肺癌における血清腫瘍マーカーについて 国立療養所富士病院呼吸器外科 見上光平 山田康治 堤正夫 石川創二 表1. はじめに 肺癌の臨床において血清腫瘍マーカ ーは、良性疾患との鑑別、組織型の推 定といった、確定診断の補助手段とし て、極めて重要な役割を果たしている。 一方、治療効果の判定や経過のモニタ ーリングとしても役立っている。 今回、筆者らは、CEAをはじめ各種血 清腫瘍マーカーにっき、診断面におけ る臨床的有用性を検討した。 肺癌:83例(男58例,女25例) 1 II IH Iv 扁平上皮癌 腺 癌 6 7 16 9 33 15 13 38 大細胞癌 小細胞癌 1 O 2 3 O 0 2 4 2 3 5 7 14 5 37 27 83 合計 表2. 肺良性疾患:25例(男13例,女|2例) 対象と方法 1988年2月より、1989年4月の14ケ月間 に当院に入院し、組織診又は、細胞診 により、肺癌と診断された83例(男58 例、女25例)とした。組織型別では扁 平上皮癌33例、腺癌38例、大細胞癌5例、 小細胞癌7例であった。病期別では1期 14例、II期5例、 m期37例、 IV期27例で 肺炎・器質化肺炎 7 膿胸・胸膜炎 2 中葉症候群 5 肺分画症 2 肺結核 2 その他 5 肺気腫 2° 結 果 組織型別に、各腫瘍マーカーの陽性 あった(表1)。尚、手術症例では病 理病期を、非手術症例では臨床病期を 率を算出した結果が表3および図1で 用いて分類した。 SCC抗原54.5Z、 NSE 15.6Z、 CA19−9 又、対照群として、同時期に入院し た肺良性疾患25例(男13例、女12例に ついて検討した(表2)。 測定は原則として、初回入院時とし、 24.2Z、 CA12537.5X、 SLX 19.4%であっ ある。即ち、扁平上皮癌ではCEA42.4%、 CEA、 SCC抗原、 NSE、 CA19−9、 CA125、 た。腺癌では、CEA 44.7X、 SCC抗原 2.8%、 NSE5.4%、 CA19−9 42.1%、 CA125 35.1X、 SLX 56.8%であった。大細胞癌 は、CEA40.0%、 SCC抗原O駕、 NSEおよび SLXの合計6種類にっき行なった。測 定法は、CEAおよびSCC抗原がenzyme immunoassay法、その他がradioimmuno CA19−9が60.0%、 CA125およびSLXが 20.OXであった。小細胞癌では、 CEA assay法である。 それぞれの項目のcut off値は、 CEA 0Z、 CA 12528.6X、 SLX 14.3Zであった。 肺癌全体で見ると、CEA 42.8X、 SCC抗 5.Ong/m1、 SCC抗原1.5ng/田1、 NSE 原23.8%、NSE 16.OZ、 CA19・・ 932.5%、 10.Ong/m1、 CA19−・9 37.OU/皿1、 CA 125 CA12534.6%、 SLX 36.3Xとなった。 35.OU/皿1、 SLX 38.OU/田1とした。 次に、CEAを含む2種類の腫瘍マーカ ーによる陽性率を組織型別に産出した。 (表4) 最も陽性率が高かった組み 28.6%、SCC抗原0%、 NSE42.9X、 CA19−9 統計的解析は、カイ2乗検定にて有 意水準をP=O.05とした。 一23一 肺癌各組織型における腫瘍マーカー陽性率 表3. 扁平上皮癌 腺 癌 大細胞癌. 小細胞癌 肺癌全体 CEA SCC NSE CA19−9 CA125 SLX 14/33 18/33 5/32 8/33 12/32 6/31 42.4% 54.5% 15.6% 24.2% 37.5% 19.4% 17/38 1/36 2/37 16/38 13/37 21/37 44.7% 2.8% 5.4% 42.1% 35.1% 56.8% 0/4 3/5 3/5 1/5 1∠5 2/5 40% O% 60% 60% 20% 20% 2/7 0/7 3/7 O/7 2/7 1/7 28.6% O% 42.9% O% 28.6% 14.3% 35/83 19/80 13/81 27/83 28/81 29/80 42.2% 23.8% 16.0% 32.5% 34.6% 36.3% 合わせは、扁平上皮癌では、CEA+SCC抗 肺癌各組織型における腫瘍マーカー陽性率 原で66.7Z(22/33)、腺癌では、 CEA+ SLXで59.5%(22/37)であった。