R-1 須郷 繰り返す痙攣発作に対しシロリムス投与で良好な経過を得た一例 広之、藤原 順天堂大学 医学部 典子、吉本 次郎、今村 宏、石崎 陽一、川崎 誠治 肝胆膵外科 【目的】生体肝移植後、カルシニューリンインヒビターによると思われる痙攣発作を繰り返したため、シロリムスを使用 し良好な経過を得た一例を報告する。【症例】症例は 65 歳の女性。C 型肝炎による非代償性肝硬変の診断で肝移植を目 的に当科紹介となる。既往歴として 5 年前に脳出血を保存的に治療し、右不全片麻痺を認める。頭部 MRI 検査では陳旧 性の出血後変化を認めるものの痙攣発作は認められない。術前、HCV-Ab 陽性ながら HCV-RNA 陰性であった。34 歳 の次男をドナーとした左葉グラフトを用いた生体肝移植術を施行した。術後免疫抑制はタクロリムス、ステロイドの 2 剤で開始したが、術後、麻酔覚醒の遅延と痙攣様発作を認めたため第2病日、タクロリムスをシクロスポリンに変更し、 ミコフェノール酸モフェチルを併用投与した。しかし抗てんかん薬の持続投与後も痙攣発作を繰り返し認めたため第 14 病日、シクロスポリンを中止。バシリキシマブを投与(第 14・18 病日)した。第 26 病日、抗てんかん薬により痙攣発作 は軽減されたため再度シクロスポリン投与を再開したところ、痙攣発作の再燃・悪化を認めたため第 34 病日シクロスポ リンを再度中止し、シロリムスの投与を開始(開始量 0.75mg/日、維持量 1mg/日)した。シロリムス投与後、経過中に AST, ALT の軽度上昇を認め一過性にステロイド増量をしたものの軽快。痙攣発作もなくなり歩行リハビリ後、第 177 病日退 院となった。術後約 2 年が経過した現在、拒絶反応や血液検査所見の異常もなく外来通院中である。【まとめ】シロリム ス投与後、明らかな拒絶反応や副作用は認められず経過は良好であった。 R-2 夏田 足立 長崎大学におけるシロリムスの使用経験 孔史、高槻 智彦、北里 長崎大学大学院 光寿、日高 匡章、曽山 周、黒木 保、江口 晋 明彦、村岡 いづみ、木下 綾華、釘山 統太、 移植・消化器外科 シロリムスはカルシニューリン阻害剤(CNI)の欠点である腎毒性を持たない免疫抑制剤であるが、本邦では未認可で使用 症例数は少ない。当院で生体肝移植を施行した 199 例中、シロリムスを使用した 5 例(2.5%)について報告する。 【症例 1】B+D 型肝硬変の 30 代男性。移植前より CKD grade 3b の慢性腎不全あり。血小板減少のため術後 8 日目にシ ロリムスを導入。血小板の回復後にミコフェノール酸モフェチル(MMF)へ変更した。移植後 5 年が経過した現在、MMF・ プレドニゾロン(PSL)で免疫抑制中。腎機能は grade 2 まで改善した。 【症例 2】40 代男性。B+C 型肝硬変にて移植を施行後 1 年で急性細胞性拒絶(ACR)を発症。腎機能障害のため、MMF・ PSL・ミゾリビンにシロリムスを追加。拒絶の制御は良好であったが 1 年後に易感染性のため中止。中止後にそれまで難 治性であった胸腹水の改善を認めた。 【症例 3】C 型肝硬変の 60 代女性。移植後 1 ヶ月でグラフト不全のため再移植を施行。摘出肝に Veno-occulusive disease の所見を認めた。再移植後 8 日目に腎機能障害・血小板減少のためシロリムスを導入。蛋白尿のため投与開始後 4 ヶ月 で中止した。 【症例 4】50 代女性。C 型肝硬変にて移植を施行後 2 年で難治性拒絶を発症。血小板減少のため CNI・MMF を減量しシ ロリムスを追加。その後の精査で抗体関連拒絶(AMR)の診断となり、2 カ月後にグラフト不全で再移植を施行。 【症例 5】カロリ病の 50 代女性。移植後 1 年で AMR を発症。腎障害のため MMF にシロリムスを追加するも、3 ヶ月に 再移植を施行。初回投与量は全例 2mg/日でトラフ測定は行わず。5 例中 3 例が再移植施行例であり、全例で腎機能障害 や血小板減少のため他の免疫抑制剤の使用制限あり。またシロリムス導入前後で ImmuKnow による免疫活性は著変なか った。副作用として胸腹水・蛋白尿をそれぞれ 1 例ずつ認めたが副作用を理由に投与を中止した症例は 1 例のみであり、 比較的安全に投与可能であった。投与開始時既に全身状態不良な症例が多く長期生存は 1 例のみであり、効果に関して は評価困難であった。 