Twinkle:Tokyo Womens Medical University - 東京女子医科大学

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大脳皮質下刺激によって生じる視覚現象
(phosphenes)について
平, 孝臣
東京女子医科大学雑誌, 63(12):1478-1486, 1993
http://hdl.handle.net/10470/8895
Twinkle:Tokyo Women's Medical University - Information & Knowledge Database.
http://ir.twmu.ac.jp/dspace/
34
〔書癌講48鐸護、劉1言〕
原 著
大脳皮質下刺激によって生じる視覚現象(phosphenes)について
東京女子医科大学 脳神経センター
脳神経外科学教室(主任:高倉公朋教授)
タイラ
タカ オミ
孝 臣
平
(受付平成5年8月18日)
Phosphenes Ehcited by Subcortical Stimulation in Human
Takaomi TAIRA
Department of Neurosurgery(Director:Prof. Kintomo TAKAKURA), Neurological Institute,
Tokyo Women’s Medical College
Electrical stimulation of a point in the visual pathway can evoke a visual sensation, which is
called a phosphene.↑he author inv6stigated the phosphenes observed during functional stereotactic
surgery which was performed from an occipital burr hole. One hundred and ten phosphenes were
reported from twenty−four patients. By plotting the st量mulation sites on the brain atlas, the actual
location of the parieto−occipital f圭ssure was clearly delineated, which is considered to become a good
surgical landmark in approaching the thalamus.
All the phosphenes appeared in the visual field contralateral to the side of stimulation. The
exception was a single case in which a diffuse flashing sensation appeared in the whole visual field.
Thirteen patients reported white phosphenes and ten patients reported colored phosphenes. In the
medial area(10−15 mm from the midline)of the occipital lobe, stimuli above the calcarine fissure
resulted in phosphenes ill the lower quadrant of the visual field. In the lateral area(16−32 mm from
the midline), however, stimuli above the level of the calcarine fissure tended to produce phosphenes in
the upper quadrant. These findings conflict with traditional concept of the physiological anatomy of
the visual pathway in man。 The possible mechanism of this phenomenon produced by intracerebral
stimulation is disqussed in relation to the phosphenes by cortical stimulation.
緒 言
ら3)は同様の方法を視床や中脳に対する定位脳手
不随意運動や頑固な落痛あるいは難治性てんか
術に応用し,治療効果を改善するとともにヒトの
んなどの治療を目的とする機能的脳神経外科手術
視床感覚中継核や内包における体部位局在を明確
では,対象とする脳内の構造物を正確に見出し,
にした.
合併症を避けるための努力が必要不可欠である.
著者は視床を対象とした定位脳手術を行う際
このためには手術の目標部位を形態学的な指標に
に,視床の諸核の解剖学的配列から判断して手術
よって決定するだけでは不十分で,術中に脳の局
部位をより正確に同定できる後頭部からのアプ
所を電気刺激して得られる患者の反応を詳しく観
ローチ4)を行い,電気刺激による生理学的な同定
察し検討することによって生理学的に手術部位を
方法を併用してきた.この際に,脳内の局所の電
決定することが重要であり,古くから行われてい
気刺激によって患者が視覚現象(phosphene)を報
る.このような電気刺激法を用いてP6n丘eld一派
告する場合があることがしばしぼ見出された.
はてんかん外科を確立するとともに,大脳皮質の
phospheneという言葉は一般にはなじみが薄
古典的な機能局在を集大成した1)2).また,Tasker
いが,「光以外の刺激によって出現する視覚現象」
一1478一
35
と定義され,眼球を圧迫した場合に網膜が機械的
方がより容易に誘発されたとしている.Tasker
に刺激されて生じる光覚や,頭部を強打した場合
ら3)は視床床や中脳の刺激によっても視覚現象が
に経験される閃光などをも含む概念である.この
生じるが,皮質刺激の場合と異なり視野が暗く
現象は現在まで主に後頭葉視皮質の刺激によって
なったりぼやけたりすることが多いと述べてい
研究され2)5)∼8>,この応用で盲人の視覚を人工的に
る.このように皮質下の刺激でもphospheneが誘
取り戻す試みもな:されている7>9)10).しかし視皮質
発されることは散発的に報告されているが,刺激
刺激による人工視覚の開発にはキンドリングや慣
の部位とphospheneの性状との関係について調
れの問題があり,皮質下の視覚路を刺激する可能
べた報告はない.
