省エネ化を実現した高強度, 高精度塑性結合技術 研究者:東京工業大学大学院理工学研究科 機械物理工学専攻 教授 村上碩哉 1 研究背景 1)対象品:図に示すような,軸と円盤やカップ形状とが一体 となった焼入れ製品(機械部品に数多く使われている). 2)従来の製造プロセス 研削 浸炭焼入 仕上切削 重切削 熱間一体鍛造 丸棒切断 ・従来プロセスの問題点 1)熱間鍛造,切削加工,焼入れに大量のエネルギを消費する ・浸炭焼入れには高温で長時間の加熱を要する ・しかも,軸付き円盤形状は炉内の積載効率が悪く,大規模な炉が必要 2)熱間鍛造は切削代が多く,材料歩留まりが低い 3)熱処理炉,切削加工機に多大な設備投資が必要 4)CO2排出量が多い 2 提案するプロセス 軸と円盤等を個別に製造して結合するプロセス 研削 軽切削 丸棒 高周波焼入 接合 浸炭焼入 軽切削 冷間鍛造 丸棒 期待効果 1)熱間鍛造,切削加工,焼入れエネルギの大幅削減 ・特に,軸,円盤形状は炉内の積載効率良く,炉が小型化できる 2)冷間鍛造は精度が良いために,切削代が小さく,材料歩留まりが高い 3)熱処理炉,切削加工機の設備投資が抑制できる 4)CO2排出量が大幅に削減される 3 軸と円盤の結合法に関する従来技術の問題点 結合法 長所 短所 摩擦締結 取り付け,取り外しが可能 高価,かさばる,部品点数増加 シェービング接合 生産性が高い 高強度塑性結合法 高いトルク強度 植込み鍛接 生産性が高い 摩擦締結 シェービング接合 引用:NBK HP 引用:佐々木ほか,塑性と加工, 47-545(2007), 432 材料に制約がある (硬質円盤と硬質軸の 結合が困難) 高強度塑性結合法 植込み鍛接 引用:広田健治ほか,平成18年度 引用:花見ほか,第57回塑性加工 連合講演会(2006),373 塑性加工春季講演会,237 4 開発技術の概要(1):基本原理 硬質材の塑性流動結合 円盤と軸に設けた溝に結合材を流動させて機械的噛み合いを得る A部拡大図 流動 結合前 A 塑性流動結合の概念図(断面図) 結合中 [特長] 1)硬い部材同士の結合が可能 2)高精度 ①軸と円盤が位置決め精度が良い ②結合時に軸にかかる荷重が無い ③軸と円盤の相対移動が無い 5 開発技術の概要(2):実験用テストピース 部品名 外径(mm) 内径(mm) 高さ(mm) 円盤 50 20 10 軸 20 ー 36 結合材 24 20 5.2 材料 硬さ プリハードン鋼HPM1 HRC40 (Hv390) S25C(焼鈍) Hv139 結合溝 拡大図 結合溝 10 mm 円盤 10 mm 軸 10 mm 結合材 溝数 2 溝角度 90度 溝幅 1 mm×2 6 開発技術の概要(3):接合中の状態 10 mm 結合された円盤と軸 パンチ圧力PP(MPa) 935 1225 2047 平均溝充填率F(%) 23.7 57.3 95.3 結合溝付近の 断面写真 7 開発技術の概要(4):溝充填率とパンチ圧力の関係 溝充填率 円盤 上溝 下溝 軸 上溝 下溝 拡大 部面積:a 部面積:b a ×100 溝充填率= a+b [結合実験まとめ] ①加工荷重の増加に伴い充填率は上昇 ②上の溝から先に充填する ③下溝では円盤側の方が充填しやすい 8 開発技術の概要(5):結合強度測定実験 パンチ兼ロードセル 冶具 30 mm 結合強度測定実験の装置断面 [測定項目] 結合強度測定実験装置外観 ①荷重(ロードセルにより測定) ②ストローク(レーザー変位計により測定) 9 開発技術の概要(6):結合品の強度試験における材料変形 円盤側溝充填率73%のとき ① ② 結合材 円盤 ② ① 軸 円 盤 結 合 材 結 合 材 軸 円 盤 1mm [溝部の結合材] 円盤側:充填されたまま移動しない 軸側:せん断されて溝とともに移動する 1mm 結合品の破壊は軸側の結合材のせん断変形による 1mm 10 開発技術の概要(7):結合材せん断部分の硬度測定 円盤 結合材 軸 0.5 mm ビッカース硬さの測定 溝充填率と結合材硬度(軸側,せん断部分)の関係 S25C焼鈍材の硬さ:Hv139 平均溝充填率(%) 23.7 57.4 83.2 95.3 ビッカース硬さ(Hv) 172 192 209 213 せん断抵抗(MPa) 325 363 394 402 結合材(軸側,せん断部分)の せん断に要する推定荷重(kN) 40.8 45.6 49.5 50.5 近似 ×せん断面積 11 開発技術の概要(8):せん断に要する荷重と結合強度 S1 S2 S:結合強度 S1:結合材のせん断に要する力 S2:ラジアル方向の力に基づく摩擦力 12 新技術の特徴・従来技術との比較 • 従来技術では困難であった,焼入れ部品の高精度, 高強度塑性結合技術の開発に成功した. • これにより,焼入れた軸と円盤状部品の製造プロセ スを従来のエネルギ,材料の大量消費形から省エ ネ,省資源形への転換に成功した. • 本技術の適用により、エネルギコストが大幅に削減 でき,また材料歩留りも20数%向上できるため、製 造コストが2/3程度まで削減される.さらに,CO2排 出量も大幅に削減できる. 13 想定される用途 • • • 本技術の特徴を生かすためには、駆動 系部品,例えばCVTプーリの製造に適 用することで,省資源,省エネルギ,ま た省設備投資などのメリットが大きいと 考えられる. また,高精度結合技術により,軸付き 部品など,結合前の簡単な形状で仕上 げ加工し,結合後の仕上げ工程省略す るプロセスが可能になる. さらに,機構部品において,多種の形 状を両端に有する部品を本結合方式 採用により,部品機種と在庫の削減に 利用することも可能になる. 14 想定される業界 ・機械全般 ・特に変速機,動力伝達機器,エンジン機器 など回転機器部品 ・機械構造部品 ・溶接を嫌う(変形,残留応力,材料の変質な ど)部品など 15 実用化に向けた課題 • 現在、接合の接合荷重,軸方向の接合強度 に関する基本特性を把握した段階である. • 今後、溝形状などの各種の接合パラメータと 接合強度,精度について,実験データを取得 し、シミュレーションと合わせて,実製品に適 用していく場合の条件設定を行っていく。 • 共同研究を希望される企業を募集 16 本技術に関する知的財産権 • 発明の名称 :塑性流動結合を利用した金 属部品の製造方法 • 出願番号 :特願2008-122285 • 出願人 :東京工業大学 茨城スチールセンター(株) • 発明者 :村上碩哉、金丸尚信、 西川翔一郎、檜山好材 17 お問い合わせ先 <技術的内容> 東京工業大学 教授 村上碩哉 TEL:03-5734-2159 FAX:03-5734-2159 e-mail :[email protected] <技術の育成及び特許の取扱等> 東京工業大学 産学連携推進本部 特許流通アドバイザー 鷹巣 征行 TEL:03-5734-7634 FAX:03-5734-7694 e-mail :[email protected] 18
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