3.2 瓦礫上移動体を用いた情報収集ミッションユニット - International

3.2 瓦礫上移動体を用いた情報収集ミッションユニット
ミッションユニットリーダ
3.2.1
電気通信大学
松野 文俊
グループリーダ 筑波大学
坪内 孝司
グループリーダ
東京工業大学
広瀬 茂男
グループリーダ
東京工業大学
塚越 秀行
グループリーダ
東京工業大学
川嶋 健嗣
グループリーダ
東北大学
田所 諭
グループリーダ
長岡技術科学大学
木村 哲也
グループリーダ NPO国際レスキューシステム研究機構
高森 年
グループリーダ
早稲田大学
橋詰 匠
グループリーダ
岐阜県生産情報技術研究所
稲葉 昭夫
グループリーダ 湘南工科大学
秋山 いわき
グループリーダ 大阪電気通信大学
升谷 保博
グループリーダ 桐蔭横浜大学
小柳 栄次
グループリーダ 大阪大学
新井 健生
グループリーダ 慶応大学
今井 倫太
瓦礫上 MU の説明と目的
本ミッションユニット(MU)においては倒壊現場の比較的局所的な瓦礫上や地下街を移動し,
カメラなどで被災者情報を収集するとともに,構造破壊の状況,ガスや危険物の状況など詳細な情
報収集を遂行する効率的なシステムを開発することを目的とする.
本研究においては,瓦礫上として上部が開いている環境と家屋内や地下街など上部に空間があ
り確かな建築物で覆われている環境を想定している.瓦礫上や地下街などを移動し情報を収集す
るためには,移動体の不整地走破性・障害物の乗り越え能力などを向上させることが重要である.
瓦礫上で情報収集するためのシステムには瓦礫環境での耐久性を考えた防塵・防水・防爆対策を
施す必要がある.本テーマで開発する瓦礫上情報収集ロボットは GPS,レーザ距離計などを装備し,
各種センサ(UWB人体センサ,温度センサなど)を必要に応じて装着し,人命探索や環境情報を
収集する.また,瓦礫上情報収集ロボットは遠隔操作を基本としており,操作性向上のための情報
提示技術を駆使してオペレータの負担を軽減化する.さらに,収集したデータに基づき3次元環境
地図を作成するとともに,収集された情報をGISを用いて処理し,地図への情報提示を行なう.
今年度は,瓦礫上移動体プラットフォームに,各種システムを搭載し,統合化を推進した.具体
的には,
1) 瓦礫上走破性に優れる移動体プラットフォームの改良
2) 空気圧を用いた投射型センサーの改良と移動体プラットフォームへの搭載の検討
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3) システムの防塵・防水・防爆対策の検討と実施
4) UWBを用いた要救助者探索のためのセンシングシステムの改良と移動体プラットフォーム
への搭載の検討
5) 過去画像履歴を用いた遠隔操作システムの移動体プラットフォームへの実装
6) 3次元環境地図作成システムの改良と移動体プラットフォームへの実装の検討
7) 収集されたデータの統合とGISを用いた地図への情報提示システムの実装の検討を行い,移
動体プラットフォームに各種システムを実装し,統合化を推進した.
また,瓦礫上移動MUにより収集された情報と他のMUからの情報との統合実験を行い,情報の
共有化を推進した.
さらに,開発した瓦礫上情報収集ロボットシステムを国際レスキューシステム研究機構川崎ラ
ボラトリーおよび神戸ラボラトリーのテストフィールドなどでテストを重ねるとともにレスキュ
ー隊員などに操作してもらいシステムの総合評価を行った.その結果を研究開発にフィードバッ
クし,実践的なシステムの開発を推進した.
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移動体プラットフォーム
3.2.2(1)アーム搭載異動ロボット
ヘリオス
東京工業大学 広瀬 茂男
NPO 国際レスキューシステム研究機構 伊能 崇雄
東京工業大学 Michele Guarnieri
トピー工業株式会社 津久井 慎吾
電気通信大学 松野 文俊
(1) 目的
本プロジェクトの目的は,被災地における要救助者の探索業務を安全かつ効率的に行うソリ
ューションを提示することである.本研究は,その中で「人が入っていけるだけの空間を有す
る環境」での探索をメインターゲットとしており,そのためのシステムを搭載しつつ広範囲を
探索するための移動体プラットフォームを開発することを目的としている.
被災地の「人が入っていけるだけの空間を有する環境」というのはかなり限定した条件であ
ると思われがちであるが,その対象となるのは地下街,半倒壊建築物の内部,完全倒壊建築物
など広範囲にわたり,そういった環境で使用されるロボットの役割は「人に代わって」危険な
環境下での探索を行うことにある.
災害時の探索及び救助活動の現場は,訓練を受けたレスキュー隊員にとっても非常に過酷か
つ危険であり,二次災害の危険と隣り合わせにある.
「人に代わって」探索を行うロボットを導
入することにより,こうした危険を回避し二次災害による人的被害を軽減化することが可能と
なる.
被災地における探索活動を人の代わりに行うシステムのプラットフォームとして必要な機能
のうち,最も重要なのが移動能力とある程度の積載能力である.想定される崩れかけた地下街,
半倒壊建築物内,倒壊建築物は車輪などの通常走行手段では移動が困難で,このような環境下
で探査活動を行うためには,このような不整地度の高い環境下でも自由に移動できる高い走破
性と,発見した被災者の位置を的確な情報として伝えるために必要な自己位置推定機能や適切
なマッピング機能が要求される.そこで必要なものが高度な走破性を有する移動機構と,自己
位置推定などに用いるセンサやコンピュータを積載できるだけの能力である.
我々は,昨年度までに高い移動性能を持つ作業型クローラ走行車 HELIOSⅦを開発したが,実
運用にあたり重量がネックになるという知見を得た.そこで,いくつかの軽量化のための検討
を行った結果,全体の大きさを 3/4 とし重量を半減させるプランを採用し HELIOSⅧを開発した.
また,積載量の問題については,センサを搭載したキャリアを連結運用することとした.
本報告書では,HELIOSⅧの開発にあたり障害となる問題点とそれに対する検討したことを紹
介し,最終的にまとめあげた HELIOSⅧについて報告する.
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(2) 年次実施計画
平成17年度
(平成 18年度)
HELIOSⅧの実用試験とそれを踏まえた改良型の設計
HELIOSⅧの実用機開発と運用試験
(3) 前年度までの成果要約
昨年度までに,被災者探索及び補助作業を目的とする
作業型クローラ走行ロボット HELIOSⅦと HELIOSⅧの 1
次モデルの試作を行った.
HELIOSⅦは装備した作業用アームを積極活用すること
による走破性の大幅向上を狙いながらも,それでいて作
業能力も持つというコンセプトを持ち,レスキューロボ
ットとして実用上必要な防塵,防水性を付与した設計を
行ったものである.
HELIOSⅦは,少なくとも 590mm の段差を乗越え 56 度の
角度を持つ階段(蹴上高さ 225mm 階段幅 150mm)を走破
するという高性能を発揮したが,88kg という重量は運用
の困難さが予想され,同コンセプトでより小型化した機
体の開発が必要であるとの結論を得た.そこで開発され
たのが,HELIOSⅦのサイズをおよそ 3/4 にすることで重
図 3-2-2-1
HELIOSⅦ
量を半減させることを狙った HELIOSⅧである.
以上のように HELIOSⅧは,コンセプト上は HELIOSⅦをサイズダウンしたものであるが,具体的
な設計にあたってはむしろ新規開発に近い変更を行っている.主な変更点は次のようなものであ
る.
1.IRS 蒼龍で実績を上げつつあるトピー工業製のクローラを使用する
2.クローラ駆動及び揺動軸には市販の DC モータを使用する
3.バッテリーなど HELIOSⅦには未搭載だった装備を搭載する
1.はスチールベルトをベースにゴム製のボデーとグローサを装備したものである.このクロー
ラはゴム層を薄く出来るという製法上の特徴から軽量であり,変形抵抗が少なく駆動系にかかる
負担が小さいため駆動ロスが少ないこと,また製造上周長管理が比較的しやすいこととクローラ
自体の伸びがほとんどないことによってクローラベルトのテンショナーが簡便な構造で済むとい
うものである.
HELIOSⅦのクローラユニットの重量にはクローラ自身の重量(6.3kg/片側)やクローラベルトの
テンショナー機構の影響も少なくないため,HELIOSⅧのクローラユニットはトピー製クローラを
採用することとした.また,HELIOSⅦ用のクローラユニットの設計,試作はトピー工業で行った.
その理由は,実用機を開発する,という本研究の目的を実現するための方法として,実務能力の
ある企業にプロジェクトの出来るだけ早い段階から参画してもらうのが有効だと考えたからであ
る.
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図 3-2-2-2
HELIOSⅧクローラユニット
2.もクローラユニットに絡んだ部分である.HELIOSⅦではコンパクトでハイパワーをコンセプ
トとした TITECH アクチュエータというコンポーネントを使用していたが,これは市販品ではない
ため現時点では大量発注が難しい.そこで,HELIOSⅧのクローラユニット用アクチュエータとし
て,シーアイ化成製高出力コアレス DC モータを採用することとした.これは,移動体プラットフ
ォーム機あるいは実用機として開発する HELIOSⅧのためのアクチュエータとしては,低コスト化
及びアクチュエータの安定調達化が重要であると考えたからである.
3.はもともと未装備だったものを装備することになるのでスペース的な問題がある.またバッ
テリーの選定は,比較的大容量である程度熟成の進んでいるニッケル水素電池を用いることにし
た.スペース的な効率を考えて本来ならエネルギー密度を優先した選定を行いたいところであり,
エネルギー密度という観点からはリチウムイオン電池やリチウムポリマー電池が優れている.し
かしながら,これらのバッテリーは高価であり,充電管理が難しいという問題がある.HELIOS 用
に使用するバッテリーの仕様は,電源電圧 24V で容量 9Ah と電圧が高く容量も大きいため多直列,
多並列で使用せざるを得ないが,この場合バッテリーの各セルに対する十分な充放電管理を行う
ことは不可能である.リチウムイオン,リチウムポリマー電池は充電管理が不十分だと爆発する
などロボットの電源として使用するには安全面においても不安材料を残すこともあり現時点での
採用は見送った.
上記変更点のうち,大きな問題を含んでいるのが 3.である.HELIOSⅧは HELIOSⅦを 3/4 にした
モデルで搭載能力という点で不利である上バッテリーを搭載するスペースを確保する必要がある
からである.そのため HELIOSⅧの設計にあたりアクチュエータの配置変更を含む設計変更プラン
の検討を行った.ここは一部今年度成果に絡む部分でもあるため平成 17 年度成果の章で詳しく述
べる.
(4) 平成 17 年度の目的
平成 17 年度は HELIOSⅧとキャリアの設計製作及び改良を行い,移動体プラットフォームとして
運用することである.
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(5) 平成 17 年度の成果
昨年度,作業型クローラ走行車 HELIOSⅧの設計を行ったが,さらに積載スペースを確保可能なア
クチュエータ配置を検討し設計変更を行った.また,センサ積載用のキャリアの設計,製作を行
った.
(a) HELIOSⅧアームの設計
HELIOSⅦと HELIOSⅧのコンセプト上の違いは基本的にはサイズだけであるが,その他にアー
ムにかかわる部分の変更として新たにバッテリーを搭載することになったことがあげられる.
HELIOSⅦのサイズでも積載スペースに十分な余裕があったわけではなく,サイズを 3/4 にした
HELIOSⅧにおいて十分な積載スペースを確保することは設計上の重要な課題のひとつである.
また,プラットフォーム機という多くの人に使ってもらうという位置づけの機械であるから,
取り扱いのしやすさを念頭に置いた設計を行った.一方,高い耐環境性を求められるため,防
塵防水を施した設計が必要であるが,先に述べた使いやすさとの両立を図るため,構造などの
検討も行った.
1) 積載スペースの確保
HELIOSⅧは HELIOSⅦの 3/4 サイズで
積載スペースの点で不利であり,更
reserved
space
にバッテリーを搭載するためのスペ
ースを確保しなければならない.当
初バッテリーを搭載するスペースと
actuator
して候補にあげたのが,(a)アーム根
元 (b)クローラユニット内部であっ
M
た(図 3-2-2-3).このうち,(b)のク
M
ローラユニット内部はまとまったス
ペースの確保が難しいので,バッテ
図 3-2-2-3 バッテリー搭載スペースの検討
リーを左右のクローラユニット振り分けて配置するこ
とになるが,そうすると充放電条件(温度など)が異な
るなど充放電管理が難しくなるという欠点がある.結
局のところ,バッテリーの分割配置を避け,(a)のアー
ム根元に配置することにした.
一方,HELIOSⅦ開発時と比較してドライバ類が小型
化したなど積載スペースを確保する上で有利に働くフ
ァクターも存在する.HELIOSⅦではクローラユニット
にもアームと同様 AC モータ(TITECH アクチュエータ)
を採用していたが,HELIOSⅧではクローラユニット用
に DC モータを採用したことによって小型のドライバ
が使用できる他,アーム部分の AC モータ(TITECH ア
クチュエータ)用ドライバも小型化されており,配置
図 3-2-2-4: ドライバ回路寸法(概寸法)
上:AC モータ駆動用ドライバ
下:DC モータ駆動用ドライバ
を工夫することによりスペースを確保する余地が生
まれた(図 3-2-2-4).
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Free roller
図 3-2-2-5: アーム長さ再考
アーム長さによって段差乗越え特性に差が出る
そこで,走破性向上とスペース確保を考慮してアーム長さは 3/4 より少し長め(380mm)とし,
更にアクチュエータとドライバの配置を検討することでスペースを確保することとした(図
3-2-2-5).
actuator
reserved space
actuator
図 3-2-2-6: アクチュエータ配置検討(1)
旋回軸アクチュエータ配置によりスペース確保(左)
次にまとまった空間を確保するためのアクチュエータ配置を検討する.HELIOSⅦは肘に肘を動
かす自由度と二の腕をひねる自由度を担当するアクチュエータを近接配置している.ところが,
この配置だと肘自由度のアクチュエータ付近にデッドスペースが出来てしまい,それが全体の
スペース効率を下げることになることが判明した.そこで,二の腕をひねる自由度はアーム根
元に近い位置に配置するのがスペース効率という観点からは有利だという検討結果を得た(図
3-2-2-6).
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しかしながら,具体的な設計を始めるとこの配置にも問題があることが発覚した.収納スペー
スを確保するために長方形断面に設計した二の腕をひねるとアームがクローラと干渉するので
ある.これを避けるためにはアーム根元の断面が円になるよう設計する必要があるが,収納ス
ペースは大幅に削減される.こうなると,アクチュエータ配置を変更した意味が殆どなくなる
ため,再度検討を行うこととなった.
Z
Z
re s e rv e d s p a c e
a c tu a to r
a c tu a to r
図 3-2-2-7 アクチュエータ配置検討(2)
アーム形状を見直すことでスペースを確保(右)
結局,アーム根元形状を「『』型のデザインとしこれまでの肘の位置に二の腕をひねる自由度
のアクチュエータを,そこから突き出た部分に肘の自由度を配置することとした.こうするこ
とにより,肘から先のスペースの一部をアーム根元のスペースに組み入れる形でスペースを稼
ぐことが可能となった(図 3-2-2-7).
このデザインは肘自由度のアクチュエータ付近にドライバを配置する丁度いい空間を生み出
す結果をもたらした.HELIOSⅦではドライバなど,全てのコンポーネントをアーム根元に配置
していたが,HELIOSⅧでは,肘自由度アクチュエータ用のドライバをこの空間に配置した.ま
た,クローラユニットを駆動するドライバはアーム根元のハッチ裏側に配置することでスペー
スを有効利用しつつ,放熱(アーム根元は樹脂部品を基本構造に用いているがハッチは金属製で
放熱板の役割を持つ)の問題もクリアした.
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2) 構造の検討
HELIOSⅦで問題になったのが重量過大である.HELIOSⅧはサイズを 3/4 としたことにより重
量が半分程度になる見積もりであるが,それでも軽量化のための検討は依然として重要である.
アーム部分を軽量に設計する方法として最初に検討したのが板金による構造である.比較的
薄い板を曲げて組み合わせることにより剛性と軽量化を両立することが出来る.そこで課題と
なるのが,プレスのように試作に向かない手法を用いることなく,またスペースを殺すことな
くいかに構造を作るかということに加え,板金の(切削と比較して劣る)精度でいかに防塵防
水を持たせる設計にするかということである.
まず,剛性の確保のためにフレームを設け,そこに曲げ加工した板金をはめ込む構造を検討
した(図 3-2-2-8).箱は基本的に分解不可の一体物として取り扱う仕様のものなので,組み立
て時に液体シールによる防塵防水処置を施すことが出来る.後部にはハッチを設け,バッテリ
ーなどの出し入れやメンテナンスを行うことが簡単に出来る設計とした.
(図 3-2-2-12)アー
ム根元のボックス状の部分に段があるのは,当時のクローラユニットでは駆動軸のエンコーダ
が飛び出た形になっていたため,クローラユニット揺動時にエンコーダとアーム根元とが干渉
しないためである.
図 3-2-2-8 板金とフレームによる構造案
この設計では,フレームに凝った造型が要求される上パーツ数も多くなるというデメリット
があった.凝った造型の原因のひとつがクローラユニットの凸部を逃げるための段差にあった
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が,これはクローラユニットの設計変更によって解消された.
そこで,形状の見直しをしつつ構造の簡素化が検討され,その結果厚さ 10mm 程度の厚板を組み
合わせて箱を形成する単純な構造に切り替えた(図 3-2-2-9).ただし厚板をそのまま組み合わ
せたのでは重量の問題がでるので材料には樹脂を用い,さらに軽量化のための溝加工を施すこ
とにした.使用する樹脂はユニレート(ユニチカ製)というもので PET 樹脂に炭素繊維を混ぜ
込んだもので比重はアルミの約半分,軽量化溝を施すことで厚板を使用した設計であっても重
量の問題はないと考えられる.
driver
図 3-2-2-9: 樹脂厚板を組み合わせた構造
ドライバはアクチュエータ側に配置される(下)
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3) 防塵,防水設計
HELIOSⅦは,クローラユニットは防塵防水装備を施していたがアーム部分の対策はなされて
いない.HELIOSⅧでは,アーム部分にも防塵防水対策を施し,ロボットシステムとして IP65
程度の保護性能を実現するための設計検討を行った.IP65 とは IEC60529 に基づいて規定され
た保護等級で,異物や粉黛に対する完全な保護をもちなおかつ全方向から機器に向けられた噴
流水に対して危害がない程度の保護度合いを示すランクである.
機器類の防塵,防水設計は次のような 3 とおりの場合における方法を考えておく必要がある.
i) 接合部(外すことを考える必要のない部分
永久接合部分)
ii) 固定部(つけはずしを行う部品の接合部)
iii) 可動部
一般に,固定部に用いるシールをガスケット,可動部(しゅう動部)に用いるシールをパッキ
ンと呼ぶが,ここでは両方ともシールと呼ぶことにする.
これらのうち,iii)は平成 15 年度,平成 16 年度で既に報告されているので先に簡単に述べ
ておくことにする.可動部のシールは,可動部にゴムなどの弾性体を押し付けることで異物の
進入を抑制する方法が一般的で,市販のオイルシール(市販のオイルシールは異物の侵入防止
よりはむしろ内部のオイルを外に漏らさないことが主目的ではあるが)は殆どがこのような方
法論を用いている.他に,我々が平成 15 年度に基礎実験を行ったような機体内部から外部に向
けた空気の流れを作り出すことによって異物の進入を防ぐといった方法もある.
本節では,アームの構造を考える上での防塵,防水なので i)と ii)を取り扱う.このうち,
i)の処理は接合部にコーキング剤のようなものを充填しておくという考え方で基本的には問題
ない.製作,製造上の問題として所定の防塵,防水性能を得るためのコーキング剤の量や塗布
や充填方法などの問題はあるが,方法論としての考え方はこのような方法で問題ない.
図 3-2-2-10 固定部のシール
組み立て時にしゅう動を伴わない(左)
組み立て時にシールがしゅう動(右)
ii)は i)と同じ固定部分ではあるが,部品の取り外しを前提にしている点が異なる.無論,
部品の取り付けのたびにコーキング剤を充填するという方法論もありえるが,非常に手間がか
かる上に,充填したコーキング剤が硬化するまでは所定の防塵,防水機能を発揮できないとい
う問題が存在する.一般的なのはゴムなど弾性体を利用したシールを使用することである.
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図 3-2-2-11 HELIOSⅧ肘部分のシール
アーム部品とシール(左) アーム部品に組み付け途中のシール(右)
弾性体を用いてシールとする場合,大きく 2 種類の設計に分類できる.1 つが組み立て分解
時にシールにしゅう動を伴わない設計と,組み立て分解時にしゅう動を伴う設計である(図
3-2-2-10).一般的にはシールをしゅう動させずに組み立てられる設計が望ましいとされている
が,コンパクトさや組み立て手順の簡便化を狙ってシールをしゅう動させる設計も多い.比較
的身近なところでは自動車のオイルエレメント(オイルフィルタ)がそのような設計で,取り付
け時にはシール(O リング)にオイルを塗布することでしゅう動時のシールにかかる力を低減し,
組み立て時のシール破損などによる不具合を予防している.このように,取り付け時にシール
をしゅう動させる設計では,取り付け時にオイルを塗布するなど,運用上シール破損に対する
予防が必要となる場合が多い.
今年度製作した HELIOSⅧでは,組み立て分解時にしゅう動を伴わない設計を採用することと
した(図 3-2-2-11).その理由は大きく 2 つあり,1 つが非円形断面においては組み立て時にし
ゅう動を伴わない設計の方が使い勝手の点で問題が出にくいこと,もう 1 つがシール破損など
の不具合を予防するため組み立て時に使用するグリスなどの油脂類によって樹脂ボデーが侵さ
れる可能性があるため,組み立て時に使用する油脂類にはシリコーングリスなど特殊なものを
用意する必要があることである.
特に前者は,瓦礫内 MU で開発した IRS 蒼龍の経験からも重要である.IRS 蒼龍は,組み立て
時にしゅう動を伴わない設計を基本としながらも一部に非円形断面で組み立て時にしゅう動を
伴う設計が混在しており,分解組み立て作業においては両者の運用上の違いが明確に現れる.
蒼龍のバッテリー交換で取り外すカバーのシールは組み立て時にしゅう動を伴わない設計であ
るため,作業者を選ばず誰でも短時間で作業を終えることが可能である.一方,屈曲軸の点検,
修理のために取り外しの必要なボデーカバーのシール部分は非円形断面で組み付け時にしゅう
動を伴う設計である.この組み付けの作業にはある種の慣れが必要であり,作業時間もバッテ
リーカバーの脱着の作業時間と比較して非常に長くなる.
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図 3-2-2-12
HELIOSⅧのハッチ
ハッチ閉(左)
ハッチ開(右)
ハッチを開いたときのアーム側接触部にトリムシールが見える
一方,組み立て時にしゅう動を伴わないシール部分の設計にも不利な点がないわけではなく,
シールの必要な部品同士の合わせ面はある程度の面積を必要とするなど,設計にある程度の制
約が加えることになる.今回行った HELIOSⅧの設計では,組み立てにしゅう動を伴わない用法
を採用することによる設計上の制約よりも,組み立てにしゅう動を伴う設計のデメリットを重
視したため,組み立てにしゅう動を伴わない設計を採用した.しかしながら,後にこのことに
よる深刻な重量バランスの問題が生じたためシールの用法,設計についても再検討が必要にな
った.現在は,HELIOSⅧの改良版としてアームの肘付近を再設計しているが,シールの方法に
ついては検討中である.
HELIOSⅧでは,メンテナンス用のハッチをアーム後部に設けているが,ここの防水処理はこ
れまで述べた方法と同じ方法を使うことはできない.それは,ボルトで固定する部品と違い,
ハッチのロック機構で得られる押し付け力が非常に小さいからである.しかしながら,現在で
はこのような開閉ハッチの防水用シール部品が市販されているため,HELIOSⅧのハッチにはこ
の市販のトリムシールを使用した(図 3-2-2-12).
上記のような,防塵防水のためにロボ
ットのボデーを密閉すると外界の気圧
変動によってロボットの内外圧差が生
まれる.この内外圧差によってハッチが
開かなくなるなどの不具合が生じ,最悪
の場合,内外圧差によりロボットが深刻
なダメージを受けることも考えられる.
そこで,半透膜を利用したベントフィル
ターをアームに設置した.これにより防
水機能を損なうことなく内外圧差をな
くすことが可能である(図 3-2-2-13).
図 3-2-2-13 装着されたベントフィルタ
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(b) テンショナー機構の設計
HELIOSⅧは移動機構としてクローラを使用しているが,クローラを用いる上で構造的な必然
性を持つ装備がクローラベルトのテンショナーである.クローラベルトのテンショナは,それ
をどのようにコンパクトに設計するかといった設計上の問題だけでなく,転輪と転輪の間のス
ペースを有効利用するための障害でもある.一方,トピー工業の新機軸クローラは,ある程度
の周長管理が可能でかつベルト自体の伸びは殆どないため,テンション調整のために転輪を大
きくストロークさせる必要がない.
そこで,HELIOSⅧでは,クローラのテンショナーにくさびを応用した機構を採用した.この
機構は,構造が単純でありしかも組み立ての過程で自動的に規定の軸間距離を出せるので軸間
距離調整が必要ないという特徴がある.
通常のゴムクローラはクローラの周長公差が大きいため軸間距離を規定するのではなくクロ
ーラのテンションを規定する方式なので,くさびを使ったテンショナー機構を採用することが
出来ないが,先に述べたとおりトピー工業製のクローラはスチールベルトをベースに使用して
いるためクローラ周長にバラつきが少なく,そのためこのようなテンショナー機構が採用でき
た.また,くさびを使う機構は調整ストロークが短いという欠点があるが,これも先に述べた
とおりトピー工業製のクローラはクローラの伸びがスチールベルトのそれと同等なので,スプ
ロケットのガイド高さが低く,従って調整ストロークが小さい.例えば,通常のクローラを用
いる HELIOSⅦで必要とされた調整ストロークが 50mm 弱(実質はその倍の 100mm 弱)だがトピー
工業のクローラを用いた HELIOSⅧではわずか 10mm である.
HELIOSⅧではトピー工業のクローラを採用しくさびを応用したテンショナー機構を装備する
ことで,クローラベルトのテンション調整がいらず,正規の手順どおり組み立てることで必要
な軸間が確保されるという優れた整備性を確保することに成功した.比較のため HELIOSⅦと
HELIOSⅧのテンション調整にかかる時間を比べてみると,HELIOSⅦではテンション調整だけに
おおよそ 30~40 分の時間を要していたが,HELIOSⅧでは 5 分足らずでテンション調整と側板の
取り付けが同時完了する.しかも,HELIOSⅦのテンション調整にはある種の慣れが必要なのに
対し,HELIOSⅧの組み立ては作業者の資質を問わず誰がやっても同じ品質が確保できる.
(C)クローラの異物噛み込み対策
災害現場で活動することを目的とする移動体(ロボット)にとって,散乱する衣服などの噛み
込みは深刻な問題である.HELIOSⅦでは,ブラシを使用することによるクローラへの異物噛み
込み対策を行ったが,HELIOSⅧでは,サイズの 3/4 化に伴い,サイズ的にブラシ機構をクロー
ラに組み込むことが設計上困難である.そこで,HELIOSⅧにおける異物噛み込み対策を検討す
ることとなった.
ブラシによる異物対策の考え方は,クローラの内部に異物が侵入することを防ぐためにクロ
ーラに側板を設け,側板とクローラの隙間を変形可能なシールドで埋めるというものである.
HELIOSⅦでは,その変形可能なシールドとしてブラシに着目して装備したが,HELIOSⅧにおい
てはブラシの取り付け部のスペース確保などサイズの問題で設計が困難であるところに問題が
ある.つまり,取り付けにスペースを要しない変形可能なシールドをクローラと側板の間に配
置することが重要となる.
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そこで,HELIOSⅧではクローラにその変形可能なシールドの役割を持たせることとした.
HELIOSⅧのクローラ端部にシールリップ形状を施し,このリップをクローラ側板壁面にすらせ
ることにより,異物噛み込みを防止するというものである.これにより,HLIOSⅧは HELIOSⅦ
と比較してクローラユニットの側板周辺構造の簡略化,部品点数の低減化に成功し,シンプル
でコンパクトな異物噛み込み機構を装備することができた.
リップ
図 3-2-2-14 クローラユニットの異物対策
(c)
通常運転時の定常電流低減化
試作した HELIOSⅧのクローラユニット第 1 次モデルの運用実験を行う中で定常電流が過大で
あるという問題が浮上した.これは,HELIOSⅧのクローラユニットに使用するシーアイ化成製
高出力コアレス DC モータ+ハーモニックドライブシステムズ製ハーモニック減速機の組み合
わせによるアクチュエータの起動電流が大きく,更に通常運用においても 3~5A 程度の電流が
定常的に必要であるというものである.これによって,HELIOS の行動可能時間仕様(30 分)を満
たすことが難しくなることが予想されるため,この起動電流及び定常電流を低減化する必要が
ある.
まず,通常走行時における定常電流が過大である原因は,ハーモニックドライブシステムズ
製ハーモニック減速機(波動減速機)の効率の低さと無負荷トルクが大きいことにある.ハーモ
ニック減速機の特長は,非常に小さいサイズにでも大減速が可能であることであるが,この大
きな減速を得るためにその特性上大きな負荷をギアにかける必要があるため無負荷トルクが大
きく,その結果として通常走行時の電流が大きいと問題を生み出している.
この対策として,減速機を見直すことによって高効率化と無負荷トルクの低減化を図り,そ
れに伴いモータの再選定を行うこととした.HELIOSⅧのプラットフォーム機あるいは実用機と
いう位置付けを考慮して,クローラユニットの低コスト化及びアクチュエータの安定調達化も
視野に入れながらの対策検討であるため,市販製品の中からの選択を大前提に置いた.
減速機の選定にあたり,減速比と減速機形式の両面から検討した.まずアクチュエータの必
要トルクを再検討することで,走行軸の減速比は 60:1 でも問題ないと判断し,この減速比であ
ればハーモニック減速機を使用しなくてもクローラユニットに納める設計が可能であると考え
たため減速機はハーモニック減速機を使用しない方向で選定作業を行った.減速比 1:60 をハー
モニック減速機以外で実現するにあたり,ギアの最終段での高トルクを許容する必要があった
88
ため,最終段にはインナーギアーを採用し,インナーギアまでの減速については,ギアードモ
ータを使用した.
この結果,減速機の高効率化と通常走行時の電流値の飛躍的な低減化に成功し,起動及び定
常電流値を 1/3 程度に抑えることができた.さらにハーモニック減速機に変わってインアーギ
アとギアードモータの組み合わせを採用したことにより,多少の軽量化も図ることができた.
表 3-2-2-1
(d)
対策前後のアクチュエータ仕様比較
項目
対策前
対策後
DCモータ仕様
最大200W
最大220W
減速機仕様
1/100
1/60
アクチュエータ質量
4kg
3kg
通常走行時の電流
3~5A
1~2A
クローラユニット内部の防水処理
HELIOSⅦでは,クローラユニット内部配線用防水処理として,専用のカバーを配置していた
が,シール等々細かい部品が多く取り付け作業等メンテナンス性も悪かった.また,クローラ
の外側に張り出すため,瓦礫等に引っかかる可能性があった.
そこで HELIOSⅧのクローラユニットでは,内部配線(図 3-2-2-15)をクローラ側板の内側に溝
を施し,そこに駆動ケーブルを配置することで非常にシンプルで低コスト化を図ることとした.
この配置で防塵,防水を実現するために,エンビパイプとコーキング処理を用いた.
今回用いたエンビパイプは 0.2mm エンビシートから製作したものである.接着はエンビ用の接
着剤(流し込み用)で行っ
たためかなり強固であり,
エンビの弾力性も失われ
ない.コーキング剤は 1
液性のシリコーンシーラ
ントを用いた.コーキング
剤は成型して硬化させる
必要があるため,そのため
の型取り用ジグを使用し
てコーキング作業を行っ
た(図 3-2-2-16)
.
図 3-2-2-15 クローラユニット内部のケーブル類
89
図 3-2-2-16 ケーブル類の防水処理
上記の防水処理の効果を実験するため,防水処理を施したユニットの周囲から 5~10 分程度
放水した.噴流の強さはホースの先端を絞って水の勢いを増す程度である,放水後,分解して
内部の浸水状況を確認したが,モータ及び中央ローラ部への浸水は認められず,先に述べた防
水の方法論が有効であるという結果を得た.
(e)
キャリアの設計
昨年度からの検討で,HELIOSⅧの積載スペースは瓦礫上 MU で想定するミッションを完遂する
機材を全て搭載するに十分ではなく,そのために機材を搭載する車両(以後「キャリア」)を HELIOS
Ⅷが押すという連結運用構想を提案してきた.連結運用自体は HELIOSⅦ開発当初からあったもの
であり,更にさかのぼれば「群龍」で既に連結運用による走破性向上が確認されている.ここで
は,HELIOSⅧとの連結運用においてセンサなどの計測機材を搭載した先頭車として運用すること
を目的としたキャリアの開発について報告する.
90
キャリアは HELIOSⅧと連結して
運用する他,自力でも移動できる
ことが望ましいため,クローラに
よる能動移動が可能となるよう計
画した.また,連結運用を考慮す
ると HELIOSⅧと移動性能において
極端な差がでることは好ましくな
い.そこで,クローラユニットは
HELIOSⅧのものから遥動軸を撤去
したものを採用することとした.
キャリア単体の走行性能だけから
考えれば遥動軸を残した方がいい
図 3-2-2-17 試作したキャリア初号機
が,それによる重量増加はサポー
トする HELIOSⅧにとって大きな負担となることが予想されるためキャリア用のクローラユニット
は出来るだけ軽くなるよう遥動軸を固定とした.ただし,キャリアに遥動軸を設けることも簡単
に出来るよう,HELIOSⅧ用のクローラユニットもキャリア用クローラユニットも取り付け部分は
同形状となるよう設計した(図 3-2-2-17).
キャリアは,搭載する装備が決定していないので,暫定的に搭載ベースとして 400mm×500mm を
用意した.今後,自己位置推定やマッピング用の装備,レーダーなどの探索装置が搭載され,あ
る程度仕様が見えてきた時点で防塵防水機能を持つカバーケースをデザインする予定である.た
だし,搭載装備の増減に伴う変更がないと考えられる走行系及びボディ下部は HELIOSⅧと同程度
の防塵,防水性能を持たせた.
(f)
HELIOSⅧ動作試験と改良
組み立てた HELIOSⅧ(図 3-2-2-18)の簡単な動作確認を行ったところ,走破性に問題があるこ
とがわかった.これは,HELIOSⅦから重量バランスが変化してクローラユニットに対するアー
ム重量が相対的に増大したため,段差乗越えなどにおいてアームで車体を持ち上げた後,アー
ムを定常位置に復帰させる際アームが持ち上がらずクローラユニットが回転してしまうという
ものである(図 3-2-2-19).そこで,検討を行った結果,クローラユニットを重くするなどの対
策も考えられたが,それではあまり意味がないためアームの軽量化を行うこととした.
軽量化の目的は,クローラユニットとアームとの重量バランスの適正化にあるので,まず軽量
化の目標数値を設定する必要がある.HELIOSⅧはアーム重量が 20kg に対し,クローラユニット
が 11kg/unit である.クローラユニットは 2 台装着しているのでアーム重量対クローラユニッ
トの重量比は 20:22 = 1:1.1 である.一方 HELIOSⅦはアーム重量が 40kg でクローラユニットが
25kg/unit であるから,アーム重量とクローラユニットの重量比は 40:50 = 1:1.25 である
91
図 3-2-2-18
以上から,HELIOSⅧのアームの適正重量は
HELIOSⅧ
22
= 17.6kg となる.現時点の HELIOSⅧは肘から
1.25
先が付いていない状態で,手首などが付くことで 1.5kg の重量増を見込んでいるので,手首な
しの現時点での目標重量は 16kg とした.
