コミュニケーション・まちづくり・地域づくりNo.23 よ ほ ろ かわ 与 保 呂 川 における府民参画の取り組みについて 京都府中丹東土木事務所 河川砂防室 技師○中西 宏彰 京都府中丹東土木事務所 河川砂防室 室長 吉岡 正男 1 はじめに 近年、ライフスタイルの多様化とともに、府民のニーズは多様なものと変化してきている。 府民の満足度向上のためには、府民のニーズを受け止め、協働していくことが不可欠 である。本稿では、府民満足度向上を目的として京都府舞鶴市の与保呂川で実施し た府民協働の取り組みについて報告するものである。 2 与保呂川について 与保呂川は京都府北部の舞鶴市を流れる二 級河川であり、豊かな自然と穏やかな 田園風景が広がる上流域から、東舞鶴の中心市街地を通り舞鶴湾へ流れる地域生活 に密着した河川である。与保呂川の源流の山麓には、舞鶴市民の水道用水や農業用 水の水源として現在も利用されている厚生労働省の「日本近代水道百選」に選ばれた 与保呂水源地浄水場があり、その周辺には蛍が舞い、京阪神からも観光客が訪れる観 光の名所となっている。河川の利用形態は両岸の堤防道路が生活道路となっており、 一部が散策路となっている。また、堤防道路の路傍には、6.9km の河川全延長にわた って桜が多く植樹されており、非常に景観の優れた河川である(写真-1)。 平成 16 年の台風 23 号により京都府北部では甚大な被害が生じたところであるが、 与保呂川中~下流域では河川災害もなく、治水安全度が高く確保されている。 中流域 1 河口付近 写真-1 中流域 2 与保呂川の現況(中~下流域) 3 与保呂川の問題点について 中流域までは人の活動場所として低水護岸等の親水護岸が整備されており、また、 魚の生息場所として淵や瀬、澪筋が形成され、落差工には魚道工が整備された人と魚 に優しい川となっている。しかし、上流域においては写真-2 に示すように単調な断面で 澪筋が無く、河床全体にアシ等が繁茂し、親水性が低い状況となっている。また、落差 工が多数あり、魚類の遡上を不可能にしている。護岸には老朽化が散見され、大規模 出水時の被災が憂慮される。 1 コミュニケーション・まちづくり・地域づくりNo.23 落差工の状況 アシの繁茂状況 写真-2 護岸の老朽化状況 与保呂川の現況(上~中流域) 4 府民参画の取り組 3工区 L=240m 4工区 L=200m みについて 2工区 L=300m 1工区 L=260m 施工済み 4.1 「与 保 呂 川 河 川 公園計画策定実行委 与保呂川 員 会 」の立 ち上 げにつ いて 新興住宅街 与保呂小学校 与保呂川での諸問題 を踏 まえ、土 木 事 務 所 、 菅坂川 舞鶴若狭自動車道 府道 老富舞鶴線 地元役員、周辺小学校 図-1 与保呂集会所 村祭りの拠点 与保呂川の整備区間のゾーニング から代表者を選出し、「与保呂川河川公園計画策定実行委員会(以下、実行委員会と いう。)」を発足した。実行委員会において与保呂川の現状の問題点や、災害に強く、 親水性に優れた河川にするための今後の整備方針について話し合いを行った。 その結果、図-1 に示すように改修が必要な区間の選定がなされた。1 工区について は既に親水護岸整備が完了している区間であり、2 工区は小学生が集い、多数の利用 が見込まれる与保呂小学校前の区間、3 工区は支川の菅坂川が合流し、治水上の問 題および豊かな川の表情が現れる区間、4 工区は新興住宅街が林立し、憩いの場所 の創出が望まれる区間の 4 区間とした。この 2 工区、3 工区についてワークショップの手 法により河川公園計画案を策定することとした。4 工区については、2、3 工区の概成後 に引続きワークショップを行うこととなった。 4.2 環境調査の実施について 上流域の魚道整備の実施にあたり、対象魚種の把握のため、魚類および底生生物 の調査を実施した。調査には魚道を整備済み区間の沿川にある小学校の児童にも参 加して頂き、2 箇所で 2 校の小学生が参加し、延べ人数 192 名の参加があった(写真 -3)。小学生達は専門スタッフのアドバイスを受けながら投網や虫網により魚類等の捕 獲作業を実施し、歓声を上げながら楽しんで作業を実施していた。最初は、ヤゴや魚に 触れることが出来なかった子供も触れるようになり、ゲンジボタルの幼虫やアユが獲れて 驚いている子供や、専門スタッフに魚類や底生生物の名前を熱心に質問し、用紙に書 きとめている子供が多数いた。生物調査と併せて水質調査も実施したが、これまでの調 査で水質が徐々にきれいになってきているのは、下水道の整備のおかげであることなど を学び、日頃学校では経験できない貴重な体験ができたとの感想が寄せられ、河川愛 2 コミュニケーション・まちづくり・地域づくりNo.23 講師の説明状況 魚の捕獲状況 写真-3 調査状況 環境調査の状況 護精神の啓発に役立つものとなった。 4.3 ワークショップの実施について ワークショップの実施にあたっては、図-2 に示すフローのように実施した。