バイオマスの総合評価

F R O N T I E R R E P O R T
バイオマスの総合評価
千葉事業所 平野 直子 / 千葉事業所 瀬尾 千春 / 大阪事業所 浅野 賢一
大阪事業所 韋 宏 / 工業支援事業部 森川 正弘
1 はじめに
在バイオリファイナリーにより各種エネル
成分で構成されており,組成を解析する際
地球温暖化対策とエネルギーの安定確
ギー・副生成物が生産されているが,それ
は,その物性や分解条件などから着目する
保は国内外を問わず重要課題であり,バイ
らの生産経路は,図1に示すようにセルロー
化合物を考慮し,最適な分析法を選択する
オマスを含む再生可能エネルギーの活用が
ス,ヘミセルロースを変換することにより
必要がある。表 1 に分析法と対象化合物
強く求められている。バイオマスとは一般
グルコース,キシロースから C2 ∼ C6 化
群を示す。
的に光合成により生産され,エネルギーあ
合物およびポリマーを生成する経路や,リ
ガ スクロマトグ ラフィー 質 量 分 析 法
るいはマテリアル利用が可能な生物資源を
グニンを変換することによりフェノール誘
(GC/MS)は有機物分析に広く用いられ
意味する。これらはカーボンニュートラル
導体,樹脂等を得る経路等様々であり,副
る手法で,揮発性,低沸点化合物の定性・
な材料であるため温暖化抑制として有効な
生成物についても多種多様である。アメリ
定量に有効な手法である。ヘッドスペー
上に,副生成物が化成品原料や付加価値品
カ合衆国エネルギー省(DOE)ではバイ
ス GC/MS は,試料を 100℃前後に加熱
として利用価値があることから,石油に代
オリファイナリーの核となる基幹化学品と
し,揮発した低分子成分のみを選択的に
わる資源として有望視され,盛んに研究が
して 12 種が選定され,活発に研究開発が
測定する手法である。熱分解 GC/MS は,
進められている。
行われている。バイオリファイナリーに関
試料を 500℃前後の高温で瞬時に熱分解
これらの研究のうち木質系,草本系,藻
連する複雑な生成経路,副生成物の解明の
し,生じた揮発性物質を GC/MS 測定す
類等の再生利用可能な資源から燃料,化成
ためには,化合物の性質に応じた分析方法
る手法である。固体,液体を問わず前処
品原料,ポリマーなどを生産する技術であ
を選択して,総合的に評価することが求め
理なしに測定できるため,ポリマーの定性
り,かつ,石油などの化石資源を原料とす
られている。
等に広く用いられ,木材等バイオマスの
る石油リファイナリーと同様の物質を得る
本稿では,高付加価値品や基幹化学品の
熱分解挙動解明にも有用である。電界脱
ことを目的とし研究されている生産体系の
探索,バイオマス前処理及び糖化,発酵法
離質量分析法(FD/MS)は,試料を直接
ことをバイオリファイナリーと称する。現
の開発を支援するため,
バイオリファイナリー
イオン化,測定する手法である。フラグメ
の各工程における着
ンテーションが起きにくいイオン化法のた
目すべき成分につい
め,混合物の分子量分布の情報を得るこ
て,そ の 化 学 的 性
とができ,バイオディーゼル等の混合物の
質に合わせた種々
組成解析に有効である。液体クロマトグラ
の分析手法を用い
フィー(LC)は熱に対して不安定な化合
た総括的な評価方
物等を液体のまま分離することができる
法を紹介する。
ため高沸点化合物の定性・定量に有効な
手法である。イオンクロマトグラフフィー
図1 バイオリファイナリー系統図1)
2 分析法概要
(IC)は LC の一種でイオン成分や極性分
バイオリファイ
子の定性・定量に用いる手法である。キャ
ナリーにおける一
ピラリー電気泳動法(CE)はイオン性成
般なプロセスであ
分をキャピラリー内で電気泳動させるこ
る「前処理」
「糖化」
とにより分離し,定性・定量する手法であ
「発酵」で生成され
る。HPAEC/PAD 法
(High-performance
る化合物は複雑な
anion exchange chromatography with
pulsed amperometric detection)は IC
表1 各種分析法と対象化合物群
手 法
化合物種
揮発性
低沸点(∼300℃)
高沸点(300℃∼)
高分子
アニオン,有機酸
カチオン
糖
ヘッドスペース
GC/MS
◎
GC/MS
○
◎
△
熱分解
GC/MS
○
◎
◎
◎
FD/MS
LC/MS
◎
◎
◎
○
◎
○
△
△
△
IC
IC/MS
CE
CE/TOFMS
◎
◎
◎
◎
○
SCAS NEWS 2012-Ⅰ
の一種で,糖の分析に特化した手法である。
単糖∼オリゴ糖の定性・定量が可能である。
3 事例紹介
GC/MS: Gas chromatography Mass Spectrometry
FD/MS: Field Desorption Mass Spectrometry
LC/MS: Liquid Chromatography Mass Spectrometry
IC: Ion Chromatography
