ま え が き

ま え が き
学校教育は,いま大きく変わろうとしている。
2
00
8(平成20)年,2
0
0
9(平成2
1)年に告示された新学習指導要領では,
「生
きる力」を重視した教育を継続しつつ,知識基盤社会に対応した学力の向上,
思考力・判断力・表現力等の育成などを行うことが示されている。当然のこと
ながら,求められる教育は,教科の学習の変革だけではなく,コミュニケーシ
ョンの不足,自分への自信の欠如,自らの将来への不安,学習意欲,生活習慣
の課題などを背景にして,人間関係形成力の向上,体験活動の重視などの新た
な課題を示している。
このような課題に応えるべく,学校教育において「特別活動」の果たす役割
はますます大きくなっている。なぜなら,望ましい集団活動を通して,自立し,
共生することの大切さを学ばせ,人間としての在り方生き方を自覚させること
を任務としているのが特別活動だからである。
前著『キーワードで拓く新しい特別活動』は,特別活動に関する基本用語を
収集・整理し,意味の明確化を図り,共有化を促進することを目指した。その
ことが学校教育で求められている新しい特別活動の理論の構築及び実践的展開
にとって不可欠であるとの思いから,本学会が編者となって2
0
0
0(平成12)年
に刊行したものである。特別活動にかかわる教員をはじめ,教育委員会,研究
者等幅広い読者に支持され,2
0
04(平成1
6)年には増刷を行うことができた。
また,教育関係の各種論文に引用されるなど研究面でも一定の役割を担い,社
会貢献できたと自負している。
さて,刊行から約1
0年,各学校における特別活動の実践では,新たな課題へ
の対応などに迫られている。それらの営みにおいては1
0年前の用語集では対応
できないことも出てきている。そこで,前著を改訂し,現在の教育の状況に合
致した用語解説を行い,新たな課題にも対応した事項を盛り込み,それらを特
別活動の関係者に提供することで,学会としての社会的使命を果たそうと考え
た。
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i
i
今回の改訂の趣旨は2つある。それは,
●新しい学習指導要領に示された内容に対応したこと
●学校教育で実践に取り組む先生方に,より一層分かりやすい内容にしたこと
である。
研究者だけでなく,学校現場で活躍している先生方,特別活動を大切にして
実践に取り組んでいる先生方にもぜひ読んで活用していただきたいという願い
から改訂のための編集作業を行った。
原稿の執筆を担当いただいた方々,改訂の企画と編集に携わった編集委員会
の方々をはじめ,ご協力をいただいた方々に厚く御礼を申し上げる次第である。
また,東洋館出版社の永井信編集部長,五十嵐康生編集部副部長,小澤正和
営業部副部長には多大のご配慮をいただいた。厚く御礼申し上げる次第である。
2
010(平成22)年7月
日本特別活動学会会長 遠藤 忠
改訂編集委員会委員長 長沼 豊
i
v
もくじ
第1章 新学習指導要領への対応
体験活動 2
/人間関係 6
/コミュニケーション能力 1
0
/キャリア教育 1
4
/総合的な学習
の時間と特別活動 1
8
/道徳的実践力と特別活動 2
2
/食育の観点をふまえた指導 2
6
/社会
参画 3
0
/特別活動における振り返り活動 3
4
/発達課題と特別活動 3
8
/幼・小・中・高の
接続(初等中等教育と接続問題)
4
2
第2章 特別活動の基礎・基本
§
1 特別活動の教育機能
生きる力 4
8
/心の教育 5
0
/基本的な生活習慣の形成 5
2
/生徒指導 5
4
/ガイダンス 5
6
/生徒理解 5
8
/自己理解・自己効力感を生かした指導 6
0
§
2 特別活動の特性(固有の目標)
特別活動の目標 6
2
/自主的・実践的活動 6
4
/自発的,自治的活動 6
6
/社会性 6
8
/学級文
化・学校文化 7
0
§
