原始活動銀河核における 巨大ブラックホール(とバルジ)の成長

原始活動銀河核における
巨大ブラックホール(とバルジ)の成長
川口 俊宏 (国立天文台、光赤外研究部)
臨界降着率(Eddington 降着率; MEdd =16 LEddington/c2):
放射圧=重力
注意:球対称時の限界降着率
- Super-Eddingtonガス降着による
巨大ブラックホールの成長
- 共進化:バルジの成長を観測する計画の紹介
- 2型AGNでのSuper-Eddington降着、
中間質量BH in ULXs へのコメント)
Super-Eddington ガス降着による巨大ブラックホール(BH)の成長:
0.Overview
A: 中心巨大BHへのガス降着率は、Eddington limit ではなく、外の要
因(角運動量抜き取りのon/off, 中心ガス量など?)で決まっている。
(Collin + Kawaguchi 04)
B: Super-Eddington phase はAGNの総寿命の2割前後(~20 Myr)。
(Kawaguchi, Aoki, Ohta, Collin 04)
C: 輻射圧は強くなるが、“ガス降着率 ≪ ガス放出率” ではなさそう。
(e.g. Aoki, Kawaguchi, Ohta 05)
BHがそれほど巨大で無い時に、ガスがBHへ落ちれば
Super-Eddingtonガス降着が起こる。
→ 急速、かつ大規模にBH質量が成長。Salpeter タイム
スケール(~30 Myr for Eddington ガス降着)よりずっと早い。
→ たくさんの極紫外線を放出する。昔の極紫外線背景放射
へ寄与したはず。
(Kawaguchi 03)
0. 何がガス降着率(M)を決めるか?
10
No selection effect
Collin & Kawaguchi (2004)
近傍AGNの
ガス降着率 1
M [Msun / yr]
0.1
左下・右下の空白:
天体の選び方による
ものなので割愛
106
BH mass [Msun]
1010
最大M [Msun / yr] (~ LFのL*) がどのBH質量域でもほぼ同じ。
Æ - MはEddington limitでコントロールされている訳ではない。
- 中心BH質量に依存しない別の何かがMを決めている。
スペクトル放射分布(SED) : NLS1 (TonS180) v.s. quasars
QSO の典型的スペクトル
(radio quiet)
(Zheng et al. 1997; Laor et
al. 1997; Telfer et al. 2002)
- 降着円盤の温度は、BH質量と反相関。
小さい領域までガスが落とされると、よく擦れて熱くなる。
-ガス降着率大でも、円盤が熱くなる。
⇒ 軽めの巨大BH + 大降着率 = 効率の良い極紫外線放射体。
AGNでのSuper-Eddingtonガス降着に関する議論
1. Soltan argument: 「Super-Eddington ガス降着で巨大BHが成
(2頁)
長したわけではない。」
2. 本当にSuper-Eddingtonガス降着天体は居るのか?
2-1. Narrow-Line Seyfert 1 銀河は、単に disk-like 輝線領域
(BLR)をface-on で見ているだけでは?
(4頁)
2-2. BH質量と降着円盤自身の質量。
(5頁)
2-3. 可視光輝線プロファイルによって質量推定に系統的誤差
(3頁)
3. バルジも(ほぼ)同時に成長しているか?
1.Super-Eddingtonガス降着はSuperMassive BHs
の成長に必要無い?
ε
(1/2)
: ガスの静止質量エネルギーから放射エネルギーへの
変換効率の平均
(Soltan 82; Chokshi + Turner 92)
∫ LF ( AGN ) dL dz
≈
ε ∫ MF ( SMBH ) dM
近傍宇宙のSMBH質量密度 [MO/Mpc3]などの具体的な値を
用いると、 ε ≈ 0.1 -- 0.3。
⇒ 「 (効率の良い) Sub-Eddington ガス降着がBH成長を
担っているはず。変換効率の悪いSuper-Eddington降着
は巨大ブラックホールの成長には効かない。」
(Fabian + Iwasawa 99; Yu + Tremaine 92; Elvis ++ 02)
注意:積分に効くのは、LF,MFの折れ曲がり(knee)
あたりの天体。
(2/2)
1.Soltan argumentで追えるBH成長史と原始
活動銀河核で追うBH成長史:質量レンジが異なる (Kawaguchi ++ 04)
ブラックホールの質量関数: 銀河(黒) & AGN(各色)
Marconi et al. (2004)
赤=可視光、
青=軟X線(低質量BH
を含みやすい)、
緑=硬X線.