性が示唆されている10).
著者は定位脳手術の術中に観察されたphos−
しかし,皮質下領域を刺激した場合のphos−
pheneについて,刺激部位とphospheneの出現部
pheneに関する報告は少ない. Buttonら11)は3症
位,色,形などの関係を検討するとともに,phos−
例で後頭葉内に挿入した電極を刺激し全例で
pheneの観察によって頭頂後頭溝が同定でき,手
phospheneが見られたと報告している.
術部位の決定の良い指標になると考えられたので
Nashold12)は上丘の刺激でphospheneが誘発さ
報告する.
れることを報告し,Uematsuら13)は視皮質と視放
線を刺激し両者でphospheneを認めたが前者の
表1 対象症例とphospheneのまとめ
Case Age
Sex
Number
Side
2
rt
1tVL
7
rt
Round
13
W
lt VL
rt
Chq brd
Y/B
lt VL
9
rt
Round/Line
R/Y/B
Post HI tremor
rt VL
8
1t
F
Pain
5
rt
M
M
lt CM
Post HI tremor
1tVL
4
rt
Round
Round
Round
Post HI tremor
rt VL
1
lt
Irregular
Tremor
It Vim
2
rt
Star
Park五nsonism
rt VL
1
lt
Diffuse
Parkinsonism
A
50
F
B
52
C
M
69
F
D
34
E
F
21
M
M
53
G
H
20
20
1
37
F
J
50
M
M
M
K
54
L
52
M
54
34
Phosphene
Disease
Target
Parkinsonism
Parkinsonism
Parkinsonism
Dystonia
lt VL
rt VL
5
lt
Triangle
Tremor
lt VL
6
rt
Whorl
F
Torticollis
5
1t
M
rt Voi
Ballismus
rt VL
6
It
N
0
21
F
Tremor
5
rt
P
20
It Vim
rt
52
1tCM
4
rt
R
54
Dystonia
Pain
Parkinsonism
2
Q
M
M
1tVL
lt VL
1
rt
S
50
Tortico11is
rt Voi
4
lt
T
u
56
rt PAG
2
lt
58
V
54
F
F
Pain
Parkinsonism
Pain
1tVL
1tCM
Torticollis
M
Post HI tremor
W
X
49
23
Shape
Triangle
F
F
M
M
一
Round
Round
Hexagon
Round
Round
Round
Round
8
rt
Star
6
rt
Round
rt Voi
1
1t
Line
rt VL
3
lt
Round
Color
R/B
一
W
W
B
R/G
W
W
W
W
W/B
Y/B
W
W
W
R/B/Y
W
W
R/B/W
W
B/Y
HI;外傷後, VL;nucleus,ventrolateralis, CM:necleus centromedialis, Vim;nucleus ventralis
intermedius, Voi;nucleus oralis internus, PAG:.periaqueductal gray, R;赤色, B;青色, Y;
黄色W;白色.
1479一
36
対象および方法
の効果を上げ,合併症を避けるためにもつとも重
1.対象
要であることを説明し同意を得た.