3 特別活動の各内容領域
学級活動・ホームルーム活動 7
2
/児童会活動・生徒会活動 7
4
/クラブ活動 7
6
/課外活動・
部活動 7
8
/学校行事 8
0
/儀式的行事 8
2
/国旗・国歌の取扱い 8
4
/ 文化的行事 8
6
/
健康安全・体育的行事 8
8
/旅行(遠足)
・集団宿泊的行事 9
0
/勤労生産・奉仕的行事 9
2
/
ボランティア活動 9
4
§
4 グループダイナミクス
集団活動 9
6
/小集団活動 9
8
/異年齢集団活動 1
0
0
/集団遊び 1
0
2
/集団の発達 1
0
4
§
5 関連事項
特別活動のあゆみ 1
0
6
/外国の特別活動 1
1
0
/特別活動の経営 1
1
2
/社会教育との連携 1
1
4
/教員養成と特別活動 1
1
6
第3章 実践的指導力
特別活動の計画 1
2
0
/学級活動・ホームルーム活動指導案 1
2
2
/話合い活動(討議法) 1
2
4
/
事前学習・事後学習 1
2
6
/学級経営・ホームルーム経営 1
2
8
/特別活動における教師の指導・
助言 1
3
0
/特別活動における規範意識の形成 1
3
2
/特別活動と研修 1
3
4
/特別活動の評価 1
3
6
第4章 Q&A
いじめ 1
4
0
/不登校 1
4
1
/学級崩壊 1
4
2
/情報モラル 1
4
3
/特別活動の授業時数 1
4
4
/特
別活動実践の記録方法 1
4
5
/特別活動における校長の役割 1
4
6
/特別活動と教育委員会の役
割 1
4
7
/特別活動における危機管理 1
4
8
v
第5章 ワード解説
§
1 今日的トピックにかかわるもの
ニート 1
5
0
/ PI
SA 1
5
0
/キー・コンピテンシー 1
5
0
/スクールソーシャルワーカー 1
5
0
/
ソーシャル・キャピタル(Soc
i
a
lCa
pi
t
a
l
)
1
5
1
/職場体験・就業体験 1
5
1
/郷土を愛する心・愛
校心 1
5
1
§
2 本質・理念にかかわるもの
豊かな人間性の育成 1
5
2
/特別活動における基礎・基本 1
5
2
/人間としての在り方生き方 1
5
2
/指導計画と活動計画 1
5
2
/個性を生かす指導 1
5
3
/個に応じた指導 1
5
3
/創造性(c
r
e
a
t
i
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i
t
y
)
1
5
3
/ハレとケ 1
5
3
§
3 学級・集団にかかわるもの
集団の目標 1
5
4
/自己決定と集団決定 1
5
4
/学習集団と生活集団 1
5
4
/学級・ホームルーム
集団 1
5
5
/学級風土(c
l
a
s
sc
l
i
ma
t
e
) 1
5
5
/学級新聞・学級通信 1
5
5
/朝の会 帰りの会 1
5
5
/集会活動 1
5
6
/学年経営 1
5
6
§
4 話合い活動等の手法・機会にかかわるもの
ワークショップ 1
5
6
/グループワーク 1
5
7
/ブレーン・ストーミング 1
5
7
/ディベート 1
5
7
/バズ・セッション 1
5
7
/ロールプレイング 1
5
8
/構成的グループエンカウンター 1
5
8
/ソシオメトリー(s
oc
i
omet
r
y
) 1
5
8
/縦割り活動 1
5
8
/ NI
E(教育に新聞を)
1
5
9
/題材・
議題・主題 1
5
9
§
5 生徒指導・生徒理解の理論にかかわるもの
ゼロ・トレランス 1
5
9
/適応と順応 1
5
9
/青年期の理解 1
6
0
/小1
プロブレム 1
6
0
/中1
ギ
ャップ 1
6
0
/居場所づくり 1
6
1
/リーダシップとフォロワーシップ 1
6
1
§
6 生徒指導・生徒理解の実践にかかわるもの
生活点検カード 1
6
1
/補助簿 1
6
1
/ピア・グループ 1
6
2
/ゲス・フー・テスト(gues
s
who
t
e
s
t
)
