土木学会第65回年次学術講演会(平成22年9月) Ⅱ-094 鋼管矢板を用いた自立矢板式係船岸の永続状態の応力照査に用いる部分係数について 鋼管杭・鋼矢板技術協会 鋼管杭・鋼矢板技術協会 正会員 正会員 ○塩崎禎郎 乙志和孝 柿本龍二 前野浩司 大槻 貢 1.はじめに 2007 年に改訂された港湾基準 1)では,信頼性解析に基づく部分係数を用いた設計法が本格的に導入された. 主な構造形式に対しては部分係数が提示されていたが,検討が間に合わなかった構造形式に対しては,類似 構造の部分係数の準用や,従来の安全率法に基づく部分係数を使うことで対処することになっている.これ らの課題を解決するために,国土技術政策総合研究所港湾施設研究室や同所主催の港湾信頼性設計研究会(現 港湾性能設計研究会)で検討が進められている.自立 矢板式係船岸に関しては,レベル1地震の照査用震度 の算定方法は築地らによって検討がなされ 2) ,永続状 態の応力照査に用いる部分係数に関しては岸が提案を 行っている 3) .なお,岸による検討は鋼矢板を対象と したものである.そこで,筆者らは,水深が深く鋼管 矢板となる場合の部分係数に関して検討を行った. 2.検討対象断面の設定 検討対象断面は港湾構造物設計事例集 CASE-1 「緩い」 CASE-3 CASE-2 「中位」 「堅い」 鋼管矢板 4) の自立矢板 砂地盤(C 型) 式係船岸の断面を参考にして,図1のように決定した. 図中に示す地盤条件に対して旧基準(許容応力度法) 図1 検討対象断面 表1 旧基準で設計した断面 で基本断面を決定した(表 1 参照).なお本検討は,応力照査用 の部分係数の設定が目的であるため,矢板壁頭部の変位量の規 定(50mm)を設けないケースが基本である.ただし,参考と して変位規定を設けた場合の信頼性解析も実施することにした. 【応力で決定】 鋼管矢板諸元 杭 長 検討ケース 径×板厚(mm) (m) CASE-1S φ900×11 20.0 CASE-2S φ900×10 18.0 CASE-3S 3.旧基準で設計した断面に対する信頼性解析 鋼管矢板の応力状態に対する性能関数を(1)式として,表 2 に 示す確率変数のパラメータを用いて FORM による信頼性解析 を実施した.信頼性指標βを図 2 に示す.これらの結果から, 旧基準で設計した断面は,類似構造形式である矢板式係船岸(耐 125.7 14.5 56.3 【変位で決定】 鋼管矢板諸元 杭 長 曲げ応力 頭部変位 検討ケース (mm) 径×板厚(mm) (m) (N/mm2) CASE-1D φ1200×14 22.0 80.5 47.3 CASE-2D CASE-3D φ1100×13 19.0 φ900×10 15.0 83.4 110.9 42.4 45.6 ※鋼管矢板の腐食しろは1mmを仮定 震強化施設,控え工あり)の目標システム信頼性指標β T =3.6 を上回り,特に変位規定を設けた場合にはβが 5 を越える結果 φ800×10 曲げ応力 頭部変位 (mm) (N/mm2) 136.9 91.2 133.9 73.9 表2 確率変数 μ/X k V となった. σy 235N/mm 2 1.26 0.073 Z =σy −σs (Pe (w′, tanφ,δ), kc ) (1)式 w' 図1参照 1.00 0.050 tanφ' 図1参照 1.00 0.100 δ 15° 1.00 0.100 kc 図1参照 1.00 0.111 ここに,σ y:鋼材降伏強度,σ s:発生応力度, Pe :土圧合力,w’:単位体積重量, φ :せん断抵抗角 パラメータ Xk X k:特性値 μ:平均値 V :変動係数 ※確率分布は正規分布を仮定 δ :壁面摩擦角,kc:地盤反力係数(C 型地盤) キーワード 自立矢板式係船岸,鋼管矢板,信頼性解析,部分係数 部分係数連絡先 〒103-0025 東京都中央区日本橋茅場町 3-2-10 鋼管杭・鋼矢板技術協会 -187- Tel 03-3669-2437 土木学会第65回年次学術講演会(平成22年9月) Ⅱ-094 7 4.部分係数の試算 6 え工あり)と同等水準となるような最適断面を求めて 5 から検討を進めた.