GE today -In Technologu- Vol.24

3テスラ MRI Signa EXCITE HD 3.0Tを用いた
頭部領域の術前評価 −形態から機能画像まで
春秋会 城山病院 画像診断センター
松木 充 先生 稲田悠紀 先生 中辻賢二 先生 一森幸彦 先生 小田 剛 先生 春秋会 城山病院 脳・脊髄・神経センター
横山邦生 先生 英 賢一郎 先生 近藤明悳 先生 田邊英紀 先生
はじめに
槽を観察し、神経とそれを圧迫する血管を同定し、その血管を神
経よりはがして圧迫を解除した後、クッションとなるような合成
平成 18 年 7 月新病院への移転に伴い 3 テスラ MRI GE 製 Signa
化学繊維を挿入して再び圧迫が加わらないようにします。術中に
EXCITE HD 3.0T を導入し、頭部領域をはじめとして躯幹部全域を
おいて重要なことは、まず神経と血管が複雑に走行する脳槽のな
対象に検査を行っております。3 テスラによる高い S / N 比はさる
かで症状を引き起こしている脳神経およびそれを圧迫する責任血
ことながら静磁場強度の増加、T1 緩和時間の延長などを利用し、
管を同定し、圧迫を解除することで、術前に複雑な脳槽の解剖を
それぞれの症例に合った撮影法を選択し、頭部領域の形態評価か
MRI でシミュレーションすることは、手術時間の短縮、安全な手
ら機能評価まで活用しています。形態評価として日常臨床でよく
術の遂行に役立ちます。通常、術前の MRI では 3D-TOF MRA によ
用いられる 3D-TOF MRA では、T1 緩和時間の延長による inflow 効
る血管の評価および FIESTA(fast imaging employing steady-state
果により末梢血管の描出能は画期的に向上し、1.5 テスラでは限界
acquisition)などの T2 強調系画像を用いた神経と血管の位置関係
のあった穿通枝も高頻度で描出でき、径 3mm 以下の動脈瘤も良好
の把握がなされます。しかし、それらの撮影法で 3D 表示を行った
に描出することが可能になりました。また T2 強調系の画像では脳
場合、MRA では血管のみが描出され、T2 強調系画像では神経、
内の微細な構造に加え、脳血管、脳神経を高分解能に描出でき、
血管が同時に描出されますが、神経、血管とも同様の信号強度を
解剖学的情報を得るのに有用となりました。さらに機能評価とし
有し、分離して評価することが困難です。そこでわれわれは、神
て代表的な拡散テンソルイメージングでは、S / N 比が向上し、定
経減圧術の術前に 3 テスラ MRI で撮影した 3D angiography と 3D
量化が安定し、より正確な評価が可能となりました。一方、主た
cisternography とを融合した画像を術前シミュレーションとして
る 欠 点 と し て 磁 化 率 ア ー チ フ ァ ク ト の 増 大、 S A R ( s p e c i f i c
使用し、その有用性を報告します。
absorption rate)の増加があり、これらを考慮して、適切な条件
で検査を行わなければなりません。
対象
今回は、当院にて 3 テスラ MRI の利点を活かして行われている
平成 18 年 7 月から平成 19 年 6 月まで神経血管圧迫症候群のため
頭部領域の術前形態画像、機能画像の一部として神経減圧術前の
減圧術が予定され、術前に MRI が施行された 18 例で、片側性三叉
術前シミュレーション画像、慢性硬膜下血腫の病態解明のための
神経痛 7 例、顔面痙攣 11 例でした。
拡散テンソルイメージングを紹介したいと思います。
方法
神経血管減圧術前にて 3D angiography と
3D cisternography の融合画像を用いた
術前シミュレーション
使用装置は GE 製 Signa EXCITE HD 3.0T で、NV array コイルを
使用し、3D SPGR、3D FIESTA を撮影しました。3D SPGR の撮影
条件は、TR / TE = 27 / 4msec, flip angle17 °, matrix512 × 224,
slice thickness0.8mm, FOV17cm, Asset(+)
、3D FIESTA の撮影条
目的
件は TR / TE = Min Full / 4.9msec, flip angle50 °, matrix320 ×
神経血管圧迫症候群とは、血管が神経を圧迫することによって
228, slice thickness0.8mm, FOV24cm としました。それぞれのスラ
症状を引き起こす現象で、その代表例として椎骨脳底動脈あるい
イスデータをワークステーション(ザイオソフト社製 ZIOSTA-
はその分枝が三叉神経、顔面神経を圧迫することによる片側性三
TION)に転送し、ボリュームレンダリング法で再構成を行い、3D
叉神経痛、顔面痙攣があります。その治療法として薬物治療、神
SPGR から 3D angiography、3D FIESTA から 3D surface image を
経血管減圧術(microvascular decompression)があり、さらに三
作成し、surface image については小脳脳幹部をマニュアルで選択
叉神経痛には神経ブロック、ガンマーナイフ(定位的放射線治療)
しました(図 1a、b)。つづいて、それらのボリュームデータを融
があります。根治的治療法としては神経減圧術が有用とされ、多
合した fusion image は責任血管を同定しました(図 2)。術前シミ
くの施設で積極的に行われています。その手術は、顕微鏡下に脳
ュレーションとして 3D FIESTA のデータを仮想内視鏡モードで再
24
Magnetic
a
b
症例 1 / 57 歳、男性、主訴:右三叉神経痛
fusion image(図 4a、b)により、右三叉神経を圧排する動脈が
指摘され、それが内頸動脈から分岐する原始三叉動脈遺残(PPTA)
であることが明瞭に分かり、責任血管の同定に有用でした。
a
b
図 1 :神経血管減圧術の術前シミュレーション画像
a : 3D angiography
b : 3D surface image
Trigeminal n.