1
6
2
/いのちの教育 1
6
2
/性的な発達への指導 1
6
2
§
7 地域とのかかわりに関するもの
地域社会と特別活動の連携 1
6
3
/学校間の交流・連携と特別活動 1
6
3
/青年文化・子ども文
化 1
6
3
/介護体験 1
6
4
/年中行事 1
6
4
/コミュニティースクール 1
6
4
§
8 調査研究・評価の手法にかかわるもの
観察法 1
6
5
/自由記述法 1
6
5
/事例研究(実践研究)
1
6
5
/アクション・リサーチ(a
c
t
i
onr
e
s
e
a
r
c
h)
1
6
5
/調査研究 1
6
6
/定量的調査・研究方法 1
6
6
/定性的調査・研究方法 1
6
6
§
9 教育全般にかかわるもの
人間形成と特別活動 1
6
7
/人間(生命)尊重の精神と特別活動 1
6
7
/自己実現 1
6
7
/自己表
現 1
6
7
/共同・協同・協働 1
6
8
/フォーマル・グループとインフォーマル・グループ 1
6
8
/
学力観と特別活動 1
6
8
/学校図書館と特別活動 1
6
8
/生涯学習と特別活動 1
6
9
/安全教育 1
6
9
/勤労観・職業観 1
6
9
/学業指導 1
6
9
資 料
小学校学習指導要領 第6章 特別活動 1
7
2
/中学校学習指導要領 第5章 特別活動 1
7
5
/高等学校学習指導要領 第5章 特別活動 1
7
8
/「小学校,中学校,高等学校及び特別支援
学校等における児童生徒の学習評価及び指導要録の改善等について(通知)」平成22年5月11日
(
「特別活動の記録」部分抜粋)
1
8
1
v
i
キャリア教育
1.アメリカ合衆国におけるキャリア教育
キャリア教育は19
7
0年代初頭,アメリカ合衆国連邦教育局長官マーランド
(Ma
r
l
a
nd,J
r
.
,S.
)によって提唱された。キャリア教育の推進は19
77年に制定さ
れたキャリア教育奨励法1) でピークを迎えたが,キャリア教育への不理解や推
進に対する補助金の削減や停止により1
9
8
2年に同奨励法は廃止される。しかし
その後も,来るべき高度技術社会に備え,アカデミックな能力と職業的能力を
結び付けた習得をめざすキャリア教育の精神は引き継がれていく。特に「1
9
94
年の学校から仕事への移行機会法」
(Sc
hool
t
oWor
kOppor
t
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t
i
e
sAc
tof1
9
9
4
)
制定後は学校と事業所が連携したプログラムによって多彩な形でキャリア教育
は展開され,運動の推進者としての教育関係者及び雇用者,さらには両者を結
び付けるコーディネーターなどの役割の重要性が指摘されるようになった。
2.日本におけるキャリア教育
⑴キャリア教育が求められる背景
キャリア教育が求められるに至った現代社会の課題を『小学校・中学校・高
等学校 キャリア教育推進の手引 ―児童生徒一人一人の勤労観,職業観を育て
6)では簡潔に2つ示している。1つは「学校か
るために―』(文部科学省,200
ら社会への移行をめぐる課題」であり,背景として①就職・就業を巡る環境の
激変,及び②若者自身の資質をめぐる課題,を挙げ,特に後者では勤労観,職
業観の未熟さを指摘した。もう1つは「子どもたちの生活・意識変容」であり,
背景に①子どもたちの成長・発達上の課題,及び②高学歴社会におけるモラト
リアム傾向,を挙げ,特に前者では働くことや生きることへの関心,意欲の低
下をあげている。こうした激しい社会の変化と子どもの変容への具体的な対応
としてキャリア教育の推進が求められたのである。
14
第1章 新学習指導要領への対応
⑵我が国におけるキャリア教育の登場と「職業観・勤労観を育む学習プログラ
ムの枠組み(例)」
1
99
9(平成11)年中央教育審議会答申「初等中等教育と高等教育との接続の
改善について」
