目次 概要 ......................................................................... i 1.はじめに ................................................................. 1 2.ロードマップの優先順位 ................................................... 4 3.実施にあたって .......................................................... 20 付記 A 銅業界における革新 .................................................. 23 付記 B 銅の基本特性 ........................................................ 25 付記 C 銅と社会との関わり .................................................. 26 付記 D 今日の銅を取り巻く状況 .............................................. 28 付記 E 銅の利用に影響を与える傾向と問題点 .................................. 29 付記 F 協力いただいた方々 .................................................. 31 付記 G 参考資料 ............................................................ 33 概要 背景 三年前、銅業界は将来にむけての計画を発表しました。銅の技術ロードマップと呼ばれるその計画では、銅鉱山 での採取計画から電解抽出・製錬までの、いわば銅を使う場合の「上流」部分を取り上げました。AMIRA インタナシ ョナル社が中心となり、業界全体で銅の抽出、製造コスト、銅を利用する経済的インパクト、環境や社会的要因の 考察まで詳細な研究を行なったのです。このロードマップでは、銅業界が優先すべき事柄として、産業における安 全性・衛生面のさらなる改善とともに、技術革新によりエネルギー効率を 10%向上させることとし、そのためのア クションを挙げています。 今回新しく策定した『銅の利用テクノロジーロードマップ』は、最終製品やエンドユーザーが使う商品といった 部分に焦点を置いています。銅は古代から使われていたものでありながら、最先端の製品にも有効に利用される金 属です。ロードマップでは、銅を使うことの有益性が今後いっそう増すはずであり、またそうであるためには、銅 の社会における位置や、エネルギー効率、健康、環境への有効性、持続可能性といった意味合いでの、銅と社会の 関わりを理解しなければならないことを示唆しています。このロードマップは企業間の競争を超えたところで、銅 製造業者や加工業、さらには大学研究機関や政府、起業家、単独で仕事を行なう技術者が知恵を出し合って協力し あうような研究のガイドとなることを目的としたものです。 新たな方向性 銅は「驚くほど常に、人類の暮らしの進化に深く関わってきた歴史」を持つ。 銅は産業革命を推進する役割を担った金属であり、情報テクノロジーやコミュニケーションの進化にはなくては ならないものです。さらには清潔で安全な飲み水を何百万もの家庭に届けたり、有害微生物の蔓延を防ぐ一助にな ったりしたのも銅です。歴史を通じて常に社会は銅の基本特性を必要としてきました。銅がさらなる技術革新の推 進力となるために、銅の業界が精査しなければならないのは、まさにこういった銅の基本特性です。第一章では、 銅の基本特性について述べ、その特徴が未来への社会の発展にどのような貢献をなし得るのかを考えます。 このロードマップは将来に向けて技術開発を行なう際の産学協同事業のガイドブックであることを目的としてい ますので、まず現在銅が利用されている場所での使い方の進化、つぎに今後起こり得る利用法に向けて進んだ銅の 使い方、という優先順位をつけました。第二章で述べているのは、この優先順位の選定方法です。選定基準を設け、 詳細にこれまでの傾向を説明した上で、各分野で特に有力な部門を推奨しています。優先順位の高い既存並びに将 来性のある分野は以下のとおりです。 z 送電(電気エネルギートランスミッション)分野 銅には電気および熱伝導性にきわめて優れた特性があります。つまり、地球規模で効率よく電気エネルギー 消費を行なうのに役立つことは明白で、実際この重要な問題に関して、銅の果たしてきた役割は大きいのです。 開発途上国ではエネルギー・インフラの爆発的な拡大により、送電、配電、さらには工業施設で使用される製 品への許容電流、効率に高いレベルのものを要求するようになってきています。 銅の高電力許容力があれば、こういった要求に応えることができます。銅の将来性は、高電圧、海底電力ケ ーブル、といった市場にもあり、この分野では海上のガス生産プラットフォームを作ったり、風力発電、送電 施設を作るユーザーの要求に応えたりすることもできます。 z データ通信分野 データ配信分野において、デジタル通信機器の相互接続の 80%以上は銅線・銅ケーブルです。100 メートル 未満の接続線であれば、10Gpbs を超える帯域幅を持つ銅ケーブルは、他の材質のケーブルとほとんど変わらな いコストで利用できます。 銅業界では、銅ベースのケーブルの価格競争力を高めるため、さらに帯域幅を広く持ち、電力消費量を削減 し、設置や接続が簡単にできるようなケーブルを開発しています。 銅は同じケーブル上でパワーやデータを伝える優れた能力があり、そのため、デジタル AV 機器、通信、コン ピュータ、警備装置、家庭・オフィス・公共インフラでの高速ネットワークの接続を簡単にするのです。 i 『銅の利用テクノロジーロードマップ』 第 1 号-2 版 z 自動車配線分野 自動車の燃費向上のためには、新しい銅ケーブルは、限られたスペースで、重量を軽くしなければならず、 より強く、細くする必要があります。自動車では、そのパフォーマンス、快適性、安全性、さらに音響機器な どの娯楽性を高めるため、電子的な装置を使うことがますます多くなっています。 配線と接続、中でもワイヤハーネスとその周辺のコネクタは、今後も自動車業界における銅の使用量に大き く影響してくる要因となります。 スペースへの制限が大きくなってきたことで、自動車メーカーはハーネスもコネクタも小型化してきました。 部品をできるだけ小さくしていこうという傾向により、コンダクタやコネクタの材質に機械特性の高いものも 要求するようになっています。基本的にコンダクタにはより高い降伏耐力が、コネクタに使われる銅合金には 応力緩和特性のさらなる改善が求められることになります。 z モータ駆動システム分野 モータ駆動システムは、電気エネルギーをもっとも多く消費するもので、世界の 40%の電気エネルギーは、 モータを動かすことに使われています。モータの効率をわずかに改善しただけで、電力消費量に非常に大きな 影響を与えるのです。 国際銅協会(ICA)はキャスト(鋳物)タイプの銅ロータ(回転子)を使ったモータ(CMR)の開発をサポー トしてきました。CMR は優れた特性から多くの可能性を持つモータですが、それでもなお、モータの効率アップ には改善の余地があります。ステータ(固定子)の巻線における渦電流損はまだ減らすことができるし、スー パー・プレミアム・モータというものの基準もまだ定義されていません。 CMR は高い馬力にある際に最適出力となり、生産コストを下げることができます。こういった改善を行なう ことで、CMR はメーカーにとってもユーザーにとっても、経済的にも有益な存在になり得るのです。銅はエネル ギー効率とパフォーマンスの向上に、重要な役割を持つのです。 z 電子相互接続分野 銅製のリードフレーム、プラグ、ターミナルブロック、その他各種の接続子は、電子機器に広く使われてい ます。電子相互接続の技術開発は、現在のところ、サイズの小型化、コスト削減に集中し、材料間の競争とい う形になっています。小型化しても、機械的な強さを増し、パフォーマンスを高めるためには、性質の似てい ない材質を密に統合することが求められます。 リードフレーム・コネクタは、高周波入出力(I/O)メモリ、コンピュータ、自動車、携帯用デジタル製品の 発展を支えるために、進化し続けることになるはずです。 コネクタやリードフレーム製造業界の未来は、技術革新によって成り立つものなので、こういった業界とパ ートナーを組み、開発プログラムを共同で立ち上げるのは、理想的な環境にあると言えます。 z 電子温度管理分野 高出力でコンパクトな電子機器は周囲より高温を発するため、優れた冷却技術や温度管理を必要とします。 中でも航空宇宙関連の機器、高出力レーザーシステム、自動車の電子機器においては特に重要です。 今日、電子システムでの熱伝導素材としては、銅が選ばれることになりますが、次世代の熱交換機器の開発、 たとえば超コンパクトなもの、高熱放出技術、などにも銅が使われるよう取り組む必要があります。 z 熱交換器系電化製品分野 傑出した熱伝導性、展延性、さらには殺菌効果と接着のしやすさから、銅は冷蔵庫、エアコン、自販機、業 務用食品販売システムなどの熱交換器を製造する際に、広く使われています。 しかし、こういったものも、径の小さな、あるいは扁平銅管を使うことで、さらに効率を上げ、コンパクト 化し、製造コストを下げることが可能です。 今後も研究開発部門には、材質の接着、金属加工、デザインの工夫、熱伝導の応用方法、合金の開発及び最 適の材質を見つけること、などでコスト効率のよい解決策を見つけることが求められます。環境にやさしい冷 蔵庫への需要が増え、デザインとしても銅が使われる機会は増えます。 こういったチャンスは、メーカーの研究開発者との共同研究を通じて実現させていくことができるのです。 ii 『銅の利用テクノロジーロードマップ』 第 1 号-2 版 新しい利用の方法が生まれると、銅にとって今までになかった市場が開け、既存の使用方法で量を増大するのと 同じように、銅産業を拡大することになります。こういった新しい市場を拓くには、新しく改良された銅ベースの 技術を開発する必要があります。新しいチャンスとして生まれてきた主なものは以下のとおりです。 z 電気推進エネルギー分野 電気推進テクノロジーを使う市場としては、鉄道、船舶、建設機材、自動車といった産業があります。銅は このテクノロジーにはなくてはならない存在です。自動車の電気推進システムは、現在開発中ではありますが、 大きな進歩を遂げており、比較的単純な電気モータをベースにしたものから、現在は非常に技術としてもすぐ れたコンパクトで効率の良いものに発展しつつあります。 さらに銅にとっては、大容量かつ温度管理ができるという長所から、動力を出す電子機器、また電気車両の 再チャージをサポートするインフラ部品としての用途も考えられます。 また超伝導推進システム、たとえば非常に大型の船舶推進用モータなどの用途としても、その開発に期待が 持てます。 z 再生可能エネルギー分野 銅はクリーンエネルギー・システムで重要な役割を担っています。特に発電機や、パワーエレクトロニクス、 ケーブル配線といった場面で大切で、風力発電、バイオ燃料、波や地熱発電、太陽熱発電などのコントロール 装置及び保護装置にはなくてはならないものです。 太陽光発電システムには、電力移動、アース、遮断器、コントロール・システムなどの部品として、銅は必 ず必要となります。海上に設置されたシステムなら、海洋微生物の付着による劣化や腐食に強い銅合金の長所 をうまく使うこともできます。 最新のシステムと言えども、さらに効率を高め、環境への影響を最小限にしていく必要があるのです。 z 養殖産業分野 海産物の養殖は、全世界で何十億ドルという大きな市場になり、急速に拡大しています。その市場が現在直 面する大きな問題に、銅合金の海産物養殖用かごは強力な解決策を提供できます。 一般的な養殖用かごは合成素材に海洋微生物が付着しないようにコーティング加工したものですが、数カ月 使用すると藻類の膜、貝類などでびっしり覆われてしまいます。こういったものが付着することで、きれいな 水がかごの中に入らなくなり、魚には酸素が届かず、寄生虫や病原体だらけの環境になります。かといって網 だと、アシカやアザラシに魚が襲われるのを防ぐことはできません。 銅合金であれば、微生物付着が起きず、殺菌力もあり、構造的にもじゅうぶんに中の魚を保護できるため、 こういった問題を解決できるのです。 銅合金のかごは、何年にもわたって微生物が付着することがなく、養殖 されている魚を健康に育てられるため、収穫率が上がります。また、かごを頻繁にきれいにしたり、入れ替え たりする必要もありません。銅合金のかごなら微生物が付着しないため、養殖環境を清潔にするため使用して いた薬品をゼロにする、あるいは量を減らすことができます。銅合金は構造的に丈夫で弾性に富むため、捕食 海洋生物から魚が襲われることもなく、養殖魚がかごから逃げることもありません。合成素材で作った網とは 違って、銅合金のかごは完全にリサイクルでき、製品寿命が尽きるまで何度でも使えます。銅合金は海水でも 浸食性が低いので、プラス面は非常に大きく、かご、台、係留システムといったさらに進化した道具が現在開 発中です。 z 公衆衛生分野 銅の表面では人体に有害な病原体やカビが繁殖することはできません。 この特性は、銅以外にはほとんど見られないもので、きわめて有益な特長として、今後、銅及び銅合金が、 環境表面や、空調システム、それ以外にもさまざまな用途として活用される可能性を示唆しています。 