夜明けを告げる人々

夜明けを告げる人びと
序文
こ の本 で、シ エイ キ・ア ーマ ドとセ イエ ド・カ ゼム という 偉大 な人物 に関 して入 手
で きた話 を最 初に述 べ、 その後 で、 一八四 四年 から現 在( 一八八 八年 )まで の間 に起
こ った主 な事 件を年 代順 に述べ てみ ようと 思う 。これ は神 の助け がな ければ でき ない
仕事である。
事 件の いくつ かは くわし く述 べ、そ のほ かの事 件は 簡潔に 述べ てみた い。 わたし 自
身 が目撃 した 出来事 、ま たは、 信頼 できる 人た ちの報 告を 述べる が、 その場 合は すべ
て 、報告 者の 名前と 身分 をはっ きり とさせ たい 。この 本を 書くに あた って大 変お 世話
に なる方 々は 、バブ の秘 書のア ーマ ド・ガ ズビ ニ、エ スマ イル・ ザビ 、ゾヌ ジ、 アブ
ト ラブ・ ガズ ビニ、 そし て最後 に述 べるが 同じ く重要 な方 である バハ オラの 弟の ミル
ザ・ムサ、すなわちアガ・カリムである。
こ の最 初の部 分の 完成に 援助 を下さ れた 神に感 謝を 捧げた いと 思う。 さら にバハ オ
ラ の祝福 と承 認をも 得た が、そ れに 対して も神 に感謝 する 次第で ある 。バハ オラ は最
初 の部分 に注 意を向 けら れ、秘 書の アガ・ ジャ ンに朗 読さ せて、 満足 の意を 表さ れた
のである。この仕事を進めてゆく上で、踏み間違えたり、たじろいだりしないように、
全能なる神の支持と導きを祈るばかりである。
モハメッド・ザランディ
(称号:ナビル・アザム)
アッカ、パレスチナ
西暦一八八八年
第一章
シェイキ・アーマドの使命
モ ハメ ッドの 宗教 に無知 と狂 信がは びこ り、宗 派間 の争い で真 理の輝 きが くもっ て
し まった 時代 に、東 方か らきら めく 星、す なわ ちシェ イキ ・アー マド という 神の 導き
をもたらす人が現われた。かれは、イスラム教が分裂し、力が弱まり、目的が堕落し、
そ の聖な る名 声が汚 され たのを 悟っ た。ま た、 イスラ ム教 のシー ア派 の腐敗 と争 いを
目にして苦悩に満たされたのである。
そ こで 、内部 でき らめく 光に 鼓舞さ れ、 明確な ビジ ョンと 確固 とした 目的 をもち 、
ま た俗世 への 愛着を 断ち 、崇高 な心 をもっ て立 ち上が った 。それ はイ スラム 教が 下劣
な 人びと に裏 切られ たこ とへの 抗議 でもあ った 。この 使命 がいか に重 大であ るか を認
識 してい たか れは、 シー ア派の 信者 だけで なく 、東洋 のイ スラム 教徒 全体に 熱烈 に訴
え た。怠 慢の 眠りか ら覚 め、時 満ち て出現 され る偉大 なる 御方の ため に準備 をと との
えるように呼びかけた。さらに、イスラム教をおおってしまった偏見と無知のもやは、
その御方のみが散らすことができると訴えたのである。(pp.1-2)
そ のあ と、ア ーマ ドはバ ーレ ーンの 島に ある実 家と 親族を はな れ、ペ ルシ ャ湾の 南
方 に向か った 。全能 の神 に命じ られ た通り 、イ スラム 教典 の聖句 に秘 められ た意 義を
解 くため に出 発した ので ある。 その 聖句に は、 新しい 神の 顕示者 (神 の使者 )の 到来
が 予告さ れて いた。 かれ は、そ の道 につき まと う危険 と責 任の重 大さ をも十 分認 識し
ていた。
ア ーマ ドの魂 には 燃える よう な確信 があ った。 それ は、イ スラ ム教内 部で どれほ ど
思 い切っ た改 革が行 われ ても、 この よこし まな 人びと を再 生させ るこ とはで きな い、
と いう確 信で ある。 イス ラム教 典に も予告 され ている よう に、新 しい 啓示以 外に は、
こ の堕落 した 宗教を 再生 し、そ の純 粋さを 復活 できる もの はない こと に十分 気づ いて
い たので ある 。また 、こ のこと を実 証する のが 、神か ら自 分に定 めら れた運 命で ある
ことも知っていた。
一 七八 三年、 四〇 才にな った かれは 、家 屋財産 をい っさい 残し 、神以 外の すべて へ
の 愛着を 断ち 、何か に駆 りたて られ るよう に、 残りの 生涯 をこの 任務 にささ げる 決心
で立ち上がった。まず、ナジャフの町とカルベラの町に行き、そこで、二、三年の間、
イスラム教僧侶の思想や慣習を十分学んだ。
や がて 、かれ はそ の地方 でイ スラム 教典 の権威 ある 解説者 とし て認め られ るよう に
な り、ム ジタ ヒッド (イ スラム 教法 の学者 )と 呼ばれ るよ うにな った 。そし て、 その
地 方とほ かの 地方か ら来 ている 同僚 よりも 優位 に立つ よう になっ た。 同僚た ちは 、か
れ を神の 啓示 にかく され た神秘 を解 き、モ ハメ ッドと エマ ム(モ ハメ ッドの 後継 者)
の難解な言葉を解明する資格をそなえた人と見なしたのである。(p.2)
こ うし て、ア ーマ ドの影 響と 権威が ひろ がるに つれ て、熱 心な 探求者 たち の数も ま
すます増えていった。かれらはイスラム教の複雑な教えの解明を求めてきたのである。
ア ーマド はど れほど 難解 な質問 にも 十分答 える ことが でき た。そ の知 識と大 胆さ は、
ス ーフィ 派や 新プラ トン 派など の宗 派の信 者た ちを恐 怖に おのの かせ るほど であった。
か れらは アー マドの 学識 を羨む と同 時にそ の容 赦ない 態度 を恐れ た。 このこ とは 、そ
れ らの宗 派を 、あい まい で異端 の教 義を広 める 者らで ある と批判 して いた僧 侶た ちを
一 層よろ こば せるこ とに なった 。こ のよう に、 アーマ ドは 高い名 声を 得、深 い尊 敬を
受 けてい たが 、自身 は称 賛され るの を極度 にき らった 。称 賛者た ちの 高い地 位や 階級
に 対する 卑屈 な愛着 にお どろき 、そ ういっ たも のに関 与す ること を堅 く拒否 した ので
ある。(p.3)
ア ーマ ドは、 ナジ ャフと カル ベラで 目的 を果た した 後、ペ ルシ ャから 漂っ てくる 芳
香 を嗅ぎ 、そ の地に 馳せ たいと いう 願望で いっ ぱいに なっ た。友 人た ちには 、本 当の
動 機はか くし て、ペ ルシ ャ湾経 由で その望 みの 国に向 かっ た。表 向き の理由 は、 マシ
ュハドの町にあるエマム・レザの廟を訪問することであった。
アーマドの魂には、だれにも漏らしていない秘密が重荷となってのしかかっていた。
そ の重荷 をお ろした いと いう願 いか ら、自 分の 秘密を 聞い てくれ る人 を行く 先々 で必
死 に探し 求め た。シ ラズ の町に 到着 すると すぐ 、その 外形 がメッ カの 聖なる 廟に ひじ
ょ うに似 てい るモス クに おもむ いた 。シラ ズは 神のか くさ れた宝 物が 秘めら れて いる
と ころで あり 、新し い顕 示者の 先駆 者の宣 言が 聞かれ るよ うに定 めら れてい た町 であ
った。
そのモスクをじっと見つめながら、かれはつぎの言葉をくりかえした。
「実に、この
神 の建物 には もろも ろの しるし があ らわれ てい るが、 洞察 力をそ なえ た者だ けが 認め
ることができるものだ。この建物の建築者は、神から霊感を受けた者にちがいない。」
ア ーマ ドはシ ラズ の町を 大変 な情熱 をこ めて称 賛し た。そ の熱 烈な語 調に 人びと は
おどろいた。ここを平凡な町だと思っていたからである。アーマドはかれらに述べた。
「 おどろ いて はなら ない 。わた しの 言葉の 秘密 はまも なく 明らか にさ れる。 皆の うち
何人かは生き延びて、古の予言者たちが待望してきた日の栄光を目撃するであろう。」
(pp.4-5)
こ の町 の僧侶 たち は、ア ーマ ドと言 葉を 交わし 、そ の知識 の深 遠さに 圧倒 された 。
か れらは アー マドの 神秘 的な言 葉の 意味が 把握 できな いこ とを表 明し 、それ は自 分た
ちの能力不足のせいだとした。
自 分の 呼びか けに 敏感に 反応 した人 びと の心に 、神 の知識 の種 を植え た後 、アー マ
ド はヤズ ドの 町に向 かっ た。そ こに しばら く滞 在し、 胸中 に秘め てい る真理 を休 むこ
と なく広 めつ づけた 。か れの著 書と 書簡の 大半 はこの 町で 書かれ た。 そのう ち、 ペル
シ ャのフ ァト ・アリ 国王 は、ア ーマ ドの高 い名 声に心 を動 かされ 、テ ヘラン から かれ
に 書簡を 送り 、イス ラム 教の複 雑な 教えに 関し て解答 を求 めた。 それ は、国 の指 導的
な僧侶たちさえも解明できないものであった。
ア ーマ ドは国 王の 質問を 快く 受け、 書簡 で解答 を送 り、レ スア レイ・ サル タネイ と
い う題目 をつ けた。 その 解答に 十分 満足し た国 王は、 すぐ 第二の 書簡 を送り 、か れを
宮廷に招待した。アーマドはつぎのように返答した。
「ナジャフとカルベラを出発して
以 来、マ シュ ハドの エマ ム・レ ザの 廟を訪 れ、 敬意を 表し たいと 望ん できま した 。あ
え て陛下 にこ ん願い たし ます。 この わたし の誓 いを果 たさ せて下 さい 。後日 、神 のお
ぼ しめし があ れば、 陛下 がわた しに 授けら れま した栄 誉に 授かり たい と望ん でお りま
す。」(p.5)
ヤ ズド の町で 、ア ーマド は神 の光を もた らした が、 それに 目覚 めた人 びと の中に 、
ア ブドル ・ヴ ァハブ とい うひじ ょう に敬虔 で、 正直で 、神 を畏れ る人 がいた 。こ の人
は 、権威 と学 識で知 られ ている コー レケと いう 人を伴 って アーマ ドを 毎日訪 れた 。と
こ ろが時 折、 アーマ ドは この学 識者 に、ア ブド ル・ヴ ァハ ブと内 密の 話があ るの で席
を 外して くれ るよう にと 頼んだ 。す なわち 、自 分が好 意を 寄せて いる 弟子と 二人 きり
に してく れる ように 要請 したの であ る。こ のこ とに、 学識 者のコ ーレ ケはひ じょ うに
お どろい た。 つまり 、ア ブドル ・ヴ ァハブ のよ うな低 い身 分の無 学者 に、ア ーマ ドが
こ れほど の好 意を示 すと いうこ とは 、自分 の方 がすぐ れて おり、 業績 がある と思 って
いるコーレケにとっては大変なおどろきであったのである。
と ころ が、ア ーマ ドがヤ ズド を発っ た後 、アブ ドル ・ヴァ ハブ は世間 から 引退し 、
ス ーフィ とみ なされ るよ うにな った 。しか し、 スーフ ィ派 共同体 の正 統派の 指導 者た
ち から、 侵入 者であ ると 非難さ れ、 指導者 の地 位をう ばお うとし てい るので はな いか
と 疑われ た。 かれは スー フィの 教義 に特別 惹か れてい るわ けでは なか ったの で、 その
い われの ない 非難を さげ すみ、 スー フィの 社会 を避け るよ うにな った 。そし て、 親し
い 友とし てハ ジ・ハ サン を選び 、か れとだ け交 際し、 師の アーマ ドか ら託さ れて いた
秘 密をか れに 打ち明 けた 。アブ ドル ・ヴァ ハブ の死後 、こ の友人 はか れの模 範に した
がい、心を開いている人びとに、差し迫ってきた神の啓示の吉報を告げた。(p.7)
カシャンの町で、わたし(著者)はマムードという人に会ったことがある。かれは、
そ の時か れは 九十才 を越 えてお り、 多くの 人び とから 深く 敬愛さ れて いた。 つぎ の話
は、かれがしてくれたものである。
「わたしがまだ若くてカシャンに住んでいたときのことです。新しい啓示の吉報を告げる
ためにナイエンの町で立ち上がった人について耳にしました。その人の話を聞いた者は学
者でも、政府の役人でも、無学の人でもすべて魅せられてしまうというのです。その人の
影響力は大きく、接触した人たちは世俗をすて富をさげずむようになると聞いたのです。
わたしは真実を確かめたいという好奇心から、友人たちには気づかれないようにナイエ
ンに向かいました。そこで、そのうわさが真実であることを確認したのです。その人の顔
の輝きが、魂に点された光を証明していました。ある日、朝の祈りの後で、かれはこう語
りました。
『まもなく、地球は楽園となるであろう。まもなく、ペルシャは廟となり、地上
の人びとはそのまわりを回るようになるであろう。』
ある夜明け方に、かれが顔を地面に伏せ、祈りに没頭した状態で、”アラホ・アクバ
ー”(神は最も偉大なり)と、くり返しているのを見ました。びっくりしたことに、か
れはわたし(マムード)の方を向いて、こう言ったのです。
『わたしが皆に知らせてき
た ことが 今現 わされ た。 まさし くこ の時間 に、 約束の 御方 の光が 現わ れ、世 界に その
光 を注ぎ はじ めたの だ。 マムー ドよ 、あな たに ぜひこ のこ とを言 って おきた い。 あな
たは生き長らえて、時代の中でもっとも聖なる時代を見ることになろう。』
こ の聖 人(ア ーマ ド)の 言葉 は、わ たし の耳に ずっ と鳴り ひび いてい まし た。そ し
て ついに 、一 八四四 年シ ラズの 町か ら出さ れた 聖なる 呼び 声(バ ブの 宣言) を聞 くこ
と ができ たの です。 しか し悲し いこ とに、 体調 をくず して いたた めに 、その 町に 行く
こ とがで きま せんで した 。後日 、新 しい啓 示の 先駆者 であ るバブ がカ シャン に到 着さ
れ 、ジャ ニ宅 に賓客 とし て三日 間滞 在され たと きも、 その ことを 知ら なかっ たた め、
バ ブの御 前に 出る栄 光を 失った ので す。そ の後 しばら くた ったあ る日 、バブ の弟 子た
ち と話を 交わ してい ると き、バ ブの 誕生日 は一 八一九 年十 月二十 日に あたる こと を知
ら されま した 。とこ ろが 、この 日が 約束の 御方 (バハ オラ )の誕 生日 として ハジ ・ハ
サ ンが述 べた 日と一 致し ないこ とに 気がつ いた のです 。実 際、こ の二 つの日 付の 間に
は二年の差があったのです。このことで、わたしはひどく途方に暮れてしまいました。
(p.8)
し かし 、それ から 長い月 日が たった ある 日、カ マロ ドとい う人 が、バ グダ ッドで バ
ハ オラの 啓示 が明ら かに された こと を知ら せ、 バハオ ラが 著わさ れた <ナイ チン ゲー
ル の詩歌 >か らいく つか の句と 、< かくさ れた る言葉 >の ベルシ ャ編 とアラ ビア 編か
ら 何節か をわ たしに 紹介 してく れま した。 かれ が、そ れら の聖な る言 葉を詠 唱す るの
を 聞いて 、わ たしは 魂の 奥底か ら感 動した ので す。つ ぎの 言葉は いま でもあ ざや かに
思い出されます。
『おお実在の子よ。なんじの心はわが住家である。わが降臨のために
それを清めよ。なんじの精神はわが啓示の場である。わが顕示のためにそれを清めよ。』
『おお地の子よ。なんじわれを欲するならば、われ以外のだれをも求めてはならない。
ま た、わ が美 を見つ めん と欲す るな らば、 世界 とその 中に あるす べて のもの に眼 を閉
じ よ。わ が意 志と、 われ 以外の もの の意志 とは 、火と 水の ごとく 、一 つの心 の中 に住
むことはできないゆえに。』
そこでバハオラの誕生日を聞いたところ、『一八一七年十一月十二日の夜明けです』
と いう答 えが もどっ てき ました 。そ れを聞 いた 瞬間、 ハジ ・ハサ ンの 言葉を 思い 浮か
べ 、かれ がこ の日に つい て語っ てい たこと を思 い起こ した のです 。わ たしは 無意 識に
地面にひれ伏して叫びました。
『おおわが神よ。わたしにこの約束の日を目撃させて下
さ ったあ なた に賛美 あれ 。今、 あな たのそ ばに 召され ても 、わた しは 満足し 、確 信を
も って死 ぬこ とがで きま す。』」この 話をし てく れた年 (一 八五七 年) に、こ の尊 敬す
べき、輝く心をもったマムードは魂を神にゆだねた。
わ たし (著者 )が 、マム ード から直 接聞 いたこ の話 は、現 在も 人びと の間 で話題 に
な ってい るが 、今は 亡き アーマ ドの 洞察力 がい かに鋭 かっ たかを はっ きり証 明す るも
の で、ま たか れが直 弟子 たちに およ ぼした 影響 力を雄 弁に 物語る もの である 。弟 子た
ち にあた えた かれの 約束 は、そ の後 実現し 、か れらの 魂に 火をつ けた 神秘は 、そ の栄
光をすべて現わしたのであった。
ア ーマ ドがヤ ズド の町で 出発 準備を して いたこ ろ、 もう一 人、 神の導 きの 光であ る
セイエド・カゼムは、アーマドを訪れる目的で、故郷のギラン州を出発した。それは、
ア ーマド がコ ラサン へ巡 礼に行 く前 であっ た。 二人が はじ めて会 見し たとき 、ア ーマ
ドはこう語った。「おおわが友よ。ようこそ、よくお出で下さった。あなたが、よこし
ま な人び とか らわた しを 解放し てく れるの を、 長い間 待ち 望んで きた 。かれ らの 恥知
らずの行動と堕落した性格に悩まされてきたからだ。『われ(神)は、最初、天や地や
山 々に神 の信 仰をあ ずか るよう に提 案した が、 みなそ の重 荷を拒 み、 それを 受け 取る
のを怖れた。人間だけが引き受けたが、たちまち、不正で、無知なることを証明した。』
(コーラン)」(p.9)
カ ゼム は、す でに 少年の ころ から、 おど ろくべ き知 性と精 神的 な洞察 力を 示して い
た 。かれ は同 身分と 同年 代の人 たち の中で まれ に見る 能力 をそな えて おり、 十一 才の
と きコー ラン を全部 暗記 したほ どで あった 。十 四才に なる までに 、膨 大な数 にの ぼる
モ ハメッ ドの 祈りと 、一 般に認 めら れてい る伝 承も暗 記し た。十 八才 のとき 、コ ーラ
ンの一節について解説文を書き、当時の最高の学識者たちをおどろかせ、感心させた。
そ の敬虔 な態 度、温 和な 性格、 謙虚 さは、 あま りにも 並外 れてい たの で、か れを 知る
人たちは皆、老いも若きも深い印象を受けた。
一 八一 五年、 わず か二十 二才 のとき 、カ ゼムは 家族 、親族 、友 人を残 して ギラン を
出 た。神 の啓 示の夜 明け が近づ いた ことを 知ら せるた めに 勇敢に 立ち 上がっ たア ーマ
ド に会う ため であっ た。 かれが アー マドと 共に 過ごし はじ めて二 、三 週間が たっ たあ
る日、アーマドはこのように話しかけた。
「あなたは家にとどまり、わたしの講義には
出 ないよ うに 願いた い。 わたし の弟 子のう ち途 方にく れて いる者 らは 直接あ なた に援
助 を求め るで あろう 。あ なたは 、神 から付 与さ れた知 識に より、 かれ らの問 題を 解決
し 、かれ らの 心を落 ち着 かせる こと ができ よう 。あな たの 口から 発せ られる 言葉 の力
で 、 高 名 な モ ハ メ ッ ド の 宗 教 を 、 そ の 堕 落 状 態 か ら 生 き 返 ら せ る こ と が で き よ う 。」
(pp.10-11)
こ の言 葉を聞 いて 、アー マド の著名 な弟 子たち は憤 慨し、 嫉妬 の念に から れた。 そ
の 中には 、マ マガニ とコ ーレケ がい た。し かし 、カゼ ムが あまり にも 威厳に みち てお
り 、その 知識 と英知 はは るかに すぐ れてい たの で、弟 子た ちは畏 敬の 念から 、か れに
従わざるを得ないと感じた。
こ うし て弟子 たち をカゼ ムに ゆだね た後 、アー マド はコラ サン に向か った 。そし て
し ばらく の間 、マシ ュハ ドのエ マム ・レザ の聖 廟近く に滞 在し、 その 地方で 、こ れま
で 以上の 情熱 をもっ て、 探究者 たち の心を 悩ま せてき た難 問を解 明し ながら 、神 の顕
示 者の到 来準 備をつ づけ た。そ の町 で、約 束の 御方の 出現 がそう 遠く ないこ とを 、ま
すます強く意識しはじめていた。
ア ーマ ドは、 マザ ンデラ ン州 のヌー ル地 方の方 向に 、約束 の時 代の夜 明け を知ら せ
る 最初の きざ しを感 知し た。つ ぎの 伝承に 予告 された 啓示 が差し 迫っ ている のを 感じ
たのである。
「まもなく、なんじらは満月のように輝く主の御顔を仰ぐであろう。しか
も 、なん じら はその 御方 の真理 を認 め、そ の信 仰を受 け入 れるた めに 結束す るこ とも
し ないで あろ う。」「約束 の時の 到来 を知ら せる 最大の しる しの一 つは こうで ある 。<
ある女性が、将来自分の主となる御方を出産することである>。」
この理由から、アーマドはヌール地方に顔を向け、カゼムと主な弟子たちを伴って、
テ ヘラン に進 んだ。 ペル シャ国 王は 、アー マド が首都 に近 づいて いる ことを 知り 、テ
ヘ ランの 高僧 と高官 に、 かれを 出迎 えるよ うに 命じ、 自分 に代わ って 丁重に 歓迎 の言
葉 を述べ るよ うに指 示し た。こ うし て、こ の著 名な訪 問客 とその 同伴 者たち は、 国王
か ら王侯 のも てなし を受 けた。 さら に、国 王は 自らア ーマ ドと会 見し 、かれ を「 わが
国の栄誉であり、国民に名誉をもたらす人である」と宣言したのである。
そのころ、ヌールの高貴な旧家に一人の聖なる子が誕生した。父親の名前はミルザ・
ア ッバス であ ったが 、ミ ルザ・ ボゾ ルグと いう 名で知 られ ていた 。か れは国 王か ら寵
愛を受けている大臣であった。この聖なる子こそバハオラ(実名はミルザ・ホセイン・
ア リ)で ある 。一八 一七 年十一 月十 二日の 夜明 け時に 、計 り知れ ない ほどの 恩恵 を世
界 にもた らす お方が 誕生 された ので あるが 、そ のとき 世界 はその 重要 性に気 づい てい
なかった。(pp.12-13)
こ のめ でたい 出来 事の意 義を 十分知 って いたア ーマ ドは、 新し く誕生 した 聖なる 王
の 宮居の 境内 で残り の生 涯を過 ごし たいと 熱望 した。 しか し、そ れは かれの 定め では
な かった ので ある。 かれ の心の 渇望 は満た され なかっ たが 、神の 絶対 的な命 に従 わざ
るを得ないと感じ、敬愛する御方の都に背を向けケルマンシャーに向かった。
ケ ルマ ンシャ ーの 知事は 、国 王の長 男モ ハメッ ド・ アリ皇 子で 、一族 のう ちだれ よ
り も有能 であ った。 かれ は、自 らア ーマド をも てなし たい と申し 出た 。国王 はこ の皇
子 を寵愛 して いたの です ぐ許可 をあ たえた 。一 方、ア ーマ ドは運 命に 完全に 身を まか
せ てテヘ ラン に別れ を告 げた。 出発 前に、 しず かに祈 った 。今、 人民 のなか に誕 生さ
れ た神の かく された 宝物 である 御方 が、保 護さ れ、大 事に 育てら れ、 人民が その 御方
の神聖さと栄光を十分認め、それを全世界の人びとに伝えることができますようにと。
ケ ルマ ンシャ ーの 町に到 着後 、アー マド はシー ア派 の弟子 で心 が開い てい る者た ち
を 選び、 その 教育に とく に力を 入れ ること にし た。か れら が来る べき 大業を 積極 的に
支 持でき るよ うにで あっ た。か れが 残した 著書 には有 名な 作品が ある が、そ の中 で、
シ ーア派 のエ マムた ちの 美徳を 熱烈 に称え てい る。と くに エマム たち が、約 束の 御方
の 到来に 関し て言及 した 個所に は重 点をお いた 。また 、ホ セイン とい う名に 何度 も言
及 してい るが 、それ はま だ現わ れて いない ホセ インの こと を意味 した 。アリ とい う名
に も幾度 も言 及があ るが 、それ は以 前殺害 され たアリ では なく、 最近 誕生さ れた アリ
を意味していたのである。(p.13)
ガ エム (バブ )の 出現の しる しにつ いて 質問し た者 たちに 、ア ーマド は約 束の時 代
の 到来は 避け られな いと 強調し た。 アーマ ドは バブが 誕生 した年 に息 子を失 った 。息
子 の名前 はシ ェイキ ・ア リであ った 。かれ はこ の息子 の死 を嘆く 弟子 たちを 慰め てこ
う語った。
「おお、わが友人たちよ。悲しむなかれ。われわれが待ち望んでいるアリの
出 現のた めに 、わた しは 自分の 息子 を犠牲 とし てささ げた のだ。 その 子を育 て準 備し
てきたのはこのためなのだ。」
バブ、実名はアリ・モハメッド、は一八一九年十月二十日にシラズの町で誕生した。
かれは先祖がモハメッドにまでさかのぼる高貴な家柄の子孫であった。父モハメッ
ド ・リザ と母 は両人 とも に予言 者( モハメ ッド )の子 孫で 、身分 の高 い家系 に属 して
い た。バ ブの 誕生日 は、 忠実な る者 の司令 官と 呼ばれ るエ マム・ アリ が語っ た「 われ
は 、わが 主よ り二年 年下 である 」と いう言 葉を 確認す るも のであ る。 しかし 、こ の言
葉 にひそ む神 秘は、 新し い啓示 の真 理を求 め、 認めた 者ら 以外に はか くされ たま まで
あった。
バ ハオ ラに関 して つぎの 句を 述べた のは バブで あっ た。そ れは 、バブ が最 初に著 わ
したもっとも重要な書にある。
「おお神が残された御方よ。あなたのためにのみ、わた
しの命を犠牲にしました。あなたのためにのみ、苦しみを受けることに同意しました。
そ して、 あな たの道 に殉 教する こと だけを 切望 してき まし た。わ たし には、 高遠 なる
者 であり 、保 護者で あり 、日の 老い たる者 であ りたも う神 の証言 だけ で十分 であ りま
す」
ケ ルマ ンシャ ーに 滞在中 、ア ーマド はモ ハメッ ド・ アリ皇 子か らこの 上な い献身 的
なもてなしを受けた。それに感動したかれは皇子に関してつぎのように述べた。
「モハ
メッド・アリはファト・アリ国王の息子であるが、わが息子同然である。」
ア ーマ ドの家 には 多数の 探究 者と弟 子が 群がっ てき て、か れの 講義に 熱心 に出席 し
た 。しか し、 アーマ ドは カゼム に対 して示 した 尊敬と 愛情 を、ほ かの 者には 示し たい
と 思わな かっ た。ア ーマ ドは、 自分 の死後 、任 務を引 き継 ぐ者と して 、かれ の下 に集
ま ってき た無 数の人 びと の中か らカ ゼムを 選び 、その ため の準備 をし ていた よう であ
った。(p.14)
あ る日 、弟子 の一 人が聖 なる 言葉に 関し てアー マド に質問 した 。それ は、 約束の 御
方 が時満 ちて 語られ る言 葉で、 それ があま りに もすさ まじ いため 、地 上の三 十三 人の
統 領と貴 人が ことご とく その重 圧で 押しつ ぶさ れたよ うに なり、 恐怖 にから れて 逃げ
てゆくという内容に関する質問であった。アーマドはこう答えた。
「地上の統領が耐え
ら れない 言葉 の重み を、 あなた は支 えられ ると 思うの か。 不可能 な望 みをか なえ よう
と しては なら ない。 この ような 質問 をわた しに するの をや めて、 神の 許しを こん 願し
なさい」
そ の無 礼な質 問者 は、そ れで もあき らめ ずに聖 なる 言葉の 意味 を明ら かに しても ら
いたいと言い張った。ついに、アーマドはつぎのように述べた。
「神の日が到来したと
き 、アリ が守 護者で ある ことを 否認 し、そ の正 当性を 非難 するよ うに いわれ たら 、あ
な たはど うし ますか 。」「 そのよ うな ことは 絶対 にあり 得ま せん。 その ような 言葉 が約
束の御方の口から出されるなど、わたしには考えられないことです。」
こ の男 は大変 な誤 りを犯 した 。かれ の立 場はま こと にあわ れむ べきで ある 。かれ の
信 仰は天 秤で 計られ 、不 足して いる ことが わか った。 とい うのは 、出 現され る御 方に
は 至高の 力が そなわ って おり、 だれ も問う こと はでき ない という こと を、こ の男 は認
め ること がで きなか った からで ある 。この 御方 こそ「 望む ままに 命じ 、思い のま まに
定 める」 権限 をもた れて いるの であ る。こ の御 方の権 威を 認める のを ためら った り、
一 瞬でも その 権威に 対し て疑問 をも ったり する 者は、 その 御方の 恩恵 を失い 、堕 落し
た 者とみ なさ れるの であ る。と はい え、そ の町 でアー マド に耳を 傾け 、聖典 にか くさ
れている神秘の説明を聞いた者らの中に、その意味を理解できた者がいた。その人は、
アーマドの有能で卓越した弟子のカゼムであった。
モ ハメ ッド・ アリ 皇子の 死で 、アー マド は皇子 の切 なる願 いか ら解放 され た。そ れ
は ケルマ ンシ ャー滞 在を 延期す るよ うにと の願 いであ った 。そこ で、 かれは カル ベラ
に 住居を 移し た。外 部の 目には 、ア ーマド は< 殉教の 王子 >と呼 ばれ るエマ ム・ ホセ
イ ンの廟 の回 りをま わっ ている よう に見え たが 、心は 唯一 の敬愛 の的 である 真の ホセ
イ ンに向 けら れてい た。 そのう ち多 数の著 名な 僧侶と 法学 者がか れの もとに 群が って
き た。そ のう ちの多 くは 、かれ の名 声に嫉 妬心 をもつ よう になっ た。 そして 何人 かは
か れの権 威を 傷つけ よう とさえ した 。しか し、 かれら がど れほど 努力 しても 、ア ーマ
ドの高い地位をゆるがすことはできなかった。(pp.15-16)
や がて 、この 輝く 光であ るア ーマド は、 メッカ とメ ジナの 聖な る都に 行き 、目標 達
成 のため に全 力をそ そい だ。そ の地 でこの 世を 去った かれ は、予 言者 (モハ メッ ド)
の 埋葬地 の近 くにに 葬ら れた。 これ まで見 てき たよう に、 アーマ ドは モハメ ッド の大
業を理解するために忠実に努力をつづけたのであった。
カ ルベ ラに出 発前 、アー マド は自分 が選 んだ後 継者 のカゼ ムに 、その 使命 の秘密 を
打 ち明け た。 そして 、自 分の内 部に 燃えた 炎を 同じよ うに 、心の 開い た人た ちの 心に
点 すよう に頼 んだ。 カゼ ムは、 ナジ ャフの 町ま で同行 した いと強 く望 んだが 、ア ーマ
ド はこの 要請 には応 ぜず 、つぎ の最 後の言 葉を 残した 。「 もう無 駄に する時 間は ない。
過 ぎて行 く毎 時間を 、有 意義に 、ま た賢く 使わ なけれ ばな らない のだ 。気を ひき しめ
て 立ち上 がり 、人び とを 盲目に して きた無 思慮 のヴェ ール を、神 の助 けによ り引 き裂
くように昼夜努めなければならない。はっきり言うが、その時間は近づいているのだ。
わ たしは その 時起こ るこ とを見 ない ですむ よう に神に こん 願して きた 。とい うの も、
そ の最後 の時 間に起 こる 地震は 恐る べきも ので あるか らだ 。あな たも その日 の激 しい
試 練を免 れる ように 神に 祈りな さい 。なぜ なら 、あな たも わたし もそ のすさ まじ い力
に 耐える こと はでき ない からだ 。わ れわれ より 一層強 い忍 耐力と 能力 をもっ た者 たち
が 、この 大変 な重み を耐 えるよ うに 運命づ けら れてい る。 その者 らの 心は世 俗の もの
すべてから清められており、その力は神の威力によって強められているのだ。」
こ う語 ったあ と、 アーマ ドは かれに 別れ を告げ 、今 後の苦 しい 試練に 勇敢 に立ち 向
か うよう に励 ました 。そ の後、 カゼ ムはカ ルベ ラで師 が始 めた仕 事に 身をさ さげ た。
そ の教え を説 き、そ の大 業を弁 護し 、弟子 の心 を悩ま せた 質問に はす べて答 えた 。と
こ ろが、 かれ の熱心 さは かえっ て無 知で嫉 妬心 をもつ 者ら の敵意 を燃 え上が らせ るこ
とになった。
「われわれは四十年間、アーマドの野心的な教えがひろがるのを黙って耐
え てきた 。ま た何の 反対 もしな かっ た。し かし 、かれ の後 継者が 同じ 野心的 な教 えを
ひ ろめて いる のには 我慢 できな くな った。 かれ は肉体 の復 活の信 仰を 否定し 、ミ ラー
ジ (モハ メッ ドの天 国へ の上昇 )に 関する 文字 通りの 解釈 を否認 し、 来るべ き日 のし
る しを比 喩と 見なし 、異 端的な 教え を説き 、イ スラム 教正 統派の 最高 の教義 をく つが
えすようなことを説いているからだ。」(pp.16-17)
か れら のやじ りと 抗議の 声が 高まれ ば高 まるほ ど、 カゼム の使 命感は 強ま ってい っ
た 。また 、ア ーマド に書 簡を送 り、 自分が 受け ている 中傷 をくわ しく 述べ、 かれ らの
反 対の特 徴と 程度を 知ら せた。 さら に、こ の執 拗で無 知な 人びと の狂 信にい つま で甘
んじていなければならないかを問うた。この質問にアーマドはこう答えた。
「神の恩恵
に 確信を もち なさい 。か れらの 行動 を嘆い ては ならな い。 この大 業の 神秘は 明ら かに
されなければならないし、またこの聖なるメッセージ゙の秘密も公表されなければなら
な いのだ が、 これ以 上語 ること はで きない 。そ の時間 を定 めるこ とも できな いの だ。
神の大業はヒーン(一八五二年)の後知られるようになるであろう。
『答えがわかれば、
あなた自身が苦しむような質問はもうしないように願う。』」(pp.17-18)
神 の大 業はあ まり にも偉 大で 、カゼ ムほ どの高 貴な 人物で さえ にも、 以上 のよう な
言 葉が宛 てら れたの であ る。ア ーマ ドのこ の答 えにカ ゼム の心は 慰め られ、 力づ けら
れ た。そ の後 カゼム は決 意を一 層強 め、嫉 妬に かられ た陰 険な敵 の猛 襲に耐 えつ づけ
た 。その 後ま もなく して 、アー マド は一八 二六 年、八 十一 才でこ の世 を去り 、聖 地メ
ジナのモハメッドの墓地付近にあるバキの墓地に埋葬された。(p.18)
第二章
セイエド・カゼムの使命
敬 愛す る師の 逝去 の知ら せに 、カゼ ムの 心は深 い悲 しみに みた された 。し かし、 コ
ー ランの つぎ の句に 励ま されて 、ア ーマド から 委任さ れた 任務を 果た すため に、 固い
決意をもって立ち上がった。
「不信心者は口から吐く言葉で神の光を消そうとする。か
れらがどれほど憎んでも、神はその光を完成させたもう……」
自 分の 保護者 であ った名 高い アーマ ドの 死後、 カゼ ムはま わり の者た ちが 自分に 悪
意 をもち 、毒 舌を浴 びせ かけて いる のを知 った 。かれ らは 、カゼ ムの 人格を 攻撃 し、
そ の教え をあ ざけり 、そ の名を のの しって いた のであ る。 そして つい に、悪 名高 いシ
ーア派の指導者エブラヒムに扇動されて団結し、カゼム滅ぼそうと決心した。
そこでカゼムは、ペルシャで最も手ごわく、すぐれた高僧で高名なモハメッド・バゲ
ル の善意 ある 支援を 獲得 する計 画を たてた 。こ の高僧 はイ スファ ハン に住ん でお り、
そ の権威 は町 の境界 線を 越えて はる か遠く まで ひろが って いた。 かれ の友情 と同 情を
得 れば、 自分 の道を 妨害 されず に進 むこと がで き、弟 子た ちへの 影響 もかな り強 まる
であろう、とカゼムは考えたのである。そこで弟子たちにくり返し呼びかけた。
「 皆のう ちだ れか世 俗へ の愛着 を断 ち、イ スフ ァハン に旅 し、こ の学 識者の 高僧 に、
つぎの伝言を渡してくれる者はいないであろうか。
『以前あなたは、今は亡きアーマド
に 、この 上な い尊敬 と愛 情を示 され ていま した 。それ なの に今と つぜ ん、な ぜ師 の弟
子 たちか ら離 れられ たの ですか 。な ぜわた しど もを敵 の掌 中に見 捨て られて いる ので
すか。』だれか、神を信頼して立ち上がり、この高僧の心を悩ましている難問を解明し、
か れが弟 子た ちから 離れ た原因 とみ られる 疑い を消せ る者 はいな いで あろう か。 そし
て 、かれ から アーマ ドの 権威と その 教えが 真実 で正当 であ るとい う宣 誓書を 得る こと
は できな いで あろう か。 そのあ とマ シュハ ドを 訪れ、 その 聖なる 町の 最高の 宗教 指導
者 アスカ リか ら同様 の宣 誓書を 得、 使命を 果た してこ の場 所にも どっ てくる 者は いな
いであろうか。」(pp.19-20)
カ ゼム は機会 ある ごとに 、こ の訴え をく り返え した 。しか し、 この呼 びか けに応 え
よ うとす る者 はいな かっ た。た だ一 人、ム ヒッ トとい う人 だけが 、こ の使命 を果 たし
たいと申し出た。カゼムはかれに警告した。
「ライオンのしっぽに触れるには注意が必
要だ。この使命の重大さと困難さを見くびってはならない」つぎに、若い弟子のモラ・
ホセインに顔を向けて、つぎのように語りかけた。
「立ち上がり、この使命を成し遂げ
よ 。あな たこ そはこ の任 務に耐 えら れる。 全能 なる神 が慈 悲深く あな たを援 助さ れ、
あなたの努力を成功の栄冠で飾られるであろう。」
モラ・ホセインはうれしそうに立ち上がり、師の衣のすそに接吻し、忠誠を誓った。
そ して、 世俗 への愛 着を すべて 断ち 、崇高 な決 意をも って 、この 目標 を果た そう と出
発 した。 イス ファハ ンに 到着直 後、 その学 識あ る高僧 に会 いに行 った 。旅の ほこ りの
つ いた質 素な 服装で 、モ ラ・ホ セイ ンはこ の高 僧の弟 子た ちの前 に現 われた 。そ こに
集 まって いた 大勢の 弟子 たちは 皆立 派な服 装を してい たが 、その 中で 、モラ ・ホ セイ
ンはいかにも地位が低く取るに足らない人物に見えた。
モ ラ・ ホセイ ンは だれに も気 づかれ ずに 、また 恐れ ること もな く、そ の高 名な指 導
者 の座席 の前 に歩み 寄っ た。そ して 、カゼ ムの 言葉を 思い 出して 勇気 を奮い 起こ し、
自信をもってモハメッド・バゲルにこう呼びかけた。
「おお師よ。わたしの言葉に耳を
傾けてください。わたしの訴えに応じられるならば、神の予言者の宗教(イスラム教)
は 安全に 守ら れるで あり ましょ う。 しかし 、そ れを否 定さ れるな らば 、大変 な害 を受
けることになりましょう。」この迫力ある大胆な言葉に高僧はおどろいた。かれはただ
ち に講話 を中 断し、 聴衆 を無視 して この見 知ら ぬ訪問 者が もたら した 伝言に じっ と聞
き 入った 。弟 子たち は師 のいつ もと はちが った 行動に びっ くりし たが 、この 突然 の侵
入者に非難の言葉を投げかけ、その主張を攻撃しはじめた。(p.20)
モ ラ・ ホセイ ンは 、ひじ ょう に丁重 で威 厳のあ る言 葉で、 弟子 たちの 失礼 な態度 と
思 慮のな さに それと なく 言及し 、そ のうぬ ぼれ と尊大 な態 度にお どろ きを表 わし た。
高僧はモラ・ホセインが示した態度と主張のすばらしさに深い満足感をおぼえる一方、
弟 子たち の無 礼な態 度を 遺憾に 思い 、かれ に謝 った。 高僧 は、弟 子た ちの感 謝の なさ
を おぎな うか のよう に、 モラ・ ホセ インに でき るかぎ りの 親切を つく した。 そし て、
支 援を約 束し 、伝言 を頼 んだ。 そこ で、モ ラ・ ホセイ ンは 自分に 委任 されて いる 使命
の内容と目標をかれに知らせた。これに対し、高僧はこう答えた。
「 最初、 われ われは アー マドと カゼ ムは両 人共 に、知 識を 進展さ せ、 イスラ ム教 の聖
な る利益 を守 るため にの み行動 され ている と信 じてい まし た。そ れで 、この 両人 を心
か ら支持 し、 その教 えを 称えた いと いう気 持ち をもっ たの です。 とこ ろが後 年、 二人
の 著書の 中に 、矛盾 する 叙述や 、あ いまい で不 思議な 比喩 が多数 ある のに気 づき 、し
ばらく沈黙を守った方がよいと感じ、非難も称賛もしないでいたのです。」
モラ・ホセインはこう答えた。「あなたの沈黙を遺憾に思わざるを得ません。そのため
に大業を進展させるすばらしい機会が失われていると堅く信じるからです。あなたにお願
いしたいことは、二人の書物の中で、とくに不可解と思われる句、またはイスラム教の教
えと一致しないと思われる句を指摘してくださることです。そうなされば、神の援助を受
けて、それらの句の真意を説明したいと思います。」
こ の不 意に現 われ た使者 の落 着いた 態度 、威厳 と確 信はモ ハメ ッド・ バゲ ルに深 い
印象を与えた。そして、
「今それを無理にわたしに要求しないで下さい、後日あなたと
二 人きり のと き、わ たし の疑問 と不 安に思 って いる点 をお 知らせ しま しょう 」と 述べ
た 。しか し、 モラ・ ホセ インは これ を延ば すこ とは、 この 貴重な 大業 に害に なる と感
じ て、か れと の対話 をす ぐ行な いた いと主 張し た。か れに は高僧 が抱 いてい る重 大な
質 問を解 決で きると いう 確信が あっ た。高 僧は この若 者の 顔から 、熱 意と誠 意と ゆる
が ぬ確信 を感 じとり 、涙 がこみ あげ てくる ほど 深く感 動し た。か れは すぐア ーマ ドと
カ ゼムの 著書 をもっ てこ させ、 納得 のいか ない 句、意 外と 思った 句に ついて モラ ・ホ
セ インに 質問 をはじ めた 。モラ ・ホ セイン は特 有の力 強さ と見事 な知 識で、 しか も慎
み 深く全 部の 質問に 答え た。そ して 、集ま って きてい た弟 子たち にア ーマド とカ ゼム
の 教えを 解説 し、そ の真 理を立 証し 、その 大業 を弁護 しつ づけた 。や がて祈 りの 時間
がきて、信者への祈りの呼びかけの声でその解説は中断された。(p.21)
翌 日、 モラ・ ホセ インは 前日 と同じ よう に、集 まっ てきた 大勢 の弟子 たち の面前 に
出 た。そ して 高僧の 方を 向きな がら 、全能 の神 がアー マド とその 後継 者に委 任さ れた
崇 高な使 命を 雄弁に 弁護 しつづ けた 。聴衆 は静 まりか えっ ていた 。か れらは 、そ の説
得 力ある 弁論 と語調 に驚 異の念 でい っぱい にな ってい たの である 。高 僧は皆 の面 で、
翌 日宣誓 書を 出すと いう 約束を した 。その 内容 は、ア ーマ ドとカ ゼム 両人の 卓越 した
地 位を証 言し 、この 二人 の道か らそ れる者 はす べて、 予言 者(モ ハメ ッド) の宗 教に
背 を向け る者 である と断 言する もの であっ た。 さらに 、こ の両人 は鋭 い洞察 力を そな
え ており 、モ ハメッ ドの 宗教に かく されて いる 神秘を 、正 しく理 解で きると 証言 する
ものでもあった。
高 僧は 自ら筆 をと り、宣 誓書 をした ため て約束 を果 たした 。そ の宣誓 書は 詳細に 書
か れてお り、 その中 でモ ラ・ホ セイ ンの人 格と 学識が 称え られて いた 。高僧 はカ ゼム
を 賞賛し 、自 分のこ れま での態 度を あやま り、 カゼム に対 する遺 憾な 行動を 今後 改め
た いとい う決 意を表 明し た。そ して 、自ら その 宣誓書 を弟 子たち に読 んで聞 かせ たあ
と、封をせずにモラ・ホセインに渡した。その理由は、モラ・ホセインがその内容を、
思 いのま ま人 びとに 知ら せるこ とが できる ため であっ た。 そうす れば 、自分 のカ ゼム
に対する献身の深さをだれでも認めてくれると思ったのである。(p.22)
モ ラ・ ホセイ ンが 別れを 告げ て立ち 去る とすぐ 、高 僧は信 頼で きる召 使い を呼び 、
か れの後 をつ けて滞 在場 所を見 とど けてく るよ うに命 じた 。召使 いが 後をつ ける と、
モ ラ・ホ セイ ンは学 寮と して用 いら れてい る質 素な建 物に 入り、 自室 で感謝 の祈 りを
さ さげた あと 、敷布 団に 身を横 たえ た。が 、上 にかけ るも のはマ ント だけで あっ た。
そ れを確 認し たあと 召使 いはも どり 、主人 に見 てきた こと を全部 報告 した。 そこ で高
僧 は、召 使い に一万 円ほ どをあ たえ て、そ れを モラ・ ホセ インに 渡し 、ふさ わし いも
てなしができなかったことを自分に代わって真心から謝罪するように命じた。
この高僧からの申し出に、モラ・ホセインは答えた。
「あなたの主人にこう伝えて下
さ い。あ なた の主人 がわ たしに 下さ った真 の贈 り物は 、わ たしを 公平 に受け 入れ て下
さ った精 神そ のもの であ ります 。ま た、高 い地 位にも かか わらず 、こ の低い 地位 にあ
る者が持参した伝言に応じてくださった心の広さであります。わたしは単なる使者で、
報酬も褒美も求めてはいません。このお金はあなたの主人にお返しください。
『われは、
神 のため にの みなん じら の魂に 栄養 をあた える のであ り、 なんじ らか ら報酬 も感 謝も
求めてはいない。』
(コーラン)。あなたの主人が、世俗の指導者という地位に妨げられ
ずに、真理を認め、それを証言されるように祈っております。」この学識ある高僧モハ
メ ッド・ バゲ ルは、 バブ の信教 が誕 生した 一八 四四年 の到 来前に この 世を去 った 。か
れは息を引き取る瞬間まで、カゼムをゆるがぬ精神で支持し、熱烈に賞賛しつづけた。
一 方、最 初の 使命を 果た したモ ラ・ ホセイ ンは 、モハ メッ ド・バ ゲル の宣誓 書を カル
ベ ラの師 に送 った。 それ からマ シュ ハドに 歩を 向け、 委任 された 伝言 を、最 善を つく
してもう一人の高僧アスカリに渡す決心をした。(pp.23)
カ ゼム はモラ ・ホ セイン の手 紙を受 けと って大 いに よろこ び、 講義を 中断 して、 そ
の 手紙と 同封 されて いた 宣誓書 を弟 子たち に読 んで聞 かせ た。カ ゼム はモラ ・ホ セイ
ン に返事 を書 き、任 務達 成とい う模 範的な 行動 に対し て感 謝の気 持ち を述べ たが 、そ
の 書簡も 弟子 たちに 読ん で聞か せた 。さら に、 同じ書 簡の 中でモ ラ・ ホセイ ンの すば
ら しい奉 仕を 認めた だけ でなく 、そ の高い 業績 と能力 と人 格を、 熱烈 にほめ 称え たた
め 、弟子 たち のうち 何人 かは、 モラ ・ホセ イン が約束 の御 方では ない かと疑 った ほど
で あった 。カ ゼムは 、た えずそ の約 束の御 方に 言及し 、そ の御方 はす でに皆 の中 に生
きているが、だれも気づいていないことをたびたび述べていたからである。
カ ゼム は、モ ラ・ ホセイ ンに 宛てた 書簡 の中で 、神 を畏れ るこ とがど れほ ど重要 で
あ るかを 述べ た。そ れは 敵の猛 襲に 耐える ため の最高 手段 であり 、こ の信教 を真 に信
じ る者す べて の特徴 でな ければ なら ないこ とを 説明し た。 この書 簡が この上 ない 温か
い 愛情の こも った言 葉で 書かれ てい たため 、そ れを読 んだ 者は、 師カ ゼムが 、自 分の
愛 する弟 子へ の別れ の言 葉を述 べて いるの では ないか と感 じた。 この 世では もう ふた
たび会う望みはないことを告げているのではないかと疑ったのである。
そ のこ ろ、カ ゼム は約束 の御 方の出 現時 が近づ いて いるこ とを 一層強 く意 識する よ
う になっ てい た。カ ゼム は、探 求者 が約束 の御 方の偉 大さ を理解 でき ないの は、 あま
り にも厚 いヴ ェール が、 かれら にか かって いる からだ と実 感した 。そ こで、 神の 宝物
で ある御 方へ の道に 立ち ふさが る障 害物を 徐々 に取り 除く ために 全力 を注い だ。 それ
には英知と注意深さを要した。(p.24)
か れが 弟子た ちに くり返 し強 調した こと は、そ の御 方の出 現場 所は、 ジャ ボルカ ー
でもジャボルソー(シーア派が信じている出現の場所)でもないということであった。
さ らにか れは 、皆の 中に その御 方は すでに 臨席 されて いる かも知 れな いとほ のめ かし
たのである。そして、よくつぎのように語った。
「皆は自分の目でその御方を見ながら、
その御方が約束の御方だと認めることができないでいる。」神の顕示者の特徴について
の質問に、かれはいつもこう答えた。
「 その御 方は 高貴な 血筋 で、神 の予 言者モ ハメ ッドの 子孫 である 。年 は若く 、天 賦の
知 識をそ なえ ておら れ、 その知 識は アーマ ドか ら教え られ たもの では なく、 神か ら来
た もので ある 。その 御方 の知識 の膨 大さに くら べると 、わ たしの 知識 は水の 一滴 にし
か すぎな い。 その御 方の 美徳と 威力 のすば らし さを前 にし て、わ たし の業績 はち りの
一片にしかすぎない。それどころか、その差は計り知れないのだ。その御方は中背で、
喫煙はされず、ひじょうに信心深く敬虔であられる。」
こ のよ うな説 明を 聞いた にも かかわ らず 、弟子 の中 にはカ ゼム を約束 の御 方だと 信
じ た者た ちが いた。 その 一人メ ヒデ イ・コ イは 、カゼ ムが その御 方と 思うと 一般 に公
表 さえし たの である 。カ ゼムは この 言動を きわ めて不 快に 思った 。か れが反 省し 許し
を 乞わな かっ たなら ば弟 子たち の一 団から 追い 出され てい たであ ろう 。ゾヌ ジも また
カ ゼムが 約束 の御方 では ないか と思 ったこ とを わたし (著 者)に 知ら せてく れた 。ゾ
ヌ ジはこ の思 いが本 当で あるか 、誤 りであ るか が明ら かに される よう に神に 祈っ た。
こ の推測 が正 しけれ ば確 証がき ます ように 、も しまち がっ ていれ ば、 そのよ うな 空想
から解放されますようにと。ある日、ゾヌジはこうわたし(著者)に語った。
「 わたし の心 の動揺 はは げしく 、何 日も食 べる ことも 眠る ことも でき ません でし た。
当 時わた しは 真心か ら敬 愛して いる 師カゼ ムに 仕える ため に生き てい たので す。 ある
日 夜明け 時に 、カゼ ムの 従者ノ ウ・ ルーズ から とつぜ ん起 こされ まし た。か れは ひじ
ょうに興奮していて、わたしにすぐ起きて自分のあとについてくるように言いました。
カ ゼムの 家に 着くと 、か れはマ ント をすで に身 につけ て外 出しよ うと してお り、 わた
しにも同伴してくるように命じたのです。
『大変立派で重要な方が到着された。あなた
とわたしは共にその方を訪問しなければならない。』(p.25)
二 人で カルベ ラの 町を歩 き出 したと き、 すでに 朝日 がさし はじ めてい まし た。や が
て 、ある 家に 着くと 、わ れわれ の到 着を待 って いたか のよ うに、 青年 が入り 口に 立っ
て いまし た。 青年は みど りのタ ーバ ンをま き、 謙虚で 温和 な表情 をし ていま した が、
そ れを的 確に 表現す るこ とはで きま せん。 青年 は静か にわ れわれ に近 づき、 腕を 差し
の べ愛情 をこ めてカ ゼム を抱擁 した のです 。そ のやさ しさ と慈愛 に満 ちた様 子と 、カ
ゼ ムの深 い尊 敬をこ めた 態度は 、不 思議な ほど 対照的 でし た。カ ゼム は黙っ て頭 をた
れ たまま 、青 年の愛 情を こめた あい さつを 受け ました 。そ れが済 むと すぐ、 青年 はわ
れ われを 二階 の部屋 に案 内しま した 。その 部屋 には花 がか ざられ てお り、甘 い香 水の
か おりが して いまし た。 青年は われ われに 座る ように すす めまし たが 、二人 とも 強烈
な よろこ びで 圧倒さ れそ うにな って いまし たの で、ど の席 に座れ ばよ いのか わか りま
せ んでし た。 やっと 座っ たあと 、青 年は部 屋の 真ん中 にお かれて いる 銀盃に 飲み 物を
なみなみと注ぎ、カゼムに渡しながらこう言いました。
『主はかれらに清らかな飲み物
一盃をあたえたもう。』(コーラン)(pp.26-27)
カ ゼム は、両 手に もった 盃を 飲み干 し、 うやう やし い気持 ちと 深いよ ろこ びを抑 え
る ことが でき ない様 子で した。 わた しにも 盃が しずか に差 し出さ れま した。 この 会見
は 忘れが たい もので した が、話 され た言葉 は前 述のコ ーラ ンから の句 だけだ った ので
す 。この あと すぐ青 年は 席から 立ち 上がり 、わ れわれ を玄 関まで 送り 、別れ を告 げま
し た。わ たし はその とき 、おど ろき のあま り一 言も出 すこ ともで きま せんで した 。青
年 の暖か い歓 迎、威 厳の ある挙 動、 魅力あ る顔 、香り 高い 飲み物 の美 味しさ をど う表
現 してい いか もわか りま せんで した 。師カ ゼム が何の ため らいも なく 、その 聖な る飲
み 物を銀 盃か ら飲ま れた とき、 わた しは仰 天し たので す。 銀盃を 用い ること はイ スラ
ム 教の教 えで 禁じら れて いたか らで す。カ ゼム は青年 に対 して、 どう してあ れほ どの
深 い尊敬 を示 したの か、 わたし には その理 由が わかり ませ んでし た。 セイエ ド・ ショ
ーハダの廟さえも、それほどの尊敬の念を起こさせることはなかったからです。
三 日後 、わた しは その同 じ青 年がカ ゼム の弟子 たち の集ま りに 来て席 につ くのを 見
ました。かれは入り口の近くに座り、前と同じようにつつましいが威厳のある態度で、
カ ゼムの 講義 に耳を 傾け まし。 カゼ ムは青 年に 気づく とす ぐに講 義を 中断し 、黙 って
し まった ので す。そ こで 、弟子 の一 人が、 講義 を終わ りま でつづ けて くれる よう に頼
みました。カゼムはバブ(青年)の方を向いて答えました。
『これ以上何が言えようか。
真 理はあ の御 方のひ ざに 注いで いる 太陽の 光線 よりも 明ら かなの だ。』わた しは すぐ、
カ ゼムが 言及 した光 線が 、先日 訪問 した青 年の ひざに 注が れてい るの を見ま した 。弟
子はふたたび質問しました。
『なぜその方の名前も身元も明らかにされないのですか。』
(p.27)
こ の質 問に、 カゼ ムはゆ びで のどを 指し 、もし その 方の名 前を もらせ ば、 二人共 即
刻 殺され るこ とをほ のめ かしま した 。これ で、 わたし のと まどい は一 層深ま った ので
す 。以前 わた しは師 がこ う語る のを 聞いて いま した。 すな わち、 今の 世代は あま りに
も 堕落し てい るため 、も しかれ が、 約束の 御方 を指し て、『この 方こ そ最愛 なる 御方、
心 の望み の的 なる御 方で ある』 と断 言した とし ても、 かれ らはそ の御 方を認 める こと
も、受け入れることもできないであろう、と。(p.28)
わ たし はカゼ ムが その青 年の ひざに 注が れた光 線を 指で示 した のを見 まし たが、 そ
こ にいた 弟子 たちで その 意味を 把握 できた 者は いなか った と思い ます 。わた しが 確信
していたのは、カゼムは絶対に約束の御方ではない、ということだけでした。そして、
こ のだれ にも 解明で きな い神秘 は、 あの不 思議 で魅力 ある 青年の うち にかく され たま
まであったことがあとでわかりました。
数 回に わたっ て、 その神 秘を 解明し ても らおう とカ ゼムに 近づ きまし たが 、その 度
に かれの 人格 からに じみ 出てく る強 力な霊 感に 畏れを 感じ て、何 も聞 くこと はで きま
せんでした。カゼムは何度もわたしにつぎのように言いました。
『おおシェイキ・ハサ
ン よ、あ なた の名前 がハ サン( 賞賛 に値す ると いう意 味) である こと によろ こび なさ
い 。あな たは シェイ キ・ アーマ ドの 時代に 生き るとい う恩 恵を得 た。 わたし とも 親し
く 交際で きた 。そし て今 後<だ れの 目も見 たこ ともな く、 だれの 耳も 聞いた こと がな
く 、だれ の心 も想像 した ことが なか った> もの を見る こと ができ 、計 り知れ ない よろ
こびを得るであろう。』(pp.29-30)
わ たし は、あ のモ ハメッ ドの 子孫で ある 青年の 面前 に出て 、そ の神秘 を突 き止め た
い という 衝動 に駆ら れた ことが よく ありま した 。この 青年 がエマ ム・ ホセイ ンの 廟の
入 り口で 祈っ ている のを 数回に わた って目 にし たこと があ ります が、 そのと き、 かれ
は 祈りに 没頭 してお り、 まわり の人 にはま った く気づ いて いない よう でした 。か れの
目 からは 涙が あふれ 、唇 からは こよ なく美 しく 、威力 あふ れる賛 美の 言葉が もれ てい
ました。それは、聖典にある崇高な言葉をはるかにしのぐものでした。青年は、『おお
神 よ、わ が神 よ、わ が心 の望み なる 御方よ 』と いう句 を何 度も熱 烈に 唱えた ので 、近
く でその 声を 聞いた 巡礼 たちは 、自 分たち の祈 りを思 わず 中断し たほ どでし た。 そし
て 、その 青年 の表情 にあ ふれる 敬虔 の念を 見て おどろ くと ともに 深く 感動し 、か れら
も また涙 を流 しはじ めた のです 。こ うして かれ らは、 真の 礼賛と はど のよう なも のか
を学んだのでした。
青 年は 祈りを 終え ると、 廟の 中に入 った り、ま わり にいた 人た ちに声 をか けたり せ
ず 、沈黙 した まま家 にも どりま した 。わた しは 、かれ に話 しかけ たい という 衝動 にか
ら れ、近 寄ろ うとし まし たが、 その たびに 、説 明でき ない 不思議 な力 に阻止 され たの
で す。あ とで 調べた 結果 、青年 はシ ラズ市 出身 の商人 で、 どの宗 派に も属し てい ない
こ とがわ かり ました 。さ らに、 かれ と親族 はア ーマド とカ ゼムの 称賛 者でも あっ たこ
とがわかりました。
そ の後 まもな くし て、青 年が ナジャ フに 向かっ たこ とを知 りま した。 ナジ ャフは シ
ラ ズに行 く途 中にあ る町 です。 わた しの心 はこ の青年 にす っかり 魅惑 され、 その 姿は
わ たしの 脳裏 にやき つい ていま した 。わた しの 魂はか れの 魂に結 びつ けられ てし まっ
た のです 。そ してあ る日 、シラ ズで 一人の 青年 が、自 分こ そはバ ブで あると 宣言 した
こ とを聞 いた とき、 すぐ にその 人物 はカル ベラ で見た わた しの心 の望 みであ る青 年に
ちがいないと思ったのです。(p.30)
後 日、 わたし がカ ルベラ から シラズ に旅 したと き、 その青 年( バブ) はす でにメ ッ
カ とメジ ナへ の巡礼 に発 ったあ とで した。 しか し、か れが もどっ たあ と会う こと がで
き 、それ 以来 、いろ いろ な障害 がわ たしの 道に 立ちは だか ったに もか かわら ず、 かれ
と 親しく 交わ りつづ ける ように 努め ました 。そ の後、 かれ がアゼ ルバ エジャ ン地 方の
マ ークー の砦 に監禁 され ている 間、 かれが 秘書 に書き 取ら せた文 章を 写すこ とが でき
ま した。 その 砦での 九ヵ 月の間 、か れは毎 夜夕 べの祈 りを ささげ たあ と、コ ーラ ンの
一 節につ いて 解説を 書き ました 。そ して、 各月 の末に は、 聖なる コー ラン全 体の 解説
文 が完成 しま した。 すな わち、 マー クーに 監禁 中、九 つの コーラ ンに 関する 解説 文が
著 された ので す。こ れら の解説 文の 保存は 、タ ブリズ でカ ーリル にま かされ まし た。
そ のとき カー リルは 出版 の時期 が来 るまで 秘し ておく よう に指示 を受 けたの です が、
その後それらがどうなったのか未だもって不明です。
ある日バブは、わたしにこう聞かれました。
『これらの解説文のひとつに関して質問
し たいが 、こ の解説 文と 、以前 に著 したヨ セフ の章に つい ての解 説文 のどち らが すぐ
れ ている と思 うか。』『わ たしに は、 以前の もの の方が より 力強く 魅力 がある よう に思
われます』と答えたところ、かれはその意見を聞いて微笑まれ、こう言われました。
『あ
な たはま だ後 で著し た解 説文の 語調 と主旨 をよ く知ら ない のだ。 探求 者はこ の中 に秘
め られて いる 真理に より 、探究 の目 標によ り早 く、よ り効 果的に 達す ること がで きよ
う。』
そ の後 も、シ ェイ キ・タ バル シでの 戦い (約三 百人 が殉教 した 事件) のと きまで 、
バ ブと親 しく 交わり つづ けまし た。 この事 件を 知った バブ は、周 りに いた弟 子た ち全
員 に、そ の場 所に直 行し て、勇 敢で すぐれ た弟 子のゴ ッド スを最 大限 援助す るよ うに
指示されました。ある日、バブはわたしにこう言われました。
『チェリグの砦に監禁さ
れ ていな けれ ば、愛 する ゴッド スに われ自 ら援 助の手 を差 しのば した ことで あろ う…
… 。あな たは この戦 いに 参加す るよ うには 定め られて いな い。カ ルベ ラに行 き、 その
聖 なる町 に住 まうよ うに なって いる 。あな たは 自分の 目で 約束の ホセ インの 美し い御
顔 を見る よう に定め られ ている のだ 。その 輝か しい御 顔を 見つめ ると き、あ なた は同
時 にわた しを 思い起 こす であろ う。 その御 方に 、わた しの 敬愛の 念を 伝えて くれ るよ
う に願う 。』 そして 、語 勢を強 めて つぎの 言葉 を付け 加え られま した 。『は っき り申す
が 、あな たに 偉大な 使命 を託し た。 気弱く なっ たり、 付与 された 栄誉 を忘れ たり しな
いように気をつけよ。』(p.31)
そ の後 すぐ、 わた しはカ ルベ ラに行 き、 命じら れた 通りそ の聖 なる町 に住 みはじ め
ま した。 しか し、こ の巡 礼の中 心で ある町 に一 人で長 く滞 在する と、 住民に 疑わ れる
か もしれ ない ので、 結婚 し、筆 写者 として 生計 を立て はじ めまし た。 わたし はそ の町
で 、アー マド を信じ なが ら、バ ブを 認める こと ができ なか った者 らか ら、ひ どく 苦し
め られま した 。しか し、 敬愛す るバ ブの勧 告を 心に留 め、 受けた 侮辱 に耐え まし た。
そ の町に 二年 間住み まし たが、 その 間、あ の聖 なるバ ブは 殉教さ れ、 この地 上の 牢獄
か ら解放 され たのを 知り ました 。バ ブは生 涯の 終わり に襲 ってき た激 烈な迫 害か らつ
いに自由になられたのです。
一 八五 一年十 月五 日、バ ブの 殉教か ら十 五ヵ月 後の ある日 、エ マム・ ホセ インの 廟
に ある中 庭門 のそば を通 り過ぎ よう として いた とき、 はじ めてバ ハオ ラの姿 を目 にし
ま した。 それ をどの よう に述べ たら よいの でし ょうか 。そ の顔の 美し さ、だ れも 叙述
できないほどの優雅な目鼻立ち、人の心を見通すような鋭い目、慈愛にあふれた表情、
威 厳にみ ちた 態度、 やさ しい微 笑み 、ふさ ふさ と垂れ た漆 黒の髪 は、 わたし の魂 に忘
れがたい印象をあたえました。
わ たし はその とき もう老 齢で 、腰も まが ってい まし た。バ ハオ ラは慈 愛深 くわた し
に 近寄っ てこ られ、 わた しの手 を取 り、惹 きつ けるよ うな 力強い 語調 でこう 言わ れま
した。
『今日というこの日、あなたをバビ(バブに従う者)としてカルベラ中に知られ
るようにしたのだ。』ずっとわたしの手を握りながら、バハオラはわたしとの会話をつ
づ けられ まし た。そ して わたし と一 緒に市 場通 りに沿 って 歩かれ 、最 後にこ う言 われ
ました。
『神に賛美あれ。あなたはカルベラに留まり、自分の目で約束のホセインの顔
を見ることができた。』そのときすぐ、わたしはバブの約束を思い出しました。バブの
約 束は遠 い未 来のこ とを 指して いる と思っ て、 だれに もそ のこと を話 してい ませ んで
し たが、 この 言葉で わた しの魂 は内 奥まで ゆり 動かさ れた のです 。そ の瞬間 、わ たし
は 約束の ホセ インの 到来 を、全 力を つくし て無 思慮の 人び とに宣 言し なけれ ばと 強く
感じました。(p.32)
し かし 、バハ オラ はその 気持 ちを抑 え、 感情を かく すよう に命 じられ たの です。 そ
して、わたしの耳にささやくように言われました。
『まだその時期ではない。約束の時
は近づいているが、まだその時間は打たれていないのだ。確信をもって忍耐せよ。』そ
の 瞬間か ら、 すべて の悲 しみは わた しから 消え 去り、 魂は よろこ びで 満ちあ ふれ まし
た 。その ころ わたし は大 変貧し く、 つねに 空腹 でした が、 心はひ じょ うに豊 かで 、地
上のすべての宝物も、わたしが所有しているものに比べれば無に等しく思えたのです。
『 これこ そ神 の恩恵 であ る。神 は自 らあた えた いと望 まれ る者に あた えたも う。 まこ
とに、神は限りなく恵み深き御方でありたもう。』」
少 々わ き道に それ たが、 ここ で本題 にも どろう 。こ れまで 、当 時の人 びと と約束 さ
れ た神の 顕示 者の間 にか かって いた ヴェー ルを 引き裂 こう とする カゼ ムの熱 意を 語っ
てきた。カゼムはある書の序論で、バハオラの祝福された名前をほのめかしているが、
バブの名前は最後の小冊子の中で、
「ゼクロラエ・アザム」という言葉に言及して明確
にした。それにはこう書かれている。
「この高貴なゼッカーなる御方、威力ある神の御
声に、わたしはこう申し上げるのです。
『わたしは、人びとがあなたに害をあたえない
か と心配 して おりま す。 わたし 自身 もまた 、あ なたを 傷つ けない かと 心配し てお りま
す 。わた しは あなた を畏 れ、あ なた の権威 にふ るえ、 あな たが生 きら れる時 代を 恐れ
て おりま す。 復活の 日ま で、あ なた をわが 目の ひとみ のよ うに大 切に したと して も、
あなたへの献身を十分に示すことはできないでありましょう。』」(p.33)
カ ゼム は、邪 悪な 人びと から どれほ ど苛 酷な苦 しみ を受け 、そ の下劣 な世 代の人 び
と からど れほ どの害 を加 えられ たこ とであ ろう か。カ ゼム は何年 も黙 って苦 しみ 、侮
辱 、誹謗 、非 難に英 雄的 な忍耐 力で 耐えた 。し かしな がら 、かれ は生 涯の終 わり に、
か れに敵 対し 陰謀を めぐ らした 者ら が、神 の復 讐の手 で滅 ぼされ るの を目撃 でき た。
カ ゼムは 、敵 たちが 「恐 ろしい 破壊 力で滅 ばさ れた」 のを 見るよ うに 定めら れて いた
のである。
そ のこ ろ、カ ゼム の悪名 高き 敵であ るエ ブラヒ ムに 従う者 らは 、団結 して 扇動を 起
こ し、害 毒を 流して 、カ ゼムの 命を 危険に 陥ら せよう とし た。か れら はあら ゆる 手段
を 用いて 、カ ゼムの 称賛 者や友 人の 心を毒 し、 かれの 権威 を傷つ け、 その名 声を 落と
そ うとし た。 しかも 、こ の不信 実な 者らの 扇動 に対し て、 だれ一 人抗 議の声 をあ げる
者 はいな かっ た。敵 は皆 、各自 自分 こそが 真の 学識者 であ り、神 の宗 教の神 秘を 解明
できる者であると公言していたにもかかわらず、このような扇動を起こしたのである。
し かも、 だれ 一人と して 、かれ らに 警告を あた えて、 目ざ まさせ よう とする 者は いな
かった。(p.34)
敵 は勢 力を集 めて 大騒動 を起 こし、 トル コ政府 を代 表する 高官 の面目 を失 わせて 、
カ ルベラ から 追い出 すこ とに成 功し た。そ して 、卑し くも 、その 高官 が集め た税 金を
す べて横 領し たので ある 。この 行動 を脅威 と見 たトル コ政 府は、 騒動 の場に 一師 団を
送 り、扇 動の 火を消 すよ うに命 じた 。指揮 官は 、一師 団で 町を包 囲さ せ、カ ゼム に書
簡 を送り 、民 衆の興 奮が 静まる よう 、つぎ の勧 告を住 民に 出すよ うに 要請し たの であ
る。
「節度を守り、指揮官の命令を守るように勧告する。皆がこの勧告を聞き入れれば、
指 揮官は 皆の 安全に 守り 、その 扇動 行為を 許し 、皆の 福利 を促進 する と約束 する 。し
か し、こ れに 従わな けれ ば、大 災難 が必ず ふり かかり 、皆 の命は 危険 にさら され るこ
とになろう。」
こ の正 式の書 簡を 受け取 った カゼム は、 扇動の 主導 者たち を呼 びよせ 、賢 明にし か
も 愛情を こめ て、扇 動を やめ、 武器 を放棄 する ように 説き すすめ た。 この説 得力 のあ
る 雄弁、 誠意 と私心 のな い勧告 で、 かれら の心 はやわ らぎ 、反抗 心が 鎮めら れた 。翌
日 、かれ らは 砦の門 を開 け、カ ゼム といっ しょ にその 指揮 官のと ころ に出頭 した 。そ
こでカゼムが、かれらに代わって調停者となり、平安と福利の確保に意見が一致した。
と ころ が、反 乱の 主導で ある 僧侶た ちは 、カゼ ムの 前から 去る とすぐ 、こ の計画 を
く じくた めに 、皆一 致し て立ち 上が った。 カゼ ムに対 して 嫉妬心 をい だいて いた かれ
ら は、カ ゼム が調停 者に なれば 、か れの名 声は 高まり 、そ の権威 が強 まるこ とを 知り
つ くして いた 。そこ で、 かれら はそ の町の 愚か 者や激 しや すい者 を集 めて、 夜半 に敵
を 攻撃す るよ うに説 得し たので ある 。その とき 僧侶た ちは かれら に、 僧侶の 一人 が夢
を みたの で、 かなら ず勝 つと確 信さ せたの であ る。そ の夢 という のは 、アッ バス (エ
マ ム・ホ セイ ンの弟 )が 現われ 、信 者たち を鼓 舞して 、包 囲軍に 対し て聖な る戦 いを
いどむように僧侶に命じ、最終的な成功を約束したというものである。(pp.34-35)
こ の空 しい約 束に まどわ され たかれ らは 、賢い 助言 者の忠 告を はねの け、 その代 わ
り に、愚 かな 指導者 の計 画を実 行す るため に立 ち上が った 。カゼ ムは この反 乱が 悪質
者 によっ て起 こされ たこ とに気 づき 、その 状況 をくわ しく 、あり のま まに述 べた 報告
書 をトル コ軍 の指揮 官に 送った 。指 揮官は カゼ ムに、 この 問題の 平和 的解決 をふ たた
び 要請し てき た。さ らに 指揮官 は、 定めら れた 時間に 砦の 門を奪 取す るが、 そこ で敗
北 した敵 が避 難でき ると ころは カゼ ムの家 しか ないと 宣言 した。 カゼ ムはこ の宣 言を
町 中に知 らせ たが、 住民 はあざ けり 、軽蔑 する だけで あっ た。こ の住 民の態 度を 知ら
されたカゼムはこう述べた。
「まことに、かれらが脅されていることは、朝方に起こる
であろう。夜明けは近づいていないであろうか」(コーラン)
明 け方 、決め られ た時間 に軍 は砦の 累壁 を砲撃 して 城内に 侵入 し、か なり の人数 の
住 民を殺 戮し た。仰 天し た多く は、 エマム ・ホ セイン の廟 の中庭 に逃 げ込ん だ。 ほか
の 者らは 、ア ッバス の聖 所に避 難し た。カ ゼム を敬愛 して いた者 らは 、かれ の家 に逃
げ てきた 。あ まりに も大 勢の人 びと が、か れの 家に避 難し てきた ので 、全部 収容 する
た めに、 隣接 する家 屋を 何軒も 用い なくて はな らなか った 。この よう に、多 数の 人び
と がカゼ ムの 家に殺 到し 、興奮 状態 にあっ たの で、騒 ぎが おさま った とき、 約二 十二
人が踏み殺されていたことがわかった。(p.36)
こ の聖 なる町 の住 民と訪 問者 は、ど れほ ど仰天 した ことで あろ うか。 勝利 者はど れ
ほ どきび しく 敵を扱 った ことで あろ うか。 そし て大胆 にも 、これ まで イスラ ム教 徒の
巡 礼が礼 拝し てきた カル ベラの 聖所 の神聖 な権 利と特 典を 無視し 、さ らにエ マム ・ホ
セ インの 廟と アッバ スの 聖なる 墓を 、軍の 攻撃 から逃 げて きた群 集の 聖域と して 認め
る ことを 拒否 したの であ る。こ うし て、こ の二 つの聖 廟の 境内に 、犠 牲者た ちの 血が
流 された 。し かし、 ただ 一ヵ所 だけ が、無 実で 、忠実 な人 びとの 聖域 といわ れる 所が
あ った。 それ はカゼ ムの 家であ った 。その 家と それに 付属 する建 物は 、ひじ ょう に神
聖 である とみ なされ た。 そこは イス ラム教 シー ア派の もっ とも聖 なる 廟以上 に神 聖で
あ ると考 えら れたの であ る。こ の不 思議な 神の 復讐の 出現 は、聖 人カ ゼムの 地位 を軽
ん じる者 らへ のいま しめ であっ た。 この忘 れが たい出 来事 は一八 四三 年一月 十日 に起
こった。
ど の時 代にも 、神 の教え をも たらし た者 とその 準備 に現わ れた 者は、 強大 な敵の 反
対に会った。敵は、それらの聖なる人物の権威に挑戦し、その教えを悪用した。また、
詐 欺、虚 偽、 中傷や 抑圧 で、無 知な 人びと をだ まし、 弱い 者たち をあ やまり 導い てき
た 。神の 教え がかく され ている 間は 、敵は 人民 の思考 と意 識を支 配し つづけ たい とい
う 欲望か ら、 不安定 なが らもあ る期 間権力 を保 つこと がで きた。 しか しなが ら、 教え
が 明らか にさ れ、神 の日 の曙光 がさ しはじ める と、敵 の陰 険な計 画は 効果を 失っ てい
っ た。そ の太 陽の強 烈な 光を前 にし て、そ の陰 謀と悪 行は 無と帰 し、 やがて 忘れ 去ら
れていったのである。(p.37)
同 じよ うに、 カゼ ムの周 りに も虚栄 心の 強い下 劣な 人びと が集 まって きた 。かれ ら
は カゼム を敬 愛し、 献身 してい るよ うに装 った 。そし て、 自分た ちは 信心深 く、 敬虔
な 人間で 、自 分たち だけ が、ア ーマ ドとそ の後 継者の 言葉 に秘め られ ている 神秘 を解
明 できる と公 言した 。か れらは カゼ ムの弟 子た ちの中 で栄 誉の座 を占 めてい た人 たち
で あった 。カ ゼムは かれ らに特 別の 尊敬と 礼儀 を示し なが ら講演 した が、微 妙な 言葉
で それと なく かれら の盲 目さと 虚栄 心を幾 度と なく指 摘し た。か れら が神の 言葉 の神
秘を理解する能力にまったく欠けていることを暗示したのである。
かれが暗示するために用いた言葉の中にはつぎのようなものがある。
「わたしから生
ま れた者 以外 には、 だれ もわた しの 言葉を 理解 できな い。」この 格言 もよく 引用 した。
「 わたし は幻 に心を うば われ、 おど ろきで 言葉 も出な くな ってい るが 、世の 人び とは
聴 力を失 って いるよ うだ 。わた しは 神秘を 解明 するこ とは できな い。 人びと がそ の重
さ に耐え るこ とがで きな いのが わか るから だ。」ほか の折 に、こ う述 べた。「最 愛なる
御 方と交 信で きたと 宣言 する者 は多 いが、 最愛 なる御 方は その宣 言を 拒否さ れる 。人
が本当に最愛なる御方を敬愛しているかどうかは、その人の流す涙で明らかとなる。」
さらに、しばしばつぎのようにも語った。
「わたしの後に現われる御方は、高貴な血筋
で 、高名 なフ ァテメ (モ ハメッ ドの 娘)の 子孫 である 。そ の御方 は中 背で肉 体的 な欠
陥はない。」(p.38)
わたし(著者)は、アブトラブからつぎのように聞いた。「カゼムは約束の御方は肉
体 的な欠 陥は ないと はっ きり言 われ ました 。し かし、 われ われの うち 何人か は、 カゼ
ム がこの 肉体 的な欠 陥を 言及さ れた のは、 同胞 弟子の 中の とくに 三人 のこと を暗 示す
る ためで ある とみな しま した。 われ われは この 三人に 、そ れぞれ 肉体 的な欠 陥を 示す
あ だ名を つけ さえし たの です。 一人 は、エ ブラ ヒム・ カー ンの息 子の カリム ・カ ーン
で 、片目 で、 うすい 髭を はやし てい ました 。も う一人 はハ サン・ ゴー ハルで 、ひ じょ
うに肥満しており、三人目はムヒットで、異常にやせて背の高い男でした。
こ の三 人の弟 子こ そ、う ぬぼ れが強 く不 誠実な 人間 である と、 カゼム がつ ねに言 及
し ていた 者ら である こと を確信 した のです 。か れらは やが て正体 をあ らわし て、 いか
に恩知らずで愚かであるかを暴露するであろう、とカゼムはほのめかしていたのです。
カ リム・ カー ンは長 年、 カゼム の足 元に座 り、 いわゆ る学 問なる もの を学ん だ後 、師
のもとを離れ、ケルマンの町に落ち着きました。そこで、イスラム教の発展を促進し、
エマムにまつわる伝承の普及に専心しました。
あ る日 、わた しが カゼム の書 斎にい たと き、カ リム ・カー ンの 従者が きて 、主人 か
ら頼まれたといって、本を一冊カゼムに差し出し、
『この本に目を通し、その内容を承
認 する旨 を自 筆でし たた めてく ださ い』と 要請 しまし た。 カゼム はそ の本の 一部 を読
んだあと、従者にもどしてこう述べました。
『あなたの主人にこう言いなさい。だれよ
りもあなた自身が、自分の書いた本の価値を評価することができると。』
従者が去ったあと、カゼムは悲しげにこう述べました。
『カリム・カーンは呪われる
で あろう 。長 年わた しと 交わり 、共 に学ん でき たのに 、今 、無神 論的 な異端 教義 の本
を 書いて 、そ れをひ ろめ ようと して いる。 その 上、わ たし にそれ を承 認させ よう とし
て いるの だ。 かれは 利己 的な偽 善者 の何人 かと 共同し て、 ケルマ ンで 自分の 地位 を確
立 し、わ たし の死後 、指 導権を にぎ ろうと して いる。 かれ はとん でも ない誤 った 判断
を した。 導き の夜明 けか ら吹い てく る神の 啓示 の微風 は、 かなら ずか れの光 を消 し、
そ の影響 力を 滅ぼし てし まうで あろ う。か れの 努力の 木は 、やが て苦 い幻滅 の果 実と
苦 しい呵 責の 果実以 外は 何も生 み出 さない であ ろう。 ぜひ このこ とを あなた に申 して
お きたい 。あ なたは これ が実現 され るのを 自分 の目で 見る ことが でき よう。 約束 の啓
示 に反対 する かれが 、今 後およ ぼす であろ う悪 影響か ら、 あなた が守 られる よう に祈
るばかりだ。』(pp.39-40)
カ ゼム はこの 予告 を復活 の日 までか くし ておく よう に命じ まし た。そ のと き、全 能
の 神の御 手が 、人び との 胸の中 にか くされ てい る秘密 を明 るみに 出さ れるの です 。そ
して、こう勧告しました。
『その日がきたら、神の信教の勝利をめざして不動の目的と
決意をもって立ち上がり、これまで見聞したことをすべて、いたるところにひろめ
よ。』」
こ の人 物アブ トラ ブは、 バブ の宣言 では じまっ た新 しい時 代の 初期に おい ては、 自
分 が信者 であ ること は一 般に知 られ ない方 が賢 明であ ると 考えた 。し かし、 胸中 では
到 来され た神 の顕示 者へ の愛を いつ くしみ 、岩 のよう に不 動で確 固た る信念 をも ちつ
づ けた。 しか しつい に、 かれの 魂の 中にく すぶ りつづ けて いた火 が燃 え上が り、 行動
を 起こし はじ めた。 その ため、 バハ オラが 監禁 されて いた 同じテ ヘラ ンの地 下牢 に投
獄 される こと になっ た。 そして 、最 後の瞬 間ま で不動 の信 念をも ちつ づけ、 その 愛に
あふれた犠牲の生涯を、殉教という栄光の冠で飾ったのである。
カ ゼム は自分 の生 涯が終 わり に近づ くに つれて 、弟 子に会 う度 につぎ のよ うに勧 告
した。この勧告は個人的な会話と公開講演会の場であたえられたものである。
「わが愛
す る仲間 よ。 わたし が去 ったあ と、 この世 のは かない 虚栄 にあざ むか れない よう に十
分 気をつ けよ 。ごう 慢に なって 、神 を忘れ ない ように せよ 。皆と わた しの心 の望 みの
的 なる御 方を 求める 道に おいて は、 安楽の すべ て、こ の世 の所有 物と 親族の すべ てを
断 たなけ れば ならな いの だ。広 くあ まねく 分散 し、世 俗の ものす べて を棄て 、自 分の
努 力を支 え導 いてく れる ように 、主 に謙虚 な気 持ちで 心か ら祈ら なけ ればな らな い。
栄 光のヴ ェー ルの背 後に かくさ れて いる御 方を 探し出 す決 意を、 けっ してゆ るめ ては
な らない 。そ の御方 の慈 悲深い 援助 を受け て、 その御 方を 認める こと ができ るま で忍
耐 せよ。 その 御方こ そ、 あなた の真 の指導 者で あり、 師な のだ。 その 御方が 、あ なた
を 約束の ガエ ム(バ ブを 指す) の勇 敢な弟 子お よび支 持者 として 選ば れるま で不 動の
信 念をも ちつ づけよ 。そ の御方 の道 におい て、 殉教の 盃を 飲み干 す者 は幸い であ る。
皆 のうち 、聖 なる啓 示の 太陽( バハ オラ) の先 駆者で ある 聖なる 教導 の星( バブ )が
沈 むのを 目撃 できる 者ら は、忍 耐と 不動の 確信 をもち つづ けなけ れば ならな い。 神は
か れらが 目撃 できる よう に守っ て下 さるの だ。 かれら はま た、た じろ いだり 不安 に襲
わ れたり して はなら ない 。とい うの も、や がて 、地上 に死 をもた らす 最初の ラッ パが
響 き、そ のあ と、も う一 つのラ ッパ が鳴り 響い て、万 物が 生き返 るか らであ る。 その
とき、つぎの聖なる句の意味が明らかにされるであろう。
『ラッパが鳴りわたり、神が
生 きるこ とを 許され た者 以外は 、天 にある もの も地に ある ものも すべ て息絶 えて しま
う 。その あと 、もう 一度 ラッパ が吹 き鳴ら され ると、 見よ 、みな 起き 上がっ て、 あた
り を見回 す。 そして 、大 地は主 の光 で照り 輝き 、聖な る書 がもち 出さ れる。 そこ へ、
予 言者と 証人 が現わ れ、 公正な 裁き がはじ まる が、だ れも 不当な 扱い を受け るこ とは
ない。』
こ のこ とをは っき り告げ てお きたい が、 ガエム (バ ブ)の あと に、ガ イユ ーム( バ
ハ オラ) が現 われる 。前 者の星 が沈 んだあ と、 ホセイ ンの 美の太 陽が 昇り、 全世 界を
照 らすで あろ う。そ うし てはじ めて 、アー マド が予告 した 『神秘 』と 『秘密 』の 栄光
が完全に明らかにされよう。アーマドはこう述べていた。
『この大業の神秘は解明され
なければならない。この教えの秘密は明らかにされなければならない』と。(pp.40-41)
こ のも っとも 聖な る時代 に生 きる者 は、 過去の 世代 が頂点 に達 した栄 光あ る時代 に
生 きる者 であ る。そ して 、この 時代 のひと つの 善行は 、無 数の世 紀間 の敬虔 な礼 拝に
匹 敵する のだ 。かの 尊敬 すべき アー マドは 、わ たしが 前に 言及し たコ ーラン の句 を何
回 くり返 され たこと であ ろうか 。矢 継ぎ早 に現 われ、 世界 を栄光 で満 たすよ うに 定め
ら れてい る二 つの啓 示の 出現を 予言 した句 の重 要性を 、ど れほど 強調 された こと であ
ろうか。かれはつぎの言葉を叫ぶようにくり返えされた。
『それらの啓示の意味を理解
し、その光輝を見る者は幸いである。』かれはまた、何度もこのようにわたしに言われ
た。
『あなたとわたしは、この栄光に輝く啓示を見るまで生きられないのだ。だが、あ
な たの忠 実な る弟子 の多 くは、 それ を目撃 する ことが でき よう。 残念 ながら われ われ
には見ることができないのだが。』
わ が愛 する仲 間よ 。この 大業 はひじ ょう に偉大 であ り、そ の高 遠な地 位に 皆を召 す
こ とがで きた 。皆の 使命 は言語 に絶 するほ ど重 大なも ので ある。 わた しはそ のた め皆
を 訓練し 、準 備して きた のだ。 気を 引きし めて 、神の 約束 に目を すえ よ。ま ちが いな
く 襲いか かっ てくる 試練 と苦難 の嵐 を乗り 切り 、無傷 で脱 し、勝 利を 得て、 高遠 な運
命に導かれるように、神の慈悲深い援助を祈っている。」
毎 年、 ゼル・ カゼ の月に なる と、カ ゼム は、エ マム の廟を 訪れ るため にカ ルベラ か
ら カゼマ イン に出向 いた 。そし て、 アラフ ェの 日にエ マム ・ホセ イン の廟を 訪れ るこ
と ができ るよ うに、 カル ベラに もど るのが つね であっ た。 生涯の 最後 の年、 かれ は、
こ れまで の習 慣どお りに 、一二 五九 年(一 八四 三年) ゼル ・カゼ 月一 日に、 何人 もの
仲 間や友 人を 伴って 、カ ルベラ を出 発した 。そ の月の 四日 目、正 午の 祈りの 時間 に、
バ グダッ ドと カゼマ イン の中間 にあ る主要 道路 のそば にあ るモス クに 到着し た。 かれ
は 祈りの 呼び 出し人 に、 弟子た ちを 集めて 祈る ように 命じ た。カ ゼム がモス クに 面す
る やしの 木の 木陰に 立ち 、弟子 たち の祈り に加 わり、 礼拝 を終え たと き、ア ラブ 人が
突然現われた。アラブ人はカゼムに近寄り、抱擁して、こう語った。(p.42)
「 三日前 、む こうの 牧場 で羊の 番を してい たら 突然眠 気が して、 うと うとと 眠っ てし
まいました。夢の中で、神の使徒モハメッドが現われて、わたしにこう言われました。
『羊飼いよ、わたしの言葉に耳を傾け、それを胸のなかに大事にしまっておくがよい。
こ の言葉 は神 から下 され たもの であ り、そ れを あなた に託 すのだ 。も し、あ なた がこ
の 言葉に 忠実 にした がう ならば 、す ばらし い報 酬を得 るで あろう 。そ うでな けれ ば、
ひ どい罰 がふ りかか るで あろう 。よ く聞く がよ い。こ れは 、あな たに 預ける 大事 なも
の である から 。あな たは このモ スク の近く から 離れな いよ うにせ よ。 この夢 から 三日
目 の正午 に、 わたし の親 族であ るカ ゼムと いう 人物が 、友 人や仲 間を 伴って 、モ スク
付 近のヤ シの 木陰に やっ てくる 。そ こでか れは 祈りを ささ げるが 、そ れを見 たら すぐ
に 、その 人の ところ に行 き、わ たし からの 心の こもっ たあ いさつ をし 、こう 伝え よ。
< よろこ ぶが よい。 あな たのこ の世 からの 旅立 ちの時 間が 近づい たか らだ。 あな たは
カ ゼマイ ンで の礼拝 が終 わった あと カルベ ラに もどり 、三 日後の アラ フェの 日( 一八
四 三年十 二月 三十一 日) に、わ たし のとこ ろに 飛び立 って くる。 その 直後に 真理 なる
御方が到来され、世界はその御顔の光で照らされるであろう>。』」(pp.43-44)
羊飼いの夢の話が終わったとき、カゼムは表情をくずして微笑み、こう述べた。
「あ
なたが見た夢は、うたがいもなく真実である。」これを聞いた弟子たちは悲嘆にくれた。
そこで、かれは弟子たちの方を向き、こう言った。
「皆のわたしへの愛は、皆が待ち望
ん でいる 真実 なる御 方の ためで はな いのか 。約 束の御 方が 出現さ れる ように 、わ たし
のこの世からの旅立ちを望まないのか。」この出来事は、その場に居合わせたおよそ十
人 が、ま った く実際 に起 こった こと あると わた しに話 して くれた もの である 。そ れに
も かかわ らず 、この おど ろくべ きし るしを 目撃 した多 くの 者らは 、真 理なる 御方 を否
定し、その聖なる教えを拒否したのである。
こ のふ しぎな 出来 事の話 は、 広くつ たわ って行 き、 カゼム を心 から敬 愛し ている 人
た ちを悲 しま せた。 カゼ ムはこ の上 ないや さし さとよ ろこ びをも って 、かれ らを 元気
づ け、な ぐさ めた。 そし て、か れら の悩む 心を なだめ 、信 念を強 め、 熱意の 炎を 燃え
立 たした 。カ ゼムは 威厳 と平静 を保 ちなが ら巡 礼を終 えカ ルベラ にも どった が、 その
日 に病に 倒れ た。こ れを 知った かれ の敵は 、か れはバ グダ ッドの 知事 に毒を 盛ら れた
と いうう わさ をひろ めた 。しか しこ れは、 まっ たくの 誹謗 であり 、ま ぎれも ない 作り
り 話でし かな かった 。と いうの は、 知事自 身も カゼム を完 全に信 頼し ており 、つ ねに
か れを、 鋭い 洞察力 と非 の打ち どこ ろのな い性 格をそ なえ た有能 な指 導者で ある とみ
なしていたからである。
一 八四 三年十 二月 三十一 日、 六十才 の熟 年に達 して いたカ ゼム は、身 分の 低い羊 飼
い の夢ど おり に、こ の世 に別れ を告 げた。 後に 残され た献 身的な 弟子 の一団 は、 世俗
の欲望をすべて捨て、約束の御方を求めて旅立った。カゼムの聖なる遺体は、エマム・
ホ セイン の廟 の境内 に埋 葬され てい る。前 年の アラフ ェの 日の夕 方、 勝ち誇 る軍 隊が
砦 の門を 破り 、住民 の多 数を殺 戮し た騒動 が起 こった が、 かれの 死に より、 同じ よう
な 騒ぎが カル ベラに 起こ った。 前年 のその 日、 かれの 家は 平安と 安全 の避難 所で あっ
た が、か れが 死去し た翌 年の同 じ日 は悲し みの 家とな った 。カゼ ムか ら友情 と援 助を
受けた人たちが集まり、その逝去を深く嘆き悲しんだのである。(pp.45-46)
第三章
バブの使命の宣言
カ ゼム の死を きっ かけと して 、敵た ちは ふたた び活 動をは じめ た。指 導者 の地位 を
渇 望して いた かれら は、 カゼム がい なくな った ことと 、そ の弟子 たち が意気 喪失 して
い るのを 見て 、いっ そう 大胆と なっ た。そ して 、自分 たち の要求 を再 度主張 し、 その
野 心を果 たす 計画を 立て はじめ たの である 。し ばらく の間 、カゼ ムの 忠実な 弟子 たち
は 、恐れ と不 安でい っぱ いであ った が、モ ラ・ ホセイ ンが もどっ てき たとき 、憂 うつ
は 打ち払 われ た。モ ラ・ ホセイ ンは 、師か ら委 任され た使 命を首 尾よ く果た して 帰っ
てきたところであった。
モラ・ホセインがカルベラからもどってきたのは一八四四年一月二十二日であった。
か れは、 敬愛 する師 の弟 子たち が意 気消沈 して いるの を見 て、ま ずか れらを 慰め 、励
ま した。 それ から、 師の 固い約 束を かれら に思 い出さ せ、 かくさ れて いる最 愛の 御方
を ゆるま ぬ警 戒心と 不断 の努力 で探 しつづ ける ように 求め た。か れは 、カゼ ムが 住ん
で いた家 の近 くに住 み、 三日間 つづ けて多 数の 会葬者 たち を迎え た。 かれら は、 カゼ
ム の弟子 たち の代表 であ るモラ ・ホ セイン に、 哀悼の 意を 表わす ため に駆け つけ てき
た 人たち であ った。 その 後、か れは 主な弟 子で 信頼で きる 者らを 集め 、今は 亡き 師の
念願と勧告が何であったかを聞いた。(p.47)
かれらは答えた。
「カゼムはわれわれに、家を離れ国中にひろく散らばるように、何
度 も強く すす められ まし た。そ して 、われ われ の心か らす べての 空し い欲望 を除 き、
約 束の御 方の 探索に 専念 するよ うに 命じら れま した。 師は くり返 し、 その御 方の 到来
についてこう言われました。
『われわれが求めてきた目標なる御方は、今や出現された。
そ の御方 と皆 の間に かか ってい るヴ ェール はき わめて 厚い が、皆 の献 身的な 探索 によ
っ て除く こと ができ よう 。真剣 な努 力、純 粋な 動機、 誠実 な心だ けが 、その ヴェ ール
を 引き裂 くこ とがで きよ う。神 はそ の聖典 の中 で、< わが ために 努力 をする 者ら を、
わが道に導こう。>と述べられていたであろう。』」
そこで、モラ・ホセインは聞いた。「ではなぜ、あなた方はカルベラにとどまってい
るのか。なぜ分散して師の熱心な願いを実施するために立ち上がらないのか。」かれら
は答えた。
「われわれがそうしていないことはわかっています。われわれは皆、あなた
の 偉大さ を認 め、あ なた を深く 信頼 してい ます ので、 もし あなた がご 自分は 約束 の御
方 である と宣 言され れば 、皆す ぐそ れを受 け入 れ、あ なた に忠誠 を誓 い、ご 命令 には
何であれしたがうつもりです。」モラ・ホセインは叫ぶように言った。
「とんでもない。
わ たしは 、そ の御方 の栄 光から はる かに遠 い存 在なの だ。 主の中 の主 である 御方 にく
ら べると 、わ たしは ちり にすぎ ない 。あな た方 がカゼ ムの 語調と 言葉 に精通 して いれ
ば、そのようなことは口にしないであろう。わたしと同様、あなた方の最初の義務は、
敬愛する師の辞世の言葉をその通り実行することなのだ。」
こ う言 い終わ ると モラ・ ホセ インは 椅子 から立 ち上 がり、 ハサ ン・ゴ ーハ ルやム ヒ
ッ トなど 、名 がよく 知ら れてい る弟 子のと ころ へと行 った 。そし て、 一人一 人に 師の
別 れの言 葉を 伝え、 かれ らの果 たす べき義 務が いかに 重要 である かを 力説し 、そ れを
実 行する よう にすす めた 。しか し、 このこ ん願 にかれ らは あいま いな 言い訳 をす るだ
けであった。一人はこう言った。
「敵はとても強く大勢います。師が去られた今、わた
し はこの 場を 守らな けれ ばなり ませ ん。」 もう 一人は こう 答えた 。「 わたし はこ こに残
っ て、カ ゼム が後に 残さ れた子 供た ちの世 話を しなけ れば なりま せん 」モラ ・ホ セイ
ンはかれらを説得するのは無駄であることにすぐ気づいた。かれらの愚かさ、無分別、
感 謝のな さを 知り、 これ 以上話 しか けるこ とを 止め、 自分 のこと に忙 しいか れら を残
して、そこを離れた。(pp.47-48)
そのとき、約束の御方が出現される一八四四年が始まったばかりであった。ここで、
テ ーマか らそ れて、 モハ メッド とエ マムの 伝承 を述べ てみ よう。 とい うのは 、こ れら
の 伝承は とく にこの 年に 言及さ れて おり、 ここ で述べ るに ふさわ しい と思え るか らで
あ る。モ ハメ ッドの 息子 エマム ・ジ ャファ ーは 、ガエ ム( バブ) が顕 示され る年 に関
して質問されたとき、つぎのように答えた。「まことに、六〇年(一八四四年)に、か
れの大業は顕わされ、その名は広く伝えられるであろう。」
名 高い 学識者 モヘ ッド・ ディ ン・ア ラビ の著書 の中 には、 約束 された 顕示 者の出 現
の年と名前に触れた個所がかなりある。そのうちのいくつかを紹介してみよう。
「その
御 方の信 教を 管理し 、支 持する 人た ちは、 ペル シャ人 であ ろう。」「守 護者( アリ )の
名は、予言者(モハメッド)の名をしのぐ……」「その御方の啓示の年は、九で割るこ
とのできる数(二五二〇)の半分である。」(pp.48-49)
モハメッド・アクバリは、自著の詩で顕示者の年に関してつぎのように予言した。
「ガ
ー ズの年 (こ の文字 の数 値は一 二六 〇年) に、 地球は その 御方の 光で 照らさ れる であ
ろ う。ま た、 ガラシ の年 (一二 六五 年)に 、世 界はそ の栄 光で満 たさ れるで あろ う。
も し、あ なた 方が、 ガラ セの年 (一 二七〇 年) まで生 きの びるな らば 、もろ もろ の国
家、為政者、国民、および神の教えがいかに再生されるかを目撃するであろう。」忠実
な る者ら の指 揮官と 呼ば れるエ マム ・アリ (モ ハメッ ドの 娘婿) につ いて述 べた 伝承
には、同じくつぎのようなものがある。
「ガーズの年に、神の教導の木が植えられるで
あろう。」
モラ・ホセインは、仲間の弟子たちを目覚めさせ、立ち上がるように勧告したあと、
カ ルベラ から ナジャ フに 向けて 出発 した。 かれ の弟の モハ メッド ・ハ サンと 甥の モハ
メ ッド・ バゲ ルが同 行し た。か れら はモラ ・ホ セイン が故 郷のコ ラサ ン地方 のボ シュ
ル エイを 訪れ たとき から 同行し てき ていた 。モ ラ・ホ セイ ンはク フェ 寺院に 到着 する
と、そこに四〇日間滞在し、世間と交渉を絶ち、祈りに没頭した。断食と寝ずの行で、
す ぐにも 着手 しよう とし ている 聖な る冒険 の準 備をし たの である 。弟 はこの 祈り の期
間 、かれ と行 動を共 にし 、甥は 断食 しなが らも 、かれ らの 世話を し、 時間の 許す かぎ
り祈りに加わった。
し かし 、この 隠遁 生活の 静け さは、 数日 後、カ ゼム の主な 弟子 である モラ ・アリ の
と つぜん の到 着で破 られ た。十 二人 の仲間 と共 にクフ ェ寺 院に到 着し たかれ は、 仲間
の モラ・ ホセ インが 冥想 と祈り にふ けって いる のを知 った 。モラ ・ア リは膨 大な 知識
を もち、 アー マドの 教え に深く 通じ ていた ので 、多く の者 はかれ の方 がモラ ・ホ セイ
ン よりす ぐれ ている とみ なして いた ほどで あっ た。か れは 何度か モラ ・ホセ イン に、
祈 りの期 間を 終えた あと の目的 地に ついて 聞き 出そう と近 寄った が、 モラ・ ホセ イン
が あまり にも 深い祈 りに 没頭し てい たため 、質 問でき なか った。 そこ で、か れ自 身も
世 間との 交渉 を絶っ て、 四〇日 間隠 遁生活 をす ること にし た。仲 間も それに した がっ
たが、そのうち三人は世話係となった。(p.50)
四 〇日 間の隠 遁生 活を終 えた 直後、 モラ ・ホセ イン は二人 の仲 間と共 にナ ジャフ に
向 かった 。夜 半にカ ルベ ラを発 ち、 途中で ナジ ャフの 廟を 訪れ、 その あとペ ルシ ャ湾
に あるブ シェ ルに直 行し た。そ こで かれは 心の 望みで ある 最愛な る御 方の探 索を はじ
め た。そ の町 ではじ めて 、モラ ・ホ セイン は、 商人と して つつま しい 市民生 活を 何年
も 送られ た御 方の芳 香を 吸った ので ある。 それ は甘美 で神 聖な芳 香で あった 。そ の芳
香 は、最 愛な る御方 の数 えきれ ない ほどの 祈り により 、町 に満た され ていた もの であ
った。(pp.51-52)
し かし 、モラ ・ホ セイン はブ シェル に長 く留ま るこ とはで きな かった 。か れはあ た
かも磁石に引かれるように、北方のシラズに向かった。シラズ市に入る城門に着くと、
弟 と甥に イル カニ寺 院に 直行し 、そ こで待 つよ うに指 示し た。そ して 神の意 志で あれ
ば 、夕方 の祈 りの時 間ま でには 自分 も合流 でき るであ ろう と付け 加え た。そ のあ と、
町 の城門 外を しばら く歩 きまわ って いたが 、日 没二、 三時 間前ご ろ、 みどり のタ ーバ
ンをつけて輝かしい表情をした青年に目がとまった。その青年はかれの方に歩み寄り、
笑 みを浮 かべ ながら あい さつを し、 あたか も生 涯の友 であ るかの よう に親し みを こめ
て 抱擁し た。 モラ・ ホセ インは 最初 、この 青年 はカゼ ムの 弟子で 、自 分がシ ラズ を訪
れることを知って迎えにきたのだと思った。
後 に殉 教した アー マド・ ガズ ビニは 、モ ラ・ホ セイ ンが初 期の 信者た ちに 、バブ と
の 感動に みち た歴史 的会 見を数 回に わたっ て語 るのを 聞い た人で ある 。かれ はわ たし
(著者)に、モラ・ホセインが語った話をしてくれた。(p.52)
「 わたし (モ ラ・ホ セイ ン)は シラ ズの城 門外 で会っ た青 年の温 かい 愛情に 満ち た歓
迎 に圧倒 され た。青 年は わたし を自 分の家 に招 き、旅 の疲 れをと るよ うにや さし くす
す めたの であ る。わ たし は二人 の仲 間が宿 泊の 準備を して おり、 わた しの帰 りを 待っ
ているので、招きにあずかることはできないと断わった。
『二人を神に任せなさい。神
はかならずかれらを守ってくれるであろう。』と青年は答え、自分の後についてくるよ
う にうな がし た。わ たし は、こ の見 知らぬ 青年 の温和 でし かも、 逆ら うこと ので きな
い 語調に 深く 感銘し た。 また、 かれ の歩き 方、 魅力あ る声 、威厳 ある 態度が 、こ の最
初の出会いの印象をますます強烈にしてゆくのを感じた。
ま もな く、一 見質 素な家 の門 前にき た。 青年は 立ち 止まり 戸を 叩いた とこ ろエチ オ
ピア人の召使いが戸を開けた。青年はコーラン書から『平和で安全なこの場所に入れ』
という句を引用しながら敷居をまたぎ、わたしにもついてくるように身振りで示した。
か れの言 葉は 力強く 、威 厳に満 ちて おり、 魂を 奥底か ら動 かすよ うな もので あっ た。
シ ラズの 町で 最初に 入る 家の敷 居に 立ちな がら 、この 言葉 を聞く のは 、よい こと が起
こ る前兆 では ないか と感 じた。 この 町の雰 囲気 はすで に、 口では 言い 表せな いよ うな
印 象をわ たし にあた えて いた。 この 家を訪 問す ること によ って、 わた しの探 索の 目的
で ある御 方に より近 づけ るよう に思 ったの であ る。こ れで 、この 探索 に伴う 強烈 な切
望 感とた ゆま ぬ努力 と深 まる不 安を 終わら せる ことが でき るので はな いかと も感じた。
(pp.53-54)
青 年に つづい てか れの部 屋に 案内さ れる とき、 わた しは説 明で きない 喜悦 感でい っ
ぱ いにな った 。部屋 に入 って座 った あと、 青年 は水差 しを 持って こさ せ、わ たし に手
足 を洗い 、旅 の汚れ を落 とすよ うに すすめ た。 そこで わた しは、 隣の 部屋で 手足 を洗
お うとし たが 、かれ はそ れを許 して くれず 、自 らわた しの 手に水 を注 いだの であ る。
つぎに飲み物が出され、そのあとかれ自ら紅茶を入れてくれた。
わ たし は、青 年の 親切な もて なしに 深く 感謝し なが らも、 そこ から早 く去 りたか っ
た。そこで立ち上がり思い切って言った。
『夕方の祈りの時間がせまっています。その
時間にイルカニ寺院で仲間と会う約束をしているのです。』青年は、静かに、丁重に答
えた。
『あなたはかれらと会うのを、神の意志であれば、という条件つきで約束された。
神 は別の こと をあな たに 命じて おら れるよ うだ 。約束 を破 ること を心 配する 必要 はな
い。』青年の威厳と確信にあふれた言葉に、わたしは黙ってしまった。そして、ふたた
び 手を洗 って 祈るこ とに した。 かれ もまた 、わ たしの そば に立っ て祈 りはじ めた 。祈
り で、わ たし は魂の 重荷 をおろ した かった 。わ たしの 魂は 、この 青年 との会 見と 探索
の 緊張と 心労 による 負担 で押し つぶ されそ うに なって いた のであ る。 わたし はこ う祈
った。
『おおわが神よ。わたしは全力をつくして努力してきましたが、まだ約束の聖な
る 使者を 見つ けてお りま せん。 あな たの言 葉に は間違 いは ないこ と、 そして あな たの
約束もかならず果たされることを証言いたします。』(pp.54-57)
こ の忘 れがた い夜 は一八 四四 年五月 二十 二日で あっ た。日 没後 一時間 ほど たって 、
青年はわたしに話しはじめた。かれはこう質問した。
『カゼムの後は、だれが後継者で
指 導者と みな されま すか 。』わ たし はこう 返事 した。『わ たしど もの 師は亡 くな られる
前 に、わ たし どもに 故郷 を離れ 、国 中に散 らば って約 束の 御方を 探し 出すよ うに 強く
勧 告され まし た。そ れで わたし は、 師の望 みを 果たす ため にペル シャ に旅し 、そ の御
方 を探し てい るので す。』さら に、 かれは 聞い た。『 あな たの師 はそ の約束 の御 方の特
徴 につい て、 くわし く教 えられ なか ったの か。』わた しは 答えた 。『 はい、 教え ていた
だ きまし た。 その御 方は 高貴な 血筋 を引く ファ テメ( モハ メッド の娘 )の子 孫で す。
年 令は二 十才 から三 十才 の間で 、生 まれな がら に知識 をそ なえて おら れます 。ま た、
中背で肉体的な欠陥はまったくありません。たばこも吸われません。』
青年はしばらく黙っていたが、やがてふるえるような美しい声で言った。
『今あなた
が述べた特徴のすべてが、わたしにそなわっているのを見なさい。』そして、それらの
特 徴をひ とつ ずつ取 り上 げ、す べて が自分 にあ てはま るこ とをは っき りと示 した 。わ
たしはひじょうにおどろいたが、丁重に述べた。
『わたしどもがその到来を待望してい
る 御方は 、こ の上も なく 聖なる 人物 です。 そし て、そ の御 方が啓 示さ れる大 業は 、恐
る べき力 をも ちます 。自 分が神 の顕 示者と 宣言 する御 方は 、さま ざま な条件 を満 たさ
な ければ なり ません 。カ ゼムは 何回 となく その 御方の 広大 な知識 に言 及され まし た。
こ うくり 返え された ので す。< その 御方の 知識 にくら べれ ば、わ たし の知識 は一 滴の
水 にしか すぎ ない。 その 御方の 広大 な知識 の前 では、 わた しの学 識は ちりの 一片 にす
ぎない。いや、それどころではない。その差は無限なのだ。>』
こ う述 べたと たん 、わた しは 恐怖と 後悔 の念に から れたが 、そ れをか くす ことも 、
説 明する こと もでき なか った。 わた しは自 分を ひどく 責め 、今後 は態 度を変 えて 口調
を やわら げよ うと決 心し た。も しこ の青年 がふ たたび この 話題に 触れ たら、 わた しは
心から謙虚に、つぎのように答えようと神に誓った。
『もし、あなたが本当に約束され
た 御方で ある という 証拠 を示し て下 さるな らば 、わた しの 魂に重 くの しかか って いる
不 安と緊 張感 は、確 実に 除かれ るで しょう 。そ うして 下さ るなら ば、 どれほ どあ りが
たいかわかりません。』(p.57)
わ たし は、こ の探 索をは じめ るにあ たっ て、自 分が 約束さ れた 人であ ると 宣言す る
人 物が現 われ たとき 、そ の真実 性を 試すた めに 、二つ の条 件を考 えて いた。 一つ は、
わ たし自 身が 準備し たも ので、 アー マドと カゼ ムの難 解で 不明瞭 な教 えに関 する 論文
を 解明で きる かどう かで あった 。こ の論文 にあ る神秘 的な 意味を 解明 できた 人に は、
つ ぎの質 問を 出すこ とに してい た。 それは 、今 流行の 文体 や言葉 の使 用法と はま った
く違ったやり方で、ヨセフ(旧約聖書やコーランに出てくる重要人物)の章について、
何 のため らい もなく 、ま た、前 もっ て考え るこ ともな く解 説でき る、 という 条件 であ
っ た。実 は以 前、カ ゼム に、同 じヨ セフの 章に ついて 解説 を書い ても らうよ うに 要請
したが、かれはそれをことわり、つぎのように述べたのである。
『それはわたしの能力
を はるか に超 えたこ とだ 。わた しの 後に現 われ る偉大 な御 方は、 あな たに聞 かれ る前
に 、それ を書 いてく れる であろ う。 その解 説文 は、か れが 真実で ある ことを 示す 重要
なしるしの一つで、また、かれの崇高な地位を表わす明確な証拠の一つでもあるのだ。』
わ たし がこの よう に頭を めぐ らして いた とき、 威厳 をそな えた 青年は ふた たび話 し
かけてきた。
『カゼムが話していた人物は、わたしではないのかどうか、よく考えなさ
い。』そこで、持参していた論文を差し出さずにはいられなくなり、かれにこう頼んだ。
『 わたし が書 いたこ の本 を寛大 な目 で読ん でい ただけ ます か。そ の際 わたし の弱 点と
誤りを大目に見て下さるようにお願いしたいのです。』
青 年は 親切に もわ たしの 願い を聞き 入れ てくれ た。 かれは その 本を開 き、 数節に 目
を 通した あと 、それ を閉 じ語り はじ めた。 そし て数分 のう ちに、 かれ 特有の 魅力 ある
力 強さで 、そ の論文 の中 の神秘 をす べて解 明し 、疑問 をす べて解 決し たので ある 。わ
た しの要 請は ほんの 短時 間でか なえ られた が、 それは 十分 満足の ゆく もので あっ た。
そ のあと 、か れはつ づけ てイス ラム 教のエ マム の伝承 にも 、アー マド とカゼ ムの 著作
に もない 知識 を明ら かし た。そ れは 、これ まで に聞い たこ とがな いも ので、 心に あら
たな生命力をあたえるものに思われた。(p.59)
そのあと、青年はこう述べた。
『あなたがわたしの客でなければ、あなたは苦しい立
場 にあっ た。 しかし 、神 のすべ てを 包含す る恩 恵によ り、 あなた は救 われた のだ 。し
も べを試 すの は神で あり 、しも べが 自分の 不完 全な基 準で 、神を 判断 するも ので はな
い 。わた しが あなた の困 惑を除 けな いとし ても 、わた しの 内部に 輝く 真理が 無力 だと
み なされ たり 、わた しの 知識が 不完 全だと 非難 された りす ること はな いのだ 。神 の正
義 にかけ て誓 うが、 そう いうこ とは 絶対に あり 得ない 。今 日にお いて 、東西 諸国 民は
こ の門口 にい そぎ、 慈悲 なる御 方の 恩恵を 求め なけれ ばな らない 。こ れをた めら う者
は、道を失うであろう。地上の人びとは自分たちが創造された目的は、神の知識を得、
神 を賛美 する ことで ある と証言 して いない のか 。かれ らが すべき こと は、あ なた がし
た ように 、す ぐ自ら 進ん で立ち あが り、ゆ るが ぬ決意 をも って、 約束 の御方 を探 すこ
とである。』
つ ぎに 、かれ は『 さて、 ヨセ フの章 につ いて解 説す るとき がき た』と 言っ て、ペ ン
を 取り、 信じ がたい ほど の速さ で、 モルク の章 全部を 書き 上げた 。そ れはヨ セフ の章
に 関する 解説 文の最 初の 部であ る。 かれの 書く さまは 、強 烈な印 象を あたえ たが 、そ
れ はまた 、か れが書 きな がら口 にす るやさ しい 声の抑 揚に よって 一層 強めら れた 。モ
ル クの章 が全 部終わ るま で、ペ ンの 動きは 一瞬 も止ま るこ とはな かっ た。そ の神 秘的
な 声とす さま じい力 で生 み出さ れて いる啓 示に 、心を 完全 にうば われ たわた しは 、茫
然 として 座っ たまま であ った。 よう やく、 不本 意なが らも 立ち上 がり 、別れ を告 げよ
うとしたとき、青年は微笑みながらわたしに座るように合図し、こう言った。
『今、そ
の 状態で 外に 出れば 、人 びとは あな たを見 て、 <この あわ れな若 者は 気が狂 った よう
だ>と言うにちがいない。』
そ のと き、時 計の 針は日 没後 二時間 と十 一分を 指し ていた 。そ の日、 一八 四四年 五
月二十二日の夕方は、ノウ・ルーズ(新年)から六十五日目の前日の夕方にあたった。
青年はこう宣言した。
『今夜のこの時間は、将来、すべての祝日中最大で、もっとも意
義 深い祝 日の ひとつ とし て祝わ れる であろ う。 神に感 謝せ よ。あ なた は神の 慈悲 深い
援 助によ り、 心の望 みを 果たし 、封 じられ てい た神の ぶど う酒を 飲み 干すこ とが でき
たからである。<それをなし得た者らは幸いである。>』(pp.61-62)
日 没後 三時間 たっ て、青 年は 夕食の 準備 を召使 いに 命じた 。同 じエチ オピ ア人の 召
使 いがふ たた び現わ れ、 最上の 夕食 を運ん でき た。そ の聖 なるご ちそ うで、 わた しの
心 身は元 気づ けられ た。 この時 間、 聖なる 青年 の面前 での 食事は 、あ たかも 楽園 の果
実 を口に して いる感 じで あった 。わ たしは 、こ のエチ オピ ア人の 召使 いの献 身的 で丁
重 な態度 にも おどろ かさ れた。 その 生活態 度す べてが 、か れの主 人の 再生力 によ って
変 革され たよ うに見 えた のであ る。 そのと きは じめて 、モ ハメッ ドの つぎの 有名 な伝
承の意味が理解できたのである。
『われは、わがしもべらのうち、神を敬う者と公正な
者 のため に、 だれの 目も 見たこ とが なく、 だれ の耳も 聞き たこと がな く、だ れの 心も
考えついたことのないことを準備した。』この若々しい青年が、その偉大さを主張する
も のが何 もな かった とし ても、 かれ がわた しを 迎え入 れた ときに 示し た厚遇 と慈 愛だ
け で、そ の偉 大さが 十分 に証明 され たと感 じた 。実際 、か れの厚 遇と 慈愛の ほど は、
ほかのだれも示せないようなものだ、とわたしは確信している。
青 年の 言葉に 魅せ られた わた しは、 時間 も、わ たし を待っ てい る仲間 のこ ともす っ
か り忘れ て座 ったま まで あった 。と つぜん 朝の 祈りの 時間 を知ら せる 声が聞 こえ てき
た 。恍惚 状態 に陥っ てい たわた しは 、はっ とわ れにか えっ た。全 能な る神が 聖典 の中
で 、楽園 の人 びとの 貴重 な所有 物と して述 べて いる喜 びと 、表現 でき ないほ どの 栄光
を すべて 、そ の夜わ たし は体験 した のであ る。 わたし がい た場所 は、 まさし くつ ぎの
言葉どおりであった。
『そこには、苦しみも疲れもない。』『そこでは、無駄口や虚言を
聞 くこと はな い。< 平安 あれ> とい う言葉 だけ が聞か れる 。』『そこで かれら は< 栄光
あ れ、お おわ が神よ >と 声高く 祈り 、<平 安あ れ>と いう 挨拶を 交わ す。そ して 、か
れらの祈りは<神に賛美あれ、万物の主よ>という言葉で終わる。』
(コーラン)(p.62)
そ の夜 、わた しは 一睡も でき なかっ た。 青年の 歌う ような 声の 抑揚に 、ま ったく 心
が 魅せら れて いたの であ る。そ の声 は、ガ ュモ ーゥル ・ア ズマ( ヨセ フの章 )を 顕わ
す ときに 高ま り、そ の中 の祈り が唱 えられ ると きに天 国か ら下さ れた ものの よう に清
ら かで、 名状 しがた い調 べとな った 。祈り が終 わる毎 に、 かれは つぎ の句を くり 返し
た。
『全栄光なる主の栄光は、その創造物が認め得る以上にはるかに栄光あるものなり。
神の使者たちに平安あれ。万物の主なる神に賛美あれ。』
そ れが終 わる と青年 はわ たしに こう 告げた 。『 われを 最初 に信じ た者 よ。ま こと に 、
あ なたに 申す が、わ れは バブ、 神の 門であ る。 そして 、あ なたは バブ ル・バ ブ、 その
門 の門で ある 。最初 に、 十八人 が自 発的に われ を受け 入れ 、わが 啓示 の真理 を認 めな
け ればな らな い。か れら は、導 かれ ること も、 招かれ るこ ともな く、 めいめ い自 分の
意思でわたしを探しあてなければならないのだ。そして、十八人がそろったところで、
メ ッカと メジ ナへの わが 巡礼に 同行 するた めに 一人が 選ば れなけ れば ならな い。 そこ
で 、われ はメ ッカの 高僧 に神の 言葉 を伝え るこ とにな って いる。 そこ からク フェ にも
ど り、そ の町 の寺院 で、 再度神 の大 業を宣 言す る予定 であ る。今 夜見 聞した こと を、
あ なたの 仲間 にもそ のほ かのだ れに も漏ら して はなら ない 。イル カニ の寺院 で祈 りと
教 えの普 及に 専心し なさ い。わ れも また、 その 寺院で の会 衆の祈 りに 参加し よう 。あ
な たの信 仰の 秘密が ほか に漏れ ない ように 、わ れに対 する 態度に 注意 しなさ い。 われ
が ヘジャ ーズ に出発 する まで、 あな たはこ れま でどお り行 動し、 これ までと 同じ 態度
をもちつづけなさい。われが出発する前に、十八人のそれぞれに特定の任務をあたえ、
送 り出す こと にする 。そ のとき 、か れらが 神の 言葉を 教え 広め、 人び との魂 に生 命を
あたえることができるように指示を与えよう。』こう語ったあと、バブは別れの言葉を
告げた。そして、わたしを家の出口まで案内し、神の保護に託したのである。(p.63)
こ の啓 示はあ まり にも突 然、 あまり にも 激しく わた しに突 きか かって きた 。わた し
は あたか も雷 に打た れた ように なり 、しば らく 身体の 機能 がまひ した ようで あっ た。
そのまぶしい光輝に目がくらみ、その強烈な勢いに圧倒されたのである。興奮、喜び、
畏 れ、驚 嘆の 念で、 わた しの魂 は奥 底まで かき 立てら れた 。とく に喜 悦感と 力を 得た
という感じが強烈で、わたしは変わってしまったようであった。それまでのわたしは、
ど れほど 無力 で、ど れほ ど気が 沈み 、臆病 に感 じでい たこ とであ ろう か。そ れま で手
足のふるえが強かったため、書くことも歩くこともできなかったのである。しかし今、
神 の啓示 の知 識を得 て生 き返っ た。 自分に は大 いなる 勇気 と力が つき 、たと え世 界の
す べての 人び とと君 主た ちが攻 めて きても 、一 人でひ るむ ことな くそ の猛攻 撃に 耐え
得 るとさ え感 じてき たの である 。全 宇宙も わた しがつ かめ る一握 りの 土に過 ぎな いよ
う に思え た。 自分自 身が 、天使 ガブ リエル の声 になっ たよ うにも 思え た。そ の声 はつ
ぎ のよう に全 人類に 呼び かけて いた 。『目 覚め よ。見 よ、 夜明け の光 が射し はじ めた。
立 ち上が れ。 神の大 業が 顕わさ れた 。神の 恩恵 へのと びら は大き く開 けられ た。 そこ
に入れ、おお世界の人びとよ。皆が待望していた約束の御方が到来された。』
こ の状 態で、 わた しはバ ブの 家を出 て弟 と甥が 待っ ている とこ ろに向 かっ た。イ ル
カ ニ寺院 につ くとわ たし の到着 を知 ったア ーマ ドの弟 子た ちが多 数集 まって きていた。
そ こで、 新し く発見 した 最愛な る御 方の指 示に 忠実に した がい、 すぐ 実行に 取り かか
る ことに した 。まず 講座 を準備 し、 祈りを つづ けてい るう ちに、 徐々 に大勢 の人 びと
が わたし の元 に集ま って きた。 その 町の高 僧や 高官も 訪れ てきた 。か れらは わた しの
講 話から 生み 出され る精 神に驚 嘆し た。し かし 、その 知識 の源は 、か れらが その 到来
を切望してきた御方であることに気づいていなかった。(p.65)
そ のこ ろ、わ たし は数回 にわ たって バブ に召さ れた 。バブ はあ のエチ オピ ア人の 召
使 いを寺 院に 行かせ て、 慈愛に みち た言葉 でわ たしを 招待 したの であ る。バ ブを 訪問
す る度に 、わ たしは 一晩 中バブ の面 前で過 ごす ことが でき た。夜 明け まで眠 らず に、
か れの魅 力あ る言葉 に魂 をうば われ 、この 世と その苦 労を 忘れて 、か れの足 元に 座し
たまま過ごしたのである。何とすばやくその貴重な時間は過ぎ去ったことであろうか。
夜 が明け ると 、自分 の気 持ちに 反し てそこ を離 れなけ れば ならな かっ た。当 時、 どれ
ほ ど夕方 の時 間を待 ち望 み、ど れほ ど悲し い気 持ちと 残念 な思い で、 一日の はじ まり
を見たことであろうか。
こ のよう に夜 の訪問 がつ づいて いた が、あ る夜 バブは つぎ のよう に告 げた 。『明 日 、
十 三人の 仲間 が到着 する 。かれ らを 心から 歓迎 し、で きる かぎり のこ とをし てあ げな
さ い。か れら は敬愛 する 御方を 探す ために 生命 をささ げて きたか らで ある。 かれ らが
神 の慈悲 深い 援助を 受け て、そ の道 を確実 に歩 くこと がで きるよ うに 神にこ ん願 しな
さ い。そ の道 は髪の 毛よ り細く 、刀 よりも 鋭い のだ。 かれ らのう ち何 人かは 、神 から
選 ばれ、 好意 を受け る弟 子で、 ほか の者は 中道 を歩く が、 残りの 者の 運命は 、か くさ
れているすべてが現わされるまで、公言できない。』
そ の同 じ朝、 わた しがバ ブの 家から もど ってま もな い時間 に、 モラ・ アリ が、バ ブ
が 予告し たと 同じ数 の仲 間を同 行し てイル カニ 寺院に 到着 した。 そこ ですぐ 、か れら
が 楽に過 ごせ るよう に世 話をは じめ た。そ の後 二、三 日た ったあ る夜 、モラ ・ア リは
仲 間たち を代 表して 、こ れ以上 抑え ること ので きなく なっ た気持 ちを わたし にも らし
た 。『わ たし どもが 、あ なたを どれ ほど深 く信 頼して いる か、よ くご 存知の はず です。
わたしどもは、あなたに忠誠を誓っております。もし、あなたが約束のガエム(バブ)
で あると 宣言 なさる なら ば、わ たし どもは 皆、 ためら うこ となく 、あ なたを 受け 入れ
ま しょう 。あ なたの 呼び かけに した がって 、わ たしど もは 家をは なれ 、約束 の最 愛な
る 御方を 探し 求めて きま した。 あな たこそ 、最 初にわ たし どもに 貴重 な模範 を示 され
た ので、 あな たの足 跡に したが って きまし た。 探索の 的な る御方 を見 つける まで は、
努力をゆるめない決心でいます。わたしどもはこの場所まであなたを追ってきました。
あ なたが 受け 入れる 御方 はだれ であ れ、認 める つもり でお ります 。そ うすれ ば、 その
お 方の庇 護の 下に入 り、 最後の 時間 を合図 しな ければ なら ない激 動を 難なく 通り 抜け
られると思っております。なぜ、あなたは今、静かに落ち着いて人びとに教えを説き、
祈 りと瞑 想に ふけっ てお られる ので すか。 あな たの顔 から 、以前 の動 揺と期 待の 様子
が 消えて しま ってい るよ うです 。お 願いで すか らその 理由 を教え て下 さい。 わた しど
ももまた、この不安と疑いの状態から解放されたいのです。』(p.66-67)
わ たしは しず かに答 えた 。『 あなた の仲間 は、 わたし の落 ち着い た平 安な気 持ち は 、
わ たしが この 町で優 位な 立場を 獲得 したか らだ と思わ れる かもし れな い。と ころ がそ
れ は事実 から ほど遠 いの だ。こ の世 の虚栄 も誘 惑も、 この ボッシ ュル エイの ホセ イン
( モラ・ ホセ イン) を最 愛の御 方か ら切り 離す ことは 絶対 にでき ない 。この 聖な る事
業 に着手 した ときか ら、 わたし は自 分の生 命の 血で、 自分 の運命 を定 めるこ とを 誓っ
た 。約束 の御 方のた めに 、苦難 の大 洋に沈 むこ とをよ ろこ んで受 け入 れた。 この 世の
も のは望 まな い。わ が最 愛の御 方が 満足さ れる ことだ けを 切望し てい る。そ の御 方の
名 のため に血 を流す まで は、心 の中 に燃え る火 は消え るこ とはな いの だ。あ なた がそ
の 日まで 生き られる こと を神に 祈る 。あな たの 仲間た ちは 、こう 考え なかっ たで あろ
う か。す なわ ち、強 烈な 熱望と たゆ まぬ努 力の ゆえに 、神 はその 限り ない慈 悲を もっ
て 、その 恩恵 の門を モラ ・ホセ イン の眼前 で、 かたじ けな くも開 けら れたが 、神 はそ
の 計りが たい 英知に より 、その 事実 をかく すた めに、 モラ ・ホセ イン にこれ まで どお
りに振舞うことを命じられたのではないかと。』
モ ラ・ アリの 魂は この言 葉に 深く揺 り動 かされ た。 かれは 即座 にその 意味 を理解 し
た のであ る。 そして 、目 に涙を 浮か べ、動 揺を 平安に 、不 安を確 信に 変えた 御方 がだ
れであるかを明かしてくれるようにこん願した。
『慈悲の御手なる御方が、あなたにあ
た えた聖 なる 飲み物 を少 しでも 分か ち与え て下 さるよ うに お願い しま す。そ の飲 み物
は、かならずわたしの渇きをいやし、わたしの苦しい切望を和らげてくれるでしょう。』
『 そのこ とを わたし に求 めない よう に願う 。神 に信頼 を置 きなさ い。 神はか なら ず、
あなたの歩みを導き、あなたの心の動揺を静めてくれるでありましょう。』」(pp.67-68)
モ ラ・ アリは 、仲 間たち のと ころへ いそ いでも どり 、モラ ・ホ セイン との 会話の 内
容 を知ら せた 。その 内容 を聞い て心 に熱望 の炎 を燃え 上が らせた かれ らは、 ただ ちに
散 らばり 、め いめい 個室 に閉じ こも り断食 と祈 りに没 頭し た。最 愛な る御方 を認 める
こ とを妨 げて いるヴ ェー ルがす ばや く除か れる ように 、神 にこん 願し たので ある 。か
れらは徹夜でつぎのように祈りつづけた。
「おお神よ、わが神よ。あなたのみを賛美し、
あ なたに のみ に援助 を乞 います 。お お、わ れら の主な る神 よ、わ れら を正し い道 に導
き たまえ 。あ なたが 、使 徒を通 して 約束さ れた ことを 実現 し、復 活の 日にわ れら が恥
を かくこ とが ないよ うに したま え。 まこと に、 あなた は約 束を守 られ る御方 であ りた
もう。」
隠 遁し て三日 目に 、モラ ・ア リは、 祈り の最中 に幻 を見た 。か れの眼 前に 光が現 わ
れ たかと 思う と、そ の光 が動き はじ めたの であ る。そ の輝 きに魅 せら れて追 って いく
と 、つい に最 愛なる 約束 の御方 にた どりつ いた 。その とき 、真夜 中で あった が、 この
上 ない喜 びに 顔を輝 かせ て、自 室の ドアを 開け モラ・ ホセ インの とこ ろにい そい だ。
そ して、 敬愛 する仲 間の 腕に身 を投 じた。 モラ ・ホセ イン は愛情 深く かれを 抱擁 し、
こう述べた。
「ここまでわれらを導かれた神に賛美あれ。神の助けがなければ、われら
は導かれることはなかったであろう。」
同 じ日 の夜明 けに 、モラ ・ホ セイン はモ ラ・ア リを 伴って バブ の家に いそ いだ。 バ
ブ の家の 入り 口に忠 実な エチオ ピア 人の召 使い が待っ てい た。か れら を認め ると すぐ
あいさつし、こう述べた。
「夜明け前にわたしは主人から召され、家の門を開けて待つ
ように命じられました。主人は申されました。
『二人の客が朝早く訪れてくるので、わ