(以下「接続答申」とする)においてキャリア教育という語句が
初めて公の文書の中に登場した。答申では「キャリア教育(望ましい職業観・
勤労観及び職業に関する知識や技能を身に付けさせるとともに,自己の個性を
理解し,主体的に進路を選択する能力・態度を育てる教育)を小学校段階から
発達段階に応じて実施する必要がある」と示した。
( )内のキャリア教育の
定義はそれまで学習指導要領総則で求められてきた進路指導の機能(生徒が自
らの生き方を考え主体的に進路を選択することができるよう,学校の教育活動
全体を通じ,計画的,組織的な進路指導を行うこと)2) と基本的には大きな違
いはなかった。さらに,2
0
0
2(平成1
4)年には『児童生徒の職業観・勤労観を
育む教育の推進について(調査研究報告書)
』
(国立教育政策研究所生徒指導研
究センター)に「職業観・勤労観を育む学習プログラムの枠組み(例)~職業
的(進路)発達にかかわる諸能力の育成の観点から」
(以下「学習プログラムの
枠組み(例)」とする)が掲載された。この「学習プログラムの枠組み(例)
」
は「接続答申」の「主体的に進路を選択する能力・態度」を具体的に示したも
のである。あくまでも例示であるが,小学校,中学校,高等学校の1
2年間で発
達段階に応じて育成する能力・態度を「人間関係形成能力」「将来設計能力」
「情報活用能力」「意思決定能力」の4つの具体的な領域で示したところに特徴
がある。
⑶キャリア教育と進路指導
キャリア教育と進路指導の関係は『キャリア教育推進に関する総合的調査研
究協力者会議報告書~児童生徒一人一人の勤労観,職業観を育てるために~』
(文部科学省,20
04年)において「進路指導の取組はキャリア教育の中核をなす
ものである。」(14頁)とされている。
そのため,キャリア教育導入に当たってはその中核をなす進路指導の活動に
ついての理解が必要である。進路指導には以下の6つの活動が『中学校・高等
1)同奨励法では,キャリア教育を「個人が生き方の一部として仕事に就くことに備えて学
び,職業的価値観と家庭生活などにおける役割や意思決定とを関連付ける際に,偏った
見方やステレオタイプの考え方をもたないように意図された様々な経験を総合的に示し
たもの」と定義している。
2)『中学校学習指導要領』(文部科学省,2008)
15
食育の観点を踏まえた指導
1.食育の意義とその推進
近年,朝食欠食など子どもたちの食生活の乱れや肥満傾向の増大,過度の痩
身指向などが見られ,子どもたちが「食」に関する正しい知識と望ましい食習
慣を身に付けることができるよう食育を推進することが重要な課題となってい
る。食育は,成長期にある子どもにとって,健全な食生活は健康な心身をはぐ
くむために欠かせないものであると同時に,子どもに望ましい食習慣を身に付
けさせることは,将来の食生活の形成に大きな影響を及ぼし次の世代の親への
教育という観点からも極めて重要である。
国は,食育の基本理念と方向性を明らかにするとともに,食育に関する施策
を総合的かつ計画的に推進するために平成1
7年7月1
5日に「食育基本法」を施
行した。同法の前文では,
「…子どもたちが豊かな人間性をはぐくみ,生きる力
を身に付けていくためには,何よりも『食』が重要である。今,改めて,食育
を生きる上での基本であって,知育,徳育及び体育の基礎となるべきものと位
置付けるとともに,様々な経験を通じて『食』に関する知識と『食』を選択す
る力を習得し,健全な食生活を実践することができる人間を育てる食育を推進
することが求められている。
(中略)子どもたちに対する食育は,心身の成長及
び人格の形成に大きな影響を及ぼし,生涯にわたって健全な心と身体を培い豊
かな人間性をはぐくんでいく基礎となるもの」と規定している。また,同法第
5条において「子どもの教育(中略)を行う者にあっては,教育(中略)にお
ける食育の重要性を十分自覚し,積極的に子どもの食育の推進に関する活動に