今回の試作でアーム部分は,樹脂の材料手配の都合上アルミを用いており,それが想定外の
重量増加の一因となっているので,当初の予定どおり樹脂を使用するつもりであった部分は樹
脂で製作しなおすこととした.これによって得られる軽量化の効果はおよそ 2kg と見積られる.
92
図 3-2-2-19 HELIOSⅧの重量バランス
上: HELIOSⅦのバランスでの段差上り
下: HELIOSⅧのバランスだとクローラが持ち上がる
また,防塵防水のためのシール設計として,組み立て時にしゅう動を伴わない設計を採用したが,
シール面積を稼ぐため肘周辺の部品が全体的にやや肉厚であり,ここに軽量化の余地がある.組
み立て時にしゅう動を伴なわないシール設計を採用しつつ,部品の軽量化を行うためには,手間
のかかる加工が必要であり,大幅なコストアップが考えられる.そこで,シールの方法も合わせ
て軽量化を検討しながら再設計を行っている.
更に,アームの肘に使用しているアクチュエータは 200W 仕様であるが,これはかなり出力的
に余裕を持たせて選定した結果である.アームの肘部分はいわゆる肘の他に旋回軸を有するた
め,例えば 200W 仕様のアクチュエータを 100W 仕様のものに置き換えるだけでおよそ 2kg の軽
量化を見込むことが出来る.
以上のような軽量化プランで肘部分の再設計を行うことで,HELIOSⅧのアームとクローラユ
ニットの重量バランスの適正化がなされると考えられる.
HELIOSⅧには重量バランスの他に,肘関節の可動範囲が狭いという問題がある.肘の可動範
囲は真下の姿勢から真上までと設計時に想定したとおりであるが,実際に運用してみるとその
想定が甘かったことが分かったのである.
対策としては,先に述べた軽量化再設計の際に図 3-2-2-20 に示す 2 箇所に手を入れることで
93
対処可能である.肘部分のクリアランスも肘パーツ手首側の形も肘関節に使用されているアク
チュエータ 200W の大きさの制限の下現
在の設計になった部分なので,軽量化
再設計時にここのアクチュエータを
clearance
100W に変更されることで無理のない変
更が可能となる.
shape
(g) 今後の課題
HELIOSⅧの軽量化再設計を済ませた
後にも解決すべき課題がいくつかある.
まず,HELIOSⅧの運用システムを構
築すること.特に,レスキューロボッ
トとしての遠隔操作機能は必須であ
図 3-2-2-20
るが,これまでその実装まで至って
肘の可動範囲の問題点
クリアランスと形状の見直し
いないというのが現状である.
遠隔操作のために必要な装備のうち最
も重要なものがカメラである.他のロボ
ットにおける運用上の教訓から,カメラ
は複数設置が望ましく,特に死角のない
ような配置を心がけなければならないこ
Moving camera
と,後方からの俯瞰視点を得るための工
夫が必須であり,できればアクティヴに
位置を変えることが出来るカメラが望ま
camera
しい,といったことが知られている.
そこで,HELIOSⅧについてカメラ設置
位置の検討を行った(図 3-2-2-21).今後,
具体的にカメラを設置する場所の確保,設
図 3-2-2-21 カメラ位置の検討
置方法,その上で防塵,防水性能の確保,
固定カメラと移動可能カメラ
更に移動可能カメラの架台の設計製作などを行う
予定である.
(6) 平成 17 年度の成果発表等
(a)口頭発表
特になし
(b)論文発表
特になし
(c)展示
・HELIOSⅦの展示,デモ: 防災科学研究所/IRS 川崎ラボラトリ オープンラボ, 4 月 23 日, 神
奈川県川崎市, 2005
94
・HELIOSⅦの展示,デモ: 大大特デモ,6 月 9 日~6 月 11 日,兵庫県神戸市, 2005
(d)特許
特になし
(e)その他
特になし
(7) 参考文献
特になし
95
3.2.2(2) キャリア
東京工業大学 広瀬 茂男
NPO 国際レスキューシステム研究機構 伊能 崇雄
トピー工業株式会社 津久井 慎吾
電気通信大学 松野 文俊,佐藤徳孝,井上慶重,竹内崇英
東北大学
NPO 国際レスキューシステム研究機構
大野和則
亀川哲志,城間直司
筑波大学
坪内孝司
(1)目的
(a)移動体プラットフォーム
1)牽引車両
瓦礫上あるいは地下街を探索するレスキューロボットを実用化するにあたり,要救助者探索や
3次元地図を作成するためのセンサーを搭載する移動体の開発はその中核をなす.特に本 MU では
高精度のセンシングを想定してある程度サイズの大きなセンサー群を移動体に搭載する必要があ
り,そのため移動体は搭載されるセンサー群の全重量あるいは容積に比例して大きく設計しなく
てはならない.一方で移動体が瓦礫上などを移動する場合に2次倒壊を防ぐことも非常に重要な
ファクターであり,そのためには移動体は小型・軽量な設計でなくてはならない.この移動体の
設計仕様に対して相反する2つの事項を共にみたすようにするために,本 MU では移動体に続いて
移動する従属体として牽引車両を導入し,この牽引車両が移動体により牽引されるようにするか,
牽引車両自体がある程度の自走能力を持たせるようにして移動体がこれを走破性の面でサポート
するようにする.これにより,メインとなる移動体は比較的小型で主に瓦礫などの複雑な地形の
走破に特化した設計にし,要救助者探索や3次元地図を作成するためのセンサーは牽引車両に搭
載することで,システム全体として大きなペイロードを有しつつも2次倒壊を引き起こすリスク
の小さいシステムが構成できると考えられる.そこで牽引車両としては,本 MU で使用するセンサ
ー群を搭載しうるだけのペイロードを有し,メインとなる移動体と連携して移動しうる設計が求
められる.この設計に基づいて牽引車両を製作し,本 MU の研究成果をインテグレーションする移
動体のベースとして十分な機能を提供する牽引車両を開発することが目的である.
(2)年次実施計画
平成17年度
瓦礫上情報収集ロボットの牽引車両の第一次試作モデルの製作・実験,複数連結時の
動作を考慮した連結機構の設計・製作
(平成 18年度)
瓦礫上情報収集ロボットの牽引車両の第二次試作モデルの製作・実験および実用化へ
の最終調整
(3)前年度までの成果要約
96
(a)移動体プラットフォーム
1)牽引車両
瓦礫上移動体によって牽引される車両の構想についての議論と設計検討は平成16年度から新
たに始まった.要救助者の有無・有毒物質の検知作業,瓦礫除去作業や人命救助作業など,レス
キューロボットの用途は多岐にわたり,多くの機能が求められる.しかしながら,瓦礫の隙間へ
の侵入や,瓦礫上移動・作業時の建築物の二次倒壊を防ぐため,レスキューロボットのサイズ・
重量は制限され,センサ・バッテリなどの機器の搭載箇所や積載容量は大きく確保出来ない問題
が存在する.その解決策の一つとして,リヤカーのような従属体に機能拡張機器を搭載する方法
が考えられる(図 3-2-2-22).さらにこれにより,重量物を分散配置させることが出来るように
なり,瓦礫上の移動・作業中に二次倒壊を防ぐことができると考えられる.
Obstacle
Trailer
Predecessor
図 3-2-2-22 先行体および従属体
リヤカーのような従属体の移動形態としては図 3-2-2-23 のように,①クローラ型,②ソリ型,
③車輪型,が考えられる.
Cable
(2)Sled type
(1)Crawler type
図 3-2-2-23
(3) Wheel type
従属体形状
①クローラ型
不整地移動を考慮した場合,クローラは一つの解であると考えられるが,一般建設機器・農業
機器に比べ小型でありパワーが小さいため,災害環境下での使用は耐環境性能を考慮しない場合,
瓦礫等が機体内に侵入し機器を停止させてしまう恐れがある.また,耐環境性能を考慮すると機
構も複雑になり,重量も重く,牽引抵抗が大きいと考えられる.さらに,本体と含めての移動制
御は複雑なものになると考えられる.
②ソリ型
97
ソリは接地面が大きく接地条件が変化しにくいが,すべり抵抗であるため牽引抵抗が大きいと
考えられる.また,正規の姿勢を保持していれば抵抗は少ないが,災害現場のような環境では障
害物の旋回・回避,瓦礫の乗り越えの際に機体の一部が突起に引っかかり,非常に大きな抵抗が
生じてしまうことが考えられる.さらに,転倒した際にも正規姿勢時と同様に牽引出来る様にす
るには全面をソリで囲む必要がある.
③車輪型
車輪型は構造が簡易であり回転抵抗であるため牽引抵抗は小さい.しかし,ソリ型と同様に正
規の姿勢を保持していれば抵抗は少ないが,転倒時や,不整地移動時に障害物に引っかかった場
合,大きな抵抗が生じてしまう.
このように,瓦礫上で牽引される物体としてリヤカーのような一般的な荷台が牽引されること
を想定すると,荷台の牽引に大きな負荷がかかったり,荷台のどこかに障害物が衝突して止まっ
てしまう可能性がある.そこで,牽引車両の形状として,図 3-2-2-22 のような,全面が左右一対
の半球型の車輪で囲まれた球形従属体を提案された.車輪型であるため機構も単純であり,回転
抵抗であるため牽引抵抗は小さいと考えられる.さらにこの形状であれば,機体のどの部分が障
害物に接触しても回転運動で引っかかることを避けることが出来,瓦礫上・内を滑らかに移動可
能と考えられる.一方で,球形だと柔軟地盤では多少のめり込みが発生すると思われるが,球形
荷台単体の重量は制限して,球形荷台を連結した数珠のような車体にして牽引することによりこ
の問題をある程度回避することができると考えられる.
当初の見積もりでは,球状荷台として外径が約Φ350mm の球体に近い形状,内部がΦ300mm の球
形に近い形状で,ペイロードが 10kg くらいのものが想定された.また球状の牽引車両が左右に開
閉することによって,球状牽引車両の内部に搭載されたセンサーや小型ロボットの出し入れをす
ることが考えられた.また図 3-2-2-24 に示すような数珠型球形荷台のモックアップや試作機を製
作してその基本特性を確認し,特に球形荷台の内部においてロボットに接続された導線を巻き取
るリール機構を内臓すべく,内部リール機構に用いているケーブルの偏在巻を防ぐ揺動運動生成
機構,その改良を狙った平行巻運動生成機構が考案された[Arai(2005a)] [Arai(2005b)].
(a)
図 3-2-2-24
(b)
数珠型球形荷台のモックアップ(a)と試作機(b)
98
しかしながら,本 MU では牽引車両には本 MU で使用される要救助者探索や3次元地図を作成す
るためのセンサーのみならず,他のロボット(ジャンプロボットなど),空気圧源や PC,モジュー
ル型空気圧アーム,レスキュー隊員の資機材,など非常に多くの物品を乗せることが想定されてお
り,球形だと,サイズにもよるがレスキュー隊員の資機材やモジュール型の空気圧アームなど大量
の資機材を積むことが困難となる.特にレスキュー隊員の資機材を運搬することは,現場からの
強いニーズの一つでもあるため,この問題点は球状荷台に対して非常に大きな課題となった.牽
引車両としてのメカニズムを優先するか,台車としての積載能力を優先するかについての設計指
針の決定は難しいところであり,球形荷台というマシンデザインに対して積載能力をある程度限
定するという割り切りをするという方針もあり得た.これは,いろいろなものを運べることは利
点となるが,そのことで運動性能が低下し,現場に到達できなくなるようでは当初の目的を達成
できず,球形というデザインが瓦礫内牽引台車としてはかなり理想的な形状と思われるのでこの
形状でどこまで機能性を最大化できるかというアプローチでシステムを構築するという考え方に
基づく.しかしながら,本 MU としては結局,センサー等の積載能力を重要視して,球形荷台では
なくリヤカー的な荷台を採用することとした.ただし,これを単に牽引する場合ではやはりどこ
かがスタックすると立ち往生してしまうことが想定されるため,この荷台自体に駆動系を搭載す
ることにより,荷台自体にもアクティブな自由度を持たせてこれを解消することとした.このよ
うに考えると,本 MU でメインとなる移動体「HELIOSⅧ」の足回りをそのまま利用してこれをベー
スとし,その上部を開放することで,駆動系を備えた積載能力の高い荷台を構成することができ
る.以降,この考えに基づいて製作をすすめる牽引車両を「HELIOS 台車」と呼ぶ.以上のような
経緯により,本 MU で開発する牽引車両の方向性として HELIOS 台車について設計をすすめていく
ことが最終的に決定された.
(4)平成 17 年度の目的
(a)移動体プラットフォーム
1)牽引車両
瓦礫上情報収集ロボットの牽引車両として HELIOS 台車を製作し,これを単体でもある程度運用
が可能となるように遠隔操縦システムを構築する.また HELIOS 台車を複数台連結して走破性を向
上させるための連結アームの基本設計を行う.
(5)平成 17 年度の成果
(a)移動体プラットフォーム
1)牽引車両
i) HELIOS 台車
瓦礫上情報収集ロボットの牽引車両として HELIOS 台車を構築した.HELIOS 台車は瓦礫上ある
いは地下街を移動するプラットフォームとして開発されている HELIOSⅧの足回りをそのまま利用
してこれをベースとし,HELIOSⅧの上部に特になにも設置しないで開放することで,要救助者探
索や3次元地図を作成するためのセンサーのみならず,他のロボット(ジャンプロボットなど),
空気圧源や PC,モジュール型空気圧アーム,レスキュー隊員の資機材,など搭載し得る高い積載能
力を確保する.HELIOS 台車の足回りのメカニズムは基本的に HELIOSⅧのそれと同じなので,詳細
99
については HELIOSⅧの記述を参照されたい.ただし,HELIOSⅧのクローラユニットは,対地適応
用クローラとしてクローラユニットの中心を揺動軸がありロボット本体部に対して回転する自由
度を持つのに対して,HELIOS 台車のクローラユニットはロボット本体部に直接取り付けられ,ロ
ボット本体に対して揺動するため自由度を持っていないことを述べておく.つまり,HELIOS 台車
は左右の走行クローラを駆動する2自由度のみを有する.図 3-2-2-25 に製作された HELIOS 台車
の概観を示す.
図 3-2-2-25
HELIOS 台車の概観
HELIOS 台車のスペックは,バッテリや制御用の PC を含め,重量:32 [kg],サイズ:570×520×
285[mm3]である.HELIOS 台車の上部には,500×400[mm2]のユニレート製の天板が設置されており,
この天板の上にユーザがそれぞれのセンサーシステムを自由に搭載することが可能となっている.
HELIOS 台車の使用目的に応じてセンサーシステムを置換する場合には,この天板ごと付け替える
ことによって他のセンサーシステムに置き換えることが可能である.また,HELIOS 台車は全部で
3台を製作する予定であり,この3台を数珠繋ぎに連結することにより,システム全体としての
積載能力をさらに向上させることも想定されている.
次に,HELIOS 台車の遠隔操縦システムについて述べる.現状では HELIOS 台車単体を遠隔で操
縦することが可能となっている.図 3-2-2-26 に HELIOS 台車の遠隔操縦システムの概略図を示す.
100
図 3-2-2-26
HELIOS 台車の遠隔操縦システム概略図
まず,オペレータは汎用ゲーム機用のコントローラにコマンドを入力する.HELIOS 台車で採用し
た汎用ゲーム機のコントローラは無線化されており,これにより HELIOS 台車は自立したシステム
として構築される.コントローラに入力されたコマンドは,HELIOS 台車を操作するためのノート
PC において解釈され左右のクローラの回転角速度の目標値を決定し,HELIOS 台車を制御するマイ
コンにシリアル通信を介してこの回転角速度の目標値が送信される.HELIOS 台車を制御するマイ
コンは,モータドライバに対して PWM 信号を送ってクローラを駆動させるモータを回転させ,ま
たモータに取り付けられているエンコーダのカウント値がマイコンにフィードバックされること
により,ローカルにクローラの速度制御を行っている.さらに,マイコンにより計測されたエン
コーダのカウント値や AD 変換により得られた値は HELIOS 台車操作用の PC に送り返すことにより
これをモニターすることが可能となっている.なお,採用したマイコンのコアには,ルネサステ
クノロジ製 SH2/SH7047F が使用されている.また,HELIOS 台車には 24Vのニッケル水素バッテリ
が搭載されている.
次に,HELIOS 台車操作用 PC と制御用マイコンのプログラムの処理の流れについて説明する.
図 3-2-2-27 に HELIOS 台車操作用 PC のフローチャートを,図 3-2-2-28 に制御用マイコンのフロ
ーチャートを示す.
101
図 3-2-2-27
図 3-2-2-28
HELIOS 台車操作用 PC のフローチャート
HELIOS 台車制御用マイコンのフローチャート
102
操作用 PC と制御用マイコンのプログラムはそれぞれ,メイン処理のフローと一定時間間隔ごとに
処理されるフローとで構成されている.メイン処理では主に通信関係の受信処理を行い,タイマ
ーによる処理では HELIOS 台車の制御に関係する処理やデータ送信等を行っている.操作用 PC と
制御用マイコンのどちらにおいても,通信がとぎれた場合には HELIOS 台車がストップするような
処理が施されている.特に操作用 PC の処理において,UDP を使ってジョイステックの状態を現時
点では自分自身に送信しているが,これは将来的にイーサネットを介した無線通信により離れた
PC 間で情報を伝達することを実現する際に簡単にそちらのシステムに移行できるようにするため
の処置である.また,操作用 PC と制御用マイコンはシリアル通信により,定義したプロトコルに
従ってコマンドやデータの送受信を行っている.
最後に,マイコンによる速度制御について述べる.HELIOS 台車ではユーザの速度指令目標値に
追従するように,制御用マイコンにてローカルな速度制御を実装している.速度制御は,予備実
験によりクローラを駆動する際の不感帯を測定し,これを考慮したフィードフォワードと,エン
コーダのカウント値によりクローラの回転速度を計測しこれを一般的な PD 制御でフィードバッ
クをかけたものとを足し合わせることにより実装している.図 3-2-2-29 に実装した速度制御によ
る HELIOS 台車のクローラ回転角速度の時間応答の実験結果の一例を示す.この実験により,実装
した速度制御によって十分な性能が発揮されることが確認された.
クローラ回転速度応答
10
9
目標値
計測値
8
角速度(rad/s)
7
6
5
4
3
2
1
0
-1 0
10
20
30
40
50
時刻(秒)
図 3-2-2-29
HELIOS 台車速度制御の実験結果
ii) 台車連結アーム
次に,HELIOS 台車同士を連結することにより走破性を向上させるための連結アームの基本設計
について述べる.HELIOS 台車単体では,ある程度の大きさのステップ状の段差を乗り越えようと
する場合において,台車の前方が持ち上がる際に重心位置が後ろの傾く影響で後方に転倒してし
まう.これを防ぐために,複数台の HELIOS 台車を連結して,段差にアプローチする台車の後方の
車両がこれをサポートすることにより,段差の乗り越えや登坂能力の向上が期待できる.このよ
うに,クローラ車両を連結することによって走破性の向上させることは,従来から広瀬らにより
103
提案されている方式である[Hirose(1993a)].
本プロジェクトで新たに製作する HELIOS 台車連結アームの自由度配置図を図 3-2-2-30 に示す.
本アームは先頭車両近傍にはロール・ピッチ・ヨーの 3 自由度,中間部にはピッチの 1 自由度,
後方車両近傍にはピッチとヨーの 2 自由度の計 6 自由度の構成となっている.ここで,中間部の
ピッチ軸と先導台車のロール・ピッチ,さらに後続台車のピッチ軸にはばね性を持たせるため,
ナイトハルトゴムばねを使用した設計を施している.ナイトハルトゴムばねは金属製の内外殻間
に円柱形のゴムを圧入したもので,構造がきわめて簡単であり,常に安定した性能を持っている.
また各軸にポテンショメータを取り付けることでアームの形状を確認することが可能となるよう
に設計する.図 3-2-2-30 では連結アームは HELIOS 台車の中央部に取り付けられているが,実際
にはそれ以外に HELIOS 台車の前方あるいは後方部分にも取り付けられるようにする.
ナイトハルト
進行方向
ゴムばね使用
図 3-2-2-30
HELIOS 台車連結アームの自由度配置
また,車両近傍のピッチ軸に関しては一方向のみばねの復元力が作用するように設計する.こ
れは以下の理由による.まず,段差を乗る越える際には,先頭車両がひっくり返ろうとする力(F)
が働くためにその力に反発する力(f)をばねで発生させることが望ましい(図 3-2-2-31(a)).そ
こでこちらの方向にはばね力が発生するようにする.しかし,先頭車両が段差を完全に乗り越え
た後の場合,ばねの復元力はもはや必要ではない.もしも,ばねの復元力が段差乗り越え後にも
存在した場合には,先頭車両のクローラを上方向に持ち上げる力(Fup)が発生するため,後続車両
を牽引する場合に先頭車両の前部が浮き上がってしまい満足に牽引できないからである(図
3-2-2-31(b)).後方車両に関しても同様に考え,ピッチ軸に関してはばねの復元力が一方向のみ
に発生するように設計する.
104
(a)乗り越え前
図 3-2-2-31
(b)乗り越え後
段差乗り越え時のばね性の影響
以上により設計した,アームの全体図, 先頭車両近傍の図,後方車両近傍の図を図 3-2-2-32 図
3-2-2-33 に示す.先に述べたようにピッチ軸では一方向のみにばねの復元力が発生できるような
構成になっている.
図 3-2-2-32
HELIOS 連結アーム全体図
(a)先頭車両近傍
図 3-2-2-33
(b)後方車両近傍
HELIOS 連結アーム拡大図
105
今後は HELIOS 台車連結アームにより HELIOS 台車を複数台連結した状態で全体を操舵するための
システムを構築し,また,要救助者探索や3次元地図を作成するためのセンサー等を搭載してシ
ステムインテグレーションを行い,瓦礫上あるいは地下街を探索するシステムとして完成度を高
めることが目標となる.
(6)平成 17 年度の成果発表等
(a) 口頭発表
・新井,田中,広瀬: "有線式レスキューロボットのためのリール機構を搭載した半球殻車輪移動
体の開発," ロボティクス・メカトロニクス講演会,1P1-S-073,pp.91,2005
・ 新井,田中,広瀬: "球形トレーラの開発-第2報 リール機構への応用とケーブル平行
・ 巻機構-," 計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会,1J4-3,pp.147,2005
(b) 論文発表
特になし
(c) 展示
特になし
(d) 特許
特になし
(e)その他
特になし
(7)参考文献
[Arai(2005a)] 新井,田中,広瀬: "有線式レスキューロボットのためのリール機構を搭載した半
球殻車輪移動体の開発," ロボティクス・メカトロニクス講演会,1P1-S-073,pp.91,2005
[Arai(2005b)]新井,田中,広瀬: "球形トレーラの開発-第2報
リール機構への応用とケーブル
平行巻機構-," 計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会,1J4-3,pp.147,2005
[Hirose(1993a)] 広瀬,白須,福島: "自律協調ロボット「群龍」の提案," 第11回日本ロボッ
ト学会学術講演会, 1212, pp.3-6,1993
106
3.2.2(3)瓦礫踏破能力を飛躍的に高める跳躍・回転移動体の開発
東京工業大学大学院
塚越秀行,木村大地
Eyri Watari,呉海帆,
北川
能
(1)目的
災害で半壊した家屋内の瓦礫上層部から生存者を探査する際,前述のアーム付クローラは瓦
礫を取り除きながら移動するのに有効である.しかし,クローラ式探査ロボットでは踏破しきれ
ない凹凸面に遭遇した際,さらに高い踏破能力を有する小型探査機が求められる.その実現措置
として,本研究では,クローラに予め搭載された小型軽量サイズの移動体により,可能な限り大
きい障害物を効率的に踏破するための i)移動形態の検討と設計,ii)跳躍および投擲高度や回
転踏破能力の向上,iii)跳躍時用の高密度流体エネルギー源の開発を行い,iv)捜索作業の支援
を目指す.
(2)年次実施計画
平成17年度
親機から投擲される子機探査ロボットの回収機能の向上と,投擲落下地点よ
りさらに遠方に移動する手段の検討.
投擲および跳躍用携帯空圧源の性能向上.
(平成 18年度)
子機探査ロボットへの実践的な探査機能・情報伝達機能の搭載.
大型親機への実装.
瓦礫フィールド上での検証実験とレスキュー隊員に使用しやすい機能への
改善.
(3)前年度までの成果要約
平成14年度
跳躍と回転運動を行える駆動機構の決定.
姿勢復帰を行うための構造の検討.
跳躍高度を高めるためのシリンダ設計手法の考察.
回転踏破能力を高めるための車輪構造の検討.
1
2
3
4
5
6
図 3-2-2-34
跳躍・着地・転倒後,俊敏に姿勢復帰を行う Leg-in-Rotor II .
107
平成15年度
跳躍高度を高めるためのロッド先端構造の検討.
跳躍高度を高めるための跳躍姿勢の検討.
跳躍タイミングの最適化.
着地時衝撃緩和構造の検討.
携帯空圧源の開発.
図3-2-2-35
ラジコンにより1mを跳躍するLeg-in-Rotor IV.
図 3-2-2-36
平成16年度
平地とガレ場での跳躍.
跳躍・回転移動体の探査範囲を広域化するために,探査センサユニットを投
擲・回収する機能を付加.
投擲にも使える空圧源の改良.
図 3-2-2-37
探査子機の投擲・回収機能を有する親機ロボット.
108
A
B
J
C
D
263
E
F
G
H
I
Φ94
図 3-2-2-38
CO2 の三重点を利用した大容量携帯圧力源.
(4)平成 17 年度の目的
投擲・回収型探査機は,探査機能を搭載した子機ロボットを親機が投擲し,それを回収する過程
で探査情報を取得するコンセプトに基づいて設計されたロボットである.
子機回収時に生じる最大の問題は子機ロボットのスタックであり,これを回避することが本研
究の最大の目的である.また,投擲された子機ロボットをその落下地点よりさらに遠くを探索する
場合に有効な移動手段を探ることも目的としている(図 3-2-2-39).
図 3-2-2-39
投擲式跳躍・回転移動体の大型親機との動作連携イメージ.
(5)平成 17 年度の成果
スタックを回避する手段として,回収用のチューブを牽引する力以外にエネルギーを必要とし
ない受動的回避方法と,新たなエネルギーを要する能動的回避方法とに大別して検討を行った.
受動的回避方法として,子機周部に受動車輪を設けることにより回収時の牽引力を軽減でき,そ
れによりスタックも回避できる可能性があがることを確認した.また,親機と子機をつなぐ空圧チ
ューブに関してもより望ましい材質の考察も行った.
能動的回避方法として,子機周部に能動車輪と内部に空圧シリンダを設け,それらを適時に駆動
することによりスタック回避が有効であることを確認した.また,このような機能は,落下地点よ
109
りさらに遠方に移動するときにも同時に有効な移動手段として兼用できることも確認された.
これらの結果をふまえて,探査機能を搭載した子機ロボットの試作機を製作した.大きさは直径
約100mm,重量は約330gとなった.製作した子機で実験をして搭載した能動回避機能が実
際に機能することを確認した.また,能動車輪とシリンダでの跳躍により子機が投擲された場所よ
りもさらに奥に進めるようになったので,子機の探査範囲がひろがった.以下に,それらの具体的
成果について述べてゆく.
(a) スタックの受動回避
スタックの回避方法にはエネルギーを使わない受動的回避方法とエネルギーを使う能動的回避
方法との二つに大別できる.前章でクレバス型は能動回避でないとむずかしそうだとわかったの
で,まずは本章でコーナー型を受動的に回避する方法を検討していく.
1)
球と円錐の比較
まず,一般的にスタックしにくいと思われる形状である球と円錐にチューブをつけてコーナー
型で牽引する実験をおこなった.
図 3-2-2-40
球・円錐など形状に依存する回収抵抗の相違.
図 3-2-2-40 のようにコーナー型の障害物において,同じ質量の二つを牽引するのに必要な力は
円錐のほうが大きいということが明らかになった.
2) 受動車輪
球形のままだと子機を回収するとき摩擦がかなり大きくなってしまう.それを解決するために
真中にカメラを入れられるだけのスペースを設け,その両脇にスムーズに回転できる車輪を取り
付けた.この車輪は回収するときに受動的に回転することになるので受動車輪と呼ぶことにする.
子機の中心に車軸を設けその軸にベアリングでスムーズに回転できるような車輪をつけた.車輪
はプラスチック製でそのまわりを衝撃吸収用のスポンジでおおってある.さらに車輪の間の隙間
になるべく物が入り込まないようにプラ板でシールドした.この状態で子機の重量は120gで
あった.
この子機の受動車輪の有効性を確かめるために子機の質量を変化させて車輪を回転できる状態
とできない状態で(図 3-2-2-41)のような障害物を乗り越えるときの牽引力の最大値をデジタルフ
ォースゲージで測定し検討を行った.
110
図 3-2-2-41
ダンボール箱とプレートでの牽引力測定実験
図 3-2-2-42
横向きでのスタック
しかしこの受動車輪は縦方向には回転できるが横方向には回転できないので,(図 3-2-2-42)のよ
うに横方向になってしまうとスタックしてしまうこともあった.
3) 多輪の受動車輪
前節で述べた受動車輪では横方向でスタックしてしまう可能性があった.これは車輪が横方向
に回転できないこともあるが,衝撃吸収用のスポンジとプラ板との間に障害物が入り込んでしま
うことも原因としてあげられる.
これを解決するためにスポンジでシールドと衝撃吸収の両方の役目を果たすようにし,その両
脇に小さな車輪を計12個リング状にとりつけた.
111
図 3-2-2-43
多輪の受動車輪子機
図 3-2-2-43 が実際に製作した多輪の受動車輪子機である.この子機を使って前節で行った実験と
同じ状況で子機を回収できるかどうか実験した.
図 3-2-2-44
横向きからのスタック回避
図 3-2-2-44 の連続写真のように横になった状態からでもスタックせずに回収することができた.
前節の受動車輪子機のようにチューブの根元が車輪の間に入り込むことなく,大きい車輪よりも
小さい個々の車輪のほうがこの場合回転しやすいためスムーズに横になっている状態から復帰で
きている.なお,このように子機の重心を中心からずらしたので子機は重心のあるほうに傾き復帰
しやすくなる.
(b) スタックの能動回避
1)
能動車輪
子機についている車輪をモータで回転させることによりスタックを回避することを提案する.
これを受動車輪に対して能動車輪と呼ぶことにする.
図 3-2-2-45
能動車輪のスタック回避イメージ
112
図 3-2-2-45 は能動車輪によるスタック回避のイメージ図である.チューブは通れるけれども子機
は通れないようなクレバス型の障害物を横からみた断面図である.この状態でチューブにある程
度の張力を持たせて子機の車輪を左図のように回転させてやると,右図のように子機は障害物を
登ってスタックを回避できると思われる.
図 3-2-2-46
子機障害物登り時の力図
図 3-2-2-45 において T は張力,N は障害物からの垂直抗力,τは能動車輪のトルク,μは障害物と
車輪の静止摩擦係数である.
横方向の力の釣り合いにより
T = N
縦方向では
mg ≤ μN
の不等式が成り立ち,また
μNr ≤ τ
の不等式も成り立つので,張力 T は
mg
τ
≤ T ≤ μ
μr
で表される範囲内にあればよいということになる.また,子機が障害物を上れるためには
τ ≥ mgr
・・・(3-2-2-1)
であることが必須であることもわかる.
図 3-2-2-46 のような実験では車輪が回転する方向とスタックを回避できる方向が一致してい
るので問題なかったが,もし一致していない場合はどうだろうか.しかしステアリングをきること
ができて他の障害物などでステアリングの障害となるものがないような状態であれば,子機はそ
の場で回転して車輪の回転方向とスタックを回避できる方向とを一致させることができると思わ
れる.
113
図 3-2-2-47 子機の方向調整イメージ
図 3-2-2-47 のように子機をその状況に応じて車輪を回転させてやればクレバス型のスタック
でもかなりの確率でスタックを回避することができるはずである.
2)
タンク内蔵式磁性ブレーキシリンダ
子機に搭載するシリンダには投擲用に筆者らが開発した経緯のある磁性ブレーキシリンダを導
入することにした.子機とつなげるチューブは最大直径がΦ4のものしか選べないためシリンダ
の有効断面積が小さくなってしまう.よって空気を供給する有効断面積が小さくても問題ない磁
性ブレーキシリンダを選んだ.
これはロッド,シリンダ,永久磁石,タンクから構成される.ロッドの後端部には鉄板が取り付け
られており,初期状態では永久磁石によって吸着されている.タンクに空気を入れはじめるとロッ
ドとシリンダの間はOリングによって密閉されているため空気が入るにつれてタンク内の圧力が
上昇する.タンク内の圧力とシリンダ内の断面積の積が磁石の吸着力を上回るとロッドが磁石か
ら離れてロッドが伸びる.ロッドをもどすときは,タンク内の空気を抜く.するとロッドはゴムに
よって初期位置に戻され再び磁石に吸着固定される.
しかし,以前筆者らが開発した磁性ブレーキシリンダはタンクや継ぎ手がかさばり子機に搭載
するには大きな構成となる.そこで,継ぎ手をつかわずにタンクをシリンダと一体化させた新しい
磁性ブレーキシリンダを開発した.
図 3-2-2-48
タンク内臓式磁性ブレーキシリンダ
図 3-2-2-48 は最初に開発したシリンダである.一番外側の部品がタンクとなっておりその内側に
114
従来のシリンダがある.シリンダの後端部にはリング型の永久磁石がありロッド後端部の鉄板と
吸着している.なおシリンダ先端部にはロッドが伸びるときにロッド前方部の空気が抜けるよう
に穴が空いている.
しかし,このシリンダに用いた磁石の吸着力は30N(公称値)ということであったが実際に測
定してみると10Nほどと小さく,シリンダのタンク内の圧力があがるまでロッドを保持できず
シリンダの性能はあまり良くなかった.そこでもっとタンク内の圧力が高くなってもロッドを保
持できるように永久磁石をもっと強いものにすることにした.開発したシリンダは,全長90mm,
重さ約110gとなった.シリンダの内部には大きな磁石を入れることができないので以前と同
じ磁石を2個だけつけることにし,ロッドの先端部を磁石で保持することにした.ロッドの先端部
を鉄板に変え,シリンダの先端部に磁石を固定するための部品をとりつけロッド先端部の鉄板を
磁石ではさみこむようにした.この改良により,ロッドはタンク内の気圧が 2.5 気圧になるまで磁
石により保持されるようになった.
前節の能動車輪のところで触れたが,もし車輪の回転方向とスタックを回避できる方向が一致
してないでさらにステアリングもきれないような状態でスタックしてしまうという可能性もある.
そのような状態になってしまうことも想定しシリンダによるスタック回避を提案する.
図 3-2-2-49
シリンダでのスタック回避イメージ
スタックした状態ではほぼ間違いなくチューブの根元付近は障害物と接していることが実験を繰
り返してわかった.つまり子機とチューブがつながっている付近をシリンダで打ち出すことによ
りスタックした状態を改善させることができると思われる.もし改善することができなくてもス
タックした状態を少なくとも変化させることはできる.
図 3-2-2-49 のようにスタックしてチューブをゆるめた状態でシリンダを打ち出すことにより,
チューブ根元付近をシリンダが蹴ってスタックした状態から抜け出すことができる.
115
図 3-2-2-50 壁を蹴ってスタック回避
図 3-2-2-50 のように横方向にかたむいたままスタックしてしまって能動車輪も効果がないよ
うな場合シリンダを使って回避をすることも確認できた.チューブは同じ位置のままなので結局
はまた同じ障害物のところにもどってきてしまうのだが,そのときは能動車輪が使えるように注
意して回収すればよい.
子機に搭載したカメラはZTV
ELECTRONICS社製のZT―802A.ワイヤレス
でカラー画像を得られマイクも内蔵しているので音声もひろえる.大きさは20×20×20mm
で重量は約20g.電源電圧は9V.
