5.老化再生 <構成メンバー> 老化再生 A 研究員:内田洋子、五味不二也 老化再生 B 研究員:遠藤昌吾、柳井修一、鈴木真佐子 研究生:穂積由紀、松岡智子 <研究計画> 老化再生 A、B では、老化に伴い中枢神経系に生じる障害を克服して、超高齢化社会におけるサクセスフ ルエイジングを達成する目的で研究を行っている。 老化再生 A:アルツハイマー病は進行性の認知症で、発症の原因や治療法は不明である。そこで、β アミロ イドの沈着から神経変性への情報伝達ネットワークを明らかにし、アルツハイマー病発症の分子メカニズム の全体像を把握することが研究計画である。 老化再生 B:老化や疾病に伴う認知症等の記憶障害は社会にとって大きな問題である。老化再生 B では、記 憶障害治療に向けた記憶の分子機構の基礎研究及び記憶の改善薬、改善治療の基礎的研究を行っている。 以上の老化再生で行われている研究は、認知機能の改善や維持に資することが考えられ、高齢者の生活の 質の向上のために重要な研究である。 <研究成果・知見> (1)中期計画に対する進捗状況 老化再生 A: ① 22 年度計画:βアミロイド神経毒性に関連する遺伝子の病態生理機能解析 「β アミロイドによる遺伝子の発現変化がどのような分子機序で神経変性を引き起こすのか」を遺伝子導 入実験によって明らかにする(22-23 年度計画)。 ② 進捗状況: 中期計画にそって研究は進行しており、22 年度計画はほぼ達成された。 老化再生B: ① 22 年度:「長期・短期記憶に関与する分子群の同定の試みとその特徴付けに関する生化学的、分子生物 学的研究」および「疾患モデルマウスの脳高次機能解析用一般行動テストバッテリー構築のための基礎的 研究」を行なった。 ②進捗状況: 小脳依存性長期記憶に着目し、関与する分子群の同定をおこなった。長期の非陳述性記憶に特 異的に関与する分子として G-substrate を同定した。さらに、マウスを用いた各種の行動、記憶解析のた めに一般行動テストバッテリーの構築を終え、疾患モデルマウスを用いた薬物評価系に用いる予定である。 両課題とも中期計画目標の今年度計画を達成した。 (2)今年度の主要な研究成果 老化再生 A ① β アミロイドによって誘導される calsyntenin-3 の代謝産物の神経変性への役割: Calsyntenin-3 (Cst-3) は、amyloid precursor protein と同様に、第一段階で secreted Cst-3 (sCst-3)と C-末端断片(CTF)に代謝さ れ、第二段階で、CTF はさらに p3 と intracellular domain (ICD)に代謝される。今年度は、CTF がニュー ロン変性に寄与していること、CTF が p3 と ICD に分解されることによって、ニューロン変性を引き起こ さなくなることを明らかにした。 ② β アミロイドによる Cas/HEF1 associated signal transducer の誘導とその神経変性への役割:β アミロ イドによって発現誘導される、Cas/HEF1 associated signal transducer (Chat)は、ニューロンの変性を ひきおこすこと、そして、Chat によるニューロンの変性は Chat と Cas の相互作用によるのではないこと を明らかにした。 老化再生 B ① 小脳依存性長期記憶を制御する分子 G-substrate の詳細を解析した。 ② マウスの一般行動テストバッテリー構築し、各種の記憶評価系を確立した。 ③ アルツハイマー病モデルマウスの脳内に、骨髄由来間葉系幹細胞を投与し、記憶障害が改善されること を見いだした。 (3)今後の研究への展望 Calsyntenin-3 の代謝産物の生理作用を解析することや Chat target 分子の探索によって、アルツハイマー 病治療薬開発のための基礎データを提示する。また、calsyntenin-3 の代謝産物がアルツハイマー病の進行 度・発症の髄液バイオマーカーとなるかどうかを検討する。 さらに、間葉系幹細胞投与による記憶の改善効果の発見や、長期記憶に関与する分子の同定は、老化等に 伴う記憶障害治療の標的を与える。 中枢神経系障害克服のためのこれらの基礎研究は、今後、我々の脳機能を維持するための薬物や治療方法 の開発につながる重要な研究である。 (4)他研究チーム、臨床部門、外部機関との連携 老化再生 A 岐阜大学大学院とアルツハイマー病や ALS の髄液バイオマーカーに関する連携を行っている。その他、国 立病院機構鳥取医療センター等、計2カ所との連携を行っている。 老化再生B 理化学研究所脳科学総合研究センター運動学習制御研究チーム(永雄総一チームリーダー)、「小脳依存性 記憶の記憶痕跡の同定」の課題で共同研究を推進している。 (5)業績 学会発表 1. 内田洋子、中野俊一郎、五味不二也:アルツハイマー病マウスモデルにおける calsyntenin-3 代謝の促 進とその意味. 第33回日本基礎老化学会, 名古屋, 2010.6.17-18 2. 五味不二也、内田洋子: Cas/HEF1 associated signal transducer による神経細胞死. 