た しに代 わっ て温か く迎 え入れ よ。 そして 、< 神の名 にか けて、 お入 りくだ さい >と
述べよ』と。」(p.68)
モ ラ・ アリと バブ の最初 の会 見は、 モラ ・ホセ イン とバブ の会 見に似 てい たが、 一
つ だけ異 なっ ていた 。前 の会見 では 、バブ の使 命の証 拠に ついて くわ しい調 査と 解説
が あった が、 この度 は論 証など 一切 なく、 ただ 深い敬 慕の 念と親 愛の 情でみ たさ れて
い た。部 屋全 体が、 バブ の言葉 から 生み出 され る神聖 な力 で生気 をあ たえら れた よう
で あった 。そ の部屋 のす べてが 、感 動でふ るえ ながら つぎ のよう に宣 言して いる よう
であった。
「まことに、新しい日の夜明けがはじまった。約束の御方は人びとの心の王
座 を占め られ た。そ の御 方は、 御手 に神秘 の不 滅の聖 杯を もって おら れる。 それ を飲
む者は幸いである。」
モ ラ・ アリの 十二 人の仲 間た ちは、 皆そ れぞれ にだ れの助 けも 受けず に最 愛なる 御
方 を捜し 出し た。あ る者 は夢で 、ほ か者は 目覚 めてい ると きに、 何人 かは祈 って いる
と きに、 そし て、残 りの 者は瞑 想中 に聖な る啓 示の光 を体 験し、 その 栄光あ る威 力を
認 めたの であ る。モ ラ・ アリに 習い 、この 十ニ 人とほ かの 何人か は、 モラ・ ホセ イン
に 伴われ てバ ブの面 前に 出て< 生け る者の 文字 >と名 づけ られた 。こ うして 、十 七人
の 生ける 者の 文字が 、神 の書簡 に一 人ずつ 加え られて いっ たので ある 。かれ らは バブ
の選ばれた使徒、その信教の管理者、その光の普及者として任命されたのであった。
ある夜、モラ・ホセインとの対話中に、バブはこのように言われた。「これまでに 、
十七人の生ける者の文字が神の信教の旗のもとに集まった。十八の数がそろうにはあと一
人が必要だ。これらの生ける者の文字は、わが大業を宣布し、わが信教を確立するために
立ち上がるようになっている。明日の夜、残りの生ける者の文字が到着し、われが選んだ
使徒たちの数がそろうであろう。」
翌 日の 夕方、 バブ はモラ ・ホ セイン を後 ろに伴 って 家にも どろ うとし てい た。そ こ
へ 、髪は ぼう ぼうと なり 、旅で 汚れ た服装 をし た若者 が現 われた 。か れはモ ラ・ ホセ
イ ンに近 づき 、あい さつ の抱擁 をし 、目標 の御 方を探 しあ てたか どう かを聞 いた 。モ
ラ ・ホセ イン はまず 、か れの興 奮を しずめ 、あ とで知 らせ るから と約 束して 、し ばら
く 休むよ うに すすめ た。 しかし 、若 者はこ の助 言を聞 こう とせず 、バ ブに目 をと めモ
ラ・ホセインにこう述べた。
「なぜあなたはその恩方をわたしから隠そうとなさるので
す か。わ たし は、歩 き方 を見た だけ でその 御方 を認め るこ とがで きま す。そ の御 方の
ほ かに、 真実 者であ るこ とを宣 言で きる人 物は 東西ど こに もいま せん 。だれ も、 その
聖なる御方にそなわっている威力と威厳を現わすことはできないと思います。」(p.69)
モ ラ・ ホセイ ンは 若者の 言葉 におど ろい たが、 真実 を知ら せる 時間が くる まで感 情
を 抑える よう に願い 、若 者に別 れを 告げた 。モ ラ・ホ セイ ンは若 者か ら離れ 、バ ブに
追いつき若者との会話の内容を伝えた。バブは答えた。
「その若者の一風変わった態度
に おどろ いて はなら ない 。われ はか れをす でに 知って おり 、精神 界で 交信し てき たの
だ。実際、かれの到来を待っていたのだ。かれのところへ行き、すぐここに案内せよ。」
モラ・ホセインは、即座にバブの言葉を思い出した。それはつぎの伝承であった。
「終
わ りの日 に、 見えざ る人 びとが 、精 神の翼 で限 りなく 広大 な地球 を横 切り、 約束 のゴ
エ ム(バ ブ) の面前 に達 するで あろ う。そ して 、その 御方 から秘 密を 学び、 それ によ
り自分たちの問題を解決し、悩みを取り除くであろう。」
こ の勇 敢な者 らは 、身体 は遠 く離れ てい ても、 日々 最愛な る御 方と交 信し 、その 言
葉 を聞き 、そ の御方 と親 しく交 わる という この 上ない 恩恵 にあず かっ た。そ うで なけ
れ ば、ど のよ うにし て、 アーマ ドと カゼム はバ ブにつ いて 知り得 たで あろう か。 どの
よ うにし て、 かれら はバ ブに秘 めら れてい る意 義を理 解で きたで あろ うか。 バブ とそ
の 最愛な る弟 子のゴ ッド スが神 秘の 絆で魂 が結 びつけ られ ていな かっ たなら ば、 どの
よ うにし て二 人はあ のよ うな言 葉を 書くこ とが できた であ ろうか 。バ ブは、 その 使命
の 始まり に、 ジョセ フの 章につ いて の解説 ガュ ーモー ゥル ・アズ マの 序論で 、バ ハオ
ラ の啓示 の栄 光と意 義に 言及し た。 ジョセ フの 兄弟が いか に忘恩 と悪 意をも って ジョ
セ フを扱 った かを詳 細に 述べた が、 その目 的は バハオ ラも また、 弟と 親族の 手に よっ
て 苦しみ を受 けるこ とを 予告す るた めであ った 。ゴッ ドス は、シ ェイ ク・タ バル シの
砦 で大軍 の砲 火に包 囲さ れなが ら、 昼夜か けて ババオ ラへ の賛辞 を完 成した 。そ の賛
辞 はサマ ード のサッ トと 呼ばれ 、そ のとき すで に五十 万語 からな る不 滅の解 説文 とな
っ ていた 。こ のゴッ ドス の解説 文と バブの ガュ ーモー ゥル ・アズ マを 始めか ら終 わり
まで公正な目で調べてみると、上述した事実がはっきりと証明されているのがわかる。
すなわち、バブとゴッドスは神秘の絆で魂が結ばれていたという事実である。
(pp.70-71)
ゴ ッド スがバ ブの 啓示を 受け 入れた こと で、バ ブの 弟子の 数は そろっ た。 ゴッド ス
の 本名は モハ メッド ・ア リで、 母の 家系を たど ると予 言者 モハメ ッド の孫エ マム ・ハ
サ ンまで さか のぼる 。生 まれ故 郷は マザン デラ ン州の バル フォル ーシ ュであ った 。カ
ゼ ムの講 義に 出席し た者 らの報 告に よると 、カ ゼムの 晩年 に弟子 の一 人とな った が、
集 会には 最後 に到着 して 、つね に末 席にす わり 、集会 が終 わると 、最 初にそ の場 を離
れ た。ゴ ッド スがほ かの 仲間た ちと 違って いた 点は、 沈黙 を守っ てい たこと と態 度の
謙虚さであった。カゼムはよくつぎのように述べていた。
「弟子の中には、末席を占め
沈 黙を厳 守し ている が、 神の目 には きわめ て高 い地位 にあ る者ら がお り、わ たし 自身
もかれらと肩を並べる価値はないと感じるほどである。」弟子たちはゴッドスの謙虚さ
と模範的な振舞いを認めたが、カゼムの意味するものには気づかないままであった。
ゴ ッド スがシ ラズ に来て バブ の教え を受 け入れ たの は二十 二才 のとき であ った。 か
れ は若年 であ ったが 、カ ゼムの 弟子 のうち だれ も匹敵 でき ないほ どの 不屈の 勇気 と信
念 を示し た。 そして 自分 の生涯 と栄 光ある 殉教 をもっ て、 つぎの 伝承 の正し さを 実証
したのであった。
「われを求める者はすべて、われを見いだすであろう。われを見いだ
す 者は、 われ に引き つけ られる であ ろう。 われ に引き つけ られる 者は 、われ を愛 する
で あろう 。わ れを愛 する 者を、 われ もまた 愛す るであ ろう 。われ から 愛され る者 は、
わ れのた めに 命を落 とす であろ う。 われの ため に命を 落と す者は 、わ れ自身 が、 その
者の身受け人となろう。」
バ ブの 本名は セイ エド・ アリ ・モハ メッ ドで、 一八 一九年 十月 二十日 、シ ラズで 誕
生 した。 バブ はモハ メッ ドまで さか のぼる 名高 い貴族 の家 系に属 して いた。 かれ の誕
生日は伝統的にエマム・アリを指すと考えられている「われは、わが主より二年若い」
と いう予 言が 正しい こと を証明 する もので ある 。かれ が使 命を宣 言し たのは 、誕 生後
二 十五年 四ヵ 月と四 日た った日 であ った。 かれ は幼少 のこ ろ父モ ハメ ッド・ リザ を失
っ た。こ の父 はファ ルス 地方の 隅々 まで、 敬虔 と徳行 で知 られ、 人び とから 深い 尊敬
と 名誉を 受け ていた 。両 親共に 予言 者モハ メッ ドの子 孫で 、共に 人び とから 愛さ れ、
尊 敬され てい た。父 の死 後、バ ブは 、後に 信教 のため に殉 教した 伯父 セイエ ド・ アリ
に 養育さ れた 。この 伯父 は、子 供の バブを シェ イキ・ アベ ドとい う教 師に教 育を 依頼
した。バブは勉強に気乗りがしなかったが、叔父の意思と指示にしたがった。(pp.71-75)
シ エイ キ・ア ベド は、シ ェイ キオナ とし て生徒 たち に知ら れて おり、 敬虔 で学識 の
あ る人で あっ た。か れは またア ーマ ドとカ ゼム の弟子 でも あり、 バブ につい てつ ぎの
よ うに語 って いる。「あ る日、 わた しはバ ブに コーラ ンの 冒頭に ある 『哀れ み深 き者、
慈 愛深き 者な る神の 御名 におい て』 を詠唱 する ように 命じ ました 。か れは、 詠唱 する
の をため らい 、その 節の 意味を 教え てくれ なけ ればで きな いと主 張し たので す。 わた
し はその 意味 がわか らな いふり をし ました 。す ると、 わた しの生 徒で あるか れは 、こ
う言ったのです。
『ぼくにはその節の言葉の意味がわかります。先生のお許しがあれば、
説明します。』
か れの 口から 流暢 に流れ 出す そのお どろ くべき 知識 に、わ たし は仰天 しま した。 か
れ は、< 神> 、<哀 れみ 深き者 >、 <慈悲 深き 者>と いう 言葉の 意味 を、そ れま で読
ん だこと も、 聞いた こと もない 言葉 で説明 した のです 。か れの甘 美な 言葉は 、今 でも
わ たしの 記憶 に残っ てい ます。 そこ でかれ を、 伯父に 送り 返えす こと にしま した 。伯
父 がわた しに 委任し た大 事な子 供を 、かれ の手 にもど さな ければ と強 く感じ たか らで
す 。そし て、 自分に はこ れほど に非 凡な子 供を 教える 能力 はない こと を伝え よう と、
子供のバブをもどしに行きました。事務所に一人でいた伯父にこう説明しました。
『大
事 なご子 息を もどし にま いりま した ので、 お宅 で注意 深く 保護し て下 さい。 この 子を
普 通の子 のよ うには 扱わ ないよ うに お願い しま す。わ たし はすで に、 かれの うち に神
秘 的な力 を感 じます が、 それは 、< 新しい 時代 の主> (約 束され たゴ エムの 称号 の一
つ )の啓 示の みが明 らか にする こと ができ るも のです 。か れには わた しのよ うな 教師
は必要としていませんので、お宅で深い慈愛をもって育てられるようにお願いしま
す。』
これを聞いた伯父セイエド・アリは、バブをきびしく叱りました。
『わたしが命じた
こ とを忘 れた のか。 ほか の生徒 を見 習って 、沈 黙を守 り、 先生の 言葉 に注意 深く 耳を
傾けるように注意したではないか。』伯父はこの忠告にしたがうことをバブに約束させ
て 、学校 にも どるよ うに 命じま した 。しか し、 このき びし い忠告 も、 この子 の魂 を抑
え ること はで きませ んで した。 どの ような 規律 も、か れの 生まれ なが らにそ なわ った
知 識の流 れを 抑制す るこ とはで きな かった ので す。か れが 毎日の よう に示し た超 人的
な英知はおどろくべきもので、わたしの能力ではそれを述べることはできません。」つ
い に伯父 は教 師の説 得に より、 バブ をシェ イキ ・アベ ドの 学校か ら退 学させ 、自 分の
仕 事場で 働か せるこ とに した。 そこ でもま たバ ブは、 だれ も近づ くこ とも匹 敵も でき
ないほどの威力と偉大さを示した。(p.75)
数 年後 、バブ はセ イエド ・ハ サンと アブ ール・ カゼ ムの妹 と結 婚した 。子 供が生 ま
れ てアー マド と名づ けら れたが 、一 八四三 年に 亡くな った 。バブ の宣 言の前 年で あっ
た。父親のバブはその死を悲しまず、つぎの言葉でその子の命を神に捧げたのである。
「 おお神 よ、 わが神 よ。 千人の イシ マエル (ア ブラハ ムの 息子) がわ たしに 与え られ
て も、こ のあ なたの アブ ラハム は、 あなた への 愛のし るし として 、息 子を全 部あ なた
に 捧げる であ りまし ょう 。おお 、わ が最愛 の御 方よ、 わが 心の望 みの 的なる 御方 よ。
あ なたの しも べであ るこ のアリ ・モ ハメッ ドが 、あな たの 愛の祭 壇に アーマ ド( バブ
の 息子) を捧 げても 、こ のしも べの 心の熱 望の 炎を消 すこ とはで きま せん。 心を あな
た の足元 に捧 げるま で、 全身が あな たの道 で残 酷な虐 待の 犠牲に なる まで、 胸が あな
た のため に無 数のや りの 標的と され るまで 、わ たしの 魂の 動揺は 静め られる こと はあ
り ません 。お おわが 神よ 、わが 唯一 の神よ 。わ が息子 、わ が唯一 の息 子を犠 牲と して
あ なたに 捧げ させた まえ 。それ を、 わたし の命 があな たの 道で犠 牲と なる準 備と させ
た まえ。 あな たの道 で、 わたし が捧 げたい と願 う生命 の血 に恩恵 を付 与した まえ 。そ
れ を、あ なた の信教 の種 に必要 な水 や栄養 とな し、そ の種 にあな たの 天上の 威力 をあ
た えたま え。 それに より 、この 神の 小さな 種が やがて 人び との心 の中 で芽を だし 、成
長 して大 木と なり、 その 木陰に 地上 の民族 と国 民をす べて 集合さ せる ことが でき ます
ように。おおわが神よ、わたしの祈りに答え、わたしの最高の切望を実現させたまえ。
まことに、あなたは全能者、恵み深き者でありたもう。」(p.76-77)
バ ブは 、商い に従 事して いた 期間は 、ほ とんど ブシ ェルで 過ご した。 かれ は真夏 の
う だるよ うな 暑さの 中で も、金 曜日 ごとに 屋上 で数時 間祈 りつづ けた 。真昼 の猛 烈な
日 差しに さら されな がら も、心 は最 愛なる 御方 に向け られ た。強 烈な 暑さに も気 をか
け ず、ま わり の世界 も忘 れて、 その 御方と 交信 をつづ けた のであ る。 夜明け 前か ら日
の 出まで 、そ して正 午か ら午後 おそ くまで 瞑想 と敬虔 な祈 りに時 間を 過ごし た。 毎日
夜 明けに 、北 方のテ ヘラ ンの方 向へ 顔を向 け、 心は愛 と喜 びに満 たさ れて日 の出 を迎
え た。か れに とって 日の 出はや がて 世界に 現わ れる真 理の 太陽な る御 方の象 徴で あっ
た 。最愛 の人 を見つ める 愛人の よう に、昇 る太 陽をあ こが れの目 でじ っと凝 視し た。
あ たかも 神秘 的な言 葉で 、その 輝く 光体に 話し かけ、 かく された 最愛 なる御 方へ の熱
望 と愛の メッ セージ を託 してい るよ うであ った 。かれ はそ の輝く 光線 を深い 喜び で迎
え たが、 まわ りの無 知な 人びと は、 バブは ただ 太陽に 魅惑 されて いる のだと 思っ た。
(pp.77-78)
わたし(著者)は、ジャヴァド・カルベラからつぎのように聞いた。「インドに行く
途 中、ブ シェ ルを通 り過 ぎまし た。 わたし は、 すでに セイ エド・ アリ (バブ の伯 父)
と 知り合 って いまし たの で、数 回に わたっ てバ ブと会 うこ とがで きま したが 、か れは
つ ねに、 言葉 では表 現で きない ほど 、ひじ ょう に謙虚 で腰 が低か った のです 。下 方に
向 けられ た視 線、最 高の 礼儀正 しさ 、おだ やか な顔の 表情 は、わ たし の魂に 忘れ られ
ない印象を残しました。わたしはバブと親しく交わった人たちが、かれの清純な性格、
魅 力的な 動作 、控え めな 態度、 この 上ない 高潔 さ、神 への 深い献 身を 語って いる のを
しばしば耳にしました。
た とえ ば、こ うい う出来 事が ありま した 。ある とき 、ある 人が バブに 品物 を渡し 、
そ れを一 定の 値段で 売っ てくれ るよ うに頼 みま した。 しば らくし て、 バブは その 品物
の 価値に 相当 する額 をそ の人に 支払 いまし たが 、その 額が 定価よ りは るかに 高か った
ため、その人はすぐバブに手紙を書き理由をたずねました。バブの返事はこうでした。
『 わたし が送 った金 額は 、全部 あな たに支 払う べき金 額で す。そ れ以 上のも のは 一文
も 含まれ てい ません 。あ なたが わた しに渡 され た品物 は、 一時期 かな り高い 値段 に達
し たこと があ ります 。そ のとき あな たは、 その 値段で 売り そこな った ので、 わた しは
今その金額をあなたに差し上げる義務があると感じるのです。』バブの顧客が余分の金
額をもどしたいとどれほど頼んでも、バブは断固とことわられたのです。(pp.79-80)
バ ブは また、 殉教 者の王 子と 呼ばれ るエ マム・ ホセ インの 徳行 を称え る集 会に熱 心
に 参加さ れ、 そこで 詠唱 されて いる 賛辞に ひじ ょうに 注意 深く耳 を傾 けてお られ まし
た 。その 賛辞 が哀悼 と祈 りの個 所に くると 、こ の上な いや さしさ と愛 情を示 され たの
で す。か れが ふるえ る唇 で、祈 りと 賛美の 言葉 をささ やか れると き、 かれの 目か ら涙
が 雨のよ うに 流れ出 しま した。 しか もかれ の威 厳は何 とす ばらし く、 その顔 は何 とや
さしい哀れみを表わしていたことでしょうか。」
バ ブが <生け る者 の文字 >と して選 び、 その啓 示の 書に記 録さ れた弟 子た ちは最 高
の恩恵を得ることができた。かれらの名はつぎに示すとおりである。
モラ・ホセイン・ボッシュルエイ
モハメッド・ハサン(モラ・ホセインの弟)
モハメッド・バゲル(モラ・ホセインの甥)
モラ・アリ
モラ・コダ・バクシュ・グチャニ(後にモラ・アリと呼ばれる)
モラ・ハサン・バジェスタニ
セイエド・ホセイン・ヤズディ
ミルザ・モハメッド・ローゼ・カーン・ヤズディ
サイド・ヘンディ
モラ・マムード・コイ
モラ・ジャリル・オルミ
モラ・アーマド・イブダル・マラギ
モラ・バゲル・タブリズ
モラ・ヨセフ・アルデビリ
ミルザ・ハディ(モラ・アブドル・ヴァハブ・ガズビニの息子)
ミルザ・モハメッド・アリ・ガズビニ
タヘレ
ゴッドス(p.80)
以 上の 者たち のう ちタヘ レ以 外は皆 バブ の面前 に出 て、< 生け る者の 文字 >の地 位
を 付与さ れた 。タヘ レは 、妹の 夫で あるモ ハメ ッド・ アリ がガズ ビン を出発 する のを
知 って、 かれ に封書 をあ ずけ、 約束 の御方 に渡 すよう に頼 んだ。 かの 女はか れに 、か
な らず旅 行中 にその 約束 の御方 に会 えるの で、 その御 方に つぎの よう に伝え てく れる
ように頼んだ。
「あなたの御顔は輝きできらめいております。そして、あなたの御姿か
ら 光が高 くの ぼって おり ます」 と。 つづけ てこ う述べ るよ うにも 頼ん だ。「『われ は、
あ なたの 主で はない か』 との質 問に 、わた しど もは皆 『ま ことに 、あ なたは 主で あり
たもう』と答えます。」(p.81)
モ ハメ ッド・ アリ はつい にバ ブに会 うこ とがで きた 。そし て、 バブが 約束 の御方 で
あ ること を認 め、タ ヘレ の手紙 と伝 言を伝 えた 。バブ はす ぐタヘ レを <生け る者 の文
字 >の一 人で あると 宣言 した。 かの 女の父 モラ ・サレ と父 の兄モ ラ・ タギは 二人 共高
名 な法学 者で 、イス ラム 教法の 伝承 にくわ しく 、テヘ ラン やガズ ビン をはじ めペ ルシ
ャ の主な 都市 の住民 から 尊敬さ れて いた。 かの 女は叔 父の モラ・ タギ の息子 モラ ・モ
ハ メッド と結 婚して いた 。この 叔父 は、シ ーア 派の信 者た ちから 、第 三番目 の殉 教者
シ ャヒッ ド・ タレス のよ うだと 呼ば れてい た。 タヘレ の家 族は、 バラ ・サリ であ った
が 、かの 女だ けはカ ゼム に最初 から 傾倒し た。 そして 、カ ゼムに 対す る賞賛 を表 わす
た めに、 アー マドの 教え が正当 だと する弁 明書 を書い てか れに送 った 。これ に対 し、
か の女は すぐ 深い愛 情を こめた 返事 を受け 取っ た。そ の書 簡の初 めに はつぎ の言 葉が
あった。「おお、わが目の慰めである人(ヤ、ゴルラトル・エイン)よ。わが心の喜び
よ。」(pp.82-83)
そ れ以 来、か の女 はゴル ラト ル・エ イン という 呼び 名で知 られ るよう にな った。 後
日 、タヘ レは 歴史に 残る バダシ ュト の大会 に参 加し大 胆な 発言を した 。その 大会 に参
加 した者 たち は、タ ヘレ の恐れ を知 らない 言葉 に仰天 し、 そのお どろ くべき 態度 につ
い てバブ に知 らせる 必要 がある と感 じた。 かれ らはタ ヘレ の清純 な名 前を汚 そう とし
たのである。この非難にバブは答えた。
「威力と栄光の舌がかの女をタヘレ(清純なる
者)と名づけられた。これに関して何が言えようか。」この言葉は、かの女の地位を傷
つ けよう とし ていた 者ら を黙ら した 。その とき 以来、 かの 女は信 者た ちから タヘ レと
呼ばれるようになった。
さ て、 ここで バラ ・サリ とい う言葉 につ いて説 明を してお きた い。ア ーマ ドとカ ゼ
ム をはじ め弟 子たち は、 カルベ ラの エマム ・ホ セイン の廟 を訪問 する ときは 、尊 敬の
し るしと して 、その 墓か ら離れ た下 座に座 すの がつね であ った。 かれ らはそ こか ら上
座 に進む こと はけっ して なかっ た。 一方ほ かの 礼拝者 でバ ラ・サ リと 呼ばれ る人 たち
は 、その 廟の 上座で 祈り をとな えた 。シェ イキ 派の人 びと は、「 真の 信者の すべ ては、
こ の世と つぎ の世の 両方 に生き てい る」と 信じ ている ため 、エマ ム・ ホセイ ンの 廟の
下 座から 上座 へ歩を 向け るのは 、適 切でな いと 思って いた 。エマ ム・ ホセイ ンは 、か
れらにとって完全な信者の顕現であったからである。(p.84)
モ ラ・ ホセイ ンは 、バブ がメ ッカと メジ ナに巡 礼す る際、 同伴 者とし て自 分が選 ば
れ るであ ろう と期待 して いた。 バブ はシラ ズ出 発を決 意す るとす ぐモ ラ・ホ セイ ンを
呼び、こう指示した。
「われわれの交わりの時期は終わりに近づいた。あなたとの約束
は 今果た され た。気 を引 きしめ て立 ち上が り、 わが大 業を ひろめ るた めに努 力せ よ。
現 世代の 人び との堕 落と 邪悪を 見て も気を 落と しては なら ない。 聖約 の主が かな らず
あ なたを 援助 される から である 。実 際、そ の御 方はあ なた を慈愛 深く 保護し 、勝 利か
ら 勝利へ と導 いてく れる であろ う。 大地に 恩恵 の雨を 降ら す雲の よう に国中 を旅 し、
全 能者が 恵み 深くあ なた に付与 され た祝福 を人 びとに 注ぎ かけよ 。僧 侶や法 学者 たち
には忍耐し、神の意志に身を委ね、つぎのように声高らかに呼びかけよ。
『目覚めよ、目覚めよ。見よ、神の門は開かれ、朝の光が全人類に輝きを注いでいる。
約 束の御 方が 出現さ れた 。その お方 のため に道 を準備 せよ 。おお 地上 の人び とよ 。あ
な た方を 救っ てくれ るこ の恩恵 を失 わない よう にせよ 。ま た、そ のさ ん然と 輝く 栄光
に目を閉じないようにせよ。』(p.85)
こ の呼 びかけ に応 じる人 がい れば、 わが 書簡を 見せ るがよ い。 そのお どろ くべき 言
葉 により 、か れらが 無思 慮のぬ かる みに背 を向 け、神 の面 前に飛 翔す ること がで きる
よ うに。 まも なく、 われ は巡礼 の旅 に出発 する が、同 伴者 として ゴッ ドスを 選ん だ。
わ れはあ なた を残し 、仮 借ない 敵の 猛襲に 直面 させる こと にした 。し かし安 心す るが
よ い。言 語に 絶する ほど の栄光 ある 恩恵が 、あ なたに 付与 される であ ろうか ら。 北に
向かって旅し、その途中でイスファハン、カシャン、クム、そしてテヘランを訪れよ。
神 の恵み 深い 援助に より 、その 首都 で真の 主権 の座に 達し 、最愛 なる 御方の 館に 入れ
る ように 、全 能の神 にこ ん願せ よ。 その都 市に こそ秘 密が かくさ れて いるの だ。 それ
が 明らか にさ れると き地 上は楽 園に 変わる であ ろう。 わが 望みは 、あ なたが その 恩恵
に あずか り、 その光 輝を 認める こと ができ るこ となの だ。 テヘラ ンか らコラ サン に向
か い、そ こで 、ふた たび 聖なる 呼び 声をあ げよ 。そこ から ナジャ フと カルベ ラに もど
り 、そこ であ なたの 主か ら呼び 出さ れるま で待 つこと だ。 確信せ よ。 あなた はこ の崇
高 な使命 のた めに創 造さ れてお り、 それを すべ て成就 する ように なっ ている のだ 。あ
な たがそ の使 命を果 たす まで、 不信 心の世 界の やりが すべ てあな たに 向けら れて も、
あ なたの 髪の 毛一本 さえ も傷つ ける ことは でき ない。 万物 は神の 威力 ある手 に捕 らわ
れ ている から だ。ま こと に、神 こそ は全能 者で あり、 すべ てを従 わせ る者で あり たも
う。」(pp.85-87)
つ ぎに バブは 、モ ラ・ア リを 面前に 召し 、慈愛 深く 励まし た。 バブは かれ にナジ ャ
フ とカル ベラ に直行 する ように 指示 し、激 烈な 試練と 苦難 が降り かか っても 、最 後ま
で確固不抜であるように激励した。
「あなたの信念は岩のように不動でなければならな
い 。嵐を すべ て乗り 切り 、災難 をす べて切 り抜 けなけ れば ならな い。 愚か者 の非 難や
僧 侶の誹 謗に 傷つけ られ ないよ うに 、また 、そ のため 目的 から逸 れな いよう にせ よ。
な ぜなら 、あ なたは 不滅 の世界 で準 備され てい る天国 の宴 会に招 かれ るから だ。 あな
たは、この神の家を最初に離れ、神のために苦しみを受けるようになっている。もし、
あ なたが 神の 道にお いて 殺され るな らば、 その とき大 なる 報酬と すば らしい 贈り 物を
受けることを思い起こすがよい。」
バ ブが 話し終 わる やいな や、 モラ・ アリ は立ち 上が り、自 分の 使命を 果た すため に
出 発した 。シ ラズか らし ばらく 行っ たとこ ろで 、ある 若者 が追い つい てきた 。若 者は
興 奮で頬 を紅 潮させ 、話 しかけ ても よろし いで すか、 とも どかし げに 聞いた 。そ の若
者はアブドル・ヴァハブであった。かれは涙ぐみながらモラ・アリにこん願した。
「 あなた の旅 に同伴 させ て下さ い。 わたし の心 はとま どい で悩ま され ていま す。 わた
しの歩みを真理の道に導いて下さるようにお願いします。昨夜夢を見ました。それは、
シ ラズの 市場 通りで 、町 の触れ 役が 、忠実 なる 者の指 揮官 である エマ ム・ア リが 出現
されたことを告知している夢でした。触れ役は群集にこのように呼びかけていました。
『立ち上がってその御方を探しなさい。見なさい。その御方は、燃えさかる火中より、
自 由の宣 言書 を引き 抜き 、人び とに それを 配布 されて いる のだ。 その 御方の とこ ろに
い そぐが よい 。その 手か ら自由 の宣 言書を 受け 取る者 は、 懲罰の 苦し みを受 けな いで
すむのだ。そうしない者は楽園の祝福を失うであろう。』(p.87)
そ の触 れ役の 声を 聞くと すぐ わたし は立 ち上が り、 店をそ のま まにし てヴ ァキル の
市 場通り を横 切りま した 。そこ で、 あなた が同 じ宣言 書を 人びと に渡 してい るの を見
た のです 。そ の宣言 書を あなた の手 から受 け取 ろうと 近づ いた各 人に 、あな たは 二、
三語ささやきました。その途端その人は仰天して逃げながらこう叫びました。
『ああ悲
しい。わたしはアリとその親族の祝福を失った。ああみじめだ。わたしは見捨てられ、
没落した者らの一人となった。』
わ たし は夢か らさ めて深 く考 え込み まし た、店 にも どると 、と つぜん あな たが通 ら
れるのが目に入ったのです。あなたはターバンをつけた同伴者と話しておられました。
わたしは椅子から飛び上がり、抑制できない力に駆られて、あなたに追いつきました。
び っくり した ことに 、あ なたは 夢で 見た同 じ場 所に立 って 伝承や 聖句 を説明 して おら
れ ました 。わ たしは 少し 離れた とこ ろで、 あな たから も、 あなた の友 人から もま った
く 気づか れな いで見 てい ました 。あ なたが 話し かけて いた 男性が 、は げしく 抗議 する
のも聞こえたのです。
『あなたの言葉の真理、山でも支え切れないその重さを認めるよ
りも、地獄の火で燃やされる方がわたしには容易なことだ。』この軽蔑したような拒絶
に 、あな たは こう答 えら れまし た。『宇宙 全体 がその 御方 の真理 を否 定した とし ても、
その崇高な衣の清純さを汚すことはけっしてできないのだ。』あなたはその男から離れ、
カ ゼラン の門 に向か われ ました 。そ こでわ たし は、後 を追 ってこ の場 所まで やっ てき
たのです。」
モ ラ・ アリは 若者 の悩む 心を なだめ 、店 にもど って 日々の 仕事 をつづ ける ように 説
得しようとした。
「あなたがわたしと交わると困難なことになりかねない。シラズにも
どりなさい。そして安心しなさい。あなたは救われた人びとの中に数えられるからだ。
こ れほど 熱烈 で献身 的な 探求者 に、 神の恩 恵の 杯が与 えら れない とい うのは 、神 の正
義 から逸 れて おり、 これ ほど渇 望し ている 魂に 、神の 啓示 の波打 つ大 洋が付 与さ れな
いというのも、神の正義ではないのだ。」しかし、このモラ・アリの言葉はむだであっ
た 。店に もど るよう に忠 告すれ ばす るほど 、ア ブドル ・ヴ ァハブ の悲 痛な泣 き声 は高
ま ってい った 。つい にモ ラ・ア リは その望 みを 受け入 れざ るを得 なく なり、 神の 意志
に任せることにした。(pp.87-88)
ア ブド ル・ヴ ァハ ブの父 、ハ ジ・ア ブド ル・マ ジド はよく 目に 涙を浮 かべ てつぎ の
話をした。
「わたしは自分の犯した行為を深く後悔しています。この罪を神が許して下
さ るよう に祈 るばか りで す。わ たし はかっ て、 ファル ス州 知事の 館で 愛顧を 受け てい
ま した。 わた しの地 位は ひじょ うに 高く、 だれ もあえ てわ たしに 反対 したり 、傷 つけ
た りする こと はあり ませ んでし た。 だれ一 人と して、 わた しの権 威を 問うこ とも 、そ
の 特権に 干渉 するこ とも ありま せん でした 。息 子のア ブド ル・ヴ ァハ ブが店 を見 捨て
て 町を去 った ことを 聞い たとた ん、 わたし はか れを追 って カゼラ ンの 門に向 かっ て走
り ました 。こ ん棒で 息子 を打つ つも りで、 その あたり にい た人に 、か れがど の道 を取
っ たかを 聞き ました 。タ ーバン をつ けた男 が道 を横切 って いたが 、そ のあと に息 子が
つ いて行 って おり、 二人 いっし ょに 町を去 るよ うであ った 、と知 らさ れたの です 。こ
れ を聞い て怒 りがこ み上 げ、知 事の 館で特 権を もつ地 位に ある自 分が 息子の 不相 応な
行 動を許 すわ けには いか ない、 と思 ったの です 。息子 の不 面目な 行動 をやめ させ るの
は厳罰だけだ、と感じました。
そ のあ と探し 回っ てやっ と二 人を見 つけ ました 。猛 烈な怒 りか ら、モ ラ・ アリを 打
ち 、大変 な打 撲傷を 負わ せまし た。 ところ が、 かれは おど ろくほ ど平 静にこ う言 った
の です。『ア ブドル ・マ ジドよ 、打 つ手を やめ よ。神 があ なたを 見て おられ るか らだ。
目 撃者は 神で あるが 、あ なたの 息子 の行動 責任 はわた しに はない 。あ なたが わた しに
加 える苦 痛は 気にな らな いのだ 。な ぜなら 、わ たしは 自分 が選ん だ道 に降り かか る一
層はげしい苦難に耐えうるように準備しているからだ。あなたが加える危害は、将来、
わ たしに 降り かかる よう になっ てい るもの に比 べれば 、大 海の一 滴の ような もの だ。
こ のこと をぜ ひ言っ てお きたい が、 あなた はわ たしよ り長 生きし 、わ たしの 潔白 を認
め るよう にな ろう。 その とき、 あな たは自 責の 念に苦 しみ 、悲痛 な思 いをす るで あろ
う。』しかし、わたしはその言葉をあざけり、その訴えを無視して、疲れ果てるまでか
れ を打ち つづ けまし た。 かれは 黙っ て勇敢 にも このひ どい 懲罰に 耐え ました 。そ のあ
と 、わた しは 息子に 後に ついて くる ように 命じ 、モラ ・ア リをそ こに 放った まま その
場を去りました。(pp.88-89)
シ ラズ にもど る途 中で、 息子 は自分 の見 た夢を 語り ました 。そ れを聞 いて 後悔の 念
が 少しず つこ み上げ てき ました 。モ ラ・ア リの 潔白が わた しの眼 前で 立証さ れた から
で す。そ の後 、かれ にあ たえた 残酷 な行為 を思 い出し 、わ たしの 魂は 長い間 苦し んだ
のです。その痛恨は住居をシラズからバグダッドに移さざるを得なくなったときまで、
心から消え去ることはありませんでした。その後、バグダッドからカゼマインに移り、
そ こで息 子の アブド ル・ ヴァハ ブは 仕事を はじ めまし た。 そのこ ろ、 かれの 若々 しい
顔 は、何 とも 表現で きな い神秘 に包 まれた よう になっ てい ました 。あ る秘密 をわ たし
に かくし てい るに違 いな いと感 じま した。 かれ の生活 が変 ってし まっ たから です 。一
八 五〇か ら五 一年に 、バ ハオラ がイ ラクに 旅さ れ、カ ゼマ インを 訪れ られた とき 、息
子 はすぐ その 魅力に 惹か れ、永 遠の 献身を 誓っ たので す。 数年後 、息 子がテ ヘラ ンで
殉 教した とき 、バハ オラ はバグ ダッ ドに追 放さ れてい まし たが、 かぎ りない 愛情 と慈
悲 をこめ て、 わたし を無 思慮の 眠り から覚 まし てくれ まし た。そ して 、かれ 自ら 新し
い 時代の 原則 をわた しに 教え、 わた しが犯 した 残酷な 行為 の汚れ を、 神の許 しの 水で
洗い流して下さったのです。」
こ の挿 話は、 バブ の宣言 後に 弟子に ふり かかっ た最 初の苦 難の 記録で ある 。モラ ・
ア リは自 分の 経験か ら、 師の約 束が 実現さ れる 道は、 ひじ ょうに けわ しく、 困難 であ
る ことを 知っ ていた 。か れはす べて を神の 意志 に任せ 、こ の大業 のた めに生 命の 血を
流す決意でナジャフまで旅した。イスラム教シーア派の名高い高僧であるモハメッ
ド ・ハサ ンと 、その 著名 な弟子 たち を前に して 、モラ ・ア リは恐 れる ことな く皆 が熱
烈に待望してきたバブ、すなわち門である御方が出現されたことを宣言した。
「バブの
証 拠はそ の言 葉であ りま す。そ の証 言は、 イス ラム教 徒が イスラ ム教 の真理 を立 証す
る ときの もの と同じ です 。モハ メッ ドの子 孫で 、しか も教 育を受 けて いない ペル シャ
人 の若者 のペ ンから 、四 十八時 間の うちに 、神 の預言 者で あるモ ハメ ッドが 二十 三年
間 に啓示 した コーラ ンの 全巻に 匹敵 する長 さの 祈り、 説話 、科学 的論 文が流 れ出 した
のであります。」(pp.89-90)
こ の高 慢で、 狂信 的な高 僧モ ハメッ ド・ ハサン は、 暗黒と 偏見 の時代 に新 しく誕 生
し た啓示 、そ の生命 力を あたえ る教 えを歓 迎す るどこ ろか 、即座 にモ ラ・ア リを 異端
者 と宣告 し、 集会か ら追 い出し た。 かれの 弟子 たちも 師の 非難を 支持 した。 モラ ・ア
リ が敬虔 で、 誠実な 人物 で学識 がそ なわっ てい ること をす でに認 めて いたシ ェイ キ派
の 者らた ちで さえ、 ため らうこ とな くかれ を非 難した ので ある。 この 高僧の 弟子 たち
は 、敵と さえ 手を組 んで 、言う に言 えない 侮辱 をモラ ・ア リに加 えた 。つい にか れら
は 、モラ ・ア リを、 イス ラム教 を破 壊し、 預言 者を中 傷し 、悪影 響を 広め、 イス ラム
教 に恥辱 をも たらす 者と して死 刑に 値する と断 定した 。そ して、 かれ の両手 にく さり
を つけて トル コ帝国 の官 吏に渡 した のであ る。 かれは 官吏 の護送 の下 にバグ ダッ ドに
連行され、知事の命令で投獄された。
ア ター ルとい う姓 のハジ ・ハ シェム は、 イスラ ム教 の聖典 にく わしい 有名 な商人 で
あった。かれはモラ・アリの逮捕についてつぎのように語った。「ある日、わたしが政
府 の建物 にい たとき 、モ ラ・ア リが 町の要 人や 政府の 官吏 が集ま って いると ころ へ呼
び 出され まし た。か れは 異端者 であ り、イ スラ ム教の 法律 を捨て る者 であり 、そ の儀
式 や習慣 を否 認する 者で あると して 告発さ れた のです 。か れが犯 した とされ る違 反や
非 行が数 え上 げられ た後 、町の イス ラム教 法の 主な解 釈者 である モフ ティ( 宗教 解釈
官)がモラ・アリの方を向いて言いました。『おまえは神の敵だ。』
わたしはモフティの隣の席に座っていましたので、かれの耳にこうささやきました。
『 あなた はこ の不運 な人 につい てま だ知っ てお られな い。 どうし てか れに対 して そん
な 言葉を 用い られる ので すか。 その ような 言葉 を使わ れる と、か れに 反対す る民 衆の
怒 りを刺 激す るとい うこ とがお わか りにな らな いので すか 。あな たが すべき こと は、
民 衆の根 拠の ない非 難を 無視し て、 あなた 自ら かれに 質問 し、イ スラ ム教で 認め られ
ている正義の基準にしたがって判断することです。』
モ フテ ィはひ どく 不機嫌 にな って席 から 立ち上 がり 、その 集会 から去 って 行きま し
た 。モラ ・ア リはふ たた び投獄 され ました 。数 日後、 かれ の釈放 を願 いなが ら、 ある
人 にかれ の行 方を聞 きま した。 そこ でわた しが 知り得 たこ とは、 その 日の夜 、コ ンス
タ ンチノ ープ ルに追 放さ れたこ とだ けでし た。 そのあ とか れがど うな ったか を調 査し
ま したが 、行 方は不 明の ままで した 。コン スタ ンチノ ープ ルに行 く途 中で、 病に 倒れ
死亡したと信じる人もいましたし、殉教したと主張した人もいました。」どのような最
後 を迎え たと しても 、モ ラ・ア リは その生 涯と 死によ って 、神の 新し い信教 の道 にお
い て苦難 を受 けた最 初の 者、聖 なる 犠牲の 祭壇 に命を ささ げた最 初の 者とし て不 滅の
栄誉を勝ち取ったのである。(pp.91-92)
さ て、 話をも とに もどそ う。 バブは モラ ・アリ に任 務をあ たえ て送り だし たあと 、
残 りの生 ける 者の文 字と 呼ばれ る弟 子たち を呼 び出し 、各 人に特 定の 指示と 任務 をあ
た えた。 そし て、つ ぎの ような 別れ の言葉 で呼 びかけ た。「おお 、わ が愛す る友 らよ。
皆 はこの 偉大 な時代 に神 の御名 を伝 える者 たち である 。皆 は神の 神秘 を受け 入れ る宝
庫 として 選ば れたの だ。 各人神 の特 性を表 わし 、行動 と言 葉で神 の正 義と威 力と 栄光
の しるし を示 さなけ れば ならな い。 身体の 器官 のすべ てが 、崇高 な目 的、高 潔な 生き
方 、固い 信念 、高尚 な献 身を証 言し なけれ ばな らない のだ 。なぜ なら 、はっ きり 述べ
るが、この時代こそは、神が聖典(コーラン)の中で予言された日であるからである。
『 その日 、わ れは、 かれ らの口 を封 じるで あろ う。し かも 、かれ らの 手はわ れに 話し
かけ、足はその行動を証言するであろう。』
イ エス が、弟 子た ちを、 神の 大業の 普及 に送り 出し たとき にあ たえた 言葉 を熟考 せ
よ 。イエ スは つぎの よう に、弟 子た ちに立 ち上 がり、 その 使命を 果た すよう に命 じら
れた。
『皆は真っ暗な夜、山頂にともされた火のようなものだ。人びとの眼前でその光
を 輝かせ よ。 地上の 人び とが皆 を通 して、 天の 御父を 認め 、御父 に近 づきた いと 思う
ほ どに、 清ら かな性 格を もち、 世俗 のもの への 愛着を 絶っ ていな けれ ばなら ない 。天
の 御父こ そは 、清純 と恩 恵の源 であ る御方 であ るが、 だれ も天の 御父 を見た こと がな
い のだ。 ゆえ に、神 の精 神的な 子供 である 皆は 、その 行動 で神の 美徳 を示し 、そ の栄
光を証言しなければならない。皆は地の塩であるが、もし、塩のききめがなくなれば、
何 によっ てそ の味が 取り もどさ れよ うか。 神の 大業を 教え 広める ため に、ど の町 を訪
れ ても、 その 町の人 びと から肉 や報 酬を一 切期 待して はな らない 。そ れほど にも 世俗
へ の愛着 を絶 ってい なけ ればな らな いのだ 。い やそれ どこ ろか、 町を 出ると き足 から
さ えもち りを 払い落 とす べきな ので ある。 その 町に清 らか で汚れ ない 姿で入 り、 そこ
か ら出る とき も同様 でな ければ なら ない。 はっ きりと 告げ るが、 天の 御父は つね に皆
と 共にあ り、 また、 皆を 見守っ てお られる のだ 。もし 、神 に忠実 であ れば、 神は かな
ら ず地上 のす べての 宝物 を皆の 手に 渡し、 皆を 世界中 の王 や支配 者を はるか に超 える
ほど高めて下さるであろう。』(pp.92-93)
お お、 わが生 ける 者の文 字た ちよ。 まこ とに、 われ は誓う が、 今日は いに しえの 使
徒 たちの 時代 をはる かに しのぐ 崇高 な時代 であ る。そ れど ころか 、そ の違い は計 り知
れ ないの だ。 皆は約 束さ れた神 の日 の夜明 けを 目撃す る証 人であ り、 神の啓 示の 神秘
の 杯にあ ずか る者な ので ある。 気を 引きし めて 準備し 、神 の書に 著わ された 言葉 を心
に銘記せよ。
『見よ、主なる神が到来された。その面前に天使の一団が整列している。』
世 俗的な 欲望 から心 を清 め、天 使の 美徳で 飾ら なけれ ばな らない 。行 動をも って 、神
の 言葉の 真理 を実証 する ように 努力 せよ。 そし て『後 を振 り返る 』こ とをし ない よう
に 気をつ けよ 。振り 返れ ば神は 『皆 を他の 人び とと取 り替 えられ るで あろう 』か らで
ある。かれらは、
『皆と異なる人たちで』、神の王国を皆の手から取り上げるであろう。
無 為な崇 拝で 十分で あっ た時代 はも う終わ った 。純粋 な動 機とし み一 つない 清ら かな
行動だけが、最も高遠なる御方の王座に昇り、受け入れられる時が到来したのだ。
『立
派な言葉は神にまでとどき、正義ある行為は神の面前に引き上げられるであろう。』皆
の身分は低いが、神は聖典でこのように述べられている。
『われは、その地で低い身分
で 育った 者に 好意を 示し 、かれ らを 人びと の精 神的指 導者 となし 、わ が継承 者と なそ
う。』
皆 はこ の地位 に達 するよ うに 召され たの である 。も し、皆 が立 ちあが り、 この世 の
あらゆる欲望を足で踏みつけ、
『神が語られるまで語らず、その命にしたがう栄誉ある
し もべ』 とな るよう に努 力する なら ば、そ の地 位に達 する ことが でき よう。 皆は この
原点(バブの称号の一つ)、この啓示の源泉から湧き出た最初の泉から生み出された最
初 の文字 であ る。世 俗の もつれ 、こ の世の 愛情 、はか ない 現世の 営み が、皆 の心 に流
れ る恩寵 の清 らかさ を汚 さず、 甘さ を苦み に変 えない よう に神に たん 願せよ 。わ れは
皆 を偉大 なる 日の到 来の ために 準備 してい るの である 。今 ここで 指示 をあた えて いる
わ れが、 来世 、神の 座の 面前で 皆の 行為に 満足 し、そ の成 果を称 える ことが でき るよ
うに、最善をつくして努力せよ。今後出現する偉大な日の秘密は、今かくされている。
その秘密をここで明かすことも、計り知ることもできない。その日に生まれた赤子は、
今 の世で もっ とも賢 く、 もっと も尊 敬され てい る人物 をは るかに しの ぐ能力 をも ち、
その日のもっとも身分が低く、無学な者も、現在最高の学識をそなえた聖職者よりも、
はるかにすぐれた理解力をもつであろう。(pp.93-94)
こ の地 の果て から 果てま で隈 なく散 り、 不動の 足取 りと、 清め られた 心を もって 、
そ の御方 の到 来の準 備を せよ。 自分 の弱さ やも ろさを 気に かける こと なく、 不屈 なる
全能者、主なる神の力に目を据えなければならない。神はその昔、アブラハムをして、
そ の無力 さに もかか わら ずニム ロデ の軍勢 に勝 利を得 させ たでは ない か。ま た、 つえ
一 本しか なか ったモ ーゼ に、フ ァラ オとそ の軍 勢に打 ち勝 つ力を あた えられ たで はな
い か。神 はま た、人 の目 に貧し く、 身分が 低く 映った イエ スに、 ユダ ヤ人の 全勢 力を
し のぐ力 をも たされ たで はない か。 さらに 、野 蛮で戦 闘的 なアラ ビア の部族 を、 預言
者 モハメ ッド の聖な る規 律に従 う者 らに変 えら れたで はな いか。 神の 御名の もと に立
ち上がり、神に全信頼を置き、最終的な勝利を確信せよ。」
バ ブは 以上の 言葉 で弟子 たち の信念 を強 め、使 命遂 行の旅 に送 り出し た。 各人に そ
れ ぞれの 出身 地を活 動の 場とし て割 り当て 、バ ブの名 前と 身元に はは っきり と言 及し
な いよう に指 示した 。ま た、約 束の 御方へ の聖 なる門 が開 かれた こと 、その 証拠 は否
定 できな いこ と、そ の証 言は完 全で あるこ とを 伝える よう に指示 した 。その 御方 を信
じ る者は 、神 から下 され た預言 者を すべて 信じ る者で あり 、否定 する 者は神 の聖 者と
神 から選 ばれ た者を すべ て否定 する 者であ るこ とを説 くよ うに命 じた 。以上 の指 示を
あ たえた あと 、バブ は弟 子たち を自 分の面 前か ら去ら せ、 神の保 護に 任せた 。こ の生
け る者の 文字 と呼ば れる 弟子た ちの うち、 最初 の文字 モラ ・ホセ イン と最後 の文 字ゴ
ッ ドスは 、シ ラズの バブ のもと に残 った。 あと の十四 人は おのお の委 任され た任 務を
全部果たす決心で、夜明け時にシラズを出発した。(pp.94-96)
弟子たちが出発したあと、バブはモラ・ホセインに話しかけた。
「ヘジャーズへのわ
が 巡礼に 同伴 者とし て選 ばれな かっ たこと を嘆 いては なら ない。 その 代わり に、 ヘジ
ャ ーズも シラ ズも匹 敵で きない ほど 神聖な 秘密 がかく され ている 町に あなた を行 かせ
る つもり だ。 わが望 みは 、あな たが 神の援 助に より強 情者 の目に かか ってい るヴ ェー
ル を取り 除き 、悪意 者の 心を清 める ことで ある 。途中 で、 イスフ ァハ ン、カ シャ ン、
テ ヘラン 、そ してコ ラサ ンを訪 れよ 。そこ から イラク に行 き、そ こで 、あな たの 主の
命 令を待 つが よい。 主は あなた を見 守り、 御心 のまま あな たを導 いて 下さる から だ。
わ れはゴ ッド スとエ チオ ピア人 の召 使いを 伴っ て、巡 礼の ためヘ ジャ ーズに 向か うつ
も りであ る。 そこで 、ヘ ジャー ズに 向けて 出帆 しよう とし ている ファ ルスか らの 巡礼
の 一団に 合流 し、メ ッカ とメジ ナを 訪れ、 神が われに 委任 された 使命 を果た すつ もり
で ある。 もし 、神の 意志 であれ ば、 クフェ を通 っても どる が、そ こで あなた に会 いた
い と思っ てい る。そ れが 定めで なけ れば、 シラ ズでわ れに 会って くれ るよう に願 う。
見 えざる 王国 の軍勢 があ なたの 努力 を支え 、強 めてく れる ことを 確信 せよ。 今や 、強
い 力があ なた にあた えら れ、神 の選 ばれた 天使 たちが 、あ なたの 周り をまわ って いる
の だ。そ の全 能の腕 があ なたを 取り 巻き、 その 聖なる 精神 は、あ なた の歩み をか なら
ず 導いて くれ るであ ろう 。あな たを 愛する 者は 神を愛 する 者であ る。 あなた に反 対す
る者は神に反対する者である。神はあなたを助ける者を助けられるであろう。そして、
あなたを拒絶する者を拒絶されるであろう。」(pp.96)
第四章
モ ラ・ホセインのテヘランへの旅
モ ラ・ ホセイ ンは 、バブ の崇 高な言 葉を 耳に残 して 、危険 な旅 に出発 した 。その 旅
の 途中、 あら ゆる場 所で 、すべ ての 階級の 人び とに、 敬愛 する師 から 委任さ れた メッ
セ ージを 恐れ ずに伝 えた 。イス ファ ハンに 到着 後はニ ム・ アヴァ ルド の神学 校に 落ち
着いた。以前、カゼムの使者として、高名なイスラム法学者を訪れたことがあるので、
そ のこと を知 ってい た人 びとが 、モ ラ・ホ セイ ンの周 りに 集まっ てき た。こ の法 学者
は すでに この 世を去 り、 息子が 後を 継いで いた 。息子 はナ ジャフ から もどっ た後 すぐ
父親の地位についたのである。
エ ブラ ヒム・ カル バシも 重態 におち いり 、死に 直面 してい た。 モハメ ッド ・バゲ ル
の 死で、 弟子 たちは 師か ら左右 され ること がな くなっ た。 そして 、モ ラ・ホ セイ ンの
聞 き慣れ ない 教義に 警戒 心を強 めは じめて いた 。かれ らは 亡き師 モハ メッド ・バ ゲル
の 息子ア サド ラに、 モラ ・ホセ イン に対す るき びしい 非難 を告げ 、つ ぎのよ うに 不満
を表わした。
「 モラ・ ホセ インは 以前 の訪問 の際 、高名 なあ なたの 父上 をアー マド の大業 の支 持者
に引き入れました。師の弟子たちは無力で、かれに反対する者はいないのです。モラ・
ホセインは今、
(カゼムより)一層おそるべき敵対者となり、その教えを大変な熱意と
気 力をも って 弁じて いま す。か れは 、自分 が信 じてい る大 業をも たら した人 物は 、聖
な る書を 著わ し、そ れは 神から 霊感 を受け たも のであ ると 執拗に 主張 してい ます 。ま
た 、その 書は コーラ ンの 語調に そっ くりで ある とも断 言し ていま す。 さらに 、こ の町
の住民に『もし、皆さんが真理の愛好者ならば、これと同様なものを生み出しなさい』
と いう言 葉で 挑戦し てき たので す。 イスフ ァハ ンの全 住民 がその 大業 を受け 入れ る日
が迫ってきています。」(pp.97-98)
ア サド ラはし ばら くかれ らの 不満に あい まいに 答え ていた が、 ついに 、は っきり と
した返事をせざるを得なくなった。
「これ以上わたしに何が言えようか。モラ・ホセイ
ン は雄弁 かつ 説得力 のあ る論証 で、 わたし の父 ほどの 高名 な人物 を黙 らせた こと を皆
認 めてい るの ではな いか 。功績 も知 識も父 より はるか に劣 ってい るわ たしが 、父 がす
で に是認 した ことに 対し てどう やっ て挑戦 でき ようか 。各 人めい めい モラ・ ホセ イン
の 主張を 冷静 に調べ ても らおう 。そ れに満 足で きれば 、そ れはよ いこ とだ。 もし そう
で なけれ ば、 沈黙を 守っ てもら い、 われわ れの 信教( イス ラム教 )の 名声を 傷つ ける
ような危険を冒さないようにしてもらおう。」
ア サド ラは動 かせ ないと わか った弟 子た ちは、 モハ メッド ・エ ブラヒ ムに この問 題
をもち込み、さわがしく異議を申し立てた。
「われわれに災いが襲ってきました。敵が
立ち上がって聖なるイスラム教を分裂しようとしています。」そして、モラ・ホセイン
が 説いて いる 考えは あま りにも 挑戦 的だと 、大 げさで 、あ くどい 言葉 で非難 した 。こ
れにモハメッド・エブラヒムは答えた。
「黙りなさい。モラ・ホセインはだれにもだま
さ れるよ うな 人物で はな い。ま た、 危険な 教え の犠牲 にな るよう な人 でもな い。 もし
皆 の主張 が本 当で、 モラ ・ホセ イン が実際 新し い宗教 を信 じてい るの であれ ば、 まず
そ の教え の内 容を冷 静に 調べる こと が皆の 義務 ではな いの か。前 もっ て注意 深く 調べ
な いで非 難す るのは 止め た方が よい 。健康 と気 力が回 復し 、事情 が許 すなら ば、 わた
し自身この件を調査し真実を確かめるつもりだ。」
ア サド ラの弟 子た ちは、 この モハメ ッド ・エブ ラヒ ムのき びし い譴責 に当 惑して し
ま った。 あわ てたか れら は、市 (イ スファ ハン )の知 事マ ヌチェ ール ・カー ンに 訴え
が 、この 思慮 分別を そな えた賢 明な 知事は 、こ の問題 はイ スラム 学者 の権限 であ ると
述べて、これに関わることを拒否した。さらに、不和の種をまくことを避け、使者(モ
ラ ・ホセ イン )の平 穏を 乱すこ とを 止める よう に警告 した 。知事 の痛 烈な言 葉は 、害
を もたら そう と企ん でい た者た ちの 望みを くじ いた。 こう してモ ラ・ ホセイ ンは 敵の
陰謀から解放され、しばらくの間自由に目的を追求することができた。(pp.98-99)
イ スフ ァハン 市で 最初に バブ の大業 を受 け入れ たの は小麦 のふ るい手 であ った。 か
れ は、バ ブの メッセ ージ を耳に する とすぐ 何の ためら いも なく、 それ を受け 入れ た。
そ して、 モラ ・ホセ イン に献身 的に 仕え、 かれ との親 密な 交際を 通し て新し い啓 示の
熱 烈な支 持者 となっ た。 数年後 、シ ェイキ ・タ バルシ の砦 の包囲 攻撃 につい て、 魂を
ゆ るがさ れる ような 話を 聞き、 信教 の擁護 に立 ち上が った バブの 勇敢 な弟子 たち と運
命 を共に した いとい う衝 動に駆 られ た。そ して 、即座 に手 にふる いを もって 立ち 上が
り 、交戦 の場 に向か い、 興奮状 態の ままイ スフ ァハン の市 場を走 りな がら通 って 行っ
た 。それ を見 た友人 たち が「ど うし てそん なに あわた だし く出発 する のか」 と聞 いた
とき、かれはこう答えた。
「シェイキ・タバルシの砦を守っている栄誉ある一団に加わ
る のだ。 この ふるい で、 通りす ぎる 町の人 を皆 、ふる いに かける つも りだ。 わた しが
受 け入れ た大 業を信 じる 人が見 つか れば、 いっ しょに 殉教 の場に 急ぐ ことを 請う つも
りだ。」
バ ブは 、この 若者 の献身 の熱 烈さに つい てペル シャ 語のバ ヤン 書につ ぎの ように 書
いている。
「かのすぐれた都市イスファハンの特徴は、シーア派の住民が宗教的熱情を
も ち、聖 職者 の学識 が深 く、ま た、 階級を 問わ ず全住 民が サヘオ ザマ ン(時 代の 主)
の 出現を 今か 今かと 待ち 望んで いる ことで ある 。そし て、 都市の いた るとこ ろに 宗教
機関が設立されてきた。ところが、神の使者が実際現われたとき、学識の宝庫であり、
宗 教の神 秘を 解説で きる と自認 して いた者 らは 、その 教え を拒否 した 。しか し、 この
学 問の中 心に 住む住 民の うちた だ一 人、小 麦の ふるい 手だ けが真 理を 認め、 神の 美徳
という衣を与えられたのである。」(p.99)
イ スフ ァハン のセ イエド (モ ハメッ ドの 子孫) のう ちアリ ・ナ リ、か れの 弟のミ ル
ザ ・ハデ ィ、 そのほ かモ ハメッ ド・ リダが バブ の大業 を認 めた。 アリ ・ナリ の娘 はそ
の 後、最 大の 枝(ア ブド ル・バ ハ) と結婚 した 。以前 モカ ダスと して 知られ てい たサ
デ ィクは 、後 にエス モラ ホル・ アス ダグと いう 称号を バハ オラか らあ たえら れた が、
カ ゼムの 指示 にした がっ て、そ れま での五 年間 イスフ ァハ ンに住 み、 新しい 啓示 の出
現 の準備 をし ていた 。か れもま た、 バブの 教え を最初 に認 めた弟 子の 一人で あっ た。
か れはモ ラ・ ホセイ ンの イスフ ァハ ン到着 を知 るとす ぐ会 いに行 った 。その 最初 の会
見は、アリ・ナリ宅で夜半に行われたが、その模様をつぎのように語った。
「 わたし はモ ラ・ホ セイ ンに、 約束 の顕示 者で あると 宣言 する御 方の 名前を 教え てく
れるように頼みました。
『その名前を問うことも、それをもらすことも禁じられている』
という答えが返ってきました。そこでわたしは聞きました。
『生ける者の文字がしたよ
う に、独 自で 、全慈 悲者 の恩恵 を求 め、祈 りを 通して その お方を 発見 できる ので しょ
う か。』 かれ はこう 答え ました 。『 神の恩 恵の とびら は、 神をも とめ る人の 前で 閉ざさ
れることは絶対にない。』わたしはすぐかれの下を離れ、家の主人に個室を使わせても
ら うよう に頼 みまし た。 だれに もじ ゃまさ れず 、一人 で神 と交信 する ためで した 。瞑
想 中にと つぜ ん、カ ルベ ラ滞在 中に しばし ば目 にした 若者 の顔が 出て きまし た。 その
若 者はエ マム ・ホセ イン の廟の 入り 口で、 涙し て祈る よう な姿で 立っ ていま した 。そ
の 同じ顔 がわ たしの 眼前 にふた たび 現われ たの です。 幻の 中で、 その 同じ顔 、同 じ容
貌 を見た ので す。そ のよ ろこび にあ ふれた 表情 を描写 する ことは でき ません 。そ の顔
は こちら をじ っと見 てほ ほ笑み まし た。か れの 足元に 身を 投げ出 そう と近づ き、 地面
に 顔を向 けた とき、 その かがや く姿 はわた しの 眼前か らふ っと消 えた のです 。こ の上
な い喜悦 感に 満たさ れた わたし はモ ラ・ホ セイ ンのと ころ に走っ てい きまし た。 かれ
は うれし そう にわた しを 迎え入 れ、 わたし がつ いに望 みの 目標な る御 方を見 つけ たこ
とをよろこんでくれたのです。しかし、そのよろこびの気持ちを押さえるように命じ、
こう警告しました。
「 あなた が見 た幻を だれ にも明 かし てはな らな い。そ の時 間はま だ到 来して いな いか
ら だ。あ なた はイス ファ ハンで 忍耐 強く待 った のでそ の報 酬を得 たの だ。す ぐケ ルマ
ーンに行き、そこでカリム・カーンに、この教えを伝えなさい。つぎにシラズに行き、
無 思慮な 住民 の目を さま す努力 をし なさい 。シ ラズで あな たと会 おう 。そこ で最 愛な
る御方と再会し、その祝福を共にしようではないか。」(pp.100-101)
モ ラ・ ホセイ ンは イスフ ァハ ンから カシ ャンに 向か った。 カシ ャンで 最初 に忠実 な
る信者たちの一団に加わったのはジャニで、称号はパルパという有名な商人であった。
モ ラ・ホ セイ ンの友 人の 中には 、名 高い僧 侶の アブド ル・ バキが いた 。この 僧侶 はカ
シャンの住民でシェイキ派共同体に属していた。ナジャフとカルビラに滞在中、モラ・
ホ セイン と親 しく交 際し てバブ の教 えを聞 いた が、そ のた めに僧 侶の 地位と 指導 的な
立場を犠牲にすることはできないと感じた。
モ ラ・ ホセイ ンは クムに 到着 してバ ブの 教えを 伝え ようと した が、そ の町 の住民 は
だ れも耳 をか そうと しな かった 。か れがそ こで 蒔いた 種は 、バハ オラ がバグ ダッ ドに
追 放され るま で芽を 出さ なかっ たの である 。そ の時期 にな ってク ム出 身のミ ルザ ・ム
サ が教え を受 け入れ 、バ グダッ ドに 旅して バハ オラに 会う ことが でき た。そ の後 かれ
はバハオラの道で殉教の盃を飲み干した。(p.101)
モ ラ・ ホセイ ンは つぎに 、ク ムから 直接 テヘラ ンに 向かっ た。 テヘラ ン滞 在中は 、
あ る神学 校の 一室に 住ん だ。モ ハメ ッド・ クラ サニは シェ イキ派 の共 同体の 指導 者で
あ り、そ の神 学校の 講師 をして いた 。モラ ・ホ セイン はか れに神 の教 えを受 け入 れる
ように誘ったが、かれはそれに応ぜず、つぎのように述べた。
「あなたに期待していた
こ とは、 師カ ゼムの 亡き 後、世 に埋 もれた 存在 になっ たシ ェイキ 派共 同体を 救う ため
に 尽力し てく れるこ とで あった 。と ころが あな たはこ の期 待を裏 切り 、破壊 的な 教義
を ひろめ てお られる 。そ れをつ づけ られる なら ば、や がて 、この 都市 に残っ てい るシ
ェイキ派の信者は全滅してしまうであろう。」モラ・ホセインは、自分はテヘランに長
居 するつ もり はない こと 、また 、ア ーマド とカ ゼムが 説い た教え を卑 しめた り、 抑圧
したりする意図も一切ないと説明して、かれを安心させた。
テ ヘラ ン滞在 中、 モラ・ ホセ インは 毎日 早朝に 部屋 を出、 日没 一時間 後に もどっ て
く るのを つね とした 。も どると 一人 で静か に自 室に入 り、 翌日ま で閉 じこも った 。バ
ハ オラの 実弟 ミルザ ・ム サ(ア ガ・ カリム )は 、わた し( 著者) に、 つぎの よう に語
った。(p.102-103)「わたしは、マザンデラン州のヌール出身のモハメッド・モアレム
からつぎのような話を聞きました。かれはアーマドとカゼムの熱烈な賞賛者でした。
『 当時、 わた しは、 モハ メッド ・ク ラサニ から 好意を もた れてい た弟 子の一 人で 、か
れ が教え てい た学校 の寄 宿舎に 住ん でいま した 。わた しの 部屋と かれ の部屋 は隣 り合
っ ており 、親 密に交 際で きまし た。 ある日 偶然 にも、 かれ がモラ ・ホ セイン と討 議し
て いるの を全 部耳に しま した。 その とき、 この 見知ら ぬ若 者の熱 意、 流暢な 言葉 と学
識 に深く 心を 動かさ れま したが 、一 方、モ ハメ ッド・ クラ サニの あい まいな 返事 、尊
大 さ、ご う慢 な態度 にお どろか され ました 。そ の日、 この 若者の 魅力 に強く 惹か れる
と 同時に 、師 の見苦 しい 態度に 憤慨 したの です 。しか し、 わたし はそ の気持 ちを かく
し 、かれ とモ ラ・ホ セイ ンとの 討議 には無 関心 をよそ おい ました 。モ ラ・ホ セイ ンに
ぜ ひとも 会い たいと 思い 、前も って 知らせ ずに 真夜中 に訪 ねたの です 。戸を たた いた
と ころ、 ラン プのそ ばに 座って いた かれは 、わ たしを 愛情 深く迎 え入 れ、ひ じょ うに
丁 重に、 親切 に語り かけ ました 。そ こで、 胸の 中を打 ち明 けたの です が、そ の間 、わ
た しは感 動を 抑えき れず 、目か ら涙 があふ れ出 てきま した 。かれ はつ ぎのよ うに 言い
ました。
『 わたし が、 なぜこ の場 所を住 居と して選 んだ かが今 わか りまし た。 あなた の師 はこ
の 聖なる 教え を拒絶 し、 その創 始者 を軽蔑 され ました 。わ たしの 望み は、か れの 弟子
がこの真理を認めることです。お名前は?
出身地は?』わたしは答えました。
『わた
し の名は モラ ・モハ メッ ドで、 称号 はモア レム です。 故郷 はマザ ンデ ラン州 のヌ ール
で す。』 モラ ・ホセ イン はさら にた ずねま した 。『人 格、 魅力、 芸術 と学識 で高 名であ
っ た故ミ ルザ ・ボゾ ルグ ・ヌー リの 家族の 中で 、この 家系 の高貴 な伝 統を維 持で きる
ことを証明した人が現在いるかどうか教えてもらいたいのです。』
わたしは答えました。
『今生存している息子たちのうち、父上と同じ特徴をもち、際
立 ってす ぐれ た人が 一人 います 。そ の方は 、高 潔な生 活、 高度の 学識 、慈愛 深さ と寛
大さで、気高い父親にふさわしい息子であることを証明しています。』かれは聞きまし
た 。『そ の方 の職業 は? 』『意 気消 沈して いる 人をな ぐさ め、飢 えた 人に食 べ物 を与え
る ことで す』 とわた しは 答えま した 。『そ の方 の地位 と階 級は? 』『 貧しい 人と 見知ら
ぬ人と親しくなるほかは何の地位もありません。』
『その方の名前は?』
『ホセイン・ア
リです。』
『その方の父親の書体のうち、どの書体で父親よりすぐれていますか?』
『か
れ の愛好 する 書体は 、シ ーカス テ・ ナスタ リグ です。』『そ の方は 、ど のよう に時 間を
過ごされますか?』『森を散歩し、田園の美しさを楽しまれます。』『年令は?』『28 才
です。』(pp.104-105)
モ ラ・ ホセイ ンの 熱心な 質問 と、わ たし の返事 をよ ろこん で聞 く様子 に大 変おど ろ
き ました 。か れはこ ちら を向き 、満 足感と よろ こびで 顔を かがや かせ ながら 、も う一
度 わたし に聞 きまし た。『あな たは 、その 方と よく会 われ ますか ?』『たび たび 訪問し
ます』とわたしは返事しました。
『では、この預かり物をかれの手に渡してもらえます
か ?』『 もち ろん、 確か にそう いた しまし ょう 。』そ こで 、かれ は布 に包ん だ巻 物をわ
たしに渡し、翌日の夜明け時にその方(バハオラ)に渡すように頼んだのです。
『 もし、 その 方が返 事を 下され ば、 それを わた しに知 らせ て下さ い』 と、か れは つけ
加 えまし た。 そこで その 巻物を 受け 取り、 翌日 の夜明 けに この要 請を 果たす ため に出
か けまし た。 バハオ ラの 家に近 づく と、バ ハオ ラの実 弟ミ ルザ・ ムサ が門の とこ ろに
立 ってい まし たので 、訪 問の目 的を 知らせ まし た。か れは 家に入 った 後、ま もな くし
て 現われ 、わ たしを バハ オラの 面前 に案内 しま した。 ミル ザ・ム サに 巻物を 渡す と、
か れはそ れを バハオ ラの 前に置 きま した。 バハ オラは われ われ二 人に 座るよ うに 命じ
ま した。 バハ オラは 巻き 物をひ ろげ 、その 内容 に目を 通し 、何節 かを 声高ら かに 読み
は じめま した 。わた しは その声 の旋 律的な 美し さにわ れを 忘れて じっ と座っ てい まし
た。バハオラは巻物の一ページを読み終えると弟の方を向いて、こう述べました。
『ム
サ、君はどう思うか?
実 際コーランが神から下されたものであることを信じながら、
こ の魂を 動か す言葉 が、 コーラ ンと 同じ創 造的 な力を もつ ことを 一瞬 たりと も疑 う者
は、確かに判断をあやまった者であり、正義の道から遠くそれた者なのだ。』(p.106)
バ ハオ ラはそ れ以 上語り ませ んでし た。 そして 、わ たしを 面前 から去 らせ るとき 、
ロ シアの 砂糖 と紅茶 をモ ラ・ホ セイ ンに贈 り物 として 渡し 、感謝 と慈 愛を伝 える よう
に わたし に託 しまし た。 わたし は、 よろこ びで 一杯に なっ て立ち 上が り、モ ラ・ ホセ
インのところへ急いでもどり、バハオラからの贈り物を渡し、その伝言を伝えました。
そ れを受 けた モラ・ ホセ インの よろ こびよ うは 大変な もの でした 。そ の強烈 な感 動を
言 い表す こと はでき ませ ん。か れは 座を立 ち、 頭を下 げて 、その 贈り 物を受 け取 り、
そ れにう やう やしく 接吻 しまし た。 それか ら、 わたし を抱 擁して 目に 接吻し 、つ ぎの
ように述べました。
『わが心から愛する友よ。あなたが、わたしの心によろこびをもた
ら したよ うに 、神が あな たに永 遠の よろこ びを あたえ 、あ なたの 心を 不滅の 喜悦 感で
満たされるように祈るばかりだ。』
わ たし は、モ ラ・ ホセイ ンの その態 度に びっく りし ました 。こ の二人 (バ ハオラ と
モ ラ・ホ セイ ン)を 結び 合わせ る絆 とは一 体何 であろ うか と心の 中で 考えま した 。か
れ らの心 にそ れほど の熱 烈な友 情の 炎を点 けた のは何 であ ろうか 。モ ラ・ホ セイ ンの
目 には、 王族 の盛儀 盛宴 はまっ たく 取るに 足ら ないも のと 映るの に、 なぜバ ハオ ラか
ら のわず かの 贈り物 を見 て、こ れほ どのよ ろこ びを示 すの であろ うか 。これ はひ じょ
うにふしぎに思われましたが、その秘密を知ることはできませんでした。
数 日後 、モラ ・ホ セイン はコ ラサン に向 かいま した 。別れ を告 げると き、 わたし に
こう言いました。
『あなたが見聞きしたことをだれにも知らせてはならない。このこと
は 、秘密 とし てあな たの 胸にし まっ ておく よう に願う 。か れの名 前( バハオ ラ) を明
か しては なら ない。 なぜ なら、 かれ の地位 をね たむ者 らが かれを 傷つ けよう とす るか
ら だ。瞑 想の 時間に 、全 能の神 がバ ハオラ を保 護され 、か れを通 して 踏みに じら れた
人 びとが 高め られ、 貧し い人び とが 富み、 没落 した人 びと が救わ れる ように 祈ら れる
よ うに願 う。 物事の 秘密 は、わ れわ れの目 から かくさ れて いる。 われ われの 義務 は、
新 しい時 代の 呼び声 を上 げ、す べて の人び とに この神 の教 えを宣 言す ること であ る。
この都市の多くの人がこの道において血を流すであろう。その血は神の木の水となり、
そ の 木 を 成 長 さ せ 、 全 人 類 の 上 に そ の 庇 護 の 影 を 投 げ か け る よ う に な ろ う 。』」
(pp.107-108)
第五章
バ ハオラのマザンデランへの旅
バ ハオ ラはバ ブの 教えを 広め るため に旅 に出た 。そ の最初 の目 的地は マザ ンデラ ン
州 のヌー ルに ある先 祖伝 来の故 郷で あった 。か れはま ずタ コール の村 に向か った 。そ
こ は父の 個人 所有の 土地 で、そ の景 観のい い場 所に、 豪華 に飾ら れた 広大な 邸宅 があ
った。ある日、わたしはバハオラ自らつぎのように語られるのを聞いた。
「 大臣で あっ た亡き わが 父上は 、国 民の間 でひ じょう にう らやま しい 地位を もっ てい
た 。その 膨大 な富、 高貴 な家系 、芸 術の手 腕、 名声と 高い 地位は 、か れを知 る人 のす
べてから賞賛されていた。ヌールからテヘランまでひろがる親族は、二十年以上の間、
だ れ一人 とし て生活 に困 ったり 、傷 害を受 けた り、病 気に なるこ とは なかっ た。 この
よ うに、 かれ らは長 期間 つづけ て富 と幸せ を享 受した ので ある。 しか しとつ ぜん 、一
連 の災難 が襲 ってき て、 父の物 的繁 栄の土 台は はげし くゆ すぶら れ、 その繁 栄と 栄光
は くずれ てし まった 。最 初の損 失は 大洪水 で、 それは マザ ンデラ ンの 山から 起こ り、
そ の強大 な勢 いはタ コー ルの村 を押 し流し 、そ の村の 要塞 の上方 にあ った父 の邸 宅の
半 分を破 壊し た。強 固な 土台で 知ら れてい た邸 宅の最 上の 部分は 、は げしい 奔流 で完
全 に流さ れて しまっ た。 貴重な 家具 類はこ わさ れ、精 巧な 装飾品 も修 復でき ない ほど
破 壊され てし まった 。そ の後ま もな くして 、大 臣であ った 父はそ の要 職から も解 職さ
れ た。こ れは 、嫉妬 深い かれの 敵の 執拗な 攻撃 の結果 であ った。 この とつぜ んの 運命
の 変化に もか かわら ず、 父は威 厳と 平静を 保ち 、限ら れた 資力の 範囲 内で慈 善行 為を
つ づけた 。不 実な同 僚に 対して も同 じ礼儀 と親 切さを 示し つづけ た。 同胞に 対し て態
度 を変え ない のは、 かれ の特徴 でも あった 。こ のよう に、 死の直 前ま で心に 重く のし
かかってきた逆境に、見事な不屈の精神で取り組んだのである。」(pp.109-110)
バ ハオ ラはバ ブの 宣言前 にヌ ール地 方を 訪れて いた 。当時 、法 学者の モハ メッド ・
タ ギの権 威と 影響力 は頂 点にあ った 。かれ の地 位はひ じょ うに高 く、 その教 えを 受け
た 者は、 イス ラム教 の教 えと法 律を 解説で きる 権限を もつ と自任 した ほどで あっ た。
あ るとき 、こ の高僧 は二 百人以 上の 弟子た ちの 前で、 エマ ムが語 った と伝え られ てい
る 不明瞭 な句 につい てこ まかく 論じ ていた 。そ こへバ ハオ ラが仲 間数 人をと もな って
入 ってき 、し ばらく 足を とめて その 講演に 耳を 傾けた 。高 僧は弟 子た ちに、 イス ラム
教 の形而 上学 面に関 する 難解な 理論 を説明 でき る者は いな いか、 と聞 いた。 だれ もそ
の 説明は でき ないと 告白 したと き、 バハオ ラは 説得力 のあ る言葉 で、 簡潔に その 理論
を 明確に 解説 した。 高僧 は自分 の弟 子たち の無 能さを きわ めて不 愉快 に思い 、腹 立た
しく叫ぶように言った。
「 わたし は何 年も皆 を指 導し、 皆の 心にイ スラ ム教の 深遠 な真理 と高 尚な原 理を 教え
込 もうと 忍耐 強く努 力し てきた 。皆 の長年 の根 気強い 研究 にもか かわ らず、 羊皮 の帽
子 をかぶ った (僧侶 では ない) この 若者の 方が 皆より すぐ れてい るこ とを証 明し た。
しかも、この若者は学問もなく、皆の学識にもまったく通じていないのだ。」
バ ハオ ラがヌ ール 地方か ら去 った後 、あ る日こ の法 学者は 最近 見た夢 を二 つ、弟 子
たちに語った。夢で見た出来事が、きわめて意義深いものであると思ったからである。
「 最初の 夢で わたし は大 群衆の 真ん 中に立 って いた。 その 群衆は 皆、 ある家 を指 し、
サ ヘオザ マン (時代 の主 )が住 んで おられ ると ころだ 、と 口々に 言っ ていた 。わ たし
は よろこ びで 狂乱し たよ うにな って 、その 御方 に会う ため にいそ いだ 。その 家に 着く
と、大変おどろいたことに、中に入ることを断られたのである。『約束のガエム(バブ
を 指す) は、 ほかの 聖な る御方 と内 密の話 をさ れてお りま すので 、近 づくこ とは きび
し く禁じ られ ていま す』 と言わ れた のであ る。 戸口に 立っ ている 守衛 から、 その 聖な
る御方はバハオラであることを知った。」(pp.111-112)
法学者はつづけてこう語った。
「二番目の夢で、わたしはまわりに沢山の箱があると
ころにいた。どの箱もバハオラの所有物であることが明記されていた。開けてみると、
箱 いっぱ いに 本がつ めら れてい た。 それら の本 に書か れて いる文 字は すべて 、こ の上
な く美し い宝 石で飾 られ 、まぶ しく 輝いて いた 。その 輝き に圧倒 され てとつ ぜん 夢か
らさめた。」(p.112)
西 暦一 八四四 年、 バハオ ラが ヌール に到 着した とき 、以前 の訪 問の際 には 強大な 権
力 をふる って いた法 学者 はこの 世を 去って いた 。多数 いた 弟子た ちの 数も減 り、 皆気
力 をなく して いた。 かれ らは後 継者 モラ・ モハ メッド の指 導下で 、今 は亡き 指導 者の
伝 統を守 ろう と努め てい た。バ ハオ ラが最 初訪 問した とき のかれ らの 熱意と 、落 ちぶ
れ た共同 体に 残って いる 者らを おお ってい る陰 気さは きわ めて対 照的 であっ た。 近隣
に 住む多 くの 役人や 名士 がバハ オラ を訪れ 、深 い尊敬 をも って歓 迎の 意を表 した 。バ
ハ オラが 社会 的に高 い地 位にあ るこ とを知 って いるか れら は、国 王の 生活、 大臣 たち
の活動、政府の業務などについて最近のニュースを熱心に聞き出そうとした。しかし、
バ ハオラ はそ ういう こと にはほ とん ど関心 はな いこと を明 らかに した 。むし ろ雄 弁な
説 得力で 、新 しく啓 示さ れた教 えを 弁じ、 その 啓示が 国に もたら す計 り知れ ない 利益
に 、かれ らの 注意を 向け ようと した 。これ を聞 いて、 かれ らは、 宗教 とは無 関係 の若
者 が、主 にイ スラム 教の 聖職者 に関 わる事 柄に 示す強 い関 心にお どろ いた。 そし て、
バ ハオラ のし っかり とし た議論 に挑 戦する こと も、そ の教 えを見 くび ること もで きな
い と感じ 、か えって その 高尚な 熱意 と深遠 な思 想を賞 賛し た。ま たそ の控え めな 態度
にも深く感銘した。
バ ハオ ラの叔 父以 外は、 だれ もかれ の見 解に挑 戦す る者は いな かった 。こ の叔父 ア
ジズはバハオラの教えに反対し、その真理に非難をあびせた。それを聞いた者たちは、
こ の反対 者を 沈黙さ せ、 傷つけ よう とした 。そ のとき 、バ ハオラ は反 対者の ため に仲
裁 に入り 、か れを神 の手 に任せ るよ うに忠 告し た。警 戒心 を強め た反 対者ア ジズ は、
ヌ ールの 法学 者モラ ・モ ハメッ ドの ところ に行 き、即 刻援 助の手 を差 し伸べ てく れる
ように訴えた。
「 神の預 言者 の代官 様、 イスラ ム教 にふり かか ったこ とを 見て下 さい 。僧侶 でも ない
若 者が貴 族の 衣をま とっ てヌー ルに 来、正 統派 の拠点 に侵 入し、 聖な るイス ラム 教を
分 裂させ よう として いま す。こ の猛 襲を食 い止 めて下 さい 。バハ オラ と会っ た者 はす
べ て、す ぐそ の魔法 にか かって しま い、そ の威 力ある 言葉 に心を うば われて しま いま
す 。かれ は魔 法使い なの か、そ れと も紅茶 に不 思議な 物質 を混ぜ 、そ れを人 に飲 ませ
て魅力のとりこにしてしまうのかどうかも、わたしにはわかりません。」法学者は自分
にもはっきり理解できなかったが、そのような考えが馬鹿げたことであることを認め、
おどけてこう聞いた。(pp.112-113)
「 あなた も、 その紅 茶を 飲んだ ので はない か?
ま た 、 か れが仲 間た ちに話 すの を聞
いたのではないのか?」
「自分もそうしましたが、あなたが親切に守ってくれましたの
で 、その 魔力 的な威 力に 影響さ れず にすん だの です」 とか れは答 えた 。法学 者は 住民
を 奮起さ せて バハオ ラに 反対さ せる ことも 、こ の強力 な論 敵(バ ハオ ラ)が 恐れ を知
ら ずに広 めて いる思 想と 直接戦 うと もでき ない ことを 知り 、つぎ のよ うな一 文を 書い
て 気を休 めた 。「ア ジズ よ。恐 れる なかれ 。だ れもあ なた を悩ま すこ とはな い。」法学
者 はこの 一文 を書く 際、 文法的 な間 違いを おか したた め、 文の意 図が 曲げら れた もの
に なった 。そ こで、 それ を読ん だタ コール 村の 名士た ちは 憤慨し 、法 学者と 受取 人で
あるアジズの二人を中傷した。
バ ハオ ラから バブ の教え の解 説を聞 いた 者は、 その 真剣さ に深 く感銘 し、 すぐそ れ
を ヌール の人 びとの 間に 広める ため に立ち 上が った。 その 高名な 推進 者(バ ハオ ラ)
の 美徳を 称え るため でも あった 。一 方、弟 子た ちは師 モラ ・モハ メッ ドに、 タコ ール
に 行って バハ オラに 会い 、この 新し い啓示 の内 容を確 かめ 、その 特質 と目的 を教 えて
く れるよ うに こん願 した 。これ に対 し法学 者は あいま いな 言い訳 をし た。弟 子た ちは
そ の返事 に満 足せず 、師 という 立場 にある 人の 最初の 義務 は、自 分た ちの信 仰に 影響
を あたえ るす べての 運動 の内容 を調 べるこ とで あり、 その 任務は イス ラム教 シー ア派
の 高潔さ を守 ること であ る、と 主張 した。 そこ でつい にモ ラ・モ ハメ ッドは 、す ぐれ
た 弟子二 人を 代表に 選び 、バハ オラ を訪問 させ て、そ の教 えの内 容を 調べさ せる こと
に した。 この 二人は モラ ・アッ バス とアブ ール ・カゼ ムで 、両人 とも 前の法 学者 故モ
ハ メッド ・タ ギから 信頼 されて いた 弟子で あり 、また 両人 とも娘 婿で もあっ た。 法学
者 はこの 二人 がどの よう な結論 を出 そうと も、 それを 無条 件に支 持し 、この 問題 を終
わりにすることにした。(p.114)
モ ラ・ モハメ ッド の代表 二人 はタコ ール に到着 した 。しか し、 バハオ ラが 避寒地 に
移 ってい たの で、二 人も そこに 向か った。 到着 したと き、 バハオ ラは コーラ ンの 「復
唱 すべき 七つ の句」 とい う表題 の最 初の章 につ いて注 釈を してい る最 中であ った 。そ
こ で二人 は座 ってそ の講 話に耳 を傾 けるこ とに した。 聞き 入って いる うちに 、二 人共
そ のテー マの 高遠さ 、説 得力、 すば らしい 弁舌 に深く 心を 打たれ てし まった 。モ ラ・
ア ッバス は自 分を抑 える ことが でき なくな り、 立ちあ がっ て後の 方に 行き、 窓の そば
で うやう やし い態度 で立 ちすく んだ 。バハ オラ の不思 議な 力に魅 了さ れてし まっ たの
で ある。 かれ は感激 でふ るえ、 目い っぱい に涙 を浮か べな がら、 連れ のアブ ール ・カ
ゼムに言った。
「 わたし の有 様を見 てく れ。わ たし は無力 で、 バハオ ラに 質問す るこ とはで きな い。
準 備して きた 質問は 、と つぜん 記憶 から消 えて しまっ たの だ。あ なた は自由 にバ ハオ
ラ に質問 され るか、 また は一人 でも どり、 わた しがど のよ うな状 態に なった かを 師に
知 らせて くれ 。そし て、 アッバ スは ふたた び師 の下に もど ること はで きなく なっ た、
もはやこの敷居をはなれることはできなくなったと告げてくれ。」アブール・カゼムも
アッバスと同じ行動をとる決心をし、こう答えた。
「わたしも師の弟子であることを止
め た。こ の瞬 間、残 りの 生涯を 唯一 の真実 の師 である バハ オラに 身を 捧げる こと を神
に誓うことにした。」
ヌ ール の法学 者が 選んだ 使節 二人が 、共 にとつ ぜん 改宗し たニ ュース は、 その地 方
全 体にお どろ くほど の速 さでひ ろが った。 そし て、気 力を なくし 睡眠 状態に あっ た人
び とを目 覚め させた 。高 僧、官 吏、 商人、 小作 人たち が大 勢バハ オラ の家に きて 、か
な りの人 びと が進ん でバ ハオラ の大 業を受 け入 れた。 その 中で著 名な 人たち が何 人も
バハオラを賞賛してつぎのように述べた。
「ヌールの住民が立ち上がり、あなたの周り
に 集まっ てき た様子 を目 撃して きま した。 いた る所で 住民 がよろ こび にあふ れて いま
す 。モラ ・モ ハメッ ド( ヌール の法 学者) もま た、住 民に 加わる なら ば、こ の信 教は
完全に勝利を収めるでありましょう。」
バハオラは答えた。
「われがヌールに来た目的は、神の大業を宣言するためで、その
ほ かの目 的は ない。 ここ から五 百キ ロメー トル 離れた とこ ろに、 真剣 に真理 を求 めて
い る人が いる 。その 人が 、われ に会 うこと がで きなけ れば 、われ はよ ろこん です ぐそ
の 人の住 居に いそぎ 、そ の渇き を満 たして あげ たいと 思う 。モラ ・モ ハメッ ドは この
場 所から あま り遠く ない 村に住 んで いると 聞い た。か れを 訪れ、 神の メッセ ージ を伝
えようと思っている。」(pp.116-117)
バ ハオ ラはこ の望 みを実 行す るため にす ぐ仲間 をと もなっ てそ の村に 向か った。 モ
ラ・モハメッドはバハオラを仰々しく迎えた。バハオラは述べた。
「われはあなたを公
式 に訪問 する ために ここ に来た ので はない 。わ が目的 は、 イスラ ム教 に約束 され てい
る神からの、新しいすばらしい教えをあなたに伝えるためである。耳を傾けた者は皆、
こ の教え にひ そむ威 力を 感じ、 その 恩恵の 力に より変 身し た。あ なた の心を 困惑 させ
ているもの、または、真理を認める妨げになっているものを知らせていただきたい。」
モラ・モハメッドは見くびるように言った。
「わたしはまずコーランから助言を得るま
で は、実 行に 移さな いこ とにし てい る。こ のよ うな場 合は 、つね に、 神の援 助と その
祝 福を求 め、 その後 、聖 典を手 当た り次第 に開 け、目 に入 ったペ ージ の最初 の節 から
助 言を求 める ように して いる。 その 内容か ら、 どのよ うな 行動を とれ ば賢明 であ るか
を判断できるのだ。」
バ ハオ ラがこ の習 わしを 否認 する様 子は ないこ とを 見た法 学者 は、コ ーラ ンを持 っ
て こさせ 、そ れを開 いた が、再 度閉 じた。 そこ に居合 わせ た人び とに は、開 いた ペー
ジの節の内容を明らかにすることをせず、つぎのように述べただけであった。
「わたし
は 神の書 に助 言を求 めた 。その 結果 、この 件に 関して これ 以上進 むこ とは賢 明で ない
と考える。」これに同意した者も何人かいたが、大半の人びとは法学者の言葉を聞いて、
か れが恐 怖感 をいだ いて いるこ とを 悟った 。バ ハオラ はこ れ以上 かれ を当惑 させ ない
ように立ちあがり、誠意をこめて別れの挨拶をした。(p.117)
あ る日 、バハ オラ は仲間 をつ れて田 舎に 馬で遠 乗り に出か けた 。その 途中 、若者 が
一 人で道 のわ きにす わっ ている のを 見かけ た。 髪はぼ うぼ うとし 、身 には修 行僧 の衣
を つけた 若者 は、小 川の そばで 、た き火で 料理 したも のを 食べて いた 。バハ オラ は近
づ き、愛 情深 く聞い た。「修行 僧よ 、そこ で何 をして いる のかね 。」 かれは ぶっ きらぼ
うに答えた。「神を料理しているのだ。神を燃やしているのさ。」
こ の若 者の気 取ら ない無 邪気 な態度 とそ の率直 な返 事に、 バハ オラは 大い に満足 し
た 。そし て、 若者と 気軽 に親し みを こめて 話し はじめ 、短 い時間 のう ちに、 若者 を完
全 に変身 させ てしま った 。この 若者 は神の 本質 を教え られ 、それ まで 心にい だい てい
た 無意味 な空 想を取 り除 き、こ の慈 愛深い 見知 らぬ人 がと つぜん もた らした 神の 光を
す ぐ認め たの である 。こ の若者 はモ スタフ ァと いう名 の修 行僧で あっ たが、 新し い教
え に深く 魅了 され、 料理 道具を その まま残 して 、バハ オラ にした がっ た。バ ハオ ラの
馬 の後を 、バ ハオラ への 愛の炎 で心 を燃や し、 楽しく 歌い ながら つい て行っ たの であ
る 。その 歌は かれが とっ さに作 曲し たもの で、 かれの 最愛 なる御 方に 捧げた もの であ
った。それは反復句のついたよろこびの歌であった。
「あなたは導きの昼の星でありた
ま う。あ なた は真理 の光 であり たま う。あ なた 御自身 を人 類に顕 わし たまえ 。」 後年、
こ の歌は 人び との間 にひ ろまり 、モ スタフ ァと いう名 の修 行僧が 、最 愛なる 御方 を称
え て、と っさ に作曲 した ものと して 知られ るよ うにな った 。しか し、 その最 愛な る御
方 が実際 だれ を指し てい るのか を知 る者は いな かった 。当 時バハ オラ はまだ 人び との
目 からヴ ェー ルでか くさ れてい たが 、この 修行 僧だけ はバ ハオラ の地 位を認 め、 その
栄光を発見したのである。
バ ハオ ラのヌ ール 訪問は 大き な成果 をあ げ、新 しく 誕生し た啓 示の拡 大に 著しい は
ず みをも たら した。 人を 惹きつ けず にはお れな い雄弁 さ、 清らか な生 活、威 厳の ある
態 度、反 駁で きない 論理 、さま ざま な面で 示さ れる慈 愛深 さで、 バハ オラは ヌー ルの
住民を目覚めさせ、心を勝ち取り、信教の旗の下に集まらせることができたのである。
か れがヌ ール の人び とに 、大業 につ いて説 き、 その栄 光を 顕わす につ れて、 その 土地
の 石や木 も、 その精 神力 で活力 を得 たよう であ った。 万物 も新し い、 より豊 かな 生命
をあたえられ、つぎのように声高らかに宣言しているようであった。
「見よ、神の美が
顕わされた。立ちあがれ。その御方は栄光のうちに到来された。」(pp.118-119)
バハオラがヌールを離れた後も、住民は大業をひろめ、その土台を強化しつづけた。
住 民の多 くは 、バハ オラ のため に激 烈な苦 難を 耐え抜 き、 そのう ち何 人かは 殉教 の杯
を よろこ んで 飲み干 した 。概し て、 マザン デラ ン州、 とく にヌー ル地 方は、 神の メッ
セ ージを 最初 に熱心 に受 け入れ た地 方とし て、 ペルシ ャの ほかの 地方 より名 が知 られ
て いると ころ である 。ヌ ールと は「 光」と いう 意味で ある 。この 地方 はマザ ンデ ラン
の 山々に 囲ま れてお り、 シラズ で昇 った太 陽の 光を最 初に とらえ たと ころで もあ る。
ま た、聖 なる 導きの 昼の 星が、 無思 慮の谷 間の 影につ つま れてい たペ ルシャ 全土 を温
め、照らすためについに昇ったことを最初に宣言したところでもある。
バ ハオ ラがま だ子 供のこ ろ、 大臣で ある かれの 父は 夢を見 た。 バハオ ラは 果てし も
ない広大な海で泳いでおり、海は、かれの身体からかがやき出る光で照らされていた。
か れの頭 から 漆黒の 長い 髪の毛 が四 方八方 にひ ろがり 、波 の上に ふさ ふさと 浮か んで
い た。お びた だしい 数の 魚が、 かれ のまわ りに 群がり 、そ れぞれ 髪の 毛の先 端を しっ
か りとく わえ ていた 。魚 はバハ オラ の顔の かが やきに 魅惑 された かの ように 、ど こま
で もかれ の泳 ぐ方に つい ていっ た。 無数の 魚が かれの 髪を 強くく わえ ていて も、 髪一
本 抜ける こと も、身 体が わずか でも 傷つけ られ ること もな かった 。バ ハオラ は何 から
も妨げられずに自由に海面を泳ぎ、それにともなって魚の一群も動いていった。(p.117)
こ の夢 に深く 感銘 したか れの 父は、 その 地方の 有名 な占い 師を 呼び、 夢の 解釈を 頼
んだ。この占い師はバハオラの未来の栄光を予感したかのようにこう述べた。
「あなた
が 夢で見 られ た果て しな い海は 、こ の世界 のこ とにほ かな りませ ん。 あなた のご 子息
は 独力で 世界 の最高 主権 を得ら れる でしょ う。 かれは 望み のまま 、ど こにも 邪魔 され
ず に進ん でい くこと がで きまし ょう 。だれ から も前進 を阻 まれた り、 繁栄を 妨げ られ
た りする こと はない であ りまし ょう 。おび ただ しい魚 の群 れは、 かれ が地上 の国 民や
民 族の間 にも たらす 動揺 を現わ して います 。か れの周 りに 人びと が集 まり、 かれ にす
が ってく るで しょう 。し かし、 全能 なる神 の確 実な加 護に より、 かれ はこの 動揺 で傷
つ けられ るこ とはな く、 また海 上で の孤独 な生 活もか れの 安全を おび やかす こと はな
いでありましょう。」
そ の後 、この 占い 師はバ ハオ ラのも とに 案内さ れた 。かれ はバ ハオラ の顔 をじっ と
見 つめ、 その 容貌を 注意 深く調 べた 。その 結果 、かれ はバ ハオラ の容 姿に魅 せら れ、
激 賞せず には おれな かっ た。か れは 、その 顔の 表情に 秘め られた 栄光 のしる しを 認め
た のであ る。 占い師 はバ ハオラ を大 いにほ め称 えたの で、 父はそ の日 以来、 息子 にこ
れ まで以 上の 愛情を 注ぎ はじめ た。 占い師 の言 葉で父 親の バハオ ラに 対する 希望 と確
信 は強ま った 。ヤコ ブ同 様、父 親は 自分の 愛す るヨセ フ( バハオ ラ) の幸福 だけ を望
み、深い愛情でかれを保護したのである。
モ ハメ ッド国 王の 総理大 臣ア ガシは 、バ ハオラ の父 親から は完 全に遠 ざか ってい た
が 、息子 のバ ハオラ を深 く尊敬 し、 好意を 示し ていた 。そ の尊敬 の念 のあま りの 深さ
に 、当時 国防 大臣で 、後 にアガ シの 後を継 いだ アガ・ カー ンは、 羨望 を感じ た。 若者
の バハオ ラが 、自分 より すぐれ てい ると思 われ ている こと に不快 であ ったの であ る。
そ れ以来 、嫉 妬の種 がか れの胸 に芽 生えは じめ た。バ ハオ ラはま だ若 者で、 父親 も生
存 中なの に、 総理大 臣か ら優位 にあ ると見 なさ れてい る、 もしこ の若 者が父 親を 継ぐ
ことになれば、わたしは一体どうなるのだろうかと心配したのである。(pp.119-120)
バ ハオ ラの父 親の 死後も 、ア ガシは バハ オラを 深く 尊敬し つづ けた。 そし て、バ ハ
オ ラの自 宅を 訪問し 、あ たかも 自分 の息子 に対 するよ うに 話しか けた りした 。し かし
な がら、 その 献身が どれ ほど誠 実な もので ある かが試 され るとき がき た。あ る日 、バ
ハ オラ所 有の グチ・ ヘサ ールの 村を 通りす ぎて いると き、 アガシ はそ の場所 の魅 力あ
る 美しさ と水 源の豊 かさ に大変 感動 した。 そこ で、そ の場 所を手 に入 れたく なり 、バ
ハオラにその村をすぐ購入したいと伝えた。バハオラはつぎのように述べた。
「この地
所が、わたしだけの所有であれば、よろこんであなたのお望み通りにいたしましょう。
こ のはか ない 人生と 汚れ た所有 物に は愛着 して いませ ん。 また、 この 狭く、 つま らな
い 地所な ど価 値のあ るも のでは あり ません 。し かし、 この 地所は 何人 もの富 裕な 人、
貧 しい人 、老 人、若 者が わたし と共 有して いる ものな ので 、かれ らに この件 につ いて
相談し、同意を得てください。」
こ の返 事に不 満で あった アガ シは、 不正 な手段 を用 いてそ の地 所を手 に入 れよう と
した。バハオラはその悪だくみを知らされるとすぐ、地所の所有者たちの同意を得て、
そ の権利 証書 を国王 の妹 に移し た。 かの女 は、 幾度も その 地所を 所有 したい と言 って
い たから であ る。ア ガシ はこの 取引 に激怒 し、 自分が すで に最初 の所 有者か ら購 入し
た のであ ると 宣言し て、 その地 所を 強制的 に確 保する よう に代理 人に 命じた 。国 王の
妹 の代理 人は アガシ の代 理人を きび しく譴 責し 、かの 女は その権 利を ぜった いに 譲る
気 はない こと を、ア ガシ に伝え るよ うに要 請し た。ア ガシ はモハ メッ ド国王 に、 この
件 に関し て自 分が受 けた 不正な 取り 扱いを 訴え た。そ の夜 、国王 の妹 は国王 につ ぎの
ように取引の内容を知らせた。
「 陛下は 、わ たしが 身に つける 宝石 類を処 分し 、その 収益 で地所 を購 入する よう に勧
め ておら れま した。 やっ と地所 を手 に入れ まし たとこ ろ、 アガシ がそ れをわ たし から
強制的に取り上げようとしております。」国王は妹を安心させ、一方アガシにはその要
求 をしな いよ うに命 じた 。アガ シは 絶望の あま り、バ ハオ ラを呼 び寄 せ、あ らゆ る狡
猾 な手段 を用 いてバ ハオ ラの名 を汚 そうと した 。バハ オラ は、自 分に 浴びせ られ たす
べ ての非 難に 力強く 答え 、自分 の無 実を証 明し た。腹 は立 っても どう するこ とも でき
ない総理大臣(ハジ)は叫んだ。(p.121)
「 あなた が楽 しんで いる 宴会の 目的 は何な のだ 。ペル シャ 王の中 の王 の総理 大臣 であ
る わたし でさ え、毎 晩あ なたの 宴会 に集ま って くるほ どの 大勢で 多様 な人び とを 迎え
た ことは ない 。一体 、こ の贅沢 と見 栄は何 のつ もりな のか 。わた しに 対して 陰謀 をた
く らんで いる にちが いな い。」 バハ オラは 答え た。「 どん でもな いこ とです 。同 情心か
ら 、自分 のパ ンをほ かの 人たち と分 かち合 って いるの を、 悪事を たく らんで いる 者と
非難されるのですか。」アガシは狼狽し返事できなくなった。かれはペルシャの僧侶と
一 般民衆 から 支持さ れて いたが 、バ ハオラ に対 してい どん だ論争 には ことご とく 敗北
したのである。
ほ かの 折にも 、バ ハオラ は反 対者よ りも 優位に ある ことが 認め られ、 証明 された こ
と がたび たび あった 。こ のよう なバ ハオラ の個 人的な 勝利 により 、か れの地 位は 高ま
り 、その 名声 は遠く まで ひろが って いった 。バ ハオラ がき わめて 危険 な論戦 にも 傷つ
け られず に、 奇蹟的 に相 手に打 ち勝 ってき たこ とを見 て、 だれも 驚嘆 せざる を得 なか
っ た。そ して 、危険 な状 態に置 かれ たバハ オラ を安全 に守 ったの は神 の力に ほか なら
ないと信じた。バハオラはどれほどの危険に直面しても、周りの人びとの傲慢、貪欲、
裏 切りに 屈し たこと は一 度もな かっ た。当 時、 その地 方で 最高の 地位 にあっ た高 僧や
政 府の高 官と 交わる とき も、か れら の見解 や主 張をそ のま ま受け 入れ ること はな かっ
た 。集会 など で、大 業の 真理を 恐れ ること なく 擁護し 、踏 みにじ られ た人び との 権利
を主張し、弱者を弁護し、無実の人を保護しつづけたのである。(p.122)
第六章
モ ラ・ホセインのコラサンへの旅
バ ブは 生ける 者の 文字( バブ の弟子 とな った最 初の 一八人 )に 別れを 告げ るとき 、
その一人一人に、この信教を受け入れた信者の名前をすべて記録するように指示した。
そ して、 その 名前の リス トを封 筒に いれ、 封を して、 シラ ズ在住 のバ ブの伯 父セ イエ
ド ・アリ に渡 すよう に命 じた。 それ らの封 書は 、伯父 から バブに 渡さ れるよ うに なっ
ていた。バブは生ける者の文字たちにつぎように述べた。
「そのリストを、一組十九人
と して、 十八 組に分 けよ う。各 一組 は一つ のヴ ァヘッ ド( この言 葉の 数値は 十九 で、
和 合を意 味す る)を 成す 。生け る者 の文字 の十 八人と わた し(バ ブ) を合わ せる と十
九 人とな り、 もう一 組で きるが 、こ れは最 初の ヴァヘ ッド である 。し たがっ て、 この
最 初の一 組の 名前と 十八 組の名 前を 全部合 わせ ると、 コレ シャイ (こ の言葉 の数 値は
三 六一で 、万 物を意 味す る)と なる 。わた しは 、この 信者 全員を 、神 の書簡 に記 録し
よ う。わ れら の心の 最愛 なる御 方が 、栄光 の王 位につ かれ るとき 、そ の一人 一人 に計
り知れない祝福を付与し、神の楽園の住民として宣言されるように。」
と くに モラ・ ホセ インに 、バ ブはよ り明 確な指 示を あたえ た。 それは 、イ スファ ハ
ン、テヘラン、コラサンのそれぞれの都市での活動と進歩に関する報告を文書にして、
送 付する こと であっ た。 さらに 、信 教を受 け入 れ信者 とな った人 たち だけで はな く、
その真理を否認し、拒絶した人たちをも知らせることであった。バブはこう述べた。
「コ
ラ サンか らあ なたの 手紙 を受け 取る までは 、わ たしは この 町から ヘジ ャーズ への 巡礼
に出発することはできないのだ。」(p.123)
バ ハオ ラとの 接触 によっ て活 気づけ られ 、強め られ たモラ ・ホ セイン は、 コラサ ン
に 向かっ て出 発した 。そ の地方 を訪 問中、 かれ はおど ろく べき力 を発 揮し、 人び とに
新 生命を 吹き 込んで いっ た。そ の力 はバブ の別 れの言 葉か ら得た もの であっ た。 コラ
サ ンで最 初に 信教を 受け 入れた 人は 、ミル ザ・ アーマ ドで 、その 地方 の高僧 の中 で最
高 の学識 と英 知をそ なえ た有名 人で あった 。高 い地位 にあ る僧侶 たち が大勢 出席 して
い る集会 にお いても 、つ ねにか れの みが主 な講 演者と なっ た。か れは すでに 学識 と能
力 と英知 で名 声を得 てい たが、 さら に品格 の高 さと献 身の 深さで その 名声は 一層 高め
られていた。
つ ぎに 、コラ サン のシェ イキ 派の中 で信 教を受 け入 れたの はア ーマド ・モ アレム で
あ った。 かれ はカル ベラ に居住 して いたと き、 カゼム の息 子の教 師を してい た。 つぎ
に 、シェ イキ ・アリ が信 者とな った 。バブ はか れにア ジム という 称号 をあた えた 。つ
ぎ に、モ ハメ ッド・ フル ギが信 教を 受け入 れた 。アー マド ・モア レム 以外は 、か れの
学 識をし のぐ 者はい なか った。 コラ サンの 宗教 指導者 たち のうち 、以 上述べ た傑 出し
た人たちだけがモラ・ホセインと議論を交わす権限と知識をそなえていた。
(pp.124-125)
そ のつ ぎに、 バブ のメッ セー ジを受 け入 れた人 はバ ゲルで あっ た。か れは 残りの 生
涯 をマシ ュハ ドで過 ごし た人で ある 。かれ の魂 はバブ に対 する愛 では げしく 燃え 上が
り 、その 強烈 な情熱 をだ れも抑 える ことは でき なかっ た。 また、 その 影響力 を見 くび
る ことも でき なかっ た。 かれの 大胆 不敵さ 、あ ふれる ほど の精力 、確 固たる 忠誠 心、
高 潔な生 活は 、敵に は恐 怖心を 起こ させた が、 友人に とっ てはイ ンス ピレー ショ ンの
源 泉とな った 。かれ は、 自宅を モラ ・ホセ イン に提供 して 自由に 使え るよう にし た。
ま た、モ ラ・ ホセイ ンと マシュ ハド の高僧 たち との会 見を 別に準 備し 、力の かぎ り、
信 教の進 歩を 妨げる もの をすべ て除 く努力 をつ づけた 。そ の努力 に疲 れるこ とも 、目
的 からそ れる ことも なく 、無尽 蔵の 精力を もっ て、自 分の 愛する 大業 のため に、 死の
瞬 間まで 不屈 の精神 で努 力をつ づけ た。そ して ついに 、シ ェイキ ・タ バルシ の砦 で殉
教 したの であ る。殉 教の 時間が せま ってい たこ ろ、ゴ ッド スはモ ラ・ ホセイ ンの 悲劇
的 な殉死 のあ と、か れに 、砦の 勇敢 なる防 御者 たちの 指揮 を命じ た。 かれは その 任務
を 立派に 成し 遂げた 。マ シュハ ド市 のバラ ・キ ヤバン にあ るかれ の自 宅は、 現在 まで
バ ビの家 とし て知ら れて おり、 その 家に入 るも のは、 バビ (バブ に従 う者) とし て非
難を避けることはできない。かれの魂が安らかに休まれんことを祈る。
モラ・ホセインは、前述した有能で、献身的な人びとを大業の支持者として勝ち取っ
た あとす ぐ、 自分の 活動 報告を 書き バブに 送っ た。そ の報 告で、 イス ファハ ンと カシ
ャ ンへの 旅に ついて 詳し く書い た。 バハオ ラと の接触 の状 況、バ ハオ ラのマ ザン ダラ
ン への旅 、ヌ ールで の事 件、さ らに コラサ ンで の自分 の努 力の成 果に ついて バブ に知
ら せた。 その 報告に 、自 分の呼 びか けに応 えた 人びと 、そ して、 信念 が固く 、誠 実と
か れが確 信し た人た ちの リスト を同 封した 。そ れをヤ ズド 経由で 、当 時タバ スに 住ん
で いたバ ブの 伯父の 仲間 を通し て送 った。 その 手紙は 一八 四四年 十月 十日の 前夜 にバ
ブ に届け られ た。そ の夜 はイス ラム 教の全 宗派 が深い 畏敬 の念で 迎え る聖な る日 であ
り 、多く の人 びとが レイ ラトー ル・ カドル (威 力の夜 とい う意味 )に 劣らな いほ ど神
聖であり、コーランにあるように「一千の月より卓越している」とみなす夜であった。
そ の手紙 がバ ブに届 けら れた夜 、そ ばにい たの はゴッ ドス だけで あっ た。バ ブは 手紙
の内容をかれに知らせた。(p.125-126)
わたし(著者)は、ミルザ・アーマドからつぎのように聞いた。「バブの伯父はわた
し に、バ ブが モラ・ ホセ インの 手紙 を受け 取っ たとき の状 況につ いて 語って くれ まし
た。
『その夜、バブとゴッドスは、わたしには描写できないほどのよろこびと満足を顔
に 表わさ れて いまし た。 当時、 バブ がひじ ょう にうれ しそ うに、 つぎ の言葉 をく り返
されるのをよく耳にしました。”ジャマディの月とラジャブの月の間に起こったことは、
何とすばらしいことであろうか。何とまったくすばらしいことであろうか。”バブはモ
ラ ・ホセ イン からの 通信 を読み なが ら、ゴ ッド スに向 かい 、数節 を見 せ、こ のす ばら
し いよろ こび の理由 を説 明され まし た。し かし 、わた しに はそれ はま ったく 理解 でき
ないままでした。』」(p.127)
し かし 、ミル ザ・ アーマ ドは この出 来事 を聞い て深 く感銘 し、 その神 秘を 探る決 心
をし、わたし(著者)にこう告げた。「シラズでモラ・ホセインに会って、やっとわた
し の好奇 心は 満たさ れま した。 バブ の伯父 から 聞いた 話を かれに くり 返した とこ ろ、
か れはほ ほ笑 み、ジ ャマ ディの 月と ラジャ ブの 月の間 自分 は偶然 、テ ヘラン にい たこ
と をはっ きり おぼえ てい ると述 べま した。 かれ はそれ 以上 何も説 明せ ず、そ の簡 単な
言 葉だけ で満 足して いる 様子で した 。しか し、 わたし には それだ けで 、テヘ ラン 市に
神 秘がか くさ れてい るこ とを知 った のです 。そ の神秘 が世 界に明 らか にされ ると き、
バブとゴッドスの心に最大の喜びをもたらす、ということを十分に確信できたので
す。」
モ ラ・ ホセイ ンが 手紙で 伝え たこと は、 神の教 えに 対する バハ オラの 即答 、かれ が
ヌ ールで 大胆 に着手 した 精力的 な活 動、そ の努 力がも たら したす ばら しい成 果に つい
て であっ た。 その手 紙を 受け取 った バブは 大変 によろ こび 、この 大業 がかな らず 勝利
を 得ると いう 自信を 強め た。バ ブは こう確 信し た。た とえ 今とつ ぜん 、自分 が敵 の暴
虐 の犠牲 にな ったと して も、自 分が もたら した 大業は 生き 延び、 バハ オラの 指導 の下
で 、発展 、繁 栄しつ づけ 、やが て最 高の果 実を 実らせ るで あろう と。 バハオ ラは その
す ぐれた 能力 で着実 に進 路を進 み、 すべて に浸 透する 愛の 力で、 人び との心 にそ の大
業 を確立 させ るであ ろう と。こ の確 信はバ ブの 精神を 強め 、心を 希望 で満た した 。そ
の 瞬間か ら、 バブは 、切 迫した 危機 感から 完全 に解放 され た。逆 境の 火を不 死鳥 のよ
うに歓迎し、その炎の輝きと熱の中でよろこびを感じたのである。(pp.127-128)
第七章
バ ブのメッカとメジナへの巡礼
モ ラ・ ホセイ ンの 手紙を 受け 取った バブ は、計 画し ていた ヘジ ャーズ への 巡礼を 実
施 するこ とに した。 母に 妻の世 話を 頼み、 さら に伯父 にこ の二人 の世 話と保 護を 依頼
し て、シ ラズ からメ ッカ とメジ ナに 向かお うと してい たフ ァルス から の巡礼 の一 団に
加 わった 。ゴ ッドス だけ がバブ の同 伴者で 、バ ブの世 話の ためエ チオ ピア人 の召 使い
が ともな った 。バブ はま ず、伯 父の 事業の 場所 である ブシ ェルに 向か った。 そこ は以
前 、伯父 と親 しく交 わり ながら 身分 の低い 商人 として 生活 してい たと ころで ある 。そ
こ で、長 い困 難な船 旅の 準備を とと のえて 帆船 で出発 した 。速度 のの ろい船 で荒 海を
二 ヵ月間 旅し た後、 聖地 に上陸 した 。高波 の海 も、船 の貧 弱な設 備も 、バブ の規 則正
し い祈り と瞑 想を妨 げる ことは なか った。 周り で荒れ 狂う 嵐にも 気を 止めず 、ま た、
同 船して いた 巡礼た ちの 病気な どに も阻ま れず に、バ ブは 祈りや 書簡 をゴッ ドス に書
き取らせつづけたのである。(pp.129-130)
わ たし (著者 )は 、バブ と同 じ船で 旅を してい たハ サン・ シラ ジから 、そ の忘れ が
たい船旅の状況についてつぎのように聞いた。
「およそ二ヵ月間、ブシェルで乗船した
日 からヘ ジャ ーズの 港ジ ャデへ の上 陸日ま で、 昼夜に かか わらず 、バ ブとゴ ッド スは
い つも二 人い っしょ に仕 事に没 頭し ていま した 。バブ が口 述し、 それ をゴッ ドス がい
そ がしく 書き 取って いた のです 。嵐 で船体 がゆ さぶら れ、 船客が パニ ックに 陥っ たと
き も、二 人は かき乱 され た様子 はな く、落 ち着 いてそ の仕 事をつ づけ ていま した 。二
人 は暴風 雨や 周りの 人た ちの騒 ぎに よって 、平 静を失 った り、仕 事を 邪魔さ れた りす
ることは一切なかったのです。」(p.130)
バ ブ自 らペル シャ 編のバ ヤン 書の中 で、 この船 旅が どれほ ど困 難であ った かを述 べ
ている。
「何日間も飲み水の不足で苦しんだ。われは甘いレモンジュースで満足しなけ
ればならなかった。」このつらい体験から、バブは全能なる神にこん願した。海上の旅
が 迅速に 改良 されて 快適 になり 、危 険性が 完全 に除か れる ように と。 この祈 りが ささ
げ られて まも なく、 どの 海上運 送に もおど ろく ほどの 改良 が加え られ た。そ の結 果、
当時蒸気船が一艘もなかったペルシャ湾は、現在、毎年巡礼に行くファルスの住民を、
ニ、三日間で快適にヘジャーズまで運ぶ定期船の船団を誇るまでになった。
こ の大 産業革 命は 最初、 西欧 の人び との 間に現 われ たので ある が、遺 憾な がら、 か
れ らはま だこ の強大 な流 れ、こ の偉 大なる 動力 の源泉 にま ったく 気づ いてい ない ので
あ る。こ の力 は物質 的生 活のあ らゆ る面に 大変 革をも たら した。 この 栄光あ る啓 示が
顕 わされ た年 (一八 四四 年)に 、歴 史が証 明し ている よう に、と つぜ ん産業 ・経 済面
に 革命が 起こ りはじ めた 。西欧 人自 身も、 その 革命は 人類 の史上 前例 のない もの であ
る ことを 認め ている ので あるが 、新 しく発 明さ れた機 械類 の働き や調 整など に気 を取
ら れてい るう ちに、 この 神から 託さ れた威 力の 源泉と 目的 を徐々 に見 失って きた 。そ
の 結果、 かれ らはそ の目 的を誤 解し 、はな はだ しいほ どに 誤用し てき たので ある 。実
際 は、西 欧人 に平和 と幸 福をも たら すよう に意 図され たも のであ るが 、反対 に破 壊と
戦争を推進するために使用されてきたのである。(p.131)
ジャデに到着すると、バブは巡礼の衣服に着替え、ラクダに乗ってメッカ向かった。
ゴ ッドス は、 かれの 師( バブ) の再 三にわ たる 要請に もか かわら ず、 ジャデ から 聖な
る 都市ま で徒 歩でバ ブに 同伴し た。 バブが 乗っ ている ラク ダの手 綱を 握り、 徒歩 の旅
の 疲労に もま ったく 気に かけて いる 様子は なか った。 それ どころ か、 よろこ びと 敬虔
な 気持ち であ ふれ、 師の 世話を しな がら進 んで いった ので ある。 そし て毎夜 、夕 方か
ら 夜明け まで 、休息 も睡 眠もと らず 、敬愛 する 御方の そば で警戒 心を ゆるめ ず見 張り
をつづけた。
ある日、バブがラクダから降りて、井戸の近くで朝の祈りをささげようとしたとき、
一 人のベ ドゥ イン( 遊牧 のアラ ブ人 )がと つぜ ん現わ れ、 バブに 近づ いてき た。 そし
て 、地面 に置 かれて いた 鞍袋を つか むとす ばや く砂漠 の果 てに消 え去 った。 その 鞍袋
に はバブ の書 簡類が 入っ ていた 。エ チオピ ア人 の召使 いが ベドゥ イン を追い かけ よう
と したが 、バ ブは祈 りを つづけ なが ら、追 いか けるの をや めるよ うに 手で合 図し た。
バブは後で、愛情を込めて召使いに説明した。
「お前にベドゥインの後を追いかけさせ
た ならば 、お 前はか なら ずかれ に追 いつい てか れを罰 した であろ う。 この場 合そ うし
な いよう にな ってい る。 あの鞍 袋に 入って いる 書簡類 はこ のアラ ブ人 を通し て、 われ
わ れがけ っし て行け ない ような 場所 に届く よう に定め られ ている から だ。そ れゆ え、
こ のアラ ブ人 の行為 を嘆 いては なら ない。 これ は命令 者で あり、 全能 の神に より 定め
られたことであるのだ。」その後も、これと似た出来事が起こったとき、バブは同じよ
う な言葉 で同 伴者た ちを なぐさ めた 。この よう にバブ は、 後悔と 憤慨 の苦さ は、 神の
目 的を黙 って 受け入 れ、 その意 志に 従うこ とに より、 かが やく心 とよ ろこび に変 えら
れることを教えたのであった。
ア ラフ ァット の日 (祝日 の前 日)に 、バ ブは、 自分 の部屋 に静 かにこ もり 、瞑想 と
祈 りに没 頭し た。翌 日、 ナール の日 に、祝 日の 祈りを ささ げた後 、モ ナに向 かっ た。
そ こで、 昔の 習慣に した がって 、最 高品種 の羊 を十九 頭購 入し、 その うち九 頭を 自分
の 名の下 に、 七頭を ゴッ ドスの 名の 下に、 三頭 をエチ オピ ア人の 召使 いの名 の下 に生
け にえと して ささげ た。 バブは 、こ の生け にえ で清め られ た肉を 取ら ず、そ の近 辺に
住む貧しい人たちや困っている人たちに惜しげもなく分けあたえた。(pp.131-132)
メ ッカ とメジ ナへ の巡礼 の月 (一八 四四 年十二 月) は、冬 季の 最初の 月に あたっ て
い たが、 その 地方は ひじ ょうに 暑く 、巡礼 たち は通常 身に つける 衣服 ではそ の儀 式を
行 うこと はで きなか った 。そこ で、 薄布の ゆっ たりと した チュニ ック に着替 えて 祝日
の 祭典に 参加 した。 しか しなが らバ ブは、 敬意 のしる しと してタ ーバ ンもマ ント も脱
が ず、通 常の 衣服を 身に つけ、 最高 の威厳 と平 静さ、 簡素 ながら も深 い畏敬 の念 をも
ってカーベ神殿をめぐり、定められた礼拝の儀をすべて行った。
バ ブは 巡礼の 最後 の日に 、黒 い聖石 に向 かって 立っ ていた モヒ ートに 会っ た。バ ブ
はかれに近づき、その手を取り、つぎのように語りかけた。
「モヒートよ。あなたはシ
ェ イキ派 共同 体の中 で、 もっと も卓 越した 人物 の一人 であ り、そ の教 えの解 説で 名高
い 者であ ると 自認し てお られる 。あ なたは 胸中 で、か の偉 大なる 光で あり、 神の 導き
の 夜明け を告 知した 星で ある二 人の 人物( アー マドと カゼ ム)の 正当 な後継 者の 一人
で あると 主張 してお られ る。今 、あ なたと わた しは共 に、 このも っと も聖な る廟 の中
に 立って いる のだ。 この 神聖な 境内 に住ま われ ている 御方 の霊は 、真 実をす ぐ明 らか
に して、 嘘を 見分け 、正 義を誤 りか ら区別 され るのだ 。わ たしは この ことを はっ きり
と 述べた い。 現在、 東西 を問わ ず、 わたし 以外 には、 人び とを神 の知 識へと 導く 門で
あ ると主 張で きる者 はい ない。 わた しの証 拠は 、預言 者の モハメ ッド が示し た証 拠と
同 じなの だ。 思い通 り質 問する がよ い。今 ここ で、わ たし の使命 が真 実であ るこ とを
証 明でき る数 節を示 そう 。あな たは 無条件 にわ たしの 大業 にした がう か、そ れを 完全
に 否認す るか のどち らか を選ば なけ ればな らな い。そ のほ かに取 る方 法はな いの だ。
も し、あ なた が、わ たし の宣言 する 真理を 否認 される 場合 は、そ のこ とを公 表す ると
誓 ってい ただ きたい 。そ うされ るま では、 あな たの手 を放 さない つも りだ。 これ によ
り 、真理 を語 る御方 が人 びとに 知ら れ、虚 偽を 述べる 者は 永久に 不幸 と恥に さら され
る で あ ろ う 。 そ の と き 、 真 理 へ の 道 が 明 ら か に さ れ 、 全 人 類 に 示 さ れ る の で あ る 。」
(pp.133-135)
こ のバ ブから とつ ぜん突 きつ けられ た断 固とし た挑 戦に、 モヒ ートは ひど く苦し ん
だ 。かれ はバ ブの率 直さ 、威厳 と威 力に圧 倒さ れた。 年令 も上で 、権 威と学 識を そな
え ていた にも かかわ らず 、この 若者 (バブ )の 面前で は、 強大な ワシ に捕わ れた 無力
な小鳥のように感じた。混乱し、心配でいっぱいになったかれは、こう答えた。「わた
し の主で あり 、師で ある 御方よ 。カ ルベラ であ なたの 姿を 目にし て以 来、つ いに 、わ
た しの探 求の 的であ る御 方を発 見し 、認め たと 思って きま した。 わた しはあ なた を認
め そこな った 者と絶 交し 、あな たの 純粋さ と神 聖さに つい て、わ ずか でも疑 って いる
者 を軽蔑 しま す。わ たし の弱点 を見 過ごし 、わ たしの 難問 に答え て下 さるよ うに お願
い します 。こ の場所 で、 この聖 なる 廟の境 内で 、あな たに 忠誠を 誓い 、あな たの 大業
の 勝利の ため に立ち あが れるよ うに 神に祈 りま す。も し、 この誓 いに 忠実で なく 、こ
の言葉を信じなければ、わたしは神の預言者の恩恵を受ける価値はないと見なします。
そ してま た、 そのよ うな 行動は 、神 が選ば れた 後継者 のア リに不 実な 行為で ある と考
えます。」
バ ブは この言 葉に 注意深 く耳 を傾け た。 そして 、か れの魂 の無 力さと 貧し さを十 分
悟り、つぎのように答えた。
「わたしははっきり告げるが、今すでに真理は明らかにさ
れ 、虚偽 から 区別さ れた 。神の 預言 者の廟 よ。 そして 、わ たしを 信じ たゴッ ドス よ。
わ たしは 今、 証人と して 、預言 者の 廟とゴ ッド スを選 んだ 。あな た方 は、わ たし とモ
ヒ ートと の間 に起こ った ことを 見聞 された 。あ なた方 に証 言して いた だきた い。 神は
まことに、あなた方を超越した存在で、確実で究極の証言者でありたまう。神こそは、
す べてを 見、 すべて を知 り、す べて に賢き お方 であり たま う。モ ヒー トよ。 あな たの
心 を困ら せて いるも のを 述べる がよ い。わ たし は、神 の助 けをか りて 、あな たの 問題
を 解決し てあ げよう 。そ こであ なた は、わ たし の言葉 がい かに優 れた もので ある かを
証 言し、 わた し以外 には この英 知を 示すこ とが できる 者は いない こと を認め るで あろ
う。」
モ ヒー トはこ の呼 びかけ に応 え、質 問を 提出し たが 、メジ ナに すぐ出 発し なけれ ば
な らない ので 、その 前に 返事を 渡し てもら うよ うに要 請し た。バ ブは つぎの よう に述
べてかれを安心させた。
「あなたの要請に応えて、メジナに行く途中に、神の援助によ
り あなた の質 問に答 えよ う。も し、 そこで あな たに会 えな ければ 、あ なたが カル ベラ
に 到着さ れた 後すぐ 返事 が届く よう にしよ う。 わたし は道 義にし たが って約 束を 果た
すので、あなたにもおなじことを期待したい。
『よい行為をすれば、あなたのためにな
り 、悪い 行動 をとれ ば、 あなた の利 益に反 する ことに なろ う。』『まこ とに神 はす べて
の創造物から独立した存在でありたまう。』」(pp.135-137)
モ ヒー トは出 発前 に、ふ たた び自分 の厳 粛な誓 いを かなら ず果 たすつ もり である こ
とを述べた。
「あなたとの約束を果たすまでは、何事が起ころうとも、けっしてメジナ
を離れることはありません。」しかし、強風に吹き飛ばされたほこりのように、かれは
バ ブがも たら した啓 示の 荘厳さ に耐 えるこ とが できず 、恐 怖のあ まり バブの 面前 から
逃 げ出し たの である 。そ して、 メジ ナにし ばら く留ま った が、誓 いを 果たさ ず、 良心
のとがめも無視してカルベラに向かった。
バ ブは 自分の 約束 に忠実 に、 メッカ から メジナ に行 く途中 で、 モヒー トの 心を悩 ま
せ ている 質問 の答え を書 き、そ れに 「二廟 間の 書簡」 と名 づけた 。モ ヒート はカ ルベ
ラ に到着 後ま もなく して 、その 答え を受け 取っ たが、 その 格調の 高さ に心を 動か され
る ことも 、そ の教え を認 めるこ とも しなか った 。心中 にか くして いた が、実 際は バブ
の教えに執拗に反対していたのである。時折かれは、バブの悪名高き敵であるカリム・
カ ーンの 弟子 であり 、支 持者で ある と公言 した り、あ るい は自分 は独 立した 指導 者で
あ ると宣 言し たりし た。 かれは 、自 分の死 期が 近づい たこ ろ、イ ラク でバハ オラ に従
う ように 見せ かけて 、バ グダッ ド在 住のペ ルシ ャ王子 を通 して、 バハ オラと の会 見を
申 し込ん だが 、その とき 会見は 極秘 で行わ れる ように と要 請した 。こ の申し 込み にバ
ハオラはつぎのように答えた。
「 ソレイ マニ エの山 に隠 遁中書 いた 詩で、 真理 探求の 道を 行く旅 人が そなえ てい なけ
れ ばなら ない 必要条 件を 説明し たこ とをか れに 伝えよ 。そ して、 その 詩から つぎ の節
をかれに見せよ。
『もし、なんじの目的が自分自身を大事にすることであれば、わが宮
廷 に近づ くな 。もし 、命 を犠牲 する ことが なん じの心 の望 みであ れば 来れ。 ほか の者
た ちを連 れて 来れ。 もし 、なん じの 心がバ ハと の再会 を求 めるな らば 、それ こそ が信
教 の道で ある 。もし 、こ の道を 行く ことを 拒否 するな らば 、なぜ なん じは、 われ をわ
ずらわせるのか。立ち去れ。』もし、モヒートがこの条件をよろこんで受け入れるなら
ば 、ため らわ ずに、 いそ いで、 わた しに会 いに くるで あろ う。そ うで なけれ ば、 わた
しはかれと会うことを拒否する。」(pp.137-138)
バ ハオ ラの断 固と した返 事に 、モヒ ート は冷静 を失 った。 この 返事を 受け 取った 日
に、バハオラに反対することも、その要請に応じることもできなくなったモヒートは、
カルベラの自宅に向かった。自宅に到着後すぐ病気になり三日後に死亡した。
バ ブは メッカ への 巡礼に 関わ る最後 の儀 式を終 える とすぐ 、そ の聖な る都 市の州 長
官 宛てに 書簡 を書い た。 その中 で、 誤解の 余地 のない 言葉 で、自 分の 使命の 特質 を述
べ 、大業 を受 け入れ るよ うに呼 びか けた。 バブ はこの 書簡 と、ほ かの 自著か らの 引用
文 をゴッ ドス にあた え、 それを 州長 官に贈 呈す るよう に指 示した 。し かし州 長官 は仕
事に没頭しており、バブから渡された神の教えに応えることはなかった。
この州長官について、ハジ・ニヤズはつぎのように述べたと伝えられている。
「一八
五〇年(または五一年)、メッカに巡礼に行き、州長官に会ことができました。かれは
こう述べました。
『一八四四年の巡礼の時期に、一人の若者がわたしを訪れたことを憶
え ていま す。 かれか ら内 容は不 明で すが本 を贈 られた ので 、よろ こん で受け 取り まし
た 。しか し、 当時多 忙で 読むこ とが できま せん でした 。数 日後、 ふた たびそ の若 者に
会 ったと き、 その本 に関 して、 返事 したい かど うかを 聞か れまし た。 しかし 、差 し迫
っ た仕事 があ り、そ の本 の内容 を見 ること はで きなか った のです 。結 局、満 足な 返事
は できま せん でした 。巡 礼の時 期が 過ぎ去 り、 書簡類 を整 理して いた とき、 ふと その
本 がわた しの 目とま りま した。 それ を開い たと ころ、 紹介 のペー ジに は、絶 妙な 書体
で 書かれ た感 動的な 訓戒 があり 、そ れにつ づい てコー ラン の語調 に著 しく似 た文 章が
書 かれて いま した。 その 本を通 読し て、ペ ルシ ャ人の 中か ら、フ ァテ メとハ シェ ム家
( モハメ ッド の先祖 )の 子孫で ある 人が、 約束 された ガエ ム(バ ブ) の出現 をす べて
の 人びと に宣 言して いる ことが わか りまし た。 しかし なが ら、わ たし はその 著者 の名
前もその宣言に伴う状況についても知らされていませんでした。』
わたしは州長官にこう述べました。
『この数年間に、ペルシャに大変な騒ぎが起こり
ま した。 モハ メッド の子 孫で、 職業 は商人 の若 者が、 自分 の言葉 は神 の声で ある と宣
言 したの です 。その 若者 は、モ ハメ ッドが 二十 三年か けて 啓示し たコ ーラン にあ る言
葉 の優雅 さと その量 をし のぐ句 を、 二、三 日で 顕わす こと ができ ると 宣言し まし た。
ペ ルシャ の住 民のう ち、 身分の 高い 者も低 い者 も、一 般市 民も僧 侶も 、その 若者 の旗