図 3-2-2-51
開発した跳躍・回転移動も可能な子機ロボット
(c) 投擲・回収時の子機ロボットの動作
子機にはスタック回避用の能動車輪をつけるのであるが,その能動車輪は基本的にはギアとモ
ーターに直結しているため受動的には回転しない.しかし,回収する時には車輪が受動的に回転す
ることが望ましい.これを解決するクラッチのような機能をこの小さい子機に搭載するのは困難
なので,子機を図 3-2-2-51 のような機構にすることで解決することにする.
このように受動車輪・能動車輪を配置すると普段の回収時には受動車輪が接地し,スタック時に
116
はチューブの根元付近の能動車輪が接地することになる.これで普段の回収時には受動車輪で移
動し,スタック時には能動車輪を回転させることで回避することができる.
(図 3-2-2-51)が実際に製作した子機である.子機をつなぐチューブに沿うようにしてシリンダを
配置しその両脇に受動車輪をとりつけた.こうすることでスタックしたときには障害物に能動車
輪やシリンダが障害物面に接触することになる.
なお能動車輪に用いたモータは栄42D,直径がΦ12mm と小型でありながら3300gcm と
高トルクを誇る.さらにモータ軸からギアを介して車輪へ動力をつなげるのだがこのときのギア
比は約3:1であり,これにより能動車輪のトルクは1Kgcmとなる.これは式(3-2-2-1)を
満足している.この製作した子機の能動車輪でどれだけクレバス型の障害物に対して効果がある
のか実験を行った.
図3-2-2-52
開発した子機探査ロボットを投擲・回収したときの様子
投擲後にケーブルを引き寄せて子機を回収した.最も牽引力を必要とする障害物上部において
受動車輪が効果的に回転し,抵抗を減らしていることを確認した.その結果子機を移動体親機に
回収することができた(図3-2-2-52).
回収時のカメラ映像より,子機が移動してカメラの視野が広がり,被災者の発見確率が向上し
ている事が確認された.
図 3-2-2-53
クレバス型障害物
117
図 3-2-2-53 のようなクレバス型の障害物をつくり製作した子機でこの障害物を乗り越えられる
かどうか実験した.
図 3-2-2-54
クレバス型障害物を乗り越える子機
子機を牽引する張力を適度に与えてやると図 3-2-2-54 のようにこの障害物をのぼって乗り越
えることができた.これによりほとんどのクレバス型の障害物で能動車輪は有効だと言える.
このシリンダを子機に搭載した.先に示したようにクレバス型の障害物をのぼらせる実験を行
ったが,このクレバス型の壁の途中に障害物を置いてこれをシリンダで回避できるかどうか実験
をした.
図 3-2-2-55
クレバス型の壁に障害物を置いた場合
障害物は高さ3cm程度のアルミボックスを用いた.そのままだと図 3-2-2-55 のように障害物
のところでスタックしてしまった.
118
図 3-2-2-56
障害物のある壁のぼり
図 3-2-2-56 のように子機を牽引して壁をのぼっているときでもシリンダを使うと多少浮き上が
って障害物を乗り越えてスタックを回避することができた.このように能動車輪とシリンダを用
いることでスタックを回避する可能性をあげることができた.
小型でありながら非常に大きな性能のシリンダの開発に成功したのでこれをスタックの回避だ
けでなく子機の移動,すなわち子機の跳躍にも用いることにする.
図 3-2-2-57
シリンダによる前方への跳躍
シリンダを斜め下に向けて打ち出すことにより子機を斜め前方へ跳躍させることに成功した
(図 3-2-2-57).跳躍できる高さは50cm程度とあまり高くはないが,倒壊家屋内などの不整地
ではこのような跳躍は車輪による移動よりも有効である.これにより子機は災害現場において能
動車輪とシリンダの跳躍により投擲された箇所よりもさらに奥に進むことが可能になり探査範囲
119
がひろがることになる.
(d) ドライアイスパワーセルの流量特性
Dry ice Power Cell の圧力容器内に 430g のドライアイスを収め,0.42[MPa]の圧力下の連続的
な供気流量と持続時間を実験により調べた.このとき,供給流量は,図 3-2-2-58 のようにして調整
した.その結果は,図 3-2-2-59 に示すように,0.4[NL/min](0.53W)以下の小流量の場合,断熱状態
のままで(off zone),約 8 時間の連続流量を提供できるのに対して,0.4NL/min~4NL/min(5.3W) の
場合,圧力容器と伝熱容器を接触したり離したりして(on/off zone),1~8 時間提供でき,4NL/min
以上の場合,伝熱状態のまま(on zone)でも,途中で液体がなくなるので,そこで流量提供を一旦停
止し,再び残りの固体を液化する必要がある.ここで,0.4[NL/min]と 4[NL/min]は,分離状態及び
接触状態における伝熱流量が流出流量を気化させる熱量に等しい点である.
中流量
(0.4<Q<4NL/min)
小流量
(Q<0.4NL/min)
大流量 (Q>4NL/min)
図 3-2-2-5 ドライアイスパワーセルの流量調整法
分離と接触状態を繰り返し
分離状態だけ
図 3-2-2-58
接触状態だけ
ドライアイスパワーセルの流量調整法
4
0
4
186
282
138
76
0
4
233
400
233
107 60 39 24 18 10
2
Pressure(kgf/cm )
0
4
0
4
296
730
302
450
929
289
473
0
4
1108
0
4
1436
176
0
4
141 89 55 33
52
51
0
4
0
0
1
6L/min
2772
5L/min
2
3424
4L/min
3L/min
6639
6639
2L/min
8452
8452
1L/min
3
4
5
6
Time(s)
図 3-2-2-59
2271
5384
5384
0
4
7L/min
2021
接触 状態の平衡点
3373
10L/min
1564
142 82 51 53 25
393
15L/min
1114
122 63 37 14
1087
20L/min
801
56 31 20 12
三重点における流量と圧力維持特性
120
7
8 x103
(6)平成 17 年度の成果発表等
(a)口頭発表
。Hideyuki Tsukagoshi, Masashi Sasaki, Ato Kitagawa, and Takahiro Tanaka: " Design of
a Higher Jumping Rescue Robot with the Optimized Pneumatic Drive," Proceedings of
the 2005 IEEE ICRA, 1288-1295(2005)
。Hideyuki Tsukagoshi, Masashi Sasaki, Ato Kitagawa, and Takahiro Tanaka: " Jumping Robot
for Rescue Operation with Excellent Traverse Ability," Proceedings of ICAR2005,
841-848(2005)
。Hideyuki Tsukagoshi, Yotaro Mori, Masashi Sasaki, Takahiro Tanaka, Ato Kitagawa: "
Design of a Higher Jumping Rescue Robot for Debris-filled Environment," Proceedings
of First BIT-TIT Joint Workshop on Mechanical Engineering, Beijing China, 40-48(2005)
。塚越
秀行,Eyri Watari,木村
開発,"
大地,北川
能: "投擲・回収型人命探査機-探査子機の
計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会,(CD-ROM) 1J4-2
(2005)
。塚越
秀行,木村
子機の開発,"
大地,渡
永利,北川
能: "投擲・回収型人命探査機における探査用
計測自動制御学会 2005 産業応用部門大会第6回流体計測制御シンポジウ
ム講演論文集,48-53(2005)
。塚越 秀行,田中 崇裕,木村
大地,北川
能: "倒壊家屋内での広域探索を目指した投擲・
回収型移動体の開発 -第2報- 投擲距離の向上策,"
日本機械学会ロボティクス・メ
カトロニクス講演会'05, 1P2-S-096 (2005)
(b)論文発表
。 Hideyuki Tsukagoshi, Masaki Sasaki, Ato Kitagawa, Takahiro Tanaka: " Numerical
Analysis and Design for a Higher Jumping Rescue Robot Using a Pneumatic Cylinder, "
Trans ASME, Journal of Mechanical Design, Vol.127, No.3, 308-314, 2005
。塚越 秀行,小山 輝憲,北川 能:"人命探査を目指した土内推進ホースの開発(挿入抵抗
の軽減と方向操舵の検討, " 日本機械学会論文集(C 編),
。北川
能,呉
海帆,塚越秀行,朴
71 巻, 704 号, 1334-1341,2005
聖煥: "三重点における相変化を利用した携帯空圧源
の開発," 日本フルードパワーシステム学会論文集, 36 巻,6, 158-164,2005
(c)展示
。2005 年
国際ロボット展: 11 月 30 日~12 月 3 日, 東京ビッグサイト, 2005
(d)特許
特になし
(e)その他
特になし
(7)参考文献
特になし
121
3.2.3 ロボットモジュール
3.2.3(1)
空気圧アームモジュール
東京工業大学
精密工学研究所
健嗣
佐々木
高宙
知能システム科学専攻
川嶋
メカノマイクロ工学専攻
永井
崇之
(1)目的
クローラ型ロボットの手先部として,空気圧ゴム人工筋を用いたアームモジュールを提案
する.空気圧アクチュエータを用いることで軽量化が期待でき,また対象物との柔軟な接触
が必要なときに有効であると考えられる.
(2)年次実施計画
平成17年度
(平成 18年度)
空気圧ゴム人工筋を用いた 2 自由度アームモジュールの開発
モジュールの実装
(3)前年度までの成果要約
著者らは,土砂崩れなどの自然災害の復旧作業において人に代わり建設機械を操縦するロボ
ットシステムの開発を目的とし,平成 14 年度においては軽量で高出力な 6 自由度空気圧ロボ
ットアームを開発した.この 6 自由度空気圧ロボットアームを用いて建設機械のレバー操作を
行い,掘削作業を行えることを実験によって確認した.[Kawashima(2004a)].また,平成 15
年度には制御機器,電源類,空気圧機器をまとめた制御ボックスを製作し,無線 LAN を用いた
建設機械遠隔操縦システムを開発した.このシステムを用いて建設機械の遠隔操縦試験を行っ
た.また,建設機械を直接操縦した場合と空気圧ロボットシステムを用いて遠隔操縦を行った
場合とで作業時間を比較し,開発したシステムの有効性を確認した[Kawashima(2004b)].
平成 16 年度は,これまで製作した空気圧ロボットアームの手首部を応用し,2 自由度アーム
モジュールの製作を行った.関節駆動部の可動範囲を広げるため,新たにワイヤーエンコーダ
を用いた手首角度検出方法や,球面ジョイントを採用し関節部の簡素化も同時に行った(図
3-2-3-1).
図 3-2-3-1
空気圧アームモジュール
122
(4)平成 17 年度の目的
空気圧アームモジュールの製作及び応用実験
(5)平成 17 年度の成果
はじめに低圧で高い収縮率の得られるマッキベン型空気圧ゴム人工筋について見当を行っ
た.2 種類の空気圧ゴム人工筋を図 3-2-3-2 に示す.上は今回新たに用いたマッキベン型空気
圧ゴム人工筋で下が従来用いていた繊維一体型空気圧ゴム人工筋である.2 種類の人工筋の圧
力-収縮率特性を図 3-2-3-3 に示す.図からマッキベン型空気圧ゴム人工筋は繊維一体型に比
べ低圧で同程度の収縮率を得られることがわかる.従って,駆動の際に繊維一体型に比べ空気
の供給量が少なくてすむ利点がある.そこで今回このマッキベン型空気圧ゴム人工筋を用いた
2 自由度アームモジュールを新たに製作した.
図 3-2-3-2
空気圧ゴム人工筋(上:マッキベン型,下:繊維一体型)
0.3
0.25
0.2
new 0.5[kg] Press
new 0.5[kg] Depress
new 2.0[kg] Press
new 2.0[kg] Depress
FESTO 0.5[kg] Press
FESTO 0.5[kg] Depress
FESTO 2.0[kg] Press
FESTO 2.0[kg] Depress
ε
0.15
0.1
0.05
0
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
-0.05
P [MPa]
図 3-2-3-3
空気圧ゴム人工筋の特性
123
0.6
0.7
新たに製作した 2 自由度アームモジュールを図 3-2-3-4 に示す.高い収縮率が得られること
から,全長 400 [mm]以下で 2 自由度とも 45°駆動可能である.重量も約 1 [kg]と既存のモジ
ュールと同程度となった.図 3-5-3-5 に関節の応答試験結果を示す.1Hz までの運動につい
て良い追従性を示すことを確認した.
2 自由度モジュールの応用として,モジュールを組み合わせ図 3-2-3-6 左に示すように 6 自
由度ロボットアームを構築した.モジュールアームは固定フレームをあわせても約 5 [kg]程
度と非常に軽量である.このアームをバケット容量 0.25[m3]の一般建設機械に搭載し遠隔操縦
実験を行った(図 3-2-3-6 右).
20
φ1ref
φ1
φ2ref
φ2
φ2[deg]
-20
0
-20
20
20
γ[deg]
γ[deg]
φ2ref
φ2
20
0
0
3
0
-20
20
-20
φ1ref
φ1
20
0
-20
φ2[deg]
空気圧アームモジュール
φ1[deg]
φ1[deg]
図 3-2-3-4
γ1ref
γ1
γ2ref
γ2
4
0
-20
5
t[s]
図 3-2-3-5
6
7
8
γ1ref
γ1
γ2ref
γ2
4
6
t[s]
モジュール応答実験(左:0.5 Hz,右:1 Hz)
124
8
10
図 3-2-3-6
モジュールアーム及び建設機械への搭載
実験は図 3-2-3-7 左に示すような手順で走行,掘削試験を行った.その結果を図 3-2-3-7
右に示す.遠隔操縦および直接操縦の作業時間の比較を示している.この結果より,有人の場
合(Exp.3)と比べた遠隔操縦の作業時間はおよそ 2.0 倍であった.この差の原因の一番は握
り替え動作にある.有人の実験では握り替えの時間が 0.0[s]であるのに対して,遠隔操縦で
あると一回の握り替えに 15[s]程度必要となる.今回の実験の工程では握り替えが二回行われ
る(図 3-2-3-7 左の②と⑦)ので,単純に 30[s]の時間を浪費していることになる.
握り替え動作以外での作業時間の差の理由としては,建設機械のレバーの操作感が指示器と
して用いているジョイスティックに伝わらないことが挙げられる.直接操縦する場合には操作
者が直接レバーを握っていることから,操作者がレバーからの反力を感じることができる.し
かし,現在の遠隔操縦のシステムでは,指示器側にロボットアーム受けるレバーからの反力を
返していない.したがって,操作者は目視によるバケットやキャタピラの動きから操作を行わ
なければならない.操作感の提示は今後の重要な課題の一つと考えている.
この実験によりモジュールユニットの有効性を確認した.今後の課題としては,モジュール
の関節駆動部及び他モジュールとの連結部の剛性を高めることが挙げられる.
140.0
120.0
119.3
Subject 1
111.0
Subject2
100.0
80.0
55
60.0
40.0
20.0
0.0
Remote Control
図 3-2-3-7
実験手順及び実験結果
125
Direct Operation
(6)平成 17 年度の成果発表等
(a)口頭発表
・川嶋,佐々木:”建設機械遠隔操縦用空気圧ロボットシステム-操作者への視覚情報の提供
-,“ 平成 17 年度春季フルードパワーシステム講演会,pp.41-43, 2005
・川嶋,佐々木:” 空気圧ゴム人工筋を用いた建設機械遠隔操縦システム-作業効率向上のため
の改良-,“ ROBOMEC05, 2005
・川嶋,佐々木: ”Remote Control of Ordinary Backhoe Using Pneumatic Robot System,“ The
First JTU-TIT Joint Workshop on Creative Engineering - Mechanics, Control and Advanced
Robotics, 2005
・川嶋,佐々木: ” Remote Control of Ordinary Backhoe Using Pneumatic Robot System,“ the
Sixth JFPS International Symposium on Fluid Power Tsukuba 2005, 2005
(b)論文発表
・川嶋,佐々木: “Development of a Remote Control System for Construction Machinery for
Rescue Activities with a Pneumatic Robot,” Advanced Robotics,20-2,pp.213-232,2005
(c)展示
・Robot System Using Pneumatic Artificial Rubber Muscle (展示): 第 21 回フルードパワ
ー国際見本市, 8 月 30 日~9 月 2 日, 東京ビッグサイト, 2005
(d)特許
特になし
(e)その他
特になし
(7)参考文献
[Kawashima(2004a)] Kenji KAWASHIMA, Takahiro SASAKI, Toshiyuki MIYATA, Naohiro NAKAMURA,
Masato SEKIGUCHI and Toshiharu KAGAWA : "Development of Robot Using Pneumatic Artificial
Rubber Muscles to Operate Construction Machines," Journal of Robotics and Mechatronics,
Vol.16, No.1, pp.8-15, 2004
[Kawashima(2004b)] Kenji KAWASHIMA, Takahiro SASAKI, Toshiyuki MIYATA, Takayuki NAGAI,
Kazuhiro CHAYAMA, Toshio MORI, Akira FUJIOKA: "Field test of Remote Control System for
Construction Machines Using Robot Arm," Proc. of IEEE/CCA, pp.1171-1176, 2004
126
3.2.3(2) 防塵・防水・防爆システ
長岡技術科学大学
東京工業大学
木村哲也,山本学
川嶋健嗣,佐々木高宙
(1)目的
レスキュー活動が行われる場所は,洪水や火事,地震などで倒壊した家屋などであり,水,埃,
可燃性ガスなどが多量にある特殊な雰囲気であることが想定される.一方,ロボットは電子機器
やアクチュエータなどの精密部品の集合であり,清浄な室内での使用を前提とした機器を基本と
して構成されている.そのため,レスキューロボットには耐環境性を付加することが必須である.
現在,防水カメラ,防爆モータなどの耐環境製品が存在し,それらの多くは一つもしくは二つの
環境に対応している.しかし,レスキュー現場において求められる耐環境性は複合している場合
が多い(例:火災現場
耐火,防爆,耐爆,防水,放熱など).また,不慮の事態に備えるために
は,ある程度の広い耐環境性が必要である.しかし,全ての耐環境性をレスキューロボットに実
装するには複雑な設計と多額の予算が必要となる.よって想定した環境に対し,最適な耐環境性
を柔軟に付与する耐環境ユニットを開発することが望まれている.
実際のレスキュー現場で利用するためには,開発する耐環境ユニットは既存の国際安全規格や法
律で定められた条件・規格に準拠することを考慮する必要がある.よってここでは既存規格,法
律に基づき耐環境ユニットの開発を進める.
(2)年次実施計画
平成 17 年度 防塵・防水・防爆ユニット試作
平成 18 年度 耐環境ユニットの設計手順の確立と瓦礫上情報収集ロボットへの実装
(3)前年度までの成果の要約
i) 考慮すべき耐環境性能の考察
耐環境性能としては,次のものが考えられる:防塵,防水,防爆,耐放射線,耐化学薬品,耐衝
撃.ここで開発するレスキューロボットは一般家屋,デパート,駅内外等での活動を想定してい
るため,防塵,防水,防爆を主として考慮することにする.耐衝撃性も実用上は重要であるが,
ロボット本体の構造と密接に関係するため,ここでは考慮しないこととする.考慮すべき耐環境
性能の詳細を以下に示す.
①防塵
ロボットには多くの回転,往復運動を行う部分が存在する.その部分に粉塵が進入すると,摩擦
増加による振動,焼付け,応力による変化などを起こし運動部分が破損する可能性がある.また,
粉塵が電気回路に付着することで回路の短絡が生じる可能性がある.倒壊家屋では大量の瓦礫,
127
粉塵が予想されるため,防塵性の考慮がレスキューロボットでは必要である.
②防水
ロボットの制御には電気信号が使用されているため,防水性を持たないロボットは水がある環境
では短絡が起きる可能性があり,活動できない.倒壊家屋では水道管の破損や消火活動が予想さ
れるため,防水性が必要である.
③防爆
ロボットが所有する電子回路,アクチュエータ,センサ類は一様に発熱する.特に電気モータ(D
Cブラシ形)は火花を発生する.倒壊家屋ではガス管の破損が予想されるため,防爆対策が必要
であると考える.特殊なケースとして粉塵爆発の可能性も一部考慮する必要がある.
ii) 耐環境機器規格の調査
①防塵・防水
防塵・防水性機器を保証する国際規格として IEC(International Electrotechnical Commission)
60529が存在する.通常,簡易的に保護特性記号(IPコード,International Protection
Code)と呼ばれる表記法で表される.
これは,数字が大きくなるほど要求される機密レベルは高くなる.倒壊した一般家屋では微細な
粉塵の拡散は考え難く,また,ロボットが水没するような水溜りが出来る可能性は低いため,IP-55
を機密の目安として考えている.
②防爆
防爆規格についても同様の IEC 規格が存在する.
防爆規格は爆発(燃焼)の原理を次のように利用している:一般的に物質の燃焼には三つの要素
が必要であると考えられている.燃焼のための触媒,燃焼反応の切欠となる着火源,燃焼可能温
度であり,いずれの一つが欠損した場合,燃焼は起こらない.即ち,上記規格は三要素の一つを,
ケーシングなどで隔離すれば爆発しないことを示している.また,爆発を起こしても衝撃波をケ
ーシング内に留める構造を示している.
以上から,防塵・防水・防爆を満たすには,機器と外部環境の接触を断つのが効果的である.た
だし,過剰な外部遮断は信号通信,電力供給,動力伝達,放熱などを阻害し,また,メンテナン
ス性を低下させるため,想定する環境に最適な気密性を選定する必要がある.いくつかの試作ユ
ニットを利用して,実用性の検討を進めた.
iii) 耐環境ユニットの作成
内部に格納する機器によって,耐環境ユニットに要求される項目は異なる.この要求項目に従い,
耐環境ユニットを作成する.現在は,共通項目である気密性,放熱性の効率化について必要な実
験データを収集し,体系的なユニット
①防塵・防水ボックス
②内圧機構
③放熱機構
・空気冷却
・ペルチェ素子による冷却能力測定
128
の作成手法を考案した.
(4)平成 17 年度の目的
防塵・防水・防爆ユニット試作および評価実験を行なう.
(5)平成 17 年度の成果
(a)構想
防塵,防水,防爆を備えた機器は,対象となる環境ストレス(粉塵,水,燃焼ガス)に耐えるこ
とを証明するため,法律や規格に従うことが要求される.現在,レスキュー機器に対する明確な
規格はないが,安全関連機器には説明責任が求められるため,規格に沿って作製するのが望まし
いと考える.一方,防塵・防水・防爆構造は,内部と外部を隔離する構造のため,電子回路の放
熱を阻害する.放熱を阻害された電子回路は使用温度上限を越えやすい.使用温度範囲を越えた
使用は信頼性を著しく損なうため,防塵・防水・防爆構造には,同時に冷却機器を付属する必要
がある.
1)防塵・防水方法
防塵・防水規格(IEC 60529 [IDEC IZYMI Corporation(2002)])の記載内容に沿って作製され
た防塵・防水ボックスを利用する.防塵・防水強度 IP-66(粉塵の進入が完全に防護されている,
波浪のような強力な噴流水に耐える)のボックスに電子回路を格納することで防塵・防水を実現
する.電源供給ケーブルや制御信号ケーブルなど,電子回路と外部を繋ぐ部分には IP-68(粉塵
の進入が完全に防護,水没して使用が可能な構造)のケーブルグランドを使用する,その他,防爆
機構,冷却機構を追加することで気密が低下すると考えられる部分には,液状シリコンガスケッ
トを充填して気密低下を防止する.
2)防爆方法
防爆方法として内圧防爆構造(IEC 60079-2 [Suzuki(2004)])を選択した.内圧防爆形式は,
容器の内部に保護気体を圧入して内圧を保持することにより,燃焼ガスが進入するのを防止した
構造である.また,容器内に燃焼ガスが進入しても,保護気体の流入で爆発可能濃度未満に希釈す
る構造である.なお,図 3-2-3-8 のように,保護気体の供給方法を「通気型」とすることで,流
入気体と電子回路の熱交換(冷却)が期待できる.
図 3-2-3-8
内圧防爆構造(通気型)
1)で述べた防塵・防水ボックスに,気体流入機構と気体流出を調整する機構を付加して防爆機構
129
を構成する,気体流入側を貯蔵ボンベと流入圧力を調整するレギュレータ,保護気体とする二酸
化炭素を 30L 供給出来る小型圧縮式ボンベで構成する,流出側は逆止弁を使用する,逆止弁は,
正方向にはある一定以上の圧力をかければ流体を通すが,逆方向には流体を通さない弁である.
これを用いれば,内圧を一定に保ちながら気体を流出することができ,かつ,外部からの進入を
防ぐといった構造(通気型内圧防爆構造)が可能である.作製する機構は,保護気体を 1.0L/min.
供給し,内圧 0.02MPa を保つように設定する.
3)冷却機構
一般的な冷却機器として,冷蔵庫やクーラー,車やプラントの熱交換器が考えられる.これら
はいずれも重く,容積が大きいため,小型移動探査型レスキューロボットへの積載は困難と考え
る.一方,最近になって PC の CPU 発熱に対応するために小型で高性能な冷却機構が開発されてい
る.これらの冷却機構は CPU の高発熱を許容温度範囲に保てるだけの冷却能力を持ち,デスクト
ップパソコンの筐体に収まるほどコンパクトである.よって,軽量,省容積を求める小型移動探
査型レスキューロボットにも使用できると考える.これら PC 用小型冷却機構,その他,軽量コン
パクトな冷却機構を耐環境機構に付加する.
(b)作製した機構
図 3-2-3-9 に作製した機構を示す.防塵・防水・防爆機構は同様の機構を用いているが,冷却
機構は各々で構成が異なるため,それに併せて作製した.
基本空冷型(Type. A)
冷却シート型(Type. C)
強制循環水冷型(Type. B1)
自然循環水冷型(Type. B2)
熱伝導型(Type. D1)
ペルチェ熱移動型(Type. D2)
図 3-2-3-9
機構一覧
(c)評価
1)防塵・防水・防爆の確認
耐環境機構は,その特性から耐環境試験機関において試験を受けるのが望ましい.特に,防爆
機構は高い安全性が求められるため,実際に使用するには公的機関の認証を得る必要がある.し
130
かし,今回作製した機構はデータを取るための実験機であり,実際の災害現場で使用しない.よ
って,今回は作製した耐環境機構について,規格を参考にした独自の試験を行い,耐環境性を確
認した.今後は,耐環境強度の調査と認定を公式機関に依頼する.
まず,防塵・防水試験についてであるが,ボックスの持つ防塵・防水強度は IP-66 であるが,
各種機構の付加によって強度が落ちているのが考えられるため,IP-55 の耐環境度を確認するの
に留める.次に防爆試験についてであるが,作製した内圧防爆機構は公的機関において構造欠陥
の確認を行うのが試験である.本研究では,独自の方法によって防爆機構が働いているか確認する.
・防塵
防塵強度 IP-5×は,機器の正常動作を阻害するような粉塵の進入がないのを示す必要がある(粉
塵粒子径に対する規定なし).本研究では 10 分間小麦粉に埋没させ,開放時に小麦粉の進入が無
いか確かめる.なお,小麦粉の平均粒径は 0.05mm 以下であり,IP-4×が指定する粉塵粒径 1.0mm
未満の粒子径である.
・防水試験
防水強度 IP-×5 では,対象に対して,3m の距離から全方向に 12.5L/分,30kPa の噴流水を 3
分与え,水の浸入を確かめなければならない.本研究では水道水(圧力 300~400kPa,流量 40L/
分)を用い,三分毎に位置を変えながら,3m の距離から流水を与えた.
・防爆試験
水槽に沈め(400mm),気体流入による内圧をかけた.このとき,逆止弁以外の場所に気泡が生じ
れば,気密に漏れがあると考えられる.実験後,機構を開放して水の浸入の有無を確かめる.
防塵試験
防水試験
図 3-2-3-10
防爆検証
防塵・防水・防爆試験
Type. A~D2 まで,防水・防塵実験を行った後,粉塵・水の浸入の有無について目視による確
認を行った.防爆確認についても,気泡の有無と,水の浸入を目視にて確かめた.その結果,作製
した全ての機構において,粉塵及び水の浸入は認められなかった.また,逆止弁以外の場所から
気泡が発生することが無く,試験後に水の浸入は認められなかった.よって,作製した全ての機構
は,防水・防塵強度 IP-55 を満たし,内圧防爆機構とすることができたと考える.
2)冷却評価
各冷却機構に電子回路を付加し,電子回路の単位時間当たりの温度上昇量を測定する.評価用
131
電子回路(TiTech Driver Ver.3:東京精機)には電力 24V 1.4A を供給する.そして,電子回路に
モータ(60W)を繋ぎ,無負荷運転を行う.なお,温度測定には熱伝対を用いるが,電子回路に接触
させると短絡するため,シリコンシートで絶縁した上で付加したアルミニウム製ヒートシンク
(L:70mm W:50mm H:3mm)の温度を測定する.図 3-2-3-11 (左)に実験装置の一例を示す.
測定装置概要
要素抽出
図 3-2-3-11
冷却能力測定
機構に付加したときの温度と,電子回路を断熱材で覆ったときの温度上昇率と比較し,単位時
間当たりの冷却能力を算出する(図 3-2-3-11:右).各機構の単位時間当たりの冷却能力の算出は
以下の式で行った.
Q=
q1 − qi1 q 2 − qi 2
−
t
t
ここで,Q は冷却能力, qi1 は電子回路を断熱したときのヒートシンク初期温度, q1 は電子回路
を断熱し,測定時間運用した時のヒートシンク温度, q i 2 は冷却機構を付加したときの初期温度,
q 2 は電子回路に冷却機構を付加し,測定時間運用した時のヒートシンク温度,t は測定時間であ
る.
以下に各機構の冷却能力,及びその他特性について示す.
表 3-2-3-1
形式
各機構の特性
Cooler Capacity
Weight
Cooler Capacity
Time Constant
[J/sec]
[kg]
/Weight
(sec.)
Type. A
2.50
1.56
1.60
414.4
Type.B1
3.79
2.50
1.52
257.7
Type.B2
3.84
2.50
1.54
320.6
Type.C
3.76
1.60
2.35
525.2
Type.D1
4.07
2.95
1.38
243.6
Type.D2
4.13
3.05
1.35
406.1
Type.A は冷却能力,熱即応性共に機構中で最も低い.最も軽量でもあるため,重量に対する冷
却能力は高い部類であるが,絶対的な冷却能力が不足している.そのため,ロボットの積載重量
に余裕がない場合を除き,Type.B1~D2 のように他の冷却機構と複合させるのが望ましい.
132
Type.B1 と B2 は全機構の中で平均的な値を示しており,お互いに近似的な数値を示した.ただ
し,時定数は B2 に比べ B1 が早く到達している.これは冷媒の循環間にポンプを使用している分,
冷媒の循環が早く,熱伝導率が高いためと考える.ただし,B1 はポンプ用動力が別に必要となる.
高い比冷却能(冷却能力の絶対値/総重量)を持つのが Type.C である.これは,内部に保有する
液体の比熱容量が金属ヒートシンクよりも多く,比重が小さいためである.また,冷却過程に蒸
発潜在熱を利用しているため,他の機構よりも冷却効率が高いことも理由に挙げられる.ただし,
液体が蒸発するまでに時間が掛かるため,熱即応性(時定数)は機構中最も低い.また,内部湿度
が高くなるため,電子回路にイオンマイグレーションが発生し易いという欠点を抱える.
冷却能力が高いのは,Type.D1 と Type.D2 である.これは,機構自体がヒートシンクであり,
他の冷却機構と比べて熱容量が大きいためと考える.ただし,機構の重量が大きいために単位重
量あたりの冷却能力は他の冷却機構と比べ低い.D1 と D2 で大きく異なるのは時定数である.D1
が直接ヒートシンクに熱伝導するのに対し,D2 はペルチェ素子による熱移動を挟むため,熱即応
性が低下したのが考えられる.
これらのデータをもとに,ロボットに対する効率の良い冷却機構を選択できると考える.
(6) 平成 17 年度の成果発表等
(a)口頭発表
特になし
(b)論文発表
特になし
(c)展示
特になし
(e) 特許
特になし
(f) その他
特になし
(7)参考文献
[IDEC IZYMI Corporation(2002)] 和泉電気式会社(2005): “IP コード,” 和泉電気株式会社,
P987-0, pp.105, 2005
[Suzuki(2004)]鈴木: “ “防爆”事始め 第二版,” IEC 防爆研究会, pp.22~25, 2004
133
3.2.4 センサと通信
3.2.4(1) 人体探索システム
湘南工科大学
秋山いわき,榎戸理隼
筑波大学大学院
大矢晃久
電気通信大学
松野文俊
(1)目的
瓦礫内に閉じ込められた要救助者を探知するレスキューロボット搭載用 UWB レーダシステ
ムの開発を目的としている.瓦礫上から瓦礫内に向かって UWB パルスの電磁波を送波し,瓦礫
内から戻ってくる反射波を受信して,その信号の時間変動成分を抽出することによって,要救
助者の探索を行う.瓦礫と生存者との区別は,呼吸や手足の動きによる時間変動の周波数に着
目する
(2)年次実施計画
平成17年度
UWB レーダを用いて①障害物後方約5mの立位の被検者の探知能力を調査す
る.②障害物として,木材,コンクリートブロック,瓦,石を用いて障害物上方からの電波の送受
信を行い,仰向け状態の被検者を検知する.検知能力向上のために,アンテナの改良,生存者検知
のための専用の信号処理手法を新しく考案した.この方法,以下のとおりである.瓦礫内部から
の反射信号には検知しようとする生存者からの反射信号の他に,静止した物体からの反射波,電
気的雑音が含まれる.そこで,受信信号をアンテナからの距離に対応して,それぞれの反射信号
である確率として表示する.この方式では,生存者を表す信号の特徴を S,静止物体を表す信号
の特徴を R,雑音である特徴を N として,それぞれに属する程度として,信号の強度,標準偏差,時
間変動スペクトラムという3つのパラメータからファジイ推論によって推定する.推定された
3つの特徴量は S,R,N に属する確率として表示される.実験データを処理した結果は,実際の
S,R,N の位置と一致した.
(平成 18年度)
レーダを Helios の台車に搭載して瓦礫上からの電波を送受信して,被験者
の探査実験を行う.
(3)前年度までの成果要約
指向性 30 度および 15 度のホーン型アンテナを作成して,UWBパルスレーダシステムを
構築する.このシステムを用いて瓦礫モデル内での人の呼吸変動を捉える.実際には,検出感
度,検出限界距離,瓦礫の透過能力はUWBの周波数帯域に依存する.一般に中心周波数を低
くすると検出限界距離は増大し,瓦礫の透過能力も向上するが,微弱な変動を捉える人の検出
感度は低下する.そこで,平成 16 年度は周波数帯域3GHzから8GHzまでを有するUWB
パルスを用いて,これらの能力を測定した.
その結果,厚さ15mmの合板を用いた瓦礫モデル実験では,5m離れた人の動きを捉える
ことができた.また,瓦礫上に設置したアンテナからUWBを下方に向けて送受して,1m下
134
方にある人の呼吸変動を捉えることができた.
(a)30 度のホーンアンテナ
図 3-2-4-1
(b)15 度のホーンアンテナ
ホーンアンテナを取り付けたUWB送受信装置
図 3-2-4-2 木材障害物後方で被験者が前後に移動した場合の処理結果画像
以下に,得られた結果をまとめる.
(i)
PulseON200EVK(米国 Time Domain 社)に 15 度および 30 度のホーンアンテナを装着した UWB
送受信装置を用いた実験システムを構築した.
(ii)
すのこを用いた瓦礫モデルおよび合板を用いた瓦礫モデルを用いて瓦礫後方の人の移動
している様子,運動している様子,静止している様子を M モード画像として可視化した.
(iii)
瓦礫上方に UWB 送受信装置を配置して,下方に寝ている人へ向かって UWB パルスを送信
したところ,人の呼吸変動を反射波から捉えることができた.
(4)平成 17 年度の目的
生存者の検知能力を向上させるために,システムの改良を行う.以下に具体的な目標を示す.
(a) アンテナの利得の向上,電波の放射パターンの改善.
(b) 生存者検知アルゴリズムの改善.ファジイ推論を用いた新しい検知方法を考案.