PPTA
Trigeminal n.
図 4 :症例 1
図 2 :神経血管減圧術の術前シミュレーション画像 fusion image
構成した virtual cisternoscopy を用いて、脳槽内を複雑に走行する
a、b : fusion image
症例 2 / 69 歳、女性、主訴:右三叉神経痛
血管と神経を描出し(図 3a)、それに赤く色分けされた 3D angiog-
virtual cisternoscopy(図 5a)にて、右三叉神経に並走する上小
raphy を融合させ、神経と動脈を分離して描出することによって
脳動脈(SCA)を認め、三叉神経の root entry zone(REZ)での
(図 3b)
、より術野に近い観察を行うようにしました。
接触が指摘され、さらに手前を交差する静脈(Vein)も認め、こ
れらの所見は術野(図 5b)と良好に対応していました。
a
b
Vein
a
Vein
b
Vein
Trigeminal n.
Trigeminal n.
Trigeminal n.
SCA
SCA
REZ
図 3 :神経血管減圧術の術前シミュレーション画像
a、b : virtual cisternoscopy
SCA
REZ
図 5 :症例 2
a : virtual cisternoscopy b :術中内視鏡写真
結果
三叉神経痛 7 例に対する責任血管の内訳は上小脳動脈(SCA)4
25
症例 3 / 58 歳、女性、主訴:右三叉神経痛
例、前下小脳動脈(AICA)2 例、原始三叉動脈遺残(persistent
術野に対応する角度で、virtual cisternoscopy(図 6a)を観察す
primitive trigeminal artery : PPTA)1 例で、顔面痙攣 11 例に対す
ると、右三叉神経の向う側を走行する血管が指摘されました。3D
る責任血管の内訳は前下小脳動脈(AICA)7 例、後下小脳動脈
cisternography の透過度を上げることによって右三叉神経の向う
(PICA)4 例でした。fusion image は、全例で神経に接触する責任
側で REZ に接触する前下小脳動脈(AICA)を透見して観察するこ
血管を正確に描出しました。さらに virtual cisternoscopy も全例で
とができ(図 6b)、術野のみでは観察困難な解剖学的位置関係の
術野に対応していました。
把握に有用でした。
GE today August 2007
netic Resonance
Magnetic Resonance
a
下血腫を伴った症例に対し、拡散テンソルイメージングを撮影、
b
検討し、新しい知見を得たので紹介します。
対象
BA
一側性の慢性硬膜下血腫を伴った 21 症例を対象とし、左側 11 例、
AICA
穿頭血腫洗浄除去術が施行され、神経症状は手術直後より改善しま
REZ
Trigeminal n.
右側 10 例でした。片側性麻痺は 14 例でみられました。16 例で、
した。
方法
図 6 :症例 3
a、b : virtual cisternoscopy
使用装置は GE 製 Signa EXCITE HD 3.0T で、NV array コイルを
使用し、撮影条件は、SE、TR / TE = 12000 / Minumum msec、
症例 4 / 42 歳、男性、主訴:左顔面痙攣
FOV = 30 × 30cm、3mm slice thickness、128 × 128matrix、
3D angiography(図 7a)は、左前下小脳動脈(AICA)から分岐
する細い枝も良好に描出し、その分枝(矢頭)を青く色分けしま
した。virtual cisternoscopy(図 7b)では、左顔面神経(緑色)の
1NEX、15 DT encoding directions、b = 1000s / mm2、Asset
(+)としました。検討項目は以下の通りで、
1. 病側と健側の大脳脚における錐体路の FA(fractional anisotropy)
root entry zone(REZ)を圧迫する AICA の分枝(青色:矢頭)を
値、ADC(apparent diffusion coefficient)値を Functool にて測
良好に描出し、色分けすることにより複雑な脳槽の解剖を理解す
定、比較した(図 8b)。
2. 病側と健側の FA 値の比(FA 値比)と筋力低下の関係。
ることが容易になりました。
3. 血腫による midline brain shift の距離と FA 値比との関係。
4. 頭部外傷の既往のあった 17 例について外傷から検査までの期間
b
a
と FA 値比との関係。
Facial n.