対象は不随意運動あるいは頑固な終痛のため定
2.方法
位脳手術を受けた24例である.15例が男性,9例
手術は3例では術中に5ないし10mgのdiaze−
が女性で平均年齢は44±14歳(20∼69歳)であっ
pamを静脈内投与したが,その他の症例では局所
た.定位脳手術の目標部位は患者の症状に応じて
麻酔のみで行った.患者を坐位にし定位脳手術装
選択した(表1).手術前後に視野計で視野を計測
置を用いて頭部を患者の最:も楽な位置に固定し
した.患者および家族に手術の必要性,手術部決
た.垂直および水平の白線を描いた緑色のスク
定の困難さ,などを判りやすく説明し,術中に穿
リーンを患者の眼前1,5mにおき,患者の目の高
刺部位の正確さを確かめるために脳内の局所を電
さがその中心にくるようにした(図1).術者およ
気刺激しその反応を報告してもらうことが,手術
び手術機器が患者の視界を妨げないようにし,手
術室内の照明は手術操作の妨げにならない範囲で
最大限暗くした.定位脳手術用の電極針の刺入は,
Guiotら4)が確立した後方アプローチで後頭部に
設けた穿頭町より行った(図2).電極針は先端の
直径が1.8mm露出部の長さが3.Ommのものを
20例で,直径1.Omm露出部1.Ommのものを4例
で用いた.これらは単極電極で頭皮引に不関電極
をおいた.刺激は2msec幅50Hzの矩形波で強度
は5Vまで徐々に増加させphospheneの出現する
閾値を記録した.
第3脳室の造影によって前交連(AC)と後交連
図1 術中の様子
(PC)を確認し,側面X線画像上で両者を通る直
患者は壁面に設けた十字に面して座っている.
線(AC−PC line)と,矢状面上でAC, PCの中点
を通りAC−PC lineに直交する直線,さらにこれ
に直交する側方への直線をAC・PC座標系とし,
手術目標点および刺激部位の座標の基準とした.
電極針が手術の目標部位に達する経路上で刺激を
行い,phospheneが報告された場合,その刺激点
の手術目標からの距離と刺入経路の角度から
AC−PC座標系における刺激部位を算出し脳の矢
状下図14)にプロットした.また患者には常にスク
リーンの中央を凝視させ,phospheneの部位,形,
大きさ,色などを報告させ,信頼性のおける報告
のみを記録した.
結 果
症例およびphospheneのまとめを表1に示す.
24例から計110回のphospheneが報告され,これ
らは症例Kを除き刺激と反対側の視野に出現し
図2 後頭部に設けた穿頭孔から手術部位へ向かって
電極針が通過する経路を示したCT
た.
刺激閾値:phospheneの出現する刺激閾値は
一1480一
37
症例により異なり0.4Vから5Vであった.しかし
の視野上に出現したので視野は便宜的に右側に統
各々の症例ではその値はほぼ一定しており,全症
一して表示した.
例での平均刺激閾値は2.9±L5V(mean±SD)で
正中から10ないし15mm外側の領域(図3)で
あった.
は刺激点はAC−PC lineを含む水平面付近に分布
色と形:患者によりphospheneの色,形は異な
していた.症例C,D, Fでは刺激点が深部になる
るが,各症例については刺激部位によらずかなり
につれphospheneの出現部位が視野の下半から
一定していた.最も多くみられた色は白色(11例
上半へと移動し,刺激経路が鳥距溝を上側から下
48%)で,他は2ないし3種類の原色がくみあわ
側へ横切ったと考えられた.症例A,Bでは刺激
さったものが報告された.しかし刺激部位による
点は脳の矢状断図上では鳥距溝の下側で,phos−
色の差は見出せなかった.黒色のものが症例Qの
pheneは上半視野に出現した.症例G, Hでは刺
刺激点Q3で報告された.形は13症例が円形あるい
は渦状,4例が星形,あるいは六角形と報告した.
激点は鳥距溝より十分上側でphospheneは視野
の下半に出現し,症例1の刺激点と11と12は頭頂
他には三角形,四角形,直線などがみられた.こ
葉内であったが,上半視野に出現した.
れらの形も症例問では差があるが各症例について
正中から16ないし21mm外側の領域(図4)で
は症例Kとしの刺激点は鳥距溝より下側にプ
ロットされた.症例Kでは刺激点が深部になるに
はある程度一定していた.