CE/TOFMS: Capillary Electrophoresis Time-Of-Flight Mass Spectrometry
HPAEC/PAD: High Performance Anion Exchange Chromatography with Pulsed Amperometric Detection
7
HPAEC/PAD
(糖分析)
木質系バイオエタノールの製造工程で
◎
生成する化合物を探索するために,その工
程を模して,市販のヒノキ及びスギ薪材を
粉砕し,200℃で水熱処理した。この処理
液中の化合物の分析法として,3 つの分析
分 析 技 術 最 前 線
手法:LC/MS,IC,CE 及びキャピラリー
電気泳動 / 飛行時間型質量分析法(CE/
䊏䊷䉪㪘
TOFMS)を紹介する。
3.1 LC/MS による組成解析 ∼高付加価
値品の探索,基幹化学品の探索∼
3.1.1 LC/MS の分析原理・特徴
LC/MS は,試 料を LC で分 離した後,
溶出順に各成分をイオン化して質量と電荷
数の違い(m/z) により分析する手法であ
る。イオン化法には,
①エレクトロスプレー
イオン化法(ESI)
,②大気圧化学イオン化
法(APCI)
,
③大気圧光イオン化法(APPI)
がある。リグニン由来のフェノール性化合
物などの高極性化合物を分析する場合に
HO
は,ESI 法を採用する。
OH
LC/MS による組成解析には,高分解能
LC/MS を用いる。リニアイオントラップ
HO
電場型フーリエ変換質量分析計は,新しい
OH
C17H18O5
原理に基づくイオントラップ型質量分析計
OH
᭴ㅧᑼ㪈㩷䊏䊷䉪㪘䈱ផቯ᭴ㅧ
であり,主な特長として高い分解能(最大
10 万)と安定した質量精度(2 ppm 以内,
図2 ヒノキ処理液のLC/MS分析結果
内標準法)が挙げられる。この 2 つの特
長により,複雑なマトリックス中のターゲッ
ト化合物であっても,より迅速に,より確
(a) HPLC/PDA クロマトグラム
(b) UV スペクトル
(c) マススペクトル
(d) プロダクトイオンスペクトル(MS/MS, プレカーサーイオン:301.1078)
(e) プロダクトイオンスペクトル(MS/MS/MS, プレカーサーイオン:241.0868)
実に検出・同定することが可能となり,バ
イオリファイナリーにおける組成解析によ
䎔䎓䎑䎓 䕤䎶
この高機能 LC/MS を用い,木材の熱水
処理液中の化合物の構造を同定した事例を
紹介する。LC/MS 分析結果を図 2 に示す。
䎐䎓䎑䎘
䎓䎑䎓
䎘䎑䎓
䎔䎓䎑䎓
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䏌䏖 䏒 䎐㈼ ㉄
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分析事例
䭵㉄
䏑䎐㈼ ㉄
䎘䎑䎓
3.1.2 木質バイオマス処理液の LC/MS
䱶 䲉䲅䱵 䲉䱟 䲇㉄
る高付加価値品の探索に有用である。
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✭ⴣᶧ
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䎖䎘䎑䎓
䏐䏌䏑
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㜞㔚࿶㔚Ḯ
図4 CEシステムの概要
図3 ICによる有機酸混合標準溶液(1μg/L)のクロマトグラム
処 理 液 の HPLC/Photo Diode Array
(PDA)クロマトグラム(図 2(a)
)にて,
保持時間 26.6 分に最も大きなピーク(以
イナリーに関連する複雑な未知成分の構造
を推定することができる。
汚染して測定に影響を及ぼすことが懸念さ
れる。このような試料では前処理によりマ
下ピーク A)を検出した。ピーク A の UV
スペクトルとマススペクトルを図 2
(b)
(c)
,
溶剤や有機物を含む場合,IC ではカラムを
3.2 有機酸の IC による分析例
トリックス成分を除去して IC 測定する方
に示す。ピーク A について,UV スペクト
有機酸はバイオリファイナリーにおける
法の他,後述する CE を用いることで測定
ルからは芳香族系化合物であること,マ
基幹化学品である他,発酵プロセスにおけ
が可能となる。
ススペクトルからは分子量 302 であるこ
る阻害要因物質や,バイオ燃料中の不純物
とが推定された。次にピーク A の構造を
や腐食の原因物質でもあり,評価項目とし
3.3 有 機 酸・ 糖 な ど の CE 及 び CE/
決定するため,多段階 MS(MSn)測定し
て重要である。有機酸などのアニオン成分
TOFMS 分析例 ∼バイオマス糖化,発酵
n
た。MS 測定結果を図 2(d)
(e)に示す。
,
の分析には,
一般的に IC や CE が用いられ,
法の開発支援∼
MSn 測定により,段階的にマススペクトル
特に IC は有機酸の高感度定量を得意とす
3.3.1 CE 及び CE/TOFMS の分析原理・
測定し,フラグメントパターンから得た部分
