(2014/4/15)欧州産の証券化商品が優遇されるレジームへ - 新生証券

新生ストラテジーノート 第 152 号
2014 年 4 月 15 日
調査部長 江川 由紀雄
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欧州産の証券化商品が優遇されるレジームへ移行か
ECB と BoE の共同提案―高品質な(high quality)証券化商品を規制上優遇すべき
先週 11 日(金曜日)(現地時間)から日曜日に掛け G20 財務相・中央銀行総裁会議と IMF 総
会が開催され、主要国の中央銀行総裁・財務大臣らが米国の首都、ワシントンに集結した。この
会合に向けて、欧州中央銀行(ECB)とイングランド銀行(BoE)が共同でとりまとめた“The
impaired EU securitisation market: causes, roadblocks and how to deal with them”
と題するノート(短い報告書)が 11 日(米国よりも数時間先行する欧州時間)に公表された 1。この
ノートの結論が、中央銀行がレポ適格と認定するような高品質な証券化商品について、規制上優
遇せよとの提案であった。
このノートのタイトルは衝撃的である。欧州連合(EU)の証券化市場は “impaired” (障がいを
受けている、機能不全がある)というのだ。このノート(全部でわずか 6 ページの簡潔なもの)は、
G20 および IMF の会合に向けて用意されたものであり、詳細にわたり論じるフルペーパーを 5 月
に発表予定だという。
証券化商品に関しては、2007 年のサブプライム問題の勃発、2008 年のリーマンブラザーズ
の倒産等を契機に、高リスクな金融商品であるとの前提のもとで、さまざまな規制強化が行われ
てきた。こうした出来事から数年を経て、欧州当局者の観点から振り返ってみると、欧州産の証券
化商品のデフォルト事例は極めて僅少であり(一方で、ECB を除くギリシャ国債の保有者が多大な
損失を被ったという、安全資産と認識されている国債の安全神話が崩れるような事態も発生して
おり)、証券化商品は、高リスク資産というよりは、安全資産という位置づけが適当であることに気
付 い た の で あ ろ う か 。 BoE/ECB 共 同 ノ ー ト で は 、 「 高 品 質 」 な 証 券 化 商 品 が 安 全 な 担 保
(collateral)としての国債の代替になると主張している。これまでの証券化商品を巡る規制強化
Joint paper on the revitalisation of the European securitisation market—The
impaired EU securitisation market: causes, roadblocks and how to deal with them
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Bank of England
http://www.bankofengland.co.uk/publications/Pages/news/2014/070.aspx
ECB
http://www.ecb.europa.eu/pub/pdf/other/ecb-boe_impaired_eu_securitisation_m
arketen.pdf
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等の対応においては、欧州で組成されたシンプルで健全な証券化商品と、そうではない複雑で不
透明なものとの差別化が図られていないと問題指摘している。
ECB/BoE 共同ノートの概要
わずか 6 ページのノートなので、全文を通読するのにそれほど時間はかからないと思われるが、
以下に、本ノートの章建てと概要を紹介する。
このノートの冒頭では、欧州連合(EU)における証券化市場が障がいを受けている(impaired)
と述べている。このノートは、今後、シンプルなストラクチャーで、裏付資産の透明性の高い“high
quality” (高品質)な証券化商品をいかに促進していくかについてフォーカスするとしている。詳
しいペーパーを 5 月に発表する予定という。
健全に設計された asset-backed securities (ABS) は資源配分の効率を高める
次の段落「1. 証券化の目的と便益」では、健全に設計された ABS の市場は、経済における資
源配分の効率を高め、より好ましい社会におけるリスク分担を実現させるといった、証券化の役割
と便益について述べている。また、高品質(high quality)でシンプル(simple)な ABS のシニア
(senior)トランシェは、国債に代替する高品質な担保となり得ることを指摘している。
中央銀行の観点からは、高品質(high quality)な ABS は、銀行の貸出行動による金融政策の