5. 片麻痺を伴った 14 症例について術前、術後 2-3 日の FA 値比の
変化を調べました。
AICA
Acoustic n.
a
b
REZ.
図 7 :症例 4
a : 3D angiography
b : virtual cisternoscopy
慢性硬膜下血腫術前にて
拡散テンソルイメージングを用いた病態解明
目的
図 8 :慢性硬膜下血腫症例
a : T1 強調画像 b : FA map
慢性硬膜下血腫は、軽微な頭部外傷から 2 週間から 3 ヶ月経って
発症することが多い比較的頻度の高い疾患です(図 8a)。血腫は、
被膜から繰り返す出血により緩徐に増大し、片麻痺、意識障害、
知能障害など様々な症状を引き起こします。その治療法として主
に穿頭血腫洗浄除去術がなされ、ほとんどの症例で、神経症状が
術後早期に改善します。しかし、その神経症状の発現機序として、
血腫圧迫による脳虚血、浮腫などが推定されていますが、一定し
た見解は得られていません。今回、われわれは一側性の慢性硬膜
結果
1. 病側と健側の ADC 値に有意差を認めませんでしたが、病側の
FA 値は健側に比べ有意に低いものでした(図 9)
。
2. 片麻痺を認めた症例の FA 値比は、認めない症例に比べ有意に低
いものでした(図 10)。
3. midline brain shift の距離と FA 値比は負の相関を示しました
(図 11)。
26
a
.98
.8
.96
.78
.75
.94
(0.68 ± 0.06)
.92
.7
.9
.68
.88
FA 値比
FA 値
.73
(0.75 ± 0.03)
.65
.63
.6
.86
.84
.82
P = 0.0006
.58
.8
.55
.78
.76
.53
病側
0
健側
20
40
60
80
100
120
頭部外傷から検査までの期間
b
ADC 値(× 10 − 3mm2/sec)
8.75
8.5
140
(日)
図 12 :頭部外傷から検査までの期間と FA 値比の比較
(0.74 ± 0.09)
(0.75 ± 0.07)
8.25
8
1.15
7.75
1.1
7.5
1.05
7.25
1
FA 値比
7
6.75
6.5
P = 0.7487
(0.88 ± 0.07)
.95
.9
(1.0 ± 0.07)
6.25
病側
健側
.85
.8
図 9 : a :病側と健側の FA 値の比較 b :病側と健側の ADC 値の比較
.75
術前
術後
図 13 :術前、術後の FA 値比の比較
.1
.98
(0.85 ± 0.08)
.95
4. 頭部外傷と検査までの期間と FA 値比は正の相関を示しました
.93
(図 12)。
FA 値比
.9
(0.93 ± 0.04)
.88
5. 術後の FA 値比は術前に比べ有意に上昇しました(図 13)
。
.85
考察
.82
.8
神経路の FA 値を低下させる代表例として、神経細胞、軸索が障
P = 0.0265
.77
害された際に、その末梢の軸索、髄鞘に生じるワーラー変性があ
.75
片麻痺(+)
ります。ワーラー変性は非可逆性の変化で、錐体路に障害を受け
片麻痺(−)
た場合、その 2 週間後以降にその末梢の錐体路の FA 値が低下する
図 10 :片麻痺を有した症例と有さない症例の FA 値比の比較
と報告され、拡散テンソルイメージングがワーラー変性の早期検
出に有用とされています。よって、以前は FA 値の低下は、神経路
の非可逆性の障害を示すといわれていましたが、最近、脳腫瘍に
1.05
よって圧迫された神経路にて FA 値の可逆性の低下を認めたという
.1
報告をみます。今回、慢性硬膜下血腫症例の錐体路にも FA 値の可
.95
逆性の低下を認め、それが神経症状と相関していました。これら
FA 値比
.9
より、神経症状の発現機序として、血腫の圧迫により錐体路内の
.85
神経線維に配列の乱れが生じ、それによって FA 値が低下した可能
.8
性があると推測します。さらにその配列の乱れは、midline brain
.75
shift に影響を受け、外傷後に発症が早い症例ほど乱れが強く、さ
Magnetic Resonance
Magnetic Resonance
らに配列の乱れは術後早期に回復すると考えられました。
.7
.65
-2
0
2
4
6
8
10
12
Midline brain shift の距離
図 11 : Midline brain shift の距離と FA 値比の比較
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GE today August 2007
14
16
18
(㎜)
GE today