の 下に集 まり 、よろ こん でかれ の道 に自分 の生 命を犠 牲に してき てい ます。 その 若者
は、昨年(一八五〇年七月)、アゼルバエジャン州のタブリズで殉教しました。処刑者
た ちは若 者を 殺害し て、 かれが その 国に点 した 光を消 そう とした ので す。と ころ が、
かれの殉教以来、かえってその影響はあらゆる階層の人びとに浸透してきました。』こ
の話に注意深く耳を傾けていた州長官は、バブを迫害した者らの行動に憤りを表わし、
叫ぶように言いました。
『その邪悪な者らに神の呪いあれ。過去にも、われわれの神聖
で栄誉ある先祖を同じように扱った者らに呪いあれ。』こう言って州長官はわたしとの
会話を終えました。」(pp.138-140)
バ ブは メッカ から メジナ に進 んだ。 そし て、一 八四 五年一 月十 日の金 曜日 に、そ の
聖 なる都 市の 近くま でき た。バ ブは その都 市に 近づき なが ら、そ の城 壁内で 生き 、亡
くなられた御方の名(モハメッド)を不朽にした感動的な出来事を思い起こしていた。
そ の不滅 の天 才であ る御 方の創 造的 な威力 を雄 弁に証 言す る場面 が、 眼前で おご そか
に 再演さ れる のを見 たの である 。バ ブは祈 りな がら、 神の 預言者 の遺 体を納 めた 聖な
る 墓に近 づき 、その 聖な る場所 を歩 きなが ら、 自らの 宗教 制度の かが やかし い先 駆者
( アーマ ド) を思い 起こ した。 モハ メッド の廟 から遠 くな い場所 にあ るバキ の墓 地に
ア ーマド が埋 葬され てい ること も知 ってい た。 アーマ ドは 困難な 生涯 の残り をこ の神
聖 な廟の 境内 で過ご す決 心をし たの である 。バ ブの眼 前に はまた 、聖 なる人 たち 、信
教 の開拓 者た ちと殉 教者 たちの 幻が 現われ た。 かれら は戦 いの場 で名 誉ある 命を 落と
し 、その 生命 の血で 神の 大業の 勝利 を確実 にし たので ある 。かれ らの 聖なる 遺体 は、
バ ブの静 かな 歩みに より 蘇生さ れた ように 思え た。か れら の霊は バブ の息吹 で生 気を
あ たえら れた ようで あっ た。か れら はいそ いで バブに 近づ き、歓 迎の 言葉を 述べ 、つ
ぎのように熱烈にこん願しているようであった。
「 われら の最 愛なる 御方 よ。故 国に もどら れな いよう にお 願いし ます 。われ われ の間
に 住んで 下さ い。こ こは 、あな たを 待ち伏 せし ている 敵か ら遠く 離れ ており 、安 全だ
か らです 。あ なたの こと が心配 です 。敵の 策略 と陰謀 を恐 れてい ます 。また 、か れら
の悪行はかれらの魂に永遠の罰をもたらさないかと気づかっています。」バブの不屈の
精神は答えた。
「恐れることはない。われがこの世に現われたのは、栄光ある犠牲を示
す ためで ある 。皆は 、わ が切望 がど れほど 強烈 で、こ の世 からの 超脱 がどれ ほど のも
の である かを 知って いる はずだ 。そ れゆえ 、わ が殉教 の時 間が早 めら れ、わ が犠 牲が
受 け入れ られ るよう に主 なる神 にこ ん願せ よ。 よろこ ぶが よい。 われ とゴッ ドス は共
に 、栄光 の王 への奉 献の 祭壇で 殺害 される から である 。そ の御方 の道 で流す よう に定
め られた われ われの 血は 、その 不滅 のよろ こび の庭園 に水 をあた え、 生気を もた らす
で あろう 。こ の神聖 にさ れた血 は、 神の強 大な 木に育 つ種 なので ある 。その すべ てを
包 含する 木陰 に、地 上の 民族と 国民 は集め られ るであ ろう 。それ ゆえ 、われ がこ の土
地 から去 って も悲し むこ とはな い。 われは 、自 分の運 命を 果たす ため にいそ いで 行く
のであるから。」(pp.140-141)
第八章
巡 礼後のバブのシラズ滞在
バ ブの メジナ 訪問 でヘジ ャー ズへの 巡礼 は終わ りに きた。 そこ から、 バブ はジャ デ
に 行き、 海路 により 故郷 にもど った 。ブシ ェル の港か ら巡 礼に出 発し 、陰暦 で九 ヵ月
後 に同じ 港に もどっ たの である 。そ の港の 宿で 、バブ はか れの帰 りを 歓迎す るた めに
訪 れた友 人や 親族を 迎え た。ブ シェ ルに滞 在中 、バブ はゴ ッドス を呼 び、慈 愛を こめ
てシラズに行くように命じた。
「 あなた とわ たしの 交わ りは終 わり にきた 。別 離の時 間が きたの だ。 この別 離は 、栄
光 の王の 御前 、すな わち 神の王 国で 再会す るま でつづ くで あろう 。こ のちり の世 界で
は 、わた しと の交わ りは わずか 九ヵ 月しか あな たにあ たえ られて いな いのだ 。し かし
な がら、 偉大 なる来 世の 岸辺、 不滅 の世界 で、 永遠の 再会 のよろ こび がわれ われ を待
っ ている 。ま もなく 、運 命の手 が、 神のた めに あなた を艱 難の海 に沈 めるで あろ う。
わ たしも また 、あな たに つづき その 海の奥 底に 沈めら れる であろ う。 大いに よろ こぶ
が よい。 なぜ なら、 あな たは苦 難の 旗の旗 手と して選 ばれ 、神の 御名 の下に 殉教 者と
な る高貴 な軍 隊の先 頭に 立って いる からだ 。シ ラズ市 の通 りで、 あな たは侮 辱を 加え
ら れ、深 い傷 を負わ され るが、 敵の 卑しむ べき 行為を 耐え ぬき、 われ われの 敬慕 と愛
の 目標で ある 御方の 御前 に達す るで あろう 。そ の御方 の御 前で、 あな たは自 分が 受け
た 傷と恥 辱を すべて 忘れ るであ ろう 。見え ざる 御方の 軍勢 が援助 に駆 けつけ 、あ なた
の 英雄的 行為 と名誉 を全 世界に 宣言 するで あろ う。あ なた は、神 のた めに殉 教の 杯を
飲 み干す とい うこの 上な いよろ こび を感じ るで あろう 。わ たしも また 、犠牲 の道 を歩
み永遠の世界であなたといっしょになるであろう。」(pp.142-143)
こ のよ うに述 べた あと、 バブ は伯父 セイ エド・ アリ に宛て た手 紙をゴ ッド スに渡 し
た。その手紙で、ブシェルに無事帰宅したことを告げた。バブはまた、「七つの資質」
と いう表 題の 書簡を ゴッ ドスに 託し た。こ れは 、新し い啓 示を知 り、 それを 受け 入れ
た 者たち の基 本条件 を述 べたも ので あった 。バ ブはゴ ッド スに最 後の 別れを 告げ ると
き、シラズ在住の愛する人たちのすべてに、挨拶の言葉を伝えるように頼んだ。
ゴ ッド スは固 い決 意で、 師の 望みを 実行 するた めに ブシェ ルを 発った 。シ ラズに 到
着 すると 、バ ブの伯 父セ イエド ・ア リから 愛情 深い歓 迎を 受けた 。伯 父はゴ ッド スを
自 宅に迎 え、 愛する 甥の 健康と 活動 につい て熱 心にた ずね た。ゴ ッド スはか れが 新し
い 神の教 えを 受け入 れる と感じ たの で、そ の啓 示の内 容を 知らせ た。 その啓 示は ゴッ
ド スの魂 をす でに燃 え立 たせた もの であっ た。 ゴッド スの 努力の 結果 、バブ の伯 父は
生 ける者 の文 字と呼 ばれ る人び とに 次いで 、シ ラズで 大業 を受け 入れ た最初 の人 とな
っ た。新 しく 誕生し た信 教の意 義は 、まだ 十分 に明か され ていな かっ たため 、伯 父は
そ の内容 の膨 大さと 栄光 に気づ いて いなか った 。しか し、 ゴッド スと の会話 を通 して
かれの眼にかかっていたヴェールは取り除かれた。バブへの信仰は不動のものとなり、
敬 愛の念 も深 まって ゆき 、全生 涯を バブへ の奉 仕に捧 げた 。そし て、 ゆるま ぬ警 戒心
を もって 、バ ブの大 業を 保護し 、バ ブを守 るた めに立 ち上 がった ので ある。 また 、疲
労 を無視 し、 死をも のと もせず 、た ゆまぬ 努力 をつづ けた 。かれ はそ の都市 の著 名な
事 業家と して 知られ てい たが、 その ような 世俗 の事柄 によ って、 愛す る甥の バブ を守
り 、その 大業 を促進 する という 精神 的な義 務を 怠るこ とは なかっ た。 このよ うに 、忍
耐 して活 動を つづけ 、つ いに、 テヘ ランの 七人 の殉教 者た ちの一 団に 加わり 、ま れに
見る壮烈な状況下でバブのために命を捧げたのである。(p.143)
つ ぎに 、ゴッ ドス がシラ ズで 会った 人は サディ クで あった 。ゴ ッドス はか れに、 書
簡 「七つ の資 質」を 渡し 、そこ に述 べられ てい る規律 をす ぐ、す べて 実行す るよ うに
強 く勧め た。 その中 には 、忠実 な信 者はす べて 、イス ラム 教の伝 統的 な祈り の呼 びか
けに、つぎの言葉をつけ加えるように、という強い指示があった。「アリ・カブル・モ
ハメッド(バブ)は、バキヤトラ(バハオラ)のしもべであることを証言いたします。」
当 時サ ディク は、 説教壇 から 大勢の 聴衆 にイス ラム 教のエ マム たちの 徳行 を賞賛 し
て いた。 かれ はバブ の書 簡を読 んで 、その テー マと言 葉に 深く感 銘し たため 、そ の中
に ある規 律を すべて 実施 する決 心を した。 そし てある 日、 モスク で会 衆に祈 りの 呼び
か けをし てい るとき 、そ の書簡 にひ そむ威 力に 駆られ 、と つぜん 、バ ブが定 めた 言葉
を つけ加 えた 。それ を聞 いて会 衆は 愕然と した 。かれ らは 狼狽し 、肝 をつぶ すほ どお
どろいたのである。(p.144)
前方の席に座っていた著名な高僧たちは、正統派の信仰で大いに尊敬されていたが、
サディクの言葉を聞いて騒ぎはじめ、大声で抗議した。
「神の信仰の守護者であり、保
護 者であ るわ れわれ に災 いがき た。 見よ。 この 男は邪 教の 旗をか かげ ている のだ 。こ
の 恥ずべ き裏 切り者 を打 倒せよ 。神 の名を 汚し たこの 男を 逮捕せ よ。 かれは われ われ
の 信仰の 恥で ある。」か れらは 、さ らに腹 立た しく叫 んだ 。「一 体だ れが、 イス ラム教
の 法規か らこ れほど 逸脱 してよ いと 許した のか 。だれ がこ の崇高 な特 権を自 分の もの
として用いたのだ。」
民 衆も 僧侶た ちの 抗議を おう む返し にく り返し 、騒 ぎを大 きく してい った 。この 騒
ぎ は町全 体に ひろが り、 公共秩 序が 乱され そう になっ た。 これを 見た ファル ス州 の知
事 ホセイ ン・ カーン は、 介入の 必要 性を感 じ、 このと つぜ んの騒 動の 原因を 調べ るこ
と にした 。そ の結果 判明 したこ とは 、メッ カと メジナ への 巡礼か らも どり、 今は ブシ
ェ ルに住 んで いる男 がシ ラズに 来て 、自分 の師 バブの 教え を広め てい ること こと であ
った。知事はさらに、つぎの情報も得た。「この(バブの)弟子は、自分の師は新しい
啓 示をも たら し、そ の書 は神か ら来 たもの であ ると主 張し ている こと 。サデ ィク は、
その信者となり、大勢の人びとにその教えを受け入れるように大胆に勧めていること。
さ らに、 その 教えを 認め ること は、 イスラ ム教 シーア 派の 忠実で 、敬 虔な信 者の 第一
の義務であると宣言していること。」
知 事は 、ゴッ ドス とサデ ィク 両人の 逮捕 を警察 に命 じ、手 錠を かけて 自分 の面前 に
連れてくるように命じた。警察官は二人を知事のところに連行してきたが、そのとき、
サ ディク から 没収し たガ ュモー ゥル ・アズ マ( バブの ジョ セフに つい ての評 釈書 )も
か れに渡 した 。それ はサ ディク が、 興奮し た群 集に声 高ら かに読 んで 聞かせ たも ので
あ る。知 事は 、ゴッ ドス の若さ と普 通では ない 服装を 見て 、最初 、か れを無 視し 、威
厳のある年配のサディクに注意を向けた。そして、腹立たしそうに聞いた。(p.145)
「 あなた は、 ガュモ ーゥ ル・ア ズマ の見開 きに 、バブ が地 上の為 政者 と国王 につ ぎの
ように呼びかけているのを知っているであろう。
『君主の衣を脱ぐがよい。王なる御方
が実際現われたゆえに。王国は、高貴なる神のものなり。最高の神はこう命じたまう。』
も し、こ れが 真実で あれ ば、わ が君 主であ るカ ジャー ル王 朝のモ ハメ ッド国 王に あて
は まるは ずで はない か。 わたし はこ の地方 の行 政長官 とし て国王 の代 理をし てい る者
だ。その書の命令によれば、国王は王冠を脱ぎ、王座を放棄しなければならないのか。」
サディクはためらわずに答えた。
「その言葉の著者がもたらされた啓示が真実である
こ とが確 実に 立証さ れる とき、 その 御方の 口か ら出さ れる 言葉の 真理 も同様 立証 され
る であり まし ょう。 もし 、それ らの 言葉が 、神 の言葉 であ れば、 モハ メッド 国王 とほ
か の国王 の退 位は重 要な ことで はあ りませ ん。 だれも 神の 目的を そら すこと も、 全能
で、永遠の王の主権を変えることもできないのです。」
こ の返 事に、 その 残酷で 不信 心な知 事は 強い不 快感 をおぼ えた 。かれ はサ ディク を
の のしり 、従 者に、 かれ の衣服 をは ぎとっ て、 千回む ち打 つよう に命 じた。 さら に、
ゴ ッドス とサ ディク 両人 のひげ を燃 やし、 鼻に 穴をあ け、 それに 細な わを通 して 、町
の通りを引っ張りまわすように命令し、こう宣言した。
「これはシラズの住民へのみせ
しめだ。かれらは邪教の罰がどんなものであるかがわかろう。」サディクは、平静を保
ちながら眼を天に向けてつぎのように祈った。
「おお、主なるわれらの神よ。まことに、
わ たしど もは 呼び声 を挙 げられ た御 方の声 を聞 きまし た。 その御 方は 『主な るな んじ
の 神を信 ぜよ 』と呼 びか けられ まし た。そ こで 、わた しど もはそ れを 信じた ので す。
お お神よ 、わ れらの 神よ 。わた しど もの罪 を許 し、わ たし どもの 邪悪 な行為 をか くし
たまえ。そして、正義ある人びとと共に死なせたまえ。」(pp.146-147)
二 人は 、気高 い不 屈の精 神で 運命に した がった 。こ の残忍 な罰 をあた える ように 命
令 された 者た ちは、 力い っぱい にか れらを むち 打った が、 だれも この 受難者 たち を助
け ようと しな かった 。か れらの 大業 を弁護 しよ うとす る者 もいな かっ た。こ のあ とす
ぐ 、二人 はシ ラズか ら追 放され た。 追放前 に、 もしシ ラズ にもど って くるよ うな こと
が あれば 、二 人共に はり つけの 刑を 受ける であ ろうと 警告 を受け た。 この苦 しみ を通
し て、二 人は 、ペル シャ で、信 教の ために 最初 に迫害 され た者と して 不滅の 栄誉 を得
た 。前に 述べ たモラ ・ア リは敵 の容 赦ない 憎し みの犠 牲に なり、 迫害 を受け た最 初の
人 であっ たが 、それ はペ ルシャ 国外 のイラ クで 起こっ た。 その迫 害は きわめ て激 しい
ものであったが、ゴッドスとサディクが受けた残忍な拷問に及ぶものではなかった。
信 者で はない がシ ラズの 住民 で、こ の胸 の悪く なる ような 出来 事を目 撃し た人が 、
わたしに(著者)つぎのように語ってくれた。
「わたしはサディクがむち打たれるのを
見 ていま した 。虐待 者た ちがそ れぞ れ交替 で、 血が流 れ出 してい る肩 にむち 打ち つづ
け たので す。 かなり の年 配で、 身体 が虚弱 なサ ディク が、 その残 忍な むちを 五〇 回も
受 けても 生き 延びる こと ができ るな ど、だ れも 信じま せん でした 。と ころが かれ は、
す でに九 百回 以上の むち を受け てい たにも かか わらず 、平 静を保 って いたの です 。そ
れ を見た われ われは 、そ の不屈 の精 神に大 変お どろき まし た。か れは 笑みを 浮か べな
が ら、手 を口 にあて てい ました が、 自分の 身体 に降り かか ってい るむ ちは、 まっ たく
感 じてい ない ようで した 。かれ がそ の都市 から 追放さ れる とき、 かれ に近づ くこ とが
で きまし たの で、手 を口 にあて てい た理由 を聞 きまし た。 また、 かれ が笑み を浮 かべ
ていたことにおどろいたと述べたところ、かれは力をこめてこう答えました。
『 最初の 七回 のむち は、 ひじょ うに 痛かっ たの ですが 、そ のあと 何も 感じな くな りま
した。本当に、自分の身体はむち打たれているのだろうかとふしぎに思ったほどです。
わ たしの 魂は 、この 上な い喜悦 感で 満たさ れて いまし たが 、それ を抑 え、笑 いを こら
え ていた ので す。全 能の 救済者 は一 瞬にし て苦 痛を和 らげ 、悲し みを よろこ びに 変え
ら れるこ とを 今にな って さとり まし た。神 の力 は、人 間の むなし い想 像をは るか に超
え て無限 に高 遠なの です 。』」わたし (著者 )が 、何年 か後 にサデ ィク に会っ たと き、
かれは、この感動的な出来事はすべて事実であることを認めた。(pp.147-148)
ホ セイ ン・カ ーン の怒り は、 この残 忍き わまる 不当 な懲罰 をあ たえて もし ずまる こ
と はなか った 。かれ の理 不尽で 、気 まぐれ の残 酷さは 、つ ぎにバ ブに 向けら れた 。か
れ は、自 分の 信頼す る護 衛隊を ブシ ェルに 送り 、バブ を逮 捕して くさ りをつ けて シラ
ズ に連行 する ように 命じ たので ある 。護衛 隊の 指揮官 はア リヨラ ヒの 宗派と して よく
知 られて いる ノサイ リ共 同体の メン バーで あっ た。か れは 、この 事件 につい てつ ぎの
ように語った。
「 ブシェ ルへ の旅を 三分 の一ほ ど行 った荒 野の 真ん中 で、 モハメ ッド の子孫 で、 商人
の 身分を 示す みどり の肩 帯と小 型の ターバ ンを つけた 若者 に出会 いま した。 かれ は馬
に 乗り、 その あとを エチ オピア 人の 召使い が荷 物をも って ついて きて いまし た。 近づ
く と若者 はわ れわれ の目 的地を 聞き ました が、 真実を かく してい た方 がよい と思 い、
フ ァルス の知 事から 命令 を受け て、 この地 方の 調査に きた 、と答 えま した。 かれ はほ
ほ笑みながら言いました。
『知事はわれを逮捕するためにあなたを送ったのだ。われは
こ こにい る。 思うよ うに せよ。 あな たの旅 が短 縮され 、わ れを見 つけ やすい よう に、
われの方からあなたに会うためにここまで来たのだ。』(p.148)
わ たし はこの 言葉 にびっ くり し、ま たそ の率直 さに おどろ きま した。 しか し、な ぜ
官 吏の苛 酷な 懲戒に 進ん で身を 任せ 、自分 の命 と安全 を危 険にさ らす のか理 解で きま
せ んでし た。 わたし はか れの言 うこ とを無 視し 、その 場を 立ち去 ろう としま した 。す
るとかれはわたしに近づき、こう言ったのです。
『人間を創造し、ほかの創造物より卓
越 したも のと なし、 その 心を神 の主 権と知 識の 座とさ れた 神にか けて 誓うが 、わ れは
生 まれて この かた、 真理 以外の 言葉 は口に した ことは ない 。また 、同 胞人間 の幸 福と
進 歩以外 の望 みをい だい たこと はな い。こ れま で自分 の安 楽を無 視し 、ほか の人 の苦
し みや悲 しみ になる よう なこと を避 けてき た。 あなた がわ れを探 して いるの はわ かっ
て いる。 あな たとあ なた の護衛 隊が 、不必 要な 労力を 費や される より も、わ れ自 身を
あなたに渡したいのだ。』
わたしはこの言葉に深く心を動かされ、思わず馬からおり、かれのあぶみに接吻し、
つぎのように話しかけました。
『おお、神の預言者の目の光である御方よ。あなたを創
造 し、あ なた に崇高 さと 威力を あた えられ た神 に誓っ て、 わたし の願 いを聞 き入 れ、
わ たしの 祈り に答え て下 さるよ うに こん願 いた します 。こ の場か ら逃 げ、こ の地 方の
無 慈悲で 卑劣 な知事 を避 けられ るよ うにお 願い します 。か れの陰 謀を 恐れて いる ので
す 。神の 預言 者の子 孫で 、これ ほど 潔白で 、高 貴な御 方に 対する 悪だ くみの 手先 に使
わ れたく あり ません 。わ たしの 護衛 隊員は 皆立 派な人 たち です。 かれ らは約 束を 必ず
守 り、あ なた の逃走 を口 外する こと はあり ませ ん。あ なた はコラ サン のマシ ュハ ドの
町に行かれ、この残忍な狼の蛮行の犠牲にならないようにして下さい。』
わたしの熱心なこん願に、かれはこう答えました。
『あなたの主なる神が、あなたの
寛 大さと 気高 い意図 に報 いられ んこ とを。 わが 大業の 神秘 を理解 して いる者 はい ない
の だ。ま た、 だれも その 秘密を 探る ことは でき ない。 われ は神の 命令 に顔を そむ ける
こ とは絶 対に ない。 神の みがわ れの 確実な 砦で あり、 われ の支え であ り、避 難所 であ
り たまう のだ 。死の 時間 が来る まで 、だれ もわ れを攻 撃す ること も、 全能な る神 の計
画 を妨げ るこ ともで きな い。そ して 、わが 死の 時間が 到来 したと き、 神の御 名の もと
に殉教の杯を飲み干すよろこびは、何と大なるものであろうか。われは今ここにいる。
あ なたの 師の 手にわ たし を渡す がよ い。恐 れる ことは ない 。だれ もあ なたを 非難 した
りはしない。』わたしは頭を垂れて同意の意を示し、かれの望みを実行することにしま
した。」(pp.149-150)
バ ブは 直ちに シラ ズへ向 かっ た。か れは 護衛隊 の前 方を、 拘束 されず に自 由に進 ん
で 行き、 その 後を、 護衛 隊が敬 意を 表しな がら つづい た。 バブは 神秘 的な力 を秘 めた
言 葉で、 護衛 隊員の 敵意 を除き 、そ の尊大 さを 謙遜と 愛に 変えた ので ある。 シラ ズ市
に 到着す ると すぐ政 府の 建物に 向か った。 通り を進ん で行 く騎馬 行列 を見た 者は 皆、
そ のめず らし い光景 にお どろか され た。知 事の ホセイ ン・ カーン は、 バブの 到着 を知
る とすぐ 自分 の面前 に連 行させ 、き わめて 横柄 な態度 で迎 え、部 屋の 中心に ある 席に
自 分に向 かっ て座る よう に命じ た。 そして 公然 とバブ をな じり、 その 行動を 非難 し、
腹立たしく抗議したのである。
「 お前は どれ ほど大 きな 害毒を もた らした かを 知って いる のか。 お前 は聖な るイ スラ
ム 教と、 われ われの 畏れ 多い国 王に とって どれ ほど恥 にな ったか に気 がつい てい ない
の か。お 前は コーラ ンの 聖なる 教え を無効 にす る新し い啓 示をも たら した者 であ ると
宣言しているのか。」バブは静かに答えた。
「『よこしまな人間が何か情報を持ってきた
場合には、まずよく確かめよ。
(うっかり飛びついて)思わず他人に大変な迷惑をかけ、
あとで自分のしたことを悔むような羽目にならないように。』(コーラン)」
この言葉で知事の憤りはいっそうあおられた。かれは叫んだ。
「お前は、われわれを
よこしまで、無知で、愚かであると言うのか。」そして従者に、バブの顔に一撃を加え
る ように 命じ た。そ れは バブの ター バンが 地面 に落ち たほ ど強烈 な打 撃であ った 。シ
ラ ズの僧 侶の 長であ るシ ェイキ ・ア ブトラ ブは 、その 会見 に出席 して いたが 、知 事の
行 為を強 く非 難し、 落ち たター バン をバブ の頭 にもど すよ うに命 じた 。そし てバ ブを
自 分の席 のそ ばに座 らせ た。シ ェイ キ・ア ブト ラブは 知事 の方を 向き 、バブ が引 用し
た コーラ ンの 節が啓 示さ れたと きの 状況に つい て説明 し、 かれの 憤り をしず めよ うと
して言った。(p.150)
「 若者が 引用 した節 に深 く感銘 しま した。 この 英知あ る節 は、こ の事 柄に関 して 注意
深 く調べ 、聖 典の教 えに そって 、か れを判 断す るよう にと 教えて いる ものだ と感 じま
す。」知事はすぐその意見に同意した。そこでシェイキ・アブトラブはバブに、啓示の
内 容と特 質に ついて 質問 した。 バブ は、自 分は 約束さ れた ガエム の代 理でも 、神 と忠
実なる信者を結ぶ媒介者でもないと断言した。シェイキ・アブトラブは答えた。
「これ
で われわ れは 十分に 満足 した。 金曜 日にヴ ァキ ル寺院 に来 ていた だき 、そこ で、 公に
あなたの否認の言葉を聞かせてもらおう。」
シ ェイ キ・ア ブト ラブが この 問答を 終わ りにし て立 ち去ろ うと したと き、 知事は 口
を出した。
「この若者の身許引受人となる信頼できる人物が必要だ。その者は今後、こ
の 若者が イス ラム教 また は政府 に害 をあた える ような こと をすれ ば、 すぐわ れわ れの
手 に引き 渡さ なけれ ばな らず、 また 、あら ゆる 状況の 下で 、かれ の行 動に責 任を もつ
という宣誓文をしたためなければならない。」その場にいたバブの伯父セイエド・アリ
が 保証人 にな ること に同 意した 。か れは宣 誓書 をした ため 、印章 をつ け、そ れに 何人
か の証人 に署 名して もら ったあ と知 事に渡 した 。そこ で知 事は条 件つ きでバ ブを 伯父
に 任せた 。そ の条件 とは 、知事 が要 求すれ ばす ぐバブ をか れの手 元に 渡すと いう もの
であった。
セ イエ ド・ア リは 神に感 謝し ながら バブ を自宅 に連 れてゆ き、 バブを バブ の母親 の
愛 情深い 世話 に任せ た。 伯父は この 家族の 再会 をよろ こび 、自分 の愛 する大 事な 甥を
悪意に満ちた虐待者の手から救ったことで深い安堵をおぼえた。バブは静かな自宅で、
し ばらく の間 、だれ にも 邪魔さ れな い生活 を送 った。 妻、 母親、 そし て伯父 以外 はだ
れ とも交 わる ことは なか った。 一方 、悪事 をた くらむ 者ら は、バ ブを ヴァキ ル寺 院に
召し、約束を果たさせるようにシェイキ・アブトラブに圧力をかけていた。(p.151)
シ ェイ キ・ア ブト ラブは 親切 な人物 とし て知ら れて おり、 その 気質と 性格 はテヘ ラ
ン の聖職 者の 指導者 であ った故 ミル ザ・ア ブー ル・カ ゼム にひじ ょう に似て いた 。か
れ は名が 知ら れてい る人 を無礼 にあ つかう のを 極力嫌 った 。その 人が シラズ の住 民で
あ る場合 はと くにそ うで あった 。そ れを自 分の 義務と 感じ て、良 心的 に守っ てき たた
め 、町の 住民 からひ ろく 尊敬さ れる ように なっ ていた 。し たがっ てこ の度も 、群 集の
憤 りを和 らげ るため に、 あいま いな 答えを して バブを 寺院 に行か せる ことを 延ば しつ
づ けた。 しか し、扇 動者 たちが 、大 衆の憤 りを あおろ うと 全力を つく してい るの に気
が つき、 つい に、バ ブの 伯父に 極秘 の手紙 を送 らざる を得 なくな った 。それ は、 金曜
日 にバブ をヴ ァキル 寺院 に連れ て行 き、約 束を 果たさ せる ことを 要請 したも ので あっ
た。その手紙に、かれはこう付け加えた。「神の援助により、あなたの甥の陳述が、緊
迫した状況を和らげ、あなたとわれわれの心に平安がもどることを願う。」
バ ブは 伯父を 伴っ て寺院 に入 った。 その ときシ ェイ キ・ア ブト ラブが 説教 壇から 説
教 をはじ めよ うとし てい た。か れは バブの 姿を 認める とす ぐ、歓 迎の 言葉を 述べ 、説
教 壇にの ぼっ て聴衆 に話 しかけ るよ うに要 請し た。バ ブは その招 きに 応じて 説教 壇の
一 番下の 段に あがり 、話 しはじ めよ うとし た。 そのと きシ ェイキ ・ア ブトラ ブは 「も
っと高い段にのぼって下さい」と声をかけた。バブはそれに応じてあと二段のぼった。
バ ブは頭 が説 教壇の 上段 にいた シェ イキ・ アブ トラブ の胸 をかく すよ うに立 った 。そ
し て、自 分の 公の宣 言を まず前 置き の言葉 では じめた 。か れが「 まこ とに、 天と 地を
造 りたも うた 神に賛 美あ れ」と いう 言葉を 述べ はじめ たと たん、 セイ エド・ シェ シ・
パリとして知られている者が横柄な態度で叫んだ。(p.153)
「むだ話はもうたくさんだ。今すぐ言いたいことを言ったらどうだ。」シェイキ・アブ
トラブはこの男の無礼さに強い憤りを感じ、かれを譴責した。
「静かにして、あなたの
無礼さを恥ずかしく思いなさい。」その後、かれはバブに向かい、聴衆の興奮をしずめ
るために話を簡潔にするように頼んだ。バブは聴衆に向かって宣言した。
「われをエマ
ム の代理 、ま たはそ の門 とみな す者 らは神 から 罪の宣 告を 受ける であ ろう。 神の 一体
性 を否定 し、 預言者 の封 印であ るモ ハメッ ドが 預言者 であ ること を否 認し、 古の 神の
使 者たち の真 理を拒 絶し 、忠実 なる 御方の 司令 官であ るア リが守 護者 である こと も、
そ の後継 者で あるエ マム たちも 認め ない者 とし て、わ れを 非難す る者 らもま た、 神か
ら罪の宣告を受けるであろう。」
こ う述 べたあ と、 バブは 説教 壇の上 段ま でのぼ りシ ェイキ ・ア ブトラ ブを 抱擁し 、
下 におり て、 聴衆に 加わ って金 曜日 の祈り をし ようと した 。シェ イキ ・アブ トラ ブは
バブに寺院から立ち去るように頼んだ。
「ご親族があなたのお帰りを待っておられます。
皆 、あな たに 悪いこ とが 起こら ない かと心 配し ておら れる のでご 自宅 にもど られ 、そ
こ で祈ら れる ように 願い ます。 そう なさる こと は、神 の眼 にはよ り賞 賛され る行 為だ
と思います。」
シ ェイ キ・ア ブト ラブは また 、バブ の伯 父に自 宅ま でバブ に同 伴する よう に要請 し
た 。シェ イキ ・アブ トラ ブが、 この 予防手 段を 取った 理由 は、集 会の 終了後 、よ こし
ま な心を もつ 者らが 、バ ブを傷 つけ たり、 生命 を危う くし たりす るか も知れ ない と恐
れ たから であ る。実 際、 それま で、 シェイ キ・ アブト ラブ が見事 に発 揮した 英知 や同
情 心や細 心の 注意で 、激 昂した 群集 の野蛮 行為 が阻止 され たこと が何 度もあ った ので
あ る。シ ェイ キ・ア ブト ラブは 、バ ブとそ の使 命を保 護す るため に、 見えざ る神 の御
手の手段として任命された者のようであった。(p.154)
バ ブは 自宅に もど り、し ばら くの間 、親 族と親 しく 交わり なが ら比較 的静 かな生 活
を 送るこ とが できた 。そ の期間 中、 使命の 宣言 後最初 のノ ウ・ル ーズ (新年 )を 祝っ
た。その祝日は一八四五年三月であった。
ヴ ァキ ル寺院 でバ ブの言 葉を 聞いた 者ら の中に は、 若者の バブ が独力 で手 ごわい 敵
対 者を沈 黙さ せた見 事な 態度に 深く 動かさ れた 者らも いた 。この 出来 事のあ と、 まも
な くして 、か れらは 皆バ ブの使 命を 理解し 、そ の栄光 を認 めた。 その 中には 、シ ェイ
キ ・アブ トラ ブの甥 で成 年に達 した ばかり のア リ・ミ ルザ がいた 。か れの心 に植 えら
れ た種は 成長 しつづ け、 ついに 、一 八五〇 年か ら五一 年の 間に、 イラ クでバ ハオ ラに
会 うこと がで きた。 この 訪問で 熱意 とよろ こび に満た され 、大い に活 気づけ られ たか
れ は、故 郷に もどり 、一 層の精 力を 傾けて 大業 の発展 に尽 くした 。そ の年か ら現 在ま
で のたゆ まな い努力 と、 高潔な 性格 と自国 とそ の政府 に対 する真 心か らの奉 仕は 、人
び とに知 られ るよう にな った。 最近 かれが バハ オラに 宛て た手紙 が聖 地に届 けら れた
が、その中で、ペルシャにおける大業の進歩に深く満足していることを述べている。
「 この国 の人 民の間 に神 の威力 が表 わされ てい るのを 見て 、おど ろき で一言 も言 えな
い ほどで す。 この信 教を 何年も 残酷 に迫害 して きた国 で、 バビ( バブ の信者 )と して
四 〇年間 ペル シャ中 に知 られて きた 人物が 、あ る論争 事件 の唯一 の仲 裁者と され たの
で す。そ の事 件は、 暴君 であり 、大 業の敵 であ る国王 の息 子ゼロ ス・ ソルタ ンと 、サ
ヘ ブ・デ ィヴ ァンの ミル ザ・フ ァテ ・アリ ・カ ーンの 間の 論争で した 。この バビ であ
る 仲裁者 が下 す判決 は何 であれ 、当 事者の 双方 が無条 件で 受け入 れ、 即刻実 施さ れな
ければならないことが一般に公表されたのです。」(p.155)
そ の金 曜日集 会の 出席者 の中 にモハ メッ ド・カ リム がいた が、 かれも 同様 にバブ の
立 派な態 度に 惹かれ た。 かれは 、そ の日に 見聞 きした こと で、す ぐバ ブの信 者と なっ
た 。その 後、 迫害を 受け てペル シャ からイ ラク に追わ れ、 バハオ ラの 下で理 解と 信仰
を 深めて いっ た。後 日、 ババオ ラか ら指示 され てシラ ズに もどり 、生 涯の終 わり まで
大 業の普 及に 全力を つく した。 アガ ・レカ ブと いう人 も、 その同 じ金 曜日、 バブ に深
く 感銘し た。 それ以 来、 どれほ ど激 しい迫 害を 長期間 受け ても確 信を ゆるが せる こと
も 、大業 への 愛の火 を弱 めるこ とも なかっ た。 かれも また イラク でバ ハオラ に会 うこ
とことができ、バハオラに「コーランの支離滅裂に見える文字」の解釈と、「ヌールの
句 」の意 味に ついて 質問 した。 その 返事と して 、バハ オラ から自 筆に よる書 簡を 受け
取 った。 その 後かれ はバ ハオラ の道 に殉教 した 。その ほか ミルザ ・ラ ヒム・ カバ ズと
い う人物 もい た。か れは 大胆不 敵さ と、燃 える ような 熱意 で知ら れる ように なっ た。
かれも死の直前まで大業の発展に努力をゆるめることはなかった。
バ ブの ヘジャ ーズ への巡 礼に 同行し たハ ジ・ア ブル ・ハサ ン・ バザズ は、 バブの 使
命 の偉大 さに かすか に気 づいて いた が、そ の忘 れがた い金 曜日に 心の 奥底か ら動 かさ
れ 完全に 変わ ってし まっ た。そ して 、バブ への 深い愛 と献 身から 涙を 流しつ づけ たの
で ある。 かれ を知る 者は 皆その 高潔 な行動 を賞 賛し、 その 慈悲深 さと 公平無 私を 称え
た 。この よう に、か れは 二人の 息子 同様、 行動 で信仰 の強 さを示 して 、ほか の信 者た
ち から尊 敬を 得たの であ った。 その 同じ日 、故 モハメ ッド ・ベサ ット もまた バブ に惹
か れた一 人で あった 。か れはイ スラ ム教の 形而 上的な 面の 教えに 精通 し、ア ーマ ドと
カ ゼムを 賞賛 してい た人 で、温 和な 気質を もち 、ユー モア に富ん でい た。ま たシ ェイ
キ ・アブ トラ ブを友 人と して得 、か れと親 しく 交わり 、金 曜日の 祈り の集会 にも 欠か
さず参加していた。(p.156)
そ の年 の春を 告げ る新年 は、 同時に 、精 神的な 再誕 生を象 徴す るもの でも あった 。
全 国いた ると ころで 、そ の精神 的春 季の最 初の 躍動が すで に認め られ はじめ てい た。
ペ ルシャ のも っとも 高名 で学識 のあ る人た ちが 何人も 、荒 涼とし た無 思慮の 状態 から
抜 け出し 、新 しく誕 生し た啓示 の息 吹で生 命力 をあた えら れた。 全能 の神の 御手 で、
か れらの 心に 植えら れた 種は、 最高 に美し い花 を咲か せた のであ る。 神の慈 愛と 慈悲
の 微風で 、そ れらの 花々 の芳香 は、 国のす みず みまで ひろ がって いっ た。そ れど ころ
か 、その 芳香 はペル シャ の国境 を越 えてひ ろく 放散し てい ったの であ る。そ れは さら
に カルベ ラに もとど き、 バブの 帰り を待ち 望ん でいた 人び との魂 を活 気づけ た。 新年
直 後バス レ経 由で、 バブ からか れら に書簡 がと どけら れた 。それ は、 計画の 変更 があ
り 、ヘジ ャー ズから カル ベラを 経由 してペ ルシ ャにも どる 約束を 果た せない こと を知
ら せるも ので あった 。バ ブはか れら に、イ スフ ァハン に行 き、つ ぎの 指示が あた えら
れるまでそこに留まるように指示した。そして、つぎのように付け加えた。
「状況がよ
け れば、 シラ ズに行 くよ うに。 そう でなけ れば 、神の 導き が下さ れる までイ スフ ァハ
ンに留まるがよい。」(pp.157-158)
こ の思 いがけ ない 知らせ に、 バブの カル ベラ到 着を 待ち望 んで いた人 たち は動揺 し
た。かれらの忠誠心が試されたのである。不満に思った何人かはこうささやいた。
「バ
ブの約束はどうなったのか。神の意志の介入により、約束を破ったというのか。」これ
ら気迷いした者らとちがって、ほかの者らの信仰はいっそう固まり、決意も強まった。
か れらは 信仰 をゆる がせ た者た ちの 批判と 抗議 をまっ たく 無視し て、 師の招 きに よろ
こ んで応 じた 。そし て、 敬愛す るバ ブの望 みに すべて した がう決 意を もって イス ファ
ハ ンに向 かっ た。そ の中 には信 仰を 大いに ぐら つかせ た者 も数人 いた が、か れら はそ
れをかくして一団に加わった。
イ スフ ァハン の住 民のア リ・ ナリと その 弟のミ ルザ ・ハデ ィは 、栄光 に満 ちた崇 高
な 信教に 対す る確信 を、 邪悪な 者ら の疑念 の言 葉でく もら せるこ とを しなか った 。ア
リ ・ナリ の娘 は後に 最大 の枝( アブ ドル・ バハ )と結 婚し た人で ある 。その ほか にハ
ナ ・サブ とい う人も いた 。かれ もイ スファ ハン の住民 で、 現在、 バハ オラの 家で 奉仕
し ている 人で ある。 この バブの 忠実 な弟子 たち の何人 かは 、シエ イキ ・タバ ルシ の大
合戦に参加したが、奇蹟的に悲劇的な死をまぬかれた。
イ スフ ァハン に行 く途中 のカ ーンガ ヴァ ルの町 で、 一団は 弟と 甥を伴 った モラ・ ホ
セ インに 出会 った。 この 弟と甥 は、 モラ・ ホセ インが シラ ズを訪 れた ときの 同伴 者で
あ り、共 にカ ルベラ に向 かって いる ところ であ った。 この とつぜ んの 出会い に、 皆よ
ろ こびに あふ れ、カ ーン ガヴァ ルに もっと 滞在 してく れる ように 頼ん だ。こ の要 請に
モ ラ・ホ セイ ンはす ぐ応 じた。 かれ はその 町で 、金曜 日の 会衆の 祈り を先導 し、 バブ
の 弟子た ちが それに つづ いた。 そこ に居合 わせ た何人 かは 、モラ ・ホ セイン が弟 子た
ち から深 く尊 敬され てい るのを 見て 嫉妬の 念に かられ た。 かれら は後 日、シ ラズ で信
教 に対す る不 実を暴 露す ること にな るので ある が、そ の中 にはモ ラ・ ジャバ ド・ バラ
ガ ニとア リ・ ハラテ ィが いた。 この 二人は 指導 者の地 位を 占めた いと いう野 心か ら、
バ ブの教 えを 受け入 れた ように 見せ かけた 。二 人共モ ラ・ ホセイ ンが 得たう らや まし
い 地位を ひそ かに傷 つけ るため に、 ほのめ かし や当て つけ を用い て執 拗にモ ラ・ ホセ
インの権威に挑戦した。こうして、かれの名に恥辱をもたらそうとしたのである。
カ リム という 名で よく知 られ ていた アー マド・ カテ ブは、 カズ ビンの 町か らモラ ・
ジ ャバド に同 行して 旅を してき た人 であっ た。 わたし (著 者)は 、か れがつ ぎの よう
に語るのを聞いた。「モラ・ジャバドはわたしと話しているとき、何度もモラ・ホセイ
ン を批判 しま した。 モラ ・ホセ イン への非 難を くり返 し聞 いたわ たし は、か れと 交際
を 絶ちた いと 思いま した 。その たび に、モ ラ・ ホセイ ンは 、モラ ・ジ ャバト に対 して
寛 容な態 度を もつよ うに とわた しに 忠告し たの です。 一方 バブの 忠実 な弟子 たち の熱
意 はモラ ・ホ セイン との 交わり で一 層強ま って いきま した 。かれ らは モラ・ ホセ イン
の 模範で 教化 された ので す。そ して 、ほか の弟 子たち をは るかに 凌ぐ かれの すば らし
い知性と精神性に賞賛を惜しみませんでした。」(pp.159-160)
モラ・ホセインは友人の一団に加わってイスファハンに同行することにした。しかし
か れは、 仲間 の一団 より 五キロ メー トルほ ど前 方を一 人で 行くこ とに した。 日暮 れに
なると休止し、追いついてきた仲間の一団といっしょに祈った。それが終わるとモラ・
ホ セイン は最 初に出 発し 、夜明 けに 歩を止 めて 祈ると き、 ふたた び熱 心な仲 間の 一団
と 合流し た。 仲間た ちか ら強く 要請 された とき のみ会 衆の 祈りを した が、そ の場 合、
仲 間の一 人に 祈りを まず 唱えさ せ、 自分は その あとに つづ いて唱 える ことも あっ た。
こ のよう に、 モラ・ ホセ インは 仲間 たちの 心に 強い献 身の 火を点 した のであ った 。そ
の うち何 人か は、歩 いて 旅をし てい る人た ちに 馬を提 供し 、自分 たち は旅の 疲れ など
まったく気にかけず、モラ・ホセインの後を徒歩でつづいた。
イ スフ ァハン の郊 外に近 づい たとこ ろで 、モラ ・ホ セイン は大 勢の仲 間の 一団が と
つ ぜん町 に入 ると、 住民 の好奇 心を そそり 、疑 惑を起 させ るかも しれ ないと 思っ た。
そ こで、 人目 につか ない ように 小人 数に分 かれ て町に 入る ように 忠告 した。 一団 が町
に 到着後 二、 三日し て、 シラズ のニ ュース がと どいた 。す なわち 、シ ラズは 騒乱 状態
で 、バブ との 交際は 一切 禁止さ れて おり、 かれ らが計 画し ている その 町への 訪問 はき
わ めて危 険で ある、 とい うニュ ース であっ た。 モラ・ ホセ インは 、こ のとつ ぜん の悪
い 知らせ にも ひるま ず、 シラズ に向 かう決 心を し、信 頼で きる少 数の 仲間だ けに 、自
分 の意図 を知 らせた 。そ して、 身に 着てい る衣 服とタ ーバ ンを脱 ぎ、 その代 わり に外
套とコラサンの住民が用いるペルシャ帽をかぶり、馬の世話係をよそおった。そして、
だれも予期しないような時間に、弟と甥といっしょに敬愛する御方の町に出発した。
シ ラズ 市の門 に近 づいた とき 、モラ ・ホ セイン は弟 に、真 夜中 にバブ の伯 父の家 に
行くように指示した。伯父を通して自分の到着をバブに知らせてもらうためであった。
翌 日モラ ・ホ セイン は、 バブの 伯父 が日没 一時 間後市 の城 門外で 待っ ている とい うう
れ しいニ ュー スを受 け取 った。 モラ ・ホセ イン は約束 の時 間に伯 父に 会い、 かれ の自
宅 に案内 され た。バ ブは 数回夜 半に 伯父の 家を 訪れ、 夜明 けまで モラ ・ホセ イン と親
し く談話 しつ づけた 。こ の後す ぐ、 バブは イス ファハ ンに 集まっ てき ていた 弟子 たち
に 、徐々 にシ ラズに 行き 、そこ で自 分と会 える まで待 つよ うに述 べた 。その 際、 最大
限 の注意 をは らうよ うに 警告し 、シ ラズ市 には 二、三 人ず つ入り 、そ の後す ぐ分 散し
て旅人の宿舎に泊まり、めいめい仕事につくように指示した。
モラ・ホセインの到着後二、三日してこの町に到着した最初のグループには、アリ・
ナ リ、か れの 弟のミ ルザ ・ハデ ィ、 カリム 、モ ラ・ジ ャバ ド、ア リ・ ハラテ ィ、 そし
てミルザ・エブラヒムらがいた。バブと交わっているうちに、最後の三人は、徐々に、
心 が閉じ てい ること を暴 露し、 卑し い性格 をあ らわし てき た。バ ブの モラ・ ホセ イン
に 対する 愛顧 が深ま って いくに つれ て、か れら の怒り はは げしく なり 、くす ぶっ てい
た嫉妬の炎が燃え上がったのである。激怒しても、どうすることもできないかれらは、
つ いに、 詐欺 と誹謗 とい う卑し むべ き武器 に頼 った。 公に モラ・ ホセ インに 敵意 を示
す ことが でき なかっ たの で、あ らゆ る狡猾 な策 略を用 いて 、かれ の熱 心な賞 賛者 たち
の 心をあ ざむ き、敬 愛の 念を消 そう とした ので ある。 その 見苦し い振 舞いの ため 、か
れ らは仲 間の 同情を 失い 、忠実 なバ ブの弟 子の 一団か ら切 り離さ れる ことに なっ た。
そ の後、 かれ らは信 教の 敵と結 託し 、信教 の教 えと原 則を 完全に 否定 し、そ の町 の住
民 の間に 大騒 動を起 こし たため 、行 政当局 もそ の陰謀 を恐 れて、 つい にかれ らを 追放
した。(pp.161-162)
バ ブは 、かれ らの 陰謀と 悪事 を詳細 に述 べた書 簡を 書いた が、 その中 で、 かれら を
サ メリの 黄金 の子牛 にた とえた 。こ の子牛 は、 発言す る能 力も魂 もな い、卑 しむ べき
手 工品で あり 、不従 順な 人びと の礼 賛の的 であ る。モ ラ・ ジャバ ドと アリ・ ハラ ティ
に関して、バブはつぎのように書いた。
「おお神よ。この正道を踏みはずした者らの二
つの偶像、ジェブトとタグートに罪の宣告が下されますように。」その後、この三人は
ケルマンに行き、カリム・カーン(バブの悪名高き敵)と結束した。そして、カリム・
カ ーンの 陰謀 をいっ そう 進め、 かれ の信教 に対 する非 難を ますま す激 化する ため に全
力をつくしたのである。
か れら がシラ ズか ら追放 され た後の ある 夜、バ ブは 伯父の セイ エド・ アリ 自宅で 、
ア リ・ナ リ、 ミルザ ・ハ ディ、 およ びカリ ムと 会った 。バ ブはと つぜ んカリ ムに 向か
っ て聞い た。「カリ ムよ 。あな たは 顕示者 を探 してい るの か。」 この 上なく やさ しく、
静 かに語 られ た言葉 にカ リムは 茫然 となっ た。 このと つぜ んの質 問に 、はげ しく 動揺
し 青ざめ たか れは、 どっ と涙を 流し ながら バブ の足元 に身 を投げ た。 バブは かれ をや
さ しく腕 に抱 きかか え、 額に接 吻し て、自 分の そばに 座る ように 述べ 、慈愛 にあ ふれ
た言葉で、かれの心の動揺をしずめた。
家 にも どると すぐ 、アリ ・ナ リと弟 はカ リムに 、か れをと つぜ ん襲っ た激 しい心 の
動揺の原因について質問した。かれはこう答えた。
「お聞きください。今までだれにも
明 かさな かっ た不思 議な 体験を お話 しまし ょう 。成年 にな ってま だカ ズビン に住 んで
い たころ のこ とです 。わ たしは 神の 神秘を 解明 し、そ の聖 者と預 言者 の本質 につ いて
ど うして も理 解した いと いう強 い熱 望を感 じて いまし た。 ところ が、 学問を 身に つけ
な ければ この 目標に 達す ること がで きない こと に気が つい たので す。 そこで 父と 伯父
た ちの同 意を 得て、 仕事 をやめ 、勉 学と研 究に 没頭し はじ めまし た。 カズビ ンの 神学
校 に入学 し、 あらゆ る分 野の学 問の 修得に 努力 しまし た。 そして 、学 んだ知 識に つい
て 、ほか の学 生とよ く討 議しま した 。自分 の経 験を豊 かに したい と思 ったか らで す。
夜 になる と家 に帰り 、書 斎に閉 じこ もって 、だ れにも 邪魔 されず に何 時間も 勉強 しま
し た。こ のよ うに学 問に 没頭し たわ たしは 、睡 眠にも 空腹 にも無 頓着 になっ てし まっ
た ほどで した 。二年 内に 、イス ラム 教の複 雑な 法学と 神学 を修得 する 決心を し、 カリ
ム ・イラ バニ の講義 に欠 かさず 出席 しまし た。 この師 は、 当時、 カズ ビンで 聖職 者と
し て最高 の地 位にあ りま した。 わた しは、 かれ の博識 、敬 虔、美 徳を 心から 賞賛 して
い ました 。毎 夜、論 文を 書いて 提出 したと ころ 、それ に関 心を向 け、 注意深 く修 正し
て くれた ので す。か れは また、 わた しの進 歩を ひじょ うに よろこ んで くれて いる よう
で、わたしの修得した学識の深さをよくほめてくれました。(pp.162-163)
ある日、学生たちが集まっているところで、師はこう公表しました。
『学識を修得し
た賢明なカリムは、イスラム教の聖典の解説者として権威を獲得した。かれはもはや、
わ たしの 講義 にも、 ほか の教師 の講 義にも 出席 する必 要は ない。 来る 金曜日 に、 かれ
が 法学者 とし ての地 位を 得たこ とを 祝い、 会衆 の祈り の後 、かれ に修 業証書 を渡 す予
定である。』
こ の言 葉を残 して 師がそ の場 を去っ た直 後、学 生た ちがわ たし の方に きて 、わた し
の 業績を 心か ら祝っ てく れまし た。 わたし は胸 を大き くふ くらま せて 帰宅し まし た。
家 にもど ると 、カズ ビン 中で高 く尊 敬され てい る父と 伯父 の二人 が、 わたし の卒 業を
祝 うため に祝 宴を準 備し ていま した 。わた しは 二人に 、カ ズビン の著 名人へ の招 待を
の ばすよ うに 頼みま した 。かれ らは よろこ んで この要 請に 応じて くれ ました 。か れら
は 、わた しも そのよ うな 祝宴を 望ん でいる はず だから 、長 くは延 期し ないで あろ う、
と 思った ので す。そ の夜 、わた しは 書斎に 入っ て一人 きり になり 、考 え込み まし た。
(p.163)
わたしは自分にこう問いました。
『おまえは清められた精神をもつ者だけが、イスラ
ム 教の聖 典の 解説者 とし て権威 ある 地位に のぼ れる、 など とあさ はか にも想 像し てい
な かった か。 おまえ はこ の地位 に達 した者 は誤 りを犯 さな いと信 じ込 んでい なか った
か 。おま えは すでに 、そ の地位 を獲 得した 者と みなさ れる のでは ない のか。 カズ ビン
の もっと も著 名な聖 職者 がおま えが その地 位に 達した こと を認め 、公 表した ので はな
い のか。 公正 に判断 せよ 。おま えは 胸の中 で、 自分は その ような 清純 と崇高 なる 超脱
の 域に達 した 者だと みな すのか 。そ の状態 は以 前、お まえ がその 高い 地位を 切望 する
者 の必要 条件 だとみ なし ていた もの ではな いか 。おま えは 自分を 利己 的な欲 望の 汚れ
をすべて捨て去った者だとみなすのか。』
座 って 考えて いる うちに 、徐 々に、 自分 には価 値が ないと いう 思いに おそ われて き
ま した。 わた しはい まだ に、心 配や 困惑、 誘惑 や疑い に迷 わされ てい るのが わか って
い ました 。講 義の進 め方 、会衆 の祈 りの導 き方 、イス ラム 教の法 律や 戒律の 実施 方法
などを考えると、心が重くなったのです。自分の義務をどのように果たせばよいのか、
前 任者よ りす ぐれた 業績 をどの よう に成し 遂げ ればよ いの か、な どと 心配し つづ けま
し た。そ うし ている うち に、強 い屈 辱感に おそ われ、 神に 許しを 求め ずには おれ なく
な りまし た。 学問修 得の 目的は 、神 の神秘 を解 明し、 確信 に至る こと ではな かっ たの
か、と心の中で思ったのです。
『公正に判断せよ。おまえのコーランの解釈に確信がも
てるのか。おまえが公布する法律は、神の意志を反映していると確信できるのか。』と
自 分に問 いま した。 その ときと つぜ ん、自 分が 間違っ てい るのに 気づ いたの です 。は
じ めて、 いか に学識 のさ びがわ たし の魂に 食い 込み、 ヴィ ジョン をく もらせ たか を悟
っ たので す。 わたし は自 分の過 去を 後悔し 、こ れまで の無 駄な努 力を 嘆きま した 。わ
た しと同 じ地 位にあ る人 たちも 、同 じ苦悩 をも ってい るこ とを知 って いまし た。 かれ
らは、いわゆる学識なるものを修得したとたんに、イスラム教の法律の解説者となり、
その教義を判断する特権を得るからです。
このように、夜明けまで考えにふけっていました。その夜、わたしは何も口にせず、
また睡眠も取らないで、神に祈りました。『おお、わが神よ。あなたはわたしの苦境を
見 ておら れま す。あ なた の聖な るご 意志と ご満 足に添 わな い望み は一 切もっ てい ない
こ ともご 存知 です。 あな たの聖 なる 宗教が 、多 数の宗 派に 分かれ てい ること を見 て、
当惑しております。過去の宗教が分派に裂かれたことを見て深くとまどっております。
当 惑して いる わたし を導 き、疑 念を 取り除 いて 下さい 。慰 めと導 きを 得るた めに は、
どこを向けばいいのでしょうか。』(p.164)
わ たし は、そ の夜 、号泣 のあ まり意 識が もうろ うと なって いま した。 その ときと つ
ぜ ん、大 勢の 人びと が集 まって いる 幻を見 たの です。 その 人たち の輝 く顔に わた しは
深 い感銘 を受 けまし た。 セイエ ド( モハメ ッド の子孫 )の 衣を身 につ けた高 貴な 人物
が 、説教 壇に 座り会 衆に 向かっ て、 コーラ ンの つぎの 聖な る句の 意味 を解説 して いま
し た。『 わが ために 努力 をする 者ら を、わ が道 におい て導 こう。』わ たしは 、こ の人物
の 顔に惹 かれ て立ち 上が り、そ の方 に歩み 寄り 足元に 身を 投げよ うと したと き、 とつ
ぜ ん、幻 は消 えまし た。 そのと きわ たしの 心は 光で満 たさ れ、言 葉で は表現 でき ない
ほどのよろこびで一杯になったのです。
そ こで すぐ、 モハ メッド ・ジ ャバド 父、 アラー ・バ ルディ に相 談しま した 。かれ は
カ ズビン の町 では、 鋭い 洞察力 で知 られて いる 人でし た。 わたし の見 た幻を 話し たと
こ ろ、か れは 笑みを 浮か べ、そ の幻 に現わ れた セイエ ドの 特徴を 、お どろく ほど 正確
に描写したのです。そしてこう言いました。
『その高貴な人物は、カゼムにほかなりま
せ ん。か れは 今カル ベラ に滞在 して おり、 毎日 イスラ ム教 の聖な る教 えを弟 子た ちに
解 説して いま す。か れの 講義を 聞い た者は 、活 気づけ られ 、啓発 され ますが 、か れの
言葉が聴衆にあたえる影響を十分述べることはできません。』
こ れを 聞いて うれ しくな った わたし は立 ち上が り、 かれに 真心 から感 謝の 言葉を 述
べ て家に もど り、カ ルベ ラへの 旅の 準備を はじ めまし た。 以前か ら知 ってい る仲 間の
弟 子がき て、 わたし に『 学者の カリ ムとい う人 が、あ なた に会い たい そうで すの で、
か れの家 を訪 問して いた だけま すか 。それ とも 、かれ に来 ていた だい た方が よろ しい
でしょうか』と聞きました。わたしは、こう答えました。『わたしは、カルベラのエマ
ム ・ホセ イン の廟を 訪れ たいと 願っ てきま した 。その 巡礼 の旅を 今す ぐはじ める こと
に しまし たの で、こ れ以 上出発 を延 ばすこ とは できま せん 。この 町を 離れる とき 数分
間、かれを訪れることができるかもしれません。もし、できなければ、お許しを願い、
わたしが正しい道に導かれるように祈って下されば幸いです。』
わ たし は親戚 の者 たちに 、わ たしの 見た 幻とそ の意 味を内 密に 明かし 、カ ルベラ へ
の 訪問計 画も 知らせ まし た。そ の日 、わた しの 言葉で 、か れらは カゼ ムを敬 愛す るよ
う になり 、ま た、ア ラー ・バル ディ にも強 く惹 かれ、 かれ とこだ わり なく交 わり 、か
れの熱心な賞賛者となったのです。(pp.165-166)
わ たし の弟、 アブ ドル・ ハミ ド(後 日、 テヘラ ンで 殉教) は、 わたし のカ ルベラ へ
の 旅に同 行し ました 。カ ルベラ で、 わたし はセ イエド ・カ ゼムに 会い 、その 講義 の様
子 を見て びっ くりし まし た。幻 で見 たのと そっ くりで あっ たから です 。かれ は講 義の
中 で、あ る節 の解説 をし ていま した が、そ れも 幻で聞 いた のとま った く同じ 節の 解説
で したの で、 さらに 仰天 しまし た。 わたし は席 につき 、講 義に耳 を傾 け、そ の論 説の
力 強さと 思考 の深遠 さに 深く感 銘し たので す。 講義が 終わ ると、 かれ はわた しを 礼儀
正 しく迎 え、 大変親 切に してく れま した。 弟も わたし も、 これま でに 経験し たこ との
な いよう なよ ろこび を感 じまし た。 夜明け に、 二人で かれ の家に 行き 、かれ に同 行し
てエマム・ホセインの廟を訪問しました。
わ たし は冬の 期間 ずっと かれ と親し く交 際しま した 。その 間、 かれの 講話 に欠か さ
ず出席しましたが、講話の内容はつねに約束されたガエムの顕示に関するものでした。
か れはこ のテ ーマを 唯一 の主題 とし ていた ので す。ど の文 章、ま たは どの伝 承に つい
て解説していても、かならず最後には、約束された啓示の出現に言及して講話を終え、
公につぎのような宣言をくり返したのです。
『約束された御方はわれわれの間におられ
る 。その 御方 の定め られ た出現 時は 刻々近 づい ている 。そ の御方 の到 来のた めに 準備
す るがよ い。 その御 方の 美を認 める ことが でき るよう に心 を清め るこ とだ。 わた しが
こ の世を 去る までは 、そ の御方 は現 われな いよ うにな って いる。 皆は わたし の死 後、
その御方を探すために立ち上がらなければならないのだ。その御方を見つけるまでは、
一瞬たりとも休んではならならない。』(p.166)
新 年を 祝った あと 、カゼ ムは わたし にカ ルベラ から 去るよ うに 命じ、 別れ のあい さ
つをしました。
『カリムよ。安心するがよい。あなたは神の啓示の日に、この大業の勝
利 のため に立 ち上が る者 らの一 人で あるか らだ 。その 祝福 された 日に 、わた しを 思い
起こしてくれるように願う。』わたしがカズビンにもどると、その町の僧侶たちの敵意
を刺激するので、カルベラに居残りたいとかれに願いました。答えはこうでした。
『神
を 完全に 信頼 し、か れら の陰謀 をま ったく 無視 して仕 事に つきな さい 。かれ らが 反対
しても、あなたは絶対に傷つくことはないので安心しなさい。』わたしはこの忠告にし
たがい、弟といっしょにカズビンに向かいました。
カ ズビ ンに到 着後 すぐカ ゼム の勧告 を実 行しま した 。カゼ ムの 指示に した がうこ と
に より、 わた しは悪 意を もった 反対 者たち をす べて黙 らせ ること がで きまし た。 日中
は 仕事に はげ み、夜 にな ると家 にも どり、 静か な部屋 で祈 りと瞑 想に 時間を 過ご しま
した。わたしは涙して神と交信し、つぎのようにこん願したのです。
『あなたはこう約
束 されま した 。あな たか ら霊感 を受 けた者 の口 を通し て、 わたし は聖 なる日 を見 、あ
な たの啓 示を 目撃で きる と。あ なた はまた 、こ う約束 され ました 。わ たしは あな たの
大 業の勝 利に 立ちあ がる 者らの 一人 になる と。 ではい つそ の約束 を果 たされ るの でし
ょ うか。 いつ あなた の慈 愛ある 御手 で、そ の恩 恵のと びら を開き 、そ の不滅 の恩 寵を
わたしに付与して下さるのでしょうか。』わたしはこの祈りを毎夜くり返し、夜明けま
でたん願しつづけました。
一 八四 〇年二 月一 三日の 前夜 、祈り にふ けって いる うちに 、夢 うつつ の状 態にな り
ま した。 する と、わ たし の眼前 に雪 のよう に白 い小鳥 があ らわれ 、わ たしの 頭上 を舞
っ たあと そば の木の 小枝 に降り まし た。言 葉で は言い 表せ ないよ うな 甘美な 音調 で、
つぎのように述べました。
『カリムよ。あなたは顕示者を探しているのか。一八四四年
まで待つがよい。』そしてすぐ、小鳥はどこかへ飛び去ってゆきました。わたしはこの
神 秘的な 言葉 に深く 動揺 しまし た。 また、 その 幻のす ばら しさは 、長 い間、 わた しの
心 に残り 、ま るで楽 園の よろこ びを すべて 味わ ってい る気 分でし た。 このよ ろこ びは
抑えがたいものだったのです。(pp.166-167)
こ のよ うに、 小鳥 の神秘 的な メッセ ージ は、わ たし の魂に 深く 浸透し 、わ たしか ら
一時も離れることはありませんでした。しかし、それをつねに思いめぐらしながらも、
だ れにも 話す ことは しな かった ので す。そ の甘 美さが なく なるの を恐 れたか らで す。
数 年後、 シラ ズでの 聖な る宣言 がわ たしの 耳に とどき まし た。そ の日 にすぐ 、わ たし
は シラズ に向 かい、 その 途中の テヘ ランで 、モ ハメッ ド・ モアレ ムに 会いま した 。か
れ は、そ の宣 言の内 容を 教え、 それ を受け 入れ た者た ちは 、カル ベラ に集合 して 、指
導 者がヘ ジャ ーズか らも どるの を待 ってい ると 知らせ てく れまし た。 ところ で、 この
旅 できわ めて 苦痛で あっ たのは 、モ ラ・ジ ャバ ド(大 業の 違反者 )が ハマダ ンか らカ
ル ベラま で同 行して きた ことで した 。カル ベラ で、幸 いあ なたや ほか の信者 たち に会
う ことが でき ました が、 その間 もず っとわ たし は、あ の小 鳥が伝 えて くれた 不思 議な
メ ッセー ジを 胸に秘 めて いまし た。 その後 、バ ブの面 前に 出て、 かれ の口か らわ たし
が以前聞いたと同じ音調の同じ言葉を聞いたとき、その意味をはじめて悟ったのです。
そ の威力 と栄 光にす っか り圧倒 され たわた しは 、思わ ずバ ブの足 元に ひざま ずき 、か
れの名を称えました。」
一 八四 八年の はじ め、一 八才 になっ てい たわた し( 著者) は、 故郷の ザラ ンドの 村
を 出てク ムの 町に行 った 。そこ で、 ザビー とい う称号 のエ スマイ ル・ ザバレ と偶 然出
会った。かれは後日、バグダッドで、バハオラの道に自らの生命をささげた人である。
か れを通 して 、わた しは 新しい 啓示 を認め るこ とがで きた のであ る。 かれは 当時 、シ
ェ イキ・ タバ ルシ砦 の勇 敢なる 防御 者たち に加 わる決 心を して、 マザ ンダラ ンへ の出
発 準備を して いた。 その とき、 わた しと同 年の 若者で クム 出身の ハカ クとわ たし を連
れ て行く 予定 であっ たが 、状況 の変 化で、 それ ができ なく なった 。そ こで、 出発 前に
「 テヘラ ンに ついた 後、 いつ合 流で きるか を知 らせる 」と 約束し た。 談話中 に、 かれ
は カリム の不 思議な 経験 につい て語 った。 それ を聞い たわ たしは 、こ の人物 にど うし
て も会い たい と思っ た。 その後 、テ ヘラン に行 き、そ の町 の寺院 の神 学校で 、エ スマ
イ ル・ザ バレ に会っ た。 かれは 、そ の神学 校に 住んで いた カリム をわ たしに 紹介 して
く れた。 その ころ、 シェ イキ・ タバ ルシ砦 の戦 いが終 わり 、タバ ルシ の仲間 に加 わろ
う とテヘ ラン に集合 して いたバ ブの 弟子た ちは 故郷に もど ったこ とを 知った 。カ リム
は 首都テ ヘラ ンに留 まり 、ペル シャ 編のバ ヤン 書(バ ブの 著作) の複 写に専 念し た。
当 時、わ たし はかれ と親 しく交 際し 、その 間か れに対 する 敬愛と 賞賛 は深ま って いっ
た 。テヘ ラン での最 初の 出会い から 三八年 がた った今 も、 かれの 友情 とその 信仰 の深
さを感じるのである。このかれに対する愛情と尊敬が、かれの生涯の前半について長々
と 述べる 理由 となっ たの である 。こ れはま た、 かれの 生涯 の転換 点と なった 出来 事で
も あった 。読 者も、 以上 の話を 読ん で、こ の偉 大な啓 示を 認めら れる ように なれ ば幸
いだと願っている。(p.168-169)
第九章
巡 礼後のバブのシラズ滞在(つづき)
モ ラ ・ ホ セイ ン が シ ラズ に 到 着 して ま も な く、 町 の 住 民は ふ た た び抗 議 の 声 をあ げ
だ した。 モラ ・ホセ イン がバブ と親 密に交 際を つづけ てい るのを 知っ て不安 にな り、
さわぎはじめたのであった。
「この男はわれわれの町に来て、またもや反旗をひるがえ
そ うとし てい る。か しら と共に 、わ れわれ の伝 統ある 機構 をこれ まで 以上に 攻撃 しよ
うとしているのだ。」不穏な町の状況を見たバブは、モラ・ホセインにヤズドを通って
故 郷のコ ラサ ンに帰 るよ うに指 示し た。シ ラズ に集合 して いた残 りの 弟子た ちに はイ
ス ファハ ンに もどる よう に命じ た。 ただ、 カリ ムだけ は残 し自分 の著 述を書 き写 す仕
事をあたえた。
こ の賢 明な予 防策 によっ て、 怒り狂 う住 民の暴 動の 危機は まぬ かれた 。む しろバ ブ
の 教えが シラ ズ市外 にも ひろが って ゆくは ずみ をあた えた のであ った 。国中 に分 散し
て いたバ ブの 弟子た ちは 、大勢 の人 びとに 、新 しく誕 生し たバブ の啓 示がも たら す再
生 力の偉 大さ を大胆 に宣 言しは じめ た。バ ブの 名声は いた るとこ ろに ひろが り、 首都
テ ヘラン と各 州の権 力者 たちの 耳に もとど いた 。指導 者た ちも一 般大 衆も、 熱心 に質
問 しはじ めた 。バブ の直 弟子か ら、 その出 現の 先触れ とな ったし るし や状況 を聞 いた
者 たちは 、大 変にお どろ き、不 思議 な思い でい っぱい にな った。 政界 と宗教 界の 指導
者 たちは 、自 ら出か ける か、ま たは 、有能 な代 表者た ちを 送って 、こ のおど ろく べき
運動について調べはじめた。(p.170-171)
モ ハメ ッド国 王も 、バブ に関 する報 告が 真実か どう かを確 かめ 、その 内容 を調べ る
こ とにし た。 そこで 、臣 下の中 で、 だれよ りも 学識が あり 、雄弁 で影 響力を もつ ヤヒ
ヤ (呼称 ヴァ ヒド) を代 表とし て選 び、バ ブに 会見さ せ、 調査の 結果 を報告 させ るこ
と にした 。ヤ ヒヤが 公正 で、す ぐれ た能力 と鋭 敏な洞 察力 をそな えて いるこ とを 確信
していたからであった。ヤヒヤは、ペルシャの有力者たちの中でも最高の地位にあり、
宗 教界の 指導 者たち が多 数出席 した 会合で は、 つねに 主な 講演者 であ った。 かれ に向
か って意 見な どを出 す者 はなく 、皆 かれを 尊敬 して沈 黙を 守った 。皆 その英 知と 比類
のない知識と慎重な分別を認めていたからである。(p.171)
当 時、 ヤヒヤ は国 王の賓 客と して、 儀式 担当の ルツ ・アリ の邸 宅に滞 在し ていた 。
国 王はル ツ・ アリに 、ヤ ヒヤを シラ ズに送 って バブに つい て調査 させ よ、と 秘密 命令
を出した。
「こう伝えよ。われは、かれの高潔さを信じてうたがわない。その高い道徳
観 念と知 性は 賞賛す べき もので 、バ ブの調 査に は、聖 職者 の中で 最適 任者で ある とみ
なす。かれを、シラズに送り、十分に調査させ、その結果をわれに知らせよ。その後、
取るべき方法が分かろう。」
ヤ ヒヤ 自身も 、バ ブが何 を主 張して いる かを直 接知 りたい と思 ってい たが 、事情 が
許 さず、 ファ ルスへ の旅 ができ ない でいた 。そ こで、 よろ こんで 国王 の要請 を受 け、
こ れで自 分の 望みも 果た せると 思い 、すぐ シラ ズに向 けて 出発し た。 旅の途 中、 バブ
に 差し出 す質 問をい ろい ろと考 えた 。バブ の使 命が真 実で 、正当 であ るかど うか は、
こ れらの 質問 への応 答次 第であ ると 考えた 。シ ラズに 到着 後、コ ラサ ン滞在 中親 しく
な ったア ジム という 呼称 をもつ シェ イキ・ アリ に会っ た。 そこで アジ ムに、 バブ との
会見に満足したかどうかを聞いた。アジムはこう答えた。
「バブに実際会われて、ご自
分の力でその使命をよく調べられるようにすすめる。友人としてあなたに忠告するが、
後 になっ て、 バブへ の無 礼を嘆 くこ とがな いよ うに、 最高 の礼儀 をつ くして バブ と話
されるがよい。」(p.172-173)
ヤ ヒヤ は、セ イエ ド・ア リ( バブの 伯父 )宅で バブ に会い 、ア ジムの 忠告 通りに バ
ブ に礼儀 を示 した。 そし て、お よそ 二時間 にわ たって バブ に質問 した 。それ は、 イス
ラ ム教の 形而 上学的 な教 えの難 解な 論題、 コー ランの 中の あいま いな 節、エ マム の神
秘的な伝承と予言についてであった。バブはまず、ヤヒヤの質問に注意深く耳を傾け、
そ のあと 、各 質問に 手短 ではあ るが 説得力 のあ る答え で応 じた。 この 簡潔で 明晰 な答
え に、ヤ ヒヤ はおど ろき 、賞賛 の気 持ちで いっ ぱいに なっ た。そ して 、自分 の生 意気
さ と誇り を恥 じた。 同時 に優越 感も 完全に 消え 去った 。そ の場か ら去 るとき バブ にこ
う述べた。
「次の会見で、残りの質問を提出してわたしの調査を終わりたいと思ってい
ます。」
そこから離れるとすぐアジムに会い、会見の様子を語った。
「バブに自分の知識を必
要 以上に 長々 と述べ たあ と、質 問し ました 。バ ブは、 質問 に簡潔 に答 え、こ れま で解
決 できな いで いた問 題を 解いて くれ ました 。わ たしは 屈辱 感でい っぱ いにな り、 かれ
の 面前に いる ことが いた たまれ なく なって 、い そいで 別れ を告げ まし た。」 アジ ムは、
前にあたえた忠告をかれに思い出させ、次回には、それを忘れないようにと念押した。
二 回目の 会見 で、ヤ ヒヤ はバブ に提 出する つも りであ った 質問を 、完 全に忘 れて しま
っているのに気づき、仰天した。そこで仕方なく、調査とは関係のない質問を出した。
す ると、 バブ はかれ が一 時忘れ てい た質問 に、 以前と 同じ ように 、明 晰かつ 簡潔 に答
えはじめたのである。これに一層おどろいたかれは、後日、こう述べた。(p.173)
「 わたし は、 深い眠 りに おちい って いまし た。 ところ が、 それま で忘 れてい た質 問に
答 えてい るバ ブの言 葉が 耳に入 り、 はっと 目が 覚めた ので す。そ の声 は、わ たし の耳
に ずっと こだ まして いま した。『そ れは結 局、 偶然の 一致 ではな かっ たのか 。』 わたし
の 心はか き乱 され、 考え をまと める ことが でき ません でし た。で 、再 度、許 しを 請う
てその場を去りました。その後、アジムに会いましたが、かれはわたしを冷たく迎え、
きびしく忠告しました。
『あなたもわたしも学校に行かなかった方がよかったのだ。わ
れ われが つま らない こと に気を 取ら れ、う ぬぼ れてい るた め、わ れわ れを救 って くれ
る 神の恩 恵を 受けら れな いでい るの だ。そ れど ころか 、そ の源泉 であ る御方 に苦 しみ
を あたえ てい るのだ 。次 回の会 見前 に、バ ブの 面前に ふさ わしい 謙虚 さと超 脱心 をも
っ て出ら れる ように 、そ して、 あな たを悩 まし ている 不安 と疑問 をバ ブが慈 悲深 く除
いて下さるように、神にこん願されてはどうか。』
バ ブ と の 三回 目 の 会 見で 、 コ ー サル の 章 ( コー ラ ン ) の注 釈 を 要 請す る こ と にし ま
し た。し かし 、バブ には その要 請を 言わな いこ とにし たの です。 もし 、バブ がわ たし
か ら求め られ ずに、 その 注釈を 著わ しはじ め、 しかも それ が、現 在コ ーラン の注 釈者
た ちが用 いて いる基 準と はまっ たく 違った もの であれ ば、 かれの 使命 は神か ら下 され
た もので ある ことを 確信 し、よ ろこ んでか れの 大業を 受け 入れよ うと 決めま した 。そ
う でなけ れば 、バブ を認 めない こと にした ので す。こ う決 心して 行っ たとこ ろ、 バブ
の 面前に 案内 された とた ん、自 分で は説明 でき ない恐 怖感 におそ われ ました 。か れの
顔 を見て わた しの四 肢は ふるえ 出し たので す。 国王の 面前 に何回 出て も、少 しも 臆病
に なるこ とな どなか った わたし です が、そ のと きばか りは 、畏敬 の念 でいっ ぱい にな
り 、胸が どき どきし て立 ってい るこ ともで きな くなっ たの です。 これ を見た バブ は、
席 から立 ち、 わたし の方 に歩み 寄り 、わた しの 手を取 って 、自分 のそ ばに座 らせ まし
た。そして、こう言われました。
『 わたし に望 んでお られ ること を述 べなさ い。 よろこ んで 、それ を明 らかに して あげ
よう。』わたしは、おどろきで何も言えませんでした。理解することも話すこともでき
な い赤子 のよ うにな って いたの です 。バブ はほ ほ笑み なが ら見つ め、 こう述 べら れま
した。
『コーサルの章の注釈を著わせば、あなたは、わたしの言葉が神から下されたも
の である こと を認め ます か。わ たし の言葉 は、 魔術や 魔力 とはま った く関係 がな いこ
とを認めますか。』この言葉を聞いてわたしの眼からは涙があふれ出てきました。その
とき、わたしの口からもれたのは、このコーランの句だけでした。
『おお、われらの主
よ 。われ われ は、自 分自 身を不 当に 取り扱 いま した。 あな たがわ れわ れを許 され ず、
哀 れ に も 思 っ て 下 さ ら な け れ ば 、 わ れ わ れ は 、 か な ら ず 滅 び る で あ り ま し ょ う 。』
(p.173-174)
昼 過 ぎ に 、 バブは 伯父 に筆箱 と紙 をもっ て来 させ、 コー サルの 章に ついて 注釈 を書
き はじめ られ ました 。そ のとき の威 厳にみ ちた 光景は 述べ るすべ があ りませ ん。 かれ
の ペンか ら、 おどろ くべ き速度 で言 葉が流 れ出 しまし た。 信じら れな いほど の筆 記速
度 、おだ やか でやさ しい 声、そ して 強烈な 文体 にわた しは 仰天し てし まいま した 。バ
ブ は、日 没ま で書き つづ けたあ と、 ペンを 置き 、紅茶 を求 められ まし た。そ の直 後、
わ たしの 前で 声高ら かに 読みは じめ られた ので す。そ の崇 高な注 釈に 秘めら れて いる
宝 を、こ の上 なく甘 美な 音調で 、流 れるよ うに 顕わさ れる のを聞 いて 、気が 狂わ んば
か りに心 が躍 動しま した 。その あま りの美 しさ にわれ を忘 れ、三 回以 上も気 絶し そう
に なりま した 。バブ は、 わたし の意 識を回 復さ せるた めに 、バラ 香水 を顔に ふり かけ
ま した。 そこ で元気 を取 りもど した わたし は、 かれの 朗読 を最後 まで 聞くこ とが でき
たのです。(p.175)
バブは、朗読を終えると席を立ち、伯父にわたしの世話を依頼しました。
『この方は、
カ リムと 協力 して、 この 新しい 注釈 文を書 き写 し、そ れが 正確に なさ れたか どう かを
確認するようになっている。それまで、あなたの客人となるのでよろしく頼む。』カリ
ム とわた しは 、三日 三晩 この仕 事に 専念し まし た。注 釈文 を読む 仕事 と、そ れを 書き
写 す仕事 を交 代でや りな がら全 文を 終え、 その 中の伝 承が 正確で ある かどう かを 確認
し ました 。こ の仕事 にた ずさわ った ことで 、わ たしの 確信 は不動 のも のとな った ので
す 。たと え地 上の勢 力が 団結し て向 かって きた として も、 この偉 大な 大業へ の確 信を
ゆるがすことはできなかったでありましょう。
わ た し は 、シ ラ ズ に 到着 以 来 、 ファ ル ス の 知事 ホ セ イ ン・ カ ー ン の家 に 滞 在 して い
ま したの で、 その家 を長 期間留 守に すると 、知 事はわ たし を疑い だし 、怒る かも 知れ
な いと感 じま した。 そこ で、バ ブの 伯父と カリ ムに別 れを 告げ、 知事 の家に もど りま
した。わたしを探していた知事は、わたしが バブの魔力にとりつかれたかどうかを知
り たがり まし た。わ たし は、こ う答 えまし た。『人間 の心 を変え 得る のは神 だけ です。
神 以外に はわ たしの 心を とりこ にす るもの はあ りませ ん。 神から 下さ れた人 だけ がわ
た しの心 を惹 きつけ るこ とがで きま す。そ の人 の言葉 はま さしく 、真 理の声 だか らで
す。』
こ の 答 え に、 知 事 は 黙っ て し ま いま し た 。 しか し そ の 後、 知 事 は ほか の 者 た ちに 、
わたしもまた、手のつけようがないほど、かの若者(バブ)の魅惑のとりこになった、
と 述べて いる ことを 知り ました 。か れはさ らに 、モハ メッ ド国王 に書 簡を送 り、 シラ
ズに滞在中、わたしは市の僧侶たちとの交際をすべてことわった、と訴えたのです。
『か
れ (ヤヒ ヤ) は、名 目上 はわた しの 客人で すが 、何日 もつ づけて わた しの家 を留 守に
し ました 。か れがバ ビ( バブの 弟子 )にな り、 心も魂 もバ ブのと りこ になっ たこ とは
間違いありません。』(p.176-177)
国王自らも、国の式典で、アガシ(総理大臣)につぎのように言われたそうです。
『最
近 、ヤヒ ヤが バビに なっ たとい う報 告を受 けた 。もし 、そ れが事 実で あれば 、か のセ
イエド(バブ)の大業をさげすむことを止めなければならない。』一方、ホセイン・カ
ーン(ファルスの知事)は、つぎのような命令を国王から受けました。
『われは臣下に、
ヤ ヒヤの 高い 地位を 損な うよう な非 難の言 葉を 口にす るこ とをき びし く禁じ る。 ヤヒ
ヤは、高貴な家柄の出身で、深い学識を身につけ、最高の美徳をそなえている。また、
い かなる 場合 でも、 国益 とイス ラム 教に役 に立 たない 運動 に耳を かす ような 人物 では
ない。』知事は、この国王の命令で、公にはわたしに反対できませんでしたが、ひそか
に わたし の権 威を傷 つけ ようと しま した。 知事 が敵意 をい だいて いる ことは 顔に 表わ
れ ていま した 。しか し、 国王が わた しに好 意を 寄せて おら れるの で、 わたし を傷 つけ
ることも、わたしの名声を落とすこともできなかったのです。
そ の 後 、 バブ は こ う 命じ ま し た 。ボ ル ジ ェ ルド に 旅 し 、わ た し の 父に 新 し い 神の メ
ッ セージ を細 心の注 意を はらっ て伝 えるよ うに と。父 は、 わたし の話 を聞い てバ ブの
メ ッセー ジを 否認し よう とはし なか ったの です が、そ れに 関わる こと はせず に、 自分
の道を選びました。」(p.177)
も う 一 人 、そ の 国 で 高い 地 位 に あっ た 人 で 、バ ブ の メ ッセ ー ジ を 冷静 に 調 査 して 受
け 入れた のは 、モラ ・モ ハメッ ド・ アリで あっ た。か れは 、ザン ジャ ン出身 で、 ホッ
ジ ャトと いう 呼称を バブ からあ たえ られて いた 。かれ は、 独立心 とす ぐれた 独創 性を
も ち、伝 統的 なもの 一切 から自 分を 切り離 して いた。 そし て、聖 職者 の階級 制度 、す
な わち、 高い 地位の アブ ヴァブ ・ア ルバエ (不 在のエ マム と信者 の媒 介者) から 、一
番 低い地 位に ある僧 侶に いたる 階級 制度を 非難 し、聖 職者 たちの 品性 を軽べ つし 、そ
の堕落と悪徳をなげいていた。
ホ ッ ジ ャ トは ま た 、 バビ に な る 前に 、 シ ェ イキ ・ ア ー マド と セ イ エド ・ カ ゼ ムの 両
人 をも軽 蔑し ていた 。シ ーア派 の歴 史を汚 した 悪行を ひど く憎ん でい たので 、そ の派
に 属する 者は 、たと え高 い学識 をそ なえて いて も、考 慮に 値しな いと みなし てい たの
で ある。 かれ はザン ジャ ンの僧 侶た ちと激 しい 論争を する ことも あっ た。国 王の 仲裁
が なかっ たな らば、 それ らの論 争は 、危険 な騒 動と流 血に なって いた であろ う。 そし
て ある日 、か れはつ いに 首都テ ヘラ ンに召 され ること にな った。 テヘ ランと ほか の都
市 の聖職 者代 表たち の面 前で、 自己 の主張 の正 しさを 証明 するよ うに 求めら れた ので
あ る。か れは 独力で その 卓越性 を証 明し、 代表 たちを 黙ら せるこ とが できた 。代 表者
た ちは、 胸中 ではホ ッジ ャトの 意見 に反対 し、 その行 為を 非難し たが 、表面 では 、か
れの権威を認め、その意見に同意せざるを得なかった。
同 国 人 を 信頼 せ ず 、 その 判 断 力 を軽 蔑 し て いた ホ ッ ジ ャト は 、 他 人の 賞 賛 に も、 非
難 にもま った く無関 心で あった 。聖 なる呼 び声 がシラ ズか らとど くや いなや 、自 分の
信 頼する 弟子 の一人 、エ スカン ダー ルに、 シラ ズに行 って この件 を十 分調査 し、 その
結 果を報 告す るよう にと 命じた 。エ スカン ダー ルは、 バブ の面前 に出 るとす ぐ、 新し
い 生命力 を感 じ取っ た。 そして シラ ズに四 十日 留まっ たが 、その 間、 バブの 栄光 ある
知識をできるかぎり吸収した。(p.178-179)
エ ス カ ン ダー ル が バ ブの 許 し を 得て ザ ン ジ ャン に も ど った と き 、 その 市 の 有 力な 僧
侶 たち全 員が ホッジ ャト のとこ ろに 集まっ てい た。か れが 姿をあ らわ すとす ぐ、 ホッ
ジ ャトは 、バ ブの教 えを 信じた かど うかを たず ねた。 エス カンダ ール は、持 参し たバ
ブの書き物を差し出し、
「わたしの師であるあなたの判断にしたがうのが自分の義務だ
と思います。」と述べた。ホッジャトは、怒って叫んだ。「何だと? 名士の方々がおら
れ なけれ ば、 お前を きび しく罰 する ところ だ。 信仰上 の問 題を他 人の 賛否に よっ て決
めるとは何ごとだ。」
ホ ッ ジ ャ トは 、 エ ス カン ダ ー ル から ガ ュ ー モー ゥ ル ・ アズ マ ( バ ブの 書 ) を 受け 取
り、その一ページに眼を通した瞬間、地面にひれ伏し叫んだ。
「この書の言葉は、コー
ラ ンと同 じ源 泉から 来た ものだ 。こ の聖な る書 が真実 であ ると認 めた 者は皆 、そ の中
の言葉が神から下されたことを証言し、その著者の教えにしたがわなければならない。
こ の集会 に集 まった 方々 に証人 とな っても らお う。わ たし はこの 書の 著者に 真心 から
の 忠誠を 誓う 。たと え、 その御 方が 夜を昼 と呼 び、太 陽を 蔭と宣 言さ れたと して も、
わ たしは ため らわず に、 その判 断に したが い、 その意 見を 真理の 声と みなそ う。 その
御方を否認する者はだれであれ、神自身を否定する者とみなす。」こう述べて、かれは
集会を終えた。(p.179)
前 章 で 、 ゴッ ド ス と サデ ィ ク が 、貪 欲 な 暴 君ホ セ イ ン ・カ ー ン ( ファ ル ス の 知事 )
か らきび しく 罰せら れ、 シラズ から 追放さ れた 件につ いて 不十分 なが ら述べ てみ た。
こ こでは 、両 人がシ ラズ 市から 追放 された あと の活動 を見 ること にす る。二 人は 二、
三 日間共 に旅 をした 後別 れた。 ゴッ ドスは カリ ム・カ ーン と会見 する ために ケル マン
に 向かい 、サ ディク は、 ヤズド に歩 を向け た。 ファル スで 強制的 に放 棄させ られ た宣
布活動を、ヤズドの僧侶たちの間でつづけるためであった。
ゴ ッ ド ス はケ ル マ ン に到 着 後 、 カル ベ ラ 滞 在中 に 知 り 合っ た ジ ャ ヴァ ド の 家 に迎 え
入 れられ た。 この人 の学 識と能 力は 、ケル マン の住民 にひ ろく知 られ ていた 。ジ ャヴ
ァ ドは自 宅で の集会 で、 若者の 客人 (ゴッ ドス )に、 かな らず名 誉の 席をあ たえ 、最
高 の敬意 と礼 儀を示 した 。ひじ ょう に若く 、一 見平凡 な人 物ゴッ ドス が特別 扱い を受
けていることに、カリム・カーンの弟子たちはねたましく思った。そこで弟子たちは、
そ のこと を大 げさに 誇張 して述 べ、 師(カ リム ・カー ン) の内部 にひ そんで いる 敵意
をかき立てようとした。
「見て下さい。バブから深い愛情と信頼を受けている弟子(ゴ
ッ ドス) が、 今、ケ ルマ ンで最 高権 威をも つ人 物の賓 客に なって いま す。ゴ ッド スと
親 密に交 わっ たなら ば、 ジャヴ ァド の魂に は毒 が盛ら れる に違い あり ません 。こ うし
て 、ジャ ヴァ ドが手 段と なって 、あ なたの 権限 は失わ れ、 あなた の名 声は消 され るこ
と になり かね ません 。」 臆病者 のカ リム・ カー ンは、 その 悪口を 聞い て不安 にな った。
そこで知事に要請した。ジャヴァドとゴッドスの危険な交わりを止めさせるようにと。
知 事はそ の要 請をジ ャヴ ァドに 伝え た。穏 健さ を欠く かれ は、そ の知 事の要 求に ふん
がいし、はげしく抗議した。(p.180)
「 この悪 質な 陰謀者 カリ ム・カ ーン の毒舌 を無 視する よう に、何 度あ なたに 忠告 した
こ とか。 わた しが我 慢し ていた ので 、この 男は 大胆と なっ たのだ 。自 分の限 界を 超え
な いよう に注 意され るべ きだ。 かれ はわた しの 地位を うば いたい のか 。かれ こそ 、自
宅 に卑劣 で恥 ずべき 者ら を大勢 迎え 、かれ らに 卑しい おべ っかを 浴び せかけ てい る男
ではないのか。そして、不信心者をほめ称え、潔白な人の発言を封じてきたばかりか、
毎 年悪人 と結 託し、 物欲 を満足 させ てきた 。さ らに、 神聖 なるイ スラ ム教に 向か って
悪 口雑言 を吐 きつづ けて きた。 わた しが黙 って いたの でま すます 無遠 慮にな り、 横柄
に なって きた のだ。 自分 は大変 に汚 い行為 をし ながら 、わ たしが 深い 学識と 高尚 な品
性 をそな えた 人をわ が家 に迎え るこ とをい やが るのだ 。悪 行を止 めな いなら ば、 町の
悪党たちを扇動して、かれをケルマンから追放するので、その警告を受けるべきだ。」
知 事 は こ の激 し い 非 難に う ろ た え、 自 分 の 言っ た こ と を謝 っ た 。 そし て 去 る 前に 、
自らカリム・カーンを目覚めさせてその愚行に気づかせ、反省させるので心配はない、
と ジャヴ ァド を安心 させ た。知 事か ら報告 を聞 いたカ リム ・カー ンは 、激し いう らみ
で 身もだ えし た。が 、そ れを抑 える ことも 、発 散させ るこ ともで きな かった 。そ して
つ いに、 ケル マンで 指導 権をに ぎる 望みを 一切 放棄し た。 このよ うに 、この 知事 への
要請は、長年の野心の消滅を弔う鐘の音となったのである。
ジ ャ ヴ ァ ドは 自 宅 で ゴッ ド ス と 二人 き り に なり 、 カ ル ベラ を 出 て ケル マ ン に 到着 す
る までの 活動 を聞い た。 ゴッド スが バブの 弟子 となっ た情 況とバ ブに 同行し た巡 礼の
話 に、ジ ャヴ ァドの 想像 力はか きた てられ 、心 に信仰 の炎 が点さ れた が、む しろ 自分
の 信仰を かく すこと にし た。そ の方 が新し い共 同体の 利益 をより 効果 的に擁 護で きる
と思ったからであった。ゴッドスは愛情をこめてつぎのように述べた。
「あなたの高尚
な 決意は 神の 大業へ の大 いなる 奉仕 とみな され ます。 全能 の神は あな たの努 力を 援助
し、つねに勝利をもたらされるでありましょう。」(p.181-182)
上 述 の 出 来事 を わ た しに ( 著 者 )に 語 っ て くれ た の は 、ガ ウ ガ で あっ た 。 か れは ケ
ル マン滞 在中 、ジャ ヴァ ド自身 の口 からこ のこ とを直 接聞 いてい た。 ジャヴ ァド の前
述 の意図 が誠 実なも ので あった こと が、後 日は っきり と証 明され た。 すなわ ち、 尽力
を 重ねて 、つ いに陰 険な カリム ・カ ーンの 攻撃 を防ぐ こと ができ たの である 。こ のジ
ャ ヴァド の挑 戦がな かっ たなら ば、 カリム ・カ ーンは 、信 教に計 り知 れない ほど の害
をおよぼしていたであろう。
さ て ゴ ッ ドス は 、 ケ ルマ ン を 離 れて ヤ ズ ド に向 か う こ とに し た 。 そこ か ら 、 アル デ
カ ーン、 ナイ エン、 アル デスタ ン、 イスフ ァハ ン、カ シャ ン、ク ム、 そして テヘ ラン
へ と進ん でい った。 いず れの都 市に おいて も邪 魔者に 出会 ったが 、耳 を傾け る人 びと
に新しい教えの根本原則を理解してもらうことができた。(p.182)
わ たし は(著 者) はババ オラ の実弟 アガ ・カリ ムが 、テヘ ラン でゴッ ドス と会っ た
ときの状況をつぎのように話すのを聞いた。
「ゴッドスの魅力ある人格とひじょうに温
和で、しかも威厳のある態度は、それまで無頓着であった人の心をも引きつけました。
か れと親 しく 交わっ た者 は皆、 ゴッ ドスの 魅力 のとり こに なった ので す。あ る日 、か
れ が祈り の前 の洗浄 をし ている のを 見まし たが 、その あた りまえ の行 為に、 ほか の者
に はない 優雅 さがあ り、 深く心 を動 かされ まし た。わ れわ れの眼 には 、かれ は清 らか
さと優雅さの権化に見えたのです。」
ゴ ッ ド ス はテ ヘ ラ ン でバ ハ オ ラ の面 前 に 案 内さ れ た 。 その 後 、 マ ザン ダ ラ ン に向 か
い 、生地 のバ ルフォ ルー シュの 実家 で親族 の愛 情にか こま れて二 年を 過ごし た。 かれ
の 父は、 最初 の妻の 死亡 後再婚 して いた。 この 第二の 妻は 実母以 上に やさし くゴ ッド
ス の世話 をし た。こ の義 母はゴ ッド スの結 婚式 を見た いと 願って おり 、その 「最 大の
よ ろこび 」の 日を見 る前 に自分 は死 ぬので はな いかと よく 心配し てい た。こ れに ゴッ
ドスはつぎのように述べた。
「わたしの結婚の日はまだです。その日は言葉では表現で
き ないほ どす ばらし いも のであ りま しょう 。結 婚式は この 家でで はな く、サ ブゼ ・マ
イ ダンの 真ん 中、天 蓋の 下で、 大衆 の面前 で行 われる でし ょう。 その ときわ たし の望
みが果たされるのです。」
こ の 義 母 は三 年 後 、 ゴッ ド ス が サブ ゼ ・ マ イダ ン で 殉 教し た の を 知ら さ れ た とき 、
ゴ ッドス の言 葉を思 い出 し、は じめ てその 意味 を理解 する ことが でき た。さ て、 ゴッ
ド スは、 マー クーの 砦に 監禁さ れて いるバ ブを 訪問し ても どって きた モラ・ ホセ イン
と 合流し 、バ ルフォ ルー シュか らコ ラサン に向 かって 出発 した。 この 二人の 旅で の勇
敢 な行為 は忘 れがた いも のとな った 。それ は、 同国人 のだ れとい えど も匹敵 でき ない
ものであった。 (p.183)
こ こ で 、 ゴッ ド ス と 別行 動 を と った モ ラ ・ サデ ィ ク に つい て 述 べ でみ よ う 。 かれ は
ヤ ズドに 到着 後すぐ 、コ ラサン 出身 の信頼 でき る友人 に、 その地 方の 大業の 進歩 につ
い てたず ねた 。とく に、 アーマ ド・ アズガ ンデ ィの活 動に ついて 聞い たとこ ろ、 かれ
が 不活発 にな ってい るこ とを知 って おどろ いた 。とい うの は、ア ーマ ド・ア ズガ ンデ
ィ は信教 の神 秘がま だ明 かされ てい なかっ た時 期に、 大変 な熱意 をも って活 動し てい
たからであった。友人はかれについてつぎのように語った。
「 アーマ ド・ アズガ ンデ ィはか なり 長い期 間自 宅に閉 じこ もり、 約束 された 新し い宗
教 制度の 到来 時期と 、そ の特性 に関 するイ スラ ム教の 伝承 と予言 の編 さんに 集中 しま
し た。か れは 一般に 本物 である と認 められ てい る伝承 を一 万ニ千 以上 収集し 、そ の編
さ ん書を 書き 写して 普及 させる 手段 を講じ まし た。さ らに 、礼拝 集会 や会合 の度 に、
そ の書か ら引 用した 句を ためら わず に用い るよ うに仲 間の 弟子た ちに 勧めま した 。そ
うすれば、自分の敬愛する大業の進歩を妨げる障害物を除けると考えたのです。
ア ー マ ド ・ア ズ ガ ン ディ は ヤ ズ ドで 、 市 の 最高 の イ ス ラム 法 学 者 であ る 伯 父 セイ エ
ド ・ホセ イン に温か く迎 えられ まし た。こ の伯 父は甥 の到 着ニ、 三日 前に手 紙を かれ
に 送って いま した。 その 内容は 、ヤ ズドに 急い で来て 、カ リム・ カー ンの陰 謀か ら自
分 を救い 出し てくれ るよ うに、 とい う要請 でし た。伯 父は カリム ・カ ーンを イス ラム
教 の、公 然で はない にし ても、 危険 な敵で ある とみな して いまし た。 法学者 の伯 父は
甥 のアー マド ・アズ ガン ディに 、あ らゆる 手段 をつく して カリム ・カ ーンの 有害 な影
響 力と戦 うよ うに頼 んだ のです 。そ して、 ヤズ ドに永 住し て、敵 であ るカリ ム・ カー
ン のひそ かな 意図を 、人 びとに 悟ら せるよ うに 求めま した 。アー マド ・アズ ガン ディ
は 、最初 の目 的であ るシ ラズ行 きを 伯父に かく し、ヤ ズド 滞在を 延期 するこ とに しま
し た。そ して 、自分 が編 さんし た書 を伯父 に見 せ、さ らに 、市の 隅々 から集 まっ てき
た 僧侶た ちに その内 容を 知らせ まし た。僧 侶た ちは皆 アー マド・ アズ ガンデ ィの 勤勉
と学識と熱意に深い感銘を受けました。(p.184-185)
ア ー マ ド ・ア ズ ガ ン ディ を 訪 れ てき た 人 た ちの 中 に 、 ミル ザ ・ タ ギと い う 人 がい ま
し た。こ の男 はよこ しま で、ご う慢 な野心 家で 、最近 ナジ ャフか らも どって きた ばか
り でした 。か れはナ ジャ フで学 問を 修め、 イス ラム法 学者 の地位 を得 ていま した 。か
れ はアー マド ・アズ ガン ディと の対 談中に 、そ の編さ ん書 を詳細 に調 べ、そ の内 容を
十 分理解 した いので 、ニ 、三日 借り たいと 言い 出しま した 。かれ と伯 父は、 その 願い
を 聞きい れて 貸すこ とに しまし た。 しかし 、ミ ルザ・ タギ は約束 を破 ってそ の書 を返
却 しなか った のです 。ミ ルザ・ タギ の意図 が誠 意のな いも のであ るこ とを、 すで に察
知 してい たア ーマド ・ア ズガン ディ は、伯 父に 頼んで その 書を返 して もらう こと にし
ま した。 とこ ろが、 ミル ザ・タ ギは 編さん 書を 取り戻 しに 来た使 いの 者に、 横柄 な態
度でこう答えたのです。
『お前の師にこう言え。その編さん書が有害な内容であること
がわかったので処分することにし、昨夜、池に投げ捨てたと。』
こ の無 礼な行 為に 憤った 伯父 は、か れに 復讐し よう と決意 しま した。 が、 甥のア ー
マ ド・ア ズガ ンディ は、 その激 しい 怒りを 上手 に説得 して 和らげ 、復 讐をや めさ せま
した。そして、つぎように勧告しました。
『あなたが考えておられる復讐は民衆を興奮
さ せ、か えっ て扇動 の原 因とな りま しょう 。さ らに、 カリ ム・カ ーン の影響 を絶 やす
た めにわ たし に頼ま れた 任務を 、大 きく妨 げる であり まし ょう。 カリ ム・カ ーン は、
こ の機会 を利 用して 、あ なたが バビ (バブ の信 者)で ある ことを 非難 し、あ なた の改
宗 の責任 を確 実にわ たし に負わ せる であり まし ょう。 こう して、 あな たの権 威を 損ね
る と同時 に、 ひそか に自 分の方 に人 びとの 尊敬 と感謝 を引 きつけ るに ちがい あり ませ
ん。最上の方法は、かれを神の手に委ねることです。』」(p.185)
以 上 の 話 を聞 い た モ ラ・ サ デ ク は、 ア ー マ ド・ ア ズ ガ ンデ ィ が 今 もヤ ズ ド に 住ん で
お り、自 由に 会える こと を知っ てひ じょう によ ろこん だ。 そこで かれ は、セ イエ ド・
ホ セイン が会 衆の祈 りを 先導し 、そ の甥の アー マド・ アズ ガンデ ィが 説教を して いる
モ スクに 行っ た。モ スク で参拝 者席 の最前 方に 座り、 祈り に加わ った 。祈り が終 わっ
た あと、 セイ エド・ ホセ インに 近づ き、会 衆の 前では ばか らずに かれ を抱擁 した 。そ
の直後、招かれないのに説教壇にのぼり、信者たちに話しかけようとした。セイエド・
ホ セイン は最 初おど ろい たが止 める ことは しな かった 。と いうの は、 このと つぜ んの
侵入者の動機を知り、かれの学識の程度を確かめたいと思ったからである。セイエド・
ホセインは甥にも、かれを止めないように身振りで合図した。
モ ラ ・ サ デク は よ く 知ら れ 、 見 事に 書 か れ たバ ブ の 説 話の 一 つ を 用い て 説 教 をは じ
めた。それが終わって、つぎのように会衆に話しかけた。「学識のある方々よ。神に感
謝しなさい。なぜなら、皆さんは神の知識のとびらは閉じていると思っておられるが、
今 や大き く開 かれて いる からで す。 永遠の 生命 の河の 水が 、シラ ズ市 から流 れ出 し、
わ が国の 人民 に多大 な祝 福をあ たえ ていま す。 この天 国か ら下さ れた 恩恵の 大洋 から
一 滴の水 を受 ける者 は、 身分が 卑し く、無 学の 者でも 、自 分の内 部に 神秘を 解明 する
能 力を発 見し 、昔か ら難 問とさ れて きたも のも 理解で きる と感じ るで ありま しょ う。
一 方、イ スラ ム教の 最高 の知識 をも った人 でも 、自分 の能 力と権 威だ けに頼 り、 神の
メ ッセー ジを 軽蔑す るな らば、 救い ようの ない ほど堕 落し 、道を 失っ てしま うで あり
ましょう。」
こ の 重 大 な宣 言 が 鳴 り響 い た と たん 、 憤 り と狼 狽 の 波 が会 場 に ひ ろが っ た 。 激怒 し
た 会衆は 恐怖 のあま り「 冒涜だ !」 と叫び どよ めいた 。そ の喧騒 の中 で、セ イエ ド・
ホ セイン は「 説教壇 から 下りな さい 」と命 じ、 同時に 、黙 って去 るよ うにモ ラ・ サデ
ク に身振 りで 合図し た。 モラ・ サデ クが説 教壇 から下 りる やいな や、 大勢の 参拝 者た
ち が押し かけ 、かれ を殴 りはじ めた 。セイ エド ・ホセ イン はすば やく 間に入 り、 かれ
ら を追い 散ら してモ ラ・ サデク の手 をつか み、 力ずく で自 分の方 に引 き寄せ た。 そし
て、つぎのように会衆に訴えた。(p.185-186)
「 この男 はわ たしに 任せ 、皆さ んは 手を引 いて くださ い。 わが家 に連 行し、 この 件に
関 してき びし く調べ ます 。あの よう な発言 をし たのは 、と つぜん 気が 狂った せい かも
し れませ ん。 わたし 自ら かれを 調べ 、その 発言 が計画 的な もので 、か れもそ のこ とを
堅く信じていることがわかれば、イスラム教の法律にしたがって罰するつもりです。」
こ の堅い 約束 で、モ ラ・ サデク は敵 たちの 残忍 な攻撃 から 救われ た。 かれは マン トと
タ ーバン をは ぎ取ら れ、 サンダ ルと つえも うば われた 上、 打撲傷 を負 って動 揺し てい
た 。セイ エド ・ホセ イン の従者 たち は、モ ラ・ サデク を守 りなが ら、 群集の 間を 力ず
くで通り抜け、師の自宅に送りとどけることができた。
同 じ 時 期 に、 ア ル デ ビリ は 、 モ ラ・ サ デ ク がヤ ズ ド の 住民 か ら 受 けた 攻 撃 よ りも っ
と 激烈な 迫害 を受け た。 アーマ ド・ アズガ ンデ ィの介 入と その叔 父の 援助が なか った
ならば、残忍な敵の怒りの犠牲となっていたであろう。モラ・サデクとアルデビリは、
ケ ルマン に到 着後、 同じ ような 侮辱 と迫害 をカ リム・ カー ンとそ の仲 間たち から 受け
た 。しか し、 ジャヴ ァド (ゴッ ドス を歓待 した ケルマ ンの 名士) のね ばり強 い努 力に
より、ついに、迫害者たちから解放され、コラサンにおもむくことができた。(p.187)
バブの直弟子たちとペルシャの各地方に居住していた仲間たちは、敵から追跡され、
苦 しめら れた が、そ れで もくじ けず 、任務 を達 成する こと ができ た。 確固た る目 的と
不 動の確 信を もって 、一 歩進む ごと におそ って きた暗 黒の 勢力と 戦い つづけ 、た ゆま
ぬ 献身と 不屈 の精神 で、 信教の 高貴 な力を 多く の同国 人に 示すこ とが できた ので あっ
た。
ヴ ァ ヒ ド (バ ブ が ヤ ヒヤ に あ た えた 呼 称 、 バブ の 調 査 のた め 国 王 が送 っ た 最 高の 学
者)がまだシラズにいたころ、ジャヴァド・カルベラが到着した。セイエド・アリ(バ
ブ の伯父 )は 、かれ をバ ブに紹 介し た。バ ブは 、ヴァ ヒド とジャ ヴァ ド・カ ルベ ラに
あ てた書 簡の 中で、 この 二人の 信念 の堅さ と献 身の深 さを 賞賛し た。 後者( ジャ ヴァ
ド ・カル ベラ )は、 バブ がその 使命 を宣言 する 以前か らバ ブを知 って いた。 バブ が幼
少 のころ から 見せて いた 驚嘆す べき 能力を 熱烈 に賞賛 して いたの であ る。後 日、 かれ
は バグダ ッド でバハ オラ から特 別目 をかけ られ た。数 年後 、バハ オラ がアド リア ノー
プ ルに追 放さ れてい たこ ろ、か なり 高齢で あっ たがペ ルシ ャにも どっ た。し ばら くイ
ラ ク州に とど まり、 その 後コラ サン に向か った 。温和 な性 質、寛 大さ 、気取 らな い素
朴さで、かれは「セイエド・ヌール」(輝かしいセイエドという意味)と呼ばれるよう
になった。
あ る 日 、 ジャ ヴ ァ ド ・カ ル ベ ラ がテ ヘ ラ ン 市の 道 を 横 切っ て い た とき 、 馬 で 通り 過
ぎ る国王 の姿 がとつ ぜん 目に映 った 。かれ は平 静を保 ちな がら国 王に 近づき あい さつ
し た。そ の立 派な姿 と威 厳ある 態度 に国王 は大 いに満 足し 、宮殿 に招 待した 。国 王が
ジ ャヴァ ドを あまり にも 親切に 歓待 したた め、 廷臣た ちは 嫉妬心 をあ おられ 、つ ぎの
ように異議をとなえた。
「このジャヴァドなる者は、バブの宣言以前にすでにバビであ
ると公言し、バブに永遠の忠誠を誓った者であることを、陛下はご存知ないのですか。」
国王はその非難の背後には悪意があることに気づき、きわめて不快に思った。そして、
かれらの無遠慮な態度と心の卑しさを叱責した。
「わが廷臣たちは、公正で礼儀正しく
す ぐれて いる 者はす べて バビ教 徒で あると 非難 し、国 王の われも その 者を罰 すべ きだ
と思っておる。」ジャヴァド・カルベラは、ケルマンで残りの生涯を送った。不動の確
信 をもっ て大 業の普 及の ために 努力 を惜し まず 、死ぬ まで 大業を 忠実 に支持 しつ づけ
た。
カ ル ベ ラ の指 導 的 な 高僧 を 先 祖 にも つ ソ ル タン は 、 セ イエ ド ・ カ ゼム の 忠 実 な支 持
者 で、親 しい 同僚で もあ った。 かれ もまた 、当 時シラ ズで バブに 会い 、後日 、バ ハオ
ラ を探す ため にソレ イマ ニエに 出か けた人 であ った。 さら に、か れの 娘は後 にア ガ・
カ リム( バハ オラの 実弟 )の妻 とな った。 かれ は、こ の本 の冒頭 に述 べたゾ ヌジ とい
っ しょに シラ ズに到 着し た。バ ブは 、ゾヌ ジに 、カリ ムと 共同で 、自 分が最 近著 わし
た 書簡を 書き 写すよ うに 命じた 。ソ ルタン はシ ラズ到 着時 に、病 気の ためバ ブに 会え
な かった が、 まだ病 床に あった ある 夜、最 愛の 御方( バブ )から メッ セージ を受 け取
っ た。そ れは 、日没 から 二時間 後に 、バブ 自ら かれを 訪れ るとい う内 容であ った 。そ
の 夜、バ ブは 召使い のエ チオピ ア人 にこう 指示 した。 すな わち、 住民 の注目 をそ らす
た めに、 バブ からか なり 離れた 前方 を、ラ ンタ ンをも って 歩き、 目的 地に着 いた ら即
刻そのランタンを消すようにという指示であった。(pp.189-190)
わたし(著者)は、ソルタンから、その夜の訪問について聞いた。「バブは、ご自分
の 到着前 にわ たしの 部屋 のラン プを 消して おく ように 言わ れまし た。 家に入 ると すぐ
わ たしの ベッ ドのわ きに 来られ まし た。暗 闇の 中、わ たし はかれ の衣 の裾に しっ かり
とすがり、こん願しました。
『最愛なる御方よ。わたしの望みをかなえて下さるように
願 います 。あ なたの ため にわた しの 命を捧 げさ せて下 さい 。あな た以 外にこ の恩 恵を
あたえて下さる方はおられません。』バブは、こう答えられました。
『おおシェイキよ。
わ れもま た、 最愛な る御 方の祭 壇に 命を捧 げる のを切 望し ている のだ 。われ われ は共
に 最愛な る御 方の衣 にす がり、 その 御方の 道で 殉教の 喜び と栄光 を求 めなけ れば なら
な い。安 心す るがよ い。 あなた がそ の御方 の面 前に出 られ るよう に全 能なる 神に こん
願 しよう 。そ の偉大 なる 日に、 われ を思い 起こ すがよ い。 その日 は、 世界が これ まで
に目撃したことのない日なのだ。』
別 れ の 時 間が 迫 っ た とき 、 バ ブ はわ た し に 贈り 物 を 渡 し、 わ た し のた め に 用 いる よ
う に言わ れま した。 こと わろう とし ました が、 ぜひ受 け取 るよう にと 強く言 われ まし
た ので、 その 贈り物 を受 け取る こと にしま した 。その 後す ぐバブ は出 発され まし た。
そ の夜、 バブ が「最 愛な る御方 」に 言及さ れた ことを 不思 議に思 い、 好奇心 をそ そら
れ ました 。そ の後何 年間 か、バ ブが 言及さ れた 御方は タヘ レでは ない かと思 った こと
も しばし ばあ りまし た。 また、 セイ エド・ オロ ヴ(自 分が 聖霊の 権化 と宣言 して 害を
お よぼし た人 物)が その 人物で はな いかと さえ 想像し たの です。 わた しはま った く途
方 にくれ 、こ の神秘 をど う解明 して よいか わか りませ んで した。 カル ベラに 着き 、バ
ハ オラの 面前 に出た とき 、わた しは この方 のみ がバブ の深 い敬愛 を受 け、こ の方 のみ
がバブの敬慕にふさわしい人物であると確信しました。」(p.190)
バ ブ の 宣 言か ら 二 年 目の ノ ウ ・ ルー ズ ( 新 年) は 、 一 二六 二 年 ( 一八 四 六 年 )の ラ
ビ オル・ アヴ ァール 月の 二十一 日で あった 。そ のころ 、バ ブはま だシ ラズの 比較 的の
ど かで気 楽な 環境の 中、 家族や 親戚 と交わ りな がらめ ぐま れた生 活を 送って いた 。バ
ブは自宅で儀式ばらない静かな新年を祝ったが、それは、これまでの慣習にしたがい、
母 上と妻 にこ の上な い思 いやり と愛 情を注 いだ もので あっ た。そ して 賢明な 勧告 と愛
情 をこめ たや さしさ で母 と妻を 元気 づけ、 不安 を取り 除い た。さ らに 、所有 物を すべ
て かの女 らに あたえ 、不 動産の 所有 権もか の女 らの名 義に 変えた 。す なわち 、直 筆の
文 書の中 で、 家屋と 家具 、その ほか の不動 産を 母と妻 の所 有物と し、 母の死 後そ の財
産は妻に渡るように指示したのである。
バ ブ の 母 は最 初 、 息 子の 使 命 の 重大 さ を 理 解で き ず 、 その 啓 示 に 秘め ら れ た 威力 に
も 気がつ いて いなか った 。しか し、 生涯の 終わ りが近 づく につれ て、 自分が 宿し 、こ
の 世に生 み出 した宝 物バ ブの貴 重な 特性を 認め ること がで きた。 母親 の眼か ら長 年か
く されて きた その宝 物の 価値を 発見 させた のは バハオ ラで あった 。か の女が 残り の生
涯 を過ご すた めにイ ラク に居住 して いたと き、 バハオ ラは 忠実な 信者 で、か の女 と親
交 のあっ たジ ャヴァ ド・ カルベ ラと アブド ル・ シラジ の妻 二人に 、信 教の原 則を かの
女に教えるように指示したのである。その結果、バブの母は大業を認めることができ、
一 八八二 年こ の世を 去る まで、 全能 なる神 から 自分に 付与 された 慈悲 深い贈 り物 を十
分認識していた。(pp.190-191)
母 と 違 っ てバ ブ の 妻 は、 バ ブ の 宣言 時 か ら その 栄 光 あ る使 命 と 比 類な い 特 性 に気 づ
き 、また その 威力を も感 じとっ てい た。同 世代 の女性 のう ち、献 身と 信仰の 厚さ でか
の女をしのぐ者はタヘレ以外にはいない。バブは今後自分にふりかかる苦難を知らせ、
現 代に起 こる 出来事 の意 義を明 らか にした が、 この秘 密は 母には 知ら せない よう に注
意 した。 そし て忍耐 し、 神の意 志に 身を委 ねる ように 助言 した。 最後 に自ら 著わ した
特 別の祈 りを あたえ 、そ れを読 誦す れば、 困難 が除か れ悲 しみが 和ら げられ る、 と妻
を 安心さ せた 。「困 った ことが 起こ ったと き、 床につ く前 にこの 祈り を唱え るが よい。
われ自らあなたのもとにきて不安を取り除いてあげよう。」かの女はその忠告通り、祈
り の中で バブ に向か った 。その 度に 、かの 女の 道は確 実な 導びき の光 で照ら され 、問
題は解決されたのであった。
バ ブ は 家 事を 整 理 し 、母 と 妻 の 今後 の 生 活 の準 備 を し たあ と 、 自 宅を 離 れ 、 伯父 の
セ イエド ・ア リ宅に 移っ た。そ こで 苦しみ の時 間がく るの を待っ た。 バブは 自分 の身
に ふりか かろ うとし てい る苦難 の時 がもは や延 ばされ ない ことを 知っ ていた 。ま もな
く 、災難 の旋 風に巻 き込 まれ、 生涯 の最後 をか ざる目 標、 すなわ ち殉 教の場 へと すば
や く運ば れて いくこ とを 知って いた のであ る。 かれは シラ ズに定 住し た弟子 たち に、
イ スファ ハン に向か い、 そこで 指示 を待つ よう に命じ た。 弟子の 中に は、カ リム とゾ
ヌジが含まれていた。さらにバブは、最近シラズに着いた「生ける者の文字」の一人、
ホ セイン ・ヤ ズディ にも イスフ ァハ ンに行 き、 その市 にい る弟子 の仲 間に加 わる よう
に指示した。(pp.192-193)
一 方 、 フ ァル ス 州 の 知事 ホ セ イ ン・ カ ー ン は、 バ ブ を もう 一 度 苦 境に お ち い らせ 、
公 衆の面 前で もっと 屈辱 をあた えよ うとし てい た。バ ブが だれに も妨 げられ ずに 活動
を つづけ てい ること 、仲 間とい まだ もって 交際 してい るこ と、家 族や 親族と 自由 に交
わ ってい るこ とを知 って 、知事 はが まんで きな くなっ たの である 。知 事はス パイ を使
っ て、バ ブの 運動の 特質 と影響 力に ついて 正確 な情報 を入 手した り、 ひそか にバ ブの
動 きを監 視し たり、 かれ が人び とに もたら した 熱意の 程度 を確か め、 大業を 受け 入れ
た人びとの動機、行為、および数をくわしく調べたりもした。(pp.193-194)
あ る 夜 、 ホセ イ ン ・ カー ン の 密 使団 長 が 報 告を も っ て きた 。 そ の 内容 は 、 バ ブに 会
お うと群 がっ てくる 人の 数があ まり にも多 すぎ るので 、当 局は市 の安 全を守 るた め、
即 刻手を 打つ 必要が ある という もの であっ た。 団長は つぎ のよう に説 明した 。「 毎夜、
バ ブを訪 れて くる熱 心な 人びと の数 は、毎 日知 事の建 物の 入り口 に群 がる市 民の 数を
しのいでいます。かれらの中には、高い地位と学識で有名な人たちも見うけられます。
バ ブの伯 父が 州政府 の官 吏たち を上 手にあ つか い、ひ じょ うに寛 大で あるた め、 あな
たの部下はだれも本当のことをあなたに知らせようとしないのです。許可を下されば、
あなたの従者に手伝わせて真夜中にバブを奇襲し、かれの仲間に手錠をつけて連行し、
あ なたの 手に お渡し しま しょう 。そ の者は バブ の活動 をあ なたに 知ら せ、わ たし の報
告が真実であることを証言するでありましょう。」ホセイン・カーンは、その提案を拒
否し、こう答えた。「政府が何をすべきか、わたしの方がよくわかっている。こちらで
対処の仕方を考えるので、離れたところからわたしを見守っていなさい。」(pp.194-195)
知 事 は す ぐ、 シ ラ ズ 市の 警 察 署 長ア ブ ド ル ・ハ ミ ド ・ カー ン を 呼 び出 し て 、 つぎ の
ように命じた。「セイエド・アリ(バブの伯父)宅に今すぐ直行せよ。だれにも気づか
れ ないよ うに 壁をよ じ登 って屋 根に あがり 、か れの家 に侵 入せよ 。バ ブを即 座に 逮捕
し 、同時 にそ こに居 合わ せた訪 問者 を全部 逮捕 して、 この 場に連 行せ よ。ま た、 その
家 にある 書物 と書簡 をす べて押 収せ よ。た だセ イエド ・ア リは約 束を 果たさ なか った
の で、翌 日処 罰する つも りだ。 モハ メッド 国王 の王冠 にか けて誓 うが 、この 夜、 バブ
と そのみ じめ な仲間 とも ども処 刑す る。か れら の恥ず べき 死は、 かれ らが起 こし た火
炎 を消す と同 時に、 今後 、バブ の信 者にな れば 、平安 を乱 す者と して 処罰さ れる こと
を 住民に 見せ しめる こと になろ う。 この処 置に より、 国家 に重大 な脅 威とな る異 端は
根絶されることになる。」
警 察 署 長 は任 務 を 果 たす た め に その 場 を 退 いた 。 か れ は助 手 を と もな っ て 、 セイ エ
ド・アリ宅に侵入した(1845 年 9 月 23 日の出来事)。そして、バブとバブの伯父とカ
ゼ ム・ザ ンジ ャニを ただ ちに逮 捕し た。ち なみ に、カ ゼム ・ザン ジャ ニはそ の後 マゼ
ン ダラン で殉 教した 人で 、かれ の弟 モルタ ダは テヘラ ンの 七人の 殉教 者の一 人で あっ
た 。警察 署長 は家に あっ た文書 をす べて没 収し 、バブ の伯 父には 家に 残るよ うに 命じ
た が、残 りの 者たち を州 政府の 建物 に連行 した 。バブ はこ の逮捕 にひ るむど ころ か冷
静にコーランの句をくり返した。
「かれらの脅威となるものは朝方起こる。朝はそこま
できていないか?」(p.195)
市 場 を 通 りか か っ た 警察 署 長 は 、住 民 が パ ニッ ク に お そわ れ た か のよ う に 、 四方 八
方 に逃げ 出し ている のを 見た。 また 、多数 のひ つぎが いそ いで運 ばれ ており 、そ れぞ
れ のひつ ぎの あとに は、 悲痛に 泣き 叫ぶ男 女の 行列が つづ いてい た。 この光 景に 、署
長 は恐怖 を感 じた。 人び との悲 しみ や恐怖 にお ののく 表情 と叫び 声を 聞いて 署長 の心
は痛み、通行人に騒ぎの原因を聞いたところ、つぎのような返答がきた。
「今夜、もの
す ごい伝 染力 をもつ 疫病 (コレ ラ) が発生 して 、多数 の住 民が感 染し ていま す。 深夜
か らすで に百 人以上 が命 を失い まし た。ど の家 でも不 安と 絶望に おそ われて いま す。
住民は家から逃げ出し、苦しい状況の中で、全能なる神に助けを求めているのです。」
ア ブ ド ル ・ハ ミ ド ・ カー ン ( 警 察署 長 ) は 、こ の お そ ろし い 情 報 にお び え 、 ホセ イ
ン ・カー ン( 知事) の家 に走っ て行 った。 家の 門衛を して いた老 人は 、疫病 がこ の家
を荒らし、家族を苦しめ家は放棄されたことを知らせてくれた。
「エチオピア人の女の
召 使い二 人と 男の召 使い 一人が 、す でにこ の疫 病の犠 牲と なりま した 。また 、家 族に
危篤状態の人もいます。わたしの主人は、絶望のあまり死人も葬らずにそのまま残し、
家 を捨て 、残 りの家 族と いっし ょに バゲ・ タク (シラ ズ市 郊外の 庭園 )に避 難し まし
た。」
警 察 署 長 はバ ブ を 自 分の 家 に 連 行し 、 知 事 の指 示 が く るま で 拘 引 する こ と に した 。
自 宅に近 づく と、家 族の 悲痛な 泣き 声が聞 こえ はじめ た。 かれは 胸が えぐら れる よう
に 感じた 。家 に入っ て、 自分の 息子 が瀕死 の状 態にあ るの を見た 。か れは、 絶望 のあ
ま りバブ の足 元にひ ざま ずき、 かれ の衣の 裾に すがっ て涙 ながら に、 息子の 命を 助け
てくれるようにこん願した。
「あなたをこの高遠なる地位に高められた御方にかけてこ
ん 願いた しま す。わ たし に代わ って 、息子 が回 復しま すよ うに祈 って 下さる よう お願
い いたし ます 。まだ 若い 息子の 命が 取られ ませ ぬよう に、 また、 父親 が犯し た罪 のた
め に息子 が罰 せられ ませ ぬよう に。 わたし は、 自分の 行為 を反省 し、 すぐ辞 職す るつ
も りです 。今 後、た とえ 餓死し そう になっ ても 、その よう な要職 は一 切受け 入れ ない
と堅く誓います。」夜明けの祈りの準備に顔と手を洗っていたバブは、署長の願いに応
え て洗顔 に用 いた水 をか れにあ たえ 、息子 に少 々飲ま せれ ばかれ の命 は助か るで あろ
うと述べた。(pp.195-197)
息 子 が 回 復の き ざ し 見せ は じ め たと き 、 署 長は 知 事 に 手紙 を 書 き 、今 回 の 事 件の 全
容を知らせ、バブへの攻撃を中止するように要請した。
「あなたご自身と、神があなた
に 委ねら れた 人たち を哀 れんで 下さ るよう に願 います 。こ の疫病 が猛 威をふ るい つづ
ければ、今日の終わりまで生き延びる者はいないでしょう。」この要請を受けた知事は
すぐバブを釈放して、望み通りどこにでも行けるようにした。
こ の 事 件 の報 告 を 受 け取 っ た 国 王は 憤 り 、 即刻 、 知 事 ホセ イ ン ・ カー ン に 免 職命 令
を 出した 。免 職の日 以来 、この 恥知 らずの 虐待 者ホセ イン ・カー ンは さまざ まな 災難
に おそわ れ、 最後に は日 々の糧 も得 ること がで きない 状態 になっ た。 窮状に あえ ぐか
れ を救お うと する者 も救 える者 もい なかっ た。 後日、 バハ オラが 追放 先のバ グダ ッド
に 在住し てい たとき 、ホ セイン ・カ ーンは 手紙 を送り 、悔 い改め てい ること を述 べ、
自 分が前 の要 職にも どる ことが でき れば、 自分 の過去 の悪 行をつ ぐな うと約 束し た。
バ ハオラ は返 事を拒 んだ 。だれ から も見放 され たかれ は、 死ぬま で貧 窮と恥 辱で 苦し
みつづけた。(p.197)
ア ブ ド ル ・ハ ミ ド ・ カー ン ( 警 察署 長 ) 宅 に滞 在 し て いた バ ブ は 、セ イ エ ド ・カ ゼ
ム を送っ て、 セイエ ド・ アリ( バブ の伯父 )に 自分に 会い に来て 欲し いとた のん だ。
い そいで 駆け つけて きた 伯父に 、自 分がシ ラズ から出 発予 定であ るこ とを告 げ、 母と
妻 の世話 をま かせ、 二人 に自分 の愛 情を伝 える ように 依頼 した。 さら に、神 の援 助が
か ならず 下さ れるこ とを 述べ、 かの 女らを 安心 させる よう に頼ん だ。 バブは 、伯 父に
別れを告げながらつぎのように語った。
「母と妻がどこにいようとも、神はそのすべて
を 包含す る愛 と保護 でか の女ら を取 り巻き たま うであ ろう 。あな たと はアゼ ルバ エジ
ャ ンの山 中で また会 おう 。そこ でわ たしは 、あ なたが 殉教 の王冠 を勝 ち取れ るよ うに
送 り出そ う。 わたし 自身 も、忠 実な 弟子の 一人 と共に あな たの後 につ づき、 永遠 の領
域で再会しよう。」
第十章
イ スファハンでのバブ
バ ブが 生まれ 故郷 のシラ ズ市 に最後 の別 れを告 げ、 イスフ ァハ ンに向 かっ たのは 一
二 六二年 (一 八四六 年) の夏の 終わ りであ った 。その 旅に カゼム ・ザ ンジャ ニが 同行
し た。イ スフ ァハン の郊 外に近 づい たとき 、バ ブはそ の州 の知事 、モ タメッ ド・ ダオ
レ という 称号 をもつ マヌ チェー ル・ カーン に手 紙を書 き、 滞在で きる 場所を 紹介 して
く れるよ うに 頼んだ 。バ ブがセ イエ ド・カ ゼム に持た せた その手 紙の 文面は きわ めて
丁 重で書 体も 実に見 事で あった ので 、知事 は心 を動か され た。そ こで 、イス ファ ハン
の 僧侶の 長で 、その 州の 宗教面 の最 高権威 者で あるサ ルタ ヌール ・ウ ーラマ ーに 、バ
ブ のもて なし を依頼 した 。知事 は、 その依 頼書 にバブ から 受け取 った 手紙も 同封 して
お いた。 ウー ラマー は、 自分の 弟に 、お気 に入 りの仲 間た ちを連 れて バブを 迎え に行
く ように 命じ た。こ の弟 は残忍 な男 で、後 にバ ハオラ から ラック シャ ー(雌 ヘビ )と
呼 ばれた 人物 である 。バ ブが近 づい てきた とき 、ウー ラマ ーは歩 みよ り、自 宅ま で丁
重に案内した。(pp.199-201)
こ のよ うに当 時バ ブは大 いに 敬われ てい た。あ る金 曜日、 バブ が公衆 浴場 から家 に
も どろう とし ている と、 バブが 祈り の前の 洗浄 に用い た水 を得よ うと 多数の 人び とが
群 がって きた 。バブ の熱 心な崇 拝者 たちは 、そ の水に は病 気を治 す力 がある と堅 く信
じ ていた ので ある。 ウー ラマー 自身 も最初 の夜 からバ ブに 強く心 を惹 かれ、 自ら 従者
の 仕事を 引き 受け、 バブ の世話 をし はじめ た。 従者の 手か ら水差 しを うばい 取り 、自
分の地位を高ぶることなく、バブの両手に水をかけたのである。
ある夕食後、この若い客人の並みはずれた性格に好奇心をそそられたウーラマーは、
ヴ ァル・ アス ルの章 (コ ーラン にあ る章) につ いての 解説 を思い 切っ て頼ん でみ た。
バ ブは快 くそ れに応 じ、 ペンと 紙を もって こさ せ、家 の主 人の面 前で 、あら かじ め考
え ようと もせ ず、そ の解 説をお どろ くべき 速度 で著わ しは じめた 。真 夜中近 くに なっ
て 、バブ はそ の章の 最初 の文字 「ヴ ァヴ」 に含 まれる さま ざまな 意味 を解明 しは じめ
た 。その 文字 「ヴァ ヴ」 につい ては すでに シェ イキ・ アー マドが 自著 のなか で強 調し
て いたも ので ある。 バブ にとっ て、 それは 、神 の啓示 の新 しい周 期が はじま った こと
を象徴するものであった。バハオラも後日、ケタベ・アグダス(最も聖なる書)の「大
い なる逆 転の 神秘」 や「 主権の しる し」と いっ た句で 言及 してい る。 その後 すぐ バブ
は 、家の 主人 と仲間 たち の面前 で、 コーラ ンの 中のあ る章 につい て解 説した 序文 を詠
唱 しはじ めた 。その 威力 にみち た言 葉にそ こに 居た人 たち は仰天 した 。そし て、 あた
か もバブ の声 の魔力 にか けられ たか のよう に立 ち上が り、 ウーラ マー と共に バブ の衣
の 裾にう やう やしく 口づ けした 。著 名な高 僧の タギ・ ハラ ティは 、と つぜん 歓喜 と賞
賛の言葉を述べはじめた。
「この(バブの)ペンから流れ出す言葉のすばらしさは比べ
られるものがない。短時間のうちに、しかも読み取れる書体で、コーランの四分の一、
い や三分 の一 に匹敵 する 句を著 わせ たのは 、神 の援助 があ ったか らで ある。 人間 の力
だ けでで きる ことで はな い。月 を裂 くこと も、 海の小 石を 動かす こと さえも 、こ の威
力にはかなわない。」
バ ブの 名声が イス ファハ ン市 全体に ひろ まるに つれ て、四 方八 方から 訪問 者がウ ー
ラ マーの 家に 集まっ てき た。好 奇心 をみた そう とする 人た ち、バ ブの 教えの 基本 とな
る 原理を より 深く理 解し ようと する 人たち 、そ して病 気や 苦しみ をい やそう とす る人
た ちがい た。 知事( マヌ チェー ル・ カーン )自 らも、 ある 日バブ を訪 れ、イ スフ ァハ
ン で最高 の権 限をも つ聖 職者た ちと 同席し 、モ ハメッ ドの 「特定 の使 命」に つい て解
説 し、そ の正 当性を 実証 してく れる ように 頼ん だ。知 事は すでに 、同 じ会合 の同 席者
た ちに、 この 質問を 出し ていた 。し かし、 その 要望に 応じ られる 者は いなか った ので
ある。バブは知事に聞いた。
「あなたの質問には、口頭で答えた方がよろしいのか、そ
れとも書簡を好まれるのか?」知事は答えた。
「書簡の方がここに集まっておられる皆
さ んに満 足し ていた だけ るでし ょう し、ま た、 今日と 未来 の世代 の人 びとを 啓発 し、
