平成 22 年度厚生労働科学石汗究費補助金く成育疾患克服等次世代

平成22年度厚生労働科学研究費補助金(成育疾患克服等次世代育成基盤i研究事業)分担研究報告書
分担研究課題:効率的な体制、臨床的効果に関する研究
タンデムマス・スクリーニングの対象疾患を含む有機酸・脂肪酸代謝異常症の自然歴
研究要旨
2001∼2010年の10年間に診断された有機酸・脂肪酸代謝異常症例の疾患の内訳と発症時
期を明らかにした。
診断症例はOAが191症例、 FAODが67症例、計258症例であり、うち新生児マススクリー
ニングなど未発症時での診断例は43症例(17%)を占めた。
A)疾患内訳:OAにおける疾患の内訳は、1)尿素サイクル異常症67/191例(35%)で、
2)メチルマロン酸血症54例(28%)、3)プロピオン酸血症22例(12%)、4)グルタル酸尿
症1型13例(7%)と続いていた。このうち、プロピオン酸血症では新生児マススクリーニン
グで発見される未発症例が59%を占めているのが特徴であった。FAODは1)グルタル酸尿
症2型が16/67例(24%)で最も多く、引き続いて2)極長鎖アシルCoA脱水素酵素(VLCAD)
欠損症と中鎖アシルCoA脱水素酵素(MCAD)欠損症がそれぞれ14例(21%)であった。
VLCAD欠損症とMCAD欠損症は新生児マススクリーニングで4症例ずつ発見されており、
これらの児は低血糖などの症状が出現した場合でも早期に治療を行うことができ、いずれも
良好な予後を獲得していた。
B)発症時期:未発症例を除く215症例の検討では、1)新生児期発症 OA 41%、 FAOD 22%、
2)乳児期発症はそれぞれ25%、31%、3)幼児期発症 18%、33%、4)学童期以降 16%、15%で、
OAでは新生児から乳児期発症が6割以上を占めるのに対し、 FAODでは発症が少し遅く、乳幼
児期発症が約6割を占めていた。ただし、尿素サイクル異常症だけにしぼると新生児期と幼児期
以降の発症がそれぞれ4割以上をしめており、他のOAとは異なる特徴が認められた。またFAOD
では、乳幼児期発症例のほとんどが初発症状として感染時などに急性脳症様の症状を呈していた。
以上より、OAおよびFAODのうち、新生児期に発症する疾患はスクリーニングが間に合わな
いこともあること、しかし遅発型や乳幼児期に急性脳症様に発症する疾患ではタンデムマスによる
新生児マススクリーニングが発症予防や障害予防に寄与する可能性が高いことが示唆された。
研究協力者
を行う上で、疾患の選択は費用対効果などを考慮
長谷川有紀
(島根大学小児科助教)
する必要がある。今回、2001年から2010年に当科
山田健治
(島根大学小児科医員)
で診断した有機酸代謝異常症(OA)と脂肪酸代謝
小林弘典
(島根大学小児科助教)
異常症(FAOD)の症例について、疾患の内訳と
虫本雄一
(島根大学小児科助教)
発症時期を明らかにし、スクリーニングの有用性
山口清次
(島根大学小児科教授)
について検討した。
A.研究目的 B.研究方法
タンデムマスによる新生児マススクリーニング 1)発症後に診断された有機酸代謝異常症(OA)
−22一
の疾患内訳と発症時期
は新生児期発症と幼児期・学童期での発症が4割
2001年1月から2010年12月の間に当科で診断
ずつとほぼ同数で、他の疾患とは異なる特徴が
された症例について、疾患の内訳と各疾患の発症
あった。
時期について検討した。
またグルタル酸尿症1型は乳児期に感染を契機
2)発症後に診断された脂肪酸代謝異常症(FAOD)
として突然の退行で発症する例がほとんどであっ
の疾患内訳と発症時期
たが、1例は胎盤早期剥離のため、重症の新生児
OAと同様に、疾患の内訳と各疾患の発症時期
仮死で出生し、このときの頭部画像検査でシルビ
を検討した。
ウス裂の萎縮に気づかれて診断された例があった。
なお、新生児マススクリーニングで発見された
頭囲拡大によって新生児期に気づかれた症例も1
未発症例について、それぞれどのような疾患が多
例認められた。
かったかも検討した。
アルカプトン尿症は全て50歳代以上で関節痛
や歩行障害などを契機に診断されていた。
C.研究結果
そしてプロピオン酸血症では診断症例数22例
1)OAの疾患内訳と発症時期(表1)
のうち、未発症例が13例(59%)と多数であった。
対象は191症例であった。疾患の内訳はオルニ
チントランスカルバミラーゼ欠損症などの尿素サ
2)FAODの疾患内訳と発症時期(表2)
イクル異常症が最も多く67例で、続いてメチルマ
対象は67症例であった。疾患の内訳ではグル
ロン酸血症54例、プロピオン酸血症22例、グル
タル酸尿症2型(GA2)が最も多く16例で、以下
タル酸尿症1型13例、マルチプルカルボキシラー
極長鎖アシルCoA脱水素酵素(VLCAD)欠損症
ゼ欠損症9例、アルカプトン尿症・3メチルクロ
と中鎖アシルCoA脱水素酵素(MCAD)欠損症
トニルCoAカルボキシラーゼ(MCC)欠損症そ
がそれぞれ14例、カルニチンパルミトイルトラン
れぞれ8例などとなった。また新生児マススク
スフェラーゼ(CPT)−2欠損症6例と続き、この4
リーニングなどによる未発症での発見例は31症
疾患で75%を占めた。なお未発症例は16症例
(24%)で、うちVLCAD欠損症とMCAD欠損
例(16%)であった。
発症例160例の発症時期を検討すると、新生児
症が4例ずつ、SCAD欠損症が3例と、アシルCoA
期発症が66症例(41%)で、ほとんどが哺乳不良
