パネルディスカッションの記録 - 計算科学研究センター

(ナノ分野グランドチャレンジ研究開発)
第 4回 公 開 シ ン ポ ジ ウ ム
パネルディスカッション
「次世代スパコンでの新しい挑戦」
平成22年3月3日(水)
岡崎コンファレンスセンターにて
パネリスト
(東大院理/物性研
(東大物性研
教授) 常行
川島
直輝
山下
晃一
江原
正博
高橋
大介
小森
文夫
(東北大院理 教授)
山下
正廣
(豊田中研 主席研究員)
兵頭
志明
(東大院工
(分子研
准教授)
教授)
教授)
(筑波大計算セ
(東大物性研
准教授)
教授)
( 富 士 通 エグゼクティブアーキテクト) 奥 田
モデレータ
真司
(分子研
教授)
注.所属及び肩書きは、当時のものです。
平田
基
文男
【平田】 それでは、時間が参りましたので、パネルディ
スカッションを開催させていただきたいと思います。
昨年度、同じようなパネルディスカッションを開催しま
したけれども、そのときには、次世代スパコンに何を期待
するかと、そういうテーマで開催したと思います。その趣
旨は、昨年度は特に実験家の研究者の方においでいただい
て、そして、次世代スパコンができたら、どんないいこと
ができるんだろうかということの実験家からの期待という
ことに重きを置いて進めさせていただきました。今年は、
次世代スパコンへの新しい挑戦ですけれども、特に国民の
期待にどうこたえるかというテーマで進めてまいりたいと
思います。
先ほど私の報告でも申し上げましたけれども、仕分け作
業というものの結果、次世代スパコンに対する国民の疑問
がまず第一に浮き彫りにされたというのは間違いないとこ
ろだろうと思います。同時に、関心と期待、これが大きく
高まったということも間違のないところだろうと思います。
その結果、ほんとうに次世代スパコンができると何ができ
るかということを国民にわかりやすく説明しなければなら
ないという、次世代スパコンプロジェクト全体がそういう
立場に立ったわけですけれども、特にこのナノ統合拠点、
それから、理研の生命科学のアプリケーション拠点は、い
わばその説明の、ある意味ではキャッチコピーとか、ある
いは説明のための研究成果というものを挙げていく、そう
いう一種のミッションが明確になったんだろうというふう
に思います。
そういうことで、今日は、そういう問題についてそれぞ
れ、今日は実験家にも来ていただいていますので、実験家
の方には相変わらず次世代スパコンへ対する期待を述べて
いただくと同時に、計算科学で活躍されている方、それか
らパネラーの方、それから特にこのナノ統合拠点で中心に
なっておられる方、そういった方には、どうやったら国民
にわかりやすく説明ができるんだろうかということを中心
に、後で5分ぐらいずつ話していただいて、そして、その
後で討論を行いたいというふうに思います。
私は、
ナノ統合拠点の拠点長をやっております立場から、
いつもこの問題について考えておりまして、実は私も先頭
に立って、一つキャッチコピーみたいなものを提案させて
いただこうと。
これは一つの例でございます。
「インフルエ
ンザの流行に対応できる新薬の知的設計」
。
ご存じのように、
インフルエンザウイルスというのはどんどん変わってまい
ります。いわゆるミューテーション、突然変異というもの
を起こして、
どんどん毎年毎年変わっていく。
そのために、
例えばこれまでに有効だったお薬で、例えばタミフルとか
そういったものが、ウイルスがすぐそれに対する耐性を獲
得し、即ち、たんぱく質が変わるためにそのお薬が効かな
くなるわけですね。ウイルスが耐性を獲得する。その耐性
を獲得したから、今度はそれにかわるお薬を開発しなきゃ
いけないです。その開発の状況というのが現在どういうふ
うになっているかというと、ここにぱっとまとめましたけ
1
れども、まず、ドラッグの設計というのは、たんぱく質の
活性部位というのがあって、その活性部位をいわば阻害す
るというか、その活性部位に薬を入れて、大体有機化合物
ですが、有機化合物を投入して、そのたんぱく質が動かな
くなってしまう、そういうことをやるわけですね。
(分子研 教授) 平田 文男
ところが、ウイルスがミューテーションを起こして、こ
れまでの薬が効かなくなったら、まずミューテーションを
行ったたんぱく質の構造というのを調べる必要があります。
そうしないとドラッグデザインができない。ところが、た
んぱく質の構造決定というのは、これ自身が非常に大変な
問題でして、実際に実験家はまず結晶化をして、エックス
線の写真を撮って、その構造を決める必要があります。そ
のために多分2年や3年はすぐかかります。そういうこと
を今実際やっているわけですね。そうやってたんぱく質の
構造を決定したら、そのたんぱく質に対するドラッグを設
計するわけですけれども、まず設計の段階で、今はかぎと
かぎ穴式みたいに、
いわゆるドラッグ……、
ごめんなさい、
こんなことを言っていると全然時間がなくなっちゃうんで
すが、それでドラッグを合成して、今度は実験的にウエッ
トのケミストリーでドラッグを合成して溶解度テストなん
かをやって、そして、さらに動物実験をやって、臨床実験
をやるというようなことをやっているわけですから、ほん
とうにミューテーションの新しいウイルスができて、それ
に対応するというのはとても今の段階では不可能だと。
それで、私が提案したいのは、次世代スパコンと3次元
RISM法による新薬の知的設計ということで、まず、先ほど
申しました第一段階、たんぱく質の構造決定。ミューテー
ションを起こしたといっても、ミューテーションを起こし
た箇所というのはおそらくたんぱく質の活性部位のほんの
2、3個ですね。2、3個もないですね。大体1個か2個
か、そこらがミューテーションを起こしたためにお薬が効
かなくなったので、だから、そこのところのミューテーシ
ョンを実際に理論的にやってみて、そして、それを水の中
にじゃぼっとつけて構造最適化をやる。その場合に3次元
RISMで構造最適化をやるというわけです。これには計算時
間で1万コアを使って、多分1時間程度で行けるだろうと
いうふうに考えております。
それから、今度はそのたんぱく質の構造が決まったら、
そこに今度はドラッグデザインをやるわけですけれども、
薬剤分子をかまして安定性を評価するわけですが、その段
階で難しい問題が2つあります。一つは、ドラッグ分子、
薬剤分子自身がフレキシビリティ、いろいろたくさんの部
位からなっているのでフレキシブルだと。それから、たん
ぱく自身もフレキシブルだと。
そういう問題がありまして、
それを解決しなきゃいかんわけですね。それを解決する方
法として、フラグメント法というのが開発されています。
これは薬剤設計の分野で開発されたんですけれども、それ
をRISMと組み合わせて薬剤設計ができないだろうかと。こ
れは、実は理研に私の弟子で今井君というのがいまして、
理研で私との共同研究で開発した方法です。これはどうい
う方法かというと、薬剤分子をリジッドな部分、動かない
部分に全部分けます。ばらばらにします。その一個一個を
水の中につけて水溶液をつくって、そして、その中にたん
ぱく質をつけて分子認識を行うわけです。それが、例えば
ベンゼンがここら辺にいますよ、メチル基はここら辺にい
ますよというようなことで、1個の薬剤分子がもしたんぱ
くの中に全部あれば、
それを認識できるという寸法ですね。
個々のフラグメントは、分子認識は独立過程ですので、完
全にパラレル化が可能です。ということは、予想計算時間
として1ノード当たり一つのフラグメントに約10分間かか
るとしたら、多分こんなにかからないと思いますけど、1
万ノード使えば10分で約1万個の有機化合物のスクリーニ
ングができるということで、先ほど申しました現在の状況
で、この赤の1、2の部分が多分1日でできてしまうとい
うことが考えられます。これは全くの絵に描いた餅ではな
いんです。実は、もう理研のほうで開発の方法を開発して
いますので、全くの絵に描いた餅ではなくって、実際に実
現できる可能性があるんじゃないかというふうに考えてお
ります。以上。次に、これからは自分自身の自己紹介をし
ながら5分ずつぐらいでお願いします。
【常行】 東京大学の常行と申します。今、次世代スパコ
ンの戦略機関フィージビリティスタディー(FS)というのが
始まっておりまして、その分野に新物質・エネルギーの創
成という分野のFSの統括責任者をしております。ここでは
5つの戦略分野が動いていて、その中をずっと見ますと、
この戦略分野2というのは非常に難しい立場にあって、何
が難しいかというと、基礎科学だけをやっていてもだめだ
し、
応用だけをやっていてもだめだし、
両方に気を配って、
両方バランスよくやらなくてはいけないというのが我々の
物質科学の分野の特徴です。ですので、非常に難しいんで
すけれども、その中でどういうことをやっていくべきかと
いうので、
私たちが目指しているのは、
基礎科学の研究と、
それから基礎から出発して、それを応用へつないでいくよ
うなそういう橋渡しと両方やるということです。
基礎科学の研究のところはいろんな立場があると思うん
ですけれども、ここに書いたのは、私がやりたいと思って
いることで、全く個人的なことで、何かというと、密度汎
関数理論とか、それから、それを使った第一原理分子動力
学法、カー・パリネロ法とか、そういうものでは扱えなか
った物質とか物性の第一原理計算をぜひやりたい。それを
使って基礎的な研究をやって、さらには応用への橋渡しを
していきたいというのが私の個人的な希望です。具体的に
言いますと、密度汎関数理論、第一原理MDで扱えなかっ
たものというのは何があるかというと、密度汎関数理論と
いうのは、基本的には単一スレータ行列式で電子状態を書
いているようなもので、それもちょっと語弊があるかもし
れませんけど、そういうようなもので、そこでバンド理論
との、バンド描像との橋渡しにつながるということになっ
ています。それは非常に簡便な方法なんですけれども、逆
にモット絶縁体みたいな非バンド絶縁体というのはなかな
か扱うことができません。
それから、基本的には温度が低い絶対零度のときのもの
ですので、有限温度の相転移とかそのままでは扱えません
し、それから、とにかく計算時間がかかるので、長時間の
ダイナミクスは扱えない。いろいろ限界がございます。こ
れは、いかに次世代スーパーコンピューターが速いとはい
っても、そのまま現在の方法論をそこに移して実現、こう
いうものを解決できるかというと、そんなことは絶対なく
て、
そこにはやっぱり人間の工夫というのか、
頭が必要で、
それをいかに限界を超えていくかというので、幾つかのや
り方があると思うんですけども、2つだけ私の身の周りの
方法を紹介すると、3段階の手法、第一原理計算からモデ
ルを経由してシミュレーションに行く方法と、それから波
動関数理論と両方あり得るかなと思っています。
3段階手法というのは、これはいろんな人がやっている
ことで、第一原理のハミルトニアンからモデルハミルトニ
アンを構成する、これをなるべく経験的なものを含まない
で、人為的なものを含まないで、なるべくオートマチック
にやるような方法、ダウンフォールディングの手法という
のをつくって、
モデルハミルトニアンができてしまったら、
2
それを量子モンテカルロ法等のいろんな計算手法で解いて
いこうという、こういう方法です。電子系について、例え
ば東大の今田先生のグループ、有田さんのグループなんか
で精力的にやられていまして、非常に複雑な系、これは
BEDT-TTFの結晶だと思うんですけれども、それのバンドコ
ア計算を第一原理計算でまずやりまして、そこからモデル
ハミルトニアンを構成して、そのモデルハミルトニアンを
非常に精密に解いて有限温度の陽子相転移を議論しようと、
こういう仕事が今始まっています。現在、これぐらいの系
ですと、今、T2Kを使って数カ月間回して何とかできる
んですけれども、それでやっと1個できるという世界なん
ですが、これを次世代スーパーコンピューターを使います
と、いろんなもので、ですから、もう少し複雑な系でどん
どんできるようになるんじゃないかと期待されます。
(東大院理/物性研 教授) 常行 真司
それから、格子系のほうの3段階手法というのもあり得
て、これは出発点はやはり第一原理のハミルトニアンです
が、そこからモデルポテンシャル、原子間力モデルを、こ
れも例えばスティリンジャー・ウエーバー型とか、あるい
はレナード・ジョーンズとか、
そういうことを言わないで、
最も汎用的なタイプのモデルポテンシャルというのを自動
的に構成するような手続をつくることができます。これは
我々のところで今始めているんですけれども、こういうこ
とやって、例えばシリコンの1000ケルビンのダイナミクス
を第一原理計算とモデル系で比較したものですけれども、
赤いラインがモデル系で、点が第一原理MDで、こういうこ
とがわりと手軽にできるようになりそうです。
こういうことができると何がうれしいかというと、これ
を使うと、1回モデル系を経由してやると、長時間のシミ
ュレーションができる。そうすると、熱伝導のような第一
原理MDでは到底扱えないようなシミュレーションができる
ようになる。その意味で、方法論と、それから次世代スー
パーコンピューターと両方の力を借りれば、かなり新しい
いろんな物性が計算できるのではないかというふうに考え
ています。
あと、最後は波動関数理論。波動関数理論は、これもう
ちでやっている一例ですけれども、トランスコリレイティ
3
ッド法という波動関数理論でありながら電子相関を入れて
固体の計算ができるという手法。こういう手法も現在のス
ーパーコンピューターではちょっと力不足なんですけれど
も、次世代スーパーコンピューターではこれは多分普通に
できるようになって、おそらくこれまでと質の違う計算が
できるようになるだろうというふうに思っていまして、ま
とめますと、私の個人的な研究の範囲ですけれども、密度
汎関数理論とか第一原理MDではできなかったような、要す
るにこれまでの延長ではできなかったような計算をできる
ようにしたい。それから、こういうことをやりながら常に
頭の中に置いておかなきゃいけないのは、応用への橋渡し
ということを我々の基礎科学の研究者も考えておかなくて
はいけないと、
そういうふうに思っております。
以上です。
【川島】 東大物性研の川島と申します。
第2分野で今度、
戦略機関フィージビリティスタディー(FS)の事務局の責任
者ということで働かせていただいております。
それで、私自身、あまり大所高所からのお話はできませ
んので、私自身が比較的近くでかかわっていることを中心
に、少し5分間で話させていただこうと思っているんです
けれども、今の常行先生のお話にありましたように、この
第2分野というのは、応用と基礎の両方に目を配りながら
やっていかなくちゃいけないという、スペクトルの広さの
非常に広い、5つの分野の中でもそういうところだと思う
んですが、私は比較的基礎に近いところといいますか、そ
ういうところで仕事をしているのですが、最近は、要する
にモデル計算をやっているんですけれども、モデル計算と
いってもいろいろありまして、非常に統計力学的な観点か
ら繰り込みをした後のエフェクティブモデルという意味で、
ほんとうにもともとの考えと現実の系とは、どこをどうや
ったらこのモデルになるんだというようなモデルもありま
すし、あるいは比較的素直に現実の系に対応するようなも
のもいろいろあります。
いずれにしても、そういった多様な統計力学的な系の中
で我々が目指しているのは、従来のアプローチでは解明で
きない、ほんとうの意味で新しい統計力学的な多体現象を
見つけて、それを解明したいと。それによって、その応用