135
(5)平成 17 年度の成果
(a) はじめに
我々は災害時に倒壊した家屋に埋もれた生存者を的確かつ迅速に救助するための,Ultra Wide
Band(UWB)レスキューレーダシステムの開発を行っている.開発中のレーダシステムは,周波数帯
域が3GHz から6GHz の広帯域パルス波を倒壊家屋等の内部へ向けて繰り返し送信し,受信し
た反射波を用いて要救助者を探索することを目的としている.受信信号には,瓦礫等からの反射波
と生存者からの反射波が混在するため,これらを分離して必要な信号を抽出する必要がある.本研
究では,ファジイ推論によって,受信信号を「要救助者」からの反射波成分,「瓦礫」等の静止した
物体からの反射波成分,それ以外の「雑音」が主体的な信号となる成分という3つにクラスわけを
行う.このレーダシステムでは,約 1 分間パルス送受信を行い,受信信号を時系列に記憶すること
ができる.そこで,この受信信号の同一の遅れ時間,すなわちアンテナから一定の距離に存在する
物体からの反射波成分の時間的変動を用いる.
本研究では,ファジイパラメータとして,この時間変動に対する,平均値,標準偏差,そしてスペ
クトルから求めた平均周波数という3つの統計量を用いる.この3つのパラメータに対するメン
バシップ関数を定義して,それぞれのクラスに属するグレードを推論する.本手法では,最終的な
クラス分類をせずに距離方向における3つのクラスに対するグレードの分布を表示することとし
た.その理由は,実際に要救助者を探索する場合には,このレーダシステムによる結果だけではな
く,さまざま他の情報も利用して総合的に判断されることが想定されるからである.
本手法を搭載したレーダシステムのターゲット検知能力を調査するため,被験者をターゲット
した瓦礫モデルによる実験を行った.まず,アンテナの前方約1mにベニヤ板を配置し,その後方
約1mに被験者一人が立つ.さらにその後方に被験者が立つ.2 人の間の距離を1[m], と 3[m]
として実験を行った.次に,被験者が仰向けに寝ている状態の上方約1mにアンテナを設置し,下
方へ向けて電波の送受信を行う.このとき,アンテナと被験者の間に,石あるいは,コンクリートブ
ロックを配置して,電波がこれらの瓦礫を透過して被験者からの反射波を得られるようにした.
実験によって得られた 1 分間の時系列信号に対して,本手法を適用して3つのクラスに属する
グレードを計算した.その結果,実際に被験者の存在する位置と要救助者のクラスに属するグレー
ドがピークとなり,かつ他のクラスに属するグレードが小さい値をとる位置とが一致した.
(b). UWB レスキューレーダシステム
本研究で用いた UWB(Ultra Wideband)レーダ・システムは図 3-2-4-3 のように,UWBパルス
を瓦礫へ向かって繰り返し送受信し,その背後またはその下方にいる要救助者を探索するもので
ある.
送・受信機
図 3-2-4-3
UWB レスキューレーダ・システムの原理
136
図 3-2-4-4 は今回試作したシステムのブロック図である.送信機および受信機には米国 Time
Domain 社製 PulsON200EVK システムを使用した.この装置に,図 3-2-4-5 のようなホーン型のアン
テナを取り付けた.送信機および受信機はともに Ethernet ケーブルでパソコンに接続され,パソ
コンで電波の送信および受信を制御する.また,表 1 に EVK システムの仕様を示す.
Personal Computer
Plus ON200TM
Plus ON200TM
HUB
図 3-2-4-4
UWB レスキューレーダシステムのブロック図
表 3-2-4-1
PulsON200TM EVK
約
本体の大きさ
19.3 × 24.1 ×
6.8cm
本体重量
約
750g
中心周波数
約 4.7GHz
帯域幅
約 3.2GHz
パスル繰返し周波数
消費電力
電源電圧
図 3-2-4-5
の仕様
9.6MHz
送信:12.2W
受信:11.9W
7.5VCD
ホーンアンテナ
受信波に対して包絡線検波処理を行い,振幅に対して輝度変調をかけて水平方向に距離を,垂直
方向に時間経過をとって画像を作成する.これを M モード画像と呼ぶことにする.このような M
画像では静止している物体からの反射波は変動がないので,平行線として表示されるが,動いてい
る物体があれば平行線ではないパターンとして観察される.しかし,M モード画像では,受信信号
に静止している物体からの強い反射成分があると,微弱な変動成分を観察できない.そこで,静止
物 体 か ら の 反 射 成 分 を 削 除 す る た め に , 次 式 で 計 算 さ れ る Mˆ i (t ) を 画 像 と し て 表 示 す る
[Akiyama(2004)].
1
Mˆ i (t ) = ri (t ) −
N
N
∑ r (t )
(3-2-3-1)
k
k =1
ここで,i はパルス繰り返しの回数を示している.tj は受信信号の時間を示す.つまり,ri(tj)は
i 番目のパルス受信波の包絡線を示す.
(c) ファジイ推論による要救助者からの反射成分の検出
著者らはレーダシステムを用いて要救助者を検出するために,受信信号からファジイ推論を用
137
いて要救助者の反射成分を検出する手法を考案した.まず,受信信号を「要救助者(S)」からの反
射成分,「瓦礫(R)」等の静止した物体からの反射成分,「雑音(N)」が支配的な時間変動を伴う成
分にクラス分けする.
「要救助者」のクラスの特徴は,受信強度がある程度あり,時間変動が大きく,
特に,周期性が強い.「瓦礫」クラスの特徴は,受信強度が大きく,ゆっくりした変動成分が支配的
である.「雑音」のクラスの特徴は,受信強度が小さく,時間変動があるが,周期性がない.このよ
うな各クラスの特徴を定量化するパラメータとして,次の3つのパラメータを用いる.すなわち,
受信電圧における 1 分間の時間変動の平均値( Vm ),標準偏差( VSD ),そして時間変動のスペクトル
から求めた平均周波数( f m )である.図 3-2-4-6 にそれぞれのファジイパラメータがそれぞれの
クラスに属するグレードを計算するメンバシップ関数を示す.
(a)平均値のメンバシップ関数
(b)標準偏差のメンバシップ関数
(c)平均周波数のメンバシッ
プ関数
図 3-2-4-6
3つのファジイパラメータのメンバシップ関数
図 3-2-4-6 のメンバシップ関数によって計算された各クラスに属するグレードから,それぞれ
の最小値をそのクラスに属するグレードとする.
(d) 瓦礫モデル実験
木造家屋の倒壊家屋を想定した瓦礫モデルを作成した.瓦礫モデル実験では,『側方探査実験』,
『下方探査実験』の 2 つを行う.図 3-2-4-7 は側方探査実験と下方探査実験の概念図である.
(a) 側方探査実験
図 3-2-4-7
1)
(b) 下方探査実験
瓦礫モデル実験の概念図
側方探査実験
実験はアンテナを正面に向けて UWB パルスを送受信する.アンテナの後方1mの位置にベニヤ
板を置いた.さらにベニヤ板の後方約1mに一人,その斜め後方にもう一人が立つ.二人の間の距
138
離は1m,と3mとした.図 3-2-4-8(a),(b)のそれぞれの場合で測定された受信信号を図 3-2-4-9
に示す.
(a)
2 人の間の距離1m
(b) 二人の間の距離3m
図 3-2-4-8
(a) 二人の間の距離1m
(b) 二人の間の距離3m
図 3-2-4-9
(a)
図 3-2-4-10
側方探索実験
受信信号
(b) Mˆ i (t ) 画像
M モード画像
二人の間の距離が1mのときの M モード画像と Mˆ i (t ) 画像.水平方向を距離に,垂
直方向をパルス繰り返し送信した経過時間にとっている.
139
(a)
(b) Mˆ i (t ) 画像
M モード画像
図 3-2-4-11 二人の間の距離が3mのときの M モード画像と Mˆ i (t ) 画像.水平方向を距離に,垂
直方向をパルス繰り返し送信した経過時間にとっている.
2 秒間隔で 1 分間測定した受信信号を包絡線検波を行って得られた M モード画像と Mˆ i (t ) 画像
を図 3-2-4-10 と図 3-2-4-11 に示す.M モード画像ではベニヤ板の反射が強く,それが縦の平行線
となって表示されている.その左方向に被験者に対応する時間変動が現れている.
図 3-2-4-10(b)
Mˆ i (t ) 画像を見ると,後方に立っている被験者の時間変動を観察できるが,図 3-2-4-11(b)では
3m後方に被験者を観察できない.
図 3-2-4-12 と図 3-2-4-13 にそれぞれ1mと3mの場合の各ファジイパラメータである
Vm , VSD , f m の分布を示す.横軸はアンテナからの距離を表す. VSD の分布をみると,被験者の立
っている位置にピークを観察できるが,ベニヤ板の位置にもピークがあり,静止している物体から
の反射と完全に区別できていないことがわかる.
140
(a)
(b)
(c)
図 3-2-4-12
ファジイパラメータの分布.1mの場合
(b)
(a)
(c)
図 3-2-4-13
ファジイパラメータの分布.3mの場合
次に,メンバシップ関数を用いて得られた各クラスに属するグレードを求めた結果を図
3-2-4-14 および図 3-2-4-15 に示す.それぞれ,(a)は要救助者に属するグレードの分布,(b)は瓦
礫に属するグレードの分布,(c)は雑音に属するグレードの分布であり,(d)は(a),(b),(c)
141
の分布から得られる最小値の分布を示したもので,最終的な3つのクラスに属するグレードを示
している.
図 3-2-4-14(d)を見ると,2mの位置に要救助者のグレードにピークがあり,そして,3mの位置
にもピークがある.一方,この位置における,他のクラスに属するグレードは小さい.このことか
ら,2mと3mの位置に一人ずつ要救助者が存在する可能性が高いことを示しており,実際の被験
者の立っている位置と一致している.図 3-2-4-15(d) をみると,要救助者のグレードには2mの
位置の他に,3m,4mと5mの位置にピークがある.しかし,3mと4mの位置では雑音のグレー
ドも高いことから,要救助者は2mの位置と5mの位置に存在する可能性が高いことを示してお
り,実際の被験者の立っている位置と一致している.
(b)
(a)
(d)
(c)
図 3-2-4-14
メンバシップ関数から求めた各クラスに属するグレードの分布.1mの場合.
142
(b)
(a)
(d)
(c)
図 3-2-4-15
メンバシップ関数から求めた各クラスに属するグレードの分布.3mの場合.
2) 下方探査実験
実際に倒壊家屋に埋もれている人を想定した下方探査実験を行う.アンテナ装置を下向きに設
置し,その下部に人が仰向けに寝る.図 3-2-4-16 は実験を行った様子の写真である.
図 3-2-4-16
下方探査実験
143
図 3-2-4-17
M モード画像と Mˆ i (t ) 画像
(b)
(a)
(c)
図 3-2-4-18
ファジイパラメータの分布
144
(b)
(a)
(d)
(c)
図 3-2-4-19
メンバシップ関数から求めた各クラスに属するグレードの分布.
図 3-2-4-16 は M モード画像および Mˆ i (t ) 画像を示している.ブロックからの強い反射があり,
その下方にある被験者の反射を認めることができない.図 3-2-4-17 はファジイパラメータの分布
であるが, VSD の分布をみても,ブロックの反射が強すぎるため,被験者による明確なピークを見
出せない.
図 3-2-4-19(a)(b)(c)は各クラスに属するグレードを示しており,それぞれの最小値をプロット
したのが(d)である.図 3-2-4-19(d)から 1.5m の位置に要救助者のクラスのグレードにピーク
があり,この位置に人がいる可能性の高いことを示している.
図 3-2-4-20 から図 3-2-4-22 は図 3-2-4-16 に示される実験において,被験者が深く呼吸をした
場合の結果を示している.図 3-2-4-20 は M モード画像と Mˆ i (t ) 画像,図 3-2-4-21 はファジイパラ
メータの分布,図 3-2-4-22 は各クラスに属するグレードの分布を示している.図 3-2-4-20(b)
の M^(t)画像では被験者の寝ている位置に時間変動成分が見られる.
145
図 3-2-4-20
M モード画像と Mˆ i (t ) 画像
(b)
(a)
(c)
図 3-2-4-21
ファジイパラメータの分布
146
(b)
(a)
(d)
(c)
図 3-2-4-22
各クラスに属するグレードの分布
図 3-2-4-21 に示したファジイパラメータの中でも VSD の値が大きくなっている.図 3-2-4-22(d)
を見ると,約1mの位置に要救助者のクラスに属するグレードの値にピークが見られ,この位置で
要救助者が存在する可能性の高いことを示している.この位置は実際の位置と一致している.
(e) おわりに
UWB レスキューレーダシステムにおける,受信信号から瓦礫等の反射成分と区別して,要救助者
からの反射成分を抽出するためにファジイ推論を用いる手法を構築した.本手法を用いて,瓦礫モ
デル実験を行って,レーダシステムのターゲット識別能力を調査した.その結果,ベニヤ板後方1
mに立つ被験者とその後方3mの位置に立位の被験者を識別できた.ブロック下方に仰向けに寝
ている被験者が静かに呼吸している状態および深く呼吸している状態で,本手法を適用したとこ
ろ,被験者の位置を検出できた.
(6)平成 17 年度の成果発表等
(a) 口頭発表
秋山,荒木,大矢: "レーダ画像を用いた瓦礫内要救助者の探索," 画像センシングシンポジウ
147
ム講演論文集,J-36, pp.497-498,2005
(b) 論文発表
特になし
(c) 展示
第4回湘南四大学産学交流テクニカルフォーラム,平成 17 年 12 月 16 日~17 日,藤沢産業セン
ター
(d) 特許
特になし
(e) その他
特になし
(7)参考文献
[Akiyama(2004)]I. Akiyama, Y. Araki, M. Isozaki, M. Ohki, A. Ohya: “UWB Rader System
Sensing of Human Being Buried in Rubbles for Earthquake Disaster,” EUROEM2004, 163-164,
2004
148
3.2.4(2)
ガスセンサ
岐阜県生産情報技術研究所
稲葉昭夫,今井智彦
光井輝彰,田畑克彦
(1)目 的
大震災発生時に,危険なガスがあるか否かの情報収集をするための瓦礫上移動体に搭載可能な
ガスセンサについて検討する.
(2)年次実施計画
平成17年度
(平成18年度
瓦礫上移動体に搭載するガスセンサの調査
ガスセンサモジュールの試作)
(3)前年度までの成果
要救助者の呼吸の有無を調べるために、二酸化炭素センサーについて調査を行い、センサーモジ
ュールを開発した。
(4)平成 17 年度の目的
瓦礫上移動体が検出すべきガスの検討とそれらを検出するモジュールについて調査・検討する.
(5)平成 17 年度の成果
(a) 検知対象ガスの検討
大震災発生後,レスキュー活動を行うには,危険なガスが発生しているか否かを知る必要があ
る.本研究では,一般の住宅地区の災害を想定し,大震災発生後,発生が想定される危険ガス
について調査した
.
1)可燃性ガス
生活に不可欠なライフラインの一つであるガス供給路が破損すると可燃性ガスが漏洩する.現
在,一般家庭において利用されているガスには,都市ガスと LP ガスがある.都市ガスは,その多
くが液化天然ガス(LNG)を原料としており,その主成分はメタンである.また LP ガスは,液化石
油ガス(LPG)のことであり,その主成分はプロパンである.
2)毒性ガス
火災が発生すると,物体が燃焼することにより様々なガスが発生する.このとき,木造家屋等
を構成する材料から発生するガスは,表 3-2-4-2 に示すとおりである.この表から,
149
表 3-2-4-2
各種材料の燃焼ガス発生量(単位:g/g) [oda(1973], [A.P.Hobbs(1963])
各種材料が1g燃焼した時の発生ガスの生成量
発生するガスの大部分は,一酸化炭素と二酸化炭素である.一方,国本[kunimoto(1990)]による
と 1979~1988 の10年間における火災による死因は,火傷を除くと一酸化炭素中毒が大部分を占
めている.
以上のことから,本研究は,レスキューロボットによる検知対象ガスを,メタン,プロパン,
一酸化炭素とした.
図 3-2-4-23
1979~1988 の10年間の焼死者の死因[kunimoto(1990)]
(b) ガス検知センサ基本モジュールの検討
前節の検討で,検出対象となったガスに関して,センサ基本モジュールについて調査した.こ
の結果,検出対象ガスに関して,フィガロ技研(株)から簡便なセンサ基本モジュールが市販さ
れていることがわかった.本研究では,これらのセンサ基本モジュールをレスキューロボットの
150
ガス検出センサとして使用した場合の課題を探るため,実際の搭載を想定した簡易ユニットを製
作して,検出信号のばらつきや(カタログデータには示され
ていない)電源投入時の過渡応答等に関して予備的な実験を行った.
表 3-2-4-3
項目
ユニット構成
型式,仕様
フィガロ技研
・警報濃度の調整済(10%LEL)
メタン
・センサ素子の検知範囲:500~10,000ppm
センサ基
本モジュ
ール
NGM-2611
フィガロ技研
プロパン
LPM-2610
・警報濃度の調整済(10%LEL)
・センサ素子の検知範囲:500~10,000ppm
一酸化炭素
フィガロ技研
・センサ素子の検知範囲:30~1,000ppm
秋月電子通商
マイコン基板
COM2442
AKI-H8/3664F, H8 Tiny I/O BOARD
・A/D 変換器の分解能:10 ビット(有効
ボルテージ・フォロワ回路
8 ビット)
NS LM358N
1)実験方法
i)試験ガスの調合(簡易的な調合)
注射筒を用いてプッシュ缶より標準ガスを採取し,それをサンプリングバッグに注入する.こ
の作業を,当初設定した量の標準ガスをサンプリングバックに注入するまで続ける.次に,空気
を注射筒で採取し,必要量をサンプリングバックに注入し,概ね設定したガス濃度に調合する.
ii)ガス濃度の測定
ガス濃度は,センサ基本モジュール,ボルテージ・フォロワ回路,マイコン基板からなる簡易
ユニット(表 3-2-4-3
参照)を製作し,これを用いて測定した.具体的には,センサ基本モジ
ュールとボルテージ・フォロワ回路部分をチャック付の保存袋の中に入れ,そこに試験ガスを流
し込んで測定した.流し込んだガス濃度を確認するため,指標として,ガス検知器(Finch-Com II,
Infitron Inc.)も同じチャック袋に入れ濃度の測定を行った.実際のガス濃度の測定は,検知器
の濃度が安定するのを確認した後,簡易ユニットの電源を ON にして行った.尚,簡易ユニットで
のサンプリング周期は 100ms とした.
151
【補足】
: ピンチコック
空気採取
ガス検知
: ジョイント
チャック付保存袋
注射筒
試験ガス
作成
ガス検知器
サンプリング
バック
センサ基本
モジュール
ガス採取
ボルテージ・
フォロワ回路
: チューブ
ユニット
データ取得
データ保存
マイコン基板
ノートPC
プッシュ缶
標準ガス
ア
構成図
スイッチング電源
ノートPC
マイコン基板
一酸化炭素
マイコン基板
ガス検知器
メタン
チャック付袋
プロパン
サンプリングバッグ
イ
全景
ウ
図 3-2-4-24
センサユニット
実験環境
2)実験結果
i)メタン
濃度の異なる 3 種類の試験ガスを作成し,検知実験を行った.図 3-2-4-25 にその結果を示す.
なお,ユニットのガス濃度は,センサの特性図から求めた近似式により算出した.
結果より,電源投入直後はガス濃度が高いほど値が安定するまでに時間がかかっているものの,
約 300 秒経過すると概ね値が収束しつつある.また,ガス検知器のデータと比較して高濃度ほど
差が大きくなっている.これはセンサが高濃度域ほど濃度変化の割合に対して,出力電圧の変化
が小さくなり,誤差も大きくなるためであると考えられる.
152
検知器1
検知器2
検知器3
ユニット1
ユニット2
ユニット3
30
ガス濃度 [%LEL]
20
10
0
0
300
600
900
経過時間 [s]
図 3-2-4-25
メタン検知結果
ii)プロパン
濃度の異なる 3 種類の試験ガスを作成し,検知実験を行った.図 3-2-4-26 にその結果を示す.な
お,ユニットのガス濃度は,センサの特性図から求めた近似式により算出した.
結果より,電源投入直後はユニットの計測値が不安定であるが,約 200 秒経過以降は概ね値が
収束しつつある.また,ガス検知器のデータ値とユニットの計測データが大きく異なっている理
由は,これはガス検知器のデータがメタンを基準とした値となっており,その値からの換算が十
分でないためである.計測データの値に関しては,今後,検討を要する.
検知器1
検知器2
検知器3
ユニット1
ユニット2
ユニット3
40
ガス濃度 [%LEL]
30
20
10
0
0
300
600
900
経過時間 [s]
iii) 一酸化炭素
図 3-2-4-26
プロパン検知結果
濃度の異なる 4 種類の試験ガスを作成し,検知実験を行った.図 3-2-4-27 にその結果を示す.
なお,ユニットのガス濃度は,センサの濃度出力特性が不明であったため,予備実験により計測
したガス検知器とガスセンサのデータから求めた近似式により算出した.また,ユニットで使用
しているセンサ基本モジュールの仕様において,電源投入後に 3 分間の暖機運転が必要となって
153
いる.
結果より,暖機運転終了後,ユニットの計測値は不安定になることなく推移している.また,
時間が経過するにつれ,ガス検出器の測定値に近づきつつある.
検知器1
検知器2
検知器3
検知器4
ユニット1
ユニット2
ユニット3
ユニット4
500
ガス濃度 [ppm]
400
300
200
100
0
0
300
600
900
経過時間 [s]
図 3-2-4-27
一酸化炭素検知結果
3) まとめ
予備実験の結果から,メタン,プロパンに関しては,電源投入から 3 分経過以降において,
ユニットの測定値は収束しつつあり,大きな変化は認められなかったが,測定信号からガス濃
度に変換することに関しては,今後,検討を要する.当該センサ基本モジュールに関しては,
おおまかな可燃性ガスの計測には,大きな障害は認められなかった.
一酸化炭素については,予備実験の結果から電源投入から測定値が収束するまでには数十分
単位の時間がかかると考えられる.しかし,ユニットの測定値は,暖機運転終了直後であって
も,検知器の計測値よりも大きな値を示しているため,このときのデータを使用しても,安全
側に働くため,大きな障害はないと考えられる.
今後は,ユニットの測定値に関して,より深く吟味すると共に,移動体プラットホームに搭
載するモジュールを試作する予定である.
(6) 平成 17 年度の成果発表等
(a)口頭発表
・K.Tabata, A.Inaba, H.Amano: “Development of a Transformational Mobile Robot to Search
Victims under Debris and Rubble -2nd report:Improvement of Mechanism and Interface-,”
Proc. of IEEE International Workshop on Safety, Security and Rescue Robotics (SSRR2005),
pp.19-24, 2005
・ 田畑,稲葉,今井,光井,天野,鈴木: “形状変化機構を有する多面体移動機構の開発-
第 4 報:機構改良-,” SI2005 予稿集, pp.329-330, CD-ROM, 2005
154
(b)論文発表
・田畑,稲葉,天野: “不整地走行用全方向移動システムの開発,” 計測自動制御学会論文集,
Vol.41, No.12, pp.998-1004, 2005
(c)展示
・CUBIC-R の展示,デモンストレーション: 消防研究所一般公開, 4 月 22 日, 東京都三鷹市, 2005
・CUBIC-R の展示,デモンストレーション: 大都市大震災軽減化特別プロジェクト レスキュー
ロボット・デモンストレーション, 6 月 10 日~6 月 11 日, 兵庫県神戸市, 2005
・CUBIC-R の展示,デモンストレーション:ロボフェスタ 2005 岐阜地区 大垣市大会
7 月 23 日~7 月 24 日, 岐阜県大垣市, 2005
・CUBIC-R の展示,デモンストレーション: ロボット×レスキュー2005(RxR2005) RxR エキシビ
ジョン 8 月 6 日~8 月 7 日, 兵庫県神戸市, 2005
・CUBIC-R の展示,デモンストレーション: ロボフェスタ 2005 岐阜地区 各務原市大会
8 月 11 日~8 月 12 日,岐阜県各務原市, 2005
・CUBIC-R の展示,デモンストレーション: 21 世紀ウィーク~飛騨高山ロボットワールド~, 9
月 17 日~9 月 19 日, 岐阜県高山市, 2005
(d)特許
特になし
(e)その他
・ロボコンマガジン No.40 消防研究所一般公開 -危険のともなう災害現場で人間の作業のフ
ォローを目指す-,113p,2005.6.15
・読売新聞(関西版),
“サイエンス「災害救助ロボット
めざせ!現場投入」,”21 面,2005.6.22
(7)参考文献
[oda(1973]織田: 高分子,Vol.22,253,p202,1973
[A.P.Hobbs(1963] A. P. Hobbs, et. Al: UL Bulletin of Research, No.53,p21,1963
[kunimoto(1990)]国本: 繊維製品消費科学,Vol.31,No.11,p.500,1990
155
3.2.4(3)
レスキュー探査ロボット群におけるアドホックネットワークのフロー優先制御
NPO 国際レスキューシステム研究機構 高森年
神戸大学
仲川 宣秀
(1) 目的
本研究では,レスキュー探査ロボット群に搭載される高品質カメラの映像をアドホックネッ
トワークによって伝送する場合の,次の2課題,
1)アドホックネットワーク本来が持つキャパシティを高く保つ
2)限られたキャパシティの中で,それぞれのスループットを変動させ,要求された特定の
スループットを確保する
について,フロー優先制御によって問題解決を行う.
すなわち,ネットワークの本来の情報伝送能力である全体のキャパシティを減少させること
なく,移動型ネットワークノードである特定の探査ロボットの解像度を高めるためのネット
ワーク制御のためのプロトコルを提案し,瓦礫上プラットフォームに実装する.
(2)年次計画
平成17年度
アドホックネットワークのフロー制御アルゴリズム開発と基礎実験
平成18年度
瓦礫上プラットフォームへの実装.
(3)前年度までの成果
通常での無線の問題点を洗い出し、アドホックネットワークの構成を検討し、アドホックネット
ワークのフロー制御アルゴリズムの構想を検討した。
(4)平成17年度の目的
ネットワークの本来の情報伝送能力である全体のキャパシティを減少させることなく、移動型ネ
ットワークノードである特定の探査ロボットの解像度を高めるためのネットワーク制御のための
プロトコルを提案し、その有効性を確認する。
(5)平成17年度の成果
(a)アドホックネットワークモデルの表現
はじめに,ノードが持っている無線インターフェイスの制約条件を記す.
1) 無線インターフェイスは各ノードにそれぞれ1 つである(シングルチャネル).
2) 無線インターフェイスは半二重であるとする.
156
図3-2-4-28
Ad-hoc ネットワークモデル
図3-2-4-28に示すように,アドホックネットワークモデルはNodeおよびLinkの2 つの要素か
ら成る.ここに,N:Node, Le:Linkで,N={N1,N2,…,Nn},Le={le1→2,le1→3…lek→k+1}
情報のpeer to peerの関係を示す経路として,R:Routがある.Nk→Nk+1のルートは,
Rk→k+1={lek→α1,…,leαk+1→k+1}である.
このネットワークモデルにおいて,Gateway を境にして左側はアドホックネット
ワークであり,右側は有線ネットワークである.各Node(ロボット)はそれぞれ
Gateway を経由して有線ネットワーク上のHost(オペレータPC)に向かってデー
タを送信している.
i)スループットの定義
本論文ではThroughput(Tk→k+1) を,ルートRk→k+1 のEnd-to-End 間で,どれだけのデータを
送信しているのかを表すものとする.途中,どの経路を通っているのかということは一切
関係しない.
ii)Capacityの定義
Capacity(C)はノードの伝送能力を定義する.半二重の伝送では,送受信は同時では出
来ないので,理論的に最大Capacityの1/2となる.実際のCapacityは,伝送のプロトコル
にもよるが,複数の受信経路からの同時送信によるバッティング等により,一般にはさら
に低い値となる.
b)フロー優先制御プロトコルと実証実験
Ts→d を送信ノードNs からあて先ノードNd 間でのスループットとすると,フロー優先制御
システムでは,Ts→d をオペレータが自由に操作して変動可能にできる.ただし,キャパシ
ティの制約条件から,Ts→d を変化させることによって,他のルートを通るすべてのスルー
プットが影響を受けることになる.最適なフロー優先制御システム実現のためには,キャパ
シティ制限におけるパケットのバッティングについてもスケジューリングする必要がある
が,この手法は無線LANレベルの仕様であるため変更が困難である.したがって,本研究で
はAd-hoc Network Middlewareのプロトコル部分のみを制御することによって対処すること
157
にした.
1)
プロトコルの設計
オペレータがロボットから送られてくる画像を元に,スループットの上げ下げを判断し入力
することを目的としているため,オペレータオンデマンドで優先順位をつける.優先順位を
つける際に,オペレータはどのくらいの帯域を確保するか,送信ノードとあて先ノード,帯
域を確保する時間をパラメータとして設定をし,そのデータを送信元ノードに転送する.帯
域が保障されるまでのプロトコルの大まかな流れは以下の通りである.
i)
初期状態:優先順位をつけていない状態.
ii) オペレータから入力:各パラメータを設定したコマンドををオペレータから送
信ノードに対して送信する.
iii) 設定の伝播:各パラメータを設定したコマンドを送信ノードから,あて先ノー
ドまでのルートに対して適応する.
iv)
設定の破棄:一定時間感覚が過ぎた場合,設定を破棄する.
図3-2-4-29
フロー優先制御モデルシステム
図3-2-4-29に,各ノード内で行う以下の処理の概略を示す.
①データ送信バッファキューを複数用意しておき,それぞれに対して送信する際
の送信優先順位を設定する.
②送信ノードから送られてきたパケットに対し,帯域保障の条件に合致している
パケットに対しては優先順位の高いキューに送る.
③データを送信する際には,保障されている帯域分優先順位の高いものから送信
を始める.
2)フロー優先制御プロトコルを用いた実験
i) 実験結果
解像度要求での実験結果を以下に示す.図3-2-4-30 は,GW及び各ノードを15m 離した状態
で静止しt = 300~t = 520 において,NodeA からGateway へのスループットに対して2Mbps
158
の帯域を保障するようにフロー優先制御システムを適用した.
図3-2-4-30
図3-2-4-31
実験結果 (Gatewayと各Nodeは固定)
実験結果 (Gatewayと各Node間距離を変化させた場合の比較)
図3-2-4-31は,各ノードを15m 離した状態で,GWと各ノード間の距離を徐々に広げて行った
場合の結果である.上のグラフはスループットを,下のグラフはGWからの距離を表したもの
である.t = 0~t = 720 において,NodeA からGateway へのスループットに対して2Mbps の
帯域を保障するようにフロー優先制御システムを適用した.
図3-2-4-32,および図3-2-4-33は,GW及び各ノード間の距離を徐々に広げて行った場合の結
果である.上のグラフはスループットを,下のグラフはGWからの距離を表したものである.
図3-2-4-32はフロー優先制御システムを適用しなかった場合の結果であり,図3-2-4-33では
159
t = 300~t = 520 において,NodeA からGateway へのスループットに対して2Mbps の帯域
を保障するようにフロー優先制御システムを適用した.
ii) 実験結果による開発手法の評価
図3-2-3-30において,t = 0~t = 300,t = 520~t = 790 間では,通常のパケット転送を
行い,t = 300~t = 520 間ではフロー優先制御システムを適用している.通常の転送では,
明らかに一番手前のノードがGateway-NodeC 間の帯域を占有し,Gateway から離れるほどス
ループットが落ちているのがわかる.しかし,NodeB とNodeA に関してはそれほど明確なス
ループットの違いはみられない.これはNodeA~NodeB 間のリンクが過負荷でないためパケ
ット損失が起こらないからである.そのためNodeBにおいてNodeA から来たパケットと,
NodeB で生成されたパケットは同数分送信されるものと考えられる.しかし,NodeC におい
て到着したNodeA 及びNodeB のパケットがパケット落ちするため,NodeC ではNodeC で生成
されたパケットが多く送信される.フロー優先制御システムを適用した区間においては,逆
にNodeA のスループットが向上しており,明らかに2M の帯域を確保していることがわかる.
また,確保されなかったスループットに関しては逆に割を食う形となり,スループットが減
少していることがわかる.
図3-2-4-31は,さらにロボットが動く実環境での実験データである.Gateway と各ロボット
間との距離が徐々に離れることによって,Node3~Gateway 間のリンクの実効レートは徐々
に下がり,Node3~Gateway 間の距離が広がるほど,全体のスループットは低下していく傾
向にある.T = 340 付近ではNode3~Gateway 間のリンクの実効レートが2M を下回ったため,
NodeB 及びNodeC のスループットは限りなく0 に近くなり,Node1 のスループットも2M を
保証できず下降していることがわかる.
図3-2-4-32 実験結果
(フロー優先制御を用いずGatewayと各Node間距離を変化させた場合の比較)
160
図3-2-4-33 実験結果
(フロー優先制御を用いてGatewayと各Node間距離を変化させた場合の比較)
図3-2-4-32および33は,さらにロボットを移動した場合の実験データである.前実験と,Node1
とGateway の距離はさほど違いはないものの,中継ノードの位置を変更している.前実験と比べ
全体のキャパシティが向上しているため,Node1のスループットも保証され,Node2 及びNode3 の
スループットについても多少下降しているものの通信が出来るレベルを維持している.
結論として,今回のプライオリティキューを使用した手法によって,動的に確保したスループッ
トはほぼ確保されていることがグラフから読み取れる.また確保されなかったスループットに関
しては,割を食う形で減少していることが読み取れ,本制御プロトコルが有用であると評価でき
る.
(6)平成 17 年度の成果発表等
(a)口頭発表
特になし
(b)論文発表
特になし
(c)展示
特になし
(d) 特許
特になし
(e)その他
特になし
(7)参考文献
特になし
161
3.2.4(4)
レスキュー機器と技能の評価を目的とした標準ロボティックダミーの開発
大阪電気通信大学 升谷 保博,添田 晴生
神戸大学
東京電機大学
大須賀公一
栗栖正充
大阪府立工業高等専門学校 土井 智晴,金田 忠裕
財団法人京都高度技術研究所 鄭 心知
株式会社京都科学 杉本 博史
ニッタ株式会社 東 輝明
(1)目的
災害や事故における被害を軽減するためには,ロボティクスや情報科学などに基づく新しい技
術の導入と,日常の効果的な訓練が重要である.新技術の導入による成果は期待できるが,それ
を実用に供するまでには多様な状況を想定した評価実験が必要である.しかし,開発途上の機械
による実験,危険な被災状況を想定した実験,同じ条件で繰り返し行う実験を生身の人間を使っ
て行うのは困難であり,要救助者を模擬するダミー(人体模型) が必要である.
これまでレスキューの分野では,訓練などのために形態だけを模したダミーが使われてきたが,
それでは定量的でリアリティの高い評価実験を行うのは不可能である.また,訓練においては,
訓練者に十分な動機付けを与えるために,定量的かつ実時間の評価が重要である.一方,自動車
の衝突試験や医学・看護教育の分野ではセンサやアクチュエータを内蔵したダミーが使われてい
るが,それらを目的の異なるレスキューに転用することは適切ではない.
そこで,ロボットを含むレスキュー機器と,人間やロボットによるレスキュー技能の評価を行
うために,要救助者を模擬する高機能なダミーを新たに開発すべきである.これは,ロボティク
スやメカトロニクスの分野で培われてきた技術やノウハウを活用するものであり,将来的にはレ
スキューだけでなく,人間と共生する様々な機械を評価するための標準的なスケールになること
が期待できる.
以上のような背景の下で,本研究課題では以下の三つの目的(目標)を設けている.
(a) 大大特プロジェクトの他の研究テーマのために,研究拠点に設けられたテストフィール
ドにおいて人間の代わりとなる検索の対象を提供する.
(b) ロボットを含むレスキュー機器と,人間やロボットのレスキュー技能の評価を行うため
に,要救助者を模擬するダミー(人体模型) を実際に開発し,その製品化や標準化へ向け
ての指針を明らかにする.
(c) レスキューに限らず,人間を対象とし,人間に働きかける様々な作業や機器の客観的・
統一的評価とその向上に資する知見を得る.特に,直接死亡や重傷までには至らないが,
物理的な要因によって引き起こされる,痛み,不快感,不安,恐怖の定量化を実験的なア
プローチで探る.