69 R-3 小倉 名古屋大学における生体肝移植後のシロリムスの使用経験 靖弘、亀井 秀弥、大西 名古屋大学医学部附属病院 康晴 移植外科 【背景】肝移植の健康保険適応で使用できる免役抑制剤は限られており、 「免疫抑制効果が不十分な場合」や「免役抑制剤 の副作用の問題で減量を余儀なくされ、免疫抑制効果が十分に期待できない場合」などに、国内未承認薬としてのシロリ ムスは長く臨床現場で使用されてきた。腎機能障害が少ないことに加えて、抗線維化、抗腫瘍効果などが、シロリムスの 特徴である一方で、創傷治癒遅延や肝動脈閉塞のリスクのため、術直後の投与は控えるべきである。これまでの名古屋大 学病院移植外科における、シロリムスの使用経験について報告する。【症例】これまでに 6 例の成人症例でシロリムスの 投与を行った。6 例の移植適応疾患は、ウィルス性肝硬変に合併した肝細胞癌 4 例、原発性胆汁性肝硬変 1 例、肝類上 皮血管内皮腫 1 例で、移植時年齢は 33.4~63.4 歳であった。投与開始時期は移植後平均で 485 日(82~1632 日)であっ た。シロリムス投与理由別に見ると、1. 肝移植後の肝細胞癌の転移・再発(症例 1-3)、2. 慢性拒絶反応(症例 4)、3. 肝 類上皮血管内皮腫に対する抗腫瘍効果の期待(症例 5)、4. FK/CsA 脳症(症例 6)であった。【結果】肝細胞癌の転移・再 発症例は、全例死亡しており、抗腫瘍効果(延命効果)については不明であった。慢性拒絶反応症例では改善がみられず、 グラフト機能不全のため死亡した。肝類上皮血管内皮腫症例、FK/CsA 脳症症例に関しては、シロリムス投与を継続しな がら、現在も外来フォロー中である。これまで、シロリムスによる有害事象と思われる事象は発生していない。 【結語】 当院はカルシニュウリン阻害剤による腎機能障害軽減目的でのシロリムスの投与経験はなく、抗腫瘍効果を期待しての投 与が最も多かった。上記以外の症例についても、難治性拒絶反応症例に対する投与開始を検討したことなどもあり、治療 選択肢として、持っておきたい治療薬である。 R-4 重田 笠原 小児肝移植後におけるシロリムスの使用経験 孝信、福田 群生 晃也、金澤 国立成育医療研究センター 寛之、内田 孟、佐々木 健吾、松波 昌寿、阪本 靖介、 臓器移植センター 【背景】シロリムス(SRL)は肝移植症例において、calcineurin inhibitor(CNI)関連副作用に対する CNI 減量目的や、急 性・慢性拒絶反応症例に対する追加免疫抑制療法としての有効性が報告されている。今回、当院における小児肝移植後に おける SRL の使用症例について検討した。【対象】2013 年 12 月までに当院で施行した肝移植 256 例中、SRL を使用し た 13 例(5.1%)を対象とした。移植時年齢 5 ヶ月-13 歳 1 ヶ月(中央値 9 ヶ月)、原疾患は急性肝不全(ALF) 8 例、胆道閉 鎖症 2 例、肝線維症 2 例、肝硬変 1 例であった。SRL 投与時期は、移植後 11 日-6 年 9 ヶ月(7 ヶ月)、SRL 使用理由は (1)難治性拒絶反応 11 例、(2)慢性拒絶反応 1 例、(3)橋中心髄鞘崩壊症 1 例であった。SRL 投与時の CNI 維持療法は タクロリムス 11 例、シクロスポリン 2 例であった。SRL 血中濃度を適宜モニタリングしながら投与量を個別に設定した。 SRL 投与後観察期間は 7 ヶ月-6 年 2 ヶ月(1 年 7 ヶ月)。 【結果】(1)難治性拒絶反応 11 例:8 例でプレドニゾロン(PSL) の中止・減量が可能であったが、3 例で肝機能の改善を認めなかった。また、SRL 開始後初期に急性拒絶反応を 6 例に 認め、うち 5 例が ALF 症例であった。5 例の ALF 症例で、anti-thymocyte globulin を 2 例、basiliximab を 3 例に使 用したが、basiliximab の 1 例で再移植となった。(2)慢性拒絶反応 1 例:肝機能の改善を認めず、エベロリムスに変更 し、現在経過観察中である。(3)中心髄鞘崩壊症 1 例:CNI を SRL に変更したが、CNI に起因する神経学的異常所見認 めず、経過良好である。(4)副作用:SRL 投与期間中、高脂血症薬は 2 例に使用した。CNI 腎障害は認めていない。1 例 再移植を要したが、全例生存している。【結語】SRL は、ALF 肝移植後の難治性拒絶反応に対する短期的効果は乏しか った。