出現部位:刺激部位とそれに対応したphos−
つれphospheneの位置は下半視野から上半視野
へと移動した.症例しでは多くのphospheneが視
pheneの視野上における位置を図3∼5に示す.
phospheneは1例を除きすべて刺激側と反対側
B6
、
B7
F3
1
30
2
B5
」ノ
12
20
H 6
G
F1 2 3
x
Dg
F、勿C・3
6犠
3
10
2・3・・一5478 4
1卜憂嵩、
・8456711,2 8913
1 2 34 5 6
c
80
D8
Bl
A1‘F5
A旦=躍・ 5 Xx
70 50
マ
UO\20、陀10
物
A2∠ C4 Clo C8:FIC9’B3
x
0
D・6呈・
E4 D5
髪鼻
一10
Cll
C3∠ E4
D多CIE・
一20
Zニ10−15mm
D5
E1
G2
E7
図3 正中から10ないし15mm外側の領域での刺激部位と視野上でのphospheneの出現部位
脳アトラスの横軸と縦軸はそれぞれAC−PC線とAC・PCの中線を示す.視野の図で円で囲んだ点
は同時に2個のphospheneがみられたことを示す.脳アトラス上のX点は刺激してもphos−
pheneが誘発されなかった部位を示す.
一1481一
C5
C7
C6
E6
38
K4
30
K3
x
1
20
R
M1
X
P
2
0…惑,
N
1
2 3 4 5 5
M
L2 2 3 4
ロ
x.
80
5
X球6
70
x、x
X
1
Q
40
60 3 50
10
3
X
30
④
4
20
雛。、
L3:L、
10
X2×3
0
PC
、
1
一10
J
zp2
PIZ
L2
一20
Z=16−21mm
N5
K5
図4 正中から16ないし21mm外側の領域での刺激部位と視野上でのphospheneの出現部位
詳細は図3の脚注を参照.
⑭
30
\
20
WIZ O、
x
ユ
1妬
10
80
70 60
50噛x
40!30
20
10
o
×
1 S 2 3 4
(こジ
01
02
z
S4
PC
V5
一10
.℃
吻
S2
一20
Z=22−32mm
図5 正中から22ないし32mm外側の領域での刺激部位と視野上でのphespheneの出現部位
詳細は図3の脚注を参照。
一1482一
TIT2
U7
39
表2 非定型的反応
Case
Stimulation
@ point
Nature
ら10ないし15mmの領域ではAC−PCの中点より
約30mm後方に(図3),正中から16から21mmで
は約40mm後方(図4),正中から22から32mmで
は約50mm後方に分布していた(図5).
Area
D
G
D3
Diffuse flash
Whole right hemi丘eld
G3, G4
Diffuse flash
Whole left hemi丘eld
J
J1
Di貿use Hash
Right upPer quadrant
K
K2
Diffuse fiash
Whole visual field
M
M
M2, M3, M4
Di貨use Hash
Left upPer quadrant
現在,視床に対する定位脳手術では前頭部に設
M5, M6
Blurred vision
Whole visua1且eld
Q
Q
Q3
Q4
けた穿頭孔から行うのが一般的である.これは,
Black shadow
Hallucination
Whole visuai field
S
S1
Diffuse nash
Left lower quadrant
考 察’
多くの定位脳手術装置が門門の手術には向いてい
ないこと,脳室造影と手術とが同一の穿三士から
できることなどの理由によると考えられる.これ
に対しGuiotら4)は後頭部からのアプローチを推
野の水平線上に出現した.症例M,N,0日目び
奨し1,000例以上の経験を報告している.この後頭
Pでは刺激点は鳥距溝よりも上側であったが
部からの方法では刺入点から視床までの距離がや
phospheneは症例M,0では上半視野に,症例N,
や長くなる反面,!回の電極刺入で視床のVce
Pでは下半視野に出現した.
核,Vim核, Vop核, Voa核を同時に通過するこ
正中面から22ないし,32mm外側(図5)では
とができるために,最適な凝固巣作製部位を同定
刺激点は主に矢状断図上で鳥距溝より上側,ある
しやすいという優れた利点がある.著者はこのよ
いは鳥距溝の近傍にプロヅトされた.しかしこれ
うな理由でしぼしぼこの後方アプローチを用いて
らの刺激点のうち症例Vの刺激点V5とV6を除
いる.後頭葉を穿刺するという危惧はあるが今回
きphospheneはすべて上半視野に出現した.症例
術前後の視野検査で変化を認めた例はなかった.
