e-NEXI 2012 年 1 月号 ➠特集 新大統領就任から1年が経過したコロンビア経済の動向・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 在コロンビア日本国大使館 専門調査員 蘆田愛 地域企業海外ビジネス支援会議の開催について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 独立行政法人 日本貿易保険 営業第一部 ➠カントリーレビュー モンゴル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6 ➠NEXI ニュース 台湾輸出入銀行との Quota Share 再保険及び共催セミナー開催について・・・・・・・・11 発行元 発行・編集 独立行政法人日本貿易保険(NEXI) 総務部総務・広報グループ e-NEXI (2012 年 1 月号) 新大統領就任から1年が経過したコロンビア経済の動向 在コロンビア日本国大使館 専門調査員 蘆田愛(あしだ・あい) 1. はじめに(変遷から堅実な成長へ) コロンビアに対するイメージは近年著しく変わりつつある。日系企業の進出や規模拡張が相次ぐ中、当 国が情報番組や経済誌で取り上げられる機会が増えたこともあり、ゲリラ、麻薬、内戦といった負のイメー ジを改め、治安の改善、安定的な政治経済運営、豊富な鉱物・エネルギー資源といったプラス面への注 目が集まっている。これはウリベ前政権の徹底した治安対策および投資誘致政策が奏功した結果であり、 2010 年 8 月に発足したサントス政権も、こうした政策を継続している。本稿では、経済関係を中心にサン トス政権の 1 年目を振り返り、直近のマクロ経済動向、日系企業動向に言及した上で、今後の見通しに ついて述べたい。 2. 国内外経済関係 (1)国内経済関係 サントス政権は、ウリベ前政権同様に治安改善を投資誘致のための必要条件としており、2011 年 10 月に成立した 2012 年予算をみると、国防・治安対策費が全体の 23.9%(GDP 比 3.7%)と引き続き高い 比率を占めている。ゲリラ対策については、2011 年 11 月、サントス政権発足後 2 例目となるコロンビア革 命軍(FARC)幹部殺害に成功した。 また、サントス政権は重要課題である財政の健全化にも取り組み、2010 年に税制改正法を成立させ たほか、2011 年 6 月には、持続可能財政法、財政規律法および鉱業採掘権収入改革憲法改正法の 3 法案を可決させた。2009 年以来公的部門財政収支赤字が拡大傾向にあることや、石油・鉱業ブーム に伴う大幅な増収が見込まれるなか、反景気循環的な財政政策を制度化する必要が指摘されていた ことから、これらは高く評価され、大手格付け会社は 12 年振りにコロンビアのソブリン格付けを投資適格 級へ引き上げた。このほか、2010 年 12 月には、正規雇用者の増加と失業率の 1 桁台までの低下を目 指した正規雇用化および若年者雇用対策法も成立させた。なお、サントス政権は、中長期目標を示し た「国家開発計画 2010-2014 年」において、インフラ整備、農業振興、住宅建設、技術革新および鉱 業開発を成長戦略の柱に据えている。 (2)対外経済関係 サントス政権は積極的に開放経済政策を推進している。2011 年にはスイス、リヒテンシュタイン、カナダ との自由貿易協定(FTA)が発効したほか、米国との FTA についても、同年 10 月に米議会における承認 を得た(2006 年に署名したものの、米議会が批准に反対してきた)。アジア諸国との関係では、韓国およ びトルコとの FTA を交渉中であるほか、日本とは経済連携協定(EPA)に関する共同研究を立ち上げて いる。 1 1 e-NEXI (2012 年 1 月号) ウリベ前政権下で悪化した隣国ベネズエラおよびエクアドルとの経済関係修復も評価されている。