脱水素酵素欠損症が多くを占めていた。
や嘔吐、意識障害といった非特異的な症状で発症
発症例51例の発症時期を検討すると、新生児期
していた。乳児期とあわせて1歳までに発症した
発症は12症例(24%)で、有機酸代謝異常症と同
例は66%を占めた。
様に哺乳不良や意識障害など非特異的症状で発症
各々の疾患毎の検討では、尿素サイクル異常症
していた。新生児期発症のうち、8例がグルタル
表1.有機酸代謝異常症の発症時期のまとめ(N=191)
表2.脂肪酸代謝異常症の発症時期のまとめ(N=67)
^≧………
疾患名 銅タ6数
尿難サイクル譲常症 67
メチルマロン醗慮症 54
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プロピオン酸撫症
22
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酸尿症2型であったが、これらのほとんどが
谷川有紀,山口清次,坂本修,大浦敏博,竹島
potter様顔貌で、多発性嚢胞腎を合併しており、
泰弘,松尾雅文:幼児期に繰り返す嘔吐発作
治療に反応不良で、全例死亡していた。
で発症したメチルマロン酸血症の同胞例.日
乳幼児期には35症例(69%)が発症しており、
本小児科学会雑誌2010,114:961−965
うち28例に感染や長期間の飢餓に伴う急性脳症
2)
虫本雄一,竹谷健,長谷川有紀,小林弘典,福
様の発作を認めた。特にMCAD欠損症では全例
井徹,渡邊敏明,山口清次:ステロイド抵抗性
がこのような発作で発症していた。また長鎖脂肪
の難治性アトピー性皮膚炎として加療されて
酸代謝異常症の2歳以上の症例では骨格筋症状を
いたビオチン欠乏の1例.アレルギーの臨床
訴える症例が多く、成人になってはじめて診断さ
2010,30:543−547
れた症例も2例に認められた。
3)
吉良龍太郎,磯部菜摘,山口結,馬場晴久,鳥
巣浩幸,原寿郎,山口英里,長谷川有紀,山口
D.考察と結論
清次:急性脳症で発症した中鎖アシルーCoA脱
今回の研究で以下のことが明らかとなった。
水素酵素欠損症の一例.特殊ミルク情報
ア)2001年一2010年のでの診断症例は258症例で、
2009,45:22−24
うち未発症例が43症例(17%)であった。
4)
Mushimoto Y, Fukuda S, Hasegawa Y,
イ)発症時期
Kobayashi H, Purevsuren J, Li H, Taketani T,
OAでは新生児および乳児期発症が66%で
Yamaguchi S.:Clinical and molecular
あるのに対し、FAODでは乳幼児期発症が
investigation of 19 Japanese cases of glutaric
64%と発症がやや遅い傾向にあった。
acidemia type 1. Mol Genet Metab.2010,[Epub
ウ)尿素サイクル異常症は、新生児期と幼児期以
ahead of print】
降の発症がそれぞれ4割以上をしめており、
5)
Hori T, Fukao T, Kobayashi H, Teramoto T,
他の疾患とは異なる特徴が認められた。また
Takayanagi M, Hasegawa Y, Yas皿o T,
プロピオン酸血症は軽症型と思われる未発症
Yamaguchi S, Kondo N.: Carnitine
例が6割近くを占めていた。
palmitoyltransferase 2 deficiency:the time−
エ)FAODでは、乳幼児期発症例のほとんどが初
course of blood and urinary acylcarnitine levels
発症状として感染時などに急性脳症様の症状
during initial L−carnitine supPlementation.
を呈していた。
Tohoku J Exp Med.2010;221(3):191−5
以上より、OAおよびFAODのうち、新生児期
6)
Endo M, Hasegawa Y, Fukuda S, Kobayashi H,
に発症する疾患はスクリーニングが間に合わない
Yotsumoto Y, Mushimoto Y, Li H, Purevsuren
こともあること、しかし遅発型や乳幼児期に急性
J,Yamaguchi S.:In vitro probe acylcarnitine
脳症様に発症する疾患ではタンデムマスによる新
profiling assay using cultured fibroblasts and
生児マススクリーニングが発症予防や障害予防に
electrospray ionization tandem mass
寄与する可能性が高いこと、疾患によっては軽症
spectrometry predicts severity of patients with
例が多く発見されるため、長期的な自然歴によっ
glutaric aciduria type 2. JChromatogr B
てはスクリーニング疾患の再検討を要する可能性
Analyt Technol Biomed Life Sci.2010 Jun
があることが、示唆された。
l5;878 (20) :1673−6
F.知的財産権の出願・登録状況
E.研究発表
特になし
1.論文発表
1) 粟野宏之,八木麻理子,起塚庸,小林弘典,長
一
24一