傾き=-1の線:
総BH質量へ等寄与
Soltan argumentで制限が付くBH成史:
Seed BHsから107 MO BHへの成長がSuperEddington降着であった事をなんら否定しない。
Narrow-Line Seyfert 1 銀河(NLS1)の特徴:可視光スペクトル
主に
トーラスより内
Hβ
トーラスより外
[O III]
•Seyfert 2s: トーラスを透かして観測
-
Fλ
太い輝線が無い / Fe II も
-NLS1s• Fe II が強い
• “太輝線”が典型的Sy1よりも細い
トーラスより内
FeII
•Seyfert 1s: 下3つは1型天体を意味
- 太い輝線有り (Hβなど)
(Pogge 1999)
λ
– Fe II multiplets が見える
Narrow-Line Seyfert 1 銀河 (NLS1s)の特徴と解釈
• “太輝線”が細い: 放射領域の重力ポテンシャルが浅い
- Virialized BLR: ΔV ∝ (MBH / BLR のサイズ)0.5
- BLRサイズ ∝ L0.5
(Bentz ++ 06)
同じBH質量の場合:
細い線幅 → BLRのサイズが大きい → Lが大きい → Mが大
同じ光度(L)の場合:
細い線幅 → 小 MBH
NLS1s = 小BH質量 (~ 105-7 Msun) & 大 L/LEdd (~ 1)
• 「(conventionalな)FWHM < 2000km/s」で天体を選ぶと、
超巨大BHの Super-Eddington 天体を見落としがち (Peterson, Boller)
Δv ∝ M
0.5
0.25
/L
∝M
0.25
0.25
Eddington降着率で
&
/m
m& = 規格化したガス降着率
Narrow-Line Seyfert 1 銀河 (NLS1s)の特徴と解釈
• “太輝線”が細い: 特殊なorientationで説明できるか?
(1) 「(一番BHに近く)一番速度の大きい輝線放射ガス雲だけが
視線から隠されている」
(2型セイファート銀河のアナロジー)
No: 可視光偏光観測 → 隠れた太い輝線は無い
(Smith ++ 02)
(2) 「disk 状の輝線放射領域(BLR)をface-onに近い視線で見ている」
No: ホスト銀河の形態に系統的に差がある
(Crenshaw ++ 02; Aoki, Ohta, Kawaguchi 06)
cf. 降着円盤と母銀河の向き ~ ランダム
(Kinney ++ 2000)
2-2. BH質量の推定と降着円盤の質量
SED of Narrow-Line Seyfert 1 galaxy, TonS180
R<RSG
R>100R
SG
~
RSG-10RSG
(Kawaguchi,
Pierens,
Hure 04)
-自己重力を無視できる、円盤内縁部は可視光を出さない
(降着率が大きいので、熱い円盤だから).
- 自己重力が効く、かなり遠くまで降着円盤が伸びている必要
AGN 降着円盤の自己重力
- Sub-Eddington AGNs
νLν
Star
formation
IR
“dust
torus”
opt
UV
X-ray
自己重力が効き始めるほど遠くまで降
着円盤が伸びているかどうか不明。
?
