悪 性 黒 色 腫 の 観 察 ただいま - 日本皮膚科学会雑誌 検索データベース

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悪 性 黒 色 腫 の 観 察
ます。Adobe® Reader®で閲覧するようにしてください。
A. Kawada
d al、1 Studies on
川 田
陽 弘
Malignant
中 居
凡そ黒色を呈する皮膚腫瘍にはmelanocyteの増殖
Melanoma
卓*
として両親は従兄妹同志,患者である長男,他に次男及
に因って生ずる母斑細胞母斑及び悪性黒色腫の1群と,
び長女は幼児より色素性乾皮症である,既往症に特記す
表皮Malpighi系細胞の増殖を主とする色素性基底細胞
べき事なし.
腫(癌),老人性沈贅,
Bloch良性非母斑性黒色上皮腫
現病歴 5才頃より顔面,頭,前興,手背等の裸露
或は太田1)の所謂黒色上皮腫の1群とがある.前者のう
部,更には胸,背にも典型的な色素性乾皮症の変化を生
ち,悪性黒色腫は従来melanocarcinoma,
じた.5∼6年前より左耳前部に潰瘍を生じ,初診時に
naevocarci-
noma或いはmelanosarcoma等と呼ばれているもの
は指頭大に増大,これは組織検査で基底細胞腫と判明し
で,その発生母地をなすmelanocyteに関しては神経
た.初診8ヵ月前より左下顎角に黒色の腫瘍か発生,時
櫛起源説が有力ではあろうか,
々表面が出血するので,当科に来院,入院した.
Alleが)など現在屯之を
執らない学者もある.則
入院時所見 体格中等大,栄養良.食慾,睡眠良.胸
ようになったのは近年に腸する.はじめB10ch3)は表皮
腹部内景に異常を認めない.皮膚は全体として色濃く,
melanocyteは基底細胞に由来するものと考え,
且つ略々全身に亘り褐色の小色素斑が多数散在する.特
の高弟Miescher4o)屯亦,
Jadassohns
するに当り,
Bloch
Handbuchに執筆
Blochのmelanocyteを表皮性と真皮性と
に顔面,前躊仲側には黒褐色の点状色素斑が多数密生,
手背に皮膚萎縮を認める,色素斑には又色素脱失斑が混
に分類する説に従い悪性黒色腫を表皮原性と真皮原性と
つている.智能は梢々低く,難聴あり,左眼に高度の視
に分けている.蓋し,
力障碍.虹彩は両眼共に一部色素脱失し,褐青色に見え
melanocyteの一元説に捷るなら
ば, Miescherの所謂表皮原性は表皮melanocyteに由
る.
来するものを,叉その真皮原性は真皮melanocyteに由
局所所見 左耳介上部前部に4×2cmの円型潰瘍あ
来するものと看倣してよかろう.そして悪性黒色腫の大
り,辺縁は堤防状に隆起する.前記のように組織検査で
多数は表皮原性即ち表皮melanocyteに由来すると考え
基底細胞腫と判明.左下顎角やゝ前方寄りに3×3
られている.叉,従来melanosarcomaとして報告され
扁平に隆起した腫瘍があり,その又中央に2×2cmの半
ているものも多くは実は表皮原性悪性黒色腫として差支
球状の黒色の腫瘍を生じている.弾性軟で表面出血し易
く,辺縁部に発赤を認めるが,自発痛,圧痛はない,左
えないようである.これ以タトに真の真皮原性悪性黒色
腫といわれるものはDarierのm^lanome
malin
cm.
m6-
顎下腺は栂指頭大に腫脹,弾性硬,自覚症状なし(第1
senchymateux或はmelanosarcomeがそれで,これ
図).
は青色母斑の悪性化せるものと考えられているが,極め
検査事項 末梢血々色素量90%,赤血球数475万,白
て稀なものとされ,一部にはその真実性に疑念を持たれ
血球数6,100,うち好申球分葉核63,
ている5)8)
4,淋巴球26%.血沈1時間値平均23.血清蛋白7.6g
悪性黒色腫の報告例は最近本邦にも輩出しているか,
峠, A/G 1.64,高田反応陰性,-1モール潤濁反応1.6
我々はこゝ数年の間に,
McLagen単位.尿に蛋白,糖,ウロビリノーゲン何れ
Miescherの所謂表皮性悪性黒
#状核7,好酸球
色腫に相当する症例を4例経験したので,之を報告し,
も陰性.光線過敏性試験は上腹部皮膚に於いて陰性.
且つ,更に黒色腫細胞一般に就て述べて見たい.
治療及び経過 12月21日より左耳介上部及び左下顎角
症例1 42才男子,初診,昭和30年11月29日.家族歴
の腫瘍にカルチノフィリソ2,500単位/ccの腫瘍内注射
*東京大学医学部皮膚科学教室(主任北村包彦教授)
―1229―
日本皮膚科学会雑誌 第70巷 第12号
1230
第1図 症例1
−1:悪性黒色腫
第2図 症侈に 原発巣の組織像,黒い点はy
ラニソ色素.
−2:基底細胞腫
及び1,000単位/ccの湿布を行ったところ,昭和31年1
月初め前者は堤防状隆起消失して,平坦な潰瘍面とな
り,後者は半球状の腫瘍は壊死して脱落し,その痕血痴
で被われるに至った.翌昭和32年1月13日より更に連日
5,000単位/ccの局所注射を行い,更に1月25日Radon
針20本を打込み,約1週間後には隆起は全く消失し
た.2月11日左顎下腺剔除術を施行,栂指頭大及び大豆
大の淋巴腺合せて2個を剔除.該淋巴腺は弾性硬,割面
は漆黒色を呈した.更に左耳介の基底細胞腫の病巣に
Radon針20本を打込んだところ,2月29日退院時にはこ
第3図 症例1 小血管周囲,線維に黒色腫細
のものは略々治癒,左下顎角部の悪性,黒色腫の部も指頭
胞が着生し,所謂血管周皮腫様構造を
大の浅い潰瘍を呈するのみとたった.
示してトる.
組織学的所見
左下顎角部の黒色腫瘍,表皮は全く破壊され,それよ
クロマチンに乏しく,核小体TL乃至2個,細胞中には核
り汗腺の深さに及び腫瘍組織を認める.腫瘍組織は各々
2乃至9個の,多核巨細胞も少数見られる.腫瘍組織を
の連絡の全くlooseな,円形乃至多角形の腫瘍細胞より
囲んで密な反応性細胞浸潤を認め,主として小円形細
なり,ノラニソは密粗種々である(第2図).仔細に見る
胞,形質細胞より成り,これに多数のクロマトフォーレ
と腫瘍細胞は各々分厚して無構造の集団を作っている所
ソが混じる.腫瘍周辺の被覆表皮はアカソトーゼ及び不
かおり,又蜂巣状の構造を示す所かおるが,多くのもの
規則な表皮突起の延長を示すが,はつきりしたjunctio-
は小血管の一層の内皮細胞の外側に接着して位置した
nal change
り,或は細ト線維索に密着してして,血管周皮腫類似の
部にその強陽性の細胞が散見されるが,その数少く,モ
構造が明かに認められる(第3図).腫瘍細胞の血管及
の他の細胞は淡墨色を呈して,全体として弱陽性と判定
は認めない.
dopa反応は腫瘍組織の辺縁
び線維に対する斯る関係はPAS染色及び嗜銀線維染色
される.腫瘍周辺の表皮基底層内に樹枝状のmelano-
標本で特に明瞭に認められる.腫瘍細胞はその核一般に
cyteが集団をなして増殖している.嗜銀線維染色では
1231
昭和35年12月20日
銀線維出現はしているが,細胞間に密な線維網を作って
部にも指頭大のもの,何れも皮下に腫瘍を生じた.又以
いる所は極めて少い.
