英国ダラム便り(その6)

Durham 2012/10/09 19h30
皆 さま
拙 文 ご笑 読 下 さい。
10月 20日 に帝 京 学 園 祭 を行 いますので、その準 備 に追 われています。
当 地 は最 後 の名 残 の秋 で、これから冬 支 度 に入 ります。
パリだとこれからが「食 」のシーズンで張 り切 るところですが、それが全 くないのが
英 国 暮 らしのつらいところです。
年 末 までにパリに2回 行 けるかどうか。ワインの買 い込 みもしなくてはなりません。
増渕 文規
英国ダラム便り(その6)
[ダ ラ ム の 秋 ]
結局ダラムに夏は来ませんでした。例年最高25度を超える日は余り無いそうですが、今
年は最高20度を超えた日も数えるほどでした。ここの季節は5月から9月までが「春・
秋 」で 、1 1 月 か ら 3 月 ま で が「 冬 」と い う 5 カ 月 単 位 の 2 シ ー ズ ン な の か な と 思 い ま す 。
4月は「春なのに冬が居座り」で、10月は「冬ごもりの準備・助走期間」というところ
でしょうか。
北緯53度か54度に位置しています。東京が35度、札幌が43度ですから、えらく北
にありますが、北大西洋暖流に近い海洋性気候のおかげで、真冬でも札幌のようなシバレ
ル 寒 さ は 無 い そ う で す 。 真 冬 は 関 東 の 北 部 並 み と の こ と で 、「 超 寒 」 覚 悟 で 来 ま し た の で 、
ほ っ と し て い ま す 。 昼 で も マ イ ナ ス と い う よ う な 日 は め っ た に 無 い そ う で す 。 寒 さ は OK
として問題は暗さでしょう。昔、記憶が正しければ、三菱商事の駐在員福祉制度に「日照
時 間 」休 暇 の よ う な も の が あ り ま し た 。私 が 担 当 し て い た 欧 州 で は 北 欧 の 駐 在 員 が 対 象 で 、
日が短い冬に数日間、太陽を浴びに休暇に出なさいという制度です。今から思うとなかな
か粋なはからいですね。東京のような冬のあっけらかんとした晴天・青空は欧州の中北部
には存在しません。日が短くて曇天または雪か雨。北緯59度のストックホルムの暗さは
ひとしおでしょう。だから会社は保健休暇を考えたわけです。北欧では11月に自殺者が
一番多いそうです。ドンドン暗くなって気が滅入るせいだと言われています。北緯48度
のパリも暗かったですから、ダラムの暗さは相当のものでしょう。ここのところ加速度的
に宵闇入りの時間が早まっています。幸い9月後半から好天が続いていますが、気温は冬
ですね。今のところピリッと引き締まる気持ちの良い寒さです。
当地は丘陵地帯で樹木が多いせいもあり、リスと野兎をそこらじゅうで見かけます。9月
後半からリスが木から下りて何やら地面を走り回っています。ひょっとしたら冬籠りの準
備でエサを集めているのでしょうか。英国のリスの色は大体グレーですが、米国産だそう
です。英国オリジンは茶褐色で、米国からの侵入者に押され、今や一部限定地域だけに棲
息するそうです。なんだか両国の今の力関係を反映しているようでもあります。
私が住むフラットの芝生の庭に顔を出す野兎の数が逆に減ってきました。リスに押されて
い る の で し ょ う か 。ダ ラ ム の 西 方 1 8 0 km 位 の と こ ろ に 観 光 で 有 名 な 湖 水 地 方 が あ り ま す 。
この辺から湖水にかけてはまさにピーター・ラビットの世界で、なだらかな草原(牧場)
が広がっています。田舎では犬を使ってピーター・ラビット狩りをする悪ガキが結構いる
そうです。市場で売れるらしい。大学都市ダラムではそういう悪ガキはいないでしょう。
校長兼教師の稼業は色々と忙しく、これから迎える暗い冬でも気が滅入るような時間がな
さ そ う で す が 、ア ウ ト ド ア 派 も イ ン ド ア 文 化 生 活 を 楽 し む の が 北 部 欧 州 の 冬 だ と 思 い ま す 。
とはいっても普通の英国人が頻繁にオペラやコンサートに出かけていくとも思えません。
家に呼んだり呼ばれたりが増えるのでしょう。英国人は社交上手ですから、冬は結構楽し
いのかも知れません。パブもますます賑わうことでしょう。私はもともと社交好きであり
ませんし単身生活ですから、呼んだり呼ばれたりはありません。暗い冬をどう過ごすかは
北部欧州に暮らす日本人共通の重要関心事項です。地場の人間でないと田舎で「暗さに負
けない充実ライフ」を見つけるのは大変なことですから、ロンドンのような大都会に行く
機会が増えると思います。
私 に と っ て の 都 会 No.1 は も ち ろ ん パ リ で す が 、同 じ 国 内 と い う こ と で ロ ン ド ン に 出 る 方 が
多 い で す 。 こ れ は 「 は ま る 」 か も し れ な い と い う 予 感 が あ る の は ロ ン ド ン の Theatre 特 に
ミ ュ ー ジ カ ル で す 。 ソ ホ ー や コ ベ ン ト ガ ー デ ン な ど の 一 定 地 域 に Theatre が 集 中 し て い る
ので大変便利ですし、どこも大体ロングランでいつも30やそこらの一流プログラムが揃
ってますから、前広に手配さえすれば見たい出し物をミスることはまずありません。ミュ
ージカルにくわしいわけではありませんが、歌唱力、声量、ダンスどれをとっても「これ
ぞ プ ロ 」 と い う 迫 力 に 圧 倒 さ れ ま す 。 今 回 最 初 に 見 た ミ ュ ー ジ カ ル は Les Miserable で し
たが、熱演の中にいるだけで、体がぞくぞくする昂揚感を味わえました。お値段も2階、
3階席ならお手頃です。この劇場はソホーのど真ん中にあって、外から見るとただの古い
くたびれたビルで、中に入ると豪華絢爛ヴィクトリア朝のインテリアといった劇場はいか
にもロンドンという感じがしました。狭い劇場の割に舞台装置が大仕掛けなのにびっくり
し ま し た 。ロ ン グ ラ ン だ か ら こ そ で き る 芸 当 で し ょ う 。1 0 月 6 日 の 土 曜 日 に は Singing in
the Rain を 見 て き ま し た 。 ハ リ ウ ッ ド 映 画 の ジ ー ン ・ ケ リ ー の あ の 名 場 面 を 覚 え て お ら れ
る方も多いでしょう。この劇場もそれほど大きくありませんでしたが、何と本当に雨を降
らせていました。すごい仕掛けです。エンディングだけでなく、第一幕の終わりにも降ら
せますので、幕間は舞台上に溜まった水を拭き取る作業に追われます。6人登場してモッ
プで丹念に舞台を拭いて行くのですが、これも立派なショーでした。
9月最後の週末は親やおじいちゃんの車で送られて、ダラム大学新入生の入寮がありまし
た。各カレッジの先輩はこの日のために2週間くらいは歓迎準備をしてきました。日本の
新入生歓迎に似た光景です。9月30日の夜10時過ぎにはどこかでのカレッジで派手に
花火が上がっていました。3か月の長い休みを終えて、ダラムの町も久しぶりに学生でに
ぎ や か に な り ま す 。う る さ い け れ ど 、学 生 の 町 ダ ラ ム に 学 生 が い な い の は 寂 し い も の で す 。
2012年10月9日
増渕
文規