K7-61 宇宙往還機の耐故障制御系設計 故障アクチュエータに対する適応制御 Design of fault-tolerant control system for a spaceplane Adaptive control for actuator failure ○時乗伸一郎1, 長谷部吉則 2, 嶋田有三 3, 安部明雄 3 *Shin-ichiro Tokinori1, Yoshinori Hasebe2, Yuzo Shimada3, Akio Abe3 Abstract: This paper presents a fault-tolerant control system for an actuator used in a spaceplane. In order to perform the space transportation mission, a fault detection and control system is the one of the key factors that must be established. For this problem, the authors have developed a fault-tolerant control system which can compensate with an actuator failure. Therefore, in this paper, the authors propose a fault tolerant control system by the MRACS. Additionally, the proposed system is applied to a nonlinear actuator model with a failure mode. Numerical simulation was performed to confirm the effectiveness of the proposed control system. D( z −1 ) は,誤差の収束性を決定する任意の安定多項式であ 1.はじめに 本研究室では,耐故障性を有する次世代宇宙往還機の制 御系の研究を行ってきた[1].耐故障性を補償するための方法 として,制御システムのロバスト性に委ね固定補償器で対 り,H(z−1)は多項式で(5)式より一意に決定する.(5)式の両辺 に出力 y(k)をかけて,次のパラメトリック表現を得る. D( z −1 ) y (k ) = B( z −1 )u (k − 1) + H ( z −1 ) y (k − 1) = θ T ξ (k − 1) 処する手法と,故障時に制御システムの再構成を行い積極 (8) 的に対処する手法に大別される[2].本研究では,後者に着目 ここで,θ は未知パラメータのベクトルであり, ξ は既知 し,モデル規範型適応制御理論(MRACS)を用いた耐故障 の入出力信号であり,成分は以下の通りである. θ T = [b0 b1 h0 h1 ] 制御システムの設計を試みる.MRACS は,制御対象の未知 のパラメータ変動に対して,コントローラをオンラインで 自動調整し,望ましい特性を有する規範モデルに追従させ ることにより,最適な性能を維持することができる. 提案するシステムの有効性を検証するため,アクチュエ [1] ータに物理的制限を設けた動的モデル に適用し,舵面の固 (9) ξ (k ) = [u (k ) u (k − 1) y (k ) y (k − 1)] T (10) 規範出力ym(k)と出力y(k)の差をモデル追従誤差e1(k)とする. e1(k + 1) = ym (k + 1) − y(k + 1) (11) (11) 式の両辺に安定多項式 D( z −1 ) をかけて, (8) 式を代 入すると,次式が得られる. 着を模擬した数値シミュレーションを行った. D ( z −1 ) y m ( k + 1) − θ T ξ ( k ) = 0 (12) (12) 式において,未知パラメータベクトルθ を推定値θˆ に 2.適応制御系 本節では,提案するアクチュエータの離散型 MRACS に ついて述べる.アクチュエータの動特性を表す状態方程式 は, 次の2 次の単入出力線形時不変システムで記述される. x& ( t ) = Ax ( t ) + b u ( t ) (1) y (t ) = c T x (t ) (1)式を,離散化して次式のパルス伝達関数を得る. y(k ) = z −1B( z −1 ) A( z −1 ) (2) u (k ) A( z −1 ) = 1 + a1 z −1 + a2 z −2 (3) B ( z −1 ) = b0 + b1z −1 (4) 次に,パラメトリック表現を得るために,次の Diophantine 置き換え,制御入力 u(k)に関して整理して次の制御則を得る. 