中でも人の手に触れる機会の多い医療器具、医療施設や公共の建物での備品や環境表面を、銅を使うことに よって、多剤耐性のある恐ろしいバクテリアも含む病原体の媒体となる危険性を減らすことができるのです。 建物の空気の質も、空調設備に銅の抗菌表面を使用することで、改善することができます。 z それ以外の分野での利用の可能性 銅関連の研究開発の中での優先順位の高いものは上記で、しっかりとした裏づけのある、言わば守りを固め る形のもので、この選択は、ロードマップ作成時に入手できた情報をもとに行なわれました。 ICA の活動を通じて、銅業界は競争が始まる前の段階で研究に着手し、銅が使われる市場を創り出したり、 対応できたりということがでぉてきました。そうやって比較的迅速にアクションを起こし、さらには開発時間 をじゅうぶん取ることができたのです。 iii 『銅の利用テクノロジーロードマップ』 第 1 号-2 版 例外的なケースとしては、ICA は銅に関する問題を抱える企業や団体があるとき、個別に問題解決へのサポ ートも行なう場合があります。だからこそ、上記のようなチャンスに加えて、銅業界はこれ以外にも新しいア イデアがあれば、知りたいと考えています。 これを読まれた方が、銅を利用する新しいプロジェクトを提案されることを歓迎します。新しい銅の利用法、 既存の利用を拡大するアイデア、どちらでも構いません。そういった提案が、新しい扉を開けるものとして必 要とされ、信頼できる技術的アプローチを作っていくのです。 『銅の利用テクノロジーロードマップ』は、社会情勢や競合素材からのプレッシャー、関連する技術開発、さら には予想もしなかったような状況の求めに銅業界が応じるのに伴い、形を変えていくでしょう。現在のロードマッ プは、技術革新が未来にどうつながるかという橋渡しをするものではありますが、銅業界およびその顧客である方々 にとって、優先度が高いと私たちが信じるものについて、まだ競争が始まる前の段階での研究に焦点をあてたもの です。ただ、必要な変革を実行するにあたって、望ましい成果を得るまでには、非常に困難で複雑な段階を経てい くことになるでしょう。その目的を達成するために何をするかを、セクション 3 でプロジェクト計画の概要として 銅業界が率先して行なうプロセスを説明しています。銅を利用するプロジェクトをどう立案し、実際に計画を立ち 上げ、このロードマップで述べたあと、将来はどうなるかというところまで説明しています。 このロードマップは、ここに述べた分野での新しいチャンスを活かすために、それぞれの団体が持ちうる優れた 技能、能力、人材を最大限に活用することを目的として作られています。銅業界は未来を見据え、このロードマッ プをうまく活かせたかどうかを、ロードマップに触発されて実施された共同研究開発プロジェクトの数やその影響 力、実行されたプロジェクトでプラスになったことを基準として評価します。評価基準には入りませんが、同等に 重要なのは、銅が環境にやさしく先端技術に適した素材であるという認識を人々のあいだで高めることでしょう。 iv 『銅の利用テクノロジーロードマップ』 第 1 号-2 版 1.はじめに この文書を発表するにあたり、銅業界は数年前から内容の策定に 取り組んできました。すなわち、銅が今後数十年間にわたって、無 理のない継続的な成長を続けるための方向性を見定め、現実の成果 に結びつけるものにしようとしたのです。当初の段階では、銅に関 するテクノロジーロードマップ(2004 年発表)で示したとおり、 鉱山での採取、銅の精製などに重点が置かれていました。そういっ た場所での技術は将来どう変化していくのか、また変化を誘発する ものは何か、変化をもたらす業界の動向、政治的、経済的、社会的、 技術的な要因は何かということを述べたのです。 図 1‐1 銅業界バリューチェーン 「上流」のロードマップの開発は AMIRA インタナショナル社、鉱 物産業の研究所によって行なわれ、「これだ!」と特記するような 具体的な成果にはまだ至ってはいませんが、技術分野の報告書で改 良が着実に進んでいることがわかっています。システム・コントロ ール、水の利用、ロボットやオートメーション、天然資源とそのプ ロセスなどに改良が見られ、これらはすべて、2004 年のロードマ ップで優先順位の高い研究項目として挙げられていたものです。 さて今回、銅業界はさらに視野を広げることになりました。 『銅 の利用テクノロジーロードマップ』は、採掘、粉砕、精錬、精製か ら加工行程を経て、製品化するメーカー、または特定分野や用途、 製品への加工までといった「下流」分野を取り上げています。図 1 ‐1 は、既存市場の拡大、またこれから生まれてくる市場において、 銅の価値がどれほど重要な意味を持つかを示しています。ロードマ ップは、銅製造者、加工業者、銅を使う産業、大学や公的研究機関、 起業家、個人の研究者などによる、さまざまな知識を総合して開発 されたもので、その知識の蓄積をガイドとして、業界にとって将来 の発展に役立てることができればと考えています。 銅は常に、人類の生活の一部であり、文明とは切り離せない歴史 を持っています。産業革命を支えた金属であり、情報・通信テクノ ロジーの進化にも欠くことのできないものでした。清潔で安全な飲 み水を何百万もの家庭に供給する役に立ち、病原体汚染のリスクを 低減してきたのです。銅はその基本特性で、長い歴史を通じて、社 会の要求に応えてきました。この特性こそ、銅業界として研究を重 ねていかねばならないもので、それによって銅が技術革新を推進す る新たな役割を見いだせるはずです。 将来に向けて、銅が本来持つ優れた特長は、パートナーと共同作 業をしていくことで社会の変化の中でうまく活かしていく最善の 方法であると思えます。具体的に言えば、新しい材質、合金、材料、 組成を開発したり、その材料をより優れたものにしたり、さらには 生産のコスト効率を上げるといったことを通じて、未来への展望は 開けます。電気コネクタや電子技術工業品メーカーでは、こういっ たアプローチが常に取られる代表的な産業です。また、銅の使用や 加工に際して、最適・最善の方法が求められるという場合もあるで しょう。国際銅協会(ICA)が提供するコスト効果の高い銅のダイ キャスティングの開発は、見事な成果を挙げていますが、これは銅 業界の研究開発部門の共同研究がうまくいった、有効な例です(付 記 A 参照)。 代替素材によって、銅の代用をしようという研究もあります。し かしながら、銅の多くの特長をふさわしい方法で利用することで、 そのような脅威に対抗できるのです。 1 『銅の利用テクノロジーロードマップ』 第 1 号-2 版 銅本来の特長 他のどんな金属も、銅ほど役に立つ幅広い特性を持ってはいません。素材金属であれ、合金にしても、銅にはか なわないのです。他の金属よりはるかに優れた点としては、電気と熱の伝導性の高さ、殺菌効果、加工のしやすさ、 合金の作りやすさ、そして見た目の美しさでしょう。向こう数十年の技術の進歩は、すぐれた材質を見つけること に大きく左右されます。材質とは、金属、合金、複合素材、その他の組成品として、銅を含んだものである可能性 が高いのです。 こういった材質は、パフォーマンスの高さは言うまでもなく、人間の健康、エネルギー効率、自然に持続可能で あること、生活の質といった面にプラスの効果がある、あるいは少なくともマイナスにはならないことが求められ ます。銅や銅を含む材質は、こういった基準にもきちんと合致します。(付記 B)で上記以外の銅の優れた特性をリス トにしました。(付記 C)では社会が必要とする基準に、銅がいかに合致しているかの考察を述べています。 電気銅から最終製品へ:製品開発プロセスと製品/プロセス開発 電機銅とリサイクル銅というのは、最終製品としての銅の利用方法として出発点になるものです。準加工会社は こういった加工を行ない、合金の材料に仕上げることもよくあります。また最終製品への加工用として銅の特性を 活かした中間段階の加工を施したりもします。 付加価値を施された銅材は、製品としての最後の加工をされることになるわけです。準加工会社の専門家と、そ の顧客である会社のエンジニア、製品担当者などは設計技術や開発のプロセスを通じて銅合金の組成や純度が、最 終製品になったときに期待通りの機能や性能を果たしてくれるものかを確認するため、密接に意見を交換しながら 仕事を行います。 銅業界は世界各地に 29 もの銅センターを持ち、そのセンターを通じて、マテリアル・ソリューションとして銅素 材がもっとも効果的に利用していただけるようにサポートを提供しています。(2-1)では、主な問題、ビジネスチャ ンスについてさらに深く分析し、銅を今後の製品とプロセス開発についての技術的共同作業に役立てるための推奨 アイデアも述べています。 銅の使用の傾向とそれに影響を及ぼす問題 ここで述べているのは、銅の使用に影響を及ぼす可能性のあるいくつかの事象です。またその問題に対応する銅 の特性も一緒に挙げました。(付記 D)には銅使用に関する一般的な傾向を情報としてまとめてあります。 z 加工コストの削減 競争力を保つには、加工業者は生産コストの削減努力を続けなければなりませんが、一方でその品質を高く 維持しておくことも求められます。銅の加工は通常、珍しくもなく一般的なもので、形も合金も多くあり、そ のため効率の高い生産も可能です。またニアネット技術も銅にはすぐに応用でき、製品によっては「上流」技術 である電気銅の生産で用いられる電解抽出技術を使って、準加工できるものもあります。 銅業界は、生産方法やそれに伴う材質のプロセス技術をさらに洗練されたものに高め続けなければならず、 すぐれた生産・プロセス技術があってこそ高品質で信頼のおける製品を効率よくコスト効果にもすぐれた方法 で提供できるのです。 z 銅の付加価値を最大限に利用する メーカーは当然、できるだけ少ない量で理想とする機能を安定して提供してくれる素材を探すものです。技 術開発プロセスや設計方法における改善、プロセスのシミュレーションを行ない、必要な場所だけにその素材 を使います。現在、銅が利用される市場は、製品パフォーマンスを維持しながら、あるいはさらに向上させよ うとしながらも、金属の使用量は極力抑えようという状況にあります。 銅の価値は他の材質とうまく組み合わせたり、プロセスを上手に選んだりすることにより高めることもでき ます。こういった場面で、銅業界は技術的なサポートを行なうことができるのです。一般市場に対し、特定の 合金の新しい利用法を提案できます。 例を挙げると、電気工業市場では次々と新たな銅合金を求めています。なぜなら、電導性以外にも、機械的 強度などの特性が要求されるからです。同様の考え方が、海水養殖にも適用されます。機械的強度がいちばん に求められはしますが、腐食や海洋微生物の繁殖を防ぐという特性が有用なのです。 2 『銅の利用テクノロジーロードマップ』 第 1 号-2 版 z 他の材質との競合と脅威 金属、複合材、樹脂、多層構造システム、その他の代替素材は、銅が長年市場としてきた分野を脅かしつつ あります。とは言え、多くのすぐれた特長を持つ独特の存在意義もあり、銅を使うことでシステム全体を改善 したり、あるいは他の材質では成し遂げ得ない経済性をもたらしたりすることができます。その場合設計者は、 本来使うべき材質をできるだけ少量で済むように、妥協を繰り返しながらも、その材質をできるだけ効率よく 使おうとします。これが設計者の直面する問題です。 確かに銅の価格が高くなっていて、その影響は否定できませんが、銅は昔から使われてきた材質で、これほ どふさわしい材質はなく、上手に使えば購買を決定する際に価格に神経質になる状況も避けることができます。 z 法律、規制、基準を変更する エネルギーに関しては、効率と持続可能性があるかという点が、企業や政府の中で話題になることが、急速 に増えてきました。銅はエネルギー効率の良さがますます見直され、リサイクル性の高さも大いに注目されて います。その結果、多くの場合、この分野では有利な立場にあることが多くなっています。 z 銅製品のパフォーマンスの信頼性の高さ 新しい利用法に関して、銅のパフォーマンスの高さを予測したり確認したりするシミュレーションがコンピ ュータで次々と行なわれていますが、金属の中でも、銅やその合金ほど広く知られ、理解されているものはな いでしょう。銅に関する学術文献は非常に多く、技術的データはオンラインでも、世界に 29 ヶ所ある銅開発セ ンターでも手に入れることができます。 z 加工度の高い補足素材使用の増加 銅が単独で使われることはほとんどありません。いちばん多いのは、他の加工材料と組み合わせて、用途に 合わせた性質を持たすようにする場合です。一緒に使われる材料は、たとえば電気絶縁性を持たすために非常 に薄い被膜をつけたり、表面をスムーズにして腐食を防ぐようなコーティングだったり、あるいはそれ以外に もいろいろな性質を持たせることができます。 z 回収・再使用の設計 リサイクル性を持たせた設計をすることで、環境への影響から銅の価値は高まります。世界中で使われてい る金属で、銅ほどリサイクル効率が高いものはありません。パフォーマンスをまったく損ねることなく、100% リサイクル可能で、地球全体の銅の需要の 34%は、リサイクルした銅でまかなうことができます。製品寿命を 通してコストを考えてみると、エネルギー効率の高さ、製品寿命が尽きた際のリサイクル可能性から、エネル ギー関連の分野で銅を使うことは魅力的になるのです。 3 『銅の利用テクノロジーロードマップ』 第 1 号-2 版 2.ロードマップの優先順位 他のプロジェクトと共にこのロードマップは、競争が始まる前の段階で、共同研究開発プログラムをさせるガイ ドブックとして作られたものです。これによって銅業界ばかりか社会全体としても恩恵を受けることを目的にして います。