教育することにもなりましょう。」(p.202)
バブはすぐペンを取り書きはじめた。二時間とたたないうちに、イスラム教の起源、
特質、影響について、きわめて斬新で詳細な解説を五十ページにわたって書き上げた。
バ ブは、 独創 性のあ る論 述、迫 力の ある文 体、 詳細か つ正 確な描 写で 、この 崇高 なテ
ー マにあ たっ た。そ の場 に出席 して いた者 たち のうち 、だ れ一人 とし て、そ のす ばら
し さを認 めな い者は いな かった 。こ の解説 文の 結論で 、バ ブは中 心と なる理 念を 見事
な洞察力で、約束されたガエムの到来とエマム・ホセインの「再来」(バブ自身とバハ
オラの出現を指す)に結びつけた。(pp.202-203)
こ の解 説文は 強烈 かつ雄 弁に 論じら れて いたの で、 バブの 読誦 を聞い た者 は、そ の
偉 大さに 圧倒 され、 だれ 一人と して 反論す る者 も挑戦 する 者もい なか った。 知事 は、
熱 意とよ ろこ びを抑 える ことが でき なくな り、 叫ぶよ うに 言った 。「 お聞き 願い ます。
ここに集まられている皆さんに証人になっていただきたいのです。今日にいたるまで、
わ たしは イス ラム教 が真 実かど うか 確信が もて ません でし た。皆 さん に誓い ます が、
こ の青年 (バ ブ)が 著わ された 解説 文のお かげ で、今 わた しは、 神の 使徒( モハ メッ
ド )の教 えを 固く信 じる 者とな りま した。 また 、この 青年 は、だ れの 知識も 匹敵 でき
ない超人的な能力をそなえておられることを真心から証言いたします。」この結びの言
葉をもって、知事は集会を閉じた。
バ ブの 人気が ます ます高 くな るにつ れ、 イスフ ァハ ンの宗 教指 導者た ちは バブに 対
し てねた みを いだく よう になっ た。 無学の 青年 が、信 者た ちの考 えと 意識を 徐々 に啓
発 してい く勢 いを見 て、 心配と 羨望 が生じ てき たので ある 。この 大衆 にひろ がっ た熱
意 の流れ を止 めない かぎ り、自 分た ちの存 在の 基盤が こわ される と確 信した 。賢 い人
たちは、バブやその教えを直接攻撃することは避けた方がよいと考えた。というのは、
そのような行動はかえってバブの威信を高め、その地位を固めると感じたからである。
し かし、 扇動 者たち はす でに、 バブ の性格 と主 張に関 して 根拠の ない うわさ をま き散
ら してい た。 やがて この うわさ は、 テヘラ ンに 届きモ ハメ ッド国 王の 総理大 臣ア ガシ
の 耳に入 った 。この 尊大 で、横 暴な 大臣は 、国 王がバ ブに 理解を 示す 日がく るか もし
れ ないと 心配 になっ た。 そうな れば 、自分 は確 実に失 脚す るであ ろう と考え た。 さら
に 、国王 から 信頼さ れて いる知 事( マヌチ ェー ル・カ ーン )が、 バブ と国王 の会 見を
取 り計ら うか もしれ ない と不安 にな った。 その ような 会見 が実施 され れば、 感じ やす
く 、やさ しい 心をも った 国王は 、バ ブの信 条の 魅力と 斬新 さに完 全に 影響さ れる であ
ろうことを、かれは知り尽くしていたのである。(p.204)
不 安に 駆りた てら れた総 理大 臣ハジ ・ミ ルザ・ アガ シは、 激し い言葉 でつ づった 手
紙をウーラマーに送り、イスラム教を守る義務を怠ったと責めた。
「われわれはあなた
に 、国家 と国 民の利 益に 反する 運動 を全力 で阻 止する こと を期待 して いた。 とこ ろが
あ なたは 、あ の不可 解で 卑しむ べき 運動の 創始 者と親 しく なるだ けで なく、 かえ って
かれを賞賛しているのではないか。」さらに総理大臣は、イスファハンの僧侶たちに何
通 もの激 励の 手紙を 送っ た。以 前は かれら を無 視して いた のであ るが 、この とき ばか
り は好意 をふ んだん に示 しはじ めた のであ る。 ウーラ マー は、客 人( バブ) に敬 意を
表 するこ とは やめな かっ たが、 総理 大臣か ら受 け取っ た手 紙に影 響さ れて、 日々 増え
つづけるバブの訪問者たちの数をへらす案を出すように、同僚の僧侶たちに要請した。
故 ハジ・ カル バシの 息子 モハメ ッド ・メヒ ディ がその 要請 に応じ た。 かれは 、総 理大
臣 の要望 に応 えて、 また かれの 好意 を得る ため に、説 教壇 から見 苦し い言葉 でバ ブを
中傷しはじめた。
こ の事 態を知 った 知事は 、た だちに ウー ラマー に手 紙を送 り、 知事と して バブを 訪
問 したと きの ことを 思い 起こさ せた 。そし て、 かれと その 客人( バブ )を自 宅に 招待
し た。知 事は 、故バ ゲル ・ラシ ュテ ィの息 子ア サドラ をは じめ、 ジャ ファル 、モ ハメ
ッ ド・メ ヘデ ィ、ハ サン ・ヌー リと そのほ か何 人かを 招待 した。 アサ ドラは 招待 をこ
とわり、ほかの者たちにも出席しないように説得した。
「 わたし は、 出席は ごめ んこう むり たいと 申し 出た。 あな た方も そう なさる よう に強
く すすめ る。 バブと 直々 に顔を 合わ せるの は、 ひじょ うに あさは かな ことだ と思 うか
ら だ。バ ブは かなら ず自 分の主 張を くりか えす にちが いな い。そ して 、あな た方 が求
め る証拠 を実 例をあ げて 示し、 自分 の主張 する 真理を 証拠 づける ため に、コ ーラ ンの
半 分に匹 敵す る句を 一瞬 のため らい もなく 著わ すであ ろう 。最後 に、 このよ うな 言葉
であなた方に挑戦するであろう。
『もし、皆が真理を語る者たちであれば、同様に証拠
を示すことだ。』われわれは、かれに証拠を示すことなど絶対にできない。もし、かれ
の 要請に 応じ なけれ ば、 われわ れの 無力さ が暴 露され てし まう。 それ かとい って 、か
れ の主張 を受 け入れ れば 、われ われ は名声 、特 権、権 限を 失うど ころ か、今 後、 かれ
が主張することも認めなければならなくなるのだ。」(pp.205-207)
こ の忠 告を聞 いた ジャフ ァル は、知 事の 招待を こと わった 。モ ハメッ ド・ メヒデ ィ
と ハサン ・ヌ ーリと ほか の何人 かは 、アサ ドラ の忠告 を無 視して 、定 められ た時 間に
知 事宅に 行っ た。そ のバ ブとの 会見 の場で 、プ ラトン 哲学 の研究 者と して名 高い ハサ
ン ・ヌー リは 、知事 から 求めら れて バブに 質問 した。 それ は、モ ラ・ サドラ (ペ ルシ
ャ の哲学 者) の思想 に関 連する 難解 な哲学 上の 学説の 解明 であっ た。 その学 説の 意味
を 解明で きた のは、 これ までに 少数 しかい なか った。 バブ は因襲 にと らわれ ない 言葉
で 、簡潔 にす べての 質問 に答え た。 ハサン ・ヌ ーリは 、そ の答え の意 味をと らえ るこ
と はでき なか ったが 、現 代のい わゆ るプラ トン 学派と アリ ストテ レス 学派の 学者 たち
の学識が、この青年(バブ)の知識にどれほど劣っているかを悟った。
つ ぎに 、モハ メッ ド・メ ヒデ ィが、 イス ラム教 の法 律につ いて バブに 質問 した。 バ
ブ の説明 に満 足しな かっ たかれ は、 とりと めの ない論 争を はじめ たが 、すぐ 、知 事の
介 入で中 止さ れた。 知事 は従者 に、 すぐに モハ メッド ・メ ヒディ を自 宅まで 送る よう
に命じた。その後知事はウーラマーに自分の心配を打ち明けた。
「バブの敵の陰謀を恐
れ ていま す。 国王は バブ をテヘ ラン に召喚 され 、その 出発 準備を わた しに命 じら れま
し た。が 、バ ブがこ の町 (イス ファ ハン) を安 全に離 れら れる時 期が くるま で、 わた
しの家に留まっていただいた方がよいと思っています。」ウーラマーはその意見に同意
し、一人で自宅にもどった。(pp.207-208)
バ ブは ウーラ マー の家に 四十 日間滞 在し た。そ の期 間、毎 日バ ブと会 うこ とがで き
た モラ・ タギ ・ハラ ティ は、バ ブの 同意を 得て 、バブ が著 わした 「レ サレイ ・フ ル・
ア ドリエ ー」 という 題名 の本を アラ ビア語 から ペルシ ャ語 に翻訳 した 。この よう にか
れ は、ペ ルシ ャの信 者た ちに貢 献し たので ある が、後 日と つぜん 恐怖 におそ われ 、仲
間の信者たちとの関係を断ってしまったのである。
バ ブが 知事の 家に 移る前 のあ る夜、 ミル ザ・エ ブラ ヒムは バブ を自宅 に招 いた。 か
れ は、サ ルタ ノシ・ ショ ーハダ の父 親で前 述し たアリ ・ナ リ(娘 がア ブドル ・バ ハと
結 婚)の 兄で あった 。か れはま た、 ウーラ マー と親し く、 その業 務を すべて 管理 して
い た。そ の夜 バブの ため にすば らし い晩餐 会が 開かれ た。 その市 の役 人も名 士も これ
ほ ど立派 な晩 餐会を 開い たこと はな かった 。サ ルタノ シ・ ショー ハダ と兄の マー ブブ
シ ・ショ ーハ ダ(そ の後 二人共 に殉 教)は 当時 九才と 十一 才の少 年で あった が、 晩餐
会で給仕の手伝いをして、バブから特別に目をかけられた。
晩餐中に、ミルザ・エブラヒムはバブにこん願した。「わたしの弟のアリ・ナリには
子供がありません。かれに子供ができますように祈願して下さい。」バブは、自分に出
さ れた食 べ物 を少し 取り 、それ を別 の皿に おい てミル ザ・ エブラ ヒム に渡し 、弟 とそ
の妻のところにもって行くように言った。
「二人にこれを食べさせるがよい。望みが叶
えられるであろう。」アリ・ナリの妻は、バブからあたえられた食べ物のおかげで妊娠
し 、時が 満ち て女の 子を 生んだ 。こ の女の 子は 成長し て最 大の枝 と呼 ばれる 人物 (ア
ブ ドル・ バハ )と結 婚し た。こ うし て、か の女 の両親 が抱 いてい た望 みが果 たさ れる
ことになった。(pp.208-209)
イ スフ ァハン の僧 侶たち の敵 意は、 バブ が高い 尊敬 を受け てい るため 、激 しさを 増
してきた。バブの影響がいたるところに広がり、イスラム正統派の本拠地にも侵入し、
そ の基盤 をく つがえ そう として いる のを見 てう ろたえ たの である 。か れらは 、集 会を
開 き、バ ブに 死刑を 宣告 した文 書を 作成し た。 その文 書に は市で 権力 をもつ 僧侶 たち
が 署名し 、封 印がさ れて いた。 アサ ドラと ジャ ファル の二 人以外 の僧 侶全員 がこ の判
決 に同意 した 。この 二人 はその 文書 の内容 があ まりに も白 々しく 、あ まりに も毒 舌で
み たされ てい たので 、そ れに関 わる ことを 拒否 したの であ った。 ウー ラマー は、 署名
は拒否したが、臆病者で野心もあったので、直筆でつぎの証言を文書につけ加えた。
「こ
の 青年と 交際 し始め て以 来、か れが イスラ ム教 の教え に反 する行 動を 取った のを 見た
こ とはあ りま せん。 それ どころ か、 かれは イス ラム教 の教 えを忠 実に 守る敬 虔な 人物
で す。し かし 、かれ の途 方もな い主 張と現 世の 事物を 軽視 する態 度は 、理性 と判 断力
を欠いているためであると思わざるを得ません。」(p.209)
イ スフ ァハン の僧 侶たち が、 バブに 死刑 宣告を した ことを 知ら された 知事 (マヌ チ
ェール・カーン)は、その残酷な判決が実施されないように、すぐ救助計画を立てた。
そ の計画 とい うのは 、ま ず、日 没時 に、バ ブを 五百人 の騎 兵隊に 護衛 させて テヘ ラン
の 方向に 向か わせる が、 約六キ ロメ ートル 進む ごとに 、百 人の騎 兵隊 をイス ファ ハン
に もどら せる という もの であっ た。 そして 、百 人の騎 兵隊 が残っ た時 点で、 その 先取
る べき行 動を 完全に 信頼 できる 指揮 官に内 密に 知らせ た。 それは 、一 キロメ ート ル進
む ごとに 、二 十人を イス ファハ ンに もどら せ、 残りが 二十 人にな った とき、 その 半数
を 税金徴 収の ために アル デスタ ンに 向かわ せ、 確実に 信用 できる 残り の十人 に、 変装
さ せたバ ブを 人通り の少 ない横 道を 用いて イス ファハ ンに 連れも どす 、とい う計 画で
あ った。 さら に、翌 日の 夜明け 前に イスフ ァハ ンに到 着で きるよ うに 時間を 調整 し、
到着後すぐバブを自分のところに連れてくるように命じた。
こ の計 画はす ぐ滞 りなく 実施 された 。だ れにも 怪し まれな い時 間に、 騎兵 隊はバ ブ
を 市内に 連れ もどし 、知 事公舎 の横 の入り 口を 通って 知事 宅に送 りと どけた 。知 事宅
に 落ち着 いた バブに 、知 事は自 ら食 事を出 すな どして バブ の世話 をし 、快適 で安 全に
過ごせるように万全を整えた。(pp.209-211)
一 方、 バブの テヘ ランへ の旅 につい て、 でたら めな うわさ が町 中にひ ろま った。 テ
ヘ ランに 行く 途中で 拷問 を受け た、 または 処刑 された など のうわ さが 飛び交 った 。イ
ス ファハ ンに 住む信 者た ちは、 その うわさ を聞 いて深 く嘆 き悲し んだ 。それ を知 った
知事はバブに、信者たちに会ってくれるようにこん願した。そこでバブは、カリム(バ
ブ の親密 な弟 子)に 宛て て短い 手紙 を書き 、そ れを知 事に 託し、 信頼 できる 者を 通し
て カリム の手 に渡る よう に頼ん だ。 町の神 学校 に宿泊 して いたモ ラ・ アブド ル・ カリ
ム は、そ の手 紙を受 け取 った一 時間 後にバ ブの もとに きた 。かれ の訪 問を知 って いた
者 は知事 だけ であっ た。 バブは カリ ムに自 著の 書簡を 何通 か渡し 、ホ セイン ・ヤ ズデ
ィ とゾヌ ジと 共同で 、そ れらを 書き 写すよ うに 命じた 。カ リムは バブ が安全 であ ると
い ううれ しい ニュー スを もって 、い そいで この 二人の とこ ろにも どっ て行っ た。 イス
ファハンの信者たちのうち、バブに会うことを許されたのはこの三人のみであった。
あ る日 、バブ と知 事が屋 敷内 の庭園 で休 んでい たと き、知 事は 自分の ひそ かな願 望
をバブに告げた。
「全能なる神はわたしに巨大な富をあたえて下さいましたが、その使
い 道がわ かり ません でし た。し かし 今、神 の援 助によ り、 この大 業を 認める こと がで
き ました ので 、全財 産を その発 展の ために ささ げたい と願 ってお りま す。そ こで 、あ
なたの許しを得てテヘランにおもむき、わたしを完全に信頼して下さっている国王に、
最 善をつ くし てこの 大業 の教え を伝 えたい と思 います 。国 王はこ の大 業を進 んで 受け
入 れられ 、そ の発展 を促 進され るで ありま しょ う。さ らに 、放埓 な総 理大臣 ハジ ・ミ
ル ザ・ア ガシ を免職 され るよう に国 王を説 得す るつも りで す。そ の愚 劣な政 治で 国は
破 滅寸前 にな ってい るか らです 。つ ぎに、 あな たと国 王の 妹との 結婚 が成立 しま すよ
う に、か の女 から承 諾を 得、あ なた の結婚 式を わたし に準 備させ てい ただき たい と望
ん でいま す。 最後に 、地 上の為 政者 と国王 がこ の最高 にす ばらし い大 業に心 を向 けら
れ るよう に努 力し、 同時 に、イ スラ ム教の 清い 名を汚 して いる腐 敗し た宗教 組織 の影
響を根絶したいと願っております。」(PP.212-213)
これに対してバブはつぎのように答えた。
「あなたの気高い決意に神が報いられんこ
と を。あ なた の崇高 な意 図は、 行為 そのも のよ りもも っと 貴重な のだ が、あ なた とわ
た しは余 命い くばく もな いのだ 。あ なたの 念願 が実現 され るには 時間 があま りに も短
い し、た とえ 達成さ れて もそれ を見 ること はで きない 。全 能の神 は、 あなた が考 えら
れ る方法 では なく、 ほか の方法 でこ の大業 に勝 利をも たら される であ ろう。 最高 の主
権 者であ る神 は、こ の国 の身分 の低 い貧し い人 びとが 、神 の道に 流す 血で大 業の 土台
を揺るがないものとされよう。神は来世で、不滅の栄光の冠をあなたの頭上に置かれ、
計 り知れ ない ほどの 祝福 をあな たに 注がれ るで あろう 。こ の世で のあ なたの 命は 、あ
と 三ヵ月 と九 日しか 残っ ていな い。 その期 間が すぎれ ば、 あなた は堅 い信念 をい だい
て永遠の住まいにいそがれるであろう。」
知事(マヌチェール・カーン)は、このバブの言葉を聞いてよろこびで満たされた。
自 らを神 の意 志に委 ね、 この世 から の旅立 ちの 準備を しは じめた 。旅 立ちの 日を はっ
き りと予 告さ れたか らで あった 。か れは家 事を 整理し 、遺 書を作 成し 、全財 産を バブ
に 贈与し た。 しかし 、知 事がこ の世 を去っ た直 後、欲 の深 い甥ゴ ルジ ン・カ ーン が遺
書を見つけ、その中の指示を無視して財産をうばい取った。
死 期が 近づく につ れて、 知事 は、ひ んぱ んにバ ブと 親密に 対話 し、信 教に 生気を 与
える精神をより深く理解できるようになった。ある日、かれはバブにこう告げた。
「こ
の 世から 出発 する時 間が せまる につ れ、わ たし の魂は 言い ようの ない 喜悦感 で満 たさ
れ てきま した が、あ なた のこと が心 配です 。わ たしの 後継 者であ るゴ ルジン ・カ ーン
の ような 無情 な男の 手に 、あな たを 委ねな けれ ばなら ない と思う と身 ぶるい がし てき
ま す。か れは 、あな たが この家 にい ること をか ならず 発見 し、あ なた を激し く迫 害す
るにちがいありません。」(p.213)
バブは、いさめるように言った。
「わたしは命を神の御手に任せた。わたしは神だけ
を信頼している。神はわたしに強大な力をあたえられたので、もしもわたしが望めば、
小 石でも 評価 できな いほ ど高価 な宝 石に変 える ことが でき 、極悪 犯罪 人の心 に高 尚な
道徳観念を植えつけることもできるのだ。わたしは『神の意志が成就されるために』
(コ
ーラン)敵に苦しまされることを選んだ。」
バ ブと の貴重 な時 間が刻 々と 過ぎて ゆく につれ て、 知事の 心に は熱烈 な信 仰心が わ
き 、神の そば 近くに いる という 意識 がます ます 強くな って いった 。バ ブの啓 示に 秘め
ら れた永 遠の 実在に 直面 して、 現世 の虚飾 や見 せびら かし は無意 味な ものと なっ た。
現世の野心の空しさと人間の努力の限界に気がつけばつくほど、バブの栄光ある啓示、
その無限の可能性と計り知れない祝福のビジョンが、ますます鮮やかとなっていった。
こ のよう な考 えを胸 にい だきな がら 時を過 ごし ていた 知事 は、あ る日 発熱し 、そ れが
一 晩中つ づい たあと とつ ぜんこ の世 を去っ た。 平安な 気持 ちと確 信に 満たさ れて 偉大
なるかなたの世界へと飛び立ったのである。(1847 年初春)
知 事の 生涯が 終わ りに近 づい たころ 、バ ブは、 ホセ イン・ ヤズ ディと カリ ムを呼 び
出 し、知 事の 死が間 近に なった こと を告げ た。 そして この 二人を 通し て、イ スフ ァハ
ン に集ま って きてい た信 者たち に、 カシャ ン、 クム、 そし てテヘ ラン に散ら ばり 、神
の 英知あ る導 きを待 つよ うに命 じた 。知事 の死 後ニ、 三日 たって 、知 事がバ ブの 救助
を 計画・ 実施 したこ とを 知って いた ある人 物が 、後継 者の ゴルジ ン・ カーン に、 バブ
の 居場所 と知 事がバ ブを 礼遇し てい たこと を告 げた。 この 思いが けな い情報 を得 たゴ
ルジン・カーンは、使者をテヘランに送り、国王に手紙を渡すように指示した。(p.214)
「四ヵ月前、わたしの前任者の知事はご命令にしたがってバブを陛下のもとに送った、
と イスフ ァハ ンでは 一般 に信じ られ ていま した 。とこ ろが 、バブ は公 舎内の 知事 宅に
住 んでい るこ とが明 らか となっ たの です。 前任 者自ら 、バ ブに自 宅を 提供し て世 話を
し 、その こと を市民 と役 人に極 秘に してい たの です。 陛下 はこれ に関 してど のよ うな
命令を下されますか。わたしはすぐそれに従うつもりでいます。」
国 王は 、今は 亡き 知事( マヌ チェー ル・ カーン )の 忠誠心 を堅 く信じ てい たので 、
こ の手紙 から 知事の 本当 の意図 を知 った。 すな わち、 国王 とバブ の会 見の好 機を 待っ
ていたのであるが、知事のとつぜんの死で、計画が妨げられたことを悟ったのである。
そ こで、 国王 はバブ を首 都テヘ ラン に召喚 する ことに し、 ゴルジ ン・ カーン にそ の指
示 を文書 であ たえた 。そ の中で 、バ ブを変 装さ せ、ベ ッグ の指揮 する 騎兵隊 に護 衛さ
せ てテヘ ラン に連れ てく るよう に命 じた。 また 、この 旅は 極秘で 行い 、その 途上 では
バブに最高の礼をつくすようにとの指示も付け加えた。
ゴ ルジ ン・カ ーン は、た だち にバブ に国 王の召 喚状 を手渡 した 。つぎ にベ ッグを 呼
び 出し、 国王 の命令 を伝 え、す ぐ旅 の準備 にか かるよ うに 命じた 。そ してこ う警 告し
た。
「バブの身許がだれにも知られないように注意せよ。また、この任務の内容をだれ
に もうた がわ れない よう にせよ 。あ なた以 外は だれに も、 護衛の 者ら さへも 、バ ブで
あ ること が知 られて はな らない 。も し質問 され たら、 この 人物は 商人 で首都 に連 行す
る ように 命じ られた が、 われわ れに も身許 は知 らされ てい ない、 と答 えよ。」バ ブは、
夜半過ぎに、指示通りにイスファハンからテヘランに向けて出発した。
第十一章
バブのカシャン滞在
バ ブが カシャ ン市 に着く 前夜 、その 地の 知名人 で、 パルパ とい う名称 で知 られて い
る ハジ・ ミル ザ・ジ ャニ という 人が 夢を見 た。 夢の中 で、 ある日 の午 後おそ く、 市の
城 門アッ ター ルの前 に立 ってい ると 、とつ ぜん 馬に乗 って 近づい てき ている バブ の姿
が 見えた 。と ころが 、バ ブはい つも のター バン ではな く、 商人が 通常 用いる 帽子 をか
ぶ ってお り、 前後に 騎兵 隊が整 列し て進ん でい た。一 団が 城門に 近づ いたと き、 バブ
はかれにあいさつをして、こう述べた。
「ジャニよ、三日間あなたの客になるのでその
準備をするがよい。」
目 をさ ました ジャ ニは、 夢が あまり にも 鮮やか であ ったの で、 それは 正夢 である と
確 信した 。か れは、 この 思いが けな いバブ の出 現は神 から のお告 げで あり、 それ に従
う のは自 分の 義務で ある と感じ た。 そこで 、バ ブが快 適に 過ごせ るよ うに用 意万 端と
と のえた 。そ の夜、 バブ のため に晩 餐を準 備し たあと 、ア ッター ルの 門に行 きバ ブの
到 着をま った 。夢で 予告 された 時間 がきた ころ 、はる か彼 方の地 平線 に、市 の城 門に
向かって近づいてきている騎兵隊の一団が見えはじめた。(p.217)
そ こで 、一団 を出 迎える ため にいそ いで 近づい て行 くと、 護衛 隊にか こま れたバ ブ
の 姿を認 める ことが でき た。バ ブは 、前夜 夢で 見たの と同 じ衣服 を身 につけ 、同 じ表
情 をして いた 。ジャ ニは うれし そう にバブ に近 づき、 あぶ みに口 づけ しよう と身 体を
かがめたところ、バブはそれをとめて、こう述べた。
「われは三日間あなたの客人とな
る。明日はノウ・ルーズ(新年)なので、あなたの家で共に新年を祝おうではないか。」
バ ブを 護衛し てき た隊長 のモ ハメッ ド・ ベッグ は、 ジャニ とバ ブは親 密な 友であ る
と思い、こう述べた。
「バブのお望みには何でも従うつもりです。しかし、わたしとい
っしょにバブの護衛をしている同僚の意見も聞いて下さるようにお願いします。」そこ
で、ジャニがその同僚に聞いたところ、きっぱりとことわられた。「この青年(バブ)
が 首都に 到着 するま では 、どの 町に も入っ ては ならな いと 強く命 じら れてい ます 。日
没 時に進 行を 中止し 、夜 間は市 の城 門外で 睡眠 をとり 、翌 日夜明 けと 共に旅 をつ づけ
るようにという特別の指示を受けているのです。この命令を変えることはできませ
ん。」(pp.218-219)
こ の同 僚の反 対で はげし い議 論が起 こっ たが、 結局 、モハ メッ ド・ベ ッグ の意見 が
勝 ち、バ ブを ジャニ にあ ずける こと になっ た。 ただし 、三 日目の 朝、 バブを 安全 にか
れ らのも とに 戻すと いう 条件が つけ られた 。ジ ャニは 護衛 隊全員 も自 宅に招 待す るつ
もりであったが、バブはその考えを捨てるようにすすめた。
「あなたの家に行くのはわ
れだけだ。」ジャニは、騎兵隊の三日間のカシャン滞在費を負担させてもらうようにバ
ブに頼んだ。その要請にバブは答えた。
「その必要はない。われが望まなかったならば、
だれであろうと、われをあなたに手渡すことはできなかったのだ。この世のすべては、
神の威力ある手に握られている。神に不可能なことはない。神はすべての困難を除き、
すべての障害を克服したまうのだ。」結局、騎兵隊は市の城門近くの隊商宿に泊まるこ
と になっ た。 モハメ ッド ・ベッ グは 、バブ の指 示に従 い、 ジャニ の邸 宅近く まで バブ
を護衛し、その場所を確認したあと騎兵隊のところにもどった。
バ ブが カシャ ン市 に到着 した 夜は、 バブ の宣言 後三 年目の 前夜 で、一 二六 三年( 一
八 四七年 )ラ ビオシ ・サ ニ月の 二日 目であ った 。その 夜、 ホセイ ン・ ヤズデ ィ( バブ
の 信頼す る秘 書)が その 邸宅に 招か れ、バ ブの 面前に 案内 された 。か れはバ ブの 指示
に 従って カシ ャンに 来て いたの であ る。バ ブが 、家の 主人 (ジャ ニ) のため に書 簡を
書 き取ら せて いたと き、 主人の 友人 が訪れ てき た。こ の人 物は、 アブ ドル・ バキ とい
う 名で、 学識 者とし てカ シャン で名 を知ら れて いた。 バブ はかれ を招 き入れ 、書 き取
ら せてい る言 葉を聞 かせ たが、 自分 の身分 は明 かさな かっ た。そ の書 簡の結 びの 言葉
として、ジャニのための祈りを著わした。それは、ジャニの心が神の知識で照らされ、
大 業への 奉仕 とその 宣布 に際し て、 雄弁に 語る ことが でき ますよ うに 、とい う祈 りで
あ った。 この 祈りの おか げで、 かれ は無学 なが らも、 雄弁 さでカ シャ ン最高 の僧 侶を
感 銘させ るほ どにな った 。さら に、 その能 力は ますま すみ がかれ 、バ ブの教 えに 挑戦
し てくる すべ ての自 称学 識者ら を沈 黙させ るこ とがで きる ように なっ た。か の尊 大で
傲 慢なナ ラキ さえも 、そ の雄弁 さに もかか わら ず、ジ ャニ の議論 の勢 いに逆 らう こと
は できな かっ た。ナ ラキ は心中 では その真 理を 否定し たが 、表面 では 敵の大 業の 価値
を認めざるを得なかった。(p.219-221)
ア ブド ル・バ キは 座った まま バブに 聞き 入った 。バ ブの声 を聞 き、そ の動 作を見 守
り 、顔の 表情 を見、 その 口から 間断 なく流 れ出 す言葉 に注 目した が、 その威 厳と 威力
に 心を動 かさ れるこ とは なかっ た。 むなし い想 像と学 識の ヴェー ルに つつま れた かれ
は 、バブ の言 葉の意 味を 理解す るこ とがで きな かった ので ある。 かれ は、自 分に 紹介
さ れた客 人の 名前と 身分 も聞こ うと もせず 、ま た、そ の家 で見聞 した ことに 感動 一つ
お ぼえる こと もなく 、バ ブのも とを 去った 。こ のまた とな い機会 を自 らの無 関心 で失
っ てしま った のであ る。 数日後 、そ の青年 の名 前を知 らさ れたと きは じめて 、自 分の
軽 率で無 神経 な態度 を無 念に思 った 。しか し、 バブの 面前 に出て 、自 分の失 礼な 態度
を つぐな うに は遅す ぎた 。バブ はす でにカ シャ ンから 出発 してい た。 その後 かれ は、
悲嘆のあまり世を捨て、生涯の終わりまで隠遁生活をつづけた。
ジ ャニ 宅でバ ブに 会うこ とが できた 人た ちの中 に、 メヘデ ィと いう人 がい た。一 二
六 八年( 一八 五一年 から 五二年 )に テヘラ ンで 殉教し た人 である 。か れとそ のほ か何
人 かは、 その 三日間 にジ ャニか ら愛 情深い もて なしを 受け た。バ ブさ えもジ ャニ の寛
大 さを賞 賛し たほど であ った。 同じ もてな しを 受けた バブ の護衛 の者 たちは 、か れの
心 の大き さと 魅力あ る態 度に感 謝を 忘れる こと はなか った 。新年 の二 日目に 、約 束ど
お りジャ ニは バブを 護衛 隊に渡 し、 悲しみ で胸 は張り 裂け そうに なり ながら バブ に最
後の別れを告げた。(pp.221-222)
第十二章
バブのカシャンからタブリズへの旅
護 衛隊 に守ら れな がらバ ブは クムの 方向 へ進ん で行 った。 護衛 隊は、 バブ の魅力 と
威 厳、そ して 情け深 さに すっか り心 を惹か れ、 態度を 変え てしま った 。バブ の望 みに
従 うため に、 自分た ちの 権限と 義務 をすべ て放 棄した かに 見えた 。か れらは 、バ ブに
仕えたい、よろこばせてあげたいという熱望から、ある日つぎのように述べた。
「わた
し どもは 、あ なたを クム 市に入 れて はなら ない ときび しく 命じら れて います 。ま た、
人 通りの 少な い道を とお って、 テヘ ランに 直行 するよ うに 指示さ れて おり、 とく に、
ハ ラム・ マス ーメ( 西暦 八一六 年に 亡くな った ファテ メの 廟)を 避け るよう に厳 命さ
れ ていま す。 その境 内は 、最悪 罪人 も逮捕 を免 れると 言わ れてい ると ころで す。 しか
し 、あな たの ためで した ら、わ たし どもが 受け た命令 はす べて無 視で きます ので 、お
望みであればすぐ、クム市内を通ってその聖なる廟にご案内いたしましょう。」
これにバブは答えた。
「『真の信者の心は神の王座なり。』救済の箱舟であり、全能者
の難攻不落のとりでである者は今、この荒野をあなたがたと共に旅している。われは、
堕 落した 都市 に入る より 田園の 道を 好む。 その 廟に葬 られ ている 清純 なる方 、そ の方
の 兄上と 名高 い先祖 は、 この邪 悪な 人びと の状 態を嘆 かれ ている にち がいな い。 かれ
ら は口先 では 敬意を 表す るが、 行動 でその 方の 名誉を 汚し ている から だ。外 面で は、
そ の方の 廟に 仕え、 尊敬 を示し てい るよう に見 せかけ るが 、内面 では その方 の尊 厳を
傷つけているのだ。」
バ ブに 随行し てき た護衛 隊員 たちは 、バ ブを心 から 尊敬し 信頼 するよ うに なって い
た ので、 バブ がとつ ぜん 去った とし ても、 だれ 一人と して うろた える ことは なく 、ま
た バブを 追跡 しよう とも しなか った であろ う。 バブと 護衛 隊の一 団は クム市 の北 端に
そ って進 み、 クムル ッド の村に 立ち 止まっ た。 この村 はモ ハメッ ド・ ベッグ の親 族の
所 有で、 村人 はすべ てア リヨラ ヒ派 (イス ラム 教の一 派) に属し てい た。村 長の 招き
で バブは 一夜 をその 村で 過ごし た。 素朴な 村人 の温か い歓 迎に感 動し たバブ は、 かれ
らの祝福を祈り、愛情のこもった感謝の言葉でかれらを元気づけた。
村 を出 発した 二日 後の午 後、 バブと 護衛 隊はテ ヘラ ンの南 方四 十五キ ロメ ートル に
位 置する ケナ ル・ゲ ルド の要塞 に到 着した 。新 年から 八日 目であ った 。一団 は翌 日首
都 に到着 予定 で、そ の夜 は要塞 の近 くで過 ごす ことに 決め た。と ころ が、と つぜ ん一
人 の使者 が現 われて 、ア ガシ( 総理 大臣) の手 紙をモ ハメ ッド・ ベッ グに渡 した 。そ
れ は、バ ブを 連れて ただ ちにコ ライ ン村に 直行 せよ、 とい う命令 状で あった 。そ の村
に はオサ ル・ カフィ の著 者とそ の父 が葬ら れて おり、 その 廟は近 隣の 人びと から 大い
に尊敬されていた。(pp.225-226)
モ ハメ ッド・ ベッ グが受 け取 った命 令状 にはつ ぎの 指示が あっ た。つ まり 、その 村
に は適切 な宿 泊所が ない ので、 バブ のため に特 別のテ ント を張る よう に、そ して 護衛
隊 はその 近く に待機 させ 、つぎ の指 示を待 つよ うに、 とい うもの であ った。 新年 から
九日目の朝、一二六三年のラビオシ・サニ月十一日(一八四七年三月二十九日)の朝、
村 のすぐ 近く にバブ のた めにテ ント が張ら れた 。その 村は アガシ (総 理大臣 )の 所有
で 、その テン トはか れが その村 を訪 れると きに 使用し てい たもの であ った。 テン トは
一 面にひ ろが る果樹 園と 牧草地 にか こまれ た丘 の上に 張ら れた。 その 場所の 静寂 さ、
こ んもり とし た草木 、絶 え間な い小 川のせ せら ぎにバ ブは この上 ない よろこ びを 感じ
た。
二 日後 に、ホ セイ ン・ヤ ズデ ィ、ハ サン 、その 弟の カリム 、ゾ ヌジの 四人 がバブ に
招 かれ、 全員 バブの テン トの近 くに 泊まっ た。 新年か ら十 二日目 のラ ビオス ・サ ニ月
十 四日に 、メ ヒディ ・コ イとメ ヒデ ィ・カ ンデ ィがテ ヘラ ンから 到着 した。 後者 は、
テ ヘラン でバ ハオラ と親 しく交 わっ ていた 人で 、バハ オラ から封 印さ れた手 紙と 贈り
物 をあず かっ てきて いた 。それ を受 け取っ たバ ブは大 いに よろこ び、 顔をか がや かせ
て使者に深い感謝の意を表した。
そ の手 紙は、 不安 定な状 態に 置かれ てい たバブ に、 慰めと 力を あたえ た。 バブの 心
を おおっ てい た憂慮 の陰 は消え 、確 実な勝 利感 でみた され た。長 い間 バブの 顔を かげ
ら せてい た悲 しみは 、危 機をは らん だ監禁 生活 で一層 深ま ってい たが 、たち まち 消え
去 ったよ うで あった 。逮 捕され 、シ ラズか ら追 放され て以 来、か れの 目から あふ れ出
ていた苦悩の涙はもはや流れることはなかった。
「わが最愛なる御方よ!」と、かれが
悲 嘆と孤 独の なかで 叫ん だ嘆願 の声 は、感 謝と 賞賛、 希望 と勝利 の声 と変わ った 。こ
う してか れの 顔は歓 喜で かがや き、 しばら くの 間それ をく もらす もの はなか った 。し
か し、シ ェイ キ・タ バル シの砦 で勇 敢な信 者た ちにふ りか かった 大災 難の知 らせ に、
バブの表情はふたたびくもり、心の喜悦感は消え去った。(pp.227-228)
バ ブが バハオ ラか ら手紙 を受 け取っ た夜 の出来 事を 、カリ ムは わたし (著 者)に 語
ってくれた。
「わたしは仲間といっしょに、バブのテントの近くで深い眠りにおちいっ
ていましたが、とつぜん、馬のひづめの音で目がさめました。やがてわかったことは、
テ ントか ら姿 を消し たバ ブを探 しに 行った 者ら が、バ ブを 見つけ るこ とがで きな いた
め さわぎ が起 こって いた ことで した 。モハ メッ ド・ベ ッグ は護衛 の者 らをい さめ まし
た。
『どうしてあわてふためいているのか。バブの高尚な人格がお前たちはわからない
の か。バ ブは 自分の 安全 のため にも 、他人 に恥 をかか せる ような 行為 をする 人で はな
い ことが 確信 できな いの か。か れは 、月夜 の静 けさの 中で 神と交 信す るため に、 だれ
に も邪魔 され ない場 所に 一人で いる にちが いな い。か れは かなら ずテ ントに もど って
くる。われわれを見捨てるようなことはしない。』
こ う言 って、 モハ メッド ・ベ ッグは 護衛 隊を安 心さ せるた めに テヘラ ンの 方に向 か
っ て歩き だし ました 。わ たしも また 、仲間 とい っしょ にか れのあ とに つづき まし た。
や がて、 護衛 隊もそ れぞ れ馬に のっ てわれ われ のあと を追 ってき まし た。一 丁ほ ど行
っ たとこ ろで 曙光の うす がりの 中、 遠くに いる バブの 姿が 認めら れま した。 バブ はテ
ヘ ランの 方角 からこ ちら の方へ 歩い てきて いま した。 そし て、モ ハメ ッド・ ベッ グに
近 づくと こう 言われ まし た。『 われ が逃げ たと でも思 った のか? 』『 とんで もあ りませ
ん。そのような考えをいだくはずはありません。』と、モハメッド・ベッグはバブの足
元 に身を 投げ るよう にし て答え まし たが、 バブ の輝く 顔に 、落ち 着き と威厳 を見 て畏
敬 の念に 打た れ、そ れ以 上の言 葉を 口にす るこ とはで きま せんで した 。バブ の顔 は確
信 に満ち 、そ の言葉 は人 知を超 えた 力にあ ふれ ていま した 。われ われ は崇敬 の念 でい
っ ぱいに なり 、バブ の言 葉と態 度が おどろ くほ ど急変 した わけを 聞く ことさ えで きま
せ んでし た。 バブ自 身も われわ れの 好奇心 と驚 異の念 に応 えよう とは されま せん でし
た。」(p.228)
そ の後 二週間 バブ はこの 美し い自然 に囲 まれた 場所 に滞在 した 。しか し、 その静 か
な 日々は とつ ぜん一 通の 手紙で 破ら れた。 それ はモハ メッ ド国王 自ら バブに あて たも
ので、つぎのように書かれていた。
「あなたとの会見を大いに望んでいたが、われは首
都 から即 刻出 発せね ばな らない ので 、あな たを 適切に 迎え ること がで きない 。あ なた
を マーク ーの 砦に案 内さ せるが 、そ この看 守長 にあな たを 丁寧に 扱う ように 指示 して
い る。こ こに もどっ て来 次第、 あな たを召 喚し はっき りと した判 決を 下そう 。今 回会
見 できな いが 、失望 され ないよ うに 。何か 不満 なこと が起 これば 、た めらわ ずに われ
に 知らせ るよ うに願 う。 わが安 寧と わが国 の繁 栄をつ づけ て祈ら れる ことを 切に 望ん
でいる。」
(一二六三年ラビオス・サニ月‐一八四七年三月十九日から四月一七日の間)
(pp.229-231)
国 王が このよ うな 手紙を バブ に出し たの は、ア ガシ (総理 大臣 )の説 得が あった か
ら にちが いな い。ア ガシ はただ 恐怖 感から その ような 行動 を取っ たの である 。バ ブと
国 王の会 見が 実施さ れれ ば、国 務に 重要な 権限 をもつ 自分 の地位 がう ばわれ 、権 力の
座 から追 われ るかも しれ ない、 と感 じたの であ る。か れは バブに は悪 感情も 恨み もな
かったが、国王を説き伏せてバブを遠隔の辺鄙な場所に移すことに成功した。これで、
悩 みから 解放 された と思 った。 とこ ろが、 それ はとん でも ない誤 算で あった 。こ の陰
謀 により 、国 王も国 家も 神の教 えの 恩恵を 受け ること がで きなく なっ たので ある 。こ
の 比類な い神 の教え のみ が、堕 落の 淵に落 ち込 んだ国 家を 救うこ とが できた ので ある
が、そのときアガシはそれに気づいていなかった。
こ うし て、先 見の 明に欠 けた 総理大 臣は 、急速 に没 落して いた 帝国を 復興 できる 最
高 手段が 国王 の手に 入る のを阻 止し たので ある 。同時 に、 ペルシ ャが 諸国民 と諸 国家
に 優位を 占め 得る精 神力 をもう ばっ てしま った 。その 愚行 、濫費 、国 王への 不誠 実な
勧 告は、 国家 の基盤 を危 うくし 、そ の威信 をそ ぎ、人 民の 忠誠心 を弱 め、か れら を不
幸 のどん 底へ 突き落 とし た。ア ガシ は先任 者の 例から も学 ぶこと なく 、国民 の要 求と
利 益を無 視し て、自 分個 人の権 力の 増大を 追求 してや まな かった ので ある。 さら に、
かれの放縦と無節制は、国家を近隣諸国との破壊的な戦争に巻きこませた。
(pp.232-233)
サ ディ ・マー ジと いう歴 史上 の人物 は、 王家の 血を 引かず 何の 権力も なか ったが 、
公正な行為とモハメッドの大業へのたゆまぬ献身の結果、高い地位を得ることができ、
今 日にい たる まで、 イス ラム教 の長 老や指 導者 は、か れを 尊敬し その 美徳を 称え てき
た。一方、ボゾルグ・メヒルという人物は、ヌシラヴァン・アデルの家臣たちのうち、
も っとも 有能 で、も っと も賢く 、経 験の豊 富な 政治家 であ ったが 、不 正行為 のた め公
に 恥辱を 受け 、軽蔑 とあ ざけり の的 となっ た。 かれは 、自 分の苦 境を 嘆き、 号泣 しつ
づけたためついに目が見えなくなってしまった。
前 者の 模範と 後者 の破滅 の例 を見て も、 うぬぼ れの 強い総 理大 臣は自 分の 地位が 危
険 にさら され ている こと に気が つか なかっ た。 自分の 考え を押し 通し つづけ た結 果、
つ いに、 かれ もまた 総理 大臣の 地位 と財産 を失 い、屈 辱を 受け面 目を つぶさ れた 。身
分 の低い 良民 からう ばい 取った 数知 れない 不動 産、高 価な 家具類 、莫 大な経 費を かけ
た 家屋も すべ て失っ てし まった ので ある。 それ は、バ ブを アゼル バエ ジャン の山 中に
監 禁命令 を出 してか ら二 年後で あっ た。ア ガシ は全財 産を 政府に 没収 され、 国王 の寵
を 失い、 恥辱 を受け てテ ヘラン から 追放さ れた 。その 後、 病と貧 困に おそわ れ、 希望
も うばわ れた かれは 、み じめな 生活 を強い られ てカル ベラ で最後 の息 を引き 取る まで
苦しみ悩んだ。(p.234)
さ て、 話をバ ブに もどそ う。 バブが タブ リズに 向か うよう に命 じられ たこ とはす で
に 述べた 。こ の北西 のア ゼルバ エジ ャンへ の旅 には、 モハ メッド ・ベ ッグを 隊長 とす
る 同じ護 衛隊 が随行 した 。その 旅に は、信 者の 中から 付添 い一人 と従 者一人 を選 ぶこ
と が許さ れた 。そこ でバ ブは、 ホセ イン・ ヤズ ディと その 弟を選 んだ 。旅の 費用 は政
府 から支 給さ れたが 、バ ブは、 それ を自分 のた めに用 いる ことを こと わり、 全額 を貧
し い人び とに あたえ た。 自分の 個人 的な必 要経 費には 、ブ シェル とシ ラズで 商人 とし
て 働いて いた ときに 得た 金を用 いた 。タブ リズ への途 中、 町は通 って はなら ない とい
う 命令が 下さ れてい たの で、ガ ズビ ンの町 の信 者たち は、 敬愛す る指 導者が 近づ いて
くるのを知って、シヤ・デハンの村に行き、そこでバブに会うことができた。
バ ブに 会った 信者 の一人 は、 エスカ ーン ダール であ った。 かれ はホッ ジャ トを代 表
し てシラ ズの バブを 訪れ 、その 大業 を調査 した 人であ る。 バブは かれ に、つ ぎの 手紙
を故セイエド・カゼムの賞賛者であったソレイマン・カーンに渡すように命じた。
「故
セ イエド がそ の美徳 を賞 賛され て来 た人物 、そ の啓示 の接 近を絶 え間 なく言 及し てき
た 人物は 、今 現われ た。 われこ そが その約 束さ れた人 物で ある。 立ち あがっ て圧 制者
の手からわれを救い出すように頼む。」バブがこの手紙をエスカーンダールに渡したと
き 、ソレ イマ ン・カ ーン はザン ジャ ンから テヘ ランに 向け て出発 しよ うとし てい た。
かれは、その手紙を三日後に受け取ったが、バブの要請には応じなかった。(p.235)
二日後、エスカーンダールの友人がバブの要請をホッジャトに知らせた。そのとき、
ホ ッジャ トは ザンジ ャン の僧侶 たち の扇動 で、 首都テ ヘラ ンに監 禁さ れてい たが 、す
ぐ自分の故郷の信者たちに指示をあたえた。バブを救出するために必要な人数を集め、
そ の準備 をせ よ、と いう 指示で あっ た。そ して 、注意 深く バブの 居場 所に近 づき 、時
機 がきた 瞬間 バブを 連れ 出すよ うに 命じた 。や がて、 カズ ビンと テヘ ランか ら多 くの
信 者たち が集 まり、 ホッ ジャト の指 示に従 って 、その 救出 計画を 実施 した。 かれ らが
真 夜中に バブ の居場 所に 着いた とき 、護衛 隊全 員熟睡 中で あった 。そ こでバ ブに 近づ
き、その場所から逃げるようにこん願した。バブは、
「アゼルバエジャンの山もわれを
要 求して いる 」と落 ち着 いて答 えた 。そし て、 かれら に救 出計画 をす てて故 郷に もど
るように慈愛深く忠告した。
護衛隊はバブを連れてタブリズ市の城門に近づいた。隊長のモハメッド・ベッグは、
囚 人(バ ブ) との別 れの 時間が せま ってき たの で、バ ブの 面前に 出て 自分の 短所 と罪
を見逃してくれるようにこん願した。
「イスファハンからここまでは長くきびしい旅で
し た。そ の間 わたし は自 分の義 務を 果たす こと も、あ なた に十分 仕え ること もで きま
せんでした。わたしを許し祝福をあたえて下さるように願います。」バブはこう答えた。
「 安心す るが よい。 あな たを信 者た ちの一 人で あると 見な してい るか らだ。 わが 大業
を 受け入 れる 者らは 、あ なたを 永遠 に祝福 し、 称える であ ろう。 また 、あな たの 行為
を賞賛し、あなたの名を高めるであろう。」(p.236)
ほ かの 護衛隊 員た ちも隊 長の 例にな らい 、バブ の祝 福をこ ん願 し、か れの 足に口 づ
け し、目 には 涙を浮 かべ ながら 最後 の別れ のあ いさつ をし た。バ ブは 隊員全 員に 、そ
の 献身的 な働 きを感 謝し 、かれ らの ために 祈る ことを 約束 した。 不本 意なが らも 、か
れ らはバ ブを モハメ ッド 国王の 後継 者(皇 太子 )であ るタ ブリズ 知事 に渡さ ざる を得
な かった 。バ ブの超 人的 な英知 と能 力を目 撃し た護衛 隊員 たちは 、そ の後会 う人 ごと
に 、自ら 体験 した奇 跡的 な出来 事を 、畏れ と賞 賛の気 持ち にあふ れな がら語 り聞 かせ
た 。こう して 自分た ちの できる 方法 で、新 しい 啓示に つい ての知 識を ひろめ るこ とが
できたのである。
バ ブが 近づい てき ている とい う知ら せに 、タブ リズ の信者 たち の気持 ちは 高まり 、
敬 愛する 指導 者を歓 迎す るため に集 まって きた 。しか し、 バブを 迎え ること にな って
い た市当 局は 、信者 たち がバブ に近 づいて 祝福 を受け るこ とを禁 じた 。とこ ろが 、一
人 の若者 が自 制でき なく なり、 裸足 で市の 城門 から飛 び出 してき た。 敬愛す る御 方の
顔 を見た い一 心から 、バ ブに向 かっ て走っ た。 バブの 前方 を進ん でい た護衛 隊に 近づ
く と、若 者は 隊員の 衣服 の裾に すが り、そ のあ ぶみに うや うやし く口 づけし て、 涙な
がらに叫ぶように言った。
「敬愛する御方を護衛されている皆さんは、わたしのひとみ
のように大事な方々です。」
か れは 、バブ に会 わせて くれ るよう に熱 心にこ ん願 した。 この 若者の 異常 な行動 と
熱 意に打 たれ た護衛 隊は 、その こん 願を聞 き入 れバブ に会 わせた 。バ ブを見 た瞬 間若
者 は感極 まっ て叫び 、そ のあと 顔を ふせて 泣き くずれ た。 バブは 馬か らおり 、若 者を
抱 くよう にし て涙を ふき 、かれ の心 を落ち 着か せた。 タブ リズの 信者 たちの うち 、こ
の 若者だ けが バブに 敬意 を表す るこ とがで き、 またバ ブの 手に触 れて 祝福を 受け るこ
と ができ た。 残りの 信者 たちは 皆、 遠くか ら敬 愛する 御方 の姿を 一瞥 するだ けで 満足
しなければならなかった。(pp.237-238)
バ ブ は タ ブリ ズ 市 に 到着 後 、 市 の高 官 の 家 に案 内 さ れ た。 そ の 家 はバ ブ を 監 禁す る
た めに準 備さ れたも ので あった 。そ の家の 門外 の警備 をし たのは ナセ リ連隊 の特 別班
で あった 。か れらは 、セ イエド ・ホ セイン とか れの弟 以外 はバブ に会 わせな かっ た。
こ の連隊 はカ ムセの 住民 から召 集さ れ、特 別の 栄誉を 受け ていた が、 後日、 かれ らの
銃 弾はバ ブを 殺害す るこ とにな るの である 。バ ブのタ ブリ ズ到着 で市 民の動 揺は 高ま
っ た。バ ブの 姿を見 よう と興奮 した 群衆が 集ま ってき た。 ある者 は好 奇心か ら、 ある
者 はうわ さが 本当で ある かを確 認す るため に、 そのほ かの 者はバ ブに 忠誠を 誓う ため
で あった 。街 路を歩 くバ ブに向 かっ て、群 衆の 歓呼が あち こちで あが った。 群衆 の大
半はバブを見て「アラホアクバー」(神は偉大なり)と叫び、ほかの者は声高らかにバ
ブ の栄光 を称 えた。 神の 祝福を 祈っ た者も あり 、バブ が踏 んだ土 にう やうや しく 口づ
けした者も何人かいた。
こ のよ うに、 バブ の到着 で大 騒ぎに なっ たため 、当 局は町 内の 触れ役 をと おして 、
バブに会おうとする者は処罰を受ける、と住民に警告した。
「バブに近づこうとする者、
あ るいは かれ に会お うと する者 は、 全財産 を没 収され 、終 身監禁 の刑 を受け るこ とに
なる。」(pp.238-239)
バ ブが 到着し た翌 日、そ の市 の有名 な商 人タギ ・ミ ラニと アリ ・アス カル が危険 を
冒 してバ ブと の会見 を試 みた。 かれ らの友 人や 好意を 寄せ ている 人は 、そう いう こと
を すれば 、財 産を失 うば かりで なく 命も危 険に さらさ られ ると警 告し て止め させ よう
と した。 二人 はその 警告 を無視 して 、バブ が監 禁され てい る家の 入り 口に近 づい たと
ころ即座に逮捕された。バブとの会談を終えて出てきたばかりのセイエド・ハサンは、
その場ではげしく抗議した。
「わたしはバブからこのメッセージを伝えるように命じら
れました。『この訪問者たちを中に入れなさい。わたしがかれらを招いた。』」
わ たし (著者 )は 、ハジ ・ア リ・ア スカ ルから その ときの 状況 につい てつ ぎのよ う
に聞いた。
「このメッセージを聞いたとたん、逮捕者たちは沈黙しました。そこで、わ
れ われは すぐ バブの 面前 に案内 され たので す。 バブは われ われを 迎え 入れ、 つぎ のよ
う に説明 され ました 。『 家の入 り口 で警備 にあ たって いる みじめ で、 あわれ な者 らは、
家 に群が って きてい る群 衆から われ を守る よう にわれ が定 めたの だ。 かれら はわ れが
会見したいと望む者を阻止することはできない。』
わ れわ れは、 二時 間ほど バブ のそば にい ました 。そ の場を 去る とき、 バブ はコー ネ
リ アンの 指輪 用の宝 石を 二個わ たし に渡し 、そ れらに 、以 前かれ がわ たしに あた えて
い た二つ の聖 句を刻 み込 み、台 には め次第 持参 するよ うに 命じら れま した。 だれ も妨
げたりしないので、何時でも自由に来るようにと、バブはわれわれを安心させました。
数回、わたしは依頼された仕事に関して、バブの意向を確認するために訪れましたが、
警 備員は 、わ れわれ を一 度も阻 止し たり、 無礼 な言葉 を用 いたり する ことは あり ませ
ん でした 。ま た、大 目に 見たこ とに 報酬を 期待 してい る様 子もま った くあり ませ んで
した。
モ ラ・ ホセイ ンと 共に過 ごし た期間 、か れのお どろ くべき 洞察 力と異 常な 能力を 何
度 も目撃 して 感動し たこ とを、 今に なって 思い 出しま す。 わたし はシ ラズか らマ シュ
ハ ドへの 旅に かれに 同伴 し、ヤ ズド 、タバ ス、 ボッシ ュル エイ、 トル バット を訪 れま
し た。当 時、 シラズ でバ ブに会 えな かった こと をひじ ょう に遺憾 に思 ってい たわ たし
に、モラ・ホセインは、つぎのように述べて安心させてくれました。
『嘆くことはない。
全 能なる 神は かなら ず、 あなた がシ ラズで 失っ た機会 をタ ブリズ で補 って下 さる であ
ろ う。失 った 一回の 機会 に対し て一 度なら ず七 度、神 はあ なたを バブ の面前 に出 させ
て下さるであろう。』その強い確信をもった言葉に、わたしはびっくりしました。後日、
タ ブリズ の困 難な状 況の 中で数 回も バブの 面前 に出る こと ができ ては じめて 、こ のモ
ラ ・ホセ イン のおど ろく べき先 見の 明を思 い出 したの です 。七度 目に バブを 訪れ たと
き、バブのつぎの言葉を聞いて仰天しました。
『あなたに七度の訪問をさせ、あなたを
慈愛深く保護された神に賛美あれ。』」(pp.240-241)
第十三章
バブのマークー砦監禁
ホセイン・ヤズディは、タブリズでのバブとの談話をつぎのように語った。
「バブが
タ ブリズ で監 禁され た最 初の十 日間 は、そ の後 バブに 何が 起こる かを 知る人 はい ませ
ん でした が、 でたら めな うわさ が町 中にひ ろが ってい まし た。あ る日 、わた しは 思い
切 ってバ ブに 、現在 の場 所にず っと おられ るの か、そ れと もほか の場 所に移 られ るの
かを聞きました。バブは即座に答えられました。
『イスファハンで質問したことを忘れ
た のか。 約九 ヵ月間 <開 かれた 山> (マー クー の砦) に監 禁され 、そ こから <嘆 きの
山 >(チ ェリ グの要 塞) に移さ れる のだ。 この 二つの 場所 はコイ 山岳 にあり 、こ れと
同じ名の町がこの両要塞の間にある。』この予告から五日目に、命令が下され、バブと
わ たしは マー クーの 砦に 移動す るこ とにな り、 われわ れの 身柄は 、ア リ・カ ーン (看
守長)に引き渡されることになりました。」
山 頂に 築かれ たマ ークー の砦 には、 堅固 な岩石 で造 られた 塔が 四つあ り、 そのふ も
と にマー クー の町が あっ た。そ こに 下る道 は一 本しか なく 、最終 点に は城門 があ り、
そ れに隣 接し て町役 場が あった 。そ の門は 砦か らかな り離 れてお り、 つねに 閉ざ され
て いた。 砦は オスマ ンと ロシア 両帝 国の境 に位 置して おり 、見晴 らし がよく 、戦 略的
に 有利な 場所 である こと から偵 察本 部とし て用 いられ てき た。戦 時中 その場 に配 置さ
れ た士官 は、 敵の動 きを 観察し 、ま わりの 状況 を確か め、 非常事 態が 起こる と当 局に
報 告して いた 。砦の 西に はペル シャ とロシ アの 境界を なす アラク セス 川があ り、 南は
ト ルコと 境を 接して いた 。国境 の町 、バヤ ジッ ドはマ ーク ー山か らわ ずか三 十キ ロメ
ートルほどにあった。(pp.243-244)
砦 の看 守はア リ・ カーン であ った。 マー クーの 町の 住民は クル ド人で 、イ スラム 教
の ソンニ 派に 属して いた 。ペル シャ 国民の 大多 数はシ ーア 派に属 し、 長い間 ソン ニ派
の 公然の 敵で あった 。ク ルド人 は、 とくに シー ア派の セイ エド( モハ メッド の子 孫)
を 忌み嫌 って いた。 かれ らは、 セイ エドを 敵の 精神的 な指 導者で あり 、主な 扇動 者で
あ るとみ なし ていた から である 。マ ークー の住 民は、 クル ド人を 母親 にもつ 看守 のア
リ ・カー ンを 大いに 尊敬 し、か れの 言うこ とな ら皆黙 って 従った 。看 守を自 分の 共同
体の仲間であるとみなし、心から信頼していたのである。
バ ブを ペルシ ャの 最北端 の荒 涼とし た危 険な場 所に 追放し たの は、総 理大 臣のア ガ
シ であっ た。 その唯 一の 目的は 、バ ブの影 響の 拡大を 差し 止め、 全国 の信者 とか れを
結 ぶきず なを 断ち切 るた めであ った 。総理 大臣 はこの 動乱 で荒廃 した 土地、 反抗 的な
民 族で占 めら れてい る土 地に侵 入す る者な どい るはず はな いと確 信し ていた 。こ の囚
人 (バブ )を 、信者 たち から離 して しまえ ば、 その発 生地 でこの 運動 は徐々 に息 が止
ま り、つ いに 消滅し てし まうと 安易 に考え てい た。し かし 、その 後ま もなく して 、か
れ はバブ の啓 示の真 の性 格を誤 解し 、その 影響 力を過 小評 価して いた ことに 気が つい
たのである。(p.244)
反 抗的 なクル ド人 の激情 は、 そのう ちバ ブの温 厚な 態度で しず まり、 心は その慈 愛
で おだや かに なった 。か れらの 自尊 心は、 バブ の謙虚 さで つつま しさ に変え られ 、理
不 尽な横 柄さ は、バ ブの 英知あ る言 葉でや わら いだ。 こう して、 心に 熱意の 炎を 点さ
れ たかれ らは 、毎朝 起き るとす ぐバ ブの姿 が見 えると ころ に行き 、か れと言 葉を 交わ
し 、日々 の仕 事に祝 福を あたえ てく れるよ うに 願った 。争 論が起 こる と、す ぐそ の場
に いそぎ 、バ ブの監 禁さ れてい る部 屋に目 を向 け、か れの 名を唱 え、 おのお の自 分の
主 張を述 べて 判決を 願っ た。看 守の アリ・ カー ンはそ のよ うな行 為を 止める よう に説
得 したが 、ク ルド人 たち の熱意 を抑 えるこ とは できな かっ た。し かし 、アリ ・カ ーン
は 自分の 任務 を厳格 に守 り、バ ブの 信者が 一夜 でさえ マー クーの 町に 宿泊す るの を許
さなかった。
セイエド・ホセインは、当時の状況についてこう語った。「最初の二週間は、バブと
の 会見は 一切 許され ませ んでし た。 バブの 面前 に出る こと ができ たの はわた しと 弟だ
け でした 。弟 のハサ ンは 毎日必 需品 を購入 する ために 、警 備員の 一人 に伴わ れて 町に
下 りて行 きま した。 マー クーに 来て いたゾ ヌジ は町の 門外 のモス クに 宿泊し て、 マー
ク ーに時 折訪 れてく る信 者の訴 えを 、わた しの 弟に渡 す役 目をし てい ました 。弟 はそ
の訴えをバブに提出し、バブはその返事を弟に知らせるのでした。(p.245)
あ る日 、バブ はわ たしの 弟に 、ゾヌ ジに こう告 げる ように 命じ ました 。そ れは、 マ
ー クーを 訪れ る信者 に対 するき びし い態度 を変 えるよ うに 、バブ 自ら 看守の アリ ・カ
ーンに要請するという内容でした。バブは加えてこう言われました。
『ゾヌジに伝えな
さい。明日、われは、看守に指示して、あなたをわれのところまで案内させると。』
わ たし は、こ の伝 言に大 変お どろき まし た。こ の横 暴で頑 固な アリ・ カー ンのき び
し い規則 を、 どのよ うに してゆ るめ させる こと ができ るの だろう か、 とひそ かに 疑問
に 思った ので す。翌 朝早 く、砦 の門 がまだ 閉ざ されて いた 時間に 、ド アをノ ック する
音 を聞い てび っくり しま した。 夜明 け前に はだ れも中 には 入れて はな らない とい う命
令 を十分 知っ ていた から です。 アリ ・カー ンが 警備員 をい さめて いる 声が聞 こえ てき
ま した。 その うち、 警備 員が入 って きて、 看守 がぜひ バブ に会い たい と主張 して いる
こ とを告 げま した。 この 伝言を 伝え るとバ ブは すぐか れを 自分の とこ ろに案 内す るよ
う に命じ られ ました 。わ たしが バブ の部屋 に通 じる入 口の 間から 出よ うとし たと き、
敷 居のと ころ に立っ てい るアリ ・カ ーンの 様子 がまっ たく 変わっ てい るのに 気づ きま
し た。看 守は ひじょ うに うやう やし い態度 でた たずみ 、顔 にはそ れま で見た こと がな
い 謙虚さ とお どろき を表 わして いま した。 いつ もの自 己主 張と自 尊心 はまっ たく 消え
て いまし た。 かれは 、わ たしの あい さつに 丁重 に応え 、バ ブの面 前に 出させ てく れる
よ うに頼 みま した。 かれ をバブ の部 屋に案 内し ました が、 そのと き、 かれの 手足 はふ
るえ、顔には隠せない心の動揺があらわれていました。 (p.246)
バ ブは 立ちあ がり 、アリ ・カ ーンを 迎え ました 。ア リ・カ ーン はうや うや しく頭 を
下げ、バブに近づくとその足元に身を投げてこん願しました。
『わたしの心は混乱して
い ます。 あな たの高 名な 先祖、 神の 預言者 (モ ハメッ ド) に誓っ て、 わたし の疑 念を
は らして 下さ るよう にお 願いし ます 。その 重荷 でわた しの 心は押 しつ ぶされ そう にな
っ ていま す。 先ほど 夜明 け時に 、馬 に乗っ て荒 野を通 りぬ け、町 の城 門に近 づい たと
こ ろ、と つぜ ん、川 辺リ で祈り をさ さげて いる あなた の姿 が目に うつ りまし た。 あな
た は両手 をの ばし、 天に 向かっ て神 の御名 をと なえて おら れまし た。 わたし はじ っと
立 ってあ なた を見守 りま した。 祈り が終わ った ところ で、 わたし に無 断で砦 を離 れた
あなたに戒告をあたえようと思って待っていたのです。あなたは神との交信に没頭し、
ご 自身さ えも 完全に 忘れ ておら れる ようで した 。わた しは そっと あな たに近 寄り まし
たが、あなたはわたしがいることに全然気がつかれませんでした。そのときとつぜん、
わ たしは 恐怖 感にお そわ れ、忘 我の 状態に おら れるあ なた を起こ して はなら ない と思
っ たので す。 そこで 、あ なたを そこ に残し て警 備員た ちの ところ へ行 き、か れら の職
務 怠慢を とが めよう と決 心しま した 。とこ ろが おどろ いた ことに 、外 門も内 門も 閉ざ
さ れてい たの です。 わた しは門 を開 けさせ 、あ なたの 部屋 にきた とこ ろ、不 思議 なこ
と に、今 、あ なたは わた しの前 に座 ってお られ るので す。 わたし の頭 はまっ たく 混乱
しています。気が狂ったのでしょうか。』
バブはこう答えられました。
『あなたが目撃されたことは否定できない真実だ。あな
た はこの 大業 を見く びり 、その 創始 者を軽 蔑し た。す べて に慈悲 深き 神は、 あな たを
罰 するの では なく、 あな たの目 に真 実を明 らか にしよ うと 望まれ た。 その神 の介 入に
よ り、あ なた の心に 神か ら選ば れた 者(バ ブ) への愛 を入 れ、あ なた がその 信教 の威
力を認めるようにされた。この信教はだれも滅ぼすことはできないのだ。』」(p.247)
こ のお どろく べき 体験は 、ア リ・カ ーン の心を すっ かり変 えて しまっ た。 バブの 言
葉 で、か れの 心の動 揺と はげし い敵 対心は しず められ た。 かれは 全力 をつく して 過去
の悪行をつぐなう決心をし、つぎのようにバブに自分の望みを伝えた。
「貧しい男があ
な たにお 会い したい と望 んでお りま す。か れは マーク ーの 門外の モス クに宿 泊し てお
り ます。 わた し自ら 、そ の人物 をあ なたの とこ ろに案 内し 、この 行為 で、わ たし の悪
行が許され、あなたの仲間に残酷な態度をとった心を洗い清めたいと望んでいます。」
こ の要請 が受 け入れ られ るとす ぐ、 かれは ゾヌ ジのと ころ へ行き 、バ ブの面 前に 案内
した。
そ れ以 来、ア リ・ カーン は、 自分の でき る範囲 内で 、バブ のき びしい 監禁 生活を や
わ らげる ため に努力 した 。夜間 は砦 の門は 閉め られた が、 昼間は バブ が望む 者は 会う
ことを許され、その指示を受けることができた。
バ ブは 、砦内 に監 禁され てい る間、 ペル ジャン ・バ ヤンと いう 本を書 くた めに時 間
をついやした。その書は、バブの全著作のうち、もっとも重要で、もっとも啓蒙的で、
包 括的な 書で ある。 その 中で、 バブ は自分 の宗 制の法 律や 規則を 定め 、自分 のあ とに
現われる啓示を明確に、力強く宣言した。そして、信者たちに「神が顕わされる御方」
( バハオ ラ) を探し 出す ように くり 返し力 説し 、バヤ ン書 の中の 理解 し難い 隠喩 に妨
げられずに、その御方の大業を認めるようにと警告した。(pp.247-248)
わたし(著者)は、ゾノジのつぎの証言を聞いた。「バブが、教えや原則を口述され
る ときの 声は 、山の ふも との住 民に はっき りと 聞き取 れま した。 かれ の口か ら流 れ出
す 聖句の 快い 調べは 、わ れわれ の耳 をとら え、 われわ れの 魂にし み込 んでい った ので
す 。山も 谷も その威 厳に あふれ た声 にこだ まし ている よう でした 。わ れわれ はそ の言
葉の魅力にとらわれ、心の奥底まで感動で打ちふるえたのです。」(p.249)
バ ブに 課せら れた きびし い規 律が徐 々に ゆるめ られ ていく につ れ、ま すま す多く の
弟 子たち がペ ルシャ の各 地方か らバ ブを訪 れて くるよ うに なった 。ア リ・カ ーン の情
け と寛大 さに より、 敬虔 な巡礼 たち がつぎ から つぎへ と砦 の門に 案内 された 。三 日間
の 滞在が 終わ ると、 バブ はかな らず 、かれ らに 奉仕の 場に もどっ て信 教の強 化に 尽く
す ように 指示 して、 自分 のもと を去 らせた 。ア リ・カ ーン は毎金 曜日 に欠か さず バブ
の ところ へ行 き、変 わら ぬ忠誠 と献 身を誓 った 。そし てマ ークー の近 隣で入 手で きる
珍 しい選 り抜 きの果 物を しばし ばバ ブに供 し、 また、 その ほかバ ブの 好まれ ると 思わ
れる珍味をつねに食卓に出すようにした。(pp.250-251)
こ のよ うにし て、 バブは 夏と 秋を砦 で過 ごした 。そ の冬は 格別 に冷え 込み 、銅製 品
さ えもそ の寒 さの影 響を 受けた ほど であっ た。 その冬 季の 始まり は、 一二六 四年 のモ
ハ ラム月 (一 八四七 年十 二月九 日よ り一八 四八 年一月 八日 の間) にあ たった 。バ ブが
顔 と手を 洗う ために 用い た水は 氷の ように 冷た く、そ のし ずくは 顔で 凍って 光っ た。
祈 りが一 つ終 わるご とに 、バブ はか ならず セイ エド・ ホセ インを 呼び 寄せ、 カマ ロド
の 曾祖父 、故 モラ・ メヒ ディの 書い た本の 一節 を詠唱 する ように 要請 した。 その 本に
は 、エマ ム・ ホセイ ンの 美徳が 称え られ、 その 死が痛 まれ 、その 殉教 の情況 が描 写さ
れ ていた 。エ マム・ ホセ インの 受難 の場面 が詠 唱され ると 、バブ の心 は強烈 な悲 痛感
に おそわ れた 。エマ ム・ ホセイ ンが 受けた 言語 に絶す る侮 辱、不 実な 敵の手 によ るは
げ しい苦 難の 物語に 、バ ブの目 から は涙が とめ どもな く流 れた。 眼前 でこの 悲劇 が展
開 するに つれ て、バ ブは 約束さ れた ホセイ ン( バハオ ラ) の出現 にと もなう さら なる
悲 劇を思 った 。しか しこ の残虐 行為 も、バ ブに とって は、 敬愛す るホ セイン がや がて
同 胞国民 の手 から受 ける であろ うは げしい 苦し みの前 ぶれ でしか なか った。 神が 顕わ
さ れる御 方( バハオ ラ) に定め られ ている 苦難 を心に 描く とき、 バブ は涙を 流さ ずに
はおれなかったのである。(p.252)
六十年(一八四四年)に著わした書の中で、バブはつぎのように宣言した。「わが魂
を 活気づ ける 祈りの 精神 は、わ が使 命の宣 言の 前年に 見た 夢から 来た もので ある 。夢
の 中で、 われ はエマ ム・ ホセイ ンの 首が木 に吊 り下げ られ ている のを 見た。 首か ら多
量 の血が した たり落 ちて いたが 、わ れはこ の上 ないよ ろこ びを感 じ、 木に近 寄り 、両
手 を差し のべ てその 聖な る血を 何滴 か受け 、う やうや しく 飲んだ 。夢 からさ めて 、わ
れ は神の 聖霊 がわが 魂に 充満し たこ とを感 じ、 わが心 は神 のそば 近く にいる こと を喜
悦 し た 。 そ し て 神 の 啓 示 に 秘 め ら れ た 栄 光 が す べ て 、 わ が 眼 前 で 明 ら か に さ れ た 。」
(p.253)
モ ハメ ッド国 王が 、バブ をア ゼルバ エジ ャンの 山中 の砦に 監禁 を命じ た直 後、国 家
の 基盤を くつ がえす よう な災難 がと つぜん 降り かかっ てき た。そ れは 、国王 が経 験し
た ことの ない もので あっ た。国 内の 秩序を 守っ てきた 警察 軍は、 想像 を絶す る動 乱に
仰 天した 。コ ラサン で反 抗の旗 があ げられ 、そ の反乱 に恐 怖を感 じた 政府は 、予 定し
て いた国 王の ヘラト への 旅を中 止し た。総 理大 臣のア ガシ の無謀 さと 浪費は 、人 びと
の 中でく すぶ ってい た不 満の炎 を燃 え上が らせ 、大衆 の反 感を悪 化さ せ、暴 動の 原因
と なった ので ある。 コラ サン州 のク チャン 、ボ ジヌア ルド 、およ びシ ラヴァ ンの 住民
の 不平分 子た ちは、 国王 の伯父 アセ フド・ ダオ レの息 子、 州知事 のサ ラール と結 束し
て 、中央 政府 の権威 を否 認し、 反旗 をひる がえ した。 中央 政府が 送っ た軍隊 はす ぐ反
乱 軍に打 ち負 かされ た。 コリ・ カー ンとサ ラー ルの息 子、 アルス ラン ・カー ンは 、国
王 軍との 戦い を指揮 して 、極度 の残 虐さを みせ た。か れら は敵軍 を撃 退した あと 、捕
虜を容赦なく殺害したのである。(pp.253-254)
当 時、 モラ・ ホセ インは マシ ュハド に滞 在して いた 。反乱 軍が 引き起 こし た暴動 に
も かかわ らず 、新し く啓 示され た教 えを広 める ために 全力 を尽く して いた。 モラ ・ホ
セ インは 、サ ラール が反 乱を拡 大す るため に、 自分の 支持 を求め よう として いる こと
を 知って すぐ 町を去 る決 心をし た。 傲慢で 反抗 的な首 領の 陰謀に 巻き 込まれ るこ とを
避 けるた めで あった 。モ ラ・ホ セイ ンは人 の寝 静まっ た時 刻に、 従者 のカン バル ・ア
リ だけを 伴っ て、徒 歩で テヘラ ンに 向かっ た。 そこか らア ゼルバ エジ ャンを 訪れ 、バ
ブ との会 見を 願って いた 。モラ ・ホ セイン の出 発の事 情を 知った 仲間 たちは 、そ の困
難 な長旅 を少 しでも 楽に させる よう なもの を持 参して かれ に追い つい た。し かし 、モ
ラ・ホセインは、仲間の援助を拒み、つぎのように述べた。「わたしは、最愛なる御方
と わたし を隔 ててい る道 のりを 歩い て行く 誓い を立て た。 目的地 に達 するま で、 この
決意はゆるがせない。」モラ・ホセインは、従者のカンバル・アリにもマシュハドにも
ど るよう に説 得した が、 従者の こん 願によ り、 アゼル バエ ジャン への 巡礼の 旅に 同行
させることにした。
テ ヘラ ンへの 旅の 途中で 通過 した町 々で 、モラ ・ホ セイン は信 者たち から 熱烈な 歓
迎 を受け た。 信者た ちは それぞ れ同 じ願い ごと をした が、 モラ・ ホセ インは 同じ よう
に 応えた 。わ たし( 著者 )は、 アガ ・カリ ム( バハオ ラの 実弟) のつ ぎのよ うな 証言
を聞いた。
「モラ・ホセインがテヘランに到着したとき、わたしは多数の信者たちとい
っ しょに かれ を訪問 しま した。 かれ は不動 の信 仰と美 徳を 体現し てい る人に 見え 、そ
の 高潔な 行動 と高度 の忠 誠心に 、わ れわれ は鼓 舞され まし た。か れの 品格の すば らし
さ と信仰 の深 さを見 て、 かれこ そは 、だれ から も援助 を受 けずに ただ 一人で 神の 信教
に勝利をもたらすことができると確信したのです。」テヘランで、モラ・ホセインは内
密 でバハ オラ の面前 に案 内され た。 そして 、会 見が終 わる とすぐ アゼ ルバエ ジャ ンへ
と向かった。(pp.254-255)
マ ーク ーに到 着前 夜、ア リ・ カーン (看 守)は 夢を 見た。 それ は、バ ブの 宣言か ら
四 年目の 新年 の前夜 であ り、一 二六 四年( 一八 四八年 )の ラビオ シ・ サニ月 の十 三日
であった。アリ・カーンはその夢をつぎのように語ってくれた。
「神の預言者であるモ
ハ メッド がま もなく マー クーに 到着 され、 砦に 直行し てバ ブを訪 れ、 新年の 祝辞 を述
べ られる とい う情報 を受 けてび っく りしま した 。わた しは その聖 なる 方に真 心か ら歓
迎 の意を 表し たいと 、家 から走 り出 ました 。言 葉では 言い 表せな いよ うなよ ろこ びを
感 じなが ら、 いそい で川 の方に 向か い、マ ーク ーの町 から 百メー トル ほどの とこ ろに
あ る橋に さし かかっ たと き、こ ちら へ近づ いて きてい る二 人の人 物を 目にし まし た。
一 人は預 言者 だと思 いま した。 その あとに 歩い ている もう 一人は 、預 言者の 高名 な弟
子 のよう でし た。わ たし はいそ いで 預言者 に近 寄り、 その 足元に ひざ まずき 、衣 のす
そ に口づ けし ようと した とき目 がさ めまし た。 そのと き、 わたし の魂 はこの 上な いよ
ろ こびで いっ ぱいに なり 、あた かも 楽園が その ままわ たし の心に 入っ てきた よう な気
が しまし た。 翌朝、 夢が 正夢で ある と確信 し、 顔と手 を洗 って祈 り、 正装し て香 水を
つ け、夢 で預 言者を 見た 場所に 向か いまし た。 前もっ て、 足の速 いす ぐれた 馬三 頭を
橋 のとこ ろに 連れて くる ように 従者 に命じ てお きまし た。 わたし が、 マーク ーの 町か
ら 川の方 へ一 人で歩 き出 したと き、 ちょう ど太 陽がの ぼっ たとこ ろで した。 橋に 近づ
い たとき 、夢 で見た 二人 の男性 がこ ちらの 方に 進んで きて いるの を見 て、わ たし の心
臓 はおど ろき ではげ しく 鼓動し まし た。わ たし は無意 識に 預言者 と思 われる 人物 の足
元 にひざ まず き、う やう やしく 足に 口づけ しま した。 そし て、そ の人 物とそ の仲 間に
準備した馬に乗るようにこん願しましたが、つぎのような返事がもどってきました。
『 いや、 そう するこ とは できな い。 わたし はこ の旅を 徒歩 で終え ると 誓った から だ。
こ の山の 頂上 まで歩 いて のぼり 、そ こで、 あな たの囚 人を 訪れた いと 思って いる 。』」
(p.256)
こ の不 思議な 経験 で、ア リ・ カーン のバ ブに対 する 畏敬の 念は 一層深 まっ た。バ ブ
の 啓示に ひそ む威力 への 信念は より 不動の もの となり 、敬 愛の念 もま すます 深ま って
い った。 アリ ・カー ンは 、あた かも 従者で ある かのよ うに 砦の門 まで モラ・ ホセ イン
の あとに した がった 。モ ラ・ホ セイ ンは、 門の 敷居に 立っ ている バブ の顔を 見る とす
ぐ 歩みを 止め 、深く 頭を 垂れ、 立ち すくん だ。 バブは 両手 を差し のば して愛 情深 くモ
ラ ・ホセ イン を抱擁 した あと、 かれ の手を 取り 自室に 案内 した。 つぎ に弟子 たち を呼
び 集め、 新年 のフィ ース トを祝 った 。バブ は砂 糖菓子 や選 り抜き の果 物など を弟 子た
ちに配り、モラ・ホセインにはマルメロやりんごをあたえながら言った。
「このおいし
い 果物は 『楽 園の地 』と 呼ばれ るミ ランか ら送 られて きた 。モハ メッ ド・タ ギが この
フィーストにささげるために摘んだものだ。」
そ のと きまで 、ホ セイン ・ヤ ズディ とそ の弟以 外の 弟子は だれ も砦内 で夜 を明か す
ことは許されていなかった。その日、看守のアリ・カーンはバブにこう述べた。
「もし、
モ ラ・ホ セイ ンを今 夜お 泊めに なり たいと 望ま れるな らば 、どう ぞそ うして 下さ い。
わ たしに は自 分の意 思と いうの があ りませ ん。 何日で もモ ラ・ホ セイ ンを泊 めて 下さ
って結構です。わたしはあなたのご命令に従います。」その後もマークーに到着した弟
子 の数は 増し ていっ たが 、かれ らは 阻止さ れる ような こと は一切 なく 、すぐ バブ との
会見を許された。(pp.257-258)
ある日、バブはモラ・ホセインを伴って砦の屋根から周辺の景色を見下ろしていた。
バブは西の方を向き、アラクセス川が遠くまでうねって流れている様子を見て、モラ・
ホ セイン にこ う言っ た。「あれ が詩 人のハ フェ ズが詩 に歌 った川 であ り、川 岸な のだ。
『 おお、 西風 よ。ア ラク セスの 川岸 を通る なら ば、そ の谷 間の土 に口 づけし 、な んじ
の 息吹で 芳香 をあた えよ 。なん じに 幸いあ れ。 永久に 幸い あれ。 おお 、サル マの 住ま
い よ。な んじ のラク ダ追 い人の 声は 何とい とし く、な んじ の鈴の 音は 何と心 地よ いこ
と か。』 この 地での あな たの滞 在は 終わり に近 づいて きた 。あな たの 滞在が 長け れば、
< アラク セス 川岸> を見 せたよ うに 、<サ ルマ の住ま い> をもあ なた に見せ たで あろ
う。」
バ ブが 言及し た< サルマ の住 まい> は、 サルマ スの 町を意 味し た。そ の町 はチェ リ
グ の近郊 にあ り、ト ルコ 人によ って サルマ スと 名づけ られ た。バ ブは さらに 、つ ぎの
ように説明をつづけた。
「詩人の口から、このような言葉を出させるのは、聖霊の力に
ほ かなら ない 。詩人 自身 も言葉 の意 味を理 解で きない こと がしば しば ある。 つぎ の言
葉もまた神から霊感を受けたものである。
『シラズ市は大騒ぎとなるであろう。甘美な
言 葉を話 す青 年が現 われ るから であ る。そ の若 者の息 吹は バグダ ッド を動揺 させ るで
あろう。』これらの言葉にひそむ神秘はまだかくされたままである。しかしそれは、ヒ
ンの年(一八五二年)の翌年に明らかにされるであろう。」その後で、バブはつぎの有
名な伝承を引用した。
「神の王座の下に宝物がかくされている。それらの宝物を探し出
すかぎは詩人の言葉である。」
そ れか らバブ は、 つぎか らつ ぎへと 将来 起こる べき もろも ろの 事件に つい て述べ 、
だ れにも それ を明か さな いよう に命 じた。 そし て、今 後す ぐ起こ るこ とをつ ぎの よう
に知らせた。「あなたがこの場所を離れた後、二、三日して、わたしはほかの山に移さ
れ るであ ろう 。あな たが 目的地 に到 着する 前に 、わた しが マーク ーか ら出発 した 知ら
せがとどくであろう。」(pp.258-259)
バ ブの 予示は すば やく実 現し た。ア リ・ カーン (看 守)の 行動 をひそ かに 監視す る
よ うに命 じら れた者 らは 、総理 大臣 のアガ シに 詳細な 報告 を出し た。 その中 でか れら
は 、アリ ・カ ーンの 囚人 に対す る異 常と思 われ るほど の献 身を長 々と 説明し 、そ れを
裏付ける出来事を述べた。
「マークーの砦の看守は、昼夜を問わず囚人と自由に親しく
交 じ合っ てい るのが 見ら れます 。ア リ・カ ーン は、自 分の 娘とペ ルシ ャの国 王の 継承
者 である 皇太 子との 結婚 を頑固 に拒 絶して きま した。 娘を 結婚さ せれ ば、ソ ンニ 派に
属 する母 方の 親族を 激怒 させ、 自分 と娘は すぐ 死刑に 処せ られる と弁 解して 拒絶 して
き たので す。 それに もか かわら ず、 その娘 をバ ブと結 婚さ せよう と熱 心に望 んで いる
の です。 バブ はそれ を拒 絶しま した が、そ れで もなお 、た ん願し つづ けてい ます 。バ
ブが拒まなかったならば、その結婚はすでに成立しているはずです。」事実、アリ・カ
ーンはバブにそのような要請をしており、モラ・ホセインにまで執り成しを頼んだが、
バ ブの同 意を 得るこ とは できな かっ た。こ の悪 意に満 ちた 報告は 効果 を生み 出し た。
気 まぐれ なア ガシは 、恐 怖感と 怒り に駆ら れて 、バブ をチ ェリグ の要 塞に移 動さ せる
というきびしい命令を出したのである。(p.259)
新 年か ら二十 日後 、バブ はマ ークー の住 民に別 れを 告げた 。住 民はバ ブの 九ヵ月 に
わ たる監 禁の 間に、 バブ という 人物 の威力 と立 派な品 格に はっき り気 がつい たの であ
っ た。バ ブの 予示し たチ ェリグ への 移動の 知ら せを聞 いた とき、 モラ ・ホセ イン はバ
ブ の指示 にし たがっ てす でにマ ーク ーを離 れ、 タブリ ズに 滞在中 であ った。 モラ ・ホ
セインとの最後の別れの際、バブはつぎのように語っていた。
「あなたは生まれ故郷か
ら この場 所ま でずっ と歩 いてき た。 帰りも 同じ く徒歩 で目 的地に 着か なけれ ばな らな
い 。あな たが 乗馬の 腕前 を見せ る日 はまも なく 到来す る。 あなた は過 去の英 雄が 見せ
た 偉大な 行為 をしの ぐ手 腕と武 勇を 示すよ うに 定めら れて いるの だ。 あなた の大 胆不
敵 な行為 は、 永遠の 王国 に居住 する 人びと の賞 賛を得 るで あろう 。途 中で、 コイ 、ウ
ル ミエ、 マラ ゲ、ミ ラン 、タブ リズ 、ザン ジャ ン、ガ ズビ ン、そ して テヘラ ンの 信者
た ちを訪 れ、 一人一 人に わたし の心 からの 愛を 伝え、 かれ らの心 が神 の美へ の愛 の火
で あらた に燃 え立ち 、神 の啓示 への 信念が 強ま るよう に努 力せよ 。テ ヘラン から マゼ
ン ダラン に行 けば、 神の かくさ れた る宝物 があ なたに 明ら かにさ れる であろ う。 あな
た はそこ で、 過去の 最大 の業績 も小 さく見 える ほどの 偉業 を為す よう に求め られ るで
あ ろう。 また 、そこ で任 務の内 容が 明らか にさ れ、神 の大 業への 奉仕 に必要 な力 と導
きがあたえられるであろう。」
新 年か ら九日 目の 朝、モ ラ・ ホセイ ンは バブか ら命 じられ たと おり、 マゼ ンダラ ン
へ の旅に 出発 した。 カン バル・ アリ (モラ ・ホ セイン の従 者)に 、バ ブはつ ぎの 言葉
をあたえた。
「過ぎし日のカンバル・アリは、神の日を実際に目撃した同じ名前のあな
た を称え るで あろう 。こ の神の 日は 、主の なか の主で ある 御方( モハ メッド )さ えも
見ることができなかった日である。モハメッドは、自らの強い願望をこう述べていた。
『神の日に生き、その光栄を得たわが同胞の顔をこの目で見ることができれば!』」
第十四章
モラ・ホセインのマザンデランへの旅
ア リ・ カーン (看 守)は 、モ ラ・ホ セイ ンがマ ーク ーを出 発す る前に 、ニ 、三日 間
自 分の家 に滞 在して もら いたい と思 った。 そこ で、か れを 招待し 、マ ザンデ ラン への
旅 に必要 な備 品をす べて かれの ため に整え た。 しかし 、モ ラ・ホ セイ ンは出 発を 延ば
す ことも 、ア リ・カ ーン が心を こめ て準備 した 備品を 用い ること も拒 否した 。モ ラ・
ホ セイン はバ ブが指 示し た町や 村に 立ち寄 り、 信者た ちを 集めて バブ の愛情 と激 励の
言 葉を伝 え、 熱意を あら たにし 、神 の道に 確固 不動で あり つづけ るよ うに勧 告し た。
テ ヘラン では ふたた びバ ハオラ の面 前に出 る光 栄を得 、精 神的な 糧を 受け取 った 。こ
の 糧によ り、 生涯の 終わ りにお そっ てきた 危機 に勇敢 に立 ち向か うこ とがで きた ので
あった。
バ ブが 約束し たか くされ た宝 物が明 るみ に出さ れる のをこ の目 で見た いと 念願し な
が ら、モ ラ・ ホセイ ンは テヘラ ンか らマザ ンデ ランに 向か った。 当時 、ゴッ ドス はバ
ル フォル ーシ ュ市内 の父 親所有 の家 に住み 、階 層をと わず いろい ろな 人びと と自 由に
交 わって いた 。また 、そ の温和 な性 格と深 い学 識で、 町の 住民の 敬愛 と賞賛 をも 集め
て いた。 モラ ・ホセ イン はその 町に 到着後 すぐ ゴッド スの 家に向 かっ た。ゴ ッド スは
かれを愛情深く迎え、かれが快適に過ごせるように最善をつくしてかれの世話をした。
自 分の手 でモ ラ・ホ セイ ンの衣 服に ついた ちり をはら い、 水ぶく れの した両 足を 洗っ
たりもした。ゴッドスはまた、信者たちの集会でモラ・ホセインに名誉の座をあたえ、
丁重にかれを皆に紹介したのである。(p.261)
モ ラ・ ホセイ ンが 到着し た日 の夜、 夕食 会に招 かれ た弟子 たち が去っ たあ と、ゴ ッ
ド スはマ ーク ーの砦 での バブと の親 密な交 わり につい てく わしく 教え てくれ るよ うに
頼んだ。モラ・ホセインはつぎのように答えた。
「バブとの九日間の交わりの期間にさ
ま ざまな こと を見聞 しま した。 バブ は信教 に直 接また は間 接に関 わる ことを 話さ れま
し たが、 わた しが大 業の 拡大の ため にどの よう な行動 をと るべき かに ついて は、 はっ
きりした指示はあたえられませんでした。ただわたしにこう申されました。
『テヘラン
に行く途中、すべての町村の信者たちを訪れよ。テヘランからマザンデランに行けば、
そ こでか くさ れた宝 物が 明らか にな ろう。 その 宝物に よっ て、あ なた に定め られ てい
る任務の内容が明らかにされるであろう。』
こ のバ ブの暗 示的 な言葉 で、 わずか なが らもこ の啓 示の栄 光を 感じ取 り、 今後の 大
業 の勝利 を確 信しま した 。そし てや がて、 この 取るに 足ら ない自 分が 、神の 道の 犠牲
に なるこ とを 知った ので す。以 前バ ブと会 って 別れる 際、 かなら ずつ ぎの会 見を 約束
さ れまし たが 、今回 の別 れでは その ような 約束 も、こ の世 でかれ と顔 を会わ せる 可能
性さえもほのめかされませんでした。バブの最後の言葉はこうでした。
『犠牲の宴会は
す ばやく 迫っ てきて いる 。立ち 上が り、気 を引 き締め て準 備せよ 。あ なたの 運命 を成
就 するま では 、何に よっ ても妨 げら れては なら ない。 目的 地に到 達し たなら ば、 われ
を 迎 え る た め に 準 備 せ よ 。 わ れ も ま た 、 ま も な く あ な た を 追 っ て く る で あ ろ う 。』」
(p.262)
ゴ ッド スはモ ラ・ ホセイ ンに 、バブ の著 わした 文書 を持参 した かどう かを 聞いた 。
持 参して いな いこと が分 かると 、か れは自 分の 所有し てい た文書 をモ ラ・ホ セイ ンに
見 せ、そ の中 の何節 かを 読むよ うに たのん だ。 一ペー ジに 目を通 すや いなや 、モ ラ・
ホ セイン の表 情が変 わっ た。そ の表 情には 賞賛 とおど ろき が表わ れて いた。 文書 の言
葉 の崇高 さ、 深遠さ 、と くに心 の奥 底まで 浸透 するよ うな 力に、 強烈 な感動 をお ぼえ
た モラ・ ホセ インは 最高 の賛辞 を口 にせず には おれな かっ た。か れは 文書を そば に置
き、こう述べた。
「この文書を著わした人物は、聖なる源泉から霊感を得ていることが
明 らかで す。 それは 人間 が普通 修得 する学 問の 源泉を はる かに超 えた もので す。 よっ
て わたし は、 この文 書の 崇高な 言葉 を心底 から 認め、 その 中の真 理を 無条件 に受 け入
れます。」
ゴ ッド スが沈 黙し たまま であ ること と、 その表 情か ら判断 して 、この 文書 を書い た
の はゴッ ドス 自身で ある とモラ ・ホ セイン は察 した。 そこ ですぐ 席を 立ち、 入り 口の
敷居のところに行き、頭を垂れ尊敬の念をこめて宣言した。
「バブが言及されていまし
た かくさ れた 宝物が 今、 わたし の眼 前で明 らか になり まし た。こ の光 でわた しの 困惑
と 疑問の 暗闇 は消滅 しま した。 現在 、わた しの 師であ るバ ブは、 アゼ ルバエ ジャ ンの
山 中の砦 にか くれて おら れます が、 その光 輝と 威力の しる しは、 眼前 ではっ きり と示
されています。わたしはマザンダランでついにバブの栄光の反映を発見しました。」
総 理大 臣は何 と重 大な間 違い を犯し たこ とであ ろう か。こ の愚 か者は 、バ ブをア ゼ
ル バエジ ャン の辺鄙 な場 所に追 放し 、望み なき 生活を 強い れば、 同胞 国民の 目か らこ
の神の不滅の炎をかくせると自慢げに思っていたのである。それどころか、神の光(バ
ブ )を山 の上 に置い たた め、か えっ てその 光輝 はあま ねく 注がれ 、そ の栄光 ある 大業
は 広範囲 に宣 言され る結 果とな った のであ るが 、かれ 自身 はそれ には まった く気 づい
て いなか った 。策略 とあ きれる ほど の誤算 を通 して、 かの 聖なる 炎を 人びと の目 から
かくすどころか、一層有名にし、ますます輝きあるものとしたのである。(pp.262-263)
一 方、 モラ・ ホセ インの 行動 はいか に公 正で、 その 判断は いか に鋭敏 で確 実なも の
で あった ろう か。か れに 会った 人は だれも 、そ の学識 、魅 力、高 潔さ 、そし てお どろ
く べき勇 気を 疑わな かっ た。も しモ ラ・ホ セイ ンが、 セイ エド・ カゼ ムの死 後、 自分
こ そが約 束さ れたガ エム である と宣 言した とし ても、 主な 弟子た ちは 異口同 音に その
主 張を受 け入 れ、そ の権 威に従 った であろ う。 シェイ キ・ アーマ ドの 弟子で 著名 な学
識 者のマ マガ ニは、 タブ リズで モラ ・ホセ イン から新 しい 啓示の 出現 を知ら され たと
き、つぎのように述べた。「神はわたしの証言者でありたまう。バブの宣言が、モラ・
ホ セイン によ ってな され たので あれ ば、そ の人 格のす ばら しさと 知識 の深さ を見 て、
わ たしは だれ よりも 先に その大 業を 支持し 、そ れを全 国民 に広め るで あろう 。し かし
か れはほ かの 人物に 従う ことを 選ん だゆえ に、 かれの 言葉 を信じ るこ とがで きな くな
り、その訴えにも応じられなくなったのだ。」
さ らに 、バゲ ル・ ラシュ ティ は長い 間悩 まされ てき た難問 を、 モラ・ ホセ インが 見
事に解明するのを聞き、その高い業績を賞賛してつぎのように証言した。
「わたしはセ
イエド・カゼムを困らせて、沈黙させることができると安易に考えていた。ところが、
か れの弟 子に すぎな いモ ラ・ホ セイ ンには じめ て会い 、言 葉を交 わし たとき 、ど れほ
ど 自分の 判断 が誤っ てい たかに 気が ついた 。こ の若者 はひ じょう にす ぐれた 能力 をそ
な えてお り、 もしか れが 昼を夜 であ ると断 言し たとし ても 、それ を推 論で証 明で き、
そ れを学 識あ る聖職 者た ちに明 確に 示すこ とが できる と、 いまだ にわ たしは 信じ てい
るほどだ。」
バ ブと はじめ て会 った夜 、モ ラ・ホ セイ ンは自 分の 方がは るか にすぐ れて いると 感
じ 、シラ ズ出 身の名 もな い商人 の息 子の主 張を 軽視し よう とした 。し かし、 バブ がそ
の テーマ (ジ ョセフ の章 )を展 開し はじめ たと たん、 そこ に秘め られ ている 計り 知れ
な い恩典 を認 めるこ とが できた ので ある。 そし て、バ ブの 大業を 進ん で受け 入れ 、そ
れ を正し く理 解し、 その 促進を 阻む ものを すべ て無視 した 。その 後、 ゴッド スの 人知
を 超えた 高尚 な書き 物を 読んだ とき も、い つも の明敏 さと 誤りの ない 判断力 で、 ゴッ
ドスの人物と言葉にそなわっている能力の真の価値を理解できたのである。
(pp.263-264)
モ ラ ・ ホ セイ ン の 広 範囲 に わ た る深 い 知 識 も、 こ の 若 者( ゴ ッ ド ス) の す べ てを 包
含 する知 識の 前では 、意 味のな いも のとな った 。ゴッ ドス の知識 は神 から付 与さ れた
も のであ った からで ある 。その 瞬間 、モラ ・ホ セイン は敬 愛する 師( バブ) の光 輝を
強 烈に反 映し ている ゴッ ドスに 永遠 の忠誠 を誓 った。 自分 の最初 の義 務は、 ゴッ ドス
に 完全に 服従 し、そ の模 範にな らい 、その 意志 にした がい 、あら ゆる 手段を つく して
か れの安 全を 守るこ とで あると 感じ 、殉教 の時 までこ の誓 いを忠 実に 守った 。そ れ以
後 、モラ ・ホ セイン はゴ ッドス に最 高の敬 意を 示した が、 それは ほか の仲間 の弟 子を
は るかに しの ぐ神秘 的な 能力を 確信 してい たか らであ る。 それ以 外に は、自 分と 同等
と見なされるゴッドスに尊敬と謙遜な態度を示す理由はなかった。このように、モラ・
ホ セイン はそ の鋭い 洞察 力です ばや くゴッ ドス の内部 にひ められ てい る力の 偉大 さを
理解して、それを態度で表わしたが、それはかれの人格の高潔さゆえであった。
翌 朝、 ゴッド スの 家に集 まっ てきた 信者 たちは 、モ ラ・ホ セイ ンの態 度が 極端に 変
わ ったの を見 ておど ろい た。前 夜、 栄誉の 座を 占め、 懇切 なもて なし を受け てい た客
人 が、そ の座 を家の 主人 である ゴッ ドスに ゆず り、敷 居の ところ に謙 遜な態 度で 立っ
て いたか らで ある。 集ま ってい る信 者の前 で、 ゴッド スが モラ・ ホセ インに 語っ た最
初の言葉はこうであった。
「今、この時間に立ち上がり、英知と威力のつえで、神の信
教 の聖な る名 を傷つ けよ うとす る多 数のよ こし まな陰 謀者 たちを 沈黙 させな けれ ばな
ら ない。 かれ らに立 ち向 かい、 敗北 させな けれ ばなら ない のだ。 神を 完全に 信頼 し、
か れらの 陰謀 は大業 の光 輝をさ えぎ る無駄 な試 みであ るこ とを理 解す べきで ある 。あ
な たは、 かの 悪名高 く、 信義の ない 圧制者 であ るサイ ドル ・オラ マー (高僧 )と 会見
し 、この 啓示 のすぐ れた 特性を 恐れ ずに明 らか にしな けれ ばなら ない 。つぎ に、 コラ
サ ンに向 かい 、マシ ュハ ドの町 に、 われわ れの 個人用 住居 と、客 人用 の家を 建て よ。
ま もなく 、わ れわれ もそ の町に 向か いその 家に 住むつ もり だ。そ の家 に心の 開い た人
び とを招 待せ よ。そ の人 たちが 永遠 の生命 の川 に導か れる ように 。わ れわれ は、 かれ
らが団結して神の大業をひろめるように勧告するつもりだ。」(pp.265-166)
翌日夜明けに、モラ・ホセインはサイドル・オラマー(高僧)との会見に出かけた。
だ れの助 けも 受けず に一 人でか れと 会い、 ゴッ ドスか ら命 じられ た通 り、新 しい 時代
の メッセ ージ を伝え た。 サイド ル・ オラマ ーの 弟子た ちが 集まっ てい る中で 、敬 愛す
る 師バブ の大 業を、 恐れ ること なく 大胆に 弁じ た。そ して かれに 、無 駄な想 像で 彫ら
れ た偶像 を粉 砕し、 その 粉々に なっ た断片 の上 に神の 教導 の旗を 立て るよう に要 請し
た 。さら に、 過去の 教義 の束縛 から 心を解 き放 して自 由に なり、 永遠 の救済 の岸 にい
そぐように求めた。
モ ラ・ ホセイ ンは 、かれ 特有 の力強 さで 、その 見か け倒し の妖 術師が 神の メッセ ー
ジ を否定 する ために 持ち 出した すべ ての議 論を くつが えし 、反ば くで きない 論理 で、
そ の教義 の誤 りをす べて 明らか にし た。自 分の 弟子た ちが 皆一致 して 、モラ ・ホ セイ
ン のまわ りに 集まっ てゆ くので はな いかと いう 恐怖感 にお そわれ たサ イドル ・オ ラマ
ー (高僧 )は 、つい に卑 劣な手 段に 訴えた 。す なわち 、自 分の地 位を 守るた めに 悪態
を つきは じめ たので ある 。モラ ・ホ セイン の顔 に誹謗 をあ びせか け、 かれが 提出 した
証 拠をさ げす むよう に無 視し、 何の 理由も あげ ずに、 この 大業は 無用 である と自 信た
っぷりに主張した。
モ ラ・ ホセイ ンは 、この 高僧 が神の メセ ージの 意義 を理解 する 能力が まっ たくな い
ことを悟るとすぐ、席から立ってこう述べた。
「わたしの論証は、あなたを怠慢の眠り
か ら覚ま せる ことは でき なかっ た。 将来、 わた しの行 動そ のもの が、 あなた が蔑 んだ
神のメッセージの威力を証明するであろう。」はげしい情熱をもって語られたこの言葉
に 、高僧 はす っかり 狼狽 した。 仰天 したか れは 返事す るこ とさえ でき なくな った 。モ
ラ ・ホセ イン は聴衆 の中 で自分 の言 葉に共 鳴し たと思 われ る一人 に、 この会 見の 情況
をゴッドスに伝えるように頼み、つぎの言葉を加えた。
「ゴッドスにこう伝えて下さい。
『 あなた に会 う指示 はべ つに受 けて いませ んの で、す ぐコ ラサン 州に 向かう こと にし
ま し た 。 あ な た か ら 与 え ら れ た 任 務 を す べ て 実 施 す る た め に 出 発 し ま す 』 と 。」
(pp.266-267)
モ ラ・ ホセイ ンは 一人で 、神 以外の すべ てへの 愛着 を断ち 、マ シュハ ドに 向かっ て
出発した。ゴッドスの望みを忠実に果たす願いをもってコラサンへ向かったのである。
か れを支 えた のは、 ゴッ ドスの 確か な約束 を思 い起こ すこ とであ った 。マシ ュハ ドに
着 くとす ぐ、 バゲル の家 を訪ね た。 その家 はバ ラ・キ ヤバ ンにあ った 。その 近く に土
地 を購入 して 、ゴッ ドス から命 じら れた通 り、 そこに 家を 建てバ ビイ エとい う名 をつ
け た。こ の家 は現在 もそ の名で 呼ば れてい る。 家の完 成後 まもな くし て、ゴ ッド スは
マ シュハ ドに 到着し そこ に住み はじ めた。 モラ ・ホセ イン が全力 をそ そいで 、信 教を
受 け入れ まで に準備 した 人たち が、 後を絶 たず その家 を訪 れてき た。 かれら はゴ ッド
ス と会見 し、 大業の 教え を認め 、進 んでそ の旗 の下に 参加 した。 モラ ・ホセ イン が細
心 の注意 をは らって 新し い啓示 の知 識を普 及し 、ゴッ ドス が見事 な手 腕で増 えつ づけ
る 信者た ちを 教化し た結 果、人 びと の熱意 と興 奮の波 が、 マシュ ハド 市全域 にま でお
よ んだ。 さら に、そ の波 はコラ サン 州の境 を越 えて急 速に ひろが って いった 。バ ビイ
エ の家は やが て大勢 の信 者たち の集 会所と なり 、かれ らは 信教に ひそ む偉大 な力 を、
全力をつくして普及させる決意で燃え立った。(p.267)
第十五章
タヘレのカルベラからコラサンへの旅
バ ブの 信教の 基本 原則を おお ってい たヴ ェール がは がされ る時 がつい に来 た。コ ラ
サ ン州の 中心 で、大 業の 発展を 阻む 最大の 恐る べき障 害を 強烈な 炎が 燃え尽 くし たの
で ある。 その 火は人 びと の心の 中で 燃えさ かり 、その 勢い はペル シャ の遠隔 の地 にお
い てさえ 感じ ること がで きた。 信者 たちは 心に 残って いた 不安と 疑問 のため 、信 教の
威 力を十 分理 解でき ない でいた が、 それも 消え 去った 。敵 は神の 美を 顕わす 御方 (バ
ブ )を終 身監 禁の身 とな し、信 者た ちの愛 の火 を消そ うと した。 こう して悪 人た ちの
一 団がバ ブを 陥れよ うと 陰謀を めぐ らせて いた 間、神 の手 はかれ らの 策略を くじ き、
そ の努力 を無 にする ため にいそ がし く動い てい たので ある 。ペル シャ の東側 の州 で、
全 能の神 がゴ ッドス の手 を通し てコ ラサン の住 民の心 に点 した火 は、 激しい 炎と なっ
て燃え上がった。また、西側の国境を越えたカルベラでは、神はタヘレ(女性の信者)
と いう光 を点 したが 、そ の光は やが てペル シャ 全体に 輝き わたる よう になっ てい た。
(p.268)
見 えざ る神の 声は 、この ペル シャの 東と 西の二 つの 偉大な 光に 向かっ て、 ターの 地
( テヘラ ン) にいそ ぐよ うに呼 びか けた。 その 地は栄 光の 発祥地 であ り、バ ハオ ラの
故郷であった。神はこの二人に、その真理の昼の星である御方(バハオラ)に近づき、
そ の忠告 を求 め、そ の活 動を助 け、 その大 業が 顕わさ れる 準備を する ように 命じ たの
である。
ゴ ッド スがマ シュ ハドに 滞在 してい る間 、バブ は神 の命令 に従 いペル シャ の信者 全
員 に書簡 を顕 わした 。そ れは、 忠実 な信者 全員 に、コ ラサ ン州、 すな わち「 カー の地
に いそい で行 くよう に」 と命じ たも のであ った 。この ニュ ースは おど ろくほ どの 速度
で ひろが り、 信者た ちは 熱く興 奮し た。そ れは カルベ ラに 住み、 信教 の発展 に全 力を
注 いでい たタ ヘレの 耳に もとど いた 。タヘ レは セイエ ド・ カゼム の死 後、故 郷の ガズ
ビ ンの町 を離 れ、そ の聖 なる都 市に 来てい た。 師のセ イエ ド・カ ゼム が予言 して いた
し るしを 求め てその 都市 に来て いた のであ る。 前の章 で、 かの女 が直 観力で バブ の啓
示 を発見 し、 自ら進 んで その真 理を 受け入 れた 経過に つい て述べ た。 タヘレ はだ れか
ら も教え られ ず、だ れか らも招 かれ ないで 、約 束され た啓 示の曙 光が シラズ 市に 輝き
出すのを認め、その光の啓示者である御方(バブ)に忠誠の誓いを立てたのであった。
(p.269)
タヘレはバブに実際に会わずに信仰の誓いを立てたが、それに対するバブの答えに、
熱 意と勇 気は 一層強 まっ た。そ して 、バブ の教 えを広 める ために 立ち 上がり 、同 世代
の 人びと の腐 敗と邪 悪を はげし く非 難し、 国民 の習慣 と態 度に根 本的 な革新 が必 要で
あ ること を大 胆に唱 導し た。そ の不 屈の精 神は 、バブ への 愛の火 で一 層燃え 立ち 、そ
の 遠大な ビジ ョンは 、バ ブの啓 示に ひそむ 計り 知れな い恩 恵を発 見し てより 高め られ
た 。生ま れつ きの大 胆不 敵さと 性格 の強さ は、 大業の 最終 的な勝 利を 確信し て百 倍の
強 さとな った 。その 尽き ること のな い精力 は、 大業の 永続 的な価 値を 認めて さら なる
力を得た。カルベラでかの女に会った人はすべて、その魅惑的な雄弁のとりことなり、
だ れもそ の魅 力に逆 こと はでき なか った。 大半 の人び とは 、かの 女の 信仰の 感化 力を
の がれる こと はでき なか った。 皆、 かの女 の人 格のす ばら しさを 証言 し、そ のお どろ
くべき個性を賞賛し、その確信が誠実なものであることを信じたのであった。
タ ヘレ は故セ イエ ド・カ ゼム の未亡 人に 大業を 教え た。こ の未 亡人は シラ ズで生 を
受 け、カ ルベ ラの女 性の 中では 最初 にその 真理 を認め た人 であっ た。 ソルタ ンは 、か
の 女はタ ヘレ に真心 から 献身し 、タ ヘレを 自分 の精神 的な 導きと して 、また 愛情 深い
仲間として尊敬していたと述べている。ソルタンは、この未亡人の人格を心から称え、
そのやさしさに賞賛の言葉を惜しまなかった。そして、よくつぎのように語っていた。
「 未亡人 はタ ヘレを ひど く慕っ てお られた 。か の女の 家に 客人と して 滞在し てい たタ
ヘ レから 、一 時間で も離 れるの を大 変いや がら れまし た。 それを 見て 、いつ もか の女
の 家を訪 れて いたペ ルシ ャ人と アラ ブ人の 女友 達は、 好奇 心をそ そら れ、信 仰を もつ
よ うにな った のです 。未 亡人は バブ の教え を受 け入れ た年 にとつ ぜん 病にか かり 、三
日後に主人のセイエド・カゼムと同じようにこの世を去られました。」(pp.269-270)
カ ルベ ラで、 タヘ レの努 力で バブの 大業 を受け 入れ た人た ちの 中にシ ェイ キ・サ レ
がいた。かれはその町に住むアラブ人で、後日テヘランで最初に殉教した人であった。
タ ヘレは かれ を大い に賞 賛した ので 、多く の人 たちが 、か れはゴ ッド スと同 じ地 位に
あ るので はな いかと 思っ た。ソ ルタ ンもま たタ ヘレの 魅力 に惹か れた 一人で あっ た。
シ ラズか らも どって 信者 となり 、大 業を大 胆に 、たゆ みな く促進 し、 タヘレ の指 示を
実 施する ため に最善 をつ くした 。も う一人 の賞 賛者は 、モ スタフ ァの 父親の シェ ブル
で あった 。か れはバ グダ ッド出 身の アラブ 人で 、その 市の 僧侶の 中で 高い地 位を 占め
て いた。 タヘ レはこ れら の忠実 で有 能な支 持者 たちの 助け により 、か なりの 数に のぼ
る イラク のペ ルシャ 人と アラブ 人を 信者と なす ことが でき た。信 者の 大半は 、タ ヘレ
の 導きで ペル シャの 仲間 と団結 し、 やがて 模範 的な行 為で 、神の 大業 の運命 を定 め、
生命の血をもってその勝利を確立することになった。
バ ブの 要請は もと もとペ ルシ ャの信 者に 向けら れた もので あっ たが、 まも なくし て
イ ラクの 信者 たちに も伝 えられ たの で、タ ヘレ はそれ に大 変な熱 意を もって 応じ た。
やがて、忠実な賞賛者たちが多数、かの女の模範に従い、コラサンへの旅を希望した。
カ ルベラ の僧 侶たち は、 タヘレ がそ の旅に 出な いよう に説 得にか かっ たが、 その 背後
の 悪意あ る陰 謀に気 づい たタヘ レは 、詭弁 者で ある僧 侶た ちの各 人に あてて 、長 い書
簡を書いた。その中で、かの女は自分の動機を説明し、かれらの偽装を暴露した。(p.271)
タ ヘレ はカル ベラ からバ グダ ッドに 進ん だ。そ の都 市で、 イス ラム教 のシ ーア派 と
ソ ンニ派 、キ リスト 教、 ユダヤ 教の 有能な 指導 者たち から 構成さ れた 代表団 が、 タヘ
レ に会見 を申 し込み 、か の女の 行動 の愚か さを 悟らせ よう と努力 した 。しか しか の女
は 、かれ らの 反対の 声を 黙らせ 、強 烈な論 証で かれら を仰 天させ たの である 。幻 滅を
感 じたか れら は、頭 は混 乱した まま 、自ら の無 能さを 強く 感じて かの 女のも とを 去っ
た。
ケ ルマ ンシャ ーの 僧侶た ちは 、タヘ レを 歓迎し 、尊 敬と賞 賛の しるし にさ まざま な
贈り物をおくった。しかしハマダンでは、宗教の指導者たちの態度は二つに分かれた。
何 人かは ひそ かに住 民を 扇動し て、 かの女 の威 信を傷 つけ ようと した 。また 、ほ かの
者たちは公にかの女の美徳を称え、その勇気を賞賛し、説教壇からこう呼びかけた。
「わ
れ われは かの 女の高 尚な 模範に 従わ なけれ ばな らない 。そ して、 コー ランの 神秘 をわ
れ われに 説明 し、そ の聖 典の難 解な 点を解 明し ていた だく ように 頼ま なけれ ばな らな
い 。なぜ なら 、われ われ の最高 の知 識もか の女 の広大 な知 識に比 べれ ば単な る水 の一
滴にすぎないからだ。」
タヘレがハマダンに滞在中、かの女の父モラ・サレは、ガズビンから使者を送って、
故 郷の町 にも どって 長期 間滞在 する ように 説得 させた 。か の女は 気が すすま なか った
が 、それ に同 意した 。出 発前に 、か の女は イラ クから 同行 してき た信 者たち に、 それ
ぞ れ自分 の故 郷にも どる ように 命じ た。そ の中 には、 ソル タン、 シェ ブルと その 息子
の モスタ ファ 、アベ ドと その息 子ナ セルが いた 。ナセ ルは 後日、 ハジ ・アッ バス とい
う 名をあ たえ られた 。さ らに、 ペル シャに 住ん でいた かの 女の仲 間た ち、す なわ ち、
タ エルと いう ペンネ ーム をもち 、タ ヘレが ファ タル・ マリ という 呼称 をあた えた モハ
メ ッド・ ゴル ペイエ ガニ とほか の者 たちも 故郷 にもど るよ うに指 示さ れた。 仲間 のう
ち サレと エブ ラヒム ・ゴ ルペイ エガ ニの二 人だ けがか の女 に同行 する ために 残っ た。
後日、この二人はそれぞれテヘランとガズビンで殉教した。かの女の親族の中では、
「生
け る者の 文字 」の一 人で 、かの 女の 義兄に あた るモハ メッ ド・ア リと かの女 の娘 と結
婚したアブドル・ハディが、カルベラからガズビンまでかの女に同伴した。
タ ヘレ が父親 の家 に到着 後、 かの女 の従 兄弟で 夫の モラ・ モハ メッド は、 自分の 家
に 住む女 性を 使いに 送り 、タヘ レに 自分の 家に 移って くる ように 説得 しよう とし た。
こ の尊大 で、 不実な 夫は 、モラ ・タ ギの息 子で 、自分 をペ ルシャ の僧 侶たち の中 で父
親 と叔父 に次 いで、 学識 を身に つけ ている 者で あると 考え ていた 。タ ヘレは 使い の者
に きびし い返 事をし た。「ごう 慢で 、厚か まし いわた しの 親族に こう 伝えな さい 。『あ
な たの望 みが 、本当 に忠 実な伴 侶と なるこ とで したら 、あ なたは いそ いでカ ルベ ラに
来てわたしを迎え、ガズビンまでわたしの荷車を押して行ったはずです。そうしたら、
旅 の途中 で、 わたし は眠 ってい るあ なたの 心を 覚醒し 、真 理の道 を示 すこと がで きた
と 思いま す。 しかし 、そ ういう 定め ではな かっ たので しょ う。わ たし たちが 別れ て三
年 がたち まし た。現 世に おいて も来 世にお いて も、今 後あ なたと 交わ ること は一 切で
きません。わたしの生涯からあなたを永遠に除いたからです。』」(pp.273-275)
こ の断 固とし たき びしい 返事 に、モ ラ・ モハメ ッド とかれ の父 親は激 怒し た。か れ
ら はすぐ にか の女を 異端 者であ ると 宣告し 、昼 夜問わ ずか の女の 地位 を傷つ け、 その
名 声を汚 そう とした 。タ ヘレは 熱烈 に自分 の正 当性を 主張 し、か れら の性格 の邪 悪さ
を さらし た。 平和を 愛し 、公正 な心 をもっ たか の女の 父は 、この はげ しい論 争を なげ
き、両者を和解させようとしたがむだであった。(pp.275-276)
こ の緊 張状態 は、 シラズ 出身 でシェ イキ ・アー マド とセイ エド ・カゼ ムの 熱心な 賞
賛 者であ るモ ラ・ア ブド ラがガ ズビ ンに到 着す るまで つづ いた。 その 到着日 は、 一二
六 三年ラ マダ ンの月 (一 八四七 年八 月十三 日か ら九月 十二 日の間 )の 初旬で あっ た。
そ の後、 モラ ・アブ ドラ は裁判 中に 、サヘ ブ・ ディヴ ァン (調停 者) の前で つぎ のよ
うに述べた。「わたしは、確信をもったバビ(バブの信者)ではありませんでした。バ
ブを訪問してその大業を調べようとマークーに行く途中、ガズビンに立ち寄りました。
と ころが 町中 が大騒 ぎに なって いま した。 市場 を通り すぎ ている と、 悪党ら しき 一団
が ある男 のタ ーバン と靴 をはぎ 取り 、それ を男 の首に 巻き つけて 街路 を引き ずっ てい
る のが目 に入 ったの です 。怒っ た群 衆がそ の男 をなぐ った り、の のし ったり して いま
し た。何 が起 こって いる のです か、 という わた しの質 問に 、つぎ のよ うな答 えが かえ
ってきました。
『この男が犯した罪は、シェイキ・アーマドとセイエド・カゼムの美徳
を 公の場 で称 えたこ とだ 。その ため 、僧侶 の長 モラ・ タギ (タヘ レの 義父) が、 かれ
を異端者として町からの追放を命じたのだ。』
こ の説 明にわ たし はおど ろき ました 。シ ェイキ (長 老)と 呼ば れる人 が、 どうし て
異端者とみなされ、残酷な扱いを受けなければならにのであろうか、と思ったのです。
そ こで、 モラ ・タギ 本人 から真 実を 教えて もら おうと 、か れの神 学校 へ行き 、そ の男
に異端者の宣告をしたかどうかを聞きました。かれはきっぱりと答えました。
『そうだ。
故 シェイ キ・ アーマ ドが 崇拝し てい た神は 、わ たしに は絶 対信じ られ ない神 なの だ。
かれと、かれの弟子たちは、大きな誤りを犯している。』これを聞いたとたん、わたし
は 、かれ の弟 子たち の面 前で、 かれ の顔を ぶん 殴って やろ うと思 いま した。 その とき
は 自制し まし たが、 機会 があれ ば、 もう二 度と 悪態を つけ ないよ うに 、かれ の唇 をや
りで突き刺そうと誓ったのです。(p.276)
そ こで すぐ市 場に 向かい まし た。短 剣と 鋭いや りの 穂を買 い入 れ、そ れら を胸に か
く して、 腹の 中で煮 えく り返っ てい る怒り をは らす準 備を しまし た。 ある夜 、モ ラ・
タ ギが会 衆の 祈りを 先導 してい た寺 院に行 き、 かれが 来る のを待 ちま した。 夜明 けご
ろ 、老女 が入 ってき て、 寺院の 重要 な場所 に持 参した じゅ うたん を敷 きまし た。 その
後 すぐモ ラ・ タギが 一人 で寺院 に入 ってき て、 じゅう たん のとこ ろに 行き祈 りを 唱え
は じめま した 。わた しは 音を立 てな いよう にか れの後 を追 いまし た。 そして 、床 にひ
れ 伏して いる かれに 飛び かかり 、や りの穂 でか れの首 をう しろか ら突 き刺し まし た。
大 声をあ げた かれを 仰向 けにし 、短 剣を抜 いて かれの 口に ずぶり と刺 しまし た。 その
後 、同じ 短剣 で胸と 横腹 を数回 刺し 、血を 流し ている かれ をその 場に 残して 、す ばや
く寺院の屋根に上がりました。
わたしは屋根の上から大騒ぎをしている群衆を見守っていました。大勢の人が寺院に入
り、モラ・タギを担架にのせて、かれの家に運びました。人びとは殺人犯が不明なため、
このときとばかり卑しい本能をむきだしにし、知事の前でお互いにはげしく責め合いまし
た。その結果、多数の罪のない人たちが逮捕され、投獄されたのです。それを見たわたし
は良心の呵責から知事のところに行き、こう聞きました。『殺人犯をあなたの手に渡せば、
投 獄 さ れ て い る 人 た ち を 全 員 釈 放 し て 下 さ い ま す か ? 』 知 事 の同 意を 得 ると すぐ 罪 を告
白 しまし たが 、かれ はわ たしを 信じ ようと しな かった ので す。つ ぎに 、寺院 にじ ゅう
た んを敷 いた 老女を 証人 として 呼ん でもら いま したが 、か の女の 証言 も聞き 入れ られ
ま せんで した 。最後 に、 死に際 にあ ったモ ラ・ タギの そば に連れ て行 かれま した 。か
れ は、わ たし を見る と興 奮し、 こち らを指 して わたし がか れを襲 った 犯人で ある こと
を 示しま した 。かれ は、 その場 から わたし を去 らせる よう に合図 した 後、ま もな くし
て 息を引 き取 りまし た。 わたし は即 座に逮 捕さ れ、有 罪の 宣告を 受け 投獄さ れた ので
すが、知事は約束を守らず、囚人たちを釈放しませんでした。」(pp.277-278)
サ ヘブ ・ディ ヴァ ン(調 停者 )は、 モラ ・アブ ドラ の率直 さと 誠実さ に好 感をい だ
き 、従者 に命 じてひ そか にかれ を監 獄から 逃走 させた 。真 夜中ご ろ、 モラ・ アブ ドラ
は セパ・ サラ ールの 妹と 結婚し たば かりの レザ ・カー ンの 家に逃 げ込 んだ。 そこ でシ
ェ イキ・ タバ ルシの 砦で の戦い を知 り、そ の砦 を勇敢 に防 御して いる 者たち と運 命を
共 にした いと 念願し て、 マザン ダラ ンに向 かっ た。そ して ついに タバ ルシの 砦で 、後
を追ってきたレザ・カーン共に殉教したのであった。
モ ラ・ タギ( タヘ レの義 父) が殺害 され たので 、親 族は怒 りを つのら せ、 タヘレ に
復 讐をは じめ た。親 族は タヘレ をか の女の 父親 の家に 厳重 に監禁 し、 数人の 女性 に監
視 させた 。か の女ら の任 務は、 タヘ レが日 々の 洗浄以 外に は部屋 を離 れない よう に見
張 ること であ った。 モラ ・タギ の息 子たち はタ ヘレを 殺人 の扇動 者で あると 非難 し、
つ ぎのよ うに 主張し た。「われ われ の父上 を殺 害する よう な者は 、お 前以外 にい ない。
父上の暗殺を命令したのはお前だ。」かれらはこの事件で逮捕した者たちをテヘランに
連 行し、 区長 の家に 監禁 した。 モラ ・タギ の友 人と息 子た ちは全 国い たると ころ を訪
れ、この囚人たちはイスラム教の教えを否認する者らであると非難し死刑を要求した。
(p.278)
当 時テ ヘラン に在 住して いた バハオ ラは 、タヘ レの 支持者 たち が区長 の家 に監禁 さ
れ ている こと を知っ た。 ババオ ラは 区長と すで に面識 があ ったの で、 囚人た ちを 訪れ
援 助の手 を差 しのべ よう とした 。こ の区長 はひ じょう に欲 が深く 、ず る賢い 人間 であ
っ た。か れは ババオ ラが 寛大で ある ことを 知っ ていた ので 、財政 上の 援助を 受け 、そ
れを自分のものとするために、囚人の苦しみを誇張して述べた。
「囚人たちはひじょう
に あわれ な状 態にあ りま す。い つも お腹を 空か してお り、 着る物 もほ とんど あり ませ
ん。」
バハオラは囚人たちの生活を楽にするためにすぐ財政的な援助をあたえ、区長に禁規則
をやわらげるように頼んだ。区長はそれに同意し、重たいくさりに耐えられない者たちか
らくさりをはずし、残りの者たちの苦痛をできるだけやわらげるようにした。区長はさら
に、欲にかられて、囚人たちの情況を上官たちに知らせ、かれらの食べ物とお金はバハオ
ラから定期的に支給されていることを強調した。この報告を受けた上官たちも、バハオラ
の寛大さを存分利用しようと考えた。かれらはバハオラを召喚し、その行動に異議を申し
立て、囚人たちとの共謀関係を非難した。それに対して、バハオラは、つぎのように応じ
た。
「区長自ら囚人たちの苦しみと貧窮を誇張してわれに訴えてきたのだ。かれ自ら囚人た
ちの無実を証言し、わが援助を要請したのだ。その要請に応えたわれを非難されるのか。」
か れら はバハ オラ を処罰 する とおど し、 帰宅さ せず 監禁し た。 これは バハ オラが 神
の 大業の 道で 最初に 受け た苦し みで あり、 かれ の愛す る人 たちの ため に受け た最 初の
監 禁であ った 。ニ、 三日 後、コ リ・ カーン とそ のほか の友 人たち が援 助にく るま で、
バ ハオラ は監 禁され たま まであ った 。コリ ・カ ーンは 総理 大臣と なっ たアガ ・カ ーン
の弟であった。かれらは手きびしい言葉を使って区長を脅し、バハオラを釈放させた。
バ バオラ を監 禁した 者ら は、釈 放の 報酬と して 十万円 ほど を受け 取れ ると信 じて いた
が 、それ どこ ろか、 コリ ・カー ンの 要請に 従わ なけれ ばな らなく なっ た。も ちろ ん、
バ ハオラ から も、コ リ・ カーン から も、報 酬は 一切も らえ なかっ た。 最後に 、か れら
は自分たちの行動を後悔して何度も謝り、バハオラを引き渡した。(pp.278-279)
一 方、 モラ・ タギ (殺害 され たタヘ レの 義父) の親 族たち は、 父親の 復讐 に全力 を
そ そいで いた 。これ まで にした 復讐 (タヘ レの 監禁な ど) に満足 でき ず、モ ハメ ッド
国王に直訴し、同情を得ようとした。国王はつぎのように答えたと伝えられている。
「あ
な たの父 上モ ラ・タ ギは 、<忠 実な る者の 司令 官>で ある エマム ・ア リ(モ ハメ ッド
の 後継者 、六 六一年 に殉 教)よ りす ぐれて いる はずは ない 。エマ ム・ アリは 弟子 たち
に 、もし 敵か ら殺さ れた らその 殺人 者本人 だけ が死刑 を受 けて罪 をつ ぐなう べき だと
教 えたで はな いか。 モラ ・タギ の殺 人犯を わた しに知 らせ よ。そ うす れば、 その 者を
捕らえてあなたに渡すので適切な罰を与えたらよかろう。」
国 王の 断固た る態 度に、 かれ らはこ れま で抱い てき た野望 を捨 てざる を得 なくな っ
た。そこで、シェイキ・サレを殺人犯であるとして逮捕し、死刑に処した。シェイキ・
サ レは、 ペル シャ国 内に おいて 、神 の大業 の道 で血を 流し た最初 の殉 教者で あっ た。
聖 なる信 教の 勝利を 、生 命の血 で決 定的な もの にした 勇敢 なる一 団の 最初の 人で あっ
た のであ る。 殉教の 場に 連行さ れて いくと き、 かれの 顔は 熱意と よろ こびで かが やい
て いた。 かれ は絞首 台に 足早に 近づ き、死 刑執 行人に 親し い生涯 の友 である かの よう
に あいさ つし た。か れの 口から 勝利 と希望 の言 葉がも れつ づけ、 死の 直前そ れは 歓喜
の 声とな った 。「あ なた を認め た瞬 間、わ たし はこれ まで の願望 や信 仰を捨 てま した。
あ なたこ そわ たしの 望み であり 、信 仰の的 であ ります !」 かれの 遺体 はテヘ ラン のエ
マム・ザデ・ザイド廟の境内に葬られている。(p.280)
モ ラ・ タギの 親族 はシェ イキ ・サレ を死 刑に処 した が、そ れで もかれ らの 憎しみ は
あ くこと を知 らなか った 。さら に陰 謀を進 める ために 、ア ガシ( 総理 大臣) に訴 えた
が 拒否さ れた 。総理 大臣 は調停 者か ら、か れら の裏切 り行 為を聞 いて いたか らで あっ
た 。それ でも 思いと どま らずに 、サ ドル・ アル デビリ (高 僧)に この 殺人事 件を 訴え
た 。この 高僧 はペル シャ の宗教 的指 導者の 中で も、厚 かま しさで 知ら れてい る尊 大な
男であった。かれらはつぎのように申し立てた。
「イスラム教の法を擁護すべき僧侶たちが、どれほど侮辱されているかを見て下さい。
イ スラム 教の 指導者 であ るあな たは 、イス ラム 教に大 きな 恥辱を もた らして いる 者ら
を 処罰な さら ないの です か。あ なた は殺害 され た高僧 の復 讐はお でき になら ない ので
す か。こ れほ どの凶 悪な 犯罪を 黙認 してい ると 、イス ラム 教の教 えと 原理の 宝庫 であ
るべき僧侶たちに、誹謗がどっと押し寄せてくることがお分かりにならないのですか。
沈 黙を守 って おられ ると 、敵は 大胆 になり 、あ なたの 築か れた機 構を 破壊し かね ませ
ん。その結果、あなたご自身の命まで危険にさらされるのではないですか。」
サドル・アルデビリ(高僧)は恐怖感におそわれたが、自分では何もできないので、
国王をだますことにした。そして、つぎのように要請した。「殉教された方(モラ・タ
ギ )の親 族が ガズビ ンに もどる とき 、囚人 たち を同行 させ て下さ るよ うにお 願い いた
し ます。 そう すれば 、親 族はガ ズビ ンで囚 人た ちの罪 を許 し、自 由の 身とな すこ とが
で きます 。そ れによ って かれら の地 位は高 まり 、住民 から さらな る尊 敬を得 るで あり
ましょう。」この狡猾な高僧の陰謀に全然気づかなかった国王は、その要請にすぐ同意
し た。た だし 、釈放 後の 囚人た ちが 安全な 生活 ができ 、今 後もか れら に危害 が加 えら
れ ない、 とい う保証 つき の文書 をガ ズビン から 国王に 送る という 条件 つきで その 要請
は許可された。(pp.280-281)
と ころ が、モ ラ・ タギの 親族 は、囚 人た ちが自 分た ちの手 に渡 される やい なや、 根
深 い憎悪 感を もって 囚人 たちに 復讐 しはじ めた のであ る。 最初の 夜、 まずハ ジ・ アサ
ド ラを情 け容 赦なく 殺害 した。 かれ はアラ ー・ バルデ ィの 弟で、 モハ メッド ・ハ ディ
と モハメ ッド ・ジャ バド の叔父 であ り、著 名な 兄同様 、敬 虔で正 直な 生活態 度で ガズ
ビ ンで知 られ た商人 であ った。 モラ ・タギ の親 族たち は、 ハジ・ アサ ドラを 故郷 の町
ガ ズビン では 殺害で きな いこと を十 分承知 して いたの で、 殺人の 疑惑 がかか らな いテ
ヘ ランで かれ の命を 取る ことに した のであ る。 真夜中 にそ の恥ず べき 行為を 犯し 、翌
朝 ハジ・ アサ ドラは 病死 したと 発表 した。 かれ の友人 や親 戚の者 らの 大半は カズ ビン
出身であったが、だれもハジ・アサドラの高貴な生命を消した犯罪に気づかないまま、
かれにふさわしい埋葬を行った。
バ ジ・ アサド ラの 残りの 仲間 のうち 、学 識と人 格で 深い尊 敬を 受けて いた タヘル と
エ ブラヒ ム・ マハラ ッテ ィは、 ガズ ビンに 到着 直後惨 殺さ れた。 前も って扇 動さ れて
い た住民 は二 人の姿 を見 ると、 すぐ 処刑せ よと 大声で 叫ん だ。恥 知ら ずの悪 党の 一団
が 、ナイ フ、 剣、や り、 斧で二 人に 襲いか かり 、めっ た切 りにし た。 この残 虐行 為で
か れらの 身体 は細か く裂 かれた ため 、埋葬 しよ うにも 身体 の断片 さえ 見つか らな いほ
どであった。
何 たる ことで あろ う。こ のよ うな信 じが たい残 忍な 犯罪行 為が 、イス ラム 教の最 高
指 導者が 百人 も居住 する と誇る ガズ ビンで 発生 すると は!