特に 対ベネズエラ輸出は、2010 年に前年比-64.9%と落ち込み、非伝統産品(食肉、燃料・鉱物油、紙類、 衣服、化粧品、プラスチック製品、塩、自動車部品等)が主体であるため、国内産業は打撃を受けた。 しかし、関係修復後の 2011 年 1~9 月の対ベネズエラ輸出は、前年同期比+10.8%と、プラスに転じてい る。これに伴い製造業は回復し、前述の正規雇用化および若年者雇用対策法発効の効果も相俟って、 失業率の低下に貢献し、同年 9 月の失業率は 9.7%と、約 10 年振りに 1 桁台を達成した。 こうした二国間経済関係の強化に加え、コロンビアは、南米域内での戦略的経済統合に積極的に関 与している。具体例としては、ラテンアメリカ統合証券取引所(MILA)をコロンビア、サンティアゴおよびリマ 各証券取引所の間で 2011 年 5 月に発足させたほか、チリ、エクアドル、ペルー、ベネズエラ、ボリビアおよ びパラグアイとともに「アンデス電力統合イニシアティブ」に参加している。なお、サントス大統領は、中南米 がグローバル経済の主役となるのに相応しい 8 つの理由として、(ア)経済の拡張的かつ安定的成長、(イ) 政策実行能力の向上、(ウ)投資環境の改善、(エ)民主主義の定着、(オ)保健や教育等の社会面へ の取り組み、(カ)グローバル・プレイヤーとしての位置づけ、(キ)水、食料およびエネルギーといった豊富な 資源、(ク)環境問題をはじめとするバイオスフィアへの高い関心、を挙げている。 さらに、現政権はアジアとの経済関係強化に注力しており、2011 年 4 月には、メキシコ、チリおよびペル ーとの間でラテンアメリカ太平洋同盟の設立に合意した。これは開放経済政策を掲げる 4 カ国間のより深 い地域統合を目指し、域内における人、財、サービスおよび資本の移動を促すものであるが、特にアジア 市場に向けた共通戦略を定めることを目的としている。 3. マクロ経済動向 コロンビアは、世界的な金融危機後の 2009 年にマイナス成長を回避した数少ない中南米主要国の 一つである。2010 年以降の四半期ごとの実質GDP成長率(以下,成長率)は、内需主導で 3~5%台 での推移を続けている。産業部門別にみると、石油を柱とする鉱業・エネルギー部門が 2 桁成長を続けて おり、原油生産量は 2011 年 11 月には史上最高となる 96 万バレルに達した。また、内需拡大を受け、 商業・ホテル・レストラン、運輸・倉庫・通信、金融・不動産等サービス関連が回復している。主要機関 等の成長率見通しは、2011 年が 5%程度、2012 年は 4~5%となっている。 消費者物価上昇率は、近年低位安定していたが、洪水被害による農業部門への影響と関係回復に 伴うベネズエラ向け食料輸出の増加から、食料価格が高騰し、2011 年 10 月には前年同月比+4.02%を 記録、2009 年 5 月以降初めて 4%台を上回った。なお、中銀のインフレ目標は 3±1%であり、中銀は、8 月以降国際金融市場の不安定化を理由に据え置いてきた政策金利を、11 月の金融政策決定会合で 4.5%から 4.75%へ引き上げた。 国際収支をみると、経常赤字は、内需拡大に伴い 2010 年以来前年同期比拡大を続けている。もっ とも、経常赤字/GDP 比は、2010 年の 3.1%から 2011 年には小幅に縮小する見通しである。資本収支 は、前年実績を上回る流入超を続けている。対内直接投資については、大半がエネルギー・鉱業部門 向けであるが、2011 年上期の流入超は 70.1 億ドルと、2010 年の年間流入超を上回った。 2 2 e-NEXI (2012 年 1 月号) 4. 日系企業の最近の動向 進出日系企業の数は、近年、治安の改善に伴い増加傾向にある。日系企業の主なビジネスは、従 来はコーヒーや花卉の輸出、自動車・二輪車の組み立てであったが、最近では鉱物・エネルギー資源やイ ンフラ・プロジェクトへの関心が高まっているほか、2010 年に一人当たり名目 GDP が 6,000 ドルを越えたこ ともあり、人口 4,600 万人の市場規模を視野にメーカーの販売も活発化している。