既設砂防えん堤のスリット化工事における濁水浄化システムの開発

既設砂防えん堤のスリット化工事における濁水浄化システムの開発
飯豊山系砂防事務所 調査課長
齋藤 明
.調査係長
亀山 岳雄
○調査係
五十嵐 宏彰
1.はじめに
飯豊山系砂防事務所では、主≧して水質の改善や魚の遡上といった環境に対すζ配慮なら
’びに土砂調節効果の向上、流砂系の土砂管理などを目的として、既設の不透過型砂防えん堤の
スリラト化を計画・推進している。既設の不透過型砂防えん堤をスリット型砂防えん堤に改良
する際、.箇所によっては、”えん堤上流内に小枝や枯葉が流れ込み泥±:として堆積している揚合
もあり、工事により流出することとなる。これらは自然の流水の力によって汚濁負荷量が減少
しくやがて自然状態.に近づきはするが、一時的にも貯まっていた土砂を流すこととなり、
魚類、水生昆虫等の生息環境に影響を与える恐れがある。
,灘勢擁灘欝羅;ま濁森欝讃
までに進めてきた濾過材の材質検討および、
本年度実施予定4)金目川での現地濁水浄化実・
験について、報告するも・のである。
写真一1堆砂状況
2.浄化方法.の選定
浄化方法についτは大きく分けて・自然津殿法・ろ過
・沈殿法、凝集沈殿法が考えられるが、今回行おうとし
ている砂防えん堤の立地条件.を考慮すると、大規模な施
設の設置は困難であり、流量を変化させるζとはできな
い.また、近年では、砂防えん堤上流部に堆積する泥土
の栄養源としての価値が再認識されており、回収し有効
活用をすることが望まれる。これにより、砂防の現場で
求められる濁水浄化システム目標は、下記の3つにまと
めることができる。
①大規模な施設は必要としない。
②処理時間を必要としない。
③自然にあるものを利用して泥土を回収する。
これら条件を濁水処理方法に当てはめた場合、幽閉一1
に示しだ評価を行うと、ろ過・沈殿方式が優れていると
一121一
写真一2
上ノ沢2号第砂防堰堤
判断できるが、流れをせ
o
O
o
・ X
o
X
X
施設要領噛
処理後の利用
X
O
o
×
る。
自然沈殿方法 ろ過・沈殿方法 凝集沈殿方法
、o
○
。 し、実験を行うものとす
方法
時間
能力
管理
○
き止めることができない
ことから、「通過型」濁
水処理技術め確立を目指
○ .
o
o
X
表一1・
3ご汚濁水浄化に関する予備実験
汚濁水の自然流下型浄化方法を検討するに当たって、浄化に
用いるろ過冷の検討が必要となる。とれらろ過材に関しては現
在様々なものが考えられているが、使用後のろ過材の処理費、
ろ過材のコストの面から、できるだけ現地で安価に入手できる
自然の材料を利用し、目的が達せられるろ半平を選定したい。
予備実験では、まず第一に単に材料の違いということに主眼
をおき、室内の流水槽(写真τ3、4)を用い、単一材あるい
は組み合わせによる状況を水槽内に作り出し、ろ過材による懸
濁物質の付着性状、臭いについて観測するとともに、後述する
本実験での実験装置を作成するための必要事項の把握を目的と
した。そのため、おおまかにろ過材の違いでどのように濁りが
とれるか、把握するために写真一3のような装置を設け実験
を行った.また、詐価についてもろ過材の泥土吸着状況の観
写真一3実験装置
察とい一う方法にとどめた。’
実騨は写真一3に示されたように、.水槽そのものを水路と
仮し、上流部に堆積物を配慨し、その後にろ過材を配列させ
た構造とし、上部より濁水が下流に流れていく様子を概略再
現したものである。 写真一4
予備実験では各種ろ過材に着目した汚泥の付着性状、臭い、汚泥水の浄化状況について
目視による観察を行った。その結果、付着性状について(1)多い、(2)中くらい、(3)
少ないと分類したところ下記のような結果となった。
(1)多い:木炭、硫酸鉄+籾殻
(2)中くらい:大鋸屑、紅葉チップ、
(3)少ない:杉チップ、広葉樹チ.ップ
従って、水質の浄化度は上記の順で効果が見られた。
4.ろ過材の検討及び効果実験
水の濁りの程度を表すものに「透視度」と「透明度」と「濁度」とがあるが本研究では、
濁水を自然流下型の浄化方法によって水質浄化を可能にする目的から、透視度、透明度、
濁度の何れにも必要と考えられるろ過材料の選定が水質浄化にもっとも重要な条件設定と
一122一
考え、透視度実験を行った。
実験の方法は、濁水の自然流下による浄化が基本的条
件とされることから、実験設備においても濁水の自然流
下を想定した実験器(写真一5)の開発を行い、それに
よって濁水ろ過に有効なろ過材料の選定を行った。
ろ過材の選定に当たっては、予備実験を参考にし、新
たに杉の葉、焼成珪藻土、糸瓜を’加えた以下の材料を用
いた。
実験装置の構造を示したものを写真一5に示した。装
慨の最上流部に設けられている貯水槽(30のに伝導ポ
ンプを用いて送水され、貯水槽よりパイプを通して、1
段目の8本のろ過容器(1本1,・500mωに濁水が注
、入される構造である。,なお、このときそれぞれのパイプ
の上部にバルブが付げられており、流量を調整できる仕
写真一5
組みとなっている。これら最初の8本のろ過容
器からろ過された水はさらに2段目の容器に流
れ、ここに貯まった水を測定する.’
