コウワ工法によるマンホール浮上防止対策(案) コウワ工法技術 - FiberBit

コウワ工法によるマンホール浮上防止対策(案)
コウワ工法技術協会
1.はじめに
東日本大震災では、大規模地震による津波のために多くの命が失われた。また、世界最大規模とも言
われる液状化被害も報告されている。
コウワ工法技術協会東日本支部のある千葉県浦安市では、防災マニュアルで想定していた震度6強を
下回る震度5強(一部地域では震度6弱と推定される)の揺れにより、人命こそ失われなかったものの
地盤の液状化で10,000戸近い建物が被害を受け、ガス、水道、電気などのライフラインも寸断さ
れた。特に下水道では、液状化による噴出土砂が汚水の管渠やマンホールに流入し管路を閉塞させたた
め、11,000戸が使用を制限され1ヶ月以上使用できない地区もあった。流入土砂の撤去により使
用可能になっても浮上あるいは破損した管渠やマンホールの復旧は残り、1年半余りが経過した現在も
復旧工事が続けられている。
写真−1 マンホール浮上状況(1)
写真−2 マンホール浮上状況(2)
本書では、コウワ工法により下水道施設とりわけマンホールにおける液状化被害を防止する方法につ
いて検討する。
2.液状化によるマンホール浮上現象
粘着力が少ない砂質上や締固めが不十分な地盤では、土粒子の構造が崩れやすく、地震時は沈下が発
生する。地下水がある場合、間隙水の排出が間に合わないため、間隙水圧が上昇し、土粒子の有効応力
が失われ泥水化する。これが液状化である。
今回液状化の被害が大きかった浦安市中町、新町地区は浚渫埋め立てで造成された土地であり、全域
が上記の条件に合致していた。他の都市でも河川の氾濫原や後背湿地、湖沼などの埋立地などで液状化
が顕著であった。また、中越地震で見られたように地盤は液状化しなくても埋戻土が原因の局部的な液
状化による浮上現象も報告されている。
液状化した地盤では、泥水より比重が軽いものが浮上するため、内部が中空で見掛け比重が軽いマン
ホールなどが浮上する。(図−1)マンホールの浮上は、下水道の流下機能の阻害のみならず、緊急車
両等の通行を妨げるため、大きな社会問題である。
図−1 地盤の液状化とマンホールの浮上
3.マンホールの浮上対策
マンホールの浮上防止には,次のような方法がある。
① ドレーンによる液状化時の過剰間隙水の排水
② アンカー・杭による固定
③ 重量化による揚圧力との平衡
④ 地盤改良による固化
⑤ その他①∼④複数の併用等
このうち、①∼③について下水道新技術推進機構の資料から具体的な工法例を示す。
表−1 マンホールの浮上防止工法例
これらのうち、WIDE セフティパイプは①、アンカーウイングは②、マンホールフランジは③に分類
される。また、④の地盤改良は汎用的な方法であり、特定の工法を指すものではない。
これらのうち①、②、④は、埋戻土など液状化の範囲が限定的な場合には有効であるが、地盤全体に
わたる場合には効果がないか、あっても小さいと思われる。
すなわち、①では間隙水が大量に供給され十分に排水できない。②では固定できる(液状化の恐れが
ない)地盤まで距離がある。④は浮上防止に必要な改良範囲がきわめて大きくなる。など、実用上の限
界があるからである。
そこで、地盤全体が液状化しても浮上を防止でき、具体的な方法も容易な③について検証する。
4.重量化によるマンホールの浮上抑制工法
本方式の代表的な工法であるハットリング工法を例に、重量化によるマンホールの浮上抑制について
説明する。
この工法は、中越地震で問題となった埋戻土の液状化によるマンホール浮上抑制工法であり、他の重
量化工法との相違点は、浮上抑止ブロックとマンホールとの間に隙間を設けることにより、地震動によ
る慣性力の増大を防止することだとしている。
この工法の有効性は、東日本大震災における対策済と未対策マンホールとの比較調査により証明され
ている。
施工手順を示す。
1−掘削
3−浮上防止材設置
2−浮上抑止ブロック設置
4−砕石埋め戻し、路盤復旧
5.小型立坑における浮上防止の効果
(1)鋼製ケーシング
鋼製ケーシング立坑内にマンホールを構築した場合、常時の荷重状況を示す。
(図−2)
存置された鋼製ケーシング内のマンホール、底盤コンクリート、埋戻材は一体構造物となっており、
常時は、この浮上および沈下が問題となる。地震時には、活荷重(q)は考慮する必要がない。また、
液状化が発生すると、ケーシングと地山の摩擦力(R)および底盤コンクリートと地山との付着力(F)
は働かない。また、地盤の支持力(Q)に替わり液状化により噴出した泥水による浮力が生じる。
その場合には、立坑の比重が周囲の土とほぼ同様であることから荷重がバランスし、浮上を生じる危
険性は少ないと考えられる。ここで、埋戻材が流動化処理土のように底盤コンクリートおよびマンホー