伝 播 効 果 が 限 定 的 な 状 況 に お い て 、 緩 和 的 な 金 融 政 策 の 伝 播 ( transmission of
accommodative monetary policy)を補強する役割を果たす、としている。また、証券化取引
は、市中銀行が、それほど多くの自己資本をコミットすることなく貸出を行うことを可能にし、中小
企業(SME)のような資本市場に直接アクセスすることが困難な経済主体による間接金融を利用し
た借入を下支えすることを指摘する。
「2. EU の証券化市場の現状」と題する段落で、UE における証券化商品の発行残高はピーク時
の 3 分の 1 にまで落ち込んでおり、発行市場も低迷していることを指摘している。また、高率のデ
フォルトが観察された米国の証券化商品と異なり、欧州のストラクチャードファイナンス商品のパフ
ォーマンスは極めて良好だったことを、具体的な数値を挙げながら説明している。
続く「3. これまでに提案または導入された施策」と題する段落では、EU におけるリスク・リテン
ション(オリジネーター等によるリスク保有義務付け)規制の導入、一定のデューデリジェンスの義
務付け等、証券化プロセスにおける情報の非対称性に対処する規制の導入、信用格付会社の登
録制導入による格付会社の透明性とアカウンタビリティの向上といった規制上の対応について述
べている。
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また、Bank of England と ECB が ABS のレポ(担保)適格要件化の一環として推進しているロ
ーン・バイ・ローンのデータの開示や EIB と EIF による SME に対する債権の証券化支援策(信用補
完提供)など、中央銀行や政策金融機関による証券化を支援する施策についても言及している。
更には、証券化商品の透明性向上と標準化の推進を目指す汎欧州的な(Pan-European)民
間主導の動き 2がみられることにも言及している。
中央銀行のレポ適格要件を満たす証券化商品を規制上優遇せよとの主張
「4. 現存する障害物」(障害物は、原文では、 “roadblocks”)と際する段落では、前段で言及
した投資家保護を意図して導入された新たな規制が、欧州証券化市場の再活性化をもたらさなか
ったという。そして、証券化市場を再活性化するために、3 つの分野について検討が必要であると
し、「a. 規制上の扱い」、「b. 格付会社への依存」および「c. 透明性と調和」の 3 項目を挙げてい
る。
「a. 規制上の扱い」としては、欧州で組成されたシンプルで健全な証券化商品と、そうではない
複雑で不透明なものとの差別化ができていないことを指摘した。流動性比率(LCR)規制と保険会
社の健全性規制(Solvency II)において、シンプルさや透明性を基準に、証券化商品を区分して、
扱いを変えるべきであると述べている。
「b.
格付会社への依存」については、多くの欧州諸国のソブリン格付けが引き下げられた結
果、いくつかの国では、EIF のような国際機関による信用補完を付さない限り、証券化商品にトリプ
ル A 格の格付けを取得することが不可能になっていることなどを指摘した。
「c. 透明性と調和」では、証券化商品に関する透明性の欠如と不十分な標準化が市場再活性
化の障害になっているという。
「5. 結論」として、高品質な証券化商品は、規制上、特別な扱いを受けるようにするべきである
と主張している。高品質な ABS を特定する基準としては、中央銀行の適格要件をガイドとして利用
することが考えられる、という。
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ここでは、具体的な民間団体等の名称は何も挙げていないが、欧州の証券市場関係者の業界
団体、 AFME の傘下に設置された PCS (Prime Collateralised Securities) による優良証券
化商品認証制度 (PCS Label) を指すか、これを含む近時の動向を意味している可能性があろ
う。
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欧州の証券化商品のみが優遇される規制レジームへの移行の予兆か
本稿でとりあげた ECB/BoE 共同ノートについては、さっそく、いくつかの英文メディアが金融機
関や市場関係者のインタビューを交え報道 3している。規制上の扱いを緩和したとしても、証券化
取引に対する経済的なインセンティブが足りないことなどを指摘している市場関係者の声が興味
深い。
この共同ノートは、イギリスとユーロ圏のそれぞれの中央銀行が取りまとめ、G20 および IMF
総会に向けて発信されたという位置づけを見ると、今後の制度設計に及ぼす影響が相応にある
可能性が高いと筆者は見ている。
レポ・担保適格基準は、中央銀行が自ら定めればよいことだが、規制上の扱いについては、銀
行監督当局やバーゼル銀行監督委員会の場で合意が形成され、具体化するプロセスを辿ること
