大型ニューマチックケーソン工法の地盤水平変位予測と計測 - 土木学会

III-B003
大型ニューマチックケーソン工法の地盤水平変位予測と計測結果
北海道電力(株)
正会員
白戸伸明
北海道電力(株)
正会員
立田泰輔
西松建設(株)
○正会員
村上孝夫
北電興業(株)
正会員
鹿内賢司
1.はじめに
北海道電力(株)苫東厚真発電所 4 号機増設工事復水器冷却用水の循環水ポンプ室工事に大型のニューマチックケーソン工法
を採用した。1)2)施工箇所は,運転稼働中の発電所構内で,既設構造物に近接しており,沈下掘削部の地質は軟弱なため周
辺地盤の変位に伴う既設構造物への影響が懸念された。
ニューマチックケーソン工法は,周辺地盤へ与える影響の小さい工法だが,軟弱地盤における近接施工の場合には,(1)
フリクションカットにより生ずる空隙への地盤の側方変位・引込み,(2)ケーソン沈下時の傾斜による地盤水平変位の発生,
(3)ケーソン沈下時の周面摩擦による地盤の引込み等の要因が問題となる。以下に,大型ニューマチックケーソン工法の地
盤水平変位予測と計測結果について報告する。
40,200
2.工事概要
ケーソンの形状は矩形で,平面寸法は短辺が 15.1∼20.2 m,長辺
20,200
が 40.2 m,高さは 20.2 m,フリクションカット幅は 50mm,沈下深
度は 17.25 mである。
縁切り鋼矢板Ⅲ型
L=18,000
地中傾斜計 L=30m(No.2)
盤変位を予測したうえで,沈下掘削に伴う挙動を監視しながら情報
500 2,905
念されることから,縁切り鋼矢板により変位を遮断すると共に,地
2,000
(600t 級,鋼管杭支持のRC造)があり,前述の要因による影響が懸
地中傾斜計 L=20m(No.1)
5,405
本ケーソン躯体から約 5 m離れに運転稼動中の 3 号機灰処理設備
3号機灰処理設備
化施工を実施した。ケーソンの施工平面図を図−1 に示す。
図−1
ケーソンの施工平面図
縁切り鋼矢板は,ケーソン躯体から 2 m離れの外周に鋼矢板Ⅲ型
をGL−18 mまで打設した。また,縁切り鋼矢板を利用してGL−
2.75 mまで沈下開始高(刃口の据付高)の盤下げを行った。
3.ケーソン沈下に伴う地盤変位予測
ケーソン沈下に伴う地盤変位を有限要素法の弾塑性解析により予
測した。フリクションカット部の地盤の変位は掘削壁面が主働崩壊
線に沿って落込むことを評価し,強制変位の方向は主働崩壊角,水
平方向の強制変位量はフリクションカットによる緩み幅とし,鉛直
方向は地盤の内部摩擦角に応じて設定した。フリクションカット部
以深の刃口部の地盤の変位については水平方向拘束,鉛直方向フリ
ーとする。
縁切り鋼矢板の変位遮断の効果により,ケーソン沈下に伴う地表
面の沈下は鋼矢板の前面(ケーソン側)と背面において不連続な段差
が生じることから,この現象を鋼矢板の内側に摩擦型のジョイント
要素を介在させ評価した。解析モデルを図−2 に示す。
図−2
施工当初の解析は,フリクションカットによる緩み幅を 17mm(50mm
解析モデル
×1/3)および既知データの地盤定数を設計条件として地中傾斜計位置で最大 12mm の水平変位を予測した。なお,3 号機灰処
理設備の基礎杭の許容応力度から求まる地中傾斜計位置で許容水平変位は 18mm である。
キーワード:ニューマチックケーソン,近接施工,情報化施工,地盤変位予測,計測管理
北海道電力(株)土木部 〒060-8677 札幌市中央区大通東 1 丁目 2 番地 TEL 011-251-1111
-6-
FAX 011-251-0425
土木学会第56回年次学術講演会(平成13年10月)
III-B003
11月23日
4.計測結果
12月23日
1月22日
2月21日
3月22日
4月21日
5月21日
6月20日
4.1 地中水平変位
地中水平変位の経時変化(N0.1・ N0.2 地中傾斜計深度 10 m)を
沈下深度(m)
0
-5
5
-10
10
-15
15
図−3 に示す。沈下深度約 9.6 m(TP−8.05 m)において 10mm の
下終了時の変位量を再検討した。
検討の結果,沈下に伴い深度 10 m付近のシルト層(AⅡc 層)の
地中変位が大きく増加し,沈下終了時の傾斜計位置における最大