実験はまず、実験用の濁水としてく実際に対
象とする濁水に近づけるため、実際に砂防えん
堤に堆積している泥土を採、解し(写真一7)、
そこから枯葉や小枝を除いた泥土(含水比75
±2%)を堆積比で15%の量に対して水道水
を加え、擁搾機で携搾し、試験濁水を作成した。
これら試験水を上部タンクにポンプアップし
た後、流量一定となるようにバルブを調整し、1
写真一6
段目のろ過装置に注入しだ、
その後24時間経過した後、汚濁水をさらにろ過装置下部に
設けている透視度測定装置に送水し、透視度測定器にて透視
度を測定した。
各種ろ過材による実験は同マろ過材を用いて.2回行われ、
1回巨と2回目と試験濁水を通過させたものをそれぞれを一
次水、二次永とした時の透明度の結果と色、臭いについて結果
写真一7
を表一2に示した。
一次水と二次水とを比べた場合、二次水の方が透明度が悪くなっているのは紅葉チップ
で、大鋸屑、籾殻、楓チップの順で透明度が上がっている。一方焼成珪藻土、糸瓜、木炭
では一次水と二次水では変わらず、一回で大半を付着させ浄化してしまう結果となった。
杉チップにおいては二次ろ過の方が透明度が下がる結果となった。また、臭いについては、
木炭、焼成珪藻土、楓チップについてはほとんど臭いが感じられなかった。一方他のろ過−
一123一
材は臭いが著しく、特に糸瓜.杉チップは悪臭を発生した。今回の実験で用いたろ過材で
は焼成珪藻土及び木炭が浄化、臭いの点から最も浄化に優れていると判明した。
透視度
ろ過材・ 杉チップ』楓チップ 大鋸屑 籾殻 杉葉 焼成珪藻土 糸瓜 木炭
試験水.
1次
2次
判定
2.25cm
2.250m
2.25cm
2.25cm
2.25cm
8.50Gm
15.00cm
17.00cm
19。00cm
30.00◎m
30.00cm
30.00cm
30.000m
6.00cm
30.OOcm
19.000m
30.00cm
30.00cm
30、00c而
濃い
やや濃い
やや濃い
X
X
o
o
30.00cm
濁りあり
X
×
色
臭い
225cm
X
XL
表一2
@ i
30.000m
多少濁り
△
o
X
◎
2.25㎝ ’ 2.25cm
なし
なし
x
o
X
◎
なし
昏.現地ろ過実験・
現在までの成果をも匙に、本年度荒川水系金目
川、金目川第1号砂防えん堤(写真一8)下流沈
砂池内で、ろ過材の現地実験を計画している。現
地実験では、上記研究で浄化効果が確認されたろ
過材を用いて、流れをせき止めないよう、浄化シ
ステムの透過率を考慮したろ過材.(写真一9)の
配置方法や、ろ過材の組み合わせについて実験を
行うとともに、濁水の浄化効果のみにとらわれず、
写真一8
実際現地で使える、浄化装置を検討する。
また、見た目の濁りのみならず、水質の面につ
いても浄化システムの検証を進めていくものであ
る。
6,今後の課題
.現在のところ本実験においτは、自然の材質を
主に用いて、濁水の付着効果に着眼して浄化実験
を進めているが、現時点で評価の高かったろ過材
.について、どのくらいの長期にわたって効果があ.
るか、現地の地形条件によりどのようにろ三二を
写真一9
配置して良いのか、使用後のろ過材をどう活用するめか等、多くの課題が残されている。
平成1.5年度実施予定の金目川での現地実験を含め、順次問題点を解決トていき、少しで
も環境への影響を軽減できるよう努めて行きたい。
また、平成15年1月に、流木処理の炭焼き窯が完成しており、ここで焼いた炭をろ過
材として浄化システムに用いることにより、今まで処理に苦慮していた流木をろ過材に使
うという流を創り、資源のリサイクルも併せた、.総合的なシステムを構築できればと考え
ている。
最後に本研究にあたりご指導、御協力を頂いた社団法人国際海洋科学技術協会の方々に
深く謝意を表する次第です。
一124一L一