(2)年次実施計画
平成 17 年度
第 1 試作 1 号機改良版を完成させる.一方,より高度なモデルを実現するため
の要素研究を進める.
162
平成 18 年度 第 1 試作 1 号機改良版を用いて評価実験を行う.統合モデルと機能要素の両面か
ら 5 年間の研究開発の総括を行う.
(3)前年度までの成果要約
平成14年度の成果は以下の通り.
i)
既存のダミーの調査やプロジェクト内での議論を繰り返すことにより,開発すべきダミ
ーの構想,要件,技術課題などを明らかにした.
ii)
第1試作0号機がほぼ完成した.
iii) 第1試作1号機の設計を完了した.
平成 15 年度の成果は以下の通り.
i)
第 1 試作 1 号機を完成させた.
ii) 消防・医療関係者からダミーのニーズに関してヒアリングを行った.
iii) 第 2 試作の技術的課題を検討した.
平成 16 年度の成果は以下の通り.
i)
第 1 試作 1 号機の各要素を評価した.
ii) 第 1 試作 1 号機改良版を設計し,製作を開始した.
iii) 八都県市合同防災訓練において実験を行った.
iv) 人間の痛みに関する実験的な研究を行った.
v)
全身型触覚センサシステムを試作した.
vi) 潜熱蓄熱材を用いた体温模擬を検討した.
vii)体の受動的筋骨格モデルを検討した.
(4)平成 17 年度の目的
i)
第 1 試作 1 号機改良版を完成させ,各要素を評価する.
ii) より高度なモデルを実現するための機能要素の研究開発を行う.
潜熱蓄熱材を用いた体温模擬.
肩複合体の受動的筋骨格モデル.
人間の痛みに関する研究.
(5)平成 17 年度の成果
(a) 第 1 試作 1 号機改良版の製作
これまでの評価や実演・実験などの運用経験に基づいて,昨年度から第 1 試作 1 号機「改良
版」を設計・製作を開始した.これは,基本的な仕様は第 1 試作 1 号機と同じで,耐久性や保
守性を向上させ,より本格的に実験に使えるものを目指すものであり,ほぼ完成した.主な改
良点は以下の通り.
・ ベースとなる人体模型の変更.
これまでは,ダミーのベースとして,全身が内骨格構造の京都科学の「ふくたろう」を
163
用いていたが,胴体部に機材を内蔵させることなどに不自由があるので,同社の「さく
ら」(女性モデル)に変更した(図 3-2-4-34).これは,腕と脚と頭部が内骨格で胴体は
硬質樹脂(図 3-2-4-35)の外骨格構造をしており,胴体内部の空間が使いやすく,腕と
脚が取り外し可能である.腕と脚の構造は「ふくたろう」と全く同じなので,センサの
内蔵方法などはこれまでのノウハウをそのまま使うことができる.
図 3-2-4-35 樹脂の胴体部
図 3-2-4-34
1 試作 1 号機改良版
1)腕・脚のモジュール化.
腕と脚が構造的に胴体から分離できるようになったので,回路的にもモジュール化し,胴
体との配線は USB のみとした.腕と脚の予備モジュールも製作し,必要に応じてすぐに交
換できるようにした(図 3-2-4-36)
.
図 3-2-4-36 モジュール化された上肢
2)腕・脚のセンサ類の密閉
センサ類を発泡樹脂の中に密閉し,外見や強度を向上させた.
3)頸部力覚センサの取り付け方法変更.
ベースの人体模型の変更により頸部の構造も変わったため,それに合わせて胴部と頭部の
間の力覚センサの取り付け方法も変更した.遊びが小さくなったので,頸部の力覚センサ
が有効に働くことが期待できる.
164
4)腕・脚の体表センサの配置の変更.
限られた部位の中で場所を区別できるよりも,多くの部位にセンサを内蔵したほうが効果
的と考え,センサの配置を前腕 4 分割から掌・前腕下・前腕上・上腕へ変更した(脚部も
同様).
5)逆関節センサの表面保護.
金属部品と擦れて痛みやすかった逆関節センサを保護するために特殊な不織布を表面に貼
り付けた.
6)引っ張りセンサの取り付け方法改善.
関節の動きに対して無理な力を受けにくいように取り付け方法を変更した.
7)配線の改善.
内部での配線の切断を避けるために,配線の材料,コネクタ,経路,固定方法などを吟味
した.
(b) 潜熱蓄熱材を用いた体温模擬
1) はじめに
要救助者の探索にあたって,人体から発せられる熱は人体探索の手がかりとして重要な情
報であり,ダミーに体温を模擬させることは不可欠である.一般的な方法である電気ヒータ
を用いて,全身に配置させることを考えると,バッテリの重量分散や配線の配置が問題とな
ってしまう.
そこで,本研究では,マイクロカプセル化した潜熱蓄熱材(PCM)をダミーの皮膚材に複合し,
全身に蓄熱させることを考え,全身の体温模擬の可能性について検討を行っている.PCM は
相変化する際に潜熱として熱を吸収・放出し,また,温度はほぼ一定に保たれるという性質
を持っているため,その性質を利用し,体表面温度(32~35℃)に近い凝固温度を持つ PCM を
用いることにより,体表面温度付近にダミーの皮膚温度を保つことができると考えた.昨年
度は,既存のダミーの皮膚材として使用されている塩化ビニル樹脂にマイクロカプセル
PCM(MEPCM)を 30wt%複合してダミーの腕部を製作して加熱・冷却実験を行ったが,蓄熱量の
不足のため,数十分程度しか蓄熱効果は確認できなかった.そこで,今年度は,ヒータと PCM
を併用することにより,体温模擬の実験を行う.
2) ヒータと PCM を併用した体温模擬実験
使用した MEPCM(ThermasorbTY95, Outlast 社製)は,昨年度まで使用したものと同一のものであ
る.このマイクロカプセルの粒子径は 25~40μm であり, 融解温度は約 35℃,凝固温度は約 32℃
である.
次に使用したヒーター(12V,28W)は,300mm×300mm の不織布に直径 0.5mm の電熱線を 20mm のピ
ッチ間隔で縫い付けたものであり,これを腕部の芯材である発泡ウレタンに巻きつけ,さらに,
温度制御のためのバイメタル非通電式のサーモスタット(34.6mm×20mm,厚み 6mm,ON:32℃,
OFF:39℃)を電熱線と電熱線の間に固定してヒータと直列に接続した.次に,ヒータとサーモスタ
ットの上から包帯で発泡ウレタンに巻きつけてそれらを固定し,さらにその上から塩化ビニル樹
脂,あるいは MEPCM を 30wt%複合した複合樹脂でできた皮膚材を被せることで 2 種類の腕部を試
作した.図 3-2-4-37 に試作した腕部の写真を,図 3-2-4-38 に断面図を示す.
165
measurement point
Thermostat
Non Woven Cloth
Heating Wire
Bandage
Urethane
Vinyl Chloride or
VC containing MEPCM
図 3-2-4-38
図 3-2-4-37 試作したヒータ内蔵の腕
腕の断面図
次に,実験装置全体の概略を図 3-2-4-39 に示す.ヒータの電源には直流定電圧電源(9V,1.57A)
を用いている.また,0.1mmT 型熱電対を用いて,サーモスタット裏面,前腕表面(手首から 10cm
の位置),空気温度の測定をそれぞれ行った.室内はエアコンにより空調を行い,20℃設定とした.
これらの条件の下,ヒータを用いて 2 種類の腕部の体温模擬実験を行った.
Regulated DC
Power Supply
PC
Thermo-couple
heater, thermostat
Data Logger
図 3-2-4-39
体温模擬実験の装置概略
3) 実験結果と考察
図 3-2-4-40 にサーモスタット裏面温度の比較結果を,図 3-2-4-41 に皮膚表面温度の比較結果を
示す.まず,これより,両ケースのサーモスタットはほぼ同じ温度で ON・OFF を繰り返している
ことが確認される.また,従来の樹脂材を用いた腕部の皮膚表面の温度変動は平均すると,2.7℃
であるのに対して,MEPCM を複合した樹脂材の皮膚表面の温度変動は 1.3℃となっており,約半分
になっていることが確認される.これは PCM の蓄熱による平滑作用が働いたためと考えられる.
今回の実験のように,サーモスタットの ON・OFF 間の温度差が大きな場合には,PCM の平滑作用
の効果が十分に期待できるものと考えられる.
166
34
40
38
32
30
32
o
Temperature [ C]
o
Temperature [ C]
36
34
30
Usual Dummy
Dummy with MEPCM
Ambient Air
28
26
24
22
Usual Dummy
Dummy with MEPCM
Ambient Air
26
24
22
20
20
18
28
0
30
60
Time [min]
図3-2-4-40 サーモスタット部の温度変化
90
18
0
30
60
90
Time [min]
図3-2-4-41 前腕表面の温度変化
4) まとめ
マイクロカプセルPCM(MEPCM)をダミーの皮膚材である塩化ビニル樹脂に複合し,さらにサーモ
スタットを用いたヒータと併用させることにより体温模擬の実験を行った.サーモスタット
(ON:32℃,OFF:39℃)を用いたヒータと併用する際に,従来の皮膚材を用いた場合に比べて,MEPCM
を複合した皮膚材を用いると,PCM(凝固温度32℃)の平滑化作用により,皮膚表面の温度変動は約
半分になることがわかった.
(c) 肩複合体の受動的筋骨格モデル
1) はじめに
救助活動などの人体搬送の際に,資機材がない場合や狭い場所では,要救助者の脇下に腕など
をいれたり,要救助者を背負ったりすることが多い.このような時には,要救助者の人体の胸郭−
肩−上腕の振舞いが重要である.ところが,既存の人体模型やロボットでは,胸郭と上腕の間に 3
自由度しかないものがほとんどである.たとえば,救助訓練用として商品化されている人体模型
でも,肩の動きが足りずに,脇の下に腕を入れることができないものがある.そこで,人体搬送
の評価を行なうためには,より本物らしく人体の肩の動きを模擬するモデルが必要である.
実際の人体では,肩甲骨上にある関節窩上腕関節を球面関節と見なし,3 自由度と考えても,
それ以外に,肩甲骨は鎖骨によって胸郭と接続され,筋肉などの拘束を受けながらも胸郭の背面
を滑り動き,少なくとも 2 自由度が存在する.この他にも,上腕骨と肩甲骨の連動など,肩複合
体が複雑な動きを示している[hattori(1996)].したがって,目的を達成するには,これらの特性
を有するダミーの筋骨格モデルを開発しなければならない.しかも,物理的なモデルを製作する
には,作りやすさや強度についても考慮する必要がある.この課題に対して,昨年度までは,解
剖的モデルと機能的モデルという二つのアプローチで肩複合体のモデルの検討を進めてきた.肩
の動きをとらえるには,胸郭上の肩甲骨の位置と姿勢をモデル化することが重要である.そこで,
今年度は,その手始めとして,肩甲骨上の 1 点である肩先(肩峰突起) の可動範囲に着目し,人
体計測で得られた肩先の可動範囲が実現できるような機構を新たに設計・試作した.
2) 人体計測
人体の肩先の可動範囲を計測するために,POLHEMUS 社(USA)製の 3SPACE FASTRAK 磁気センサシ
ステムを用いている.センサコイル 2 を胸骨の V 字溝に,センサコイル 1 を肩先において,胴体
に対する肩先の相対的な変位を計測した(図 3-2-4-42).また,計測点(肩先) の相対変位は胸骨
167
の V 字溝を中心とする球面上にほぼ乗っていることが確認できた.したがって,計測点の 3 次元
位置情報の代わりに,極座標系の二つの角度で表現すると便利である(図 3-2-4-43).計測結果か
ら胸郭座標系に対する肩先の変位を計算したものを図 3-2-4-44 に示す.
図 3-2-4-42
人体の肩先の可動範囲計測
図 3-2-4-44
図 3-2-4-43
肩先の可動範囲の表現
ある被験者の肩先の可動範囲と試作したリンク機構の可動範囲
168
3) 機能的モデルの設計
前述したように,肩先は胸骨の V 字溝を中心とする球面上にほぼ乗っている.肩甲骨上で,肩
甲骨関節窩と肩鎖関節の位置は近いので,今回のモデルでは,鎖骨に相当するリンクの先端に,
上腕との間の球面関節を設ける.これだけで,肩先の位置に関する拘束は十分であるが,肩複合
体に強度を与え,肩先の移動を計測したり,肩先における粘弾性特性を与えたりするために,両
端がボールジョイントで支えられた伸縮リンク 2 本で肩先を支持する閉リンク構造をとることに
した(図 3-2-4-45).この機構において,伸縮リンクとして,ピストンとシリンダの 1 段構造を考
え,その伸縮の限界とリンク付け根のボールジョイントの可動範囲を考慮した上で,人間の肩先
の可動範囲とできるだけ一致するように,数値計算を繰り返して機構の配置を決定した.
図 3-2-4-45
肩の運動を機能的の模擬する閉リンク機構
4) 実モデルの評価
決定した機構配置に基づき設計・製作したリンク機構を図 3-2-4-46 に示す.この機構の可動範
囲を光学式の 3 次元位置計測装置 Northern Digital 社 Polaris Accedo で計測した結果を図
3-2-4-44 に示す.モデルとした被験者の肩先の可動範囲をほぼ実現できていることがわかる.
この機構を,京都科学の人体模型「ふくたろう」に組み込んだ.ただし,機構の動きを妨げな
いように,内部の発泡ウレタン樹脂を発泡率の高い(柔らかい)ものに変更し,塩化ビニルの表
皮の代わりに伸縮性の高いネオプレーンラバーを使ったウェットスーツを着せた(図 3-2-4-47).
さらに,人体模型の質量がそのまま(16kg)では人体らしさを感じにくいことがわかったので,
胴体と腕と脚に錘を装着して,質量を 46kg にまで増やした.その状態で,いくつかの方法で搬送
を試みている様子を図 3-2-4-48 に示す.
169
図 3-2-4-46
図 3-2-4-47
製作した閉リンク機構
閉リンク機構を組み込んだ人体模型
図 3-2-4-48
搬送実験
5) まとめ
今後はこのモデルを使って,人体搬送の評価を試みる予定である.また,この機構の伸縮リン
クを空気圧シリンダに置き換え,肩の動きの粘弾性特性(受動抵抗)を調整できるモデルを設計
し,今年度の予算で製作中である.
(d) 人間の痛みの定量化に関する実験的検討
1) 痛みについて
痛みは通常,頭で認知されており,その時の様々な環境,精神心理,肉体の状況により,同じ
170
様な強さの刺激が神経を通って伝えられても,違った強さの痛みとして感じられる.これは,痛
みの知覚的側面と感情的・情動的側面の 2 つの側面に起因するものとされている.前者は,他の
感覚と同様,刺激を伝える神経メカニズムの関与によるものであり,後者は,痛みに対する人の
逃避的感情などの関与によるものである.
知覚的側面においては,外的刺激を受ける身体の部位の違いに対する痛みの感じ方の違いがあ
る.また,時間帯,天候,性別,年齢,さらに民族によっても,痛みの感じ方に違いがあること
が報告されている.一方,感情的・情動的側面としては,ストレスに起因するものがある.スト
レスは,胃腸や筋肉などの毛細血管を収縮させ,さらに免疫機能を低下させる.このため,人間
はストレスを感じると,痛みに対し敏感になり,痛みを強く感じる傾向にある[tanaka(2003)].
特に被災地などでの高ストレス下では,被災者の痛みの感じ方も通常とは異なると考えられる.
以上を考慮すると,救助活動においては,要救助者の年齢や性別,さらに救助時の時間帯や状
況などを考慮する必要がある.したがってレスキューダミーには,様々な状況における様々な人
間の状態を模擬し,さらに状態の異なる被災者への対応を定量的に評価する機能が要求される.
以下では,上記機能を実現するための第一段階として,知覚的側面に関与する痛み,すなわち刺
激を受ける部位と痛みの関係,およびその定量化ついて検討する.
2)精神物理学的知見に基づく痛みの定量化
精神物理学の分野では,刺激強度(外的刺激の強さ) と感覚量(刺激に対して人が感じる量) と
の関係を表す法則として,“感覚量は刺激強度のべき乗に比例する” とするスティーブンスの法
則がよく知られている.この法則は,スティーブンスがマグニチュード推定法(感覚量の具体的な
数値を被験者に推定させて測定する方法) による測定結果に基づき,刺激強度とそれに対する人
間の感覚量との関係を定式化したものである.感覚量 S ,刺激強度を I とすると,スティーブン
スの法則は次式で表される.
S = k⋅In
ここで, k は尺度定数, n は属性によって決まるべき指数である.べき指数 n の値は,感覚の種
類について特有の値を取ることが知られている[nanba(1998)].本稿では,感覚量 S を痛みの値,
刺激強度 I を外力とし,痛みの定量化に上の式を用いる.
3) 痛みの測定
複数の被験者に対して痛みの測定実験を行い,スティーブンスの法則におけるパラメータ n ,
k の抽出を行った.実験において,被験者の身体に加える刺激強度の測定には図 3-2-4-49 に示
す圧痛計を用いた.これは,先端部に直径 1cm の球形のゴム板がついており,11kgf までの押し
付け力を測定することができる.また,痛みの測定にはフェーススケール法を用いた.フェース
スケール法とは,6 類の顔の表情を描いた絵(図 3-2-4-50)の中から,そのときの気分を最もよく
表現すると思われる絵を被験者に一つ選んでもらい,そのときに感じている被験者の痛みを 0∼5
の整数値によって表現する手法である.この方法は,異なる被験者の痛みの比較には適していな
いが,同一の被験者における痛みの強さの変動を評価するのに有用で,治療効果の判定にも役立
つとされている.なお,今回の実験では,フェーススケール法における数値の対応を
0,1,25,50,75,100 とした.ここで,1 は痛みの絶対閾に対応する.絶対閾とは,感覚が生じるた
めの最も弱い刺激を意味し,通常,感知できる,できないの反応が同じ頻度で起こる刺激値を絶
171
対閾とする[yokota(1990)].絶対閾は刺激を与える部位によって異なり,さらに人によっても異
なるため,痛みを定量化するに当たっては,重要な要素と考えられる.
図 3-2-4-49
図 3-2-4-50
圧痛計
フェーススケール
4) 実験方法
13 人の被験者(A∼M) を対象に以下の実験を行った.なお,実験場所は常時 22 ℃に保たれている
地下室で行った.
【加圧実験】両腕各 8 点,両脚各 8 点,腹 3 点,胸 2 点,背中 6 点の計 43 点を加圧点
とし,加圧に対する痛みの測定を行った(図 3-2-4-51).まず,図 3-2-4-52 のように,
加圧点に圧痛計を両手で保持して直角に当てながら,徐々に荷重を増やしていき,被
験者が初めて痛みを感じたときの荷重を絶対閾として記録した.さらにフェーススケ
ール法を使い,徐々に荷重を増やして 0∼5 の段階に分け順々に被験者に示してもらっ
た.
【逆関節実験】肘 2 ヶ所,膝 2 ヶ所の計 4 ヶ所の関節を対象とし,関節が曲がる方向と逆
方向への荷重に対して痛みの測定を行った.図 3-2-4-53 のように,手首および足首を
それぞれ加重点とし,関節の逆方向への荷重をかけた.絶対閾と痛みの測定は加圧実
験と同じ要領で行なった.
172
図 3-2-4-51
加圧点
図 3-2-4-52
体表への痛みの与え方
図 3-2-4-53
関節への痛みの与え方
5) 実験結果及び考察
各実験から得られた測定値より,モデル式に対する最小自乗近似曲線を求め,尺度定数 k ,およ
び,べき指数 n を抽出した.なお,刺激強度と感覚量との関係は,絶対閾近傍ではスティーブン
スの法則からはずれるとされており,本稿においても n と k を導出する際には絶対閾近傍の測定
173
値は除外した.また,加圧実験と逆関節実験では,痛みを感じるメカニズムが異なると思われる
が,以下では同じ痛みとして考察する.
図 3-2-4-54 は被験者 13 人の各加圧点に対する絶対閾を表したグラフである.加圧点によって
も痛みの感じ方が違うことがわかる.また,腕の加圧より脚の加圧の方が若干だが刺激に鈍く,
特に背中の加圧と膝の逆関節が刺激に鈍いことがわかる.また,腹の加圧と肘の逆関節は刺激に
対して敏感に反応した.
図 3-2-4-55 は各測定部位と n の値の関係を示したグラフである.平均値からのずれが大きい値
も若干あるが,それらを除けば, n の値が各部位によってまとまっていることが判る.また,グ
ラフに表示していない値についても同様の傾向がみられた.
同様に,図 3-2-4-56 は被験者と k の値の関係を示したグラフである.右腕 1 に対する値を除
けば,被験者 A,G,K,M に関して k の値がまとまっていることが判るが,他の被験者に関してはば
らつきが大きい.
以上より, n の値が部位に依存していることが確認できたが, k の値については,被験者,測
定部位とも依存関係が明確には表れなかった.当初 k は体脂肪率などの個体差,すなわち人に依
存する値と考えていたが,上記の実験結果からはそれを検証することはできなかった.被験者に
対しては,身長,体重,体脂肪,BMI も考慮して検討を行ったが, k の値とそれらとの相関を見
つけることもできなかった.各部位に対する n の値は,その平均値で表すことができるが, k の
値が何に依存しているかが判らなければ,モデル式を用いて痛みを数値化することはできない.
痛みの定量化を行うためには,より多くの実験を行い, k の値について詳細に検討する必要があ
る.なお,今回の実験の問題点としては以下のようなことが挙げられる.
・ 測定点に長時間同じ重さの荷重をかけ続けると痛みを強く感じるようになるため,荷重をか
ける時間を調整する必要がある.
・ 直径 1cm の測定点で計測しているために,少しの加圧点のずれによって痛みの感じ方に大き
な違いが出てしまう.
・ フェーススケール法では,評価が抽象的であるために正確な判断が難しい.
今後はこれらの問題点を考慮して実験を行う必要がある.
Threshold
5
arm
(left)
leg
(right)
leg
(left)
elbow
knee
arm
(right)
back
6
breast
belly
7
12 3 4 56 7 8 12 3 4 56 7 812 3 4 56 7 8 12 3 4 56 7 812 12 3 123 456 r l r l
4
3
2
1
0
Measurement point
図 3-2-4-54
絶対閾の分布
174
A
B
C
D
E
F
G
H
I
J
K
L
M
average
3.5
A
B
C
D
E
F
G
H
I
J
K
L
M
average
Exponent n
3
2.5
2
1.5
1
L1
ea
br
le
g-
R1
1
g-
le
-L
m
ar
ar
m
-R
1
0
st
b e -1
lly
ba 1
ck
el - 4
bo
w
kn L
ee
-L
0.5
Measurement point
各測定部位と n の値の関係
図 3-2-4-55
Scale parameter k
50
arm-R1
arm-L1
leg-R1
leg-L1
breast-1
belly-1
back- 4
elbow-L
knee- L
40
30
20
10
0
A B C D E F G H I
J K L M
Subject
図 3-2-4-56
被験者と k の値の関係
(6)平成 17 年度の成果発表等
(a)口頭発表
・上道,河添,土井,金田,升谷,大須賀,栗栖,鄭,杉本,東: “レスキュー機器と技能
の評価を目的とした標準ロボティックダミーの開発 第 11 報:メンテナンス性を考慮した
四 肢 の モ ジ ュ ー ル 化 ,” 日 本 機 械 学 会 ロ ボ テ ィ ク ス ・ メ カ ト ロ ニ ク ス 講 演 会 ’05
(ROBOMEC’05) 講演論文集,1P1-S-093, 2005
・栗栖,牧原,富田,升谷,大須賀,土井,金田,鄭,杉本,東: “レスキュー機器と技能
の評価を目的とした標準ロボティックダミーの開発 第 12 報:痛みの定量化と提示に関す
る検討,”日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会'05 (ROBOMEC'05) 講演論文
集,2P1-S-093, 2005
・中,松岡,升谷,大須賀,栗栖,土井,金田,鄭,杉本,東: “レスキュー機器と技能の
評価を目的とした標準ロボティックダミーの開発 第 13 報:肩先の可動範囲に注目した肩
175
複合体の機能的モデルの試作,”第 23 回日本ロボット学会学術講演会 (RSJ2005) 予稿集,
1J18, 2005
・角家,添田,大西,升谷,杉本:“マイクロカプセル PCM(MECPM)と樹脂材の複合材料の熱
特性,” 日本機械学会 2005 年度年次大会講演論文集,Vol.3,pp.13-14,2005
・上道,金田,土井,升谷,大須賀,栗栖,鄭,杉本,東,初田: “レスキュー機器と技能
の評価を目的とした標準ロボティックダミーの開発 第 14 報:感圧センサシートの静電容
量の影響に関する考察,”第 6 回計測自動制御学会システムインテグレーション部門学術
講演会(SI2005) 講演論文集,1M4-1, 2005
・吉田,添田,升谷,大須賀,栗栖,土井,金田,鄭,杉本,東: “レスキュー機器と技能
の評価を目的とした標準ロボティックダミーの開発 第 15 報: ヒータと潜熱蓄熱材(PCM)
を併用した体温模擬に関する検討,”第 6 回計測自動制御学会システムインテグレーショ
ン部門学術講演会(SI2005) 講演論文集,2J1-2, 2005
(b)論文発表
特になし
(c)展示
第 1 試作1号機改良版と肩モデルの展示と実演:大大特プロジェクトレスキューロボットデモン
ストレーション,6 月 10 日~11 日, 兵庫県神戸市, 2005
・第 1 試作 0 号機と肩モデルの展示と実演:国際フロンティア産業メッセ,8 月 4 日~5 日, 兵
庫県神戸市, 2005
・第 1 試作 1 号機改良版と肩モデルの展示と実演: ロボット×レスキュー2005, 8 月 6 日~7
日, 兵庫県神戸市, 2005
(d)特許
特になし
(e)その他
特になし
(7)参考文献
[hattroi(1996)] 服部恒明:“ヒトのかたちと運動”,大修館書,1996
[tanaka(2003)] 田中清隆:“ここまで「痛み」はとれる”, 講談社, 2003
[nanba(1998)] 難波精一郎, 桑野園子:“音の評価のための心理学的測定法”,コロナ社, 1998
[yokota(1990)] 横田敏勝:“臨床医のための痛みのメカニズム”,南江堂, 1990
176
3.2.5
マップ生成とヒューマンインターフェイス
3.2.5(1)
環境地図作成
東北大学
田所
諭,大野和則
神戸大学
東北大学
野村孝文
森村章一,林
俊輔
河原豊和,中村信介
(1)目的
(a)環境地図作成
災害現場で被災者探査を行うロボットシステムにとって,操縦に必要なロボットの周囲の状
態を的確に把握すること,収集した情報をもとに被災者の絶対位置を特定すること,そこにた
どり着くための経路を救助者に的確に伝えることが重要な開発要素である.このため,探査を
行うロボット周辺形状と位置姿勢の把握,ロボットが通過した環境形状の把握は必要不可欠で
ある.著者らは,ロボット周辺の三次元形状を計測するための三次元スキャナーを開発する.
また,スキャナーで計測した形状をつなぎ合わせることで三次元地図の構築と離散的なロボッ
ト位置の導出を行う.図 3-2-5-1 に形状マッチングによる地図構築の概要を示す.こうするこ
とで被災状況と被災者の正確な位置情報をレスキュー隊に伝えるシステムの構築を目指す.
Lager Scan Area
Environment
図 3-2-5-1 地図構築の概要
(2)年次実施計画
(a)小型三次元スキャナーの構築とテクスチャーマッピング手法の開発
(b)密な三次元形状復元の手法の開発
(c)高速・ロバストなマッチング手法の開発
(平成 18年度)
(a)三次元スキャナーの改良と HELIOS 台車への搭載
(b)二次元・三次元スキャンマッチング手法の改良
177
(c)二次元 SLAM の HELIOS 台車への実装
(d)三次元 SLAM の HELIOS 台車への実装
(3)前年度までの成果要約
本研究では,探査ロボットが収集した瓦礫と被災者の情報を統合し災害地図を構築する.こう
して構築した災害地図をレスキュー隊員に伝えることで円滑な救助活動を支援する.この三次元
地図の構築は,瓦礫環境のところどころで計測した瓦礫三次元形状をつなぎ合わせることで構築
する.著者らはこれまで三次元の環境地図構築と離散的なロボット位置導出のためのシステムの
設計を行い,各要素技術に関して構築を行った.具体的には,a).瓦礫の三次元形状とテクスチ
ャーを計測するための三次元スキャナーの構築と,b).センサシステムで計測した情報を統合し
て瓦礫地形図を作るソフトウェアの構築を行った.また,c) 屋外環境における地図構築の試行実
験も行った.以下それぞれに関して述べる.また最後にこれらの開発を通して明らかになった e)
今後の課題をまとめる.
(a) 三次元スキャナーの構築
図 3-2-5-2 左の構成図の太線で囲んだ部分が本研究で構築する三次元スキャナーの構成であ
る.図 3-2-5-2 右に構築した三次元スキャナーの概観を示す.図 3-2-5-3 に計測結果を示す.
表 3-2-5-1 に構築した三次元スキャナーのスペックを示す.本研究では従来の研究と同様,二
次元レーザー距離計(Leuze 社製 RS4-4)をサーボモーターで上下に駆動することで前方の三次
元形状を計測した [Nuchter(2004), Nagatani(2004)].サーボモーターによるレーザー距離計
の駆動範囲は俯角方向に±100 度である.また,レーザー距離計の計測面と光軸が並行になる
ように取り付けたカメラを用いてレーザー距離計で計測した瓦礫のテクスチャーを取得する.
この距離データとテクスチャーデータを統合することで,テクスチャーつきの瓦礫形状を取得
す る . ま た 重 力 計 と し て TOKIN の
MDP-A3U7 を使用した.
LRF
WebCam
Servo
USB
Posture
USB
図 3-2-5-2 環境地図構築システムの構成(左)と三次元スキャナー概観(右)
図 3-2-5-3 に三次元スキャナーで取り込んだ三次元形状と,その表面にテクスチャーを貼り
付けた結果を示す.三次元スキャナーを用いた形状とテクスチャーの取り込みには約 60 秒程度
を要した.図 3-2-5-3 では三次元スキャナーの前に立っていた人間が,前方に浮き出るように
表示されており,画像だけの情報提示に比べ物体の三次元的な位置関係を直感的に理解できる.
178
今後の課題は,広い範囲のテクスチャーを確保するためのカメラ視野の拡大,スキャン時間
の短縮,スキャナーの小型軽量化があげられる.また,モジュール化することで HELIOS への設
置を容易にする.
表 3-2-5-1
重量
大きさ
測定距離
視野
三次元スキャナー試作機の仕様
3Kg
230(W) x 250(D) x 250(H) [mm]
32m
水平:140 度, 垂直:-100 度~100 度
分解能
水平:0.36 度, 垂直:1 度 (最高 0.3 度)
カメラ
640x480 JPEG, CMOS
電源
24V:300mA, 15V:1200mA, 5V:2000mA
図 3-2-5-3 三次元スキャナーの計測データ
(b) 三次元地図構築とロボット位置導出処
理
三次元スキャナーを用いて計測した瓦礫情
報を統合することで,瓦礫の三次元環境地図
を構築する.図 3-2-5-4 に環境地図構築処理
の流れを示す.最初に三次元スキャナーでロ
ボット前方の三次元形状とそのテクスチャ
ーを計測する.計測した三次元距離データと
前回記録した三次元距離データを,ICP アル
ゴリズムを用いてつなぎ合わせる.これを繰
り返し行うことで瓦礫の三次元形状の地形
図 3-2-5-4 環境地図構築の処理の流れ
図を作る.この地形図にテクスチャーを貼り
付けることで三次元の環境地図を構築する.
179
これまでに図 3-2-5-4 に示す処理の各部分に関して大まかな実装を行い,研究室内部で環境地
図の構築の試行実験を行った.
図 3-2-5-5 の左側に環境地図の構築実験を行った研究室内部の写真を,図 3-2-4-5 の右側に計
測中の様子を示す.最終的には HELIOS に搭載することを目指しおり,実験の際は HELIOS の手
先を想定して高い視点に三次元スキャナーを置き,計測を行った.研究室内部には FRP で作ら
れた橋げたがあり,本実験ではその周辺 9 箇所に三次元スキャナーを設置し計測を行った.こ
うして得られた形状情報をつなぎ合わせ地形図を構築した.また形状データごとに隣接する点
を結び三角パッチを作成し,その表面にテクスチャーを貼り付けることで環境地図の構築を行
った.図 3-2-5-6 に構築した環境地図内部に仮想的な視点を設置し撮影したスナップショット
を示す.図中の番号が大きくなるに従い,橋げたに近づくように視点を移動した.また図 3-2-5-6
中の空中に浮いている座標系は,導出されたセンサの位置姿勢を表す.
図 3-2-5-6 の結果を見ると,環境中に存在する橋げたの外形や,その下に置かれているものの
概要はつかめることが分かる.レーザー距離計で形状を計測し,ICP アルゴリズムを用いてつ
なぎ合わせることでロボット位置と地形図が構築できた.一方,橋の表面の詳細な凹凸や下に
おかれているものを識別することは困難であった.また,物体が存在しない場所に不適切に三
角パッチが貼られる場合もあった.カメラの視野が狭く,レーザーで計測はできていてもテク
スチャーがはれない場所も存在した.
今後の課題は,実際の瓦礫上でのデータの収集,ICP をベースにしたマッチング方法の改良と
マッチング速度の向上,より密な三次元形状の復元とテクスチャーの貼り付けと表示方法の開
発である.
図 3-2-5-5 環境地図構築の実験環境(左:研究室, 右:計測風景)
180
図 3-2-5-6 構築した三次元環境地図のスナップショット
(c) 屋外環境における地図構築の試行実験
神戸大学構内において,構築した地図構築システムを用いて屋外の三次元地図構築を行った.
図 3-2-5-7 上段に計測実験の様子を示す.計測では幅 8[m] の道で,90[m] の道のりで,合計 24
回の計測を行った.屋外では各視点間の移動量が 0.5[m]~2[m],40 度以内なるよう心がけて計
測地点を決めた.実験中は随時人間や車の往来があったが,なるべく往来のないときを見計らっ
て計測を行った.
図 3-2-5-7 下段 に構築した地図を示す.色が付いている点が LRF によって計測された値で
ある.青色が一番低い位置にある点で,赤色の点が一番高い位置にある点を表す.実験の結果,
提案手法を用いて地図構築が可能であることが分かった.一方,大きな建物を越えた後で地面
しか形状データが存在しない場所で俯角方向の誤差が増え,地図全体が多少ゆがんでいること
が確認できた.今後の課題として,傾斜センサなどを用いた正確かつ安定したマッチングの開
発を行う.
181
図 3-2-5-7 神戸大学で行った三次元地図構築の試行実験:計測風景
(上),構築された三次元地図(下)
(d) 今後の課題
これらの結果を踏まえ以下の課題を解決することで,マッチングによる地図構築を実現す
る.
・ カメラ視野の拡大,スキャン時間の短縮,小型・軽量化の改良を施した三次元スキャ
ナーの開発
・ 傾斜センサなどを用いてマッチングの精度と速度の改良
・ 密な三次元形状の復元とテクスチャーの貼り付け方法の開発.
・ マッチング手法の開発
これらを行い,移動ロボットに実装し屋内外環境での実験を通して,提案手法の有用性を
確かめる.
(4)平成 17 年度の目的.
図 3-2-5-1 に地図構築の概要を示す.HELIOS 台車天板の高い位置に取り付けた三次元スキャナ
ーで,瓦礫環境のところどころで計測した三次元形状をつなぎ合わせることで,センサ位置と環
境地図を構築する.図 3-2-5-8 に地図構築の大まかな処理の枠組みを示す.本年度構築した地図
構築のハードウェアの接続は前年度までと同じである(図 3-2-5-2 参照).前年度までは,この枠
組みを構築するために必要となる要素技術の開発を行ってきた.今年度はその過程で明らかにな
182
った問題点を解決するために,枠組みの一部変更,個々の要素技術の改良,収集した情報を正確
に伝えるための三次元地形情報の密な復元を行った.具体的には,(a) ロボットに搭載可能な小
型・高性能な三次元スキャナーの構築,(b) 三次元形状をつなぎ合わせるマッチング処理の高速
化・ロバスト化への取り組み,(c) レーザー距離計で計測した形状情報とカメラ画像を融合した
密な形状復元を行った.また,これ以外に,地図構築のリアルタイム性の向上を目指し,ロボットの
三次元でのポジショニングと地図構築を行った.具体的には,(d) 三次元距離画像センサを用い
た蛇型ロボットの実時間姿勢推定を行った.詳細は平成 17 年度の成果で述べる.