がそこから広がることもありましょうし、それから、基礎
的な面では、分野5の宇宙みたいな感じで、それ自体の中
に人を引きつける何か新しいおもしろいコンセプトが出て
こないかなというような、
そういう期待を持っております。
そういったことで、いろいろその中でもほんとうにたく
さんのテーマを思いつくことができるんですが、例えば具
体的なものを、今、念頭にあるものを挙げますと、脱閉じ
込め転移なんて新しいタイプの量子相転移のことなんです
が、それから複数のジュールが組み合わさって起こる新し
いタイプの量子相、この中にももちろんいろいろあります
が、例えば東大物工の藤堂先生がやっておられるようなス
ピンと、それから格子の系で、自由度が両方あったときに
どういうことが起きるかという、例えば、ここの絵でいう
と、これがフェーズダイグラムなんですが、そうであると
か、あるいは多成分、最近、原子を冷やしていって、それ
をオプティカルラティスという人工的な格子の上に乗せる
というような実験ができるようになりまして、これが実験
家の間でものすごく活発に行われていて、これはそのポン
チ絵なんですけれども、そういう系も一種の固体なんです
ね。スケールは全然、実際の長さのスケールは普通の固体
と違うんですが、物理という観点で考えると固体と考えら
れる系、そういう系のシミュレーションなんかもいろいろ
できるようになってきております。
そういったことであるとか、あるいは現実の系に比較的
近いんですが、磁性体、あるいはリラクサー、誘電体、そ
ういったもののモデル系もそのモデルのレベルに直します
と、非常に統一的に考えることができるというような、そ
4
ういう話です。
方法論としては、私も藤堂先生も使っているのは量子モ
ンテカルロ法という方法論で、今言った、例に挙げたもの
はその方法論で大体全部できるんですが、その中でもルー
プクラスターアルゴリズムというのが非常に大規模並列化
に適した方法でありまして、先ほど平田先生のレビュート
ークにもありましたけれども、藤堂先生はこれを使って、
筑波の非常に大規模な、
1万コアという話がありましたが、
大体この次世代スパコンも十分に使いこなせるような準備
を着々と進めておられるようです。それから、それとはち
ょっと違うんですが、向きつきループアルゴリズムである
とか、あるいは長距離相互作用系に関するオーダーN法、
これも藤堂さんが最近開発されて、精力的に研究を進めて
おられるものです。
(東大物性研 准教授)川島 直輝
脱閉じ込め転移とかいう言葉を一つ出しましたけれども、
それは何かというと、前々回のノーベル賞ですが、日本で
も随分話題になりましたけれども、
自発的対称性の破れと、
物理の人は大体みんな教科書で習うわけですが、一般には
広まっていなかった言葉が急に有名になりまして、何だ何
だというふうに普通の人に聞かれるんですけれども、だか
ら、相転移は普通は自発的に対称性が下がることであると
いうふうに教科書には書いてあるんですが、ある種の量子
相転移、特に超伝導体なんかでも、異方的超伝導が最近よ
く話題になります。高温超伝導体は大体磁気的秩序の近く
に出るわけですけれども、磁気的秩序状態、ネール状態か
ら、こういう状態から異方的な、空間的に異方的な状態に
転移すると、そういう量子相転移に際しては必ずしもどっ
ちのほうがどっちよりも対称性が高いとか低いとかという
関係にない、そういう臨界現象があるんじゃないかという
ことが場の理論家を中心にして最近言われています。ほん
とうにそのものがあるのかどうかということを我々は最近
興味を持って計算しているところです。これは一種の新し
いタイプの量子現象だというふうに言うことができると思
います。
それから、全然違った角度で、これは藤堂さんがやって
おられることですが、世界記録を出すと。単純にわかりや
すくスパコンの性能を最大限に使って、物理的に意味のあ
る問題で世界記録を出してやろうという、そういうタイプ
のものもある。これは、例えば1次元の量子スピンチェー
ンで、ハルデインギャップというのがありまして、これは
どういうことかというと、スピンというのは半整数、2分
の1とか2分の3とかいう値と、それから整数、1、2、
3という値、両方とることができると。普通は平均場的に
考えると、整数だろうが半整数だろうが、そんなに大した
違いはないと普通は思うわけです。
実際普通はそうなので、特に有限温度の相転移なんかに
ついてそうなんですが、これを絶対零度まで持っていって
やりますと、半整数と整数で全く違う振る舞いをするとい
うことをハルデインが予想して、みんな最初は全然信じな
かったんですが、数値計算でナイチンゲール、プレーテと
いう人たちがほんとうにそうだということを見出して、そ
れでみんなびっくり仰天したんです。これは何のテーブル
かといいますと、デルタというのが基底状態と第一励起状
態のギャップ、クシーというのは相関長ですね。スピンが
整数の場合は、これは両方とも有限になるということがわ
かっていまして、それに対してスピンが半整数の場合はデ
ルタはゼロ、クシーは無限大だということがわかっていま
す。
有限のほうを正確に求めてやれというのは藤堂さんたち
がやっておられることで、ここにありますように、藤堂さ
んたちは既に世界記録をいろいろ持っておられるんですね。
これをもうとことんやってやれと。一次元のハイゼンベル
グ量子モデルというのは、量子統計力学の面で最も基礎的
なモデルですから、これに関して非常に精度の高いテーブ
ルをつくっておくというのは非常に意味があることだと思
います。
それから、先ほどちょっと言いましたオプティカルラテ
ィスの系ですね。これ、実験と比較したんですが、どっち
かが実験で、どっちが理論なんですが、全くおのおの区別
がつかないくらい、これは何の絵かといいますと、タイム・
オブ・フライトという実験の方法を使いまして求めてやっ
た運動量分布なんですね。そのオプティカルラティスの中
に飛び交っている原子がどういう運動量の分布を持ってい
るかというこの絵が、ほとんどどっちがどっちか見分けが
つかないぐらいの精度でできるようになってきていると、
そういう例もあります。
ということで、まとめますと、新しい次世代スパコンへ
の期待としては、新しい量子素粒子現象を発見したいとい
うことと、それから、単純にわかりやすく、何か基礎的な
モデルで精密計算の世界記録をつくりたいと。それから、
多種自由度系の凝縮相想定の理解を進めたい。最後に、強
長距離相互作用系の理解を進めたい、そんなようなことが
期待できることかなと考えております。以上です。
【平田】 どうもありがとうございます。それでは、山下
さん。
5
【山下(晃)
】 東京大学の山下です。どうぞよろしくお願
いいたします。私は、化学反応論の立場から現状を少しお
話しして、スパコンを使ってどういうことができるかとい
うところをお話ししたいと思います。
このPPTは、先日、戦略分野のシンポジウムで使ったもの
で、なかなか僕としてはよくできているなという感じで、
もう一度使わせていただきたいということで使っています
が、化学反応論、私はずっとこの分野におりましたけれど
も、アイリング、福井先生、マーカスの時代から、やはり
我々はこの分野で50年ぐらいかけていろんな手法を開発し
てきて、ようやく現在、私の立場としてはab initio
chemistry、計算機で、すなわちオン・ザ・フライでかなり
の化学反応のシミュレーションができるという、そういう
立場に至っています。
ここでも、ab initio分子動力学法、ab initio経路積分
法とか、ab initio電子ダイナミクス、必ずしも我が国で開
発した手法ではないですけれども、
こういうものを使って、
かなりのシミュレーションができるというふうに思ってい
たわけです。
それで、常々何かこれで、何らか社会に役立つことをや
ってみたいというふうに思っていたわけですけれども、ち
ょうどこのいい機会、超並列計算機を使って大規模な計算
ができるということで、非常に現実的な系で、ぜひ何らか
のアプリケーションをやっていきたいというふうに考えて
おったわけですね。
それで、ちょうどエネルギー変換というのが一つの題材
として与えられたということで、昔からエネルギー変換と
言われているわけですけれども、現在地球規模でこれぐら
いこの問題をみんなで解決しようというふうに盛り上がっ
た、機運が盛り上がった時代はないんじゃないかという。
ここで、理論化学家、計算化学者は何らかのコントリビュ
ーションをしていかなきゃいけないというふうに今は思っ
ているわけです。
それで、エネルギー変換っていろいろあると思いますけ
れども、ここでは自然エネルギーを使うということで、太
陽エネルギーを使ったエネルギー変換ですね。それと、太
陽電池、光合成、光触媒とか、そういうものでエネルギー
を生成して、それを充電池あるいは燃料電池として利用し
ていくわけですけれども、こういうところに、これは既に
ちまたでは言い古されているわけですけれども、この辺の
効率を少しでも上げていくために、やはり我々計算化学の
立場から何らかのコントリビューションをしたいというふ
うに思うわけです。
それで一例として、ここでは太陽電池のスライドをお見
せしますけれども、いろんな形の太陽電池があるわけです
けれども、我々化学者としては、やはり有機太陽電池とい
うのがあるわけですけれども、この設計ですね。最初はや
はり設計。それで、現在、企業ではいろんな形の材料を使
っているわけですけれども、そこには概念、プリンシプル
がないということですね。いろんなポリマーを使ってやっ
ていくわけですけれども、バンドギャップとかそういうも
のをしっかり見て、何らかの概念、プリンシプルをやって
いかないといけない。そのためには、やはり大規模な計算
である程度の予測をしていかないといけないということに
なると思います。
【江原】 分子研、計算センターの江原です。先ほど平田
先生から、応用研究で国民に説明のできるようなイノベー
ション的な研究が求められているという話がありましたが、
もう一つの側面として、基礎研究を深めるような研究が重
要であると考えています。超並列の計算を用いて、電子状
態理論を質的に変えるような、そういう方法論を確立し、
応用していくということも非常に重要であると考えていま
す。そういう意味で、今現在、我々が行っている研究を少
しご紹介させていただきたいと思います。
一つは、ここに示します高精度な励起状態理論を開発す
ることです。これによって、これまで精密な計算が不可能
であったような電子過程を研究することができますが、そ
のような研究を目指していきたいと考えています。また、
そのような理論に基づいて、
新しい分子分光を提案したり、
あるいは実際に有用であるような光物性化学に応用したり、
もう少し複雑な表面の反応であるとか、表面光化学に応用
していくということを目指しています。
明日、浜地先生の招待講演がありますけれども、そこで
は別の話をされると思いますが、浜地先生のグループが以
前に開発された光機能分子として生体化学センサーがあり
ます。アニオンをプローブするような化学センサーは非常
に難しいわけですけれども、浜地先生のグループがここに
示します分子を開発されました。この化学センサーの基礎
的な電子過程というのが未解明であったわけです。このよ
うな電子過程は、しっかりした電子状態理論、励起状態や
電子移動過程に使えるような理論によって初めてその電子
的メカニズムを解明することができると思います。
さらに、
蛋白質とどのように相互作用しているかとということを解
明することが必要です。今後、そのような生体系の大規模
並列計算が重要になってくると思います。
また、光機能分子、例えば有機EL分子についてですが、
我々の理論では、現在これぐらいの燐光材料の分子である
とか、フレキシブルな構造を持っているような高分子材料
の高精度計算が可能になっています。さらに、このような
分子が積層したような系において、ホール移動や電子移動
がどのようなメカニズムで起こっているかとか、電解発光
がどのように行われているかとか、そういう電子的なメカ
ニズムを解明していきたいと考えています。
もう一つは、SPring8であるとか、実験施設との協力がま
すます重要になってくると思います。最近、X線の自由電子
レーザーが開発され、これまで不可能であった様々な分子
分光が可能になっています。我々は、これまであまり注目
されていなかった二電子内殻イオン化状態の分子分光が、
2光子の光電子分光で実現可能であるという理論的な提案
を行っています。二電子内殻イオン化ポテンシャルと一電
子内殻イオン化ポテンシャルとのエネルギー差から、緩和
エネルギーや原子間緩和エネルギーを抽出できる実験が可
能であることを理論的に提案しています。
これは最近行っています、分子の励起状態の溶媒効果に
関する研究です。我々は核となる溶質の電子状態の精密な
(東大院工 教授)山下 晃一
あと、いろんな太陽光をいかに効率よく吸収する、いろ
んな波長の太陽光が来ているわけですけれども、それをう
まく効率的に利用していく有機材料、
そういうものの開発。
それから、実際、光変換というんですかね、この場合、エ
ネルギー変換でも特に太陽光、光変換ですけれども、これ
の基本的な理論というのはあまりよくわかっていないわけ
ですね。太陽光が来て、いわゆるエレクトロンホールペア
ができて、そのエレクトロンホールペアが界面のところに
行って、チャージセパレーションを起こすというんですけ
れども、それを実際、それじゃ、どういう材料だったら、
どういうふうにうまくチャージセパレーションを起こして
いくとか、そういうところのシミュレーションというのは
全くまだできていない。
先ほど化学反応のシミュレーションはかなりできるとい
うふうに言いましたけれども、そういうふうな非常な基本
的なところはまだわかっていないということで、こういう
ふうな応用的な計算をしながら、ぜひそのベーシックなと
ころ、化学反応のほんとうの基礎のところをやっていきた
いというふうに思っております。特にまとめはないんです
けれども。
【平田】 どうもありがとうございました。では、江原さ
ん。
6
電子状態計算に興味があります。分子の励起状態やイオン
化状態が、溶媒によってどのように影響されるかというこ
とを、大規模系に展開できるような理論に基づいて研究し
ています。
(分子研 教授)江原 正博
それで、これは最近出たデータですけれども、線型応答
を用いた方法ではきちんとした記述はできなくて、状態ご
とに電子分布を考えて解く方法が重要であることを示しま
した。そのような方法で励起状態を構造最適化することが
重要であるとこと示しました。この方法を、構造最適化が
できるように実装しています。
まとめますと、このような高精度な励起状態理論を開発
して、最近注目されている分子分光であるとか、有用な分
子物性の問題に応用していきたいと考えています。
【平田】 どうもありがとうございました。高橋先生、お
願いします。
7
【高橋】 筑波大学の高橋と申します。私は、計算機科学
それを確保した上で、なおかつノード内での最適化、例え
を専門にしておりまして、今までのパネリストの方とちょ
ば主記憶へのアクセス頻度の削減といった工夫も必要にな
っと毛色が違うかもしれないんですけれども、本日は、次
ってくると思います。
世代スパコンでの新しい挑戦ということで発表させていた
だきたいと思います。よろしくお願いいたします。
まず、2010年の3月現在において、国内最速のスパコン
は皆さんご存じかと思うんですが、地球シミュレーター2
となっておりまして、理論ピーク性能が131テラflopsとい
うことになります。それで、次世代スパコンの理論ピーク