第33回日本 基礎老化学会, 名古屋, 2010.6.17-18 3. 五味不二也、内田洋子: Aß により誘導される Cas/HEF1 associated signal transducer の細胞死への 効果. Neuro2010, 神戸, 2010.9.2-4 4. 岡安唯、西村忠己、山下哲範、斉藤修、柳井修一、細井裕司 : 当科における放射線化学療法によるシス プラチンの聴力障害について. 第 111 回耳鼻咽喉科学会, 宮城, 2010.5.20-22 5. 柳井修一、阪口剛史、長谷芳樹、細井裕司 : 周波数領域特異的な劣化処理音声を用いた語音明瞭度の測 定. 第 111 回耳鼻咽喉科学会, 宮城, 2010.5.20-22 6. Hosoi H, Yanai S, Nishimura T, Sakaguchi T, Iwakura T, and Yoshino K. : Development of cartilage conduction hearing aid. 18th International Scientific Conference on Achievements in Mechanical and Materials Engineering, Zakopane, Poland, 2010.6.13-16 7. 福田芙美、柳井修一、西村忠己、清水直樹、細井裕司 : 軟骨伝導によるラット聴性脳幹反応の測定. 日 本音響学会聴覚研究会, 広島, 2010.7.17-18 8. 高木悠哉、下倉良太、柳井修一、西村忠己、細井裕司 : 隣室を音源とする透過騒音の因子構造同定の試 み. 日本音響学会 2010 年秋季研究発表会, 大阪, 2010.9.14-16 9.Takaki Y, Shimokura R, Yanai S, Nishimura T, and Hosoi H. The effect of reverberation time on loudness of monosyllable speech sound. 13th Korea-Japan Joint meeting Otorhinolaryngology-Head and Neck Surgery, Seoul, 2010.9.9-11 10. Okayasu T, Nishimura T, Yamashita A, Nakagawa S, Yanai S, Uratani Y, Nagatani Y, and Hosoi H. Growth of N1m for stimulus suration through bone-conducted ultrasound modulated by Japanese vowel sound. 13th Korea-Japan Joint meeting Otorhinolaryngology-Head and Neck Surgery, Seoul, 2010.9.9-11 11. 柳井修一、福田芙美、西村忠己、清水直樹、細井裕司 : 軟骨導振動子を用いたラット聴性脳幹反応の 測定. 日本心理学会第 74 回大会, 大阪, 2010.9.20-22 12. 岡安唯、西村忠己、山下哲範、中川誠司、吉田悠加、柳井修一、長谷芳樹、細井裕司 : 骨導超音波語 音 の 母 音 刺 激 長 に 対 す る ミ ス マ ッ チ フ ィ ー ル ド . 第 55 回 日 本 聴 覚 医 学 会 学 術 講 演 会 , 奈 良 , 2010.11.11-12 13. 齋藤修、西村忠己、吉田悠加、福田芙美、柳井修一、細井裕司 : 補聴器適合検査のための雑音負荷時 の語音明瞭度の検討. 第 55 回日本聴覚医学会学術講演会, 奈良, 2010.11.11-12 14. 高木悠哉、下倉良太、柳井修一、西村忠己、細井裕司 : 隣室から聞こえる透過騒音の研究 と不快感について 音の評価 . 第 55 回日本聴覚医学会学術講演会, 奈良, 2010.11.11-12 15. S. Endo. Memory-enhanced mice provide clues to the treatments of memory impairment. Spring Conference of the Korean Society for Gerontology, DaeJeon, Korea, June 30-2, 2010. 16. O. Imamura, R. Seita, G. Pages, J. Pouyssegur, Y. Satoh, S. Endo and K. Takishima. Role of the ERK signaling in the developing cerebral cortex. 17. Neuro 2010, Kobe, September 2-4, 2010. T. Okamoto, T. Shirao, S. Endo and S. Nagao. Role of de novo protein synthesis in consolidation of cerebellum-dependent motor memory. Neuro 2010, Kobe, September 2-4, 2010. 