業界としてはこのように競争を避け、共同で開発するというアプローチが好ましいと考えていますが、理 由はその研究によって恩恵を受けると予想される団体それぞれが、研究に関わる費用を分担でき、各分野の専門的 な知識がプロジェクトにもたらされるからです。 プロジェクトの優先順位を決定するための判断基準は、加工会社、準加工会社、最終製品メーカーによって以下 のように定められました。 z 優先度の高い活動は、銅の使用量を確実に上げることが期待できるものでなければなりません。さらに研究 開発の成果は、当該テクノロジーまたは市場において、革新的あるいは注目に値すべき改良であるべきです。 たとえば配水(水道管など)関連の市場は、銅使用量という意味では非常に大きく、現在の銅使用量の 13% を占めていますが、研究開発にとって優先度の高いものだとは考えられていません。 理由としては、代替素材が広く受け入れられてきており、市場環境を考慮すれば、革新的な技術を生み出し たとしても、配水設備関連で今後も持続的に銅の使用量が増加し続けるとは考えにくいからです。その逆に、 再生利用エネルギーシステムや自動車駆動システムでは、戦略的に重要な金属として、将来の成長が見込める のです。 z 優先度の高い活動は、プロジェクト開始から納得のいく期間内(5 年以内)で、ビジネスとしてじゅうぶん存在 し得る可能性が高くなければなりません。 この基準に合致することは、本来そう難しいことではありませんが、この基準があることで賢い選択ができ、 計画にも慎重さが生まれ、周到な準備としっかりした運営ができることになります。 z 優先度の高い活動は、環境にプラスになり、できれば銅の社会的なイメージを高めるものでなければなりませ ん。銅は必須微量栄養素のひとつであり、エネルギー効率を高め、リサイクルもできる金属です。こういった 特性は、日常加工される金属の中でもきわだって高いのです。 市場、法規制、技術の進歩、競合状況には不確かなものがあり、銅業界は研究を活発にして、さまざまな要求に 応えることで未来を確かなものにしていかねばならないのです。それぞれの市場で、何が重要視されていくかを予 想するのは難しいものです。 今の段階で重要だと思えても、新しい問題が出現して根底から前提が変わり、銅の使用に影響が出てくることも あるでしょう。業界がこのロードマップで示されたチャンスを追い求めていきながら、必ず見直し、評価を下し、 どのようなプロジェクトが現在、さらに未来の繁栄につながっていくかを見きわめて、どのプロジェクトに取り組 むかを調整していかなければなりません。 優先度の高い分野の分類 このロードマップで述べられている優先度の高い分野は、大きく三つに分けられています。これをクロスカッテ ィング(同時平行)利用法、既存/改良型の利用法、新たな利用法としています。 クロスカッティング利用法とは、銅製品や銅を使うプロセスをひとつないしは複数見つけるものです。目的とし ているのは、銅の中間加工プロセスを理想的なものにして、最終製品の価値を最大限にしようということです。例 としては、銅合金のセミ・ソリッドなキャスティングを最適なものにすれば、メーカーは強度の高い、複雑な形状 の部品を、今までより安いコストで製作し、環境への影響も低くて済む、というようなものです。 既存/改良型の利用法とは、現在大量に銅を使うユーザーの使用量を維持あるいはさらに増やそうというものです。 こういったユーザーは、コスト削減努力、内部素材の競争、デザインの制限(例えば、サイズを小さくする)といった プレッシャーにあり、そのどれもが銅の利用に影響してきます。 ここでは、新しい、あるいは改良された銅製品の開発を通じて、銅の存在性を確実なものにしておくことを目指 しています。銅ベースの放熱装置の改良型を開発することは、このアプローチの良い例のひとつです。 新たな利用法というのは、銅にとってまったく新しい市場を切り開くもので、そうすることにより使用量の増加 が見込まれることになります。銅の特性を今まで考えつかなかった方法で活かすということに焦点をあて、新たな 技術的問題点を解決するのです。 4 『銅の利用テクノロジーロードマップ』 第 1 号-2 版 銅の殺菌効果を環境表面に利用するのは、このカテゴリーの良い例でしょう。この分野では、非常に多くの研究 が重ねられてきました。技術を製品化する、また主要となる市場を開発し、販売促進を行なうというのが、今後の 課題です。 次に、(図 2‐1)に挙げた利用法の詳細をまとめました。非常に幅広い分野を網羅するものなので、具体例として はいくつか述べているだけです。これにより、パートナーとなってくれる人たちのあいだで、銅利用のさらなる新 しいアイデアが議論されることを願っています。 図 2‐1 バリューチェーンの下流にある分野で重要度の高い研究 5 『銅の利用テクノロジーロードマップ』 第 1 号-2 版 2-1 クロスカッティング利用法:工程設計と製品・プロセス開発 ある部品の材質とプロセスの選択は、製品の複雑さ、求められる機能、 製品の質やパフォーマンスの仕様、さらに想定されるコストに左右され ます。物理的なものも機械的なものも、金属特性は、もっともふさわし い合金の選択や、その後のプレス、金型引き抜き、溶接などの加工工程 において、重要な役割を持っています。 今日、材質の加工生産に関する研究は、部品や構造設計のプロセス開 発の研究と密接に関わっています。設計技術プロセスがますます完成度 の高いものになり、その技術を達成していくべき素材は、高品質で信頼 のおける製品を製造効率やコストパフォーマンスも高い形で作り上げる ものでなければなりません。そういった技術に対応する素材の革新は、 先進技術を持つ製品へとつながり、強度があり柔軟性もある銅コネクタ や、熱交換器の部品、殺菌性を持ちながら変色の少ない環境表面といっ た製品を生み出すのです。 銅のユーザーが銅の価値を最大限に活かせるようなサポートを求める 動きは、大きくなっています。いくつもの素材を組み合わせた複雑な部品の働きを最大限にしたいとき、特定の問 題が生じてそれを解決したいとき、あるいは特別な用途に特定の能力を必要とするとき、こういった場合に顧客は サポートを求めています。銅業界は顧客に高いレベルのサポートを提供し、もっとも効果的な銅の利用方法を選択 する手助けをしてきましたが、それだけではじゅうぶんとは言えません。銅の利用法を進化させ新しい使い道を考 えるためには、技術的な共同事業が必要です。 傾向、問題、影響を 与える要因 z z z z z コンポジション (合金) ミクロ組織 z z z z z z z z z 形状 z z 表面 接合方法 z z z z いっそう進化した技術で、銅部品のパフォーマンスへの要求も高くなる。 さらなるサイズダウン、複雑化、部品密度の高さが求められる。 コスト削減のプレッシャーは常に存在し、使用量は減らされていく。 高くなったコンポジション・レベル対単一素材という意味では、用途にぴったり 合致した材質を求めることになる。 準加工会社から求められるサービスやサポートの期待が高まる。 見込みのありそうな分野、推奨されるもの 優れた機械特性を持ち、有害物質を含まない合金の開発。 変色しにくい合金の開発。特に殺菌作用を期待する場合。 環境にやさしい成分を使った、強度の高い合金の開発。 セミ・ソリッドな鋳物など特定のプロセスに最適な合金の開発。 先端技術で作られた銅素材は、変形したり、質が悪くなったり、ひびが入ったりする が、そこには複雑なミクロ組織的な機構が働くので、その力学を明らかにする。 工程中、製造中、加工中に生じた欠陥のチェックや性質を改善し、新しい利用法 での欠陥の変遷を追跡調査できるようにする。 合金設計と加工を最適な状態にするために、どのようなデータシミュレーション が必要かを決定する。 ニアネットキャスティング用のシミュレーションモデルを改良する。 切削工具材料(ダイヤモンド、ダイヤモンド状コーティング、セラミックスなど) を含んだ切削データを細心のものにする。 革新的な成形プロセス(高温成品、セミソリッド加工、ダイキャストなど)を奨励 する。 操作性を向上させるインターフェイスをよりよく理解し、複雑な中身のさまざま な部品を分けるインターフェイスをコントロールする。 新しいセルフ・ヒーリング・コーティングを開発し銅イオンのリリースをコント ロールできるようにする。 異種材料と銅とのインターフェイスを研究し、組成構造の耐久性を予測する。 新しい接合技術を探す。 接合テクニックの進んだ形を利用するネットワークを構築し(エレクトロン・ビ ーム、キュプロブレイズ®など)メーカーをサポートする。 6 『銅の利用テクノロジーロードマップ』 第 1 号-2 版 z 実用化 リサイクル z z z z 銅専門の、他の素材専門の、また複合金属関連団体と連携し、銅のコンポジット を最適な形で実用化する。 統合的な工程設計を含めて利用される製品寿命の予想を正確にし、それを保証で きるようにし、要求されるパフォーマンスに見合うものにする。プロセス、生産、 加工それぞれのステップで必要な銅素材を使うような標準モデルを作る。 銅製品回収をしやすくできるよう製品設計を改良する。 製品寿命全体のコスト情報を用意し、製品開発者や素材担当者に提供する。 銅関連製品の製造プロセスに関するベストプラクティス例をメーカーに情報と して提供する。 7 『銅の利用テクノロジーロードマップ』 第 1 号-2 版 2‐2 既存/改良型の利用法:電力エネルギー送電 電力供給会社、さらには一部の工業施設で使われる高許容電流電力ケーブ ルとワイヤは銅にとっての大きな市場です。こういった製品に対する需要は エネルギー・インフラの拡大によって増加し続けています。経済成長の中、 既存の送電インフラに電力を送電するように作られた限られたキャパシティ しかない既存の施設は、最新のものに改良され追加設備を増設する必要に迫 られます。サービスを拡大するため送電網を延伸しなければならず、風力発 電や太陽発電など遠隔地にある発電施設とつなぐためにはパワーケーブルが 要求されます。また安定供給やメンテナンス及び管理運営コストという固定 費削減のために、地下送電線や送電ケーブルの需要も高まっています。 高電圧の海底パワーケーブルは、海底の油田・ガス田、海上の風力発電、 送電線といった分野での要求に応えるべく需要が増加しています。要求され るケーブルは高電圧(275kV 以上)、高送電容量を持つものです。送電線と共に、 深海用に防水シースされた立ちあがり銅ケーブルは鉛被覆ケーブルに比べて疲労への耐性が高いことから、市場性 があると言えます。 さらに銅は超伝導機器に対する熱および電気のバファーとしても使えます。このテクノロジーは銅の新たな利用 法として最近認識された市場です。 z 傾向、問題、影響を 与える要因 z z z z 海底ケーブルの信頼性への懸念は沖合からの送電の需要の高まりともあいまっ て、大きくなっている。 インフラが急速に拡大している。 成長著しい国々で、既存インフラへの限界は切迫した状況にある。 成熟した経済状況では、送電網の有効利用や電力の自由化の波が大きくなっている。 見込みのありそうな分野、推奨されるもの 中電圧 z 鉛被覆ケーブルを、静的ケーブル(海底におかれるもの)も動的ケーブル(海から採 掘現場まで)も、防水効果と疲労耐性の高い銅シースケーブルに取り替えていく。 強度・伝導性共に高い銅ベースのコンポジットを、昔から使われてきた製品に代 用できないか、固定費を含めた送電コストなど経済面を再検証する。 より薄く柔軟性のある絶縁システムを開発。 低電圧 z 厚みを減らした絶縁システムを開発。 送電・配電システム部品 z 送電線の巻きを固く密にしたものを開発。 その他の用途 z コスト効率の高い銅を含んだ超伝導素材を開発。 高電圧 z 8 『銅の利用テクノロジーロードマップ』 第 1 号-2 版 2‐3 既存/改良型の利用法:データ通信分野 今日、データセンターにおけるデジタル通信機器の相互接続の 80% が銅ケーブルとコネクタになっています。工業用、商業用、家庭用と もに、設置されているコンピュータは、広域帯接続を求めるようにな ってきています。多くの場合、銅は光ファイバーに対しては優位に立 ちます。たとえば 100 メートル以内の接続線ではブロードバンド容力 が 10Gbps までのとき、光ファイバーとコストの面でほとんど差はあり ません。さらに 100Gbps までのときには、その優位性はあきらかです。 ファイバーに代わって銅を使うことで光・電気両方の接続線を使用 する必要性がなくなり、コストも削減でき複雑さもなくなります。し かしながらファイバーベースのものの設置費用は下がり続け、この現 実がある限り、銅が競争力を保つためにはさらに優れた銅ベースのケ ーブルシステムの開発が必要になるのです。適切なバンド幅を提供す ることに加えて、新しい銅ベースのケーブルは、電力消費量を下げる ものになるべきであり、また設置や接続が既存のものより簡単にでき るようなものであるようにしなければなりません。 銅の主要な特徴のひとつは、電力とデータを同時に運ぶことができるということで、この性質により安定した電 力を供給しながら、IP 電話、ワイヤレスポート、ネットワークプラグを接続し、電気アダプターやコード、電気コ ンセントをそれぞれに用意する必要もなくなります。 傾向、問題、影響を 与える要因 z z z z z パフォーマンスの要求がどんどん高くなる。 素材間の競争は、特にコスト面で引き続き激しくなる。 信頼性の改善。 電気効率の向上、すなわち電力消費量の削減。 コードなどの接続線の単純化要求。 見込みのありそうな分野、推奨されるもの 高速通信の銅の インターフェイス z z z 遠隔地にあるネットワーク 機器に電力を送る 電力消費量を下げる z z z 100 メートルを超えたものでの信号劣化を解決する方法を、できれば低価格の端 末の形で開発する。 銅のインターフェイスにプラスに働く工業規格の開発を促進する。 