演算性能は10ペタflops以上ということですので、
これから
2年数カ月の間で現在から約100倍の性能向上になるとい
うことになります。
それで、今までスパコン、日本のスパコンをずっと見て
くると、あるときに100倍急に速くなるということは、ちょ
っと私の記憶にある限りはまだ経験していない非常に大き
(筑波大計算セ 准教授) 高橋 大介
なジャンプということだと思っておりまして、1桁ずつ速
くなるぐらいだったらまだ何とか想像がつくんですけれど
それで、次世代スパコンだとレベル2キャッシュから主
も、いきなり2桁速くなるというと、なかなか想像するの
記憶へのメモリーバンド幅が0.5バイト/flopsという話が
も大変だという気がいたしております。
先ほどあったかと思うんですが、0.5バイト/flopsという
それで、次世代スパコンの計算ノード数が8万以上とい
のは非常に厳しい、計算機科学の専門家にとってみれば非
うことで、コア数が64万ということです。それで、現在世
常に厳しいバンド幅でありまして、例えば倍精度の内積計
界で一番高速なスパコンがジャガーというマシンで20万コ
算で必要になるバイト/flopsは8バイト/flopsぐらいに
アレベルのものなんですが、64万という規模自体でもう人
なるわけですね。そうすると、0.5バイト/flopsのマシン
類がまだ経験したことのない規模のマシンということにな
で内積計算をそのまま実行してやると、メモリーアクセス
りますので、計算機科学のコンピューターサイエンスの主
ネックになって理論ピーク性能が16分の1ぐらいしか性能
にアルゴリズムの研究を私はやっているんですけれども、
が出なくなってしまうということで、まず、こういう内積
計算機科学の研究者から見ても、そういった今までだれも
計算であるとか、行列ベクトル積のような計算をやると、
経験したことのない規模のマシンで、いかに高い実行効率
もうその時点でピークの8割、9割という、半分も出すこ
を達成できるかというようなアルゴリズムやソフトウエア
とは非常に困難ということになります。したがって、計算
の開発というのは、コンピューターサイエンスの研究者に
の主体というのはできる限り行列積に帰着させるという工
とって非常にハードルの高い挑戦、チャレンジしがいのあ
夫も必要になってきます。
る挑戦だというふうにとらえております。
ということで、
今まで筑波大と計算科学の研究者の間で、
また、いささかちょっと気が早いんですが、10年以内に
ここに挙げているようないろんな高速化の工夫等をやって
出現すると予想されるエクサflopsマシンということがあ
るかと思うんですが、そのエクサflopsマシンに向けても、 きております。それで、これら、今までもやってきており
ますけれども、今後も継続して行わせていただければと考
今回の次世代スパコンにおける効率のいいアルゴリズムで
えておりまして、最後になるんですけれども、数十万コア
あるとか、ソフトウエアの高度化というのは避けて通れな
でとにかく動かさなきゃいけないと。ただ、実際に筑波大
い、必ず我々が通らなければならない道であろうかと考え
学にある1万コア規模のクラスターでいろんな性能評価の
ております。
プログラムを実行してみた結果、今まで見えてこないこと
それで、じゃ、どのようにして次世代スパコンにおいて
がやっぱり1万コアでも見えてきているんですね。したが
アプリケーションを高度化していくかということなんです
って、それを何とかして克服しないと、次世代スパコンで
が、これはいろんな方が話しておられることなんですけれ
ども、
まずはその計算ノードの数が増加することに対して、 高い効率を得るということは難しいというのを切実に感じ
ております。
どれだけ速度向上率を高くできるかということが鍵になる
それで、最後になりますが、計算機科学と計算科学の密
かと思います。特に次世代スパコンだと64万コア以上とい
接な連携というのが今後も重要になるのではないかと考え
うことですので、実際に実行する上でもアプリケーション
ております。以上です。
に含まれている並列性は64万個以上にならないといけない
【平田】 どうもありがとうございました。では、小森先
わけです。ただ、並列性があれば、それでいいかというわ
生。
けではなくて、当然ノード間通信を削減してあげないと高
いスケーラビリティーは出てこないということになります。
8
【小森】 物性研究所の小森です。私の話から実験家とい
うことになるかと思いますが、
私は表面研究が専門でして、
実験を行いますと、こういうことは計算できないかなとい
うことでいろいろ今まで理論家にお願いしてきました。そ
の中の2つも例をご紹介したいと思います。
一つは、電子励起から原子移動に至る過程ということに
興味を持っていまして、そこで一つ問題となるのは、電子
散乱が電子レベルでどのように起こっているかということ
です。もう一つは、周期的ナノ構造を表面につくることが
できまして、それがなぜできるかということと、できた後
にちょっと電子状態が変わっているので、それが何か役に
立つことにつながらないかと、そういうことです。
最初の話は、アニメーションをつくりましたので、これ
でご紹介したいと思うんですけれども、このアニメーショ
ンはゲルマニウムの表面をあらわしています。赤い玉がゲ
ルマニウムの原子一個一個で、動き出してしまいましたれ
ども、
この表面の一部をSTMで操作しますと構造が変わると
いう、そういうアニメーションです。この中の一つ、ここ
にあります青い球のところにスズ原子を置くことができま
す。そして、このスズ原子があるところに黄色い帯が流れ
ていますけれども、これは、実は、この表面に一次元的な
電子が流れているということをあらわしています。 それ
で、今、この部分がひっくり返ったと思いますけれども、
原子操作によってひっくり返すことができますと、この黄
色い帯の電子の流れをスイッチできるという、そういうこ
とを実験で示してきたわけです。
実際は、この動く過程を直接見ているわけではありませ
ん。実際に行っていることは、構造が変化する前と後につ
いて、構造変化をSTMで観るという実験です。また、電子の
流れに関しては、この表面の定在波というのを観ることが
できまして、それによって電子がどのくらい散乱されるか
ということを実験的に知ることができます。理論的にこれ
をすべて解明するのはなかなか難しいのですが、この系の
バンド計算というのは普通に計算でき、励起状態も一応わ
かる。それから、どんな原子配列が安定かというのも計算
でわかるということで、この間をつないでいろいろ議論し
てきたわけです。最近、この過程の間にもう一つ、表面の
振動励起を介してこういうことが起こるのではないかと予
想して、計算してもらいました。周期的な振動に関しては
計算が可能です。けれども、今のアニメーションで示した
モデルのような局在した振動というのは、やはりまだ計算
できないということです。
そこで、
次世代のスパコンでは、
それでできるようになると期待しています。
それから、もう一つは、この表面には原子スケールで電
子が流れていて、
そこにスズとかシリコンとか置きますと、
トランスミッションが変わってしまいます。 そこで、そ
の一個一個の原子がどういうポテンシャルをつくっている
かということについても計算してもらいました。例えば、
同じ場所にシリコンを入れるか、スズを入れるかによって
電子の感じるポテンシャルの符号が変わってしまうとか、
あるいはスズとかシリコンを入れる位置を、ダイマーの上
のほうに入れるか、下のほうに入れるかと、そういうこと
によってもポテンシャルの強度が変わるというようなこと
をこのバンド計算によって一応示すことができます。
(東大物性研 教授)
小森 文夫
また、この表面に流れている電子の減衰、減衰はフォノ
ン散乱によって起こります。その非弾性散乱についても一
応計算ができていますけれども、現実的に定常的な場合と
いうところまでまだ行っていません。こういったことも、
今後もう少し精密にできるようになると期待しています。
もう一つは、半導体ではなく金属の表面でして、銅の表
面のナノパターン形成の例です。一番左、オレンジ色の格
子パターンは、窒素がついた銅の表面で、自己集積的にこ
ういった規則配列が出てきます。真ん中の図は同じ方法を
用いて、銅の微斜面に窒素を吸着させるとストライプのナ
ノ構造ができるという例です。一番右側は、基板は同じ銅
の001面ですが、窒化マンガンを1層だけ表面につけた
ものです。そうすると、やはり正方格子ですが、ちょっと
周期が小さくなって、しかも、一段下がった溝のような部
分ができます。この一段下がった部分も窒化マンガンで覆
われています。マンガンがない銅窒素表面の場合には、明
るくみえるところが窒素がついていない部分で、窒素があ
るところとないところに分かれて格子状のパターンができ
ていました。窒化マンガンが1層あると、全表面が窒化マ
ンガン1層で覆われて、
こういう格子パターンになります。
実験的にはこのようなことがわかりますが、いったいどの
ような機構でこれらのパターンが形成しているのかという
ことが一つの興味です。それから、もちろんこれらを使い
まして、さらにこの上にいろんなものを細工することによ
って、ナノ構造のテンプレートをつくるとか、あるいは表
面の電子状態が変わっていますので、それを使った化学反
応の促進のようなことができるのではないかということな
ど、いろいろな応用も期待できます。
この系の理論的な扱いに関しては、弾性体モデルで定性
的な格子変形を計算し、そこで得られた原子配列の変化を
取り入れて、電子状態をミクロに計算するという方針で行
いました。これはそこに出席されている吉本さんに計算し
9
てもらった結果です。銅窒素表面を想定し、第一原理計算
で格子定数の異なる表面の波数ごとの電子状態変化を精密
に計算してもらったものです。すなわち、弾性体モデルで
はナノパターン形成の大枠を決め、ミクロな電子状態を議
論するためには、第一原理計算を用いて原子の個性を抽出
しています。
これは、
もう少し先になるかもしれませんが、
もっと大きな系での第一原理計算ができるようになれば、
弾性体モデルで行っている部分ももっと精密化できるでし
ょう。
まとめですけれども、1番目に話した電子ダイナミクス
とか原子ダイナミクスというのは、エネルギー移動の理解
ということにつながります。
2番目の周期ナノ構造の方は図
のようなかなり大きな100nmサイズのパターン形成の方は、
それによって電子状態変化の理解から機能発現へとつなげ
ることができるだろうと考えています。こういう計算科学
と一体になった実験研究が、原子・分子デバイスとか触媒
技術の基礎をささえて、これがキャッチフレーズですけれ
ども、ナノサイエンス・ナノテクノロジーが本当に使える
ものになってほしいと期待しています。以上です。
【平田】 どうもありがとうございました。じゃ、山下先
生。
10
【山下
(正)
】 東北大学の山下です。
私は合成屋ですので、
まさかこういう場でしゃべるとは思いませんでしたけれど
も、共同研究者に物性理論の方が多いですので、そういう
意味で何らかのコントリビューションがあればということ
です。
単分子量子磁石というのが21世紀の全く新しい磁石で、
古典磁石と全く違っておりますけれども、それを用いて単
分子メモリーを実現すると。今日はその中で、明日講演が
ありますけれども、今日は近藤効果の観点からということ
で紹介いたします。
量子磁石とはどういうものかというと、古典磁石はスピ
ンが3次元的にフェロあるいはフェル的な相互作用をして、
これが古典磁石であります。ところが、単分子量子磁石と
いうのは全く違っております。多核のナノサイズのクラス
ターからできておりまして、クラスター分子間には全く相
互作用がありません。
こちらは相互作用があるんですけど、
こちらは相互作用が全くないと。ところが、このクラスタ
ーがW型ポテンシャルを持っていると。
このポテンシャルバ
リヤーが1次基本性能Dとスピン量子数のSの2乗からで
きていると。ここにアップスピンがあると。ブロッキング
温度以下ではここに凍結されるわけです。これに磁場を置
きますと、こういった大きなヒステリシスが見えると。要
するに、磁石のようにヒステリシスが見えるということで
単分子量子磁石と言われているわけです。
さらには、スピン状態が量子化されております。量子ト
ンネル効果も起きます。それがこのステップとして見える
わけです。こういったものは量子コンピューターあるいは
単分子メモリーとして使えるわけであります。
こういう全く新しい21世紀の磁石で、これが世界で最初
につくられたマンガン12核の2ナノメーターの大きさの単
分子量子磁石で、
このようにW型ポテンシャルを持っており
まして、ヒステリシスをしまして、量子トンネル効果があ
って、こういったステップが見えると、こういうものであ
ります。
従来の古典磁石、フロッピーディスクというのは大体10
の9乗ビットが限界でありますけれども、もし1個の分子
が1個の単分子メモリーとして働くならば、1モルが10の
23乗個になると、すなわち、10兆倍のメモリーになるわけ
です。そうしますと、国会図書館の情報をすべて角砂糖サ
イズに入れることが可能であるということで、今盛んに研
究がされているわけです。こういった単分子量子磁石を使
って、単分子メモリーあるいは量子コンピューターを使お
うというのが我々の研究の目的であります。
じゃ、
今日は単分子メモリーに焦点を絞りますけれども、
どうするかというと、基板上に分子を真空蒸着します。そ
れにスピンポーライズSTMを用いまして情報を書き込みま
す。一つの分子に書き込みます。例えば、上向きスピンを
入れます。さらに隣のスピンに行って、隣の単分子磁石か
ら情報を読み取るということで、一個一個の分子に情報を
書き込む、上向きスピンあるいは下向きスピンの情報を書
11
き込むというのが究極の目的であります。
(東北大院理 教授)山下 正廣
こういう目的に対しては、我々は単分子磁石、こういっ
たテルビのフタロシアニンのダブルデッカー型のものを用
いました。ただし、これはテルビが3プラス、フタロシア
ニンが2マイナス2マイナス、全体がマイナス1価です。
これはまずいわけです。真空蒸着ができません。そこで配
位子部分を酸化するわけです。ラジカルをここに置くわけ
です。そうしますと、テルビが3プラス、ラジカルが1プ
ラスで4プラス、
フタロシアニンが2マイナス2マイナス、
ちょうどニュートラルになるわけです。これを真空蒸着で
飛ばすわけです。要するに、これはX線の構造解析ですけ
れども、上から見ますと、上のフタロシアニンと下のフタ
ロシアニンが45度ずれていると、ねじれていると、こう
いう化合物であります。ここに基板上にこういった単分子
磁石を置きまして、上向きスピンあるいは下向きスピンの
情報を書き込むということであります。
実際に4.8Kで真空蒸着してみますときれいに単分子
磁石が見えます。ということは、もうここに情報を書き込
むことができるわけです。上向きスピン、下向きスピン、
上向きスピン、読み取ることもできるわけです。今、ここ
まで来ているわけです。
興味深いのは、これは1個の単分子磁石を見ております
けれども、
STSによって中央のテルビのあるところから周辺
に向かってSTSを測っていきます。そうしますと、中央のテ
ルビがあるところには、実はフェリ面にほとんどピークは
ありません。ところが、どんどんどんどん外側に来ると非
常に大きなピークが出てきます。これは何かというと近藤
ピークなわけです。近藤効果というのは、磁性金属に磁性
不純物を入れると、要するに金属伝導と磁性不純物が相互
作用することによってシングレットをつくって半導体に変