前から左側腹部にたった粟粒大黒子様の・ものが,是亦何
左顎下腺:被膜を透して濃黒色に見える腺に割を入れ
時とはたしに増大,昭和30年9月には大立大,隆起した
ると墨汁様の液が溶出する.割面一様に漆黒色.顕微
黒色の腫瘍となり,周囲が潮紅した.更に同じ頃に右皐
鏡的に固有の淋巴組織は殆どが腫瘍組織により置換さ
丸が鳩卵大に腫脹し,圧痛あるに至った.同年10月17日
れ,肥厚した被膜下に僅かに認められる程度.腫瘍組織
某病院で左頭部の皮下腫瘍,左側腹部の黒色肉腫と診断
は原発巣と同様血管周皮腫類似の構造を示す.腫瘍細胞
された.そして左頭部にレ線照射20回及びナイトロミソ
は円形よりも寧ろ多角形を示し,一般に Anaplasieが
注射を工週間行ったが,白血球七派少したので一時中止
原発単に於けるより心強く,又単核及び多核の巨細胞が
していたが,翌31年1月心高部に2個,左側胸部に1
相当数混っている.腫瘍組織は線維索でいくっかの集団
個,小豆大皮下腫瘍を発見,1月10川これを剔除,2月
に区分されている(第4図).
初句に左側胸部,右肋骨弓下,右鎖骨下に米粒大乃至大
dopa反応は腫瘍組織の略
豆大の皮下腫瘍発生,漸次その数示増すので2月TL4ロ当
科に来院,入院した.
入院時所見 体格中等大,栄養可,食慾,睡眠普通.
聴打診,触診及びレ線学的に胸腹部内景を認めない.
局所所見 入院迄に腫瘍の剔除を行った部位に手術癩
痕を認める.左側頭部,鎖骨下部,上腹部,右側腹部に
各々直径5乃至lOmin,球形の皮下腫瘍あり,境界鮮明,
大きしものは皮膚面から梢々膨隆して見えるが,被覆皮
膚に異常なし.右耳下方から側頭部へかけ約lOcmの手術
痘痕に略々一致して皮下深部に境界比較的不鮮明な硬
結を触れる,このものは後の手術で淋巴腺転移と判明し
た.尚以上の皮下腫瘍の他に左肘高の梢々上方で,上鱒
の側に直径3mm隆起性黒子様腫瘍あり,周辺に軽い紅
肇.更に右乳嘴の外側及び左大腿内側に径2nの黒子様
腫瘍を認めるが,之には紅量を持ただし.又左肩に一見
第4図
症例1.左下顎淋巴腺の転移.原発巣
同様血管周皮腫様構造を示す.
脹せず.
々全面に強陽性を呈す.銀線維は腫瘍細胞個々の間に認
められるかと思えば,細胞集団の外廓を囲むに過ぎなト
検査事項 末梢血々色素量102%,赤血球数504万,
白血球数6,100,うち好中球分葉核48,梓状核7,好酸
球4,好塩基球2,単球3,淋巴球37%,赤沈1時間
個所もあり,即ち銀線維の密度は一定しない.
症例2 46才男子.初診昭和31年2月14
面鮑様の黒点1個を認める.頭腺以外肢腺,鼠径腺は腫
0.宗族歴,
既往歴に特記すべきことたしか,生来色白で,目に焼け
易いと云い,初診時にも前額,背等に淡褐色の小色素斑
を認めた.
現病歴 時期ははつきりしないが,可成以前から左耳
後で乳様突起の梢々下方に小さい黒子様のものがあり,
髪剃りの時剃刀で傷つけ出血することが時々あつたと.
このものは何時とはなしに増大且つ隆起し,昭和27年7
月某医にタスで表面をそいでもらい,外見上は治癒した
平均3.1.血清蛋白7.0g/dl,
A/G
2.05,高田反応陰
性.肝機能は Meulengracht指数4,ヘパトサルフア
レソ試験O/45分,チモール涸濁反応1.1,
位, Hijmans
van
den
Bergh
McLagen単
直接反応陰性,間接反
応陽性で略々正常.残余窒素22.3pig/dl.尿に蛋白弱陽
性,糖,ウロビリノー−ゲソ何れも陰性.タラエソ陰性.
レ線的に肺,骨に転移と思われる陰影なく,又アルカリ
・フオスフアターゼ5単位で正常.
治療及び経過 昭和31年2月15日,24日及び3月:L日
が,昭和29年にその梢々後下方の皮下に腫瘍のあるのに
の3回に亘り皮下腫瘍,左上訴内側の紅量あ泰黒子様腫
気附いた.このものはその後次第に増大して指頭大とな
瘍,左乳嘴部附近及び左肩の黒子様腫瘍を剔除,組織検万
り,更にその下方に3個の同様のもの,次いで左耳介下
査に供した.3月1日には更に左側頭部の手術巌痕に洽
1232
日本皮膚科学会雑誌 第70毒 第12号
つて切開し,淋巴腺を剔除,その深部にも腫脹した淋巴
葡萄糖と共にザル=1
腺を認めたが,剔除不能の為残置した.3月3日からカ
位使用,9月20日迄計8原口8,
ルチノフイリソの静脈注射を施行,初回1,
瘍に影響なく,全身衰弱更に甚しく,9月22川より全身
coo単位,漸
次増量してT口6,000単位,計18回58,000単位に及び,
-・イシソ!,000∼2,
に浮腫来り,腹部膨隆して鼓腸あり,悪心,嘔吐あり,
白血球3,900に減少したため一時中止.4月16日迄に輸
9月28トf死亡し,剖検された.
血計SOOcc,これにタルヤオB。を併用した.白1自L球数
組織学的所見
5,zooに快復したので,4月17より再びカルチノフイリ
ソエ目2,000∼7,
coo単位,5月23日迄計15回,
Coo∼・3,〔〕00単
coo単位か使用したが.腫
I.皮下腫瘍 合計10個切除したが,その中1個にの
76,000
み黒色を呈する部分があったが,他は凡て amelano-
単位を注射,ここで白血球数又復3,600に減少したヽめ
tic.腫瘍は皮下脂肪組織内におって境界明瞭.全10個同
輸血を行う.この問皮下腫瘍は全身に於て漸次増大,且
一組織所見で,即ち全面的に腫瘍細胞増殖から成り,そ
つその数を増す傾向にあったが,全身状態は良好.5月
の間に血管及び結締織が混じ,血管周囲に主に小円形細
17巨左鎖骨上席の淋巴腺著明に腫脹するに至ったので之
胞,時に好酸球を混えた細胞浸潤を認める.腫瘍周辺
を,次トで6月B目左顎下腺かも剔除.この頃から皮下
の一部に血管周囲性,軽度の小円形細胞浸潤.腫瘍組織
腫瘍の新生が頻々,その発育速度を増し,連日37゜C∼
は主に「弓形,或は多角形細胞が一見鋪石を敷いた如く見
37.2°Cの微熱ある様にたった(第5図).6月26日頃より
えるが(第引必I),仔細に見ると腫瘍細胞数個の集りを細
黄疸発現,
長い紡錘形,或は三角形江比較的クロー・チソに富んだ
B.S.P
45分値60%,肝を肋廿弓下約2横指触
れ,軽度の圧痛あり,葡萄糖,yやオユン,グロソサ
細胞が囲んでトるのが見てとれる.斯等細胞は一見繊維
ソ,ビクミソ剤を投ケ,して7月中旬黄疸にレ一旦消失.こ
の間6月28によりアザソUn回40∼80聡を筋注,9月
10日迄に計四囲,
l,830iiiE使用したが,皮下腫揚の新
第6[碩 症例2.皮膚転移の組織像.
