Ⅰ.統合までの経過 - 農林年金

Ⅰ.統合までの経過
1. 農林年金の歩み
(1) 農林年金制度の創設
農林年金は、昭和 34 年1月に厚生年金から分離・独立して、農林漁業団体の役職員
を対象とする共済組合として発足しました。
農林漁業団体の役職員は、ほぼ同一の職場環境にある市町村役場の職員に比べて、給
与が低いばかりか、これら市町村職員には厚生年金より高い給付内容をもつ市町村職員
共済組合が設けられていたことから、年金受給など老後保障の面でもかなり低い環境に
ありました。
こうした背景のもとに、農林年金は、市町村職員並みの年金水準の確保をめざした結
果、昭和 39 年の法律改正により、その目標をほぼ実現することができました。さらに、
その後も法律改正を通じて制度の充実を図り、昭和 44 年の法律改正により、年金額改定
法が制定されたことで、公務員と同様な年金額改定を実施することができました。
(2) 農林年金が果たした役割と新年金制度
その後、幾多の法改正を経て公務員共済並みの給付水準を実現していくとともに、自
動物価スライド制の導入により年金額の実質的価値の維持が図られるなど、農林年金制
度は、役職員の老後生活の安定を図る職域年金制度の役割を果たしてきました。
一方、政府においては、就業構造の変化、制度の成熟化の進展等に対応して、公的年
金制度の長期的安定と整合性ある発展を図るため、昭和 50 年代後半以降、財政単位の拡
大と共通部分の費用負担の平準化を図ることを基本に、被用者年金制度の一元化を進め
ました。その第一段階として、昭和 61 年 4 月からの基礎年金制度の創設をはじめとす
る公的年金制度改革がすすめられ、被用者年金制度を含めすべての公的年金制度が基礎
年金を基盤とする仕組みに組み入れられることになりました。
同時に、厚生年金を上回る共済年金の部分は職域年金部分として再構築されることに
なり、農林年金も国家公務員共済組合や地方公務員共済組合と同様、3 階部分を持つ制
度に生まれ変わりました。
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○
組合員数の推移
○ 農林年金制度の歩み
時期
主な改正等
昭和 34 年 01 月
農林年金制度の設立:制度内容は、国家公務員共済の旧法にならう
昭和 36 年 04 月
国民年金制度の発足:通算年金制度の創設
昭和 39 年 10 月
給付内容を国家公務員共済の新法に合わせる
昭和 44 年 11 月
年金額改定法の制定
昭和 49 年 09 月
年金額のスライドに物価スライドを導入
昭和 53 年 05 月
女子の退職一時金の全額受給制度の廃止(男子は昭和 44 年 10 月)
昭和 55 年 01 月
退職一時金の廃止、以後は脱退一時金
昭和 55 年 07 月
退職年金の支給開始年齢の引上げ
昭和 61 年 04 月
新国民年金(基礎年金制度)の施行
平成 02 年 04 月
年金額の完全自動物価スライドの導入
平成 77 年 04 月
退職共済年金の退職要件の撤廃、在職支給制度の改善
平成 10 年 04 月
特別支給の退職共済年金と雇用保険との調整の開始
平成 12 年 04 月
給与比例部分の支給率の 5%抑制
平成 13 年 04 月
退職共済年金の満額支給開始年齢の引上げの開始
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(3) 厚生年金との統合と特例年金制度
平成 8 年 3 月 8 日の閣議決定において、旧三公社共済は「平成 9 年度に厚生年金保険に統
合する」こと、農林年金については「構成団体の組織整備の進展が制度基盤に与える影響を
踏まえつつ、財政再計算時ごとに将来の財政見通し等について分析を行い、
被用者年金制度全
体の中における制度の位置付けについて検討を行う」こととされました。
農林年金の役職員数(組合員数)は平成 7 年度から減少に転じていましたが、平成 8 年 7
月には、JA グループにおいて 5 万人削減方針が策定されました。このような状況の中、平
成 11 年に財政再計算を迎えるに当たり、農林年金制度の長期的運営のあり方について検討
した結果、農林年金が将来とも独立して運営していくことは、団体や組合員に過大な負担を
強いることが見通されることとなりました。そこで、平成 10 年 4 月に農林年金制度対策本
部を立ち上げ、農林漁業団体をあげて厚生年金との統合に取り組むこととしました。
統合に向けての組織内外の合意形成、統合法案の成立等、4 年に及ぶ取り組みを経て、平
成 14 年 4 月に厚生年金との統合が実現しました。
統合により、農林年金は公的年金制度から職域年金制度へと衣替えし、統合前の加入期間
に対応した特例年金を支給する存続組合として再出発することとなりました。
(4) 統合後の農林年金
農林年金は、昭和 34 年 1 月に厚生年金から分離独立して以来、40 数年にわたり農林漁業
団体役職員のための公的な年金制度として老後の所得保障を担ってきました。統合後は、農