変位量は 26mm となり,近接構造物にも影響を及ぼすことが予想
水平変位量(mm)
ため,地中変位の計測値から逆解析により入力条件を設定し,沈
解析 17mm,逆解析 50mm)および沈下掘削部のシルト層の変形係数
沈下掘削完了
5/16
-17.25(TP-15.7)
1次薬液注入
3/7~3/9
3次薬液注入
6/9~15
ベントナイト注入
4/25~28
5
0
-5
2次薬液注入
3/24~30
-10
No.2傾斜計10m
ベントナイト注入
5/9~28
-15
8
縁 切 鋼 矢 板
6
3号機灰処理設備基礎
4
2
縁切①
縁切③
基礎④
0
縁切②
①
-2
② ③
④
-4
-2
0
2
4
6
8
10
測点②
測点①
③
②
①
測点③
3号機灰処理設備
傾斜角(分)
よる上載荷重の減少によりヒービングが発生し,函内側に側方流
6ロット打設
4/18
5ロット打設
2/16
0.0
が当初解析の約 1/5 で予想以上に軟弱で,ケーソンの刃口深度が
シルト層に達する前に変位が発生していることから函内掘削に
掘削再開
3/14
10 No.1傾斜計10m
地盤沈下量(mm)
逆解析の結果から,フリクションカット部の緩み幅の増加(当初
沈下掘削開始
11/23
4ロット打設
12/23
15
された。地中水平変位の深度分布の解析値・計測値を図−4 に示
す。
掘削停止
1/25
-20
20
水平変位量(mm)
地中変位が発生し,変位予測の解析値と計測値に相違が見られた
圧気開始
12/3
-0.5
傾斜角
-1.0
+
-
-1.5
動的な地盤の変位が生じると推測された。
図−3
変位抑制対策を検討の結果,ケーソン躯体と縁切り鋼矢板間の
地盤に薬液を注入し,その間の地盤補強とフリクションカット部
土層区分
N値
変位の経時変化
当初解析
累積変位(mm)
の空隙を充填する案を採用した。薬液注入工法は二重管ストレー
計測値
逆解析
累積変位(mm)
0 20 40 30 20 10 0 -10 30 20 10
累積変位(mm)
0 -10 30 20 10
0
-10
TP+4.3
ナー工法(溶液型水ガラス系,瞬結+緩結注入)を施工した。
Bu
沈下掘削時のケーソンの安定性を確保するために薬液注入の
下高−3 m(TP−12.7 m)までとした。
薬液注入により地中水平変位が減少し,沈下掘削を再開した。
標高(m)
TP-0.7
施工範囲はケーソン躯体長辺方向の両側とし,注入深さは設計沈
TP-5.7
AⅡc
再開後,地中水平変位が累積した場合には追加薬液注入および周
面グラウト孔を利用したベントナイト注入を実施し,管理基準値
TP-10.7
を満足し沈下掘削を完了した。
AⅢvs
4.2 鋼矢板水平変位,地盤沈下
1次薬注後
AⅠs
TP-5.5
TP-8.05
TP-10.3
TP-15.7
沈下掘削完了
TP-15.7
縁切り鋼矢板水平変位,地盤沈下の経時変化を図-3 に示すが,
図−4
地中水平変位の深度分布
縁切り鋼矢板頭部の最大水平変位は 7mm,鋼矢板背面の地盤沈下は 8mm であった。
4.3 近接構造物の傾斜,水平変位
3 号灰処理設備の傾斜・基礎水平変位の経時変化を図-3 に示すが,3 号灰処理設備の傾斜は,沈下掘削期間にケーソン躯
体の反対側に最大約 1 分,基礎コンクリートの水平変位はケーソン側へ最大 5mm 発生したが,構造物の管理基準値以下であっ
た。
5.おわりに
大型ニューマチッククケーソンの軟弱なシルト層における近接施工において,地盤水平変位を予測のうえ情報化施工を実施
し,既設構造物に影響を及ぼすことなく,施工を無事完了した。
最後に,本施工にあたって,ご指導,ご協力を頂いた関係各位に深く感謝の意を申し上げる次第である。
【参考文献】
1) 佐藤賢次;白戸伸明;立田泰輔.ニューマチックケーソン工法による循環水ポンプ室の施工.電力土木.no.291,2001,p56-60.
2) 白戸伸明:立田泰輔:村上孝夫:鹿内賢司.大型ニューマチックケーソン工法の情報化施工による沈下掘削.
土木学会第 56 回年次学術講演会講演概要集.
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土木学会第56回年次学術講演会(平成13年10月)