第5図 症例2.背部に於ける多数の皮膚転移.
生,特に8月中切から躯幹に於て著しく,その或るもの
に川ミ痛あり,一般状態漸次侵され,食思振はず,殊に8
月下旬よりよ食慾全く消失,漸次全身衰弱強まり,23日
より下痢,9月初めより頭痛殊に後頭部に強く,睡眠障
碍される至った.アザンは無効と考えられ,9月10ト1中
止したが,その前後より腫瘍の新生,発育更に急を加
え,胸部,腹部のものは半球状に隆起し,被覆表皮潮
紅,一部廉爛をするに全った.7月25日胸部レ線撮影,
9月8「T頭部,脊椎のレ線撮影を行ったが転移巣は認め
第7図 症例2.皮膚転移巣に於ける単核
六ト.9月初めより37.8゜C∼38°Cに発熱.9月11日より
巨細胞.
昭和35年12月20日
1233
に見えてもjラエソ染色を行うと極く僅かのクロー・トフ
オーレソの見出されることが多い.チロジナーゼ反応は
陽性を示したが(第8図,左),顕微鏡的に,その陽性と
判定出来る細胞は極めて僅かであった.
dopa反応も明
かに陽性と判定出来る細胞は少数,そしてかゝる細胞は
腫瘍細胞増殖の周辺部に集族する傾向かおる.
上記10個の腫瘍の他,更にいくっかの特異な所見を記
すと,
II. 右上騰部内側の紅最を伴う米粒大の黒子様腫瘍
表皮下から真皮中層へかけて腫瘍細胞の集団を認める.
細胞は多くは円形で,周辺部では膠原線維の間に浸潤し
第8図 チロジナーゼ反応,(症例2).
上.対照:下,チロジナーゼ反応後灰黒
色を呈して陽性.
てしる.周辺部に血管周囲性小円形細胞の浸潤あり.腫
瘍細胞巣の中に毛嚢,汗管及び起毛筋が包埋されている
が,連続切片で検索しても腫瘍細胞増殖と表皮との連絡
は証明されなかった.即ちjunctional
changeは認め
られない. dopa反応は殆どの細胞が陽性を示すが,殊
に辺縁部に強い.チロジナーゼ反応も陽性(第8図,
右),顕微鏡的にも腫瘍細胞の略々凡てが陽性を示す.
III. 左乳嘴部外側の黒子様腫瘍 IIと略同様の組織
像で,腫瘍組織の中に毛嚢,汗管が包埋され,又腫瘍組
織に接して起毛筋が存在する.こゝでは連続切片の所見
第9図
症例2.皮膚転移巣に於ける密な嗜銀線
維の出現(染色).
芽細胞様だが,実は圧迫された腫瘍細胞と思われる.更
に腫瘍細胞がTLつの空隙を囲んで配列し,その空隙内に
も腫瘍細胞がバラバラに位置する像かおる.腫瘍には中
心壊死したものかおるが,壊死部分に近し細胞は個々に
梢々収縮し,却って同質との関係を明瞭に見せてしる.
即ちか!ゝる個所では腫瘍細胞はあたかも腺癌様に配列
し,又細い線維索に配列,着生して見え.之はPAS染
色及び嗜銀線維染色により一層明瞭になる(第9図).腫
瘍細胞は核クロマチンに富むものもあるが,一般にはク
ロマチンに乏しく,核は泡沫状にみえる.原形質は弱エ
オジソ好性,細穎粒状に見えるのが少くなし.これら腫
瘍細胞の5∼6倍大に及び多核の巨細胞が散在する(第
7図)他,核分裂像も多く,中等度拡大で1視野内に4
∼6個位認められる.尚お腫瘍は肉眼的に amelanotic
第10図 症例2,毛嚢を取囲む表皮より悪性黒
色腫の発生せる像を呈する(↑).
日本皮膚科学会雑誌 第70巷 第12号
1234
第TL表 症例2,3の転移部位
として毛嚢表皮から腫瘍細胞増殖がスタートしている個
所があった(第10図)。
IV,左肩の面飽様の黒点 組織学的に毛嚢を囲む腫
頭
瘍組織で,毛嚢表皮から腫瘍細胞へと漸進的移行する像
部
あり.
V. 右膝蓋の下内方の米粒大の黒子様腫瘍 略
と
同様の組織像を示し,ここで亀腫瘍組織内に毛嚢,汗管
頚
部
が包埋されている.連続切片で,毛嚢表皮から腫瘍細胞
への移行像なし.
胸
VI.左側頚部淋巴腺 態面にはmelanoticの部分と
atnelanoticの部分が入混っている,固有の淋巴組織は
部
腫瘍組織で置換され,後者は線維索でトくっかの集団に
区分される,腫瘍組織の所見は皮下腫瘍の夫れと略々同
様乍ら,細胞は円形よりもむしろ多角形,腺腫様構造を
腹
示すものあり,その細い線維索に配列,着生する個所も
あり,この線維索との関係は嗜銀線維染色及びPAS染
色で一層明瞭となる.核分裂像多く,又単核及び多核の
巨細胞がまじる.
剖検所見 全身広汎に各臓器に亘って転移が認められ
た(第工表).
山 顕著な転移を示す臓器.
皮膚:躯幹,四肢に鶏卵大迄の多数の皮下腫瘍,一部
のものは被覆表皮廉爛している.
淋巴腺ご殊に頭部及び腸間膜淋巴腺は鶏卵大迄に多数
部
加佐
牙 2 例
大脳
十
O
小脳
十
O
脳下垂体
O
十
軟脳膜
O
十
彼脳膜
O
和
頭蓋骨
●
+
舌
(−)
咽頭喉頭
●
十
扁桃腺
(−)
甲状腺
叶)
肺
○
丑
肋膜
+
○
旭筋
○
十
屯内賤
(−)
厄外膜
(−)
肺門樅隔罰 ○
十
貪逗
(−)
気管
(−)
横隔願
(−J
胃
O
昔
十二指腸
昔
O
小同
O
廿
大隔
O
十
肝
O
冊
胆嚢
+
O●
砕,.
○
+
大病
昔
○
賜間股
○
昔
+
肺
○
腎尿管
+
○
副腎
○
昔
肋胱
○
+
前立波
叶)
音九
子
○
畠I」章九
(−)
皮膚
昔
○●
淋巴隣洛在)
○●
昔
骨系統
噺頭蓋底のみ+
牙 3 例
-●
升
+
+
⇔
心
-
十
十
十
+
+
(一)
半
W
心
-
升
十
赫
赫
+
+
●
W●
−・●
(-)
(−)
−
-
+
+
桂
心
-●
●
-
桂
林
升
+
+
林
林
升
升
丑
十
十
十
十
-
升
+
升
−●
O ㎝el。notic,円形乃至多角形のjl胞 丑
● melono↑ic. +
∼ mel・anotic:躬錘形乃至樹枝状の細胞(−
転駱顛名
転移めり
転移なし
が腫脹.
胃:多数碗豆大の粘膜下の腫瘍.
(7)右學丸造精機能の低下顕著.
小腸;粘膜に多数碗豆大の腫瘍.
(8)骨髄 ゲラチソ様外観.
大網及び腹膜:碗豆大の小腫瘍,一部尿管に浸潤す
圓 左肺下葉に指頭大の乾酪化せる結核病巣.
る.
(10) Meckel憩室.
肝:数個,鶏卵大迄の腫瘍.