図 3-2-5-8 密な形状復元を含む地図構築の流れ
図 3-2-5-9 小型三次元スキャナーの概観と搭載位置
(5)平成 17 年度の成果
(a) 小型三次元スキャナーの開発
図 3-2-5-9 に新たに開発した小型三次元スキャナーを示す,環境の三次元形状の計測は,従
来研究と同様,二次元のレーザー距離計をサーボモーターで振ることで行う[Nuchter(2004),
Nagatani(2004)].また,テクスチャーはカラーカメラを用いて,姿勢は三軸加速度計を用いて
計測する.著者等はこれまで二台の三次元距離センサを構築した.図 3-2-5-2 に初期の三次元
スキャナーを示す.初期の三次元スキャナーは,32[m] の長距離までの広い範囲の形状を計測
183
できた.しかし,サイズが大きい,重いという問題から開発中のクローラーに搭載するのが困
難であった.また,単眼カメラを用いたためカメラの視野が狭いという問題もあった.そこで
新たに,小型,軽量で広範囲のテクスチャーを計測できる三次元スキャナーを開発した(図
3-2-5-9 右).表 3-2-5-2 に三次元スキャナーのスペックを示す.1 回のスキャンで,89143 個
の距離データ S(t) が得られる.三台のカメラを用いることで,カメラ視野の拡大を,北陽電
気社製の URG を用いることで小型軽量化を実現した.姿勢センサとして,Crossbow 社製3軸
加速度センサを搭載した.複数台のカメラ画像を取り込むための小型・軽量な装置が存在しな
かったため,ブレインズ社に最大で三台のカメラ画像を取り込むことができる MPEG エンコーダ
の開発を依頼した.図 3-2-5-10 にブレインズ社製の三台のカメラ画像の MPEG エンコーダを示
す.エンコードされた画像は LAN を通じて形状を表示するパソコンに送られる.新型は,測定
距離こそ 4[m] と短くなっているが,重さ,サイズ,視野などの点では以前の三次元スキャナ
ーを凌駕している.これにより,クローラーの機動力を損なわない三次元スキャナーが構築で
きた.図 3-2-5-11 に俯角 0 度の状態で取得した三つのカメラ画像を示す.左から左カメラ,
中央カメラ,右カメラで撮影した画像に対応する.このように広い範囲のテクスチャーを同時
に取得することが可能となった.図 3-2-5-12 に三次元環境の計測結果を示す.右側(図
3-2-5-12 B) がレーザー距離計で計測した形状データで,左側(図 3-2-5-12 A) が形状データ
にテクスチャーを張り付けた結果である.図 3-2-5-11 の中央の画像に写っている椅子が,図
3-2-5-12 の A,B の画像中でも確認できる.構築した三次元スキャナーにより,遠隔操縦で動
いているロボットの周囲の環境の正確な形状と客観的な距離の情報が得られるようになった.
今後はこれらの情報を用いて,段差の踏破,隙間のすり抜けが可能かあらかじめ判断する機能
を付加する予定である
表 3-2-5-2 小型三次元スキャナーの仕様
184
図 3-2-5-10 三台のカメラ画像の MPEG エンコーダとカメラサーバ
図 3-2-5-11 俯角 0 度のときの三台のカメラ画像
図 3-2-5-12 計測した形状にテクスチャーを貼り付けた結果
(b) マッチング処理の高速化とロバスト性の向上
1)概要
図 3-2-5-13 に提案する三次元形状の位置合わせ処理の流れを示す. ICP アルゴリズムを用
いて三次元形状の位置合わせを行うことで,形状を計測したスキャナーの計測地点間の動きを
推定する.ICP アルゴリズムでは式(3-2-5-1)に示す評価関数Fを最小化する入力データ S(t)
と参照データ S(t-1)の対応点の組み合わせ x,y と,入力データと参照データ間の動き R,t を繰
り返し計算により推定する方法である[Zhang(1992)].
185
(3-2-5-1)
本手法では,マッチングの精度,速度,ロバスト性を向上させるために,正確な対応点の位置
を考慮しない三次元形状のマッチングを行う部分と,詳細に対応点の位置を考慮した位置合わ
せを行う二つの部分に処理を分けて行う.前者は点と点の対応付けを行う ICP アルゴリズム
(Point to Point:PP) で実装し,後者は点と面の対応付けを行う ICP アルゴリズム(Point to
Plane: PL) で実装した.双方の ICP アルゴリズムとも高速化のために kd-tree を用いた対応
探査を行った.特に点と点のマッチングにおいては,kd-tree の一種である Approximate
Nearest Neighbor Searching (ANN) を用いることで高速化を行った.この高速化の手法は
Nuchter らによって紹介されたものである[Nuchter(2004)].また,前者の大まかな位置合わせ
を行う際,重力の制約と点の向きを考慮した位置合わせ手法も実装した.
図 3-2-5-13 の提案手法では,異なる視点で計測した三次元の形状を,大まかな位置合わせ
(ICP Process PP) によってマッチングを行う.この際,重力の制約を考慮した位置合わせ(ICP
PP wrtG) と,重力の制約と点の向きを考慮した位置合わせ(ICP PP wrtGDir) の二つの方法を
用いて行う.得られた二組の動き MPPi = {Ri; ti}(i = 1;2)とマッチング誤差 FPPi から,FPPi
が小さい方を,ICP PP の部分で計算した動き MPP = fR; tg とマッチング誤差 FPP とし,ICP PL
の初期推定移動量とする.次にこの推定量を初期値として,詳細な位置合わせ (ICP Process PL)
を行う.点と面のマッチングは,正確な解に収束する可能性が高いが,初期値が離れている場
合,解に収束するのに時間がかかるため,初期の移動量を点と点のマッチングで導出する.こ
うすることで収束にかかる時間を短縮する.詳細な位置合せの結果,動き MPL と FPL が得られ
る.最後に FPP と FPL を比較し,小さい方の動きを Mf inal,その誤差を Ff inal とする.こ
の Ff inal が閾値より大きかった場合,二つの計測データのマッチングに失敗したことになり,
別の手法を用いてマッチングを行う必要がある.現在,マッチングに失敗したデータのマッチ
図 3-2-5-13 ロバスト性を改善したマッチング処理の流れ
ングを行う方法を開発中であるが,現状では手動によるマッチングを導入している.
2)評価実験
図 3-2-5-14 に三次元スキャナーで計測を行った環境を示す.合計 74 点で三次元計測を行っ
た.また各視点間の最大の移動量は,回転が約 28 度,平行移動が約 43[cm] であった.図
3-2-5-16 左側に ICP PP wrtG, ICPPP wrtGDir, ICP PL で推定した移動量の真値との差の絶対
値を示す.図 3-2-5-16 右側に各 ICP アルゴリズムの計測誤差 F を示す.これらの図の横軸の
数字はマッチングデータの組合せの番号である.これらの図から,各 ICP アルゴリズムの誤差
186
と F がほぼ比例していることが分かる.また,ICP PP wrtG と ICP PP wrtGDir では誤差の大
きさが測定データによって異なることが確認できる.具体的には,図 3-2-5-16 の両図中の横軸
の 38 のところでは ICP PP wrtG, ICP PP wrtGDir の測定誤差が異なっており,それと比例し
て F の大きさが異なっている.ICP PL は ICP PP に比べ F の値が多少大きめであるが,比較
の基準としては使えると考える.本研究ではこの性質を用いて,異なる手法で計算した移動量
のなかから誤差の少ない計算値を選びだし,地図構築を行った.図 3-2-5-15 に,びーごのオド
メトリ,手動マッチング,提案手法を用いてそれぞれ独立に構築した三次元地図を示す.この
結果から手動でマッチングを行った結果と同程度の三次元地図とロボット位置姿勢が提案手法
を用いて推定できた.
図 3-2-5-14 実験環境
図 3-2-5-15 各種位置あわせ手法を用いて作成した三次元環境地図の俯瞰画像(左:オドメトリ,
中央:手動,右:提案手法)
187
図 3-2-5-16 位置合わせの平行移動の誤差(右)と評価関数による誤差の評価(左)
(c) レーザーの距離データと画像情報を融合した密な三次元地図の構築
レーザー距離計は正確な距離情報を取得することはできるが,スキャナーの駆動機構の問題で,
俯角方向の密な形状を計測できない.一方,画像は正確な距離情報を計測することは困難であ
るが,密な形状情報を間接的に測定できることが知られている.よって,本研究では,レーザー
距離計と画像情報を統合することで正確で密な三次元形状を復元する.
地図を構築する環境内のところどころで,三次元スキャナーを用いて環境の形状とテクスチャ
ーを取得する.ところどころで取得した三次元形状を ICP アルゴリズムを用いてつなぎ合わせ
ることで離散的なロボット位置姿勢(正確にはセンサ位置姿勢)と点の集合で表されたラフな
三次元地図を構築する.この処理と並行して,各計測地点で得られた三次元の形状情報と画像情
報を統合することで,三次元の密な形状を復元する.密な形状復元は Space Carving の枠組み
を用いて行う.図 3-2-5-17 に密な形状復元の流れを示す.レーザー距離計で計測した形状の表
面に三角パッチを貼る.また,三次元スキャナーで計測可能な範囲をカバーするボクセル空間
を用意し,三角パッチとその周辺の領域に属するボクセルに占有,そうでない領域に非占有の
ラベルを貼る.次に占有のラベルが貼られたピクセルが実際に存在するか,Photometric 制約
を用いてチェックする.この結果,密な形状と色付けを行うことができる.こうして得られた
密な三次元形状と,先に導出したロボットの位置姿勢から,密な三次元地図を構築する.
Construction
3D Scan Data
Coloring
Initial Volume in
3D Voxel Space
Dense 3D Shape
図 3-2-5-17 Space carving を用いた密な形状復元の流れ
188
通 常 の Space Carving で は ラ フ な 初 期 形 状 を シ ル エ ッ ト 制 約 を 用 い て 導 出 し , 次 に
Photometric 制約を用いることで密な形状の削りだしと色づけと行う.しかし,シルエット制
約を用いた場合,複雑な環境では正確な初期形状を導出することが困難である.近年,SFM な
どの枠組みを用いてより正確な初期形状を導出する方法が山崎らによって提案されている
[Yamazaki(2005)].この手法でも,瓦礫環境で正確な初期形状を得ることは困難である.本研
究では,レーザー距離計で計測したデータを初期形状として用いることで,複雑な瓦礫環境で
も安定した初期形状の復元を可能にすることが可能になった.図 3-2-5-18 に構築した密な三
次元地図を示す.なお,本実験では以前の三次元スキャナーで計測したデータを用いて密な形
状復元を行った.以前の図 3-2-5-6 の結果と比較すると実験環境に存在する橋の表面の凹凸が
分かる細かさの地形図が,提案手法を用いることで復元することができた.
図 3-2-5-18 密な形状復元処理の結果(a:計測環境,b:レーザー距離計のデータのみを統合,c,d:
レーザー距離計とカラー画像の融合)
(d) 実時間三次元地図構築
これまでの研究では,リアルタイムに三次元ロボット位置と三次元地図構築を行うことがで
きなかった.しかし,実際の瓦礫内の探査を考えた場合,時々刻々と変化するロボットの位置
と周囲の環境の変化を把握することは必要不可欠である.また,レーザーで計測した形状データ
をロバストに位置あわせするには,その間の移動量の情報が必要となる.そこで,本研究グル
189
ープでは,三次元距離画像センサを用いた三次元位置姿勢の同定と三次元地図構築を行った.
本研究で開発した実時間地図構築とロボット位
置導出を行うシステムを蛇型ロボットに搭載し
た際の概観と,システム構成を図 3-2-5-19 に示
す.
ロボットの前方に搭載した三次元距離画像セ
ンサから得られる三次元形状を,ロボットの姿
勢の情報等を用いてロバストかつ高速につなぎ
合わせることで,ロボットの実時間自己位置推
定と三次元地図構築を行う.図 3-2-5-20 に本研
究で使用する三次元距離画像センサを表
3-2-5-3 にスペックを示す.距離画像センサは
レーザーに比べ距離の精度と対環境性能は落ち
るが,瓦礫内や建物内の環境では使用可能であ
る.
図 3-2-5-21 に地図構築の処理の流れを示す.
スキャンデータのつなぎ合わせは ICP アルゴリ
図 3-2-5-19 構築した実時間三次元地図構築
ズムをベースに構築する.ICP アルゴリズムを
システムの概観(上)とシステム構成(下)
表 3-2-5-3 次元距離画像センサの
スペック
図 3-2-5-20 三次元距離画像セン
サ(CSEM 社製 SwissRanger 2)
用いる場合,視点間の移動量が少ないほど計算時間と精度が向上する.高速カメラを用いて三
次元形状を計測することで,この前提条件を解決できる.一方,実時間で流れてくる三次元距
離画像を正確にかつ高速につなぎ合わせることがこれまでの手法では困難である.本研究では,
高速・ロバストなマッチング手法の開発を行った.具体的には以下の改良を行うことでロバス
ト性とマッチングスピードを向上した.
1)形状のエッジの部分の計測データを用いた対応点探査
2)各点の周辺の点群から計算した点の向きを用いた誤対応除去
3)傾斜計と形状データからロボット初期姿勢の推定
こうすることで地図構築を実現した.
190
図 3-2-5-21 地図構築の処理の流れ
図 3-2-5-22 に構築した装置を用いて計測した距離画像データをオフラインでつなぎ合わせて構
築した三次元地図の例を示す.図 3-2-5-22 は建物内の実験室の廊下で地図構築を行った結果であ
る.ロボット位置姿勢と周辺の箱などの形状が導出されている.図 3-2-5-23 は,倒壊家屋を模し
て作られた実験施設内で行った地図構築の実験結果である.ここでもロボット位置姿勢と周囲の
環境地図が構築されていることが分かる.一方,瓦礫環境内では,ロボットの近くに多くのもの
が存在している.そのため,現状の三次元距離画像センサの持つ近距離が計れない,視野が狭い
といった問題により,一部の地形図のみに復元された.今後の課題は近距離の計測と,視野の拡
大である.また,オンラインでの地図構築にも取り組む.
図 3-2-5-23 倒壊家屋実験施設で行った瓦礫環境の地図構築とロボット位置導出
図 3-2-5-22 提案システムを用いて構築した実験室内の三次元地図とロボット位置姿勢
191
図 3-2-5-23
倒壊家屋実験施設で行った瓦礫環境の地図構築とロボット位置導出
(6)平成 17 年度の成果発表等
(a)口頭発表
・ 大野,田所: "屋外環境における三次元地図構築の試行,"ROBOMEC05, No.1P2-N-084, 2005.
・ 大野,田所: "三次元スキャナーの開発と三次元地図の構築," SI, No. 2D2-6, 2005
・ 野村,大野,田所: "探査用レスキューロボットを用いたオンライン三次元地図作成," SI, No.
1J4-6, 2005.
(b)論文発表
・ Ohno, Tadokoro: "Dense 3D Map Building based on LRF data and Color Image Fusion,"
IEEE/RSJ Int’l Conf. on Intelligent Robots and Systems, pp.1774-1779,2005.
・ 大野, 田所:" 小型三次元スキャナーを用いた三次元地図構築," ロボティクスシンポジ
ア,2005(印刷中).
・ Ohno, Nomura, Tadokoro: "Real-Time Robot Trajectory Estimation and 3D Map
Construction using 3D Camera," IEEE/RSJ Int’l Conf. on Intelligent Robots and Systems,
2006 (Submitting).
(c)展示
・ 三次元スキャナーの展示: 文部科学省大大特プロジェクトレスキューロボットデモンスト
レーション 6 月 10 日~11 日, 神戸, 2005.
・ 三次元スキャナーと Ali-Baba の展示: 東北大学イノベーションフェス, 2 月 7 日, 東京 赤
坂プリンスホテル, 2006.
192
(d)特許
特になし
(e)その他
・ Ohno, "Trial of 3D Map Building for Rescue Robot," CIS SUMMER SEMINAR. Aug. 8, 2005.
(7)参考文献
[Zhang(1992)] Z. Zhang, "Iterative Point Matching for Registration of Free-Form Curves,"
INRIA Rapports de Recherche, No. 1658, Programme 4, Robotique, Image et Vision,
1992.
[Nuchter(2004)] A. Nuchter, H. Surmann, K. Lingemann, J.Hertzberg and S.Thrun, "6D SLAM
with an Application in Autonomous Mine Mapping," Proc. of ICRA 2004, pp.
– pp. ,2004.
[Nagatani(2004)] H. Ishida, K. Nagatani and Y. Tanaka,"Three-Dimensional Localization and
Mapping for a Crawler-type Mobile Robot in an Occluded Area Using the Scan
Matching Method," Proc. Of IEEE/RSJ Int. Conf. on Intelligent Robots and
Systems, pp. 449– pp. 454, 2004.
[Yamazaki(2005)] K. Yamazki, M. Tomono, T. Tsubouchi and S. Yuta, "3-D Object Modeling
by a Camera Equipped on Mobile Robot," Proc. Of ICRA 2004, pp. 1399–pp. 1404,
2004.
[Ohno(2005)] K. Ohno, S. Tadokoro. “Dense 3D Map Building based on LRF data and Color Image
Fusion,” Proc. of IROS’05, , pp. 1774–pp. 1779, Aug,2005.
193
3.2.5 (2) 被災地下街等の探索情報集のための遠隔操作ロボット GUI
筑波大学 坪内 孝司,田中 章愛
林 昌幸,油田 信一
(1)目的
大きな地震の直後で倒壊は免れた地下街やオフィスビルの入り口から,遠隔操縦で操作され
る無人の移動ロボットを侵入させ,ロボット上に搭載されたカメラや走査型レーザ距離計など
のセンサから得られる情報を遠隔操作者が観察して,被災者情報や構造破壊,危険物の状況を
収集するシステムを開発することを目的としている.このような情報収集を行なう場合,カメ
ラからの映像だけでは要救助者の位置や内部状況を特定するには多くの時間を要し,距離感や
方向感覚が非常にあいまいになる可能性がある.要救助者や事故地点での状況が,周囲の環境
形状と相対的に把握できることが望ましい.また,ロボットの進入路から現場までの連続的な
周囲環境形状が把握できれば,探索空間のマップが得られることになり,遠隔操作ロボットに
よる探索後の被災者救助計画の立案にも役立つことが期待される.
本システムでは,立体形状を取得できる走査型レーザ距離計を活用し,要救助者や事故状況
を三次元的な地図に直感的に見て理解できるように記録し,利用するためのソフトウェアを提
供する.このソフトウェアをここでは,屋内環境情報収集ソフトウェアと呼び,GUI ベースの
ものとする.
(2)年次実施計画
平成 17 年度
平成 17 年度においては,平成 16 年度に購入したクローラによる走行する RobHaz-DT3 をベ
ースに,筑波大学において遠隔操作による情報収集が可能となるようなさまざまなセンサ系を
実装する.このセンサからの情報を送信できるようにし,遠隔操作者が実際に情報を収集でき
るような遠隔操作ソフトウェアを地上システムに実装する.なお,筑波大学において実装した
システムを含め,この遠隔操作移動ロボットシステムを ACROS と名づける.
(平成 18 年度)
平成 18 年度においては,システム全体のインテグレーションを進め,可搬性の実現を重
点に置いたシステムを構築する.
(3)前年度までの成果要約
一昨年度(平成 15 年度)までの研究成果により得られた知見は,
i)
操作者がロボットからのビデオ映像を見ながら観察し,その観察を自動生成された地図上
に GUI を用いて入力してゆく方法は効果的である.しかし,
ii) 遠隔操作で障害物回避をおこなおうとすると,2 次元の平面的な地図では不十分,
iii)作成したいくつかのソフトウェアモジュールの相互依存性が高すぎ,ひとつのモジュール
194
に不具合があると,他のモジュールまで影響が及んで全体がハングアップしやすい
iv) 車輪型では階段の踏破ができない
ことなどであった.昨年度(平成 16 年度)は,④を踏まえてダブルクローラ型の既存プラット
フォームであり階段の踏破性に優れる Robhaz-DT3 を購入し,この上に前年度までに培った技術
をさらに深化させて搭載した.上記③を踏まえてできる限り相互依存性がないようにソフトウ
ェアをモジュール化してシステム全体を頑健にし,上記②を踏まえて,走査型レーザ距離計を
可動式にして,3 次元的な環境形状も取得できるようにした.
(4)平成 17 年度の目的
平成 17 年度の目的は,本節(1)で述べた目的に沿う屋内環境情報収集ソフトウェアを実装し,
実地に使用してテストを行なってみることである.実地テストの一例として,2005 年 7 月に
大阪で開催された RoboCup Rescue Robot League にも参加し,実装した収集システムの稼働
状況と有用性のテストも行なった.
(5)平成 17 年度の成果
(a) 平成 17 年度においてセットアップを行なった遠隔操作ロボット ACROS
図 3-2-5-24 に本年度においてセットアップを行なった遠隔操作ロボット ACROS の全体写真
を示す.
本年度に行なった主なハードウェア的な実装は,
1)折りたたみ時もロボットの全長を越えないように工夫した上下に動く複リンク可動アーム
を設計し,その先端に広角カメラ取り付けること,
2)熱線カメラを正面方向に向けて取り付けること
3)二酸化炭素検出センサを取り付けること
4)北陽電機製小型測域センサ(走査型レーザ距離計)URG を小型サーボモータに取り付け,3
次元的な空間距離情報を取得できるようすること.
5)カメラ映像(アーム先端 2 台,熱線カメラ 1 台,前方監視 1 台)送信のためのアナログ無
線送信機の取り付け
6)遠隔操作コマンドとセンサ情報送受のための無線 LAN 装置の取り付け
などである.特に④については,昨年度は Leuze 社製 RS-4 を利用していたが,RS-4 は 3Kg
程度の重量があり,これがロボットの重量バランスを崩して階段昇降能力を著しく損ねた
ため,URG に変更した.このため,測距距離は数 m となったが,URG の重量が数百 g のため,
重量バランスを崩すことなく階段昇降ができるようになっている.
このハードウェア類に対して,計算機ハードウェアを含め,図 3-2-5-25 のようなシステム
を構成した.
195
図 3-2-5-24 ACROS
図 3-2-5-25 ハードウェア構成図
196
図 3-2-5-26 操作卓
これに対応する,遠隔操作者が実際にオペレーションを行なう操作卓を図 3-2-5-26 に示す.
情報収集のための GUI は右側にあるノート PC の上に実装された.三次元マウス,通常のマウ
スとキーボードで測域センサに取り付けたモータのパン・チルトの指令や収集情報の入力を
行なう.左手に置かれた TV モニターは,ロボットに搭載した TV カメラからのアナログ無線
を介した画像を表示している.ロボットの走行指令そのものは,ジョイパッドに付属する左
側のジョイスティック一本により行なう.すなわち,ロボットの操作指令は操作者の左手に
もったジョイパッドにより,左手親指でジョイスティックを操作することで,片手で行なう
ことができる.測域センサのパン・チルトモータを動かし,現場での三次元形状の走査を行
なうときはロボットを静止させる必要があるので,ジョイパッドは机上に置くことができる.
このときは左手で三次元マウスを操作することができる.右手はいつもマウス操作とキーボ
ードの入力を行なうことができるので,情報収集ソフトウェアを操作できるような配置とな
っている.
(b) 屋内環境情報収集ソフトウェア
屋内環境情報収集ソフトウェアの構成を図 3-2-5-27 に示す.図に示しているように,本ソ
フトウェアは関連するソフトウェアモジュールに対して独立性がきわめて高くなるように実
197
装した.本ソフトウェアは,関連するソフトウェアモジュールに対して独立なプロセスで起
動している.次の項で説明する「立体形状取得プロセス」とのデータのやり取りはファイル
で行うものとした.このソフトウェアを実行するオペレーティングシステム(OS)の信頼性
が十分高ければ,屋内環境情報収集ソフトウェアと立体形状取得プロセスのそれぞれが影響
しあって問題を起こすことは殆ど起こらない構成としている.すなわち,ソフトウェア間の
独立性を重視して実装及びインテグレーションを行っている.このようなやり方はソフトウ
ェア単体のテストをクリアできれば全体としてもうまく機能する可能性が高いという作用を
生み,開発効率や保守性の面でも有利である.これにより本システムでは全体として信頼性
の高いソフトウェアとなっている.図 3-2-5-28 にこのソフトウェアにより表示された GUI ウ
ィンドウを示す.
図 3-2-5-27 屋内環境情報収集ソフトウェアの構成
198
図 3-2-5-28 屋内環境情報収集ソフトウェアの GUI ウインドウ
(c) 立体形状情報の取得
ロボットの現在位置周囲の環境の立体形状は,ACROS 上に搭載した PC に実装した立体形状セ
ンサ制御プログラムによって,その PC 内にファイルとして格納される.オペレータは任意のタ
イミングでこれを操作システムの PC にコピーし,屋内環境情報収集ソフトウェア内に読み込む
事によって立体形状情報を取得する.このコピー操作は,遠隔操作者が操作するノート型 PC の
画面上に開いた,ロボット上 PC のリモートデスクトップのウィンドウと,そのノート型 PC 自
身のウィンドウとの間で通常のコピー操作で行なうようにしている.リモートデスクトップの
実装はソフトウェアメーカにより行なわれているが,ロボット上の PC と遠隔操作卓にあるノー
ト型 PC の間に存在する無線 LAN において時折起こる通信途絶にも頑健に実装されている.本研
究における現在の実装では,ロボット移動中における無線 LAN の通信の信頼性の低さを,この
頑健性を活用した.これにより,ロボット上で取得したデータは一旦ロボット上に残り,ここ
からうまく立体形状を取得できたものだけを選択し,ネットワークの接続状況がよいときに取
得することができる.
取得した立体形状は三次元マウスとマウスを併用して様々な視点から任意の位置に配置する
ことができる.これにより複数の立体形状データから共通する部分をオペレータが目で判断し
て繋ぐことで,より大きな環境地図を得ることができる.なお,マウスによる立体形状の配置
の際,混乱を避けるために左ボタンによるドラッグの際には平面の移動だけを行い,中ボタン
のドラッグの際には上下移動を,右ボタンのドラッグの際にはヨー回転動作を行うようにした.
199
また微調整のために,キーボードによって視点及び立体形状の上下・前後・左右,ロール・ピ
ッチ・ヨー,各 6 自由度の移動量を設定できるようにした.
またこの際,環境地図内の距離や角度を手軽に知る手段として,三次元空間内に対応した仮
想的な定規及び分度器を作成した.これにより立体形状の距離や角度を手軽に計測できるだけ
でなく,視界に常に表示することで常に大まかな大きさを意識することが出来る.
図 3-2-5-29 GUI ウインドウ内で利用できる 3 次元的仮想定規と仮想分度器
(d) 特記事項の記録
センサから得られた情報を元にユーザが状況を判断し,要救助者や危険箇所などを発見した
際には,これらの情報を特記事項として取得した 3 次元形状情報に基づく環境地図中にアイコ
ンとして記録することができる.図 3-2-5-30 に特記事項の記録の流れを示す.
アイコンは三次元の物体として表され,要救助者の場合は人の形を,危険箇所などの場合は
幾何形状を用いる.また壁や障害物等の物体は目分量の近似により同等の形状を選び,おおよ
その範囲で表現する.アイコンを地図に設置する際には別ウィンドウを用いて文字情報をキー
ボードから記入することができ,より詳細な情報を記録することができる.アイコンも立体形
状と同様にマウスまたはキーボードにより 6 自由度の移動量を設定することができる.本シス
テムで使用するアイコンを図 3-2-5-31 に示す.
200
図 3-2-5-30 特記事項の記録の流れ
図 3-2-5-31 使用可能な立体アイコン
(e) 作成された環境情報の利用
作成された環境情報のデータを救出活動に利用するため,本ソフトウェアには見たい領域の
スナップショットを保存する機能を設けている.このスナップショット画像を印刷してレスキ
ュー隊に発行することにより,レスキュー隊は専用の PDA などの機器を持たなくても即時にデ
ータを利用することができ,迅速な救助活動に役立つと考えられる.
スナップショットを作成する際には,画面に表示されたものをそのまま取り込む機能と,色
を反転させて取り込む機能があり,両方を印刷することにより周囲の照明条件や好みに左右さ
れずに情報を把握することができる.また投影法を透視投影と平行投影から選択することがで
き,鳥瞰図に近い構図の場合は透視投影によって立体感のある図を,上空から見た映像に近い
201
構図の場合は平行投影によって壁などが高さによってずれない平面図を得ることができる.更
に,画面中に表示された三次元定規及び分度器などのツールは印刷後の図面のスケールを知る
手段としてもそのまま流用できるため,印刷の際の設定の手間を最小限に抑えることができる.
図 3-2-5-32 は,このスナップショット機能を利用して取得した環境地図情報の例である.ロ
ボットの位置と観察によって得られた模擬犠牲者の位置が,それぞれ図中に記されている.
図 3-2-5-32 印刷された環境地図の例
(f) 模擬環境における情報収集実験
1) 模擬環境での情報収集実験
本システムの模擬環境での情報収集実験には,RoboCup 2005 Osaka 世界大会レスキューロボ
ットリーグ[Robocup2005][RobocupReport]で準備されたレスキューロボット評価のための模擬
環境を用いた.RoboCup 2005 Osaka 世界大会レスキューロボットリーグは,世界各国の研究者
や企業が製作したレスキューロボットを一同に集め,一定のルールの下で模擬環境内の要救助
者を模した図 3-2-5-33 のようなマネキンを探査する競技である.実用を目指したロボットが数
多く出場するため,模擬環境は階段や瓦礫などが散乱した非常に難易度の高いものとなってい
202
る.いわゆる競技会の範疇ではあるが,この環境で実装したシステムが動作できなければ,実
環境での動作はまず保証できないと考えてよい環境である.そのゆえ,この競技会に出場して,
実装したシステムを評価するにはよい機会であると考えた.また,この模擬環境の形状にはオ
フィスや地下街などの特定のモチーフは存在しないが,階段や斜面,ブロックや砂利,布や図
3-2-5-34(a)に示すランダムステップフィールドと呼ばれる人工瓦礫などの障害物が散乱した
広い空間となっており,本研究で想定する地下街環境に存在すると思われる要素を多分に含ん
でいるため,この模擬環境を用いた実験の価値は十分に存在すると言える.図 3-2-5-34(b)に
模擬環境の全景を示す.本研究では,この競技会におけるルールにしたがいながら,この模擬
環境において要救助者の探査実験を行うことで,遠隔操作システムとしての有用性の相対的な
評価を行った.
図 3-2-5-33 要救助者を模したマネキン
(a)ランダムステップフィールド
図 3-2-5-34 模擬環境
203
(b) 模擬環境全景
図 3-2-5-34 模擬環境
実験(競技)の方法は,遠隔操作により模擬環境内のマネキンを一定時間内(標準 10 分,最
終テストは 15 分)に探索し,その位置やマネキンの形状,付けられたタグの番号,近くに置か
れたカセットテープの音声や二酸化炭素ボンベ・温熱シートの有無を各種センサの情報を基に
記録する方式で行った.
マネキンは大人と乳児の 2 種を準備される.更に,大人のマネキンには全身を有するものと
腕だけのもの,上半身だけのもの,下半身だけのものなどを準備し,瓦礫に埋もれた状態を再
現される.このうちいくつかには内部にモータを埋め込み,動きを与えることで助けを求めて
いる状態が表現される.
マネキンは実験ごとに場所を変えて置かれ,ロボットの遠隔操作者は事前にその場所を知ら
されない状態とする.ロボットのスタート位置も同様に操作者には知らされない.オペレーシ
ョンルームは模擬環境を直接見ることが出来ないよう,高い壁で覆われている.図 3-2-5-35 に
オペレーションルームの様子を示す.
204
図 3-2-5-35 オペレーションルーム
表 3-2-5-4 評価式のパラメタ各項目と配点
なお,他団体から出場しているロボットの性能との比較を行うため,審判による公平な記録
のもと,下記の評価式により評価を行った.各項目の定義と配点を表 3-2-5-4 に記す.
Score =
VT + VSt + VSi + MQ + VL − VH
(1 + NO ) 2
表 3-2-5-5 RoboCup 2005 Osaka 情報収集実験の結果
205
表 3-2-5-6 遠隔操作性能実験の結果
これらの条件で 10 分間の走行を 5 回,15 分間の走行を 2 回,合計 7 回の実験を行った.実
験の結果を表 3-2-5-5 に示す.表 3-2-5-5 の V は要救助者数,P は減点,Score は本研究で開
発した遠隔操作ロボットによるスコア,OScore は他団体の出場ロボットのうちの最高スコアを
示す.
表からもわかるように,1 回目~5 回目にかけては,他の様々なレスキューロボットのスコア
に対しより多くの要救助者を発見し,概ね上位の成績を得ることが出来た.これに対し,6 回
目,7 回目のスコアは他のロボットに比べて低くなっている.これは 6 回目,7 回目で与えられ
た模擬環境の難易度がそれ以前に比べて高く設定されており,要救助者の位置が非常にわかり
にくくなっていたこと,無線 LAN の電波状況が良好でなかったこと,操作ミスにより作業半ば
でロボットの身動きが取れなくなってしまったことなどの運用面での問題が原因と考えられる.
なお,最終戦である 6 回目と 7 回目の合計のスコアを要救助者数で割った一人当たりのスコ
アは全出場団体中最も大きかった.このことは一人の要救助者から得られた環境情報の種類及
び数が最も多く,最も有用な情報を得ていたことを示すものである.このことから,本システ
ムの環境情報収集能力は非常に高いと認めることができた.
2) 模擬環境での遠隔操作性能実験
情報収集実験と同様の模擬環境を用いて遠隔操作性能実験を行った.これは情報収集実験と
同様に模擬環境が見えない位置から遠隔操作を行い,極めて瓦礫や階段の多い環境中に広範に
配置された要救助者のそばを出来るだけ多く通過することで,いかに遠隔操作により広い範囲
を安全かつ効率よく走行できたかを検証する実験である.
この実験には情報収集実験においてある程度走行性能が高いと認められたロボットのみが参
加し,2 回の走行で発見した要救助者の数のみの合計を求めて比較を行った.表 3-2-5-6 の V
は要救助者数,P は減点,S はスコアを指す.表 3-2-5-6 の結果からわかるように,本システム
は他のレスキューロボットに比べ,最も多くの要救助者を発見し,難易度の高い瓦礫や階段等
の障害物上を遠隔操作により効率よく走行することが出来た.
尚,この競技の結果本システムは遠隔操作による走行性能がトータルとして非常に優れてい
ることを評価され,IEEE Robotics and Automation Society Japan Chapter Award を受賞した.
206
以上の実験結果からわかるように,本システムは走行性能,遠隔操作の操作性及び情報収集
の面で優れており,他のレスキューロボットと比較しても性能は十分であることがわかった.
特に情報収集の範囲の広さを決定付ける遠隔操作のパフォーマンスについては,高い走行性
能と非常に簡便な操作性を有する機体と,リアルタイムで容易に周囲の状況を把握することが
出来る広角カメラ付きアームの効果により非常にシンプルかつ高度なものが得られたといえる.
(6)平成 17 年度の成果発表等
(a)口頭発表
・田中,坪内,友納,油田: “立体形状情報を収集可能な被災地下街探査ロボットの開発
” ロボティクス・メカトロニクス講演会’05, 2P1-S-095, (CD-ROM), 2005.