し か も 、 全住民 のう ちだ
れ もこの 卑劣 な殺人 に抗 議する 者は いなか った 。これ ほど 極悪で 、恥 ずべき 罪を 犯す
権 利があ るの かどう かを 質問す る者 もいな かっ た。自 分た ちだけ がイ スラム 教の 神秘
に 通じて いる と主張 する 者らに よる 野蛮行 為と 、イス ラム 教の光 を最 初この 世に もた
らした者らによる模範的な行為にある矛盾に、だれも気がついていなかった。さらに、
だれ一人として、憤慨してつぎのように叫ぶ者もいなかったのである。
「おお、よこし
ま で強情 な世 代の者 らよ 。おま えら は何と いう 汚名と 恥辱 の深み に落 ちたこ とか 。お
ま えらの 忌ま わしい 行為 は、卑 劣き わまる 人間 の行為 より 残忍で ある 。どの 野獣 も生
き 物も、 おま えの行 為の 獰猛さ に匹 敵でき ない ことが わか ってい るの か。お まえ はい
つ まで無 思慮 でいる のか 。会衆 の祈 りを先 導す る人物 が高 潔でな けれ ば、そ の祈 りは
効 果がな いこ とを信 じて いない のか 。その 祈り は、そ れを 先導す る者 の心が 清め られ
ないかぎり神には受け入れられない、とおまえ自身くり返し宣言してきたではないか。
し かもお まえ らは残 虐行 為を扇 動し 、それ に加 わる者 らを イスラ ム教 の真の 指導 者で
あ り、正 義を 体現す る者 らであ ると みなす のか 。おま えら は自分 の宗 教をか れら に支
配させ、自分の運命をかれらに牛耳らせているではないか。」(pp.282-283)
こ の残 虐行為 のニ ュース はテ ヘラン にと どき、 市の すみず みま でおど ろく べき速 度
で ひろが った 。総理 大臣 のアガ シは 、これ には げしく 抗議 しつぎ のよ うに叫 んだ と伝
えられている。
「一人の殺害に復讐するために、何人もの人びとを虐殺してよい、とコ
ー ランの どの 節にあ るの か!」 モハ メッド 国王 もまた 、サ ドル・ アル デビリ とそ の共
犯 者たち の裏 切り行 為に 強い不 満の 意を表 明し た。国 王は その卑 怯行 為を非 難し 、か
れ を首都 テヘ ランか らク ムの町 に追 放した 。総 理大臣 はか れの没 落を 試みて きて いた
が 、いず れも 成功し なか ったの でこ の左遷 を大 いによ ろこ んだ。 この とつぜ んの 解任
で 、かれ の権 威がひ ろが る不安 が除 かれた から であっ た。 総理大 臣が ガズビ ンで の虐
殺 を非難 した 理由は 、防 御のす べの ない犠 牲者 たちの 大業 に同情 する という より も、
サドル・アルデビリを苦境に陥らせ、その解職を望んでいたからである。
し かし ながら 、国 王と政 府は 、犯行 者た ちに直 接罰 をあた えな かった 。そ こで自 信
をつけたかれらは、ほかの復讐方法を探しはじめた。そしてついにタヘレに目を向け、
仲 間と同 じ運 命をた どら せるこ とを 決めた ので ある。 監禁 中のタ ヘレ は敵の 陰謀 を知
ら される とす ぐ、モ ラ・ モハメ ッド (タヘ レの 前夫) につ ぎのメ ッセ ージを 送っ た。
か れは父 親( 殺害さ れた モラ・ タギ )の後 を継 いでガ ズビ ン町の 僧侶 の長と なっ てい
た。
「『かれらは、口にものを言わせて神の光を消そうとする。だが、神の方では、その
光 をます ます 見事に 輝か せたま う。 信仰な き者 はそれ を忌 みきら うの である が。』(コ
ー ラン) もし 、この 大業 が真実 のも のであ り、 わたし の賛 美する 主が 唯一真 実の 神で
あ ります なら ば、神 は九 日以内 にあ なたの 暴虐 からわ たし を自由 にし て下さ るで しょ
う 。もし 神が そうし て下 さらな けれ ば、あ なた は思い 通り にわた しを 扱って 下さ って
結構です。そのときあなたは、わたしの信仰の誤りを最終的に証明されるでしょう。」
こ の大胆 な挑 戦を受 ける ことが でき ないこ とを 悟った モラ ・モハ メッ ドは、 タヘ レの
メ ッセー ジを 完全に 無視 するこ とに し、自 分の 目的を 達成 するた めに 陰険な 方法 をさ
がしはじめた。
タ ヘレ が自由 の身 になる と定 めた時 間前 に、バ ハオ ラはタ ヘレ を監禁 状態 から救 い
出 し、テ ヘラ ンに連 れ出 すこと にし た。バ ハオ ラはタ ヘレ の言葉 が真 実であ るこ とを
敵 に証明 し、 敵が企 てて いるか の女 の殺害 計画 をくじ く決 意をし た。 そこで 、バ ハオ
ラはモハメッド・ハディ(タヘレの親族から殺害されたハジ・アサドラの甥)を呼び、
タ ヘレを 助け 出して すぐ テヘラ ンの バハオ ラの 家に移 動さ せるよ うに 指示し た。 それ
に 従い、 モハ メッド ・ハ ディは 、妻 カチュ ヌに バハオ ラか らの封 書を 渡し、 乞食 に変
装 してタ ヘレ が監禁 され ている 家に 行き、 その 封書を タヘ レに手 渡し 、家の 門の とこ
ろ でしば らく 待つよ うに 指示し た。 そして 、タ ヘレが 出て きたら 、待 機して いる 自分
(モハメッド・ハディ)のところにいそいで連れて来るように指図した。
バハオラはさらに、使者のモハメッド・ハディにつぎのように命じた。
「タヘレがき
た らすぐ テヘ ランに 向か うがよ い。 今夜、 ガズ ビンの 城門 の近く に一 人の使 いと 三頭
の 馬を送 って おくの で、 その使 いと 馬をガ ズビ ンの城 壁外 の場所 に待 機させ よ。 タヘ
レ が出て きた ならば 、か の女を その 場所ま で案 内し乗 馬さ せて、 めっ たに人 の通 らな
い 道を通 り抜 け、夜 明け にテヘ ラン の郊外 に到 着する よう にせよ 。城 門が開 いた らす
ぐ テヘラ ン市 内に入 り、 タヘレ の身 許がだ れに も知ら れな いよう に細 心の注 意を はら
い ながら わが 家に直 行す るがよ い。 全能な る神 はかな らず あなた の歩 みを導 き、 あな
たを間違いなく守って下さるであろう。」(pp.283-284)
モ ハメ ッド・ ハデ ィは、 バハ オラの 言葉 で確信 を強 め、そ の指 示を実 行す るため に
す ぐ出発 した 。かれ は何 にも妨 げら れずに 、指 示通り 定め られた 時刻 にタヘ レを バハ
オ ラの家 に案 内する こと ができ た。 タヘレ がガ ズビン から ふしぎ にも こつ然 と姿 を消
し たので 、か の女の 友人 も敵も 同様 に仰天 した 。かれ らは 夜中家 々を 探し回 った が、
か の女を 見つ けるこ とは できな かっ た。か の女 の予言 の的 中で、 敵の 中でも 一番 猜疑
心 の強い 者も おどろ いた 。タヘ レの 信じる 信教 には神 秘的 な力が ある にちが いな いと
思 って信 者と なった 者も いた。 タヘ レの実 弟ヴ ァハー ブも その日 大業 を認め たが 、そ
の後の行動で、その信仰が不誠実なものであることが明らかとなった。
タ ヘレ は、自 分が 定めた 救出 時間が 到来 したと き、 すでに バハ オラの 家に 保護さ れ
ていた。かの女はだれの面前に自分が案内されたかを十分知り尽くしていた。そして、
自 分が受 けて いる手 厚い もてな しが 神聖な もの である こと も深く 感じ 取って いた 。バ
ブ の信教 をだ れから も知 らされ ずに 受け入 れた と同様 、将 来のバ ハオ ラの栄 光を 直観
力で感知したのである。六十年(一八四四年)、カルベラで書いた詩の中で、かの女は
バ ハオラ が将 来顕わ す真 理をす でに 受け入 れた ことを 暗示 してい る。 わたし (著 者)
も 、テヘ ラン のセイ エド ・モハ メッ ドの自 宅で 、タヘ レ直 筆の詩 句を 見せて もら った
こ とがあ るが 、その 詩の 句のす べて は、バ ブと バハオ ラの 崇高な 使命 へのか の女 の信
念を雄弁に表わしていた。つぎの句もその一つである。(pp.285-286)
「 アブハ の美 (バハ オラ )の光 輝は 、暗闇 のヴ ェール を破 った。 見よ !
そ の 御 顔か
らかがやき出た光の中で、蛾のように踊るかれの愛人たちの魂を。」かの女が確信をも
っ て予言 した り、敵 に向 かって 大胆 に挑戦 でき たりし たの は、バ ハオ ラの威 力を 堅く
信 じてい たか らであ った 。その 威力 への不 動の 信仰が あっ てこそ 、監 禁され てい た暗
黒の期間に、勝利が近づいていることを勇気と確信をもって主張できたのである。
テ ヘラ ン到着 後二 、三日 して 、バハ オラ はコラ サン に向か おう として いた 信者た ち
に 、タヘ レを 同行さ せる ことに した 。バハ オラ 自身も ニ、 三日後 にテ ヘラン を去 り同
じ 方向に 向か うこと にし た。か れは アガ・ カリ ム(バ ハオ ラの実 弟) を呼び 、タ ヘレ
と 付添い の女 性ガネ テを すぐテ ヘラ ン郊外 のあ る場所 に連 れて行 き、 そこか らコ ラサ
ン に向か うよ うに指 示し た。そ して こう警 告し た。テ ヘラ ン市の 城門 の守衛 は、 許可
証 のない 女性 は門を 通さ ないよ うに 命じら れて いるの で、 タヘレ の身 許が知 られ て出
発を阻まれないように細心の注意を払うようにと。
わたし(著者)は後日、アガ・カリムからつぎのように聞いた。「タヘレと付添いの
女 性とわ たし は、神 を信 頼して 郊外 まで馬 に乗 って行 きま した。 城門 に配備 され てい
る 守衛た ちは 、われ われ の通過 を止 めたり 目的 地を聞 いた りしま せん でした 。テ ヘラ
ン から五 キロ メート ルほ ど行っ たと ころで 馬か らおり まし た。そ こは 山のふ もと にあ
る 果樹園 で、 その真 ん中 に家が あり ました が、 だれも いな いよう でし た。持 ち主 を探
し ていた とこ ろ、草 花に 水をか けて いる老 人を 見かけ まし た。わ たし の質問 にか れは
こ う答え まし た。家 の持 ち主と 借家 人との 間に 争いが 起こ り、そ の結 果借家 人が 去っ
てしまったと。そしてこう付け加えました。(pp.286-287)
『 わたし は争 いが解 決す るまで 、こ の土地 と家 の番を する ように 持ち 主から 頼ま れて
おります。』これを聞いたわたしは大変うれしくなり、かれを昼食に招きました。その
日の午後、わたしはテヘランにもどることにしました。この老人はわたしのいない間、
タ ヘレと 付添 いの女 性を 守って くれ ること にな りまし た。 夕方に は信 用でき る者 が来
る こと、 また 翌朝に は、 わたし もコ ラサン への 旅に必 要な 備品を たず さえて もど って
くることをかれに約束しました。
テ ヘラ ンに到 着後 、生け る者 の文字 の一 人であ るバ ゲルと 従者 を、タ ヘレ のいる 場
所 に送り まし た。バ ハオ ラに、 タヘ レがテ ヘラ ンから 無事 出発し たこ とを報 告し たと
こ ろ、大 変よ ろこば れ、 その果 樹園 を「楽 園」 と名づ けら れまし た。 そして 、こ う言
われたのです。
『その家は、あなたのために神が準備されたものだ。あなたが神から愛
される人たちをもてなすことができるようにと。』タヘレはその場所に七日間滞在した
後 、ファ タと いう呼 び名 のモハ メッ ド・ハ サン とほか 数人 と共に コラ サンに 向か いま
し た。バ ハオ ラはわ たし に、タ ヘレ の旅に 必要 な備品 をと とのえ るよ うに命 じて いま
した。」
第十六章
バダシュトの大会
タ ヘレ の出発 直後 、バハ オラ はコラ サン への旅 の準 備を、 実弟 のアガ ・カ リムに 指
示 した。 さら に、家 族が 安全に 不自 由なく 生活 できる よう に、そ の世 話もか れに 頼ん
だ 。バハ オラ がシャ ー・ ルッド に到 着する と、 ゴッド スが 迎えに きて いた。 かれ はバ
ハ オラが シャ ー・ル ッド 近づい てい るのを 聞い てすぐ 、そ れまで 住ん でいた マシ ュハ
ド から出 てき て、バ ハオ ラを待 って いたの であ る。当 時、 コラサ ンの 全州は 、激 動の
最 中にあ った 。ゴッ ドス とモラ ・ホ セイン がは じめた 活動 と、か れら の熱意 、勇 気、
雄 弁は、 住民 を眠り から 覚まし 、多 数の人 びと の心に 、気 高い信 仰心 と献身 の炎 を点
し たが、 一方 、ほか の者 らの胸 は、 狂信と 悪意 でいっ ぱい になっ た。 多数の 探求 者た
ち が、絶 えず 四方八 方か らマシ ュハ ドに来 て、 モラ・ ホセ インの 家を 訪れた 。そ こで
モラ・ホセインは、かれらをゴッドスの面前に案内したのである。
市 当局 は、探 求者 の数が ます ます増 えて きたの で不 安にな って きた。 警察 署長は 、
こ の聖な る都 市のい たる ところ に流 れ込ん でく る興奮 した 大勢の 人び とを見 て、 心配
し 、うろ たえ たので ある 。かれ は、 自分の 権威 を誇示 する ために 、モ ラ・ホ セイ ンを
脅 迫して 、そ の活動 を抑 えよう と決 心した 。そ こで、 モラ ・ホセ イン の従者 ハサ ンを
逮 捕し、 酷い 刑をあ たえ るよう に命 じた。 命令 を受け た部 下たち は、 ハサン の鼻 に穴
を開け、それにひもを通して、道路上を引っ張りまわした。(p.288)
モ ラ・ ホセイ ンは 、従者 ハサ ンが受 けた 屈辱的 な苦 しみを 知ら された とき 、ゴッ ド
ス の面前 にい た。こ の悲 痛なニ ュー スが、 敬愛 する師 ゴッ ドスの 心を 苦しめ ない よう
に 、モラ ・ホ セイン は静 かに立 ち上 がり、 そこ を離れ た。 仲間た ちは すぐ、 かれ のま
わ りに集 まっ てきて 、潔 白な信 者を おそっ た残 虐行為 を憤 り、そ れに 復讐す るよ うに
せき立てた。モラ・ホセインは、かれらの怒りをなだめてこう言った。
「ハサンが受け
た侮辱に心を痛めたり、動揺したりしてはならない。ハサンはまだ生きていて、明日、
皆のところに安全に引き渡されるからだ。」
モ ラ・ ホセイ ンの 断固と した 言葉に 、仲 間たち は沈 黙した が、 胸中で は、 このむ ご
い 傷に仕 返し したく てた まらな かっ た。や がて 、仲間 の多 くが団 結し て立ち 上が り、
マ シュハ ドの 街路を 「お お、こ の時 代の主 よ! 」と大 声で 叫びま わり はじめ た。 これ
は 、かれ らの 信教に 加え られた 侮辱 に抗議 する もので あっ た。こ の叫 びは、 神の 大業
の 名のも とで 、コラ サン で最初 にあ げられ たも のであ った 。その 叫び 声は、 町を 越え
て 、その 州の 最遠隔 の地 方まで ひび きわた り、 住民の 心を 大きく 動揺 させた 。そ れは
また、その後起こるべき大事件のはじまりを合図するものであった。
そ のあ との混 乱状 態の中 で、 モラ・ ホセ インの 仲間 は、ハ サン を道路 上で 引っ張 り
ま わした 者ら を切り 殺し た。そ して 、救い 出し たハサ ンを 、モラ ・ホ セイン のと ころ
に 連れて 行き 、虐待 者た ちを殺 害し たこと を知 らせた 。モ ラ・ホ セイ ンはこ れを 聞い
て、つぎのように言ったと伝えられている。
「皆は、ハサンが受けた試練にさえ耐えら
れなかった。では、どのようにホセインの殉教に耐え得るというのか。」(p. 289)
マ シュ ハド市 は、 サラー ルが 起こし た暴 動のあ と、 平和と 静穏 を取り もど したば か
り であっ たが 、ふた たび 、混乱 と苦 難に陥 った のであ る。 ミルザ 王子 は軍団 を従 えて
マ シュハ ド市 から十 五マ イルほ どの ところ に駐 屯して いた が、こ のあ らたな 騒動 の知
ら せを聞 き、 緊急事 態に 対処し はじ めた。 まず 、特別 班を 即刻マ シュ ハド市 に送 り、
知 事の援 助を かりて 、モ ラ・ホ セイ ンを逮 捕し 、自分 のも とに連 れて くるよ うに 命じ
た。そのとき、砲兵隊長のカーンが、こうこん願した。「わたしはモラ・ホセインを敬
愛 し、賞 賛し ていま す。 かれを 傷つ けよう とさ れてい るの ならば 、ま ず、わ たし の命
を 取り、 その 後何な りと あなた の計 画を進 めて 下さい 。わ たしが 生き ている かぎ り、
モラ・ホセインが、わずかでも無礼に扱われることに耐えられないからです。」
王 子は 、この 突然 のこん 願に はたと 困っ た。ど れほ どこの 隊長 を必要 とし ていた か
がわかっていたからである。そこで、かれの不安を取り除こうと、こう述べた。「わた
し もまた 、モ ラ・ホ セイ ンを深 く敬 愛して いる 。野営 地に 来ても らう ことに より 、騒
動の拡大を防ぎ、かれの身も安全に守られると思っているのだ。」王子はさらに、自筆
でモラ・ホセインに手紙をしたため、
「数日間本営に移っていただくことを心から望ん
で います 。激 怒して いる 反対者 たち の攻撃 から 、あな たを かなら ずお 守りし ます 」と
約 束した 。王 子は、 モラ ・ホセ イン のため に、 自分個 人用 のこっ た飾 りのつ いた テン
トを自分のテントの近くに張らせた。
モ ラ・ ホセイ ンは 、受け 取っ た手紙 をゴ ッドス に見 せた。 ゴッ ドスは 、王 子の招 き
に 応じる よう に助言 した 。そし て「 危害を 加え られる こと はない 」と 安心さ せ、 こう
述べた。「わたしは、今夜、生ける者の文字の一人であるモハメッド・アリを伴ってマ
ザ ンダラ ンに 向かう 。神 の御意 なら ば、後 日あ なたも また 、大勢 の忠 実なる 信者 たち
の 先頭に 立っ て、< 黒旗 >をか かげ てマシ ュハ ドを出 、わ たしと 合流 できよ う。 全能
の神が定められたところで再会しよう。」(pp.289-290)
モ ラ・ ホセイ ンは よろこ んで この助 言に 応じた 。そ して、 ゴッ ドスの 足元 に身を か
が め、自 分に あたえ られ た任務 を忠 実に果 たす ことを 約束 した。 ゴッ ドスは 、愛 情深
くモラ・ホセインを抱擁し、眼と額に口づけし、全能の神がかならず守ってくれると、
安 心させ た。 同じ日 の午 後はや く、 モラ・ ホセ インは 馬に 乗り、 平静 に、威 厳を もっ
て 王子の 野営 地に向 かっ た。到 着す ると、 砲兵 隊長の カー ンがお ごそ かにか れを 迎え
た 。王子 は、 砲兵隊 長と 数人の 士官 に、モ ラ・ ホセイ ンを 歓迎し 、特 別に張 られ たテ
ントに案内するように命じていたのである。
そ の夜 、ゴッ ドス はバビ の家 を建て たバ ゲルを はじ め、と くに すぐれ た弟 子たち を
何 人か呼 び寄 せ、モ ラ・ ホセイ ンに 真心か らの 忠誠を ちか い、か れの 望みに はす べて
従うように命じた。そして、こう述べた。「われわれの前には大嵐がまっている。はげ
し い動乱 がす ばやく 迫っ てきて いる 。かれ に忠 実であ れ。 かれの 指示 に従え ば、 皆救
われるであろう。」ゴッドスは以上の言葉で仲間たちに別れを告げ、モハメッド・アリ
を 伴って マシ ュハド に向 かった 。ニ 、三日 後、 ゴッド スは ソレイ マン ・ヌー リと 出会
い 、タヘ レが ガズビ ンの 監禁か ら解 放され 、コ ラサン に向 かった こと と、そ のあ とバ
ハオラが首都テヘランを離れたことなどを知った。(pp.290-291)
ソ レ イ マ ン・ ヌ ー リ とモ ハ メ ッ ド・ ア リ は 、バ ダ シ ュ トに 到 着 す るま で ゴ ッ ドス に
同 伴した 。夜 明けに バダ シュト に着 いたと ころ 、その 小さ な部落 に大 勢の信 者の 仲間
たちが集まっていたのがわかった。しかし、かれらは旅をつづけることにしてシャー・
ル ードの 村に 向かっ た。 村の近 くま できた とき 、かな り後 を歩い てい たソレ イマ ン・
ヌ ーリは 、バ ダシュ トに 行く途 中の ハナ・ サブ に出会 った 。なぜ 大勢 がバダ シュ トに
集 まって いる のかを たず ねたと ころ 、ニ、 三日 前に、 バハ オラと タヘ レがシ ャー ・ル
ード村を出てその部落に向かったこと、多数の仲間がすでにイスファハン、ガズビン、
そ のほか の町 々から 到着 し、バ ハオ ラのコ ラサ ンへの 旅に 同行す るた めに待 機し てい
ることを知らされた。ソレイマン・ヌーリは、ハナ・サブに言った。「バダシュトにい
るアーマド・イブダルにこう伝えて下さい。
『まさしく今朝、光があなたを照らしたが、
あなたはその輝きを認めることができなかった』と。」
(光とはゴッドスを指す。)ハナ・
サ ブから ゴッ ドスの シャ ー・ル ード 到着を 聞い たバハ オラ はすぐ 、ゴ ッドス に会 うこ
とにした。同じ日の夕方、バハオラはモハメッド・モアレムを従えて、馬で村に行き、
翌日の夜明けに、ゴッドスを伴ってバダシュトにもどってきた。(p.292)
夏 のは じまり であ った。 バハ オラは バダ シュト で三 つの庭 園を 借りた 。一 つはゴ ッ
ド スの専 用で 、一つ はタ ヘレと 従者 、もう 一つ は自分 のた めであ った 。バダ シュ トに
八十一人が集まってきていたが、皆到着の日から解散の日までバハオラの客であった。
バ ハオラ は毎 日書簡 を顕 わし、 それ を、ソ レイ マン・ ヌー リが皆 の前 で唱え た。 バハ
オ ラはま た、 各人に 新し い名前 を与 えた。 バハ オラ自 身は そのと き以 来「バ ハ」 と呼
ば れるよ うに なり、 最後 の生け る者 の文字 は「 ゴッド ス」 という 名前 を授か り、 ゴル
ラ トル・ エイ ンは「 タヘ レ」の 名を 与えら れた 。その 後、 バブは バダ シュト に集 まっ
た 各人に 、特 別の書 簡を 書いた が、 そのと き、 それら の新 しい名 前を 用いた 。後 日、
弟 子たち の中 の頑固 で保 守的な 何人 かが、 タヘ レが昔 から の伝統 を捨 てたこ とを 非難
し、バブにその不満を訴えた。そのとき、バブはこう答えた。
「タヘレに『純粋なる人』
と名づけた威力と栄光の舌なる御方(バハオラ)に関して、われに何が言えようか。」
毎 日、 その忘 れが たい集 まり で、昔 から の伝統 が一 つずつ 廃止 され、 新し い法律 が
紹 介され てい った。 イス ラム教 法の 尊厳を 守っ てきた ヴェ ールが 容赦 なく引 きは がさ
れ 、盲目 の崇 拝者た ちが 長い間 賛美 してき た偶 像が荒 々し く壊さ れた 。しか し、 これ
ら の大胆 な革 新がど こか らきて いる のか、 その 源泉は 何な のか、 だれ にもわ から なか
っ た。自 分た ちの道 を誤 りなく 導い ている 聖な る手に 、だ れも気 づい ていな かっ たの
で ある。 その 村に集 合し てきた 各人 に、新 しい 名前を 与え た人物 (バ ハオラ )の 身元
さ えも、 皆に はわか らな いまま であ った。 もし 気づい た者 が少数 いた として も、 この
遠 大な変 革を もたら した 人はバ ハオ ラでは ない かと、 おぼ ろげに 思っ た位で あっ た。
(p.293)
バ ダシ ュトで の状 況に一 番よ く通じ てい る一人 、ア ブドラ ブは そこで 起こ ったこ と
を、つぎのように述べた。
「あるとき、バハオラは病気で床につかれました。それを聞
い たゴッ ドス は、バ ハオ ラのと ころ に駆け つけ ました 。バ ハオラ の面 前に案 内さ れる
と 、その 右側 に座り まし た。残 りの 仲間た ちも 徐々に 入っ てきて バハ オラの まわ りに
集 まって きま した。 皆が 集まっ た直 後、タ ヘレ の使者 、モ ハメッ ド・ ハサン がと つぜ
ん 来て、 タヘ レの伝 言を ゴッド スに 伝えま した 。それ は、 タヘレ のと ころに 来て くれ
るようにという願いでした。ゴッドスは断固とした口調でこう答えました。
『かの女と
は完全に関係を断った。かの女と会うのはおことわりだ。』使者はすぐそこを去りまし
た が、ま もな くして もど ってき て同 じ伝言 を伝 え、タ ヘレ の緊急 な願 いを聞 いて くれ
るように訴えました。
『タヘレさんは、あなたのお出でを強く望んでおられます。そう
なさらなければ、タヘレさん自らあなたのところにいらっしゃいます。』それでもゴッ
ド スの態 度が 変わら ない のを見 た使 者は、 剣を 抜き、 ゴッ ドスの 足元 に置い て言 いま
した。
『あなたが行かれるまで、わたしはここから離れません。タヘレさんのところに
わ たしと いっ しょに 行っ て下さ るか 、この 剣で わたし の首 をはね て下 さるか どち らか
にして下さい。』
『タヘレのところには行かないとすでに言ったであろう。』と、ゴッド
スは腹立たしく答え、こう述べました。
『むしろ、お前が申し出たように、お前の首を
はねることにしよう。』
ゴ ッド スの足 元に 座って いた モハメ ッド ・ハサ ンは 、首が はね られや すい ように 頭
を 前にの ばし ました 。そ のとき 、と つぜん 盛装 したタ ヘレ がヴェ ール なしで 現わ れま
し た。そ れを 見た瞬 間、 皆仰天 しま した。 ヴェ ールを つけ ないタ ヘレ の顔を 見る など
想 像もお よば なかっ たの です。 かの 女の影 を見 ること さえ もった いな いと思 われ てい
た からで す。 仲間た ちは 皆、タ ヘレ を純潔 の最 高の象 徴で あるフ ァテ メ(モ ハメ ッド
の娘、エマム・アリの妻)の顕現とみなしていたのです。(pp.294-295)
タ ヘレ は威厳 をも って静 かに 進み、 ゴッ ドスの 右側 に座し まし た。か の女 のまっ た
く 冷静な 態度 は、そ こに 集まっ てい た仲間 たち のおど ろい た顔と 著し い対照 を示 して
い ました 。皆 の魂は 、恐 れと怒 りと 当惑で 、奥 底まで かき 乱され 、身 体の機 能が まひ
してしまったようでした。アブドル・コーレケは、タヘレを見て、強烈な衝撃を受け、
そ れに耐 えき れずに のど を切り 、血 まみれ にな り、興 奮で 悲鳴を あげ ながら 逃げ 去り
ま した。 その ほか、 同じ ように その 場から 去り 、信仰 を捨 てた弟 子た ちもい まし た。
仲 間の大 半は 、おど ろき と狼狽 のあ まり口 がき けなく なり 、タヘ レの 前に立 ちす くん
だ ままで した 。その 間ゴ ッドス は、 剣のさ やに 手を置 き、 言葉で は表 現でき ない 怒り
を 顔に浮 かべ て、そ の場 に座っ たま までし た。 その様 子は 、あた かも タヘレ を切 る機
会を待っているかのようでした。
し かし 、タヘ レは この威 嚇的 な態度 に左 右され ずに 、最初 にき たとき と同 じ威厳 と
自 信を保 って いまし た。 それだ けで なく、 その 顔はよ ろこ びと勝 利で かがや いて いた
の です。 タヘ レは仲 間た ちの心 を動 揺させ たこ とには 気を とめな いで 、席か ら立 ち、
そ の場に 残っ ていた 仲間 たちに 話し はじめ まし た。コ ーラ ンの言 葉に きわめ て似 た言
葉 で、大 変な 熱意を もっ て雄弁 に訴 えたの です 。しか も、 その言 葉は 前もっ て準 備し
たものではありませんでした。そして最後に、つぎのコーランの句を引用しました。
『ま
こ とに、 敬虔 なる者 は、 庭園と 川に かこま れた 真理の 場で ある強 大な 王の面 前に 住ま
うであろう。』タヘレは、この句を口にしながらバハオラとゴッドスの両人にそっと目
を 投げか けま した。 が、 どちら を指 してい るか はだれ にも わかり ませ んでし た。 その
直後、タヘレはこう宣言しました。『わたしの言葉はガエム(バブのこと)が話される
言 葉です 。そ れは地 上の 統領と 貴人 を逃げ 出さ せるほ どの もので す。』( 原文第一 章十
五ページ参照)(p.295)
つ ぎに 顔をゴ ッド スに向 け、 コラサ ンで のかれ の行 動をい まし めまし た。 それは 、
か の女が 信教 のため に重 要だと 思っ たこと をか れがし なか ったか らで した。 そこ でゴ
ッドスは言い返しました。
『わたしは自分の良心に自由に従えるのだ。同じ弟子の意に
服従しないでよいのだ。』タヘレはゴッドスから目を離し、その場にいる人たちに、こ
の大いなる出来事を祝うように招きました。
『今日は祝日で、世界中の人びとがよろこ
ぶ べき日 です 。これ まで の束縛 が断 ち切ら れた 日です 。こ の大い なる 業績に あず かる
皆さんは、立ち上がって抱擁し合おうではではありませんか。』」
こ の忘 れがた い日 からし ばら くの間 、そ の場に 集ま ってい たバ ブの弟 子た ちの生 活
態 度と習 慣に 大きな 変革 が起こ った 。かれ らの 礼拝の 仕方 がとつ ぜん 根本か ら変 わっ
た のであ る。 敬虔な 信者 たちが 、そ れまで に習 慣とし てい た祈り や儀 式の方 法が 最終
的に廃止されたのであった。(p.296)
しかし、この変革を熱烈に唱導してきた弟子たちの間に大混乱が生じた。何人かは、
こ れほど 徹底 的な改 革は 異端で ある と非難 し、 イスラ ム教 の神聖 な法 律を棄 てる こと
は できな いと した。 ある 者たち は、 これに 関し て判断 を下 すのは タヘ レだけ であ ると
み なし、 かの 女は、 弟子 たちに 無条 件の服 従を 求める 資格 がある とし た。ほ かの 者た
ち は、タ ヘレ のゴッ ドス に対す る態 度をと がめ 、ゴッ ドス こそバ ブの 代表で あり 、そ
の ような 重要 な事柄 に関 して判 断を 下す権 威が あると した 。さら に別 の者た ちは 、タ
ヘ レとゴ ッド ス両人 の権 威を認 め、 この出 来事 はすべ て神 から送 られ た試練 であ ると
み なした 。つ まり、 真理 と誤り を分 け、忠 実者 と不忠 者を 区別す るた めに下 され たも
のであるとみなしたのである。
タヘレは、幾度かゴッドスの権威を否定し、つぎのように述べたと伝えられている。
「ゴッドスは、皆を啓発し、導くためにバブが送られた弟子とみなされます。しかし、
その以上の権威はかれにありません。」ゴッドスの方も、タヘレを「異端をもたらす者」
と 非難し 、か の女の 説を 支持す る者 らに「 誤謬 の犠牲 者」 という 汚名 を着せ た。 この
緊 張状態 はバ ハオラ が仲 裁に入 るま でニ、 三日 つづい た。 バハオ ラは 見事な 手腕 で、
二 人の間 に完 全な和 解を もたら した 。はげ しい 論争で 受け た傷を いや し、両 人の 努力
を建設的な奉仕の道へと導いたのであった。(p.297)
こ の忘 れがた い集 会の目 的は 達成さ れた 。新し い秩 序を知 らせ るクラ リオ ンの音 が
ひ びいた 。人 間の良 心を 束縛し てい た因襲 が大 胆に問 われ 、一掃 され た。こ うし て、
新 しい時 代の 法律や 教訓 を宣布 する ための 道が 開けた ので ある。 そこ で、バ ダシ ュト
に 集まっ た残 りの仲 間た ちはマ ザン デラン に向 かう決 心を した。 ゴッ ドスと タヘ レは
同 じハウ ダ( 馬に乗 せら れた屋 根つ きの座 席) に座し た。 それは バハ オラが 二人 のた
め に準備 した もので あっ た。旅 上で 、タヘ レは 毎日歌 を作 り、従 者た ちに歌 わせ た。
山 も谷も 、そ の熱烈 な一 団の歌 声に こだま した 。かれ らは 古い時 代の 消滅と 新し い時
代の誕生を祝いながらマザンデランに向かったのである。
バ ハオ ラはバ ダシ ュトに 二十 二日間 滞在 した。 マザ ンデラ ンに 向かう 途中 で、バ ブ
の 弟子の 何人 かが、 イス ラム教 の法 律や規 律か ら自由 にな ったこ とを 濫用し よう とし
た 。かれ らは 、ヴェ ール を棄て ると いう前 例の ないタ ヘレ の行動 を、 節度を 無視 して
利 己的な 欲望 を満た して よい、 とい う合図 とみ なした ので ある。 そし て、何 人か が極
端 な行動 に走 ったた め、 全能の 神の 怒りを かい 、即刻 分散 となっ た。 ニヤラ 村で 、か
れ らはき びし い試練 を受 け、敵 から 重傷を 負わ された 。こ の分散 で、 無責任 な弟 子た
ちが起こそうとした騒動の火は消され、大業の栄誉と威厳は保たれた。(p.298)
わたし(著者)はバハオラから、この出来事をつぎのように聞いている。
「われわれ
は 皆ニヤ ラ村 に集ま り、 山のふ もと で休ん でい た。夜 明け にとつ ぜん 小石を 投げ つけ
ら れて目 をさ ました 。近 隣の住 民が 山の頂 上か らわれ われ に向か って 小石を 投げ つけ
て いたの であ る。そ の攻 撃があ まり にもは げし くなっ たの で、仲 間た ちはお どろ き恐
れ て逃げ 去っ た。ゴ ッド スにわ れの 服を着 せ、 安全な 場所 に行か せ、 あとで 自分 もそ
こ に行く こと にした 。と ころが 、あ とでそ こに 行った とこ ろ、か れの 姿はな かっ た。
こ の攻撃 で、 われわ れの キャン プ場 は荒ら され てしま った 。そこ に残 ってい た者 は、
タ ヘレと シラ ズから 来た 若者ミ ルザ ・アブ ドラ だけで あっ た。タ ヘレ の保護 を頼 める
者 は、こ の若 者しか いな かった 。か れはこ の事 件で実 にお どろく べき 勇気と 決断 力を
示 した。 剣を 手にし 、村 人の猛 烈な 襲撃に もひ るまず 、前 に飛び 出し て、わ れわ れの
所 有物を 略奪 しにき た敵 の手を 阻止 した。 かれ 自身は 数ヵ 所の傷 を負 いなが らも 、わ
れ われの 所有 物を命 がけ で守っ たの である 。わ れは、 かれ にその 行動 を止め るよ うに
命 じた。 騒動 がおさ まっ たとき 、わ れは、 村の 住民の とこ ろに行 き、 かれら の行 動は
残 酷で恥 ずべ きもの であ ること を納 得させ た。 その後 、略 奪され た所 有物の 一部 を取
り返すことができた。」
バ ハオ ラはタ ヘレ と従者 を伴 ってヌ ール に向か った 。バハ オラ はアブ トラ ブに、 タ
ヘ レを安 全に 守る役 目を あたえ た。 その間 、敵 たちは 、モ ハメッ ト国 王がバ ハオ ラに
対 して怒 りを いだく よう に全力 をつ くして いた 。バハ オラ こそシ ャー ・ルッ ドと マザ
ン デラン の暴 動の主 導者 である と報 告し、 つい にバハ オラ を逮捕 させ ること に成 功し
たのである。国王は怒りをこめてつぎのように言ったと伝えられている。
「これまでバ
ハ オラに 対す る非難 は黙 認して きた 。それ は、 バハオ ラの 父上が わが 国に大 いな る貢
献をしたからである。しかし今、バハオラを死刑に処する決意でいる。」(p.299)
国王は、従者の一人にこう命じた。
「マザンデラン在住のおまえの息子に、バハオラ
を逮捕させ、首都に連行させよ。」その息子は、バハオラのために準備した歓迎会の前
日 に、そ の命 令状を 受け 取った 。か れはバ ハオ ラを深 く敬 愛して いた ので、 大変 心を
痛 めたが 、だ れにも その ことは 知ら せなか った 。しか しバ ハオラ は、 かれの 悲し みを
察 し、神 に信 頼を置 くよ うに助 言し た。翌 日、 バハオ ラが 、かれ に伴 われて 家に 向か
っ ている とき 、テヘ ラン の方か ら馬 に乗っ て近 づいて いる 使者に 出会 った。 かれ はそ
の 使者と 話し たあと 、バ ハオラ のと ころに 急い でもど りな がら「 モハ メッド 国王 は亡
くなられました。」とマゼンデランの方言で叫んだ。そして国王の命令状を出してバハ
オ ラに見 せた 。その 命令 状は無 効と なった 。そ の夜、 バハ オラは 、平 穏でよ ろこ びに
満ちた時間をほかの客と過ごすことができた。
一 方ゴ ッドス は敵 にとら えら れ、サ リの 高僧モ ハメ ッド・ タギ に監禁 され ていた 。
残 りの仲 間は 、ニヤ ラで 分散し た後 、四方 八方 に散ら ばり 、めい めい バダシ ュト で起
こった重大な出来事のニュースをほかの信者たちに伝えた。(p.300)
第十七章
バブのチェリグ牢獄監禁
ニ ヤラ の事件 は一 八四八 年七 月中旬 に起 こった 。そ の月の 下旬 に、バ ブは タブリ ズ
に 連行さ れ、 圧制者 から 屈辱的 な傷 を負わ され た。バ ブの 尊厳に 対す る侮辱 と、 ニヤ
ラ の住民 が、 バハオ ラと その仲 間に 向けた 攻撃 は、ほ とん ど同時 に起 こった 。ニ ヤラ
での攻撃は無知でけんか好きな住民による投石であったが、バブが受けたのは残忍で、
不信実な敵によるむち打ち刑であった。
こ こで 、迫害 者が バブに ひど い侮辱 をあ たえる よう になっ た状 況につ いて 説明し て
みよう。バブは総理大臣アガシの命令により、チェリグの牢獄に移され、看守ヤーヤ・
カ ーンに 引き 渡され た。 この看 守の 妹は、 モハ メッド 国王 の妻で 、ナ エブス ・サ ルタ
ネ の母親 であ った。 看守 は、総 理大 臣から 、だ れもバ ブに 会わせ ては ならな いと いう
き びしい 命令 を受け てい た。と くに 、マー クー 砦の看 守ア リ・カ ーン のよう に、 命令
を無視して徐々に監視をゆるめてはならない、と強く警告されていた。(pp.301-302)
権 力を 牛耳っ てい た総理 大臣 アガシ のバ ブに対 する 敵対感 は強 烈で、 その 命令は 絶
対 的であ った が、看 守ヤ ーヤ・ カー ンは、 命令 を守り つづ けるこ とは できな いと 感じ
た 。かれ もま た、囚 人バ ブに惹 きつ けられ てい った。 バブ の精神 に接 触した とた ん、
自 分の義 務を 忘れた ので ある。 バブ と会っ た最 初の瞬 間か ら、そ の愛 は心に 深く 浸透
し 、全身 とら われて しま ったの であ る。チ ェリ グの住 民の クルド 人さ え、バ ブの 影響
で 変わっ てし まった 。マ ークー の住 民はク ルド 人を嫌 って いたが 、ク ルド人 は、 それ
以 上に狂 信的 な憎し みを シーア 派に 対して いだ いてい た。 しかし 、バ ブから 愛の 火を
心 に点さ れた かれら は、 毎朝仕 事を はじめ る前 に、牢 獄に 歩を向 け、 遠くか らそ こに
と らわれ てい るバブ の名 前を唱 え、 祝福を 願っ た。さ らに 、地面 に身 を伏し 、魂 を活
気づけてくれるようにこん願したのである。
か れら はお互 いに 、バブ のお どろく べき 威力と 栄光 を語り 合っ た。看 守の ヤーヤ ・
カ ーンは 、牢 獄にだ れが 入って きて も阻止 しな かった 。や がて牢 獄の 門に群 がる 訪問
者 の数が 、あ まりに も増 してき たた め、チ ェリ グの町 では 皆を収 容す ること はで きな
くなった。そこで、牢獄から一時間のところにある旧チェリグ街に宿泊所を確保した。
バブの生活備品は、この古い町で入手され、牢獄に運ばれたのである。(p.302)
あ る日 、バブ は、 従者に 蜂蜜 を購入 させ た。と ころ が、従 者が 払った 値段 がひじ ょ
うに高すぎると思われたので、バブはそれを受け取ることを拒否し、言った。
「これよ
り も上等 の蜂 蜜さえ 、も っと低 い値 段で買 える はずだ 。あ なたの 模範 である われ は、
以 前商人 であ った。 今後 の取引 はす べてわ れの 模範に 従う がよい 。隣 人から だま し取
る ことも 、隣 人にだ まし 取られ るこ ともし ては ならな い。 これが 、あ なたの 師で ある
わ れが取 った 道なの だ。 どれほ ど抜 け目の ない 者も、 われ をだま すこ とはで きな かっ
た 。しか し、 そのよ うな 卑劣な 者も 、無力 な者 も寛大 に扱 ったの だ。」バブ は従 者に、
その蜂蜜を返却し、もっと上等で安い値段の蜂蜜を買ってくるように命じた。
バ ブ が チ ェ リグの 牢獄 に監禁 され ている 期間 に、つ づけ さまに 、お どろく べき 出来
事 が起こ った ため、 政府 はきわ めて 不安に なっ てきた 。コ イ町の セイ エド( モハ メッ
ド の子孫 )や 僧侶や 政府 の高官 とい った著 名人 の多く が、 囚人バ ブの 大業を 心か ら信
奉 してい るこ とがや がて 明らか にな った。 その 中には 、セ イエド で、 高い業 績を もつ
ミ ルザ・ モハ メッド ・ア リとそ の弟 ブユク ・ア ガがい た。 この二 人は 、あら ゆる 階層
の 人びと に、 熱心に バブ の信教 をひ ろめた 。そ の結果 、コ イ町と チェ リグ町 の間 は、
探求者と信者がいそがしく行き交うようになった。
そ のこ ろ、つ ぎの ような 出来 事が起 こっ た。ミ ルザ ・アサ ドラ という 著名 な官吏 で
す ぐれた 文筆 能力を そな えた人 がい たが、 かれ は後日 バブ からダ ヤン という 称号 をあ
た えられ た人 でもあ る。 かれは バブ の教え をは げしく 非難 してい たた め、か れを 信者
に しよう と努 力して いた 人たち は困 ってし まっ た。ミ ルザ ・アサ ドラ はある 日夢 を見
た 。しか し、 夢のこ とは だれに も話 さない こと にした 。そ して、 コー ランの 二つ の句
を 選び、 バブ につぎ の要 請を書 いた 。それ をバ ブに渡 して もらう よう に、ミ ルザ ・モ
ハメッド・アリに頼んだ。それは、「わたしは三つのことを心に抱いています。その意
味を明かしてくださるようにお願いします。」という内容であった。二、三日して、バ
ブ から直 筆の 返事を 受け 取った 。そ の中で 、バ ブはミ ルザ ・アサ ドラ の夢を 全部 説明
し 、かれ が選 んだコ ーラ ンの句 をそ の通り 書い た。ミ ルザ ・アサ ドラ は、そ の内 容が
ま ったく 正確 であっ たの で、す ぐ信 者とな った 。かれ は歩 きなれ なか ったが 、コ イか
ら 牢獄ま での けわし いご つごつ とし た小道 を歩 きはじ めた 。友人 たち はチェ リグ まで
馬 に乗っ てい くよう にす すめた が、 それを こと わった 。バ ブとの 会見 で、か れの 信仰
は固まり、生涯の終わりまで燃えるような熱意をもちつづけた。(pp.303-304)
同 じ年 、バブ は四 十名の 弟子 たちに 、聖 句や伝 承を 参照し て、 バブの 使命 が正当 で
あ ること を証 明する 論文 を書く よう に要請 した 。弟子 たち はこの 要請 にすぐ 従い 、書
き 上げた 論文 をバブ に提 出した 。そ の中で 、ミ ルザ・ アサ ドルの 論文 は、バ ブの 賞賛
を 得、最 高で あると 評価 された 。バ ブはか れに 、ダヤ ンと いう名 をあ たえ、 かれ のた
めに「文字の書簡」を著わし、その中で、つぎのように述べた。「バヤンの点(バブ)
の 教えが 、真 理であ るこ とを証 明す るもの がほ かにな いと しても 、こ れだけ で十 分で
あ る。す なわ ち、ど れほ ど学識 があ っても 、だ れも書 けな いよう な書 簡を著 わし たこ
とである。」
バヤンの人びと(バブの弟子たち)は、この書簡の根本にある目的を完全に誤解し、
易 学の解 説に すぎな いと 思った 。後 日、バ ハオ ラがア ッカ の牢獄 都市 に監禁 され はじ
め たころ 、シ ラズ在 住の ジェナ ブ・ モバレ ゲが 、バハ オラ にその 書簡 のかく され た意
味 を解明 して くれる よう に頼ん だ。 バハオ ラは これに 応え て説明 を書 いた。 バブ の言
葉 を誤解 した 者たち は、 この説 明を 深く考 える べきで あろ う。バ ハオ ラは、 バブ の文
章 から、 反駁 できな い証 拠をあ げ、「ヨゼ ロホ ラ」( バハ オラの こと )の出 現は バブの
宣言後十九年後でなければならないことを証明した。
「モスタガス」
(祈願される御方)
の 秘めら れた 意味は 、バ ヤンの 人び と(バ ブの 弟子た ち) の中で も、 熱心に 探求 して
いる人たちを長い間悩ましてきていた。かれらは、その障害を乗り越えられないため、
約 束の御 方を 認めら れな いでい たの である 。バ ブ自ら その 書簡の 中で 、かく され た意
味 を解明 した が、だ れも それを 理解 できな いで いた。 そこ で、バ ハオ ラが皆 の目 にそ
の神秘を解き明かすことになったのである。(pp.304-305)
ミ ルザ ・アサ ドラ がバブ の大 業にひ じょ うに熱 心な のを見 て、 かれの 父親 は、親 友
で ある総 理大 臣アガ シに 、息子 の改 宗につ いて 報告し 、同 時にか れが 政府の 任務 を怠
っ ている こと を告げ た。 さらに 、有 能な政 府の 官吏で ある この息 子が 、大変 な熱 意を
もって新しい師に仕え、その努力が実っていることもくわしく述べた。
政 府の 懸念は 、イ ンドの 修道 僧が、 チェ リグを 訪れ たこと によ って強 まっ た。か れ
は バブに 会見 したと たん 、その 使命 が真実 であ ること を認 めたの であ る。こ の修 道僧
が エスキ ・シ ャハー ルに 旅した 際、 バブは 、か れにガ ハル ラとい う名 前をあ たえ た。
ガ ハルラ に会 った者 は皆 、その 熱意 を感じ 取り 、強い 確信 に動か され た。か れの 魅力
に 惹かれ 、そ の信仰 の力 を認め る人 がます ます 増えて きた 。その 影響 力の強 さに 、信
者 の中に は、 かれを 神の 啓示の 解説 者であ ると 言いは じめ た者も いた が、も ちろ ん、
かれ自身はそれをまったく否定した。
ガハルラは、よくつぎのように述べていた。
「わたしがインドで高い地位を占めてい
た ころ、 バブ が夢に 現わ れ、わ たし をじっ と見 つめま した 。わた しの 心は完 全に とら
わ れてし まい ました 。立 ち上が って バブの あと につづ こう とした とき 、かれ はわ たし
を愛情深く見つめ、こう言われました。
『その立派な衣を脱ぎ、故郷を離れ、アゼルバ
エ ジャン のわ れのと ころ に、徒 歩で 急いで 来る がよい 。チ ェリグ で、 あなた の心 の望
みはかなえられよう。』わたしはバブの指示に従い、目標に達することができました。」
(p.305)
身 分の 低い修 道僧 が、チ ェリ グのク ルド 人の指 導者 たちを 動揺 させた ニュ ースは 、
タ ブリズ に届 き、そ こか らテヘ ラン へと報 告さ れた。 この ニュー スを 受け取 った 政府
は 、すぐ バブ をタブ リズ に移す 命令 を下し た。 バブの 長引 く滞在 で、 チェリ グの 住民
が 興奮状 態に なって いた のを静 める ためで あっ た。こ のあ らたな 命令 がチェ リグ に届
く 前に、 バブ はアジ ムを 通して 、ガ ハルラ にイ ンドに もど り、大 業の 奉仕に 身を ささ
げるように命じた。
「ガハルラは一人で歩いて故国にもどり、ここへ巡礼に来たと同じ
熱意と超脱心をもって、大業の発展に尽くさなければならない。」
つ ぎに バブは 、コ イ在住 のア ブドル ・ヴ ァハブ に、 あとで 自分 も合流 する ので、 ウ
ル ミエに 直行 するよ うに 指示し た。 アジム が受 けた指 示は 、タブ リズ に行き 、カ リー
ルにバブの到着が近づいていることを知らせることであった。バブはこう付け加えた。
「かれにこう伝えよ。
『まもなくタブリズでニムロデの火が点けられるが、その猛烈な
火炎にもかかわらず、わが友らは安全である。』」
ガ ハル ラは、 師( バブ) の指 示を受 ける とすぐ 、イ ンドに 発つ 準備を した 。同伴 し
たいと申し出た者らに、つぎのように忠告した。
「皆は、この旅の試練に耐えることは
で きない 。同 行の望 みを 棄てる こと だ。か なら ず途中 で倒 れる。 バブ はわた しに 一人
で故国に帰るように命じられたからだ。」この強い言葉に、同行をこん願した者らは黙
ってしまった。ガハルラはだれからもお金や衣服を受け取らず、質素な服を身に着け、
つ えを手 に持 ち、一 人で 故国へ と旅 立った 。そ の後、 かれ に何が ふり かかっ たか を知
る者はいない。
モ ハメ ッド・ アリ ・ゾヌ ジは 、アニ スと も呼ば れる が、タ ブリ ズでバ ブの メッセ ー
ジ を聞い た者 らの一 人で あった 。バ ブの言 葉に 鼓舞さ れた かれは 、チ ェリグ に行 き、
バ ブに会 うこ とを熱 望し 、かれ の道 に自分 を犠 牲にし たい という 抑え きれな い願 望を
感 じた。 タブ リズの 名士 であっ た継 父セイ エド ・アリ ・ゾ ヌジは 、ア ニスが 町を 離れ
る のに極 力反 対し、 つい に自宅 に監 禁し、 厳重 に監視 した 。アニ スの 苦しい 監禁 は、
バブがタブリズの到着し、ふたたびチェリグの牢獄に入れられるまでつづいた。(p.306)
わ た し ( 著 者)は 、シ ェイキ ・ハ サン・ ゾヌ ジ(バ ブの 秘書) から つぎの よう に聞
いた。
「バブがアジムを送り出したころ、わたしもバブから指示を受けました。それは、
バ ブがマ ーク ーとチ ェリ グの牢 獄に 監禁さ れて いる期 間に 著わし た書 簡をす べて集め、
タ ブリズ 在住 のカリ ール に手渡 すこ とでし た。 エブラ ヘム は、細 心の 注意を はら って
それらの書簡をひそかに保存しました。
タ ブリ ズに滞 在中 、わた しは 親戚の セイ エド・ アリ ・ゾヌ ジを よく訪 ねま したが 、
そのたびに、かれは息子にふりかかったことを嘆き、強い不満をもらしていました。
『息
子は理性をなくしたようだ。かれの行動は父親のわたしに恥辱と不名誉をもたらした。
興奮をしずめ、その信念をかくすように、かれを説いてくれないか。』わたしは親戚で
あるその息子アニスを毎日訪ねましたが、かれはいつも涙にくれていました。
バ ブが タブリ ズを 離れら れた あとで した 。ある 日、 アニス を訪 れたと ころ 、かれ の
顔 がよろ こび で輝い てい るのを 見て びっく りし ました 。そ の端正 な顔 は、わ たし を迎
え、ほほ笑みに変わったのです。かれは、わたしを抱擁しながらこう言いました。
『最
愛 なる御 方が わたし を見 つめ、 わた しもそ の御 方を見 つめ ました 。わ たしが よろ こん
で いる理 由を お話し しま しょう 。バ ブがチ ェリ グに連 れも どされ たあ と、監 禁さ れて
い る部屋 で、 バブに 向か いこん 願し ました 。< わが最 愛な る御方 よ。 あなた はわ たし
が 監禁さ れ無 力であ るこ とをご らん になっ てい ます。 そし て、ど れほ どあな たの 御顔
を 仰ぎた いと 願って いる かもご 存知 です。 あな たの御 顔の 光で、 わた しの心 をお おっ
て いる陰 鬱を 打ち払 って 下さい 。> そのと き、 苦悶の 涙が とめど もな く流れ まし た。
そ のうち 、胸 がいっ ぱい になり 、意 識がも うろ うとし てき ました 。す るとと つぜ ん、
バ ブの声 が聞 こえて きた のです 。バ ブはわ たし を呼び 、立 ち上が るよ うに命 じら れま
し た。か れの 荘厳な 御顔 がわた しの 眼前に 現わ れたの です 。かれ は、 わたし の目 を見
つ めてほ ほ笑 まれま した 。そこ でバ ブの方 に急 いで近 づき 、その 足元 に身を 伏せ まし
た 。かれ はこ う申さ れま した。 <よ ろこぶ がよ い。ま さし くこの 都市 の大群 衆の 眼前
で 、わた しは 吊り上 げら れ、敵 の射 撃の犠 牲と なると きが 近づい てい るから だ。 殉教
の 杯をわ れと 分かち 合う 者とし てあ なたを 選ん だ。こ の約 束はか なら ず果た され るの
で安心せよ。>
こ の幻 のすば らし さに、 わた しはう っと りとな って いまし た。 意識を 取り もどし た
とき、自分がよろこびの大洋に浸っているのがわかったのです。このよろこびの光は、
世 界中の 悲し みによ って も、く もら すこと はで きない もの でした 。バ ブの声 は、 わた
し の耳に ひび きつづ けま した。 バブ の幻は 、昼 夜とわ ずわ たしに 現わ れつづ けた ので
す 。その 神聖 なほほ 笑み で、監 禁中 のさび しさ は追い 払わ れまし た。 バブの 約束 が果
たされる時間はもはや遅らすことはできないと確信しています。』
わ たし はかれ に、 忍耐し 、感 動をか くし ておく よう に忠告 しま した。 かれ もこの 秘
密 をだれ にも 明かさ ない ことを 約束 しまし た。 そして 、継 父に対 して も寛大 な気 持ち
を もちつ づけ ました 。わ たしは 、か れの継 父の ところ に説 得に行 き、 息子の 決意 を告
げ 、監禁 を解 いても らう ことが でき ました 。そ の後、 アニ スは殉 教の 日まで 、両 親と
親 族と交 わり ながら 、ま ったく 平静 でよろ こび に満ち た日 々を過 ごし ました 。こ のよ
う な態度 に、 かれが 最愛 なる御 方の ために 命を ささげ た日 、タブ リズ の住民 は皆 、か
れのために嘆き悲しんだのです。」(p.308)
第十八章
タブリズでのバブの取り調べ
バ ブは 、近づ く苦 難の時 を察 知して 、チ ェリグ の牢 獄周辺 に集 まって いた 弟子た ち
を 分散し 、タ ブリズ への 召集命 令を しずか な心 でまっ た。 バブの 護送 団は、 途中 のホ
イ 町を迂 回し 、ウル ミエ 湖畔を 経由 してア ゼル バエジ ャン 州の州 都( タブリ ズ) に向
か うこと にし た。そ うす れば、 政府 の暴政 に抗 議する ホイ の住民 の暴 動を避 ける こと
が できる と考 えたか らで ある。 バブ がウル ミエ に到着 する と、そ の地 に住む カゼ ム・
ミ ルザ( 王子 )は、 バブ を丁重 に迎 え、手 厚く もてな した 。王子 はバ ブを大 変敬 い、
バブとの面会を許された人たちに、わずかでも無礼にならないようにと注意した。
あ る金 曜日、 バブ が公衆 風呂 に出か けよ うとし てい た際、 客人 (バブ )の 勇気と 威
力 のほど を試 そうと 考え た王子 は、 一番の あば れ馬を バブ のため に準 備する よう に馬
丁 に命じ た。 この馬 が、 馬術に たけ た勇敢 な人 たちを 落馬 させて いた のを知 って いた
馬 丁は、 バブ がけが しな いかと 心配 し、そ の馬 に乗ら ない ように ひそ かに進 言し た。
バブは答えた。
「恐れることはない。命じられた通りにせよ。われに関しては、全能な
る神に委ねるがよい。」
王子の計画を知ったウルミエの住民は、バブの落馬を見ようと広場を埋めつくした。
馬 が連れ てこ られる と、 バブは しず かに近 寄り 、馬丁 から 手綱を 受け 取って 、馬 をし
ず かにな で、 あぶみ に足 をかけ た。 馬は、 自分 を支配 して いる威 力を 感じと って いる
か のよう に、 微動だ にし なかっ た。 この馬 のあ まりに もふ しぎな 様子 に群集 は驚 嘆し
た 。素朴 な町 の住民 には 、この 異常 なでき ごと は奇跡 以外 のなに もの でもな かっ た。
か れらは 熱狂 のあま り、 バブの あぶ みに口 づけ しよう と駆 け寄っ てき たが、 王子 の従
者 たちに さえ ぎられ た。 大勢の 人が 突進し てく れば、 バブ に危害 が加 えられ るか もし
れ ないか らで あった 。王 子自ら 徒歩 で、浴 場の 近くま でバ ブに同 行し たが、 入り 口に
着く前に、バブは王子に、家にもどるように求めた。行く途中、バブを一目見ようと、
道 の両側 から 押し寄 せて くる住 民を 、王子 の従 者たち は‘ 懸命に 制止 した。 浴場 に着
くと、バブは、同行してきた者らをすべて立ち去らせたが、王子の召使いとセイエド・
ハ サンだ けを 脱衣場 まで 同伴さ せ、 脱衣を 手伝 わせた 。入 浴を終 えた バブは 、ふ たた
び 同じ馬 に乗 り、同 じ群 集から 歓呼 で迎え られ ながら 帰途 につい た。 王子も また 、徒
歩でバブを迎えに出て、家まで伴った。(pp.309-310)
バ ブが 帰途に つく とすぐ 、ウ ルミエ の住 民は浴 場に 殺到し 、バ ブが顔 と手 を洗っ た
水 を最後 の一 滴まで 持ち 去った 。大 変な興 奮が 終日つ づい た。そ の光 景を見 て、 バブ
は イスラ ム教 の有名 な伝 承を思 い起 こして いた 。それ は、 エマム ・ア リ(モ ハメ ッド
の 後継者 )が 、とく にア ゼルバ エジ ャン地 方に ついて 語っ たもの とさ れてい るも ので
あ る。そ の伝 承の終 わり に、ウ ルミ エの湖 水が 沸騰し 、町 をはん らん させる と記 され
て いる。 その 後、ウ ルミ エの住 民の 大半が 、バ ブの教 えを 全面的 に信 じたい と言 って
い ること を聞 いたバ ブは 、冷静 につ ぎのよ うに 述べた 。「 人間は 、『 信じま す、 信じま
す 』と言 いさ えすれ ば、 もうそ れで 干渉さ れず 、試さ れる ことも なか ろうと 考え てい
るのか。」(コーラン)
後日、この言葉の真理が証明された。すなわち、バブに忠誠を誓った同じ人びとが、
タブリズでバブが受けた残酷な仕打ちを知らされたとき、態度を一変させたのである。
バ ブに見 栄を はって 信仰 を誓っ た人 びとの うち 、試練 に直 面して 、バ ブの教 えに 忠実
で ありつ づけ た者は 数え るほど しか いなか った 。その 中で 、最初 にあ げられ るの は、
イ マム・ ヴァ ルディ であ る。か れの 信仰は あつ く、同 じウ ルミエ 出身 で、生 ける 者の
文 字(バ ブの 最初の 弟子 十八人 )の 一人で あっ たモラ ・ジ ャリル 以外 には、 比べ られ
る 者はい なか った。 かれ の熱意 は、 試練を 受け てます ます 強まり 、自 分の受 け入 れた
大 業の正 しさ に確信 をも った。 後年 、かれ は、 バハオ ラに 会い、 その 教えの 真理 をす
ぐ認めた。そして、その大業の促進のために、以前と同じ熱意をもって身をささげた。
バ ハオラ は、 ヴァル ディ と、そ の家 族の長 年の 奉仕を 称え て、直 筆の 書簡を 数多 く送
っ た。そ の中 で、バ ハオ ラは、 ヴァ ルディ の業 績をほ め称 え、か らの 努力が 神に 祝福
さ れるこ とを 祈って いる 。八十 余年 の生涯 を閉 じるま で、 ヴァル ディ は、ゆ るが ぬ決
意をもって、信教の発展に努力をつづけた。(pp.311-312)
バ ブに かかわ る不 思議な 現象 は、多 くの 人びと に目 撃され 、人 から人 へと 伝えら れ
て いった 。そ れはや がて 、これ まで だれも 経験 したこ との ないほ どの 熱狂と 興奮 の波
と なり、 おど ろくべ き速 度で全 国に ひろが った 。首都 テヘ ランを も飲 み込ん だこ の波
は 、国の 宗教 上の指 導者 たちに 衝撃 をあた え、 バブの 影響 力を阻 止す るため に、 ふた
た び、立 ち上 がらせ るこ とにな った 。かれ らは 、バブ の運 動が発 展し ていく のを おそ
れ た。そ のま ま放置 して おけば 、か れらの 権力 と存在 の基 盤とな って いる制 度が やが
て 押し流 され てしま うこ とを確 信し たから であ る。か れら はさら に、 自分た ちで は呼
び 起こす こと ができ なか った信 仰と 献身の 精神 がいた ると ころに ひろ がって いる のを
見 た。ま た、 自分た ちが 築いて きた 制度を くつ がえそ うと する忠 誠心 が、人 びと の中
で 強まっ てい くのを 見た が、あ らゆ る手段 を用 いても 、そ の精神 の波 をさえ ぎる こと
はできなかった。
と くに タブリ ズは 、興奮 のる つぼと 化し ていた 。バ ブの到 着が 間近に せま ってい る
と いう知 らせ に、住 民は 何が起 こる かと想 像を めぐら せて いた。 一方 、アゼ ルバ エジ
ャ ン州( タブ リズは その 州都) の宗 教上の 指導 者たち の心 には、 はげ しい敵 意の 炎が
燃 え上が って いた。 タブ リズ市 民の なかで 、バ ブの二 度目 の来訪 に感 謝とよ ろこ びを
示 さなか った はかれ らの みであ った 。民衆 のあ まりの 興奮 ぶりに 、当 局はバ ブを タブ
リ ズの郊 外の 民家に 置く ことに した 。バブ 自身 から許 可を 受けた 者だ けがか れと 会う
ことができ、それ以外の者は、バブに近づくことはできなかった。(p.312)
タ ブリ ズ到着 二日 目の夜 、バ ブはア ジム を呼び 、自 分こそ 約束 のガエ ム( 救世主 )
で あると 力強 く宣言 した 。しか し、 アジム はそ の主張 を素 直に受 け入 れよう とは しな
かった。かれの心の迷いに気づいたバブは言った。
「明日、われは皇太子の前で、また
こ の都市 の僧 侶や名 士の 面前で わが 使命を 宣言 しよう 。わ れが著 わし た聖句 以外 の証
拠 をわれ に求 める者 は、 自分が 空想 の世界 で作 り上げ たガ エムに 満足 するし かな いの
だ。」
わ たし( 著者 )は、 アジ ムが当 時の ことを つぎ のよう に語 るのを 聞い た。「あの 夜 、
わ たしは ひど く動揺 して いまし た。 眠るこ とは おろか 、じ っとし てい ること さえ でき
ず に夜明 けを 迎えた ので す。朝 の祈 りを唱 えた 直後、 自分 の心に 大き な変化 が起 こっ
て いるの に気 づきま した 。新し い門 戸がわ たし の眼前 でひ ろく開 け放 たれた よう でし
た 。わた しの 中に確 信が めばえ てき ました 。す なわち 、も し神の 使者 である モハ メッ
ド に忠実 であ るため には 、バブ の主 張を無 条件 に認め 、バ ブの定 めに は恐れ もた めら
い もなく 、従 わなけ れば ならな いと いう確 信で した。 この 確信か ら、 わたし の心 の動
揺 はしず まり ました 。そ こで、 バブ のもと にい そいで もど り、許 しを 乞いま した 。バ
ブはこう述べられました。
『 アジム (偉 人とい う意 味)と 呼ば れる者 さえ 、この 大業 の威力 と、 その主 張の 強大
さ に心を ひど く悩ま され 、混乱 させ られた 。そ れ自体 、こ の大業 の偉 大さの もう 一つ
の証拠である。』バブはつづけて言われました。
『安心せよ。全能なる神の恩寵により、
あ なたは 弱き 心の者 に力 をあた え、 ためら う者 の歩み を確 固とな すで あろう 。あ なた
の信仰はひじょうに強力なものとなり、敵があなたの身体をずたずたに切り裂いても、
あ なたの 愛の 熱意を わず かでも 変え ること はで きない であ ろう。 あな たはま た、 来る
べ き日に 、か ならず 諸々 の世の 主な る御方 (バ ハオラ )に 直々に 会う ことに なろ う。
そして、その面前のよろこびにあずかるであろう。』このバブの言葉で、わたしの心を
お おって いた 不安の 暗雲 は消滅 しま した。 その 日以来 、恐 怖と動 揺は 、わた しか らま
ったく去ってしまいました。」(p.313)
バ ブが タブリ ズの 郊外に 足止 めされ ても 、市内 の興 奮はお さま ること はな かった 。
当 局は、 でき る限り の規 制を敷 き、 予防策 を講 じたが 、す でに険 悪に なって いた 状況
を悪化させるばかりであった。そのとき、総理大臣のミルザ・アガシは命令を下した。
そ れは、 タブ リズの 宗教 面の指 導者 を、た だち にアゼ ルバ エジャ ン州 知事の 公邸 に召
集 するも ので あった 。そ の目的 は、 バブを 法廷 に召喚 する ことと 、そ の影響 力を 消滅
させるための最上策を見いだすことであった。召集されたのは、
「学問の長」の称号を
もち、皇太子の個人教授をつとめるモラ・マムード、ママガニ、「イスラムの長老」の
称 号をも つア リアス ギャ ルであ った 。ほか シェ イキー 派の 長老や 僧侶 たち数 人が 集ま
っ た。皇 太子 のナセ ルデ ィン・ ミル ザも会 合に 出席し た。 議長を つと めたの は「 学問
の 長」の モラ ・マム ード であっ た。 会合が 始ま るとす ぐ、 議長は 、バ ブを会 場に つれ
て くるよ うに 軍の指 揮官 に要請 した 。会場 の入 り口に はす でに大 勢の 人がバ ブを 一目
見 ようと じり じりし て待 ってい た。 指揮官 は、 押し合 う群 集の間 に分 け入っ て通 路を
確保しながらバブを会場へと案内した。(p.314-315)
会 場に 入った バブ は、皇 太子 の席以 外に は空い た席 はない のに 気づい た。 そこで 、
会 場の全 員に あいさ つを し、一 瞬の ためら いも なく、 その 空いて いる 席に向 かっ た。
バ ブの威 厳あ る足取 り、 自信に 満ち た表情 、全 身にあ ふれ る威力 は、 瞬間、 会場 の全
員 を圧倒 した 。とつ ぜん 、不思 議な 静けさ が会 場をお おっ た。名 士た ちのう ち、 だれ
も 一語さ え口 にする こと はでき なか った。 つい に、議 長の モラ・ マー ムドが 長い 沈黙
を破ってバブに質問した。
「あなたは、ご自分をだれだと主張しているのですか。あな
たは、何を伝えるために来られたのですか。」
「われこそは、約束された者なり、約束された者なり、約束された者なり。」と三度バ
ブはくりかえした。
「われこそは、皆がその名を一千年間唱えつづけてきた者、皆がそ
の 名を聞 き起 立した 者で ある。 皆が その到 来を 待望し 、そ の啓示 の時 が早め られ るよ
う に、神 に祈 ってき たの だ。ま こと にわれ は言 うが、 洋の 東西を とわ ず、人 びと はす
べて、わが言葉に従い、われに忠誠を誓わなければならない。」この言葉に、だれも答
え ようと はし なかっ たが 、ママ ガニ ただ一 人が 反論に あた った。 かれ は、シ ェイ キー
派 の長老 で、 カゼム の弟 子でも あっ た。生 前、 カゼム は弟 子のマ マガ ニの不 誠実 を涙
な がらに 訴え 、その つむ じ曲が りの 性格を 嘆い ていた 。こ のカゼ ムの 嘆きを 直接 聞い
ていたハサン・ズヌジは、わたし(著者)につぎのように語ってくれた。
「 師のカ ゼム が、マ マガ ニにつ いて 話すと きの 批判的 な口 調に、 わた しは大 変お どろ
い ていま した 。そし て、 かれは 、そ のよう な批 判に値 する ような 行動 を将来 とる ので
あろうかと疑問に思っていました。かの日(タブリズで)、かれのバブに対する態度を
見 るまで は、 わたし は、 その傲 慢さ と盲目 のほ どに気 づい ていな かっ たので す。 その
と き、わ たし は、ほ かの 人たち と共 に、会 場の 入り口 あた りにい まし たが、 中の 会話
を 聞くこ とが できま した 。ママ ガニ は皇太 子の 左手の 席を 占め、 バブ はこの 二人 の中
間 に座っ てい ました 。バ ブが自 分は 約束さ れた 者であ ると 宣言さ れた 直後、 出席 者全
員 が畏敬 の念 に打た れた ようで した 。そし て、 狼狽し て頭 を垂れ 、沈 黙した まま でし
た 。蒼白 にな ったか れら の顔か ら、 心の動 揺が うかが われ ました 。そ のとき 、片 目で
白ひげをたくわえた裏切り者のママガニが、横柄な態度でバブを非難しました。(p.316)
『 この恥 知ら ずの未 熟な シラズ のや つ!
お ま えは、 すで にイラ クの 地に騒 動を 起こ
し 、堕落 させ た。ア ゼル バエジ ャン でも同 じ騒 動を起 こす 気か。』バ ブは答 えま した。
『 閣下、 わた しは、 自分 の意思 でこ の地に 来た のでは あり ません 。こ の場所 に召 喚さ
れたのです。』ママガニは怒りのあまり叫ぶように言いました。
『だまれ、この強情者、
おまえは卑劣な悪魔の手先だ!』バブは再度答えました。
『閣下、わが主張に変わりは
ありません。』
議 長の モラ・ マー ムドは 、バ ブの主 張に 直接挑 戦し た方が よい と考え て、 こう言 い
ました。『あなたの(約束された者という)主張は、途方もなく大きな意味をもつもの
です。その主張は、まったく論争の余地のない証拠を必要とします。』これにバブはこ
う答えれれました。『神の予言者を証明するものは、その言葉です。これが、最上でも
っ とも説 得力 をもつ 証拠 です。 <わ れ聖典 をあ らわし たが 、それ だけ ではま だか れら
に は足り ない のか> とコ ーラン にも ある通 りで す。神 は、 このよ うな 証拠を 示す 力を
わ たしに あた えられ まし た。二 日と 二晩の うち に、わ たし はコー ラン の全巻 に匹 敵す
る量の聖句をあらわすことができます。』
これを受けて議長は要請しました。
『あなたが真実を申しておられるのならば、コー
ラ ンの聖 句と 同じよ うな 言葉と 表現 方法を 用い て、こ の会 合の議 事に ついて 口頭 で述
べ てくだ さい 。そう して 下され ば、 ここに おら れる皇 太子 殿下も 僧侶 の方々 も、 あな
たの主張が真実であることを証言されるでありましょう。』バブは、この要請を進んで
受け入れ、陳述をはじめました。(p.317)
『慈悲者、憐れみ深き者なる神の御名において、天と地を創造された神に賛美あれ。』
こ の言葉 を聞 いたと たん 、ママ ガニ は、バ ブを 止め、 文法 上のあ やま りを指 摘し て、
横柄でさげすむような声をはりあげて言いました。
『この自称ガエムは、冒頭からして
初 歩的な 文法 さえ知 らな いこと を暴 露した では ないか !』 これに 対し 、バブ はつ ぎの
ように弁護しました。
『コーラン自体、通常の決まりや慣例とまったく一致していませ
ん 。神の 言葉 は人間 のか ぎられ た能 力で推 しは かるこ とは できま せん 。否む しろ 、人
び とが定 めた 決まり や基 準は、 神の 言葉に 由来 するも ので あり、 また 、それ に基 づい
て 作られ てい ます。 人び とは、 コー ランの 中に 、今あ なた が批判 して おられ ると 同じ
よ うな文 法上 のあや まり が三百 箇所 以上あ るこ とを発 見し ました 。し かし、 それ は神
の 言 葉 で あ る ゆ え 、 そ れ を 受 け 入 れ て 神 の 意 志 に 従 う し か な か っ た の で す 。』
(pp.318-319)
こ う説 明して 、バ ブはふ たた び前と 同じ 言葉を くり 返しま した 。それ に対 してマ マ
ガ ニは、 前と 同じよ うに 反論し まし た。そ の後 すぐ、 ほか の者が 思い 切って バブ に質
問 しまし た。『イシ タル タンナ とい う動詞 の時 制は何 か言 ってみ て下 さい。』こ れに応
えて、バブはコーランからつぎの聖句を引用しました。
『もろもろの偉大さの主に在す
な んじら の主 の栄光 は、 人間が 主に 帰する すべ てをは るか に超え たも のであ る。 かれ
の使徒に平安あれ。もろもろの世の主に在す神に賛美あれ。』バブは、この言葉を終え
てすぐ席を立ち、会場を去られました。」議長(モラ・マムード)は、取り調べの方法
と経過をきわめて不満に思った。後になって、かれはこう述べた。
「あのタブリズ市民
の 無礼な 態度 はまっ たく の恥で ある 。あの よう な無意 味な 質問と 、わ れわれ が検 討し
ようとしていた最も重大な問題とは一体どう結びつくというのか。」(p.319)
そ のほ かにも 、そ のとき のバ ブに対 する 屈辱的 な扱 いを非 難し た者が 何人 かいた 。
しかし、ママガニの猛烈な攻撃はつづいた。かれは、声高らかに断言した。「皆に警告
し たい。 この 青年の 活動 をその まま 放って おけ ば、タ ブリ ズの全 市民 が、か れの 旗の
下 に結集 する 日が来 る。 その日 が来 て、か れが 、タブ リズ のすべ ての 僧侶と 皇太 子殿
下 を追放 し、 政府と イス ラム教 の全 権力を 独占 しよう とし たらど うな るであ ろう か。
今はかれの運動に無関心な皆のうちだれも、それを防ぐことはできないようになろう。
そ の時が きて 、タブ リズ の全市 だけ でなく 、ア ゼルバ エジ ャンの 全住 民が一 致し て、
かれを支持するようになろう。」
こ の悪 質な陰 謀者 (ママ ガニ )の執 拗な 攻撃は 、や がてタ ブリ ズ市政 を動 かした 。
そ こで、 権力 の座に ある 者たち が、 バブの 教え の拡大 を阻 止する ため の最良 策に つい
て 相談し た。 その結 果、 つぎの よう な案が 出さ れた。 バブ は皇太 子の 席にこ とわ りも
な く座り 、ま た、会 合の 議長に こと わりも せず 会場を 去っ て無礼 を重 ねた。 これ を理
由 に、バ ブを ふたた び召 喚して 、同 じよう な会 合を開 き、 査問会 議の メンバ ーが 直接
バ ブに屈 辱的 な罰を 加え る、と いう 案であ った 。しか し、 皇太子 は、 この案 を拒 否し
た 。結局 、知 事の護 衛に たのん で、 バブに 懲罰 を加え させ ること に決 定した 。そ の場
所 は、バ ブを タブリ ズ市 の「イ スラ ムの長 老」 の地位 にあ り、セ イエ ド(モ ハメ ッド
の 子孫) であ ったア リア スギャ ルの 自宅に 決ま った。 しか し、護 衛は 、市の 僧侶 だけ
に 関する 問題 に関与 した くない とい う理由 から この依 頼を 拒んだ 。そ こで、 アリ アス
ギ ャル自 ら刑 を執行 する ことに し、 バブを 自宅 に連行 させ て、か れの 足にむ ちを 十一
回あてた。(p.320)
そ の同 じ年、 この 横柄な 圧制 者(ア リア スギャ ル) は、身 体が まひし 、長 い間激 痛
におそわれたあと、悲惨な死をとげた。かれの不信実で、貪欲で、自己本位の性格は、
タ ブリズ 市民 にひろ く知 れわた って いた。 人び とは、 かれ の残虐 さと 卑劣さ を恐 れ憎
み 、その 圧制 から解 放さ れるこ とを 願って いた 。その 無残 な死を 見て 、敵も 味方 も同
じ ことを 思い 起こし た。 つまり 、神 を恐れ ず、 良心の 声も 無視し て、 同胞で ある 人間
に 残酷な 仕打 ちをあ たえ る者は 、か ならず 罰を 受ける とい うこと を思 い起こ した ので
あ る。か れの 死後、 タブ リズで は「 イスラ ムの 長老」 とい う称号 は廃 止され た。 人び
とは、かれを憎むあまり、その汚名と関連のある制度の存続を認めなかったのである。
と ころ が、そ れほ ど卑劣 で不 誠実な アリ アスギ ャル の悪行 も、 バブに 対す る国の 宗
教 指導者 たち の極悪 行為 の一例 に過 ぎなか った 。公正 と正 義の道 から 、かれ らは どれ
ほ どそれ てし まった こと であろ うか 。かれ らは 、予言 者( モハメ ッド )とエ マム たち
( モハメ ッド の後継 者) の忠告 を軽 蔑し、 投げ 捨てた 。そ の忠告 は、 つぎの よう に明
確なものであった。(p.321)
「 ハシェ ム家 (モハ メッ ドの先 祖) から若 者が 出、新 しい 聖典と 新し い法を もた らし
た ならば 、す べての 人び とは、 かれ のもと に集 まり、 その 大業を 受け 入れな けれ ばな
ら ない。」ま た、エ マム たちは 、「 その若 者の 敵の大 半は 僧侶た ちで あろう 」と はっき
り と述べ てい たにも かか わらず 、そ れらの 盲目 で、下 劣な 人びと は、 僧侶た ちの 例に
な らうこ とを 選び、 かれ らの行 動を 公正と 正義 を示す 手本 である と見 なした 。僧 侶た
ち の命令 に盲 目的に 従い ながら 、人 びとは 自ら を「救 済の 人民」、「神 から選 ばれ た者
ら」、「神の真理の擁護者」とみなしたのであった。
一 方バ ブは、 タブ リズか らチ ェリグ の牢 獄にも どさ れ、看 守の ヤーヤ ・カ ーンに ふ
た たび身 柄を あずけ られ た。迫 害者 たちは 、バ ブを召 喚し 、脅迫 しさ えすれ ば、 かれ
は その使 命を 断念す るで あろう と甘 く考え てい た。し かし 、タブ リズ での集 会で 、バ
ブ はその 市の 名士た ちを 前に、 自分 の主張 の重 要点を 力説 し、簡 潔で 説得力 のあ る言
葉 で、敵 の攻 撃に反 論す ること がで きた。 その ときの 重大 な意味 をは らんだ バブ の宣
言 は、た ちま ちペル シャ 全土に ひろ がり、 バブ の弟子 たち にも以 前よ り一層 深い 感銘
をあたえた。その宣言で、かれらの熱意は高まり、使命感は強められた。それはまた、
や がてペ ルシ ャの国 を震 撼させ るこ とにな る大 事件の 幕開 けをし るす もので あっ た。
(p.322)
チ ェリ グにも どっ たバブ は、 すぐ総 理大 臣のミ ルザ ・アガ シに 、大胆 で、 感動的 な
言葉で、かれの人格と行動を非難する書簡を書いた。
「怒りの説法」と呼ばれるこの書
簡の冒頭で、バブは、モハメッド国王の総理大臣につぎのように呼びかけた。
「神を信
ぜ ず、そ のし るしに 顔を そむけ た者 よ!」 この 長文の 書簡 は、ま ず、 テヘラ ンに 軟禁
さ れてい たホ ッジャ トに 届けら れた 。バブ はか れに直 接ミ ルザ・ アガ シに手 渡す よう
に命じた。
わ たし (著者 )は 、牢獄 の町 アッカ で、 バハオ ラ自 身から つぎ のよう な話 を聞く こ
とができた。「ホッジャトは、ミルザ・アガシにあの書簡を届けた後、まもなくしてわ
れを訪ねてきた。そのとき、われは、マシー・ヌーリとほかの信者何人かと共にいた。
ホ ジャッ トは 、書簡 を届 けたと きの 様子を 話し 、その 書簡 の全文 を暗 唱した 。そ れは
三枚ほどあったが、全部を暗記していたのである。」ホジャットについて話すときのバ
ハオラの語調を聞いて、バハオラは、ホジャットの純粋さと気高さにどれほど満足し、
か れのひ るむ ことの ない 勇気、 不屈 の意志 、解 脱の精 神、 そして ゆる がない 誠実 さを
どれほど賞賛していたかを伺い知ることができた。(323)
第十九章
マザンデランの動乱
バ ブが タブリ ズで 侮辱( むち 打ち刑 )を 受け、 バハ オラと その 仲間た ちが ニヤラ で
災 い(投 石) に会っ たと 同じ月 、モ ラ・ホ セイ ンはハ ムゼ ・ミル ザ王 子の野 営地 から
マ シュハ ドに もどっ た。 七日後 、同 伴者を 選び 、共に 、マ シュハ ドか らカル ベラ に向
か うこと にな ってい た。 王子は 旅の 費用を モラ ・ホセ イン にあた えた が、か れは 「困
窮 者のた めに 用いて いた だくよ うに 」とい うメ ッセー ジを つけて 、そ のお金 をも どし
た 。マラ ゲイ もまた 、モ ラ・ホ セイ ンの巡 礼に 必要な 備品 をすべ てと とのえ 、同 伴者
の 費用も もち たいと 申し 出た。 しか し、モ ラ・ ホセイ ンは 、剣と 馬だ けを受 け取 り、
ほ かのも のは 一切こ とわ った。 この 二つは 、後 日かれ が、 見事な 勇気 と達人 の技 で、
不実な敵の襲撃を撃退するために用いることになった。
モ ラ・ ホセイ ンが 、マシ ュハ ドの住 民の 心に点 した 献身の 火を 適切に 述べ ること は
で きない 。ま た、か れの 影響の 大き さを計 るこ ともで きな い。当 時、 かれの 家に は、
旅に同伴したいと願う熱心な人びとが詰めかけていた。母親は息子を、姉妹は兄弟を、
真心からの贈り物として受け入れてくれるように、涙ながらにこん願したのである。
モ ラ・ ホセイ ンが マシュ ハド に滞在 中、 一人の 使者 がバブ のタ ーバン もっ て到着 し
た 。使者 はま た「セ イエ ド・ア リ」 という 新し い名前 がモ ラ・ホ セイ ンに与 えら れた
ことも告げた。バブのメッセージにはこう書かれていた。
「わが血統のしるしである緑
の ターバ ンで 頭を飾 り、 黒旗を かか げて『 緑の 島』に いそ げ。そ こで わが愛 する ゴッ
ドスを援助せよ。」(p.324)
こ のメ ッセー ジを 受け取 った モラ・ ホセ インは 、す ぐ師の 望み を果た すた めに立 ち
上 がった 。マ シュハ ドか ら五キ ロメ ートル ほど 離れた とこ ろに黒 旗を 立て、 バブ のタ
ーバンを頭につけ、仲間を集めた。そして馬に乗り、「緑の島」に向かって出発の合図
を した。 仲間 の数は 二百 二人い たが 、皆熱 心に モラ・ ホセ インに した がった 。こ の忘
れがたい日は一八四八年七月二十一日であった。
旅 の途 中にあ る村 に止ま るた びに、 モラ ・ホセ イン と仲間 は、 新しい 時代 のメッ セ
ー ジを大 胆に 宣言し 、そ の真理 を信 奉する よう に呼び かけ た。そ して 、呼び かけ に応
じた者たちの中から、何人かを選んで旅に加わるように求めた。ニシャプールの町で、
バ ディの 父親 で著名 な商 人のア ブド ル・マ ジド が、モ ラ・ ホセイ ンの 旗の下 に加 わっ
た 。かれ の父 は、そ の町 で有名 なト ルコ石 の鉱 山の所 有者 であっ たが 、名誉 も物 質的
な 利益も 棄て 、モラ ・ホ セイン に忠 誠を誓 った のであ る。 ミヤマ イ村 では三 十名 の住
民 が信者 とな り、一 団に 加わっ た。 そのう ち、 モラ・ イサ 以外は 皆、 シェイ キ・ タバ
ルシの戦いで殉教した。(p.325)
マ ザン デラン に行 く途中 のガ ムガン 町の 近くで 、モ ラ・ホ セイ ンは二 、三 日休む こ
とにした。小川のほとり、大木の陰の下に野営することにし、仲間に告げた。
「分かれ
道に来た。神がどの方向に進むべきかを知らせてくれるまで待とう。」一八四八年九月
の 下旬に 、は げしい 突風 が起こ り、 その木 の大 枝が折 れた 。その とき モラ・ ホセ イン
が言った。
「モハメッド国王の木が神の意志により根こそぎにされ、地面に投げ倒され
た。」それから三日後、マシュハドに向かう使者がテヘランから到着し、国王の死を知
らせた。
翌 日、 一団は マザ ンデラ ンに 出発す るこ とにし た。 一団の リー ダー( モラ ・ホセ イ
ン)は立ち上がり、マザンデランの方を指して言った。
「われわれをカルベラに導く道
は この方 向で ある。 前途 に横た わる 大なる 試練 に耐え られ ない者 は、 今すぐ 、旅 を中
断して家にもどるがよかろう。」モラ・ホセインはこの警告を何度かくり返し、サヴァ
ド・コーに近づいたとき、はっきりと宣言した。「われは、七十二名の仲間と共に、最
愛 の御方 のた めに命 をさ さげる こと になる 。現 世を棄 てら れない 者は 、ただ ちに ここ
から離れるがよい。後で逃れることはできないからだ。」そこで、二十名が家にもどる
こ とを選 んだ 。モラ ・ホ セイン がく り返し 警告 した試 練に 、打ち 勝つ ことは でき ない
と感じたからであった。(p.326)
バ ルフ ォルー シュ の町に 一団 が近づ いて きてい ると いう知 らせ に、サ イド ル・オ ラ
マ ー(高 僧) は不安 にな った。 モラ ・ホセ イン の名声 がま すます 広が ってい るこ と、
か れのマ シュ ハドか らの 出発の 状況 、かか げて いる黒 旗、 とくに 仲間 たちの 数と 規律
と 熱意な どが 、この 残酷 でごう 慢な 高僧の 執念 深い悪 意を 刺激し たの であっ た。 高僧
は 、触れ 役に 、イス ラム 教に忠 誠を 誓う者 はだ れも無 視で きない 重大 な説教 をす るの
で 、町民 をモ スクに 集合 させる よう に命じ た。 男女か らな る大群 衆が 、モス クに 詰め
か けた。 高僧 は、説 教壇 にのぼ ると 、ター バン を床に 投げ 、シャ ツの 襟を開 き、 イス
ラム教が陥った苦境をなげき、大声で言った。「目覚めよ。敵が入り口まで来て、われ
わ れが大 事に してき たイ スラム 教を 一掃し よう として いる のだ。 阻止 しなけ れば 、そ
の 猛攻撃 に耐 えられ る者 はいな くな る。以 前、 敵の一 団の リーダ ーが 一人で 来て 、わ
れ の講話 に出 席した 。そ の男は われ を完全 に無 視し、 わが 弟子た ちの 眼前で 、わ れを
ひ どく軽 蔑し た。期 待し ていた 栄誉 が与え られ なかっ たの で、か れは 怒って 立ち 上が
り 、われ に挑 戦して きた 。この 男は 無鉄砲 だ。 モハメ ッド 国王の 権威 が頂点 にあ った
と きにさ え、 われに 対し て深い 恨み で攻撃 して くると は。 この男 は大 変な騒 動を 起こ
す 扇動者 で、 野蛮な 一団 を率い て進 んでき てお り、国 王の 保護が なく なった 今、 何を
し でかす かわ からな いの だ。そ こで 、バル フォ ルーシ ュの 住民は 、老 若男女 とわ ず全
員 、この イス ラム教 の卑 劣な破 壊者 たちに 対し て武器 を取 り、あ らゆ る手段 をつ くし
て その攻 撃を 阻止し なけ ればな らな い。明 日夜 明けに 、皆 立ち上 がり 、この 勢力 を根
絶しようではないか。」(p.328)
こ の呼 びかけ に聴 衆の全 員が 応えた 。町 民は、 高僧 の熱弁 とそ の絶対 的な 権威、 さ
ら に自分 たち の生命 や財 産が失 われ るかも しれ ないと いう 恐れか ら、 懸命に 戦い の準
備 をした 。そ して、 入手 した武 器や 手作り の武 器をも って 、夜明 けに バルフ ォル ーシ
ュ の町を 出た 。イス ラム 教の敵 を殺 害し、 その 所有物 を略 奪する ため に、堅 い決 意を
もって出かけたのである。
モ ラ・ ホセイ ンは マザン デラ ンに向 かう 決心を した 。そし て、 朝の祈 りを ささげ た
直 後、仲 間に 所有物 をす べて棄 てる ように 命じ た。「 馬と 剣以外 の持 ち物を 放棄 せよ。
わ れわれ が、 どれほ ど世 俗への 愛着 を断っ てい るかを 全町 民に目 撃さ せ、こ の神 から
選 ばれた 一団 が、他 人の 所有物 を欲 しがる どこ ろか、 自分 の物さ え守 る望み がな いこ
とを知らせよ。」そこで仲間は、すぐ馬の荷をおろし、よろこんでモラ・ホセインの後
に 従った 。バ ディの 父親 が最初 に皮 袋を捨 てた 。それ には 、かれ の父 親の鉱 山か ら持
参 したト ルコ 石が大 量入 ってい たが 、モラ ・ホ セイン の一 語で、 その 貴重な 所有 物を
捨てることができたのであった。(pp.328-329)
バ ルフ ォルー シュ からニ キロ メート ル進 んだと ころ で、モ ラ・ ホセイ ンと その仲 間
は 敵に出 くわ した。 大勢 の町民 が、 武器や 弾薬 をそろ えて 集合し 、一 団の進 行を 阻止
したのである。かれらは残忍な表情で、汚らわしいのろいの言葉を吐きつづけていた。
一団の仲間たちは、この怒った大衆を前にして、剣を抜こうとした。リーダーのモラ・
ホセインは命じた。
「まだ抜いてはならない。敵が攻撃をはじめるまでは剣はさやにお
さめておかなければならない。」こう言ったとたん、敵の射撃がはじまり六名が地面に
倒れた。仲間の一人が叫んだ。
「敬愛するリーダーよ、われわれは大業の道で命をささ
げ る望み をも ってあ なた に従っ てき ました 。お 願いで すか ら、防 衛さ せて下 さい 。敵
から撃たれて不名誉な死を遂げさせないで下さい。」モラ・ホセインはこう答えた。
「そ
の時間はまだだ。数がそろっていないのだ。」
そ の直 後、弾 丸が 一人の 仲間 の胸を つら ぬいた 。こ の仲間 は、 ヤズド 出身 のひじ ょ
う に忠実 な信 者で、 マシ ュハド から ずっと 歩い て来て いた 。モラ ・ホ セイン は、 この
献身的な仲間が、自分の足元で倒れたのを見て、目を天に向け祈った。
「おお神よ、お
お 神よ、 あな たは選 ばれ た仲間 たち の窮状 を見 ておら れま す。民 衆が 、あな たの 愛す
る 人びと を、 どのよ うに 迎えた かも 目撃さ れま した。 われ われの 唯一 の望み は、 かれ
ら を真理 の道 に導き 、あ なたの 啓示 の知識 を与 えるた めだ という こと は、あ なた もご
存 知です 。あ なたは 、敵 の攻撃 から 自分の 身を 守るよ うに 命じら れま した。 その 命令
に 従 い 、 敵 が は じ め た 襲 撃 を 食 い 止 め る た め に 、 仲 間 と 共 に 立 ち 上 が り ま す 。」
(pp.329-330)
モ ラ・ ホセイ ンは 、剣を 抜き 、馬に 拍車 を入れ 、敵 の最中 に突 進した 。そ して、 仲
間 を倒し た者 を大い なる 勇気を もっ て追っ た。 その敵 は、 モラ・ ホセ インと 戦う のを
恐 れ、木 の後 ろにか くれ 、銃を もち 、身を 守ろ うとし た。 モラ・ ホセ インは 、す ぐそ
の 男を見 つけ 出し、 突進 して剣 の一 振りで 木の 幹と銃 身と 敵の身 体を ふたつ に切 り裂
い た。こ の一 振りの はげ しさに 、敵 どもは うろ たえ、 一瞬 動けな くな った。 そし て、
こ の異常 な技 能と力 と勇 気を眼 前に してパ ニッ クにお そわ れ、皆 逃走 してし まっ た。
このめざましい技は、モラ・ホセインの勇気と英雄行為を証言する最初のものであり、
バ ブの賞 賛を 受けた もの であっ た。 ゴッド スも また、 モラ ・ホセ イン が、そ のと き示
した冷静な豪胆さをほめ、コーランのつぎの句を引用したと伝えられている。
「かれら
を 殺した のは なんじ らで はない 。神 が殺さ れた のだ。 槍は なんじ のも のでは なく 、神
の もので ある 。これ は信 者たち に恩 寵を体 験さ せるた めに された こと である 。ま こと
に 神はす べて を聞き 、す べてを 知り たまう 。神 は信仰 なき 者ども の計 略をす べて 無効
にしたまう。」
シ ェイ キ・タ バル シの戦 いの 終結か ら一 ヵ月後 、西 暦では 一八 四八年 から 一八四 九
年 にかか るこ ろ、わ たし (著者 )は 、ガズ ビニ がこの 戦い の状況 を、 多数の 信者 の前
で 語るの を聞 いた。 その 中には 、モ ハメッ ド・ ホセイ ン、 モラ・ エス マイル 、ハ ビボ
ラ・エスファハニ、およびモハメッド・エスファハニがいた。(pp.330-331)
後 日、 わたし (著 者)は 、コ ラサン 州の マシュ ハド の町で 大業 を教え 広め るよう に
招 かれ、 サデ ィク宅 に滞 在して いた 。その ころ 、ナビ ル・ アクバ ール やバデ ィの 父親
を はじめ とす る信者 が大 勢集ま って いる前 で、 タバル シの 戦いに 関す るおど ろく べき
報告が、事実であるかどうかを、フォルギにたずねた。かれはきっぱりと言った。
「わ
た し自ら モラ ・ホセ イン の技を 目撃 したの です 。この 目で 見てい なか ったな らば 、決
し て信じ られ ないこ とで す。」 そし てかれ は、 つぎの よう に語っ た。「ヴァ ス・ カスの
戦 いの後 、メ ヘディ ・ゴ リ王子 が完 敗し、 バブ の弟子 たち の眼前 から 素足で 逃げ 去っ
た とき、 総理 大臣の タギ ・カー ン( アガシ の後 任)は 、王 子をひ どく 叱り、 つぎ のよ
うな手紙を送りました。
『卑劣な若僧の学生少数を鎮圧する任務をあなたにあたえ、国
王 軍を思 い通 り使え るよ うにし た。 それに もか かわら ず、 不面目 にも 敗北し てし まっ
た 。ロシ ヤと トルコ の連 合軍鎮 圧の 任務を あた えてい たな らば、 どん なこと があ なた
に降りかかっていたことであろうか。』
王 子は 、モラ ・ホ セイン が剣 で二つ に割 った銃 身の 破片を 使者 にもた せ、 総理大 臣
に 直接渡 させ るのが 最善 だと考 えま した。 総理 大臣へ のメ ッセー ジに はこう 書か れて
いました。
『卑劣な敵の力は相当なもので、木と銃と男を一振りの剣で六つの断片に断
ち割ったほどです。』(p.332)
総 理大 臣は、 敵の 力がい かに 強大で ある かを聞 いて 、自分 ほど の地位 と権 限をも つ
者 は、こ の挑 戦を無 視で きない と感 じまし た。 そこで 、自 分の軍 隊に 刃向か って きた
敵 の力を 抑え る決心 をし ました 。し かし、 大勢 の兵士 でも 、少数 のモ ラ・ホ セイ ンの
一 団を征 服で きない のを 見て、 卑劣 な手段 に訴 えるこ とに しまし た。 かれは 王子 に命
じ て、コ ーラ ンに総 理大 臣の印 章を 押し、 今後 、軍は 、砦 の一団 に対 して敵 対行 動は
一 切取ら ない と、誓 わせ たので す。 これに より 、モラ ・ホ セイン の一 団は武 器を 放棄
せ ざるを 得ま せんで した 。防御 のす べを失 った 一団は 、不 名誉に も敗 北して しま った
のです。」
し かし 、モラ ・ホ セイン が示 した驚 異的 な手腕 と力 は、偏 見や 悪意に まだ 染まっ て
い なかっ た多 数の人 びと の注目 を引 いた。 また ペルシ ャの さまざ まな 都市に 住む 詩人
た ちの熱 意を 呼び起 こし 、その 大胆 不敵な 行動 を祝う 詩を 書かせ たの である 。そ れら
の 詩によ って 、モラ ・ホ セイン の偉 大な行 為は ひろく 知ら れるこ とに なり、 かれ に不
朽 の名誉 をあ たえる こと になっ た。 その武 勇を 称えた 者の 中に、 レザ ・ゴリ がい た。
かれは詩の中で、モラ・ホセインの驚異的な力と無類の腕前を大いに賞賛している。
わ たし (著者 )は 、フォ ルギ に思い きっ て聞い た。 ある文 献に 、モラ ・ホ セイン は
少 年のこ ろか ら剣術 を学 び、長 い期 間訓練 を受 け、す ぐれ た技術 を身 につけ たと 書い
てあることを知っているかどうかと。かれはこう答えた。
「それはまったくの作り話で
す 。わた しは モラ・ ホセ インを 子供 のころ から 知って おり 、同級 生の 友人と して 長い
間 交際し てき ました 。か れが、 あれ ほどの 力と 技能を もっ ている など まった く知 りま
せんでした。わたしの方が、精力と忍耐力ですぐれている思っている位です。かれは、
書 くとき も手 がふる え、 思う存 分書 けない とよ く言っ てい ました 。か れはこ の身 体面
の 障害で 、マ ザンデ ラン に行く まで 苦しん でい ました 。と ころが 、あ の残忍 な攻 撃に
反 撃する ため に剣を 抜い た瞬間 、神 秘的な 力が かれを 変え てしま った のです 。そ の後
に つづい た交 戦で、 かれ は、馬 に拍 車を入 れて 敵の陣 営に 一番先 に乗 り入れ まし た。
そ して、 だれ からも 助け を受け ずに 、一人 で相 手の総 力に 立ち向 かい 勝利を おさ めま
し た。か れの 後方に つづ いたわ れわ れは、 かれ によっ てす でに無 力と なされ た敵 と戦
う しかあ りま せんで した 。かれ の名 前を聞 いた だけで 敵の 心は恐 怖に 打たれ 、逃 走し
て しまっ たの です。 かれ とずっ とい っしょ に行 動を共 にし た仲間 たち も、お どろ きで
言 葉を失 って しまっ たほ どでし た。 その恐 るべ き力と 不屈 の決意 と大 胆さに 肝を つぶ
さ れたの です 。われ われ 全員が 確信 したこ とは 、モラ ・ホ セイン は、 われわ れが 以前
知 ってい た人 ではな くな り、神 のみ が付与 でき る精神 でみ なぎっ た人 になっ てい たこ
とでした。」(pp.333-334)
フォルギはまた、つぎのようにも語った。「モラ・ホセインは、あのおどろくべき一
撃 を敵に 加え たあと 、姿 を消し まし た。わ れわ れには 、か れがど こに 行った のか 見当
が つきま せん でした 。か れを見 つけ ること がで きたの は、 かれの 従者 ガンバ ル・ アリ
だ けでし た。 後で、 この 従者は 、モ ラ・ホ セイ ンが敵 中に 突入し 、攻 撃して きた 敵の
一 人一人 を、 剣の一 振り で倒し てい ったこ とを 知らせ てく れまし た。 かれは 、雨 と降
っ てきた 弾丸 にも気 をと めず、 敵軍 を押し 分け てバル フォ ルーシ ュに 向かい まし た。
そして、サイドル・オラマーの家に行き、家のまわりを三回まわり、叫びました。『こ
の 町の住 民を 扇動し て、 われわ れに 聖戦を しか けてお きな がら、 自分 は自宅 にか くれ
こ もって いる 卑怯者 よ、 恥ずべ きか くれ場 から 出て来 い。 その大 業が 公正で ある こと
を自ら模範を示して証明せよ。聖戦をはじめる者は、最前線で指揮し、自らの行動で、
従 者 た ち の 心 に 献 身 の 火 を 点 し 、 熱 意 を 持 ち つ づ け さ せ な け れ ば な ら な い の だ 。』
(pp.335-336)
モラ・ホセインの声は、群衆のどよめきを打ち消した。町の住民は降伏し、
「平和を!