転移巣は左頭部淋巴腺,頭蓋骨,腸間膜の数個,粟粒
肺:多数,碗豆大腫瘍.
大の黒色を呈する腫瘍の他は凡てamelanoticである.
副腎:拐指頭大のもの1個,
内臓諸臓器の転移は血行性の播種と考えられ,組織学的
硬脳膜及び膀胱粘膜にポリープ状腫瘍.
には生前の試験切除切片の夫れと略々同一所見である
(2)比較的顕著でない転移を示す臓器.
か,腫瘍細胞のAnaplasiaがより顕著で,又その上記
大腸:数個の碗豆大腫瘍.他に牌,右単丸,骨髄,廊,
の組織構造がより明瞭である.
心筋,甲状腺,脳下垂体後葉,脳蜘蛛膜下腔,脈絡膜,
症例3 52才男子.初診昭和31年5月23日.家族歴及
及び腎にも転移を認める.
び既往症に特別の事はない.
(3)腹水70CCC,肋膜漿液,右側lOOcc,左側200
現病歴 生来右足鮭の趾根部に指頭大,隆起しない黒
cc,何れも黄色,脈々混濁.癌性腹膜炎及び肋膜炎の所
色々素斑が存在,昭和27年初め入浴時摩擦した後廉爛し
見と考えられる.
て分泌あることがあつだ.昭和30年6月から毎月U
(4)左尿管の腫瘍浸潤による左水腎症.
の色素斑の周辺に灸をすえ,又“タ=Jの吸出じを貼布
(5)肝中心脂肪化.
していた所,翌31年4月頃から色素斑が隆起し始め,且
(6)
つ急に増大し,初診迄の約1ヵ月間に鶏卵大の,半球状
m 110 9.
萎縮及び充血.
1235
昭和35年12月20日
に隆起した黒色の腫瘍となった.東大清水外科に入院,
皮膚科・診察にまわされた.
現症 一般状態良好.右足凱で,第2,3趾々視部に
近く,4×3
cm, 卵円形,漆黒色の,約2Cmの高さ隆起
して,附視ではくびれた腫瘍を認める.表面所々麿爛
し,出川Lし易し.弾力性で絹々硬く,軽度の尾痛を訴え
る.更に腫瘍叫仰視で,腫瘍の接触する皮膚に,半月状
に黒色斑を生じており,腫瘍の自家移植によるものと考
第!2図
症例3.原発巣の組織像.主として紡
錘形の腫瘍細胞より成る.
第n図 症例3 右足註
えられた.右股腺鶏卵大,弾力性硬,宍俑梢々凹凸を示
し,淋巴腺転移と考えられた.他に表在淋巴腺の腫脹を
詰めない.尿中に蛋白陰性,ウロビリノーゲン中等度陽
性,メラユソ,コプロポルフイリソ,ウロポルフイリソ
何れも陰性.
第13図 症例3.原発巣に認められた巨大な腫
瘍細胞.
治療及び経過 臨床的に定型的な悪性黒色腫と診断,
6月27日原発腫瘍剔除及び右股,鼠径,腸骨動脈周囲淋
巴腺廓清術を施行.然るに7月に入り上腹部に小豆大の
皮下腫瘍,次いで左旅寓に心小.し大の腫瘍が発生したの
で,之を剔除,7月31ロ一且退院.以後10月迄にナイト
ロミン計12回,
600mgを注射したが,左右大腿,下腿,
右鎖骨上高等に皮下腫瘍が続々新生する為11月1日東大
放射線科に入院.入院後の検査により上記皮下腫瘍の他
に,右肺に鳩卵大の境界明確な陰影認められ,肺転移と
考えられた.!2月27日死亡.剖検.
組織学的所見 右足陳の原発腫瘍は割面漆黒色を呈
し,割面から墨汁様の液が惨出する.顕微鏡的に主とし
て紡錘状細胞の増殖から成るが,それは腫瘍細胞小集団
に細分される.細胞要素は紡錘形或は樹柱状細胞が多数
を占めるが,腫瘍中心部では球形楕円形或はオタマジャ
クシ形のものが混じる.紡錘形細胞は個々の輪廓あまり
明瞭でなしか,単純な紡錘形を示すものよりは,寧ろ原
第14図 同上.密な嗜銀線維が認められる.
1236
日本皮膚科学会雑誌 第70巷 第12号
形質の突起が分岐し,之が隣接細胞の突起と重なり合っ
骨:頭蓋骨内面,脊椎,胸骨,肋骨,大腿骨.
ている様に見えるものが多い(第12図).円形の細胞には
(2)転移の比較的顕著でなト臓器.
多核及び単核の巨細胞が混っている(第13図).タラとソ
小脳,脳下垂休,脳膜:舌,咽頭,喉頭,甲状腺;肋
は腫瘍細胞増殖の内部に略I々一様に分布してトる.嗜銀
線維は細胞間に密に入り込んでいるが,極めて疎な部分
膜,心外膜,横隔膜;胃,胆嚢,昨;膀胱,前立腺,右
皐丸,副皐丸;淋巴腺(肺門,気管支周問,静脈角).
もある(第14図).血管周囲には嗜銀線維が多く,腫瘍
(3)腹水 330cc,黒色を呈する.
組織の周辺に小円形細胞及び形質細胞から成る反応性浸
症例4 58才男子.会社員.初診昭和31年2月28
潤.腫瘍周辺では被覆表皮の突起が不規則性に延長し,
家族歴に特記すべき事なし.既往に先天性弁膜障碍があ
IJ.
そこには又タラノサイトの増殖心認められる.ドーパ反
る.
応では所々に集族して陽性細胞が認められる力八腫瘍組
現病歴 昭和30年12月ガラスの破片でjj足腫を傷っけ
織全体から見ればその数は僅か,又かゝる細胞以外にば
たが,大した事なく放置していたところ,完全には治癒
明らかにドーパ反応陽性とは云し難い.
せず,昭和31年3月“タコの吸出じを15日間貼布した
剖検所見(第1表).
が,その部に浅い潰瘍を形成,之は難治で,特に疼痛
山 転移の顕著なる臓器.
あったが増大はしなかった.同年6月医により潰揚部の
皮膚:胸部,腹部,両側四肢の主に仲側に小:墜乃至栂
み切除,手術創約10口で治癒,その部分に色素斑は認め
指頭人,黒褐色,半球状に隆起せる腫瘍が散在.顔面,
なかったとトう.然るに間もなく手術創拘でび潰瘍化,患
頚部及び躯幹背面には転移なし.
者自身これを剃刀の刃でけづっている間に潰瘍多少拡大
大脳:皮質,髄質共に大豆大乃企栂頭指大の腫瘍多数
し,且つそこに黒色の色素斑を生じ,時にぱWILするに至
を認める.
った.32年2月中句,この潰瘍を伴う黒色斑の附近に小
肺:左右共小豆大乃至指頭大の腫瘍散在.心筋及び心
立天黒色斑が出現.同年2月28日肖科に来院,3月工目
内膜:小児手拳天,中心軟化した腫瘍あり,縦隔洞にも
に入院した.
及ぶ.
現症 体格中等大,栄養,睡眠,食慾良好.第1心音
十二指腸,小腸,大腸:小豆,大豆大の粘膜下腫瘍を
不純,心電図により左心安基部附近に軽度の心筋障碍を
多発.小腸では一部ポリープ様,腸内腔へと突出, この
詰める.他の胸腹部内景に異常は認めなト.
為腸重積を起している.
局所所見 右足腫部のやゝ外側寄りに直径約2
肝,大綱,腸間膜:示指頭乃至小児子拳大のもの多数
円形黒色斑あり,扁平に軽く隆起,表面所々に浅ト廉爛
(第15図).