高い電力(たとえば 300W)をデータ送信と共に通信ケーブル上で供給できるもの を開発する。 より高い電力供給を行なえるように、工業規格の開発を促進する。 データケーブル上に電力があることが有利に働くような製品ラインナップを増 やす。 低電力の信号送信技術を開発し、データセンターやネットワークの電力消費量を 削減できるようにする。 9 『銅の利用テクノロジーロードマップ』 第 1 号-2 版 2‐4 既存/改良型の利用法:自動車配線 自動車に使われる電子機器は、パフォーマンスや快適性、安全性、さらには AV などの娯楽機器のために、非常に多くなってきています。動力や導電性のための配 線は、今後も自動車産業における銅の使用量を大きく左右するものになり、ワイヤ ハーネスやその周辺コネクタでの利用が、銅消費量に大きく関わってくるはずです。 さらに自動車にはコンピュータやマイクロプロセッサがますます多く使われる ようになり、 信頼性がありコスト効率の良いセンサーボックスの需要が伸びてきま す。これはブラスやその他の銅合金にとっても、非常に有望で興味のある市場と言 えます。 スペースに制限があることで、 自動車メーカーはハーネスやコネクタのダウンサ イズを進めています。 こういった極小化傾向はコンダクタやコネクタの材質に対し 高い機械特性を要求することになります。基本的にはコンダクタでの降伏耐力に対 する強度、コネクタに使われる合金には応力緩和性の強さが求められます。現在のところ、自動車のワイヤハーネ スに使われる、もっとも細い銅ケーブルは 0.13mm²(断面)です。新しく開発されたケーブルを自動車ワイヤハーネス は、2 リッタークラスのラグジュアリー・セダン車で部品パネルハーネスやフロア・ハーネスを新しく開発した 0.06mm²ケーブルに取り換えると 3.4kg あるいは 12%軽くなります。 大きな資本投下が必要となる自動車産業は、恒常的にオーバーキャパシティであることが多く、メーカーは絶え ずコスト削減のプレッシャーと直面します。乗る人の安全を確かにするためには、信頼性というものも常に必要と されます。ボンネット内の温度は-40°C から 200°C まで変化し、設計上では 220°C 前後まで上がることを想定しま す。 銅はもともと腐食に強く、成形しやすく、温度は安定し、リサイクルが可能で、既存の生産プロセスにうまく合 致できるため、自動車配線分野での銅市場は今後も成長が期待でき、重要なものであり続けるはずです。 傾向、問題、影響を 与える要因 z z z z z z 小型化 多くの電気・電子機能が増えている。 品質、コスト、供給安定性への要求が厳しくなっている。 ボンネット内の温度上昇。 ブロードバンドでの通信装置。 環境への懸念の増加(電気・電子機器の廃棄物、特定有害物質、たとえば鉛、水銀、 カドミウムなどの使用の制限) 見込みのありそうな分野、推奨されるもの ワイヤハーネス内部接続 高温での特性を改良した コネクタ用合金 内部端末及び、ブスバー 接合方法 z z z z z z z z z z コンパクトな銅製のデータ通信ケーブルを既存製品より低価格で開発する。 柔軟性があり降伏耐力強度が高く、低動力または低いレンジのデータ送受信用に 使える極細ワイヤを開発する。 銅ベースの熱放散テクノロジーをワイヤハーネスと共に開発する。 高温にさらされたときの強度を改良する。 応力緩和性を向上させる。 抗酸化性能を高める。 強度、耐熱性、応力緩和性を上げた、小さな端末製品を開発する。 導電性を高めたリレーやブスバーを開発する。 極小端末の曲げやすさを改良する。 異種素材と銅の接合技術を改良開発する。 10 『銅の利用テクノロジーロードマップ』 第 1 号-2 版 2‐5 既存/改良型の利用法:モータ駆動システム モータ駆動システムには個人用の数ワットのものから、大規模な製造機械を動か す 1000kW を超えるものまであります。このシステムが、全世界の電力量の約 40% を消費し、つまりモータの効率を上げることがいかに重要かわかります。EU‐27 基準が、現在手に入れられる最高水準のモータ駆動装置に適用されれば、電力消費 量は 7%も削減できるのです。米国エネルギー省は工業モータが全電力量の 23%を 消費し、もし工業施設が現在可能な範囲で効率アップを行なえば、電力消費量は 11~18%(年間 620~1,040 億 kW)削減できると試算しています。 モータシステムの駆動部は厳しい規制があり、エネルギーコストの上昇もあり、 製品寿命全体でのコストの検証が広く受け入れられる環境があります。ダイキャス ト製の銅を導体棒やインダクションモータのコンダクタバーやエンドリングに使 用することで、モータのエネルギー効率を改善し、コストを削減できます。銅ロー タのモータで可変速駆動を使用すると、部分負荷時での効率を確実に上げられるのです。 ダイキャスト型の銅モータ・ローター(CMR)はすでに市場にある製品ですが、生産コストの低減でさらに広く使 われることになるはずです。重量レシオに対して高いトルクを要求される場合や、永久磁石モータ、水冷及び高周 波インダクションモータに銅製ロータを取り付けることが多くなってきています。設計者はまた、ステータの巻上 げ密度を上げることを考えます。交流インダクションモータでは電気ロスの 60%がここで起こるからです。可変速 モータ駆動テクノロジーはシステム部品としても、パワーのある電子機器の温度管理用にも、銅なしでは語れない のです。 傾向、問題、影響を 与える要因 モータ効率 パフォーマンス z z z z z z z z z z z z 可変速駆動や モータでの温度管理 z z z z z 生産効率 z エネルギー効率の法規制や規格が他のものより厳しい。 エネルギーコストの上昇。 製品寿命を通じてのオペレーションコストの意識は高くなり、購入決定時の最初 の判断基準となりつつある。 モータ駆動システムの効率を上げるため、可変速駆動の使用が増えている。 CMR の生産コストが下がってきている 軍用および航海用の市場でモータは重量が減り、小さなサイズになっている。 見込みのありそうな分野、推奨されるもの 経済的なシングルフェイズの CMR モータを設計し生産プロセスを作る。 スーパー・プレミアム効率モータ用に規格とテスト法を開発する。 モータおよびコンダクタバーの形状を銅用に特別の設計をし、最大効率を目指す。 スリップをコントロールする。銅ロータのトルク閾値(起動、ブレークダウン、ロ ックドローター)における効果を数値化する。 エネルギー効率を改良したモータ駆動システムを開発し、エアコン装置の部品と して開発する。 可変速駆動に使われるパワーの大きいセミコンダクタで、銅ベースの素材の温度 管理に関して最新技術の粋を集める。 空冷大型可変速駆動用にコンパクトな冷却装置を開発する。 小型機用には超コンパクト型冷却装置と温度管理を最適のものにする技術を開 発する。 インローターの冷却技術の可能性を探る。 ダイキャスト型 CMR の生産コストを下げる。 CMR 用ダイスの耐久性を増す。たとえば、ダイ・インサートをコスト効率の高いも のにしたり、交換可能なものにしたり、高温をさえぎるコーティングを施したり、 温度によるひずみを最小限にするような温度に左右されない特性を持つ材質を 使った高温耐性のあるダイキャスティング用金型を作る。 ステータの巻きの密度を低コストで 80%以上に高める方法を開発する。 11 『銅の利用テクノロジーロードマップ』 第 1 号-2 版 2‐6 既存/改良型の利用法:電子機器の接続 リードフレーム、プラグ、端末ブロック、振り分けコネクタ、その他電子機器の 接続にはさまざまの形態があります。こういった機器の市場は、電子製品の生産量 が世界的に増大していることもあり、年間成長率が 15~20%にもなります。 静的電子機器に一般的に使用されるリードフレームは、IC チップと外部回路間 の電子信号でつなぎ電気を運び、チップの熱をヒートシンクに移動させ、さらに内 部で守られた形になっているチップをサポートします。接続は、IC チップにある ワイヤ接続タブとリードフレームをつなぐことで行なわれます。 現在銅合金市場の 60%は市販される半導体市場のリードフレームによるもので、 リードフレーム業界は、そのパフォーマンスを向上させようと常に努力を続けてい ます。メモリ市場用の高周波入出力、パフォーマンスの高いコンピュータ市場向け に高入出力製品、携帯用・自動車用に重量が軽くてもすばやく反応する製品が必要だからです。 小型化により、機械的な強度を増しよりパフォーマンスを向上させるために、異種素材間で密着した接合ができ るよう求められます。コネクタ業界およびリードフレーム業界は革新的な技術がなければ生き残れず、共同開発プ ログラムでふさわしい相手が必要なのです。 傾向、問題、影響を 与える要因 z z z z z 小型化 z z z z 温度環境、熱処理 接合 z z z z z z リサイクル z さらなる小型化。 加工コストの削減。 素材同士の競争の激化。 特定の物質、たとえば鉛などを合金材料に使うことの法的規制の強化。 見込みのありそうな分野、推奨されるもの 低二酸化炭素排出タイプでクロストークの少ない小型の 10Gbps 以上の広域帯用 コネクタを開発する。 ミクロ及びナノレベルの放熱回路をリードフレームの中に入れ込むよう改良する。 ウルトラ・コンパクトな冷却装置と温度管理技術を開発する。 銅とその周囲の表面、表面域に近い部分の電気の働きを調べる。 金型コンパウンドの接着性と熱伝導性を改良し、温度の高い場合のパフォーマン スと信頼性を最高の状態にする。 銅ベースのヒートスプレッダや熱トランスミッションを生産する技術を開発する。 熱優先凝固プロセスを開発する(たとえばマテリアル・ドーピング、シード導入、 クーリング補助による指向成長ゾーン)。 粒子ロウ付け及び融合技術の評価と開発(キュプロブレイズなど)。 小さなシステム用に銅・銅合金の量を減らしたときの機械特性幅を大きくする。 銅対異種素材のインターフェイスでの組成構造の耐性を研究する。 製品寿命が終わった製品の、部品や基板にある貴重な素材を回収する方法を改良 する。 銅を含む素材を回収する際、汚染問題があるかもしれないという認識を向上させる。 12 『銅の利用テクノロジーロードマップ』 第 1 号-2 版 2‐7 既存/改良型の利用法:電子熱の処理 熱の扱いが問題となるのは、放熱がそのままにされマイクロエレクトロニク スや光学機器のパッケージで熱によるストレスが起こってくるからです。熱の 扱いをどうするかは、パフォーマンスを上げる鍵となり、コンパクトな電子シ ステム、可変速ドライブの容量の大きな半導体、航空宇宙工学機械、高出力レ ーザーシステム、自動車エレクトロニクスでは特に重要です。1000W/cm²また はそれ以上の熱排出のある機器をうまく扱っていく冷却技術が必要となります。 銅のヒートシンクやヒートパイプは電子機器部品から熱を効率よく取り除く ために、広く用いられています。柔軟性のある銅のコンポジットで作られた熱 回路は、高い電導性を維持しながらも、優れた放熱管理をすることができ、回 路のインターフェイス、ケーブルのハーネスに適しています。 銅はあらゆるレベルで電子システムの温度管理を改善することができます。 チップ(ショート、ホットキャリア・エイジング、エレクトロマイグレーション)、パッケージ(ダイスの亀裂、ポップ コーン現象)、基板(はんだ付け接合部の疲労、基板のラミネーション剥がれ)なども含まれます。さらに相変化を伴 う銅が含まれる素材で作られたヒートシンクは、サイクルを持って稼動するシステムにおいて、熱源からの熱を吸 収し他の部分にその熱を広げることで、熱管理を助けることができます。銅は空気の強制対流でコンピュータを冷 却するシステムや、液体冷却システムの熱放散材として選ばれることはありますが、銅業界はこの分野での銅の競 争力を高めていかなければなりません。 傾向、問題、影響を 与える要因 z z z パワーや周波数が上がり、放熱量が多くなっている。 光学電子機器の使用が増え、放熱量が増えている。 異種素材の組み合わせが多くなり、熱に対する異なる性質を管理する必要がある。 見込みのありそうな分野、推奨されるもの 容量の大きな可変速ドライブの半導体:航空宇宙産業、高出力レーザーシステム、自 動車 エレクトロニクス 温度管理 z z z z 強くて熱伝導率の高い銅ベースのコンポジットを開発する。 相変化する素材ごとに無抵抗の銅コンポジット温度管理システムを開発する。 銅のコールドプレート用に生産方法を改良する。 銅ベースのヒートスプレッダやヒートトランスミッション製品の生産技術を開 発し、望む方向に放熱を起こさない、あるいは増やす技術や素材を作る。 コンパクトサイズのシステム z z z 銅ボンディング z z z 次世代の熱伝導機器 z z 熱をよりすばやく効果的に、取り除き、拡散させ、別の場所へと移動させる等温 表面を作り上げる。 熱伝導率の高いヒートスプレッダ素材やコンポジットを開発する。 セラミック基板やパッケージ機器への銅のヒートシンクへの高度な熱伝導ボンディ ングを開発する。 破壊を避けるため、発熱する機器を持たないボンディング法を開発する。 液体熱交換システムにおける銅ベースの材質の使用から学んでミクロ・スケール の機械化、成形、組み立てプロセスを開発する。 シングルフェイズの作動液(例:クーラー、ヒーター)または二フェイズの作動液 (エバポレーター、コンデンサ、熱パイプ、サーモサイフォン)を使った、次世代 のミクロ・スケール熱移動機器を設計する。 チップ上の総合冷却テクノロジーを開発する。 モーメント波や温度波技術を研究し、500W/mK²以上でのミクロ・スケールのフィ ン配列を増加させる。 13 『銅の利用テクノロジーロードマップ』 第 1 号-2 版 2‐8 既存/改良型の利用法:電化製品の熱交換器 現在家庭用空調機の熱交換器は、直径 5~16mm の丸型銅管チューブを使っ て作られています。