ここでは,頭部変位量の規定を設 4 矢板式係船岸(耐震強化施設)βT=3.6 けていない.最適断面と信頼性指標βを表 3 に示す. 3 矢板式係船岸(耐震強化施設以外)βT=2.7 また感度係数を図 3 に示す.耐震強化施設と耐震強化 2 施設以外に対してαの平均値を求め(二乗和が 1.0 に 1 なるように調整),(2)式を用いて部分係数を求めた. 0 β 部分係数の試算は,信頼性指標を矢板式係船岸(控 CA SE その際,部分係数は 0.05 単位で丸めた. γ = (1 - αβ V ) µ Xk -1S CA SE 図2 -2S CA SE CA SE -3S -1D CA S E- 2D CA SE -3 D 旧基準で設計した断面のβ (2)式 表3 最適断面とそのβ 【耐震強化施設βT=3.6】 ここに, γ :部分係数, α :感度係数, β :信頼性指標 検討ケース 目標システム信頼性指標β T を用いて算出した部分係数で,断面 を試算したところ,最適断面を下回るケースがあった.そのため, 各検討ケースの最小のβをβ T ’として,最終的な部分係数とした(表 4 参照).なお,鋼材降伏強度の部分係数は 1.00 となるように,せ 鋼管矢板諸元 杭 長 径×板厚(mm) (m) β CASE-1S φ800×11 19.5 3.60 CASE-2S φ700×11 17.0 3.63 CASE-3S φ700×9 14.0 3.74 【耐震強化施設以外 βT=2.7】 検討ケース ん断抵抗角の正接の部分係数を割増して調整した.文献 3 の鋼矢板 を用いた自立矢板式係船岸と比べると,鋼材の鋼材降伏強度σ y の感 度係数が大幅に上昇している.これは,杭径,板厚を調整して合理 鋼管矢板諸元 杭 長 径×板厚(mm) (m) β CASE-1S φ700×11 19.0 2.95 CASE-2S φ700×10 17.0 3.15 CASE-3S φ600×9 14.0 2.85 的な断面が設定できたからである.部分係数に関して 1.0 は,その影響もあって,せん断抵抗角の正接の部分係 CASE-1S CASE-2S CASE-3S CASE-1S CASE-2S CASE-3S 0.8 数は 0.05 大きくなったが,それ以外は同一となった. 0.6 α 5.まとめ 0.2 応力照査に用いる部分係数について検討を行ったとこ 0.0 -0.2 σy w ' tan φ ' δ k c 一致する,2)部分係数を用いた断面は旧基準の断面よ 図3 りも小さくなることがわかった. なお,本検討を行うにあたり, 表4 ーの東亜建設工業の岸真裕様には 貴重なアドバイスをいただきまし た.ここに感謝の意を表します. <参考文献> 最適断面に対する感度係数α 鋼管矢板を用いた自立矢板式係船の永続状態の部分係数(案) 国総研港湾施設研究室の長尾毅室 長,港湾信頼性設計研究会メンバ 耐震強化施設以外 0.4 鋼管矢板を用いた自立矢板式係船岸の永続状態の ろ,1)鋼矢板を用いた自立式係船岸の部分係数とほぼ 耐震強化施設 耐震強化施設 耐震強化施設以外 目標システム信頼性指標βT 3.6 2.7 γの計算で用いたβT’ 3.6 2.85 鋼材降伏強度 有効単位体積重量 せん断抵抗角の正接 壁面摩擦角 地盤反力係数 γ γ γ γ γ γ α γ α σy 1.00 0.614 1.00 0.63 w' 1.00 -0.149 1.00 -0.156 tanφ' 0.75 0.767 0.85 0.752 δ kc 0.95 0.100 0.95 0.097 1.00 0.046 1.00 0.045 1)(社)日本港湾協会:港湾の施設の技術上の基準・同解説,2007. 2)築地健太朗,田川辰也,長尾毅:レベル 1 地震動 に対する自立矢板式および二重矢板式係船岸の耐震性能照査用震度の設定方法,国総研資料 No.454,2008. 3) 岸真裕: 永続状態における自立矢板式係船岸の応力照査に用いる部分係数の提案(その2)土木学会年次学術講演会,2010(投 稿中)4)(財)沿岸技術研究センター:港湾構造物設計事例集,1999. -188-
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