Sでは刺激点はAC−PC lineを含む水平面より下
大脳皮質刺激による視覚現象には意味のある形
側にあり,すべて下半視野に出現した.
や情景が誘発される場合と,要素的な色や形が誘
正中に近い領域(図3)では症例B,C, D, E
発される場合に大別される.前者は一般に側頭葉
のように刺激点がAC−PCを含む水平面に近い場
刺激の場合にみられ,後者は後頭葉視皮質刺激に
合,刺激点が深部になるほどphospheneは周辺視
際してみられる2).今回の皮質下刺激で観察され
野に出現し,刺激点が後頭極に近いほど中心視野
たphospheneは基本的には従来の視皮質刺激に
に出現する傾向がみられた.しかし外側の領域で
よるphosphene1)2)5)7)15)と,その色,形においては
は,このような関係は見出せなかった.
同様であった.視皮質刺激の場合は第一次視覚野
非定型的反応:症例Gの刺激点G3, G4では左
と第二次視覚野の刺激によるphospheneには差
半視野全体に閃光がみられた.同様の反応はD3点
がみられるといわれる1).すなわち第一次視覚野
で右半視野全体に,症例J,M, Sの刺激点J1, M2,
刺激では有色のphospheneが多く,第二次視覚野
M3, M4, S1では上四分の一視野全体にみられた.
刺激では閃光色や白色が多い.このことから今回
症例KのK2では視野全体に閃光が出現した.し
みられた白色のphospheneは脳内で第二次視覚
野へ投射する線維が刺激された結果で,有色の
かしこのような反応を誘発する部位に特定の傾向
は見出されなかった.症例MのM5とM6では視
枕とその近傍(Q3, Q4)では黒い影と人の姿の幻
phospheneは第一次視覚野自体あるいはそこへ
の投射線維が刺激されたと考えることもできよ
う.しかし実際は白色と有色のphospheneの両群
視が誘発された.これらの非定型的反応を表2に
において明確な刺激部位の差を見出すことはでき
まとめて示す.
なかった.
刺激部位が深部になると突然にphospheneが
今回著者は刺激部位とphospheneの出現部位
出現しなくなる領域があり,この部位は,正中か
との関係に特に注目した.これら鳥距溝の上側が
野全体がぼやけるという現象が報告された.視床
一1483一
40
下半視野を,下側が上半視野を支配するという古
剖学的鳥距溝に比較的近いものとなっている.
典的概念に合致しない現象がしばしぼ観察された
個々の解剖学的ヴァリエーションを十分考慮した
からである.すなわち正中から15mm以内の領域
での刺激では矛盾はないが,正中から22m以上離
としても,症例1,0,U,VおよびWでは鳥距溝
よりも十分上側を刺激しており,それにもかかわ
れた外側の領域では鳥距溝の上側を刺激した場合
らずphospheneは上半視野に出現した.実際の手
でも大部分のphospheneは上半視野に出現した.
術手技のため鳥距溝より十分に下側を刺激するの
またこれら両領域の間(正中から16∼21mm)で
は困難な場合が多いが,症例J,K, しでは刺激点
は,半数で鳥距溝上側刺激一上半視野反応がみら
は鳥距溝より下側にプロットされ,そのうちのい
れた.
くつかでは下半視野にphospheneを誘発した.