また、本邦金融機関 も地場銀行との業務提携を進めるなどしている。 なお、日本とコロンビアの経済関係協定としては、日・コロンビア投資協定を、2011 年 9 月のサントス大 統領訪日の際に署名した。さらに、経済連携協定(EPA)の交渉開始を検証するため、両国官民による 共同研究が行われている。 5. 今後の見通し サントス政権の主要課題としては、国内においては、一連の財政改革法(現状大枠が決定しているの み)施行に向けた関連法・規則の整備のほか、さらなる税制改革、年金改革および労働改革の推進が 挙げられる。なお、欧州ソブリン債務危機の影響は、現在のところ金融市場を通じたものにとどまっている が、2008-2009 年のような世界的金融・経済危機が再来する可能性も排除できない。こうした下方リス クの顕現に備え、きめ細かい政策対応を行っていくことが重要である。 対外経済関係では、米国との FTA 発効に向けた国内法整備が喫緊の課題である。また、コロンビア は APEC および OECD 加盟を目指しており、アジア経済外交を積極的に進めていく構えである。さらにア ンデスひいては中南米地域において中心的な役割を担うことを視野に入れているようにみられることから、 今後の動向に注視したい。 ※本稿は筆者の個人的見解であり、所属する機関の意見・見解を代表したものではない。 3 3 e-NEXI (2012 年 1 月号) 地域企業海外ビジネス支援会議の開催について 独立行政法人日本貿易保険 1. 地域企業海外ビジネス支援ネットワークの発足 独立行政法人日本貿易保険(NEXI)は、中堅中小企業をはじめとする地域企業の海外展開を一 層積極的に支援するため、今般、各地域において意欲的に支援に取り組まれている地方銀行との提携 を通じた、全国的な海外ビジネス支援のネットワークを発足いたしました。 NEXI は、これまでも地域企業の海外展開支援のために各種の取組を行って参りましたが、地域企業 における更なる貿易保険の知名度向上が課題となっています。他方、地方銀行におきましては、取引先 の海外展開が進む中、海外取引に付随する売掛債権の回収リスク等をカバーする効果的な手段確保 に注力されてきています。今般、この両者が提携して全国的なネットワークを形成し、地域企業への貿易 保険の普及を促進することにより、各地域企業の海外展開を効率的かつ効果的に支援することが可能 となります。 2. 「地域企業海外ビジネス支援会議」の開催 地域企業海外ビジネス支援ネットワークの発足に伴い、NEXI は、2011 年 12 月 5 日に「地域企業海 外ビジネス支援会議」を開催し、NEXI と提携された 11 行の地方銀行をはじめとする海外展開支援の第 一線に立つ関係者が一堂に会し、地域企業の海外展開支援における各行の取組、知見、課題等につ いて広く意見や情報の交換を行いました。 当該会議は、トップマネジメント会議と実務者会議との二部構成で行われました。 (1)トップマネジメント会議 第一部のトップマネジメント会議では、提携地方銀行役員、政府来賓及び NEXI 役員等が会し、 地域企業の海外ビジネス支援に関するトップマネジメントレベルの情報交換等を行いました。 NEXI 理事長による主催者挨拶に始まり、政府来賓挨拶(支援策の説明等)、NEXI の取組説明 の後、各地方銀行役員による各行の取組、課題等をご披露いただき、貴重な情報共有の場となりま した。 「各地方銀行役員と来賓各位」 (写真提供:NEXI) 4 「トップマネジメント会議風景」 4 e-NEXI (2012 年 1 月号) (2)実務者会議 第二部の実務者会議では、各地方銀行の第一線に立つ実務者が会し、実務レベルでの情報交 換等を行いました。 貿易保険ユーザー企業の声に始まり、提携を先行している北海道銀行、福岡銀行及び商工組合 中央金庫による取組をご披露いただいた後、各地方銀行の海外ビジネス展開支援に係る実務レベル での課題、貿易保険の活用方法等について闊達な議論が行われました。 