乃至潰瘍を詰め,出血し易い.之より趾端へ向け約1
cm, 楕
cm
離れて小:ぱ大,円形の黒色斑あり,表㈲浅く慶爛する,
母腫瘍を挾んで反対側に半米粒大,黒色点あ貼 皮表全
く正常.右股腺n豆人に腫脹.両側鼠径腺は各々2,3
個,小豆大のものを触れる.
検査事項 赤血球数440万,末梢血々色素量110%,
白血球数5,900,うち好中球分葉核62,梓状核5,好酸
球3,単球!.淋巴球28%で異常なく,血沈1時間平均
5.血圧164/94.尿中に蛋白,糖, ウロビリノーゲ
ン,ノラユソ,ポルフィリン何れも陰性.血特蛋白G,8
g/dl,A/G比1.5.高[1T反応陰性.総ごJレステロー
ル174mg,UI.肝二機能はチモール洞濁反応1.4
McLagen
単位,ヘパトサルフアレイソ試験45分値Oで障碍なく,
第15凶 症例3.肝に於ける転移
腎機能もP.S.P.
2時間計80%.残余窒素22.3mg……dlで異常
牌:小立乃至指頭大のもの多数.
たい.副腎機能はThorn試験,
腎:小⊇:大のもの多くは皮質に散在.
時間後減少率74%で正常,レ線的に骨に転移を認めず,
ACTH25mg筋注,4
副腎:左鶏卵人,右示指頭大.
又1血清アルカリ・フオスファターゼ6.02,酸フオスフア
1237
昭和35年12月20日
ターゼ0.36単位で正常.
細胞層との間に狭い空隙を生じている.腫瘍細胞は巣状
治療及び経過 3月7口腰椎麻酔下に右足腫の黒色腫
に集団をつくり,又表皮突起の延長しているその周囲を
瘍を中心に広く切除,次トで右股,鼠径,外腸骨動脈周
縁取る形をとっている(第16図).又腫瘍細胞は各個分離
囲の淋巴腺を広汎に剔除した.3月16日前回の切除せる
して真皮乳頭層,同乳頭下層へ侵入,所により小血管を
右足腫部にクラウゼ皮膚移植術を施行,経過順調にて4
囲七所見がある(第17図).真皮に反応性小円形細胞浸潤
月25口退院.退院特廿に転移を認めず,以後現在に及ぶ
及びクロー・トフォーレソ.腫瘍細胞は又逆に上方,表皮
迄外来で観察してトるが異常なト.
糾細胞層,角質層内へ七侵入する像あり,腫瘍の中心部
組織学的所見
では被覆表皮は破壊され,角質層内に腫瘍細胞の集団を
I.腫瘍 被覆表皮軽度のアカントーゼを示し,基底
見る. dopa反応は腫瘍辺縁部に於て強陽性.又巣状に
層の細胞全体に亘って乱れ,囚有の基底細胞認められ
樹枝状のmelanocyteの増殖するものでは,中心部に向
ず,代りに帥細胞と略々同大の腫瘍細胞増殖し,上方蝸
うにっれ同反応の色調薄れ,陰性細胞を混ずる.その他
角質層内に右dopa陽性細胞故見する.チロジナーゼ
反応を行ったが,既存ノラユソ多量存在せるため判定不
能.基底層の腫瘍細胞集団間に嗜銀線維は認められず,
腫瘍細胞の真皮内へ侵入する個所に雨月線維出一現してト
る(第18図).
第16図 症例4,原発巣
第18図 表皮,真皮境界部に於ける腫瘍細胞線
維と嗜銀線維との関係(Pap嗜銀線
維染色,ヘー・トキシリソ後染色).
II.母腫瘍附近の小豆大,表面摩爛を示す黒色斑
組織像は略々同様であるが,表皮層の破壊が左程強くな
い.腫瘍細胞は真皮内へ侵入,所により小血管を囲む
(第19図).この組織像は明らかにjunctional
changeを
第17図 同上.真皮と浸潤せる腫瘍細胞が小血
示して居り,母腫瘍よりの転移によると考えられなし.
管を囲む(↑).
III. 母腫瘍附近の小黒色斑 組織学的に是亦所謂
1238
日本皮膚科学会雑誌 第70巷 第12号
junctional changeを示し,腫瘍細胞の真皮へ侵入はま
だ認められない.但し表皮内腫瘍細胞の増殖に対応して
真皮に中等度の小円形細胞浸潤を詰める.所謂premalignant
melanomaの柄像と考えられる(第20図).
IV.剔除した股,嵐径腺及び外腸骨動脈周囲淋巴腺
には転移を認めなト.
以上,著者が最近経験しか4例の所見か記した.以下
これを参照しつ!ゝ悪性黒色腫に関する現今の一般知見,
見解に触れてみたし.
悪性黒色腫はTraub及びKeil",
Becker", Allen"
等に従えば,表皮基底層乃至表皮真皮境界部から発生
し,腫瘍細胞の増殖は上方は煉細胞層内,角層内へと,
叉下方は真皮内へ侵入するというか,著者等の上述,最
後の第4例は斯ふる初期の変化を示した(第16,
19圖).
腫瘍細胞の増殖が進行し,犬ころ細胞巣団が作られる
ようになると,個々の黒色腫細胞は球形,多角形,紡錘
第19図
原発巣附近の小豆大,表面廉爛を呈す
るる黒色斑の組織像.表皮真皮境界に
形,樹枝状と極めて多様な形態を示すことがその特徴で
於ける腫瘍細胞の増殖,一部真皮に侵
入する.表皮上層,角質層にも腫瘍細
素に大別しているが,こ02種つ要素は種々の割合で相
胞しラニソを持つ)を認める.
ある. Miescher'" iよ一一言球形と紡錘形,2つの細胞要
混合し,前者が優勢の時は腫瘍組織は蜂嵩状の,叉屡々
血管周皮腫様の構造を示し,後者が主要を占める時は所
謂車状増殖を呈する.著者等の上述第1,2例は球形細
胞を主炎嬰素とするのに対し(第2,6圖),第3例は紡
錘状細胞が車形に増殖を示した(第12圖).第1例では更
に血管周皮腫類似の構造が原発巣,淋巴腺輔移の何れと
令穎著に認められた(第3,4圖).第2例は原発巣は陛
に剔除されており観察出来なかったか,多数の皮下仰移
及び内臓諸臓器の輔移巣は蜂高状構造の右ので,この場
合を仔細に観察すると,球形乃至多角形の細胞各個問の
連結はむしろlooseで,各細胞は互に分離して存在する
か,線維性要素の混在する個所では,各細胞は好んで細
い線維索に着生して配列し(第6圖),叉時に1個の空隙
を囲んで腺腫様をなす.かb一石間質の綿維性要素との関
係は嗜銀線維染色,
PAS染色で一層明瞭に認められ
る.そしてこの線維索が小血管に依って代られた場合に
は,その内皮細胞の外周に腫瘍細胞は着生して血管周皮
腫様構造を示すに至る.斯種血管周皮腫様構造をなす腫
瘍種類には悪性黒色腫の他に副腎のPheochromocytoma及びParagangliomaがあると我々は教えられている
(所9))(第21圖).一方第3例の如き腫瘍か樹枝状乃至
第20図 原発巣附近の半米粒大の黒色斑,表皮
真皮境界に於ける樹枝状細胞の増殖と
真皮に於ける小円形細胞浸潤.