わる、これが近藤ピークでありますけれども、この場合、
金属電流は何かというとトンネル電流です。じゃ、磁性不
純物は何かというと、テルビのところで出てこないという
ことはテルビじゃなくて、実はπラジカルであると。πラ
ジカルが磁性不純物であるということがわかったわけです。
要するに、近藤効果というのは、こういったふうにメタル
だったものがシングレットをつくって半導体に変わるとい
うわけです。
それじゃ、ほんとうに金属のテルビは関係ないかという
ことで、F電子がないイットリウムでやってみようと、や
っぱり出てくるわけです。要するに、πラジカルだという
ことは間違いないわけです。
さらには、トリプルデッカー、フタロシアニン、イット
リウム、フタロシアニン、イットリウム、フタロシアニン、
この場合は2マイナス2マイナス2マイナスで6マイナス
です。イットリウムは3プラス3プラスで6プラスです。
ちょうどニュートラルでラジカルはありません。スピンは
全くありません。そうしますと、近藤効果は見えてきませ
ん。このことから考えまして、πラジカルが磁性不純物で
あって、それによって近藤ピークが見えたということがわ
かるわけであります。
今度はアイランドを見てみます。アイランドを見てみま
すと、ちょっと見にくいですけれども、上の図を見たら、
暗い、明るい、暗い、ここを見てください。明るい、明る
い、明るい、暗い、明るい、暗い、こういうパターンで、
この真ん中がちょっとおかしいわけですね。それでマニピ
ュレーションをやります。エレクトロインジェクションを
やるわけです。
エレクトロインジェクションをやりますと、
何と明るい、黒い、明るい、こう変わって、この明るかっ
た部分が黒くなるわけです。これは何が起きているか。こ
れ以上は実験は無理なわけです。どうするかというと、A
の金の基板上に分子を置きましてDFT計算をやりますと、
実
は明るい分子というのはもともとあった45度ずれた安定な
分子だ。
ところが、
エレクトロインジェクションをやると、
暗くなったのは何かというと、実はディストーションアン
グルが零度になった。要するに、ずれていない形に戻って
いるわけです。エレクトロンを入れることによって、分子
をマニピュレーションしているわけです。その結果、どう
なるか。こういう明るい、暗い、明るい、非常にいいパタ
ーンになるわけです。そこで近藤効果が入るわけです。こ
の最初の明るい状態で近藤効果が入りますと、今度Bが見
えるわけです。ところが、エレクトロインジェクションを
やってマニュペーションして暗くなった部分では近藤ピー
クが見えないわけです。ということは、近藤ピークを一つ
のメモリーと考えるならば、もう我々は1個の分子に情報
を書き込むことに成功しているわけです。
ところが、まだまだ問題があります。これは近藤ピーク
のまとめですけれども、πラジカルによって近藤ピークが
見えていると。マニュペーションすることによって近藤ピ
ークが見えなくなってくるということですけれども、今、
我々は、
要するに実験としてはもう極限まで来ております。
これ以上はやはり計算に依存しないといけない。
すなわち、
金基板というのは非常に重要です。銅でやった部分があり
ましたけど、銅では近藤ピークは見えておりません。基板
と分子集団を丸ごと扱う計算でメモリー動作自体を示すた
めに、基板の効果、分子間の相互作用、要するにアイラン
12
ドですと分子間の相互作用もある、基板との相互作用もあ
る、そういったものをリアルな計算が必要であると。
それから、やはりほんとうに単分子メモリーを実現する
ためには物質探索が必要です。よい特性を持つ分子や基板
などの方法を多数の計算でスピンしていくと。スーパーコ
ンピューターのほうでこういったことをやってもらえれば、
我々合成屋にとっては非常に方向性が見えて助かるのでは
ないかというふうに考えております。以上です。
【平田】 どうもありがとうございました。それでは、兵
頭さん、お願いします。
【兵頭】 豊田中央研究所の兵頭でございます。今、皆さ
んのお話を伺っていて、準備していない話をしようかなと
思いまして。自己紹介をさせていただきます。私は、株式
会社豊田中央研究所というところの所属で、トヨタグルー
プ系のグループ内で持っている研究所で、株式会社です。
私が25、6年前に入社しまして、一番初めに配属された部署
というのは分析解析部署です。どういうことをやる部署か
といいますと、材料の開発部署で、材料だけじゃないです
けど、いろんな開発部署で新しいものをトライしてつくっ
たときに想定外のことが起こったりする。端的に言うと、
すぐにへたってしまうとか、そういうようなトラブルの問
題、そういうのが持ち込まれて、それで表面分析等々、い
ろんな機器分析とかを使って、一体そこで何が起こってい
るんだと、そういうのを解析して、こういうことが原因な
ので、その材料の構成に対してはこういう考え方をしたほ
うがいいですよ、
そういうような答えを返していくという、
そういう部署におりました。
大概の問題が、実を言うと、よく考えてみると、その合
成を始める前にわかってもいいような話が、
後づけなので、
やってみればわかるということなんですけれども、例えば
教養部の物理化学の教科書を見直してみると、
あっ、
何だ、
そういうことかというのが理解できるような、そういう問
題がたくさんあって、そこで、25年前ですけど、分子軌道
計算を使って、軌道エネルギーとか電子密度解析とかをや
って、そういう材料だとこういう振る舞いをするので気を
つけたほうがいいですよと、そういうような仕事を始めて
しばらく来ました。要は、そういう時代のMO計算というも
のが材料の開発とかにある程度使える時代が実はあったん
ですけれども、ただ、それは、先ほど申し上げたように、
教科書レベルの知識というのは、
真面目に考えるというか、
要はフロントローディングをしっかりやりさえすれば解決
できるような話で、ある程度時期が過ぎてくるとそういう
レベルでは話が済まない時期に入ってきて、それでシミュ
レーションを真剣にやるという、そういう仕事になってき
ました。
ということで、次世代スパコンとの新しい挑戦というこ
とで、ショートプレゼンさせていただきますけれども、材
料の研究開発で期待される基礎研究というような副題をつ
けさせていただきます。これはよく私が使わせていただく
絵で、燃料電池を持ってきまして、それで、研究課題とシ
ミュレーションアプローチというふうに書いてあるんです
けれども、要はご存じのように燃料電池に限らずいろんな
製品、それはいろんな材料が複合体になっていまして、一
つ一つの素材となっている材料の物性が非常に重要なんで
すけれども、全体が一体となって動作しますので、一つ一
つの材料の特性をしっかり見ていくということと、それか
ら、
複合的な振る舞いというのもちゃんと見ていくという、
そういうのが結構必要になってくるということになります。
特にこういった燃料電池のようなものですと、一つ一つ
の材料についても原子分子レベルでの振る舞いというのが
13
非常に重要なんですけれども、実はそれだけではなくて、
もっとナノスケール、
メソスケールでの不均一性ですとか、
そういうことの影響もかなり直接的に受けますので、ミク
ロなシミュレーションをやるんだったら大規模にやる必要
がある。少しざっくりして粗視化したようなシミュレーシ
ョンをやるんだったら、原子分子レベルでの情報というの
をきちんと把握できるような粗視化シミュレーションをや
るということが必要になります。そういうことを示してい
るつもりの絵です。
(豊田中研 主席研究員)
兵頭 志明
これは同じようなことが、例えば2次電池についても示
してありまして、これは我々のところではまだ手をつけ始
めたところなものですから、絵的には先ほどの燃料電池に
比べると結構あっさりしていますけれども、かなり複合的
な問題が入っているということになります。
ここで申し上げたいのは、材料の研究開発に対してシミ
ュレーションで何かプラスになる情報を出していこうとす
ると、その一つ一つの材料での振る舞いを調べるときも、
かなり大規模な問題を扱う必要があるということと、それ
から複合的な振る舞いをするということをしっかり意識す
る必要がありますということになります。
これはナフィオン膜、
燃料電池の電解質膜なんですけど、
条件をいろいろ変えて、中性子散乱のデータと比べている
んですけれども、
シミュレーションのほうはDPDという粗視
化シミュレーションですが、これで散乱ピークのシミュレ
ーションをやって中性子の結果と比べてみますと、メイン
ピークのところは大体合うんですね。こういう数値って大
体合います。ですけれども、どうも実験のほうではもっと
大きなスケールの、例えば10ナノメートルスケールの構造
が見えてくる。このスケールの構造というのは、シミュレ
ーションのモデルで与えた構造に比べるとちょっと大きく
て、これじゃ、このモデルでは予測することができないよ
うなスケールになっていまして、ただし、そういうスケー
ルの、仮にこれが密度ゆらぎによるものだとすると、粗密
の程度によって膜の中を透過するガス分子、それの通りや
すさ通りにくさが変わってくるので、材料物性にかなり影
響するということになります。ですから、そういう大きな
構造の不均一性というのもしっかり考えていく必要がある。
このシミュレーションは、
実はDPDという粗視化動力学法
で19万2千個の粒子を使っているんですけど、
これが原子で
いくと230万個ぐらいになりますので、
結構大きなシミュレ
ーションが必要だということになります。今、注目されて
いる炭化水素系の電解質膜ですと、今まで使われてきたナ
フィオンに比べまして構造の単位が随分大きくなっていま
すので、材料を変えて比較検討しようとしたときには今ま
での検討の範囲では全然足りないということになります。
それから、もう一つご紹介したいのは、動力伝達系の油
膜の話なんですけれども、こういうところでの材料の開発
も重要なんですが、これはシミュレーションで昔できたも
ので、油膜を挟んでいる鉄の界面の間の距離というのは5
ナノもとれば結構大きい計算だったんですけれども、油の
分子と材料の表面、これは鉄を想定していますけど、ここ
の相互作用ポテンシャルというのはアーティフィシャルに
変えてやらないと、実際の先ほどのこういったものの挙動
というのは予測できなくて、結構この辺のパラメータの調
整をごまかしてやるようなところがあったんですけれども、
こいつを例えば430ナノという大きなスケールの計算を、
実
際そこにいる鷲津がやっているんですけれども、こういう
ようなスケールでのシミュレーションをやりますと、界面
での振る舞い、これが現実にあった振る舞いをするような
のが見えてきたということで、これは、実はマクロな流体
の境界条件というのは、実はミクロにどうとらえればいい
のかというのをしっかりと表現している、なかなか基礎的
にもおもしろい計算結果なんですけれども、こういうよう
なことが出てきて、実用的な材料開発にも結構重要ですよ
ということになります。
あと、これは最後のまとめですけれども、燃料電池とい
うよりアイオノマーと言われていまして、
電極表面、
触媒、
それから電解質、こういったものの界面の構造というのは
非常に重要視されていまして、ここのパフォーマンスが燃
料電池の挙動を結構支配するということになっているんで
すけれども、こういうところを少し、もうちょっと詳細な
構造モデルをかきますと、こんなのになっていまして、こ
ういうのを原子レベルで計算しなきゃ、燃料電池のパフォ
ーマンスははっきりしたことは言えないという、そういう
時期になってきています。
それから、先ほどの油膜の話でも、ちょっと言い落とし
ましたけど、先ほどのシミュレーションは幅が2ナノとす
ごく極端な周期境界条件を使っているんですけど、これは
実際の表面で扱おうとすると、
例えばこんなようになって、
表面の凹凸とかそういったことが取り込めてくると、もっ
とより現実的なシミュレーションになってきますので、こ
ういう展開ということを考えると、単に大きなスケールで
のシミュレーションをやるということだけとってもかなり
意味のあることが言える研究対象がありますと、実用的な
ところですね。そういうことになります。ということで期
待をしているという話になります。以上です。
14
【平田】 では、奥田さん、よろしくお願いいたします。
【奥田】 富士通の奥田でございます。私は富士通側で次
世代スパコンプロジェクトの全体のコーディネーションと、
アプリケーション側を担当しています。私より前の方々は
皆さん使う立場でスパコンに何を期待するかというお話だ
ったと思うんですけど、我々はちょっと立場が違うので、
次世代スパコンをつくる上でどういった挑戦を我々はやっ
てきたかということと、最後に使う方へお願いを幾つかと
いうような形で簡単にプレゼンさせていただきたいと思い
ます。
昔はほうっておけば計算機を更新するだけでどんどんプ
ログラムが速く動いてくれたんですが、残念ながらそうい
う時代ではなくて、CPUの高速化とかCPUの間を超並列で結
ぶことでしかペタスケールコンピューティングというのは
実現できないわけです。いろんな方法が提案されていて、
今回の次世代スパコンは、ここで言うところの一番上のス
カラーの汎用CPUにちょっと毛が生えたようなものでやっ
ているんですが、どちらにしろ、ユーザーの負担というの
はどうしても増えているというのが現状なわけです。
例えば、
どのくらい並列度が上がっているかというのは、
これはNASAの例ですが、
1984年の最初のクレイXMPから比べ
ると、昨年のランキングで第5位か6位だったと思います
が、SGIのマシンだと25年間で性能は320万倍増えています
けど、クロックは30倍しか速くなくて、結局残りは全部並
列度でかせいでいるわけですね。
先ほどもちょっとここにありましたように、今のトップ
の並列度というのはブルージーンが30万コアを使っている。
実際は60万コア以上を次世代スパコンは使わないと10ペタ
flopsは使えないというのが現状なわけでして、
こういった
超並列をどういうふうに扱うかというのが大変な課題なわ
けです。
少しでもその負担を避けようというのが我々開発側とし
てやらなければいけないことで、CPUに関しては汎用CPUを
ベースにあまり大きなプログラムの書きかえなしに皆さん
が使えるようにと。数が増えますから信頼性をあげなけれ
ばいけないということですね。それから、この並列度にな
ると、ハイブリッド並列というんですが、MPIとスレッド並
列を組み合わせたような並列の仕組みになるわけですけれ
ど、これをちゃんと実現するためにはスレッド並列を速く
しないと実はこういう効果がなかなか出ないので、そこは
ちゃんとフォローしてやろうということですね。
それから、
電力を下げる。インターコネクトも1万並列以上を並列し
なければいけないケースも出てきますから、そういったも
のをちゃんと使いやすくつなげてあげようということを考
えているわけです。
実装は、やっぱり水冷を使って低消費電力と信頼性を実
現しようと。ソフトはこのぐらいの規模のシステムになる
と、OSの揺らぎというんですか、OSにちょっとした割り込
みが入っただけでシステム全体がものすごく不安定という
んですか、性能が出しにくくなる。OSジッターとよく呼ん
でいますけれども、というのをちゃんとやらないと全然性
能が出なくなってしまうという課題があります。
ッシュというのがありますし、スレッド並列を効率化する
機能があるし、演算回路も幾つかの関数がハードでインプ
リメントされていたりするので、そういったものを意識し
たプログラミングをしていただくとさらに性能が出る。そ