いずれも 他の組み合わせと統計学的に有意差は 認められなかった。大細胞癌ではCEA+ SCC抗原以外のいずれの組み合せも60% 100 (3/5)であった。小細胞癌では、CEA+ 50 NSEおよびCEA+CA125が71.4%(5/7)と他 (%) C∈A SCC NSE CAI9−9 CA125 SしX too 腺 癌 56.8% 50 44.7% 35.1% 2.8% 5.4% (%) 100 42.1% CEA SCC NSεCA19−9 CA125 SLX 大細胞癌 60% 60% 50 癌では、1期でも83.3%(5/6)と高い陽 40% 20% 20% (%) 100 の組み合わせより比較的高値であった が、有意差は認められなかった。 続いて、各組織型における病期別陽 性率を検討した。(表5) 扁平上皮 癌ではCEA+SCC抗原の組み合わせで、腺 癌ではCEA+SLXの組み合わせで産出した。 大細胞癌と小細胞癌は症例数が少ない ため両者を併せて未分化癌とし、CEA+ NSEの組み合わせで検討した。扁平上皮 0% CεA SCC NSE CA19−9 CA125 SしX 小細胞癌 42.9% 50 286% 286% 性率を呈し、病期と陽性率には相関が なかった。一方、腺癌では、病期が進 むにっれ、陽性率は高くなる傾向を認 。めた。未分化癌の場合は、病期と陽性 率に相関を認めなかった。 肺良性疾患における腫瘍マーカーの 陽性率にっいても検討した。CEA 24。0 143% (%) 0% 0% CEA SCC NSE CA19−9 CA125 SしX %(6/25)、SCC抗原9.1%(2/22)、 NSE O% (0/22)、 CA 19−9 22.7Z(5/22)、 CA125 22.7Z(5/22)、 SLX 22.7%(5/22)であっ 図1. た。胸膜炎、肺化膿症、肺結核のよう 一24一 CEAを含む2種Combination assayによる陽性幸の比較 組み合わせ CEA十SCC 扁平上皮癌 腺 癌 大,細胞癌 陽性率 22/33 66.7% 19/32 59.4% 15/31 48.4% 17/36 47.2% 17/37 45.9% CEA十CA19−9 20/38 52.6% CEA十CA125 CEA十SLX CEA十SCC CEA十NSE 20/37 54.1% 22/37 59.5% 2/4 3/5 3/5 3/5 3/5 2/7 5/7 2/7 5/7 3/7 50% な炎症の高度な疾患でCA125やSLXの高 60% 値例が目だった。CEAとCA 19−9の陽性症 CEA十CA19−9 CεA十CA125 CEA十CA19−9 oO/22 陽性敗 マーカー stage CEA @(n=33) CEA 陽性串 CEA 5/22 5/22 24.0% 9.1% O% 22.7% 22.7% 表6. 例は、中葉症候群、肺気腫、器質化肺 炎、肺分画症に見られたが、いずれも cut off値を僅かに上回る程度であった。 60% 60% 60% 28.6% 71.4% 考 察 腫瘍マーカーは、診断面並びに治療 面に大きな役割を負っているが、今回 我々は主に、診断的有用性にっいて検 28.6% 71.4% 42.9% 良性・悪性の鑑別、そして悪性の場合. 組織型の推定といった病理組織診断の 補助的診断としての意義を持っと考え 陽性数. られる。 陽性率 肺癌全体で産出した各腫瘍マーカー 1 5/6 83.3% II 0/2 0% Ill 12/16 75.0% 0.05)、CA 19−9、 CA 125、 SLXに比較し ’w 5/9 55.6% ても高い傾向があった。肺癌における CEA の陽性率は、自日ら1)(1978)の 1 1/7 14.3% 49.3%、金重ら2)(1986)の68.8%など II :i/3 33.3% IH 10/14 71.4% IV 10/13 76.9% 1 1/1 100% II 0/O 0% II【 3/6 50% w 4/5 80% の陽性率では、CEAは42.2Z(35/83)で、 SCC抗原、 NSEより有意に高く(P< の報告があるが、自験例ではやや低値 であった。 