取り組むこと(後略)
」,同法1
1条第1項において「教育(中略)に関する職務
に従事する者並びに教育等に関する関係機関及び関係団体(以下『教育関係者
等』という)は,食に関する関心及び理解の増進に果たすべき重要な役割にか
んがみ,基本理念にのっとり,あらゆる機会とあらゆる場所を利用して,積極
的に食育を推進するよう努めるとともに,他の者の行う食育の推進に関する活
動に協力するように努めるものとする。
」とし,教育関係者等の責務を規定して
26
第1章 新学習指導要領への対応
いる。この食育基本法に基づき,国の食育推進会議では平成1
8年3月3
1日,食
育の推進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るために必要な基本的事
項を定める食育推進基本計画を決定した。本計画では,学校において魅力ある
食育推進活動を行い,子どもの健全な食生活の実現と豊かな人間形成を図るた
め,国が取り組むとともに地方公共団体等が推進に努める施策として,①指導
体制の充実,②子どもへの指導内容の充実,③学校給食の充実,④食育を通じ
た健康状態の改善等の推進の4項目が掲げられた。
2.学校における食に関する指導の推進
小・中・高等学校の新学習指導要領の総則第1-3において,食育の推進が
新たに示されることになった。各学校においては,児童生徒が健全な食生活を
実践し,健康で豊かな人間性をはぐくんでいけるよう,栄養や食事の取り方な
どについて,正しい知識に基づいて自ら判断し,実践していく能力や態度を学
校教育活動全体を通じて身に付けさせる「食に関する指導」
(学校における食育
を「食に関する指導」という。
)の推進が求められることになった。学校におけ
る食に関する指導は,図1に示すように給食の時間,特別活動,各教科,道徳,
総合的な学習の時間における様々な教育内容と密接な関連を図ると同時に家庭
給食の時間
体育・保健体育
家庭,技術・家庭
・健康と食事
・体の発育・発達と食事 等
・調和のよい食事のとり方
・日常食の調理
・地域の食文化 等
・給食の時間における食指導
・配膳指導,後片付け指導 等
社会等
教育課程
学級活動・ホームルーム活動
・学校給食と望ましい食習慣の形成
・心身の健康,規律ある習慣の確立等
○食育基本法,食育推進基本計画,学習指
導要領等
○食育に関する指導目標,指導計画
○教職員,家庭・地域との連携協力による
食に関する指導
・食料生産と国民の食生活,食料
生産に従事する人々の工夫 等
道徳
・健康や安全に気を付け,規則
正しい生活をすること 等
学校行事,児童(生徒)会活動,クラブ活動
・食に関わる学校行事(例:野菜の栽培等)
・給食委員会(児童(生徒)会活動)
・料理クラブ(クラブ活動) 等
総合的な学習の時間
・健康と食に関する課題
(例:食流通と国際関係,食文
化を含む地域文化 等)
家庭・地域・関係機関
図1 学校における食に関する指導の推進
27
§ 2特別活動の特性(固有の目標)
社会性
平成20年の学習指導要領改訂の基礎となる中央教育審議会答申の「改善の基
本方針」では,
「望ましい集団活動や体験的な活動を通して,豊かな学校生活を
築くとともに,公共の精神を養い,社会性の育成を図る」ことが特別活動の特
性であると言及している。そして,
「自分に自信がもてず,人間関係に不安を感
じていたり,好ましい人間関係を築けず社会性の育成が不十分」な状況が見ら
れるため,それらの力を高めるような特別活動の実践が求められていると述べ
られている。また,
『学習指導要領解説 特別活動編
(小・中・高等学校)
』には,
特別活動の評価において,
「自らを律しつつ他人とともに協調できる豊かな人間
性や社会性など生きる力を育成する」
という観点からの評価を重要視している。
以上の言及箇所から,中央教育審議会答申では特別活動の特性が「社会性の
育成」にあると位置付けていること,児童生徒の「社会性の育成が不十分」で