れから、インターコネクトも当然3次元トーラスとか高機
能なスイッチが入っていますから、それをちゃんと使える
ようにプログラミングしていただくと性能が出るんですけ
ど、やっぱりちょっと大変ではありますが、頑張れば性能
が出ると思いますので、よろしくお願いしたいなと思いま
す。
そうは言っても、皆様にすべてを期待してやってくださ
いというわけにいきませんので、いろんなインターフェイ
スを用意しています。ユーザーインターフェイスとか最適
化支援のノウハウ集をつくろうだとかいうこともやってい
ますし、あと、実は数学ライブラリーというのはすごくこ
れから重要になると思っていまして、
先ほど3次元FFTのお
話がありましたけれど、デンスマトリックスだとか、スパ
ースマトリックスのソルバーだとかというのをどんどん整
備していかなきゃいけないだろうと思っていまして、今、
オープンペタスケールライブラリーというのをやろうとい
うふうに、今、私が1人でしゃべっているんですけど、こ
ういうマルチコアで超並列という条件のときに、みんなが
使えるようなライブラリーをどんどんオープンソースとし
て広げていきたいなというふうに思っていますので、ぜひ
ともご協力をお願いしたいなと思います。
それから、最後になりますけど、よく聞かれる質問です
ね。今日、最初、平田先生からお話があったように、10ペ
タflopsで何ができるんですかとよく聞かれます。
大きく3
つあると思っていまして、一つは、科学的な新しい知見を
得るような計算ですね。ほかのシステムでは実現できない
ような超大規模な計算で、今いろんな方がお話しになった
ような理論を発見したり、理論を検証したりする、自然の
真理を追究したりするような話ですね。
もう一つは、研究開発において新しい知見を得るような
計算。例えば、ふだんできないような大規模計算で、10ペ
タflopsのマシンでいつも使えるわけじゃありませんから、
たまにしか使えないわけですけれど、そういった計算によ
って研究開発に直結するような設計計算の精度を確認した
いとか、方式を検証したいとか、自分の研究の方向性を絞
り込みたいときに使う。あと、材料を選択したり、薬剤を
選択したり、
実験の方向性を決めるときに使えるだろうと。
最後は緊急計算、英語でいうとアージェントコンピュー
ティングといいますけど、緊急に高速や大規模な計算を行
って、国民の方の安心・安全にかかわるような対策に使え
るよと。大きくこの3つのテーマが、何ができるのという
答えなのかなというふうに思っています。
それに対して、今回皆様に我々からして期待したいとい
うのは、やっぱり研究、今はペタなので、次はエクサスケ
ールなんですけれども、そこへ行くためには継続したコン
ピューターアプリケーションの研究開発の投資が必要、予
(富士通 エグゼクティブアーキテクト)奥田 基
あと、使う人がちゃんとデバックできる環境を用意しよ
うということですね。それから、ファイルシステムも新し
いものをつくらないと、これだけのデータ量をハンドリン
グするというあたりが我々の挑戦なわけです。また、どち
らにしろ、性能を引き出すためには皆さんのご協力が必要
だというのが現状でございます。
これは、CPUの話は、先ほど渡辺さんからあったのでちょ
っと省きますけど、一番左側の下を見てください。ここで
すね。消費電力が非常に少ない。58ワットというのを実際
達成しています。それから、これがインターコネクト。ち
ょっと特別なインターコネクトで、何がいいのかとよく聞
かれるんですけど、大きく2つあります。一つは、こうい
う大きな3次元トーラスのシステムで、一人が全部使うな
らいいんですけど、実際はいろんな人が同時にシステムを
使うわけで、そういったときに隣にいる人のジョブに干渉
されたくないわけですよね。そういうことが起こらないよ
うな構成に、ネットワークになっています。普通の3次元
トーラスだとなかなかそういうわけにいかない。
それから、さっきもちょっとお話がありましたけど、ど
こかのノードが一つ故障したときに、自分が使っていたリ
スタートファイルからデータを読み込んだら動かないとい
うんじゃ困りますから、常に同じようなトポロジーを保証
してやろうというのが大きなポイントで、その2つを実現
するというのがインターコネクトの一番大きなポイントで
す。非常に革新的なインターコネクトということで、去年
のIEEEのComputerにも載せていただいたものです。
それで、ちょっと工夫をしなきゃいけないことがたくさ
んあります。先ほど筑波大学の高橋さんがおっしゃってい
たこと以外にも、汎用スカラーCPUというのは、左側にあり
ますように、キャッシュサイズとか、SIMD、プリフェッチ、
コアの数を気にしなければいけませんし、インターコネク
トでいうと、一般的な話として、データ転送量とかデータ
転送回数とかロードバランスを考えなければいけないんで
すけど、さらに今回のシステム向けにはユーザー制御キャ
15
算が必要なわけですよね。そのためには、早い段階でその
成果のアピールが必要で、科学的な知見及び計算というの
は10年レンジの話になると思うんですけれど、研究開発に
おける知見というのは5年レンジの計算かなと思っていま
すが、そこでの成果がすごく重要になるんじゃないかなと
思っています。
最後に、計算機ベンダーとして考えたときに、エクサス
ケールにこのまますぐに行くんですかという話をすると、
今までのとおり並列度をどんどんどんどん上げていくとい
うやり方では、並列度は上がってたくさん並ぶから数字は
エクサになるんだけど、実質的な計算はできないというふ
うになるのではないかなと思っています。
そういう意味で、
テクノロジージャンプというのを、私としては、こういう
ナノ統合プロジェクトの成果に期待して、ほうっておけば
速くなるという世界にまた戻ってほしいなと個人的には思
っています。
最後に、国民の方々への期待にどうこたえるかというの
を平田先生が最初にお話しされて、それが今日のパネルの
テーマだとおっしゃいましたけど、我々からすると、ちゃ
んと計算機を安定的に、かつ性能を出せる計算機をできる
だけ早くつくるというのが我々の使命だというふうに思っ
ています。それができれば、そういう技術を世界にアピー
ルする。オリンピックで高い地位がとれることが重要だと
言いますけど、世界一がとれるかどうかわかりませんけれ
ど、そういったことを日本としてやれるんだということを
アピールすることが重要です。
ベンダーとして考えると、やっぱりここに1台入れただ
けではだめで、こういった環境を広く普及して、次世代ス
パコンを側面から支えていけたらいいかなと思っています
し、ビジネスでうまくもうかれば、それを税金としてフィ
ードバックすればいいかもしれませんし、
あと、
ここで今、
我々が開発した技術というのは、別にスパコンだけではな
くて、今後のコンピューターの技術に広く使える技術です
ので、それを活用して日本の基盤を支えるようなコンピュ
ーターにしていきたいなというふうに思っています。
最後ですけど、どちらにしろ、アプリケーションが大前
提の話ですので、ぜひともご協力をお願いしたいと思いま
す。以上でございます。
16
【平田】 どうもありがとうございました。最後の奥田さ
んの話で、アプリケーションのサイドにハードのほうから
期待するというようなお話があったんですが、東北大学の
山下先生が先ほど電子磁性の話をされましたけど、もしそ
ういうものがほんとうに実現したら、奥田さんがおっしゃ
っている技術的なイノベーションができますよね。その意
味では、僕は、最初に申し上げた、社会的に期待される、
あるいはインパクトを与えることができるかどうかという
のは多分そこら辺にヒントがあるんじゃないかなという、
情報の分野では。そういう感じがするんですが、そこら辺
のことを中心に少しいろんな話をしていただきたいなと思
います。
まず、会場のほうから何かご質問等ございましたら。ご
ざいませんでしょうか。先ほどずっと話をしていただいた
12人のお方のどなたでも結構ですけれども。
【塚田】 いろいろなお立場から大変重要なコメントをい
ただいていると思うんですけど、サイエンスとして真理を
究めていく。それはもちろん一つあるんだと思います。そ
れから、もう一つは実用展開というか、社会、それから経
済、そういうところへ貢献すると。そういう意味で、全体
のウェートをどう考えるか。それから、もう一つ大事な点
は、国民の全くのお仕事とか関係ない、そういう方々に次
世代スパコンというものの大事さ、それをどう訴えるかと
いう、その幾つかの問題点があると思うんですが、それぞ
れに誠実に答えていかなくちゃいけないということだと思
います。そういう観点から一つお聞きしたいのは、さっき
兵頭先生がお話しされたような産業界からの期待というん
ですね。それから、現実的にそれをどういうふうに使って
いくという、そういう構想があるのかとか、その辺のこと
で、もう少しお話しいただけるとありがたいかと思うんで
すけど。
【兵頭】 ありがとうございます。実は私、こういう場所
で産業界の代表みたいな顔して座っていますけど、実は弊
社は研究だけやっている会社でございまして、ほかの、普
通というとちょっと言い方が失礼かもしれませんけど、ほ
かの企業さんで製造もあり販売もあり、そういう中で研究
開発部門を持っている会社とちょっと立場が違いまして、
そういう意味では、ほんとうに代表しているような話をし
ていいかどうかというのはちょっと腰が引けるところはあ
るんですけれども、とにかく先ほど前振りで少し話を変え
たようなことを言いましたけど、要はそうやって企業の中
で研究開発をやっていく中でも、昔は行き当たりばったり
というとちょっと言い過ぎかもしれませんけれども、次の
何か発想があってとにかくやってみる。やった結果だめだ
ったら、また次を考えるという、そういうやり方というの
はまだ許されていたと思うんですけれども、今それでいい
と言い切ってしまうと、企業で使ういろんな資源とかエネ
ルギーとか、そういったものを浪費していくことになると
思いますので、やっぱりきちんと考えて、的確な研究開発
をやっていくという意識が以前よりもよっぽど重要になっ
ているんじゃないかというふうに思います。
そういう意味で、先ほど教養部の教科書に書いてあるよ
うなみたいなことも申し上げましたけれども、そういうレ
ベルももちろんですし、それから原理的にちゃんとわかっ
ているんだけれども、簡単には予測できないようなこと。
つまり、大規模なシミュレーションをやらないと具体的な
情報が出てこないようなこと。そういうようなこともしっ
かりやって、研究開発の方向づけをするとか、発展の方向
づけ、そういうようなことをちゃんと考えていくというの
がこれからますます重要になってくるんじゃないかなと、
そういうふうに思います。個人的な見解ではありますけれ
ども、多分重要な点だと思っています。
【平田】 ほかに何かございますでしょうか。どうぞ、茅
先生。
【茅】 私、実は奥田さんの側というか、責任者なもので
すから、あまり変なことを言っちゃいけないと思っている
んですが、実は私、分子研にいて、それからナノテクの専
門家であって、それが理研に移って、ライフサイエンスの
仕事をしていて、非常に感じた問題は、今あらゆるリージ
ョンがシステムになってきているという問題だと思う。つ
まり、1個の分子の問題じゃなくて、分子のいろんな組み
合わせであるとか、それから、それが組み合わさって、私
の領域のナノを超えてマイクロメタに近い、ナノでも結構
ですけど、その辺の複雑な系に一番本質的な問題があると
いう。
そうなると、
確かに山下さんがおっしゃるとおりに、
全部直感で分子をつくっていくわけにいかない。あらゆる
ところがそういう問題が起こっているような気がするんで
すね。
そうすると、今の分子の計算を、かなりの大きなところ
までシュレディンガー方程式をそのまま解くことができる
と思うんですが、明らかにそれ以上にいろんな階層での正
しい意味での粗視化が必要になってきている。つまり、ど
ういう目で本質的な物質を見るかという考え方を全体を通
して、もう宇宙までひょっとしたらあるような世界が、コ
ンピューターを大きくしていくために登場するという意味
では、むしろ、そっちのほうへ位置づけられるような気が
しているんですね。そのときこそほんとうは産業にも役に
17
立つ、大きな問題が出てきているんだと。今、そこまで、
産業の問題まで含めて本質的な問題を提供できる場がある
という意味が私はどうしても感じ取れません。
その意味で、今日いろんなお話を伺わせてくれたのは全
部ごもっともなんですが、もうちょっと大きな意味でこの
コンピューターの問題を考えて、もちろん限度はあると思
うんですが、特に次々世代に至るときに、その次にはどの
分野ではどういう形のコンピューターが要るかということ
まで含めた大きな問題を多分提供しなくちゃいけないとい
うことを考えたときに、ぜひ自分の領域をもう一つ上の領
域、また下の領域を見ながら、コンピュテーションのあり
方の提言をしていただけることが非常にありがたいんだと
思っております。よろしくお願いします。
【平田】 会場のほうからほかに何かご質問等、ご意見等
はございますでしょうか。
【三浦】 情報科学研究所の三浦ですけど、先ほどパネリ
ストの高橋さんと奥田さんのほうから、アルゴリズムの話
とかライブラリーの話というのが出たんですけど、私の過
去の経験からいっても、アーキテクチャーが大規模かつユ
ニークになってくると、一つのライブラリーだけでカバー
できないんじゃないかと。つまり、アプリケーションプロ
グラムがあってデータ構造が決まっていて、その中でFFT
をやるとか何かをやるという話だと、一つのライブラリー
で、これつくったからこれを使えというと、犬がしっぽを
振るんじゃなくて、しっぽが犬を振るような感じになっち
ゃって、
同じ、
例えばFFTでもいいし何でもいいんですけど、
結局アプリケーションが持っているデータ構造に合わせた
ものをカスタマイズしなきゃいけなくなっちゃって、汎用
ライブラリーがどれくらい使い手があるのかというのがよ
くわからないんですけど、
その辺、
何か感触といいますか。
【平田】 奥田さんは何かございますか。
【奥田】 三浦さんがおっしゃるとおりなので、一般的に
ベンダーとしての富士通も汎用的なライブラリーというの
は製品化しているんですけど、やっぱりそれは全然カバー
できなくて、皆さん自分でつくられているケースが多いん
ですよね。今回、だから、そういう意味で、先ほどちょっ
と私が言ったライブラリーというのは、もう全部中身は公
開してソースを出して、どんどん皆さんに使っていただい
て、それを全くゼロからつくるのは大変でしょうから、そ
ういうものを使って、自分のデータ構造に合わせて考えて
いただくとか、またそれをフィードバックしていただくと
いうようなオープンな形にしていくと、多少そういうバリ
アーが下がるのかなというのを期待しています。
【平田】 その点で、今、今日のシンポジウムの中で何回
もお話ししましたけど、高橋さんをはじめとして筑波大学
の先生方に協力いただいて、FFTにしろ、それから行列対角
化にしろ、幾つかのライブラリーというか、アプリケーシ
ョンに関して相当パラレル化の高速化ができているわけで
すよね。それはもちろん今の段階では汎用とまでは行かな
いけれども、多分幾つかの問題を共用できるような物じゃ
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ないかなという気はするんですけれども、そういうものを
例えばライブラリーとして、高橋さんが書かれたプログラ
ムを富士通のマシンのライブラリーとして入れていただく
とか、そんな...