「実務者会議風景」 (写真提供:NEXI) 今後は、当該会議での議論等を踏まえ、各地方銀行と NEXI とのネットワークを活用しつつ、海外ビジ ネス展開を行う各地域企業が実際にメリットを享受されるような成果に結び付けていくよう取り組んでまい ります。 <ご参考:提携地方銀行 11 行> 5 ・ 株式会社北海道銀行 (北海道) ・ 株式会社七十七銀行 (宮城県) ・ 株式会社常陽銀行 (茨城県) ・ 株式会社北陸銀行 (富山県) ・ 株式会社京都銀行 (京都府) ・ 株式会社池田泉州銀行 (大阪府) ・ 株式会社広島銀行 (広島県) ・ 株式会社伊予銀行 (愛媛県) ・ 株式会社福岡銀行 (福岡県) ・ 株式会社親和銀行 (長崎県) ・ 株式会社熊本ファミリー銀行 (熊本県) 5 e-NEXI (2012 年 1 月号) 《カントリーレビュー》 モンゴル:経済成長と懸念される過熱経済 <Point of View> オユトルゴイ鉱山とタバントルゴイ炭鉱の開発が牽引力となり、経済発展が期待されるモンゴルだが、資 源の受取収入を前提とした歳出拡大と銀行与信の急増で国内の経済は過熱傾向にある。資源に依存 する経済構造のため、資源価格の急落に備える必要があり、経済開発を進める一方で、インフレとバブ ルの発生を押さえなければならないが、最近のモンゴルは、安定より成長に軸足を置いている。当レビュー では国内経済のリスク要因を整理した。 1. 鉱物資源を梃子に期待される経済発展 モンゴルは 1990 年代、カシミヤや羊毛など農牧業が主要産業であったが、銅や金などの鉱物資源を 有する資源国でもあり、2005 年以降は鉱業が経済成長を牽引している。2010 年、鉱業は GDP の産業 別構成で 30%と第 1 位で、また、鉱物輸出は輸出全体の 80%を占めており、重要な外貨獲得源でも ある。 特に、埋蔵量ベースで世界最大級とされるオユトルゴイ鉱山(銅と金)とタバントルゴイ炭鉱(原料炭と 一般炭)の開発は同国の経済成長、及び外貨獲得に大きく貢献すると期待されている。オユトルゴイ鉱 山は 2013 年に産出を開始し、2016 年にフル稼働の計画であるが、IMF はオユトルゴイ鉱山の開発、及 び、他の産業への波及効果により 2013 年の実質 GDP 成長率を 22.9%(IMF4 条協議レポート Mar. 2011)と予測している。また、現在、経常収支は赤字ながら、海外から鉱業部門へ直接投資が入ってお り、外貨準備高は積み増され、IMF は中期的には輸入の 8 ヶ月分以上の外貨準備高を積むことが可能 と見ている。 但し、資源に依存する経済のため、経済成長は過去、資源価格に左右された。特に、輸出の 3 割を 占める銅価格の影響は大きく、図 1 からは、銅価格と経済成長が連動することが見て取れる。 6 6 e-NEXI (2012 年 1 月号) 図 1:銅価格の推移(07/01-11/12) 実質GDP成長率 08年8.9% 単位:ドル 09年▲1.3% 10年6.4% 注:グラフ上の数字(%)は実質 GDP 成長率 (出所:London Metal Exchange) 2. 過熱経済に対し矛盾する金融政策と財政政策 高い経済成長が期待されるモンゴルであるが、最近の経済には安定的な成長を脅かしかねない要因 もある。 2011 年第 3 四半期(2011 年 7-9 月)の実質 GDP 成長率は前年同期比で 20.8%に達したと推計 され、2011 年全体では 15%成長が見込まれている(世銀 Oct. 2011)。2010 年の実質 GDP 成長率が 6.4%であったので、この 1 年で成長率は倍増したことになる。 急速、且つ大幅に拡大する経済は、オユトルゴイ鉱山の生産開始を 2013 年に控え、関連インフラ向 けへの政府支出が牽引しており、これに関連した輸送、製造業、小売・卸売部門で成長が続いている。 建設部門は第 3 四半期に前年比で 67%増と成長率は著しいが、GDP の構成比では 1.4%(2010 年) に過ぎず、経済成長への寄与は大きくない。しかし、鉱山プロジェクトの投資資金等が国内に流入してお り、これらの資金が建設業に流れ、建設バブルの恐れも出ている。