ボードパドリングにおけるストローク特性 - 日本ライフセービング協会

JLA ライフセービングフォーラム2013
ボードパドリングにおけるストローク特性
-熟練者の分析-
深 山 元 良 (城 西 国 際 大 学 ), 植 松 梓 (大 阪 体 育 大 学 大 学 院 ), 遠 藤 大 哉 (日 本 体 育 大
学),荒井宏和(流通経済大学),中塚健太郎(筑波大学),荒木雅信(大阪体育大学)
1
も必要となってくる.
1.はじめに
そこで,本研究は,熟練者が40m全力パドリン
サーフレスキューの方法のひとつに,ボードを
グを行ったときのボード速度 ,ストローク頻度,
用いた救助法がある.ライフセーバーがボードを
ストローク長の変化を分析し ,今後の技術指導の
用いて救助を行う割合は,レスキューチューブや
ための知見を得ることを目的とした .
水上バイク,船外機付きボートと比較して多い と
2.方法
1
報告されている ).水上でボードの推進力を得る
ためのパドリング方法には,ニーリングパドル
被験者は,全日本ライフセービング選手権ボー
( K-Pad) と ス ト ロ ー ク パ ド ル ( S-Pad) の 2種 類
ドレース決勝進出者10名 (男女 5名ずつ)とした .
がある(図-1).
被験 者に 約 40mの直線コース における K-Padと SPadの2種類の全力パドリングをそれぞれ 2回ずつ
行 わ せた .な お, 試技 間に は 最低 3分 以上 の休 憩
時間をとった.被験者は,スタート側壁面にボー
ドの最後部を合わせ,ボードに乗り静止した状態
からパドリングを開始させ,全力でほぼ45m地点
までパドリングを行わせた.ボードは,国際ライ
フセービング連盟の競技器材規格に準拠している
Dolphin社製ボード(全長 3.17m,全幅0.45m,重
量7.9kg)を用いた.3台のデジタルビデオカメラ
を用いて試技中の被験者の矢状面を右側から撮影
し た . 40m を 5m 毎 の 区 間 に 分 け , そ れ ぞ れ の
ボード速度,ストローク頻度,ストローク長を算
出した.
3.結果と考察
図 -1
ニ ー リ ン グ パ ド ル : K-Pad ( a ) と ス ト
熟 練 者 10名 に お け る K-Padと S-Padの ボ ー ド 速
ロークパドル:S-Pad(b)
度 は , と も に 25-30m 区 間 で 最 大 と な り , K-Pad
の 最 大 ボ ー ド 速 度 ( 2.77 m/秒 ) は S-Pad( 2.57
これまでボードパドリング動作習得のための技
m/秒 ) に 比 べ て 有 意 に 速 か っ た ( 図 -2a). 最 大
術指導は,熟練者の経験則を基に行われ てきた.
ボ ー ド 速 度 区 間 の ス ト ロ ー ク 頻 度 は , K-Pad
今後,ライフセーバーのボードパドリングのパ
(94.5 回/分)が S-Pad( 84.0 回/分)に比べて有
フォーマンスをより向上させるためには,科学的
意に高かった(図-2b).一方,最大ボード速度区
に検証されたデータの共有と科学的根拠に基づい
間 の ス ト ロ ー ク 長 は , K-Pad( 1.76 m/回 ) と S-
た技術指導が行われることが重要である.さらに,
Pad( 1.86 m/回 ) の 間 に 有 意 な 差 は 認 め ら れ な
ライフセービングの技術を社会に普及させていく
かった(図-2c).
ためには,客観的なデータを用いて説明すること
────────────────────────
Stroke characteristics during maximal board paddling
K-Pad に お け る 男 子 の 最 大 ボ ー ド 速 度 は , 2530m区間に出現し3.02 m/秒であった.同様に,女
子の最大ボード速度 は,20-25m区間に出現し 2.55
- 1 -
m/秒 で あ っ た . ま た , S-Padに お け る 最 大 ボ ー ド
4.まとめ
速 度 は , 男 女 と も に 25-30m区 間 に 出 現 し , 男 子
本研究によって得られた結果から ,以下の知見
2.73 m/ 秒 , 女 子 2.40 m/ 秒 で あ っ た . K-Pad と S-
が得られた.