鳥距溝は解剖学的にヴァリエーションが多いの
外側膝状体から視皮質への投射線維の配列様式
は事実である6)16).鳥距溝と頭頂後頭溝の交点は
は解剖学的にも18)19),臨床的にも20)21)十分確立さ
AGPC lineを含む水平面より6ないし18mm上
れており今回の結果のみから鳥距溝の上側にも上
側で,PC点と後頭極との中点に位置する.また鳥
半視野から視覚野へ投射する線維が存在すると結
距溝の最外側部は正中より26ないし30mmに位
論するのは困難と思われる.視野の上下半分から
置する1η.これらの値は個々の症例で刺激点を正
の線維は最終的にそれぞれ第二次視覚野の外側と
確に同定するには不十分で,刺激点が実際に鳥距
内側に投射する22).したがって今回の上側刺激
溝より上側か下側かを決定することは容易ではな
一上半視野反応を第一次視覚野の下半分から第二
い.今回の症例のうち刺激経路が深部になるにつ
次視覚野の外側へ投射する線維が刺激された結果
れphospheneの出現部位が下半視野から上半視
と考えることもできる.これはこの現象がより外
野へ移動した現象を,刺激経路が鳥距溝を横切っ
側の刺激で観察されたこととも一致する.前述の
たためと考えると,この現象が生じた刺激点間を
ように皮質刺激の場合第一次視覚野刺激では
プロットすることで生理学野鳥距骨を求めること
phospheneは有色で,第二次視覚野刺激では一般
ができよう.これを図6に示すが,矢状断図の解
に白色になるといわれている1).今回の上側刺激
一上半視野反応が第二次視覚野の外側への投射線
維が刺激された結果と考えると,phospheneは白
色になると予測され,このような例は5例中3例
でみられた.
正中に近い領域での刺激ではphospheneは刺
激部位が後頭極から遠いほど周辺視野に出現する
傾向がみられた.これは深部の第一次視覚野の方
が周辺視野と対応し,視放線内では周辺視野から
80 70 60 50 ,40 30
の線維がより内側に分布すること18)と一致した.
一部にみられた視野のぼやけ,びまん性の閃光な
どはTaskerら3)が指摘するように弁蓋視床枕皮
Z=10−15mm
図6 phospheneの出現部位が下半視野から上半視
野または上半視野から下半視野へ移動した場合の刺
激部位
これは電気生理学的に推定された鳥距溝を示す.そ
れぞれの点は電極針の大きさを考慮して表現した.
横軸はAC−PC線でAC−PCの中点からの距離を示
す.
質路が刺激されたからと考えられよう.この経路
はヒトではその機能的配列が明確ではないが,動
物実験では視機能を維持するのに重要な役割を果
たしているといわれる23).
刺激点を深部に進めていくと急にphosphene
が出現しなくなる部位があり,これが後頭葉の前
方の限界すなわち頭頂後頭溝を示していると考え
一1484一
41
られる..したがって少なくとも頭頂後頭溝は正中
に近い領域ではAC−PCの中点より約30mm後
方,正中から比較的離れた領域では約50mm後方
に位置していると推定される,したがってphos−
一242,0C Thosmas, Illinois(1982)
4)Guiot G, Derome P: The principles of ster−
eotactic thalamotomy.、醗Correlative Neur−
osurgery(Schneider RC, Kahn EA, Crosby EC
et al eds)pp481−505, CC Thomas, Illinois(1982)
5)Brindley GS, Lewin WS:The sensation
pheneが突然出現しなくなる部位を指標にして,
produced by electrical stimulζtion of the visual
その点から視床までの距離がある程度予測でき,
cortex. J Physiol 196:479−493, 1968
電極針を進める際の参考になると考えられた.
6)Brindley GS:Effects of electrical stimulation
本来,脳内の生理学的な同定のための電気刺激
of the visual cortex. Human Biol 1:281−283,
にはできる限り小さい電極を用いて双極刺激を行
1982
7)Dobelle WH,]耀1adejovsky MG:Phosphenes
うのが望ましい3).しかし患者を対象とした実際
の手術の場では種々の制約があり,これ以上の検
討は困難であった.今後,刺激条件などの影響に
ついて検討することで,ヒトの視機能の理解や人
工視覚の開発などの一助になれば幸いである.