【奥田】 そういう意味で、高橋さんが入れてくれるかど
うかわかりませんけど、我々は別に富士通のマシンの上に
どうのこうのというのはなくて、先ほど私、2階層な説明
をしたんですけど、下のほうというのは一般的な話なんで
す。PCクラスターでも使える話です。上は富士通マシンと
いうか、次世代マシンに特化したような話で、両方組み合
わせたものをどんどん見せていく。載せていただければ載
せていくということをやっていけば、広がっていくのかな
というふうに期待しています。
【平田】 高橋さん、どうでしょう、そこら辺のところは。
【高橋】 筑波大学の高橋でございます。先ほど三浦先生
や奥田さんがおっしゃったFFTの話なんですが、
今のところ、
先ほどちょっとパネルでも触れた2次元分割というプログ
ラムは、既にもうオープンソースで公開しておりまして、
実際にもう皆さんがお使いできるような状況にはしている
つもりです。ただ、実際に、じゃ、自分が使っているアプ
リに組み込めるかというと、やっぱり簡単ではないのが事
実です。実際にいろんなベンダーさんのライブラリー、FFT
ライブラリー、3次元FFTのライブラリーはあるんですが、
一番多いのがZ方向だけをブロック分割するというのが今
まで主流だったんですけれども、それだと例えば1024のキ
ューブをやろうとすると、1024より並列数が、MPIが多くな
っちゃうと。そもそも実行すらできなくなっちゃうという
問題がありまして、今まではユーザーが使いやすいように
ということでライブラリーができてきたんですが、ユーザ
ーが使いやすい状況でなおかつ超並列、ペタとかエクサに
持っていこうとすると、原理的にもう極めて厳しい状況に
なっていて、
そうすると、
どうしても使いにくいけれども、
ちょっと複雑なデータ形式にせざるを得ないという状況に
なっていると思います。それをどういうふうに使いやすい
状況にしていくかというのは、私のようなコンピューター
サイエンスの研究者が今後取り組んでいかなければいけな
い問題だと思います。
【平田】 どうもありがとうございます。ほかに何か、会
場の……。
【中村】 もしかしたら僕ぐらいしかいないのかなと思っ
てお話しさせていただくんですが、中村といいます。完全
に実験屋なんですけれども、一つだけ生意気なお話をさせ
ていただこうかなと思って、マイクをいただきました。
たまたま僕、機会があって数値計算とかシミュレーショ
ンというものをやっているんですけれども、もともと根が
分子生物学者ですから、周りにも分子生物学者の人がいま
す。それで、今回のお話をたくさんお聞きしまして、こち
ら、量子化学ですとか、計算化学の方がいっぱいいらっし
ゃって、その中でスパコンを、あるいはペタコンをどれだ
け必要なのかということを社会に訴えていこうという中で、
ある意味、もしかすると今の普通の国民の方々に一番近い
のが、この中ではもしかしたら僕かなと思うんですね。
その中で、実は一番僕が感じていることは、普通の国民
というか、正直、分子生物学者もそうなんですが、数値計
算というものすら知りません。つまり、彼らは、僕らも含
めてなんですけど、中高大学の2年までで数学を終えてい
まして、つまり、答えを入れれば何か出る、あるいは式変
形を何かするという数学で頭が終わっているんですね。つ
まり、数値解析をするとか、微分方程式を数値的に解くと
いう概念すら知らないんです。そういうところにあって、
多分国民はおそらく同じか、もうちょっと悪い状態だと思
うので、これを機会にスーパーコンピューターで何ができ
るかということと同時に、数値解析というものとかの、例
えば高校生の最終学年で教えてもいいんじゃないかなと思
うぐらいなんですが、概念的なものを。そういう形でスー
パーコンピューターを必要とする数学というのはこういう
ものなんだよということを教えていくというムーブメント
も欲しいなと思いまして。
実際上、僕がちょうど数学を使っていらっしゃる方と分
子生物学者の真ん中ぐらいに今いるものですから、社内で
僕が求められている立場もそこら辺にありまして、いかに
そういう中間の人が少ないかというところを実感しており
ますので、これを機会に何とか大学とか高校のカリキュラ
ムに入るようにならないかなみたいな感じで、ちょっとそ
ういうことを考えましたので、お話しさせていただきまし
た。
【平田】 どうもありがとうございました。
【兵頭】 実を言うと、私、先ほど会社に入って25年ぐら
いと言いましたけれども、自分の高校のときに物理のカリ
キュラムの中に数値計算というのがあったんですよ。あっ
たというのは、普通の教科書にありまして、一番最後のほ
うにちょろっとくっついているので、時間切れでやらなか
った人も多いかもしれませんけれども、その時代は、その
時代のですけれども、そういうカリキュラムはあったんで
す。いつの間にか消えているんですね。
【平田】 いつの間にか消えていることの問題が、これは
この間の戦略拠点でしたっけ、あのときにもそういう話が
出ていましたけど、一時、製薬会社、それから化学会社を
中心にして計算化学の部門といいますか、そういうものが
たくさんできたんですよ。もうこぞってできたというか。
1990年代の初めぐらい。80年代の終わりから90年代の初め
ぐらいに。そのときのうたい文句というのは、いろんなド
ラッグデザインが数値解析でできますよということで、企
業のコスト減になると。ものすごく大きなコスト減になる
ということをうたい文句にして、いっぱいいろんなところ
にできたんですけれども、それ、どなたかが今日おっしゃ
っていましたけど、それが結果的にはほとんど何も生み出
さなかった。
だから、
一種のオオカミ少年の様相を呈して、
そして、軒並みに計算化学の部門がつぶれていったんです
ね。つぶされていったというか、何の役にも立たないじゃ
ないかというわけですね。おそらくそれと期を一にして数
値計算の教育的な意味もだんだんなくしていったというの
が現状じゃないかなと思います。だから、今、我々は、い
わば負の遺産を抱えて、それを克服する、そういうことを
やらなきゃいかんという、そういう立場に立たされている
んじゃないかなと思います。
【志賀】 志賀といいます。ちょうど今、平田先生がお話
しになった化学企業におりまして、1990年代の第1次コン
ピューターブームのころをずっと知っておりますので、そ
の観点と、それから、今、それじゃ、どうするかという問
題なんですが、産業と一言で申しても間違うかもしれませ
ん。ですから、電機業界でどうかとか、化学業界、材料科
学のところでどうか、触媒化学のところ、それぞれ違うの
で、
あまり産業がどうだというのはまずいけないと。
ただ、
このスーパーコンピューターは産業界で使えるようにはな
らないんです、すぐは。10年かかると思うんです。10年か
けて産業界の中に1人、高橋先生あるいは奥田先生、高橋
先生なんかと対等に話をしながら、おれのこの問題をこう
したいというような人が企業の中に育っていけるようにし
て、そういうプロジェクト。だから、ずっとプロジェクト
というか、そういう考え方がつながってないといけないな
というのがあります。
具体的に、皆さん、先生方にお願いしたいのは、そうい
う人を企業の中からピックアップしていただきたいんです
ね。1人でいいんですよ、先生方お1人毎が。
産業界というのは口ではいいことを言いますけど、オー
プンにするということをものすごく嫌うところです。その
ことをよく意識しておいていただいて、人間1人かけて10
年間は何でもいいよ、好きにやってこいという経営者もペ
アになってないといけないですね。ですから、そういうこ
とをお一人ずつでもできたらもうすばらし過ぎるんですが、
というのは、2、3人そういう方が出てきますと、今度は
産業界というのはオセロゲームの原理が働き出しまして、
数社、10社ぐらいになる。そうすると、ぱたぱたと変わり
ますので。あまりそれ以上言ってもしようがないんですけ
ど。
そういうことで、ぜひ長い、絶対意味があるけれども、
19
すぐには役に立たない、すぐに使えるようにするのにどれ
だけ大変か。何とかネットワーク社会に今度なるんだそう
ですね。それもまさにそうで、全部のネットワークにつな
がりながら、最終的にはたどり着いて、場合によったら、
ある一つのポイントについて実証を得るためにある企業が
計算すると、そういうようなこと。ふだんは自分たち、あ
るいは既にある大学だとか、産総研だとか、いろんなとこ
ろで随分持っていらっしゃいますね。そういうものを使い
ながらという、そんなようなことを何となくは思っていま
す。ですから、企業の中にそういう人を見つけてほしいと
いうのと、そういう経営者を何とかつかまえてほしいとい
うことを感じましたので申し上げました。
【平田】 どうもありがとうございました。何かその点に
関してご意見はございますでしょうか。会場のほうからで
も結構ですが。
実は、
私自身も最近、
製薬会社2社から声をかけられて、
3次元RISMの私のプログラムを使わせてほしいという。1
人は大正製薬ですけれども、もう一人は会社の名前を出し
てほしくないと言われていますので出せませんけれども、
要するに自分のところの実際の製薬の場で試してみたいと
いうお話が来ております。もちろん、これまでナノ拠点そ
のものでもいろんな形で、先ほど産応協のほうからご報告
ございましたけれども、勉強会とか研修会とかいろんな形
で、我々がつくっているプログラムの一種の教育課程、そ
れをこれまで進めてきておりまして、残念ながら今のとこ
ろは大企業で、しかも、ほぼ科学関係の企業あるいは電機
関係の企業に限られているという状況ですけれども、相当
の数の企業が私どもと関係を持っていただいております。
先ほど産応協のほうからご報告ございましたけれども。し
たがって、努力はまだ半ばですけれども、現実に計算化学
をもう一度、過去の暗い記憶は忘れて、もう一度計算化学
を企業の中で何とか役に立つものにしていこうという、そ
ういう企業サイドの研究者の努力もやはり今進んでいるの
ではないかというふうに、ちょっと楽観的過ぎるかもしれ
ませんけれども、考えております。
まだ時間は結構残っておりますので、何かありますか。
【山下(晃)
】 私は、大学でそういう計算化学の研究室と
いうのを持っているわけですけれども、やはりそこの、今
のお話に関連しているんですけど、学生を出すときに、や
はりドクターをとってアカデミックというのが一番いいん
でしょうけれども、なかなかそういうわけにはいかないと
いうときに、やはり企業に行くということですよね。企業
で計算化学を続けてやってほしいなというふうに思うわけ
ですよね。その意味でも、やはり僕は今回のペタコンとい
うのは、ペタコン自体もものすごく重要ですけれども、そ
うじゃなくて、もう一度計算化学というものを日本全国、
企業まで含んで広めていく一つの機会になるんじゃないか
なというふうに今思っているんですけどね。
【平田】 ほかに何かございますでしょうか。
【志賀】 山下先生のおっしゃるのは全くそのとおりです。
20
それで、もう一言、ちょっとだけ追加すると、アカデミッ
クポジションだけとらないともうだめだみたいなことはぜ
ひ無いようにして、それはどういうことでやっていただき
たいかというと、卒業生の方が今一体どこで何をしている
かということをずっとできる限り調べておいていただきた
いんですね。それで、そうすると、企業は、企業ってわり
とかっこいいことを言いますから、それで実際に帰ってみ
ると、ああ言うけどな、おまえ、実際はというようなこと
になりますので、
裏をとるようなことをやっておかないと、
おたく様、そんなに盛んにいいということを言っておられ
ますけど、処遇の仕方、あるいは学生さんをほとんどとっ
ていませんねとか、
そういう裏を、
嫌らしい言葉ですけど、
やっぱり裏をとるようなこともしながら、企業がほんとう
にというより、ほんとうに大事なことなんですから、使え
るように、ぜひ皆さん方、工夫なさっていただきたいなと
思います。
【平田】 どうもありがとうございます。岡崎先生。
【岡崎】 教育という側面からのコメントですけれども、
私、工学部の応用化学というところに勤めているわけです
けれども、物理化学の標準的な教科書にアトキンスという
のが、もう皆さんよくご存じだろうと思うんですけど、そ
の中にもきちんと量子化学計算もあれば分子動力学計算も
入っています。ですから、そういうのが章立てで、もう大々
的にアメリカの教科書では標準的に教えられている。それ
を我々も実直に学生一人一人に刷り込んでいく。まずそこ
から始めなきゃいけないんじゃないですかね。それで、少
なくとも化学系を出た学生は数値計算、あるいはシミュレ
ーションというものが重要なものなんだという認識をまず
持っていただく、そこから始めないときっといけないんだ
ろうと思います。
それで、今、日本の現状というのは確かにシミュレーシ
ョンというのはちょっと寂しい限り、数値計算という意味
では寂しい限りだろうと思うんですけど、これは先日、あ
る委員会で統計量が出ていて改めて驚いたんですけれども、
全世界のスーパーコンピューターのCPU能力、
日本の割合と
いうのはわずか2%でしかない。全世界の2%しか日本は
CPUの能力を持っていないというびっくりするような数字
が出ていまして、これがもう今の日本を象徴的にあらわし
ているというように思うんです。ですから、これはもちろ
ん国にお金がない、会社にお金がないということで、どん
どん悪循環になってしまっている一つの結果だろうと思う
んですけど、そういう意味で、国が今回大々的に投資して
いったというのは、少なくとも我々にとっては非常に大き
なチャンスだろうと思うんです。ですから、このチャンス
を生かしながら、先ほど先鋭的な研究がたくさん出ていま
したけど、それと同時に、それぞれの大学へ戻って、物理
化学の教科書に標準的に書いてある計算化学、物理の人は
物理の人できっとあると思うんですけれども、それを学生
にきちんと教える、そういうカリキュラムをそれぞれの学