(b)論文発表
特になし
(c)展示
・ACROS の展示: レスキューロボット
戸市,
デモンストレーション, 6 月 10 日~6 月 11 日,
神
2005
・ ACROS の演示と実験: RoboCup 2005 大阪世界大会 ロボカップ・レスキューリーグ出場,
7 月 13 日~17 日,2005
・ACROS の展示: つくば市産業フェア,11 月 19 日~11 月 20 日,つくば市,2005
(d) 特許
特になし
(e)その他
特になし
(7)参考文献
[Robocup2005] Robocup 2005 Osaka, http://www.robocup2005.org/home/
[RobocupReport]
RoboCupRescue - World Championship and Symposium - Summary Report,
http://robotarenas.nist.gov/2005/RoboCupRescue_Osaka_Japan_2005.pdf
[Tanaka] 田中章愛: “屋内環境情報収集のための遠隔操作型探査ロボットの開発,” 筑波大学
大学院修士課程 理工学研究科 修士論文, 2006.
207
3.2.5(3)
遠隔操作技術
電気通信大学
松野文俊
NPO 国際レスキューシステム研究機構 城間直司,亀川哲志
電気通信大学
稲見昌彦,佐藤徳孝
法政大学
伊藤一之
(1)目的
瓦礫上タスクフォースにおいては,倒壊現場の比較的局所的な瓦礫上(50m 以内)を移
動し,カメラなどで被災者情報を収集するとともに,構造破壊の状況,危険箇所の状況な
どの災害現場の詳細な情報収集を遂行する効率的なシステムを開発することを目的として
いる.実環境でロボットが自律的に移動・探索を行うには技術的問題が多く,地震災害や
テロ災害などの極限環境で作業を行うレスキューロボットなどにおいては,人間が遠隔操
作でロボットを操縦する形態が現実的な解の一つとなっている.そこで,本研究では,災
害地におけるロボット操縦において重要な遠隔操作性向上を図る技術の開発を目的とする.
ロボットの遠隔操作性の向上は,これまで有効に利用できていなかったロボット自身のも
つ走破性能を十分に発揮することへと繋がる大変重要な課題である.
(2)年次実施計画
平成17年度
(a)画像安定化システムの開発
(b)瓦礫上移動ロボットへの開発した遠隔操作システムの搭載
(c)遠隔操作向上を図るシステムの改良
(平成 18年度)
(a)瓦礫上移動ロボットへ開発した遠隔操作システムを搭載して,運用,及び,その評価に基
づく改良
(3)前年度までの成果要約
(a) 平成 14 年度
1) レスキューロボット・システムに必要な基盤技術の洗い出し
2) AR 技術を用いた情報収集ロボットの遠隔操作システム
ラジコン戦車に2台のカメラを搭載し,プロジェクタを用いて偏光メガネを装着したオペレ
ータに立体映像を提示するシステムを開発した.
3) 脚ロボットの歩容生成アルゴリズムの開発
ステップ状の段差がある環境を考え,環境に与える力を計測しながら,歩行に必要な足先反
力を得られるかどうかを確かめる「足探り動作」を提案した.環境が崩壊した場合にもロボ
ットが転倒しないような足探り位置とロボットの重心の満たすべき領域を求め,安定歩行を
208
実現する歩容を生成するアルゴリズムを開発した.
4) 多連結クローラ型ロボット(KOHGA)の設計
5) ネジの原理に基づいたヘビ型ロボットの設計
(b) 平成 15 年度
1) ロボットの遠隔操作技術の開発
i) AR 技術を用いた情報収集ロボットの遠隔操作システム
遠隔操作性を向上させる任意視点からの俯瞰的画像生成・提示システムを提案し,2 次元水平
面におけるシステムを開発し,オペレータにとって本手法により提示される画像は移動ロボット
が環境内でどのような状態にあるのかを容易に認識でき,遠隔操作感が向上することを確認した.
ii) 操作性を考慮した遠隔操作型情報収集ロボットの開発
・ボランティアスタッフによるレスキュー活動の重要性を考慮し,非熟練者が操作可能なレス
キューシステムの構成を提案した.
・蛇型レスキューロボットのための,機構的半自律制御系を考案し,試作機の製作と予備実験
を行った.
2) ロボットによる災害現場の 3D 環境情報マッピング手法の開発
少ない情報量の地図作成に主眼を置き,移動するのに必要な情報,すなわち交差点や経路,特
徴的な物体の順序といった環境中の定性的な情報をもとにした行動地図を,ロボット自らが作成
していくことを目的とし,地図データベースの構築アルゴリズムと全方位カメラからの画像処理
システムの構築が完了した.
3) 多連結クローラ型ロボット(KOHGA)の開発
単体のクローラ型車両での問題点をレスキューロボット競技(RoboCup Rescue 国際大会 2002,
2003, RoboCup Rescue Japan Open 2003)や川崎ラボテストフィールドでの実験で洗い出した.
走破性の観点では,より複雑な環境への適応性を向上させるために,クローラ車両を関節により
多数連結し,ヘビのように細長い形状を持たせることが有効であることを見出した.その具現化
として,不整地環境に柔軟に対応できる多連結クローラ型ロボットロボット KOHGA を開発した.
4) ネジの原理に基づいたヘビ型ロボットの開発
ロボット自身の体幹の大きさの空隙さえあれば,瓦礫内に侵入行くことが可能なように,ま
た,体幹の一部のみが環境に接している場合にも推進できるようにするため,ネジの原理に基
づいたネジ推進ユニットを開発した.ネジ推進ユニットを直列に結合した場合には,ネジ推進
ヘビ型ロボットを,並列に結合した場合には全方向移動ロボットを構成できる.
5) 軽量化ユニット型脚ロボットの開発
キャスターを持った3自由度の1脚ユニットを3ユニットで3脚のモジュールを構成し,この
モジュールを結合・分離・再結合できる柔軟な設計となっている軽量化ユニット型ロボットの開
発を目指し,その設計・製作を行った.
(c) 平成 16 年度
1) 遠隔操作向上を図る提示カメラ画像の検証,及び,ソフトウェア的に遠隔操作向上を図るシ
ステムの開発
ロボットの遠隔操作において,その操作性は,オペレータに提示される画像により違ってくる.
ロボットの遠隔操作において,どのようなカメラ画像をオペレータに提示すればその操作性が向
209
上するのかを幾つかのカメラ画像を用いて実験的に検証した.また,ソフトウェア的に遠隔操作
性の向上を図る過去画像履歴遠隔操作システムの開発を行った.
(4)平成 17 年度の目的
遠隔操作技術
1995 年度の阪神淡路大震災以後,特に日本では,災害時におけるダメージを軽減化するための高
い情報処理能力を持つ知能的なレスキューロボットシステムやロボット技術が期待されている.
実環境でロボットが自律的に移動・探索を行うには技術的問題が多く,地震災害やテロ災害など
の極限環境で作業を行うレスキューロボットなどにおいては,人間が遠隔操作でロボットを操縦
する形態が現実的な解の一つとなっている.典型的なロボットの遠隔操作においては,遠隔地の
情報をロボット搭載カメラにより撮像し,それをオペレータに提示してロボットの操作を行う形
が一般的である.構造化されていない不整地環境での走破を行うレスキューロボットに搭載され
たカメラからの画像は,ロボット自身の揺れの影響を大きく受け,その映像自体揺れたものとな
り,その揺れた画像は,ロボットオペレータのカメラ酔いを誘発し,その遠隔操作性を降下させ
る.本研究では,カメラからの提示画像の揺れを低減する画像安定化システムを開発し,それに
より不整地でのカメラ画像をもとに行う遠隔操作性の向上を図る.また,これまで提案してきた
過去画像履歴を用いた遠隔操作手法において,災害地などへも適用可能なロボット単体で閉じた
システムとしての実現を図る.そして,これまで 2 次元平面でのロボットの移動のみの実現であ
った本システムの 3 次元空間への拡張を行い,実際に 3 次元空間を移動するレスキューロボット
への適用可能なシステムとしての実現を図る.
(5)平成 17 年度の成果
ロボット搭載カメラからの画像を用いて行うロボット遠隔操作において,その操作を行うオペレ
ータへどのような画像を提示するかが重要となる.オペレータへの負荷の軽減および画像からロ
ボットおよびその周囲状況の容易な把握が可能となる画像を提示することによりその遠隔操作性
を向上させるシステムを開発した.
(a)画像安定化システム
災害現場や惑星探査など,人間が直接作業を行うことが困難な場所では,遠隔操作型ロボットを
利用して作業が行われる.その際,ロボット周囲の環境認識を行うために,ロボット本体に搭載
された CCD カメラ等で周囲の画像情報を取得し,オペレータ側へ提示するシステムが必要不可欠
である.しかし,災害現場等は不整地環境が主であり,ロボットの姿勢が安定せず,カメラが大
きく揺動し,オペレータ側に安定した画像を提示することができず,操作性能の劣化や VE 酔いの
誘引などが問題となっている[Kurazume200],[Yokokouji2004].そのため,取得したカメラ画像か
ら揺れの成分を除去し,揺れの無い安定した画像をオペレータに提示するようなシステムは,こ
の問題を改善するために重要である.一方,災害現場で用いられるロボットには,瓦礫内の狭い
場所を移動することを目的とした小型ロボットも多く,そのためシステムにはコンパクト性が求
められる.また,予測のつかない揺れを安定化するためには,高周波,大振幅の揺れへの対応が
必要とされる.
210
本研究では,画像安定化の手法としては,ジ
ャイロ等の内界センサによる姿勢情報あるい
は画像処理によるオプティカルフロー情報に
基づいて,カメラの姿勢変化を求め,1. カメ
ラ 角 度 を ア ク チ ュ エ ー タ で 制 御
[Yokokouji2004] 2. ソフト的に取得画像から
その一部分を切り出して提示[Kurazume200]と
いった方式が考えられる.オプティカルフロー
図 3-2-5-36
など画像特徴点に基づいた場合は特徴点の見
画像安定化手法
分けにくい環境下では精度が劣るという問題
があり,さらにカメラを動的に制御する場合には小型化が困難である.そこで本研究では,
. 小型の移動体にも搭載可能
. 移動機構に依存しない
. 高周波,大振幅の揺れにも対応可能
. 周囲の環境状況に依存しない
といった特徴を有したシステムを実現するべく,カメラの
姿勢情報と取得画像からその一部分を切り出して提示する
手法を用いた画像安定化システムを開発した.
1) 画像安定化の方法
i)安定化手法
ロボットの不整地移動によるカメラの揺れは,主に姿勢変
化によるカメラの回転運動によるものであると考えられる.
つまり,回転による揺れを除去することで,ロボットに搭
図 3-2-5-37
画像の球面投影
載したカメラからの画像の安定化が可能であると考えられ
る.そこで,本研究では,カメラの回転運動に起因した揺れの補正を対象とし,並進運動による
揺れは考慮しないこととする.図 3-2-5-36
に示すように,カメラがカメラ中心(焦点)
回りに回転運動した場合,視野範囲の回転角
度であれば,回転後も注視点を画像内に捕ら
えることができる.つまり,カメラが回転し
た分だけ視点方向を移動することで,回転後
も同じ点を注目でき,その点の周辺画像を切
り出して表示すれば,あたかも安定している
ような画像が得られる.さらに,本手法では,
広視野な画像を取得できれば,広範囲の安定
図 3-2-5-38
画像を提示でき,かつ,大きな揺れにも対応
可能となる.
211
カメラユニット
ii)広視野画像の取得
全方位画像センサの一つである魚眼カメラは,単
眼で一度に 120~180 度前後の視野の画像を取得
でき,小型・軽量化が図れる.そこで本研究では,
システムのコンパクト化と大きな揺れへの対応
を図るために魚眼カメラを用いて広視野画像の
取得を行う.しかし,魚眼カメラの画像は歪みを
図 3-2-5-39
ロール角データ
含んでいるため,ただ単に提示画像枠を移動する
だけでは安定な画像が得られないだけでなく,人
間に認知しにくいものとなってしまう.そのため,
取得した魚眼画像から歪みを取り除き,実際のカ
メラ周囲の像へと復元する必要がある.
ⅲ)球面投影の利用
空間上のある 1 点を視点位置とし,その 1 点か
ら全周を見渡した時に得られる視覚情報を考え
図 3-2-5-40 ピッチ角データ
る.人間の視覚は,その点を中心とする球面上に
視覚情報をマッピングした像を中心から眺めている
ような仮想環境と類似していると考えられる.そこ
で,図 3-2-5-37 のように魚眼画像内の各点を実際
の光の入射方向に対応させて球面に投影し,中心か
ら球面上の像を眺めることで,人間に認知しやすい
ような仮想的な視覚環境を作り出す.そして,眺め
る視野角を狭めることで一部分の提示を行い,カメ
ラの回転角度に応じて視点方向を移動させることで
安定した画像の取得を行う.また,この方法により,
図 3-2-5-41
ヨー角データ
今後カメラを複数用いるなどして視野の拡大を行っ
た際に,システムの拡張が容易となる.本研究では,OpenGL を用いたテクスチャマッピング等の
CG 技術により以上のことを実現した.
2)システム構成・概要
本研究で開発したシステムは,カメラ姿勢情報を計測する 3 次元モーションセンサ,広視野画像
の取得のための魚眼カメラ,そして,安定化処理と提示を行うための PC で構成される.図
3-2-5-38 にカメラとセンサを組合わせて製作したカメラユニットを示す.大きさは 100 × 100
× 80[mm],全体で約 150g と小型・軽量なものとなった.カメラ画像は IEEE1394 経由で PC に
取り込み,モーションセンサの値はシリアルポートより受信する.安定化画像は 320 × 240 画
素の上下視野角 50 °で提示し,フレームレートは,Pentium 4 3GHz の PC で毎秒 30 フレーム
212
を実現した.補正可能な回転角度範囲は,ヨー回転で± 25 °,ピッチ回転で± 20 °,ロール
回転で± 180 °である.魚眼カメラの視野角があまり大きくないため,ヨー,ピッチに関する範
囲は少ないが,複数のカメラなどによりさらに広視野な画像を取得することで,提示画像の画素
数と視野角,および対応角度範囲の拡大が容易に行え,拡張性は高い.このシステムでは市販の
ビデオカメラ等の手振れ補正では対応しきれないような大振動への対応が可能である.
3) 評価実験
開発したシステムの評価を行うために,ロール,ピッチ,ヨーの各軸に関する安定化の実験を行
った.
i)実験方法
環境に固定されたある線分がカメラ画像の中央に位置する状態から,人間の手でカメラユニット
に各軸独立に一回の揺動運動を与え,200[ms] 毎に,原画像と安定化画像のビットマップデータ
を PC 内に保存する.
定量的な評価を行うために,各ステップ毎の原画像と安定化画像それぞれについて,画像内で
の線分の移動量をカメラの回転角度に換算する.そして,原画像と安定化画像の結果を比較し,
開発したシステムの評価を行った.
ii)結果および考察
実験の結果を図 3-2-5-39~図 3-2-5-41 に示す.グラフはそれぞれ,原画像と安定化画像につい
て,各ステップ毎の画像から求めたカメラの回転変化を時系列にプロットしたものである.実験
の原画像におけるロール,ピッチ,ヨーそれぞれの軸回りに関する回転角をφ1,ψ1,θ1 とした.
また,実験の安定化画像におけるロール,ピッチ,ヨーそれぞれの軸回りに関する回転角をφ2,
ψ2,θ2 とした.この結果をみると,どの軸回りにおいても原画像では大きく回転揺動している
が,安定化画像ではほとんど初期値から変動がない.すなわち,開発したシステムがカメラの各
軸回りの回転運動に対して画像の安定化を実現していると言える.それぞれの安定化画像の結果
において微小な回転変化が生じている原因としては,並進運動が混入していたためとセンサ値の
誤差による影響であると考えられる.前者の問題を考慮して評価実験を行うためには,特別な実
験装置を製作して,実験時に回転のみの運動を与えられるようにする必要がある.後者は,より
高精度のセンサを用いることで改善が期
待できる.
本研究では,ロボットの操作性の向上を
目指し,実際の現場での使用を考慮して,
カメラの姿勢情報と取得画像からその一
部分を切り出して提示する手法を用いた
画像安定化システムの開発を行った.そし
て,魚眼カメラと 3 次元モーションセン
サのみで構成されるシンプルかつコンパ
クトなシステムにおいて,カメラの回転運
図 3-2-5-42 俯瞰視点画像生成の概念図
動に対して画像を安定化できることを示
し,構築したシステムの有効性を検証した.
213
(b)過去画像履歴を用いたロボットの遠隔操作
本研究での遠隔操作性を向上させる俯瞰的複合画像の生成は,以下の技術に基づき実現される(図
3-2-5-42)[Shiroma2004][Shiroma2005].
① ロボットの位置・姿勢推定技術
② ロボットの推定位置・姿勢とロボットにより撮像された過去画像履歴による時空間情報に基
づいた複合画像生成技術
つまり,ロボットの位置・姿勢情報とそれぞれの画像が撮像されたときのカメラの位置・姿勢
情報を含んだ過去画像履歴が必要である.これまでに,①の位置・姿勢推定技術において,環境
に設置した外部センサをもちいてその実現を図ってきた.未知環境である災害現場で活動するロ
ボットへの適用を考えた場合,外部センサを用いることはできず,ロボット搭載センサのみをも
ちいて,この位置・姿勢推定技術を実現する必要がある.そこで,ロボットの位置・姿勢を推定
するセンサとしてレーザレンジファインダを用いたスキャンマッチングによるロボット単体で閉
じたシステムとしての本手法の実現を図った.
1) スキャンマッチングによる自己位置推定法
レーザレンジファインダからの 2 つのスキャンデータ(参照スキャンおよび入力スキャン)を用
いたスキャンマッチングにより,移動体の移動した相対並進移動量および相対姿勢回転量を決定
する.最小二乗法によるデータの位置合わせを行う ICP(Iterative Closest Point)アルゴリズ
ム[Besl1992] [Zhang1994] は,よく知られた局所的なデータのスキャンマッチングを行う方法で
ある.本研究では,ICP アルゴリズムを用い,移動体の相対並進移動量および相対姿勢回転量を
求める.
移動体の位置推定
移動体の並進移動量,姿勢回転量は,各スキャンマッチング毎の微小相対並進移動量および微小
相対姿勢回転量を積分することで求められる.スキャンマッチングによる移動体の位置推定は,
以下の様である.
移動体の位置推定アルゴリズム
i) 移動体の初期位置において最初のスキャンを行い,このスキャンデータを参照スキャンと
して登録する.この時,参照スキャンが行われた移動体の
位置・姿勢も同時に記憶する.その後のスキャンデータは,
指定された条件を満たさない限り入力スキャンとして利
用される.
ii)次のスキャンデータが得られたら,それを入力スキャンと
して,参照スキャンとのスキャンマッチングを行う.これ
により,移動体の相対的なモーション(相対並進移動量,
相対姿勢回転量)を得ることができる.
iii)得られた移動体の相対的なモーションを参照スキャンと
ともに登録された移動体の位置・姿勢に加えることによ
り現在の移動体の位置・姿勢の推定値を計算する.
iv) 指定された並進移動量または姿勢回転量以上移動体が
214
図 3-2-5-43
レーザレンジ
ファインダ搭載 FUMA
移動しているならば,参照スキャンを更新する.
v) (ii) へ戻り,この操作を繰り返す.
このスキャンマッチングは,移動体の位置・姿勢推定のためのものであるが,移動体の推定位置・
姿勢をもとに各スキャンデータを繋ぎ合わせることにより,環境地図を作成することが可能であ
る.この位置・姿勢推定手法は,参照スキャンを更新しているため,累積誤差を含む積分型の自
己位置推定手法となっている.
2) スキャンマッチングによるロボットの位置推定実験
実験環境を 2 次元平面
とし,移動ロボットと
して,われわれが開発
している四輪型ロボ
ット FUMA [Chiu2005]
(図 3-2-5-43)を用い
る.FUMA の車体上部
にレーザレンジファ
イ ン ダ ( Leuze 社 の
RS4-4)を搭載した.
RS4-4 は,スキャン範
図 3-2-5-44
実験環境図
図 3-2-5-45 位置推定実験
結果
囲が,センサ前方,角度 190[deg],距離 50[m] である.センサの分解能は,角度 0.36[deg],
距離 5[mm] である.
参照スキャン更新のために指定すべき並進移動量および姿勢回転量は,環境に依存し実験的に決
定される.スキャンマッチングにおけるセンサ誤差は,参照スキャンを更新する毎に累積されて
いくので,参照スキャンの更新は,頻繁には行わず,スキャンマッチングが精度良く行える程度
の移動があった毎に行うようにした.
実験を通した試行錯誤の結果,本実験では以下のようにパラメータを与えた.
・ スキャン内でのスキャン点数: 133 (1.44[deg] 毎)
・ 最短距離点ペア間の最大距離閾値: 500[mm]
・ スキャンマッチングのサンプルレート: 100[msec]
・ 参照スキャンの更新条件: 並進移動距離 200[mm] または回転角度 5[deg] 以上のモー
ション毎
本実験ではスキャンマッチングを含めた全てのロボットの位置・姿勢推定プロセスは,リアルタ
イムに実行することが可能である.全長 16.5 [m](往復 33 [m])の L 字型経路を,直進と並進
を組み合わせてロボットに往復走行させたときの実験では,スタート地点に戻ってきたときのロ
ボットの推定自己位置の x,y 座標の誤差は,それぞれ,25[cm],-45[cm] であり,姿勢誤差は,
ほぼ 0[deg] であった.移動距離に対する並進誤差は 2% 程度である.
図 3-2-5-44 は,ロボットの移動時の位置推定実験を行った環境の見取り図である.実験において
ロボットは,図 3-2-5-44 の点線の矢印で示された L 字型の経路を走行した.図中右下がスター
ト地点,左上がゴール地点である.図 3-2-5-45 は,ロボットの長距離移動時の位置推定実験結果
215
である.図中の小さな丸を結ぶ線はロボットの走行経路を表している.図中の濃い大きな点は経
路周辺の物体上の点を表しており,ロボットが走行した経路周辺の環境地図を形づくっている.
図 3-2-5-44,図 3-2-5-45 より,実際にロボットが走行した経路と推定した経路がほぼ一致して
おり,スキャンマッチングによりロボットの位置・姿勢推定が行えていることがわかる.
(a) 外部カメラ画像
(b) 搭載カメラ画像
図 3-2-5-46
(c) 生成複合画像
FUMA を用いた俯瞰視点画像生成手法実装の一例
3) 俯瞰視点画像生成アルゴリズムの実装
俯瞰視点画像生成に必要な技術を統合し移動ロボット FUMA に実装する.なお,本実験では,移動
環境として 2 次元平面を仮定している.ロボットの位置・姿勢推定にはスキャンマッチングを用
い,複合画像生成には視野領域内判定画像提示法を用いた.
図 3-2-5-46 は,本手法を FUMA に実装しリアルタイムで実行した一例である.これは FUMA が,
全体で並進 25[m],回転 420[deg] の移動を行った後の様子を示したものであり,各図は同時刻
のものである.図(a) は外部設置カメラより実験中の FUMA の様子を捉えたもの,図(b) は FUMA
搭載カメラからの画像,図(c) は本手法により生成された俯瞰的複合画像である.図(b) の FUMA
搭載カメラ画像からでは環境中のロボットの状態を把握するのは困難であるのに対して,図(c)
図 3-2-5-47
過去画像履歴遠隔手法の実現例のスナップショット
の生成複合画像は,環境中のロボットの状態を良く表現していることがわかる.
図 3-2-5-47 は,実現例のスナップショットである.視野領域内判定画像提示法を用いているの
で,複合画像の視点位置は,表示されるロボットモデルが画像中央にできるだけ近くなるよう自
動的に選択される.この実験風景の各図は,左から右,そして,上から下へと時間が進んでいく.
216
図 3-2-5-47 より,本手法を用いることで遠隔地の環境内にいるロボットの状態およびロボット周
囲の環境の様子を容易に把握することが可能となることがわかる.よって,本手法により,移動
体の遠隔操作性の向上を図ることが可能となる.
本手法は,通信容量の低い通信状況においても適用可能であり,データ容量の大きい画像を頻
繁に伝送する必要がなく,また,環境モデルを構築しないイメージベーストの画像生成であるた
め,複合画像生成におけ
るリアルタイム性が高い.
したがって,擬似実時間
という意味で変化の緩や
かな動的な環境への対応
が可能であるといった利
点がある.また,移動体
をワイヤフレーム表現す
ることにより移動体自身
を透かしてその先の光景
図 3-2-5-48
システム構成図
を確認することができ,
遠隔操作における死角の低減化が可能である.さらに,実画像にノイズが入っていたとしても,
ノイズの少ない過去の画像を背景画像として選択することでノイズによる画像の乱れの影響を減
らすことができる.また,離散的な過去画像を選択し背景画像として用いているため,実動画像
をそのまま提示する場合に比べ高周波の振動をフィルタリングする効果がある.俯瞰的・客観的
に環境中の移動体を観察できる視点からの振動の少ない画像を提示することによりオペレータの
カメラ酔いや方向感覚喪失の低減等を図ることが可能である.
本手法は,ロボットの遠隔操作のみならず,あらゆる移動体の操作へ適用可能な技術である.
4) 過去画像履歴遠隔操作システムの 3 次元空間への拡張
これまでの過去画像履歴遠隔操作システムは 2 次元平面を移動する移動体に対する実装のみであ
った.構造化されていない 3 次元形状の瓦礫上を移動するロボットに適用するには,3 次元空間
を移動する移動体に対する実装が不可欠である.そこで,これまでのシステムを拡張して 3 次元
空間への対処を図った.
図 3-2-5-49
外部カメラ画像
図 3-2-5-50
217
俯瞰視点複合生成画像
先に示したレーザレンジファインダを用いたスキャンマッチングによるロボットの自己位置・姿
勢推定手法は 2 次元平面を移動するロボットに対するものであった.ここでは,ロボットの 3 次
元自己位置・姿勢推定を行う手法として 3 次元デッドレコニングを実現し利用した.3 次元デッ
ドレコニングにおいては,ロボットの並進移動速度を両輪の回転速度をエンコーダにより求め,
そして,ロボットの 3 次元姿勢を 3 次元姿勢センサを用いて計測し,それらの測定値によりロボ
ットの 3 次元位置・姿勢を求めた.図 3-2-5-48 に 3 次元へ拡張した過去画像履歴遠隔操作システ
ムのシステム図を示す.移動ロボット FUMA の並進速度は両輪のエンコーダより求める.FUMA の 3
次元姿勢は,NEC トーキン製 3D モーションセンサより得られ,遠隔地にある PC に送信されたこ
れらの情報をもとに 3 次元デッドレコニングを行う.得られたロボットの 3 次元位置・姿勢情報
およびロボットから送られてくるカメラ画像を元にロボットを俯瞰的にみる複合画像を生成しオ
ペレータへと提示する.図 3-2-5-49,図 3-2-5-50 は,3 次元版過去画像履歴遠隔操作システムの
実験を行ったときの一例を示している.移動ロボット FUMA は坂道を登っており 3 次元的に空間を
移動している.図 3-2-5-49 は外部カメラからの画像,図 3-2-5-50 はこのときの俯瞰視点複合画
像である.3 次元空間内を移動するロボットに対しても適用可能な過去画像履歴遠隔操作システ
ムが実現できた.
(6)平成 17 年度の成果発表等
(a)口頭発表
・松野文俊,石黒周,宮本孝二,井上宏一: “国際レスキューコンプレックス構想,” 第 1 回横
幹連合コンファレンス, A1-44.pdf(CD-ROM), 11 月 25 日 26 日, 長野, 2005.
・佐藤徳孝, 城間直司, 加護谷譲二, 長井宏和, 松野文俊: ”レスキューロボットFUMA
のインターフェイス開発,” 第 6 回(社)計測自動制御学会システムインテグレーション部
門(SI 部門)講演会(SI2005), 1J4_4.pdf(CD-ROM), Dec. 16-18, Kumamoto, 2005.
・伊能崇雄, 広瀬茂男, 松野 文俊: ”評価車両による不整地評価,” 第 6 回(社)計測自動制
御学会システムインテグレーション部門(SI 部門)講演会 (SI2005), 2J1_3.pdf(CD-ROM),
Dec. 16-18, Kumamoto, 2005.
・田所諭, 松野文俊, 大須賀公一, 淺間一, 小野里 雅彦: “[キーノート講演] 大大特:レ
スキューロボット等次世代防災基盤の開発 概要とこれまでの成果,” 第 6 回(社)計測自
動制御学会システムインテグレーション部門(SI 部門)講演会(SI2005),2J2_1.pdf(CD-ROM),
Dec. 16-18, Kumamoto, 2005.
・福田一郎, 羽田靖史, 城間直司, 淺間一, 川端邦明, 松野文俊: “被災地上空からの動物
体検出のための三次元地図取得,” 第 6 回(社)計測自動制御学会システムインテグレーシ
ョン部門(SI 部門)講演会(SI2005), 2J2_3.pdf(CD-ROM), Dec. 16-18, Kumamoto, 2005.
・宮内竜, 城間直司, 稲見昌彦, 松野文俊: “カメラ姿勢情報を用いた提示画像安定化シス
テムの開発,” 第 6 回(社)計測自動制御学会システムインテグレーション部門(SI 部門)講
演会(SI2005), 2J2_7.pdf(CD-ROM), Dec. 16-18, Kumamoto, 2005.
(b)論文発表
・Maki Sugimoto, Georges Kagotani, Hideaki Nii, Naoji Shiroma, Masahiko Inami, Fumitoshi
218
Matsuno: “Time Follower's Vision: A Tele-Operation Interface with Past Images,”
The January/February 2005 issue of IEEE Computer Graphics and Applications, pp. 54-63
(2005).
・Naoji Shiroma, Yu-huan Chiu, Noritaka Sato and Fumitoshi Matsuno: “Cooperative Task
Excecution of Search and Rescue Mission by a Multi-robot Team,” Advanced Robotics,
Vol. 19, No. 3, pp. 311-329 (2005).
・ ZhixiaoYang, Kazuyuki Ito, Kazuhiko Saijo, Kazuyuki Hirotsune, Akio Gofuku and
Fumitoshi Matsuno: “A Rescue Robot for Collecting Information Designed for Ease of
Use,” Advanced Robotics, Vol. 19, No. 3, pp. 249-272 (2005).
・Ranajit Chatterjee and Fumitoshi Matsuno: “Robot Description Ontology and Disaster
Scene Description Ontology: Analysis of Necessity and Scope in Rescue Infrastructure
Context,” Advanced Robotics, Vol. 19, No. 8, pp. 839-860 (2005).
・藤井宏行,伊藤一之, 五福明夫,松野文俊: “非熟練オペレータ用情報収集ロボット-サー
モグラフィを用いた視覚支援システムの開発-,” 計測自動制御学会論文誌, (採録決定).
・城間直司,長井宏和,加護谷譲二,杉本麻樹,稲見昌彦,松野文俊: “移動体の遠隔操作の
ための過去画像履歴を用いたシーン複合,” 計測自動制御学会論文集
Vol.41, No.12,
1036//1043 (2005).
・Yu-huan CHIU, Naoji SHIROMA, Hiroki IGARASHI, Noritaka SATO, Masahiko INAMI, and
Fumitoshi MATSUNO: “FUMA: Environment Information Gathering Wheeled Rescue Robot
with One-DOF Arm,” Proc. IEEE International Workshop on Safety, Security and Rescue
Robotics (SSRR2005), June 6-9, 2005.
・Tetsushi Kamegawa, Tatsuhiro Yamasaki, Fumitoshi Matsuno: “Evaluation of Snake-like
Rescue Robot "KOHGA" for Usability of Remote Control,” Proc. IEEE International
Workshop on Safety, Security and Rescue Robotics (SSRR2005), Tu2-2, pp.25-30, KOBE,
June 6-9, 2005.
・Ranajit Chatterjee, Takao Inoh, Fumitoshi Matsuno and Satoshi Tadokoro: “Robot
Description Ontology and Bases for Surface Locomotion Evaluation,” Proc. IEEE
International Workshop on Safety, Security and Rescue Robotics (SSRR2005), Th3-1,
pp.242-247, KOBE, June 6-9, 2005.
・Naoji SHIROMA, Hirokazu NAGAI, Maki SUGIMOTO, Masahiko INAMI and Fumitoshi MATSUNO:
“Synthesized Scene Recollection for Robot Teleoperation,” Preprints of the
International Conference on Field and Service Robotics (FSR2005), July 29-31, 2005.
・ Takaaki Nakano, Ranajit Chatterjee and Fumitoshi Matsuno: “Perception-based
qualitative map building using autonoumous mobile robots,” Proc. IEEE Int.
Conferemce on Industrial Informatics, Perth, Western Australia, August, 2005.
(c)展示
・国連防災世界会議, 1 月 18 日~1 月 22 日, 神戸国際展示場, 2005.
・SECURITY SHOW 2005, 3 月 2 日~3 月 4 日, 東京ビッグサイト, 2005.
・調布市市民プラザオープンイベント, 3 月 5 日, 調布市市民プラザ, 2005.
219
・レスキューロボットデモンストレーション, 5 月 4 日, TVK ハウジングプラザ横浜, 2005.
・ロボカップレスキュー走行会, 5 月 28~5 月 29 日, 川崎ラボ, 2005.
・大大特デモンストレーション in ロボメカ, 6 月 10 日~6 月 11 日, 神戸国際展示場, 2005.
・ロボカップ 2005 大阪, 7 月 11 日~7 月 17 日, インテックス大阪, 2005.
・全国消防救助救急研究会 2005inTokyo, 8 月 27 日, 立川防災館・ハイパーレスキュー訓練
棟, 2005.
・2005 年度日本機械学会年次大会 市民フォーラム, 9 月 19 日, 電気通信大学, 2005.
・2005 年度日本機械学会年次大会 松野教授特別講演, 9 月 21 日, 2005.
・日本科学未来館 友の会 DAY レスキューロボットの特別実演, 11 月 23 日, 日本科学未来館,
2005.
・大大特瓦礫上 MU 試走会, 11 月 27 日, 川崎ラボ, 2005.
・2005 国際ロボット展, 11 月 30 日~12 月 3 日, 東京ビッグサイト, 2005.
(d)その他
*解説*
・ 松野文俊,城間直司: “瓦礫上移動ロボットシステム,” ロボット,日本ロボット工業会,
No. 164, pp. 30-35 (2005).
・ 亀川哲志,松野文俊: “ヘビ型レスキューロボット KOHGA -遠隔操作性を考慮したヘビ型ロ
ボットの開発-,” 画像ラボ,Vol. 16, No. 7, pp. 55-60 (2005).
・ 松野文俊,桑原裕之,伊能崇雄,広瀬茂男,津久井慎吾: “レスキューロボットとソフトマ
テリアル,” 日本ゴム協会誌,Vol. 78, No. 8, pp. 321-327 (2005).
・ 松野文俊,大塚寛: “レスキューロボットシステム研究開発の現状,” 電気学会誌,Vol. 125,
No. 9, pp. 570-573 (2005).
・ 松野文俊,佐藤徳孝: “レスキューロボットシステムの開発最前線,” 映像情報インダスト
リアル,Vol. 38, No. 1, pp. 53-58 (2006).
・ 城間直司,稲見昌彦,松野文俊: “シーン画像を用いた移動体の遠隔操作 -俯瞰視点画像提
示による遠隔操作性向上-,” 画像ラボ,Vol. 17, No. 2, pp. 62-66 (2006).
*招待公演*
・ 松野文俊: “「レスキューロボットによる国際救助隊サンダーバードの実現にむけて」,”
SICE Week 2005 中高生向け講演会,招待講演,岡山,8 月 10 日, 2005.
・ 松野文俊: “「レスキューロボットシステム研究開発の現状」,” 全国消防救助救急研究会
2005 in Tokyo, 招待講演, 立川防災館,8 月 27 日, 2005.
・ 松野文俊: “パネルディスカッション「防災のインターフェース」,” ヒューマンインター
フェースシンポジウム 2005, パネリスト,慶応大学湘南藤沢キャンパス, 9 月 15 日,2005.
・ 松野文俊: “「人を護り人を救う -災害救助の現場より-」,” 日本機械学会 2005 年度年
次大会,市民フォーラム,パネル討論,司会,電気通信大学,9 月 19 日,2005.