あり,
「好ましい人間関係」の形成能力や「生きる力の育成」としての「社会性
の育成」が特別活動にとっての重要課題であると示されていることがわかる。
1.特別活動における「社会性」という用語の位置付け
2.社会構築主義の立場からみた「社会性」の問題
「社会性の育成が不十分」という観点について,社会構築主義の立場から再検
討してみよう。社会構築主義によれば,
「社会問題は,なんらかの想定された状
態について苦情を述べ,クレイムを申し立てる個人やグループの活動」であり,
「社会問題の理論の中心課題は,
クレイム申し立て活動とそれに反応する活動の
発生や性質,持続について説明すること」である(スペクター&キッセ『社会
問題の構築』)
。社会構築主義の立場は,教育問題を含む社会問題を所与のもの
として考え,原因を探り,解決策を考えるというような常識的な考え方から議
論をスタートさせるのではなく,
「問題」それ自体の「定義(過程)
」に注目す
る。つまり,問題の構築のされ方に注目するのである。
例えば青少年の「問題行動」については,
『青少年白書』に示されているよう
に,
「犯罪行為や不良行為といった法律や社会慣習等の社会規範から逸脱した反
社会的行為」と「不登校,家出,自殺など周囲の環境に適応することができな
いことによる非社会的行動」とに分類して認識することが一般的である。
「反社
68
第5章 ワード解説
成1
2年「児童虐待の防止等に関する法律」公布など,児童生徒を取り巻く教育
環境の悪化が指摘される。平成2
0年度から文部科学省が「スクールソーシャル
ワーカー活用事業」を本格実施し,全国にスクールソーシャルワーカー(SSWr
と略記)を配置した。SSWrは教育委員会に所属,家庭・学校と福祉関係機関
とのコーディネイト(連絡調整)の役割を果たす。 (木内 隆生)
ソーシャル・キャピタル(Soci
alCapi
t
al
)
直訳すると社会資本となるが,一般的には①信頼・規範などの価値観,②個
人や企業等の間の具体的な関係であるネットワーク,この2つの要素から構成
される社会関係資本という概念で理解されることが多い。
様々な集団活動を通して社会性や規範意識を育成すること,その集団内の人
間関係や集団間のネットワークを形成すること,これらはまさに特別活動の目
標であり,ソーシャル・キャピタルの含意と重なるものである。 (林 幸克)
職場体験・就業体験
職場体験は,事業所・工場内や作業現場(農林水産業)での直接体験による
学習を指す。就業体験は,高校生や大学生が学習内容の拡充や進路学習の一環
として一定期間,適当な職業に従事することである。これはインターンシップ
とも呼ばれ,無給が原則である。働く大人たちと直に触れ合い,実際的な知識
・技術等に触れることを通して,望ましい勤労観・職業観を確立することが期
待できる。キャリア教育の一環として,総合的な学習の時間や勤労生産・奉仕
的行事で実施される。 (木内 隆生)
郷土を愛する心・愛校心
郷土を愛する心や愛校心とは,郷土や学校生活における“なにか”に価値を
認め,強く心を引かれる感情(気持ち)といえる。そのため,学校における心
に刻みこまれる温かい交流や地域の人々と触れ合う体験的な活動(充足感・満
足感を伴う諸体験)は極めて重要な役割を果たす。母校や郷土に,かえがえの
ない想い出がある。誇りをもって語ることができる。そうした母校や郷土をも
つことは,アイデンティティの確立に大きくかかわる貴重なものといえる。
(髙橋 英臣)
151
◆執筆者一覧(五十音順,平成2
2年7月現在)
天野 幸輔 岡崎市立矢作北中学校
鈴木 樹 鎌倉女子大学
有村 久春 帝京科学大学
須藤 稔 栃木県教育委員会
池沢 政子 日本橋学館大学
住田 正樹 放送大学
池島 徳大 奈良教育大学大学院
関本 惠一 東京都台東区立上野中学校
池田 幸也 常磐大学
瀬戸 健一 東京農業大学
石塚 忠男 日本体育大学
瀬戸 知也 静岡文化芸術大学