材料価格の高騰、さらなる効率を求めて、メーカーは現 在の丸型銅管から、より径の小さなもの、形状の違うもの、さらには材質の 違うものへと取り替えつつあります。こういった傾向は、技術的にも市場環 境からも冷蔵庫、自動販売機、商業施設での陳列棚などの販売システムにも 見られます。 径の小さな(5mm 以下のもの)銅管や平型チューブの技術が、サイズを縮小 したり、冷媒のチャージを減らしたり、コスト削減など、多くの利点をもた らしました。技術的に困難な面は、平たく作ること、マルチポートの黄銅・ 銅管に 38.6 バール(560psi)の実質的圧力、さらに実質圧力の三倍の爆発圧力を 支えさせることです。コスト効率の良い解決策を見つけるには、材質接合、 金属加工、プロセスデザイン、熱伝導をどう解決するか、最適な合金を開発 するといった研究が必要になります。 R410A やその他のハイドロフルオロカーボンが、現在家電製品の熱交換器に使用されますが、R410A を冷媒とし て使うシステムは、R22 を使う同様のシステムより約 60%多く圧力をかけなければなりません。その結果設計上、 銅にとって考慮しなければならない点ができると同時にチャンスも生まれることになります。長期的には、二酸化 炭素がより好まれることになるでしょうが、世界的にはブタン、プロパンなどの炭化水素への関心が高く、すなわ ち銅はこれからも環境にやさしい冷媒というものがどのように進化し使用されていくかに注意を払わねばならない のです。また磁気熱冷却などのそれ以外の技術にも関心が集まり、そういったシステムは銅がたくさん利用されて いる現状に今後影響を与える可能性もあります。 傾向、問題、影響を 与える要因 環境にやさしい 次世代の作動液 z z z z さらなる効率化、コンパクト化がエアコン装置に要求されている。 内部部品での素材間競争の激化。 製造コストの削減。 オゾンホールを減らすための冷媒の変更。 z 見込みのありそうな分野、推奨されるもの 銅を使った熱交換器を次世代モデル、環境にやさしい冷媒、おそらくはナノ粒子 を含んだ未来の冷媒を使った機器に対応できるような設計を進める。 z z 今より小型でさらに 効率のいい熱交換器 z z z z z エネルギー効率 z z 家庭用のヒーター、空調、エアコン、その他冷却機器用に、極薄のエバポレータ ーを開発し、パッケージのスペースを小さくしてファンのパラスティック・ロス を低くする。 エアコン用熱交換器に丸型径 5mm 以内の銅管を使うような設計ツールや生産技 術を開発する。 平型及び丸型マルチ・チャネルのチューブを開発、熱交換器(エバポレーター・コ ンデンサー)に役立てる。 銅だけを使った大容量熱交換器に、ブレーズでの組み立て方法を開発する。 チューブからフィンのインターフェイスで 5mm 以下の銅管をアルミのフィンに 広げて接合する場合の、熱伝導性を改良する。 冷媒に銅のナノ粒子を使った場合、熱伝達に役立つのかを研究する。 冷媒を丸型およびマルチポートの銅管に入れたときの、圧縮または蒸発度合いを 向上させる。 薄い材質ゲージで高パフォーマンスの銅製熱伝導フィンを開発する。 熱を持ったあるいは冷却された流動体を、エネルギーを加えることなく攪拌でき るシステムを開発する。 14 『銅の利用テクノロジーロードマップ』 第 1 号-2 版 2‐9 新たな利用法:電気推進エネルギー 電気推進エネルギーの技術を利用する市場として大きなものは、 鉄道、船舶、建設、自動車といった産業で、この分野で銅というの は欠くことのできない存在です。自動車の電気推進エネルギーシス テムは、近年めざましい発展を遂げ、当初の単純な電気モータを搭 載しただけのシステムから、複雑な技術プロセスを要求し、コンパ クトで効率の良いアプローチへと進化しています。加えるに、出力 の大きい電子機器分野で高い電力許容量と温度管理が必要となる ことや、電気車両の充電ネットワークをサポートするインフラ整備 なども大きなチャンスです。超伝導推進システムで進められている 開発には、大量に集中して銅を使用する海洋専門電気推進モータも 含まれていることもあり、非常に将来が楽しみです。 車両設計は他の分野と似たような経過をたどります。より小さく て、コストがかからず、さらに効率の高いモータということです。 電気で動く機械のステータでの標準的な銅の巻き充填率はおよそ 50~60%程度です。自動車のパワートランスミッションは、充填率 80%を超えるような銅をたくさん使う新しいものへと変化してき ていますが、これにより部品サイズを小さくし、重量も抑えること ができます。 35kWh のバッテリーを十分間で充電するのには、250kW 必要です。4 台の車を充電するには 1MW なければなら ないのです。すばやく充電できれば、エネルギー貯蔵に大規模な施設も必要なくなり、できれば自宅であるいは駐 車場で充電を希望するはずの消費者にとって魅力的です。銅の優れた熱伝導性があれば、急速充電のできるスタン ドなどでの冷却能力を改善する答を提供できる可能性が開けます。 燃料電池で動く車両はこれまでの化石燃料車両と比較すると、はるかに大きな熱伝導スペースを必要とします。 たとえば今までの車両が熱交換器をひとつしか必要としなかったのに比べて、プロトタイプ型燃料電池車両は、三 個必要になるのです。スペースの制限があることを考慮すれば、熱伝導装置はできるだけ小型、ウルトラ・コンパ クトサイズであるほうがいいわけです。 米国のメーカーから、最近 AC インダクションの銅製モータ・ローター(CMR)を使ったトラクションモータを搭載 した軍用及び商業用トラックが発売されました。乗用車にも AC インダクション駆動のモータをすすんで使いたい とする自動車メーカーがあることも報じられており、その際には、CMR テクノロジーの導入は銅使用量を増やす上 で大きな役割を果たすことになるでしょう。 z 傾向、問題、影響を 与える要因 z z 消費者が電気車両を広く受け入れられるようになってきた。コンセントで充電で きる車両への期待が高まりつつある。 大規模な超伝導推進モータの期待が船舶分野で高まっている。 バッテリーに関するテクノロジーが着実に進化してきている。 見込みのありそうな分野、推奨されるもの z z z z z z z z 高いパワーデンシティのある新しいモータを開発する。 ギアボックスが不要な電磁トランスミッションで大量生産に適したものを開発する。 小型の高電圧・高速インダクションモータ技術を開発する。 進化したバッテリー概念の中での銅の役割を模索する。 モータのステータ・ラミネーションスロットの充填率を 80%以上に上げる。 充電施設のインフラに必要な銅部品を研究する。 自転車やその他の個人用移動手段で、電気推進エネルギーを使用する可能性を研究する。 航空機用の電気推進エネルギーを開発する。 15 『銅の利用テクノロジーロードマップ』 第 1 号-2 版 2‐10 新たな利用法:再生可能エネルギー クリーン・エネルギーのシステムで銅は、発電、パワーエレクトロニクス、 ケーブル、コントロールや保護用の装置で重要な役割を果たし、風力、潮力、 バイオ燃料、波力、地熱、太陽熱では特に大切な素材です。現在の太陽光発電 システムは、電力移送、アース、その他さまざまな部品といった形で、銅を必 要とします。海洋ベースのシステムは銅合金を使うことが多いのですが、これ は微生物付着を起こさず、腐食に強いといった特性をうまく利用できるからで す。今後新しいシステムが生まれても、効率よく環境への影響が少ないことか ら、銅はさらに必要とされるでしょう。 この分野での銅利用を進めるには、銅業界と再生可能エネルギーシステムの 技術者が緊密な連携を取ることが求められます。それぞれのシステムで、どの ような種類の銅をどういう形で利用し、どういった加工技術を用いればもっと もふさわしいのかを確認し合わねばなりません。 銅は際立った熱伝導性と電気的特性を持つ「エネルギー金属」であり、再生可能エネルギーのシステムにはなく てはならないものなのです。 傾向、問題、影響を 与える要因 z z z z z エネルギー確保、安定供給への信頼性が国を挙げて興味の対象になる。 化石燃料に関する市場の値動きの激しさや供給確保の問題点などを避けようと する気運。 見込みのありそうな分野、推奨されるもの 大規模化や供給システムの整備。 z 太陽熱電力 z 風力発電 z 海洋の波力・潮力電力 z 太陽光電力 銅をうまく利用したコンパクトな相変化熱エネルギー貯蔵装置を開発する。 低い運用回転速度でも高い電力密度を生み出す効率の良い、新しい発電ネットワーク構成を開発する。 16 『銅の利用テクノロジーロードマップ』 第 1 号-2 版 2‐11 新たな利用法:養殖 水産物養殖は世界経済の観点からは数十億ドル規模のビジネスで す。網に海洋微生物が付着したり、感染性の病気が広がったり、捕 食魚類に襲われたり、河川の汚染にさらされたりといった問題の他 に、養殖魚に与えられる殺菌剤が人間の健康を脅かす心配もありま す。銅合金は微生物の付着を防ぎ、殺菌という特性と物理的な強度 があるため、こういった問題すべてに対応できます。銅ベースの金 属の微生物付着を防ぐ特性により、きれいな酸素を多く含んだ水が 網目を通して養殖かごなどの中に供給し、ごみを洗い流すこともで き、魚にとって健康的な環境にすることができます。 さらに銅は、病原菌が好んで住み着く微生物が付着した環境(たと えば網目が藻類の膜でふさがる、貝類が付くなど)を防ぐことで病気 の感染を最小限にし、殺菌剤の使用を最小限にすることができます。 銅合金で作った養殖かごは物理的強度と弾力性があるので、捕食魚 類からの攻撃から養殖魚を守りながら、中から魚が逃げるのを防ぎ ます。加えるに、合成素材で作った網とはまったく異なり、銅合金 の構造は使い終わったあと、完全にリサイクルが可能です。 1960 年代から 80 年代にかけて、銅業界はさまざまな銅ベースの養殖かごを開発してきました。このときに作られ たものは、がっちりした構造で大規模な生産用に形を変えることも簡単にできませんでした。しかし、スコットラ ンドや米国の鮭の養殖場で、商業ベースに乗るようなサイズのかごでも使えるというコンセプトの正しさを証明す ることはできました。 最近になって銅合金やかごのデザインの改良の結果、ワイヤを編みこむという形のものができ、製品寿命として 四年間使えるということもわかりました。また、このかごは、一個あたり 50%多く魚を入れられ、10~15%魚の成 育が早いため、養殖業者にとっては利益が上がることになります。 傾向、問題、影響を 与える要因 z z z z 養殖業の世界的拡大。 寄生虫、捕食魚、感染症、世話の仕方で漁獲高が変わる。 近年養殖場が、海岸線に近いところから自然環境に近い場所を求め、岸から離れ た海に移っている。 殺菌剤使用を減らす傾向。 見込みのありそうな分野、推奨されるもの 養殖かごのデザイン 合金の開発 z z z z z ワイヤの径や目の粗さを魚の種類に合わせて最適のものにする。 沿岸用、沖用にそれぞれ、かごと浮きのデザインシステムを作る。 浮き沈みの構造を工夫して、必要に応じて浮いたり沈んだりする方法を考える。 できるだけ製品寿命を長くしながらも、養殖かごの重量を軽くする。 低コストで折り畳みのできる金属かごの可能性を再度検討する。 z z 擦過腐食の少ない合金を開発し、素材の損失を防ぐ。 微生物付着に対するパフォーマンスの必要に応じられるような最適の銅イオン 発生を作り出す合金を開発、または研究する。 17 『銅の利用テクノロジーロードマップ』 第 1 号-2 版 2‐12 新たな利用法:環境表面 多くの研究によれば、病院にある銅ベースではないドアノブ、ドアの押し 板、ベッドの手すりなどは微生物に著しく汚染されており、中には非常に危 険な病原体も含まれています。ICA がサポートした研究では、数千にも及ぶ 実験を厳しく管理した状態で行いました。その結果、銅を 65%以上含む金属 では以下のことが確認されました。 z 表面に付着していたバクテリアは二時間以内に死滅する z 再汚染防止の効果は最低でも 24 時間以上続く z それ以降もバクテリア数の減少は続く このように、病院や公共交通機関、公共施設にある「環境表面」に銅合金 を使えば、疾病の蔓延の可能性を抑えることができ、さらに銅や銅合金にと っても新たな市場となるのです。 医療施設や食品を扱う業界での銅の使用を促進するには、今後製品を使っていただける可能性のある顧客が用途 に合った正しい合金と形状のものを選べるように銅業界が協力関係を築くことが求められるでしょう。 これに関連して、空調システム市場にも可能性があります。銅を多く含んだ金属を空調システムに使うとカビの 発生を抑えられ、その結果空気の質がよくなり、熱交換器や配水チューブの表面を最も効果的な状態にしたまま機 能させることができます。 銅ベースの金属の殺菌された面に関するテストは、もう何年も行なわれてきて、米国政府からも抗菌効果のある 材質として認可されることになっています。国際的な基準では医療器具に同様の規制をクリアし実用に関するテス トに合格することを求めています。変色しにくい組成のものも含めて、銅合金はドイツでのテストに見事に合格し、 銅合金をドアの一部やベッドの手すりに使った実験も計画中です。 z z 傾向、問題、影響を 与える要因 z z z 多剤耐性のあるバクテリアが増えている。 人の移動が多くなり、病気が広がるスピードが速くなり、より広範囲に拡大する ようになっている。 院内感染や狭いコミュニティでの感染が増えている。 高齢化が進み、病気への抵抗力が下がる。 実験室でのデータ結果を臨床試験でも証明する必要がある。 見込みのありそうな分野、推奨されるもの z z z z z z 抗菌性の銅や銅合金を開発し販売を促進する。 