平 和を! 」と 叫びは じめ た。こ の降 伏の声 があ げられ たと たん、 モラ ・ホセ イン の仲
間 たちの 歓呼 があち こち にひび いた 。かれ らは バルフ ォル ーシュ に大 急ぎで 駆け つけ
て きてい たの である 。か れらの 「お お、こ の時 代の主 なる 御方よ !」 という 高々 とひ
び きわた る呼 び声に 、人 びとは 不安 におそ われ た。モ ラ・ ホセイ ンは 死亡し てい ると
思 ってい た仲 間たち は、 かれが 背を 伸ばし て馬 に乗っ てい るのを 見て おどろ いた 。か
れ は、は げし い攻撃 にも 、傷ひ とつ 負って いな かった ので ある。 仲間 たちは 一人 づつ
かれに近づき、あぶみに接吻した。
同 じ日 の午後 、町 の住民 が求 めてい た平 和が受 け入 れられ た。 モラ・ ホセ インは 、
自分のまわりに集まってきた群衆に、つぎのように語った。
「神の予言者(モハメッド)
を信じる者らよ。なぜわれわれを攻撃してきたのか。なぜわれわれの血を流すことが、
神 の目に 称賛 に値す ると 見なす のか 。皆は 、わ れわれ がイ スラム 教を 否定し たと 思っ
て いるの か。 神の使 徒( モハメ ッド )は、 信者 と異教 徒両 方を厚 遇す るよう に教 えな
か ったか 。こ のよう な非 難を受 ける ような こと をわれ われ がした のか 。考え てみ るが
よ い。わ たし は一人 で、 剣だけ をも って、 町の 住民が 浴び せかけ た弾 丸の雨 に立 ち向
か い、火 炎に 取り巻 かれ たが、 そこ から傷 ひと つ受け ずに 出てき た。 つまり 、わ たし
も 馬も、 皆の はげし い攻 撃で傷 つく ことは なか ったの だ。 ただ、 顔に かすり 傷を 負っ
ただけだ。神はわたしを保護し、皆の眼前で、この信教の威力を示されたのだ。」(p.336)
そ の後 すぐ、 モラ ・ホセ イン はサブ ゼ・ マイダ ン( 市場) の隊 商宿に 向か った。 そ
こ に着く と馬 からお り、 宿の入 り口 に立っ て仲 間たち の到 着を待 った 。皆が 集ま り、
宿 に落ち つく とすぐ 、何 人かの 仲間 にパン と水 を入手 する ために 使い に出し た。 とこ
ろ が、か れら は何も もた ずにも どっ てきて 、パ ンを購 入す ること も広 場で水 を汲 むこ
ともできなかったと報告した。
「あなたは神を信頼し、神の意志に身を任せるようにと
勧告されました。
『神がわれわれに定めたもうたこと以外は何もふりかかることはない。
われわれの主は神でありたもう。信仰する者は神を信頼せよ』(コーラン)と。」
モ ラ・ ホセイ ンは 宿の門 を仲 間たち に閉 めさせ 、皆 を集め て、 日没の 時間 まで自 分
のそばにいるように言った。夕闇がせまってきたとき、モラ・ホセインは、「信仰のた
めに命をかけて、屋根に上がり、祈りの呼びかけをする者はいないか」と皆に聞いた。
ひとりの若者がよろこんで応えた。この若者は「アラホ・アクバール(神は偉大なり)」
と 言いは じめ たとた ん、 飛んで きた 弾丸に 倒れ 、命を 落と した。 モラ ・ホセ イン は残
りの仲間に強く求めた。
「だれか、この若者と同じ犠牲の精神で立ち上がり、祈りをつ
づ けたい 者は いない か。」別の 若者 が出て きて 、「モ ハメ ッドは 神の 予言者 なり 」と唱
え はじめ たと き、敵 に撃 たれた 。モ ラ・ホ セイ ンの指 示で 、三番 目の 若者が 、前 の二
人が終えることができなかった祈りを、
「神のほかに神は存在しない…」という言葉で
終えようとしたとき、同じようにかれも弾丸で命を断たれたのである。(pp.337-338)
三 人目 の仲間 が倒 れたと き、 モラ・ ホセ インは 宿の 門を開 き、 仲間と 共に 、卑劣 な
敵 を撃退 する 決断を した 。馬に 飛び 乗り、 仲間 に突撃 の合 図をし て、 門前に つめ かけ
て いた敵 に向 かった 。剣 を手に し、 あとに つづ いた仲 間と ともに 、攻 撃して きた 敵軍
を 多数殺 害し た。命 拾い をした 者ら は、パ ニッ クにな って 、平和 と慈 悲を再 度請 いな
が ら逃げ てい った。 あた りが暗 くな ったこ ろに は、敵 はす べて消 えて しまっ てい た。
ニ、三時間前まで、大勢の殺気立った敵であふれていたサブゼ・マイダン(市場)は、
す っかり 見捨 てられ てし まった 。こ うして 群衆 のさわ ぎは しずま った 。死体 が散 らば
っ たマイ ダン とその 周辺 は悲哀 を感 じさせ たが 、それ はま た、神 の勝 利を証 言す る光
景でもあった。(p.338)
モ ラ・ ホセイ ンの 圧倒的 な勝 利にお どろ いた町 の名 士や指 導者 は、市 民に 代わっ て
和 解を求 めて きた。 かれ らは歩 いて モラ・ ホセ インの とこ ろまで 嘆願 書をも って 来た
のである。
「われわれの目的は、ただ平和と和解をもたらしたいことを、神はご存知で
す。馬に乗ったままで、われわれの説明を聞いていただきたい。」かれらの嘆願が真剣
なのを見て、モラ・ホセインは馬からおり、かれらを隊商宿に招き入れた。「この町の
住民とちがって、われわれは見知らぬ人びとをどう迎えるかを知っている。」と言って、
かれらを自分のそばに座らせ、お茶をもって来るように従者に指示した。
かれら(名士や指導者)は、こう述べた。「この大騒動を起こしたのはサイドル・オ
ラ マー( 悪名 高き高 僧) です。 バル フォル ーシ ュの住 民は 、かれ の犯 罪には 関わ って
い ません 。も うこれ まで のこと は忘 れまし ょう 。双方 のた めに、 あな たは仲 間と アモ
ル に向か うよ うにお 勧め します 。バ ルフォ ルー シュの 住民 は興奮 状態 にあり 、再 度そ
そのかされて、攻撃に出る恐れがあります。」モラ・ホセインは、かれらの不誠実さを
感 じたが 、そ の提案 に同 意した 。そ こで、 アッ バス・ ゴリ (敵の 指揮 官)と モス タフ
ァ・カーンの二人が立ち上がり、持参してきたコーランに誓った。
「今夜、あなたと仲
間 を客と して 扱い、 翌日 コスロ ーに 命じて 、百 人の騎 馬隊 に護衛 させ て、シ ール ・ガ
ー を通過 させ ましょ う。」と約 束し た。そ して 、つぎ のよ うに付 け加 えた。「も し、あ
なたとその一団がわずかでも傷つけられるようなことがあれば、現世と来世において、
神とその予言者の呪いが、われわれにふりかかるでありましょう。」(p.339)
こ の誓 いをし た直 後、一 団と 馬のた めに 食物が 運び こまれ た。 モラ・ ホセ インは 、
仲 間に食 事す るよう に命 じた。 その 日は一 八四 八年十 月十 日の金 曜日 で、だ れも 夜明
け から飲 食を とって いな かった から である 。隊 商宿に は、 多数の 名士 や従者 が群 がっ
てきたため、モラ・ホセインと仲間は差し出された茶を飲むことはできなかった。
モ ラ・ ホセイ ンと 仲間が 、ア ッバス ・ゴ リとモ スタ ファ・ カー ンと共 に食 事をし た
の は、日 没後 四時間 たっ てから であ った。 夜中 に、サ イド ル・オ ラマ ー(悪 名高 き高
僧 )はコ スロ ーを呼 び出 し、ひ そか に命じ た。 すなわ ち、 都合の よい 場所と 時間 を選
んで、モラ・ホセインの一団の所有物を全部略奪し、全員殺害せよと命じたのである。
コスローは質問した。
「この人たちは、イスラム教徒ではないのですか。そして、祈り
の呼びかけを終わらすために、三人も仲間を犠牲にしたのではないですか。ではなぜ、
か れらを 殺害 するこ とが イスラ ム教 の名に 値す るとい うの ですか 。」、 恥知ら ずの 悪党
サイドル・オラマーは、この質問を無視して命令を忠実に守るように命じた。そして、
自分の首を指しながらこう言った。
「自分が責任を取るから、恐れずに殺せ。審判の日
に 、神に 対し てお前 に代 わって 責任 を取る 。権 力の座 にあ るわれ われ は、お 前よ りも
情報をもっており、この異端者どもを絶やす最上の方法を知っているのだ。」
夜 明け に、ア ッバ ス・ゴ リは 、コス ロー を呼び 出し 、モラ ・ホ セイン とそ の仲間 に
不 自由さ せな いで、 安全 にシー ル・ ガーを 通過 させる よう に命じ た。 また、 かれ らか
ら 報酬を 出さ れても 絶対 に受け 取ら ないよ うに 命じた 。コ スロー はこ の指示 に従 うふ
りをし、自分も騎馬隊員も警戒をゆるめずに、かれらの世話をすることを約束した。
「わ
れ われの 待遇 に満足 した 旨をモ ラ・ ホセイ ンに 書いて もら い、も どっ てきた とき に、
それをお見せしましょう。」(pp.340-341)
アッバス・ゴリをはじめ、町の名士たちは、コスローをモラ・ホセインに紹介した。
そ のとき 、モ ラ・ホ セイ ンはこ う述 べた。「『お 前たち 善い ことを すれ ば、わ が身 のた
め になり 、悪 いこと をす れば、 それ はわが 身の 悪とな る。』( コーラン )この 男が われ
わ れをよ く扱 えば、 大い に報い られ るであ ろう 。われ われ を裏切 るよ うな行 動を とれ
ば 、大き な罰 がふり かか ろう。 われ われは 神の 大業の ため にだけ 仕え 、神の 意志 に身
を任せるのみである。」
こ の言 葉を残 して モラ・ ホセ インは 出発 の合図 をし た。従 者の ガンバ ル・ アリは 、
その合図にしたがってかけ声をあげた。
「神の英雄たちよ。馬に乗れ!」この声に応え
て 、仲間 は急 いで馬 に乗 った。 コス ローの 特別 班が最 前方 を進み 、そ のあと コス ロー
と モラ・ ホセ インが 一団 の中心 を並 んで行 進し た。後 方に 仲間た ちが 進み、 その 両側
に 百人の 騎馬 隊が陰 謀( 殺害) を実 行する ため に武装 して 行進し た。 この一 団は バル
フォルーシュを早朝に出発し、同日正午にシール・ガーに到着すると約束されていた。
夜 明けか ら二 時間後 、一 団は目 的地 に向か った 。コス ロー はわざ と森 を抜け る道 をえ
らんだ。(殺害の)計画が実行しやすいと考えたからであった。(pp.340-341)
森に中に入るとすぐ、コスローは攻撃の合図を出した。この合図に、騎兵隊はモラ・
ホ セイン の仲 間をは げし く攻撃 しは じめ、 持ち 物を略 奪し 、多数 を殺 害した 。そ の中
に サデェ クの 弟がい た。 かれの 苦悶 の叫び を聞 いたと たん 、モラ ・ホ セイン は、 行進
を やめ、 馬か らおり てコ スロー の裏 切り行 為に 抗議し た。「正午 はず っと前 に過 ぎた。
だ が、ま だ目 的地に 着い ていな い。 あなた とい っしょ に行 くのは おこ とわり だ。 あな
たの案内も騎兵隊の護衛も必要でない。」つぎに従者のガンバル・アリに、祈りのため
の じゅう たん を敷く よう に命じ た。 モラ・ ホセ インが 祈り の準備 に手 と顔を 洗っ てい
る とき、 コス ローも 馬か らおり 、従 者に、 モラ ・ホセ イン につぎ のよ うに知 らせ るよ
う に命じ た。「目的 地に 安全に 着き たけれ ば、 あなた の剣 と馬を 渡し なさい 。」 と。モ
ラ ・ホセ イン は答え ずに 、祈り はじ めた。 その あとす ぐ、 すぐれ た文 筆家で 、剛 勇な
モ ハメッ ド・ タギが 、タ バコの 水パ イプを 準備 してい た従 者のと ころ に行き 、水 パイ
プ をコス ロー のとこ ろに 運ばせ てく れるよ うに 願った 。そ の願い はす ぐ入れ られ た。
モ ハメッ ド・ タギは 、水 パイプ に火 を点け るふ りをし て腰 をかが めた とき、 さっ とコ
スローの胸に手を突っ込み、短刀を抜いて、コスローの急所を深く刺した。
「 この時 代の 主なる 御方 よ!」 とい う仲間 の叫 び声が 聞こ えたと き、 モラ・ ホセ イン
は まだ祈 りの 最中で あっ た。か れら は卑劣 な敵 に反撃 し、 一回の 攻撃 で、水 パイ プを
準 備した 従者 以外の 者全 部を倒 した 。この 従者 は恐ろ しく なり、 モラ ・ホセ イン の足
元 にひれ 伏し 、助け を求 めた。 モラ ・ホセ イン はかれ に、 コスロ ーの 所有物 であ った
宝 石で飾 られ た水パ イプ をあた え、 バルフ ォル ーシュ にも どって 、ア ッバス ・ゴ リに
自分が見たすべてのことを話すように命じた。
「コスローは任務を忠実に果たしたこと
を 知らせ なさ い。あ の悪 党は、 おろ かにも 、わ たしの 使命 が終わ り、 わたし の剣 と馬
の 仕事も 終わ ったと 思っ たのだ 。と ころが 、仕 事はは じま ったば かり であり 、そ れが
完 全に終 わる までは 、か れも、 その ほかの 者も 、わた しか ら剣と 馬を うばい 取る こと
はできないことを、かれは知らなかったのだ。」(pp.341-342)
夕 闇が せまっ てき ていた ので 、一団 は夜 明けま でそ こに留 まる ことに した 。翌朝 、
モラ・ホセインは祈りをささげたあと、仲間を集めて言った。
「われわれは、最後の目
的地であるカルベラに近づいてきた。」その直後、カルベラに向けて出発した。そのあ
と を仲間 がつ づいた 。モ ラ・ホ セイ ンは、 仲間 の何人 かが 、コス ロー とその 仲間 の所
有物を持っているのを見て、剣と馬以外はすべて捨てるように命じた。
「皆は、俗世へ
の愛着を完全に断った状態で、かの聖なる場所に到着しなければならないのだ。」
し ばら くして 、一 団はシ ェイ キ・タ バル シの聖 堂に 着いた 。こ こに葬 られ ている シ
ェ イキは 、イ スラム 教の エマム に関 する伝 承を 伝えた 者で あった 。こ の聖堂 は近 隣の
住 民が訪 れて くると ころ であっ た。 モラ・ ホセ インは そこ でコー ラン のつぎ の聖 句を
詠唱した。
「おおわが主よ、この聖堂を訪問したわれを祝福したまえ。あなただけが祝
福を授けることができたまう。」(p.343)
一 団が 到着し た前 夜、聖 堂の 管理人 は夢 を見た 。エ マム・ ホセ インが 七十 二人の 戦
士 と多数 の仲 間とと もに 聖堂に 到着 した夢 であ った。 この 一団は その 場所に 留ま り、
雄 々しく 戦い 、すべ ての 会戦で 敵軍 を倒し た。 さらに 夢の 中で、 ある 夜、予 言者 自ら
現 われて 、そ の聖な る一 団に加 わっ たので ある 。翌日 、モ ラ・ホ セイ ンが到 着し たと
き 、管理 人は 、かれ が前 夜夢で 見た 英雄で ある ことに すぐ 気づき 、足 元にひ ざま ずい
て うやう やし く接吻 した 。モラ ・ホ セイン は管 理人を そば に座ら せ、 夢の話 を聞 いた
あと、つぎのように述べた。
「あなたが夢で見たことはすべて起こる。その栄光ある場
面 は、あ なた の眼前 で実 際に演 じら れるで あろ う。」 これ を聞い た管 理人は 、そ の後、
この砦(聖堂)を守って戦った勇敢な一団と運命をともにし、砦内で殉教した。
(pp.344-345)
一 団が 到着し た日 は、一 八四 八年十 月十 二日で あっ た。そ の日 、モラ ・ホ セイン は
以 前バビ の家 を建て たバ ゲルに 、防 御用の 砦の 設計に つい て指示 をあ たえた 。そ の夕
方、馬に乗った者らが大勢森から出てきて、一団を取り巻き、銃をかまえ、叫んだ。
「わ
れ われは 、ガ ディ・ カラ の村民 だ。 コスロ ーの 復讐を しに きた。 お前 たちを 皆殺 しに
するまではやめないぞ!」今にも襲いかかろうとしている野蛮な大勢に取り囲まれて、
モラ・ホセインとその仲間は身を守るために剣を抜かざるを得なかった。
「この時代の
主 なる御 方よ !」と 叫び 、前方 に突 入し、 敵を 撃退し た。 その叫 び声 の壮烈 さに 圧倒
さ れた敵 は、 とつぜ ん出 現した と同 じ速度 で、 見る間 に消 え去っ た。 この戦 いを 指揮
し たのは 、自 らこの 任務 を申し 出た モハメ ッド ・タギ (コ スロー を殺 した本 人) であ
った。(pp.345-346)
モ ラ・ ホセイ ンの 一団は 、敵 がふた たび 攻撃を しか け、大 虐殺 をしか ねな いこと を
恐 れ、近 くの 村まで かれ らを追 跡し た。一 団は 、この 場所 を敵の 村ガ ディ・ カラ と思
っ たので ある 。一団 を見 た村の 男た ちは皆 恐怖 にから れて 一目散 に逃 げ去っ た。 しか
し、村の所有者ナザール・カーンの母親は、暗闇の混乱の中であやまって殺された。
「わ
た したち は、 ガディ ・カ ラ村民 とは 何の関 係も ない! 」と はげし く抗 議して いる 女た
ち の叫び 声が 、やが てモ ハメッ ド・ タギの 耳に とどい た。 かれは すぐ 、仲間 に、 攻撃
を やめて 、そ の村の 名を 確かめ るよ うに命 じた 。調査 の結 果、そ の村 はナザ ール ・カ
ー ンの所 有で 、殺さ れた 女性は かれ の母親 であ ること がわ かった 。モ ハメッ ド・ タギ
は、自分の仲間が大変な失策をしてしまったことに心を痛め、叫んだ。
「男女にかかわ
ら ず、こ の村 の住民 を苦 しめる つも りはな かっ た。唯 一の 目的は 、わ れわれ を皆 殺し
にしようとしているガディ・カラの住民の暴力行為を抑えることであったのだ。」モハ
メッド・タギは、仲間が知らずに起こした惨事を真心から謝った。
一 方、 自宅に 身を かくし てい たナザ ール ・カー ンは 、モハ メッ ド・タ ギの 後悔は 誠
実 なもの であ ると確 信し た。母 親を 失って 悲し みに打 ちひ しがれ なが らも、 モハ メッ
ド ・タギ を自 宅に招 いた 。そし て、 モラ・ ホセ インに 紹介 してい ただ きたい 、と 頼ん
だ 。また 、信 者にこ れほ どの熱 意を おこさ せる 大業の 教え をぜひ 知り たいと 願っ た。
(p.346)
夜 明け に、モ ハメ ッド・ タギ は、ナ ザー ル・カ ーン を伴っ てシ ェイキ ・タ バルシ の
聖 堂の到 着し た。そ のと き、モ ラ・ ホセイ ンは 会衆の 祈り を導い てお り、そ の顔 は歓
喜 でかが やい ていた 。そ れを見 て、 ナザー ル・ カーン は、 会衆に 加わ って、 いっ しょ
に 祈りの 言葉 を唱え たい という 衝動 にから れた 。祈り が終 わった あと 、モラ ・ホ セイ
ン は、ナ ザー ル・カ ーン の母親 が殺 害され たこ とを知 らさ れた。 かれ は、真 心か ら弔
い の言葉 を述 べたが 、そ れは、 人の 心に深 い感 動をあ たえ るもの であ った。 それ はま
た、仲間の全員が、深い悲しみにあるかれに対して感じたものであった。
「われわれの
唯 一の目 的は 、命を 守る ためで あり 、近隣 の平 安を乱 すた めでは ない ことを 神は ご存
知である。」と、モラ・ホセインはナザール・カーンを納得させ、バルフォルーシュの
住民が一団を攻撃した状況とコスローの裏切り行為を説明した。さらに、
「母上の死で
大 変悲し んで おられ るで あろう 」と 弔意を 表し た。ナ ザー ル・カ ーン はとっ さに 答え
た。
「心配はご無用です。わたしに百人の息子があたえられたとしても、よろこんで息
子全部をあなたのところに送り、
『この時代の主なる御方』のために犠牲としてささげ
るでありましょう。」かれはモラ・ホセインに変わらぬ忠誠をちかった。そして、一団
に必要な備品を運んでくるために、自分の村にいそいでもどった。
モ ラ・ ホセイ ンは 、仲間 に設 計通り に砦 の建造 をは じめる よう に命じ た。 グルー プ
に分けて、それぞれ仕事をあたえ、早急に完成するようにはげました。砦の建造中に、
近 隣の村 々の 住民は 、サ イドル ・オ ラマー にし つこく けし かけら れて 、攻撃 をし かけ
て きたが 、そ のたび に失 敗に終 わり 、恥を かい た。こ のよ うに、 敵の 度重な る猛 攻撃
に もかか わら ず、モ ラ・ ホセイ ンの 仲間は 勇敢 に戦い 、つ いに四 方か ら取り 巻い てき
た 敵を一 時的 に抑え るこ とがで きた 。砦が 完成 したと き、 モラ・ ホセ インは 敵の 包囲
攻 撃にそ なえ る準備 に取 りかか った 。邪魔 が入 って困 難で あった が、 砦にこ もる 一団
の安全に必要な備品を整えることができた。(pp.346-347)
砦 がほ とんど 完成 したと き、 アブト ラブ が現わ れ、 ババオ ラが ナザー ル・ カーン の
村 に到着 した ことを 知ら せた。 かれ は、バ ハオ ラの伝 言を モラ・ ホセ インに こう 伝え
た。
「今晩、皆バハオラの客として招かれております。午後にバハオラご自身が砦に来
ら れます 。」 わたし (著 者)は 、フ ォルギ がつ ぎのよ うに 語るの を聞 いた。「ア ブトラ
ブ のうれ しい 知らせ は、 モラ・ ホセ インに この 上ない よろ こびを もた らしま した 。か
れは、いそいで仲間のところに行き、バハオラを迎える準備をするように言いました。
かれ自ら、仲間といっしょに、聖堂の入り口までの道を掃き、水をまいて清めました。
そして、敬愛する御方を迎えるために必要な準備をすべて自分で整えたのです。
バ ハオ ラがナ ザー ル・カ ーン を伴っ て近 づいて こら れるの を目 にした モラ ・ホセ イ
ン は、す ばや く前に 出て 、バハ オラ を温か く抱 擁し、 特別 に準備 した 席に案 内し まし
た 。当時 、わ れわれ には 見る目 がな く、バ ハオ ラの栄 光を 認める こと はでき ませ んで
し た。わ れわ れのリ ーダ ーであ るモ ラ・ホ セイ ンが、 バハ オラを 深い 尊敬と 愛情 をこ
め てわれ われ に紹介 され たので すが 。われ われ の鈍い 視力 は、か れの ように は、 バハ
オ ラを認 める ことが でき ないで いた のです 。ど れほど の敬 愛の念 をこ めて、 かれ はバ
ハ オラを 抱擁 したこ とで ありま しょ うか。 バハ オラを 目に したと き、 かれの 心は 、ど
れ ほどの 喜悦 感で満 たさ れたこ とで しょう か。 かれは 深い 感動で 、ま わりの われ われ
を まった く忘 れてし まっ たよう でし た。か れの 魂はバ ハオ ラの思 いで いっぱ いに なっ
てしまったのです。その間、われわれは長い間立ったままで、
『座れ』という命令を待
っ ていま した 。つい に、 バハオ ラご 自身が 、わ れわれ に座 るよう に命 じられ まし た。
や がて、 われ われも また 、バハ オラ の言葉 に魅 惑され てし まいま した が、だ れも その
言葉にひそむ無限の威力に気がついた者はいませんでした。(pp.348-349)
訪 問中 に、バ ハオ ラは建 造が 終わっ た砦 を調べ 、満 足の意 を表 されま した 。また 、
一 団の安 全保 護に何 が必 要であ るか を、こ まか くモラ ・ホ セイン に説 明され 、最 後に
こう言われました。
『この砦と仲間に必要なものが一つだけある。それはゴッドスであ
る。かれが皆と交わることによって、この砦は完成するのだ。』バハオラは、モラ・ホ
セ インに つぎ の指示 をあ たえら れま した。 メヘ ディ・ コイ ほか六 名を サリに 送り 、モ
ハ メッド ・タ ギ(高 僧) に要請 して 、ゴッ ドス を即刻 釈放 しても らう ことで した 。バ
ハオラはさらに、つぎのように言って、モラ・ホセインを安心させられました。『モハ
メ ッド・ タギ は、神 とそ の懲罰 を恐 れ、監 禁し ていた ゴッ ドスを すぐ 引き渡 すで あろ
う。』
バ ハオ ラは去 る前 に、忍 耐し 、神の 意志 に身を まか せるよ うに 励まさ れま した。 そ
し て、こ う付 け加え られ ました 。『 神のお ぼし めしで あれ ば、こ の場 所をま た訪 問し、
皆 を援助 しよ う。皆 は神 の軍勢 の前 衛であ り、 その信 教を 確立す る者 たちで ある 。神
の 軍勢は かな らず勝 利を 得よう 。い かなる こと が起こ ろう とも、 皆の 勝利は 確実 であ
る。』この言葉で、バハオラは勇敢な仲間の一団を神に委ね、ナザール・カーンとアブ
ド ラブを 伴っ て村に もど られま した 。そこ から ヌール 経由 でテヘ ラン に向か われ まし
た。」(p.349)
モ ラ・ ホセイ ンは バハオ ラの 指示を すぐ 実施し はじ めた。 メヘ ディ・ コイ を呼び 、
六 名の仲 間と 共にサ リに 行き、 モハ メッド ・タ ギに、 監禁 されて いる ゴッド スの 釈放
を 要請す るよ うに指 示し た。モ ハメ ッド・ タギ は要請 を聞 くとす ぐ、 無条件 でゴ ッド
ス を釈放 した 。要請 の言 葉にひ そむ 威力で 、か れは力 を完 全にう ばわ れたよ うで あっ
た。そして、使いの者たちにこう言った。「わたしは、ゴッドスを大事な客人とみなし
て います 。か れを釈 放す るなど と言 うのは 、ふ さわし くな いこと です 。かれ は、 自由
に思いのまま行動できます。かれが望めば、わたしは同伴することもできます。」
一 方、 モラ・ ホセ インは 、ゴ ッドス が近 づいて きて いるこ とを 仲間に 知ら せた。 そ
し て、バ ブに 対して 示す と同じ 尊敬 の念で 、か れに接 する ように 指示 し、こ うつ け足
した。
「皆はわたしをゴッドスのしもべとみなさなくてはならない。皆はかれに忠誠を
誓 わなけ れば ならな いが 、それ は、 かれが わた しの命 を取 れと命 じら れたら 、一 瞬の
た めらい もな く、そ れを 実行す るほ どのも ので なけれ ばな らない のだ 。もし ため らえ
ば 、皆は 信教 に対し て不 忠を示 すこ とにな るの だ。か れか ら呼び 出さ れるま では 、け
っ して、 かれ を邪魔 して はなら ない 。皆は 自分 の欲望 をす て、か れの 望みに 従わ なけ
れ ばなら ない 。また 、か れの手 足に 接吻し ない ように 。か れの清 らか な心は 、そ のよ
う な尊敬 の表 現を好 まれ ないか らだ 。わた しが 誇りに 思え るよう な態 度でか れに 接す
る ように 。か れには 栄光 ある権 威が あたえ られ ており 、ど れほど 身分 の低い 仲間 でも
そ れを当 然認 めなけ れば ならな いの だ。こ の訓 戒の精 神に 背く者 には 、ひど い懲 罰が
下されるであろう。」(pp.349-350)
ゴ ッド スは、 サリ の著名 な高 僧で、 親戚 にあた るモ ハメッ ド・ タギ宅 に九 十五日 監
禁 されて いた 。監禁 中で あった が、 尊敬を もっ て厚遇 され 、バダ シュ トの大 会に 参加
し た仲間 の大 半の訪 問を 受ける こと ができ た。 しかし 、ゴ ッドス は、 どの仲 間に もサ
リ に滞在 させ なかっ た。 そして 、モ ラ・ホ セイ ンのか かげ る黒旗 の下 の一団 に加 わる
よ うに、 強く 勧めた ので ある。 神の 予言者 モハ メッド は、 この黒 旗に ついて 、つ ぎの
ように語っていた。
「黒旗がコラサンから出てゆくのを見たならば、雪の上を這ってで
も 、その 旗の 下に急 げ。 その旗 は、 約束さ れた メヘデ ィ、 神の使 者の 出現を 宣言 する
ものであるから。」
こ の旗 は、バ ブの 命令に より 、ゴッ ドス の名前 の下 に、モ ラ・ ホセイ ンが マシュ ハ
ド 市から シェ イキ・ タバ ルシの 聖堂 まで、 高く かかげ て運 んでき たも のであ った 。一
八 四八年 七月 初旬か ら一 八四九 年五 月下旬 まで 十一ヵ 月間 、天上 の主 権の象 徴で ある
黒 旗は、 小人 数では ある が勇敢 な一 団の頭 上に ひるが えり つづけ た。 そして 、多 数の
人びとに、俗世への愛着を断って神の大業を受け入れるように呼びかけつづけた。
サ リに 滞在中 、ゴ ッドス はモ ハメッ ド・ タギに 、こ の新し い神 のメッ セー ジを信 じ
て もらお うと 努めた 。ゴ ッドス は、 バブの 啓示 に関す る未 解決の 重要 問題に つい て思
う 存分討 議し た。か れは 大胆で 挑戦 的な見 解を 述べた が、 そのと き丁 重で、 温和 で、
し かも説 得力 のある 言葉 を用い 、ま た親切 な態 度でユ ーモ アを交 えな がら提 出し たの
で 、聞き 手を 怒らせ るこ とはま った くなか った 。かえ って 、かれ の聖 典への 言及 は、
聞 き手を 楽し ませる ため のユー モア に富ん だ所 見であ ると 誤解さ れた ほどで あっ た。
モ ハメッ ド・ タギは 、残 酷で邪 悪な 性質を もっ ていた 。そ れは後 日、 シェイ キ・ タバ
ル シの砦 の戦 いで生 き残 った者 たち を皆殺 しに するこ とを 主張し たこ とで明 らか にな
った。しかし、ゴッドスを自宅に監禁していた間、無礼な態度をとることはなかった。
さ らに、 ゴッ ドスを サリ の住民 の攻 撃から 守り 、かれ らの 態度を しば しば非 難さ えし
たのである。(p.351)
ゴ ッド スの到 着が せまっ てい るニュ ース に、タ バル シの砦 の仲 間はふ るい 立った 。
ゴ ッドス は使 者を送 って 、砦に 自分 が近づ いて いるこ とを 知らせ たの である 。こ のう
れ しいニ ュー スに、 皆は あらた な勇 気と力 を得 た。モ ラ・ ホセイ ンは 、わき あが って
く る熱意 を抑 えきれ ず、 およそ 百人 の仲間 をと もなっ て、 ゴッド スを 迎える ため に歩
き だした 。各 人に二 本の ローソ クを 持たせ 、自 ら火を つけ 、前進 する ように 命じ た。
夜 の暗闇 も、 よろこ びに あふれ て進 む一団 の明 かりで 消散 した。 こう して、 マザ ンデ
ラ ンの森 の中 で、か れら は、待 望し てきた 方の 顔を認 める ことが でき たので ある 。皆
ゴ ッドス の馬 のまわ りに 集まり 、心 から敬 愛を 示し、 変わ らぬ忠 誠を ちかっ た。 かれ
ら は両手 にロ ーソク をも ったま ま、 ゴッド スの 後につ づい て砦に 向か って歩 いた 。ゴ
ッ ドスが 、一 団の真 ん中 を馬に 乗っ て進む 光景 は、あ たか も衛星 の真 ん中で かが やく
太陽のようであった。
ゆ っくり と砦 に向か う一 団の中 から 、賛美 の歌 声が聞 こえ はじめ た。「聖 なるか な 、
聖なるかな、主なるわが神よ。もろもろの天使と創造物の主よ。」モラ・ホセインが唱
えた句を一団が反復した。マザンデランの森は、この歓呼の歌声で鳴りひびいた。
(p.352)
こ の状 態で、 一団 はシェ イキ ・タバ ルシ の聖堂 (砦 )に到 着し た。ゴ ッド スは馬 か
らおり、聖堂に寄りかかって最初の言葉を口にした。
「皆のためには神が残された御方
が最高である。皆が本当に信じる者らであれば。」この句で、つぎのモハメッドの予言
が満たされたのである。「メヘディ(神の使者)が出現されるとき、その御方は聖所に
背をもたれかけ、集まってきた三百十三人の弟子に、こう語られるであろう。
『皆のた
め には神 が残 された お方 が最高 であ る。皆 が本 当に信 じる 者らで あれ ば。』」ゴッ ドス
が 「神が 残さ れる御 方」 と呼ん だ人 は、バ ハオ ラのこ とで あった 。フ ォルギ は、 これ
を証言して、わたし(著者)につぎのように語ってくれた。
「 ゴッド スが 馬から おり たとき 、わ たしも そこ にいま した 。この 目で 、かれ が聖 所に
背 をもた れか けるの を見 、この 耳で その言 葉を 述べる のを 聞きま した 。そし てす ぐ、
モ ラ・ホ セイ ンの方 を向 いて、 バハ オラに つい てたず ねま した。 そこ でゴッ ドス が知
っ たこと は、 神のお ぼし めしで あれ ば、バ ハオ ラが一 八四 八年十 一月 二十七 日前 に、
この聖堂にもどられる予定であることでした。
ま もな くして 、ゴ ッドス はモ ラ・ホ セイ ンに説 話を 何枚か 渡し 、皆に 読ん で聞か せ
る ように 頼み ました 。最 初の説 話は バブに 捧げ たもの で、 つぎの はバ ハオラ に関 する
も ので、 三番 目はタ ヘレ に言及 され たもの でし た。わ れわ れは思 いき ってモ ラ・ ホセ
インに質問しました。二番目の説話はバハオラにあてはまるかどうかを聞いたのです。
そ の方は 高貴 な衣を 着た 方とし て描 写され てい たので す。 質問は ゴッ ドスに 渡さ れま
し た。ゴ ッド スは、 時が くれば 、こ の秘密 は明 らかに され ると、 われ われを 納得 させ
ま した。 当時 、バハ オラ の使命 がい かなる もの である かに まった く気 づいて いな かっ
た われわ れは 、その 意味 を把握 でき ず、と りと めのな い推 測をす るし かあり ませ んで
し た。約 束さ れたガ エム (バブ を指 す)に 関す る伝承 の秘 密を知 りた いと思 い、 数回
ゴ ッドス に教 えてく れる ように 頼み ました 。最 初は気 が進 まない よう でした が、 その
う ち、わ たし の望み をか なえて くれ ました 。納 得力の ある その説 明を 聞いて 、畏 れと
尊 敬の念 は高 まるば かり でした 。か れは、 われ われの 心に 残って いた 疑問を 取り 除い
て くれた ので す。そ のす ぐれた 洞察 力を前 にし て、か れに は、わ れわ れが奥 底に ひめ
て いる思 いを 読む力 と、 われわ れの 胸中の 、は げしい 動揺 をしず める 力があ たえ られ
ていると確信しました。(pp.352-353)
わ たし は、モ ラ・ ホセイ ンが 、ゴッ ドス が休ん でい る聖堂 の境 内の周 りを まわる の
を 夜毎に 見ま した。 そし て、ゴ ッド スを迎 えた ときに 皆で 詠唱し た句 をささ やく のを
見 たので す。 わたし が、 しずま った 夜中に 、一 人で祈 りと 瞑想に ふけ ってい たと き、
モ ラ・ホ セイ ンが近 寄っ てきて 、つ ぎのよ うに ささや きま した。 今で もその とき のこ
とが、深い感動で思い出されます。
「フォルギよ。あなたを悩ませている疑問を払いの
け、心を解放させるがよい。そして、わたしと共に殉教の杯を飲み干そうではないか。
そ うすれ ば、 今はか くさ れてい る事 柄の神 秘が 、一八 六三 年(バ ハオ ラの使 命宣 言の
年)に理解できるであろう。」
さ て、 シェイ キ・ タバル シの 聖堂に 到着 したゴ ッド スは、 モラ ・ホセ イン に、集 ま
っ た仲間 の人 数を調 べさ せた。 一人 ずつ数 えな がら門 内に 入らせ たと ころ総 数三 百十
二 人いた 。数 え終わ って 、その 結果 をゴッ ドス に知ら せよ うと、 門の 中に入 ろう とし
た とき、 バル フォル ーシ ュから 徒歩 で駆け つけ てきた 若者 が飛び 込ん できた 。か れは
モ ラ・ホ セイ ンの衣 のす そにす がり 、仲間 に入 れてく れる ように こん 願した 。敬 愛す
る 御方の 道に 、いつ でも 命をさ さげ させて 下さ いと、 こん 願した ので ある。 この こん
願はすぐ受け入れられた。ゴッドスは、仲間の総数を聞いて、つぎのように述べた。
「神
の 予言者 が、 約束さ れた 御方に 関し て述べ た予 言は実 現さ れなけ れば ならな い。 自分
た ちだけ が、 イスラ ム教 の法や 伝承 の解釈 がで きると 思っ ている 僧侶 の目に 、予 言の
実 現が証 明さ れるよ うに 。かれ らを 通して 、イ スラム 教徒 たちは 真理 を受け 入れ 、予
言が満たされたことを認めるであろう。」(pp.353-354)
当 時、 ゴッド スは 毎日、 朝と 午後に モラ ・ホセ イン と主な 仲間 を呼び 出し 、バブ の
書 簡を詠 唱す るよう に求 めた。 ゴッ ドスは 、砦 に隣接 する 広場に 座り 、忠実 な仲 間に
囲 まれて 、師 である バブ の言葉 に熱 心に聞 き入 った。 そし て、時 折、 注釈を 入れ た。
敵 の脅し とそ れにつ づい たはげ しい 攻撃に もか かわら ず、 祈りと 瞑想 は定期 的に つづ
け られた 。危 険がせ まる 苦しい 状況 の下で も、 自分の こと は忘れ 、敬 愛する 御方 と交
信 し、そ の御 方への 賛美 を書き 、砦 の仲間 を元 気づけ た。 敵の弾 丸が 雨と降 り注 ぐ中
もまったく平静を保ち、敬愛する御方につぎのように呼びかけたのである。
「わたしの
魂 はつね にあ なたを 思い はせて おり ます。 それ がわた しの 生命の 支え であり 、な ぐさ
め であり ます 。わた しは 、あな たの ために シラ ズで最 初に 屈辱を 受け たこと を栄 誉に
思 ってい ます 。あな たの 道に、 あな たの大 業に ふさわ しく 命をさ さげ たいと 念願 して
おります。」(p.355)
ゴ ッド スは時 折、 イラク 出身 の仲間 に、 コーラ ンの さまざ まな 聖句を 唱え るよう に
求 めた。 かれ は、熱 心に 聞き入 り、 その意 味を 解明す るこ ともし ばし ばであ った 。あ
るとき、つぎの聖句に出くわした。「われらは、皆を少々こわい目に合わせたり、飢え
で苦しめたり、また財産、人命、収穫などの損傷を与えたりして、試みることがある。
が、忍耐強く耐えている者らにはよろこびの音信を与える。」ゴッドスは、この聖句を
説明した。
「これは、本来ヨブと、かれにふりかかった苦難を述べたものである。しか
し 今日、 われ われに 当て はまる もの であり 、わ れわれ はヨ ブと同 じ苦 難を受 ける よう
に 定めら れて いるの だ。 その苦 難は あまり にも 激烈で 、ゆ るがぬ 確信 と忍耐 をそ なえ
た者しか耐えることができないものである。」(p.356)
ゴッドスの知識と明敏さ、確信に満ちた言葉、そして仲間にあたえた賢明な指示は、
か れの権 威と 威信を 高め た。モ ラ・ ホセイ ンが ゴッド スに 示した 深い 敬意は 、心 から
自 然に生 じて きたも ので はなく 、急 迫した 事情 の下で そう せざる を得 なかっ たも ので
は ないか と、 最初思 われ た。し かし 、ゴッ ドス の著作 や態 度で、 その 疑いは 徐々 に消
され、仲間からより深い尊敬を受けるようになった。
ゴ ッド スは、 サリ 町に監 禁中 、モハ メッ ド・タ ギか ら求め られ て、コ ーラ ンのあ る
章 につい て論 文を書 いた 。その 一部 でさえ 、コ ーラン より も三倍 にな るほど の大 作で
あ った。 モハ メッド ・タ ギは、 その 余すと ころ のない 見事 な解説 に深 く感動 し、 ゴッ
ド スへの 敬意 を深め た。 しかし 、後 日、か れは サイド ル・ オラマ ー( 悪名高 き高 僧)
と 手を組 み、 シェイ キ・ タバル シの 砦の勇 敢な 防御者 たち の殉教 をた くらむ こと にな
る。
ゴ ッド スは、 敵の 猛烈な 攻撃 にもか かわ らず、 砦の 中で、 コー ランの 同じ 章につ い
て 解釈を 書き つづけ た。 そして 、以 前書い たも のと同 じ量 の文章 を完 成する こと がで
き た。ゴ ッド スの書 く速 度とお びた だしい 量と 計り知 れな いほど 貴重 な内容 に、 仲間
は 驚嘆し 、か れが指 導者 である のは 正当だ とみ なした 。仲 間は皆 、モ ラ・ホ セイ ンが
毎 日、ゴ ッド スから 運ん でくる 解説 文を熱 心に 読んだ 。モ ラ・ホ セイ ンも同 様に それ
に称賛を惜しまなかった。(pp.356-357)
砦 の建 造が完 成し 、防御 に必 要な備 品が そろっ たと き、モ ラ・ ホセイ ンの 仲間は 、
あ らたな 熱意 をもっ たが 、それ は同 時に、 近隣 の住民 の好 奇心を 刺激 した。 ある 者は
単 なる好 奇心 から、 ほか の者は 物質 的な利 益を 求めて 、何 人かは 、そ の砦が 象徴 して
い る大業 に献 身した いと いう望 みか ら、門 内に 入る許 可を 求めた 。か れらは 、砦 があ
まりにも迅速に完成したので不思議に思ったのである。
ゴ ッド スは、 仲間 の数を 確認 したあ とは 、訪問 者が 中に入 るこ とを禁 じた 。その 前
に 砦を調 べた 人たち は大 いにほ め称 えたの で、 それは 人か ら人へ と伝 わり、 つい にサ
イ ドル・ オラ マーの 耳に とどい た。 これを 聞い たかれ の胸 中には 、嫉 妬の炎 がは げし
く 燃え上 がっ た。こ の砦 を建造 した 責任者 たち に対す る憎 しみか ら、 かれは 住民 がそ
の砦に近づくことを禁じ、モラ・ホセインの仲間をボイコットするように命じた。
こ の厳 重な命 令に もかか わら ず、そ れを 無視し て、 不当に 迫害 された 人た ちに、 で
き るかぎ り援 助の手 を差 しのべ た人 たちも いた 。砦内 のモ ラ・ホ セイ ンとそ の仲 間の
苦 しみは 大き く、最 低限 の生活 必需 品にも こと かいた 。し かし、 この 暗い艱 難の 日々
に、とつぜん神の援助の光が射し、思いがけない救済の門が開くことになるのである。
砦 の一 団に重 くの しかか って いた苦 難が 、神の 援助 により 緩和 された こと で、強 情
で 横柄な サイ ドル・ オラ マーの 怒り は再度 あお られた 。憎 しみに 駆ら れ、王 座に つい
た ばかり のナ スル・ ディ ン国王 に強 い言葉 で訴 え、王 朝が 脅威に さら されて いる こと
を長々と説明した。
「卑しむべきバビ派が反旗をひるがえしております。この無責任な
扇動者の一団は、陛下の権威をくつがえそうとしております。かれらの本部近くの村々
の 住民は すで に、そ の旗 の下に 集結 し、そ の大 業に忠 誠を 誓って おり ます。 そし て頑
丈 な砦を 建造 し、そ の中 に立て こも り、陛 下に 向かっ て攻 撃準備 をし ている ので す。
か れらは 、主 権の独 立宣 言をし よう と固く 決心 してい ます 。そう なれ ば、陛 下の 高名
な 先祖代 々の 王冠が 屈辱 を受け 、葬 られる であ りまし ょう 。陛下 は統 治をは じめ られ
た ところ です 。陛下 に対 して陰 謀を 企てて いる この憎 むべ き一派 を根 絶し、 その 功績
で 統治を 開始 される こと はすば らし いこと です 。それ によ り、人 民の 陛下へ の信 頼も
深 まるで あり ましょ う。 陛下の 威信 も高ま り、 王冠に 、不 滅の栄 誉を もたら すこ とに
な りまし ょう 。もし 陛下 が、何 の方 策も取 らず 、わず かで もかれ らを 大目に 見た りさ
れ るなら ば、 わたし の義 務とし て、 こう警 告さ せて下 さい 。マザ ンデ ラン州 だけ でな
く 、ペル シャ 全国が 隅か ら隅ま で、 陛下の 権威 を否定 し、 バブの 大業 に身を 委ね る日
がすばやく近づいてきておることを警告いたします。」(pp.357-359)
国 王は 、国政 に未 経験で あっ たので 、こ の件を 、マ ザンデ ラン の軍を 指揮 した将 校
た ちに委 託し た。国 内の 騒動を 起こ してい る者 らを、 適切 な手段 を用 いて根 絶せ よと
命じたのである。モスタファ・カーンは、自分の見解を国王に提出した。
「わたしはマ
ザ ンデラ ン州 の出身 で、 この一 団が 、どれ ほど の力を もっ ている かを 判断で きま す。
か れらは 、訓 練も受 けて いない きゃ しゃな 身体 をもつ 神学 生たち で、 陛下の 軍力 に対
抗 できる 力は まった くあ りませ ん。 陛下が 送ろ うとさ れて いる軍 団は 必要な いと 思い
ま す。特 別派 遣隊だ けで 、かれ らを 絶滅さ せる に十分 です 。かれ らに は思い やり は不
要 です。 もし 、陛下 のご 希望で あれ ば、わ たし の弟ア ブド ラ・カ ーン に、権 限を あた
え、その一団を征服させることもできます。二日とたたないうちに、反乱は鎮圧され、
かれらの願望はくじかれるでありましょう。」(pp.359-360)
国 王は この提 案を 受け入 れ、 ただち に全 国から 徴兵 し、そ の一 団(バ ビ) を全滅 さ
せ よとい う命 令書を アブ ドラ・ カー ンに出 した 。国王 はま た、か れの 能力に 信頼 を置
い ている とい うしる しに 、王家 の記 章をあ たえ た。ア ブド ラ・カ ーン は、国 王か らの
命 令と栄 誉の 記章に 勇気 づけら れ、 使命を 果た そうと 、短 期間に 、お よそ一 万二 千人
の兵士を集めた。兵士の大半は、オサンルとアフガンとクダール地方出身者であった。
そ して、 兵士 に必要 な武 器を与 え、 アフラ 村に 配置し た。 この村 はナ ザール ・カ ーン
の 所有で 、タ バルシ の砦 を眼下 に見 下ろす 地で あった 。そ の高台 に野 営を設 置す ると
す ぐ、モ ラ・ ホセイ ンの 仲間に 毎日 運ばれ るパ ンを途 中で うばい はじ めた。 やが て、
砦 の一団 は水 も得ら れな くなっ た。 敵の攻 撃で 砦を出 るこ とがで きな くなっ たか らで
ある。(pp.360-361)
兵 士た ちは、 砦の 前にい くつ ものバ リケ ードを 置き 、砦か ら出 てくる 者は だれで あ
れ 発砲す るよ うに命 じら れた。 ゴッ ドスは 、仲 間に、 外に 出て水 を汲 まない よう に指
示した。仲間の一人バネミリは、不満そうに言った。
「敵はわれわれのパンをうばって
います。水も得られなければどうなるというのですか。」そのとき日が沈もうとしてい
た 。モラ ・ホ セイン とい っしょ に砦 のテラ スか ら敵軍 を偵 察して いた ゴッド スは 、ふ
り 向いて 言っ た。「 水の 不足で 仲間 は苦し んで いる。 神の おぼし めし があれ ば、 今夜、
わ れわれ の敵 に、ど しゃ ぶりの 雨が 降り注 ぎ、 それに つづ いて大 雪が 降って くる であ
ろう。そうなれば、かれらの攻撃を撃退することができよう。」
そ の夜 、雨が 滝の よう落 ちて きて、 砦近 くに駐 屯し ていた アブ ドラ・ カー ンの兵 士
た ちをお どろ かせ、 かれ らの武 器の 大半は 破壊 された 。砦 の内部 では 、長期 間使 用で
き る水が 確保 できた 。翌 日、近 くの 住民が 、真 冬でも 見た ことも ない ほどの 大雪 が降
っ て、大 雨で 困って いた 軍隊を さら に苦し ませ た。つ ぎの 日、一 八四 八年十 二月 一日
の 夜、ゴ ッド スは砦 の門 の外に 出る ことに した 。門に 近づ きなが ら、 バネミ リに 言っ
た。
「神に賛美あれ。神はわれわれの祈りに答え、敵に大雨と大雪を降らされた。それ
により、敵の陣営は破壊されたが、われわれの砦はうるおった。」(p.361)
敵 の大 軍は、 雨と 雪で打 撃を 受けた が、 全力で 再攻 撃を準 備し ていた 。攻 撃の時 間
が せまっ てき たとき 、ゴ ッドス は、 反撃し て敵 軍を追 い散 らす決 心を した。 夜明 けか
ら 二時間 たっ て、ゴ ッド スは馬 に乗 り、モ ラ・ ホセイ ンほ か三人 の仲 間と共 に横 に並
び 、門を 出た 。その 後方 に、一 団全 員が徒 歩で つづき 、門 を出る やい なや「 この 時代
の 主なる 御方 よ!」 とい う叫び 声を あげた 。そ れは敵 軍の 陣営に ひび きわた り、 兵士
た ちを仰 天さ せた。 この バブの 勇猛 な弟子 たち が、マ ザン デラン の森 であげ たと どろ
き に、待 ち伏 せして いた 兵士た ちは 恐れお のの いて逃 散し た。弟 子た ちが抜 いた 剣の
き らめき で、 兵士た ちの 目はく らみ 、肝を つぶ し、武 器と 持ち物 をす べて残 して 逃げ
去 ったの であ る。四 十五 分とた たな いうち に、 勝利の 叫び 声があ げら れた。 ゴッ ドス
と モラ・ ホセ インは 敗北 した敵 の生 存者を 支配 下にお いた 。この 戦い で、ア ブド ラ・
カーンと二人の士官をはじめ、四三〇名以上の兵士が戦死した。(pp.361-362)
ゴ ッド スが砦 にも どった あと も、モ ラ・ ホセイ ンは 勇敢な 戦い をつづ けて いた。 そ
こ で、ア ブド ル・ア ジム がゴッ ドス に代わ って 、モラ ・ホ セイン に砦 にすぐ もど るよ
うに呼びかけた。ゴッドスは言った。
「われわれは敵を撃退した。これ以上の罰を加え
る 必要な ない 。目的 は、 人びと の再 生につ くす ことが でき るよう に、 われわ れの 身を
守 ること にあ る。だ れに も不必 要な 害をあ たえ るつも りは ないの だ。 すでに 達成 した
こ とだけ でも 、神の 無敵 の威力 を示 すのに 十分 である 。小 人数の 信者 の一団 が、 神の
恩寵に支えられて、訓練された敵軍を鎮圧することができたのだ。」この戦いで、バブ
の 信者の 中で 命を落 とし た者は いな かった 。た だ一人 、ゴ ッドス の前 方にい たゴ リと
い う者だ けが 重傷を 負っ ただけ であ った。 かれ らは、 剣と 馬以外 は敵 軍から 何も 取っ
てはならないと命じられた。
ア ブド ラ・カ ーン が指揮 して いた軍 団が 、ふた たび 集結し はじ めたの を知 ったゴ ッ
ド スは、 仲間 に、再 攻撃 から身 を守 るため に、 砦のま わり に濠を 造る ように 命じ た。
十 九日後 に濠 は完成 した 。皆早 期完 成のた め、 昼夜努 力し たから であ った。 濠の 完成
直後、メヘディ・ゴリ王子が、大軍をひきいて、砦に進軍してきている知らせがきた。
王 子はす でに 、シー ル・ ガーに 野営 してい たの である 。ニ 、三日 後、 王子は ヴァ ス・
カスに本部を移した。そこから、使いの者をモラ・ホセインに送り、「国王から依頼さ
れて、あなたの活動の目的を確認しにきた」と告げた。モラ・ホセインはこう答えた。
「 国王に こう 報告し て下 さい。 われ われは 、君 主制の 土台 をくつ がえ したり 、国 王の
権 威をう ばっ たりす る意 図はま った くあり ませ ん。わ れわ れの大 業は 、約束 され たガ
エ ムの啓 示に 関する もの で、主 にわ が国の 僧侶 階級の 利益 に関わ るも のです 。わ れわ
れは、明確な論証で、(バブの)教えが正当であることを立証することができます。」
モ ラ・ ホセイ ンは 、誠意 と熱 意をこ めて 大業を 弁護 し、そ の正 当性を 詳細 に説明 し
た。これに感動した使者は目に涙を浮かべ、叫ぶように言った。
「どうすればよいので
し ょうか 。」 モラ・ ホセ インは 答え た。「 王子 に、サ リと バルフ ォル ーシュ の僧 侶たち
を 、この 場所 におも むか せ、バ ブが もたら した 啓示の 正当 性をわ れわ れに問 わせ るこ
と です。 だれ が真理 を語 るかは 、コ ーラン に決 めさせ まし ょう。 王子 自らこ の件 の判
事 となり 、判 決を下 しま す。も し、 われわ れが この大 業の 真理を 、聖 句や伝 承に よっ
て証明できなかった場合、われわれをどう扱うかは王子が決めます。」使者は、この答
えに満足し、三日以内に、僧侶たちを召集することを約束した。
使 者の 約束は 果た されな い運 命にあ った 。三日 後、 メヘデ ィ・ ゴリ王 子は 、これ ま
で 以上の 規模 で砦の 一団 を攻撃 する ことに した 。砦を 見下 ろせる 高台 に、歩 兵の 三連
隊 と騎兵 の数 連隊を 置き 、発砲 の命 令を下 した 。夜明 け前 に、ゴ ッド スは「 神の 英雄
た ちよ、 馬に 乗れ! 」と 合図を 出し 、砦の 門を 開かせ た。 モラ・ ホセ インと 二百 二人
の 仲間は 馬に 飛び乗 り、 ヴァス ・カ スに向 かう ゴッド スに つづい た。 圧倒的 大多 数の
敵 軍にも ひる まず、 道路 に積も った 雪やぬ かる みにも ちゅ うちょ する ことな く、 暗闇
の中を、敵の陣営へと突進した。(pp.364-365)
モ ラ・ ホセイ ンの 動きを 偵察 してい た王 子は、 かれ が近づ いて きてい るの を見て 、
兵 士たち に発 砲を命 じた 。しか し、 その射 撃も モラ・ ホセ インの 突撃 を止め るこ とは
で きなか った 。かれ は敵 軍の陣 営の 門を突 き抜 け、王 子の 宿営場 所に 突進し た。 王子
は 身の危 険を 感じて 、後 ろの窓 から 濠に飛 び込 み、は だし で逃げ 去っ た。司 令官 を失
っ た軍隊 は、 パニッ クに おそわ れ敗 走した 。圧 倒的に 多数 の兵士 と国 王から 供給 され
た 十分な 兵器 をもっ てし ても、 少数 のモラ ・ホ セイン の一 団を征 服す ること はで きな
かったのである。
仲 間の 一団が 王子 専用の 部屋 へと突 入し ようと した とき、 別の 二人の 王子 が向か っ
て きたが 、二 人共倒 され た。一 団が 王子の 部屋 にはい り、 金銀が いっ ぱいつ まっ た箱
を 発見し たが 、それ に手 をつけ たり はしな かっ た。か れら は王子 が残 してい った 高価
な 装飾品 など は無視 した が、た だ、 火薬の 入っ たビン と王 子が愛 用し ていた 剣を 、勝
利 の証拠 とし て、モ ラ・ ホセイ ンの ところ に持 ってい った 。とこ ろが 、モラ ・ホ セイ
ン は、自 分の 剣に銃 弾が あたっ たの で、ゴ ッド スが戦 いに 用いた 剣と 交換し て、 それ
で敵軍を撃退していたのがわかった。(pp.366-367)
モ ラ・ ホセイ ンの 仲間の 一団 は、敵 の手 中にあ った 監獄の 門を 開けよ うと してい た
と き、砦 に行 く途中 とら えられ て監 禁され てい たアル デビ リの声 を聞 いた。 アル デビ
リ は、ほ かの 苦しん でい る囚人 たち も釈放 され るよう にこ ん願し たの で、全 員す ぐ解
放された。
か の忘 れがた い戦 いの朝 、ヴ ァス・ カス のふも とで 、モラ ・ホ セイン は仲 間をゴ ッ
ド スのま わり に召集 した 。しか し、 かれは 敵の 再度の 攻撃 を予期 して 、馬に 乗っ たま
ま 敵の動 きを 見守っ てい た。と つぜ ん、大 軍が 左右の 方向 からこ ちら に向か って 突撃
してくるのが見えた。仲間は全員立ち上がり、
「この時代の主なる御方よ!」の叫び声
を あげな がら 、敵に 向か って突 進し た。モ ラ・ ホセイ ンは 一方向 に拍 車を入 れ、 ゴッ
ド スと仲 間は 別の方 向に 進んだ 。モ ラ・ホ セイ ンに向 かっ てきて いた 一隊は 、と つぜ
ん 向きを 変え てかれ から 逃れ、 ほか の軍団 に加 わって ゴッ ドスと 仲間 を取り 巻い た。
敵 軍が同 時に 一千の 弾丸 を発射 した とき、 その 一つが ゴッ ドスの 口に 当たり 、歯 を折
り 、舌と のど を傷つ けた 。一千 の弾 丸の大 轟音 は二十 キロ メート ル離 れたと ころ まで
聞 こえた ほど であっ た。 この音 で心 配にな った モラ・ ホセ インは 、急 いで仲 間の 援助
にかけつけた。その場につくとすぐ馬からおり、従者のガンバル・アリに馬をあずけ、
ゴッドスのところに走った。敬愛する指導者の口から大量にしたたる血を見たかれは、
恐 怖と不 安に おそわ れた 。両手 をあ げ、頭 を打 ちつけ よう とした とき 、ゴッ ドス は止
め るよう に命 じた。 モラ ・ホセ イン はその 動作 を止め て、 ゴッド スの 剣を使 わせ ても
ら うよう にこ ん願し た。 剣を受 け取 るやい なや 、さや から 抜いて 、百 十人の 仲間 と共
に 、まわ りに 群がっ てき ていた 敵軍 に向か った 。一方 の手 に敬愛 する 指導者 ゴッ ドス
の 剣をふ るい 、別の 手に 面目を 失っ た敵( 王子 )の剣 を使 いなが ら必 死に戦 った 。三
十分以内に敵軍を全部敗走させたが、その間モラ・ホセインは見事な武勇を示した。
メ ヘデ ィ・ゴ リ王 子の軍 隊の 敗走で 、モ ラ・ホ セイ ンと仲 間は 砦にも どる ことが で
き た。か れら は、後 悔の 念で苦 しみ ながら 、傷 ついた 指導 者のゴ ッド スを砦 に避 難さ
せ た。砦 に到 着した ゴッ ドスは 、自 分が傷 を受 けたこ とで 悲しん でい る仲間 に、 文書
で はげま した 。「わ れわ れは神 の意 志に従 わな ければ なら ない。 この 試練の とき こそ、
ゆ るがぬ 確信 を持た なけ ればな らな い。不 信心 者の石 は、 神の予 言者 の歯を 折っ た。
わが歯は敵の銃弾で折れた。わが身体は苦しくても、わが魂はよろこびに浸っている。
神 への感 謝の 念はは かり しれな い。 われを 愛す るなら ば、 このよ ろこ びがう すれ ない
ように、悲しまないでくれ。」
こ の忘 れがた い戦 いの日 は、 一八四 八年 十二月 二十 一日で あっ た。同 じ月 のはじ め
に 、バハ オラ は、モ ラ・ ホセイ ンに あたえ た約 束どお りに 、数人 の仲 間と共 にヌ ール
か らタバ ルシ の砦に 向か った。 同伴 した仲 間の 中には 、ジ ャニと 生け る者の 文字 の一
人 である バゲ ルとバ ハオ ラの弟 ヤー ヤがい た。 バハオ ラは かれら に、 途中で 止ま らず
に 、砦に 直行 するよ うに 指示し てい た。バ ハオ ラの意 図は 、夜半 に砦 に到着 する こと
で あった 。そ の理由 は、 アブド ラ・ カーン が指 揮しは じめ て以来 、砦 の一団 を援 助し
て はなら ない という きび しい命 令が 出され てお り、一 団を 孤立さ せる ために 、監 視人
が あちこ ちに 置かれ てい たから であ る。し かし 、バハ オラ の同伴 者た ちは、 旅の 途中
で 、ニ、 三時 間だけ でも 睡眠を 取り たいと 要請 した。 バハ オラは 、こ の休息 のた め到
着 がおく れる と、敵 の不 意打ち にあ う危険 があ ること を知 ってい たが 、かれ らの 熱心
な 願いを 聞き 入れた 。一 行は、 道路 近くの 一軒 家で泊 まる ことに した 。夕食 後、 皆睡
眠 につい たが 、バハ オラ だけは 疲労 にもか かわ らず寝 ずに 見張っ てい た。自 分と 仲間
がさらされている危険に十分気づいていたからであった。(pp.368-369)
そ の間 、敵の 密使 が、バ ハオ ラとそ の仲 間が近 くに 来てい るこ とを、 その 区域に 配
置 されて いた 監視団 に知 らせた 。か れらは 一行 のとこ ろに 来て、 バハ オラが 指導 者で
あることをすぐ認めてこう言った。
「このあたりで見つかった者を皆逮捕するように命
じ られて いま す。取 り調 べはせ ずに 、アモ ルに 連行し 、知 事に渡 すよ うに指 示さ れて
い るので す。」バハ オラ は警告 した 。「あ なた 方は、 われ われの 目的 を誤解 して いる。
あとで後悔しないような行動を取るように忠告する。」このバハオラの威厳ある忠告に、
監 視団の 主任 は心を 打た れ、バ ハオ ラと仲 間を 丁重に 扱う ことに した 。主任 は、 一行
に 馬に乗 り、 自分に つい てアモ ルに 向かう よう に命じ た。 川岸に 近づ いたと き、 バハ
オ ラは、 監視 団から 離れ て進ん でき ていた 仲間 に、持 参し ている 書簡 をすべ て川 に捨
てるように合図した。(pp.368-369)
夜 明け がきて 、一 団が町 に近 づいた 。知 事代理 は、 タバル シに 行く途 中に 逮捕さ れ
た 一団が 到着 するこ とを 、前も って 知らさ れて いた。 知事 自身は 、知 事付の 護衛 団と
共 にメヘ ディ ・ゴリ 王子 の軍団 に加 わるよ うに 指示さ れて 不在で あっ た。ま た、 その
留守中は、血族の者を代理に置いておくように命じられていたのである。知事代理は、
知 らせを 聞く とすぐ アモ ルの寺 院に 行って 、町 の高僧 と有 力者を 呼び 集めて 、一 団と
会 うよう に命 じた。 知事 代理は 、一 団の指 導者 がバハ オラ である こと がわか った とた
ん 、自分 が出 した命 令を 深く後 悔し た。か れは 、バハ オラ の行動 をと がめる ふり をし
た 。そう する ことで 、騒 ぎがし ずま り、寺 院に 集まっ てき た人び との 興奮が おさ まる
だろうと思ったからであった。バハオラは強く言った。
「われわれのせいにされている
罪 は犯し てい ない。 われ われの 潔白 はやが て、 皆の目 に明 らかに なる であろ う。 あと
で後悔しないような行動を取るように忠告する。」
知 事代 理は、 高僧 たちに 質問 はない かと 聞いた 。そ こで出 され た質問 に、 バハオ ラ
は 明白で 納得 のゆく 答え をした 。バ ハオラ が質 問を受 けて いる最 中に 、仲間 の一 人が
も ってい た書 簡が監 視人 たちに みつ かった 。か れらは 、そ れをバ ブの 書簡だ と思 い、
高 僧に渡 した 。高僧 は、 その書 簡を 何行か 読ん だあと 、そ ばに置 き。 皆を見 まわ して
声をあげて言った。
「途方もない要求をしているこの者たちは、今読んだ書簡で明らか
であるが、正しい綴字方の基本的な規則さえも知らないことを暴露した。」バハオラは
答えた。
「学識ある僧侶の方々よ。皆さんが批判されているこれらの言葉は、バブのも
のではない。エマム・アリが、仲間に語った言葉である。」(pp.370-371)
こ のバ ハオラ の答 えと、 その 威厳あ る態 度に、 ごう 慢な高 僧は 自分の へま に気づ い
た 。その 重大 な供述 に反 論でき ない ので、 沈黙 を守る こと にした 。有 力者の 一人 が腹
立たしそうに言葉を入れた。
「この書簡の内容そのものが、著者がバビだという決定的
な証拠であり、また、その教義の解説者であることを示している。」かれは、信者たち
は処刑されるべきだと主張し、叫ぶように言った。
「このわけのわからない宗派は、国
家 とイス ラム 教の憎 い敵 である 。こ の異端 をぜ ひとも 根絶 しなけ れば ならな い! 」そ
こ に居た ほか の有力 者た ちも、 大胆 になっ てこ の非難 に同 意し、 知事 は自分 たち の願
いを聞き入れるべきだと主張した。
知 事代 理はひ じょ うに当 惑し 、少し でも 一団を 大目 にみれ ば、 自分の 地位 があぶ な
く なるこ とに 気がつ いた 。かれ らの 興奮を しず めるた めに 、捕ら えら れた一 団に 、む
ち打ち刑をあたえるように命じ、こうつけ足した。
「そのあと、この一団を知事が帰ら
れ るまで 監禁 する。 知事 はかれ らを テヘラ ンに 送り、 そこ で、国 王か ら罰を 受け るで
あろう。」(p.371)
最初にむち打ちの刑をうけたのは、バゲルであった。かれはこう主張した。
「わたし
は バハオ ラの 馬丁で す。 マシュ ハド に向か って いたと ころ 、とつ ぜん 逮捕さ れて ここ
に連れて来られたのです。」バハオラは間に入って、バゲルを釈放させた。ジャニにつ
いては、「ただの商人で、自分の客であり、かれに対する容疑は、自分の責任だ」と言
っ て解放 させ た。ヤ ーヤ はしば られ はじめ たが 、バハ オラ が「自 分の 従者だ 」と 強く
言ったところ釈放された。バハオラは知事代理にこう説明した。
「これらの者は、何の
罪も犯していない。刑罰をあたえたければ、わたしが進んで犠牲になって受けよう。」
知 事代理 は、 気が進 まな かった が、 仕方な くバ ハオラ だけ に刑罰 をあ たえる こと を命
じた。本当は、バハオラの仲間にあたえるつもりであったのであるが。
五 ヵ月 前、タ ブリ ズでバ ブが 受けた と同 じ刑罰 を、 バハオ ラは 、アモ ルの 高僧た ち
の 前で受 けた 。バブ が敵 の手で 最初 に監禁 され たのは 、シ ラズの 警察 署長ハ ミド ・カ
ー ン宅で あっ た。バ ハオ ラの最 初の 監禁は 、テ ヘラン 政府 の要人 の自 宅であ った 。バ
ブ の二番 目の 監禁は 、マ ークー の砦 であっ た。 バハオ ラの 二番目 の監 禁は、 アモ ルの
知 事宅で あっ た。バ ブは タブリ ズの 祈りの 家で むち打 たれ た。バ ハオ ラは、 同じ 侮辱
を アモル の高 僧の前 で受 けた。 バブ の三番 目の 監禁は チェ リグの 砦で あった 。バ ハオ
ラ の三番 目の 監禁は 、テ ヘラン のシ ア・チ ャー ル(暗 黒の 地下牢 )で あった 。ほ とん
ど の場合 、バ ブは試 練と 苦難を バハ オラの 前に 受け、 バハ オラの 貴い 生命を 危険 から
救 うため に自 らを犠 牲と してさ さげ た。一 方、 バハオ ラは 、自分 を深 く敬愛 する バブ
だ けが苦 しむ のをよ しと せず、 すべ ての苦 杯を 分かち 合っ たので ある 。この 大い なる
愛 は、こ れま でだれ も見 たこと がな く、そ の献 身は想 像を 超えた もの であっ た。 すべ
て の木枝 がペ ンにな り、 海が全 部イ ンクと なり 、天と 地が 羊皮紙 に巻 かれて も、 二人
の間の愛と献身の深さをはかることはできなかったであろう。(pp.372-373)
バ ハオ ラと仲 間は 、寺院 の一 角にあ る部 屋に監 禁さ れた。 知事 代理は 、バ ハオラ を
執 念深い 敵か ら守ろ うと して、 だれ にも気 づか れない 時間 に、か れが 監禁さ れて いる
部 屋の壁 から 抜け出 せる 通路の 門を 開け、 かれ を自分 の家 にすぐ 移す ように 従者 に命
じ た。知 事代 理自ら バハ オラを 案内 してい ると き、町 の有 力者が 飛び 出して きて 、は
げしくののしり、こん棒でバハオラをなぐろうとした。知事代理はすばやく間に入り、
「神の予言者にかけてこの方を助けてあげよ。」と言いながらかれの手を止めた。男は
叫んだ。「何をするのだ。先祖の宗教の憎い敵を釈放するというのか!」その間、ごろ
つ きが有 力者 のまわ りに 群がっ てき て、あ ざけ ったり 、悪 態をつ いた りした ため 、さ
わ ぎが大 きく なって いっ た。こ の騒 動の中 で、 知事代 理の 従者た ちは 、バハ オラ を知
事 宅に安 全に 案内す るこ とがで きた 。その 間、 従者た ちは おどろ くほ どの勇 気と 平静
さを見せた。
群 衆の抗議にもかかわらず、監禁されていた残りの一団は政府の建物に移されたた
め 、危機 をの がれた 。知 事代理 は、 アモル の住 民のバ ハオ ラに対 する 仕打ち を、 深く
謝った。
「神の介入がなかったならば、悪意をもった住民から、あなたを救うことはで
き なかっ たで ありま しょ う。命 をか けても あな たを守 りま す、と いう 誓いの 力が なか
ったならば、わたしもまた、かれらの暴行の犠牲となり、踏みつけられたと思います。」
知 事代理 は、 アモル の有 力者た ちの 無礼行 為を 強く批 判し 、かれ らの 卑しい 性格 を非
難 した。 そし て、自 分も かれら の陰 謀で苦 しま されて いる ことを 述べ 、深い 敬愛 の念
をこめてバハオラの世話をしはじめた。かれはよくバハオラにつぎのように語った。
「 あなた を、 わが家 の囚 人など と思 うのは とん でもな いこ とです 。こ の家は 、敵 の陰
謀からあなたを守るために建てられたものだと信じています。」(P.374)
わたし(著者)は、バハオラ自らからつぎのように聞いた。「これほどの待遇をアモ
ル の知事 代理 から受 けた 囚人は 、わ れのほ かに はいな い。 わかれ は最 高の思 いや りと
尊 敬をも って われを 扱っ た。わ れは 寛大な もて なしを 受け 、安全 に快 適に過 ごせ るよ
う に最善 の注 意がは らわ れた。 しか し、家 の門 から出 るこ とはで きな かった 。知 事代
理 は、ア ッバ ス・ゴ リの 親戚で ある 知事が 、タ バルシ の砦 からも どっ てきて 、わ れを
傷 つける かも しれな いと 恐れた から である 。わ れは、 その 不安を 取り 除くた めに 、こ
う言った。
『アモルの扇動者たちからわれを救い、この家であなたからすばらしいもて
な しを受 ける ように され た神は 、知 事の心 を変 え、同 じよ うな思 いや りと愛 情を もっ
てわれを扱うようにされるであろう。』
あ る夜 、家の 門外 でのざ わめ きでと つぜ ん目が さめ た。戸 が開 いて、 知事 が帰宅 し
た 知らせ があ った。 われ の仲間 は、 ふたた び攻 撃がは じま ると思 った が、か れが 、わ
れ われを はげ しく非 難し た者た ちを 叱って いた のでお どろ いた。 かれ は大声 で、 つぎ
のようにいさめていた。
「このあわれでみじめな者らに、客人を無礼に扱わせた理由は
何なのか?
そ の方の両手をしばりあげ、弁護する機会もあたえたかったではないか。
ど のよう な正 当な理 由が あって その 方を死 刑に しよう とし ている のか 。証拠 があ るの
か。かれらが、イスラム教を真心から信じ、その利益を擁護しているというのならば、
タバルシの砦におもむき、イスラム教を守れるかどうかを示したらどうか。」(p.375)
こ の知 事は、 砦で 身を守 って いる一 団の 勇敢な 行動 を見て 心が 変わっ てい たので あ
る。かれは以前、バブの大業を軽蔑し、その発展を阻もうと尽力していたのであるが、
砦 からも どっ て以来 、大 業に対 する 称賛の 気持 ちで満 たさ れてい たの である 。砦 で見
た 光景で 、怒 りは和 らぎ 、自尊 心は 除かれ た。 謙虚に なっ たかれ は、 尊敬の 念を いだ
い て、バ ハオ ラのと ころ に行き 、町 の住民 の無 礼さを 謝っ た。そ して 、自分 が高 い地
位 にある こと も無視 して 、バハ オラ に真心 から 仕えた 。か れはま た、 モラ・ ホセ イン
を 高く称 賛し 、その 知恵 と大胆 さ、 その手 腕と 人格の 高貴 さをく わし く述べ た。 ニ、
三 日後、 知事 は、バ ハオ ラと仲 間た ちをテ ヘラ ンに向 けて 安全に 出発 させる こと がで
きた。
バ ハオ ラは、 タバ ルシの 砦の 仲間と 運命 を共に し、 砦の仲 間に 最大限 の援 助をし た
い と望ん だが 、そう いう 定めで はな かった 。神 秘的な 神の 定めに より 、バハ オラ は、
そ の直後 の戦 いで、 仲間 にふり かか った悲 壮な 最期を 免れ るよう にな ってい たの であ
る 。もし バハ オラが 砦に 到着し 、勇 敢な一 団に 加わっ たな らば、 その 後展開 して ゆく
偉 大なる ドラ マで、 定め られた 役割 を果た すこ とがで きた であろ うか 。荘厳 に計 画さ
れ 、見事 に着 手され た大 業を、 どの ように 成就 するこ とが できた であ ろうか 。シ ラズ
か らバブ の呼 び声が とど いたと き、 バハオ ラは まだ青 年で あった 。二 十七才 で大 業に
献 身する ため に立ち 上が り、恐 れな くその 教え を支持 し、 その普 及の ため、 模範 的な
役 割を果 たし て著名 とな った。 かれ には、 どれ ほどの 努力 が求め られ ても、 それ に対
応 する能 力が あたえ られ ており 、ま た、ど れほ どの犠 牲が 要求さ れて も、そ れを 満た
す 信仰の 力が 付与さ れて いた。 目的 成就の ため には、 名声 も富も 地位 もすべ て捨 て去
っ た。友 人の あざ笑 いも 敵のお どし も、大 業の 促進を 阻む ことは でき なかっ た。 かれ
らは皆、この大業を、わけの分からない禁止された分派とみなしていたのであったが。
(pp.375-376)
以 下の 出来事 は、 バハオ ラの 独特な 地位 を示す もの である 。ガ ズビン で逮 捕され た
仲 間を援 助し て監禁 され たこと 。こ れは最 初の 監禁で あっ た。タ ヘレ 救出の 手腕 。バ
ダ シュト での 困難な 議事 進行を 、見 事に導 いた 模範的 態度 。ニヤ ラで ゴッド スの 命を
救った方法。タヘレの性急な行動から起されたきわどい事態に対する英知ある処置と、
タ ヘレの 保護 にあた って の注意 深さ 。タバ ルシ の砦の 仲間 にあた えた 忠告。 モラ ・ホ
セ インと 仲間 の一団 に、 ゴッド スを 加える 案を 編み出 した こと。 砦の 勇敢な 一団 の支
援 に自ら 立ち 上がっ たこ と。侮 辱的 な処罰 を、 仲間に 代わ って自 分が 受けた 高潔 さ。
仲 間によ るナ セルデ ィン 国王の 暗殺 未遂の 結果 、バハ オラ は懲罰 を受 けたが 、そ のと
きの平静さ。ラヴァサンから軍本部、さらに首都へと連行された際受けた数々の屈辱。
テ ヘラン の暗 黒の地 下牢 シア・ チャ ールで つけ られた くさ りの重 圧。 以上は 、バ ハオ
ラ が占め る独 特の地 位を 雄弁に 証言 するい くつ かの例 であ る。そ の地 位とは 、ペ ルシ
ャ を再生 する 諸力の 主な 推進者 とし ての地 位で ある。 それ らの諸 力を もたら し、 その
進 路をみ ちび き、そ の活 動を調 和さ せ、最 後に 、大業 へと 成就さ せた のはバ ハオ ラで
あった。バハオラはその大業を後日、明らかにするようになっていたのである。
第二十章
マザンデランの動乱(つづき)
一 方、 メヘデ ィ・ ゴリ王 子の 率いる 軍隊 は、士 気喪 失から 回復 し、タ バル シの砦 の
一 団への 再攻 撃を用 意周 到に準 備し ていた 。砦 の一団 はふ たたび 、大 軍勢に 包囲 され
た 。その 先頭 に立っ て、 アッバ ス・ ゴリと ソレ イマン ・カ ーンが 進撃 してき た。 かれ
ら は、歩 兵隊 と騎兵 隊を 率いて 王子 の兵士 団を 増援し にき ていた ので あった 。こ の二
つ の軍団 は合 同で砦 の近 くに野 営し 、その 周り に七つ のバ リケー ドを 配置し た。 そし
て 、ごう 慢な 態度で 、最 初自分 たち の軍勢 の大 きさを 誇示 し、日 々の 演習に 熱心 には
げんだ。 (p.378)
一 方、 包囲さ れて いる砦 の一 団は、 水が 不足し てき たので 、砦 内で井 戸を 掘った 。
一 八四九 年二 月一日 、井 戸掘り の完 成予定 日に 、その 仕事 を見守 って いたモ ラ・ ホセ
インは、こう述べた。
「今日、風呂に必要な水が十分手に入る。俗世の汚れをすべて洗
い 落とし 、全 能の神 の宮 居を求 め、 永遠の 住い に急ご う。 殉教の 杯に あずか りた い者
は 、その 準備 をし、 生命 の血で 大業 への信 仰を 固める 時間 を待と う。 今夜、 夜明 け前
に 、わた しと 行動を 共に したい 者は 、この 砦か ら出、 われ われの 道を 阻んで きた 暗黒
の勢力をふたたび散らし、自由に栄光の高みに昇る準備をせよ。」
そ の日 の午後 、モ ラ・ホ セイ ンは身 を清 め、新 しい 衣服を 着、 バブの ター バンを 頭
に つけ、 せま ってき た戦 いの準 備を した。 その 顔は、 言い ようの ない よろこ びで かが
やいていた。かれは、しずかに自分の出発の時間を仲間に知らせ、かれらを励ました。
そして、この世から去る前の時間、ゴッドスと二人きりになり、かれの足下に座して、
抑 えがた い熱 望をす べて 打ち明 けた 。モラ ・ホ セイン にと って、 ゴッ ドスは 、ま さし
く 、最愛 なる 御方( バブ )を思 い起 こさせ る人 であっ たの である 。夜 半過ぎ 、明 けの
明 星が現 われ るとす ぐ、 馬に乗 り、 砦の門 を開 けるよ うに 合図し た。 この明 星は 、最
愛なる御方との永遠の再会を知らせる光でもあった。三百余人の仲間の先頭に立って、
砦 から出 てき た瞬間 、ふ たたび 「こ の時代 の主 なる御 方よ !」と いう 叫び声 があ げら
れた。その強烈な叫び声は、森と砦と軍の野営陣地に大きくこだました。(p.379)
モ ラ・ ホセイ ンは まずバ リケ ードに 向か って突 撃し た。こ のバ リケー ドは 、敵の 勇
敢 な指揮 官の 一人、 ガデ ィが守 って いるも ので あった 。モ ラ・ホ セイ ンはす ぐバ リケ
ー ドを破 り、 指揮官 を片 付け、 兵士 たちを 追い 払った 。同 じ速度 と大 胆さで 、第 二と
第 三のバ リケ ードを 破り 、突進 して いった 。そ れを見 た敵 軍は仰 天し 、絶望 感に おそ
わ れた。 その 後の混 乱の 中、敵 のア ッバス ・ゴ リは木 に登 り、木 の葉 のかげ に身 をひ
そめ、モラ・ホセインの仲間を待ち伏せて襲うことにした。暗がりのかくれ場所から、
モ ラ・ホ セイ ンと仲 間の 動きを 追う ことが でき た。敵 が起 した大 火炎 で、か れら の姿
が はっき り見 えたの であ る。そ のと き、モ ラ・ ホセイ ンの 馬が近 くの テント のロ ープ
に 足をか らま せた。 そこ から抜 け出 そうと して いると き、 敵の弾 丸が かれの 胸に 当た
っ た。発 砲し たのは アッ バス・ ゴリ であっ たが 、だれ に当 たった のか はわか らな かっ
た 。モラ ・ホ セイン は多 量の血 を流 しなが ら馬 からお り、 二、三 歩あ るいて 力つ き地
面 に倒れ た。 コラサ ン出 身のゴ リと ハサン とい う二人 の若 い仲間 が、 モラ・ ホセ イン
を助け出し、砦に運んだ。(p.380)
わたし(著者)は、サディクとフォルギからつぎのように聞いた。「われわれは、ゴ
ッ ドスと 共に 砦に残 って いまし た。 モラ・ ホセ インが 運び 込まれ ると すぐ、 部屋 を離
れ るよう に指 示され まし た。そ のと き、モ ラ・ ホセイ ンは 意識を 失っ ている よう に見
え ました 。ゴ ッドス はバ ゲルに ドア を閉め てだ れも入 れな いよう に指 示して 、こ う言
いました。
『モラ・ホセインと二人切りにしてもらいたい。かれに内密に話したいこと
がある。』二、三分後、モラ・ホセインがゴッドスの質問に答えている声を聞いておど
ろ きまし た。 その後 、二 時間ほ ど二 人は対 話を つづけ まし た。そ の間 、バゲ ルが ひじ
ょうに興奮しているのを見てふしぎに思いましたが、後で、こう話してくれました。
『ド
ア の裂け 目か らゴッ ドス を見守 って いまし た。 かれが 、モ ラ・ホ セイ ンの名 を呼 んだ
と ころ、 かれ は、直 ちに 起き上 がり 、いつ もの ように 、ひ ざをま げて 、ゴッ ドス のそ
ば に座り まし た。頭 を垂 れ、目 を伏 せて、 ゴッ ドスの 言葉 に聞き 入り 、質問 に答 えて
いました。ゴッドスがこう言っているのが聞こえました。
『あなたはこの世からの出発
の 時間を 早め られた 。そ して、 わた しを敵 の掌 中に置 かれ た。わ たし も、ま もな く、
あなと合流し、天国の甘美なよろこびを味わいたいと願っている。』わたしは、モラ・
ホセインの言葉も聞き取ることができました。
『わたしの命があなたの身代わりになれ
ますように願います。わたしに満足していただけるでしょうか。』
長 い時 間が過 ぎ去 ったあ と、 ゴッド スは バゲル にド アを開 け、 仲間を 中に 入れる よ
う に指示 しま した。 われ われが 部屋 に入ろ うと してい ると き、ゴ ッド スはこ う言 いま
し た。『 以前 話せな かっ たこと を今 かれと 話す ことが でき た。』 その とき、 モラ ・ホセ
イ ンはす でに 息を引 き取 ってい まし たが、 かす かなほ ほ笑 みが残 って いまし た。 ひじ
ょ うにお だや かな表 情を してい まし たので 、眠 ってい るよ うに見 えま した。 ゴッ ドス
は モラ・ ホセ インに 自分 の上着 を着 せ、シ ェイ キ・タ バル シ聖堂 のす ぐ南側 に埋 葬す
る ように 指示 しまし た. ゴッド スは モラ・ ホセ インの 額と 目に別 れの 接吻し なが ら、
こう言いました。
『神の聖約に最後まで忠実であったあなたは幸いである。あなたとわ
たしは絶対離れないように祈る。』ゴッドスのこの言葉には強烈な思いが込められてい
ま したの で、 そこに 立っ ていた 七人 の仲間 は号 泣し、 自分 たちが 犠牲 になり たか った
と 思った ほど でした 。ゴ ッドス は自 分の手 で遺 体を墓 に安 置しま した 。そし て、 そば
に 居た仲 間に 、墓の 場所 を一切 秘密 にして おく ように 、仲 間にも 知ら せない よう に警
告しました。その後、ゴッドスは、同じ戦いで殉教した三十六名の遺体を、シェイキ・
タ バルシ 聖堂 の北側 に全 部いっ しょ に埋葬 する ように 指示 しまし た。 遺体が 安置 され
ているとき、ゴッドスは述べました。
『神から愛される者らは、これらの殉教者の模範
を 心に留 めよ 。かれ らが つぎの 世で も和合 して いるよ うに 、皆も この 世にお いて 和合
していなければならない。』」
そ の夜 、仲間 のう ち少な くと も九十 人が 負傷し 、そ のうち 大半 は死亡 した 。仲間 の
一 団がバ ルフ ォルー シュ に到着 後、 最初に 攻撃 された 日の 一八四 八年 十月十 日か らモ
ラ ・ホセ イン が亡く なっ た日、 一八 四九年 二月 二日ま でに 殉教し た仲 間の数 は、 バゲ
ルの計算によると、七十二名になっていた。
敵 の攻 撃開始 から モラ・ ホセ インが 殉教 するま での 期間は 百十 六日で あっ た。そ の
間 のモラ ・ホ セイン の武 勇は忘 れら れない もの で、最 悪の 敵でさ え、 その腕 前に 驚嘆
し たほど であ った。 四回 にわた って 、かれ は最 高の勇 気と 威力を 見せ た。最 初は 、一
八 四八年 十月 十日の バル フォル ーシ ュ近郊 の戦 いであ った 。二回 目は 、一八 四八 年十
二 月一日 のタ バルシ の砦 近くで の戦 い、三 回目 は、一 八四 八年十 二月 二十一 日の ヴァ
ス ・カス で、 メヒデ ィ・ ゴリ王 子の 軍隊と 対決 したと きで あった 。最 後のも っと も忘
れ がたい 戦い は、ア ッバ ス・ゴ リ、 メヒデ ィ・ ゴリ王 子、 ソレイ マン ・カー ンの 合同
軍 勢に対 する 抗戦で あっ た。こ の軍 勢には 、四 十五名 の有 能で経 験を 重ねた 将校 が参
加していた。(p.382)
モ ラ・ ホセイ ンは 、これ らの 圧倒的 な軍 勢との 激烈 な戦い で、 傷ひと つ負 わず勝 利
を 収めた 。モ ラ・ホ セイ ンの見 事な 勇気と 武芸 の腕前 は、 一回の 戦い だけで も、 この
信 教が人 知を 超えた もの である こと を証明 した 。かれ は、 信教を 守る ために 勇敢 に戦
い 、その 道で 気高い 死を 遂げた ので ある。 若い ころか ら見 せた知 性と 品格、 学識 の深
さ 、信仰 の固 さ、剛 勇、 一つの 目的 への専 心、 高度の 正義 感、不 動の 献身に よっ て、
モ ラ・ホ セイ ンは、 新し い啓示 の栄 光と威 力を 認めた 者ら の間で 、傑 出した 人物 とな
っ たので ある 。そし て三 十六才 で殉 教した 。カ ルベラ でカ ゼムと 知り 合った のは 十八
才 のとき で、 九年間 カゼ ムのも とで 知識を 吸収 したが 、そ れは、 バブ の教え を受 け入
れ るため の準 備であ った 。その 後の 九年間 は、 一時も 休む ことの ない はげし い活 動を
つづけ、最後には殉教の場へと運ばれ、故国の歴史に不滅の光輝を注いだ。(p.383)
敵 軍は 、屈辱 的な 敗北で 、あ る期間 動け なくな った 。再軍 備し て攻撃 がで きるま で
四 十五日 かか ったの であ る。そ の期 間は正 月ま でつづ いた 。その 間、 きびし い寒 さが
つ づいた ため 、敵は 、自 分たち に大 変な恥 をか かせ、 面目 を失わ せた 砦の一 団を 攻撃
す るのを ひか えた。 しか し、敵 軍の 指揮官 は、 必需品 が砦 に運ば れる のを阻 止せ よと
の 命令を 受け た。ゴ ッド スは、 食糧 がほと んど 底をつ いた とき、 モラ ・ホセ イン が緊
急 時のた めに そなえ てい た米を 、バ ゲルに 頼ん で仲間 に配 分させ た。 各人分 け前 を受
け取ったあと、ゴッドスは全員を集め、つぎのように勧告した。
「まもなく災難がおそ
っ てくる が、 それに 耐え 得ると 思う 者は砦 に残 るがよ い。 少しで も恐 怖感や ため らい
を感じる者は、この場所から離れよ。敵がふたたび軍力を集めて、攻撃にうつる前に、
す ぐ発つ こと だ。す ぐし なけれ ば、 逃げる 道は 閉ざさ れて しまう 。こ の後ま もな く、
最悪の苦難がわれわれに襲いかかるであろう。」(p.384)
こ の警 告が出 され た日の 夜、 モタヴ ァリ という 男が 、仲間 を裏 切って 、敵 の司令 官
アッバス・ゴリにつぎのような手紙を書いた。
「司令官は、なぜ攻撃を途中で止められ
て いるの です か。あ なた の軍は すで に、お そる べき敵 であ るモラ ・ホ セイン を殺 害さ
れ た。砦 の主 動力で あっ たかれ が除 かれ、 砦の 力と安 全を 守る柱 が倒 れたの です 。も
う 一日忍 耐さ れてお れば 、確実 に勝 利の栄 冠を 得られ たで しょう 。砦 には百 人ほ どし
か いませ ん。 誓って 申し ますが 、あ なたの 連隊 は二日 以内 に砦を 占拠 でき、 一団 は無
条 件降伏 をす るでし ょう 。皆、 食べ 物がな く、 疲れ切 って おり、 ひど く苦し んで おり
ます。」
こ の手 紙は密 封さ れ、も う一 人の男 ザル ガール に渡 された 。か れは、 ゴッ ドスか ら
も らった 米を もって 、夜 半に砦 から こっそ り抜 け出し た。 すでに 知り 合いに なっ てい
た アッバ ス・ ゴリに 手紙 を渡す ため であっ た。 そのと き、 アッバ ス・ ゴリは 砦か ら十
五 キロメ ート ルほど 離れ た村に 避難 してい た。 そこで 、テ ヘラン にも どって 、不 面目
な 敗北を 受け た身で 、国 王の面 前に 出頭す べき か、そ れと も、故 郷に もどっ て親 族や
友人の非難を受けるべきなのか思案中であった。(p.385)
ア ッバ ス・ゴ リが 手紙を 受け 取った のは 、夜明 けで 、起床 時で あった 。モ ラ・ホ セ
イ ン死亡 を知 って、 勇気 を出し 、あ らたな 決意 をした 。し かし、 この 使者が 、モ ラ・
ホ セイン 死亡 のニュ ース を広め るの ではな いか と恐れ て、 その場 で殺 害した 。そ のあ
と 策略を めぐ らして 殺人 の疑い が自 分にか から ないよ うに した。 砦の 一団が 困窮 状態
に あり、 人数 も減っ てい るのは 最適 の機会 だと 、すぐ 攻撃 準備に かか った。 新年 の十
日 前には 砦か ら二キ ロメ ートル 離れ たとこ ろに 野営し 、裏 切り者 がも たらし たニ ュー
ス が正確 かど うかを 確か めた。 砦の 一団を 降伏 させた とき の功績 を自 分一人 占め にし
たいと思い、モラ・ホセイン死亡のニュースを、一番親しい士官にも明かさなかった。
夜 明け に、ア ッバ ス・ゴ リは 旗をか かげ て、歩 兵隊 と騎兵 隊の ニ師団 の先 頭に立 っ
て 進み、 砦を 包囲し 、小 塔にい た見 張り人 に向 かって 発砲 するよ うに 命じた 。緊 急事
態を知らせるために駆けつけたバゲルに、ゴッドスは言った。
「裏切り者がモラ・ホセ
イ ンの死 をア ッバス ・ゴ リに知 らせ た。こ のニ ュース に勇 気づけ られ 、われ われ の砦
を 襲撃し 、唯 一の征 服者 となっ て栄 誉を得 よう として いる のだ。 十八 名の仲 間を 横に
並 ばせて 進撃 せよ。 そし て、侵 略者 とその 軍勢 に懲罰 をあ たえよ 。モ ラ・ホ セイ ンは
い なくと も、 神の無 敵の 威力は 仲間 を援助 しつ づけ、 敵の 勢力に 打ち 勝つこ とが でき
ることを知らせよ。」(p.386)
バゲルは仲間を選び、すぐ砦の門を開くように命じた。皆馬に飛び乗り、
「この時代
の 主なる 御方 よ!」 と叫 びなが ら、 敵の陣 地へ と突撃 した 。その あま りの凄 さに 、敵
の 全軍は あわ てて逃 げ去 った。 かれ らは完 全に 士気を 失い 、面目 をつ ぶされ てバ ルフ
ォ ルーシ ュに 着いた 。指 揮官の アッ バス・ ゴリ は、あ まり の恐怖 感に 馬から 落ち た。
そして、片一方の長靴をあぶみに残したまま、兵士たちが向かった方向に逃げ去った。
失 望した かれ は、王 子の ところ に急 ぎ、不 面目 ながら も状 況が逆 転し たこと を告 白し
た 。一方 、バ ゲルは 傷一 つ負わ ず、 十八人 の仲 間と共 に、 敵が残 して いった 旗を もっ
て 、意気 揚々 と砦に もど ってき た。 そして 、勇 気をあ たえ てくれ た指 導者の ゴッ ドス
に勝利を伝えた。(pp.387-388)
敵 が完 全に敗 走し たあと 困窮 に陥っ てい た仲間 はほ っとし た。 この戦 いは 、和合 を
強 め、信 教が かれら にも たらし た力 の効果 をあ らたに 思い 出させ た。 食べ物 は、 敵の
陣 地から 運ん できた 馬の 肉だけ とな った。 かれ らは、 あら ゆる方 向か ら襲っ てき た苦
難 に、不 屈の 精神で 耐え 、心を ゴッ ドスの 望み に向け た。 どれほ ど苦 しくて も、 どれ
ほ ど敵の 攻撃 がつづ いて も、殉 教し た仲間 が勇 敢に歩 いた 道から わず かでも それ るこ
と はなか った 。災難 の苦 しみの 最中 、気の 弱い 少数の 者が つまず き、 仲間を 裏切 った
り したが 、そ れは、 大半 の勇気 のあ る仲間 が殉 教の時 間に 放った 光輝 の前に 、意 味の
ないものとなった。(p.388)
サ リに 野営し てい たメヘ ディ ・ゴリ 王子 は、同 僚の 指揮官 アッ バス・ ゴリ の率い る
連 隊が敗 走し たこと を知 って大 変う れしく 思っ た。も ちろ ん、か れ自 身も砦 の一 団を
根 絶した かっ たので ある が、自 分の 手で勝 利を おさめ たか ったの で、 競争相 手が 失敗
し たこと をよ ろこん だの である 。か れはす ぐ、 テヘラ ンの 中央政 府に 手紙を 出し 、強
情 な砦の 一団 の完全 征服 に必要 な爆 弾と大 砲を 、砦の 近く まで即 刻送 るよう に要 請し
た。
こ うし て敵が 再度 の大攻 撃の 準備を して いる一 方、 ゴッド スと 仲間は 、極 度の苦 し
み にも気 にか けず、 新年 をよろ こび と感謝 の気 持ちで 迎え た。そ して 、全能 なる 神が
あ たえて くれ たもろ もろ の祝福 を感 謝と賛 美の 気持ち で自 由に語 り合 った。 空腹 感に
お そわれ なが らも、 迫っ てきた 危険 を無視 して 、歌な どで 楽しん だの である 。昼 も夜
も、砦はよろこびにあふれた一団の神への賛美の詠唱でこだました。
「主なるわれらの
神、天使と聖霊の主は、まことに聖なるものなり。」という仲間の口からもれる聖句で、
熱意は高められ、勇気が奮い起こされた。(p.389)
仲 間の 一団が 砦に 連れて きた 家畜の うち 、一匹 の牛 だけが 残っ た。そ れは ナシロ ッ
ド ・ディ ンが 保管し てお いたも ので 、かれ は毎 日その 牛の 乳をし ぼっ てゴッ ドス のた
め にプッ ディ ングを 作っ ていた 。ゴ ッドス は、 そのプ ッデ ィング をほ んの少 し取 り、
残りは空腹の仲間に分け与えた。かれは、しばしばつぎのように言った。
「モラ・ホセ
イ ンが去 った あと、 仲間 が作っ てく れる食 べ物 も飲み 物も おいし くな くなっ た。 飢え
で苦しみ、疲れ果てている仲間を見て心が痛むのだ。」この逆境にもかかわらず、ゴッ
ドスは「サマードのサット(自著の解説書)」の意味を説明しつづけ、最後まで忍耐す
る ように 仲間 を激励 した 。朝と 夕、 バゲル は仲 間の集 まり で、そ の解 説書を 読ん だ。
それを聞いて、かれらの熱意は強められ、希望で満たされたのである。
わたし(著者)は、フォルギからつぎのように聞いた。
「われわれは食べたいと思わ
な くなり まし た。こ のこ とは神 がご 存知で す。 日々の 糧に 関する こと は考え なく なっ
た のです 。ゴ ッドス の解 説書の 言葉 に魂が 完全 に魅せ られ てしま った のです 。こ の状
態 が何年 もつ づき、 どれ ほど疲 労と 倦怠に おそ われて も、 われわ れの 熱意が 弱ま った
り 、よろ こび が損な われ たりす るこ とはな かっ たでし ょう 。食べ 物の 不足で 体力 や気
力 がおと ろえ たとき 、バ ゲルは ゴッ ドスの とこ ろに行 き、 われわ れの 状態を 知ら せま
し た。そ こで 、ゴッ ドス はわれ われ の間を 歩き まわり 、激 励の言 葉を かけた ので す。
そ のとき の顔 の表情 と、 不思議 な力 に満ち た言 葉で、 われ われの 意気 消沈は 歓喜 とな
っ たので す。 こうし て、 強大な 力を 得たわ れわ れは、 敵の 大軍が とつ ぜんお そっ てき
ても、その軍勢を征服できると感じました。」(pp.389-390)
一 八四 九年の 元旦 に、ゴ ッド スは仲 間に 書簡を 書き 、その 中で まもな く激 烈な試 練
が ふりか かり 、多数 の仲 間が殉 教す ること を暗 示した 。ニ 、三日 後、 メヘデ ィ・ ゴリ
王 子の大 軍と ソレイ マン ・カー ン、 アッバ ス・ ゴリ、 ゴリ ・カー ンの 合同軍 、そ のほ
か 、およ そ四 十名の 士官 が砦の 近く に野営 し、 付近に 塹壕 やバリ ケー ドを造 りは じめ
た 。新年 九日 目に、 司令 官は砲 兵隊 に、砦 に向 かって 発砲 するよ うに 命じた 。攻 撃が
つ づいて いる 最中に 、ゴ ッドス は部 屋から 砦の 真ん中 に出 てきた 。か れは顔 にほ ほ笑
み を浮か ばせ ており 、態 度はま った く平静 であ った。 歩い ている かれ の面前 にと つぜ
ん砲弾が落ちてきた。かれは落ち着き払ってその砲弾を足で転がしながら言った。
「 尊大な 侵略 者たち は、 神の復 讐の 威力に まっ たく気 づい ていな い。 ぶよの よう な取
る に足り ない 生き物 さえ も、強 大な ニムロ デの 命を終 わら せるこ とが できた こと を忘
れ てしま った のか。 大嵐 のとど ろき だけで 、ア ッドと サマ ードの 部族 (古代 アラ ビア
の 部族) とそ の軍勢 を滅 ぼすの に十 分であ った ことを 聞か なかっ たの か。神 の英 雄た
ち を残酷 にも 脅迫し よう とする のか 。神の 目に は、王 位の 華麗さ は、 空虚な 影に しか
す ぎない のだ 。」ゴ ッド スは仲 間に 向かっ てこ う付け 加え た。「 皆は 、神の 使者 モハメ
ッドが語っていた仲間なのだ。
『世の終わりに現われるわが同胞の顔を見たいと、われ
は どれほ ど切 望して いる ことで あろ うか。 われ われは 幸い であり 、か れらも 幸い であ
る。しかし、かれらの方が、われわれより幸いである。』自我と欲望で、これほど栄光
あ る地位 を失 わない よう にせよ 。邪 悪なる 者の おどし を恐 れたり 、不 信心者 の騒 ぎで
狼 狽した りし ないよ うに せよ。 皆そ れぞれ に時 間が定 めら れてい る。 敵の攻 撃も 仲間
の 援助も 、そ の時間 を遅 らせる こと も早め るこ ともで きな いのだ 。地 上のも ろも ろの
勢 力が一 斉に 向かっ てき ても、 その 時間が くる まで、 皆の 生命を わず かでも 縮め るこ
と はでき ない のだ。 はげ しさを 増す この銃 声の とどろ きで 、一瞬 でも 心をか き乱 され
るならば、神の保護の砦から出ることになるのだ。」
こ の強 烈な訴 えで 、仲間 の心 は確信 に満 たされ た。 しかし 、少 数はた めら いと恐 怖
感 を顔に あら わし、 砦の 片隅に 集ま り、ほ かの 仲間の 熱意 をうら やま しそう に、 また
おどろきをもって見守った。(pp.390-392)
メ ヘデ ィ・ゴ リ王 子の軍 隊は 、ニ、 三日 間砦に 向か って発 砲し つづけ た。 しかし 、
そ の銃弾 のと どろき も、 砦の一 団の 祈りと 歓喜 の声を しず めるこ とは できな かっ た。
こ れは、 兵士 にとっ てお どろき であ った。 軍は 一団の 無条 件降伏 を期 待して いた が、
聞 こえて きた のは、 祈り の呼び かけ とコー ラン の聖句 の詠 唱と感 謝と 賛美の 歌声 であ
ったのである。
こ の一 団の胸 に高 まる熱 意を どうし ても 消さな けれ ば、と いう 強烈な 思い で、指 揮
官 のゴリ ・カ ーンは 、塔 を建て 、そ こに大 砲を 置き、 そこ から砦 の真 ん中向 けて 発砲
するように命じた。ゴッドスは、直ちにバゲルを呼び、再度の出撃を命じた。そして、
「 ごう慢 な新 来者」 であ る指揮 官に 、アッ バス ・ゴリ にあ たえた と同 じ屈辱 をあ たえ
るように指示したのである。そして、こう付け加えた。
「ライオンのように勇敢な神の
武 士は、 飢え に駆ら れる と、普 通の 人間で はで きない 武勇 を示し 得る ことを 、か れに
知 っても らお う。ま た飢 えが激 しけ れば激 しい ほど、 武勇 の効果 も偉 大であ るこ とも
知ってもらおう。」
そ こで 、バゲ ルは ふたた び十 八名の 仲間 に、馬 に乗 り自分 のあ とにつ づく ように 命
じ た。砦 の門 は大き く開 かれ、 一団 は「こ の時 代の主 なる 御方よ !」 と、こ れま で以
上 に激烈 で、 体中を つき ぬける よう な叫び をあ げなが ら突 進した 。敵 軍はこ れに 仰天
し 、パニ ック となっ た。 ゴリ・ カー ンと、 その 連隊の 三十 名の兵 士が バゲル の率 いる
一 団の剣 に倒 れた。 一団 は塔に のぼ り、大 砲を 地面に 投げ 落とし 、バ リケー ドの 多く
を 壊して いっ た。あ たり が暗く なら なけれ ば、 残りの バリ ケード も破 壊して しま って
いたであろう。
バ ゲル の率い る十 八名は 、無 傷で勝 利を 得、敵 が残 してい った たくま しい 馬を何 匹
か 率いて 、砦 にもど って きた。 その 後ニ、 三日 は敵の 反撃 はなか った が、と つぜ ん敵
の武器倉庫の一つが爆発し、数人の砲兵隊の士官と多数の兵士が死亡した。このため、
一 ヵ月間 攻撃 を中止 せざ るを得 なか った。 この 間、砦 の仲 間はと きど き外に 出て 、野
原 の草を 集め ること がで きた。 それ は飢え をし のぐ唯 一の 道であ った 。馬の 肉も 、鞍
の 皮さえ も空 腹の仲 間が 食べて しま ってい たの である 。か れらは 草を 煮て、 痛ま しく
も 、それ をむ さぼっ たの である 。ゴ ッドス は、 体力が おと ろえ、 疲労 で苦し んで いる
仲 間のと ころ にひん ぱん にきて 、激 励の言 葉を かけて 元気 づけ、 苦し みをや わら げよ
うと努めた。(pp.394-395)
一 九四 九年の 四月 から五 月に かけて 、敵 の砲弾 が砦 に向か って とびは じめ た。大 砲
のとどろきと同時に、多くの士官を先頭に、数個隊の歩兵隊と騎兵隊が突撃してきた。
そ の大轟 音を 聞いた ゴッ ドスは 、す ばやく 勇敢 な副官 バゲ ルに、 三十 六名の 仲間 をと
もなって、敵を撃退するように命じた。そして、こう述べた。
「 この砦 に来 て以来 、わ れわれ は、 いかな る状 況にあ って も、敵 を攻 撃した こと は一
度 もない 。敵 が攻撃 して きたの で、 自分の 身を 守るた めに 立ち上 がら ざるを 得な かっ
た 。もし 、わ れわれ が敵 に対し て聖 戦をし かけ る野心 をも ち、不 信心 者たち を武 器で
征 服しよ うと 望んだ のな らば、 われ われは 、こ の砦に 今日 までと どま ってい なか った
で あろう 。わ れわれ の武 力はす でに 、以前 モハ メッド の弟 子たち がし たよう に、 地上
の 国民を 震撼 させ、 神の メッセ ージ を受け 入れ る準備 をさ せたで あろ う。と ころ が、
わ れわれ が選 んだ道 はそ うでは ない のだ。 この 砦に避 難し て以来 、わ れわれ の唯 一の
目 的は、 行動 と信仰 の道 におい て生 命の血 を流 すこと によ り、使 命の 高貴さ を立 証す
ることにあった。今や、この任務を達成する時間がすばやく近づきつつある。」
バ ゲル はふた たび 馬に飛 び乗 り、自 分で 選んだ 三十 六名の 仲間 と共に 、攻 めてき た
敵軍を追い払った。かれは、
「この時代の主なる御方よ!」という叫びにおどろいた敵
が 捨てて いっ た旗を もっ て砦に 入っ てきた 。こ の戦い で五 人の仲 間が 殉教し た。 遺体
は全部砦内の運びこまれ、ほかの殉教者たちの墓地近くに五人いっしょに葬られた。
メ ヒデ ィ・ゴ リ王 子は、 一団 の疲れ を知 らない 活力 を見て 仰天 した。 そこ で、参 謀
を 集めて 、経 費のか かる この戦 いを すばや く終 わらせ る方 法につ いて 相談し た。 三日
間 相談し 、最 上と思 われ る方法 を編 み出し た。 それは 、数 日すべ ての 攻撃を 中止 し、
一 団が飢 えで 疲労し 、絶 望と苦 しみ に耐え られ なくな って 、砦か ら出 て、無 条件 降伏
をするのを待つことであった。(p.396)
王 子が 、この 計画 が思い 通り に行く のを 待って いる とき、 国王 の勅令 をた ずさえ た
使 者が、 テヘ ランか ら到 着した 。こ の使者 は、 首都テ ヘラ ンの近 郊、 カンド 村の 住民
で あった 。か れは、 王子 から砦 に入 る許可 を得 た。そ の目 的は、 砦内 の二人 、メ ヘデ
ィ ・カン ディ と弟の バゲ ル・カ ンデ ィに、 危険 のせま って いる砦 から 逃げる よう に説
得 するた めで あった 。砦 の外壁 に近 づくと 見張 り人を 呼び 、メヘ ディ ・カン ディ に、
友 人が会 いに きたこ とを 知らせ てく れるよ うに 頼んだ 。見 張り人 から 知らせ を受 けた
メヘディ・カンディは、ゴッドスにそのことを伝えて、友人と会う許可を得た。
わ たし (著者 )は 、アガ ・カ リム( バハ オラの 実弟 )から つぎ のよう に聞 いた。 か
れは、テヘランでその使者本人から聞いたことを話してくれたのである。
「その使者は
わたしにこう語りました。
『メヘディ・カンディは砦の外壁の上に現われました。その
顔 はどう 描写 したら よい のか迷 うほ どの断 固た る決意 をあ らわし てい ました 。顔 つき
は ライオ ンの ように けわ しく、 アラ ブ人が 着る 長い白 色の 外衣を 着て 、剣を さげ 、頭
に は白色 のハ ンケチ を巻 いてい た。 かれは もど かしげ に聞 きまし た。 <君は 何が 欲し
い のか?
早 く言っ てく れ。わ たし は師か らい つ呼び 出さ れるか わか らない のだ 。>
か れの目 にか がやく 決意 を見て 、わ たしは とま どいま した 。その 表情 と態度 に圧 倒さ
れ たので す。 とつぜ ん、 ある考 えが 浮かん でき ました 。そ れは、 かれ の心に 眠っ てい
る 情感を 呼び 起こす こと でした 。そ こで、 かれ が村に 残し てきた ラー マンと いう 幼児
の ことを 思い 出させ まし た。モ ラ・ ホセイ ンの 旗の下 に参 加した とき に、か れが 残し
てきた子供であった。以前、かれはその子供に深い愛情をいだいており、歌を作って、
そ の歌を 歌い ながら 子供 を寝か せて いたの です 。わた しは 言いま した 。<君 のか わい
いラーマンは、父親の愛情を欲しがっている。前のように可愛がってもらいたいのだ。
一 人ぼっ ちの かれは 父親 に会い たが ってい る。 >かれ は即 座に答 えた 。<あ の子 にこ
う 答えて くれ 。真の ラー マン( 神) への愛 、俗 世のす べて の愛を 超え た愛で 、わ たし
の心は満たされた。わたしの心には神への愛だけしかないと。>この言葉の強烈さに、
わ たしの 目に は涙が 浮か んでき まし た。そ して 、憤慨 して こう叫 びま した。 <君 と君
の仲間を神の道からそれた者とみなす者にのろいあれ!>(p.397)
わ たし は、か れに 聞きま した 。<も しわ たしが 、思 い切っ て砦 の仲間 に入 るとし た
ら 、君は どう 思うか ?> かれは しず かにこ う答 えまし た。 <君の 動機 が真理 を求 める
こ とであ れば 、よろ こん で案内 しよ う。も し、 生涯の 友と してわ たし を訪れ るの であ
れ ば、モ ハメ ッドが 不信 心者で あっ ても客 を歓 迎せよ 、と 述べら れた ように 、君 を迎
え 入れよ う。 そして 、そ の教え にし たがい 、君 にゆで た草 と骨の 粉の 食事を 差し 上げ
よ う。そ れは ここで 最高 の食事 なの だ。し かし 、君の 目的 がわた しを 傷つけ るこ とで
あ れば、 今、 警告し てお くが、 わた しは自 分を 守るた めに 、君を この 外壁か ら地 面に
投げ落とすつもりだ。>
わ たし は、こ れ以 上どれ ほど 努力し ても 、かれ の固 い決意 を変 えるこ とは できな い
と 確信し まし た。か れの 熱意は 強烈 で、国 中の 僧侶が 集ま って、 かれ を説得 した とし
て も、か れ一 人で、 その 努力を くじ いたに ちが いあり ませ ん。ま た、 地上の すべ ての
王 さえも 、か れの心 にあ る最愛 なる 御方を あき らめさ せる ことは でき ないと 思い まし
た 。わた しは 感動し 、こ う言い まし た。< 君が 飲み干 した 盃が、 君の 求める 祝福 をも
たらすように願うばかりだ。>
それから、王子の伝言を伝えました。<王子はこう誓われた。砦から出る者は全員、
身 の安全 を保 障し、 家ま での旅 費も 支払う と言 ってお られ る。> かれ は、王 子の 伝言
を 仲間に 伝え ると約 束し 、こう 言い ました 。< ほかに 言い たいこ とが あるか 。わ たし
は 師のと ころ は早く もど りたい のだ 。>わ たし は答え まし た。< 君の 目的達 成を 神が
援 助され るよ うに祈 る。 >これ に、 かれは 歓喜 の声を あげ ました 。< 神は実 際わ たし
を 援助さ れた 。神の ほか にだれ が、 わたし をカ ンドの 牢獄 のよう な暗 い家か ら救 って
く れるこ とが できた であ ろうか 。神 の援助 がな ければ 、ど うやっ てこ の貴重 な砦 に来
る ことが でき たであ ろう か。> こう 言い終 わっ たあと 、か れはわ たし から目 を離 し、
去って行きました。』」
メ ヘデ ィ・カ ンデ ィは仲 間の ところ へも どると すぐ 、王子 の約 束を伝 えた 。同じ 日
の 午後、 モタ バリと いう 仲間の 一人 が、従 者を ともな って 砦を出 て、 王子の とこ ろに
直 行した 。翌 日、バ ネミ リとそ のほ か数人 が、 飢えの 苦し みに耐 えき れず、 また 、王
子の約束を信じて、渋々仲間に別れを告げ、砦を出た。外に出るやいなや、アッバス・
ゴリの命令で、即座に殺害された。(pp.398-399)
こ の 事 件 後 ニ、三 日は 、砦の 近く に野営 して いた敵 は、 ゴッド スと その仲 間へ の攻
撃 をひか えた 。一八 四九 年五月 九日 、水曜 日の 朝、王 子の 使者が 砦に 来て、 和解 の取
り 決めを する ために 、砦 の一団 から 二人の 代表 者を出 すよ うに要 請し た。そ こで ゴッ
ド スは、 アル デビリ とレ ダイの 二人 を代表 とし て選び 、要 請に応 じた い旨を 、王 子に
伝 えるよ うに 命じた 。王 子は二 人を 丁重に 迎え 、準備 して いた紅 茶を 出した 。二 人は
そ れをこ とわ り、こ う言 った。「わ れわれ の指 導者が 、砦 内で飢 え苦 しんで いる とき、
こ こで飲 食す ること は不 忠行為 だと みなし ます 。」王 子は こう述 べた 。「わ れわ れの間
の敵対関係はあまりにも長くつづいた。双方ともに長い間戦い、ひどい損害を受けた。
ここで、和解に達したいと念願している。」王子は、そばに置いていたコーラン書を取
り上げ、最初のページの欄外に、つぎのように書き込んだ。
「この最も聖なる書と、そ
れ を顕さ れた 神の正 義と 、その 聖句 によっ て霊 感を受 けた 御方の 使命 に誓っ て申 す。
わ れは、 われ われの 間の 平和と 親愛 の促進 だけ を望ん でい る。こ れ以 上の攻 撃は ひか
え るので 、安 心して 砦か ら出て くる がよい 。あ なた方 は全 員、神 とそ の予言 者で ある
モハメッド、そしてナセルディン国王の保護下にあるのだ。わが名誉にかけて誓うが、
兵 士もこ の辺 りの住 民も 、皆に 害を あたえ るよ うなこ とは しない 。も し、わ れが 、今
述 べた以 外の 考えを いだ いてお れば 、全能 なる 復讐者 であ る神の のろ いが、 われ にふ
りかかるであろう。」(pp.399-400)
王 子は これに 署名 し、捺 印し た。そ して 、その コー ランを アル デビリ に渡 し、挨 拶
を添えて、その正式の文書をゴッドスに渡すように頼み、こう言った。
「わが誓いにし
た がって 、今 日の午 後、 多数の 馬を 砦の門 に送 らせる ので 、ゴッ ドス と仲間 はそ れに
乗 り、こ の軍 の野営 地近 くのテ ント に来て いた だきた い。 皆が故 里に 帰れる よう に準
備するので、それまでわが客として、そこに留まっていただきたいのだ。」
ゴ ッド スは、 アル デビリ から コーラ ンを 受け取 り、 それに うや うやし く接 吻し、 こ
う言った。
「おお、わが主よ。われわれとこのわれわれの一族との間を真実もてお裁き
下 さい。 あな たこそ 、最 上の判 決者 であり たま う。」(コー ラン) そし てすぐ 、仲 間に
砦を離れる準備をするように命じた。
「かれらの招待に応じれば、かれらの意図が誠実
なものであるかどうかがわかるのだ。」
出 発の 時間が せま ったと き、 ゴッド スは 、バブ から 送られ たみ どり色 のタ ーバン を
つ けた。 ちな みに、 バブ は、同 じよ うなタ ーバ ンを同 時に モラ・ ホセ インに も送 って
お り、か れは それを つけ て殉教 して いる。 さて 、皆、 砦の 門まで 出て きて、 準備 され
た 馬に乗 った 。ゴッ ドス は王子 の愛 馬に乗 った 。ゴッ ドス の後に 、主 な仲間 が馬 にの
っ て従っ た。 その後 に、 残りの 仲間 が、持 ち合 わせの 武器 や所有 物を もって 徒歩 でつ
づ いた。 合計 二百二 人の 一団は 、ゴ ッドス のた めに準 備さ れたテ ント に到着 した 。そ
れ は、デ ィズ バ村の 公衆 浴場の 近く で、敵 の陣 地を見 下ろ せると ころ にあっ た。 一団
は馬から降り、ゴッドスのテントの近くに泊まることになった。(p.400)
到着してすぐ、ゴッドスはテントから出て、仲間を集め、つぎのように述べた。
「皆、
模 範とな るよ うな超 脱心 を示さ なけ ればな らな い。そ の立 派な態 度は 、われ われ の大
業 を高揚 し、 その栄 誉を 高める であ ろう。 世俗 への愛 着を 完全に 断た なけれ ば、 大業
の 清らか な名 を汚し 、そ の光輝 をく もらせ るこ とにな ろう 。最後 の時 間まで 、皆 が神
の信教を高めることができるように、全能なる神の援助を祈ろう。」
日 没後 ニ、三 時間 して、 王子 の陣地 から 夕食が はこ ばれて きた 。食べ 物は 三十人 分
づ つ別々 の盆 に入れ られ ていた が、 貧弱で 不十 分であ った 。その とき ゴッド スと いっ
しょにいた者が、後日、つぎのように語った。
「仲間のうち九名が夕食を共にするため
に 、ゴッ ドス のテン トに 呼ばれ まし た。し かし 、ゴッ ドス は食べ 物に 口をつ けよ うと
さ れませ んで したの で、 われわ れも 食べま せん でした 。そ こにい た給 仕人た ちは 、わ
れ われが 手を つけな かっ た夕食 を、 感謝し なが らよろ こん でむさ ぼる ように 食べ まし
た。」テントの外で夕食を取っていた仲間の何人かは、給仕人に、いくらでも払うのに、
ど うして パン を譲っ てく れない のか 、と抗 議し ていた 。ゴ ッドス はそ の態度 を強 くい
ま しめた 。バ ゲルの 執り 成しが なか ったな らば 、かれ らは 、ゴッ ドス の勧告 を完 全に
無視したことに対して、重い罰を受けたであろう。(pp.401-402)
夜 明け に使者 がき て、バ ゲル に王子 の面 前に出 るよ うに要 請し た。ゴ ッド スの許 可
を 得て、 その 呼び出 しに 応じた 。一 時間後 にも どって きた バゲル は、 王子が ソレ イマ
ン・カーンの前でした誓いをくり返したことをゴッドスに告げ、こう述べた。
「王子は
『わが誓いは絶対変わることはなく、神聖なものである。』と言ってわたしを安心させ
よ うとし まし た。王 子は 、ゴリ ・カ ーンが 、サ ラール の暴 動の際 、国 王軍の 兵士 を何
千 人も殺 害に もかか わら ず、モ ハメ ッド国 王か ら赦免 され たどこ ろか 、栄誉 まで 付与
さ れたこ とに 言及し まし た。明 朝、 王子は 公衆 浴場ま であ なたに 同行 し、帰 りに あな
た のテン トま で送る 予定 です。 その 後、王 子は 馬を準 備し て、仲 間全 員をサ ング ・サ
ー ルに移 動さ せ、そ こで 解散さ せて 、めい めい 自由に イラ クの故 郷に もどら せる か、
コ ラサン に行 かせる 計画 でした 。と ころが 、ソ レイマ ン・ カーン が、 サング ・サ ール
は 要塞地 で、 そこに 大勢 の一団 が集 まれば 危険 だと警 告し たため 、王 子はフ ィル ズ・
ク ーで皆 を解 散させ るこ とに決 めま した。 わた しは、 王子 の言葉 と内 心は違 うと 感じ
ています。」
ゴッドスはこの意見に同意し、仲間全員にその夜、分散するように命じた。そして、
自 分はす ぐバ ルフォ ルー シュに 向か うこと を知 らせた 。か れらは 、ゴ ッドス に「 われ
わ れから 離れ ないで 下さ い」と こん 願した が、 かれは 、今 後どん な苦 難がふ りか かっ
て も、か なら ず再会 でき るので 、落 ち着い て忍 耐する よう に忠告 した 。そし て、 最後
の言葉をつぎのように残した。
「この別離後の再会は、永遠につづくものなので、嘆か
な いよう に。 われわ れは 、この 大業 を神の 保護 に任せ た。 神の御 心が 何であ れ、 われ
われはよろこんで従うのだ。」(p.402)
王 子は 約束を 守ら なかっ た。 ゴッド スの テント に来 る代わ りに 、かれ と仲 間何人 か
に 、隊長 のテ ントに 行く ように 命じ た。そ して 、正午 に自 分のと ころ に呼ぶ と知 らせ
た。まもなくして、王子の従者数人が、仲間のところに行き、
「ゴッドスは軍本部にお
り、皆に会いに来てもよいと言っている。」とうそをついた。この知らせに、数人がだ
ま されて 軍本 部に向 かい 、捕虜 とな り、最 後に は奴隷 とし て売ら れた 。これ らの 不運
な 犠牲者 たち は、シ ェイ キ・タ バル シの砦 の仲 間で生 き残 った者 らと なった 。か れら
は 勇敢な 戦い を生き 延び 、その 苦難 と試練 の悲 痛な体 験を 国民に 伝え るため に助 命さ
れたのであった。
その直後、王子の兵士たちは、アルデビリに圧力をかけて、残りの仲間に、「ゴッド
スが、武器をすぐ放棄せよと命じている。」と言わせようとした。そのとき、アルデビ
リは軍本部からかなり離れたところに連行されていた。かれらはアルデビリに聞いた。
「 お前が 仲間 に伝え るべ きこと を言 ってみ ろ。」かれ は大 胆にこ う答 えた。「お まえた
ち が、指 導者 に代わ って 伝える こと は、す べて 真っ赤 なう そであ る、 とかれ らに 警告
するつもりである。」この言葉を言い終わらないうちに、アルデビリは無情にも殺害さ
れた。
こ の残 忍行為 のあ と、兵 士た ちは砦 に行 き、物 品を 略奪し 、建 物を爆 破し て完全 に
破 壊した 。そ のあと 、残 りの仲 間を 取り巻 き、 かれら に向 かって 発砲 した。 砲弾 が当
た らなか った 者は、 剣や 槍で殺 害さ れた。 死の 苦悶の 間も 、これ らの 不屈の 英雄 たち
は、つぎの句をとなえつづけた。
「主なるわれらの神、天使と聖霊の主は、まことに聖
な るもの なり !」こ の言 葉は、 歓喜 に満た され ている とき 、かれ らの 口から もれ たも
のであったが、今、生涯の最後をかざる時間に、同じ熱意でくり返えされたのである。
(pp.403-404)
こ の虐 殺のあ とす ぐ、王 子は 、捕虜 を一 人づつ 自分 の面前 に連 れてく るよ うに命 じ
た。その中で、社会的地位の高い者ら、すなわち、バディの父親とフォルギとナシレ・
ガ ズビニ をテ ヘラン に連 行し、 それ ぞれの 能力 と富に 比例 して身 の代 金を取 って くる
よ うに従 者に 命じた 。そ のほか の者 らには 即刻 、処刑 を命 じた。 かれ らは剣 で切 断さ
れ たり、 裂か れたり 、木 にしば られ たまま 射殺 された りし た。大 砲の 口から 吹き 飛ば
され、焼き殺された者もいた。(p.404)
こ の恐 ろしい 虐殺 につづ いて すぐ、 サン グ・サ ール 出身の ゴッ ドスの 仲間 三人が 王
子 の前に 連れ 出され た。 一人は セイ エド・ アー マドで 、父 親のミ ル・ モハメ ッド ・ア
リは、シェイキ・アーマドの熱心な賞賛者で、深い学識と高い功績のある人であった。
バ ブの宣 言の 前年に 、か れは二 人の 息子、 セイ エド・ アー マドと その 弟アブ ル・ カゼ
ム を師カ ゼム に紹介 する ために 、カ ルベラ に向 かった 。ち なみに 、弟 のアブ ル・ カゼ
ム は、モ ラ・ ホセイ ンが 殉教し た夜 に命を 落と してい る。 カルベ ラに 着く前 に、 師カ
ゼ ムはこ の世 を去っ てい た。そ こで 、すぐ ナジ ャフに 行っ た。そ の町 で、あ る夜 、予
言 者モハ メッ ドが夢 にあ らわれ 、忠 実なる 者の 司令官 であ るエマ ム・ アリに 、つ ぎの
よ うに命 じた 。「ミ ル・ モハメ ッド ・アリ にこ う告げ よ。『あな たの 死後、 二人 の息子
は 約束さ れた ガエム (バ ブ)の 面前 に出る こと ができ 、二 人とも その 道にお いて 殉教
す るであ ろう 。』」目を覚 ますと すぐ 、息子 のセ イエド ・ア ーマド を呼 んで自 分の 最後
の望みを伝えた。その夢から七日してかれはこの世を去った。(p.405)
サ ング ・サー ル村 に、カ ルベ ラエ・ アリ とカル ベラ エ・ア ブと いう敬 虔で 洞察力 を
そなえた二人の男が住んでいた。二人は約束された啓示の出現が近づいていると感じ、
人 びとが それ を受け 入れ る準備 がで きるよ うに 努力し てい た。一 八四 七年に 、二 人は
つぎのことを公表した。「年内に、セイエド・アリという名の男が、黒旗をかかげ、多
数 の選ば れた 仲間を 率い て、コ ラサ ンから 出て マザン デラ ンに向 かう 。そこ で、 忠実
な イスラ ム教 徒はす べて 立ち上 がり 、最大 限の 援助を すべ きであ る。 かれが かか げる
旗 は、ま さし く約束 され たガエ ムの 旗であ る。 旗をひ るが えす者 は、 ガエム の大 業の
主なる推進者である。その人に従う者は救われ、背を向ける者は堕落するであろう。」
カ ルベラ エ・ アブは 、二 人の息 子、 アブル ・カ ゼムと モハ メッド ・ア リに、 新し い啓
示 の勝利 のた めに立 ち上 がり、 その 目的の ため に物質 的な 利益を すべ て犠牲 にす るよ
う に励ま した 。カル ベラ エ・ア リと カルベ ラエ ・アブ は両 人とも 同じ 年の春 にこ の世
を去った。
こ の息 子二人 が、 セイエ ド・ アーマ ドと 共に、 王子 の面前 に連 れ出さ れた 仲間で あ
っ た。学 識と 信頼の ある 政府の 顧問 の一人 、ア ベディ ンは 、かれ らの ことを 王子 に説
明 し、ま た、 かれら の父 親たち が、 どのよ うな 活動を して いたか も知 らせた 。王 子は
セイエド・アーマドに聞いた。「何の理由から、おまえは自分と親族の名誉を、あさま
し くも傷 つけ るよう な道 を選ん だの か。こ の国 とイラ クに いる多 数の 学識あ る著 名な
僧 侶たち の教 えで満 足で きなか った のか。」セ イエド ・ア ーマド は大 胆に答 えた 。「わ
た しは、 この 大業を 人の まねを して 信じて いる のでは あり ません 。そ の教え を冷 静に
調 べて、 真理 である と確 信した から です。 ナジ ャフで 、名 高い高 僧モ ハメッ ド・ ハサ
ン に、イ スラ ム教の 土台 である 第二 次的な 原理 に関す る教 えを、 解釈 してく れる よう
に 要請し まし たが、 かれ はそれ に応 じてく れま せんで した 。重ね て頼 んだと ころ 、か
れ は怒っ てわ たしを 叱る だけで した 。この よう な経験 をし たわた しが 、どれ ほど 高名
で あって も、 簡単で あた りまえ の質 問にも 答え ずに、 かえ って、 質問 したわ たし に腹
を 立てる よう な僧侶 から 、イス ラム 教の難 解な 教えに つい て解明 を求 めるこ がで きま
しょうか。」
そ こで 王子は 聞い た「ハ ジ・ モハメ ッド ・アリ をど のよう に思 ってい るの か?」 セ
イ エド・ アー マドは こう 答えた 。「 モラ・ ホセ インは 、モ ハメッ ドが 、『コ ラサ ン地方
か ら黒色 の旗 が出て いく のを見 たな らば、 雪の 上を這 って でも、 その 旗のも とに いそ
げ 』と予 言し た旗を かか げる人 です 。この 理由 から、 われ われは 世俗 をすて 、こ の旗
の もとに 集ま ったの です 。この 旗は われわ れの 信教の 象徴 にすぎ ませ ん。恩 恵を 施し
て くださ るの ならば 、死 刑執行 人に 命じて 、こ の命を 終わ らせ、 不滅 の仲間 の一 団に
加 わらせ て下 さい。 この 世のい かな るもの にも 魅了さ れる ことは なく なりま した 。こ
の世を去り、神のもとにもどることだけを切望しています。」王子は、セイエド・アー
マ ドの処 刑は 気が進 まな かった ので 、命令 を出 さなか った 。しか し、 共に出 頭し た二
人 の仲間 は即 座に処 刑さ れた。 セイ エド・ アー マドと 弟の セイエ ド・ アブタ レブ は、
アベディン(政府の顧問)に渡され、サング・サールに連行された。(pp.406-7)
一 方、 モハメ ッド ・タギ は、 サリの イス ラム学 者七 名と共 に村 を出て 、ゴ ッドス の
仲 間を死 刑に するこ とが いかに 称賛 に値す る行 為であ るか を知ら せる ことに した 。と
ころが、かれらはすでに殺害されていたのが判明した。そこで、モハメッド・タギは、
王 子にセ イエ ド・ア ーマ ドをす ぐ処 刑する よう に主張 した 。かれ がサ リに来 れば 、あ
ら たな暴 動が はじま り、 それは 以前 よりも もっ とひど いも のにな るに ちがい ない と説
得 につと めた 。その うち 王子も それ に同意 した が、サ リに 到着す るま では客 人と して
扱い、また、かれが近隣の平安を乱さないように見守るという条件をつけた。
モ ハメ ッド・ タギ は、サ リに 向かい はじ めると すぐ 、セイ エド ・アー マド と父親 を
中傷しはじめた。セイエド・アーマドはこん願した。「なぜあなたは、王子があなたに
委任した客人を虐待されるのですか。
『異教徒であっても客人を礼遇せよ』というモハ
メッドの命令をなぜ無視なさるのですか。」モハメッド・タギは怒りを爆発させ、七名
の仲間と共に、剣を抜いてセイエド・アーマドの身体をめったぎりにした。かれは「こ
の時代の主」の援助を祈りながら息を引き取った。かれの弟セイエド・アブタレブは、
アベディンに連行されてサング・サールに無事到着した。そして、今日にいたるまで、
マ ザンデ ラン 州に、 弟モ ハメッ ド・ レザと いっ しょに 住み 、両人 共に 、大業 に熱 心に
奉仕している。(pp.407-8)
一 方、 王子は 、僧 侶たち 集め て、そ こに ゴッド スを 連れて くる ように 命じ た。砦 を
放 棄して 以来 、ゴッ ドス は執行 官に 保護さ れて いたが 、王 子に召 され たこと はな かっ
た。ゴッドスが現われるとすぐ、王子は立ち上がり、自分のそばに座るように招いた。
そ して、 サイ ドル・ オラ マー( 凶悪 な高僧 )に 向かい 、ゴ ッドス との 討論を 冷静 かつ
良心的に進めるように強調した。
「討論は、コーランの聖句とモハメッドの伝承に基づ
い たもの でな ければ なら ない。 そう でなけ れば 、あな たの 論点の 真偽 が明ら かに され
ないからだ。」
サイドル・オラマーは無作法に聞いた。
「お前はどんな理由があって、予言者モハメ
ッ ドの子 孫に だけに 許さ れてい る緑 色のタ ーバ ンを、 自分 のもの とし て頭に つけ てい
るのか。この神聖な伝統をあなどる者は、神にのろわれることを知らないのか。」ゴッ
ドスは静かに応じた。
「著名な僧侶が皆称賛し尊敬しているセイエド・モルタダは、予
言 者モハ メッ ドの子 孫で すが、 それ は、父 方を 通して です か、そ れと も母方 を通 して
なのですか?」その場にいた一人が、母方だ、と即座に答えた。ゴッドスは言った。
「で
は どうし てわ たしに 反対 なさる ので すか。 わた しの母 は、 エマム ・ハ サンの 直系 子孫
で あるこ とが 、この 町の 住民に 認め られて いま す。こ の家 系によ り、 母親は 皆さ んに
大いに尊敬されてきたのではないのですか。」(pp.409-410)
こ れに 反対す るも のはい なか った。 サイ ドル・ オラ マーは 激怒 と絶望 から 自分の タ
ー バンを 地面 に投げ つけ 、集会 の場 を去ろ うと 立ち上 がっ た。そ して 、大声 でど なっ
た。
「この男はエマム・ハサンの子孫であることを証明した。そのうち、かれは神の代
弁者で、その意志の啓示者であると主張するにちがいない。」そこで、王子は宣言した。
「 今後、 この 男に加 えら れる危 害の 責任は もた ない。 思う ように かれ を取り 扱っ てよ
い。しかし、審判の日に神に対して責任を取るのはお前たち自身だ。」こう述べたあと
す ぐ、馬 を連 れてこ させ 、従者 たち と共に サリ に向か った 。王子 は、 僧侶た ちの のろ
い におど され 、また 、自 分の誓 いも 忘れて 、あ さまし くも ゴッド スを 無慈悲 な敵 の手
に 渡した ので あった 。復 讐心と 憎悪 で、え じき を襲う 瞬間 をねら って いた狼 のよ うな
敵に渡したのである。(p.410)
王 子が 手を引 いて 、けん 制す る者が いな くなっ たと たん、 僧侶 たちと バル フォル ー
シ ュの住 民は 、サイ ドル ・オラ マー の命令 のも と、え じき となっ たゴ ッドス の身 体に
飛 びかか った 。その 残虐 行為は 、言 語に絶 する もので あっ た。バ ハオ ラの証 言に よる
と、この雄々しい若者ゴッドスは、最後の息を引き取るまで、残忍な拷問を受けたが、
それは、イエスが死に直面して受けた極度の苦しみを超えたものであった。
ゴ ッド スの殉 教に は残忍 きわ まる行 動が 見られ たが 、それ は、 政府当 局か ら何の け
ん 制もな かっ たこと 、バ ルフォ ルー シュの 拷問 屋たち の残 虐行為 、シ ーア派 の住 民た
ち の胸に 燃え 立つ狂 信、 首都テ ヘラ ンの宗 教面 、政治 面の 指導者 たち から受 けた 精神
的 支援、 そし て、何 より も、被 害者 のゴッ ドス と仲間 たち の英雄 行為 に対す るは げし
い怒りなどが原因であった。
こ の悲 痛なで きご とに、 チェ リグの 砦に 監禁さ れて いたバ ブは 、六ヵ 月間 、書く こ
と も口述 する ことも でき なかっ た。 深い悲 しみ から、 バブ は啓示 の声 を出す こと も、
ペ ンを動 かす ことも でき なかっ たの である 。か れは、 ゴッ ドスの 死を どれほ ど深 く悼
ん だこと であ ろうか 。シ ェイキ ・タ バルシ での 包囲攻 撃、 言い表 せな いほど の苦 難、
敵 の破廉 恥な 裏切り 行為 、仲間 たち の大量 無差 別虐殺 のニ ュース に、 バブは どれ ほど
の 苦悶の 叫び をあげ たこ とであ ろう か。自 分の 愛する ゴッ ドスが 、バ ルフォ ルー シュ
の 住民か ら受 けた恥 ずべ き取り 扱い に、ど れほ どの悲 痛さ を感じ たこ とであ ろう か。
ゴ ッドス は衣 服をは がれ 、バブ があ たえた ター バンは 汚さ れ、素 足で 、頭に は何 もつ
け ず、重 いく さりを かけ られて 街路 を歩か され た。そ のあ とを全 町民 があざ けり なが
ら 追った 。群 衆はわ めき 合い、 かれ をのの しり 、つば を吐 きかけ た。 町のく ずの よう
な 女たち は、 ナイフ や斧 でかれ に襲 いかか り、 身体を 刺し 、手足 を切 断し、 最後 には
火炎に投げ入れたのである。(pp.410-411)
ゴッドスは、苦悶の中で、神が敵を許されるように祈った。「おお神よ。この人たち
の 罪を許 した まえ。 慈悲 をもっ て対 処した まへ 。かれ らは 、われ われ が探し 出し た貴
い 信仰を 知ら ないか らで す。か れら に救済 への 道を示 そう と努力 して きまし たが 、ご
ら ん下さ い。 かれら はわ たしを 苦し め、殺 そう として いま す。お お神 よ。か れら に真
理への道を示し、かれらの無知を信仰に変えたまえ。」
ゴ ッド スが苦 しん でいる 最中 に、砦 を放 棄した 裏切 り者の セイ エド・ ゴミ が通り か
かった。かれは、ゴッドスの無力さを見て、顔をなぐり、ごうまんな態度でさげすみ、
叫 ぶよう に言 った。「お 前は、 自分 の声を 神の 声だと 主張 した。 それ が真実 であ れば、
くさりを引きちぎって、敵から自由になれ。」ゴッドスは、かれの顔をじっと見、深く
ため息をついて述べた。
「神があなたの行為に報いられるように願う。あなたは、わた
しの苦しみに一層の苦しみを加えたからである。」
サブゼ・マイダン(殉教の場所)に近づいたとき、ゴッドスは声をあげて言った。
「母
上がここにおられれば、わたしの壮麗な結婚式を見ることができられたであろう。」こ
の 言葉が 終わ るか終 わら ないう ちに 、激怒 した 群衆が かれ に襲い かか り、身 体を 引き
裂 き、前 もっ て準備 して いた火 炎の 中に投 げ込 んだ。 真夜 中に、 忠実 な仲間 の手 で、
焼け焦げた身体の断片が集められ、その近くに埋葬された。
こ こで 、シェ イキ ・タバ ルシ 砦の防 御に 参加し た殉 教者の 名前 を記録 して おきた い
と 思う。 未来 の世代 が、 これら の先 駆者た ちの 名前と 行動 を、誇 りと 感謝の 念を もっ
て 思い起 こす ことが でき るよう に。 かれら は、 生命を かけ て、神 の永 遠なる 信教 の歴
史をかざったのである。これらの名前は、さまざまな資料から集めたもので、とくに、
ミ ム、ジ ャバ ド、ア サド の三人 の方 々に負 うと ころが 大き い。か れら の魂が 来世 で、
不 朽の栄 誉で かがや いて いるよ うに 、かれ らの 名前も 、末 永く人 びと の口か らも れつ
づ けると 信じ ている 。ま た、か れら につい て語 ること によ って、 この 貴重な 伝統 を受
け 継いだ 人び との心 に、 同じよ うな 熱意と 献身 の精神 を呼 び起こ すで あろう と確 信し
て いるの であ る。情 報を 提供し てく れた人 びと から、 あの 忘れが たい 攻囲攻 撃中 に命
を 落とし た仲 間たち の大 半の名 前を 集める こと ができ た。 同時に 、一 八四四 年か ら現
在 、すな わち 一八八 八年 十二月 まで に、神 の大 業の道 に命 をささ げた 殉教者 たち のリ
ス トも入 手す ること がで きた。 もち ろん、 これ は完全 なリ ストで はな い。各 人の 名前
は 、その 人が 関わっ た事 件とと もに 述べる つも りであ る。 タバル シ砦 の防御 中に 殉教
の杯を飲み干した人たちの名前は、つぎに述べるとおりである。(pp.413-414)
一 .最 初に述 べる べきも っと も重要 な人 は、ゴ ッド スであ る。 バブは かれ に「神 の
最 後の名 」と いう称 号を あたえ た。 かれは 、生 ける者 の文 字と呼 ばれ るバブ の弟 子の
う ち最後 の人 で、メ ッカ とメジ ナの 巡礼に 、バ ブの同 伴者 として 選ば れた人 であ る。
そ して、 サデ ィクと アリ ・アク バー と共に 、神 の大業 のた めに、 ペル シャで 最初 に迫
害 を受け た人 でもあ る。 ゴッド スは 、十八 才の とき、 故郷 のバル フォ ルーシ ュを 離れ
て カルベ ラの 町に行 き、 約四年 間、 師カゼ ムに 学んだ 。二 十二才 のと き、シ ラズ で、
最 愛の御 方( バブ) に会 い、そ の地 位を認 めた 。五年 後、 一八四 九年 五月十 六日 、バ
ル フォル ーシ ュのサ ブゼ ・マイ ダン で、敵 の残 忍きわ まる 野蛮行 為の 犠牲と なっ た。
バ ブとバ ハオ ラは、 多く の書簡 と祈 りの中 で、 ゴッド スの 死を悼 み、 賛辞を 惜し まな
か った。 バハ オラは 大い なる栄 誉を ゴッド スに あたえ 、バ グダッ ドで 著した コー ラン
の 一節に 関す る評釈 の中 で、か れに 、だれ も匹 敵でき ない 地位を あた えた。 それ は、
バブのつぎにくる地位である。(p.415)
ニ .モ ラ・ホ セイ ンは、 新し い啓示 を認 め、受 け入 れた最 初の 人であ る。 バブか ら
バ ボル・ バブ (門の 門) という 称号 をあた えら れた。 かれ もまた 、十 八才の とき 、故
郷 のコラ サン 州のボ ッシ ュルエ イか らカル ベラ に出て きた 。そし て、 九年間 、師 カゼ
ム と親密 に交 わった 。バ ブの宣 言の 四年前 、イ スファ ハン の学識 のあ る高僧 バゲ ルと
マ シュハ ドの 高僧ア スカ リに、 師カ ゼムか ら委 任され たメ ッセー ジを 、威厳 をも って
堂 々と伝 えた 。モラ ・ホ セイン の殉 教は、 バブ に深い 悲し みをも たら した。 その 悲し
み を故人 への 賛辞と 祈り の中で 表現 したも のは 、膨大 な数 にのぼ り、 コーラ ンの 三倍
ほ どにな った 。バブ は、 参拝の 書の 中で、 モラ ・ホセ イン の遺体 が葬 られて いる 地面
の 土は、 悲し みにあ る人 をよろ こば せ、病 んで いる人 をい やす力 をも ってい ると 述べ
て いる。 バハ オラは 、ケ タベ・ イガ ン(確 信の 書)の 中で 、バブ 以上 に、モ ラ・ ホセ
インの美徳をほめたたえている。
「モラ・ホセインがいなかったならば、神は、慈悲の
座にも、永遠の栄光の王座にもつかれることはなかったであろう」と。
三.ミルザ・モハメッド・ハサン。モラ・ホセインの弟。
四 .ミ ルザ・ モハ メッド ・バ ゲル。 モラ ・ホセ イン の甥。 モラ ・ホセ イン の弟と 共
に 、ボッ シュ ルエイ から カルベ ラに 、さら にそ こから シラ ズまで 、モ ラ・ホ セイ ンに
同 行した 。シ ラズで 、二 人とも バブ の弟子 とな り、生 ける 者の文 字と なった 。マ ーク
ー の砦へ の旅 以外は 、両 人とも 、モ ラ・ホ セイ ンに同 伴し 、つい にタ バルシ の砦 で殉
教した。
五 .モ ラ・ホ セイ ンの義 弟。 アブル ・ハ サンと モハ メッド ・フ セイン の父 親。息 子
二 人は、 現在 ボッシ ュル エイに 在住 し、モ ラ・ ホセイ ンの 妹の世 話に あたっ てい る。
二人とも献身的な信者である。
六 .モ ハメッ ド・ フォル ギの 兄であ るモ ラ・ア ーマ ドの息 子。 この人 は、 伯父フ ォ
ル ギと違 って 殉教し た。 かれは ひじ ょうに 敬虔 で、深 い学 識をそ なえ た高潔 な若 者で
あると、フォルギは証言している。(pp.415-1416)
七 .ミ ルザ・ モハ メッド ・バ ゲル。 かれ は、ガ イエ ンの出 身で あるが 、ハ ラティ と
い う名で 知ら れてい る。 また、 ナビ ル・ア クバ ールの 父親 の近親 で、 マシュ ハド で最
初 に大業 を受 け入れ た人 である 。マ シュハ ドで バビの 家を 建て、 その 町を訪 れた ゴッ
ド スに献 身的 に仕え た。 モラ・ ホセ インが 、黒 旗をか かげ たとき 、か れは子 供で あっ
た 息子を 連れ て、そ の旗 の下に 集結 した一 団に 加わり 、マ ザンデ ラン に行っ た。 息子
の 命は助 かり 、現在 大人 になっ て、 マシュ ハド で熱心 に大 業のた めに 活動し てい る。
バ ゲルは 、そ の一団 の主 導者と なり 、砦と その 外壁と 小塔 、およ び、 まわり の濠 を設
計 した。 モラ ・ホセ イン の殉教 後、 仲間を 組織 して、 先頭 に立ち 、敵 に向か って 進撃
した。かれは、大業の道で殉教するまで、ゴッドスの懇親の仲間であり、代理であり、
信頼された顧問であった。
八 .ミ ルザ・ モハ メッド ・タ ギ・ジ ョヴ ァイニ 。サ ブゼヒ ヴァ ール出 身。 すぐれ た
文 筆家で 、モ ラ・ホ セイ ンから 、た びたび 敵へ の進撃 を先 導する よう に頼ま れた 。敵
は 、かれ の頭 と仲間 のバ ゲルの 頭を 槍に突 き刺 して、 興奮 した群 衆が 叫びわ めく バル
フォルーシュ町の道路をねり歩いた。
九.ガンバル・アリ。モラ・ホセインの恐れを知らない忠実な従者。かれは、モラ・
ホセインのマークーへの旅に同行した。モラ・ホセインが敵の弾丸に倒れた日の夜に、
かれもまた、殉教した。
十.ハサンおよび
十 一.ゴリ。この二人は、ザンジャン出身のエスカンダールとともに、倒れたモラ・
ホ セイン を、 砦のゴ ッド スの下 に運 んだ。 ハサ ンはマ シュ ハドの 警察 署長の 命令 で、
はずなをつけられて、町の道路を引っ張りまわされた。
十 二. モハメ ッド ・ハサ ン。 モラ・ サデ ィクの 弟。 バルフ ォル ーシュ とタ バルシ の
中間で、コスロー(悪党)の仲間に殺害された。かれは、不動の信仰で知られ、また、
エマム・レザの廟の管理人でもあった。(pp.417-418)
十 三. セイエ ド・ レザ。 かれ は、ア ルデ ビリと とも に、ゴ ッド スに頼 まれ て、王 子
に 会いに 行き 、王子 が宣 誓の言 葉を 書き入 れた コーラ ンを もって もど ってき た。 かれ
は 、コラ サン のセイ エド (モハ メッ ドの子 孫) の一人 で、 学識と すぐ れた人 格で 知ら
れていた。
十 四. モラ・ マル ダン・ アリ 。コラ サン 出身の 仲間 の一人 。強 固な砦 のあ るミヤ マ
イ村の住民。モラ・ホセインがこの村に着いた日に、三十三人の仲間とともに、モラ・
ホ セイン の一 団に加 わっ た。モ ラ・ ホセイ ンは 、金曜 日の 会衆の 祈り をささ げる ため
に 、その 村の モスク に行 き、そ こで 演説し 、人 びとの 心に 深く訴 えた 。かれ は、 コラ
サ ンでか かげ られる 黒旗 の伝承 が実 現した こと を強調 し、 自分が その 旗をか かげ る者
であると宣言したのである。この雄弁な演説を聞いて深い感動をおぼえた者の大半は、
そ の日の うち に、モ ラ・ ホセイ ンに 従うた めに 立ちあ がっ た。三 十三 人のほ とん どが
著 名人で 、そ のうち 、モ ラ・イ サと いう人 だけ が生き 残っ た。か れの 息子た ちは 現在
ミ ヤマイ 村で 、大業 のた めに大 いに 活動し てい る。こ の村 の出身 者で 殉教し た人 たち
はつぎに示すとおりである。
十五.モラ・モハメッド・メヒディ
十六.モラ・モハメッド・ジャファル
十七.モラ・モハメッド・エブネ・モラ・モハメッド
十八.モラ・ラヒム
十九.モラ・モハメッド・レザ
二十.モラ・モハメッド・ホセイン
二一.モラ・モハメッド
二二.モラ・ユソフ
二三.モラ・ヤグブ
二四.モラ・アリ
二五.モラ・ザイノル・アベディン
二六.モラ・ザイノル・アベディンの息子のモラ・モハメッド、
二七.モラ・バゲル
二八.モラ・アブドル・モハメッド
二九.モラ・アボル・ハサン
三十.モラ・エスマイル
三一.モラ・アブドル・アリ
三二.モラ・アガ・ババ
三三.モラ・アブドル。ジャバド
三四.モラ・モハメッド・ホセイン
三五.モラ・モハメッド・バゲル
三六.モラ・モハメッド
三七.ハジ・ハサン
三八.カルベラ・アリ
三九.モラ・カルベラ・アリ
四十.カルベラ・ヌール・モハメッド
四一.モハメッド・エブラヒム
四二.モハメッド・サエム
四三.モハメッド・ハディ
四四.セイエド・メヘディ
四五.アブ・モハメッド
サ ング ・サー ル村 出身の 仲間 のうち 、十 八人が 殉教 した。 殉教 者の名 前は つぎの と
おりである。
四 六. セイエ ド・ アーマ ド。 かれの 身体 は、ミ ルザ ・モハ メッ ド・タ ギと サリの 七
名 の僧侶 たち により ばら ばらに 切断 された 。か れは高 名な 聖職者 で、 人びと は、 かれ
の雄弁と敬虔を大いに尊敬していた。
四 七. ミル・ アボ ル・ガ セム 。セイ エド ・アー マド の弟。 モラ ・ホセ イン が殉教 し
た夜に、殉教の冠を勝ち得た。
四八.ミル・メヘディ
四九.ミル・エブラヒム
五 十. サファ ール ・アリ 。カ ルベラ ・ア リの息 子。 かれは 、カ ルベラ ・モ ハメッ ド
と ともに 、サ ング・ サー ル村の 住民 が眠り から 覚める よう に、最 善を つくし た。 この
二人は、病弱のため、タバルシの砦に行くことができなかった。
五一.モハメッド・アリ。カルベラ・アブ・モハメッドの息子。
五二.アボル・カセム。モハメッド・アリの弟。
五四.アリ・アーマド
五五.モラ・アリ・アクバー
五六.モラ・ホセイン・アリ
五七.アッバス・アリ
五八.ホセイン・アリ
五九.モラ・アリ・アスガー
六十.カルベラ・エスマイル
六一.アリ・カーン
六二.モハメッド・エブラヒム
六三.アブドル・アジム。
シャー・ミルザド村からつぎの二人が砦の防御中に殉教した。
六四.モラ・アブ・ラヒムと
六五.カルベラ・カゼム
マザンデラン州の信者たちのうち、二十七名が殉教したことが記録されている。
六六.モラ・レダイ・シャー
六七.アジム
六八.カルベラ・モハメッド・ジャファー
六九.セイエド・ホセイン
七十.モハメッド・バゲル
七一.セイエド・ラザッグ
七二.オスタッド・エブラヒム
七三.モラ・サイド・ゼレー・ケナリ
七四.レダイ・アラブ
七五.ラスル・バハネミリ
七六.モハメッド・ホセイン。ラスル・バネミリの弟
七七.タヘル
七八.シャフィ
七九.ガゼム
八十.モラ・モハメッド・ジャン
八一.マシイ。モラ・モハメッド・ジャンの弟
八二.エタ・ババ
八三.ユソフ
八四.ファドロラ
八五.ババ
八六.サフィ・ゴリ
八七.ネザム
八八.ルホラ
八九.アリ・ゴリ
九十.ソルタン
九一.ジャファル
九二.カリル
サヴァド・クヒの信者たちのうち、つぎの五名が確認されている。
九三.カルベラ・ガンバル・カレシュ
九四.モラ・ナッド・アリ・モタヴァリ
九五.アブドル・ハッグ
九六.イタバキ・チュウパン
九七.イタバキ・チュウパンの息子
アルデスタン町出身の殉教者はつぎのとおりである。
九八.ミルザ・アリ・モハメッド。ミルザ・モハメッド・サイドの息子
九九.ミルザ・アブド・ヴァセ。ハジ・アブドル・ヴァハブの息子
一〇〇.モハメッド・ホセイン。ハジ・モハメッド・サデグの息子
一〇一.モハメッド・メヒディ。ハジ・モハメッド・エブラヘムの息子
一〇二.ミルザ・アーマド。モヒセンの息子
一〇三.ミルザ・モハメッド。ミル・モハメッド・タギの息子
エスファハン市出身のうち、これまでに三十人が記録されている。
一 〇四 .モラ ・ジ ャファ ー。 麦のふ るい 手。バ ブが 「ペル シャ 語のバ ヤン 書」の 中
で述べている人。
一〇五.オスタッド・アガ。称号はボゾルグ・バンナ
一〇六.オスタッド・ハサン。オスタッド・アガの息子
一〇七.オスタッド・モハメッド。オスタッド・アガの息子
一 〇八 .モハ メッ ド・ホ セイ ン。オ スタ ッド・ アガ の息子 。末 弟のオ スタ ッド・ ジ
ャファーは、敵の手で数回売られ、最後に故郷にもどり、現在そこに住んでいる。
一〇九.オスタッド・ゴルバン・アリ・バンナ
一一一.アブドラ。オスタッド・ゴルバン・アリ・バンナの息子
一 一二 .モハ メッ ド・バ ギル ・ナグ シュ 。セイ エド ・ヤー ヤの 叔父で ミル ザ・モ ハ
メッド・アリ・ナリの息子。モラ・ホセインが死亡した夜に、十四才で殉教。
一一三.モラ・モハメッド・タギ
一 一四 .モラ ・モ ハメッ ド・ レザ。 二人 とも、 アッ カのレ ズワ ン庭園 の庭 師であ っ
た故アブドス・サレの兄弟。
一一五.モラ・アーマド・サファール(p.421)
一一六.モラ・ホセイン・メスカール
一一七.アーマド・パイヴァンディ
一一八.ハサン・シャール・バフ・ヤズディ
一一九.モハメッド・タギ
一二〇.モハメッド・アタール。ハサン・シャール・バフの弟
一 二一 .モラ ・ア ブドル ・カ レグ。 バダ シュト での どを切 った 人で、 タヘ レはか ら
ザビーという名をあたえられた。
一二ニ.ホセイン
一二三.アボル・ガセム。ホセインの弟
一二四.ミルザ・モハメッド・レザ
一二五.モラ・ハイダー。ミルザ・モハメッド・レザの弟
一二六.ミルザ・メヘディ
一二七.モハメッド・エブラヒム
一二八.モハメッド・ホセイン。称号はダストマル・ゲレ・ザン
一 二九 .モハ メッ ド・ハ サン ・チッ ト・ サズ。 バブ に会っ たこ とのあ る有 名な織 物
業者
一三〇.モハメッド・ホセイン・アタール
一三一.オスタッド・ハジ・モハメッド・バンナ
一 三二 .マム ード ・モガ レ。 有名な 織物 商人。 結婚 直後チ ェリ グの砦 でバ ブに会 っ
た 。バブ はか れに、 ジャ ジレ・ カド ラに行 き、 ゴッド スを 援助す るよ うにす すめ た。
テ ヘラン で、 弟から 、息 子の誕 生を 知らせ る手 紙を受 け取 った。 その 中で、 弟は 、か
れ にぜひ エス ファハ ンに 行って その 子に会 い、 その後 自由 に行動 する ように とこ ん願
し た。か れは こう返 事し た。「 おれ は、こ の大 業に対 する 愛で燃 え上 がって いる ので、
息 子に心 を向 けるこ とは できな い。 ゴッド スの ところ にす ぐ行き 、そ の旗の 下に 加わ
りたいのだ。」
一 三三 .セイ エド ・モハ メッ ド・レ ダイ ・パ・ ゴレ イ。著 名な セイエ ドで 、深く 尊
敬 を受け てい る聖職 者。 モラ・ ホセ インの 一団 に加わ る宣 言をし たこ とで、 エス ファ
ハンのイスラム法学者たちの間に大混乱を起こした。
シラズの信者たちのうち、殉教の栄冠を勝ち得たのはつぎの人たちである。
一三四.モラ・アブドラ。ミルザ・サレの名でも知られている。
一三五.モラ・ザイノル・アベディン
一三六.ミルザ・モハメッド(p.422)
ヤズドの信者たちのうち、つぎの四人が記録されている。
一 三七 .コラ サン からバ ルフ ォルー シュ までの 道の りを歩 き、 そこで 敵の 弾丸に 倒
れた人。
一三八.セイエド・アーマド。バブの秘書セイエド・ホサイン・アジズの父。
一 三九 .ミル ザ・ モハメ ッド ・アリ 。セ イエド ・ア ーマド の息 子。砦 の入 り口に 立
っ ていた とき 、大砲 の砲 丸で頭 を撃 ちぬか れた 。ゴッ ドス は、こ の少 年を深 く愛 し、
ほめたたえていた。
十 四〇 .シェ イキ ・アリ 。シ ェイキ ・ア ブドル ・カ レグ・ ヤズ ディの 息子 。マシ ュ
ハ ドの住 民。 モラ・ ホセ インと ゴッ ドスは 、こ の若者 の熱 意と疲 れを 知らな いエ ネル
ギーを大いにほめたたえた。
ガズビンの信者たちのうち、殉教した人たちはつぎのとおりである。
一 四一 .ミル ザ・ モハメ ッド ・アリ 。有 名な聖 職者 で、か れの 父ハジ ・モ ラ・ア ブ
ド ル・ヴ ァハ ブは、 ガズ ヴィン の著 名な高 僧の 一人で あっ た。か れは 、シラ ズで バブ
と会い、生ける者の文字の一人となった。
一 四二 .モハ メッ ド・ハ ディ 。ハジ ・ア ブドル ・カ リムの 息子 。名高 い商 人で、 称
号はバゲバン・バシ
一四三.セイエド・アーマド
一四四.ミルザ・アブドル・ジャリル。有名な聖職者
一四五.ミルザ・メヘディ
一 四六 .ハジ ・モ ハメッ ド・ アリ。 ラハ ルド村 出身 。ガズ ビン でモラ ・タ ギ(タ ヘ
レの義父)が殺害された結果、ひじょうな苦しみにあった。
コイの信者のうち、つぎの人たちが殉教した。
一 四七 .モラ ・メ ヘディ 。著 名な聖 職者 。かれ は、 セイエ ド・ カゼム 弟子 で大い に
尊敬されていた一人であった。かれはまた、学識と雄弁と堅い信仰で知られていた。
一 四八 .モラ ・マ ムード ・コ イ。モ ラ・ メヘデ ィの 弟。生 ける 者の文 字の 一人で 、
著名な聖職者であった。
一 四九 .モラ ・ユ ソフ・ アル デビリ 。生 ける者 の文 字の一 人で 、学識 と熱 意と雄 弁
で 有名。 ケル マンで 、ハ ジ・カ リム ・カー ンの 不安を かき たて、 敵た ちの心 に恐 怖を
も たらし たの はかれ であ った。 ハジ ・カリ ム・ カーン は、 集会で 、つ ぎのよ うに 語っ
た。
「この男は、この町から追放されなければならない。かれが、ここに居つづければ、
シ ラズで すで にやっ たよ うに、 ケル マンで も同 じよう な騒 動をか なら ず起こ すに ちが
い ないか らだ 。かれ がも たらす 害は 、修復 でき ないで あろ う。か れの 魔術的 な雄 弁と
強力な個性は、モラ・ホセインの力に劣るものではない。」こうして、かれのケルマン
滞 在は短 縮さ れ、説 教壇 から住 民に 講演す るこ ともで きな くなっ た。 バブは 、か れに
つ ぎの指 示を あたえ た。「ペル シャ 中の町 や都 市を訪 れ、 住民を 神の 大業に 召喚 せよ。
一八四八年十一月二十七日に、マザンデランに行き、全力でゴッドスを援助せよ。」モ
ラ ・ユソ フは 、師の 指示 に忠実 にし たがい 、訪 れた先 々の 町や都 市で 一週間 以上 留ま
る ことは なか った。 マザ ンデラ ンに 到着直 後、 メヒデ ィ・ ゴリ・ ミル ザ王子 の軍 に捕
わ れた。 王子 は、か れの 身元を すぐ 認め、 監禁 を命じ た。 その後 かれ は、ヴ ァス ・カ
スの戦いの日、モラ・ホセインの仲間に助けられた。
一 五〇 .モラ ・ジ ャリル ・オ ルミ。 生け る者の 文字 の一人 。学 識と雄 弁と 堅い信 仰
で知られている。
一 五一 .モラ ・ア ーマド 。マ ラゲの 住民 で、生 ける 者の文 字の 一人。 セイ エド・ カ
ゼムのすぐれた弟子。
一 五二 .モラ ・メ ヒディ ・カ ンディ 。バ ハオラ の側 近で、 バハ オラの 家族 の子供 た
ちの家庭教師。
一 五三 .モラ ・バ ゲル。 モラ ・メヘ ディ の弟。 二人 とも学 識が 深く、 バハ オラは 、
この二人の業績をケタベ・イガン(確信の書)の中で述べている。
一五四.セイエド・カゼム。ザンジャンの住民で名高い商人。シラズでバブに会い、
エ スファ ハン までバ ブに 同伴し た。 かれの 弟セ イエド ・モ ルタダ は、 テヘラ ンの 七人
の殉教者の一人である。
一 五五 .エス カン ダール 。ザ ンジャ ンの 住民で 、名 を知ら れた 商人。 ハサ ンとゴ リ
とともに、瀕死のモラ・ホセインを砦に運んだ。
一五六.エスマイル
一五七.カルベラ・アブドル・アリ
一五八.アブドル・モハメッド
一五九.ハジ・アッバス
一六〇.セイエド・アーマド。以上はすべてザンジャンの住民
一 六一 .セイ エド ・ホセ イン ・コラ ・ド ウズ。 バル フォル ーシ ュの住 民。 敵は、 か
れの頭をやりで突き刺し、街路をねり歩いた。
一六二.モラ・ハサン・ラシュティ
一六三.モラ・ハサン・バヤジマンディ
一六四.モラ・ネマトラ・バルフォルーシュ
一六五.モラ・モハメッド・タギ・ガラキリ
一六六.オスタッド・ザイノル・アベディン
一六七.オスタッド・ガセム。オスタッド・ザイノル・アベディンの息子
一 六八 .オス タッ ド・ア リ・ アクバ ー。 オスタ ッド ・ザイ ノル ・アベ ディ ンの弟 。
上 述の三 人は 石工で あっ た。ケ ルマ ン出身 であ ったが 、コ ラサン 州の ガーイ ンに 住ん
でいた。
一 六九 と一七 〇. モラ・ レダ イ・シ ャー とバー ネミ ル出身 の若 者。こ の二 人は、 バ
ル フォル ーシ ュのパ ンジ ・シャ ンベ ー・バ ザー ルの砦 から ゴッド スが 離れた 二日 後、
殺 害され た。 通称シ ャリ アット ・マ ダール とい う人が 、二 人の遺 体を 、モス クの 近く
に埋葬した。そして、殺人犯を後悔させ、許しを乞わせた。
一 七一 .モラ ・モ ハメッ ド・ モアレ ム・ ヌーリ 。ヌ ール、 テヘ ラン、 マザ ンデラ ン
で バハオ ラと 親密に 交わ った人 。か れは、 高い 知性と 学識 で名高 く、 ゴッド スは 別と
して、タバルシ砦の一団のうち、敵からもっとも激烈な残虐行為を受けた人であった。
王 子は、 ゴッ ドスの 名を のろえ ば、 釈放し てや ると約 束し た。さ らに 、信仰 を否 認す
れ ば、テ ヘラ ンに連 れも どし、 自分 の息子 たち の教師 とし てやる と約 束した ので ある
が、かれはこう答えた。
「あなたのような男の命令で、神から愛される御方をそしるこ
と は絶対 にで きませ ん。 ペルシ ャ国 をその まま わたし に与 えると 言わ れても 、一 瞬で
も 、わた しの 敬愛す る指 導者に 背を 向ける こと はあり ませ ん。わ たし の身体 は、 あな
た の掌中 にあ ります が、 わたし の魂 を服従 させ ること はで きませ ん。 わたし を、 思う
ように苦しめなさい。そうすれば、『それであれば、死を願ってみたらどうか。もしお
前たちの言うことが本当であるならば。』という句の真理を、あなたに示すことができ
ましょう。」この返事に激怒した王子は、かれの身体をバラバラに切り裂き、屈辱的な
罰をあたえるように命じた。
一 七二 .ハジ ・モ ハメッ ド・ カルラ ディ 。かれ の家 は、バ グダ ッドの 旧街 に隣接 す
るヤシ園のひとつに建っていた。かれは、ひじょうに勇敢で、エジプトのエブラヒム・
パ シャと の戦 いで、 百人 の兵士 を率 いて戦 った ことが あっ た。ま た、 セイエ ド・ カゼ
ム の熱烈 な弟 子で、 師の 美徳と 業績 を詳細 に述 べた長 い詩 を書い てい る。バ ブの 教え
を 受け入 れた のは七 十五 才のと きで あった 。バ ブを雄 弁に ほめた たえ る詩も 書い てい
る。砦が包囲攻撃されたとき、武勲を立てたが、やがて敵の弾丸に倒れた。(p.425)
一 七三 .サイ ド・ ジャバ ヴィ 。バグ ダッ ド出身 で、 砦が包 囲攻 撃され たと き、お ど
ろ くべき 勇気 を示し た。 腹部を 撃た れ重傷 を負 ったが 、ゴ ッドス の居 るとこ ろま で歩
いた。ゴッドスの足下にうれしそうに身を投げ、息を引き取った。
最 後の 二人の 殉教 の状況 は、 セイエ ド・ アブ・ タレ ブ・サ ング ・サリ が、 バハオ ラ
にあてた通信に書いたものである。かれは、砦の包囲攻撃で生き残った一人であった。
こ の通信 で、 自分と 二人 の兄弟 の話 も書い た。 かれの 兄弟 は、二 人と も、砦 を防 護中
に命を落としている。
「コスローが殺害された日、わたしは、砦近くの村の村長カルベ
ラ ・アリ ・ジ ャンを 訪れ ていま した 。村長 は、 コスロ ーを 援助す るた めに出 かけ てい
ま したが 、そ こから もど り、か れが 殺害さ れた いきさ つに ついて 語り ました 。同 じ日
に 、使い の者 から、 二人 のアラ ブ人 が、そ の村 に来て 、砦 の一団 に加 わりた いと 熱心
に 望んで いた ことを 知ら せてく れま した。 かれ らは、 ガデ ィ・カ ラ村 の住民 を恐 れて
お り、砦 まで 案内し てく れる者 には 報酬を 十分 にあた える と約束 して いまし た。 わた
し は、父 ミー ル・モ ハメ ッド・ アリ の勧告 を思 い出し まし た。父 は、 バブの 大業 の推
進 に立ち 上が るよう にと 勧告し てい たので す。 即座に 、わ たしは 、こ の機会 を捕 らえ
る 決心を しま した。 この 二人の アラ ブ人と 、村 長の援 助に より砦 に到 着し、 モラ ・ホ
セインに会い、生涯の残りの日々を、大業の奉仕にささげることにしたのです。」
ゴッドスの仲間の敵で、名をあげた士官たちの名前はつぎに示すとおりである。
一.メヒディ・ゴリ・ミルザ。故モハメッド国王の弟
二.ソレイマン・カーン・アフシャール
三.ハジ・モスタファ・カーン・スル・ティジ
四.アブドラ・カーン。ハジ・モスタファ・カーンの弟
五.アッバス・ゴリ・カーン・ラリジャニ。モラ・ホセインを撃った男
六.ヌロラ・カーン・アフガン
七.ハビボラ・カーン・アフガン
八.ドール・ファガー・カーン・カラヴォリ
九.アリ・アスガー・カーン・ド・ドンゲイ
十.コダ・モラッド・カーン・コルド
十一.カリル・カーン・サヴァド・クヒ
十二.ジャファー・ゴリ・カーン・ソルク・カルレイ
十三.ファウジ・カルバットのサルティップ?