Padと も に 男 子 の ボー ド速 度 は , 女 子 に 比 べ て有
( 1 ) K-Pad と S-Pad の 最 大 ボ ー ド 速 度 は , と も に
意に高かった.最大ボード速度区間におけるスト
25-30m区 間 に 出 現 し , K-Padの 最 大ボ ー ド速
ローク頻度は,K-Padで男子94.8 回/分,女子93.8
度(2.77 m/秒)はS-Pad(2.57 m/秒)に比べ
回 /分 , 同 様 に S-Pad で 男 子 85.1 回 /分 , 女 子 82.9
て 7.8% 速 か っ た . さ ら に , 両 パ ド リ ン グ の
回 /分 で あ っ た . 両 パ ド リ ン グ の ス ト ロ ー ク 頻 度
ボ ー ド 速 度 は , 10-15m区 間 か ら 35-40m区 間
は,男女間で有意な差は認められなかった. 最大
まで最大ボード速度と有意な差がない程度で
ボ ー ド 速 度区 間 に おけ る ス ト ロ ー ク長 は , K-Pad
維持した.
で男子1.91 m/回,女子1.64 m/回,同様にS-Padで
( 2 ) K-Pad と S-Pad の 最 大 ボ ー ド 速 度 の 差 は , K-
男 子 1.97 m/ 回 , 女 子 1.75 m/ 回 で あ っ た . ス ト
Padの ス ト ロ ー ク 頻 度 が よ り 高 値 で あ る こ と
ロ ー ク 長 は, K-Padの 男 女 間 で 有 意な 差 が 認め ら
が一因であると示唆された.
れたが,S-Padの男女差は認められなかった.
(3)K-Padの男子最大ボード速度は3.02 m/秒(25-
熟練者10名のボード速度,ストローク頻度,ス
30m区 間 ), 女 子は 2.55 m/秒 ( 20-25m区 間 )
トローク長の相関を分析した結果, 両パドリング
で あ っ た . S-Padの 最 大 ボ ー ド 速 度 は , 男 女
においてボード速度とストローク頻度の間には有
と も 25-30m区 間 に 出 現 し , 男 子 2.73 m/秒 ,
意な相関関係は認められなかった のに対して,
女 子 2.40 m/秒 で あ っ た . 両 パ ド リ ン グ と も
ボード速度とストローク長の間に高い正の相関関
男子の最大ボード速度は,女子に比べて有意
ストローク長(m/回)
ストローク頻度(回/分)
ボード速度(m/秒)
係が認められた (K-Pad:r=0.92;S-Pad:r=0.87).
に高かった.
( 4) K-Padに お ける 男 女の ボ ード 速 度 の 差 は, 男
3.5
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
(0.5)
120
100
80
60
40
20
0
(20)
2.5
子のストローク長がより高値であることによ
a
ると示唆された.
(5)両パドリングともに,ボード速度はストロー
ク頻度よりもストローク長に影響を受けてお
り,ボード速度を向上させるためにはスト
ローク長をより増大させることが重要である
b
ことが示唆された.
謝
辞
本 研 究 は 科 研 費 ( 24500752) の 助 成 を 受 け た
ものである.
c
2.0
1.5
参考文献
1.0
1)JLA:JLAパトロール統計2003-2010,JLA
2)深山元良・植松梓・遠藤大哉・荒井宏和・中塚健太
郎・荒木雅信:ボードパドリングにおけるストロー
ク特性:パドリング方法および性差の比較,海洋人
間学雑誌 1(1),pp.29,2012
3) 中塚健太郎・深山元良・遠藤大哉・荒井宏和・植松
梓・荒木雅信:ボードパドリングにおけるストロー
ク特性:技能レベルの違いによる動作感覚および意
識の特徴,海洋人間学雑誌 1(1),pp.29,2012
4)深山元良:ライフセービング(特集 ウォータース
ポ ー ツ の 科 学 ), ト レ ー ニ ン グ 科 学 , 14(3) ,
pp.119-128,2003
0.5
0.0
(0.5)
0
5
10
15
20
25
30
35
40
距離(m)
図-2 K-PadとS-Padのストローク変数(n=男女10)
- 2 -