る。濃縮注入法を用いた有機酸の IC 分析
特徴
構造を組み合わせることで,全体構造を決
例を図 3 に示す。大容量注入や濃縮注入
CE はバイオリファイナリーに関連する
定した。その結果,ピーク A は構造式 1に
法を用いることでμ g/L レベルの高感度
複雑なマトリックス中のアニオンやカチオン
示すフェノール性化合物であると推定した。
検出が可能であるため,試料中の微量な有
を分離・検出することを得意とした分離定
このように LC/MS により,
バイオリファ
機酸成分の定量に有用である。試料に有機
量法である。CE システムの概要を図 4 に
SCAS NEWS 2012-Ⅰ
8
F R O N T I E R R E P O R T
示す。CE では緩衝液を満たしたキャピラ
CE/TOFMS では,CE で分離されたイオ
ン成分を分離して TOFMS で精度よく定
リーに試料をごく微量注入して電場をかけ
ン成分を LC/MS と同様に ESI によりイオ
性できるため,バイオリファイナリーにお
ることにより,試料中成分をそのイオンの
ン化させる。加速電圧により加速されたイ
ける組成解析に有用である。
電荷,イオン半径,移動速度に応じて移動
オンは,フライトチューブ内を(m/z)1/2
させて検出する。IC と比較して高い理論段
に比例した時間で通過して検出器に達し,
3.3.2 アニオン成分(有機酸類)や糖類
数により各種成分が良好に分離,定量され
この時間を測定することによりイオンの精
の CE 測定結果
る点,夾雑成分の影響を受けにくい点,必
密な m/z を測定することが可能である。
バイオリファイナリー基幹化学品として
要試料量が数μ L と微量である点が大きな
得られた分子量関連イオンの精密質量情報
選定されたいくつかの化合物は,その性質
特徴である。
から元素の組み合わせを行うことで,組成
により CE で良好に定量できる。酸成分及
一般的に CE の検出には紫外吸光光度
式を算出できることが特徴である。また,
び糖類の CE 測定成分を図 5 に,CE によ
法を用いるが,紫外吸収を持たない有機酸
一定の条件のもとで各化合物のクロマト
る標準溶液の測定結果を図 6 に示す。図
などの検出には間接吸光光度法を用いる。
グラムを自動的に抽出することができるた
6 の有機酸類は高い pH の緩衝液を用いる
CE を用いた定性は標準ピークの検出時間
め,検出が困難であったベースに埋もれた
ことで,各成分を陰イオンとして分離,検
の比較により行う。検出時間等で同定が困
ピークも抽出可能である。
出している。CE の高い分解能の特徴を生
難な成分の定性分析には,CE に TOFMS
こ の ように,CE 及 び CE/TOFMS は,
かし,23 成分の無機成分及び有機酸成分
を 接 続し た CE/TOFMS が 有 用 で あ る。
夾雑成分を含む試料であっても CE でイオ
を 25 分以内に一斉分析することが可能で
ஊೞᣠ
DAD1 A, Sig=350,20 Ref=275,10 (1111CT\11070004.D)
mAU
ᵚᵡᵣவˑṞᵜ
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HO
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15
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DAD1 A, Sig=350,20 Ref=275,10 (1111CT\11070003.D)
OH
ᶌᵋᣚᣠ
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㪉㪊
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25
30
35
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HO
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12
ἾἨἼὅᣠ
HO
ἅἡἁᣠ
HO
図6 CEによる有機酸及び糖の混合標準溶液(50mg/L)のエレクトロフェログラム<CE条件①>
O
ἂἽỽἽᣠ
DAD1 C, Sig=280,10 Ref=215,10 (1108KM\08050008.D)
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15
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10
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OH
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10
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12