林漁業団体に特例業務負担金をご負担いただきながら、厚生年金保険には置かれていない職
域年金部分(3 階部分)を給付する制度に衣替えしました。
なお、統合法(平成 13 年法律第 101 号)第 1 条により、農林年金は設立根拠となってい
た農林漁業団体職員共済組合法(昭和 33 年法律第 99 号)により廃止されましたが、統合後
は統合法附則第 25 条第 1 項に基づく存続組合として位置付けられています。
「厚生年金保険制度及び農林漁業団体職員共済組合制度の統合を図
〈メモ〉
「統合法」とは、
るための農林漁業団体職員共済組合法等を廃止する等の法律」の略です。
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○厚生年金との統合の理由(
「厚生年金との統合に向けて-最終整理案(案)
」-)より)
1 年金制度は財政単位が大きいほど安定しますが、厚生年金(加入者 3300 万人)に比べて圧
倒的に加入者規模の小さい農林年金(加入者は、平成 10 年度 48 万人であり、厚生年金加
入者の約 1.5%)は、就業構造の変化の影響を強く受けるようになること。
2 農林年金の成熟率は、JA グループが 5 万人の職員削減を進めていることもあって、制度の
成熟化が厚生年金よりも先行していること。
3 各年金・共済制度から基礎年金への拠出は給与比例でなく人頭割で行われており、制度全
体としての給与水準が最も低い農林年金は、基礎年金拠出金のための掛金率が最も高くなっ
ていること。
4 こうしたことから、既に農林年金の掛金率は共済制度中最も高くなっていますが、成熟化
の進展等に伴い今後更に掛金率を引き上げていった場合に、農林年金の組合員の合意が得ら
れない水準に達し、制度の安定した運営に支障が生じる恐れもあるなど、独立運営を続ける
と将来に不安があること。
○ 公的年金制度の体系
- 共 済 年 金 -
特例年金
職 域年 金 部 分
【3 階】
私立学校教職員
14年4月統合
地方公務員
農林漁業
団体職員
国家公務員
厚生年金
農林漁業団体職員
【1 階部分】
○全国民共通の年金として国民年金が支
給する基礎年金
○保険料納付期間に応じた定額給付
【2 階部分】
○基礎年金の上乗せとして厚生年金や共
済年金が支給する報酬比例の年金
○加入期間とその期間中に受けていた平
均標準報酬に応じた給付
【3 階部分】
○共済年金の職域相当部分
【2 階】
【1 階】
国 民 年 金 ( 基 礎 年 金 )
第 2 号被保険者
第1号被保険者
第 3 号被保険者
農林漁業者
自営業者 等
第 2 号被保険者
の被扶養配偶者
民間サラリーマン
公務員等
2,035 万人
1,063 万人
3,457 万人
451 万人
(平成 20 年 3 月末現在)
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2. 厚生年金との統合と年金給付の分割
(1) 統合前の組合員期間の扱い
① 平成 14 年 4 月 1 日の厚生年金との統合に伴い、それまで農林年金に加入してい
た人は、統合日前日に 70 歳以上(昭和 7 年 4 月 1 日以前生)の人等を除き、厚生
年金保険の適用を受け、厚生年金の被保険者となりました。
② 統合法の施行により、統合前の農林年金の組合員期間は、
「厚生年金の被保険者
期間であった期間」とみなされることになりました。ただし、統合前に農林年金か
ら退職一時金を全額受けた期間等、年金給付の算定基礎にならない期間については、
厚生年金の被保険者期間とはみなされません。
(2) 統合後の年金給付
① 厚生年金との統合により、統合前に農林年金が支給していた年金給付は、移行年
金給付(厚生年金に移行し社会保険庁が支給する年金)と特例年金給付(統合前の
職域年金部分を統合後に引き続き農林年金が支給する年金)に分割されました。
a 新共済年金(昭和 61 年 4 月以後に受給権が発生した人)
厚生年金には職域年金部分(3 階部分)がないため、定額部分、報酬比例部分
(1、2 階部分)が厚生年金へ移行され、職域年金部分は統合後も引き続き農林年
金が特例年金として支給することとなりました。
b 旧共済年金(昭和 61 年 3 月以前に受給権が発生した人)
旧共済年金には新共済年金のような職域年金部分等の構成区分がないことから、
三共済(平成 9 年に厚生年金へ統合した JR、JT、NTT 共済)の例にならい、全
体の年金額のうち、100/110 が厚生年金へ移行され、10/110 は農林年金が特例年
金として支給することとなりました。
② 統合後に受給権が生じる厚生年金は、
「厚生年金の被保険者期間であった期間」と
みなされた期間を含め、すべての厚生年金被保険者期間を通算して、厚生年金保険
の規定により給付が行われます。なお、統合前に農林年金に加入していた期間につ
いては、特例年金が支給されます。
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○ 厚生年金への移行の形