十四.ザカリヤイ・ガディ・カライ。コルソーの従兄弟で、その後継者
かの忘れがたい砦の防御に参加し、悲劇的な結末を生き抜いた信者たちについては、
そ の人数 も名 前も十 分に 確かめ るこ とはで きて いない 。し たがっ て、 不完全 では ある
が 、そこ で殉 教した 人た ちの名 前の リスト で今 は満足 して いる次 第で ある。 将来 、信
教 を推進 する 勇敢な 人た ちが、 綿密 に調査 し、 この記 録を 完全な もの にして くれ ると
信 じてい る。 これは 、現 代にお ける 、もっ とも 感動的 な出 来事の ひと つとし て歴 史に
残るにちがいないのである。
第二十一章
テ ヘランの七人の殉教者
タ バル シの砦 の勇 敢なる 一団 にふり かか った悲 劇的 な運命 のニ ュース は、 バブの 心
に はかり 知れ ない悲 しみ をもた らし た。チ ェリ グの砦 に監 禁され 、弟 子たち から も切
り 離され てい たバブ は、 かれら の努 力を見 守り 、その 勝利 を熱烈 に祈 ってい た。 一八
四 九年六 月下 旬に、 弟子 たちを 襲っ た試練 、か れらの 苦悶 、憤慨 した 敵の裏 切り 、そ
れにつづく残忍非道の虐殺を知ったバブの悲しみの深さをはかることはできない。
バブの秘書アジズは、後日つぎのように述べている。
「バブは、この思いがけないニ
ュ ースに 、悲 痛な思 いを されま した 。深い 悲し みで、 声を 出すこ とも 、ペン を動 かす
こ ともあ りま せんで した 。九日 間だ れとも 会お うとさ れま せんで した 。バブ と親 密な
従 者であ った わたし でさ えも、 部屋 に入る のを ことわ られ たので す。 差し出 され た食
べ 物と飲 み物 にも手 をつ けよう とさ れませ んで した。 かれ の眼か ら涙 がとめ ども なく
流 れ、か れの 口から 苦悩 の言葉 が出 されつ づけ ました 。個 室で最 愛な る御方 と交 信さ
れるとき、カーテンの後ろから、悲嘆の言葉を聞き取ることができました。わたしは、
その傷ついた心からほとばしる悲しみの言葉を、書きとめようとしました。ところが、
バ ブは、 それ に気づ かれ 、記録 した ものを 全部 破棄す るよ うに言 われ ました 。そ のた
め 、かれ の苦 悩する 心か ら出さ れた 嘆きの 言葉 を残す こと はでき なか ったの です 。こ
うして五ヵ月間、バブは意気消沈と悲しみの大洋に浸っておられました。」(p.430)
一八四九年十一月に、バブは中断していた執筆の仕事をはじめた。最初のページは、
モ ラ・ホ セイ ンにさ さげ られた 。そ の参堂 の書 の中で 、タ バルシ の砦 が包囲 攻撃 され
て いた期 間、 モラ・ ホセ インが ゆる がぬ忠 誠心 をもっ て、 ゴッド スに 仕えた こと を、
感 動的な 言葉 で賞賛 して いる。 また 、その 気高 い行為 と偉 業を称 え、 来世で 師の ゴッ
ド スとか なら ず再会 する ことを 約束 し、バ ブ自 身も、 やが て、こ の不 滅の二 人と いっ
し ょにな るで あろう と書 いた。 この 二人は 、そ れぞれ 、生 存中も 死後 も、神 の信 教に
不 朽の光 輝を 注いだ ので ある。 バブ は、一 週間 、ゴッ ドス とモラ ・ホ セイン 、そ のほ
かのタバルシで殉教の冠を得た弟子たちについて賞賛の言葉を書きつづけた。
こ のよ うに、 バブ は、砦 の防 御で不 滅の 名前を 残し た弟子 たち の賛辞 を書 いたが 、
そ れが終 わる とすぐ 、一 八四九 年十 一月二 十六 日、マ ラゲ 町の信 者で あるゴ ザル を呼
ん だ。ゴ ザル は、そ れま での二 ヵ月 間、ホ セイ ン・ア ジズ の弟ハ サン の代わ りに 、バ
ブ の世話 をし ていた 。バ ブはゴ ザル を温か く部 屋に迎 え、 サイヤ とい う称号 をあ たえ
た 。そし て、 タバル シの 殉教者 たち のため に著 した参 堂の 書をか れに 渡し、 自分 に代
わって詣に出るように命じた。
「世俗への愛着を完全に断ち、旅人をよそって、マザン
デ ランに 向か うがよ い。 そして 、わ が大業 への 信仰を 、生 命の血 で証 明した 不滅 の人
び とが葬 られ ている 場所 を、わ たし に代わ って 訪れよ 。そ の聖な る場 所の近 くま でき
た ら、靴 をぬ ぎ、頭 を下 げてか れら の名前 をと なえ、 冥福 を祈り 、廟 の回り を巡 回せ
よ 。訪問 の思 い出に 、わ が愛す るゴ ッドス とモ ラ・ホ セイ ンの遺 体を おおっ てい る聖
なる土を一握りほど、わたしのところに持参せよ。わたしと共に新年を祝えるように、
その前にもどって来るがよい。わたしが今後ふたたび会えるのはあなただけであろ
う。」(pp.431-432)
サ イヤ は、指 示通 りにマ ザン デラン に向 かい、 一八 五〇年 一月 十五日 に到 着した 。
そ して、 モラ ・ホセ イン の殉教 一周 記念日 にあ たる一 月二 十三日 まで に廟を 訪れ 、委
任された使命を立派に果たした。その後、テヘランに向かった。
わ たし (著者 )は 、テヘ ラン のバハ オラ の邸宅 の入 口で、 サイ ヤを迎 えた アガ・ カ
リムから、つぎのように聞いた。
「サイヤが、巡礼を終えて、バハオラを訪れたのは真
冬の最中でした。雪の降る極寒の中、かれは修行僧のうすい衣を身につけ、はだしで、
髪 はぼう ぼう として いま した。 しか し、心 は巡 礼によ って 点され た火 で燃え てい まし
た 。バハ オラ の家の 客人 であっ たヴ ァヒド は、 サイヤ がタ バルシ の砦 からも どっ てき
た ことを 聞い て、自 分が 高い身 分で あるこ とも 忘れて 、サ イヤの 下に いそぎ 、そ の足
下 に身を かが めまし た。 そして 、ひ ざまで 泥で おおわ れて いたサ イヤ の足を 両腕 でだ
き 、うや うや しく接 吻し たので す。 その日 、わ たしは 、バ ハオラ がヴ ァヒド に示 され
た 温かい 気遣 いにお どろ きまし た。 それほ どの 愛情を バハ オラが 示さ れたの を見 たこ
と がなか った のです 。バ ハオラ の話 し方か ら、 まもな くヴ ァヒド は、 タバル シの 砦で
不滅の名を残した人たちにおとらない業績を為すであろうと確信しました。」(p.432)
サ イヤ は、バ ハオ ラの家 に二 、三日 滞在 した。 しか し、ヴ ァヒ ドのよ うに は、家 の
主 人(バ ハオ ラ)が ひめ ている 威力 を認め るこ とはで きな かった 。か れは、 バハ オラ
から深い愛情を注がれたが、その祝福の意義を理解することはできなかったのである。
わたし(著者)は、サイヤがファマゴスタに旅行中、つぎのように語るのを聞いた。
「バ
ハ オラは わた しを大 変親 切にあ つか って下 さい ました 。ヴ ァヒド も、 その高 い地 位に
か かわら ず、 バハオ ラの 面前で は、 かなら ずわ たしを 自分 よりも 上位 の者と して あつ
かわれたのです。マザンデランに到着した日に、わたしの足に接吻されたほどでした。
バ ハオラ の家 での歓 迎ぶ りに、 わた しはび っく りしま した 。この よう に、わ たし は恩
恵 の海に 浸さ れたの です が、当 時、 バハオ ラの 地位を 理解 するこ とが できま せん でし
た 。また 、バ ハオラ がそ の後、 どの ような 使命 を果た され るよう にな ってい るか にも
まったく気づかなかったのです。」
サ イヤ がテヘ ラン から出 発す る前に 、バ ハオラ は一 通の書 簡を かれに 託し た。そ れ
は 、バハ オラ がヤー ヤ( バハオ ラの 異母弟 )に 書き取 らせ たもの で、 ヤーヤ の名 前で
送 られる もの であっ た。 まもな くし て、バ ブの 自筆で 返事 がきた 。そ の内容 は、 ヤー
ヤ の教育 と訓 練を、 バハ オラに 託し たもの であ った。 この 通信か ら、 バヤン の人 びと
( ヤーヤ の追 従者た ち) は、リ ーダ ーのヤ ーヤ の主張 (バ ブの後 継者 である とい う)
が 裏づけ られ たと誤 解し た。そ の返 事には 、そ のよう な主 張はま った く述べ られ てい
な かった し、 また、 ヤー ヤの要 求す る地位 への 言及も なか った。 そこ に書か れて いた
の は、バ ハオ ラへの 賞賛 とヤー ヤの 教育に つい てだけ であ ったが 、追 従者た ちは 、ヤ
ーヤの権限を主張したものだと空しい想像をしたのであった。(p.433)
こ れま で一八 四八 から一 八四 九年に かけ て起こ った 主な出 来事 を述べ てき たが、 こ
こ で、同 じ時 期にわ たし (著者 )自 身の生 活に 起こっ た重 要な出 来事 を述べ てお きた
い 。それ は、 わたし の精 神的な 再誕 生と、 過去 の因襲 から 解放さ れた ことと 、バ ブの
啓 示を受 け入 れたこ とで ある。 わた しの若 年時 代の状 況を 長く述 べす ぎたり 、わ たし
の 改宗に いた った出 来事 を詳細 に語 りすぎ たり するか も知 れない ので 、前も って 読者
諸 君にお 許し をいた だき たいと 思う 。わた しの 父は、 タヘ リ族に 属し 、コラ サン 州で
遊 牧生活 をし ていた 。ゴ ラム・ アリ という 名で 、ホセ イン ・アラ ブの 息子で あっ た。
カ ルブ・ アリ の娘と 結婚 し、三 人の 息子と 三人 の娘に めぐ まれた 。わ たしは 次男 とし
て 、一八 三一 年七月 二十 九日、 ザラ ンド村 で生 まれ、 ヤル ・モハ メッ ドと名 づけ られ
た。仕事は羊飼いで、少年のとき、初等教育だけを受けた。もっと勉強したかったが、
そ れがで きる 境遇で はな かった 。コ ーラン を熱 心に読 み、 何節か を暗 記し、 草原 で羊
の 群れを 追っ ている とき にとな えた 。一人 でい るのが 大好 きで、 夜は 星をな がめ て楽
しんだり、また不思議に思ったりした。静かな草原で、エマム・アリの祈りをとなえ、
ケ ブレの 方に 顔を向 け、 真理を 発見 できる よう に、わ たし の歩み が導 かれる よう にと
神に祈った。
父 はと きどき 、わ たしを クム 町に連 れて 行った 。そ こで、 イス ラム教 の教 えと、 そ
の 指導者 たち の状態 を知 った。 父は 、熱心 なイ スラム 教徒 で、そ の町 に集ま る僧 侶た
ち と親密 に交 わった 。父 がエマ ム・ ハサン のモ スクで 、祈 り、定 めら れた儀 式を 細心
の 注意を はら って、 敬虔 に行う のを 見守っ た。 また、 ナジ ャフか ら来 た著名 な高 僧数
人 の説教 も聞 き、か れら の講話 に出 席し、 その 討論に 耳を 傾けた 。そ うして いる うち
に 、徐々 に、 かれら の偽 善に気 づき 、その 卑劣 さに胸 が悪 くなり はじ めた。 高僧 たち
が 、わた しに 押しつ けよ うとし てい る信条 や教 義が信 頼で きるも ので あるか どう かを
確 認した かっ たが、 時間 もなく 、調 査でき る設 備も得 られ なかっ た。 父は、 わた しが
無鉄砲で落ち着きがないと、よく叱った。「高僧たちをけぎらいしていると、将来、お
前は、大変な困難にまき込まれ、非難を受け、恥をかくことになる。」(p.435)
ロ バト ・カリ ム村 の叔父 を訪 れてい たと きであ る。 一八四 七年 の新年 から 十二日 目
に 、その 村の モスク で、 二人の 男が 話して いる のをふ と耳 にした 。こ の会話 から 、バ
ブの啓示をはじめて知ったのである。一人の男が言った。
「バブはケナル・ゲルド村に
連 れて行 かれ 、今テ ヘラ ンに向 かっ ている こと を知っ てい るか? 」も う一人 の男 が、
こ のこと を知 らなか った ので、 かれ は、バ ブに ついて 最初 から話 しは じめた 。バ ブの
宣言にまつわる状況、シラズでの逮捕、エスファハンへの出発、エマム・ジョミエ(僧
侶 の長) とマ ヌチェ ール ・カー ン( 知事) から 受けた 歓迎 、かれ が示 した超 人的 で不
思 議な力 、か れに敵 対す るエス ファ ハンの 僧侶 たちの 評決 などを くわ しく述 べた ので
あ る。こ れら の出来 事の すべて に、 わたし の好 奇心は 刺激 された 。そ して、 国民 をそ
れほど魅惑した人物に対して、強烈な賞賛の気持でいっぱいになった。わたしの魂は、
バブの光でみたされ、すでに、その大業の信奉者となったような気がした。
ロ バト ・カリ ムか らザラ ンド にもど って きたと き、 父は、 わた しが落 ち着 きがな く
な り、態 度が 変わっ たと 、おど ろい た様子 であ った。 食欲 がなく なり 、眠れ なく なっ
て いたが 、心 の動揺 を父 からか くす ことに した 。この こと が父に わか れば、 わた しの
ひ そかな 望み が果た せな くなる と思 ったか らで ある。 この 状態は 、ホ セイン ・ザ バレ
と いう人 がザ ランド に到 着する まで つづい た。 この人 は、 わたし の心 の願望 に光 をあ
た えてく れた 。かれ との 交わり が友 情に発 展し たとき 、わ たしは 心に ひめて いる 熱望
を 打ち明 けた 。大変 おど ろいた こと に、か れ自 身もす でに 、この こと に魅了 され てお
り、つぎのように語ってくれた。(p.435)
「 わたし の従 兄弟エ スマ イル・ ザバ レから 、バ ブのメ ッセ ージが 真実 である こと を聞
いて確信しました。 かれはこう知らせてくれました。かれは、エスファハンの僧侶の
長 宅で、 バブ に数回 会い ました 。バ ブは、 その 僧侶の 眼前 で、ヴ ァル ・アス ル( コー
ラ ンの一 節) につい て解 説しま した が、そ のと きの作 文の 速さと 強力 で独創 的な 文体
に 、驚嘆 した のです 。も っとお どろ いたこ とに 、バブ は、 同じ速 度で 解説を 書き なが
ら 、その 場に いた人 たち の質問 に答 えたの です 。この 従兄 弟は、 どん な危険 も恐 れず
に バブの 教え をひろ めた ため、 ザヴ ァレ町 の町 長と名 士た ちの敵 意を あおり 、最 近ま
で 住んで いた エスフ ァハ ンにも どら ざるを 得な くなり まし た。わ たし もまた 、ザ ヴァ
レに居つづけることができなくなり、カシャンに移りました。その町で、冬を過ごし、
ジャニと会いました。この人については、従兄弟から話を聞いていました。ジャニは、
バ ブが著 した 論文を わた しに渡 し、 精読し たら 、ニ、 三日 後にも どす ように 言い まし
た 。わた しは 、この 論文 のテー マと 文体に 強く 惹かれ 、全 文をす ぐ書 き写す こと にし
ま した。 論文 をジャ ニに もどし たと き、か れか ら、バ ブに 会う機 会を 失った こと を知
らされて大変残念に思いました。
『バブは、新年の日夕方に到着され、わたしの客人と
し て三晩 を過 ごされ まし た。バ ブは 今、テ ヘラ ンに向 かっ ておら れま す。す ぐ出 発す
れば、バブにかならず追いつくはずです。』
す ぐカ シャン を離 れ、ケ ナル ・ゲル ド近 郊にあ る砦 まで歩 きま した。 砦の 外壁の 蔭
で休んでいると、愛想のよい男が砦から出てきて、
『あなたはどういう方ですか。どこ
に 行かれ よう とされ てい るので すか 。』と 聞き ました 。『 わたし は貧 しいセ イエ ド(モ
ハメッドの子孫)で、この土地に不慣れな旅人です。』と答えました。かれは、わたし
を 自分の 家に 案内し 、一 夜を過 ごす ように 招き ました 。会 話中に 、か れはこ う述 べま
した。
『あなたはバブの弟子でしょう。バブはこの砦でニ、三日を過ごされ、コライン
村 に移ら れま した。 そし て三日 後に 、アゼ ルバ エジャ ンに 向かわ れま した。 バブ と離
れたくなかったのですが、かれはわたしに、こう命じられました。<この場所に残り、
わたしに代わって弟子たちを愛情深く迎え、わたしの後をつけないように言いなさい。
そ して、 かれ らがこ の大 業に献 身す るよう には げまし なさ い。こ の信 教の進 歩を 妨げ
て いる障 害物 が除か れ、 弟子た ちが 、安心 して 思う存 分神 を礼拝 し、 その教 えを 守る
こ とがで きる ように 。> わたし は即 刻、バ ブの 後を追 うこ とをや め、 クム町 にも もど
らずに、この場所に来ることにしたのです。』」(pp.436-437)
ホ セイ ン・ザ バレ の話を 聞い て、わ たし の不安 感は やわら いだ 。かれ が見 せてく れ
た バブの 書簡 の写し に、 わたし の魂 は活気 づい た。当 時、 わたし は、 ある師 の下 でコ
ー ランを 学ん でいた が、 この師 はイ スラム 教の 教義に つい て解説 する 能力に 欠け てい
る ことが 、ま すます 明ら かにな って きた。 ホセ イン・ ザバ レに、 バブ の大業 につ いて
も っと情 報が 欲しい と述 べたと ころ 、かれ は、 エスマ イル ・ザバ レに 会うよ うに すす
め た。こ の人 は、毎 春か ならず 、ク ム町の エマ ム・ザ デの 廟に参 拝す るのを 習慣 とし
て いた。 父は 、わた しが 離れる のを いやが った が、ア ラビ ア語を 習得 するた めに クム
町 に行き たい とこん 願し て、許 可を もらっ た。 しかし 、本 当の目 的を 父に知 られ ない
よ うに慎 重に 行動し た。 それが わか れば、 ザラ ンドの 判事 や僧侶 たち の前で 恥を かく
ことになり、わたしの目的も達せられなくなるからであった。
ク ム町 に住ん でい るとき 、母 と姉と 弟が 、新年 を祝 うため に一 ヵ月ほ ど滞 在した 。
そ の期間 、母 と姉に 、新 しい啓 示に ついて 知ら せ、か れら の心に バブ への愛 を燃 え立
た せるこ とが できた 。家 族がザ ラン ドに帰 った 後、わ たし が待ち あぐ んでい たエ スマ
イ ル・ザ バレ が到着 した 。かれ は、 大業に つい て詳細 に説 明して くれ たため 、完 全に
信 じるこ とが できる よう になっ た。 かれは 、神 の啓示 が継 続して 下さ れるこ と、 過去
の 予言者 たち は、基 本的 には同 じで あるこ と、 かれら とバ ブの使 命が 密接に 関連 して
い ること を説 明した 。か れはま た、 アーマ ドと カゼム が成 し遂げ た仕 事の内 容に つい
て 知らせ てく れた。 わた しは、 それ まで、 この 二人に つい て聞い たこ とはな かっ た。
わ たしは 、現 在、こ の信 教に忠 実に 従う者 は、 何をす べき かにつ いて 聞いた 。か れは
答えた。
「この教えを受け入れた者はすべて、マザンデランに向かい、ゴッドスを援助
す べきだ とい うのが バブ の指示 です 。ゴッ ドス は今、 無慈 悲な敵 軍に 取り囲 まれ てい
るからです。」かれがタバルシの砦に行く予定であることを知ったわたしは、同行を願
っ た。し かし 、かれ は、 わたし と同 年の若 者ハ カクと いっ しょに 、テ ヘラン から メッ
セ ージを 受け 取るま で、 クム町 に残 るよう にす すめた 。ハ カクは 最近 大業を 受け 入れ
た人である。(pp.437-439)
そ のメ ッセー ジを 待った が、 何も来 ない ので、 テヘ ランに 向か うこと にし た。友 人
の ハカク も、 わたし につ づいた 。そ の後、 かれ は逮捕 され 、一八 五一 年から 一八 五二
年 に、国 王の 暗殺未 遂事 件で処 刑さ れた人 たち と運命 を共 にした 。テ ヘラン に着 くと
す ぐ、神 学校 の向か い側 にある モス クに行 った 。その 入り 口で、 偶然 にエス マイ ル・
ザ バレに 出会 った。 かれ は、わ たし に手紙 を書 き、ち ょう どクム に送 るとこ ろで ある
と、知らせてくれた。
か れと わたし がマ ザンデ ラン に向か う準 備をし てい るとき 、ニ ュース が伝 わって き
た 。タバ ルシ 砦を防 御し ていた 仲間 たちは 、裏 切られ て虐 殺され 、砦 は破壊 され たと
い うニュ ース であっ た。 この恐 ろし いニュ ース に、わ れわ れは悲 嘆に くれ、 最愛 の大
業 を勇敢 に防 御した 仲間 たちの 痛ま しい運 命を 悲しん だ。 ある日 、と つぜん 叔父 と出
く わした 。か れは、 わた しを連 れも どしに きた のであ った 。エス マイ ル・ザ バレ に、
こ のこと を告 げたと ころ 、かれ は、 親族の 敵意 を刺激 しな いよう に、 ザラン ドに もど
るように忠告した。
故 里の 村にも どっ て、弟 を大 業の信 者に するこ とが できた 。母 と姉は すで に信者 と
な ってい た。 さらに 、父 を説得 して 、わた しが ふたた びテ ヘラン に行 くこと を許 して
も らった 。テ ヘラン で、 前の訪 問時 に滞在 して いた同 じ神 学校に 住む ことに した 。そ
こ で、カ リム という 人に 会った 。こ の人は 、バ ハオラ から ミルザ ・ア ーマド とい う名
前をもらっていたのをあとで知った。かれは、わたしを温かく迎え、「エスマイル・ザ
バ レから 、あ なたの 世話 をする よう にと頼 まれ ていま す。 かれが テヘ ランに もど るま
で、わたしといっしょに過ごして下さい。」と述べた。ミルザ・アーマドと過ごした日々
は 決して 忘れ られな いも のとな った 。かれ は、 まった く愛 と親切 の権 化のよ うな 人で
あ った。 わた しを鼓 舞し 、わた しの 信仰を 活気 づけた かれ の言葉 は、 わたし の心 に永
久に刻まれたままである。(pp.439-440)
ミ ルザ ・アー マド は、わ たし をバブ の弟 子たち に紹 介した 。か れとの 交わ りから 、
信 教の教 えに 関して 十分 な情報 を得 ること がで きた。 当時 、ミル ザ・ アーマ ドは 筆写
者 として 生計 を立て てい た。夜 は、 バブの 書い たバヤ ン書 とほか の本 の筆写 に専 心し
た 。こう して 写した 本は 、ほか の弟 子たち に贈 られた 。わ たし自 身も 数回、 それ らの
贈 り物を 、メ ヘディ ・カ ンディ の妻 にもっ てい ったこ とが ある。 メヘ ディ・ カン ディ
は、幼児の息子を残して、タバルシ砦の一団にはいった人である。
この期間中に、バダシュトの大会後ヌールに住んでいたタヘレが、テヘランに来て、
マ ムード ・カ ーンの 家に 監禁さ れて いるこ とを 知った 。し かし、 かの 女は、 丁重 にあ
つかわれているということであった。(p.440)
あ る日 、ミル ザ・ アーマ ドは 、わた しを バハオ ラの 家に案 内し た。最 大の 枝(ア ブ
ド ル・バ ハ) の母で ある 、バハ オラ の妻は 、わ たしの 目を 治した こと があっ た。 かの
女 は自分 で処 方した 目薬 を、ミ ルザ ・アー マド を通し てわ たしに 送っ てくれ たの であ
る 。バハ オラ の家で 最初 に会っ たの は、当 時六 才であ った かの女 の最 愛の息 子で あっ
た 。かれ は、 バハオ ラの 部屋の 入り 口に立 って 、ほほ 笑ん でわた しを 迎えて くれ た。
わ たしは その 部屋の 入り 口を通 りす ぎて、 ヤー ヤの面 前に 案内さ れた 。その とき 、わ
た しは、 今通 りすぎ た部 屋の住 人が 、どれ ほど の地位 にあ る方で ある かに気 づい てい
な かった 。ヤ ーヤと 向か い合っ て、 その容 貌を 見、話 すの を聞い て、 かれが 主張 して
いる地位にはまったく値しない人物であることを知っておどろいた。
別 の日 に、同 じ家 を訪れ 、ヤ ーヤの 部屋 に入ろ うと したと き、 アガ・ カリ ム(バ ハ
オ ラの実 弟) が、近 づい てきて 、つ ぎのこ とを わたし に依 頼した 。市 場にで かけ た召
使 いがま だも どって 来て いない ので 、師( アブ ドル・ バハ )を神 学校 に連れ てい き、
そ の後、 ここ にもど って きてく れな いか、 とい う依頼 であ った。 わた しは、 よろ こん
で承諾し、出かける準備をしていたとき、ひじょうに上品で美しい少年、最大の枝(ア
ブ ドル・ バハ )が、 羊皮 の帽子 をか ぶり、 コー トを着 て、 父上の 部屋 から出 てき た。
そ して、 階段 をおり て、 出口に 向か った。 わた しは、 かれ のそば に寄 り、か れを 抱え
よ うと両 腕を 差し出 した ところ 、か れは、「い っしょ に歩 きまし ょう 。」と 言っ て、わ
た しの手 をと り、家 を出 た。手 に手 をとっ て、 おしゃ べり しなが ら、 神学校 の方 へ歩
いた。当時、この神学校はパ・メナールの名で知られていた。教室に着いたところで、
かれは、わたしの方を向きこう言った。
「午後にわたしを迎えにきて、家まで送ってく
だ さい。 父上 の用事 で、 エスフ ァン ディヤ ール (召使 い) が今日 はこ られな いか らで
す。」わたしは、よろこんで承諾し、すぐバハオラの家にもどった。その家でまた、ヤ
ー ヤに会 った 。かれ は、 わたし に、 サドル 神学 校に行 き、 バゲル ・バ スタミ の部 屋に
居 るバハ オラ に手紙 を渡 し、返 事を すぐも らっ てくる よう に依頼 した 。わた しは 、こ
の依頼を果たした後、アブドル・バハを迎えに行き、家に連れ帰った。(440-441)
あ る日 、ミル ザ・ アーマ ドは 、わた しを 招いて 、バ ブの伯 父セ イエド ・ア リに会 わ
せ た。か れは 、最近 チェ リグか らも どり、 チャ パルチ の家 に滞在 して いた。 この 家は
シ ェミラ ン門 の近く にあ った。 セイ エド・ アリ の高貴 な姿 と穏や かな 表情に 深く 印象
づ けられ た。 その後 の訪 問によ って 、かれ の温 和な気 質と 神秘的 な敬 虔さと 強い 性格
へ の賞賛 の気 持ちは 高め られた 。わ たしが よく おぼえ てい る出来 事に つぎの こと があ
っ た。あ ると き、ア ガ・ カリム は集 会で、 大騒 ぎにな って いるテ ヘラ ンを離 れ、 その
危 険から 逃れ るよう 、か れにす すめ た。こ れに 、かれ は確 信をも って 答えた 。「 なぜ、
わ たしの 安全 を心配 なさ るので すか ?
わ た し もまた 、神 の御手 が、 選ばれ た人 びと
のために用意している宴会にあずかりたいのです。」(p.442)
ま もな くして 、扇 動者た ちは 、その 町に 大騒動 を起 こすこ とに 成功し た。 その直 接
の 原因は 、カ シャン 出身 で、神 学校 に住ん でい るある 男の 行動で あっ た。名 を知 られ
て いるセ イエ ド・モ ハメ ッドは 、こ の男を 信用 し、か れは バブの 信者 となっ たと 主張
し ていた 。同 じ神学 校に 宿泊し 、イ スラム 教の 抽象的 教義 で有名 な講 師であ った モハ
メ ッド・ ホセ インは 、自 分の弟 子で あるセ イエ ド・モ ハメ ッドに 、こ の男と の交 際を
絶 つよう に、 数回忠 告し た。こ の男 は信用 でき ないの で、 信者の 集会 にはい れな いよ
う にと忠 告し たので ある 。しか し、 セイエ ド・ モハメ ッド は、こ の警 告を無 視し 、一
八五〇年二月の中旬まで、この男と交際しつづけた。この不信実な男は、その時期に、
カ シャン の僧 侶セイ エド ・ホセ イン のとこ ろに 行き、 当時 テヘラ ンに 住んで いた 約五
十 名の信 者の 名前と 住所 を渡し た。 セイエ ド・ ホセイ ンは 、すぐ その リスト をマ ムー
ド・カーンに提出した。かれは、全員の逮捕を命じ、その結果十四名が捕らえられて、
当局に連行された。(P.442-443)
か れら が逮捕 され た日、 わた しは、 ザラ ンドか ら来 て、ノ ウの 門外に ある 隊商宿 に
泊 まって いた 弟と伯 父と いっし ょに いた。 翌朝 、この 二人 はザラ ンド に向か った 。神
学 校にも どる と、わ たし の部屋 に小 包が置 かれ ていた 。そ の上に は、 ミルザ ・ア ーマ
ド からわ たし に宛て た手 紙があ った 。その 手紙 は、か の不 信実な 男が ついに われ われ
を密告し、首都で大変な騒ぎを起こしていることを知らせるものであった。
「この小包
に は、わ たし が所有 して いる聖 なる 書き物 が全 部入っ てい ます。 あな たが、 この 場所
に 安全に もど ること がで きれば 、隊 商宿に 泊ま ってい るナ ッド・ アリ に、そ の小 包と
手 紙を渡 して くださ い。 この人 は、 ガズビ ン出 身です 。そ の後す ぐ、 シャー のモ スク
に 行かれ れば 、そこ で、 あなた に会 うこと がで きまし ょう 。」わ たし は、指 示通 りに、
小包をナッド・アリに渡し、モスクに到着してミルザ・アーマドに会うことができた。
か れは、 襲わ れてモ スク に避難 した こと、 モス ク内で はも う襲わ れる 心配が なく なっ
たことを話してくれた。
そ の間 、バハ オラ は、サ ドル 神学校 から ミルザ ・ア ーマド 宛て にメッ セー ジを送 っ
た 。それ は、 アミー ル・ ネザム (総 理大臣 )は 陰謀を 企て ており 、か れの逮 捕を 僧侶
の長にすでに、三回要求していたことを知らせるものであった。さらに、総理大臣は、
モ スクに 避難 した者 を襲 うこと はで きない とい う規約 も無 視して 、避 難者た ちを 逮捕
す るつも りで いるの で、 ミルザ ・ア ーマド は変 装して クム に向か い、 同時に 、わ たし
はザランドの故郷にもどるように、というのがバハオラからの指示であった。
一方、モスクでわたしを見た親族は、わたしにザランドに帰るように強く忠告した。
父 は、わ たし が逮捕 され 、処刑 寸前 である とい う、あ やま った知 らせ を受け 、心 を痛
め ている ので 、急い でも どり、 父の 不安を 除い てあげ なさ い、と 説得 したの であ る。
こ の神か ら送 られた 好機 をとら える ように との ミルザ ・ア ーマド の勧 告通り に、 ザラ
ン ドにも どり 、家族 とい っしょ に新 年のフ ィー ストを 祝う ことが でき た。こ のフ ィー
ス トは、 一八 五〇年 のジ ャマデ ィヨ ル・ア ヴァ ール月 の五 日目で 、ち ょうど バブ の使
命 宣言の 記念 日にあ たる ため、 二重 のよろ こび に満ち たも のであ った 。この 年の 新年
は、バブの最後の著作に、つぎのように述べられている。「バヤンの点(バブ)の宣言
か ら六年 目の 新年は 、太 陰暦で 、七 年目の ジャ マディ ヨル ・アヴ ァー ル月の 五日 目に
あたる。」同じ節で、バブは、この年の新年は、地上で祝う最後の新年であろうと、ほ
のめかしている。(pp.444-445)
ザ ラン ドで家 族と 共に新 年を 祝いな がら も、わ たし の心は テヘ ランに 向け られて い
た 。動乱 中の テヘラ ンで 、どん な運 命が友 人の 信者た ちに 降りか かっ ている であ ろう
か 、と心 配で あった 。か れらの 安全 を知り たか った。 父の 家で、 両親 の愛情 にか こま
れ ながら も、 自分は 、仲 間の一 団か ら断た れて いると いう 思いで 心が 痛んだ 。か れら
が どんな 危険 にさら され ている かが 十分想 像で きた。 わた しもま た、 かれら の苦 しみ
を 分かち 合い たいと 切望 した。 しば らく、 家に 閉じこ もっ たまま の宙 ぶらり んの 生活
が つづい てい たが、 サデ ィク・ タブ リズの とつ ぜんの 訪問 で、そ れか ら解放 され た。
か れは、 テヘ ランか ら来 て、父 の家 に迎え られ たので ある 。かれ は、 わたし に重 くの
し かかっ てい た不安 を除 いてく れた 。しか し、 かれの 残酷 な話で 、わ たしは 恐怖 心に
か られた 。そ の恐ろ しい 話がわ たし の心に 投げ かけた 青白 い光の 前で 、それ まで の宙
ぶらりんの不安さえも、うすくなったのである。
こ こで 、テヘ ラン で逮捕 され た同胞 の殉 教につ いて 述べて みた い。逮 捕さ れたバ ブ
の 弟子十 四名 は、一 八五 〇年二 月中 旬から 二十 日間ほ ど、 マムー ド・ カーン 宅に 監禁
さ れてい た。 タヘレ も、 同じ家 の上 階に閉 じ込 められ てい た。虐 待者 たちは 、さ まざ
ま な手段 を用 いて弟 子た ちを虐 待し 、責め 立て たが、 必要 な情報 を得 ること はで きな
か った。 逮捕 された 弟子 の一人 、マ ラゲは 、と くには げし い拷問 にか けられ たが 、頑
固 に沈黙 を守 り、一 言も 口にす るこ とはな かっ た。こ のあ まりの 頑固 さに、 虐待 者た
ち は、こ の者 は、口 がき けない ので はない かと 思った 。そ こで、 マラ ゲにバ ブの 信教
を 教えた モラ ・エス マイ ルに、「こ の者は 話す 能力が ある のか? 」と 聞いた 。「 かれは
無言だが、口がきけないのではない。流暢に話すことができ、身体の障害は何もない。」
とモラ・エスマイルは答えた。そして、マラゲの名を呼ぶと、かれは直ちに返事をし、
モラ・エスマイルの指示に応じる準備があることを示した。(pp.445-446)
弟 子た ちから 何の 情報を 得る ことが でき ないと 確信 した虐 待者 たちは 、こ の件を マ
ム ード・ カー ンに訴 えた 。これ を受 けたマ ムー ド・カ ーン は、こ れを 、アミ ール ・ネ
ザ ム、す なわ ち、ナ セル ディン 国王 の総理 大臣 タギ・ カー ンに提 出し た。当 時、 国王
は、迫害されているバブの共同体の諸事については直接関与しなかった。したがって、
バ ブの弟 子た ちに関 して どのよ うな 決定が なさ れたか を知 らない こと が多か った 。総
理 大臣は 、絶 対的な 権限 をもち 、バ ブの弟 子た ちを思 いの まま処 する ことが でき た。
だ れ一人 かれ の決定 にう たがい をは さむ者 はい なかっ た。 また、 その 権限の ふる い方
を あえて 非難 する者 もい なかっ た。 総理大 臣は 即刻、 決定 的な命 令を 出し、 この 十四
人 のうち 、信 仰を取 り消 さない 者は 、処刑 する とおど した のであ る。 七人は 圧力 に耐
え きれず 信仰 を取り 消し 、すぐ 釈放 された 。残 りの七 人は 、テヘ ラン の七人 の殉 教者
となった。この七人について一人づつ説明してみたい。
一 .ハジ ・ミ ルザ・ セイ エド・ アリ 。称号 はカ ル・ア ザム 。バブ の伯 父で、 シラ ズの
有 力な商 人の 一人。 バブ の父親 の死 後、こ の伯 父がバ ブの 保護者 とな った。 バブ がヘ
ジ ャーズ への 巡礼か らも どって 、ホ セイン ・カ ーンに 逮捕 された とき 、バブ の身 元引
き 受け人 とな って宣 誓書 をした ため たのも この 伯父で あっ た。伯 父は また、 自分 の保
護 下にあ った バブを つね に愛情 と思 いやり をも って世 話し 、献身 的に バブに 仕え 、バ
ブ に会お うと シラズ に集 まって きた 大勢の 信者 たちと バブ の間の 仲に 立った 。か れの
唯一の子供は幼児のとき死亡した。一八四八年から一八四九年にかけて、この伯父は、
シ ラズを 離れ て、チ ェリ グの砦 にバ ブを訪 ねた 。そこ から 、テヘ ラン に行き 、特 定の
仕 事には つか なかっ たが 、暴動 が起 こるま でテ ヘラン にと どまっ た。 その暴 動で 殉教
したのである。(pp.446-447)
か れの 友人は 、迫 ってき てい る騒動 から 逃れる よう に忠告 した が、か れは 聞き入 れ
ず 、最後 の息 を引き 取る まで、 完全 な諦観 をも って、 はげ しい虐 待に 直面し た。 かれ
の知人である裕福な商人の多くが、身の代金を申し出たが、かれはそれをことわった。
つ いに、 かれ は、ア ミー ル・ネ ザム (総理 大臣 )の前 に連 行され た。 総理大 臣は こう
言った。
「この国の君主は、予言者の子孫にわずかでも危害を加えることを嫌っておら
れ る。シ ラズ とテヘ ラン の著名 な商 人たち は、 あなた のた めに身 の代 金を払 いた いと
願っている。マレコット・トッジャールは、あなたが許されるようにこん願している。
『 信仰を 取り 消す』 とい うあな たの 一言さ えあ れば、 あな たは自 由に なり、 栄誉 をも
っ て故郷 にも どれる のだ 。そう すれ ば、残 りの 生涯は 、国 王の保 護の 下で、 栄誉 と威
厳 をもっ て過 ごせる のだ 。」バ ブの 伯父は 大胆 にこう 答え た。「 閣下 、これ まで に殉教
の 杯をよ ろこ んで飲 み干 した人 たち は、あ なた が今さ れて いる要 請を 拒否し まし た。
わ たしも また 、その よう な要請 をは っきり こと わりま す。 この啓 示に 秘めら れて いる
真 理を否 認す ること は、 その前 に下 された 啓示 をすべ て拒 絶する と同 じです 。バ ブの
使 命を認 めな いこと は、 わたし の先 祖の信 仰を 捨てる こと になり 、モ ハメッ ド、 イエ
ス 、モー ゼ、 そのほ かす べての 過去 の予言 者た ちがも たら した聖 なる 教えを 拒絶 する
こ とにな りま す。神 はご 存知で す。 神の使 者た ちの言 動に 関して 聞い たり、 読ん だり
し たこと のす べては 、わ たしの 愛す る親族 であ るこの 若者 (バブ )の 行動に 見て きま
し た。そ れも 、かれ が少 年時代 から 三十才 にな る現在 まで の期間 ずっ と目撃 して きた
の です。 かれ の言動 はす べて、 記録 に残さ れて いるか れの 高名な 先祖 (モハ メッ ド)
と 後継者 のエ マムた ちの 言動を 思い 起こさ せま す。わ たし の願い は一 つです 。わ たし
の 愛する 親族 (バブ )の 道に、 わた しの命 をさ さげる 最初 の者と して くださ るこ とで
す。」(p.447)
総 理大 臣は、 その 答えに 仰天 した。 絶望 感から 逆上 して、 無言 のまま 、従 者に、 か
れ を連れ 出し て、斬 首す るよう に身 振りで 合図 した。 処刑 の場に 連行 される 途中 、か
れは、何度もつぎのハフェズ(ペルシャの詩人)の言葉をくり返えした。
「おおわが神
よ 、あな たへ 深い感 謝を ささげ ます 。わた しの 願いを すべ て惜し みな くかな えて 下さ
っ たから です 。」か れは 、まわ りに 集まっ てき た群衆 に向 かって 声を あげた 。「 わたし
は 、神の 大業 の道に 、よ ろこん で命 をささ げた 。ファ ルス 全州と ペル シャ国 境を 越え
た イラク の人 びとで さえ 、わた しの 公正な 行為 、真心 から の敬虔 さ、 高貴な 血統 を進
ん で証言 する であろ う。 一千年 以上 、皆は 約束 された ガエ ム(バ ブ) の出現 を祈 りつ
づ けてこ られ た。こ の名 前を口 にす るとき 、皆 は、心 の奥 底から 何度 叫んだ こと であ
ろうか。
『おお神よ、約束の御方の到来を早めたまえ。その御方の出現を阻んでいる障
害をすべて除きたまえ。』ところが、その御方がついに到来されたところ、皆はその御
方 を、遠 方の アゼル バエ ジャン の片 隅に追 放し 、その 弟子 たちを 皆殺 しにし よう と立
ち あがっ た。 神の呪 いが 皆に下 され るよう にこ ん願す るな らば、 神の 復讐の 大い なる
怒 りが、 皆に 降りか かる ことは 確か である 。し かしな がら 、わた しは 、その よう なこ
と は祈ら ない 。最後 の息 を引き 取る とき、 わた しは、 全能 の神が 、皆 の罪の 汚れ を清
め、皆を思慮なき眠りから覚ましてくれるように祈ろう。」
こ の言 葉を聞 いた 死刑執 行人 は、心 の奥 底から 動揺 した。 かれ は、自 分の 手にも っ
て いる刀 を再 度研ぎ に行 くふり をし て、急 いで その場 を去 り、け っし てもど って くる
まいと決意した。その間、かれは号泣しながら不平をもらした。
「この仕事に任命され
た とき、 殺人 と追い はぎ で有罪 とな った者 だけ を、処 刑す るよう に言 われて いた 。と
こ ろが今 、エ マム・ ムセ イ・カ ゼム (七番 目の エマム )に 劣らず 聖な る方の 血を 流す
よ うに命 じら れたの だ! 」その 後ま もなく して 、かれ はコ ラサン に行 き、そ こで 運搬
人 と触れ 役の 仕事に つい て生計 を立 てた。 その 地方の 信者 たちに 、か れは、 その 悲痛
な 話をし 、強 制的に させ られた 行為 を悔い てい ること を述 べた。 その 出来事 を思 い出
す たびに 、セ イエド ・ア リの名 前を 聞くた びに 、かれ の目 からは 涙が あふれ てき た。
こ の涙は 、聖 なる人 セイ エド・ アリ が、か れの 心に注 いだ 愛情を 証言 するも ので あっ
た。(pp.448-449)
二 .ミル ザ・ ゴルバ ン・ アリ。 マザ ンデラ ン州 のバル フォ ルーシ ュ出 身で、 ネマ トラ
ヒ という 名で 知られ てい る共同 体の すぐれ た人 物。か れは 、ひじ ょう に敬虔 で、 高貴
な 性格を そな えてい た。 かれの 清ら かな生 活を 見て、 マザ ンデラ ン、 コラサ ン、 およ
び テヘラ ンの 名士た ちの 多くが 、か れを高 徳の 人だと みな し、忠 誠を 誓った 。こ のよ
う に、多 くの 人びと から 大変な 尊敬 を受け てい たかれ は、 カルベ ラへ の巡礼 途上 で、
大 勢の賞 賛者 たちに 取り 囲まれ た。 ハマダ ンで も、ケ ルマ ンシャ ーで も、大 多数 の人
び とがか れの 人格に 影響 を受け 、弟 子とな った 。どこ へ出 かけて も、 人びと は歓 呼し
て かれを 迎え た。し かし 、この 熱狂 的な人 に、 かれは ひじ ょうな 不快 感をも った 。そ
こ で、か れは 群衆を 避け 、虚飾 と見 せびら かし の指導 者の 地位を いさ ぎよし とし なか
っ た。カ ルベ ラに向 かう 途中、 マン ダリジ を通 りすぎ てい たとき 、か なり影 響力 のあ
る 人が、 かれ に惹か れ、 自分の もっ ていた もの をすべ て捨 て、友 人も 弟子も 残し て、
ヤ グビイ エま で、か れの あとを つけ てきた 。し かし、 ミル ザ・ゴ ルバ ンは、 この 人に
マンダリジにもどり、残してきた仕事をつづけるように説得することができた。(p.449)
巡 礼か らもど った ミルザ ・ゴ ルバン は、 モラ・ ホセ インに 会い 、かれ を通 してバ ブ
の 大業を 信じ るよう にな った。 病気 のため 、タ バルシ 砦の 一団に 加わ ること がで きな
か ったが 、健 康であ った ならば 、マ ザンデ ラン に旅し 、そ の一団 に最 初に参 加し てい
た であろ う。 バブの 弟子 たちの 中で 、モラ ・ホ セイン のつ ぎにか れが 愛着を いだ いて
いたのはヴァヒドであった。
テヘランを訪れていたとき、わたしは、ヴァヒドが大業に身をささげる決心をして、
そ の発展 のた めに立 ちあ がった こと を知っ た。 当時、 テヘ ランに いた ミルザ ・ゴ ルバ
ンが自分の病気をなげいて、つぎのように語るのをわたしは何度も耳にした。「モラ・
ホ セイン とそ の仲間 たち が飲み 干し た殉教 の杯 にあず かる ことが でき なくて 、ど れほ
ど 悲しん だこ とであ ろう か。こ の失 敗をお ぎな うため に、 ヴァヒ ドの 旗の下 に参 加し
たいと念願している。」ところが、かれがテヘランから出発しようとしたとき、とつぜ
ん 逮捕さ れた のであ る。 かれは 、ア ラブ人 の着 るチュ ニッ クの衣 に、 地のあ らい 織物
で 作られ たマ ンとを 着、 イラク 人の 帽子を かぶ ってい た。 この簡 素な 衣服で 街路 を歩
くかれの姿から、かれは、俗世への愛着を断った者だというのがはっきりとわかった。
か れは、 几帳 面に信 教の 教えを 守り 、敬虔 に祈 りをさ さげ た。そ して 、つぎ のよ うに
よく言っていた。
「バブは、自分の信教の教えを細かなところまで守られました。わた
しの師が守った教えを、わたし自身が守らないでおられるでしょうか。」(PP.449-450)
ミ ルザ ・ゴル バン が逮捕 され 、総理 大臣 の前に 連行 された とき 、これ まで なかっ た
ような騒動がテヘランで起こった。ミルザ・ゴルバンの身に何が起こるかを見ようと、
大 群衆が 政府 の建物 の入 り口に 群が ったの であ る。総 理大 臣は、 かれ を見る とす ぐ、
こう言った。
「昨夜から、政府の高官から官吏までのあらゆる階層の者たちがわれを取
り 囲み、 あな たを許 すよ うにこ ん願 した。 あな たの占 めて いる地 位と あなた の言 葉の
影 響力に つい て聞い たと ころに よる と、あ なた はバブ より も劣っ てい ないよ うだ 。あ
な たより 劣っ た知識 をも ってい る者 (バブ )に 忠誠を 誓う よりも 、あ なた自 身が 指導
者 である と主 張され た方 がよい ので はない か。」かれ は大 胆にこ う返 事した 。「 その御
方 (バブ )の 知識に より 、わた しは その御 方に 頭を下 げ、 忠誠を 誓う ことに なっ たの
で す。そ の御 方こそ は、 わたし の主 であり 、指 導者で あり ます。 大人 になっ て以 来、
正 義と公 正を わたし の人 生をみ ちび く主な 動因 とみな して きまし た。 この御 方を 公正
に 判断し 、こ う結論 づけ たので す。 すなわ ち、 敵味方 両方 が証言 して いるこ の御 方の
超 絶的な 威力 が、に せも のであ れば 、古代 から 現代ま での 神の予 言者 はすべ て、 まさ
し く、に せも のであ ると 非難さ れな ければ なり ません 。わ たしを 敬慕 する人 たち は一
千 人以上 いる ことは 確か です。 しか し、わ たし にはか れら の心を 変え る力は あり ませ
ん 。とこ ろが 、この 御方 は、そ の愛 の霊薬 によ り、も っと も堕落 した 人びと の魂 を変
え 得る威 力を そなえ てい ること を証 明され てき たので す。 この御 方は 、だれ から も援
助 を受け ずに 、自分 の力 だけで 、わ たしを はじ め、多 数の 人びと に大 きな影 響を あた
え ました 。こ の御方 と会 わずに 、自 分の欲 望を すて、 その 望みに 熱烈 にした がっ てき
た人も多くいます。かれらは、自分たちの犠牲が不十分なものであると知りながらも、
そ の御方 のた めに生 命を ささげ てき たので す。 かれら は、 自分の 献身 がその 御方 の宮
廷で、受け入れられるようにという望みをもっていたのです。」(pp.450-451)
そ こで、 総理 大臣は こう 述べた 。「 あなた の言 葉が神 から 下され たも のであ って も 、
そ うでな くて も、あ なた ほどの 高い 地位を 占め られて いる 方に死 刑の 宣告を 言い 渡し
たくないのだ。」ミルザ・ゴルバンは、もどかしくなって、叫ぶように言った。
「なぜ、
た めらわ れる のです か。 すべて の名 前は天 から 下され たこ とをご 存知 ないのですか?
ア リ(バ ブ) という 名前 をもつ 方の 道に、 わた しは命 をさ さげま した 。その お方 は、
太 古から 、ゴ ルバン ・ア リとい うわ たしの 名を 、かれ の選 ばれた 殉教 者の名 簿に 記録
さ れてい るの です。 この 日こそ は、 ゴルバ ン祭 日を祝 う日 です。 バブ の大業 への わた
し の信仰 を、 生命の 血で 固める 日で す。で すか ら、い やが らずに 、わ たしを 処刑 して
下さい。あなたの行為を非難するようなことはありませんからご安心下さい。」これを
聞いた総理大臣は叫んだ。
「この男を、ここから連れ出せ!
もう少しで、この狂った
僧 に、魔 法に かけら れる ところ だ。」ミル ザ・ ゴルバ ンは 答えた 。「 あなた は魔 法にか
け られる こと はあり ませ ん。心 の清 らかな 者だ けが魅 せら れるの です 。あな たを はじ
め 、あな たの ような 人た ちは、 神の 霊薬の 威力 を感じ るこ とはで きま せん。 その 威力
は、一瞬のうちに、人びとの魂を変えることができます。」
こ の答 えに憤 った 総理大 臣は 、席か ら立 ちあが り、 全身を 怒り でふる わせ ながら 叫
んだ。
「この妄想にかられた者らを黙らせるのは剣の刃だけだ!」つづけて、かれはそ
こに居た死刑執行人に命じた。
「この憎むべき宗派の信者らはもう出頭させないでよい。
どれほど話しても、この者たちの強情さを変えることはできないからだ。お前の力で、
信仰を取り消すように説得できる者は釈放し、残りの者は、首を切り落とすがよい。」
殉 教の 場が近 づく につれ て、 ミルザ ・ゴ ルバン は、 最愛な る御 方との 再会 を期待 し
て、大いなるよろこびでいっぱいになった。そして、歓喜のあまりこう叫んだ。「早く
わ たしを 殺す がよい 。そ うする こと により 、あ なたは 、永 遠の生 命の 聖杯を 、わ たし
に 差し出 すこ とにな るか らだ。 わた しの息 は絶 えてし まう が、最 愛な る御方 は、 わた
し に数知 れぬ 生命を 報酬 として あた えて下 さる のだ。 それ は、死 ぬ運 命にあ る人 間に
は 想像で きな いもの なの だ。」 それ から、 かれ は、群 衆の 方を向 き、 こん願 した 。「神
の 使徒( モハ メッド )の 信者の 皆さ ん、わ たし の言葉 をよ く聞く がよ い。神 の導 きの
昼 の星で ある モハメ ッド は以前 、ヘ ジャー ズの 地平線 上に 昇られ た。 そして 今、 シラ
ズ の昼の 星ア リ・モ ハメ ッドと して 、ふた たび 同じ光 を投 げかけ 、同 じ温か みを 注が
れているのだ。バラの花はどの庭園に、いつ咲いてもバラの花である。」この呼びかけ
に耳をかそうとしない群衆を見て、かれは高らかに声をあげた。
「ああ、強情な世代の
人 びとよ 。皆 は、不 滅の バラの 花か ら漂っ てく る芳香 にま ったく 気づ いてい ない 。わ
た しの魂 は、 歓喜で あふ れてい るが 、残念 なこ とに、 その 魅力を 分か ち合え る人 はな
く、その栄光を理解できる人もいない。」(pp.451-453)
首 を切 られて 出血 してい るセ イエド ・ア リ(バ ブの 伯父) の遺 体を、 足下 に見て 、
かれの興奮は最高に達した。その遺体に身を投げるようにして、かれは叫んだ。
「共に
喜 び合え る日 に幸い あれ !
わ れ わ れの最 愛な る御方 との 再会の 日に 幸いあ れ! 」そ
してかれは、遺体を両腕にかかえ、死刑執行人に向かって叫んだ。
「こちらにきて、わ
た しの首 を打 て。こ の忠 実な仲 間は 、わた しに 抱かれ たま まで、 最愛 の御方 の宮 居に
共にいそぎたいのだ。」そう言った直後、死刑執行人の剣がかれの首を打った。ニ、三
分 後、こ の偉 大な人 物は 息絶え た。 この残 酷な 処刑を 目撃 した傍 観者 たちの 心に は、
憤 慨と同 情が 交錯し た。 悲痛な 叫び 声が、 群衆 からあ がっ た。そ れは 、毎年 、ア シュ
ラ (エマ ム・ ホセイ ンの 殉教) の日 を迎え ると き、民 衆が 示す深 い嘆 きを思 い起 こさ
せるものであった。
三 .つぎ に殉 教した のは 、ファ ラハ ン出身 のハ ジ・モ ラ・ エスマ イル ・ゴミ であ る。
若 者のか れは 、真理 を真 剣に探 求し て、つ いに カルベ ラに 向かっ た。 ナジャ フと カル
ベ ラの主 な僧 侶のす べて と交わ り、 カゼム の弟 子とな った 。そこ で、 知識と 理解 力を
身 につけ 、そ の結果 、ニ 、三年 後、 シラズ でバ ブの啓 示を 認める こと ができ た。 かれ
は 、不動 の信 仰と献 身の 深さで きわ 立ち、 コラ サンに 急ぐ ように との バブの 指示 を知
るとすぐ、熱意をもってその要請に応じた。バダシュトに向かっていた一団に加わり、
セ ルロル ・ヴ ォジュ ドと いう称 号を もらっ た。 この一 団と すごし てい るうち に、 大業
に たいす る理 解はい っそ う深ま り、 その促 進の ための 熱意 も高ま った 。世俗 への 愛着
を 完全に 断ち 、自分 に霊 感をあ たえ てくれ た信 教の精 神を 、身を もっ て示し たい とい
う 熱望に から れた。 また 、コー ラン とイス ラム の伝承 の句 を、だ れも 匹敵で きな いほ
ど の洞察 力で 解説す るこ とがで きた が、そ の雄 弁は仲 間の 弟子た ちか ら賞賛 され た。
タ バルシ 砦が 、バブ の弟 子たち の集 合中心 とな った際 、病 床にあ った ため、 その 防御
に 参加で きず 、思い 悩ん だ。病 気か ら回復 後、 タバル シ砦 で、仲 間の 弟子た ちが 大虐
殺 された こと を知る とす ぐ、い っそ うの決 意と 献身を もっ て、そ の損 失をお ぎな うた
め に立ち 上が った。 この 決意に より 、かれ はや がて、 殉教 の冠を 獲得 するこ とに なる
のである。(pp.453-454)
断 頭台 に連行 され 、処刑 の瞬 間をま って いる間 、か れは、 自分 の前に 処刑 された 二
人 の殉教 者の 遺体に 目を 向けた 。二 人は、 抱き 合った まま 横たわ って いた。 かれ らの
血だらけの頭を見て、かれは叫ぶように言った。
「わが愛する仲間よ、よくやった。あ
なた方は、テヘランを楽園とされた。しかし、わたしの方が、先に処刑されたかった。」
こ う言っ て、 かれは ポケ ットか ら硬 貨を取 り出 し、死 刑執 行人に 渡し て、何 か甘 いも
の を買っ てく れるよ うに 頼んだ 。そ れがく ると 、少し 取り 、残り を死 刑執行 人に あた
え、こう言った。
「わたしは、あなたの行為を許した。わたしに近づいて一撃を加える
が よい。 三十 年間、 この 祝福さ れた 日を見 たい と切望 して きたの だ。 この望 みが かな
えられずに、墓場に行くのではないかと心配してきたのだが。」そして、天を向き、声
をあげて祈った。
「おお、わが神よ。わたしを受け入れたまえ。取るにたらないわたし
の名前を、犠牲の祭壇で命をささげた不滅の人びとの名簿に、刻まれたまえ。」かれは、
祈 ってい る最 中に、 執行 人に処 刑し てくれ るよ うに要 請し 、とつ ぜん 命を断 たれ た。
(p.454)
四 .エス マイ ル・ゴ ミの 息が絶 える か絶え ない うちに 、高 僧のセ イエ ド・ホ セイ ン・
ト ルシジ が断 頭台に 連れ てこら れた 。かれ は、 コラサ ン州 の村ト ルシ ズの出 身で 、敬
虔 と公正 な行 為で大 いに 尊敬さ れて いた。 かれ は、ナ ジャ フで長 い間 学び、 同僚 の高
僧 たちか ら、 コラサ ンに 行って 、修 得した 教え を広め るよ うに依 頼さ れた。 カゼ マイ
ン に到着 した とき、 以前 からの 知人 モハメ ッド ・タギ に会 った。 かれ は、ケ ルマ ン最
大 の商人 で、 コラサ ンに 支店を もっ ており 、ペ ルシャ に行 く途中 であ ったの で、 ホセ
イ ン・ト ルシ ジに同 行す ること にし た。モ ハメ ッド・ タギ は、バ ブの 伯父セ イエ ド・
ア リの親 密な 友人で あっ た。か れは 、一八 四七 年、シ ラズ からカ ルベ ラに巡 礼に 行く
準 備をし てい たとき に、 セイエ ド・ アリか らバ ブの大 業を 聞いて 、信 者にな った 人で
あ る。セ イエ ド・ア リが 、バブ を訪 問する ため にチェ リグ に行く 予定 である こと を知
っ たモハ メッ ド・タ ギは 、ぜひ 同行 させて くれ るよう に頼 んだ。 しか し、セ イエ ド・
アリは、
「最初の目的を達するためにカルベラに向かい、そこで、わたしと合流できる
かどうかを知らせる手紙を待つがよい。」と言った。チェリグに着いたセイエド・アリ
は 、バブ から テヘラ ンに 向けて 出発 するよ うに 指示さ れた 。テヘ ラン に短期 間滞 在し
た あと、 再度 、甥の バブ を訪れ るこ とがで きる と期待 した 。チェ リグ で、か れは 、シ
ラ ズには 帰り たくな い意 向を示 した が、そ れは 、町の 住民 がます ます ごう慢 にな って
い るのが 耐え られな かっ たから であ る。テ ヘラ ンに着 いて 、かれ はモ ハメッ ド・ タギ
に 合流を 要請 した。 その とき同 行し たのが ホセ イン・ トル シジで 、か れはバ グダ ッド
からテヘランまでの途上で、バブの教えを受け入れた。(pp.455-456)
ホ セイ ン・ト ルシ ジは、 自分 の処刑 と殉 教を見 るた めに集 まっ てきた 群衆 に向か っ
て、声をあげてこう言った。
「イスラム教徒たちよ、わたしに耳を傾けよ。わたしの名
前 はホセ イン で、セ イエ ド・シ ョー ハダ( エマ ム・ホ セイ ン)の 子孫 だ。聖 なる 都ナ
ジ ャフと カル ベラの 高僧 は皆、 わた しが、 イス ラム教 の法 律と教 えの 権威あ る解 説者
で あるこ とを 認めて きた 。最近 、バ ブの名 前を 聞くま では そうで あっ た。イ スラ ム教
の 複雑な 教え を研究 した ことで 、バ ブがも たら したメ ッセ ージの 価値 を理解 でき た。
わ たしは 、こ う確信 する 。バブ が明 らかに した 真理を 否定 するな らば 、その 以前 の啓
示 すべて を捨 てるこ とに なると いう ことを 。皆 に願い たい ことは 、め いめい この 都市
の 僧侶と 高僧 に呼び かけ 、集会 を開 いても らう ことだ 。そ こで、 わた しは、 この 大業
の 真理を 説明 いたそ う。 わたし が、 バブの 主張 が真実 であ ること を証 明でき るか どう
か を、か れら に判断 して もらお う。 もし、 わた しの提 出す る証拠 に、 かれら が満 足す
れ ば、無 実の 者の血 を流 すこと をや めてい ただ きたい 。も し、証 明で きなけ れば 、わ
たしに罰をあたえてもらおう。」
か れが 話を終 わる 前に、 総理 大臣に 仕え る執行 人が 、つぎ の言 葉をご う慢 に間に 入
れた。
「おれは、テヘランの著名な高僧七名が署名し、封印した死刑執行令状をもって
い る。か れら は、自 筆で 、お前 が異 端者で ある ことを 宣言 した。 おれ は、審 判の 日に
神 の御前 で、 おまえ の血 を流す 責任 を負う 覚悟 だ。お れは 、指導 者た ちの判 断を 信頼
し、その決定を実行するのだ。」こう言った直後、剣を引きぬき、力いっぱいにホセイ
ン・トルシジを突いた。トルシジは息絶え、執行人の足下に倒れた。(p.456)
五 .その 直後 、ハジ ・モ ハメッ ド・ タギ・ ケル マニが 処刑 場に連 れて こられ た。 その
場 の不気 味な 光景を 見た かれは 、は げしい 怒り をおぼ え、 死刑執 行人 に向か って 叫ん
だ。
「卑劣で、無情な虐待者よ!
早 くわたしを殺せ。わが最愛のホセインといっしょ
に なりた いの だ。か れが 逝った あと で生き つづ けるこ とは 、わた しに とって 耐え られ
ない拷問なのだ。」
六.モハメッド・タギが以上の言葉を終えた直後、ザンジャンの有名な商人セイエド・
モ ルタダ がい そいで 出て きた。 そし て、モ ハメ ッド・ タギ の身体 にお おいか ぶさ るよ
うに身を投げ、「自分はセイエド(モハメッドの子孫)なので、神の目には、自分の殉
教 の方が 、モ ハメッ ド・ タギの 殉教 よりも 賞賛 に値す る」 と訴え た。 死刑執 行人 が、
剣 を引き ぬこ うとし てい るとき 、モ ルタダ は、 殉教し た兄 の思い 出を 口にし た。 この
兄 は、モ ラ・ ホセイ ンの そばで 戦っ た人で あっ た。そ の話 を聞い た群 衆は、 かれ の断
固とした不動の信仰に驚嘆した。(pp.457-458)
七 .モル タダ の言葉 が引 き起こ した 動揺の 最中 に、モ ハメ ッド・ ホセ イン・ マラ ゲが
前 方に走 り出 て、自 分の 仲間が 殺害 される 前に 、自分 に殉 教させ てく れと願 い出 た。
そ して、 深く 敬愛し てい たエス マイ ル・ゴ ミの 遺体を 見た とたん 、衝 動的に その 遺体
の上に身を投げ、遺体を抱いて、こう叫んだ。
「この最愛の友人と離れることはできな
い。わたしは、かれを深く信頼してきた。かれも、真心からの愛情を注いでくれた。」
こ の三 人がめ いめ い、自 分が 先に信 教の ために 、生 命を犠 牲に したい と念 願して い
る ことを 見た 群衆は 、仰 天し、 だれ が最初 に処 刑され るで あろう かと 思った 。と ころ
が 三人共 に、 自分た ちの 殉教を 熱心 にこん 願し たので 、つ いに、 三人 全員、 同時 に首
を切られた。
こ の堅 い信仰 と、 目にあ まる 残忍さ を見 ること は、 めった にな いこと であ る。殉 教
者 の数は 少な かった にせ よ、そ の殉 教の状 況を 思い起 こす とき、 これ ほどの 自己 犠牲
の精神を呼び起こした威力を認めざるを得ない。殉教者たちが保持していた高い地位、
か れらの 超脱 心と信 仰の 活力、 影響 力のあ る人 たちが かれ らの命 を救 うため に加 えた
圧 力、そ して とくに 、無 情な敵 の残 虐行為 を物 ともし なか ったそ の精 神、こ れら の事
実 を考慮 する とき、 この 事件は 、バ ブの大 業の 歴史上 、も っとも 悲劇 的なも のの ひと
つとして見なされなければならない。(p.458)
こ の時 点で、 わた し(著 者) は、こ れま でに改 訂し 、完成 した 原稿を バハ オラに 提
出する光栄を得た。わたしの労力にたいして、バハオラは大なる報酬を与えてくれた。
わ たしは 、バ ハオラ の恩 恵のみ を求 め、そ の満 足のた めに のみ、 この 仕事に かか った
の である 。バ ハオラ は、 情け深 くわ たしを 召さ れ、祝 福を あたえ てく れた。 わた しの
敬 愛する 御方 (バハ オラ )から 呼び 出され たと き、わ たし は、牢 獄の 町アッ カの 自宅
に 居た。 わた しの家 は、 アガ・ カリ ムの家 の近 くにあ った 。それ は、 一八八 八年 十二
月 十一日 で、 けっし て忘 れられ ない 日であ る。 その折 、バ ハオラ が語 られた 要旨 を、
ここに再現したいと思う。
「われが、昨日著した書簡で、バダシュトの大会の状況に言及した際、
『なんじの目を
そむけよ。』という言葉の意味を説明した。われが、多数の名士たちとテヘランの王子
の婚礼を祝っていたとき、バブの秘書セイエド・ホセインの父アーマド・ヤズディが、
と つぜん 、入 り口に 現わ れ、わ れに 、自分 の方 に来る よう に合図 した 。すぐ 渡し たい
重 要な伝 言を もって きて いるよ うで あった 。し かし、 われ は、そ のと き、集 会の 場を
離 れるこ とが できな かっ たので 、待 つよう に合 図した 。閉 会後、 タヘ レが、 ガズ ビン
で 厳重な 監禁 の下に 置か れ、命 が危 機にさ らさ れてい るこ とを知 った 。即刻 、モ ハメ
ッ ド・ハ ディ を呼び 、タ ヘレを 救い 出し、 テヘ ランま で護 送する よう に指示 した 。か
の 女がテ ヘラ ンに到 着し たとき 、敵 が、わ が家 を押収 して いたの で、 タヘレ をい つま
で もわが 家に 住まわ せる ことは でき なかっ た。 したが って 、かの 女を 国防大 臣の 家に
移 すこと にし た。国 防大 臣は、 当時 、国王 の寵 を失い 、カ シャン に追 放され てい た。
そこで、そのときまだわが仲間であったかれの妹に、タヘレの世話を依頼した。
(pp.459-460)
タ ヘレ は、あ る期 間、こ の国 防大臣 の妹 のとこ ろで 過ごし た。 ある日 、バ ブから 、
コ ラサン に向 かうよ うに との指 示が われの とこ ろに来 た。 われは 、タ ヘレも 、そ こへ
す ぐ出発 すべ きだと 決め 、ミル ザ・ ムサ( バハ オラの 実弟 アガ・ カリ ム)に 、か の女
を 市の城 門外 のある 地点 まで案 内す るよう に依 頼した 。そ こから 、そ の付近 で、 かれ
が 適切だ と思 うとこ ろに 連れて 行く ように 指示 した。 かれ は、タ ヘレ を果樹 園の 近く
に ある空 き家 に案内 した 。留守 番の 老人は かれ らを歓 迎し た。ミ ルザ ・ムサ は、 われ
の ところ にも どり、 老人 の歓迎 を告 げ、そ の周 辺の景 色の 美しさ をほ め称え た。 その
後、タヘレのコラサン行きを準備し、われもニ、三日後に到着すると約束した。
ま もな く、バ ダシ ュトで タヘ レと合 流し た。そ こで 、かの 女の ために 庭園 を借り 、
か の女の 救出 にあた った モハメ ッド ・ハデ ィを 、かの 女の 護衛と した 。わが 仲間 は七
十名ほどいたが、皆その庭園の近くに宿泊した。
あ る日 、われ は病 にかか り、 床につ いて いた。 タヘ レから 、わ れに会 いた いとい う
メ ッセー ジが 寄せら れた が、わ れは 返答に 窮し た。と つぜ ん、か の女 が顔の ヴェ ール
を はずし たま ま、入 り口 のとこ ろに 現われ た。 アガ・ ジャ ン(バ ハオ ラの秘 書) は、
この出来事を評しているが、まことに至言である。
『ファテメは、審判の日に、人びと
の 眼前で 、顔 のヴェ ール を取っ て現 われな けれ ばなら ない 。その 瞬間 、見え ざる 御方
の声が聞こえるであろう。<なんじが目にしたものから目をそむけよ。>』(p.460)
そ の日 、仲間 たち はどれ ほど 仰天し たこ とであ ろう か。か れら の心は 、恐 怖と困 惑
でいっぱいとなった。恐怖で、タヘレの眼前から逃げ去った者らもいた。
(女性が顔の
ヴ ェール をと るとい う) イスラ ム教 の慣習 に反 する行 為を 見て、 胸が 悪くな り、 耐え
ら れなく なっ たから であ る。心 をか き乱さ れた かれら は、 だれも 住ん でいな い近 くの
城 に避難 した 。タヘ レの 行動に 憤慨 し、か の女 との関 係を 完全に 断っ た者た ちの 中に
は 、セイ エド ・ナハ リと 弟のミ ルザ ・ハデ ィが いた。 われ は、メ ッセ ージを 送り 、仲
間を捨てて、城に避難すべきではないと忠告した。
や がて 、わが 仲間 たちは 分散 し、残 され たわれ は、 敵のな すが ままと なっ た。そ の
後 、われ がア モルに 行っ たとき 、住 民が大 変な 騒ぎを 起こ し、四 千人 以上の 群衆 がモ
ス クに集 まっ た。ま た、 家々の 屋根 にも大 勢群 がって いた 。町の 高僧 が、わ れを はげ
しく非難し、マザンデラン方言で叫んだ。『おまえは、イスラム教を邪道に陥らせ、そ
の 名声を 汚し た。昨 夜、 おまえ がモ スクに 入っ てきた 夢を 見た。 おま えの到 着を 見よ
う と、大 勢が 集まっ てき ていた 。群 衆がお まえ の周り に押 しかけ てき たとき 、ゴ エム
( バブ) が、 隅に立 ち、 おまえ の顔 を凝視 して いるの を見 た。そ の顔 はひじ ょう なお
ど ろきを 現わ してい た。 この夢 は、 おまえ が、 真理の 道か らそれ たこ との証 拠だ と見
なす。』
『 その顔 がお どろい てい たのは 、あ なたと 住民 が、わ れを 冷遇し てい ること を、 ゴエ
ム が強く 非難 してい る証 拠であ る』 と、わ たし は高僧 に説 明した 。か れは、 バブ の使
命 につい てわ れに質 問し た。わ れは こう知 らせ た。『 バブ に直接 会っ たこと はな いが、
深く敬愛している。強い確信をもって言えるが、いかなる場合でも、バブはけっして、
イスラム教の教えに反するような行動を取ったことはない。』(P.461)
し かし 、高僧 もそ の弟子 たち もわれ を信 じよう とせ ず、わ が証 言を真 理の 逸脱だ と
し て拒絶 した 。その 後、 かれら はわ れを監 禁し 、仲間 に会 うこと を禁 じた。 しか し、
アモルの知事代理がわれを釈放してくれた。かれは、従者たちに、壁に穴をあけさせ、
わ れを監 禁部 屋から 出し て、自 宅に 案内し た。 住民が 、こ のこと を知 ったと たん 、わ
れ に敵対 して 立ちあ がり 、知事 の邸 宅に押 しか け、小 石を われに 投げ つけ、 わが 顔に
毒舌をあびせかけた。
わ れが 、モハ メッ ド・ハ ディ をガズ ビン 町に送 って 、タヘ レを 救出さ せ、 テヘラ ン
に 案内す るよ うに計 画し ていた とき 、アブ トラ ブから 手紙 を受け 取っ た。そ れは 、そ
の ような タヘ レの救 出は ひじょ うに 危険で あり 、大騒 動を 引き起 こし かねな いこ とを
力 説した もの であっ た。 しかし 、わ れは目 的を 変えな かっ た。ア ブト ラブは 親切 で、
お だやか で謙 虚な気 質を もち、 威厳 をもっ て行 動する 男で あった 。し かし、 勇気 と決
意に欠けており、時折、その弱さをみせることがあった。」
こ こで 、七人 のテ ヘラン の殉 教者た ちに 、どの よう なこと が起 こった かを 付け加 え
よ う。三 日三 晩、か れら の遺体 は、 宮殿に 隣接 するサ ブゼ ・マイ ダン に放置 され てい
た 。その 間、 無慈悲 な敵 の侮辱 にさ らされ てい た。何 千と いうシ ーア 派の熱 烈な 信者
た ちが、 それ らの遺 体を 足でけ った り、顔 につ ばをか けた りした 。ま た、怒 った 群衆
から石をなげつけられ、ののしられ、あざけられた。かれらはまた、それらの遺体に、
大 量のご みを 投げか け、 目に余 る残 忍行為 をし かけた ので ある。 しか し、抗 議の 声を
あげる者も、残忍な虐待者の腕を抑える者もいなかった。(pp.462-463)
激 情の 念がお さま ったあ と、 かれら は、 遺体を テヘ ランの 城門 外に埋 めた 。その 場
所 は、公 共墓 地の外 で、 ノウと シャ ー・ア ブド ル・ア ジム の門の 間に ある濠 に隣 接し
て いた。 七人 の遺体 はす べて、 同じ 墓に安 置さ れた。 こう して、 生存 中、精 神で 結ば
れていたかれらは、死後の身体も同じように一体となった。
七 人の 殉教の ニュ ースは 、バ ブにと って 再度の 打撃 であっ た。 バブは 、す でに、 タ
バ ルシの 勇敢 なる弟 子た ちにふ りか かった 悲運 を悼ん でい たから であ った。 かれ らに
つ いて詳 細に 書いた 書簡 で、か れら の高遠 なる 地位を 証言 し、か れら こそ、 イス ラム
の伝承にある「七頭の山羊」であると述べている。これらの山羊は、審判の日に、「約
束されたガエムの前を歩くであろう」と書かれているのである。かれらは、生き方で、
高 貴な英 雄的 精神を 現わ し、そ の死 で、神 の意 志に完 全に したが うと いう態 度を 示し
た 。ガエ ムに 先行す ると いうの は、 かれら の殉 教は、 かれ らの羊 飼い である ガエ ムの
殉 教に先 立つ という 意味 である バブ は説明 した 。それ から 四ヵ月 後、 バブは タブ リズ
で殉教し、その予言は実現した。
そ の忘 れがた い年 には、 バブ とその 弟子 七名の テヘ ランで の殉 教のほ かに 、ナイ リ
ズ で重大 な事 件が起 こり 、つい に、 ヴァヒ ドの 死で最 高潮 となっ た。 その年 の終 わり
ご ろ、ザ ンジ ャンも 同様 、その 地方 に吹き まく った暴 風の 中心と なっ た。そ の結 果、
バ ブの忠 実な 弟子た ちの 多数が 虐殺 される こと となっ た。 かれら の気 高い英 雄的 行為
と 、バブ 自身 の殉教 にと もなう 驚嘆 すべき 出来 事で忘 れら れない もの となっ たこ の年
は 、信教 の血 まみれ の歴 史に記 録さ れたも っと も栄光 ある 章のひ とつ として 残さ れな
ければならない。
ペ ルシ ャの全 土は 、残忍 貪欲 な敵が 執拗 につづ けた 残虐行 為で 暗黒化 した 。ペル シ
ャ 東部の コラ サンか ら、 バブの 殉教 地であ る西 部のタ ブリ ズまで 、そ して、 北部 都市
の ザンジ ャン とテヘ ラン から南 部フ ァルス 州の ナイリ ズま で、全 国が 暗黒に おお われ
た のであ る。 この暗 やみ は、待 望さ れてい たホ セイン がや がて顕 わす 啓示の 夜明 けの
光 を予告 する もので 、そ れは、 バブ が宣言 した ものよ り、 一層強 大で 、一層 栄光 ある
ものであった。(p.464)
第二十二章
ナ イリズの動乱
タ バ ル シ の 砦が包 囲さ れはじ めた ころ、 ヴァ ヒドは 、ボ ルジェ ルド と、ク ルデ スタ
ン 州で大 業の 教えを 広め ていた 。か れは、 それ らの地 方の 住民大 半を 、バブ の信 教の
信 者とな そう と決意 し、 そのあ と、 ファル ス州 に向か い、 そこで 努力 をつづ ける つも
り でいた 。モ ラ・ホ セイ ンが、 マザ ンデラ ンに 向かっ たこ とを知 ると すぐ、 テヘ ラン
に 急ぎ、 タバ ルシ砦 への 旅の準 備に かかっ た。 出発し よう として いた とき、 マザ ンデ
ラ ンから 到着 したバ ハオ ラから 、タ バルシ の仲 間のと ころ に行く のは 不可能 であ るこ
と を知っ た。 このニ ュー スに大 変落 胆した かれ は、バ ハオ ラをひ んぱ んに訪 ね、 かれ
の英知ある貴重な忠告を得ることでなぐさめられた。
ヴ ァヒ ドは、 やが てガズ ビン に行き 、こ れまで して きた普 及活 動をつ づけ た。そ こ
からクムとカシャンに向かい、ここで、仲間の弟子たちと会い、かれらの熱意を高め、
努 力を強 める ことが でき た。つ ぎに イスフ ァハ ン、ア ルデ スタン 、ア ルデカ ンに 旅し
た 。それ らの 町で、 バブ の基本 的な 教えを 、熱 意をも って 大胆に 伝え 、かな りの 数の
有 能な人 たち を信者 にす ること がで きた。 それ からヤ ズド に向か い、 新年の 祝賀 を同
朋 たちと 祝う ことが でき た。か れら は、ヴ ァヒ ドの到 着を よろこ び、 大いに はげ まさ
れ た。か れは 影響力 のあ る知名 人で あり、 妻と 四人の 息子 が住ん でい るヤズ ドの 家の
ほ か、ザ ラビ に先祖 の家 一軒、 豪華 な家具 で飾 られて いる 家をナ イリ ズもに 所有 して
いた。(pp.465-466)
ヴ ァヒ ドは、 一八 五〇年 ジャ マディ オル ・アヴ ァー ル月の 最初 の日に 、ヤ ズドに 到
着 したが 、そ の月の 五日 目は、 バブ の宣言 の記 念日に あた り、ま た新 年の祝 宴日 でも
あ った。 その 日に、 都市 の主な 僧侶 や名士 が、 ヴァヒ ドと ころに 新年 のあい さつ に来
た 。その とき 、かれ の敵 のうち 、も っとも 卑劣 な著名 人ナ ヴァー ヴも 来て、 その 祝宴
が豪華でぜいたくなことを、悪意をもってほのめかした。
「国王の宴会でさえも、ここ
に 並べら れた 豪勢な ごち そうに はお よばな い。 今日の 国家 的な祝 賀の ほかに 、あ なた
は、べつの祝宴を開くのではないのか。」これに対し、ヴァヒドは皮肉をこめて大胆に
言 い返し たた め、そ の場 に居た 人た ちは笑 い出 し、皆 一斉 に拍手 した 。その 悪意 に対
す るヴァ ヒド の応答 が適 切だっ たか らであ る。 これほ ど大 勢の著 名人 たちの あざ けり
を 受けた こと がなか った ナヴァ ーヴ は、ヴ ァヒ ドの言 葉に 怒りが こみ 上げて きた 。か
れ は、そ れま でヴァ ヒド への敵 対心 を抱い てき たが、 その いぶる 火炎 はその とき 、強
烈に燃え上がったのである。そこでかれは復讐を誓った。(pp.466-467)
ヴ ァヒ ドは、 この 機会を とら えて、 恐れ ずに思 う存 分、信 教の 基本原 則を 宣言し 、
そ れが真 理で あるこ とを 証明し た。 その集 まり に出席 して いた大 半の 者は、 大業 の主
な 教えを 部分 的に知 った だけで 、そ の重要 性に 気づか なか った。 何人 かは、 大業 に惹
か れ、す すん で信者 とな った。 残り の者は 、公 に大業 の教 えに挑 戦す ること がで きな
か ったが 、心 中では それ を非難 し、 あらゆ る手 段に訴 えて 抹殺す る決 心をし た。 ヴァ
ヒドが大業の真理を雄弁に説明するのを聞いて、かれらの敵意の炎はあおられ、即刻、
か れの影 響を 消そう と覚 悟した 。こ の日、 ヴァ ヒドに 敵対 する勢 力が 集結し たの であ
る。その結果、大変な苦難と悲嘆をヴァヒドにもたらすことになった。
か れら は、ヴ ァヒ ドを消 すこ とを活 動の 最大目 標と なし、 つぎ のよう なう わさを 広
め た。す なわ ち、元 旦に 集まっ て来 た政治 面と 宗教面 の著 名人た ちの 前で、 ヴァ ヒド
は 、無遠 慮に も、バ ブの 教えを 明ら かにし 、コ ーラン とイ スラム 教の 伝承か ら集 めた
証拠をあげて、その真実性を論じたと。そして、つぎのようにせき立てた。
「聴衆には、
そ の町最 高の 高僧た ちが いたが 、だ れも、 かれ の熱烈 な主 張に、 あえ て異議 をさ しは
さ む者は いな かった 。高 僧たち が沈 黙して いた ので、 ヴァ ヒドを 支持 する熱 狂の 波が
町 中にひ ろが り、住 民の 半数が かれ の意の まま になり 、残 りの者 たち もかれ に強 く惹
かれているのだ。」(pp.467-468)
こ のニ ュース は野 火のよ うに 急速に ヤズ ド市と その 周辺地 域に ひろが った 。それ に
よ り、は げし い憎し みの 炎が点 され る一方 、信 教にか なり の数の 信者 を加え るの に役
立 った。 アル デカン とマ ンシャ ドか ら、さ らに 、もっ と遠 方の町 や村 から多 くの 人び
とが、新しい教えを聞くために、ヴァヒドの家に群がってきた。かれらは聞いた。
「わ
れ われは 何を すべき です か。わ れわ れは真 心か らバブ の教 えを信 じ、 献身し たい と念
願していますが、その方法を教えて下さい。」ヴァヒドは、朝から夜まで、この人たち
の質問に答え、奉仕の道へとみちびいたのである。
女性を含めたこれらの熱狂的な支持者の活動は四十日間つづいた。ヴァヒドの家は、
無 数の信 者た ちの集 会セ ンター とな った。 かれ らは、 自分 たちの 魂に 燃え上 がっ た信
教 の精神 を、 行動に 移し て役に 立て たいと 切望 したの であ る。一 方、 ナヴァ ーヴ は、
つ づいて 起こ った騒 動を あらた な口 実にし て、 知事の 支持 を求め た。 この知 事は 、若
年 で、国 事に は経験 がな く、す ぐこ の邪悪 な策 略者の 陰謀 にはめ られ た。ナ ヴァ ーヴ
は、ヴァヒドの家を包囲するために、知事に軍隊を送らせることに成功したのである。
一 連隊が ヴァ ヒドの 家に 向かっ てい る間、 町の ならず 者た ちから なる 暴徒が 、ナ ヴァ
ー ヴから 扇動 されて 、同 じ方向 に向 かった 。そ の家の 住人 たちを のろ って、 脅迫 しよ
うとしたのである。(p.468)
四 方八 方から 敵に 包囲さ れて も、ヴ ァヒ ドは、 自宅 の二階 の窓 から、 つづ けて支 持
者 たちの 熱意 を活気 づけ 、かれ らの 胸中に 残っ ていた 不明 な点を 明ら かにし た。 支持
者 たちは 、一 連隊と 激怒 した暴 徒を 見て、 どう してよ いか わから ず、 ヴァヒ ドに 指示
を求めた。かれは、窓際に座したまま、こう答えた。
「わたしの前に置かれている剣は、
ガ エム( バブ )自ら 贈ら れたも ので ある。 これ らの者 らと 聖なる 戦い をせよ 、と 命じ
ら れたの なら ば、わ たし は、だ れの 助けも 借り ず、一 人で 敵軍を 全滅 させる こと がで
き る。こ のこ とは神 もご 存知で ある 。しか し、 そのよ うな 行動は 避け るよう に命 じら
れ ている のだ 。」そ して 、召使 いの ハサン が家 の前に 連れ てきた 馬に 目をや りな がら、
こう付け加えた。
「 この馬 は、 故モハ メッ ド国王 がわ たしに 下さ ったも のだ 。この 馬に 乗って 、バ ブが
宣 言して いる 信教に つい て公平 な目 で調査 する 任務を 与え られた のだ 。国王 は、 調査
の 結果を 個人 的に報 告す るよう に要 請され た。 テヘラ ンの 宗教指 導者 たちの 中で 、国
王 が信頼 を置 かれて いた のはわ たし 一人だ けだ ったか らで ある。 わた しは固 い決 断を
も って、 その 任務に 取り かかっ た。 それは 、バ ブの議 論を やり込 め、 その思 想を 捨て
させ、わたしの方が指導者であることを認めさせ、わたしの勝利を証言させるために、
テ ヘラン に同 行させ よう と決断 して いたか らで ある。 とこ ろが、 バブ の面前 に出 て、
か れの言 葉を 聞いた とき 、わた しが 想像し てい ていた 状況 と反対 のこ とが起 こっ たの
だ 。最初 の面 会で、 わた しはま った く恥じ 入っ て、狼 狽し てしま った のであ る。 二回
目の面会が終わったとき、自分は、幼児のように無力で、無知に感じた。三度目には、
自 分は、 バブ の足下 の土 のよう に卑 しい存 在で あるこ とが わかっ たの だ。か れは 、わ
た しが以 前想 像して いた 卑劣な セイ エド( モハ メッド の子 孫)で はな くなっ た。 わた
し にとっ て、 かれは 神ご 自身の 顕示 者であ り、 神の聖 霊の 生きた 権化 なので ある 。そ
の 日以来 、わ たしは 、か れのた めに 、命を ささ げたい と切 望して きた 。それ が実 現さ
れる日がすばやく迫ってきているのでよろこんでいるのだ。」(pp.468-469)
ヴァヒドは、仲間たちの動揺を見て、落ち着き、忍耐するように、また、まもなく、
神 の愛す る人 びとを 攻撃 しよう とす る軍勢 を、 神はそ の見 えざる 手で 、敗北 させ るの
で 安心す るよ うにと はげ ました 。こ う言い 終わ らない うち に、知 らせ がきた 。だ れも
生 きてい ると は思っ てい なかっ たア ブドラ とい う男が 、同 じく行 方不 明であ った 多数
の仲間を連れて、とつぜん現われ、「この時代の主なる御方よ!」と叫びながら、敵軍
の 中に突 進し 、軍勢 を追 い散ら した 。アブ ドラ の剛勇 さに 仰天し た連 隊の兵 士は 皆、
武器をすて、知事と共にナリンの砦に避難した。(pp.469-470)
そ の夜 、アブ ドラ はヴァ ヒド に面会 を求 めた。 かれ は、自 分は 大業を 固く 信じて い
る と、ヴ ァヒ ドを安 心さ せ、敵 を征 服する ため の計画 を知 らせた 。こ れにヴ ァヒ ドは
答えた。「今日、あなたの介入で、この家は不慮の災難をのがれることができた。しか
し、あなたに知ってもらいたいが、これまで、住民たちとの争いは、「この時代の主」
の 啓示に 関す る議論 にか ぎられ てき た。と ころ が、ナ ヴァ ーヴは 、わ たしが 、全 州の
実 権をに ぎり 、さら に、 それを ペル シャ全 体に 拡大し よう として いる として 、住 民を
扇動してわれわれと戦わせつもりだ。」ヴァヒドはつづけて、かれに勧告した。
「すぐ、
この町を離れ、全能なる神の保護に身を任せるがよい。定められた時間が来るまでは、
敵は、われわれをわずかでも傷つけることはできないのだ。」
ア ブドラ は、 この勧 告を 無視し た。 その場 を去 りなが ら言 った 。「仲 間を見 捨て て 、
か れらを 激怒 してい る残 忍な敵 の掌 中に渡 すわ けには いか ない。 そう すれば 、ア シュ
ラ の日( エマ ム・ホ セイ ンの殉 教日 )に、 カル ベラの 野に 、エマ ム・ ホセイ ンを 見捨
て た者ら と、 わたし は同 じでは ない か。慈 悲深 い神は 、わ たしの 行動 を大目 に見 て、
許して下さるにちがいない。」こう言って、かれはナリンの砦に向かい、砦内に避難し
よ うと集 まっ ていた 軍勢 を制し た。 そして 、知 事をほ かの 者らと いっ しょに 監禁 する
ことに成功した。もし増援隊がくれば、すぐそれを阻止しようとかれ自ら見守った。
一 方、 ナヴァ ーヴ は、町 全体 に多数 の住 民を参 加さ せ、大 騒動 を起こ した 。かれ ら
が 、ヴァ ヒド の家の 攻撃 準備を して いると き、 ヴァヒ ドは 、アブ ドル ・アジ ムを 呼び
寄 せた。 かれ は、タ バル シの砦 の防 御にニ 、三 日参加 した 人であ り、 かれの 威厳 のあ
る 態度は 、多 くの人 びと の注目 を引 いてい た。 ヴァヒ ドは かれに 、馬 に乗り 、街 路や
市 場で、 全住 民に「 この 時代の 主」 の大業 を受 け入れ るよ うに、 わた しに代 わっ て、
呼びかけるように頼んだ。そして、こう付け加えた。「わたしは、住民に対して聖戦を
し かける つも りは毛 頭な いこと を知 らせよ 。し かし、 かれ らにこ う警 告せよ 。も し、
か れらが 、わ たしの 地位 と家柄 を無 視して 、わ たしの 家を 包囲し 、攻 撃しつ づけ るな
ら ば、自 己防 衛のた めに 、かれ らの 勢力に 対抗 し、追 い散 らさざ るを 得ない と。 さら
に もし、 わた しの忠 告を 聞かず 、悪 巧みに たけ たナヴ ァー ヴのさ そい に乗る なら ば、
七人の仲間に命じて、かれらの軍勢を撃退させ、かれらの望みを砕かすと。」
ア ブド ル・ア ジム は、馬 に飛 び乗り 、四 人の仲 間に 護衛さ れて 、市場 に向 かった 。
そ して、 威厳 をもっ てヴ ァヒド の警 告を高 々と 宣言し た。 それだ けで は満足 せず 、宣
言の効果を高めるために、自分独特の言葉を大声で付け加えた。
「この訴えを無視しな
い ように せよ 。おま えら に警告 する が、こ の高 々とひ びき わたる わが 声は、 おま えら
の砦の壁をふるわせ、強大なわが腕は、その強硬な門を破ることができるのだ。」かれ
の 大声は 、ラ ッパの よう ひびき 渡り 、人び とを 仰天さ せた 。この 一声 で、恐 れを なし
た 住民は 、武 器をす て、 ヴァヒ ドへ の攻撃 をや め、そ の血 統を認 め、 尊敬す ると 宣言
した。
住 民が ヴァヒ ドと 戦うの を頑 として 拒否 したた め、 ナヴァ ーヴ は、砦 の近 くに留 ま
っ ていた アブ ドラと その 仲間を 攻撃 するよ うに 仕向け た。 この衝 突で 、避難 して いた
知 事はは げま され、 砦の 連隊に 命じ て、ナ ヴァ ーヴの 一団 と手を 組ん で出撃 する よう
に 命じた 。ア ブドラ が町 から攻 めて きた群 衆を 追い払 いは じめた とき 、知事 の命 令で
兵 士が発 砲し た弾丸 が足 に当た り、 地面に 倒れ た。仲 間の 多くも 負傷 した。 かれ の弟
が 、急い でか れを安 全な 場所に 移し 、そこ から 、かれ の要 請で、 ヴァ ヒドの 家に 運ば
れた。(pp.471-472)
敵 は、 かれを 殺害 しよう と、 ヴァヒ ドの 家まで 追っ てきた 。ヴ ァヒド は、 家のま わ
り に群が って きた住 民の 騒ぎに 、仕 方なく 、レ ザに、 六人 の仲間 と出 撃して 、敵 を追
い 散らす よう に命じ た。 レザは 、マ ンシャ ドの 最高の 学識 をもつ 僧侶 の一人 であ った
が、今はヴァヒドの家の門衛として仕えていた。ヴァヒドは、こう命じた。「皆それぞ
れ 、声高 らか に、< アラ ホ・ア クバ ール( 神は 最も偉 大な り)! >と 七回く り返 し、
七回目をとなえた瞬間、敵中に突進せよ。」
レ ザは 、指示 を受 けたと たん 、六人 の仲 間と共 に、 その任 務を 果すた めに 立ちあ が
っ た。六 人の 仲間は 、貧 弱な身 体で 、剣術 の訓 練も受 けて いなか った が、信 仰の 炎で
燃 え上が り、 敵を大 いに 恐れさ せた 。その 日、 一八五 〇年 五月十 日、 敵のう ち、 もっ
とも恐れられていた七人が命を落とした。レザは、後日、つぎのように語っている。
「敵
を 敗走さ せた あとす ぐ、 ヴァヒ ドの 家にも どっ てきま した 。そこ には 、アブ ドラ が負
傷 して横 たわ ってい まし た。か れは 、われ われ の指導 者の ところ に運 ばれ、 指導 者自
ら 、かれ に食 べ物を あた えてい たの です。 その 後、か れは 隠れ場 所に 運ばれ 、そ こで
傷が癒えるまでいましたが、最後には、敵にとらえられ、殺害されました。」
さ て、 その夜 、ヴ ァヒド は仲 間に、 分散 し、細 心の 注意を はら って、 安全 な場所 に
行 くよう に命 じた。 妻に は、子 供と 所有物 を全 部もっ て、 かの女 の父 親の家 に移 るよ
うに指示した。ただし、自分の所有物だけは残して置くように言い、こう説明した。
「こ
の 宮殿の よう な家は 、大 業の道 にお いて破 壊さ れるた めに 建てた のだ 。そし て、 この
家 をかざ る豪 華な家 具類 は、わ が最 愛なる 御方 のため に、 いつか 犠牲 にでき るだ ろう
と 思って 購入 したの だ。 わたし が、 家と家 具を 犠牲に すれ ば、敵 味方 同様に 、つ ぎの
こ とに気 づく であろ う。 すなわ ち、 この家 の持 ち主は 、こ の上な く貴 重なも のを 授け
られているので、どれほど豪華で壮麗な邸宅も、かれの目には価値のないものとなり、
犬 だけが 興味 をもつ 骨の 山のよ うに なった のだ と。こ の超 脱の精 神を 見て、 これ らの
よ こしま な人 びとが 目を 開き、 その 精神を もた らした 人に 従いた いと 、望ん でく れな
いであろうか。」
同 じ夜 の午前 〇時 過ぎに 、ヴ ァヒド は立 ち上が り、 所有し てい たバブ の文 書と、 自
著 の論文 のす べてを 集め 、召使 いの ハサン にあ ずけた 。そ して、 市の 城門外 の道 路が
メ ヘリズ 方面 に分か れて いると ころ に持っ て行 き、そ こで 、自分 の到 着を待 つよ うに
命じた。さらに、指示通りにしなければ、再び自分と会えないであろう、と警告した。
ハ サン が馬に 乗り 、出発 しよ うとし てい たとき 、砦 の入り 口を 監視し てい た番兵 た
ち の叫び が聞 こえて きた 。番兵 たち に捕ら え、 貴重な 文書 を奪わ れな いかと 恐れ たハ
サ ンは、 師か ら指示 され た道で はな く、ほ かの 道を通 るこ とにし た。 砦の裏 を通 りす
ぎようとしたとき、番兵に見つかり、馬は撃たれ、かれは捕らえられた。
一 方、 ヴァヒ ドは 、ヤズ ドを 離れる 準備 をして いた 。息子 のう ち二人 を残 し、あ と
の 二人と 仲間 二人を 伴っ て出発 した 。この 二人 の仲間 はヤ ズド出 身で 、ヴァ ヒド と同
行 したい と願 ったの であ った。 一人 は、ゴ ラム ・レザ とい う名前 の大 変な勇 気の 持ち
主 で、も う一 人は、 レザ ・クチ ェク という 名で 、射撃 の名 人であ った 。ヴァ ヒド は、
召 使いの ハサ ンに指 示し たと同 じ道 を通り 、そ の場所 に安 全に着 いた が、ハ サン が居
な いので おど ろいた 。ヴ ァヒド は、 ハサン が指 示を無 視し て敵に 捕ら えられ たこ とに
す ぐ気づ いた 。かれ は、 ハサン の運 命をな げき 、アブ ドラ の行動 を思 い出し た。 アブ
ド ラも同 じよ うに、 ヴァ ヒドの 指示 を無視 して 、その 結果 、傷を 負っ たから であ る。
ヴァヒドの一行は、その日の朝、ハサンが大砲から吹き飛ばされたことを知らされた。
ヤズド市内の祈りの先導者で、敬虔の深さで知られていたミルザ・ハサンという人も、
一時間後に捕らえられ、同じ運命にあった。(pp.474-475)
ヴ ァヒ ドのヤ ズド からの 出発 で、ふ たた び活気 づい た敵は 、か れの家 に乱 入し、 物
品 を奪い 、家 を完全 に壊 した。 その 間、ヴ ァヒ ドはナ イリ ズに向 かっ ていた 。か れは
徒 歩にな れて いなか った が、そ の夜 、二十 キロ メート ルほ ど歩い た。 二人の 息子 は、
途 中で、 同行 した二 人の 仲間か ら背 負われ て進 んだ。 翌日 のうち に、 ヴァヒ ドは 近く
の 山のく ぼみ に身を かく した。 その 近くに 、ヴ ァヒド に深 い愛情 をい だいて いる 弟が
住 んでい た。 かれは 、ヴ ァヒド の到 着を知 ると すぐ、 必需 品をひ そか に送ら せた 。同
じ 日に、 ヴァ ヒドを 追っ てきた 知事 の騎馬 隊が 、村に 到着 し、ヴ ァヒ ドの弟 の家 を捜
索したが、ヴァヒドを見つけることはできなかった。そこで、多くの物品を横領して、
ヤズドにもどった。
そ の間 、ヴァ ヒド は、山 中を 通って 、バ ヴァナ ット ・ファ ルス 地区に 着い た。ヴ ァ
ヒ ドの熱 烈な 賞賛者 であ ったそ の地 区の住 民の 大半が 、大 業の信 者と なった 。そ の中
に は、バ ヴァ ナット のイ スラム の長 老セイ エド ・エス マイ ルがい た。 この地 区の 信者
の 多数が 、フ ァサ村 まで ヴァヒ ドに 同行し てき たが、 この 村の住 民は 、ヴァ ヒド のメ
ッセージに応じなかった。(pp.475-476)
旅 の途 上で休 むた びに、 ヴァ ヒドが 最初 に考え たの は、近 くに モスク を探 し出し 、
そ こで、 新し い時代 の吉 報を人 びと に告げ るこ とであ った 。モス クで は、旅 の疲 れも
ま ったく 気に せず、 すば やく説 教壇 にのぼ り、 自分が 擁護 してい る信 教の教 えを 大胆
に 宣言し た。 もし、 大業 を受け 入れ る人た ちが 見つか り、 その人 たち が、自 分が 去っ
た あと、 大業 を広め るこ とがで きる と確信 すれ ば、一 晩だ け泊ま った 。そう でな けれ
ば、旅をつづけ、住民と交わるのを拒否した。かれは、たびたびこう言った。「旅の途
中 で通り すぎ る村の 住民 から信 仰の 芳香を 嗅ぐ ことが でき なけれ ば、 その村 の食 べ物
も飲み物もいやな味がした。」
フ ァサ 地区の ルニ ズ村に 到着 したヴ ァヒ ドは、 ニ、 三日そ こに 留まる こと にした 。
自 分の呼 びか けに応 じる 人たち の心 に、神 の愛 の火を 点そ うとつ くし たので ある 。か
れ の到着 が、 ナイリ ズに 伝わる と、 チェナ ル・ スクテ 区域 の全住 民が 、急い でか れに
会 いにき た。 ヴァヒ ドを 敬愛し てい るほか の区 域の住 民も 、同様 に会 いにき た。 しか
し 、ナイ リズ の知事 ザイ ノルの 反対 をおそ れて 、大半 は夜 に出か けた 。チェ ナル ・ス
ク テ区域 から だけで も、 ヴァヒ ドの 義父で 有名 な判事 シェ イキ・ アブ ドルの 弟子 百人
以 上が、 ナイ リズ最 高の 著名人 たち に加わ り、 ヴァヒ ドが 自分た ちの 町に到 着す る前
に、歓迎のあいさつに出かけた。(この人たちの名前は省略)(pp.476-477)
か れら は皆、 昼間 または 夜半 に、ル ニズ 村まで 出か け、ヴ ァヒ ドを歓 迎し 、変わ ら
ぬ 献身を 示し た。バ ブは 、ナイ リズ で、と くに 新しく 大業 を受け 入れ た人た ちに 宛て
た 書簡を 著し たが、 かれ らは、 大業 の意義 とそ の基本 的な 原則に つい ては知 らな いま
ま であっ た。 大業の 真の 目的と その 特徴を 、か れらに 説明 する仕 事は ヴァヒ ドに あた
えられたのである
ヴ ァヒ ドの到 着を 歓迎す るた めに、 多数 の人び とが 町を出 たの を知っ た知 事は、 た
だちに、特使を送り、かれらに追いつかせ、
「ヴァヒドに忠誠を誓う者らは処刑し、妻
た ちを逮 捕し 、財産 を押 収する 」と 警告し た。 しかし 、だ れ一人 これ に耳を 傾け る者
は なく、 かえ って、 リー ダーの ヴァ ヒドへ の愛 着を深 めた 。知事 は、 かれら の断 固た
る 決意と 、自 分の警 告が 無視さ れた ことを 知っ て不安 にな った。 自分 はかれ らか ら攻
撃 される ので はない かと 恐れ、 ゴト レー村 に移 った。 その 村は、 ナイ リズか ら十 五キ
ロ メート ルほ ど離れ てお り、自 分の 最初の 家も あった 。そ の村を 選ん だ理由 は、 その
近 くに強 固な 砦があ り、 危険が せま った場 合、 避難で きる からで あっ た。さ らに 、村
の 住民は 、剣 術の訓 練を 受けて おり 、必要 な場 合は、 かれ を守っ てく れると いう 確約
があったからであった。
一 方、 ヴァヒ ドは 、ルニ ズを 出て、 エス ターバ ナッ ト村は ずれ にある ピル モラッ ド
の 廟に向 かっ た。そ の村 の僧侶 たち は、ヴ ァヒ ドが村 に入 ること を禁 止した が、 二十
人 ほどの 村民 が、ヴ ァヒ ドを迎 えに 行き、 ナイ リズま で同 行した 。一 行が到 着し たの
は 一八五 〇年 五月二 十七 日の午 前中 であっ た。 ヴァヒ ドは 、故郷 のチ ェナル ・ス クテ
区 域に着 いて すぐ、 自宅 にはも どら ず、モ スク に入り 、集 まって きた 人びと にバ ブの
メ ッセー ジを 受け入 れる ように 呼び かけた 。か れは、 自分 を待っ てい る人た ちに 、す
ぐ 話しか けた いと思 い、 衣服の ほこ りも落 とさ ずに、 説教 壇にの ぼっ たので ある 。聴
衆 は皆、 かれ の説得 力の ある雄 弁に 、強烈 な感 動をお ぼえ た。そ して 、一千 人ほ どの
チ ェナル ・ス クテ区 域の 住民と 、ナ イリズ のほ かの地 域か ら集ま って 来た五 百人 がそ
の呼びかけに応じた。かれらは、歓喜に酔ってこう叫んだ。
「メッセージを確かに聞き
ま した。 われ われは それ に従い ます !」こ う言 いなが ら、 前に進 んで 、ヴァ ヒド に忠
誠 と感謝 の念 を表し た。 感動的 な呼 びかけ で、 これほ ど聴 衆が魅 惑さ れたの は、 ナイ
リズでは、これまでに見られなかったことである。(pp.478-479)
聴衆の興奮がしずまるとすぐ、ヴァヒドはこう説明した。
「わたしが、ナイリズに来
た 目的は 、神 の大業 を宣 言する こと だけで ある 。神の メッ セージ が、 皆の心 に感 動を
あたえることができたことを、神に感謝するばかりだ。もはや、皆さんといっしょに、
こ こに留 まる 必要は ない 。滞在 をの ばせば 、知 事が、 わた しのゆ えに 、皆さ んを 虐待
す るであ ろう 。知事 は、 シラズ から 増援隊 を呼 び寄せ 、皆 の家を 破壊 し、口 では 表現
できないほどの侮辱を皆にあたえるであろう。」これを聞いて、聴衆は皆いっせいに答
えた。
「われわれは、神の意志に従う準備ができています。われわれにふりかかってく
る 災難に 耐え うる力 を、 神はあ たえ て下さ いま すが、 今と つぜん 、あ なたと 別れ るこ
とはできません。」こう言った直後、かれらは、男女共に手をつなぎ、興奮とよろこび
にあふれ、歓呼の声をあげながらヴァヒドを自宅に送りとどけた。(pp.479-480)
ヴ ァヒ ドは、 二、 三日ナ イリ ズに留 まる ことに し、 ほとん どの 時間を モス クで過 ご
し た。そ こで 、雄弁 に、 少しの ため らいも なく 、自分 の師 (バブ )か ら受け た基 本的
な 教えを 解説 した。 毎日 、聴衆 の数 は増し てゆ き、そ のお どろく べき 影響が あち こち
でいっそう明らかに見られはじめた。
ヴ ァヒ ドの努 力で 、住民 がま すます 魅惑 されて いる のを見 た知 事ザイ ノル は、眠 っ
て いた敵 意の 炎をふ たた びあお られ た。そ こで 、大業 を滅 亡させ るた めに、 軍隊 の編
成 を命じ た。 かれは 、こ の大業 は、 自分の 地位 をすば やく 覆そう とし ている と感 じた
の である 。ま もなく 、か れは、 騎兵 隊と歩 兵隊 を編成 する 一千の 兵士 を募っ たが 、か
れらはすでに、戦闘の訓練を受けており、十分な武器もそなえていた。かれの計略は、
急襲して、ヴァヒドを捕らえることであった。
ヴ ァヒ ドは、 知事 の策略 を知 るとす ぐ、 自分を 迎え るため にエ スター バナ ットか ら
来 て、ナ イリ ズまで 同行 した二 十人 の仲間 に、 チェナ ル・ スクテ 区域 近くに ある カジ
ェ 砦に入 るよ うに命 じた 。そし て、 シェイ キ・ モシェ ンの 息子シ ェイ キ・ハ ディ を一
団 のリー ダー に任命 し、 その区 域に 住む信 者た ちに、 砦の 門と小 塔と 外壁を 補強 する
ように指示した。
一 方、 知事は 、自 分の事 務局 をバザ ール 区の自 宅に 移した 。か れは、 募集 した兵 士
た ちと共 に、 近くの 砦に 入り、 その 小塔や 外壁 を補強 しは じめた 。そ の砦か ら町 全体
を 見下ろ すこ とがで きた 。知事 は、 その区 の区 長で、 ヴァ ヒドの 仲間 の一人 であ るセ
イ エド・ アブ タレブ を、 強制的 に自 家から 立ち のかせ 、そ の家の 屋根 を補強 して 、何
人 もの兵 士を 配置し た。 そして 、指 揮官ア リ・ カーン に命 じて、 バビ たちに 向か って
発 砲させ た。 最初に 撃た れたの は、 アブド ル・ ホセイ ンで 、この 人は 、高齢 にも かか
わ らず、 ヴァ ヒドを 迎え るため に町 を出て 、歩 いて行 った 人であ った 。かれ は、 自家
の 屋根の 上で 祈りを ささ げてい たと き右足 を撃 たれ、 大量 に出血 した 。ヴァ ヒド は、
か れが受 けた 負傷に 深く 同情し 、文 書でお 見舞 いの言 葉を 送った 。そ して、 高齢 で、
大 業の道 に最 初に身 を犠 牲にす るよ うに選 ばれ たこと は幸 運であ ると 、かれ を元 気づ
けた。(pp.481-482)
バ ブの 教えを 急い で受け 入れ 、まだ その 意義を 十分 に理解 して いなか った 仲間た ち
は 、とつ ぜん 攻撃さ れて うろた えた 。かれ らは 、信仰 に大 衝撃を 受け たが、 中に は、
真 夜中に 、仲 間から 離れ て敵軍 に加 わった 者も いた。 ヴァ ヒドは 、そ のこと を知 らさ
れ るとす ぐ、 夜明け に起 き、馬 に乗 り、支 持者 の一団 をと もなっ て、 カジェ の砦 に向
かった。そして、そこに住居をかまえることにした。
ヴ ァヒ ドが来 たこ とで、 あら たな攻 撃が はじま った 。ザイ ノル (ナイ リズ の知事 )
は すぐ、 兄ア スガー ル・ カーン と千 人の訓 練さ れた兵 士を 送り、 砦を 攻囲さ せた 。砦
に は、す でに 七十二 人の ヴァヒ ドの 仲間た ちが 避難し てい た。日 の出 に、そ のう ち何
人かが、ヴァヒドの指示に従って出撃し、おどろくべき速さで包囲軍を追い散らした。
こ の戦い で、 三人の 仲間 が命を 落と した。 最初 の仲間 はタ ジョッ ド・ ディン で、 大胆
不 敵さで 知ら れ、ペ ルシ ャ帽子 の製 造業者 であ った。 つぎ は、農 業を 営むエ スカ ンダ
ールの息子ザイニルで、最後は、アブール・ガゼムで、高い業績をもった人であった。
兵士たちのとつぜんの敗走で、シラズの知事フィルズ・ミルザ王子は不安になった。
そ こで、 砦の ヴァヒ ドの 仲間た ちを 直ちに 全滅 させる 命令 を出し た。 ザイノ ル( ナイ
リ ズの知 事) は、王 子の 従者を ヴァ ヒドに 送り 、両者 間の 関係が 緊迫 してき たゆ え、
ナイリズを離れるように要請した。そうすれば、騒動がまもなくおさまるであろうと、
説得にかかったのである。ヴァヒドはこう答えた。
「知事ザイノルに伝えよ。わたしに
同伴しているのは、二人の子供と二人の従者だけだと。わたしがこの町にいることが、
騒 動の原 因と なるな らば 、進ん でこ こを離 れよ う。し かし 、なぜ 、予 言者モ ハメ ッド
の 子孫に ふさ わしく われ われを 迎え ないの か?
な ぜ 知 事 は、わ れわ れに水 もあ たえ
ず 、兵士 たち にわれ われ を包囲 させ て攻撃 しよ うとし てい るのか ?
わ れ わ れ の 生活
必 需品を うば うなら ば、 知事に 警告 する。 かれ がもっ とも 浅まし い人 間だと みな して
い るわた しの 仲間七 人を 出撃さ せ、 知事の 総合 軍勢に 恥ず べき敗 北を もたら すつ もり
だと。」(pp.482-483)
知 事が 、この 警告 を無視 した のを知 った ヴァヒ ドは 、仲間 たち に、砦 から 出て、 攻
撃 者たち をこ らしめ るよ うに命 じた 。かれ らは 、若年 で、 武器を 用い たこと もな く、
ま た、訓 練さ れ、組 織さ れた軍 隊の 士気を くじ くこと にも 無経験 であ った。 しか し、
見 事な勇 気と 確信を もっ て、敵 に敗 北をあ たえ たので あっ た。こ の戦 いで、 アス ガー
ル ・カー ン( 知事の 兄) は命を 落と し、二 人の 息子は 捕虜 となっ た。 知事は 、不 面目
に も、分 散し た残り の軍 勢とと もに 、ゴト レー 村に退 却し た。そ して 、王子 に状 況の
重 大さを 告げ 、増援 隊を 直ちに 送っ てくれ るよ うに求 めた 。とく に、 大砲、 およ び歩
兵隊と騎兵隊の大連隊を要請したのである。
一 方、 ヴァヒ ドは 、敵が 、自 分と仲 間を 皆殺し にし ようと して いるの を見 て、仲 間
に 指示し た。 それは 、砦 の防護 体制 を強化 し、 砦内に 水槽 を備え 、テ ントを 門外 には
る ことで あっ た。そ の日 、仲間 の何 人かは 、そ れぞれ 特定 の仕事 をあ たえら れた 。ミ
ル ザ・モ ハメ ッドは 砦の 門衛と なり 、ユソ フは 基金係 とな り、カ ルベ ラ・モ ハメ ッド
は 砦とバ リケ ードに 隣接 する庭 園の 管理者 とな った。 ミル ザ・ア ーマ ドは、 水車 塔担
当 となっ た。 この水 車塔 は、砦 の近 くにあ り、 チェナ ール という 名で 知られ てい た。
シ ヴェは 刑の 執行人 とな り、ザ イノ ル(ナ イリ ズの知 事) の従兄 弟ジ ャファ ーは 記録
係 となり 、フ ァオド ロラ は記録 の校 正係、 バッ ガルは 看守 、タギ は登 録官、 ヤズ ディ
は 軍の指 揮官 となっ た。 ヴァヒ ドは 、エス ター バナッ ト村 からナ イリ ズまで 同伴 した
砦 内の七 十二 名の仲 間に 加えて 、有 名な僧 侶ジ ャファ ーと ヴァヒ ドの 義父ア ブド ル・
アリの要請で、バザール区の多数の住民と、自分の親族数人を砦に入れることにした。
(pp.483-484)
知 事は 、再度 王子 に訴え た。 今回は 、増 援隊を 緊急 に要請 した 嘆願書 に、 五千ド ル
に 相当す る額 を個人 的な 贈り物 とし て同封 した 。その 封書 を親密 な友 人モラ ・バ ゲル
に 託し、 自分 の馬を 使用 させて 、王 子に直 接渡 すよう に指 示した 。知 事がモ ラ・ バゲ
ル を選ん だ理 由は、 かれ が大胆 で、 能弁で 、気 転のき く男 であっ たか らであ った 。モ
ラ ・バゲ ルは 、人影 のな い道を 通り 、一日 の終 わりに 、フ ダシュ タク という 場所 に到
着した。その近隣に砦があり、そのまわりには遊牧民族がテントをはっていた。
モ ラ・ バゲル は、 一つの テン ト近く で馬 からお り、 そのテ ント の住人 と話 してい る
と き、バ ヴァ ナット のイ スラム の長 老セイ エド ・エス マイ ルが到 着し た。か れは 、あ
る 緊急な 用事 のため 、ヴ ァヒド から 許可を 得て 故郷に 行き 、そこ から ナイリ ズに もど
る ところ であ った。 昼食 後、か れは 、盛装 させ た馬が 近く のテン トの ロープ につ なが
れ ている のを 見たが 、そ の馬は 、知 事の友 人が ナイリ ズか ら乗っ てき たもの で、 シラ
ズ に向か う途 中であ るこ とを知 った 。まれ に見 る勇気 をも ったセ イエ ド・エ スマ イル
は 、直ち にそ のテン トに 行き、 馬か らおり 、剣 をさや から 抜いて 、モ ラ・バ ゲル が話
しかけていたテントの所有者にきびしく言った。
「このならず者を逮捕せよ。この男は、
時代の主の面前から逃げた者だ。両手をしばり、わたしのところに連れて来い。」この
強 い言葉 と態 度にび っく りした テン トの住 人は 、すぐ その 命令に 従っ た。そ して 、モ
ラ ・バゲ ルの 両手を ロー プでし ばり あげ、 その ロープ の端 をセイ エド ・エス マイ ルに
渡した。そのロープを手にするとすぐ、馬に拍車をかけ、ナイリズに向かった。モラ・
バ ゲルは 、ロ ープで 引っ 張られ なが らは、 その 後に従 わざ るを得 なか った。 町か ら七
マ イルほ どで 、ラス タク 村に着 き、 モラ・ バゲ ルを、 ハジ ・アク バー という 区長 に渡
し 、ヴァ ヒド の面前 に連 れて行 くよ うに頼 んだ 。ヴァ ヒド の質問 に、 モラ・ バゲ ルは
シ ラズへ の旅 行目的 を率 直に、 また 詳細に 説明 した。 ヴァ ヒドは 、か れを許 すつ もり
で いたが 、か れの態 度が 変わら なか ったた め、 ヴァヒ ドの 仲間た ちの 手で命 を断 たれ
た。(pp.484-485)
知 事ザ イノル は、 シラズ への 援助要 請の 決意を ゆる めるど ころ か、一 層の 熱意を 込
めて王子に訴えた。この地域の安全をおびやかしている重大な脅威を根絶するために、
援 助を倍 加さ れるよ うに と、こ ん願 したの であ る。そ れだ けでは 満足 できず 、信 頼で
きる従者数人に、さまざまな贈り物をもたせてシラズの王子のもとに送った。さらに、
成 功を確 実な ものに する ために 、シ ラズの 主な 僧侶と 長老 に、数 通の 嘆願書 を提 出し
た 。その 中で 、ヴァ ヒド の目的 をひ どく曲 げ伝 え、そ の破 壊活動 を長 々と述 べ、 かれ
らに、増援隊の迅速な派遣を王子にこん願してくれるように頼んだのであった。
要 請を 受けた 王子 はよろ こん で応じ 、ア ブドラ ・カ ーンに 、数 人の士 官を 先頭に 、
二 連隊を 引き 連れて すぐ 、ナイ リズ に向か うよ う命じ た。 この二 連隊 に砲兵 隊も とも
な わせた 。王 子はま た、 ナイリ ズの 代理人 に、 その地 区の 周辺の 村々 に住む 強壮 な男
た ちを集 める ように 指示 した。 さら に、ヴ ィス バクラ リイ エとい う名 で知ら れて いる
部族の男たちも、知事ザイノルの軍隊に加わるように命じたのである。(p.485)
と つぜ ん、大 軍が ヴァヒ ドと 仲間た ちが 避難し てい る砦を 取り 巻いた 。そ して、 砦
の まわり に、 塹壕を 掘り 、それ にそ ってバ リケ ードを 置き はじめ た。 それが 完成 する
と すぐ発 砲し はじめ た。 最初の 弾丸 が、門 前で 監視し てい た仲間 の馬 にあた った 。つ
ぎ の弾丸 は、 門の上 方の 小塔を つら ぬいた 。こ の砲撃 中に 、仲間 の一 人が、 小銃 で砲
兵 隊長を 撃ち 、即死 させ た。そ の瞬 間、銃 声の とどろ きは 止まり 、兵 士たち は退 却し
て塹壕にかくれた。その夜、仲間も、攻撃者も出撃することはなかった。
し かし 翌晩、 ヴァ ヒドは ヤズ ディを 呼び 寄せ、 十四 人の仲 間と 共に、 出撃 して敵 を
追 い払う よう に命じ た。 選ばれ た十 四人の ほと んどは 高齢 者で、 かれ らに、 はげ しい
戦 いがで きる と思っ た者 はいな かっ た。そ の中 には、 若者 以上に 熱意 と気力 をそ なえ
て いた九 十才 以上に なる 靴屋が いた 。残り は若 者で、 危険 に直面 した り、突 撃に とも
な う緊張 に耐 えたり する 準備な どま ったく なか った。 しか し、か れら は不屈 の決 意と
大業の崇高な運命にゆるがぬ確信をもっており、年令など問題ではなかったのである。
ヴ ァヒド はか れらに 、砦 を出て 、「 アラホ ・ア クバー ル! 」(神 は偉 大なり !) と一斉
に叫びながら、敵軍に向かって突進するように命じた。(pp.485-486)
出 撃の 合図が 下さ れると すぐ 、かれ ら馬 に乗り 、小 銃を手 にし て砦の 門を 出た。 火
を 吹く大 砲に も、雨 と降 ってく る銃 弾にも ひる まず、 敵陣 の中に 突入 した。 この とつ
ぜ んの戦 いは 、八時 間ほ どつづ いた 。この 戦い で、こ の恐 れを知 らな い仲間 の一 団が
見 せた見 事な 武術と 大胆 さは、 敵軍 の老練 兵た ちをお どろ かせた ほど であっ た。 ナイ
リズ町とその周辺から、敵の合同大軍に勇敢に耐えた仲間の小一団を援助するために、
人びとがかけつけてきた。戦いの規模が拡大されるにつれて、ナイリズの女性たちは、
自 家の屋 根に のぼり 、見 事な武 勇を たたえ る叫 びをあ ちこ ちであ げた 。その 声援 とと
も に、銃 声の とどろ きも 高まっ てい った。 それ はまた 、仲 間の一 団が 、激動 の中 で興
奮 のあま り口 にした 「ア ラホ・ アク バール 」の 叫びで 一層 強烈と なっ た。女 性群 の叫
び 声と、 仲間 たちの おど ろくべ き大 胆さと 自信 で、敵 は完 全に士 気を くじか れ、 その
努 力は無 とな った。 敵軍 の基地 は見 る影も なく なり、 勝利 者たち が砦 にもど ると きに
は 悲惨な 光景 をあら わし ていた 。か れらは 、重 傷を負 った 者らの ほか に、六 十人 の死
者を運んでいったが、その中には、つぎに示す二十七名が入っていた。
一.
ゴラム・レザ・ヤズディ
二.
ゴラム・レザ・ヤズディの弟
三.
カユロラの息子、アリ
四.
カジェ・ガニの息子、カジェ・ホセイン・ガンナド
五.
モラ・メヘディの息子、アスガール
六.
カルベライ・アブドル・カリム
七.
マシュハディ・モハメッドの息子、ホセイン
八.
マシュハディ・バゲル・サバグの息子、ザイノル・アベディン
九.
モラ・ジャファル・モダヘブ
十.
モラ・ムサの息子、アブドラ
十一. マシュハディ・ラジャブ・ハッダッドの息子、モハメッド
十二. カ ルベ ライ・ シャ ムソッ ド・ ディン ・マ レキ・ ダズ の息子 、カ ルベラ イ・ ハ サ
ン
十三. カルベライ・ミルザ・モハメッド・ザリ
十四. カルベライ・バゲル・カフシュ・ダズ
十五. ミルザ・ホセイン・カシ・サズの息子、ミルザ・アーマド
十六. モラ・アブドラの息子、モラ・ハサン
十七. マシュハディ・ハジ・モハメッド
十八. ミル・アーマド・ノクホド・ベリズの息子、アブ・タレブ
十九. モハメッド・アシュルの息子、アクバール
二十. タギエ・ヤズディ
二一.モラ・ジャファールの息子、モラ・アリ
二二.カルベライ・ミルザ・ホセイン
二三.シャリフの息子、ホセイン・カーン
二四.カルベライ・ゴルバン
二五.カジェ・アリの息子、カジェ・カゼム
二六.ハジ・アリの息子、アガ
二七.ミルザ・モイナの息子、ミルザ・ナワラ(pp.486-487)
こ の完 敗で、 知事 ザイノ ルと 幹部は 、ヴ ァヒド とそ の仲間 を軍 力で征 服す ること は
で きない と確 信した 。メ ヘディ ・ゴ リ王子 の軍 隊も同 様に 、バブ の仲 間たち との 戦い
で みじめ に敗 北した 。こ れらの 卑怯 な者ら が、 無敵の 敵を 征服で きた のは、 裏切 りと
欺 きとい う武 器を用 いた からで あっ た。知 事と その幹 部が 最後に 取っ た同じ 手段 で、
か れらの 無力 さが暴 露さ れたの であ った。 強大 な軍力 とフ ァルス の知 事と住 民か らの
精 神的支 援が あった から にもか かわ らず、 かれ らの目 には 、無訓 練の 卑しむ べき 者ら
と しか見 えな い小人 数の 一団を 負か すこと がで きない とい う無力 さで あった 。か れら
は 心の中 で、 砦内の 有志 者の一 団を 負かす こと は不可 能な ことを 確信 してい たの であ
る。
敵 は、 平和を 求め るふり をし て、砦 内の 清らか で高 貴な心 をも つ人び とを だます こ
と にした 。ニ 、三日 、攻 撃を中 止し たあと 、砦 の一団 に、 厳粛な 訴え を文書 にし て提
出してきた。内容はつぎのようであった。「これまで、われわれは、あなた方の信教の
真 の特性 を知 らなか った ため、 扇動 者たち にそ そのか され て、あ なた 方は皆 、イ スラ
ム 教の神 聖な 教えに そむ いてい たと 信じて きた 。この 理由 で、あ なた 方の信 教を 根絶
し ようと して きた。 しか し、こ のニ 、三日 間に 、皆の 活動 は、政 治的 な目的 をも つも
の でなく 、ま た国家 をく つがえ そう とする もの でもな いこ とがわ かっ た。さ らに 、あ
な た方の 教え は、イ スラ ム教の 基本 的な教 えか らそれ ほど 離れた もの でない こと も確
信した。あなた方は、このように主張しているようだ。すなわち、ある人物が現われ、
そ の人の 言葉 は霊感 を受 けたも ので 、その 教え は確実 で、 イスラ ム教 徒はす べて その
人 物を認 め、 支持し なけ ればな らい と。わ れわ れが、 あな た方に 要請 したい こと は、
わ れわれ の誠 実さを 信じ 、代表 者を 砦から われ われの 軍本 営にニ 、三 日送っ ても らう
こ とだ。 そこ で、あ なた 方の信 仰の 内容を 確か めたい 。こ の要請 を受 け入れ てく れな
け れば、 われ われは 、あ なた方 の要 求が正 しい と確信 する ことは でき ない。 あな た方
の 信教が 正当 である と証 明され れば 、われ われ もまた 、そ れをよ ろこ んで受 け入 れよ
う 。なぜ なら 、われ われ は、真 理の 敵では なく 、また 真理 を否定 しよ うなど だれ も思
っ ていな いか らだ。 われ われは 、あ なた方 の指 導者を イス ラム教 の闘 士であ り、 われ
わ れの模 範で あり、 導き である とみ なして きた 。われ われ の印章 を押 したこ のコ ーラ
ン は、わ れわ れの意 図が 誠実で ある という 証拠 である 。こ の聖典 によ り、あ なた 方の
主 張が真 実で あるか 、誤 りであ るか を決め られ よう。 もし 、われ われ があな た方 をあ
ざ むくな らば 、神と その 予言者 たち ののろ いが われわ れに 下され よう 。この われ われ
の 要請に 応じ られる なら ば、全 軍の 兵士た ちは 破滅か ら救 われよ う。 拒否さ れれ ば、
か れらは 不安 とうた がい の状態 にさ れたま まで あろう 。わ れわれ は誓 うが、 あな た方
の 教えが 真実 である と確 信した ら、 直ちに 、あ なた方 がす でに見 事に 示され たと 同じ
熱 意と献 身で 行動す るつ もりで ある 。あな た方 の友は われ われの 友と なり、 あな た方
の 敵は、 われ われの 敵と なろう 。あ なた方 の指 導者が 命令 される こと にはす べて 、わ
れ われも 従う ことを 誓う 。一方 、わ れわれ が、 あなた 方の 主張が 真実 である と確 信で
き なけれ ば、 あなた 方が 安全に 砦に もどれ るよ うにし 、戦 いをつ づけ ること を厳 粛に
約束するが、あなた方の大業の真理が明らかになるまでは、流血を避けるように願う。」
(pp.488-489)
ヴ ァヒ ドは、 その コーラ ンを うやう やし く受け 取り 、尊崇 の念 をこめ てそ れに接 吻
した。そして、こう述べた。
「いよいよ定められた時がきた。かれらの要請に応じれば、
かれらは、自分たちの裏切り行為の卑劣さを感じるにちがいない。」かれは仲間たちに
向かい、こう付け加えた。
「わたしは、かれらの陰謀に十分気づいているが、この機会
を とらえ 、か れらの 求め を受け 入れ ること は、 わたし の義 務であ ると 感じる 。そ れに
より、わが最愛の信教の真実性をふたたび明らかにできるからだ。」そして、各人仕事
を つづけ 、敵 の言葉 を信 用しな いよ うに、 さら に、つ ぎの 指示を 出す までは 、す べて
の戦いを中止するように命じた。
ヴ ァヒ ドは、 以上 の言葉 で仲 間に別 れを 告げ、 五人 の従者 と共 に、敵 の本 営に向 か
っ た。従 者の 中には 、モ ザヒエ ブと 裏切り 者の アベド がい た。知 事ザ イノル がア ブド
ラ・カーンとほかの幹部全員をともなってヴァヒドを迎えに出てきた。かれらは、仰々
し くかれ を迎 え、特 別に 張られ たテ ントに 案内 し、残 りの 士官た ちに 紹介し た。 ヴァ
ヒ ドは椅 子に 座り、 知事 とアブ ドラ ・カー ンと 一人の 士官 に座る よう に合図 した 。そ
の ほかの 者た ちは皆 、か れのそ ばに 立った まま であっ た。 ヴァヒ ドが かれら に宛 てた
言 葉は、 強烈 で、石 のよ うな心 をも った者 でさ え、そ の力 を感ぜ ずに はいら れな かっ
た。バハオラは、「スレエ・サブル」という書簡の中で、ヴァヒドの気高い訴えに不朽
の 名誉を あた え、そ の意 義を明 らか にして いる 。ヴァ ヒド はこう 宣言 した。「わ れは、
わ が主が われ に託さ れた 証拠で 身を 固めて ここ に来た 。わ れは、 神の 予言者 の子 孫で
は ないの か?