建材価格の値上がりで一般の住宅価 格も上昇している。 インフレ率は 2011 年を通じ上昇基調で、首都ウランバートルでは、2011 年 11 月末、年ベースで 12.3%(全国では 10.8%)だった。インフレ上昇の背景は、鉱山投資に伴う輸入の増加、公務員給与の 引き上げ、中国での食品価格の上昇(モンゴルは食肉以外の食品を中国からの輸入に依存)などで、需 要、コスト双方の面からインフレ圧力が高い。インフレで実質賃金は低下しており、特に、食品価格の値 上がりは都市部の貧困層(ウランバートル人口の 22%が貧困層と推計されている)の生活を苦しくしてい る。 7 7 e-NEXI (2012 年 1 月号) 8 インフレを警戒する中銀は、2011 年、3 度に渡り政策金利(CBB1 週間金利)を計 125 ベイシス・ポイ ント引き上げた(現在 12.25%)。また、急拡大する銀行与信を押さえるため、預金準備率を 2 度、計 900 ベイシス・ポイント引き上げる(現在 11%)など比較的迅速に対応した。しかし、マネー・サプライ(M2) は、前年比 55%(2011 年 11 月)と高い水準で伸びている。財政が積極的な拡大路線を採っているため、 金利や準備率の引き上げ効果が現れないのである。 3. 財政は開発を優先し拡大の方向 国家歳入は鉱業部門からの受取収入(ロイヤルティと配当金等)に支えられ、2011 年 9 月末時点で 予算より 20%の増収となった。政府はこの増収分を鉱業部門の大規模プロジェクト、農牧業支援、中小 企業支援のファイナンス等に充当することに決め、公共投資を当初予算から 46%増に修正した。この結 果、財政赤字(対 GDP 比)は当初案の▲5.0%から▲9.8%まで許容することになった。モンゴルは財政 安定化法(2010 年 6 月施行)に拠り、予算以上の鉱物収入は安定化基金に蓄える方針だが、政府は 拡大財政を選択したことになる。 2012 年予算ではさらに歳出を拡大させる方向である。歳出額は 2011 年当初の歳出予定額から 74%増の 7 兆 930 億トグログで、これは 2010 年の GDP 総額(8 兆 2,550 億トグログ)にほぼ匹敵する 大きさである。2011 年 9 月末時点、過去 12 ヶ月の収支実績は資源収入に支えられ、対 GDP 比 2.5% の黒字ではあるが、予算案を見る限り、財政政策は安定よりも経済開発の一層の推進を重視している ことが分かる。また、2011 年 5 月、大規模プロジェクトのファイナンスを支援する目的で、政府は全額出資 で開発銀行を設立した。今後、開発銀行の融資が、実質の歳出拡大となる可能性も否めない。IMF、 世銀とも拡大基調の財政政策に対し、現在の過熱経済を沈静化することは困難だと懸念している。 また、2012 年予算は、国内向け直接投資が倍増するなど前提条件が楽観的との指摘もある。これ 以上の世界経済の悪化と資源価格の急落が同時に起きた場合、予算どおりの歳入が確保できない可 能性がある。 4. 求められる銀行部門の一層の健全性強化 モンゴルの銀行部門は、銀行危機に陥った 2008-09 年の状態に比べ財務体質が強化されている。銀 行部門全体の自己資本比率(CAR:capital adequacy ratio)は 14.3%(清算中のズース銀行とアノド銀 行を除く)で、中銀が求める 12%を超えている。不良債権比率も 2011 年 9 月末時点、8.4%とピーク時 の 24.6%(2009 年 11 月)から大幅に低下した。 しかし、銀行部門については依然注意が必要である。銀行与信が急速に拡大したうえに、貸出先が 集中しているからだ。経済状況が反転した場合、再び不良債権の増加と貸し渋りが起こり、実体経済へ の影響が懸念される。また、銀行部門の救済は財政の負担となる場合もある。 2011 年 9 月末、銀行部門全体の貸出の伸び率は前年同期比で 52%と大きく、与信残高は 5 兆トグログを超えている。