・ 松野文俊: “「レスキュー工学の構築 -国際救助隊サンダーバード実現に向けて-」,” 日
本機械学会 2005 年度年次大会,特別講演,電気通信大学,9 月 21 日,2005.
・ 松野文俊: “「レスキュー工学の構築 -国際救助隊サンダーバード実現に向けて-」,” 計
220
測自動制御学会システムインテグレーション部門「市民フォーラム」
,招待講演,熊本,12 月
15 日, 2005.
*報道*
[新聞等]
2005 年 5 月 15 日 中日新聞 中日春秋
2005 年 6 月 14 日 神戸新聞 若手研究者に「競基弘賞」
2005 年 6 月 17 日 朝日小学生新聞 救助ロボットが技くらべ
2005 年 6 月 22 日 INTERNATIONAL Herald Tribune [THE NEW YORK TIMES] The Asahi Shimbun
MAKING HUMANOID MACHINES A REALITY Quake victi's dream lives on through robotics award
2005 年 7 月 12 日 朝日新聞 レスキュー 災害現場,正確さカギ
2005 年 7 月 19 日 東京新聞 レスキューロボで生きた証を
2005 年 8 月 15 日 日経産業新聞 救助ロボ 視野広げ遠隔操作容易
2005 年 8 月 28 日 東京新聞 ロシア潜水艇救出で脚光 国際救助隊
2006 年 1 月 4 日 産経新聞 人語り 震災が断った師弟の絆
2006 年 1 月 14 日 朝日新聞 教え子息づく救助ロボット
2006 年 1 月 18 日 中日新聞夕刊 震災から 11 年 遺志実る
2006 年 1 月 19 日 読売新聞 震災死したロボット研究者の遺志継ぎ創設 「競基弘賞」に東京の
2人
2006 年 1 月 20 日 中日新聞 この人 -「競基弘賞」の創設に尽力した松野文俊さん[テレビ・ラジオ等]
2005 年 12 月 11~17 日 J:COM 東京 電気通信大学 e-Campus 公開走行試験
2005 年
9 月 18~24 日 J:COM 東京 電気通信大学 e-Campus 松野研究室 レスキューロボット
の紹介
*受賞*
2005 年 6 月 IEEE Int. Workshop Safety, Security and Rescue Robotics, Best Paper Award
Finalist
2005 年 7 月 RoboCup 国際大会
レスキューロボットリーグ Advanced Mobility 部門
準優
勝,Best Design 賞(1 位)受賞
2005 年 8 月 International IEEE Conference on Industrial Informatics 2005 (INDIN'05) Best
Presentation Award
(7)参考文献
[Kurazume200] 倉爪亮,広瀬茂男: “高速画像安定化機構を用いた歩行機械の遠隔操縦性能向上
に関する研究,” 日本ロボット学会誌,vol.18,No.7,1011/1018, 2000.
[Yokokouji2004] 横小路泰義,栗栖正充,林一郎,吉川恒夫: “遠隔操作型探索用移動カメラシ
ステムと表示インタフェースの開発,” 大都市大震災軽減化特別プロジェクト 平成 15 年度成果
221
報告書,450/457, 2004.
[Shiroma2004] Naoji SHIROMA, Maki SUGIMOTO, Georges KAGOTANI, Masahiko INAMI and Fumitoshi
MATSUNO: “A Novel Teleoperation Method for a Mobile Robot Using Real Image Data Records,”
IEEE International Conference on Robotics and Biomimetics (ROBIO2004), August, 2004.
[Shiroma2005] Naoji SHIROMA, Hirokazu NAGAI, Maki SUGIMOTO, Masahiko INAMI and Fumitoshi
MATSUNO: “Synthesized Scene Recollection for Robot Teleoperation,” Preprints of the
International Conference on Field and Service Robotics (FSR2005), July 29-31, 2005.
[Besl992] P. J.Besl and N.D.McKay: “A Method for Registration of 3-D Shapes,” IEEE
Transaction on Pattern Analysis and Machine Intelligence, 14-2, 239/256, 1992.
[Zhang1992] Z. Zhang: “Iterative Point Matching for Registration of Free-Form Curves and
Surfaces,” International Journal of Computer Vision, 13-2, 119/152, 1994.
[Chiu2005] Y. Chiu, N. Shiroma, H. Igarashi, N. Sato, M. Inami and F. Matsuno: “FUMA:
Environment Information Gathering Wheeled Rescue Robot with One-DOF Arm,” International
Workshop on Safety, Security and Rescue Robotics, 2005.
222
3.2.6 ロボットの公開試験評価会
3.2.6(1) ロボカップレスキュー
東北大学 田所 諭
電気通信大学 松野 文俊
神戸大学 綿末 太郎
NPO 国際レスキューシステム研究機構 武村 史朗
長岡技術科学大学 木村 哲也
(1)目的
本研究の目的は,レスキューロボットの実用性を評価する手法の確立である.レスキューロボ
ットの評価方法は,不整地の走破性・外界/内界センサの精度・ユーザインタフェースの操作性と
いったサブシステムごとの評価と,実際の災害現場での活動や実践を想定したシナリオに基づく
実験といった総合的な評価に大別される.本研究では総合評価に着目する.ただし総合的な評価
は,個々のサブシステムの完成度によるものであるから,将来的には,総合評価の分析がサブシ
ステムの改良にフィードバックされるべきである.
レスキューロボットの評価には,低コストで多数のロボットを評価できる形式が望ましい.ロ
ボカップレスキューは,世界中の研究機関で開発されているロボットの評価実験を数日で実施す
るという,効率的な評価法である.そこで,本研究では,ロボカップレスキューを利用しつつ,
レスキューロボットの開発やオペレーションの戦略についてより具体的な評価ができる方法論の
確立を目指す.
(2)年次実施計画
平成17年度
公開評価実験の場としてロボカップレスキュー実機リーグを,きわめて効率
的なスケジュールで実施した.
また,実験フィールドを真上から撮影した映像(俯瞰映像)を,気球搭載カメラによって記録
し,ロボットの動作分析を行った.
平成 18年度
ロボカップレスキュー実機リーグの評価法の改善と,オペレーション・ユ
ーザインタフェース・トラッキングデータを統一的に分析する手法の確立.
(3)前年度までの成果要約
ロボカップレスキューは, レスキューロボットの性能評価をコンペティション形式で行う公開評
価試験法である.各チームは,制限時間内に災害現場を模したがれき環境の中を遠隔操縦あるい
は自律移動ロボットによって探索し, 要救助者のダミー(Victim)を発見し,Victim の生体情報・
状況・位置情報を報告する[Tadokoro(2003)].
試験フィールドには,2 次元迷路状で路面状態も比較的良好な Yellow Arena,2 次元迷路に加え
スロープ・階段・2 階も存在する Orange Arena,がれきや障害物などで路面の大部分が覆われた
Red Arena がある.Yellow Arena は最も探査が容易で Red Arena は最も探査が困難なフィールド
である.
評価は,発見した Victim の情報(生体信号,視認できる体の部位・状況,位置情報) の精度に
223
図 3-2-6-1 不整地ユニット[Jacoff(2005)]
点数を与えることで数値化する.点数は,探査するフィールドの難易度(Red Arena が有利)や,
ロボットオペレーションの人数(少ないほど有利)に影響する.また,ロボットが実験フィールド
や Victim に強い衝撃を与えた場合,減点される.
ロボカップレスキューの結果分析の例として,ロボットの動作およびオペレータの作業の
記録を時系列データに書き出し,Victim 発見後のオペレータの作業を分析した.その結果,
以下の知見が得られた.
i) 状況報告の多さ,つまり発見した Victim の数・情報量が最もスコアに影響する.
ii)Victim 発見後も,ロボットの移動・マップ作成・状況報告を続けるオペレーションが有効
である.
iii)複数人数のオペレーションは,洗練されていないとスコアに負の影響を与える.
(4)平成 17 年度の目的
(a)ロボカップレスキューにおけるより効率的かつ発展的な総合評価手法の構築
(b)気球搭載カメラによる俯瞰映像とフィールド設置カメラによる映像の,記録と分析
(5)平成 17 年度の成果
ロボカップレスキューによる評価試験方法の改訂
ロボカップ 2005 レスキュー実機リーグでは,
11 カ国 25 組という過去最多のチームが参加した.
各チームが実施する試験は予選 3 回・準決勝 2 回・決勝 2 回とし,2 種類の評価実験を別途追加
した.そのため,これまでの試験方法を次のように改訂した.
(a)スケジューリングの改訂
時間効率を高めるため,予選・準決勝では,同じ構成の 2 つの試験フィールドを対称的に配
置し,ロボットの撤収・準備を行っている間に他方のフィールドでの試験を可能にした.そ
の結果,3 種類の評価実験を 4 日間でのべ 139 回実施できた.
(b)試験フィールドの統合
Red, Orange, Yellow Arena を統合した.統合化フィールドにより,遠隔操縦型と自律制御
型を混在させてミッションを遂行でき,それらのロボットの協調動作も含めて総合的に評価
できるようになった.
(c)不整地ユニットの導入
Red Arena は,不整地ユニット(図 3-2-6-1)を敷き詰めたフィールド(不整地フィールド)と
した.不整地ユニットは,高さの異なる正四角柱がランダムに敷き詰められた正方形のパネ
ルで,Flat・Hill・Diagonal の 3 パターンに大別される.不整地ユニットの導入で Red Arena
のレイアウトの構築や変更が容易になった.
(d)不整地走破性の総合評価試験,自律制御の総合評価試験の追加
224
これらは従来の評価試験に比べて,よりサブシステムに注目した試験方法となる.評価はよ
り簡略化され,ロボットが Victim に十分接近した時に加点される.不整地走破性の総合評価
試験は,不整地フィールドを走破可能であることが参加条件であり,試験フィールドは,
図 3-2-6-2 ロボカップレスキュー2005 の実験フィールド
Roscue
MRL
Toin Pelican
Rescue Robot s Freiburg
Deut schland1
Casualt y
Int elligent Robot Lab
7
チーム名
3
9
10
3
4
3
0
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
発見したVict im の数 ( 決勝 2 ミッションの合計 )
図 3-2-6-3 各チームが決勝 2 ミッションで発見した Victim の総数
Orange・Red Arena である.自律制御の総合評価試験は,完全自律制御のロボットが参加対
象であり,試験フィールドは,Yellow Arena であり,路面の障害物はオドメトリの障害とな
りうる紙屑などに限定される.
2005 年のロボカップレスキュー実機リーグの成績は,総合評価では桐蔭横浜大学の Toin
Pelican が優勝した.2 位は韓国科学技術研究院(KIST)の Roscue,3 位はニューサウスウェール
ズ大学の Casualty であった.不整地走破性評価では筑波大学の Intelligent Robot Lab が,自律
制御評価はフライブルグ大学の Rescue Robots Freiburg がそれぞれ優勝した.また,総合評価で
2 位,3 位,5 位のチームは KIST が開発した危険物除去ロボット ROBHAZ-DT3 を移動プラットフォ
ームとして採用していた.
ロボカップレスキューの評価実験記録の取得と解析
ロボカップレスキューにおける総合評価の結果を今後の研究開発にフィードバックするには,
スコアだけでなく,ロボット・オペレータ・ユーザインタフェースなども記録し,事後に分析を
行う必要がある.評価実験の俯瞰映像を記録するために,実験フィールド上方に 3 本のワイヤー
で係留した気球を設置した.気球にはパン・チルト・ズームが可能な天井カメラが装着されてい
る.
225
Roscue
MRL
Toin Pelican
Rescue Robot s Freiburg
Deut schland1
Casualt y
Int elligent Robot Lab
7.54
チーム名
0.00
5.92
6.81
3.15
6.33
8.19
9.83
2.00
4.00
6.00
8.00
Vict im 一体あたりの平均スコア
10.00
図 3-2-6-4 決勝 2 ミッションにおける各チームの Victim1 体あたりの平均スコア
俯瞰映像および実験フィールド設置カメラによる記録を用いて,ロボットの動きに着目して分
析を行った.ロボカップレスキューにおいては,発見した Victim ごとに得点が付与されるので,
広い範囲を捜査することで多くの Victim を発見し,Victim の情報を短時間に多く正確に取得し
たチームが有利である.また,広範な探査が可能で,要救助者の情報把握を迅速に正確に行える
ことは,実用性の観点からも重要である.
Victim は実験フィールド内に散在しているので,探査範囲の大きさを知るために発見した
Victim の数が手がかりとなりうる.図 3-2-6-3 は,決勝において発見した Victim の総数である.
決勝で最も多くの Victim を発見した Rescue Robots Freiburg は,スコアでは Casualty をわずか
に下回っている.また,Toin Pelican は 2 台,Rescue Robots Freiburg は 4 台のロボットを使用
しており,探査範囲の広さに影響していそうである.
次に Victim の状況把握の情報量・精度を知るため,決勝における Victim1 体あたりの平均スコ
ア(図 3-2-6-4)を比較したところ,ROBHAZ-DT3 を移動プラットフォームとした Roscue, Casualty,
Intelligent Robot Lab が優れていた.最高位の Intelligent Robot Lab は,発見した Victim 数
が少なかったため総合スコアが低かった.また,Victim の最多発見チームである Rescue Robots
Freiburg は Victim1 体あたりのスコアが著しく低い.
これらの結果をふまえ,Roscue, Casualty, Intelligent Robot Lab,Toin Pelican, Rescue
Robots Freiburg について,決勝後半のミッションのロボットの探査範囲を書き出した(図
3-2-6-5).以下にその考察を述べる.
ROBHAZ-DT3 を移動プラットフォームとした 3 チームは,探査範囲が大きく異なっていた.Roscue
は,Orange Arena の 1,2 階を広範囲に探索した.また階段による 2 階へのアプローチを 2 度行
っていた.Casualty は Orange Arena の 1 階の探査でほぼ終始した. 最後に Red Arena へ進入し
たが,わずかな探査範囲で時間切れとなった.Intelligent Robot Lab は,Orange Arena 2 階の
探査の途中でスタックした.スタックした場所はクローラの地上高とほぼ同じ高低差の一段低く
なった場所で,降りたあと再び登ることができなかった.このスタックにより制限時間の半分以
上をロストした.
226
Toin Pelican は,Orange Arena の 1 階 2 階と Red Arena を探査した.Orange Arena 2 階の探
査中,3 番目の Victim 発見後に暴走してしまったが,もう一台のロボットを探査させることで時
間のロスを抑えた.Rescue Robots Freiburg も 3 台の遠隔操縦ロボットを使って Toin Pelican
図 3-2-6-5 チームの決勝午後のミッションの探査範囲
を上回る範囲を探査した.しかし Rescue Robots Freiburg は Victim 発見後,状況把握にかける
時間が他チームのほぼ半分(10 秒~1 分 20 秒)であり,Victim の状況把握は不十分であったと思
われる.またこのチームは,自律制御ロボットを投入しており,Yellow Arena も探査していた.
以上のことから,
複数ロボットによるミッションは,オペレータが一人の場合,探査範囲の拡大よりもむしろ
アクシデント時の時間ロス軽減に有効であった.
Victim 発見後の状況把握の時間をある程度取る必要がある.
ロボットの走破可能な地形を十分把握したうえで,できるだけ多くのタイプの Arena を探査
したほうが有利である.
といった知見が得られた.
(6)平成 17 年度の成果発表等
(a)口頭発表
特になし
(b)論文発表
特になし
(c)展示
特になし
227
(d)特許
特になし
(e) その他
・ロボカップレスキュー実機リーグ実施:ロボカップ 2005 世界大会,7 月 13 日~7 月 17 日,
インテックス大阪,2005.
(7)参考文献
[Tadokoro(2003)]田所: "テストフィールドによる商用ロボット評価試験に基づくソフトウェア
の提言とハードウェアの改良開発", 大都市大震災軽減化特別プロジェクト III 被害者救助等
の災害対応戦略の最適化 4 レスキューロボット等次世代防災基盤技術の開発 平成 15 年成果報
告書, pp109-118, 2003
[Jacoff(2005)]Jacoff: “REFERENCE TEST ARENAS FOR URBAN SEARCH AND RESCUE ROBOTS,”
http://robotarenas.nist.gov/2005/Rescue_Robot_League_Layout_and_Arenas_2005-v14.pdf,
2005
228
3.2.6(2)
川崎ラボラトリにおける評価会
NPO 国際レスキューシステム研究機構
伊能崇雄
(1)目的
本研究の最終的な目的は,レスキューロボットのレベル評価をするための方法論を提供する
ことである.
近年,震災などの災害時における被害軽減化のための有効な手段としてロボット技術が注目
されており,そのため数多くのレスキューロボットに関する研究開発が行われている.
一方,ロボットに限らず目的を持つ機械の開発にあたっては明確な目的意識と目的達成のレ
ベルを評価することが重要である.しかしながら,レスキュー現場の多様性などが原因となり
性能評価方法が確立されていないというのが現状である.
これは,レスキューロボットの分野が未だ発展途上であることの現れであるが,大震災がい
つ起きてもおかしくないと言われる昨今の状況を鑑みると,レスキューロボットの開発と並行
してその実用化を意識した議論がなされるべきである.
(2)年次実施計画
平成 17 年度 総合評価と個別評価(走破性)を目的とする評価会の実施
(平成 18 年度) レスキューロボットの走破性の評価法の提言
(3)前年度までの成果要約
ここでは,これまで行ったレスキューロボット評価に向けた取り組みについて報告する.
(a) 評価方法における 2 つの潮流
レスキューロボットに対する評価の考え方には大きく 2 つの流れがある,1 つが出力や速度
のように個々の要素に分割して評価する「個別評価」,もう 1 つがレスキュー現場を忠実に再
現した環境にロボットを投入してその効果を評価する「総合評価」である.
「個別評価」の利
点は個々の評価項目の物理的意味合いが見えやすいことと,評価結果を設計にフィードバッ
クしやすいことである.また,個々の評価項目の計測方法,計測機材の考案がしやすく,再
現性のある計測がやりやすいという利点もある.一方,目的に応じた個別の評価項目の吟味
をどのように行うかという課題を抱えている,
一方「総合評価」の利点は評価結果が分かりやすいことであるが,評価試験の再現性やレベ
ル評価のための定量化の方法論の構築に課題を残している.また,評価結果をロボットのデ
ザインや仕様決定にフィードバックする方法論も現在取り組み中という段階にある.
評価に対するこれらの考え方は,どちらかが正しくどちらかが間違っているという類のも
のではなく,同じ目標に対する異なる方角からのアプローチと考えることができる.そのた
め,本研究では「個別評価」「総合評価」双方の評価思想を重視している.
(b) 個別評価のための取り組み
機械の評価法としては「個別評価」方式が一般的であるが,レスキューロボット分野で「個
別評価」側からのアプローチはそれほど多くは見られない.多くの場合,搭載するセンサ類
の諸元など個々のデータを参考にする程度である.
しかしながら,ロボットを構成する個々の機器の特性を総合して「使える」/「使えない」を
229
判定する必要があり,そのためには個々の性能を総合的に評価するための手法が必要である.
本研究では,被災者の探査を行うロボットにおける最も重要な特性として移動性能(モビリ
ティ)に着目し,個々の性能を複合的に評価するための方法論の確立に取り組んでいる.移動
性能はレスキューロボットとしての評価の一部であるから,個別評価の 1 項目ではある反面,
速度などのように単純な特性ではなく,いくつかの試験を複合的に行うことで評価されるべ
き項目であるという一面を持ち,そのため複数の個別評価を複合的に取り扱うことで目的に
応じた評価を行う方法論を模索するには適した題材であるといえる.
(c) 総合評価のための取り組み
レスキューロボット分野における総合評価の取り組みで比較的規模の大きなものといえば
「ロボカップレスキュー」である.これは,ロボットによるサッカーなど競技を行うコンテ
スト「ロボカップ」の一部門であり,遠隔操作ロボットによって被災地の瓦礫に見立てたフ
ィールドの中を被災者に見立てた人形を探し出すというものである.競技は一定の時間内に
発見した被災者の数とその情報の正確さをある評価式で得点化したもので競う.
また,国際レスキューシステム研究機構の複数の研究員による「ロボカップレスキュー評
価部会」では,ロボカップレスキューにおいて各ロボットの得点だけでなく,競技中のビデ
オカメラ映像を解析することで,操縦性やオペレータのコミュニケーション,ロボットの性
能などの個別要素の評価に展開する試みがなされている.
(d) 取り組み全体を俯瞰して
上記のように,レスキューロボットの評価にむけて大きく 2 つの思想があるものの,その
発展の方向性は他方,つまり「個別評価」を軸足に据える取り組みでは総合的な評価に向け
た発展を研究のベクトルに据えており,逆に「総合評価」の取り組みでは個別の項目への展
開というベクトルを持っている.
個別評価
総合化
図 3-2-6-6
目
標
と
す
る
評
価
法
総合評価
個別項目展開
評価に関する 2 つの潮流と研究ベクトルの向き
このことは,「個別評価」「総合評価」がそれぞれ単独に適切な評価の方法論たりえるわけで
はなく,両者の中間に適切な評価法が存在することを示している.また,そこに到達するた
めには「個別評価」
「総合評価」の両者をうまく融合させるこれまでにない方法論の導入が不
可欠になると思われる.
(4)平成 17 年度の目的
230
平成 17 年度の目的は,レスキューロボットの総合評価と個別性能評価の向け,まずは個別性
能評価を複合的に評価するための方法論を検討することである.そのための活動として,下
記のような評価会を行う.
・実地に近い環境下でロボットを運用する「総合評価」から,必要な評価項目を洗い出す.
そのための事例作りとしての評価会を開催する.
・レスキューロボットの走破性を評価するために,いくつかの代表的地形による実際に開発
中のロボットの評価,基礎データ収集を目的とした評価会開催.
(5)平成 17 年度の成果
本年度は大きく次の 2 つの活動を行った.
1. 総合評価を目的とするレスキューロボット走行会の実施(H17.5.28,29)
2. 個別評価を目的とするレスキューロボット走行会の実施(H17.11.27)
(a) 総合評価を目的とする走行会
平成 17 年 5 月 28 日,29 日に,国際レスキューシステム研究機構川崎ラボラトリにおいて,
ロボカップレスキューの試走会として走行会を行った.本走行会にはロボカップレスキュー
に参加したロボットを含む計 8 台が参加した.
本走行会の目的は,こういった総合評価フィールドにおけるロボットの行動を見ることで
個別の評価に展開するための知見を得ることであるが,他にロボカップレスキューだけでな
く被災地で問題になる異物の噛み込みといった現象を体験してもらい,レスキューロボット
の研究に生かしてもらうといった意図もあった.また,参加チームとしてはロボカップレス
キューの競技やフィールドに慣れておきたいといった目的もあったようである.
評価フィールドはオフィスを模した仕切りエリア,斜面や階段,そして小型のロボットでし
か探査不可能な狭所を用意し,また床面には紙などの異物を散乱させた.
図 3-2-6-7
総合評価走行会のフィールド (異物散乱前)
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図 3-2-6-8
図 3-2-6-9
参加ロボットによる探査活動(ロボットは電通大の FUMA)
参加ロボットによる斜面走破(ロボットは筑波大の ACROS)
(b)個別評価を目的とする走行会
平成 17 年 11 月 27 日に,国際レスキューシステム研究機構川崎ラボラトリにおいて,個別
評価法によるレスキューロボットの走行会を開催した.この走行会は,レスキューロボット
の基礎体力診断といった意味合いを持つもので,走破性の評価にあたりさしあたり有効であ
ると思われるいくつかの地形を使用してレスキューロボットの評価を行うものである.
当初,この走行会では下記 7 項目についての走行試験を行う予定であった.
・段差乗越え
・斜め段差乗越え(障害物固定)
232
・斜め段差乗越え(障害物は置いてあるだけ)
・斜め段差における 90 度旋回
・一般家屋サイズの階段走破
・斜面走破
・斜面横断
しかしながら,走行会に参加を希望するロボットの数が多く,予定の日程だけではスケジ
ュールを消化することが出来ないと判断し 2 項目減らしたものを採用した
・段差乗越え
・斜め段差乗越え(障害物固定)
・一般家屋サイズの階段走破
・斜面走破
・斜面横断
また,それぞれの試験は各ロボット 3 回ずつ行うこととした.1 回目はロボットに搭載され
たカメラ映像のみを見ながら操縦する,2 回目はロボットを見ながら操縦,3 回目は 1 回目と
同様にロボットのカメラ映像を見ながら操縦する,というものである.
このようにした目的は,ロボット本体の走破性を評価するだけでなくカメラを含めた操作
系システムの評価を行うためである.一般的にロボットを見ながら操縦するとロボット周囲
の状況がつかみやすいため操縦が楽であり走破性も良くなる.しかし,ロボットに搭載され
たカメラ映像だけでは,ロボットを見ながら操縦するほどには周囲の状況が掴めないため,
走破性は落ちる.ここでは,ロボットを見ながら操縦した結果をそのロボットのハードウェ
ア的な限界点,搭載されたカメラ映像のみを使用した結果はカメラ及び操作系の情報量不足
に起因する減点分を含んだ結果,と考え両者の差がカメラシステム及び操作系の優劣に関連
した量であると考えた.
また,ロボットのカメラ映像のみを使用したオペレーションを 2 回行う理由は,最初の 1
回が全く未知の環境であり,コースのマクロな情報もロボットと障害物の接地点などのミク
ロな情報もない状況での評価をするためであり,2 度目の走行は既にマクロな情報は得ている
がミクロな情報だけがない状態を作り出して評価するためである.
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図 3-2-6-10
図 3-2-6-11
走行会の様子
段差乗越え(ロボットは東工大,IRS「蒼龍」)
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図 3-2-6-12
斜め段差越え(ロボットは電気通信大 YAKUMO)
図 3-2-6-13
階段(ロボットは横浜桐蔭大 Toin Pelican01)
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図 3-2-6-14
図 3-2-6-15
斜面(ロボットは東工大 HELIOS VII)
斜面横断(ロボットは東北大 Ali-Baba)
今年度はこのような評価のための活動を行ったが,それぞれの走行会において得られた知
見について報告する.
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(c)総合評価を目的とする走行会の結果
本走行会において様々なレスキューロボットを観察し,個別評価のための知見を得た.ま
たこのときの観察結果の一部は(b)個別評価を目的とする走行会の評価用フィールドの草案
策定に基礎となった.
ここでは,そのときの観察結果についての報告をするのではなく,そうして得られた評価
についての考え方について報告することにしたい.
1) レスキューロボットの評価項目
被災者の探索を主な用途としたレスキューロボットの評価について,大まかな評価項目を
あげてみる.
+パフォーマンスに関する項目
・人体センシング能力
・移動能力
・行動時間
・起動準備時間
+ 安全性に関する項目
・可動部分における安全性
+ 耐環境性に関する項目
・防塵性 (*) IP
・防水性 (*) IP
・耐熱性 (*) UL
・防火性 (*) UL
・耐異物環境性
+ 維持管理への配慮に関する項目
・日常整備性(消耗品などの交換のしやすさ)
+ ユーザーへの配慮に関する項目
・操作性
・頑健性
なお,ここで挙げた項目の内,既存の規格などによって評価,認証を与えることが出来る
と思われるものには(*)をつけた.
各項目についてもう少し詳しく述べる.
2) 個々の項目について
2)-1 パフォーマンスに関する能力
移動能力
本走行会,レスキューロボットによる被災地実験で得られた知見を鑑み,標準的な試験
方法として以下で述べる7つの地形による評価を提案した.
・段差乗越え
・斜め段差乗越え(固定)
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・斜め段差乗越え(回転自由度を残す)
・斜め段差における 90 度旋回
・一般家屋規格の階段昇降
・斜面昇降
・斜面横断
評価時における操縦であるが,ここでは,レスキューロボットのハードウェアそのものの
移動能力を知ることが目的であるからオペレータは実機を見ながら操縦することができるも
のとする.操縦型ロボット評価における問題点として,オペレータのスキルが結果に反映さ
れてしまうことがある.対策として,評価用のオペレータを用意するということが考えられ
るが,自動車とは異なり操作インターフェイスがまるっきり異なるロボットでは標準的な評
価オペレータを得ることが難しい.この問題は後々まで残ることになると考えられる.
人体センシング能力
この評価は,センサ性能のカタログデータの羅列とする方法と,実験を用いた実験によ
る評価を行う方法の 2 種類が考えられる.センサの複合的効果を考えると後者が望ましいが,
複合評価の難しさから当面は前者を採用することが現実的であると考える.
行動時間
この評価も 2 通りの考え方があり,バッテリーの容量とモータのスペックから算出する
方法と.標準動作を決めて実測する方法がある.これはどちらの数値も参考値以上のものに
はならないことが予想されるため簡便な前者の方法で問題ないと思われる.
起動準備時間
レスキューロボットにとって,到着から起動にかかる時間は非常に重要である.評価と
しての難しさは,作業員のスキルに大いに依存する要素だという点でありシステム自体の評
価法の開発が待たれる.
2)-2 安全性
レスキューロボットは使用する人間に対する十分な配慮が必要である.特に可動部が多く
指などを挟みこむ危険性が無視できないため可動部の隙間サイズなどに着目した基準が必要
になると考えられる.
2)-3 耐環境性
耐環境性で最も大きい項目が「防塵性」
「防水性」である.これらに関しては,IP 保護等
級をそのまま使うことでの評価が可能である.
2)-4 耐異物性
これはレスキューロボットならではの項目であり,散乱した衣服などの異物が多数存在
する被災現場を移動する際にそれらを巻き込んで行動不能にならないための機能である.評
価方法は実際に標準異物を散乱させた現場で稼働させる方法と,安全性のように可動部の隙
間サイズから等級付けを行う方法とがある.前者は結果が確率的になってしまうことと等級
付けが難しいため,後者の方法がより適切であると思われる.
2)-5 維持管理への配慮に関する項目
これは様々な要素が存在するはずであるが,とりあえず本走行会で気づいたのは「バッ
テリーなど消耗品の交換のしやすさ」である.
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これについては,例えば次のような項目から選択して等級付けを行うのが良いと考える.
S 交換部品が存在しない,メンテナンスフリー
A 工具を使わずに交換可能
B 工具を使って交換可能
C ハッチ以外のパーツの取り外しが必要
D 他のパーツを外さないと取り外し不可
2)-6 ユーザへの配慮
操作性
これは移動,障害物走破に関して,ロボットを見ながら操作する場合とロボットに搭載
されたカメラ映像などのセンサ情報のみを頼りに操作した場合で走破性評価を行い,その差
を操作のしにくさとするのが適切であると思われる.しかしながら,移動性能のところで述
べたように,これもオペレータの慣れとスキルが入ってくるのが評価上の問題である.
頑健製
これは,作業員がロボットを取り扱う際「どれだけ気を使わずに」使えるかということ
に関係する項目である.特に問題となるのが落下に対する耐衝撃性であるため,試験として
は,落下後でもロボットの使用に支障のない落下高さによってランク付けするという方法が
有効な指標であると考える..
(d)個別評価を目的とする走行会の結果
本走行会は,先に述べた評価項目で走破性評価をするという実験的な側面と,各種のレス
キューロボットの体力診断的な側面を持つ.評価項目は当初,先に述べた 7 項目で行う予定
であったがスケジュールの関係で 5 項目に削減することになった.
結果は表 3-2-6-1 のようにまとめ,図 3-2-6-16 のようなチャートを作成した.
表 3-2-6-1
走行会の結果(ロボットは東工大,IRS 蒼龍(図 3-2-6-11))
ロボット名
IRS 蒼龍
所属
IRS/東工大
諸元
長さ(mm)
幅(mm)
高さ(mm)
重量(kg)
1200
150
130
12
結果
項目
目視なし
目視
目視なし 2
段差上り
(mm)
588
斜め段差
(mm)
588
567
0
階段上り
(deg)
66.03752
66.03752
0
斜面上り
(deg)
45
45
0
斜面横断
(deg)
35
35
0
239
590
0
走破性チャート IRS蒼龍
段差上り
2
1.5
1
斜面横断
斜め段差
0.5
平均
目視なし
目視
0
斜面上り
図 3-2-6-16
階段上り
走行会の結果チャート(ロボットは東工大,IRS 蒼龍(図 3-2-6-11)
走行会の考察
各トライの結果を比較することで,操縦システムの優劣を評価することが出来ると考えていた
が,今回使用した地形のようにシンプルな地形だとその差はそれほど出てこないようである.
ある参加チームにその辺りの話をインタビューしたところ「カメラ映像だけでの遠隔操縦と実
機を見ながらの操縦とではどちらも変わらない」「むしろ,実機を見ながら操縦す
ると死角になってしまうところもパソコン画面に映るカメラ画像で見ることができるので
どちらにしてもカメラ画像主体にしてしまう」というような答えであった.
また,トライ 3 の試験を行うころにはバッテリー切れなどにより棄権するロボットが相次いだ
ため「マクロな情報」と「ミクロな情報」に関する十分なデータを取ることができなかった.
今回走破性チャートを作成するに当たり,平均値で正規化したが「評価」ではなく移動機構の
デザインを絡めるなら例えば
・ロボットの全長
・ロボットの断面積
といった,目的に応じた代表値で正規化すると,その目的にあったスタイルを選定する指針にな
りえる.現在のところ十分な検討を行っていないが,評価がデザインの指針となる糸口がこのあ
たりにあると考えられる.
次に,走行会の反省点について述べる.
まず,段差乗り越えと斜め段差乗り越えの試験方法は再考の余地がある.第一に,段差を作る
のに時間がかかりすぎるため,走行スケジュールが消化しきれなかった.スケジュールを短時間
にこなさなければならない今回のような場合,箱を積み上げる方式は問題がある.また,地形と
して十分固定できていたとも言いがたい.
一方,斜面,斜面横断は比較的スムーズにスケジュールをこなせたようである.段差乗り越え
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も,このような専用の試験器具を制作したほうが良い.
階段は,今回の狙いとしては「実際の階段を登れるか」といった意味合いが強いが,基礎デー
タとしては「階段状の地形の走破」も重要であると感じた.そのためには,高さとピッチの両方
を変化できる試験器具を考案する必要がある.
斜め段差乗り越えは,コース幅 900mm 以内であれば段差との姿勢を変えてもいい,というルー
ルにした.これは,下記のような理由からである.
・このルールは,実行面で非常に楽である
・こういうシチュエーション自体,スペース上制限のある場合で起こるものなので
小型化によりスペース上の制限を小さくするというクリアの方法も有効だと考えた.
ただ,上記の考え方の是非はあるとしても,900mm というコース幅は広いと思われる.今回参
加の全てのロボットにとって段差に対して正対することが可能であったため,段差乗越えと斜め
段差乗越えで有意な差が見られなかった.
(6)平成 17 年度の成果発表など
(a)口頭発表
特になし
(b)論文発表
特になし
(c)展示
特になし
(d)特許
特になし
(e)その他
特になし
(7)参考文献
特になし
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3.2.7
今後の課題
今年度は,プロジェクト最終年度に向けて,各グループの成果を集約し,統合することを目標に研
究開発を進めてきた.
移動体プラットフォームとして開発したアーム搭載型移動ロボット(ヘリオス)に関しては,更な
るアーム部分の軽量化が必要であることが判明した.この問題に関しては,2006 年 5 月末までに
は改良バージョンを完成させる予定で開発を進めている.センサ群を搭載する移動体プラットフ
ォームとして開発したクローラ型移動ロボット(キャリア)に関しては,4 月中には 2 台を連結さ
せ,不整地走破実験を行う予定である.
キャリアに搭載するセンサ群も個別グループでの開発がほぼ終了し,今後キャリアに搭載する予
定である.人体検出センサに関しては,開発はほぼ終了しているものの,総務省への実験局の申請
がなかなか許可が下りず,本格的実験がやや遅れ気味であるが,2006 年 4 月末には許可される予定
である.許可が下り次第,検証実験を進めて,有効性を検証する.
今年度は,インフラMUとの共同で,瓦礫上ロボットが収集した情報を地図上に反映させるための
基礎実験を行い,良好な結果を得た.
最終年度には,地下街や屋外環境で検証実験を行い,上空MUや瓦礫内MUやインフラMUなどに
より収集された情報をGISを用いて統合するシステムを完成させる予定である.
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