科専攻でつくっていく、そういうことじゃないんでしょう
かね。当たり前のことを申し上げているだけです。
【平田】 やはりそれは我々の希望なんですけどね。ただ
し、各大学には各大学の事情があって、各大学は大部分の
場合には、例えば化学家の場合には実験研究室がほとんど
ですから、なかなか……。
【志賀】 先生がそう言っちゃだめ。岡崎先生の言うよう
に当たり前にしましょうと。
【平田】 そう言っちゃいけないんですけどね。だけど、
現実はそうなんです。そこら辺で、ほんとうに計算化学が
必要であるということを実験家に知っていただく必要があ
る、
認めていただく必要があると私どもは考えるんですよ。
その意味で、
先ほど山下先生が非常に教訓的なというか、
今後につながるような話をされたので、僕はもう一度その
ことに話を戻したいんですけど、実際にほんとうに計算化
学が役に立つというか、特に、例えば情報科学の分野で量
子コンピューターとか、それから、例えば国会図書館全部
を記憶することができるようなメモリーをつくるとか、そ
ういったお話をされたわけですけど、それは実験的にはあ
る程度見えてきているというお話だったと私は思うんです
が、それに対して計算科学はどういうお手伝いができるの
か。それが一体、次世代スパコンでどういう能力を使えば
どのようにできるのかというようなことをやはり我々は話
し合って、
我々が基礎的な学問の分野で貢献するのは、
我々
はこういう大学で給料をいただいているわけですから当然
のことであって、ただ、このプロジェクトはそれだけで済
まないと私は考えています。
エクストラなお金をいただいて研究をやっているわけで
すから。国のお金をいただいて。だから、それはやはりエ
クストラな成果を出さなければいけない。その中身という
のは、
先ほどここでずっとお話しされたような中身の中で、
やはり国民に見えるといいますか、説明ができるといいま
すか、そういう成果がどう出るかがある意味では我々のプ
ロジェクト、我々が個人的に、研究者としてという意味で
はなくて、このプロジェクトに参加しているメンバーとし
て課せられているミッションではないかなという気がして
いまして、その意味で、繰り返しますけれども、先ほど山
下さんがおっしゃったような問題、提起されたような問題
にどう答えるか。どうでしょう。あれに対して、固体物性
の分野から。
ありません? 固体物性の問題なんですけど、
電子物性の問題なんですが、何か有効なあれはありますで
しょうか。もしあれば、それを宣伝できる。
【常行】 多分、今の現在普通に使われている計算手法を
そのまま大きくしたのではだめな話で、いろいろ一工夫要
る話だと思うんですけれども、その辺はわりと私は楽観し
ているところもあって、
それは、
革新的な新しい計算手法、
基本原理みたいなものができてから、それが実現するのは
やっぱりコンピューターの発達がどうしても必要で、例え
ば密度汎関数法にしろ、
あるいは多体摂動論の方法にしろ、
最初の提案から実現するのに20年ぐらいかかっていたりす
るわけですね。今もう既にいろいろ基礎的なアイデアが出
21
ている方法がたくさんあって、そういうものが次世代スパ
コンでほんとうに使えるようになるというのは大いに考え
られることで、その意味では全く新しいものが出てくると
いうのは、私はすごく楽観的に期待しています。
【平田】 挑戦できると。
非常にこれは大事なことでして、
実験研究者と計算科学者が共同して、どういうキャッチフ
レーズにするかは別として、量子コンピューターの実現に
次世代スパコンがタッチできる、あるいはそれこそ国会図
書館1個分の情報を収容できるようなメモリーができたら、
量子コンピューターでなくて従来型のコンピューターでも
ものすごく速いのができますよね、メモリーの心配がほと
んどないみたいな感じの。そういうことができるだろうか
と。分子メモリーは全く新しい概念ですけど。そういうこ
とがキャッチフレーズで出せれば、我々は次世代スパコン
プロジェクトに関する仕分け作業について全く心配が要ら
ないわけですよ、正直言って。我々はこういうことができ
ますと少なくとも言える。
【西田】 産総研の西田ですけれども、実験にコントリビ
ューションが必要と今強く言われていると思うんですが、
ほんとうにそこまでやらないといけないのかなという気が
しています。要するに、一つは、計測という分野と計算機
は別なんですけど、そこでも似たようなことがあると思っ
て、例えば我々の産総研でいえば、計算科学部門、それか
ら計測分野があるんですが、
そこでNMRの人が一生懸命実験
のお手伝いをしているというような感じがするんですね。
我々、
そんなには実験の人のお手伝いというんじゃなくて、
実験よりやはり先に行かないといけないと思うんですね。
だから、新しいシステムを提案する。そのためには、ほん
とうの原理というか、実験の中身を理解していないといけ
ないんですが、
ただ単に実験のお手伝いをするというのは、
やらないといけないのはたくさんあったり、それは当然
我々はやるんですが、我々の中でもこれからやっていくん
ですけれども、次世代スパコンの中ではそういうんじゃな
くて、もうちょっと別のところをアピールできて、それで
みんなが得する。例えば、一番いいのが宇宙だと思うんで
すよね。実際に何も役立たない宇宙の望遠鏡をつくる。で
も、金がついている。国民が納得している。そういうとこ
ろをアピールできないのかなと。何も実験で見えないとこ
ろを見る、そこをアピールできないのかなと。
午前中、燃料電池の連続研究会ところであったときに、
1人の企業の方に聞いたんですが、何が役立つんだと、計
算化学。そのときに、直接には何もつくれないんだと。だ
けど、こういう分野が見えたと、例えば水のクラスターが
見えたと、それが実験家にアピールするんだというスタン
ス、そういうところが私は必要だと思うんです。
【平田】 確かに実験家のお手伝いをするのではないんだ
と思うんですよ。
だけど、
例えばさっきのスクリーニング、
私がお話しした製薬の場合のスクリーニングにしろ、それ
から、山下先生がおっしゃった分子磁性を示すような物質
のスクリーニングにしろ、そういった問題というのは実験
の手間をものすごく少なくする、そういう意味を持つわけ
ですね。一個一個つくっていたらとても時間が足りないと
いうようなものを、そうではなくて予測をしてあげる。具
体的に、例えば1万個のものを全部合成しなくても、例え
ば100個ぐらい合成すればいいんですよということになれ
ば、100倍開発の速度が早まるわけですよね。そういった意
味で、理論、我々の計算科学の役割というのは、産業界に
おける役割というのは多分そういうところにあって、実験
家のお手伝いをするんじゃなくて、実験家にサジェストす
るという役割があるんじゃないかなと、それが設計だと思
うんですよね。
分子設計あるいは物質設計だと思っていて、
そういう物質設計の場面で計算科学が何か役割を果たせる
かどうかというのは、やはり非常に大きな試金石になるだ
ろうというふうに私は考えますけど、いかがでしょうか。
【兵頭】 実は、私がさっき申し上げたのはそういう視点
で、塚田先生からのご質問に対してお答えしたのはそうい
う視点で、要はトライアルするケースをどれだけ減らせる
かという、それは重要ですよというふうに申し上げたんで
すけれども。実は、会社の中でずっとそれをやってきてい
るつもりなんですが、
それはあまりアピールしないんです。
つまり、そこから何かが出てくればいいんですけれども、
減らしているだけなんですよ。だから、非常に経済効果と
いうか、コストとしては効果があるんだと思うんですけれ
ども、目立たないんですね。そこは非常に我々としてはジ
レンマがあって、やることに意義があるのはわかっている
し、それから、しっかり効果があるというふうに読んでは
いるんですけれども、ですけど、じゃ、何ができたんだと
言われたときに、削り取っただけですという感じで、落と
しただけですという、そういうことになりがちなので、非
常につらいところがあります。
ですから、今の話の意義というのはしっかり認めるべき
だし、そこはちゃんとやるべきだと思うんですけれども、
一方で、計算科学を使ったからこんなというものも欲しい
んですよね。それだけをねらっていたんじゃ浮ついた話に
なるんですけれども、やっぱりこれがあったからこそとい
うのも欲しいんですね。
【山下(正)
】 今日、私、短い時間でどういう話をしよう
22
かということで、磁性で単分子メモリーと、それから近藤
効果の話をしたんです。明日は午前中講演しますので、も
っと全体のバックグラウンドというのは明日の講演を聞い
ていただければわかると思いますけれども、もともとこう
いった単分子量子磁石が出てきたのが20世紀の終わりごろ
で、当初からこの分子は大容量メモリー、単分子メモリー
の可能性がある、それから、量子コンピューターに使える
ということを言われていたんですね。ところが、ほとんど
の人がそういう観点の研究をやらなかったんです。やらな
いというのは非常に難しいからですね。だから、私、CREST
もやりましたし、いろんな外部資金のプロジェクトをやっ
て、やらざるを得なかった。その中にいろんな理論のグル
ープの人も入ってもらったということで、最初にこういっ
たいろんな化合物をつくっていったわけです。やはり最初
の目的である単分子メモリーであるとか、量子コンピュー
ターをやるためには、どういう分子がいいのかというのは
物質探索として考えるわけです。次には、それをどういう
ふうにして、
どういう手段によってメモリーに書き込むか、
あるいは量子コンピューターに持っていくかというのが次
の段階で、これは物理科学屋さんや物理屋さんとの共同研
究でやったわけです。
今日紹介しましたマニピュレーションによって近藤ピー
クを消したり出したりするというのは、これは実験的にで
きたわけです。ところが、物理化学あるいは応用物理の先
生はこれ以上は実験的には無理だと。だから、計算でシミ
ュレーションしてもらわないとこれは無理なんだというこ
とで、今日出した計算はスペインのグループとの共同研究
ですけれども、要するに、合成屋、実験屋、それと理論屋
との関係というのは、あくまで相補的な段階でお互いが最
高のレベルまで達して、そのお互いが補い合って初めて僕
は理論化学あるいは計算化学は生きてくると思うんですね。
そういう意味で、今日も最後に言いましたけど、スパコ
ンができて、いろんなシミュレーション、モデル計算、あ
るいは基板上にいろんな分子をたくさん置いて計算する。
系全体を計算する。さらには、もっと機能性のある、もっ
と有効な物質設計までやるということをやっていただけれ
ば、私みたいな合成屋にとってはまた非常に助かると。そ
ういう意味で、やはり計算機、こういったスパコンという
のがどんどん発展していけば、サイエンス全体としては非
常に恩恵をこうむるんじゃないかということで、私はコン
ピューターを扱ったことは1回もありませんけれども、わ
ざわざあえて今日こういうお話をしたわけです。
【平田】 どうもありがとうございます。会場からほかに
ご意見。
【奥田】 さっきお見せしましたスライドなんですけど、
今、皆さんおっしゃったような話は、例えば一番上の実験
ができないようなことができるだとか、2番目の研究開発
の方向性を見出したいんだという話があると思うんですね。
一番上はサイエンスの問題で、例えば天文台の望遠鏡だと
か、加速器と似たような話だと思うんですね。あれにはお
金がついているというのと基本的に同じ話なんですけど、
コンピューターでああいうことが出てもあまり一般受けし
ないですよね。望遠鏡で例えば宇宙の遠くの星の動きが見
えたというと新聞に載りますけれど、なかなか難しいんで
す。一つ、これは私はよくわかっていなくて、勝手に書い
ているんですけど、一番下にあるアージェントコンピュー
ティングと言われているカテゴリーで、例えば新しい病気
が出てきて、
そのウイルスをこういうマシンを使うと早く、
そのまま薬が見つかるかどうかわかりませんけど、そうい
ったようなある程度国民の方の安心・安全に近いところで
こういうことができますよという、実際に起こっちゃまず
いので、例えばそうしたときにはこういうことができます
というような例がアピールできるとすごくわかりやすいん
じゃないかなとは思いますね。一番上とか2番目というの
は、我々はみんなわかっているんですけど、一般の方にわ
かってもらえないというのが現実だと思うんですね。
【平田】 確かに宇宙とか天文の問題というのは、子供で
もよく知っていて、新しい星が発見されたというとみんな
すごく興奮するわけですけど、だから、それ自身が、発見
すること自身が科学の進歩であると同時に、国民に対する
アピールになるという側面を持っているんですけど、確か
に奥田さんがおっしゃったように、一番上のような問題と
いうのはなかなか、国民がそれでエキサイトしてくれるよ
うな感じがしないというのは、
そのとおりだと思いますね。
先ほど一番最後のほうに言われた未知のウイルス向けの
云々という話は、私が最初に申し上げましたように、おそ
らく今の私の感触では実現できるんじゃないかなと思って
います。次世代スパコンのレベルでね。だから、私は、そ
れを中心に、理研との共同研究ですけど、アピールをして
いきたいなと思っています。
できれば、そのレベルというか、皆さんが、国民が、こ
れだったらほんとうに次世代スパコンができたらすばらし
いと思っていただけるような、そういう一種のキャッチコ
ピーみたいなものをいっぱいいろいろ出していただけると
非常に拠点長としてはありがたいと思って、こういうあれ
をやっているんですけど、こういうものにはどうしてもそ
ういうものが必要で、特に巨大な予算をかけているわけで
すから、なかなか基礎研究をやっているだけでは国民は納
得してもらえないという側面があります。だから、そこら
辺の事情をお酌みいただいて、ぜひともいいアイデアを出
していただきたいと。
もちろん、我々、そのために基礎研究を犠牲にする必要
は全くなくて、今の基礎研究のレベルというのは、先ほど
