 38.5 8月12日 8月17日 8月22日 8月2 7日 9月1日 3. 肺炎 対 策Ⅰ 今回、夏期では少ない肺炎の蔓延が起こり 被害が出たことから農家と相談、要因として 免疫不足と高密度群飼育による感染助長、発 見遅延を想定。 Ⅰ免疫力不足への対策 ○初乳の品質管理 初乳中の免疫グロブリン含量は一定ではない まず、仔牛の免疫力不足について、初乳に 着目して対策を行った。初産牛は経産牛に比 べ全体的に初乳が薄く、グロブリン量が低い 簡易検査:屈折糖度計によりBrix値測定 と言われており、経産牛についても全てが同 品質ではない。そこで、外観だけでは判断で きない初乳中の免疫グロブリン量を屈折糖度 初乳中のIgGとBrix値 計を用いて簡易検査を行った。屈折糖度計は、 初乳中のBrix値が測定可能で、Brix 値とは水溶液中の蛋白、塩といった可溶性固 屈折 式糖 度計 Brix値とIgG濃度 高い正の相関関係 がある 形分の%率である。このBrix値と免疫グ ロブリン量は高い相関関係にあることから、 Brix値により初乳中のIgGを推察でき る。 Brix値による初乳評価としては、 屈折 糖度 計で、初 乳の Brix値 を測 定 することに より、Ig G濃 度を 推察 す ることが でき る Brix値とは水溶液中のたんぱく質、 糖、塩類といった可溶性固形分の パーセント濃度 Brix値が17以上の場合その初乳は大変 良質だと言えるが、逆に14に満たない場合、 Brix値による初乳評価 その初乳でのIgGは極めて低いと評価する。 農家には糖度計で毎回初乳を測り、Bri x値が17に満たない場合、その初乳は使用 Brix値 17 以上 : 良質な初乳 せず、人工初乳を使用してもらうよう指導し た。 17未満の場合、人工初乳を使用 4. 肺炎 対 策Ⅱ 夏期に肺炎が蔓延した2点目の要因として、 哺乳ロボットによる群飼育が高密度であり感 染を助長していたこと、さらに、多頭数をロ ボットに任せ牛群観察不足がおこり、発見が 遅れていたことを想定した。 Ⅱ高密度飼育による 感染助長・発見遅延対策 牛群の管理→外部導入の一時停止 飼育頭数削減(2/3程度) 日々の個体管理 そこで、次の3点の対策を行った。 1点目は牛群管理の改善を行った。牛の飼 育密度ですが、牛の居住空間は育成牛で3. 6㎡、仔牛でも1.8㎡は必要だと言われて 環境清浄化→牛舎消毒 病原の隔離→病畜ハッチの移動 おり、A農場ではそれを上回る頭数が哺乳牛 舎内に入っていました。そこで、肺炎が起こ 牛舎消毒 っていたこともあり、一時外部導入を中止し て2/3まで頭数を減少、適正な生活スペー スに変更した。また、個体の管理にも重点を おき、日常の牛群観察、体温測定を指導。 2点目として、環境からの感染を排除する為、 牛舎内や哺乳ロボット等を消毒した。さらに、 3点目としては抵抗力の弱い馴致牛のハッチ 石灰乳を塗布した牛床、壁 と同じ場所に病畜ハッチもあったことから、 病畜ハッチと哺乳牛を隔離した。 哺育育成施設 (改善前) 馴致 ハッ チ 入 病畜 馴致 病畜チ ・馴致ハ ハッチ ハッ ッチ 改善後 入 路 口 通 口 哺乳 ロボット 哺乳 ロボット 病畜 ハ ッチ 哺乳 牛 哺乳 牛 離乳後 哺乳ロボット 5. 哺乳 ロ ボッ トの 長所 と注 意 点 A農場で肺炎が発生したのは、哺乳ロボットによ 哺 乳ロボッ トの メリッ ト る群飼育だった。哺乳ロボットは哺育作業の省力化 哺 育作業 の省力 化 というメリットがあるが、哺育牛舎の衛生環境を良 好に保ち、自動哺乳システムの弱点である群飼育に よる疾病感染を防止することが何より重要である。 注 意 点 ! 群 飼 育 の 為 、病 気 が 蔓 延 す る 6. まと め 可 能性 があ る 今回、感染防御対策として、良好な初乳の 供与、適正な飼育密度、個体管理、異常牛の 終わりに 即隔離治療、牛舎の清掃消毒を行った。 その結果、9月以降肺炎が終息、仔牛の死 亡数0となった。また、農家が衛生管理に高 い関心を持つようになり、初乳の糖度計での 計測、体温測定や定期的な牛舎消毒など日々 の管理を行っている。 初 乳の 品質 管理 免 疫 力の ある初 乳を 飲ませる 適 正な飼 育密 度 高 密 度飼 育は 蔓延 のもと 日 常 牛 群 の個 別管 理、体 温測 定 管 理 病 牛の 早期 隔離 ・治 療 衛 生 的 環 境 牛 舎、哺 乳ロ ボッ トの 消毒 今後、哺育育成の多頭群飼育、哺乳ロボッ トの導入をする農家に対し、今回の対応を啓 発していきたい。 9月以降仔牛の死亡数0・肺炎終息・衛生意識向上
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