銅合金の表面をいちばんきれいにする方法を開発、または確立させる。 変色に対する強さを改良し、殺菌特性を損なうことなく、外観としても美しいものにする。 究極的には永久的に殺菌特性を持つ「ステンレス」銅・銅合金製品を開発する。 銅ベースの抗菌材を作るメーカーに技術移転を申し出る。 ビル、車両、公共交通機関のヒーター・エアコンなどの空調システムに、銅ベースのフィンやドリップパンの 使用を促進する。 18 『銅の利用テクノロジーロードマップ』 第 1 号-2 版 2‐13 新たな利用法:将来可能性のある市場 ここまで述べた、見込みのありそうな分野に加えて、銅業界ではさらなる利用 拡大を模索しており、それらは銅の新しい使用法に具体的な目標をつけたプロジ ェクトになっています。実現にいたる突破口を見つけ、成功に導くための確実な 技術的アプローチを明記しておくのです。 ここまで述べてきたとおり、銅業界はその実行部隊とも言える国際銅協会と、 世界中に存在するその関係団体・銅の普及を促進する各国のネットワークとを通 じて、銅の利用拡大に大きな貢献をすることにつながる学術的研究には、資金を 提供します。学術部門であれ企業であれ、またそれが基礎分野のものでも応用的 なものでも、さらには銅業界が興味を持つ問題への答となるものかもしれません が、そういった研究者は是非 ICA にコンタクトを取っていただきたいと思います。 提案いただいた内容は、特定の製品開発上生まれた問題を解決するものである かもしれませんし、あるいは単純に何かを究明する研究なのかもしれません。業界と他業種をつなぐもの、あるい は複数の他業種を巻き込むような、複数分野を巻き込む共同研究は特に歓迎します。ICA は資金提供を求める提案 を常に好意を持って迎え、その内容を吟味します。 z 傾向、問題、影響を 与える要因 z z z z z アイデアの交換や世界的な共同研究事業が成果として結実する事例が多くなっ ている。 コミュニケーションのデジタル化、コンピュータの普及。 冶金的現象のシミュレーション、モデル化。 生態系へのより深い科学的洞察。 将来環境がどうなるのかという懸念の増大。 世界的にベンチャー企業の投資モデルが確立されつつある。 見込みのありそうな分野、推奨されるもの z z 既存の利用法研究の例 z 結晶サイズや結晶粒界を制御して銅及び銅合金の兼ね備えている高耐力と高延 性を同時に発展させる技術を開発する。 銅ベースのゼオライトは、輸送燃料を脱硫する安価な解決法である可能性があ る。既存の脱硫技術では、輸送燃料にわずかに残った硫黄を取り除くことが極め て高価で、行なわれていないのも同然の状態である。塩化銅のような銅塩が、(吸 収することによって)硫黄含有物を取り除く強い親和力があることは広く知られ ている。 相変化する物質と組み合わされた発泡銅は、ビルのエネルギー効率を著しく改善 する可能性を持っている。温熱エネルギーを蓄えたり放出したりする建設用品は エネルギーインプットを抑えながらも、室内温度を均一にできる。 19 『銅の利用テクノロジーロードマップ』 第 1 号-2 版 3.実施にあたって この『銅の利用テクノロジーロードマップ』は、社会情勢、競合材料からのプレッシャー、関連する技術開発、 さらには予期せぬ新たなチャンスが生まれるにつれ、今後も進化を続けるものです。ここですべての将来的な技術 開発の道筋をカバーしきれたわけではありませんが、このロードマップの作成に協力してくれた人たちが銅業界と 銅を使う人たちにとって、もっとも優先度の高いと考える必要性に焦点をあてました。そうすることによって、共 同研究開発プログラムの計画や実施に際して、銅生産者や加工者、銅を使用する産業界、大学、政府系研究機関、 起業家、フリーの技術者たちの道しるべとなるようにと意図したのです。 このロードマップの制作に関わった多くの団体は、革新的な製品や新しい銅合金の開発、またプロセステクノロ ジーを進歩させることに、多くの投資を行なっています。そういったテクノロジーに対する投資は、今までも、そ してこれからも市場の未来へ繁栄の源となり続けます。このロードマップを共同制作することにより、銅業界はビ ジネスにおける技術移転に最初の一歩を踏み出したのです。しかしながら変化の実行は、望む結果を生み出すとこ ろがもっとも困難で複雑な部分です。どう実施していいかが曖昧なままでは、ロードマップは本棚にまた報告書が 増えるだけのことになります。 ICA は銅の利用についてのテクノロジーロードマップの実施にあたり、以下の三つの役割を果たします。 z 外部に働きかけ、開発のパートナーシップを組み、その分野に関係する個人ならびに関係団体に対し、銅を利 用する新しいチャンスがないか、それに必要な研究開発事項がないかフレッシュなアイデアを求めます。 z ロードマップ実施フォーラムを設け、特にチャンスの大きな領域についてのブレーンストーミングを行なう場 所を提供します。そこでネットワークを作り上げその横のつながりから生まれた発見を広げていきます。 z プロジェクトの監督とコーディネーションには、ロードマップに参加する幅広い団体間の調整も含まれていま す。ICA は昔から主だった銅の利用法に関する研究開発の推進の調整役を果たしてきており、今後もその役割は 続けていくつもりです。ICA はまた、政府機関、NGO、関係業界などから費用を調達することも率先して行ない ます。 (図 3‐1)は実施にあたっての大まかなステップを示しています。こういう手順は銅が話題にのぼるきっかけを作る もので、そこから銅利用プロジェクトの実施へとつながるのです。重要なチャンスが水泡に帰すことのないよう、 強力なリーダーシップと、忍耐強くやりぬく意志が必要です。さらに、ロードマップやテクノロジーの共同研究モ デルという考えを各企業に賛同していただくことによって、生み出されてくる機運のような盛り上がりを消してし まわないためには、初期段階での一定の成功を収めることが大切です。 図 3‐1:銅に関する話題を引き出す。重要領域で個人とネットワークをつなぎ合わせ、技術分野での銅の存在を思い出してもらう。 20 『銅の利用テクノロジーロードマップ』 第 1 号-2 版 外部に働きかけ、開発パートナーシップを組む 共同開発パートナーを得ることによって、銅の準加工企業、部品メーカー、システム生産者、最終製品として自 社開発商品を販売するメーカー(OEM)、公的研究機関、大学、その他のメーカーや関係者のあいだで、さまざまな 知識や人的資源を上手に利用しあえることになります。銅が関係する市場についての専門知識やあらゆる方向から の考え方を結集すれば、それぞれの要求や期待を異なる側面から合致させることができます。さらに情報の共有や 費用の分担でテクノロジー開発にかかる労力の重複を最小限にしながらも、効果的な解決策という点では最大限の ものが期待できるのです。 このロードマップを実施するにあたって、特定の企業や団体にきちんとした役割を決めているわけではありませ んが、ロードマップが関係諸団体に浸透し、内容をきちんと評価してもらえるようになるにつれ、誰がどういう役 割を担うのかがはっきり形となってくるはずです。 外部に働きかける活動も同様に大切です。こういった活動で、世界中に散らばる業界グループに対し、銅を利用 する製品が本来持つ優位性とその価値を高めるための効果的な戦略や技術に関する最新情報を伝えられるからです。 インターネットを使ったウェブ・フォーラムや新聞雑誌記事、発表された報告書、会議の内容、情報を常に新し くしておくことで銅に関する革新的な出来事の最新情報を世界中に伝えることができるのです。 ロードマップ実施フォーラムを設ける ロードマップ実施フォーラムは新しいアイデアを生み出すためのものです。緊急性のあるプロジェクトの進行を 早めたいときに行ないます。ロードマップで述べた特定のチャンスが、通常の努力ではフォローしきれないような 場合は、ICA を含む業界のトップがサポートに乗り出す必要があります。知恵を絞って考え方を広げ、新しいアイ デアで反応の見込めそうな方法を取ることになります。 こういった形の投資は直接的に研究に向けられることもあれば、技術の商品化、製品統合、市場テスト、研修や パブリシティあるいは、それ以外にもそのチャンスを追求するための方法・手段であるかもしれません。 新規プロジェクトをスタートさせる前に、銅業界が明確に求めることがあります。望むべき成果、人的資源や能 力がどれぐらい必要なのか、達成したときには一定の成果が見込めるのかということです。こういった面のそれぞ れは、大学、一般企業、政府系研究所、研究者、技術者からの革新的なソリューションやプロジェクトへの提案の 中で要求事項として盛り込まれることになります。 このロードマップは、団体または個人が持つ技術、能力、人や知識を最大限に活かす形で参加してくださること を奨励しています。その方々が持てる力を使って、以下に述べるチャンスを開発してくれることを期待するのです。 こうすることで企業や団体には、自身が興味を持つ固有のプロジェクトを追求する柔軟性が与えられます。とは 言え、ばらばらの組織のままでは、雑多な活動をまとめることや、それらをそれぞれの団体にプラスになるような 形にすることも、最適な組織を作ることも、資金をどう分配するかも、決定するのが難しくなります。 そこで ICA はそのミッションに従って、まとめ役を引き受けるのです。必要とされる監督や協力関係を築き上げ、 プロジェクトやその活動を率先し人的サポートを行います。 21 『銅の利用テクノロジーロードマップ』 第 1 号-2 版 結論 このロードマップで、銅業界は銅の新たな利用法を開発する努力に対しての基本線を定めました。それぞれの市 場での成功へのさらなる方向性や効果的なやり方については、その後の努力にかかっています。物質化学、金属学、 材質加工の研究者、使用法を考えるプロセス技術者、メーカー、政府系機関、そういった人たちの中で共同研究の パートナーシップが構築できれば、銅およびその業界がロードマップで掲げる道筋を突き進んでいける強力な推進 力を生み出すことができるでしょう。 銅業界が将来を見据えるとき、このロードマップの成否は、これによって触発され共同研究開発プロジェクトが どれだけの数と幅を持ち、財産となっていったかという物差しで測られるはずです。銅から得られるプラス面は互 いに補い合うものでありながら、同じような重要さをもっています。 銅とは命をつなぐ材質であり、環境にやさしく、先進技術にも使えるものです。そういったことをじゅうぶんに 理解されたいし、されるべきものだと考えます。 ICAのミッション 現在の市場用途としても新技術の応用にも素材の選択肢として銅がある。技術的なパフォーマンス、外観の美し さ、天然素材であること、人間が生きるために必須であるという様々な長所が、人々の暮らしの質を上げることに 貢献する。 22 『銅の利用テクノロジーロードマップ』 第 1 号-2 版 付記A 銅業界における革新 銅を使ったモータ用ロータの事例 1990 年代半ば頃から、産業界、政府関係で AC インダクションモ ータの効率を高め、さらなる軽量化・小型化を求める声が高まりま した。1992 年には米国議会で『エネルギー政策法案』が通過、ヨー ロッパにおいても似たような法制が相次ぎましたが、これは省エネ ルギーを大局的に行なう意味合いからモータ効率の重要性が見直さ れてきたからです。銅業界はこの動きに対応し、ステータの巻きに 使う銅の量を多くすることでモータの効率を上げました。こうする ことで抵抗 IR2、つまりロスを減らしたわけです。 図 A‐1 通常のロータ(左)、銅ロータを使ったもの(右) モータの効率を上げる努力はこの数十年間繰り返し行なわれてき ていますが、コストを考えると、それに見合うような高効率が得ら れるような、めざましい技術的進展にはまだほとんど至っていない のが現状です。ダイキャストの銅ロータは今のところ最善のアプロ ーチではないかと思われます。今までのモータと比較すると全体で 10~20%ロスを少なくできる見込みがあるからです。銅ロータは金 属量が少なくて済むため、重量が軽く、低温での効率が高く、モー タの製品寿命を伸ばします。 こういったプラス面にもかかわらず、それまでの銅ダイキャスト 法は、大量生産するには経済的ではありませんでした。モータメー カーから、経済的に見合うような銅ロータを生産できるようなダイ キャスト設備を求めるにプレッシャーは強くなっていきました。 チャンスを求めて 銅ロータはモータの効率をさらに向上させるために不可欠であり、これを使えばモータ分野で省エネルギーとコ スト削減が図れることを認識した国際銅協会(ICA)は研究開発プロジェクトに資金を提供することを自ら決定しま した。このプロジェクトは大量生産にふさわしい実用性のあるモータ用の銅ロータを作りあげることを目指し、銅 開発協会(CDA)、自動車メーカー、ダイキャスト企業、政府の代表委員から成るコンソーシアムを立ち上げて、ダイ キャスト・銅モータ・プログラムがスタートしたのです。このコンソーシアムには政府からの資金面のバックアッ プも得られました。 困難だった点 研究者を悩ませたのは、プロセスコストを削減しながら、必要な銅ロータのパフォーマンスを確実に得るように するということでした。ダイキャストのプロセスのあいだに、通常のダイス銅は、数百度から銅の融点(約 1,100℃) の範囲まで温度の上昇・下降というサイクルに曝されるため、ヒートチェックと呼ばれるクラックが入りやすくな ります。従来のダイキャスト金属はもっと低い融点を持つため、ダイスにかかる温度ストレスやひずみは銅を使う ときと比べてはるかに低く、その結果銅を使うとダイスの寿命はいっきに短くなってしまうのです。 図 A‐2 数多い将来性のあるロータバー拡大図、新デザインのもの。 