もお話がありましたように、相当応用に近づいていってい
るというか、基礎研究が発達した結果、そういうふうにな
っているわけですけど、そういう意味で、別に無理をしな
いで応用に持っていける問題というのがたくさんあるんじ
ゃないかという気がしています。
先ほど常行さんからも非常に心強いお話がありましたけ
ど、山下さんが問題にされているようなことをある程度は
23
解決、今の計算科学の枠組みと次世代スパコンで解決でき
るかもしれない。あるいは、一生懸命頑張れば解決できる
のであれば、私は、それをやはり国民にアピールしていく
べきなんじゃないだろうかというふうな気がします。
会場のほうから。
【井上】 いろんな話が出てなかなかおもしろいなと思っ
て聞いていたんですけれども、先ほど実験家のお手伝いは
とかいろいろありましたけど、私もまだ実はこの仕事を始
めて1年半で素人なんですけれども、この仕事を始める最
初に周りの人に教えてもらったのは、これまでの科学とい
うのは、私も大学のときにはシミュレーションというのは
習わなかったんですけれども、理論と実験だったんだけれ
ども、理論と実験に並ぶシミュレーションという手法がで
きたんだよと。今やもうそれがないと、実験も理論もそれ
だけじゃ最先端は切り開けないんだよというのを習いまし
て、そういう意味では、先ほど山下先生がおっしゃったよ
うな相補的というのは非常にわかりやすいなと思いました。
それと、あと、望遠鏡をつくって星を見てというのがあ
りましたけど、あれは仕方ないです。もうあきらめるしか
ないと。というのは、天文ファンはいっぱいいるので、望
遠鏡で見たら、みんな喜ぶんですよね。片や、生き物好き、
ペット好きはいっぱいいるんだけれども、生命の仕組みと
かを説明したってだれもそこには興味を持たないですから、
もうこれはどうしようもないので、そこはもうさっさとあ
きらめて、むしろ、ほんとうにサイエンスを突き詰めてい
ただきたいなと私は思うんです。
それで、やはりスパコンというのは大事だと思うんです
が、10ペタコンというのは、今の時代でいけば、ほんとう
に世界の最先端のマシンですから、それを使って研究をや
る方々には、やはりもう何も考えずにサイエンスを突き詰
めてもらいたいと思うんですよね。そしたら、そういうふ
うに突き詰めた結果というのは、やはりノーベル賞級を当
然期待しますので、そうなれば、もう世の中の一般の人に
は説明しなくてもわかってもらえると思うんですね。
それで、そういう意味では、10ペタコンの成果を産業界
にというのもまだ考えなくていいと思うんですよね。むし
ろ、ほんとうに産業界で使うのは何十テラとか、そういっ
たレベルだと思います。だから、10ペタコンができたとき
でも、
そのころ、
例えば大学の基盤センターのスパコンは、
それでも数百テラになっていると思いますけれども、むし
ろ、産業界ではそういうレベルのスパコンを使うすそ野が
どんどん広がればいいと思うんですね。
そういう意味では、
先ほど例えば岡崎先生とかがおっしゃっていたような、あ
あいう教育というのがすごく大事だと思いまして。
ですから、そういう意味では、10ペタコンではサイエン
スですけど、それがおそらく産業界のほうでもおっと思う
ものが出てくると思うんですよね。そういう中で、産業界
の方にも、
ぜひ計算科学の研究室を出た学生さんというか、
ドクターの方を受け入れてもらいたいし、おそらくそうい
う雰囲気が出るような成功事例を10ペタコンを使ってどん
どん出してもらいたいなと私は思っています。
先ほど産業界の利用の関係で、最先端の部分と、あるい
はやはり新たなものを生み出す部分を見せないとなかなか
難しいよと、なかなか産業界の中でも評価されないよみた
いな話がありましたけど、私は、産業界にとって削る部分
というんですか、コスト削減に係る部分もすごく重要だと
思って、むしろ、そういうところは最先端の10ペタコンじ
ゃなくて100テラスパコンでやるんだと思うんですね。
だか
ら、そこはうまく役割分担をして、最先端のスパコンでは
この先のもの、新しいものを見つける。また、それと同時
に、もうちょっと中規模のスパコンですそ野が広がるとい
うか、そういう部分ではどんどん企業のほうでも、そうい
う意味の導入もしていただいて、コスト削減なんかもやっ
ていただきたい。そういうのを支える人材育成も大事だと
いうことだと思います。
それで、一つ、先ほど岡崎先生が日本のCPU資源、世界で
2%という話がありましたけれども、あれはおそらくトッ
プ500のリストをそのまま足し合わせたんだと思いますけ
れども、あと一つ、それでおもしろいことは、世界の主要
国、そのリストに載っているものを数えると、公的な研究
機関とか政府が持っているスパコンよりも圧倒的に上位国
は民間の産業界のスパコンが多いんです。残念ながら、ア
メリカもフランスもドイツもイタリアとかでもそうです。
中国も産業界のスパコンのほうが多くリストアップされて
います。片や日本は、去年の6月の時点ではランキングに
1台もないと。ようやく去年の最新のリストで1台だけ日
本のはリストアップされた。要は、産業界にそれだけスパ
コンが入っていってないと。これは登録制なので、全部が
登録されているわけじゃないんですけれども、その現実を
見るべきだと思います。だから、世界のトップ国は実は産
業界ではスパコンを随分導入していると。中規模スパコン
とか。それがおそらく日本ではそういう状況になっていな
い。そういうところも変えていかなきゃいけないのではな
いかなと思っています。
【平田】 どうもありがとうございました。我々にとって
はノーベル賞級の結果を出すということは相当大変なこと
でして、その成果のあらわし方、国民に対するいわば表明
24
の仕方といいますか、それが要するにノーベル賞を出せば
いいんだみたいな話になると相当皆さん尻込みをする。も
う何も要らないんだみたいな。多分、そういうことが今も
いろんなところで言われているわけですよね。だから、ノ
ーベル賞というキーワードを使わないで何とか。実は、そ
のノーベル賞自身も、結構最終的にノーベル賞をとってい
る仕事を見てみると、もちろんものすごく基礎的な仕事は
別として、大部分が応用研究に使われて非常に普及したも
のしかノーベル賞をとってないですね、正直言って、大部
分の場合。大体、ノーベル賞そのものがそういう性格を持
っていますので、だから、基礎的な研究でノーベル賞をと
れるような研究というのは相当大変でして、そこら辺のこ
との事情もお酌みいただければ幸いかなと思います。
何か会場でもパネラーでもどちらでもいいですけど。
【兵頭】 今のノーベル賞の話なんですけれども、私の学
生のころって、同級生でおれはノーベル賞とるんだと言っ
て大学に行っているのって結構いたと思うんですよ。冷静
な目で見ると、
無謀なやつだとか、
そんなことがあっても、
でも、その気になって頑張って討ち死にしたりとか、ノー
ベル賞をねらうんじゃなくて、しっかり基礎研究をやって
いけばいいんだというふうにだんだんシフトしていくとか、
そういうのがたくさんいたと思うんですけど、動機として
そういうのを持っているのは結構いたような気がして、今
はどうなのかな。それから、もし今そうでもなくなってい
るんだとすると、科学技術に対するロマンというか、そん
なものが国全体の中でしぼんでいっているかもしれない。
もしそうだとすると、話を戻しちゃいますけど、私の子供
のころって、電子頭脳という話が漫画雑誌にちゃんとかい
てあったんですよね。電子頭脳というのがあって、もし人
間の頭脳と同じだけの機能を発現させようとすると、当時
言われていた、見積もり、でたらめだと思うんですけれど
も、丸ビル1個とか、そんなのが漫画雑誌にかいてあった
りしたんです。そういうのが小学生が読んだりするような
ものにあって、それが受け入れられる社会だったと思うん
ですけれども、そういうのがもしなくなってきているんだ
とすると、どうなんでしょう。何ができるんだろうという
ことになっちゃうんですけれども、そういう夢を訴えるよ
うな、そういうことというのも大事なのかなという気がし
てくるんですけど。
【平田】 何か。今日はかなりざっくばらんな討議になっ
ていますので、ぜひざっくばらんなご意見を。
【奥田】 今の井上さんの話で、産業界にスーパーコンピ
ューターがあまり入っていないという話があったと思うん
です。実は、80年代の後半から90年代のころというのは、
結構いろんなところにスーパーコンピューターが入ってい
たんですけど、だんだんその後それがなかなか入らなくな
って今に至っているわけで、そうは言いつつ、トップ500
は登録制ですので、必ずしも日本の企業の方が入れている
わけでなくて、我々の知っているだけでももっと大きな計
算機を入れているところがたくさんあるわけですよね。そ
れを置いておいたとしても、ちょっと日本の産業構造的な
問題があるのかなという気がしています。というのは、海
外なんかで見ると、一つの企業がものすごく大きいんです
ね。例えば石油だとか、航空宇宙というとヨーロッパは1
個しかありませんし、アメリカも2つか3つしかない。も
のすごく巨大な企業がものすごく巨大な投資をして大きな
計算機を入れているというのが今の現状なんです。彼らは
それを使ってどんどん製品開発している。例えばエアバス
ですと、あれはヨーロッパ全体でものすごい何百テラとい
うマシンを入れているわけですよね。そうすると、その差
は歴然としていて、
別にそれが航空機産業だけではなくて、
そういう意味では、自動車だけは日本はすごく頑張ってい
ます。だから、そういった産業によってかなり変わってき
ていると思うんですね。
そういう意味で、今日話題になっている製薬だとか、化
学メーカーの方がどうなのかというのは僕はよく知りませ
んけれど、そういうところから考えていかないとちょっと
解決ができないのかなという気がするので、日本的なやり
方で、例えば次世代スパコンなり、日本のいろんな大学の
計算機を産業界で自由に使えるようにするとか、新しいス
キームを考えたほうがいいのかなという、産業構造が変え
られないのであればという気がします。
【平田】 ほかに何か。三浦先生。
【三浦】 今、産業界の話が出たので、昔、私がアメリカ
に行ったときに、政府関係に売ろうとして、これは非常に
バリアーが高くてうまくいかなかったので、産業界という
ことで、ケミカル、ファーマスーティカルインダストリー
というのを一応ターゲットにして、かなりいろんなところ
を回ったんですよね。イーライリリーとかブリストル・マ
イヤーズスクイブ、ダウケミカルとか。皆さん既にクレイ
を持っていて、なかなかそれをひっくり返すのが難しかっ
たということがあったんですけど、アメリカのケミカルカ
ンパニー、ファーマスーティカルカンパニーは、やっぱり
奥田さんが言ったように規模が大きいということもあって、
それなりにスパコンを持ってずっと、私が行っているのは
1980年代後半から90年代の話なんですけど、かなり内部的
にはやっていたんだろうという気がします。
あと、民間企業という話では、石油会社が非常にスパコ
ンを持っていまして、エクソンとかシェルとかそういうと
ころがあって、基本的には石油探査とリザバーシミュレー
ションという現存する油田からいかに油を搾り取るかとい
うシミュレーションなんですけど、彼らのモチベーション
は最初からお金なんですよね。要するに、今ある油田が枯
渇して、もう普通のやり方じゃ油は出てこないけど、中で
火を燃やしたり、水蒸気をぶち込んだりすると、1%でも
出れば、クレイ10台分ぐらいのお金が浮くわけですよね。
だから、やっぱり企業はそれくらい$サインがちらちらっ
としたところで買って、それなりに使っているんだという
ことだろうと思いますね。
航空産業って、ボーイングなんか昔から持っている。計
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算センターを自分で持っているぐらい、外部にマシンタイ
ムを売っているぐらいやっていたわけですから、その企業
のスパコン部門といいますか、計算部門というのは昔から
それなりにあったとは思いますけどね。ただ、やっぱりク
ラスターがどんどんコストパフォーマンスがよくなると、
いわゆるプロパーなスパコンというよりもそっちのほうに
どんどん流れているというのが現状だとは思うので、それ
でほんとうに将来の分子計算とかそういうのができるのか
というのはちょっと怪しい気はしますけど。
【平田】 どうもありがとうございました。
【渡辺】 私はシステムの統括をしているので、私のほう
からお願いです。やっぱり口でぐちゃぐちゃ言うよりも実
証すること、これに尽きるというふうに思っております。
我々もできるだけ早くこのシステムを整備するということ
ですけれども、ここにいらっしゃる方はほとんど使う側だ
と思うんですが、使って成果を出すと、もうこれに尽きる
わけですね。これを出すことによって産業界も扱えるもの
だということで投資をしますし、とにかく実証すること、
これに尽きると思います。
これは何だっていいんですよね。
とにかく実証すること、使えるものだと。計算科学でこう
いうことができるんだということを実証する。そのために
は、このシステムを、先ほどから高橋先生が言っています
けど、従来とはやっぱりコンピューターは違ってきている
んですね。もう使い切るためのスキルを磨いてほしいなと
いうふうに思います。これは私からのお願いです。よろし
くお願いいたします。
【平田】 今日はこの会議を終わらせていただきたいと思
います。どうも長い時間ありがとうございました。
―― 了 ――
お願い:本資料は速記録を基に、ナノ統合拠点事務局
にてまとめました。何かお気づきの点などございまし
たら、お手数ですが、以下までメールなどでお知らせ
ください。何卒よろしくお願い致します。
連絡先:次世代ナノ統合事務局
E-mail: [email protected]
FAX: 0564-55-7025、電話:0564-55-7072 野村