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OH
OH
ἂἽἅὊἋ
ἋἁἿὊἋ
DAD 1 A , Si g= 35 0,20 R ef= 27 5,10 ( 11 07K M \BIO MA SS \0 7150 010. D)
㪥㫆㪅
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OH
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O
O
HO
HO
HO
HO
HO
OH
O
8
図7 CEによる糖の混合標準溶液(100mg/L)のエレクトロフェログラム<CE条件②>
OH
O
7
HO
㪋
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㪧㪦㪋
䊥䊮䉯㉄
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OH
-2
OH
HO
ἂἼἍἿὊἽ
ίἂἼἍἼὅὸ
HO
ἏἽἥἚὊἽ
SCAS NEWS 2012-Ⅰ
-4
-6
10
図5 CE測定成分
9
OH
ỿἉἼἚὊἽ
15
20
25
30
図8 ヒノキ処理液のエレクトロフェログラム <CE条件①>
䏐 䏌䏑
分 析 技 術 最 前 線
ある。さらに糖類のフルクトース,
キシロー
ス,グルコース,スクロースについても同
条件で検出可能である。グリセロール,ソ
ルビトール及びキシリトールは,図 7 に示
す様に,錯形成を利用したホウ酸緩衝液を
用いる条件で分析を可能とした。
3.3.3 アニオン成分(有機酸類)や糖類
の CE 及び CE/TOFMS による分析事例
ヒノキの処理液を CE 測定した結果を図
8 に示す。試料から SO42-,PO43- 等無機
酸の他,ギ酸,酢酸,リンゴ酸,コハク酸
等の有機酸とグルコースが検出された。ま
た成分が特定できない不明成分がいくつか
検出された。
図9 CE/TOFMS 定性結果
ヒノキとスギの処理液を CE/TOFMS で
分析した結果を図 9 に示す。マトリックス
由来のノイズを除去して各化合物のクロマ
検出成分の傾向を視覚化することができ
トグラムを自動的に抽出することで,ピー
た。また図中のプロットから,その成分の
ク強度が小さくベースに埋もれていた成分
推定組成式を確認することが可能である。
や分離が不十分であった成分を検出するこ
木質バイオマスを水熱処理した試料につ
とができた。また抽出された検出成分の精
いて紹介したが,その後の工程の糖化液に
密質量情報から,元素の組み合わせを行い,
ついても同様に分析することで,バイオリ
推定組成式さらには推定化合物の情報を
ファイナリー基幹化学品やエタノール発酵
得ることができた。これにより CE 測定で
における発酵阻害物質であるギ酸や酢酸を
は確認できなかったアスパラギン酸,グリ
分析することが可能である。
コール酸,マレイン酸,クエン酸等,木質
以上のように,本手法を用いることで試
バイオマス分解物と考えられる多数の有機
料中のイオン性化合物を網羅的に検出・解
酸類を確認することができた。検出された
析することが可能であり,バイオリファイ
コハク酸及びアスパラギン酸は DOE によ
ナリーにおける着目成分である有機酸や糖
り選定されたバイオリファイナリー基幹化
類の評価に活用できる。
平野 直子
(ひらの なおこ)
千葉事業所
瀬尾 千春
(せお ちはる)
千葉事業所
学品であり,着目成分の検出が確認できた。
さらに,CE/TOFMS 測定から得られた
4 おわりに
多量のデータを統計的に処理することによ
近年益々バイオマスの利活用技術の向上
り,試料の特徴を把握し,統計的に有意な
が求められ,原料や製造プロセスにおける
差異がみられた化合物を特定することが可
問題も多様である。当社では,
バイオリファ
能である。ヒノキ及びスギ処理液から検出
イナリーの各工程における着目すべき成分
された多数の成分について,試料間で検出
について,その化学的性質に合わせた種々
強度を比較するため,抽出したデータから
の分析手法を用いることで総括的に評価す
二群間比較を行った結果を図 10 に示す。
ることが可能であり,バイオマス化学品の
ヒノキで検出量が多い成分,あるいはスギ
探索やバイオマス前処理及び糖化,発酵法
で検出量が多い成分など,各試料における
の開発などを支援していきたい。
浅野 賢一
(あさの けんいち)
大阪事業所
韋 宏
(い こう)
文 献
䇸䊍䊉䉨䇹䈪ᒝᐲ䈏ᒝ䈇ᚑಽ
大阪事業所
1)資源エネルギー庁 Web Site
(2011年現在)
http://www.enecho.meti.go.jp/
policy/fuel/080404/gaiyou.pdf
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森川 正弘
(もりかわ まさひろ)
図10 ヒノキ及びスギ処理液中アニオン成分の二群間比較
工業支援事業部
SCAS NEWS 2012-Ⅰ 10