(1) 新共済年金を受給していた人
(統合前)
(統合後)
職域年金(農林年金)
特例年金(農林年金)
3 階部分
移行年金(厚生年金)
報酬比例部分
報酬比例部分
1・2 階部分
定 額 部 分
定 額 部 分
(2) 旧共済年金を受給していた人
(統合前)
(統合後)
報酬比例部分
定 額 部 分
10/110
特例年金(農林年金)
100/110
移行年金(厚生年金)
【イメージ:統合前から農林年金を受給していた人の年金給付】
(職域年金部分)
基本額
農林年金(特例年金)
従前額との差額保障分
農林年金
(厚生年金部分)
移行年金(厚生年金、報酬比例部分)
定額部分
(定額部分)
基礎年金
農林年金加入
就 職
退 職
年金加入
(農林漁業団体勤務)
65 歳
統 合
年金受給
※事例は、S.61.4~H.14.3 の間に受給権が生じた新法年金者
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3.統合前から農林年金を受給していた人の特例年金
(1) 統合前にすでに受給権が発生している年金は、社会保険庁から支給される移行年金
(厚生年金給付)と農林年金から支給される特例年金に分割されました。しかし、退職
共済年金等、旧農林年金法に基づき計算された年金は、厚生年金保険法により再計算す
ると受給額が低くなります。そこで、既得権を尊重する観点から、統合日前日に受けて
いた額を保障し、その部分を特例年金の基本額に加えて支給することになりました。
従前保障額
=
統合日前日の額
(1~3 階)
-
統合以後の額
(1・2 階)
【注1】
統合日前日の額は、加給年金額及び老齢基礎年金相当額を除いた額。
【注2】
統合日以後の額は、加給年金を除いた額。
(2) 統合後、物価上昇等により移行年金がスライド改定により増額された場合は、差額
保障部分が少なくなり、その分の特例年金額が減額されます。また、統合日以後の額が
統合日前日の額を上回った場合は、従前額保障の適用はなくなり、その後は、特例年金
の基本額のみ支給されることになります。
(3) 平成 16 年 10 月に、デフレ経済の長期化等、統合時に想定しえなかった事態に対応
するため、従前保障額(統合日前日の年金額)を引き下げる改正を行いました。その内
容は、従前保障額を過去 5 年の物価変動に応じて 2.9%引き下げる内容のものでした。
また、各年の物価指数が平成 15 年の指数に比べて低下した場合は、平成 16 年 10 月
改定後の従前保障額を物価比率に応じて引き下げる仕組みに改正されました。
【参考】
従前額保障とは、統合前の「農林年金の額」と統合後の「厚生年金+特例年金の合計額」の差額
を、従前額保障部分として支給することから、物価が上昇し厚生年金額がスライドして増額してい
く場合は、この従前額保障部分は次第に縮小していくことになります。
しかし、逆に物価の下落により厚生年金額が減額するときは、この減額部分を補填して特例年金
と合わせて支給することになり、従前額保障部分は拡大することになります。
平成 16 年の法改正は、物価の下落が長期化し厚生年金の減額改定が続き、特例年金財政からの負
担(持ち出し)が拡大し財政負担が大きくなるため、従前額保障のやり方を見直したものです。
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【イメージ:従前額保障】
(1)当初の考え方
職域年金部分
基本額
差額保障部分
基本額
差額保障部分
スライド増加額
報酬比例部分
+
定額部分
(農林年金)
(平成14 年3 月31 日)
移行年金
(厚生年金)
移行年金
(厚生年金)
(平成 14 年 4 月 1 日)
(将来)
① 統合時に農林年金を受給していた人の年金は、移行年金と特例年金とに分割さ
れ、統合日前日の年金額(従前額)が保障されました。
② これにより物価等が上昇し、移行年金額が増額改定された場合は、差額保障部
分は少なくなることから、特例年金全体の支給額も少なくなります。
③ 老齢厚生年金は平成 15 年 4 月に 0.9%、平成 16 年 4 月に 0.3%それぞれマイ
ナス改定が行われたことから差額保障部分は拡大し、特例年金の支給額が増える
結果になりました。
(2)平成 16 年改正後の形
職域年金部分
基本額 ①
(①+②+③)×△2.9%
基本額
差額保障部分 ②
差額保障部分
報酬比例部分
+
定額部分
移行年金 ③
(農林年金)
(厚生年金)
(平成14 年3 月31 日)
(平成 14 年 4 月 1 日)
移行年金
(厚生年金)
(平成16 年10 月改正)
【注】移行年金は平成 15 年 4 月に▲0.9%、平成 16 年 4 月に▲0.3%の減額改定が行わ
れています。
(平成 16 年 10 月に改定されたものではありません。
)
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