produced by electrical stimulation of human
occipital cortex. J Physio1243:553−576, 1974
8)Henderson DC, Evans JR, Dobelle WH:The
relationship between stimulus parameters and
phosphene threshold/brightness. Trans Am Soc
Art三f Intern Organs 25:367−371,1979
結 語
9)Dobelle WH, Mladejovsky MG, Girvin JP:
定位脳手術の術中に後頭葉皮質下を中心に刺激
し24症例から計110回のphospheneが観察され
た.これらを観察することで頭頂後頭溝の同定が
Artificial vision for the blind, Science 183:
440−443, 1974
10)Hitchcock ER:DevelQpment of visual
prosthesis. Appl Neurophysio145:25−31,1982
可能となった.観察されたphospheneはその色,
11)Button J, Putman T;Visual response to
形において視皮質刺激によるものと差はなかっ
.cortical stimulation in the blind. J Iowa State
た.正中に近い領域の刺激では鳥距溝より上側の
Med Soc 52:17−21,1962
12)Nasho韮d BS:Phosphenes resulting from stim−
刺激で視野の下側にphospheneが出現したが,外
ulation of the midbrain in man. Archs Ophthal−
側の領域の刺激では鳥距溝の上側の刺激でも
mol NY 84:433−435,1970
13)Uematsu S, Cbapanis N, Gucer G et al:
phespheneは上半視野に出現した.この鳥距溝上
側刺激一上半視野反応の機序を中心に視皮質刺激
の場合と対比させながら考察した.
Electrical stimulation of the cerebral visual
system in man. Con且n Neurol 36:113−124,1974
14)Schaltenbrand G, Bailey P: Einfuhrung in
die Stereotaktischen Operationen Atlas des
稿を終えるにあたり,御指導,後校閲を賜りました
Menschlischen Gehirns..pp115−116, George
Thieme Verlag, Stuttgurt(1959)
東京女子医科大学脳神経センター脳神経外科学教室
15)PoHen DA: Some perceptμal effects of e王ec・
高倉公朋教授に深甚なる謝意を表します.また,機能
trical stimulation of the vi$ual cortex in man.
的脳神経外科ならびに臨床神経電気生理学の分野を
Clin Neurosci 2:519−528,1975
中心に長年に渡り御指導いただきました,河村弘庸講
師,谷川達也講師をはじめとする脳神経外科学教室の
諸先生に厚くお礼申し上げます.
16)Stensaas SS, Eddington DK, Dobelle WH:
The tobography and variability of the primary
visual cortex in man. J Neurosurg 40:747−755,
1974
17)Szikla G, Bordas−Ferrer M, Buser P:
文 献
1)Pen血e丑d W, Rasmussen T:The Cerebral
Studies on stereotactic localization of opt量。
Cortex of Man. pp135−148, MacMillan, New
radiation in man. Confin Neurol 29:175−180,
York(1952)
1967
18)Miller NR:Anatomy and physiology of the
2)Pen血eld W, Jasper H:Epilepsy and the
Functional Anatomy of the Human Brain.
optic radiation and the visual cortex.伽Walsh
pp116−125, Little Brown, Boston(1954)
and Hoyt’s Clinical Neuro−ophthalmology,
3)Tasker RR, Organ I.W, Hawrylysyn PA:
The Thalamus and Midbrain of Man. pp230
pp79−95, Wmiams and Wilkins, Baltimore
(1982)
一1485一
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19) Zihl J, Von Cramon D : Visual field recovery
tex mapped with positron-emmsion tomogra-
from scotoma in patients with postgeniculate
phy. J Neurosci 7:913-922, 1987
damage. Brain l08I335-365, 1985 '
22) Kaas JH : The organization of visual cortex.
20) Bosley TM, Rosenquist AC, Kushner M et al :
in Sensory Systems of Primates (Nobacci C ed)
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23) Diamond IT: Organization of the visual cortex. Fed Proc 35:60-67, 1976
Ischaemic lesions of the occipital cortex and
optic radiations. Neurology 35:470-484, 1985
21)
Fox PT, Miezin M, Allman JM et al:
Retinotopic organization of human visual cor-
tt
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