ルと一体となるものならば、立坑内に外部から地下水が浸入して内部の間隙水圧が上昇することはない
が、砂の場合には地震動によりケーシング刃先が底盤コンクリートからずれると、坑内に地下水が浸入
し過剰間隙水圧が発生、開削の埋め戻しと同様に内部のマンホールのみが浮上する危険性がある。
q
W
R
W:鉛直荷重(人孔・立坑・埋戻し土)
R:ケーシングと地山の摩擦力
R
F:底盤コンクリートと地山との付着力
R
q:活荷重
R
Q:地盤の支持力
R
F
Q
底盤コンクリート
図−2 鋼製ケーシング(一般)の荷重状態
コウワ工法では、底盤コンクリート打設後のケーシング引き上げを行わない。そのため、ケーシング
刃先は底盤コンクリートの下の地山まで貫入している。(図−3)ここに地震動が作用しても、立坑と
マンホール、埋め戻し土は一体のまま挙動し、内部に地下水が浸入することもない。したがって、立坑
内のマンホールが浮上する危険はない。
q
W:鉛直荷重(人孔・立坑・埋戻し土)
W
R
R:ケーシングと地山の摩擦力
R
q:活荷重
R
Q:地盤の支持力
R
R
R
Q
底盤コンクリート
図−3 鋼製ケーシング(引き上げない場合)の荷重状態
(2)コンクリート製
コンクリート製立坑では、土留めのコンクリートブロックをそのままマンホールの躯体として利用す
る。MM ホールと沈設立坑においては、躯体厚が開削用の組立マンホールより大きく、MM ホールでは
さらに底盤コンクリート(厚さ95cm)を打設することから、組み立てマンホールを重量化したのと
同じような効果がある。今回の東日本大震災における MM ホール協会の追跡調査でも、浮上被害は皆無
であった。
一方、MM ホールSは躯体厚が開削用の組立マンホールと同じで、底盤コンクリート厚も1号マンホ
ールで60cmとMMホールと比べて小さいため、重量化の効果は薄い。したがって、そのままでは液
状化により浮上する危険性がある。
しかし、MMホールSは施工過程で、下図のように鋼製ケーシングによる一次土留と内部掘削を行う。
この一次土留はマンホール完成まで設置されているため、ここに前述のハットリング工法のような重量
上部二次製品等 H4
1000mm
鋼製ケーシング
立 坑 深 H1
450
底盤コンクリート
200mm
根入長
t1
圧 入 掘 削 深
H3
コンクリート製 ブロック H5
300
根入長
200mm
先行掘削深 H2
化対策を講じることは容易である。
図−4 MMホールS
6.コウワ工法による既設マンホールの浮上抑制対策
既設マンホールの浮上抑止対策をコウワ工法で施工することができる。前述のハットリング工法は、
深さ1mを開削し浮上抑止ブロックを設置するが、これでは将来他の埋設物を布設する際に障害となる。
これを鋼製ケーシングにより2m程度まで掘削し、浮上抑止ブロックを設置すれば、これが将来の埋設
物の支障となる可能性は低減される。また、砕石などの重量化材の容積も大きくなるため、浮上防止効
果が増進される。
具体的な施工手順案を示す。
① 舗装切断
一般にはコンクリートカッタで舗装を切断するが、刃先に切削ビットを装着した鋼製ケーシン
グ(φ2m、長さ2m程度)をコウワ機で回転圧入することで、舗装を切断することも可能であ
る。
② 鋼製ケーシング圧入
コウワ機により鋼製ケーシングを回転圧入する。
③ 掘削
一般には小型のクラムシェルあるいはバックホーにより掘削するが、マンホールと鋼製ケーシ
ングの隙間が小さいため、掘削が困難となることが予想される。
そこで、鋼管推進で掘削排土に用いられるリボンスクリュを鉛直方向に使い、土留めケーシン
グよりやや小さな径の鋼管内に装着し、この鋼管を回転圧入することにより鋼管とマンホールと
の隙間を効率的に掘削することが可能である。リボンスクリュの内径をマンホール外径より大き
くすれば、スクリュの回転によりマンホールに傷がつくことはない。
図―5 鋼管推進におけるリボンスクリュ
④ 浮上防止材設置
ハットリング工法をはじめ、さまざまな材料が提案されている。コウワ工法による施工に最適
な材料を検討していきたい。
⑤ 埋戻し、舗装復旧
一般的な方法による。
既設マンホールの浮上抑制対策をコウワ工法で行うメリットは、前述の浮上抑制材を深く設置できる
こと以外に、施工スピード向上とコスト低減が可能な点である。
本案による実績はまだないが、立坑構築で培ったノウハウを駆使すれば容易に実施できると思われる。
7.おわりに
最近は、首都圏直下型や東南海連動地震などの減災や防災について話題になることが多い。また、液
状化で被災した建造物やライフラインの復旧も着実に進められている。コウワ工法技術協会はコウワ工
法を通じてこれらに貢献できるよう今後とも検討を進めたい。