1 組織型別に各腫瘍マーカーの陽性率 を比較すると、扁平上皮癌ではSCC抗原 が、腺癌ではSLXが、大細胞癌ではNSE およびCA19−9が、小細胞癌ではNSEが、 各々最も高値であった。これらの傾向 は、諸家の報告とも一致しており、田 代ら3》はNSEとSCC抗原はそれぞれ小細 胞癌と扁平上皮癌に組織特異性が高く、 CEAは組織型による差はほとんどないと ¥SLX @(n=37) 5/22 ^ 討を行った。診断面}こおいてはまず、 ¥SCC @(n=12) SしX CEA十CA125 CEA十SLX CEA十SCC CEA十NSE b 未分化癌 2/22 CA19−9 CA125 51.5% 各組織型におけるStage別陽性率 腺 癌 6!25 NSE 46.9% 表4. 扁平上皮癌 SCC 15/32 CEA十CA125 CEA十SLX 組 織 CεA 17/33 CEA十NSε CEA十CA19−9 CEA十SLX CEA十SCC CEA十NSE 小細胞癌 陽性数 肺良性疾患における腫瘍マ;一一カー ¥NSε 表5. 一25一 述べている。また、CA 19−9およびSLXは 腺癌において有用な腫瘍マーカ・・…とさ れている。4>5) CA 125は自験例では、 った。 4.肺良性疾患における偽陽性率は0∼ 24.0%であった。 組織特異性が乏しかった。 CEAを含む2種類の腫瘍マーカーによ るCo皿bination Assayでは、扁平上皮癌 (CEA+SCC抗原)で66.7%、腺癌(CEA+ SLX)で59.5%と、 CEA単独より陽性率が 文 献 ・ 1)白日高歩’:肺癌患者の血清CEA値の 15∼24%程度上回ることがわかった。大 細胞癌や小細胞癌でも同様の傾向が認 められ、Combination Assayの有用性が 測定ならびにその臨床的意義、日胸外 会誌,27:1294−1299,1978 2)金重博司:原発性肺癌患者におけ る各種腫瘍マーカーの臨床的意義、肺 癌,26:279−287,1986 3)田代隆良ら:原発性肺癌患者にお ける血清NSE,SCC抗原,およびCEAの臨 示唆された。 病期と陽性率との関係では、腺癌に おいて相関を認めたが、扁平上皮癌 と未分化癌(大細胞癌+小細胞癌)で は相関を認めなかった。これらの点は 症例数が少数であったことも一因する と考えられ、今後十分症例を重ね、再 検討したい。なお、SCC抗原に関しては 病期と陽性率は相関性が見られないと 床的意義、癌と化療,13:2383−2388, 1986 4)田代隆良ら:、原発性肺癌における CA19−9の意義、肺癌tL 28:11−17, 1988 いう報告もある。6)一方、CEA、 NSEお 5)野口昌幸:原発性肺癌における血 よびSLXでは、病期と陽性率は相関する 清SLX測定の意義に関する臨床的検討、 と言われている。1)5》7) 肺癌,28:765−775,1988 最後に、肺良性疾患における陽性率で あるが、SCC抗原およびNSEでは極めて 低値であったのに対して、他の4種類 の腫瘍マーカーでは20%台の陽性率を 呈した。 炎症の高度な疾患において CA125やSLXは、高値になる傾向が認め られ、数値を解釈する上で注意が必要 であると考えられた。 結 語 1.肺癌83例、肺良性疾患25例における、 CEA他、6種類の腫瘍マーカーにっき検 討した。 2.最も陽性率の高い腫瘍マー一カーは、 扁平上皮癌ではSCC抗原(54.5%)、腺 癌ではSLX(56.8%)、大細胞癌では NSEおよびCA 19−9(60%)、小細胞癌で はNSE(42.9%)であった。 3.CEAを含むco皿bination assayは CEA単独より、15∼24%陽性率が上回 一26一 6)増岡忠道ら:肺扁平上癌に対する SCC抗原測定の意義、 癌の臨床,31: 914−918, 1985 7)鈴木清ら:原発性肺癌に対する腫 瘍マーカーとしてのNSEの臨床的検討、 日胸疾会誌,25:625−630,1987
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