解決策 CDA がリーダーとなったチームは、クラックを減らしダイ スの寿命を延ばす方法は二つあると結論づけました。ひとつ はダイス金属の重要な部分を耐熱性のあるニッケルベース の超合金に変えること、もうひとつはダイスをあらかじめ 600℃程度まで予熱しておくことです。この二つのアクショ ンで銅のダイキャスト加工は、経済的にも見合うようになり ます。 ロータバー、あるいはロータのスロットはさらに修正され、 モータの運転特性を改善することになりました。銅は高い伝 導性があるため、ロータ設計に「表皮効果」を利用すること ができます。これは外部コンダクタ表面に集まってくる交流 電流の傾向のことで、これを利用することで開始時のトルク 23 『銅の利用テクノロジーロードマップ』 第 1 号-2 版 を向上させ、ロータの稼動時のパフォーマンスを改善できます。ロータバーへのさらなる改良は続きますが、でき るだけ早い実用化と個々の企業での今後の開発に任せることにし、チームは当初の研究成果をモータ業界の方々に 技術移転しました。 成果 2006 年春までに、モータ製造の国際的な大企業がこの新しいダイキャスト型銅ロータ技術の恩恵を受け、超高効 率モータの新製品ラインナップを市場に導入しました。それから一年の内に、このモータは米国で商業的な成功を 収め広く使われるようになっていきました。現在このモータは NEMA プレミアム規格に合ったモータと比べても 2%ポイント効率が良く、製品寿命全体でみるときわめて大きなコストダウンになります。それ以外の部分でも、ロ ータスロットの設計を最適化する研究が継続中で、これによりモータ用銅ロータの特性を最大限活かせるものにし ていく予定です。またダイキャストのプロセス自体への追加研究がインドのハイデラバッドにある非鉄テクノロジ ー開発センターで進められています。この研究は ICA とともに、国連の汎用製品共通基金(CFC)が資金提供をしてい るものです。技術移転は各地の銅センターおよび米国政府支援の銅ベース・テクノロジー・プログラムのもとで行 なわれています。 結論 ダイキャスト型 CMR のプログラムは、 『銅の利用テクノロジーロードマップ』の基本理念と目的を具現化したも のです。技術的必要性が明確に示されたプロジェクトであれば、銅業界は共同コンソーシアムを立ち上げ、資金提 供を行ない、実施をサポートします。ひいてはそれが社会全体のためになる革新的なソルーションを生み出すもの になるのですから。 24 『銅の利用テクノロジーロードマップ』 第 1 号-2 版 付記B 銅の基本特性 文字通り数百種類もある銅合金は、それぞれが特別の要求に応えるために異なる組成を持って作られていますが、 そういった合金や純銅も含め、銅ベースの金属は無数の製品にもっともふさわしい特性を持たせることができます。 z 電導性の高さ 銅はきわめて高い電気伝導能力を持ち、超電導コンダクタ以外では銀を除いて銅以上に電導率の高いものは ありません。建築に使われる銅ケーブルには、国際焼鈍銅基準(IACS)と言われる一世紀も前に作られた電気伝 導度(抵抗)の国際基準があるのですが、現在使われているものは、すべてこの基準の 100%を超える電気伝導率 を持っています。銅の優れた電導性により、新しい銅ロータを使ったモータは、今までのものより小型で、温 度を上げずに運転させることができます。 z 熱伝導性 銅は工学機械に使われる他の金属の 8 倍以上の熱伝導性を持っています。さらにもともと腐食に強く、成形 しやすいこともあり、銅は太陽熱温水器を含めた、あらゆる種類の熱交換器にとって理想の金属と言えます。 ガスにせよ電気にせよ、給湯システムというのは、ビルでも家庭でも、もっとも多くエネルギーを多く消費す る器具です。銅はエネルギーコストを直接的にまた大きく削減してくれます。 z 成形性 銅は形成しやすいため、配管に必要な時間を短縮し人件費を削減します。給排水管などの配管工事ははんだ・ ろう付けで容易に接続部をつなげられ、さらに圧接などで設置時間を短縮できます。銅や銅合金はスイッチや 電流スプリング、コネクタやリードフレームなど、電気・電子部品にはいたるところで使われています。熱間 あるいは冷間鍛造された銅製品は信頼性と優れた機械性が要求される場所で需要があります。鋳物の銅合金は バラエティに富み、腐食耐性と同時に熱または電気伝導性が要求される場合に必要とされます。 z 耐食性 銅をベースにした金属はさまざまな形で腐食の起きやすい場所でも耐性を持ちます。そのため、沖合にある 発電所、海底油田やガス田、淡水化事業などには最適です。湿度があり、自然あるいは人間が作ったさまざま な環境要素があると、銅はやがて表面を美しい緑青に覆われていき、その被膜が何世紀も銅を守っていきます。 z 殺菌効果 現在院内感染症への懸念が、食品加工産業を始めとして広がりを見せていますが、銅にはバクテリア、カビ 菌、さらにはウィルスまで殺菌する特性があります。銅や銅を含む合金のこういった特性は、大昔から知られ ていました。医療機関や空調システムに存在するカビやバクテリアによる病気蔓延のリスクを、銅または銅合 金で抑えることができることが、実験で証明されています。 z 色・外観的美しさ 見た目の美しさから銅が使われることが近年多くなりましたが、そのテイストもさまざまな合金により豊富 な種類の中から選べます。銅は環境表面という公衆衛生の意味合いも新たに生まれたところから、 「見た目」の 美しさに、「健康」な金属というアピール点も出てきました。 z 合金のしやすさ 銅の工業的重要性は他の金属との合金のしやすさで増してきたといえます。銅合金と呼ばれるものは、現在 400 種以上もあるのは、そのせいです。無理に他の金属と合わせる苦労はほとんどないのです。 25 『銅の利用テクノロジーロードマップ』 第 1 号-2 版 付記C 銅を取り巻く社会 銅は生物にとって必要不可欠なものであり、また現代テクノロジーにおいてもなくてはならない存在です。古代 エジプト王の傷口の洗浄に使われた時代から、携帯電話のような革命的な発明まで、銅は常に社会の発展に貢献し てきました。 電気や通信にとっては、まさに独壇場とも言える使われ方をしている銅は、テレコミュニケーション時代を先導 してきました。現代の技術がどれほど速く進化しているかを考えても、おそらく人間の歴史の中で、電話技術の商 品化スピードほど劇的なものはなかったでしょう。1930 年代に電話線は、それまで弱く高周波の信号を送るだけ、 しかも 50 マイル以上離れた場所では信号を失いがちな鉄線に代わって、銅のものが導入されました。力強く均質で 伝導性の高い銅の電話線は、テレコミュニケーション利用として、最初かつ最大限に銅の性質を活かした使用例で した。 その強さと耐食性の高さ、耐久性や自然のままの美しさから、銅は数多くの建築家や設計者の創作意欲を刺激し、 何千年ものあいだ建物の外壁にも内側にも使われてきました。銅は古代の貴重な建造物のいくつかを被い、建物を 守っています。また数百年を超える歴史を誇る大学、銀行、政府ビル、個人の邸宅なども同様です。 銅は、比較的強度が高いにもかかわらず(合金毎に適した調質圧延または熱処理により)、薄い板に冷間圧延するこ とができ、単純に曲げるだけで接続部品の形にすることができあます。強度と成形のしやすさを併せ持つというこ の独特の特性のため、銅と銅合金は繰り返し圧力のかかる場所にある部品、たとえば留め金具、電気コネクタ、ば ね、スイッチなどには理想的です。 長期的な社会のニーズ 伝統的な使用法は銅にとってありがたいことですが、世界ではまだかなり多くの人々が電力も安全な飲み水もな い状態にあることも考えねばなりません。 さらにエネルギーの効率利用、公衆衛生への懸念、現在の環境が持続できるのか、さらに質の高い暮らしなどと いった要求から、クリーン・エネルギーや海洋養殖、携帯電子機器、ボーダーレスで世界規模の通信システムなど の開発が生まれてきたのです。 テクノロジーが生活のあらゆる側面に大きな影響を及ぼすことを理解し、銅業界はテクノロジー進化の一翼を担 う決意とともに、赤く輝くこの美しい金属にいっそうの利用方法がないかを模索し続けます。同時にその活動を、 技術革新と社会、経済、環境への幅広い配慮とを融合させたものにするつもりです。 z 人々の健康に役立つために 銅は植物の組織や動物・人間の体が正しく機能するために不可欠で、微生物にとっても生存に必要なもので す。銅は各種のたんぱく質に取り込まれ、さまざまな新陳代謝を行ないます。必須金属として世界中の保健機 関が一日に必要な摂取量を定めています。 銅には生命体の成長をコントロールする力もあり、それを利用する使用法もあります。たとえば病原体への 抗菌効果を利用してプラークを付きにくくするために、口腔洗浄剤や歯磨き剤に入れられるのがそうです。銅 で作られた環境表面は恐ろしい病原菌の成長をコントロールすることによって病気を防ぐのに役立ちます。 z エネルギー効率を高めるために エネルギーの無駄使いは消費者にとってお金のかかることであり、また環境にも良くありません。電気エネ ルギーの効率を良くすることで、生活基準の改善につながります。エネルギー効率のよい機器に変えること、 とくにプレミアム/スーパープレミアム高効率 CMR モータへの変更、さらに高効率銅巻き変圧器に変えることで コスト削減ができ、CO2 排出量も少なくなります。 z 現在の環境を持続する リサイクルというのは無駄を少なくし貴重な資源を大切にする方法として、昔から行なわれてきました。銅 はパフォーマンス・ロスが一切なしに 100%リサイクルすることが可能です。 「使い捨て」という意味で「消費」 されることはなく、使用され、リサイクルされ、何度も何度も再使用できるのです(図 C-1 を参照)。銅はそも そも文明が発達する中で、もっとも昔からリサイクルされてきた物質です。 推定では、1万年前に鉱山から掘り出された銅のおよそ 80%が、今日いまだにどこかで使用されています。 また、銅をリサイクルから取り出すのに必要なエネルギーは、銅鉱石から金属を作り出すのにかかるエネルギ ーと比べて 75~92%少なくて済むのです。 26 『銅の利用テクノロジーロードマップ』 第 1 号-2 版 z より高い生活水準を求めて 世界中で一千万人以上の人口のある都市に住む人の数は増え続けています。人口の増加、特に一極集中型に 人が増える場合、電気インフラの大幅な変更が求められ、モノもエネルギーも必要となます。この要求は、理 想としてはコスト効率がよく、環境にやさしい方法で応えられていくべきです。 また現在人口の高齢化が速いペースで進んでいるため、視力矯正、補聴、体の自由を助けるなどさまざまな 障害をサポートするテクノロジーへの需要が高まっています。新しい技術によって高齢者も快適な暮らしを続 けられ、社会に積極的に参加してもらうことができます。人口が拡大し続ける中で生活水準の向上を達成する には、持続可能な形で開発を進められ、すべての人々の生活の質を改善するような材質と製品が必要なのです。 図 C‐1 銅のリサイクル:製錬、加工、収集、再使用 27 『銅の利用テクノロジーロードマップ』 第 1 号-2 版 付記D 今日の銅を取り巻く状況 図 D‐1.銅と世界の人口推移 過去 50 年間で、銅のひとりあ たり消費量はおよそ倍になりま した。これはテクノロジーの進 化に果たす銅の役割や経済活動 の拡大、さらには生活の質の向 上を反映したものと言えます。 (図 D‐1 を参照)。銅は先進国で の多くの技術的システム、たと えば建設、エネルギー、輸送な どの発展に大きく貢献してきま した。 今後開発が進む地域では、生 活水準向上のために重要な礎と なり、電力、きれいな水、効率 のよい輸送手段をもたらして、 経済発展を後押しするはずです。 2006 年には銅の需要は製錬され たものリサイクルのものあわせて 2,200 万トンになり、この約三分の一がリサイクルされた銅スクラップのからでき たものです。 銅は主として電気エネルギーの送電、データ・デジタル通信、モータ駆動システムを中心とする産業で求められ ます。新たに製錬された銅で作られる電線は、その安定したパフォーマンスと規格が安全であることからここでも 使われます。配管や継手を必要とする業界(例えば水道事業など)は、電線の次に銅を使う産業です。(図 D‐2)で示 しているのは、最終製品として銅を使う市場とその使用量が全体に占める割合です。 図 D‐2.銅の使用量‐銅使用の最終製品市場ごとの全体に占める割合、2006 年 28 『銅の利用テクノロジーロードマップ』 第 1 号-2 版 付記E 銅の利用に影響を与える傾向と問題点 銅業界で向こう 5 年を計画するにあたっては、経済状況やさまざまな市場要因、そういった要因を原因として引 き起こるであろう困難などを考慮し、銅の使用が世の中の流れに敏感に対応できているものにしなければなりませ ん。未来を予測することなどは誰にもできませんが、的確な洞察をもって、世界の銅業界はおそらくどういった展 開になり優先順位はどうすべきかということを一般の経済状況、社会の動き、技術力から判断できます。 z 加工コストの削減 自動車業界と第一次金属産業は、この 20 年間質を落とさずに製造コストを下げなければならない状況にあり ました。現在、半導体業界が部品コストを下げることに躍起になっており、中国とインドでの需要が劇的に増 えていることから銅を含む多くの一次製品の価格が上がっています。 銅が利用されるとき、その用途目的からどうしても銅でなければならないような場合、あるいは代替材料に したときのリスクがあまりにも高い場合、メーカーはまず今までより効率の良い加工方法を探り、加工プロセ スでコスト削減を図ります。しかしやがて価格の高い期間が長引いてくると、銅の使用量を減らせるような方 法に、最終的には代替の材質へと変わっていくことになります。 