しかし、長期的には、肝機能悪化を認めず、PSL 減量可能であり、PSL 長期投与に伴う副作用の軽減に有効であ った。 70 R-5 林田 猪股 当科における肝移植後ラパマイシンの使用経験 信太郎、武市 裕紀洋 卒之、門久 熊本大学医学部附属病院 政司、本田 正樹、室川 剛広、李 光鐘、阪本 靖介、 小児外科・移植外科 (はじめに)当科では、これまでに、その抗腫瘍効果および慢性拒絶反応、難治性拒絶反応に対する有効性の観点からラパ マイシンを使用してきた。(目的)当科での肝移植後のラパマイシンの使用状況を分析し、その免疫抑制効果、抗腫瘍効果 について検討した。(方法)2004 年から現在まで、当科で肝移植後にラパマイシンを投与した 25 例についてその予後を 調べ有効性について検討を行った。(結果)使用症例は、成人 20 例、小児 5 例であり全例レスキューとして使用した。使 用目的は、拒絶反応の制御が 20 例、抗腫瘍効果を期待したものが 5 例であった。抗腫瘍効果を期待した5例の内訳は HCC が4例、膵内分泌腫瘍が1例であった。全例死亡に至っているが、いずれの症例も再発から投与を開始し、最長投 与期間は 21 ヶ月であった。慢性拒絶反応、ステロイド抵抗性拒絶反応の制御を目的とした使用した 20 例では、肝機能 が改善した症例は 9 例で、45%に効果が見られた。1 例は、現在も投与継続中で有り、1 例はいったん中止したものの、 肝機能悪化に伴い再投与を行っている。無効であった 11 例では 5 例が肝不全などで死亡し、2 例が再移植を施行、1 例 が脳死移植登録中であった。(結語)ラパマイシンの抗腫瘍効果については不明であった。慢性拒絶反応、ステロイド抵抗 性拒絶反応の抑制についての有効性は 45%と高く、症例によってはラパマイシンの使用を考慮する可能性があると思わ れた。 R-6 秦 森 当院肝移植症例におけるシロリムスの使用経験 ~特に慢性拒絶反応に対する適応と治療効果に関して~ 浩一郎、杉本 充弘、小川 絵里、冨山 浩司、吉澤 章、岡島 英明、海道 利実、上本 伸二 京都大学 淳、植村 忠廣、小川 晃平、藤本 康弘、 肝胆膵移植外科 【目的】肝移植後の慢性拒絶(CR)や難治性拒絶反応は、再移植の選択肢の少ない本邦においては致死的となりうる病態で あり、新たなる免疫抑制療法の確立が急務である。シロリムス(SRL)は、CNI 等現行他剤に比して、腎毒性が低い、他 剤無効の難治性拒絶に奏功する可能性がある、抗腫瘍効果が期待できる場合がある、等の利点を有しており、その誘導体 も含め今後の発展が期待される。今回、当科での SRL 使用例を retrospective に解析した。 【対象】2005 年 10 月から 2014 年 2 月までに SRL を導入した 30 例。その内、CR と診断され SRL 導入後 1 年以上経過 観察しえた 12 例を、その臨床効果により有効群、無効群に分け、血中濃度や併用他剤、臨床検査値、導入時 Child-Pugh 及び MELD score 等につき比較・検討した。 【結果】全 30 例の内訳は、男性 11 例、女性 19 例、年齢 12~66 歳(中央値 41 歳)、対象病態は、CR が 17 例と過半数を 超え、難治性黄疸、グラフト機能不全と続いた。抗腫瘍効果を期待した使用例も 2 例あった。CR 導入後長期観察 12 例 の内、何らかの臨床効果が得られた有効群は 6 例であった(無効 6 例)。有効 6 例の内、4 例は小児、1 例は 20 代の先天 性胆道閉鎖症例と若年例が 6 例中 5 例を占め、再移植を要したのは 1 例のみであった。一方、無効 6 例は全て成人例で、 内 4 例に再移植を施行するも 5 例を失った。有効群では、CR の診断から比較的早期に SRL が導入され、その維持血中 濃度も高く、導入時 MELD score も低い傾向にあった。また、導入時の T-Bil、Child-Pugh score は有効群で有意に低 かった(共に p<0.05)。 【結語】当科における SRL 使用例を報告した。本邦未承認薬であり、他剤で制御不能な病態となってからの導入となる場 合が多いが、CR に対してはグラフト肝予備能がある程度保たれている段階での早期導入が有効であると考えられた。 71
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