紡錘形の細胞要素から成る場合,即ち悪性黒色腫の所謂
車状型では,試みに過マンガン酸加里でメラユンを脱色
した標本の所見は原発巣,輔移巣とも線維肉腫に類似の
昭和35年12月20日
1239
第21図 Paraganglioma の組織像.小血管を
取囲む様に腫瘍細胞が配列してトる.
第22図 症例3.大脳に於ける転移.
ものを呈するか,悪性化しかSchwann神経鞘腫も亦
これと極めて類似の像を呈すると云われる.斯種車状型
looseであることを木腫瘍が早期に帽移を起し易い理由
の本腫瘍では嗜銀綿維染色所見として紡錘形細胞の増殖
に事げている.
野中には嗜銀線維が豊富に出現するが,同じことは線維
次にCouperus等1町次本腫瘍141例の原発巣に症例
肉腫に於いて乱叉Schwann祁経鞘腫に於いても見
の89%に軍核巨細胞の存在を認め,木腫瘍診断の1標識
られる右のである.この車状型に於ても,帽移巣では腫
としているが,著者令第3例の原発巣に多核及び羅核
瘍細胞は内形乃至球形と同様,血管と密接な関係を屡々
の巨細胞を認めた(第13圖).木腫瘍の軸移巣では原発
示す.
集まりも anaplasiaが著明に現われるといわれている
扨てHorstadius'"'に感性は悪性黒色腫に於いて考え
か,第1,
られている神経櫛性起源,それと同様に発生学的,実瞼
於て多核及び羅核の巨細胞に遭遇した.
発生学的に神経櫛に起源するとさ札るものに,脊隨神経
の巨細胞は直径200∼230μ,通常の黒色腫細胞の10倍
節,交感御経節,副腎髄質,
に当る.所謂juvenile
chromaffine
system, pa-
2 C第7圖),8例の何れに於いても柿移巣に
melanoma
Couperusはこ
にも軍核巨細胞を見
raganglion, Schwann御経鞘,脳膜(軟脳膜,硬脳膜
るが,それは悪性黒色腫の軍核巨細胞よりも小さく,悪
リ)があるが,前記pheochromocytoma,
性黒色腫のもの!ゝ示すようなbizarreな形の核を有せ
paragangふ
oma,悪性Schwann神経鞘腫は即ちこれ等の或るもの
ず,叉空胞化は之を欠くか,極めて軽微としている.こ
から生ずるもので,それと上に記したように類似の血管
の種巨細胞は脂肪肉腫,紳経肉腫即ち sympathoblas
周皮腫様構造を悪性黒色腫部示すことは,水腫瘍乃至
oma, pheochromocytoma等にも出現すごといわれて
melanocyteの神経櫛起源説に照庖して甚だ興昧あり
いる15)
と云わねばならない.
著者等はLaidlaw-Blackberg法16)に捷ってドーパ反
Ackerman'"も亦悪性黒色腫部
ganglioneuromaに類似の組織像を示すことのあるの
感を実施したか,本腫瘍のドーパ反感色調には漆黒のも
を指摘しているか,著者等の第3例,殊にその脳に於け
のから淡墨色のものまであらゆる段階かおり,一般に
る絢移巣の所見に於いて,これと同様の印象を受けた
腫瘍周逼の表皮melanocyteはdopa強陽性amela-
(第22圖).
noticの悪性黒色腫でも陽性といわれる.著者等の第3
Rawleが≒よmelanocyte 発生に関する実験的研究
例の原発巣は,陽性細胞は所々に集族するが,腫瘍組織
に於いて,メラエン形成細胞には表皮基底層,脳膜,血
全体としては,陽性細胞の数は少なかった.叉第4例で
管壁等隣接組織との境界面に集まる傾向あることを記載
は腫瘍細胞の多数か陽性を示したが,色調は種々で,周
しているが,著者等の第1例(第3圖),第4例(第16圖),
逞部に同反感は最も強く,中心部に赴くに伴れて淡弱で
時に第2,第3例に於いて腫瘍細胞が血管壁を取囲か像
あった.第2例では表皮に近い黒色の腫瘍は多くか陽性
に遭遇した.
を示し,殊に腫瘍細胞の周逞部は強陽性を示したのに反
Miescher"-' Iよ悪性黒色腫細胞には血管壁
を取囲み易い性質のあること,及び細胞各個の連絡か
し,皮下のamelanoticの抑移巣には明瞭に陽性の細胞
日本皮膚科学会雑誌 第70巷 第12号
1240
は僅少に止まった.
これを要するに,ドーパ反鷹は腫瘍周逼部に於いては
陽性度高く,中心部は必ずしも陽性を示さず,即ち陽性
細胞は量的にそれ程多くなく,叉その色調も淡弱,皮下
物移巣では明かに陽性といえない細胞もあった.即ち
dopa反感は木腫瘍に於いて腫瘍組織全体として乱 又
個々腫瘍細胞としても陽性度が常に高いとはいえないよ
うである.
著者等はチロジナー七反鷹をFitzpatrick法17)に捷
って第2,第4例に行ったか,黒色を呈する腫瘍組織で
はその判定は殆ど不可能で,たぐ第2例の表皮に近い黒
色の腫瘍は,メラエンの含量少く,肉眼的に木反鷹陽性
と判定し得,穎徴鏡的にも腫瘍細胞は凡て原形質がカー
キ色を示し,対照とは穎著な差異が認められた.皮下の
amelanoticな物移巣は肉眼的に明かに陽性と判定され
たが,穎徴鏡的には原形質か明瞭にカーキ色を示して,
陽性と判定される細胞は少数に過ぎなかった(第8圖).
第23図 症例2.淋巴腺転移巣に密に出現せる
嗜銀線維.
但しこれにMassonの染色18)を附加すると,銀を搦取
して淡黒色を呈する細胞が多く見出された.
木反鷹はamelanoticの悪性黒色腫の診断には極めて
有用で,特にFitzpatrick及び久木田19)の放射性チロ
ジンを使用した反鷹は黒色腫の診断に有力と思われる.
著者等は嗜銀線維の嶮索にPap変法を行った.本綿
維の所見には,色素性母斑に就ては饒にMasson2o),伊
藤町骨間21)大串22)最近には谷口23)の,悪性黒色腫
に就ては関根24)谷口23)の記載かおる.嗜銀線維は細胞
原形質に由来するか,細胞外に形成されるかには今日尚
お議論があるが,茲では軍に著者等自身の所見とそれに
基く見解を述べるに止めたい.
著者等の症例で腫瘍細胞間に比較的密に嗜銀線維の出
現を認めたか,原発巣,腺幅移,叉内臓諸器官の轜移巣
には線維密度の程度に差異あり,例えば第2例の皮膚幅
移巣では該線維は極めて密に出現し,略々各細胞間に認
められるか(第9圖),一方腺輔移では同一標木内にもそ
の極めて密に出現する部分と著しく稀疎底部分とかあっ
た(第23,
第2j図 第22図と同一標本.嗜銀線維の出現の
極めて粗なる部分.
24圖).一般に腫瘍組織内に認められる血管及
び膠原線維に近接している嗜銀線維は比較的密に出現す
が認められ,関根,谷口の所見に一致した(第14圖).第
るように思われ,且つ嗜銀線維が膠原線維に連絡する所
4例は悪性黒色腫の比較的初期像を具えたもので,黒色
があった.
腫細胞の所謂真皮内への滴下Abtropfungが認められ
第1例の原発巣は円形或は多角形の腫瘍細胞から成る
たか,表皮真皮境界の腫瘍細胞の集団及び之と表皮練細
が,嗜銀線維に就てはその著しく緻密な個所と,著しく
胞層との間には嗜銀線維認められず,轜移巣をも含めて
稀疎な個所とかあったのに反し,第8例の主として東状
既に真皮皮下組織内の腫瘍細胞増殖には該線維が存在し
型黒色腫では全体として腫瘍細胞間に極めて密な該線維
た(第18圖).