誌上発表 1. Uchida Y: Molecular mechanisms of regeneration in Alzheimer's disease brain. Geriatr Gerontol Int, 10 Suppl 1:S158-68, 2010 2. Uchida Y, Nakano S, Gomi F, and Takahashi H: Up-regulation of calsyntenin-3 by ß–amyloid increases vulnerability of cortical neurons. FEBS Lett,585, 651-656, 2011 3. 柳井修一、阪口剛史、細井裕司、鈴木直人 : 住宅内透過騒音の因子構造の検討. 行動科学, 48, 115-122, 2010. 4. 遠藤昌吾:「記憶のスーパーマウスが教える記憶障害治療へのアプローチ」、基礎老化研究 34、1-12、 2010 5. 遠藤昌吾:「cAMP 系と長期記憶の分子機構」老年医学 update 2010-2011(老年医学会雑誌編集委員会 編集)、メジカルビュー社、pp151-158、2010 6. 遠藤昌吾: Protein phosphatase (PP)1 と 2A、生体の科学 61、464-465, 2010 7. 遠藤昌吾: cGMP-dependent protein kinase (PKG)、生体の科学 61、456-457, 2010 8. 佐藤泰司、遠藤昌吾 シナプスにおける ERK シグナリングの役割、生体の科学 61、460-461, 2010 9. 佐藤泰司、遠藤昌吾 神経系における MEK1/2 の機能、生体の科学 61、462-463, 2010 10. Yamashita, A., Nishimura, T., Nagatani, Y., Sakaguchi, T., Okayasu, T., Yanai, S., and Hosoi, H. The effect of visual information in speech signals by bone-conducted ultrasound. Neuroreport, 21, 119-122, 2010 11. Hosoi, H., Yanai, S., Nishimura, T., Sakaguchi, T., Iwakura, T., and Yoshino, K. Development of cartilage conduction hearing aid. Arch. Mater. Sci. Eng., 42, 104-110, 2010 12. J.K. Lee , H.K. Jin, S. Endo, E.H. Schuchman, J.E. Carter, J.S. Bae. Intracerebral Transplantation of Bone Marrow-Derived Mesenchymal Stem Cells Reduces Amyloid-Beta Deposition and Rescues Memory Deficits in Alzheimer's Disease Mice by Modulation of Immune Responses.Stem Cells. 28 , 329-343, 2010. 13. S. Watanabe, S. Endo, E. Oshima, T. Hoshi, H, Higashi, K. Yamada, K, Tohyama, T, Yamashita, and Y Hirabayashi. Glycosphingolipid synthesis in cerebellar Purkinje neurons: Roles in myelin formation and axonal homeostasis.Glia, 58, 1197-1207, 2010. 14. T. Sakamoto and S. Endo. Amygdala, deep cerebellar nuclei and red nucleus contribute to delay eyeblink conditioning in C57BL/6 mice. Eur. J. Neurosci. 32, 1537-1551, 2010. 15. O. Imamura, G. Page`s, J. Pouysse´gur, S. Endo and K. Takishima. ERK1 and ERK2 are required for radial glial maintenance and cortical lamination Genes Cell 15, 1072–1088, 2010. 著書等 1. 柳井修一 : 世界を広げる知覚−視る、聴く、味わう喜びをいつまでも−(パンフレット). 地方独立行政 法人 東京都健康長寿医療センター研究所(東京都老人総合研究所), 2011
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