2 回のワーク ショップと、ワークショップの前後に計 3 回の実行委員会を行った。参加人数は延べ人 数 77 名の大人と、36 名の小学生の参加があった。ワークショップでは、小学生達は川 に必要な施設について楽しそうに絵に描き、大人達も幼少の頃遊んだ与保呂川を思い 浮かべながら熱心に議論を行っていた。各回のワークショップの最後には、班毎に分か れて発表を行った。公園のテーマは、与保呂川河川公園「~水とホタルの光園~ み んなが集まり、元気に遊び学べる公園」と決定した(写真-4)。 与保呂川河川公園 「~水とホタルの光園~ みんなが集まり、元気に遊び学べる公園」 計画策定フロー 準 備 ・ 事 前 調 整 等 ○第1回実行委員会 ・平成19年7月20日 ・委員12名 ○第1回ワークショップ ・平成19年8月4日 ・大人24名、小学生16名 ○第2回実行委員会 ・平成19年8月28日 ・委員12名 ○第2回ワークショップ ・平成19年9月29日 ・大人17名、小学生20名 ○第3回実行委員会 ・平成19年10月25日 ・委員12名 ○実施内容・検討内容 ・与保呂川への思い ・ワークショップとは ・ワークショップの実施回数 ・日程、開催場所 ○実施内容・検討内容 ・河川公園事例の紹介 ・現地調査 ・公園のテーマについて ・公園に欲しいもの ○実施内容・検討内容 ・創造エリア(整備箇所)と保 全エリア(現状のまま残す) 箇所のゾーニングについて ・アシ・ヨシの取扱い ・公園のテーマの決定 ○実施内容・検討内容 ・整備する施設の具体的 な絵を描く ・府、市、地元の役割分 担、維持管理について ○実施内容・検討内容 ・とりまとめ ・河川公園構想図、地元 へ配布するかわら版を委 員会へ諮り、承認を得る 図-2 地 元 説 明 会 か わ ら 版 配 布 工 事 着 手 ・ 完 成 維 持 管 理 協 定 締 結 ワークショップの計画策定フロー 議論の状況 現地調査状況 写真-4 発表の状況 ワークショップの開催状況 実行委員会では、ワークショップで出された意見を当方が取りまとめる際に、その意 見が適切にとりまとめられているか、また、地元の意見と乖離していないかチェックをして 頂いた。実行委員会によりスムーズに計画を取りまとめることができ、図-3 に示すような 計画が策定された。今回の計画では魚類や底生生物に配慮し、既設落差工を改良し た魚道や、親水性を向上させる階段、低水護岸の整備、休憩施設の四阿を計画した。 河川内に繁茂しているアシについては、「水質浄化に役立つため、残すべき」という意 見と、「流水を阻害するため、撤去するべきだ」との相反する意見が出され、調整が難航 したが、澪筋部分のアシを刈取り、それ以外は残すこととなった。アシを刈取った澪筋 3 コミュニケーション・まちづくり・地域づくりNo.23 公園①(管坂川合流点付近) 2工区 公園②(与保呂小学校前) 3工区 階段 飛石 階段 魚道 階段 飛石 階段状三角州 魚道 階段 中央部のみ 遊歩道 中央部のみ アシ刈取り 河道掘削 アシ刈取り 河道掘削 (真砂土舗装) 広場 (ベンチ・植栽) 階段 飛石 遊歩道 (真砂土舗装) 階段 広場 (東屋・車止め・植栽・芝生) 府道舞鶴老富線 四阿 階段 与保呂小学校 図-3 2、3 工区の整備予定図 部分については河床を掘り下げ、水の流下断面と魚の生息場所の確保を行った。計 画策定後にはワークショップの経過と与保呂川河川公園整備構想図をかわら版として 各戸配布をするとともに、2、3 工区の地区住民を対象に計画説明会を行った。現在は 工事を実施しているところであり、平成 23 年度に完成を予定している。工事の完成後に は地元地区と日常管理に関する管理協定を締結する予定である。 4.4 維持管理について 維持管理については、既に完成した1工区について維持管理協定を締結し、地元に より草刈・ごみ拾い等の日常管理を実施して頂いている。毎年 10 月頃に地元住民によ り清掃活動が実施され、川辺の散策や水に親しみやすい環境となっている。写真-5 に 地元住民による清掃活動の実施状況について示す。与保呂川では最大規模で 1,000 名を超える住民が清掃活動を実施したこともあり、与保呂川に対する意識は非常に高 い。また、1 工区においては、水質浄化のための竹炭を投入したいとの提案が地元住 民よりなされ、投入と交換についても定期的に行われている。 清掃実施状況 写真-5 清掃完了 水質浄化の竹炭投入 地元住民による与保呂川の清掃実施状況 5 まとめ 与保呂川は、古来より伝わる豊かな自然と、現在までに創り上げてきた水辺空間が一 体の景観となって現在に受け継がれてきた地域の宝である。その宝を守り、次世代に 引継いでいくためには行政として地域住民と協働し、維持管理を含め地元住民のニー ズにあった施策を行っていくことが重要である。今後、地元住民に事業の途中段階で の中間評価、事業概成後に事後評価を行い、府民満足度の高いものとしていきたい。 4
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