昭和35年12月20日
1241
これをinduzierte
以上の諸点から見る時は,悪性黒色腫は嗜銀線維の出
Pigmentnaevi
と呼んでいる.
著者等の第2例では原発巣と思われる左側頭p黒色の
現を促進する傾向は確かにあるとして,本腫瘍細胞自身
が該線維を形成するかどうかに就ては尚お慎重を要す
腫瘍は約5年前に生じ,これを切除された後に全身に皮
る.
下輔移を汎発したが,これと別に左上諒内側,左肩,左
皮膚の悪性黒色腫は今日のところ,表皮基底層乃至表
乳嘴外側,右膝蓋の下内方に各々黒色,半米粒大の腫瘍
皮真皮境界に存在するmelanocyteの腫瘍細胞化によ
が発生した.その発生時期は不明であるが,相当に前か
り生ずると考えられており,即ちTraub及びKeil,
ら存在して居り,入院後,その周囲に紅彙を呈するに至
Becker, Allen等その見解であったが,然して木腫瘍の
った.これ等をすべて切除し,連続切片を嶮索し次=が,
皮膚韓移は乳頭層,乳頭下層及び皮下組織に生ずること
4個の腫瘍は何れも真皮上層に位置し,腫瘍組織内に毛
が多く,腫瘍組織が表皮に接触することはあっても,原
嚢,汗管及び起毛筋が包埋されている.このうち左肩.
発腫瘍に於けるとは異なり,その表皮を破壊して,これ
及び右乳嘴外側め腫瘍では毛嚢表皮から腫瘍組織への移
に侵入することぱなく,表皮と腫瘍組織の間に正常の膠
行を証明したか(第10圖),爾余の2個ではかゝる所見か
原線維の一帯を残すと云われている.即ち本腫瘍の皮膚
なかった.後の2個は韓移性としても,前の2個は上記
特移では,腫瘍組織か表皮に接触,存在する場合でも表
の所見から自所性発生のものとしか考えられず.即ちこ
皮真皮境界に所謂junctional
(Darier-S6gr6-
れは悪性黒色腫の多中心性発生の1事例をなすと考えら
Miescher-Au-
れる.一般に悪性表皮性腫瘍の多中心性発生,或は多発
change
gation, Kaufmann-Wolf-Dissoziation,
Dawson-detachment,
原発性はロイコプラキー,枇素角化症,放射線皮膚炎に
individualization, Couperus・Dysjunction)は認められ
生ずるものに就て認められているが,悪性黒色腫にも少
flOsung,
Gans-Acantholyse,
ず,このことが従って皮膚悪性黒色腫の原発性,輯移
数乍らこれに該当するもの引己載にPack他26),Anen2),
性の組織学的判定基準となるといわれる(Miescher*',
Herzberg25)の夫れがある.即ちPack等は,
Aneが',
C ouperus"').
例のうち16例.
にもかゝるjunctional
Nicolauは皮膚仰移性の木腫瘍
但しPack等の報告をYear
changeが認められたとするに
対し, Miescherはそれは原発性,多発性悪性黒色腫な
Sulzberger"'等は,
ちんと云い,
ものとして居る.
Darier 亀同様の見解である4).木腫瘍の
原発性,韓移性は究極のところでは組織学的に決せられ
BOokに紹介するに当って
Pack等の説に対して疑義を懐く
Allenは本腫瘍837例中12例,8.6%
に多中心性発生を認め,最も多いものでは7個を数えた
るものではあるが,それとともに臨床所見,及び経過を
としており√%
嶮討することが必要である.
黒色腫が発生したと解鐸される1例の報告がある.
著者等の第4例には右足紋の母腫瘍から約1cm離れて
斯種多中心性発生は固より稀有に腸するとはいえ,重
小豆及び米粒大の黒色斑2個あり,うち1個は銑にその
要な知見としてよいだろう.
表面軽く灘爛し,組織学に母腫瘍と同様悪性黒色腫の像
著者等の第2,第8例では死後剖検に依って内臓諸器
を証明したが(第19圖),他の1個では表皮基底層乃至表
官に極めて廣汎な,血行性特移が認められた.第1表參
皮真皮境界に樹枝状細胞が増殖してjunctional
照.
change
を示し.且つ之に接する真皮に小円形細胞浸潤が認めら
れ,この1個は所謂metenotische
Pr§cancerose
Herzbergに皮膚と脳膜に別個に悪性
今日,悪性黒色腫のメラユンの含有度とその悪性度,
に
腫瘍細胞の形態とその悪性度とか一定の関係にあること
該当する(第20圖).然してこの2個の黒色斑と母腫瘍と
は略々否定されているが,著者等の第2,第お例の剖嶮
の間の表皮は全く正常で,この2個と母腫瘍との間に何
所見でも,腫瘍細胞の形態と韓移度との間には特別の関
等の連続性変化も存在しない.従ってこの2個の黒色斑
係はない様に思われる.即ち第2例は円形乃至多角形の
は母腫瘍からの輯移に依って生じたものでぱなく,全く
細胞から成り,この場合輔移の殆どがamelanoticであ
自所性に発生したものと思われる.従来悪性黒色腫に近
った.又第8例は主として紡錘形乃至樹枝状の細胞から
接して韓移性に小腫瘍の生ずることありといわれている
成り,且つmelanoticであったが,輔移築には両様の
が,この著者等の所見を以ってすれば,斯の如きものを
細胞が認められた.細網系腫瘍は別とし,上皮性悪性腫
常に絢移性とは必ずしも云えない.
瘍では輔移の稀とされる牌臓に迄,雨側とも輔移を証明
Herzberg"'は悪性
黒色腫の周逞に色素性母斑の発生した2例を観察して,
1.280
1.28%に多中心性発生を認めている.
したことは,本腫瘍の悪性度を物語るものとして注目に
日本皮膚科学会雑誌 第70巷 第12号
1242
値しよう.
vityと真皮病変との組合せから成り,その構築概ね悪性
悪性黒色腫の診断乃至鑑別診断は,本腫瘍が極めて悪
黒色腫に一致するも,その半数に於いて草核或は多核,
性度の高いものであるところから重要であるか,皮膚悪
塩基好性原形質を有する特異の巨細胞が出現するとい
性黒色腫では色素性母斑及び後述するその類症及び色素
う.そしてメラエンに乏しく,表皮下の浮腫及び血管
性基底細胞腫との鑑別か最も問題になろう.
蔡張の謂臨床的に褐色より屯寧ろ紅色を呈するといわれ
このうち色素性母斑とは,本腫瘍では臨床上色素斑の
る.最近Duperrat3o)は40例のjuvenile melanoma・.
著しく増大すること.その部分に出血し,又炎症性紅量
の経験から,その臨床症状に種々なるものあり,之を①
を有する点で略々鑑別出来ようが,組織学的には所謂
扁平で,淡紅,軟かい腫瘍(毛嚢炎,狼借結節,毛嚢嚢
junctiona! nevus. 更に類似の組織像を示すものとして
腫,血管腫,黄色腫との鑑別か問題になる)②①より硬
所謂, lentigo maligna及びjuvenile
い型(線維腫,組織球腫と紛らわしい),③褐色より黒色
melanomaとの
区別か問題になる.
に至る種々の色調を示す型,④円錐型を示し,多発する
Becker"は臨床的に悪性黒色腫と診断された症例の
型,の4型に分けている.