銅は伸銅としてもパウダーメタル(P/M)状にでも製品にできるので、あらゆる種類の電子機器で大きくコスト を削減することができます。たとえば鉱山掘削機の 150-A と 200-A のヒューズ部品として使われるものは機械 加工された銅棒ストックからほとんどニアネットのパウダーメタル銅部品へと変えられ、生産コストが 25%削 減されました。 z できるだけ付加価値のある方法で銅を利用する 最終製品を作るとき、その設計者は材質の機能が宝の持ち腐れにならないよう、しかし製品寿命をきちんと 全うできるよう、適切な機能を果たす材料をいちばん安い方法(つまり最小限の量)で使用することを考えます。 銅の加工者は加工した銅の価値を(そして利益を)高めたいと願い、製品の技術内容を増やすことによってエ ンドユーザーの要求に応えようとします。すなわちゲージを下げたり、特別の性質を持つ特殊合金を使用した りということです。 特別な技術で作られた銅製品は高い付加価値を持ち、通常純銅や今までの加工法で作られた製品より、パフ ォーマンスも高くなります。こういった製品、たとえば軽量なもの、使用可能温度の幅が広いものは、多機能 であったり製品寿命全体で考えるとコストも安くなったりします。 銅は薄くしてもまた軽量にしてもその機能が失われないため、それも製品として付加価値のある特長です。 飲料水の配管に使われる銅管を例にすれば、管壁の厚みは 1.0mm から 0.3mm まで下げてもその機能は失われ ません。太陽熱発電のパネルなら銅のシート厚みを 0.2mm から 0.12mm まで減らし、銅の使用量を減らすことで 製品コストを下げられます。 その結果、ヨーロッパで年成長率 30%のこの市場で、銅は 60%のシェアを維持することができました。自動 車業界では、銅の成形のしやすさと高い伝導性は回路、コネクタ、ワイヤハーネスのサイズを下げようという 方向にうまく合致しています。 z 他の材質からのプレッシャーと競争の激化 競合プレッシャーの性質が以前とは異なり、企業はいくつかのパフォーマンスについて同時平行で競争して いくということを要求されます。 15 年ほど前、鉄鋼は時代遅れで重い材質であり、均質性にも疑問があるので自動車メーカーはボディーの主 要部分をプラスチックに変えるかもしれないという脅威にさらされていました。15 年経った今、絶え間ない品 質改善の努力を重ね、鉄鋼はいまだに競合素材よりすぐれたパフォーマンスを見せ続けています。 アルミニウムやその他の素材にも似たような成功例があります。ユニークな性質がある銅も、他の材質では けっしてかなわないシステム改良を提示しなければなりません。そうすることで購入決定の際にコストに敏感 にならざるを得ない状況を少なくしていけるのです。 z 法規制・規格・基準の変更 エネルギー費用の上昇、さらに将来にわたってエネルギー供給を確保できるか、という政治的な懸念のせい もあり、エネルギー効率の良さはヨーロッパ共同体(EU)内部で政策課題として急速に騒がれ始めています。各 産業とも、エネルギー効率の価値や製品寿命全体を通してみた経済効果というものに大きな注目を払うように なってきました。 モータ効率の基準を高く設定したのは、その良い例です。そこから高効率、プレミアム効率、そしてスーパ ープレミアム効率のモータの市場が生まれ、現在急速に拡大しつつあります。高効率、プレミアム効率、スー 29 『銅の利用テクノロジーロードマップ』 第 1 号-2 版 パープレミアム効率の CMR モータはそのステータの巻きに使われる銅の量が 20%多く、また CMR モータのコン ダクターバーにも従来の「標準規格」モータに比べると銅が多く使われます。 銅業界に影響するその他の法規制に、土壌、水、廃棄物、堆積物に関するものがあります。アジアでは急速 な工業化とインフラ開発、さらに住宅や商業施設の建設で、土壌、水、堆積物における金属の働きやその毒性 について科学的検証を行ない、対策を取る政府が出てきたのです。 同様の規制はチリや北米でも見られることになるでしょう。建築物や自動車のブレーキパッド、肥料、塗料、 洗浄剤から出る銅の水や土壌の汚染に対する懸念は北米で広がりつつありますが、注目すべき事例(コネチカッ ト及びサンフランシスコの沿岸地域)もあり、きちんとした環境科学を適用することで、これはほとんど問題に はならないはずです。 z 高い技術によって作られた銅製品のパフォーマンスを確実なものに 新しい利用法で銅を使うとき、そのパフォーマンスをコンピュータによるシミュレーションで予測と確認を 行なう機会は増えてきています。極小化に加えてさまざまな材質を組み合わせて使うことから、小さなシステ ムでの機械特性、銅および銅合金の表面や表面の近くでの働き、銅と他の材質のインターフェイスに影響する 現象、他の材質と強力に密着させたことによるリサイクル可能性へのインパクトなどを研究することが多くな ったのです。新しい合金の開発やその使用には、厳しいデザインの制限ともあいまって、その合金(さらには既 存の材質も)の特性がどのようなもので、どうなるかという予測も今までよりも高い確度で求められます。温度、 電気、物理的および機械的な特性を今よりうまくコントロールできれば、先進技術への利用における銅のパフ ォーマンスは向上するでしょう。 z 補完的な機能を持たせた材質の増加 銅のパフォーマンスの性格を変える材質は、銅の表面に付け足したり、または中に埋め込んだりもできます。 銅はもっとも頻繁に、機能特化された他の材質と組み合わせて使われることが多い金属で、その組み合わせに よってできた特性は特定の使用ニーズに合わせられるのです。 銅の表面に用いられる補完的材質は、非常に薄い電気絶縁層を作ることができたり、粗い表面から銅を保護 したり、腐食から守ったり、その他望ましい性質を何でも持たせることができます。 重量対比強度のある材質への需要から、コンポジット材への関心も高まっています。コンポジット材は素材 特性を強化する物質がその素材の中に加えられ、強度や耐久性を高められていて、場合によっては重量を抑え る効果もあります。銅は本来重量対比強度割合が高い材質ではなく、素材として求められる第一の特性がそれ である場合には使われることはほとんどありませんが、たとえばシリコンカーバイドファイバーで強化された 銅ベースのコンポジット材などの素材は熱伝導性と、高温で優れた強度を持つことになります。こういった事 例のような可能性も今後探ってみるべきでしょう。 z 回収と再使用のための設計 銅およびその合金は 100%リサイクルが可能で、再生銅は重要な産業資源です。自動車、電子機器、ビルな どはその使用が終わったあと、銅は当然のようにそこから取り出されます。ですから技術者は、製品はどのよ うに解体され銅が回収されるかを考えて設計すべきなのです。 さらに製造プロセス中においても、すべての銅が製品としての役目を果たすようになるわけではないので、 この余分になった銅を回収しリサイクルする必要もあります。この場合スクラップ素材が汚染されずに再使用 できるというのは、便利のよいものです。 30 『銅の利用テクノロジーロードマップ』 第 1 号-2 版 付記F お世話になった方々 国際銅協会は感謝の念をこめ、ご協力ならびにスポンサーとしてこの『銅の利用テクノロジーロードマップ』制 作に貢献してくださった下記の方々と所属団体のお名前を明記します。 お世話になった方々 InternationalCopperAssociation,Ltd. JohnMollet TonyLea adThermTechnology DesmondAubery AdvancedTechnologyInstitute MikeStebbins InternationalWroughtCopper Council SimonPayton AmiraInternationalLtd. JoeCucuzza Kinghorn,Hilbert&Associates TedKinghorn BHPBilliton CleveLightfoot KMEGroup ChristophGeyer HeinzKlenen ArmandoSbrana Codelco-Chile JürgenLeibbrandt Consultant,Editor KonradKundig LS-NikkoCopper Jeong-HaLee Consultants DalePeters SurreshSunderrajan DerekTyler Jean-MarieWelter Luvata WarrenBartel EdRottmann MitsubishiMaterialsCorporation MetalsCompany KazumasaHori CopperDevelopmentAssociation AndyKiretaJr. DanielleMcAuley HaroldMichels BobWeed Nexans EricLawrence MichelRousseau CopperDevelopmentCentre, Australia JohnFennell NorddeutscheAffinerieAG AdalbertLossin Cumerio JoRogiers PhelpsDodgeSalesCompany,Inc. StephenHiggins DeutschesKupferinstitut AntonKlassert RevereCopperProducts,Inc. ThomasO’Shaughnessy EuropeanCopperInstitute ColinBennett NigelCotton HansDeKeulenaer JohnSchonenberger SterliteIndustries RajanGupta PrasadSuryaro Wieland-Werke,AG UweHofmann GerhardSchuez GoldenDragonPreciseCopperTube GroupInc DengBin YazakiCorporation AkibumiSato YunnanCopperIndustry(Group)Co.Lt. WangQin 31 『銅の利用テクノロジーロードマップ』 第 1 号-2 版 スポンサー The International Copper Association, Ltd. アソシエイトスポンサー Anglo American Chile Ltd. Mexicana de Cobre/Mexicana de Cananea Antofagasta Minerals Mitsubishi Materials Corporation BHP Billiton Boliden AB Mueller Industries Inc. Chinalco Luoyang Copper Nexans Codelco-Chile Nippon Mining & Metals Co. Compañía Minera Doña Inés Collahuasi Norddeutsche Affinerie AG Outotec Oyj Compañía Minera Zaldívar Pan Pacific Copper Products, Inc. Cumerio Revere Copper Products Inc. Freeport McMoRan Copper & Gold Rio Tinto Plc Golden Dragon Precise Copper Tube Halcor S.A. Sociedad Contractual Minera El Abra Hüttenwerke Kayser AG Southern Copper Corporation International Wrought Copper Council Sterlite Industries (India ) Ltd. Sumitomo Metal Mining Co. Kennecott Utah Copper Corp. Wieland-Werke AG KGHM Polska Miedź KME Group WMC (Olympic Dam Corporation) Pty. Ltd. LS-Nikko Copper Xstrata Copper Luvata Yunnan Copper Industry (Group) Co., Ltd. コーディネーター: International Copper Association, Ltd. Hal Stillman Kevin Krizman ファシリティテーター: Energetics Incorporated Katie Jereza Ross Brindle グラフィックデザイナー Energetics Incorporated Julie Chappell 32 『銅の利用テクノロジーロードマップ』 第 1 号-2 版 付記G 参考文献 1. Smolders, Jan A. Foreword to Civilization and Copper; The Codelco Collection by Liebbrandt, Alexander, p. 3. Translation by the International Copper Association, Ltd. (ICA). Santiago, Chile: Codelco, 2001. 2. “Furukawa Electric Develops Lighter Auto Wiring Harness for 2010-2012 Cars.”Japan Metal News. 10 October, 2007, http://www.japanmetalbulletin.com/top_bn/nm071010.html 3. 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