石本 武志
添田 晴雄 大阪市立大学大学院
井田 延夫 東京福祉大学
髙階 玲治 教育創造研究センタ-
伊藤駿二郎 元創価大学
髙橋 英臣 松蔭大学
犬塚 文雄 横浜国立大学
千秋 一夫
上原 行義 十文字学園女子大学
富村 誠 京都女子大学短期大学部
浦郷 淳 佐賀県白石町立有明南小学校
中川 昭則 中川教育研究所
遠藤 忠 宇都宮大学
中園大三郎 芦屋大学
及川芙美子 奥州市立前沢小学校
長沼 豊 学習院大学
大庭 正美 北九州市立小石小学校
中野目直明 創価大学
小畑 隆政 福岡市立入部小学校
成田 國英 日本体育大学名誉教授
勝亦 章行 東京都江戸川区立松江第六中学校
西川 幹雄 大阪市児童いきいき放課後事業部
勝見 健史 兵庫教育大学大学院
西野真由美 国立教育政策研究所
木内 隆生 福岡教育大学
野口 博明 福岡市立有田小学校
北村 文夫 玉川大学
橋本 定男 上越教育大学
清武 輝 福岡県小郡市教育委員会
長谷川 榮 筑波大学名誉教授
久保木 德 女子美術大学
林 尚示 東京学芸大学
久保田真功 富山大学
林 幸克 岐阜大学大学院
倉持 博 古河市立古河第二小学校
林 義樹 日本教育大学院大学
桑原 憲一 東京学芸大学
原口 盛次 元慶應義塾大学
後藤 道洋 鹿児島市立原良小学校
伴 貞男 元文教大学
木場 住郎 元東京都世田谷区立多聞小学校
氷海 正行 千葉県立生浜高等学校
佐々木正昭 関西学院大学
保積 芳美 武蔵大学
佐藤 真 兵庫教育大学
本間 啓二 日本体育大学
佐野 和久 愛知教育大学
本間 研一 東洋大学
柴崎 直人 中部学院大学
真壁 玲子 東京都小金井市立緑小学校
島田 啓二 福島大学名誉教授
鈎 治雄 創価大学
下田 好行 明治学院大学
松田 素行 昭和学院短期大学
白松 賢 愛媛大学
松永 昌幸 鎌倉女子大学
杉田 儀作 日本特別活動学会常任理事
三橋謙一郎 徳島文理大学
杉田 洋 文部科学省
緑川 哲夫 東京農業大学
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南本 長穂 関西学院大学
山田 淳子 東京都小金井市立小金井第一中学校
三村 隆男 早稲田大学
山田 順子 東京家政学院大学
宮内 有加 東京都中央区立日本橋小学校
山田 忠行 創価大学
宮川 八岐 國學院大學
山田 信義 大阪市
美谷島正義 東京都文京区立第六中学校
山田 真紀 椙山女学園大学
武藤 孝典 信州大学名誉教授
吉田 武男 筑波大学大学院
目黒 明彦 福島市立渡利小学校
米津 光治 文教大学
森嶋 昭伸 日本体育大学
脇田 哲郎 宗像市立玄界東小学校
矢澤 雅 名古屋学院大学
和田 孝 帝京大学
安井 一郎 獨協大学
渡部 邦雄 東京農業大学
山口 満 筑波大学名誉教授
小学校・中学校・高等学校学習指導要領対応
新訂 キーワードで拓く新しい特別活動
編集委員会
会 長 遠藤 忠
委員長 長沼 豊
委 員 木内 隆生
委 員 佐藤 真
委 員 柴崎 直人
委 員 林 尚示
委 員 林 幸克
委 員 緑川 哲夫
委 員 渡部 邦雄
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小学校・中学校・高等学校学習指導要領対応
新訂 キーワードで拓く新しい特別活動
2010(平成22)年 8 月20日 初版第 1 刷発行
監 修:日本特別活動学会
発 行 者:錦織 与志二
発 行 所:株式会社 東洋館出版社
〒113-0021 東京都文京区本駒込 5 丁目16番 7 号
営業部 電話:03-3823-9206 FAX:03-3823-9208
編集部 電話:03-3823-9207 FAX:03-3823-9209
振替 00180-7-96823
URL http://www.toyokan.co.jp
印刷製本:藤原印刷株式会社
装幀・本文デザイン:林 琢真
ISBN978-4-491-02613-8 Printed in Japan