世銀は実体経済の成長に比べ、銀行与信の伸びが大きいと警告 している。貸出先については、貸出先上位 50 社向けの貸出が前年に比べ 42%増加しており、 2011 年 9 月末時点、貸出残高の 26%は上位 50 社に集中している。 8 e-NEXI (2012 年 1 月号) 不良債権比率の低下は、貸出残高が増加していることが主因であり、不良債権そのものの残高は 3,445 億トグログ(2011 年 10 月末)と依然大きい。1 年前(2010 年 10 月末)の不良債権残高は 3,988 億トグログだったので、不良債権の回収速度は鈍いと言える(減少率 13.6%)。 また、預貸率が 100%に近づいているが、モンゴルの場合、銀行への信頼が揺らげば直ちに預金が引き 出されることが予想される。加えて、預金の 32%は外貨預金であり、潜在的な流動性リスクが大きくなっ たと考えられている。金融市場の安定を維持するため、銀行部門が一層自己資本を厚くし、経済環境 の変化への耐性を強化する必要がある。 図 2:銀行の貸出残高と伸び率 % (出所:世銀 Mongolia Quarterly Update 2011 Oct.) 9 9 e-NEXI (2012 年 1 月号) 図 3:銀行部門全体の不良債権残高の推移 不良債権のピーク(09 年 11 月) 注:一番下の層(紫色)は破綻銀行の不良債権 (出所:世銀 Mongolia Quarterly Update 2011 Oct.) 5. 舵取りが難しい安定と成長のバランス 途上国の高いインフレは、社会コストの肥大化を招き、また、通貨のボラティリティを高めるため(通貨安 →通貨高)、モンゴル中銀は比較的早期に引き締め基調の金融政策を採った。一方、政府は積極的な 歳出拡大で高い経済成長を実現しようとしている。持続的な安定成長には、歳出の拡大幅を抑えること で、金融政策が過度な引き締めにならないことが望ましいだろう。しかし、2012 年には議会選挙も控えて おり、歳出拡大は避けられそうもない。過熱経済をうまくコントロールし、鉱物資源を梃子に安定成長を 実現できるかモンゴルは難しい舵取りを迫られている。 <ご参考> 1 ドル(USD)=1,422 モンゴル・トグログ(MNT) (出所:ブルンバーグ 2012 年 1 月 10 日) (2012 年 1 月 10 日 記) 10 10 e-NEXI (2012 年 1 月号) 台湾輸出入銀行との Quota Share 再保険及び共催セミナーについて 独立行政法人日本貿易保険 独立行政法人日本貿易保険(NEXI)は、2010 年 9 月 8 日に締結していた台湾のECA(輸出信用機 関)である台湾輸出入銀行との間の再保険協定をQuota Share 1(比例特約)再保険スキームを含める ように修正するとともに、この新しい再保険スキームの利用促進を図ることを目的に、台湾における日系 企業のお客様向けのセミナーを 2011 年 12 月 20 日に台湾輸出入銀行と共同開催致しました。 この新しい再保険スキームでは、以下の点からお客様の利便性向上が一層図られるものと考えており ます。 ① 引受審査が格段にスピードアップされることとなり、 お客様へのご回答等が従来に比べ迅速化される こと。 ② 取扱う決済条件が、従来に比べ拡大されることで、お客様の付保ニーズに幅広くお応えできるように なること。 ③ 取り扱う保険種が拡大されることにより、従来に比べ、お客様の取引実態に応じたより柔軟な保険 設計を行うことが可能となること。 ④ 台湾輸出入銀行と日本貿易保険の連携を強化することで、よりきめ細かくお客様をサポートすること が可能となること。 今後とも、海外の貿易保険機関との連携を通じ、我が国企業の国際的な事業展開を積極に 支援してまいります。 「会場の様子」 (写真提供:NEXI) 1 再保険者が、元受保険者の契約のうち対象となるものの全てを一定割合で受再するスキーム 11 11
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