になり、中央銀行のみがコントロールできるものではない。今後、ECB/BoE の提言に沿った見直
しが行われるとすれば、それは、(1) 「高品質(high quality)」な証券化商品とそうではない証券
化商品を区別する基準を設定したうえで、(2) 「高品質(high quality)」証券化商品について、リ
スク・リテンション規制の対象外にする、自己資本比率規制上の扱いを国債並みに軽減する、流
動性比率(LCR)規制上の扱いを国債並みのレベル 1 に指定する、といったルールの見直しに進
展することになろう。
この動向につき、日本およびアジア太平洋諸国の関係者は、十分に注意を払うべきだと筆者は、
考えている。なぜならば、この方向での証券化商品に関する規制見直しでは、「高品質(high
quality)」な証券化商品とそうではない証券化商品を区別する基準の設定が最も重要なポイント
であり、ここに、BoE や ECB がレポ・担保適格と認めるものだとか、欧州の民間団体 PCS が優良
証券化商品として認証したものといった基準が採用されれば、要するに、欧州産の証券化商品の
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報道例(何れも欧州時間 2014 年 4 月 11 日の報道) Reuters, ECB, BoE say public
intervention needed to revive stigmatised debt market
http://www.reuters.com/article/2014/04/11/ecb-boe-markets-idUSL6N0N320Q2
0140411
Bloomberg, ECB Said to Join BOE in Call for Better-Functioning ABS Market
http://www.bloomberg.com/news/2014-04-11/ecb-said-to-join-boe-in-call-for
-better-functioning-abs-market.html
Euromoney, More favourable capital treatment alone will not fix Europe's ABS
problem
http://www.euromoney.com/Article/3330084/Category/820/ChannelPage/0/More-favourable
-capital-treatment-alone-will-not-fix-Europes-ABS-problem.html
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みが優遇される(または高リスク商品としての差別的な扱いを免れる)ことになるからだ。
銀行の自己資本比率規制や流動性比率規制において「高品質(high quality)」証券化商品に
対する優遇措置を導入するには、欧州域内のみでは完結せず、バーゼル銀行監督委員会等で
検討されることになる可能性も考えられる。
日本国内で組成された円建ての証券化商品が、地理的にも離れた欧州のユーロ圏や英ポンド
圏の中央銀行のレポ適格基準を満たすとは到底考え難い。また、ECB や BoE に限らず、中央銀
行が適格と認めたものを要件とすると、たとえば、日銀適格担保は、信託受益権を除外している
(国内証券化商品の大半が信託受益権形態である)など、ハードルが高い。国内で組成されてい
る証券化商品のうち、適格担保要件を満たすものは極めて限られているのが現状であることに留
意する必要がある。
【お詫びとおことわり】
2014 年 4 月 9 日付新生ストラテジーノート第 150 号「国内基準行版バーゼル3導入後の運用
についての考察」に誤解を招く可能性がある見出しを掲載しておりました。意図的な相互保有の
場合にはコア資本の定義に外れる資本調達手段も自己資本控除の対象になるという点では、ダ
ブルギアリング規制の対象になります。誤解を招きかねない表現があったことにつき、お詫び申し
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上げます。
(調査部長 江川 由紀雄)
名称
:新生証券株式会社(Shinsei Securities Co., Ltd.)
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第95号
所在地
:〒103-0022 東京都中央区日本橋室町二丁目4番3号
日本橋室町野村ビル
Tel : 03-6880-6000(代表)
加入協会 :日本証券業協会 一般社団法人金融先物取引業協会
一般社団法人日本投資顧問業協会
資本金
:87.5 億円
主な事業 :金融商品取引業
設立年月 :平成 12 年 12 月
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