仙台市立人来田中学校 平 成 18年 11月 21日 (火 ) 「表現力・思考力」の向上を目指した指導方法の工夫改善 1 主題設定の理由 (1) 今日的課題から 国際的な学力調査の結果や近年の教育問題に目を向けたとき,生徒の学力の低下,学ぶ 意欲の低下が日本の教育の今日的課題となっている現状がある。その要因としては読解力 を中心とした国語力,計算力,科学的な考え方などの低下や家庭学習の不足などを挙げる ことができる。 そのため,学習指導要領では思考力,表現力,問題解決能力など様々な学力の側面を包 含した「生きる力」の育成を目指しており,生徒に複雑で多様な社会変化に対応し,自ら の能力を伸ばすことに必要な素養,活力を身に付けさせることをねらいとしている。 (2) 生徒の実態から 本校は1学年56名,2学年71名,3学年63名,合計190名(各学年2クラス)であり 生徒数は減少傾向にある。全体としては素朴で明るく,物事にあまりこだわらない生徒が多 く,また親しみやすい。さらに人数が少ないせいか,友人関係・人間関係も良好で,クラ ス・部活をはじめ学校全体が家庭的で対人関係のトラブルなども比較的少ない。平成17 年度の学習状況調査の結果から見ると,自主的な家庭学習の状況では「全くしない~1時 間以下」が全生徒の50%を超え,また,学習に対する意欲もさほど高いとは言えない結 果であった。得点分布を見ると成績中位者から下が多く,中位から上位が少ない傾向にあ る。 分野別の正答率を見ると本校生徒の実態は全国的傾向と共通する部分が多い。数学の文 章題や証明問題,英語の英作文,理科や社会科での調べ学習などで「表現力」「思考力」 の低下が顕著であった。 (3) 過去の研究との関連から 「学力向上フンロンティア」事業で取り組んだ数学科における習熟度3分割の少人数指 導や,英語科における ALT を含めた3人体制の TT による指導などで「個に応じた指導」 を生かし,「表現力」の向上を図ってきた。その成果の上に立ち,平成 17・18 年度はさら に「思考力」向上のための指導方法の工夫改善に取り組むことにした。各教科の「表現力 ・思考力」の位置付けを図った年間計画の見直し,指導方法の工夫改善を図ることにより 「表現力・思考力」の向上を目指していきたい。 2 本 校 がとらえる「確 かな学 力 」とは 基礎・基本を高めるために焦点化した「表現力・思考力」を,以下のとおり考えた。 ◆「表現力」とは 学 習 課 題 に 対 し て 思 考・判 断・理 解 し た 事 柄 を ま と め 整 理 し ,他 者 ま た は 自 己 に 対して様々な形で働きかけを行う力 ◆「思考力」とは 学 習 で 習 得 し た 知 識・技 能 を 様 々 な 学 習 事 項 に お い て 相 互 に 関 連 づ け た り ,新 たな関係を見つけ出したりする力 <研究の構想図> 判断力 課題発 問題解 見能力 決能力 基礎・ 学び方 学ぶ意欲 基本 確かな学力 知識・ 思考力 技能 表現力 生きる力 豊かな人間 焦点化 健康・体力 本校教育目標「自主・友愛・健康」 それぞれに関連しながら 知・徳・体の調和を図り,心身ともに健 基礎・基本を高めていく。 各教科 康で人間性豊かな生徒の育成に努める。 <各教科における表現力・思考力> 教 各教科の表現力のとらえ方 各教科の思考力のとらえ方 科 高めたい表現力 高めたい思考力 ・論理構成や展開を考え,説得力のある話し ・自分のものの見方や考え方を広めたり,深 国 語 方ができる力 めたりする力 ・構成や論理の展開を工夫し,説得力のある ・広い範囲から課題を見つけ,材料を集め, 文章を書く力 自分のものの見方や考え方を深める力 ・文字を目的や必要に応じ,調和よく,速く ・人間,社会,自然などについて考え,自分 書く力 の意見をもつ力 ・統計や新聞,映像などの社会的事象に関す ・社会的事象に関心をもち,追究したい学習 る様々な資料を収集し,有用な情報を適切 課題を設定する力 社 に選択し,考察した過程や結果を図表化し ・追究の結果を根拠付け図式化するなど,分 会 たり報告書などにまとめたりすることがで きる力 ・収集した資料を活用して発表や討議ができ かりやすい表現を工夫する力 ・学習課題の追究を通して,社会的事象の意 味や相互の関連などを考察する力 る力 ・自分の考えと他者の問題解決の手だてを比 較し,自分の考えを深め,再構築できる力 ・文章・図・表・グラフ・式・具体的なモデ ・自分の思考過程を見つめ振り返る力 数 ルを使って,多様な表現・表記ができる力 ・既習事項を関連付けるなど,帰納的・演繹 学 ・数学的根拠に基づいて,考えの伝達や討議 などの交流ができる力 的に考える力 ・他者との交流を通して,考えを検討する力 ・現象,事象について疑問や問題を見いだし,・実験や観察から結果をまとめ,一般化でき 理 科 自分の考えをまとめ発表する力 る力 ・法則や規則性を理解し,現象を説明する力 ・法則や規則性を理解し,現象を説明できる ・現象,事象を観察したり,測定したりした 力 結果を,図表化,記号化,数式化できる力 ・科学的な考え方,論理的な考え方ができ, 正しい推論ができる力 ・自分の考えや気持ちを,既習の言語材料を ・内容を正確に読み取り,そこから自分の考 用いていろいろな工夫をしながら伝える力 英 えをまとめる力 ・日本の文化と他国の文化の相違を理解して, 考えを広げたり深めたりする力 語 ・自分の意見や感情をどのように伝えたら良 いか,話の展開や文章の構成について考え を深める力 ・作曲者の考えや意図,心情などを歌唱や楽 ・楽曲・歌詞の内容・イメージや特徴を考え 音 器の演奏などを通して的確に表す力 ・自分の考えや心情を演奏を通して表す力 楽 ・楽曲のイメージや内容,作者,特徴などを る力 ・表現したいイメージや曲想をもち,様々な 音素材を用いた表現を創造する力 説明する力 ・表したい事柄を描画や造形を通して的確に ・作品を制作する上で,作業の見通しを立て 美 術 表す力 る力 ・絵画や彫刻,版画などの美術作品を鑑賞し,・作品の発想を実際に構成する力 作品について感じたことや作品の内容,特 ・他の作品から学んだ技法を分析し,作品に 徴,作者などを正しく説明または解説する 力 新たに応用する力 ・表現方法を創意工夫する力 ・自分の身体を媒体に,表したい運動を自分 ・自己の能力に適した課題の解決を目指して, 保 のできる動きで表現する力 ・自分の運動に対し,合理的かつ効率的に向 体 練習の仕方や競技の仕方を工夫することが できる力 上させるために必要な事柄を考え,判断し,・自分の健康・安全に関する理解を通し,自 正しく説明する力 らの健康を適切に管理し,改善していく力 ・情報処理に関する様々な機器の機能を用い ・事象や経過,法則,意味,内容を正しく認 て情報をまとめたり,活用したり,発信し 識する力 たりする力 ・自己の考えや判断を整理し,簡潔明瞭にま とめる力 技 ・生活をより機能的にするための工夫を,も ・一般的な事象や現象・事柄を基に,普遍的 のづくりを通して考え,作品として表す力 術 な原理・法則などを演繹的に導いたり,類 推したりする力 ・家庭生活と衣食住における様々な状況や作 ・合理的な作業の方法や手順をまとめること 業,要件などについて,合理的かつ適切な 家 対処の仕方を説明する力 庭 ・自分のイメージする家庭生活を実習や製作 を通して作品の中に表す力 のできる力 ・環境の保全や環境問題の改善について,地 域や家庭の果たす役割について考え,より よい実践の方法を導き出す力 3 研究の基本的な考え方 (1) 各教科での学習活動の中に,表現方法について考える学習と発表の場を積極的に取り入 れることにより,「表現力」を高める。 (2) 各教科でノート作成の工夫や学習課題の工夫を行うことにより,生徒の学習活動におけ る「思考力」を高める。 (3) 少人数などの「個に応じた」指導方法・指導体制の工夫改善や,ワークシートなどの教 材・教具の開発とその提示方法や取り組ませ方を工夫改善することにより,「確かな学 力」を向上させる。 4 研 究 目 標 ○ 学力向上フロンティア事業で行ってきた「表現力」向上に加え,「思考力」の向上を 目指した指導方法の工夫改善を探る。 <表現力向上の手だて> ① 学習活動において,読む活動や書く活動を積極的に取り入れる。 ② 発表の場面をより多く設定する。 ③ 適切な表現方法の提示と意欲を高める工夫を行う。 <思考力向上の手だて> ① 学習課題の解決にあたり,生徒の「思考」の場を意識した授業展開を行う。 ② 学習課題に対して作業や観察などを取り入れることにより,実体験からの「思考力」 向上の場面を作る。 ③ ポートフォリオやノート,ワークシートから個々の生徒の考えの流れやつまずきをつ かみ,適切な指示を行うことにより「思考力」の向上を図る。 <「表現力・思考力」向上に向けたその他の取組> ① 「表現力・思考力」を位置づけた年間指導計画の見直しを行う。 ② 学習ガイダンスや教育相談をより有効に活用し,総合的,構造的に教育活動,評 価活動を推進する。 5 目指す生徒の姿 前項で示した各教科でとらえる高めたい表現力及び思考力を身に付けている 生徒を,具体的な目指す生徒の姿と押さえる。 6 研究内容 (1) 平成17年度の取組 平成17年度の取組 NRTの実施・分析 取 組 内 容 各教科における問題点を見つけ出し,指導法の工 夫改善に生かした。 「表現力・思考力」の定義 各教科における「 表 現 力 ・ 思 考 力 」 を 定義付 けた。 「表現力・思考力」を位置づ けた年間指導計画の作成 各教科において,「 表 現 力 ・ 思 考 力 」向上のた めの指導項目を位置づけた年間指導計画を作成し た。 「表現力・思考力」の向上の 各教科における「 表 現 力 ・ 思 考 力 」を向上させ 手だての工夫 るための指導方法を工夫した。 校内研修会 8/19 「思考力に関しての講演」 校内研修会 講演「学習における思考力」 宮城教育大学 平 真木夫 助教授 ・有意味化学習における記憶の定着化について 校内授業研究 11/18 保健体育科 (2) 研究授業 授業内容の詳細は「7公開授業一覧」参照 平成18年度の取組 平成18年度の取組 NRTの実施・分析 取 組 内 容 各教科における問題点を見つけ出し,指導法の工 夫改善を図った。 「表現力・思考力」の定義の 見直し 前年度に行った各教科における「 表 現 力 ・ 思 考 力 」 の定義付けについて修正を行った。 「表現力・思考力」を位置づ 教科書改訂に伴い年間指導計画の修正を行った。 けた年間指導計画の修正 「表現力・思考力」の向上の 前年度の各教科における「 表 現 力 ・思 考 力 」を 手だての工夫の見直し 向上させるための指導方法の工夫点を改善した。 学力向上推進協力校研究会 9/25 授業研究 美術科 公開研究会 数学科・英語科 学力向上推進研究会 授業内容の詳細は「7公開授業一覧」参照 11/21 学力向上推進協力校公開研究会 授業内容の詳細は「7公開授業一覧」参照 (3) 各教科の取組と成果 教 教科の取組・手だて 科 ○弁論の発表を設定する。 国 ○パンフレット作りを行う。 語 成果・生徒の変容 ○発表することへの抵抗感が軽減され た。 ○個々が積極的に自己を表現できるよう になった。 ○自分の考えを理論的に表現させる。 ・課題学習のレポート,ポスター,プ 社 会 レゼンの作成 ○自分の考えを深め,再構築させる。 ・ノート作りを通し,疑問や考えをす ぐにまとめることができるようにす ○テーマを設けて指導した結果,課題を 深く掘り下げてまとめることができ た。 ○作品展示の工夫により,次回課題に対 して新たなアイディアを出し,創意工 夫することができるようになった。 る。 ○ノートや自己評価を通して「書く」力 ○分かりやすく整理したノート作りがで 数 を付けさせる。 きるようになった。 学 ○グループ学習や相互学習を通して「コ ○筋道を立てて意見を言うことができる ミュニケーション」力をつけさせる。 ようになった。 ○「予想→検証」の徹底化により論理的 ○ワークシートを工夫し,学習のサイク 理 科 な考え方を身に付けさせる。 ○グループ討議の実践から発表・ディス ルを確立させることができるようにな った。 カッションを行い,表現力を向上させ ○積極的に意見交換することできるよう る。 ○スピーキングテストを行う。 ・モデルの答えを用意し,それを練習 になった。(表現力の向上) ○英語に対する抵抗感が減少し,コミュ ニケーション能力が高まった。 させることで日常会話を身に付けさ ○英語における表現方法の幅が広がっ せる。 ・ALTの前で発表する前に,事前に友 達と練習する機会を設けることでコ 英 ミュニケーション能力を高める。 語 ○英語日記を取り入れる。 ・自分の気持ちや考えを英語で表現す る場を設定する。 ・ALTに協力してもらい,表現の良か ったところを褒め,改善点を提示す ることによって表現の幅を広げる。 