1 (13) u (k ) = D( z −1 ) ym (k + 1) − θˆ T ξ (k ) ˆ b0 { } ここで θ , ξ は以下のように定義される. [ ˆ θˆ T = [bˆ0 θ ], ξ T (k ) = u (k ) ξ ] (14) θˆ を推定するパラメータ調整則として,パラメータの収 束性に優れ,推定パラメータの有界性を保証可能な両限ト レースゲイン方式[3]を用いる. { } Γ( k ) ξ (k ) θˆ ( k ) ξ ( k ) − y ( k ) θˆ (k + 1) = θˆ (k ) − 1 + ξ T ( k )Γ( k ) ξ ( k ) (15) 方程式を考える. D( z −1 ) = A( z −1 ) + z −1 H ( z −1 ) −1 D ( z ) = 1 + d1z −1 −1 + d2 z H ( z ) = h0 + h1z 1:日大理工・学部・航宇 −2 −1 2:日大理工・院・航宇 (5) (6) Γ(k + 1) = Γ(k + 1) ⎧⎪ ξ (k )ξ T (k )Γ(k ) ⎫⎪ Γ′(k ) ⎨I − ⎬= λ (k ) ⎪⎩ 1 + ξ T (k )Γ(k )ξ (k ) ⎪⎭ λ (k ) (7) 3:日大理工・教員・航宇 942 (16) ⎧ trΓ ′(k ) trΓ ′(k ) ; λ≤ ⎪ γu ⎪ γu trΓ ′(k ) trΓ ′(k ) ⎪ ≤λ≤ ; λ (k ) = ⎨ λ γ γl u ⎪ trΓ ′(k ) ⎪ trΓ ′(k ) ≤λ ; ⎪ γ γl l ⎩ る出力の時間履歴である.時刻 t =10[s]の前述の故障に対し ても,制御系の再構成を行い,プラントの出力は規範モデ (17) ルに良好に追従していることがわかる. 次に,提案するシステムと,比例制御の出力の時間履歴 を比較する.比例制御では,大きな追従誤差を生じている のに対して,提案するシステムでは,規範モデルに良好に 追従していることがわかる. 3.故障モード 本研究では,シミュレーション開始 10 秒後にアクチュエ ータの動特性の減衰係数 ζ と固有振動数 ωn を変化させるこ とによって,舵の故障を模擬した.Table1 に故障の程度を 表すパラメータ変動を示す.Table1 において,規範モデル Input Controller Eq.(13) θˆ (Reference)はアクチュエータ本来の特性であり,本来の特性 Plamt 0.7 5 72.4 48.3 ζ ωn Figure 2. Block diagram of proposed system Control input u [deg] Reference Plant Eq.(18) Eqs.(15),(16),(17) を小さくすることで,アクチュエータの動きの鈍化,すな Table 1. Parameter variation u + e1 y- Output Parameter Adjustment law より制御対象(Plant)の特性の減衰係数を大きく,固有振動数 わち舵の固着を模擬した. ym Reference model 20 0 -20 -40 0 10 20 30 Time [s] 40 50 MRAC output P control output 20 30 Time [s] 40 Figure 3. Time histories of control input 4.数値シミュレーション シミュレーションで用いるアクチュエータモデルは, Figure1 のような DC モータと動翼のリンクしたモデルを想 定し,トルクと稼働範囲の物理的な制約を考慮する[1].構築 Output δ [deg] Reference output 4-1.アクチュエータモデル したモデルは,2 次遅れ系を基に,舵面の稼働範囲と舵面に 5 0 -5 0 50 Figure 4. Comparison of two type control 働く空気力によるヒンジモーメントに関する非線形項を考 慮している. 10 5.まとめ TW Gear box G アクチュエータの故障に対処可能な,モデル規範型適応 TM 制御システムを用いた,耐故障適応制御システムを設計し φ DC motor た.また,実際のトルク・稼動範囲を考慮したアクチュエ ータモデルを示した.提案する耐故障制御システムを,前 述のアクチュエータモデルの固着問題に適用し,その有効 δ Figure 1. Actuator model 性を数値シミュレーションによって確認した. アクチュエータの運動方程式は,次式で表現できる. Iφ&&(t ) = TM (t ) − fφ&(t ) − FL (t ) − TW G (18) 6.参考文献 ここで I は,可動部全体の慣性モーメント,TM はモータの トルク, f は軸受けの粘性摩擦係数,FL は舵の可動範囲を [1]嶋田有三,安部明雄,内山賢治他,耐故障性を有する誘 制限するストッパーの反力,Tw は,舵面に発生する空力モ [2]亀山丈晴,越智徳昌,規約分解法による耐故障型飛行制 ーメントである.Fig.2 に提案するシステムのブロック線図 御系の設計.日本航空宇宙学会論文集,Vol53,No.618, を示す. pp330-336,2005. 導姿勢制御系の構築,平成 20 年度 JAXA 委託研究報告書. [3] 鈴木真二,鈴木隆,適応システムのためのパラメータ調 4-2.シミュレーション結果 整アルゴリズム,計測自動制御学会論文誌,21-7,pp.691-697, Fig.3 に制御入力を示す.Fig.4 は,規範モデルと MRAC に よるプラントの出力の時間履歴及び,比例制御(P 制御)によ 943 1985.
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