1μm
Non selfgravitating disc
(+ corona)
- 時間変動 (MAGNUMチーム)
- 近赤外線偏光 (Kishimoto ++ 06)
ν
- Super-Eddington AGNs
νLν
“dust
torus”
1μm
Non selfgravitating disc
(+ corona)
自己重力がBHからの重力を凌駕する
遠方まで降着円盤が伸びている。
(でないと、可視光放射を説明できない)
ν
NLS1(TonS180) (数値は、SED計算結果を含む):
BLRの中はほぼ質点
(RSG ~ 3000RSch ~ 0.002pc)
ty torus
自己重力の無
z
視できる降着流
“Dusty
Torus”
RSG
Rs
black
hole
R
自己重力が効
く降着円盤
Rsg
10RSG
R
t
Broad-Line
Region
(輝線放射領域)
~ 50RSG
~ 100RSG ~ 0.2pc
BLRの中はほぼ質点
- 輝線放射領域の中は(ほぼ質点)
- 輝線ガス雲はViliarized
⇒ ガス雲の速度(分散) ∝ 距離-0.5
輝線の幅
Vilializedしている場合の
理論予測: V ∝ R-0.5
○ Hβ輝線
● 他の輝線
Peterson et al. 04
時間差 ~ 輝線放射領域の大きさ
Ton S 180: SEDモデルのBH質量推定
v.s. BLRサイズ-光度関係によるBH質量推定
(Kawaguchi, Pierens, Hure 2004)
- MBH that fits UV to X-ray data is 106.8 MO
自己重力を無視できる円盤内縁部の質量 ~ 0.02 MBH
自己重力が支配する外縁部の質量 ~ (0.4 -- 7) MBH
- 放射輝線領域(BLR)の中にある質量: 107.3 Msun
(サイズ - 光度関係、 Hβ輝線幅より)
- VirializedしたBLRの運動から MBH を推定すると
系統的にover-estimateする
(at least for super-Eddington cases)
2-3. 輝線プロファイルとBH質量推定
輝線のBroad 成分の幅の測り方:
- FWHM: - conventional.
- narrow 成分 の差っ引きが面倒
- line core (速度ゼロ付近)に敏感
- σ : 2次のモーメント
(cf. 0次 = flux, 1次 = median 波長)
- (重みほぼゼロなので) narrow 成分の差し引きに過敏でなくて済む
- line wing (BHに近いところで運動しているガス)に敏感
三角
gaussian
長方形
rotating ring
B.M. Peterson
2-3. 輝線プロファイルはEddington比と弱い相関
(Collin, Kawaguchi, Peterson, Vestergarrd 06)
boxier
(肩が発達)
Gaussian profile
peakier
(裾が広い)
Eddington 比
(天体の全光度 / Eddington 光度比)
2-3. 輝線プロファイルとBH質量推定
(Collin, Kawaguchi, Peterson, Vestergarrd 06)
MBH(σ*): 星の吸収線の幅からバ
ルジ質量を推定し、バルジーBH質
量比が一定と仮定して推定した、
BH質量
(Onken et al. 04)
Virial product:
c (時間差) 線幅2
G
Scale factor (f):
MBH(σ*) / Virial product
(cf. 通常、0.75が使われる)
輝線幅
σline-based f 3.9 ± 2.0
3.8 ± 1.1
2.1 ± 1.5
0.5 ± 0.1
FWHM-based f
FWHM & scale factor 固定で
BH質量を推定すると、細い線幅
を持つ天体のBH質量を過小評価
する
(or 重いバルジ)
Super-Eddington ガス降着による巨大BHの成長: まとめ
BHがそれほど巨大で無い時に、ガスがBHへ落ちれば
Super-Eddingtonガス降着が起こる。
→ 急速&大規模にBH質量が成長。Salpeter タイムよりずっと早く。
1. Soltan argument: 「Super-Eddington ガス降着で巨大BHが成
長したわけではない。」 というのは、L* (MBH*) への制限。
2. 本当にSuper-Eddingtonガス降着天体は居るか?
2-1. Narrow-Line Seyfert 1 銀河のBHは本当に軽い。
(見かけの効果ではない)
2-2. 降着円盤自身の質量で、BH質量を~3倍過大評価している。
2-3. Eddington比大ほど、peakyな(裾の広い)可視光輝線プロ
ファイル。質量推定に系統的誤差か。
BH質量毎のBH成長史の例 (Cattaneo 2002)
Note: semi-analytical model
軽めの巨大BHはガス降着で、重い巨大BHはmergerで成長
現在のBH質量に対
する、各BH成長プ
ロセスの割合
[%]
BH-BH Merger
Numerous
minor
accretion
Major
accretion
DM halo mass (~∝ central galaxy mass
~∝ BH mass)