169標本を愉索して,その43%を組織学的に悪性黒色腫
AIlen2)は本症は思春期後真皮母型に変ずる場合と,
と診断,逆に組織学的に水症と診断されたもの151例中
悪性黒色腫に韓ずる場合とあり,悪性黒色腫の862樟索
の48%は臨床的にも本症たり,余は色素性母斑或はその
例のうち21例即ち5.9%はこれから翰化したものである
化に疾患と考えられるとした.水症と色素性母斑殊に
junctional nevus
とは本症の有するiunctional
という.叉本症の約2/姐組織学的に之を悪性色腫と鑑別
chan-
し得るとしているが,総ての場合に可能とは限らないと
ge以外に細胞のAtypie,真皮及び表皮層内への腫瘍
いうことを彼等も認めている.
細胞の侵入像,真皮に於ける主として小円形細胞,形
悪性黒色腫のうち,
質細胞等よりなる炎症性細胞浸潤等が鑑別の根攘となる
ではPaget病,分化度の低い鯨細胞癌,肉腫などが問
CMiescher",
題になるが,この際チロジナー七反感が最も有力な鑑別’
Allen^', Becker"', Couperus'"", Acker-
man"')- Hutchinsonの所謂melanotic
freckles^"は
amelanoticなものとの鑑別診断‘
の手段となることはFitzpatrick'"の記す如くである.
Becker"'によれば組織学的には軍純なlentigo.色素性
上記の各疾患の臨床上の特徴に就ては省略する.
基底細胞腫cm,
悪性黒色腫治療は今日外科的治療,放射線療法及びホ
lentigo malignaの3つに分類される
が,このうち最後の所謂lentigo
malignaが悪性黒色
腫の前駆症とされる.即ちobligative
or malignant
malin des
premalignant
lesionで,これはDubreuilhのIentigo
科的治療,即ち腫瘍を含めての廣汎な組織の剔除と淋巴
腺の廓清を以て第1とされている.併し乍ら腫瘍と所属
viellards, tn^lanose circonscripte pr6c
anc^reuse, Miescherの所謂melanotische
ルモン療法をも含む化学療法に大別されるが,大勢は外
Praecan'
淋巴腺を連続的に剔除するか或は腫瘍の剔除と所属淋巴
腺廓清を同時に施行するかに就てぱ各人各説の観がある
cerose'"と同義である.このものは通常中年以後に,
(Pack他,
顔,手背に多く生じ,通常の色素性母斑よりも大きく,
Mieseher13)により代表される放射線治療は米國に
且つ色素斑か進行性に増大し,或は退縮するのを特徴と
於いては取上げられず,
するといわれる.このものは組織学的に表皮の着色と
gmの悪性黒色腫は放射線感受性に乏しいとしているが,
Segregationとを呈し,境界母斑の一般と異って表皮
Miescher,
下に小円形細胞浸潤が存在,且つ其処に多数クロマトフ
接照射は外科的治療に劣らず,殊に所謂lentigo
オーレyが見られる.そして之等の臨床的,組織学的所
gnaに於いて良効ありと述べている.ドイッ語諸國に
見から良性の境界母斑と区別すべきである.
於ける悪性黒色腫の治療に関する見解の皮膚科及び放射‘
Miescher
は悪性黒色腫の約1/八ま本症より出発したとい\,
Sch-
^"Ackerman"',
Herzberg^")-
Ackermanは本来neural
Herzberg等は必アしも然らず,
oル。
Chaoul近
maト
線科医対外科医の対立の詳細はMiescherに譲るか,米
eurmannは木症の3/4が悪性黒色腫に移行したと記して
國に於ける色素細胞母斑の治療法に関する皮膚科医対外
いる(Herzberg"').
科医及び腫瘍学者の対立(Becker3勺と共に,経験と
扨てSpitz29),AIlen2)の所謂juvenile
melanomaは
悪性黒色腫と極めて類似の組織像を呈するが,このもの
は通常思春期前に生じ,組織学的にはjunctional
立場とを異にするものの意見か如何に異るかというこど
かよく現れていて面白い.
acti-
何れの治療に従うも,悪性黒色腫の治療及び予後の好
1243
¶昭和35年12月20日
剌にとって最も重要なことはその早期発見,早期治療に
602 (1948).
あることは,
12) Rawls, M.E.: Physiol. Rev., 28, 383(1948)
;Pigment Cell Growth,
1953, Acad. Pre-
Pack等,
Miescher,
Ackerman,
Allen,
Heizberg等の統計から明かであり,この点に最も留意
ss. Inc., New York, p. 1.
13) Miescher, G.: Arch.
f. Dermat.
すべきと思う.
ホルモン療法を合む化学療法はもとより将来の研究に
属するとはいえ,一般に思春期以前の悪性黒色腫は比較
的良性で,韓移を示すこと少く,又一方妊娠を契機とし
て本症か急速な進展を示す事例等から考えて,その希望
は捨て難い.また放射性チロシン(C1‘)が黒色腫組織
に特に選拝的に沈着するとなす報告もあるが,チロジン
がメラ=ン以外の組織成分に合成される可能性を考える
時,放射性チロジンの治療的悪用に関しても問題は将来
に属する.
以上著者等の最近経験した4例の悪性黒色腫を報告
ぐ1955).
14) Couperus,
M.
Arch. Dermat.
& Rucker, R.C.: A.M.A.
70, 199 (1954).
15)緒方知三郎,三田村篤志郎,緒方富雄:病理学
誌論,東京,南山堂,昭18.下巻,
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H.: A.M.A.
1)太田正雄:日皮会誌, 47, 376,昭15.
2) Allen, A.C.: A.M.A.
Arch. Dermat.
150 (1954)
gic
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Treatise,
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J.
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20) Masson, P.: Cancer, 4, 9 (1951).
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(1952).
18) Lillie,R.D.: Histopathologic
19) Fitzpatrick, T.B. &
文 献
100頁.
S. N.:Am.
Path. 8, 491 (1952).
17) Becker, S.W・, Fitzpatrick, T.B. & Montgo-'
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Co., New York, p. 164.
し,併せて本腫瘍一般に就て述べた.
200, 215
Co., St.
1927, 1/
2!)菅間文六:日皮会誌,
60, 8,昭25.
22)大串良士:久留米医会誌,
12, 231,昭24.
23)谷口馨丿
24)関根重治:癌, 37, 147,昭18.
25) Herzberg, JJ.: Arch.
klin. exp. Derm.
1. S. 434.
203, 142 (1956).
4) Miescher, G.: Virchows
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(1927) ; Jadassohns Handbuch,
1933,χ1/3
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5) Ormsby。O.S.
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6)伊藤実,吉田良夫い
京,金原出版, "Wl, 237頁.
7) Traub, E.F. & Keil, H.: A.
27) Sulzberger, M.B.: Yearbook
28) Hutchinson,
of Dermato-
1953/54,
J.: Arch. Surg. 2, 218 (1890/
910 ).
29) Spitz, S.: Am. J. Path. 24,
M. A. Arch.
Dermat. 41, 214 (1940).
30) Duperrat:
Yearbook
Zbl. f. Haut-und
591 (1948).
Geschl. krht・
8) Becker, S-W.: Ibid. 69, 11 (1954).
9)所安夫:脳と神経,
7,1,昭30 ; 臨床病理,3,
104, 256 (1959).
31) Pack, G. T・, Gerber, & Scharnagel, I.M.:
Pigment
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214,昭30;4,92,昭31.
Inc., New
10) H3rstadius, S.: The Neural
Oxford uni▽.Press.
11)
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L.V.: Am.
Crest, 1950,
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32) Becker, s.w.: A.M.A.
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44 (1949).
(昭和35年2月3日受付)
60,