た。 ○曲の題名を告げずに楽曲を聴かせてイ ○ワークシートを工夫し,取り組みやす メージさせ,固定概念に縛られない自 音 由な発想を引き出す。 くした結果,発想の幅が広がった。 ○楽曲の成り立ちについて,理由付けを 楽 ○楽曲にふさわしいと思われる題名を自 分で付けさせ,個々の個性を発揮させ 含めて考えることができるようになっ た。 る。 ○課題に対して構想・作業計画の時間を ○作品の構想に対して具体的なビジョン 美 確保し,表現への意識を高める。 を持つことができるようになった。 術 ○作業記録表,ノート作りを工夫する。 ○適切な作業計画が立てられるようにな り,作業効率が上がった。 ○ワークシートを工夫する。 ○ワークシートにより自己の状況を正し 保 ○自己評価カードを取り入れる。 く認識し,課題を見つけ出すことがで 健 ○グループ学習を設定する。 きるようになった。 体 ○M-T-Mメソッドを取り入れる。 育 ○グループ学習により,自分では気付か なかった欠点に気付き,取り組むこと ができるようになった。 ・制作や実習の構想を立て,目的,内容 ○作業工程表を作成し,活用することで, 技 に適した材料,器具,手順などをまと 自分の作品に対する構想がしっかり立 術 めるための作業工程表を作成する。 てられるようになった。 ・ ・技術や衣食住に関する情報を,グロー ○発表の場を多く設定することで,自分 家 バルな視点で収集しレポートを作成さ の考えを他者に分かりやすく説明する 庭 せる。 ことができるようになった。(表現力 の向上) 7 公開授業一覧 研究授業一覧 1 11/18 研究授業 工夫点など ・グループ学習を取り入れることによっ 7 授業者 千田 年 指導学級 1年2組 度 題材名「バスケットボール」 健二教諭 1 9/25 学力向上推進研究会 て,プレイ上の問題点を明確にし,改善 のための方策を話し合わせて練習に取 り入れる。 ・印稿を作るための文字の配列やバランス 8 授業者 栁橋 年 指導学級 3年1組 度 題材名「篆刻をつくる」 直毅教諭 学 11/21 学力向上推進協力校公開研究会 の重要性を明確にし,空白を少なくさせ るための工夫を考え,実践させる。 ・同一課題に対して課題解決のプロセスを 力 数学科授業者 渋谷由美子教諭(基礎) コース別に変えて取り組み,学習の深化 向 門脇美智子教諭(応用) を図る。 上 小野寺通浩教諭(発展) 推 指導学級 2年1組 進 指導単元 「平行と合同」 協 指導形態 少人数(習熟度別) 力 11/21 学力向上推進協力校公開研究会 ・表現活動に消極的な生徒やつまずきのあ 校 英語科授業者 JTE1 河東田志織教諭 る生徒への個別のアプローチを,授業の 公 JTE2 後藤亜津子教諭 中で行う。 開 ALT Jacqueline Teti 研 指導学級 1年2組 究 指導単元 会 指導形態 「Unit6グリーン家の人々」 T・T 8 研究の成果と今後の課題 (1) 研究の成果 ① 各教科において発表する機会を増やすことにより,生徒が表現の大切さに気付くよう になった。それにより表現方法や場に応じた表現を工夫しようとする姿勢が以前より見 られるようになった。 ② 各教科とも学習課題について様々な方法で解決を図ろうとする姿勢が,以前よりも多 く見られるようになってきた。 ③ 各教科ともにメモやノート作りの大切さに気付き,自分の考えをまとめ整理すること から問題解決を図ることができるようになった。 (2) 今後の課題 ① 各教科における「表現力・思考力」のとらえ方を,各教科の思考・判断等の観点に相 当する趣旨からのさらなる吟味が必要である。 ② 「表現力」の実態を把握することは難しいが,表現意欲に関する実態調査(例えば, 社会科の時間に,自分の考えや調べたことを発表するのは楽しいですか。等)を各教科 ごとに調査する必要がある。 ③ 「思考力」を育成するためには,思考の場を設定するだけでなく,主体的に目標を追 究したり,問題を解決していく活動の具体的な指導について研究を深めたい。 ④ 「表現力・思考力」を育成するための今年度の手だてを基盤に,教科独自の視点をも って進めていきたい。
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