そ れ で は 、何ゆ えに われを 殺そ うとす るの か?
何 の 理由で われ に死
刑の宣告をし、わが家系がわれに授けた権利を認めようとしないのか?」
か れの 威厳あ る態 度と、 心に 浸透す る雄 弁に、 そこ に居た 者ら は狼狽 した 。三日 三
晩、かれらはヴァヒドを歓待し、大いなる尊敬をもって遇した。会衆の祈りでは、皆、
か れの後 に従 い、そ の説 話に注 意深 く耳を 傾け た。外 面で は、か れら は、ヴ ァヒ ドに
従 うよう に見 えたが 、実 際は、 ひそ かにか れの 命を取 り、 またか れの 残りの 仲間 たち
を 皆殺し にす る策略 を立 ててい たの である 。か れらは 、つ ぎのこ とを 十分に 知っ てい
た 。すな わち 、仲間 たち が砦内 にい るかぎ り、 かれに わず かでも 傷を 負わせ れば 、前
に直面した以上の危機に見舞われるであろうと。かれらは、女性たちの怒りと復讐と、
男 性たち の勇 猛さと 武術 を思っ て恐 怖でお のの いた。 さら に、大 軍と 十分な 武器 を用
い ても、 小人 数の未 熟な 若者と 老人 の一団 を征 服する こと ができ なか ったこ とを 知っ
て いた。 大胆 で慎重 に案 出され た策 略以外 には 最終的 に打 ち勝つ こと ができ ない と考
え たので ある 。かれ らの 心を満 たし た恐怖 感は 、大部 分、 知事の 言葉 でそそ のか され
た もので あっ た。知 事は 、断固 とし た決意 をも って、 憎し みをも ちつ づけ、 その 炎を
か れらの 心に 燃やし つけ たので あっ た。ヴ ァヒ ドの度 重な る勧告 で、 知事は 不安 にな
り 、その 魅惑 的な言 葉で 、かれ らが 、ヴァ ヒド に忠誠 をつ くすよ うに なるの では ない
かと心配になったのである。(pp.490-491)
知 事と その同 僚た ちは、 つい につぎ のこ とをヴ ァヒ ドに要 請す ること にし た。す な
わ ち、自 筆で 、砦内 に居 る仲間 たち に宛て てメ ッセー ジを 書かせ るこ とであ った 。そ
の 内容は 、和 解が成 立し たので 、軍 本営に 来て 、ヴァ ヒド と合流 する か、あ るい は自
家 にもど るよ うにと 勧め るもの であ った。 ヴァ ヒドは 、そ の要請 に応 じたく なか った
が 、最後 には 強いら れて 、そう せざ るを得 なく なった 。こ のメッ セー ジのほ かに 、か
れ は第二 の手 紙を書 き、 ひそか に敵 の悪質 な策 略を知 らせ 、あざ むか れない よう に警
告 した。 そし てこの 二通 の手紙 をア ベドに 託し 、最初 の手 紙を破 棄し 、第二 の手 紙を
仲 間たち に渡 すよう に指 示した 。さ らに、 仲間 たちに こう 伝える よう に頼ん だ。 すな
わち、仲間の中から、強壮な者らを選んで、真夜中に突撃し、敵軍を散らすようにと。
ア ベド は、こ の指 示を受 ける とすぐ ヴァ ヒドを 裏切 って、 その ことを 知事 ザイノ ル
に 告げた 。そ こで知 事は 、アベ ドに 、砦の 仲間 たちを ヴァ ヒドの 名の もとに 分散 させ
る ように 命じ 、十分 な報 酬をか れに 約束し た。 この不 実な アベド は、 最初の 手紙 を仲
間 たちに 渡し 、指導 者の ヴァヒ ドは 、敵の 全軍 隊を信 教の 信者と なす ことに 成功 した
ゆえ、皆に自宅に帰るように忠告していると伝えたのである。(pp.490-491)
仲 間た ちは、 その メッセ ージ をもら って 、はた と困 ったが 、ヴ ァヒド の明 らかな 指
示 を無視 でき ないと 思っ た。そ こで 、気は すす まなか った が、砦 を無 人にし て、 皆分
散 するこ とに した。 数人 は、ヴ ァヒ ドの命 令に 従い、 武器 をすて 、ナ イリズ に向 かっ
た。
知 事は 、ヴァ ヒド の仲間 たち が砦を 離れ るのを 予期 して、 一分 隊を派 遣し て、か れ
ら が町に 入る のを妨 害さ せるこ とに した。 やが て、仲 間の 一団は 、多 数の兵 士た ちに
取 り囲ま れた 。兵士 の数 は、本 営か ら送ら れて くる増 援隊 でます ます 増して いっ た。
仲 間たち は、 とつぜ ん敵 に囲ま れた ので、 仕方 なく、 全力 をはら って 敵を撃 退し 、で
き るだけ 速く モスク に入 ること にし た。あ る者 らは持 参し ていた 剣や 小銃で 、ほ かの
者らはこん棒や小石だけで、敵を追い払いながら町に入ってきた。
「アラホ・アクバー
ル !」の 叫び が、こ れま で以上 に強 烈にあ げら れた。 不真 実な敵 の中 を押し 分け て行
く 途中で 殉教 した者 もい たが、 残り は、負 傷し たり、 あら ゆる方 向か ら襲っ てき たあ
らたな増援軍に苦しまされたりしながら、最後にはモスクの避難所にたどりついた。
一 方、 知事の 軍隊 の士官 で、 名うて のモ ラ・ハ サン は、兵 士を ひきつ れて 、ヴァ ヒ
ド の仲間 より かなり 前に モスク に着 き、小 塔に かくれ 待ち 伏せし てい た。そ して 、ち
りじりになった仲間の一団がモスクに到着するやいなや、かれらに発砲したのである。
仲間の一人がモラ・ハサンを認め、「アラホ・アクバール!」と叫びながら小塔にのぼ
り 、その 卑怯 な士官 を撃 ち、地 面に 投げ落 とし た。兵 士た ちは、 モラ ・ハサ ンを 傷の
手当てができるところに運んでいった。
仲 間た ちは、 モス クに避 難で きなく なっ たため 、ヴ ァヒド の運 命を確 認す るまで 、
ほ かの安 全な 場所を 見つ けてか くれ ること にし た。か れら が裏切 られ たあと 、最 初に
考 えたこ とは 、ヴァ ヒド に会い 、そ の指示 を受 けるこ とで あった 。し かし、 ヴァ ヒド
に 何が起 こっ たかを 知る ことが でき ず、も しか して、 処刑 された かも 知れな いと 思っ
て不安になった。(p.493)
そ の間 、知事 と幹 部は、 ヴァ ヒドの 仲間 たちが 分散 したこ とで 勇気づ き、 誓いを 回
避 し、相 手の 指導者 (ヴ ァヒド )を 邪魔さ れず に殺害 でき る方法 を見 つけよ うと 必死
に なった 。つ まり、 もっ ともな 理由 をつけ て、 長い間 心に いだい てき た欲望 を果 たそ
うとしたのである。相談中に、残忍さで知られているアッバス・ゴリがこう提案した。
す なわち 、皆 が、誓 いを 立てた こと で困っ てい るのな らば 、自分 はま ったく その 誓い
に 加わっ てい ないの で、 皆がで きな いでい るこ とを実 行で きると 。そ して、 怒り を爆
発させて、こう言った。「われが、国の法律にさからう罪を犯したとみなす者は、何時
であれ、逮捕し、処刑することができるのだ。」かれは、その後すぐ、戦いで命を落と
し た者ら の親 族を集 め、 ヴァヒ ドに 死の宣 告を 出すよ うに 求めた 。最 初に、 兄が 捕ら
えられたモラ・レザが応じた。つぎに、弟が戦死したサファーが出てきた。三番目は、
同 じく父 が戦 死した アガ ・カー ンが 志願し てき た。こ の父 は、知 事ザ イノル の兄 であ
った。
か れら は、ア ッバ ス・ゴ リの 求めに よろ こんで 応じ ようと 、ヴ ァヒド のタ ーバン を
引 ったく った 。そし て、 それを かれ の首に 巻き つけ、 その 端を馬 につ なぎ、 路上 を引
き ずらせ た。 このヴ ァヒ ドに加 えら れた侮 辱を 見た者 らは 、エマ ム・ ホセイ ン( 三代
目 のエマ ム、 六八〇 年に 殉教) の悲 劇的な 死の 状況を 思い 起こし た。 その遺 体は 、激
怒 した敵 の餌 食とな り、 騎馬隊 の大 軍に無 情に も踏み にじ られた ので あった 。ナ イリ
ズ の女た ちは 、殺害 者た ちの勝 利の 叫びに 興奮 し、四 方八 方から 遺体 のまわ りに ひし
め き、ド ラム やシン バル に合わ せて 、自制 でき なくな った 狂信的 な感 情を思 う存 分は
きちらした。(p.494)
か れら は、遺 体を 取り囲 んで お祭り 気分 で踊り 、ヴ ァヒド が苦 悶の最 中で 語った 言
葉 をあざ けっ た。そ れは 、エマ ム・ ホセイ ンが 以前、 同じ 状況の 中で 語った 言葉 であ
った。
「おお、わが最愛なる御方よ。あなたは、わたしがあなたのためにこの世をすて、
あ なただ けを 信頼し てい ること をご 存知で す。 あなた のも とにい そぎ たいと 願っ てお
り ます。 あな たのう るわ しい御 顔が わたし の目 に明か され たから です 。あな たは 、迫
害 者がわ たし に対し てい だいて いる 邪悪な 陰謀 を見て おら れます 。わ たしは 決し て、
迫害者の望みに従ったり、かれに忠誠を誓ったりすることはありません。」
こ うし てヴァ ヒド の気高 い、 英雄的 な生 涯は終 わっ た。そ の波 瀾に富 んだ 輝かし い
生 涯は、 膨大 な知識 、不 屈の勇 気、 まれに みる 自己犠 牲の 精神で きわ だって いた が、
そ れはま た、 殉教と いう 栄光あ る死 の王冠 を必 要とし たの である 。こ の死は 、同 じ信
教 を信じ る者 たちの 生命 と財産 に猛 攻撃が はじ まる合 図で もあっ た。 およそ 五千 人が
そ の下劣 な任 務を命 じら れた。 男た ちは捕 らえ られ、 くさ りをつ けら れ、虐 待さ れ、
惨殺された。
女 たち と子供 たち は、捕 らえ られ、 描写 できな いほ どの残 虐行 為を受 けた 。かれ ら
の 財産は 略奪 され、 家屋 は壊さ れ、 カジェ の砦 は焼き 払わ れた。 男た ちの大 半は 、ま
ず 、くさ りを つけら れた ままシ ラズ に連行 され 、ほと んど が、そ こで 虐殺さ れた 。ザ
イ ノル( ナイ リズの 知事 )は、 個人 的な利 益を 得るた めに 、何人 かを 暗い地 下牢 に入
れ たが、 目的 が達せ られ ると、 かれ らを野 蛮な 手下た ちに 渡した 。か れらが 受け た残
虐 行為の ひど さは言 葉で は言い 表せ ない。 ザイ ノルの 手下 たちは 、か れらを まず ナイ
リ ズの街 路を 行進さ せた あと、 かれ らから 何ら かの利 益を 引き出 そう と、拷 問を かけ
た 。それ に成 功して 満足 すると 、残 忍なや り方 で殺害 した のであ る。 復讐の ため に、
あ らゆる 拷問 道具が 用い られた 。男 たちは 焼印 を押さ れ、 爪はは がれ 、身体 はむ ち打
た れた。 さら に、鼻 には 穴を開 けら れ、そ こに ひもを 通さ れ、両 手足 にはく ぎを 打た
れ た痛ま しい 状態で 、路 上を引 っ張 りまわ され たので ある 。こう して かれら は、 人び
との軽蔑とあざけりの的とされたのであった。(pp.495-496)
男 たち の中に はジ ャファ ーと いう人 がい た。か れは 、以前 強大 な影響 力を もち、 人
び とから 深く 尊敬さ れて いた。 その 尊敬は 大変 なもの で、 ザイノ ルも 、かれ を自 分よ
り すぐれ てい るとみ なし 、この 上な い敬意 と礼 儀をも って 接して いた のであ る。 しか
し 今、ザ イノ ルは、 その 同じ人 物の ターバ ンを 汚し、 火に くべる よう に命じ たの であ
る 。血統 を示 すしる しを はぎと られ 、大衆 の目 にさら され たかれ に、 ののし りと あざ
けりの言葉が投げつけられた。(pp.497-498)
残 虐行 為の犠 牲者 には、 タギ もいた 。か れは以 前、 正直と 公正 で高い 名声 を得て お
り 、裁判 官は 、かれ の判 断に頼 って 決定を 下し ていた ほど であっ た。 これほ ど高 い尊
敬 を受け てい たタギ は、 真冬の 最中 に衣服 をは ぎとら れ、 池に投 げ込 まれ、 ひど い切
り 傷を負 った 。ジャ ファ ーとヴ ァヒ ドの義 父で 、ナイ リズ の高僧 で、 高い名 声を もつ
判 事のア ブド ル・ア リと 、ナイ リズ の名士 であ るセイ エド ・ホセ イン も同じ 運命 に会
っ た。町 の悪 漢たち がや とわれ 、極 寒にさ らさ れてい るか れらに 、残 忍非道 の侮 辱を
あ たえた ので ある。 その ほか、 報酬 を受け 取る ために 、か れらに 拷問 を加え よう と集
ま ってき た貧 しい男 たち が多数 いた が、そ の拷 問の内 容を 知って 、嫌 悪感と 軽蔑 感を
いただいて去って行った。
ヴ ァヒ ドは一 八五 〇年六 月二 十九日 に殉 教した 。十 日後に バブ はタブ リズ で射殺 さ
れた。(pp.498-499)
第ニ十三章
バ ブの殉教
ナ イリ ズの動 乱は 悲劇的 な終 末を遂 げた が、そ の物 語はペ ルシ ャ全土 にひ ろがり 、
そ れを聞 いた 者の心 に、 おどろ くほ どの熱 意を 呼び起 こし ていっ た。 中央政 府は この
状 況を憂 慮し 、絶望 感さ えおぼ えた 。とく に、 ナセル ディ ン国王 の総 理大臣 をつ とめ
る タギ・ カー ンは、 バビ 教徒の 不屈 の精神 に圧 倒され てい た。か れら の意志 がい かに
強く、その信仰がいかに熱烈でねばり強いかをふたたび見せつけられたからであった。
(p.500)
た しか に、政 府軍 はどこ の戦 いでも 勝利 をおさ めて いた。 たし かに、 モラ ・ホセ イ
ン の一団 と、 それに つづ いたヴ ァヒ ドの一 団は 、軍の 手に よって 容赦 なく抹 殺さ れて
い った。 それ にもか かわ らず、 テヘ ランの 抜け 目のな い指 導者た ちは 、その まれ にみ
る 英雄的 行為 のもと とな った精 神は 健在で 、そ の威力 はく じかれ てい ないこ とを はっ
き りと知 って いた。 戦い に生き 残っ たバビ 教徒 たちは 、各 地に散 らば って行 った が、
捕 われの 身に なって いる 指導者 (バ ブ)に 対す る忠誠 心は 不動の まま であっ た。 かれ
ら は想像 以上 の敗北 を受 けたが 、忠 誠心は 弱ま ること はな く、ま た、 信仰も 損な われ
る ことは まっ たくな かっ たので ある 。それ どこ ろか、 かれ らの精 神は 、以前 にも まし
て 強烈に 燃え 上がっ た。 迫害さ れ、 侮辱を 受け て苦し んだ かれら は、 バブの 教え に、
そ れまで 以上 の熱烈 さを もって すが り、バ ブに 対する 熱意 と期待 も一 層深ま った ので
ある。(pp.500-501)
バ ビ教 徒の中 に熱 意の炎 を点 し、そ の精 神をは ぐく んだバ ブは 、辺境 の牢 獄に隔 離
さ れてい たに もかか わら ず、い まだ に十分 な影 響をお よぼ すこと がで きた。 昼夜 にわ
た る厳重 な警 戒も、 全土 をおお った 熱狂の 渦を 食い止 める ことは でき なかっ た。 その
渦 の源泉 であ るバブ が健 在であ った からで ある 。そこ で、 総理大 臣の タギ・ カー ンは
こ う考え た。 バブが 点し た光は 消さ なけれ ばな らない 。こ れほど 大混 乱と破 壊を もた
ら した渦 は元 から断 たな ければ なら ない。 バブ を抹殺 する ことこ そが 、恥辱 を受 けた
国 の威信 を取 りもど すた めの最 善の 策であ ると 。これ が、 愚かな 総理 大臣の 結論 であ
った。(p.501)
総 理大 臣は、 さっ そく閣 僚を 召喚し 、自 分の懸 念と 希望を 伝え 、自分 の計 画をつ ぎ
のように説明した。
「バブの信教がわが国民の心に引き起こした嵐を見よ!
バブを公
衆の面前で処刑する以外には、この混乱した国に平穏と平和を取りもどす方法はない、
と 考えて いる 。タバ ルシ の戦い で、 数え切 れな いほど の軍 団が滅 亡し た。勝 利を 得る
た めに計 り知 れない ほど の犠牲 を要 した。 マザ ンデラ ン州 の動乱 が鎮 圧され たの もつ
か のま、 別の 州ファ ルス で暴動 の火 の手が あが り、住 民に 大変な 苦し みをあ たえ た。
こ の南部 地方 を荒ら した 反乱が 静め られた と思 ったと たん 、北部 に暴 動が起 こり 、ザ
ン ジャン とそ の周辺 を渦 中に巻 き込 んだ。 皆の 中で解 決策 を提案 でき る者が いれ ば、
ぜ ひわた しに 知らせ てい ただき たい 。わた しの 唯一の 目的 は、平 和を 保障し 、国 民の
名誉を回復することにある。」(p.502)
こ の提 案に応 じよ うとす る者 は一人 もい なかっ た。 その中 で、 国防大 臣の アガ・ カ
ー ン・ヌ ーリ だけが 発言 した。 一部 の無責 任な 扇動者 たち の行動 のた め、追 放の 身に
あ るバブ を死 刑に処 すこ とは、 あま りにも 残酷 すぎる 、と いうの がか れの意 見で あっ
た 。国防 大臣 はつづ けて 、今は 亡き モハメ ッド 国王の 模範 を引き 合い にだし た。 国王
は、バブを誹謗する敵の報告を、一切無視していたことを思い出させたのである。
総理大臣は、この反対意見をひじょうに不快に思い、つぎのように反論した。
「あな
た の意見 は、 今われ われ が直面 して いる問 題に はまっ たく 関係が ない 。現在 、国 益が
お びやか され ている ので あり、 たび かさな る動 乱を黙 認し ておく こと はでき ない 。エ
マ ム・ホ セイ ン(モ ハメ ッドの 孫) の例を 見よ 。かれ は、 国家の 統一 を守る とい う最
大 の重要 事の ために 処刑 された では ないか 。処 刑した 者た ちは、 いず れも、 エマ ム・
ホ セイン が祖 父のモ ハメ ッドか ら寵 愛を受 けて いたこ とを 、一度 なら ずとも 目の 当た
り にして いた ではな いか 。その とき 、血筋 のゆ えにエ マム ・ホセ イン にあた えら れた
権 利を考 慮に 入れた であ ろうか 。わ たしが 、こ こで提 案す る解決 策以 外には 、こ の害
悪 を絶や し、 平和を もた らす方 法は ない。 この 平和こ そわ れわれ が切 望して いる もの
ではないか。」
結 局、 総理大 臣は 、国防 大臣 の忠告 を無 視し、 アゼ ルバエ ジャ ン州知 事の ハムゼ ・
ミ ルザに 、バ ブをタ ブリ ズに移 すよ うに命 じた 。しか し、 命令の 本当 の意図 は王 子で
あ る知事 に明 かさな かっ た。こ の知 事は、 王族 の中で も心 やさし く公 正な人 物と して
知 られて いた 。知事 は、 総理大 臣の 意図は 捕わ れの身 にな ってい るバ ブを故 郷に もど
す ことで ある と思っ た。 そこで 、信 頼のお ける 指揮官 に、 騎兵隊 をと もなっ て、 バブ
を チェリ グの 牢獄か らタ ブリズ に連 れてく るよ うに命 じた 。途中 、最 大の注 意を はら
って、バブに不自由させないようにと勧告した。
知 事の 迎えが チェ リグに 到着 する四 十日 前、バ ブは 、所有 して いた書 簡と そのほ か
の 書類を すべ て集め 、筆 箱、印 鑑、 瑪瑙の 指輪 といっ しょ に箱に おさ め、生 ける 者の
文 字の一 人で あった バゲ ルに託 した 。同時 に、 自分の 秘書 を長年 つと めたミ ルザ ・ア
ー マドに あて た手紙 をも 渡した 。そ の手紙 には 箱の鍵 が同 封され てい た。バ ブは 、箱
の 中身は 神聖 な意義 をも つもの であ ること を強 調し、 細心 の注意 をは らって それ を守
る ように 指示 した。 そし て、そ の中 身につ いて は、ミ ルザ ・アー マド 以外に はだ れに
も明かさないように命じた。(pp.504-505)
バゲルは、直ちにガズビンに向かって出発した。十八日後にガズビンに到着したが、
ミ ルザ・ アー マドは すで にクム の町 に向か った あとで あっ た。バ ゲル はすぐ 出発 し、
六 月の下 旬に クムに 到着 した。 当時 、わた し( 著者) は、 サデグ ・タ ブリズ とい う者
と いっし ょに いた。 わた しが、 郷里 のザラ ンド にいた ころ 、ミル ザ・ アーマ ドは 迎え
を よこし 、わ たしを クム に呼び 寄せ たが、 その とき迎 えに きた者 がサ デグ・ タブ リズ
で あった 。わ たしは 、ミ ルザ・ アー マドの 家に 住んだ が、 それは かれ が「綿 畑」 と呼
ば れると ころ に借り た家 であっ た。 そのこ ろ、 シェイ キ・ アザム 、セ イエド ・エ スマ
イ ルほか 、数 人の仲 間が 同じ屋 根の 下に住 んで いた。 モラ ・バゲ ルは 、バブ から 託さ
れ た箱を ミル ザ・ア ーマ ドに渡 した 。かれ は、 仲間の シェ イキ・ アザ ムが、 その 箱を
開 けるよ うに 強く要 請し たため 、開 けるこ とに した。 箱に 入って いた ものの 中で 、と
く に目を 見張 ったの は、 一本の 青色 の巻物 であ った。 その きわめ て上 質の紙 をひ ろげ
て みると 、そ こには バブ の絶妙 な直 筆で、 およ そ五百 行の 聖句が 星の 形に書 き記 され
て いた。 それ らの聖 句は すべて 、「 バハ」(栄 光)と いう 言葉の 派生 語から 構成 されて
い た。そ の巻 物は、 しみ 一つな い完 全な状 態で 保存さ れて おり、 一見 したと ころ 手書
き ではな く、 印刷さ れて いるよ うに 見えた 。筆 跡はひ じょ うに細 かく 、入り 組ん でお
り 、遠く から 見ると 、そ れは一 枚の 紙に描 かれ た一筆 の絵 のよう に見 えた。 われ われ
は 、その すば らしい 筆跡 を見て 、驚 嘆する ばか りであ った 。だれ が、 これに 匹敵 する
ものを書き得ようかと。
巻 物が 箱にも どさ れてミ ルザ ・アー マド に渡さ れる と、そ の日 のうち に、 かれは テ
ヘ ランに 向か った。 出発 前に、 かれ は、箱 の中 の手紙 は、 テヘラ ン在 住のバ ハオ ラが
届 け先で ある ことを 知ら せてく れた 。そし てわ たしに 、父 が待ち わび ている 郷里 のザ
ンランドに帰るように指示した。(pp.505-506)
騎 兵隊 の指揮 官は 、州知 事か らの指 令に 忠実に 従い 、バブ に尊 敬を示 して 、かれ が
不 自由し ない ように 細心 の注意 をは らいな がら タブリ ズま で案内 した 。知事 であ る王
子 は、前 もっ て友人 の家 に迎え 入れ られる よう に準備 して いた。 ここ でも、 バブ に最
上 の礼儀 をつ くすよ うに 友人に 命じ ていた 。バ ブの到 着後 三日し て、 新たな 命令 が総
理 大臣か ら知 事のも とに 送られ た。 それは 、正 式な命 令状 を受け 取り 次第、 バブ を処
刑 し、同 時に 、バブ に従 う者も 死刑 に処す るよ うにと いう 内容で あっ た。そ こで 、ウ
ル ミエに 駐屯 するア ルメ ニア人 から なる連 隊が 、バブ の射 殺を命 じら れた。 場所 はタ
ブ リズ市 の中 心にあ る兵 舎前の 広場 と決定 され た。連 隊長 はサム ・カ ーンと いう アル
メニア人のキリスト教徒であった。
総 理大 臣の実 弟の ハサン ・カ ーンが 、こ の命令 を知 事に伝 えた 。知事 は、 その命 令
に仰天して、激しい口調で抗議した。
「総理は、このような任務よりも、もっと価値の
あ る任務 をわ たしに あた えて下 さら ないの か。 わたし に下 った命 令は 、下劣 な者 ら以
外 はだれ も実 行する 者は いない 。わ たしは 、エ ブネ・ ジャ ドやエ ブネ ・サー ト( モハ
メ ッドの 子孫 を迫害 した 人物) では ない。 よっ て、わ たし に神の 予言 者の血 を引 く無
実の者を処刑するように求めるのはもってのほかだ。」
ハ サン ・カー ンは 、知事 の反 対の言 葉を 、兄の 総理 に伝え た。 そこで 総理 は、指 示
通りにすぐ、自らバブを処刑するように弟に命じ、つぎのようにせき立てた。
「われわ
れの心に重くのしかかっている心配を取り除いてくれるように頼む。ラマダン(断食)
の 月がく る前 に、こ の問 題に終 止符 を打っ てく れれば 、邪 魔され ずに 落ち着 いて 断食
ができよう。」
ハ サン ・カー ンは 、この 新し い命令 を知 事に知 らせ ようと 試み たが失 敗し た。知 事
は 病気を よそ おい、 かれ に会う こと を拒ん だか らであ る。 知事か ら拒 否され ても ひる
ま ずに、 ハサ ン・カ ーン は、バ ブと その仲 間を 、ただ ちに 知事の 友人 の家か ら兵 舎の
一 室に移 動さ せるよ う指 示した 。さ らに、 サム ・カー ンに 命じて 、兵 士十人 をバ ブの
部屋の入り口に立たせ見張らせることにした。(pp.506-507)
バ ブは 、その 高貴 な血筋 を示 すター バン と帯を はぎ とられ て、 秘書の セイ エド・ ホ
セ インと 共に 、ふた たび 別の監 禁場 所移さ れた 。バブ は、 兵舎へ の移 動が、 宿願 の目
標 に達す る最 後の段 階で あるこ とを 十分知 って いた。 その 日、タ ブリ ズ市街 は興 奮の
るつぼと化していた。住民は、
「最後の審判」のときに世界を襲う大混乱がついに到来
し たとい う思 いであ った 。バブ が殉 教の場 に連 行され たそ の日、 タブ リズを とら えた
興奮は、これまでにないほど激しく、かつ不思議なものであった。
バ ブが 兵舎前 の広 場に近 づい たとき 、若 者がと つぜ んバブ の前 に飛び 出し てきた 。
身 の危険 をか えりみ ず、 必死に 人垣 をかき わけ て、バ ブの ところ にか けよっ てき たの
で あった 。若 者の顔 はや つれ、 裸足 で、髪 も乱 れたま まで あった 。興 奮で息 をは ずま
せ 、疲れ きっ た様子 で、 バブの 足も とに身 を投 げた。 そし て、バ ブの 衣服の すそ をに
ぎりしめ、熱烈にたん願した。「師よ、わたしを追いやらないで下さい。あなたが行か
れ るとこ ろに は、ど こま でもわ たし をお伴 させ て下さ い。」バブ は答 えた。「モ ハメッ
ド ・アリ よ。 立ち上 がる がよい 。あ なたは われ と共に いら れるの で安 心せよ 。明 日、
あなたは、神が定められたことを目撃するであろう。」これを見て、自制できなくなっ
た ほかの 弟子 二人も 、バ ブのも とに かけよ り、 不動の 忠誠 を誓っ た。 結局、 この 二人
と 若者の アリ ・ズヌ ジは 逮捕さ れ、 バブと セイ エド・ ホセ インと 同じ 部屋に 監禁 され
た。(p.507)
わ たし (著者 )は 、セイ エド ・ホセ イン (バブ の秘 書)が つぎ のよう に語 るのを 聞
いた。
「あの夜、バブの御顔はよろこびで輝いていました。そのよろこびの表情は、こ
れ まで見 たこ とがな いも のでし た。 周辺で 荒れ 狂って いる 嵐はま った く気に なら ない
様 子で、 かれ はわれ われ と楽し く談 話され てい ました 。か れに重 くの しかか って いた
悲しみは、完全に消えてしまったようでした。目前の勝利を意識されているバブには、
悲しみの影さえ見えませんでした。かれは、われわれにこう言われました。
『明日こそ
わ が殉教 の日 である 。だ が、皆 のう ちわが 命を 断って くれ る者は いな いか。 敵の 手で
命 をうば われ るより も、 友の手 で命 を断た れる 方を望 むか らだ。』こ の言葉 を聞 いて、
わ れわれ の目 から涙 があ ふれて きま した。 われ われの 手で 、バブ の貴 重な命 をう ばう
な ど身が 縮ま る思い でし た。わ れわ れは、 バブ の要望 を拒 み、沈 黙し たまま でし た。
と ころが 、ア リ・ゾ ヌジ がとつ ぜん 立ち上 がっ て、バ ブの お望み であ れば、 自分 はど
の ような こと でも従 いま す、と 宣言 したの であ る。わ れわ れは、 かれ を抑え て、 その
考えを思いとどまらせました。その直後、バブはこう言われました。
『わが要望に応え
て 立ち上 がっ たこの 若者 は、わ れと 共に殉 教す るであ ろう 。殉教 の冠 を分か ち合 う者
として、われはかれを選んだ。』」
翌 日の 早朝に 、ハ サン・ カー ンは執 行官 に、バ ブを 連れて 市の 判事を 兼任 する僧 侶
た ちの家 をま わるよ うに 命じた 。そ れは、 刑の 執行に 必要 な承認 書を かれら から 取得
す るため であ った。 バブ が兵舎 を出 ようと した とき、 秘書 のセイ エド ・ホセ イン は、
今後どのような行動を取ればよいかについてバブに聞いた。バブはこう忠告した。
「信
仰 を告白 しな いよう にせ よ。そ うす れば、 将来 、あな たと 出会う よう に運命 づけ られ
ている人たちに、あなたのみが知っている事実を語ることができよう。」その後も、バ
ブ はかれ と内 密の言 葉を 交わし てい た。そ こに 、執行 官が とつぜ ん割 り込ん でき てセ
イ エド・ ホセ インの 腕を つかみ 、横 に引き 寄せ 、激し い口 調で叱 りつ けた。 バブ は執
行官に警告した。
「わたしが秘書に伝えようとしていることを語り終えるまでは、地上
の いかな る勢 力も、 わた しを黙 らす ことは でき ないの だ。 全世界 が、 わたし に対 して
刃 向かっ てき たとし ても 、最後 の言 葉を言 い終 わるま では 、かれ らに はわた しを 阻む
力はないのだ。」この大胆な主張に執行官はおどろいたが、何も返事をせず、セイエド・
ホセインに自分のあとについてくるように命じた。(pp.507-509)
モ ハメ ッド・ アリ (バブ と共 に殉教 した 弟子) も、 バブと 同様 に判事 たち の家を ま
わ ってい た。 かれの 義父 は、タ ブリ ズで高 い社 会的地 位に あった 。こ のため 、ど の判
事もかれに、信仰を取り消すように強くすすめたが、かれはこう答えた。
「わたしの主
で あるバ ブを 否定す るこ とは決 して できま せん 。主は わた しの信 仰の 真髄で あり 、わ
た しが真 心か ら敬慕 する 御方で す。 わたし は、 主の中 に楽 園を見 いだ し、そ の教 えに
従うことは、救済の箱舟であることを知ったのです。」
そ の若 者を取 り調 べてい たモ ラ・マ マガ ニは、 それ を聞い て声 を張り 上げ でどな っ
た。
「だまれ!
その言葉は、お前が正気でない証拠だ。よって、言葉の責任は問わず
に 、お前 を許 してや ろう 。」若 者は 答えた 。「 わたし はま ったく 正気 です。 約束 された
ガ エムと いう 聖なる 御方 に死刑 を宣 告した あな たこそ 、正 気を逸 して います 。約 束さ
れ た御方 の教 えを信 じ、 その道 に自 分の命 をさ さげた いと 切望し てい る者は 愚か では
ありません。」(pp.509-510)
つ づい て、バ ブが モラ・ ママ ガニの とこ ろに連 行さ れてき た。 かれは 、戸 口に立 っ
て いるの がバ ブであ るこ とを知 ると すぐ、 前も って準 備し ていた 死刑 執行令 状を 使用
人にもたせ、執行官に渡すように命じた。そして、大声で言った。
「バブの顔を見る必
要 はない 。皇 太子が 立ち 会われ た取 り調べ の際 、かれ に会 い、そ の日 にこの 令状 を書
い たのだ 。か れは、 間違 いなく 、そ のとき わた しが見 た男 だ。そ の後 も、か れは 主張
を変えていないのだ。」
つ ぎに 、バブ はミ ルザ・ バゲ ルに家 に連 れて行 かれ た。か れは 、最近 父ミ ルザ・ ア
ー マドの 後を 継いだ 判事 であっ た。 バブの 一行 が判事 の家 に到着 した ときに は、 すで
に 使用人 が署 名済み の死 刑執行 令状 を手に して 門のと ころ で立っ てい た。使 用人 はこ
う説明した。
「お入りになる必要はありません。主人は、今は亡き父上が下された死刑
の 宣告は 正し いとし て満 足され てい ます。 息子 として も父 上の例 に従 いたい と申 され
ております。」
最 後に 訪問し たモ ルタザ ・ゴ リも、 ほか の二人 の判 事にな らっ て前も って 令状を 準
備 してい た。 かれは 、自 分が恐 れて いる敵 のバ ブに会 おう としな かっ た。執 行官 が、
必 要な令 状を すべて 整え たとこ ろで 、バブ を連 隊長の サム ・カー ンに 引き渡 した 。か
れ は、サ ム・ カーン に、 政府と イス ラム教 会双 方の承 認が 得られ たの で、心 配な く任
務を遂行するように命じた。
そ の間 、秘書 のセ イエド ・ホ セイン は、 前夜バ ブと 共にす ごし た部屋 に監 禁され た
ま まであ った 。判事 との 面会を 終え たモハ メッ ド・ア リも 、その 部屋 に連行 され てき
た 。しか し、 この若 者は 涙を流 して 自分の 師で あるバ ブの そばに いた いとこ ん願 した
た め、連 隊長 のサム ・カ ーンに 引き 渡され た。 若者が 信仰 を捨て るこ とを拒 みつ づけ
るならば、かれをも処刑せよ、という指示をサム・カーンは受けた。
一方、サム・カーンは、ひどい取り扱いを受けている中でのバブの振舞いや態度に、
ま すます 深く 心を動 かさ れるよ うに なって いた 。そし て、 バブの 命を 断つよ うな こと
を すれば 、神 の怒り を招 くにち がい ないと 、恐 怖感に おそ われた 。そ こでバ ブに こう
説明した。
「わたしはキリスト教徒であり、あなたに対して何の悪意ももっていません。
あ なたの 教え が真実 であ れば、 あな たの血 を流 さなけ れば ならな いよ うな任 務か らわ
た しを解 放し てくだ さる ように お願 いしま す。」バブ は答 えた。「命 令どお り執 行する
が よい。 もし あなた の願 いが誠 実な もので あれ ば、全 能な る神は かな らず、 あな たを
窮地から救って下さるであろう。」(p.511)
そ こで サム・ カー ンは、 兵士 に命じ て、 セイエ ド・ ホセイ ンが 監禁さ れて いた部 屋
の 入り口 と、 隣接す る部 屋の入 り口 の間に ある 柱に釘 を打 たせた 。そ の釘に 二本 のロ
ー プをか け、 バブと モハ メッド ・ア リを別 々に しばり 、吊 りさげ た。 若者は 、サ ム・
カ ーンに 、自 分の身 体が 盾にな って バブを 守る ような 形に 吊り下 げて くれる よう にこ
ん願した。この願いが入れられ、若者の頭部がバブの胸部にあたるように整えられた。
ロ ープが 固定 された 直後 、三列 に配 列され た兵 士たち が射 撃体制 に入 った。 一列 は二
百五十名の兵士からなっていた。
「打て」という命令に、各列が順番に発砲した。七百
五 十丁の ライ フル銃 が放 った硝 煙は ものす ごく 、正午 の太 陽の光 線を さえぎ り、 あた
り は闇に つつ まれた 。そ の日、 一万 人の市 民が 兵舎の 屋根 や、周 辺の 家々の 屋根 に群
がり、この悲痛で、心を深く動揺させる情景を目撃したのであった。(pp.512-513)
立 ち込 めてい た硝 煙が消 え去 ったと き、 群衆は 信じ がたい 光景 を見て おど ろいた 。
群 衆の前 に、 バブと 共に 吊り下 げら れた若 者が 無傷の まま 立って いた のであ る。 しか
し 、バブ の姿 はなか った 。二人 を吊 り下げ てい たロー プは 銃弾で 切断 されて いた が、
二 人は奇 蹟的 に傷ひ とつ 負わな かっ たので ある 。若者 が着 ていた 衣も 硝煙に よる くす
みすら認められなかった。おどろいた群衆は叫んだ。「バブの姿が消えた!」
執 行官 と護衛 たち は、必 死に なって バブ を探し まわ った。 つい にバブ は、 前夜す ご
し た部屋 で、 秘書の セイ エド・ ホセ インと の会 談を終 えよ うとし てい たとこ ろを 発見
さ れた。 その 日の朝 、バ ブと秘 書と の会談 は執 行官に よっ て中断 させ られた ため 、バ
ブ はまだ 言い 残すこ とが あった ので ある。 バブ は、ま った く平静 で、 落ち着 いた 表情
を してい た。 兵士た ちが バブに 向け て銃弾 の雨 を降ら した にもか かわ らず、 バブ には
か すり傷 ひと つ負わ せる ことは でき なかっ た。 バブは 、部 屋に入 って きた執 行官 につ
ぎのように述べた。
「セイエド・ホセインとの話は終わった。これであなたは計画どお
りに実行するがよい。」
執 行官 が受け た衝 撃はあ まり にも強 烈で 、バブ をふ たたび 処刑 するこ とな どでき な
かった。かれは、任務を果たすことを拒否し、同時に、辞意を表してその場を去った。
そ して、 自分 が目撃 した ことを 隣人 で、タ ブリ ズの名 士で あった のミ ルザ・ モー セン
に語った。ミルザ・モーセンは、この話を聞いた直後信者となった。(pp.513-514)
後 日、 わたし はミ ルザ・ モー センに 会う 機会を 得た 。かれ は、 バブの 殉教 の場に わ
た しを案 内し 、バブ が吊 るされ た兵 舎の壁 を見 せてく れた 。バブ がセ イエド ・ホ セイ
ン と最後 に談 話した 部屋 にも案 内さ れ、バ ブが 座して いた 場所も 教え てくれ た。 敵は
壁 に釘を 打ち 込み、 それ に固定 した ロープ でバ ブの身 体を 吊るし たの である が、 その
同じ釘も見ることができた。
サ ム・ カーン も同 様に、 この 思いが けな い結果 に茫 然とな った 。かれ は、 兵士た ち
に 直ちに 兵舎 から退 去す るよう に命 じた。 そし て、自 分も 連隊も 、バ ブにわ ずか な傷
を 負わせ るよ うなこ とを 一切拒 絶し た。サ ム・ カーン は、 自分が 殺さ れるよ うな こと
が あって も、 二度と バブ の処刑 の命 令に従 うこ とはな い、 と公言 して 兵舎前 の広 場を
去った。
サム・カーンが広場を去ったあと、近衛師団の隊長をつとめるカムセという軍人が、
刑 の執行 を申 し出た 。そ こで、 バブ とモハ メッ ド・ア リは 、ふた たび 前回と 同様 に、
同 じ壁の 釘か らロー プで 吊るさ れた 。連隊 も前 回同様 配列 して発 砲命 令をま った 。命
令 が下さ れる と、銃 弾で ロープ だけ が切れ た前 回とち がっ て、二 人の 身体は 打ち 砕か
れ た。肉 と骨 は粉砕 され 、両者 の身 体は一 つの かたま りと 化した 。連 隊が射 撃準 備の
体制に入ったとき、バブは広場の群衆に向かって、つぎの最後の言葉を残した。
「おお、
よ こしま な世 代の者 たち よ。皆 がわ れを信 じた ならば 、一 人残ら ずこ の若者 の模 範に
従 い、わ が道 に進ん で命 をささ げた であろ う。 この若 者は 、皆の ほと んどの 者よ り高
い 地位に あっ た。皆 が、 われを 認め る日は かな らず到 来す るであ ろう 。しか し、 その
ときわれは皆と共にはおれないのだ。」(p..514)
銃 声と ともに 、竜 巻のよ うな 突風が 起こ り、タ ブリ ズ市全 域を 襲った 。信 じがた い
ほ ど猛烈 な粉 塵が吹 き上 げられ 、太 陽の光 はさ えぎら れ、 住民を 盲目 にした 。市 全体
は 正午か ら夜 まで暗 闇に つつま れた 。サム ・カ ーンの 連隊 がバブ を傷 つける こと すら
で きなか った という おど ろくべ き出 来事と 、そ れにつ づく 奇妙な 大気 現象に もか かわ
ら ず、タ ブリ ズの市 民の 心を動 かす ことは でき なかっ た。 かれら は、 その重 大な 出来
事 の意味 を少 しでも 考え ようと しな かった ので ある。 かれ らは、 この 不思議 な出 来事
が サム・ カー ンにも たら した変 化を 目撃し 、執 行官の 仰天 ぶりと 職務 を捨て る決 意を
し たこと を見 、雨と 降っ てきた 銃弾 にもか かわ らず、 若者 の衣服 には しみ一 つつ かな
か ったこ とを 確認し 、セ イエド ・ホ セイン との 談話を 終え て、ふ たた び広場 にあ らわ
れ たとき のバ ブの落 ち着 きはら った 表情を 見逃 しては いな かった 。そ れにも かか わら
ず 、だれ 一人 として これ らの異 常で 奇跡的 な出 来事の 意味 につい て尋 ねる者 はい なか
ったのである。(PP.515-517)
バ ブが 殉教し たの は、一 二六 六年シ ャー バン月 二十 八日の 日曜 日(一 八五 〇年七 月
九 日)の 正午 であっ た。 シラズ での 誕生の とき から陰 暦で 、三十 一年 と七ヵ 月二 十七
日が経過していた。
同 じ日 の夕方 、バ ブと弟 子の ずたず たに なった 遺体 は、兵 舎の 広場か ら市 の城壁 を
取 り囲む 外堀 のふち に移 された 。十 名から 構成 される 四組 の見張 りが 交代で 監視 にあ
た った。 殉教 の日の 翌朝 、タブ リズ 市のロ シア 領事が 、絵 描きを とも なって その 場所
を 訪れた 。絵 描きは 、領 事の指 示で 、外堀 のふ ちに横 たわ る遺体 を一 枚の絵 にお さめ
た。(pp.517-518)
わたしは、アスカルからつぎのように聞いた。
「ロシア領事館の役人で、わたしの親
戚 にあた る者 が、そ の絵 を、写 生さ れた当 日わ たしに 見せ てくれ まし た。そ の絵 はバ
ブ の顔を 正確 に描写 した もので した 。バブ の額 、頬、 そし て口元 には 銃弾の あと はあ
り ません でし た。そ の顔 にはほ ほ笑 みがい まだ に残っ てい るよう に見 えまし た。 しか
し 、身体 はず たずた にな ってい まし た。バ ブと 殉教を 共に した若 者の 両腕と 頭を 確認
す ること がで きまし た。 若者は 、ち ょうど バブ を両手 で抱 きかか えて いるよ うに 見え
ま した。 その 恐ろし い絵 を見て 、わ たしは 恐怖 にふる えま した。 あの 高貴な 姿の あま
り の変わ りよ うに、 わた しの心 は悲 しみに 打ち ひしが れた のです 。苦 しみの あま り、
その絵から顔をそらし、帰宅して部屋に鍵をかけて閉じこもりました。衝撃のあまり、
三 日三晩 飲食 も睡眠 もで きなか った のです 。バ ブの波 瀾に 富んだ 短い 生涯を 埋め 尽く
したさまざまな出来事が思い起こされました。かれを襲いつづけた深い悲しみと苦悩、
た びかさ なる 追放、 そし て生涯 をか ざった 殉教 の場面 が、 ふたた びわ たしの 眼前 で再
演されたのです。わたしはベッドに身を投げ、もだえ苦しみました。」(p.518)
バ ブの 殉教か ら二 日後の 午後 、ソレ イマ ンがテ ヘラ ンから 到着 した。 かれ は、ヤ ー
ヤ ・カー ンの 息子で 、タ ブリズ 郊外 の町長 の家 に迎え 入れ られた 。こ の町長 は、 スー
フ ィ教団 に属 する神 秘主 義者で 、ソ レイマ ンが 信頼を 寄せ ている 友人 であっ た。 ソレ
イ マンは 、バ ブに生 命の 危機が 迫っ ている のを 知り、 バブ を救出 する ために タブ リズ
に 向かっ たの であっ た。 しかし 、そ の決意 を果 たすに はあ まりに も遅 く到着 した こと
に 悔し涙 をの んだ。 かれ は、友 人か らバブ の逮 捕と起 訴の 背景と なっ た状況 や、 殉教
の様子を聞いて決心した。命の危険をおかしても、バブと弟子の遺体を運び出そうと。
友 人は、 今行 けば命 があ ぶない から 待つよ うに 忠告し 、別 の案を 立て た。友 人は かれ
に ほかの 家に 移り、 そこ でアラ ヤー ルとい う、 頼まれ たこ とは何 でも すると いう 男を
待 つよう にす すめた 。そ の日の 夕方 、約束 の時 刻に、 ソレ イマン はア ラヤー ルに 会っ
た 。男は 、ソ レイマ ンの 指示に 従い 、その 日の 夜半、 堀の ふちに 放置 されて いた 遺体
を 、ある 信者 の経営 する 絹織物 工場 に運び 出す ことに 成功 した。 翌日 、特別 に作 らせ
た木の棺におさめられ、ソレイマンの指示により、安全な場所に再度移された。一方、
遺 体の監 視に あたっ てい た見張 りた ちは、 睡眠 中に野 獣が 遺体を 持ち 去った と弁 解し
た 。その 上司 たちも 、と がめら れる ことを 恐れ 、真実 をか くして 、当 局には 報告 をす
ることはなかった。(pp.518-519)
ソレイマンは、遺体が安全な場所に移されたことをテヘランのバハオラに報告した。
そ こでバ ハオ ラは、 アガ ・カリ ム( バハオ ラの 実弟) に指 示して 、使 者をタ ブリ ズに
送り、遺体を首都テヘランに移させることにした。この決定は、バブ自身が「シャー・
ア ブドル ・ア ジム参 堂の 書」の なか で述べ た希 望にそ った もので あっ た。こ の参 堂の
書 は、バ ブが シャー ・ア ブドル ・ア ジムと いう 寺院の 近く で著わ され たもの であ る。
バ ブは、 それ をソレ イマ ン・カ ティ ブに渡 し、 ほかの 何人 かの信 者た ちと共 に、 その
寺 院で唱 える ように 指示 した。 参堂 の書の 最後 に、そ の寺 院に眠 る聖 者にあ てて 、つ
ぎの言葉が記されている。
「わが最愛なる者の下影にあるレイの地(テヘランの近くに
あ った古 代都 市)に 永眠 の場を 得た あなた は、 まこと に幸 いなり 。わ れもま た、 その
聖なる地に葬られんことを切望する。」(註:最愛なる者とはバハオラを指す。)
わ たし がミル ザ・ アーマ ドと 共にテ ヘラ ンに滞 在中 、バブ とそ の弟子 の遺 体がテ ヘ
ラ ンに到 着し た。し かし 、バハ オラ は、国 防大 臣の勧 告に より、 すで にカル ベラ に向
か ってい た。 タブリ ズか らテヘ ラン 市内の 寺院 に運ば れた 遺体は 、ア ガ・カ リム (バ
ハ オラの 実弟 )とミ ルザ ・アー マド の手に よっ て、あ る秘 密の場 所に 移され たが 、こ
の 二人以 外は だれも その 場所を 知る ことは なか った。 その 何年か 後、 バハオ ラが アド
リ アノー プル 追放さ れる まで、 その 場所は 秘密 のまま であ った。 バハ オラの 出発 にあ
た って、 遺体 のかく し場 所を確 認す るため に、 アガ・ カリ ムは仲 間の 弟子で ある モニ
ル にその 場所 を教え たが 、モニ ルは いくら 探し ても遺 体を 見つけ るこ とはで きな かっ
た 。結局 、遺 体は後 日、 ジャマ ール という 古い 信者に よっ て発見 され た。バ ハオ ラが
ア ドリア ノー プル滞 在中 に、ジ ャマ ールは その かくし 場所 を知ら され たので あっ た。
現 在も、 その 秘密の 場所 を知る 信者 はいな い。 また、 最終 的にど こに 移され るか も推
測さえできない。 (pp.520-522)
バブの殉教の報告は、まず総理大臣に伝えられた。つぎにアガ・カーン(国防大臣)
が 知らせ を受 けた。 アガ ・カー ンは 、前の 国王 の時代 に都 から追 放さ れてカ シャ ンの
町 に住ん でい たこと があ った。 その ころ、 バブ はカシ ャン に立ち 寄っ た。ア ガ・ カー
ンは、ジャニという信者からバブの教えの内容を知り、一つの誓いを立てた。それは、
も し、バ ブが もたら した 新しい 啓示 を受け 入れ ること によ って、 以前 の地位 に復 帰で
き れば、 迫害 されて いる バビ共 同体 の安全 を保 護する ため に、全 力を 尽くす とい う誓
い であっ た。 ジャニ は、 このこ とを バブに 報告 した。 バブ は、失 脚し た大臣 につ ぎの
よ うに告 げて 、安心 させ るよう に指 示した 。つ まり、 かれ はまも なく テヘラ ンに 召さ
れ 、国王 に次 ぐ地位 をあ たえら れる であろ うと 。バブ はさ らに、 その ときに なっ て約
束 を忘れ ずに 、全力 をつ くして 自分 の誓い を果 たすよ うに とも警 告し た。ア ガ・ カー
ンは、バブの言葉を聞いてよろこび、誓いを守ることを確約した。
バ ブの 殉教の 知ら せがア ガ・ カーン に届 けられ たと き、か れは すでに 国務 大臣の 地
位 に昇進 して いて、 総理 大臣の 座に つくこ とを 望んで いた 。かれ は、 バハオ ラと 親密
で あった ので 、この 悲報 を急い でバ ハオラ に伝 えた。 そし て、バ ブが もたら した 動乱
の 炎は、 いつ かバハ オラ に大変 な苦 難を降 りか からせ るで あろう と恐 れてい たが 、そ
の 火炎が つい に消さ れた ので安 心し たと告 げた 。これ に対 して、 バハ オラは つぎ のよ
うに答えた。
「そうではない。もし報告が真実であれば、点された火炎は、その事件(バ
ブ の処刑 )に よって 、こ れまで 以上 に猛烈 に燃 え上が るで あろう 。確 実に言 える が、
そ の大火 炎は 、この 国の 政治家 全員 が力を 合わ せても 、消 すこと はで きない ほど にな
ろう。」
ア ガ・ カーン が、 バハオ ラの 言葉の 真理 を理解 でき たのは 、ず いぶん 後に なって か
ら であっ た。 かれは 、こ の予言 の言 葉を聞 いた ときは 、大 打撃を 受け た信教 が、 生き
残 れるな どま ったく 想像 もして いな かった 。か れは、 以前 バハオ ラか ら不治 の病 を治
療 しても らっ たこと があ ったに もか かわら ず、 バハオ ラの 言葉を 信じ ること はで きな
かったのである。(p.522)
あ る日 、アガ ・カ ーンの 息子 が父親 に質 問した 。す なわち 、バ ハオラ は、 大臣の 家
に 生まれ 、兄 弟の中 でも もっと も有 能であ った にもか かわ らず、 父親 の後を 継が ず、
家 の伝統 にそ むいて 家族 の期待 を裏 切った と思 わない かと 。アガ ・カ ーンは 息子 にこ
う言った。
「息子よ、バハオラは父親の期待を裏切ったと本当に信じているのか。要職
に あるわ れわ れには 、人 民のつ かの まの忠 誠を 得る以 外に は何も でき ないの だ。 人民
の 忠誠は 、わ れわれ の時 代が終 わり 次第消 え去 るもの であ る。わ れわ れの人 生は 、野
心 の道に つき まとう 栄枯 盛衰か ら逃 れるこ とは できな い。 生涯の うち 栄誉と 名声 を築
い たとし ても 、死後 、人 民の誹 謗中 傷で名 声を 汚され 、生 前の業 績も 台無し にさ れな
る のでは ない か。だ れも そうな らな いとは 言え ない。 われ われが 生き ている 間で も、
口 先でわ れわ れに敬 意を 表する 者ら は、わ れわ れが一 瞬で もかれ らの 利益に なら ない
こ とをす れば 、心中 で、 われわ れを 非難し 、罵 倒する 。し かし、 バハ オラの 場合 はち
が う。人 種や 地位を 問わ ず、こ の世 の権力 者た ちとは ちが って、 バハ オラは 人び との
愛 と献身 の的 であり 、そ れは、 時の 流れに よっ て薄れ たり 、敵の 攻撃 によっ て滅 ぼさ
れ たりす るも のでは ない 。バハ オラ の主権 は、 死の影 によ ってく もら される こと も、
敵 の中傷 によ って損 なわ れるこ とは ないの だ。 バハオ ラの 人びと にあ たえる 影響 力は
大 なるも ので 、かれ を慕 う者は だれ も、夜 の静 寂な時 間に も、か れの 意に反 する よう
な ことを ほん のわず かで も心に 描い たりす るこ とはな い。 かれを 慕う 者の数 は日 毎に
増 えてい くで あろう 。か れらの 愛は けっし て薄 れるこ とは なく、 世代 から世 代へ と引
きつがれ、ついには全世界がその光輝に満たされるであろう。」
残 忍な 敵は、 バブ を執拗 に虐 待し、 最後 にはそ の命 までも うば ったが 、そ の結果 、
ペ ルシャ の国 と国民 に大 変な災 難が ふりか かっ た。こ れら の残虐 行為 を犯し た者 たち
は 、後悔 の念 にさい なま れ、信 じら れない ほど 短い期 間の うちに 、つ ぎつぎ と不 名誉
な 死をと げた 。一方 、眼 前にく りひ ろげら れた 惨劇を 冷淡 になが め、 その残 虐行 為に
対 し、抗 議一 つしな かっ た国民 の大 多数に つい てはど うで あろう か。 かれら もま た、
苦 境にお ちい り、国 家の 財源も 政治 家の努 力も かれら の苦 しい生 活を 楽にす るこ とは
で きなか った 。逆境 の嵐 がかれ らに 襲いか かり 、繁栄 して いた物 質生 活の土 台を ゆる
が したの であ る。迫 害者 がバブ を攻 撃しは じめ 、その 信教 の抹殺 に取 りかか った その
日から、数かぎりない不運と不幸が、感謝することを忘れた国民に襲いかかってきた。
かれらの精神は砕かれ、国家全体は破産寸前まで追いつめられたのである。
(pp.523-524)
ち りで おおわ れ、 読む者 もな い書物 に記 録され てい る以外 は、 ほとん どだ れも知 ら
な いよう な疫 病が猛 威を ふるい 、だ れもそ れか ら逃れ るこ とはで きな かった 。疫 病が
ひ ろがる につ れて死 者も 増えて いっ た。病 魔は 、王子 であ ろうと 農夫 であろ うと 区別
な く、容 赦な く襲い かか り、そ の勢 いを減 じる ことは なか った。 この とつぜ ん降 りか
か ってき た苦 難は、 全土 を荒ら しつ づけ、 ギラ ン州で は、 悪性の 熱病 のため 人口 が激
減 した。 それ ほどの 災難 にもか かわ らず、 神の 怒りの 猛襲 は、よ こし まで、 信仰 のな
い 人民を とら えて放 そう としな かっ たので ある 。その 影響 はやが て、 国内に 生息 する
あらゆる生き物にもおよんだ。植物と動物の生命までも侵しはじめたのを見た国民は、
そ の災難 の規 模の大 きさ に圧倒 され た。こ のは げしい 苦難 の重荷 にあ えぐ国 民に 、さ
ら に飢餓 とい う新た な恐 怖が加 わり 、その ゆっ くりと しの びよる 死の 影にお びえ た。
政 府も国 民も 、どこ に救 済を求 めて よいか すら 分から なか った。 かれ らは、 この よう
に 苦悩の 杯を 飲み干 した のであ るが 、それ が、 だれの 手に よって もた らされ たの か、
そして、その苦しみが聖なる人物のためであることを理解できなかったのである。
最 初に バブを 迫害 したの は、 シラズ の知 事ホセ イン ・カー ンで あった 。か れは、 バ
ブ を監禁 して 屈辱を 負わ せたが 、か れの治 める ファル ス州 では、 かれ の悪行 を見 て見
な いふり をし た何千 もの 人が命 を落 とした 。そ の州で 疫病 が猛威 をふ るい、 全州 が破
壊 のふち に立 たされ たの である 。貧 窮と疲 労で うちひ しが れたフ ァル スの住 民は 、近
隣 と友人 の援 助を求 めて 辛うじ て生 き長ら える ことが でき た。知 事自 らも、 長年 築き
上 げてき たも のがす べて 崩壊す るの を苦い 思い で目撃 する しかす べが なかっ た。 そし
て 、友人 にも 敵にも 見捨 てられ 、忘 れられ た状 態で残 され た日々 を過 ごし、 無名 のま
ま葬られたのである。(p.524)
つ ぎに バブの 教え に挑み 、そ の発展 を食 い止め よう とした のは 、アガ シ( モハメ ッ
ド 国王の 総理 大臣) であ った。 かれ は、利 己的 な理由 から 、当時 の下 劣な僧 侶た ちを
味 方につ ける ために 、バ ブと国 王と の会見 を阻 止した 。自 分が恐 れて いるバ ブを 、ア
ゼ ルバエ ジャ ンの辺 境の 牢獄へ の追 放させ たの もかれ であ った。 そし て、バ ブを 隔離
し ておく ため に、監 視の 目を休 める ことは なか った。 バブ が、警 告の 書簡( 怒り の書
簡 )をあ てた のも、 かれ であっ た。 バブは その 書簡の 中で 、アガ シの 悪行を あば き、
そ の没落 を予 告した 。神 の怒り の御 手が、 アガ シをと らえ たのは 、バ ブがテ ヘラ ンを
通 過した とき から、 わず か一年 半後 であっ た。 アガシ は権 力の座 から 追われ 、民 衆の
追 跡から も逃 れて、 テヘ ラン郊 外の 寺院に 身を かくし た。 しかし 、さ らに神 の怒 りの
手 により 、国 外に追 い出 され、 度重 なる災 難に 見舞わ れ、 最後に は、 貧窮と 苦し みの
うちにこの世を去った。
バ ブの 生命を うば った兵 士た ちには どの ような 運命 が待っ てい たであ ろう か。か れ
ら は、サ ム・ カーン とそ の兵士 たち (アル メニ ア人の 連隊 )がバ ブの 処刑に 奇し くも
失 敗した こと を知り なが ら、再 度の 処刑を 執行 するた めに 志願し 、バ ブの身 体を 銃弾
で 引き裂 いた 兵士た ちで あった 。連 隊の二 百五 十名は その 指揮官 と共 に、バ ブの 殉教
と 同じ年 に、 大地震 に遭 って全 滅し た。そ の出 来事は 、あ る暑い 夏の 日に起 こっ た。
ア ルデビ ルか らタブ リズ に向か う途 中で、 兵士 たちは 高い 塀の影 で休 息し、 ゲー ムな
ど で楽し んで いた。 とつ ぜん地 震が 起こり 、塀 が崩れ 落ち て一人 残ら ず下敷 きと なっ
て 死滅し た。 残りの 五百 名は、 バブ と同様 に銃 殺刑に 処せ られた 。バ ブの殉 教後 三年
目 に、連 隊は 反乱を 起こ したが 、鎮 圧され 、サ デク・ カー ンの命 令に より全 員が 銃殺
刑 となっ たの である 。反 乱兵士 たち が射撃 で倒 れたあ とも 、一人 も生 き残ら ない よう
に 、二度 目の 射撃が 行わ れた。 その あと、 死体 をやり で突 き、タ ブリ ズ市民 の目 にさ
ら した。 その 日、タ ブリ ズの住 民の 多くは 、バ ブの殉 教の 状況を 思い 起こし てい た。
そ して、 バブ の命を うば った兵 士た ちが、 バブ と同じ よう な運命 に会 ったこ とを 不思
議に思い、互いにささやき合った。
「 連隊全 体が 、この よう な辱め を受 け、悲 惨な 最後を 遂げ たのは 、も しかす ると 神の
報 復かも 知れ ない。 もし 、あの 青年 (バブ )が 本当に 詐欺 師であ った のなら ば、 かれ
を処刑した者たちにこれほどのむごい天罰が下るはずはないのではないか。」この不安
の 声は、 タブ リズ市 の指 導的立 場に ある僧 侶た ちの耳 には いった 。か れらは 、人 びと
の心の動揺を大いに恐れ、そのような疑問をもつ者をすべて厳罰に処すように命じた。
あ る者は むち 打たれ 、ほ かの者 は罰 金を科 され 、全市 民は うわさ を広 めない よう に警
告を受けた。そのようなうわさは、市民にバブの敵たちの残酷な行為を思い起こさせ、
バブの教えに対する熱意をふたたび点すことを、僧侶たちは心配したからであった。
バブを殉教に追いやった主導力は、時の総理大臣のタギ・カーンであった。そして、
そ の命令 を実 行に移 した 共犯者 は、 総理大 臣の 実弟で あっ た。こ の二 人は、 その 凶行
の あと二 年内 に、恐 ろし い処罰 を受 け、み じめ な死を とげ た。総 理大 臣の血 痕は 、今
日 までフ ィン の風呂 場の 壁に残 って いるの が見 られる 。そ れは、 大臣 が自ら もた らし
た残虐行為を証言するものである。
第二十四章
ザ ンジャンの動乱
バ ブが タブリ ズで 殉教し たと き、す でに 、マザ ンデ ランと ナイ リズに 大火 炎をも た
ら した火 花は 、ザン ジャ ンとそ の周 辺をも 燃え 上がら せて いた。 バブ は、タ バル シ砦
の 勇敢な 弟子 たちに ふり かかっ た悲 痛な運 命を 深く悼 んで いたが 、ヴ ァヒド とそ の仲
間 たちが 受け たと同 じよ うな苦 難の 知らせ に、 バブの 心は さらな る打 撃を受 けた 。そ
れ まです でに 、かれ の心 には、 さま ざまな 苦悩 が重く のし かかっ てい た。す なわ ち、
自 分のま わり に危機 が迫 ってき てい るとい う意 識、タ ブリ ズに連 行さ れたと きに 受け
た 侮辱の 記憶 、アゼ ルバ エジャ ン山 岳の要 塞で の長期 間に わたる 厳重 な監禁 によ る過
労 、マザ ンデ ランと ナイ リズの 動乱 での虐 殺、 そして テヘ ランの 七人 の殉教 者た ちを
迫 害した 者ら による 残虐 行為は 、バ ブの残 り少 なくな った 生涯の 日々 をくも らせ てい
た のであ る。 それら に加 えて、 あら たにザ ンジ ャンで の事 件の知 らせ を受け て、 バブ
の 苦悩は 極点 に達し た。 死の影 がす ばやく しの びよる 中、 バブは どれ ほどの 苦悩 に耐
え なけれ ばな らなか った であろ うか 。南北 のあ らゆる 地方 で、バ ブの 信教の 闘士 たち
は 、不当 な苦 しみを 受け 、破廉 恥な やり方 であ ざむか れ、 財産は 略奪 され、 虐殺 され
た 。そし て今 、バブ の悲 痛の杯 をあ ふれ出 させ るかの よう に、ザ ンジ ャンで 動乱 の嵐
が起こったのである。それは、これまで以上に激烈で破壊的な嵐であった。(pp.527-529)
こ こで 、この 事件 が、バ ビ教 の史上 、も っとも 感動 的なも のの ひとつ とな った状 況
に ついて 述べ たい。 その 中心人 物は ホッジ ャト で、本 名は モラ・ モハ メッド ・ア リで
あ った。 かれ は、当 時の 有能な 高僧 で、バ ブの 大業を 擁護 する強 大な 闘士の 一人 であ
った。かれの父ラヒムは、ザンジャンの指導的な高僧の一人で、敬虔で、学識があり、
堅固な性格をそなえていたため、高く尊敬されていた。ホッジャトは 1812 年から 1813
年 の間に 生ま れた。 幼少 のころ から すぐれ た能 力を示 した ため、 父は ひじょ うに 大事
に かれを 養育 した。 父は かれを 教育 のため ナジ ャフに 送っ たが、 そこ で、か れは 洞察
力 、知力 、熱 意で抜 きん でた。 かれ の学識 と知 性に、 友人 たちは 賞賛 を惜し まな かっ
た が、一 方、 敵たち は、 かれの 無遠 慮さと 強い 性格を 恐れ た。父 は、 かれに ザン ジャ
ン にもど らな いよう に忠 告した 。敵 たちが かれ に対し て陰 謀をく わだ ててい たか らで
あ る。そ こで 、かれ はハ マダン に住 居をか まえ 、親族 の女 性と結 婚し たが、 二年 半後
に 、父の 死の 知らせ を受 け、故 郷に もどる こと にした 。僧 侶たち は、 帰郷し たか れが
大 歓迎を 受け ている のを 見て敵 意を 強めた 。僧 侶たち から の公然 の反 対にも かか わら
ず、かれは、かれらを高く尊重し、できるかぎり親切にあつかった。(pp.529-530)
ホ ッジ ャトは 、友 人たち が建 ててく れた モスク の説 教壇か ら、 集まっ てき た大群 衆
に 向かっ て、 放縦を やめ 、中庸 をも って行 動す るよう に勧 告した 。そ して、 あら ゆる
種 類の悪 習を 容赦な く禁 止し、 自ら 手本を 示し て、コ ーラ ンの説 く原 則を固 く守 るよ
う にすす めた 。この よう に、最 善を つくし て弟 子たち に教 えたの で、 かれら は、 ザン
ジ ャンの 有名 な僧侶 たち よりも 、す ぐれた 知識 と理解 をも つよう にな った。 この 十七
年 間の努 力の 末、ホ ッジ ャトは イス ラム教 の精 神と教 えに 反する もの をすべ て、 仲間
の町民の心からのぞくことに成功した。(p.530)
シ ラズ からバ ブの 宣言の ニュ ースが とど くとす ぐ、 ホッジ ャト は信頼 でき るエス カ
ン ダール を使 いとし て送 り、新 しい 啓示に つい て調べ させ た。そ の結 果、バ ブの 教え
に 熱心に 応じ たため 、こ れを知 った 敵たち は、 いっそ うは げしく かれ を攻撃 しは じめ
た 。それ まで 、敵た ちは 、政府 や住 民の前 では かれの 体面 を汚す こと はでき なか った
が 、今、 異端 の信奉 者で あり、 イス ラム教 が大 事にし てき たもの をす べて否 認す る者
として、かれを非難できるようになったのである。かれらはお互いにささやき合った。
「 かれは 、公 正、敬 虔、 英知、 学識 で高い 名声 をもっ てい たため 、そ の地位 をゆ るが
せ ること はで きなか った 。モハ メッ ド国王 の面 前に召 され たとき も、 かれは 、そ の魅
惑 的な雄 弁で 、国王 をも 自分の 熱烈 な賞賛 者と なした では ないか 。し かし今 、か れは
公 然とバ ブの 大業を 擁護 するよ うに なった ため 、政府 から 逮捕状 を得 て、か れを われ
われの町から確実に追放できるのだ。」
そ こで 、かれ らは 嘆願書 を作 成して 国王 に提出 した 。その 中で 、悪意 ある 狡猾な 心
が 生み出 した あらゆ る方 法を用 いて 、かれ の名 声を落 とそ うとし た。 そして 、こ のよ
うに苦情を申し立てたのである。
「イスラム教を信じると公言しながら、かれは弟子の
助 けによ り、 われわ れの 権威を 否認 しまし た。 かれは バブ の大業 の信 者とな り、 その
憎 らしい 信仰 にザン ジャ ンの三 分の ニの住 民を 味方に 引き 入れた 今、 どれほ どの 屈辱
を われわ れに あたえ るか わかり ませ ん。モ スク は、か れの 門に集 まっ てくる 大群 衆を
全 部入れ るこ とはで きな くなり まし た。そ の影 響は大 きく 、ます ます 増えて きて いる
熱 心な群 衆を 収容す るた めに、 かれ の父所 有の モスク と、 かれの ため に建て られ たモ
ス クを連 結し てひと つの 建物と した ほどで す。 ザンジ ャン だけで なく 、近隣 の村 々の
住民も、かれの支持者となる日がすばやく近づいてきています。」(pp.530-531)
国 王は 、嘆願 者た ちの語 調に 大変お どろ いた。 そこ で、側 近の ナザー ル・ アリに そ
の ことを 知ら せ、ザ ンジ ャンを 訪れ た多く の人 びとが 、ホ ッジャ トの 能力と 高潔 さを
高 く賞賛 した ことを 思い 起こし た。 そこで 、ホ ッジャ トと 反対者 たち をテヘ ラン に召
す ことに した 。その 特別 の集ま りに 、国王 自ら と総理 大臣 アガシ 、政 府の高 官お よび
テ ヘラン で高 名な僧 侶何 人かが 参加 した。 その 場に、 国王 はザン ジャ ンの僧 侶た ちを
召 し、か れら の主張 を説 明する よう に言い 渡し た。か れら は、ホ ッジ ャトに イス ラム
教 の教え につ いてい ろい ろ質問 した が、答 えは すべて 、そ の場に いる 人たち の賞 賛を
得 るもの であ った。 国王 もまた 、ホ ッジャ トが 無実で ある ことを 信じ た。国 王は 、完
全 に満足 した ことを 述べ 、ホッ ジャ トが敵 の非 難を見 事に 論破し たこ とに十 分な 報酬
を あたえ た。 そして 、か れにザ ンジ ャンに もど り、国 民へ の貴重 な奉 仕をつ づけ るよ
う に命じ た。 また、 いか なる場 合に も、か れを 支援し つづ けるこ とを 約束し 、今 後困
難に直面した場合は知らせるように述べた。
ホ ッジ ャトが ザン ジャン にも どった とき 、屈辱 を受 けた敵 たち の怒り は爆 発した 。
か れらが 敵意 を深め ると 同時に 、ホ ッジャ トの 友人た ちと 支持者 たち の献身 も増 して
い った。 ホッ ジャト は、 敵たち の陰 謀を一 切無 視し、 熱意 を弱め るこ となく 活動 をつ
づ けた。 かれ が、大 胆不 敵に唱 導し た慣習 にし ばられ ない 原則は 、凝 り固ま った 敵た
ち が苦心 して 作り上 げた 組織の 土台 に打撃 をあ たえる もの であっ た。 かれら は、 自分
た ちの権 威が 侵され 、組 織が崩 壊す るのを 目前 にして 、は げしい 怒り をおぼ えた が、
どうすることもできなかった。(pp.531-532)
そ のこ ろ、ホ ッジ ャトが 、バ ブに嘆 願書 と贈り 物を もたせ て、 極秘に シラ ズに送 り
出 してい た特 使がザ ンジ ャンに もど ってき た。 特使は 、弟 子に講 話を してい たホ ッジ
ャ トに、 バブ から預 かっ てきた 封書 を渡し た。 その書 簡に は、バ ブが 自分の 称号 の一
つ である 「ホ ッジャ ト」 という 名を あたえ るこ とが書 いて あり、 また 、説教 壇か ら率
直に、バブの信教の基本的な教えを公表するようにとの指示があった。ホッジャトは、
師であるバブの望みを知るとすぐ、その書簡にある指示をすべて実行する決心をした。
そして、弟子たちに、講義を中止するので、本を閉じ、解散するように言った。「すで
に 真理を 発見 した者 らに とって 、勉 学と研 究が 何の益 にな ろうか 。あ らゆる 知識 の的
である御方が現われた今、なぜ学問を追求する必要があろうか。」
ホ ッジ ャトが 、バ ブに命 じら れたと おり 、金曜 日の 会衆の 祈り を先導 しよ うとし た
と き、こ れま で、そ の役 目にあ たっ てきた 僧侶 の長が 、は げしく 抗議 しはじ めた 。そ
の 役目は 、国 王から あた えられ た先 祖から の特 権で、 どれ ほど高 い地 位の者 もれ をう
ばうことはできないと抗議したのである。ホッジャトは答えた。
「その特権は、ゴエム
( バブ) 自ら わたし にあ たえら れた 。かれ は、 わたし にそ の任務 を公 にする よう に命
じ られた 。だ れもそ の特 権を侵 害で きない のだ 。攻撃 を受 ければ 、わ たしは 自分 と仲
間の命を守るために、手段を講じよう。」(pp.532-533)
バ ブか らあた えら れた任 務の 遂行を 大胆 不敵に 主張 したこ とで 、ザン ジャ ンの僧 侶
た ちは、 僧侶 の長に 味方 した。 そし て、ホ ッジ ャトは 伝統 ある組 織に 挑戦し 、そ の特
権を踏みにじっていると、総理大臣アガシに不平を訴えた。
「われわれは、家族と財産
ぐ るみで 、こ の町か ら逃 げ出し 、町 民の運 命を かれ一 人に ゆだね るか 、もし くは 、モ
ハ メッド 国王 から勅 令を 出して いた だいて 、か れをこ の国 から即 刻追 放させ るし かあ
り ません 。か れをこ の国 に残さ せる ならば 、災 難を招 くば かりで ある と確信 して いま
す。」総理大臣は、心中では国の宗教組織に不信の念をいだき、その信条やしきたりを
け ぎらい して いたが 、最 後には かれ らの強 い要 求を受 け入 れざる を得 なくな り、 この
件 を国王 に提 出した 。そ こで国 王は 、ホッ ジャ トをザ ンジ ャンか ら首 都に移 すよ うに
命じた。
ゲ エリ ジ・カ ーン という クル ド人が 、国 王の命 令状 をホッ ジャ トに渡 す任 務をあ た
え られた 。一 方、バ ブは タブリ ズに 行く途 中で 、テヘ ラン 近郊に 到着 してい た。 国王
の使者がザンジャンに到着する前に、ホッジャトは友人を師(バブ)のところに送り、
バ ブを敵 の手 中から 救出 したい 旨を 伝えた 。バ ブは、 自分 を救出 でき るのは 、全 能の
神 だけで あり 、また 、だ れも神 の命 令を逃 れた り、そ の定 めを避 けた りする こと はで
き ないこ とを 確信さ せた 。そし て、 こう付 け加 えた。「ま もなく 、あ なたと わた しは、
来世の滅びざる栄光の館で会うようになっているのだ。」
こ のメ ッセー ジを 受け取 った 日に、 国王 の使者 がザ ンジャ ンに 到着し た。 ホッジ ャ
ト は国王 の命 令を知 らさ れ、使 者と 共にテ ヘラ ンに向 かっ た。二 人が テヘラ ンに 到着
したと同じころ、バブは、数日間引き止められていたコライン村を出発した。
政府当局は、バブとホッジャトが会えば、あらたな騒動が起こることを心配して、バブ
がザンジャンを通り過ぎるとき、ホッジャトがその町にいないように配慮していた。テヘ
ランに向かうホッジャトの後をかなり離れたところから追ってきていたかれの仲間たちに、
ホッジャトはザンジャンにもどってバブに会い、かれを救出する準備があることを告げる
ように指示した。仲間たちは、ザンジャンにもどる途中でバブに会った。バブは、再度、
だれも自分を監禁から救出しないように命じた。さらに、町の信者たちにこう伝えるよう
に指示した。つまり、自分のまわりに群がらないように、いやむしろ、どこにおいても自
分を避けるように命じたのである。バブを歓迎しようと町を出ていた信者たちに、この指
示が伝えられると、かれらは悲嘆にくれたが、バブを迎えたいという衝動を抑えることが
できず、バブの一行に向かって進んで行った。しかしかれらは、囚人(バブ)の前方を進
んでいた護衛隊に容赦なく解散させられた。(pp.534-535)
一行が道路の分岐点にきたとき、護衛隊長のベッグとその同僚との間に激論が起こった。
ベッグは、アゼルバエジャンへの旅をつづける前に、バブを町の隊商宿で一夜過ごさせる
べきだと主張した。その宿は、殉教したアリ・タビブの父マスムの所有であった。ベッグ
はさらに、町の門外で一夜を過ごすことは、敵の攻撃を受けやすくし、一行の生命を危機
にさらすことになると力説した。ついに、かれは同僚を説得し、バブを隊商宿に連行する
ことになった。その途中で、街路の家々の屋根に、囚人(バブ)の顔を一目見ようと群が
っている大勢の人びとを見て、護衛隊の一行はおどろいた。
宿 の所 有者で あっ たマス ムは 、最近 亡く なり、 長男 のアリ が、 父を弔 うた めにザ ン
ジ ャンに きて いた。 アリ はハマ ダン の著名 な医 師で、 信者 ではな かっ たが、 バブ を心
か ら敬愛 して いた。 そし て、バ ブを 前もっ て準 備して いた 宿に愛 情を 込めて 丁重 に迎
え 入れた 。そ の夜お そく までバ ブの 面前に いた かれは 、完 全にバ ブの 大業を 信じ る者
となった。
その後、わたし(著者)は、かれからつぎのように聞いた。「わたしがバブの信者と
な った夜 、夜 明けに 起き 上がり 、ラ ンタン を点 し、父 の従 者を前 にし て、隊 商宿 に向
か いまし た。 入り口 にい た守衛 は、 わたし を認 め、中 に入 らせて くれ ました 。バ ブの
面 前に案 内さ れたと き、 かれは 祈り のため の洗 浄を行 われ ていま した 。かれ が祈 りに
没 頭され るの を見て 、わ たしの 心は 深く動 かさ れまし た。 わたし はか れの後 ろに 立っ
て 祈りま した が、そ のと き敬虔 でよ ろこば しい 気持ち でい っぱい にな りまし た。 お茶
を 準備し てか れに差 し出 そうと した とき、 かれ はわた しの 方を向 き、 ハマダ ンに 向け
て 発つよ うに 命じら れま した。『こ の町で 大動 乱が起 こり 、街路 には 血が流 れよ う。』
そこで、バブの道に自分の血を流すことを念願していることを述べたところ、かれは、
自 分の殉 教の 時間は まだ 来てい ない ので、 神が 命じら れる ことに 身を 任せる よう に言
っ て、わ たし を安心 させ ました 。日 の出に 、バ ブが馬 に乗 り、出 発さ れよう とし てい
る とき、 随行 させて もら うよう に頼 んだと ころ 、それ はで きない が、 わたし のた めに
か ならず 祈っ ている と約 束して くれ ました 。わ たしは 、バ ブの意 思に 従いな がら も、
残念な思いで、その姿が見えなくなるまで見守っていました。」(pp.535-537)
テ ヘラ ンに着 いた ホッジ ャト は、総 理大 臣アガ シの ところ に案 内され た。 総理大 臣
は 国王に 代わ って、 ホッ ジャト の言 動が、 ザン ジャン の僧 侶たち の間 に強い 敵意 を起
こしていることに迷惑していると告げた。
「国王とわたしのところに、あなたに対する
非 難が押 し寄 せてき てい る。そ れも 口頭と 文書 で。あ なた が先祖 の宗 教を棄 てた とい
う 理由て 起訴 されて いる のを信 じる ことは でき ない。 国王 も、そ のよ うな主 張を 信じ
て おられ ない のだ。 国王 は、そ のよ うな起 訴に 対して 、論 ばくで きる ように あな たを
こ こに召 され たのだ 。国 王は、 あな たを召 す任 務をわ たし に命じ られ た。バ ブよ りも
は るかに 知識 と能力 にお いてす ぐれ ている と、 わたし が思 ってい るあ なたが 、バ ブの
教えを信じるようになったなどと聞くのは悲しいことだ。」これに、ホッジャトは答え
た 。「わ たし がバブ より すぐれ てい るなど とん でもな いこ とです 。神 はご存 知で すが、
バ ブが、 その 家でわ たし にもっ とも 卑しい 仕事 をあた えら れれば 、わ たしは それ を栄
誉 とみな しま す。そ れは 、国王 が付 与され る最 高の栄 誉も しのぐ こと ができ ない ほど
の もので す。」総理 大臣 は怒り 声を 上げた 。「 そんな こと は絶対 にあ り得な い! 」ホッ
ジャトはふたたび断言した。
「わたしはこう確信しています。シラズのセイエド(バブ)
は 、あな たご 自身と 、世 界のす べて の人び とが 、その 到来 を待望 して きた御 方な ので
す。この御方こそわれわれの主であり、約束された救世主なのです。」
総 理大 臣はこ の件 を国王 に報 告し、 自分 の懸念 を述 べた。 それ は、国 王自 ら全国 で
最 高の僧 侶と 信じて きた この恐 るべ き敵の 活動 を防が なけ れば、 国家 は重大 な危 機に
さ らされ るで あろう とい う心配 であ った。 国王 は、そ のよ うな報 告は 、ホッ ジャ トの
敵 の悪意 と羨 望によ るも のだと し、 それを 信じ ようと しな かった 。そ して、 特別 の会
合 を準備 し、 テヘラ ンの 僧侶た ちの 前で、 ホッ ジャト に自 分の立 場を 弁護さ せる よう
に命じた。(p.537)
そ こで 数回会 合が 開かれ た。 ホッジ ャト はすべ ての 会合で 、自 分の信 教の 基本的 な
教 えを雄 弁に 説明し 、反 対者た ちの 議論を 打ち 負かせ た。 かれは 、こ のよう に大 胆に
宣言したのである。
「シーア派とスンニ派の双方が認めているこの伝承『われは、あな
た 方に二 つの 証拠を 残す 。一つ は神 の書で 、も う一つ はわ が家族 であ る』と 。あ なた
方 の意見 では 、第二 番目 の証拠 は消 滅した ゆえ に、唯 一の 導きの 手段 は、聖 なる 書に
含 まれて いる 教えで ある という こと であり まし ょう。 そこ で、あ なた 方とわ たし が提
出 するす べて の主張 を、 聖典の 基準 にそっ て判 断する よう に願い ます 。その 聖典 にこ
そ最高の権威があり、それによりわれわれの議論の正しさが判断できるからです。」敵
た ちは、 自ら の主張 を守 れなく なり 、最後 の手 段とし て、 ホッジ ャト に、そ の主 張の
真実性を証明するために、奇蹟を示すように要請した。かれは声をあげて言った。
「わ
た しが、 だれ からの 援助 もなく 一人 で、議 論の 力だけ で、 テヘラ ンの 高僧と 僧侶 全員
の 総力に 、バ ブの援 助に より打 ち勝 ったと いう 奇蹟よ りも 大なる 奇蹟 があり まし ょう
か。」
ホ ッジ ャトが 、敵 たちの 根拠 のうす い要 求を見 事に 論ばく した ことに 、国 王は好 意
を もった 。そ れ以来 、国 王は、 ホッ ジャト の敵 たちの 巧み な提案 に左 右され なく なっ
た 。ザン ジャ ンの僧 侶た ち全員 とテ ヘラン の高 僧の多 くは 、ホッ ジャ トを異 端者 とみ
な し、死 刑の 宣告を 下し た。し かし 、国王 は、 かれに 好意 を示し つづ け、支 援を 約束
し た。総 理大 臣は心 中で は、ホ ッジ ャトを 心よ く思っ てい なかっ たが 、国王 のか れに
対 する愛 顧が あきら かで あった ので 、公に 反対 するこ とは できな かっ た。こ のず る賢
い 大臣は 、ホ ッジャ トの 家をひ んぱ んに訪 れ、 贈り物 を惜 しみな く与 えて、 心中 のう
らみとねたみを隠したのである。(pp.537-538)
ホ ッジ ャトは テヘ ラン内 に監 禁同様 とな った。 市の 門外に 出る ことも 、友 人と交 際
す ること もで きなく なっ た。故 郷の 信者た ちは 、代表 を送 って、 信教 で守る べき 法律
や 原則に つい てあら たな 指示を かれ から仰 ぐこ とにし た。 かれは 、バ ブから 受け 取っ
た 法律に 忠実 に守る よう に命じ た。 それら は、 バブの 大業 を調査 する ために 送っ た使
者 たちを 通し て受け 取っ たもの であ った。 かれ は、一 連の 法律を あげ たが、 その うち
いくつかはイスラム教の伝統から離れたものであった。そして皆を安心させるために、
つぎのように述べた。
「カゼム・ザンジャニは、シラズとエスファハンで、わたしの師
バ ブと親 密に 交わっ てき た。わ たし がバブ と会 見させ るた めに送 った エスカ ンダ ール
と マシュ ハド ・アー マド と同様 、か れもま た、 バブ自 ら信 者に命 じら れた法 律を 、身
を もって 守っ ている こと を明言 して いる。 した がって 、バ ブの支 持者 である われ われ
も、その高貴な模範に従わなければならない。」
こ れを 受け取 った 仲間た ちは すぐ、 ホッ ジャト の指 示に従 いた いとい う熱 望に燃 え
た 。そし て、 これま での 慣習を すて 、熱心 に新 しい時 代の 法律を 実施 しはじ めた 。幼
い 子供さ えも 、バブ の法 律を忠 実に 守るよ うに はげま され た。か れら は、つ ぎの よう
に述べるように教えられたのである。
「われわれの敬愛する師自ら、身をもってそれら
の 法律を 守っ ておら れる 。バブ の弟 子とい う特 権をも つわ れわれ も、 それら の法 律に
そって生活しようではないか。」
タ バル シ砦の 攻囲 の知ら せが とどい たと き、ホ ッジ ャトは まだ テヘラ ンに 監禁中 で
あ った。 かれ は、信 教の 解放の ため に、勇 敢に 戦って いる 仲間た ちと 運命を 共に した
い と熱望 した が、そ れが できな いこ とで嘆 いた 。当時 、か れの唯 一の なぐさ めは 、バ
ハ オラと の親 密な交 わり であっ た。 そのと きバ ハオラ から 与えら れた 精神力 で、 その
後 すばら しい 行為を 示し 、名を あげ たので ある 。その 行為 は、タ バル シ砦の 仲間 たち
が激烈な戦いで示した行為に劣らないものであった。
ホ ッジ ャトが テヘ ランに 滞在 中にモ ハメ ッド国 王が この世 を去 り、息 子の ナセル デ
ィ ン国王 が王 座につ いた 。新し い総 理大臣 (タ ギ・カ ーン )はホ ッジ ャトの 監禁 をい
っ そう厳 重に し、さ らに かれを 殺害 するこ とに したの であ る。命 に危 機がせ まっ てい
る ことを 知っ たホッ ジャ トは、 変装 してテ ヘラ ンを去 り、 かれの 帰り を待ち 望ん でい
た仲間たちと合流した。(pp.538-539)
ホ ッジ ャトの 帰郷 がカル ベラ ・ヴァ リに よって 仲間 たちに 知ら される と、 数多く の
賞 賛者た ちが 熱烈な 忠誠 心を示 しに きた。 男女 、子供 を問 わず、 群れ をなし て集 まっ
て きて、 かれ に対す る敬 愛心が 変わ らない もの である こと を証明 した のであ る。 ナセ
ル ディン 国王 の叔父 にあ たるザ ンジ ャンの 知事 は、住 民の 熱烈な 歓迎 にびっ くり し、
ど うする こと もでき ない 怒りか ら、 カルベ ラ・ ヴァリ の舌 をすぐ 切り 取るよ うに 命じ
た。この知事は、心中ではホッジャトをひじょうに嫌っていたが、表面では、友人で、
好 意を寄 せて いるよ うに みせか けた 。そし て、 しばし ばか れを訪 れ、 この上 ない 思い
や りを示 した が、実 際は ひそか にか れの命 を取 ろうと 陰謀 を企て 、実 行でき る瞬 間を
待っていたのである。
こ の心 の中で くす ぶって いた 敵意は 、あ るとる に足 らない 事件 で火炎 とな って燃 え
上 がった 。そ の事件 は、 ザンジ ャン の子供 二人 がとつ ぜん けんか した ことか ら起 こっ
た もので あっ た。子 供の 一人は 、ホ ッジャ トの 仲間の 親戚 であっ たの で、知 事は 、す
ぐ その子 供を とらえ 、厳 重に監 禁す るよう に命 じた。 信者 たちは 、子 供を釈 放し ても
ら おうと 、ま とまっ た金 を知事 に提 供した が、 かれは それ を拒否 した のであ る。 そこ
で 、かれ らは ホッジ ャト に不満 を訴 えたと ころ 、かれ は、 つぎの 断固 とした 異議 の申
し 立てを 知事 に送っ た。「あの 子供 は自分 の行 動の責 任を とれる 年令 ではあ りま せん。
罰する必要があるならば、子供ではなくて、父親が罰を受けるべきです。」(pp.540-541)
こ の訴 えが無 視さ れたの を知 ったホ ッジ ャトは 、ふ たたび 抗議 の手紙 を書 き、影 響
力 をもつ 友人 に託し 、知 事に直 接手 渡すよ うに 指示し た。 この友 人は メエル ・ジ ャリ
ル で、ア シュ ラフの 父親 で、信 教の ために 殉教 した人 であ る。知 事宅 の門衛 は、 最初
か れが中 に入 るのを 阻ん だ。こ れに 憤った かれ は、力 ずく で門を 突破 するぞ と剣 を抜
いて門衛をおどし、中に入って激怒している知事に強いて子供を釈放させた。
知 事が 、メエ ル・ ジャリ ルの 要求に 無条 件に従 った ことで 、僧 侶たち の怒 りはい っ
そ う激し いも のとな った 。かれ らは 猛烈に 抗議 し、知 事が 敵のお どし に従っ たこ とを
非 難した 。そ して、 自分 たちの 懸念 をこう 知事 に伝え た。 知事の 行動 で敵は 自信 をつ
け 、今後 より 大きな 要求 をし、 また 近い将 来、 権力を 得て 政府の 行政 から知 事を 追い
出 すこと にな るであ ろう と。つ いに 、かれ らは 、ホッ ジャ トの逮 捕を 知事に 同意 させ
る ことに 成功 した。 かれ らは、 この 逮捕で 、ホ ッジャ トの 影響が ひろ がるの を阻 止で
きると確信したのであった。
し かし 、知事 はし ぶしぶ 同意 したの であ った。 そこ で僧侶 たち は、ホ ッジ ャトの 逮
捕 によっ て町 の平和 と安 全がお びや かされ るこ とは絶 対な いと、 何度 も知事 を安 心さ
せ た。残 忍と 異常な 体力 で名う ての アサド ラと サファ ー・ アリの 二人 が、ホ ッジ ャト
を とらえ 、手 錠をつ けて 知事に 引き 渡す仕 事を 申し出 た。 その仕 事の ため二 人に 相当
な 報酬が 約束 された 。そ こで、 二人 は武装 し、 頭には ヘル メット を着 け、堕 落し た下
層 階級か ら集 めた悪 党の 一団を 引き 連れて 出発 した。 僧侶 たちは 、そ の間、 住民 をそ
そのかし、その一団の仕事を手伝うように激励した。(pp.541-542)
悪 党の 一団が 、ホ ッジャ トの 居住し てい る屋敷 に着 いたと たん 、ホッ ジャ トの強 力
な 支持者 であ るミー ル・ サラー がと つぜん 、か れらに 立ち 向かっ た。 かれと 七人 の武
装した仲間は、一団が中に入るのを懸命に阻んだ。かれは、アサドラに、
「どこに行こ
うとしているのか。」と聞いた。これにアサドラが侮辱的な答えをしたため、かれは剣
を抜き、
「この時代の主なる御方よ!」と叫びながらアサドラに飛びかかり、からの額
を 切った 。一 団は武 装で 身を固 めて いたが 、メ ール・ サラ ーの大 胆不 敵な行 動に おび
え、ちりじりになって逃げ去った。
こ の勇 ましい 信教 の擁護 者た ちが、 その 日にあ げた 叫びは 、ザ ンジャ ンで 最初に 聞
か れたも ので あった 。そ の叫び で町 中にパ ニッ クがひ ろが った。 知事 は、そ のす さま
じ い勢い にお びえ、 その 叫びが どん な意味 をも つのか 、そ して、 だれ がそれ ほど の強
力 な声を 出せ るのか 、と 聞いた 。そ れが、 ホッ ジャト の仲 間の合 言葉 であり 、困 難時
にガエム(バブ)に援助を求める叫びであると聞かされて、知事は強い衝撃を受けた。
間 もな くして 、悪 党の残 りが 、タブ ・チ ーとい う男 に出く わし た。か れら は、か れ
が ホッジ ャト の有能 な仲 間で、 武器 をたず さえ ていな いこ とを知 ると すぐ、 かれ の頭
を 斧で打 った 。そし て、 知事の とこ ろに運 び、 地面に おろ すやい なや 、そこ に居 合せ
たザンジャンの高僧アボル・ガゼムが飛び出してきて、小刀でかれの胸を突き刺した。
さ らに、 知事 も剣を 抜い て口を 刺し 、つづ いて 従者た ちが めいめ いも ってい た武 器で
襲 いかか り、 この不 運な 犠牲者 のと どめを さし たので ある 。タブ ・チ ーは、 襲わ れて
いる間、苦痛に気をかけることなく、つぎの言葉を口にしていた。
「おおわが神よ。殉
教の冠をわたしに与えて下さったことに感謝いたします。」かれは、ザンジャンの信者
で 、大業 の道 で命を ささ げた最 初の 人であ った 。かれ の死 は、一 八五 〇年五 月一 六日
で、ヴァヒドの殉教日の四十五日前、バブの殉教の五十五日前であった。(pp.542-543)
こ の日 に流さ れた 血で、 敵の 敵意が しず まるど ころ か、そ の情 念はい っそ う燃え 上
が り、仲 間の 残りを 同じ 運命に あわ せる決 意を 固めた 。そ して、 知事 の黙認 に自 信を
つ け、政 府の 役人か ら正 式の許 可を 受けず に、 捕らえ た者 をすべ て死 刑に処 する こと
にしたのである。さらに、恥知らずの異端の火炎を消すまでは休まないようにしよう、
と お互い にま じめく さっ て約束 し合 った。 そし て知事 に、 触れ役 に命 じて、 ザン ジャ
ンの町中に、つぎの布告するようにせまった。
「自分の命を危機にさらし、財産を失い、
妻 と子供 をみ じめな 境遇 に落と して 恥をか かせ たい者 は、 ホッジ ャト および その 仲間
と 運命を 共に せよ。 自ら と家族 の幸 福と栄 誉を 守りた い者 は、ホ ッジ ャトの 仲間 が住
む近辺から離れ、国王の保護を求めよ。」
こ の警 告のあ とす ぐ、住 民は 二つの 陣営 に分か れた 。大業 への 献身を ため らって い
た 者たち の信 仰がき びし く試さ れ、 また、 痛ま しい光 景も 生じて きた 。父親 は息 子か
ら 引き離 され 、兄弟 間と 親族間 は仲 たがい した のであ る。 その日 、こ の世の 愛情 のき
ず なはす べて 消えた よう に見え 、よ り強大 で、 より神 聖な 忠誠の ため に、現 世へ の愛
着 は断ち 切ら れたよ うで あった 。ザ ンジャ ンは 興奮の るつ ぼとな り、 裂かれ た家 族の
メ ンバー が絶 望して 天に 向かっ て出 す苦し い叫 び声と 、敵 がかれ らに 向かっ てあ びせ
る 悪態の 叫び 声が交 錯し た。家 族や 親族か ら身 を引き 離し 、ホッ ジャ トの大 業の 支持
者となった者たちが呼びかける歓喜の叫びが、いたるところで聞かれた。敵の陣営は、
ひ そかに 決意 してい た大 闘争の 準備 で大わ らわ であっ た。 知事の 命令 と、知 事を 支持
する高僧や名士や僧侶たちの要請で、近隣の村々から増援隊が急遽送られてきた。
(pp.543-544)
大 騒ぎ になっ てき たにも かか わらず 、ホ ッジャ トは 説教壇 にの ぼり、 高ら かに会 衆
に呼びかけた。
「今日、全能者の御手は、真理を誤りから離し、教導の光と誤りの暗黒
を 分けら れた 。わた しの ために 、皆 が傷つ けら れるの は不 本意で ある 。知事 と僧 侶た
ち の意図 は、 わたし を捕 らえ、 殺害 するこ とに ある。 その ほかの 野心 はいだ いて いな
い 。わた しの 血だけ を渇 望して いる のだ。 皆の 中で、 切迫 してき た危 機から 自分 の命
を 少しで も守 りたい と思 ってい る者 、この 大業 のため に命 をささ げた くない 者は 、時
間があるうちに、この場所を離れ、故里に帰るがよい。」(p.544)
その日、知事は、ザンジャンの近隣の村々から三千人以上の男たちを集めた。一方、
ミ ール・ サラ ーとそ の仲 間たち は、 敵が不 穏に なって きた のを見 て、 ホッジ ャト のと
ころに行き、予防手段として、アリ・マルダン・カーンの砦に移るように強く勧めた。
そ の砦は 、ホ ッジャ トが 居住し てい る場所 に隣 接して いた 。ホッ ジャ トはそ の勧 めに
同 意し、 女子 供と必 需品 をその 砦に 移すよ うに 命じた 。そ の砦に は住 人がい たが 、説
得 して引 き渡 しても らい 、その 代償 として 、自 分たち が住 んでい た何 軒かの 家屋 を与
えた。
そ の間 、敵は 大攻 撃の準 備を してい た。 そして 、一 部隊が ホッ ジャト の仲 間たち が
造 ったバ リケ ードの 向か って発 砲す るとす ぐ、 格別の 勇気 をもつ ミー ル・レ ザが 、ホ
ッ ジャト に聞 いた。 知事 を捕ら え、 砦の囚 人と してホ ッジ ャトの とこ ろに連 れて 来て
も よいか と。 ホッジ ャト は、そ の要 請に応 ぜず 、命を 危険 にさら さな いよう にと 忠告
した。(pp.544-545)
知 事は 、ミー ル・ レザの 意図 を知っ て恐 怖感に おそ われ、 即刻 ザンジ ャン を離れ る
こ とにし た。 しかし 、名 士の一 人の 説得に より 、それ を断 念した 。知 事が去 れば 、大
騒 動とな り、 恥をか くこ とにな ろう と説得 した のであ る。 その名 士は 、自分 の真 剣さ
を 示すた めに 、自ら 砦の 一団に 向か って攻 撃を するこ とに した。 攻撃 の合図 を出 し、
三 十名か らな る一団 の先 頭に立 って 行進し はじ めたと き、 とつぜ ん、 こちら の方 に、
剣 を抜い て進 んでき てい る二人 の敵 (ホッ ジャ トの仲 間) に出会 った 。名士 は、 この
二 人が自 分に 襲いか かる ものと 思い 込み、 仲間 の一団 と共 に、パ ニッ クにお そわ れ、
自 宅に逃 げも どった 。そ して、 知事 にあた えた 説得も 忘れ て、一 日中 自室に 閉じ こも
っ た。残 りの 者たち も、 すぐ分 散し 、攻撃 をあ きらめ た。 後で、 かれ らは知 った が、
途 中で出 会っ たこの 二人 は、攻 撃の 意図は まっ たくな く、 ある任 務を 果たす ため に出
かける途中であったのである。
こ の不 面目な 事件 のあと すぐ 、知事 の支 持者た ちは 、同じ よう な攻撃 をし かけて き
た が、ど の攻 撃も失 敗に 終わっ た。 砦に攻 撃を しかけ る度 に、ホ ッジ ャトは 三千 人の
仲 間の何 人か に命じ て、 敵を敗 走さ せたの であ る。攻 撃の 命令を 出す とき、 ホッ ジャ
ト はかな らず 、敵の 血を 不必要 に流 しては なら ないと 、仲 間たち に警 告した 。す なわ
ち 、これ は防 衛の戦 いで あり、 唯一 の目的 は、 女子供 の安 全を守 るこ とであ るこ とを
忘 れては なら ないと 言い つづけ たの である 。「 われわ れは 、いか なる 状況に おい ても、
不 信心者 に対 して聖 戦を しかけ ては ならな いと 命じら れて いる。 かれ らがど のよ うな
態度とってもだ。」(pp.545-546)
こ の状 態は、 政府 軍の将 軍サ ドロッ ド・ ダオレ が、 総理大 臣の 命令で 二連 隊を引 き
連れてザンジャンに到着するまでつづいた。総理大臣はかれに、予定の旅行を中止し、
す ぐザン ジャ ンに向 かい 、そこ で、 政府が 召集 した軍 隊の 援助を する ように と命 じた
のである。さらに、その命令書にはこう書かれていた。
「国王は、ザンジャンとその周
辺で騒動を起こしている一団を鎮圧する任務を授けられた。その一団の野望をつぶし、
そ の勢力 を全 滅する 特権 を付与 され た。こ の緊 急時に あた って、 あな たの重 要な 奉仕
は国民の賞賛と尊敬だけでなく、国王の最高の愛顧を勝ち得ることになろう。」(p.547)
こ の励 ましの 命令 に、野 心家 の将軍 は奮 起した 。即 刻、二 連隊 の先頭 に立 ってザ ン
ジ ャンに 進行 し、知 事か ら任さ れた 軍力を 編成 し、砦 とそ の一団 に向 かって 一斉 攻撃
を 命じた 。砦 周囲の 戦い は三日 三晩 つづい た。 包囲さ れた 仲間の 一団 は、ホ ッジ ャト
の 指揮下 で、 敵の猛 攻撃 に大胆 不敵 に耐え 抜い た。敵 の圧 倒的な 軍勢 も、す ぐれ た武
器 も訓練 もこ の勇敢 な仲 間たち を無 条件降 伏さ せるこ とは できな かっ た。大 砲か ら矢
継 ぎ早に 発射 される 砲火 にも思 いと どまる こと なく、 睡眠 も空腹 も忘 れ、危 険に も気
を 止めず 、砦 から飛 び出 して突 撃し た。敵 のの ろいの 言葉 に、か れら は「こ の時 代の
主 なる御 方よ !」と 大声 で応じ 、そ の祈願 の言 葉にわ れを 忘れ、 敵に 突進し 、軍 勢を
追い払ったのであった。
敵 はひ んぱん に攻 撃をし かけ てきた が、 その度 、砦 の一団 の反 撃で敗 北さ せられ た
た め、敵 軍は 士気を 失い 、戦っ ても むだだ と思 いはじ めた 。決定 的な 勝利を 得る こと
は できな いこ とを認 めた のであ る。 将軍自 らも 、九ヵ 月間 の持続 戦で 、自ら 引き 連れ
て きた二 連隊 のうち 、残 ったの は三 十名ば かり の負傷 した 兵士だ けに なった のを 告白
せ ざるを 得な かった 。つ いに将 軍は 、屈辱 を感 じなが らも 、砦の 一団 の精神 をひ るま
せ ること がで きない こと を認め ざる を得な かっ た。国 王は 、将軍 をき びしく 叱責 し、
左遷した。こうして将軍が抱いてきた念願は、この敗北で完全にくじかれたのである。
(pp.547-548)
こ の無 残な敗 北に 、ザン ジャ ンの住 民は 狼狽し た。 この敗 北の あと、 勝つ 望みの な
い 戦いに 命を かける 者は ほとん どい なかっ た。 戦いを 強い られた 者だ けが、 砦の 一団
に あらた な攻 撃をし かけ てきた が、 その主 力は 、テヘ ラン から引 きつ づき派 遣さ れて
き た連隊 であ った。 町の 住民、 とく に商人 たち は、大 勢の 兵士た ちの 到来で 多い に利
益 を受け た。 一方、 ホッ ジャト の仲 間たち は、 砦内で 必需 品の欠 乏で 苦しん だ。 かれ
ら の備え はた ちまち なく なった から である 。食 糧を手 に入 れるた めに は、外 部の 女た
ち が、い ろい ろな口 実を 使って 、ひ そかに 持ち 込んで きた ものを 、法 外な値 段で 購入
するしかなかった。
砦 の一 団は、 空腹 に苦し み、 敵がと つぜ んしか けて くる猛 攻撃 でなや まさ れなが ら
も、一瞬もひるむことなく、砦の防御にあたった。どれほどの苦難がふりかかっても、
一 団は希 望を もちつ づけ 、二十 八の バリケ ード を造っ た。 各バリ ケー ドは、 十九 人か
ら なるグ ルー プに任 され た。さ らに 、別の 十九 人がそ れぞ れのバ リケ ードの 見張 りと
して配置され、敵の動きを見守り、報告する役目をもった。
一 団は 、砦近 くに 来た敵 の触 れ役の 声で しばし ばお どろか され た。触 れ役 は、一 団
に 、ホッ ジャ トとそ の大 業をす てる ように 呼び かけた 。「 知事と 司令 官は、 皆の うち、
砦 と信仰 をす てる者 をす べて許 し、 安全に 家に 帰れる よう に保証 する 。その 者は 国王
か らも十 分な 報酬を 受け よう。 もろ もろの 褒美 のほか 、高 い地位 も授 けられ よう 。国
王もその代理も、この約束を破ることはないと誓われた。」一団は皆口をそろえて、こ
の呼びかけをさげずみ、それに従う意志はまったくないことを知らせた。(p.549)
こ の事 件で示 され た砦の 勇敢 な一団 の超 脱心は 、さ らに、 村の 若い女 性の 行動に よ
っ ても証 明さ れた。 この 女性は 、自 ら進ん で、 砦内の 女性 ・子供 たち と運命 を共 にす
る ために 一団 に加わ って きたの であ る。女 性の 名前は ザイ ナブで 、ザ ンジャ ン近 くの
小村出身であった。顔立ちのととのった美しいこの女性は、崇高な信仰心で燃え立ち、
また恐れ知らずの勇気をそなえていた。一団の男性たちが苦難に耐えているのを見て、
自 ら男に 変装 して、 共に 敵を撃 退し たいと いう 抑えが たい 願望を もっ た。そ こで 、髪
を 短く切 り、 頭も身 体も 男性の 仲間 と同じ よう な格好 をし 、剣を 腰に つけ、 小銃 と楯
を もって 、男 性の仲 間た ちに自 己紹 介した 。ザ イナブ がバ リケー ドの 後方に すば やく
身 を置い たと き、だ れも かの女 が女 性であ るこ とに気 づか なかっ た。 敵が攻 撃を しか
けてくるやいなや、かの女は剣を抜き、
「この時代の主なる御方よ!」と叫び、おどろ
く べき大 胆さ で、敵 に向 かった 。そ の日、 かの 女が見 せた すばら しい 勇気と 技能 に、
敵 も味方 も感 嘆した 。敵 は、か の女 を、怒 った 神が、 自分 たちに 投げ かけた のろ いだ
と 思った 。絶 望感に おそ われた 敵は 、バリ ケー ドを捨 て、 かの女 の面 前から 逃走 して
いった。
砦 の小 塔から 敵の 動きを 見守 ってい たホ ッジャ トは 、ザイ ナブ の姿を 認め 、その 勇
敢な行動に驚嘆した。かの女は敵を追跡しはじめていたが、ホッジャトは、男たちに、
か の女を 砦に もどさ せる ように 命じ た。そ して 、かの 女め がけて 飛ん でくる 敵の 砲弾
の中を突撃する姿を見て、ホッジャトはこのように言った。
「これほどの活力と勇気を
示した者はいない。」
ホ ッジ ャトは かの 女に、 女性 であり なが ら、な ぜ戦 いに出 たの かを聞 いた 。かの 女
わっと泣き出し、こう答えた。
「仲間たちの苦労を見て、わたしの心は悲痛な思いでい
っ ぱいに なっ たので す。 衝動を 抑え きれず 、行 動に出 まし た。男 性の 仲間と 運命 を共
にするのを、あなたは許してくれないと思ったからです。」ホッジャトは質問した。
「あ
な たは、 たし かに、 砦の 一団に 進ん で加わ って きた同 じザ イナブ だな 。」「そうで す。
わ たしは 確信 してい ます が、こ れま でだれ もわ たしが 女性 である こと に気づ いた 者は
い ません 。あ なただ けで す。バ ブに 誓って お願 いいた しま す。一 生の 望みで ある 殉教
の冠を獲得する恩恵を取り上げないで下さい。」(pp.550)
ホ ッジ ャトは 、こ の訴え の語 調と態 度に 深く感 動し た。そ こで 、かの 女の 魂の動 揺
を しずめ 、か の女の ため に祈り をさ さげる こと を約束 し、 かの女 に、 ロスタ ム・ アリ
と いう名 をあ たえた 。こ れは、 かの 女の気 高い 勇気を しる しであ った 。そし て、 こう
述べた。
「『今は復活の日で、秘密がすべて発見されるときである。』
(コーラン)神は、
男 であれ 、女 であれ 、そ の外面 の姿 ではな く、 信仰の 質と 生活態 度で 、人間 を判 断さ
れ るのだ 。あ なたは まだ 若く、 経験 もあま りな いが、 大変 な活力 と技 能を示 した 。そ
れよりすぐれる男性はほとんどいないほどだ。」こう言ってホッジャトはかの女の願い
を聞き入れ、信教が定めた教えを守るように警告した。
「われわれは、不実な敵の攻撃
か ら自分 たち を守る よう に命じ られ ている 。し かし、 相手 に聖戦 をし かけて はな らな
いのだ。」
五 ヵ月 間、ザ イナ ブは敵 の勢 力に、 だれ も匹敵 でき ないほ どの 武勇で 対抗 した。 睡
眠 も空腹 も忘 れて、 愛す る大業 のた めに、 真剣 に戦っ たの である 。そ の見事 な剛 勇さ
は 、迷っ てい た者た ちに 勇気を あた え、各 人が 果たす べき 義務を 思い 起こさ せた 。そ
の期間ずっと、かの女は剣をはなすことはなかった。短時間睡眠できたが、その間も、
剣 に頭を おき 、盾で 身体 を守っ た。 仲間は めい めい特 定の 場所に 配置 され、 そこ で防
御 にあた るよ うに指 示さ れてい たが 、かの 女だ けは、 自由 に動き 回る ことが でき た。
ザ イナブ はつ ねに、 戦い の真っ 只中 に身を おい て、と くに 攻撃の 激し い場所 に駆 けつ
け 、その 部署 の仲間 を激 励し、 支援 した。 かの 女の死 が近 づいて きた ころ、 敵は 、か
の 女が女 性で あるこ とに 気がつ いた が、か の女 が接近 して くると 恐れ でふる えた 。そ
のかん高い叫び声を聞いただけで、肝をつぶし、勝つ望みを失ったのである。(p.552)
あ る日 、ザイ ナブ は、仲 間が とつぜ ん敵 軍に包 囲さ れたの を見 て心を 痛め 、ホッ ジ
ャトのところに駈けつけた。その足下にひざまずき、涙ながらにこん願した。
「仲間の
援 助に行 かせ て下さ い。 わたし の命 は終わ りに 近づい てい ると感 じま す。敵 の剣 で命
を 落とし たい のです 。わ たしの 罪を お許し 下さ い。そ して 、師( バブ )にも わた しの
罪 を許し て下 さるよ うに お願い して 下さい 。師 のため に、 わたし の命 をささ げた いの
です。」
ホ ッジ ャトは 、胸 がいっ ぱい になり 返事 に困っ た。 ザイナ ブは 、その 沈黙 を承諾 の
し るしだ と解 釈して 、門 から飛 び出 し、す でに 多数の 仲間 たちを 殺害 した敵 の攻 撃を
阻 止する ため に、「 この 時代の 主な る御方 よ! 」と七 回叫 んだ。 そし て、「 なぜ 、皆は
こ んな行 動で 、イス ラム 教の名 声を 汚そう とす るので すか !
皆 が 真 理を語 る者 であ
れ ば、な ぜ、 われわ れの 面前か ら意 気地な く敗 走する ので すか! 」と 叫びな がら 、敵
に 向かっ て突 進した 。敵 の三つ のバ リケー ドを つぎか らつ ぎへと 破壊 し、四 つ目 のバ
リ ケード を倒 そうと して いたと き、 雨のよ うに 降って きた 弾丸に あた り、即 死し た。
敵 の中に は、 ザイナ ブの 純潔さ をう たがう 者も 、その 信仰 の崇高 さと 不朽の 品性 を無
視 する者 もい なかっ た。 このす ばら しい献 身の おかげ で、 かの女 の死 後、か の女 の知
り 合い二 十名 の女性 がバ ブの信 者と なった 。こ れらの 女性 たちに とっ て、ザ イナ ブは
も はや昔 の農 家の娘 では なくな って いた。 かの 女は、 人間 行為の 高貴 な原則 を体 現し
た者、強い信仰のみが生み出し得る精神を体現した者となっていたのである。(p.552)
あ ると き、ホ ッジ ャトは 使い の者を 通し て、バ リケ ードを 守っ ている 仲間 たちに 指
示 を出し た。 それは 、バ ブが信 者に 命じた 祈願 の言葉 をく り返す こと であっ た。 つま
り、各祈願の言葉、
「神は偉大なり!」、
「神は最大なり!」、
「神は最高の美なり!」、
「神
は 全栄光 者な り!」、「神 は最も 純粋 なり! 」を 十九回 ずつ 唱える よう に指示 され たの
である。この指示を受けたその夜、バリケードの防御者たちは皆一斉に大声で唱えた。
そ の声の あま りの強 烈さ に、敵 はと つぜん 目を さまし 、恐 れて宿 営地 をすて 、知 事宅
の 方向に 逃げ 、その 近く の家々 に避 難した 。少 数の者 は、 恐怖の あま り突然 死し た。
か なりの 数の ザンジ ャン 住民は パニ ックに 襲わ れ、隣 の村 に逃げ た。 多数の 者は 、そ
の 大きな 叫び 声は審 判の 日を告 げる しるし だと 信じた 。ほ かの者 たち は、ホ ッジ ャト
の陣地から、これまで以上に激しい攻撃がしかけられてくる前触れだと感じた。
(pp.552-553)
仲 間が 出した とつ ぜんの 祈願 の声が 、敵 の間に もた らした 恐怖 を知ら され たとき 、
ホッジャトはつぎのように述べた。
「この卑怯な悪党に聖戦をしかける許しを師から受
け ていれ ばど うなっ たで あろう か。 しかし 、師 は、人 びと の心に 、慈 善と愛 の高 貴な
原 則を教 え込 み、不 必要 な暴力 をす べてや める ように 命じ られた 。わ たしと 仲間 の目
的は、国王に忠誠をつくし、国民の幸福を願うことであり、将来もそうである。もし、
ザ ンジャ ンの 僧侶た ちの 例に習 えば 、わた しも 一生涯 、住 民から 卑屈 な敬慕 を受 ける
者 となっ てい たであ ろう 。わた しは 、バブ の大 業に対 する 不朽の 忠誠 を、こ の世 で得
られるすべての宝物や栄誉と引き換えるようなことは一切ない。」
その夜の出来事は、畏敬と恐れを感じた人びとの心に今でも残っている。わたし(著
者 )は、 目撃 者数人 が、 敵の陣 地に 起こっ た騒 動と混 乱、 それと 砦を 満たし た敬 虔な
雰 囲気と の違 いを熱 心に 語るの を聞 いた。 砦の 仲間は 、神 の御名 を唱 え、そ の導 きと
慈 悲を祈 って いたが 、一 方敵の 将校 や兵士 は、 恥ずべ き酒 色にふ けっ ていた 。砦 の一
団 は疲れ 切っ ていた が、 徹夜で 、バ ブが指 示し た賛美 の言 葉をく り返 し唱え た。 同じ
時間に、敵の陣地から騒々しい笑い声とのろいと冒涜の言葉がひびいてきた。これが、
双 方陣地 の状 況であ った のであ る。 そして 、そ の夜、 祈願 の声が とつ ぜん鳴 りひ びい
て きたと き、 放縦な 士官 たちは 、そ の大音 響に 肝をつ ぶし 、手に して いたワ イン グラ
ス を地面 に落 とし、 裸足 のまま 大急 ぎで飛 び出 してき た。 その混 乱の 中で、 賭博 のテ
ーブルはひっくり返された。多数の者が、衣服も十分身につけず、頭にも何もつけず、
荒 野に逃 げ込 んだ。 ほか の者ら は、 僧侶た ちの 家に逃 げ込 み、睡 眠中 のかれ らを 起こ
し た。驚 愕と 恐れに 駆ら れたか れら は、こ の大 混乱は おま えたち が起 したの だと 、相
互にはげしく非難しはじめたのである。 (pp.553-554)
そ のう ち敵は 、そ の大き な叫 び声の 目的 を知っ て安 心し、 すぐ 自分た ちの 持ち場 に
も どって きた 。もち ろん 、この 出来 事で大 いに 恥をか かさ れたの であ るが。 将校 は、
兵 士たち を待 ち伏せ させ 、ふた たび 、叫び 声が 聞こえ てく れば、 その 方向に 向か って
射 撃する よう に命じ た。 このよ うに して、 毎夜 、敵は ホッ ジャト の仲 間を何 人か 殺害
す ること がで きた。 しか し、仲 間を 失って も残 った者 らは 、同じ 熱意 で、危 険を 無視
し て、祈 願の 言葉を 大声 で唱え つづ けた。 仲間 の人数 は減 少して いっ たが、 祈願 の声
は ますま す強 大とな り、 切迫感 もま してい った 。差し 迫っ た死に 直面 しても 、勇 敢な
砦 の防御 者た ちは祈 願を やめる こと はなか った 。祈願 によ り、最 愛な る御方 を強 烈に
思い起こすことができたからである。
ま だ激 戦がつ づい ていた 最中 、ホッ ジャ トはナ セル ディン 国王 に書簡 を送 った。 そ
れにはこう書かれていた。
「陛下の臣下たちは、あなたをこの国の統治者であり、かれ
ら の信教 の保 護者で ある と思っ てお ります 。か れらは 正義 を求め てお ります 。あ なた
は 、かれ らの 権利を 守っ てくれ る最 高の擁 護者 だとみ なし ており ます 。われ われ が争
っ ている のは 、主に ザン ジャン の僧 侶たち とだ けで、 決し てあな たの 政府と 国民 が関
わ るよう なも のでは あり ません 。前 国王は 、わ たしを テヘ ランに 召さ れ、わ たし の信
教 の基本 的な 教えを 説明 するよ うに 要請さ れま した。 前国 王は、 その 説明に 十分 満足
され、わたしの努力を大いに褒められました。わたしは故郷にもどることをあきらめ、
テ ヘラン に住 むこと にし ました 。そ れは、 わた しに対 する 怒りを しず め、扇 動者 たち
が 点した 火を 消すた めで 、ほか の意 図はま った くあり ませ んでし た。 自由に 故郷 にも
ど れたの です が、国 王の 公明正 大さ に頼っ て、 テヘラ ンに 残るこ とを 選んだ ので す。
あなたが統治されはじめたころ、それはマザンデランで動乱が起きていたころですが、
総 理大臣 は、 わたし を反 逆罪で 処刑 しよう とし ていま した 。テヘ ラン ではだ れも わた
しを保護できないことがわかり、自己防衛のため、ザンジャンに逃げました。そこで、
イ スラム 教の 発展に つく しまし たが 、知事 がわ たしに 反対 しはじ めま した。 わた しは
数 回にわ たっ て、か れに 中庸と 公正 を守る よう に要請 しま したが 、拒 否され まし た。
さ らに、 ザン ジャン の僧 侶たち にそ そのか され 、また 、か れらの お世 辞に自 信を つけ
て 、わた しを 逮捕し よう とした ので す。そ れは 、わた しの 友人た ちの 介入で 阻止 され
ま したが 、住 民を扇 動し て、わ たし に敵対 させ ようと しま した。 その 結果、 住民 は立
ち あがり 、現 在の混 乱と なった ので す。陛 下は 、これ まで 、残虐 行為 の犠牲 者で ある
わ れわれ に援 助の手 を差 しのば すこ とを控 えて こられ まし た。敵 は、 われわ れの 大業
は 、王座 の転 覆を企 てて いると さえ 主張し てい ます。 われ われが その ような 意図 をい
だ いてい ない ことは 、公 正な目 をも つ者に は明 らかで す。 われわ れの 唯一の 目的 は、
陛 下の政 府と 人民の 利益 を推進 する ことだ けで す。わ たし と主な 仲間 は、陛 下と 反対
者 たちの 面前 で、わ れわ れの大 業が 安全な もの である こと を証明 する ために 、テ ヘラ
ンに向かう準備ができております。」
ホッジャトは、この嘆願書だけでは満足せず、ほかの主な仲間にも、同様な嘆願書を出
すように命じ、その中でとくに正義をもって対処してくれることを強調するように指示し
た。使者が、それらの嘆願書をもってテヘランに出発した直後、かれは逮捕され、知事の
面前に連れ出された。激怒した知事は、使者をすぐ処刑するように命じた。そして、嘆願
書をすべて破り捨て、その代わりに、国王にあてて暴言と侮辱の言葉であふれた手紙を書
き、ホッジャトと仲間たちの署名をつけ、テヘランに送ったのである。国王は、それらの
無礼な嘆願書に目を通したあと、大いに憤慨し、装備した二連隊を即刻ザンジャンに送り、
ホッジャトの支持者は一人残らず全滅させるよう命じた。(pp.554-555)
そ の間 、砦で 困難 に陥っ てい る仲間 に、 バブの 殉教 の知ら せが きた。 それ は、バ ブ
の 秘書ホ セイ ン・ヤ ズデ ィの弟 がア ゼルバ エジ ャンか らカ ズビン に行 く途中 でも たら
し たもの であ った。 それ は敵の 間に もひろ がり 、かれ らは 気が狂 った ように よろ こん
だ。そして、砦に急ぎ、バブの信者たちの努力をあざけり、ののしった。「今後、お前
た ちは何 のた めに身 を犠 牲にす るつ もりだ 。お 前たち が命 をささ げた いと望 む者 自ら
敵 の弾丸 に倒 れたで はな いか。 その 遺体さ えも 敵にも 友人 にもわ から なくな って いる
のだ。一語だけで、悲しみから解放されるのに、なぜ頑固でありつづけるのか。」かれ
ら は、バ ブを 失って 悲嘆 してい る者 たちの 信念 をゆる がそ うとし たが 、どの 試み にも
失 敗した 。一 番信念 の弱 い者に さえ 、砦を 捨て させる こと も、信 仰を 否定さ せる こと
もできなかったのである。
一 方、 総理大 臣は 、ザン ジャ ンに増 援隊 を送る よう に国王 に強 く要請 して いた。 つ
いに、モハメッド・カーンが、多量の軍需品を装備した五連隊を率いて、砦を破壊し、
その中の全員を全滅するように命じられた。
二 十日 間戦い が中 止され た。 その間 、軍 用地域 に行 く途中 のア ジズ・ カー ンとい う
将 軍が、 ザン ジャン に着 いた。 この 将軍は 、宿 の主人 アリ ・カー ンを 通して 、ホ ッジ
ャ トと連 絡を 取るこ とが できた 。ア リ・カ ーン は、ホ ッジ ャトと の感 動的な 会見 の状
況と、砦の一団の意図と訴えについて、将軍に十分な情報をあたえた。ホッジャトは、
アリ・カーンにこのように語ったのである。
「政府当局が、わたしの訴えを退けられる
な らば、 許可 を得て 、家 族と共 に国 外に移 る準 備があ りま す。し かし 、この 要請 まで
も 拒否さ れ、 攻撃を つづ けられ るな らば、 われ われも やむ を得ず 自己 防衛に 立ち 上が
らなければなりません。」これを聞いた将軍は、アリ・カーンに、この問題がすばやく
解 決でき るよ うに、 全力 をつく して 当局を 説得 するつ もり でいる と約 束した 。ア リ・
カ ーンが 去る やいな や、 総理大 臣の 従者が 現わ れ、将 軍を 逮捕し てテ ヘラン に連 行し
た 。将軍 は恐 怖感に 襲わ れ、自 分に かかっ た嫌 疑をは らす ために 、そ の従者 の前 で、
ホ ッジャ トを ののし り、 非難し はじ めた。 こう して、 将軍 は、自 分の 命をお びや かし
ていた危機を避けることができたのであった。(pp.556-557)
司 令官 モハメ ッド ・カー ンの 率いる 大連 隊の到 着は 、それ まで に見ら れな かった 規
模 の戦い がザ ンジャ ンで はじま る合 図とな った 。騎兵 隊と 歩兵隊 から なる十 七の 連隊
が 、司令 官の 指揮の もと に勢ぞ ろい した。 十四 個の大 砲が 砦に向 けて 配置さ れた 。司
令官が近隣から集めた五連隊が増援隊として訓練されていた。司令官は、到着した夜、
攻 撃再開 の合 図とし てラ ッパを 鳴ら すよう に命 じた。 大砲 隊は、 すぐ 砦に向 けて 発砲
す るよう に命 じられ た。 そのと どろ きは、 三十 キロメ ート ル離れ たと ころま では っき
り と聞こ えた 。ほと んど 同時に 、ホ ッジャ トは 仲間に 、自 製の二 つの 大砲を 使用 する
よ うに命 じ、 一つは 、司 令官の 本部 を眼下 に見 下ろせ る高 い場所 に移 させた 。そ の大
砲 の砲弾 は、 司令官 のテ ントに 的中 し、軍 馬に 致命傷 を負 わせた 。一 方、敵 は、 砦に
向かって猛攻撃をかけ、多数の仲間を殺害した。(pp.557-558)
し かし 、何日 か過 ぎるう ちに 、司令 官の 指揮下 にあ る軍勢 は、 その数 、軍 備、訓 練
に おいて はる かにす ぐれ ていた にも かかわ らず 、望ん でい たよう な勝 利を得 るこ とが
で きない こと がます ます 明らか にな った。 敵の 将官の 一人 ファル ロッ ク・カ ーン が戦
死 したが 、か れは、 ヤー ヤ・カ ーン の息子 で、 ソレイ マン ・カー ンの 弟であ った 。こ
れ に総理 大臣 は憤慨 し、 司令官 に強 い語調 の手 紙を送 り、 砦の一 団に 、無条 件降 伏を
させなかったことを叱責した。それには、こう書かれていた。
「あなたは国の名を汚し、
軍隊の士気を落とし、有能な士官たちの命を無駄にした。」そして、兵士たちにきびし
い 規律を あた え、宿 営地 を放蕩 と不 品行か ら清 めるよ うに 命じた 。さ らに、 ザン ジャ
ンの有力者たちと相談するように勧告し、この命令に従い、目的を達成しない場合は、
左 遷を警 告し た。そ して 、こう 付け 加えた 。「 それで も、 かれら を降 伏でき なけ れば、
わ たし自 らザ ンジャ ンに 行き、 地位 や信仰 にか かわら ず、 全住民 の虐 殺を命 じる 。国
王 にこれ ほど の屈辱 をも たらし 、国 民に苦 しみ をあた える ような 町は 、国王 の恩 恵を
受けるにふさわしくないからだ。」
絶 望し た司令 官は 、区長 や長 老をす べて 呼び寄 せ、 総理大 臣か らの手 紙を 見せ、 熱
心 に説得 した 。その 結果 、かれ らを 即刻立 ち上 がらせ るこ とに成 功し た。翌 日、 ザン
ジ ャンの 頑丈 な身体 をし た男た ちは 、司令 官の 旗の下 に集 まった 。四 連隊の あと 、区
長 たちが 先頭 に立ち 、そ のあと に、 ラッパ とド ラムの 音に 合わせ て、 大勢の 住民 が、
砦に向かって行進した。ホッジャトの仲間は、その騒音にもひるまず、
「この時代の主
な る御方 よ! 」とい う叫 び声を 一斉 にあげ 、門 から飛 び出 して、 敵に 向かっ て突 進し
た 。これ ほど 、激烈 で、 必死の 戦い はこれ まで なかっ た。 その日 、ホ ッジャ トの 支持
者 たちの 華は 、残酷 な虐 殺行為 の犠 牲とな った 。母親 たち の眼前 で、 多くの 息子 たち
が 惨殺さ れた 。姉妹 たち は、敵 の兵 器で醜 くな った兄 弟た ちの頭 がや りの先 につ きさ
さ れ高く かか げられ るの を、恐 怖と 苦悩を もっ て見つ めた 。ホッ ジャ トの仲 間が 、残
忍 な敵と 戦っ ていた 騒ぎ の最中 、男 たちと 並ん で戦っ てい た女た ちの 声がと きど き聞
か れたが 、そ れによ り、 仲間の 熱意 はいっ そう 高まっ た。 その日 、奇 蹟的に 勝利 を得
た のは、 強大 な敵の 前で 、女た ちが あげた 歓喜 の叫び によ ること が大 きかっ た。 それ
は 、女た ちの 勇敢な 行動 と自己 犠牲 で、よ り強 烈とな った 叫びで あっ た。何 人か の女
た ちは、 男の 姿に変 装し 、倒れ た仲 間に代 わっ て突撃 し、 ほかの 女た ちは、 水を いっ
ぱい入れた皮の袋を肩にかつぎ、負傷者たちののどの渇きをいやし、力を回復させた。
一 方、敵 の陣 地は混 乱状 態であ った 。水も なく なり、 上官 たちの 逃走 で、退 却も 征服
も できな い負 け戦を 戦っ ていた ので ある。 その 日、三 百名 ほどが 殉教 の杯を 飲み 干し
た。
ホ ッジ ャトの 仲間 たちの 中に 、モヒ セン という 人が いた。 この 人の任 務は 、祈り の
呼 びかけ をす ること であ った。 かれ ほどの 温か みのあ る豊 かな声 をも ってい る者 は近
隣 にはい なか った。 その 呼び声 は、 隣の村 まで ひびき 、そ れを聞 いた 者の心 を深 く感
動 させた 。し ばしば 、そ の近く のイ スラム 教徒 たちは 、耳 にひび くモ ヒセン の声 を聞
き ながら 、ホ ッジャ トと その仲 間に かけら れた 異端の 嫌疑 に怒り を示 した。 かれ らの
抗 議の声 は、 いっそ うは げしく なり 、つい にザ ンジャ ンの 主な高 僧の 耳にと どい た。
し かし、 この 高僧も かれ らを黙 らす ことは でき なかっ た。 そこで 、か れは司 令官 に、
ホ ッジャ トと その仲 間は 、敬虔 でも 高潔で もな いこと を、 住民に 確信 させる 方法 を見
出すように要請した。さらに、こう不平を訴えた。
「ホッジャトの一団は、予言者モハ
メ ッドの 敵で あり、 イス ラム教 を滅 ぼす者 らで あるこ とを 、昼夜 、公 私の場 で住 民に
確 信させ よう と努力 して きた。 が、 あの邪 悪者 モヒセ ンの 声で、 わた しの言 葉の 力は
なくなり、努力は無に帰した。あのひどい男を消すのはあなたの第一の義務だ。」
司令官は最初、この訴えを聞き入れず、こう返事した。
「あなたたちこそ、ホッジャ
ト の一団 に聖 戦をし かけ た責任 をも ってい るの だ。わ れわ れは、 政府 に仕え る身 で、
そ の任務 は、 あたえ られ た命令 を遂 行する こと だけだ 。し かしな がら 、モヒ セン を殺
害したいのであれば、それ相当の犠牲をはらわなければならない。」高僧は、その意味
を すぐ理 解し た。家 にも どると すぐ 、使い の者 に贈り 物と して一 万円 をもた せて 司令
官に渡させた。
そ こで 、司令 官は 射撃の 名手 何人か に、 モヒセ ンが 祈りの 呼び かけを して いる最 中
に 射殺す るよ うに命 じた 。夜明 け時 に、モ ヒセ ンが「 神の ほかに 神は なく… …」 と声
を あげた とた ん、砲 弾が 口に当 たり 、即死 した 。ホッ ジャ トは、 その 残虐行 為を 知ら
さ れると すぐ 、別の 仲間 に、小 塔に のぼり 、モ ヒセン が言 い残し た祈 りの言 葉を つづ
け るよう に命 じた。 この 仲間は 、戦 いが終 わる まで命 を落 とさな かっ たが、 ほか の仲
間たちと共に苦しまされ、最後には、モヒセンと同じように虐殺された。
砦 の包 囲が終 わり に近づ いた ころ、 ホッ ジャト は、 婚約し てい る者ら に結 婚をす す
め た。独 身者 には配 偶者 を選ん だ。 そして 、新 婚者た ちの ために 、で きるか ぎり の私
財 を用い た。 妻の宝 石さ え全部 処分 し、そ れか ら得た お金 も、新 婚者 たちに 好き なも
の を購入 させ た。婚 礼の 祝いは 三ヵ 月以上 つづ いたが 、そ の間も 、長 引く包 囲の 恐怖
と困難が入り混じったものであった。花婿と花嫁がお互いを迎えるときの歓呼の声が、
敵 の突撃 の轟 音で幾 度も 聞こえ なく なった 。ま た、か れら の喜び の声 が、侵 入軍 に反
撃 せよと 合図 する「 この 時代の 主な る御方 よ! 」とい う叫 びで、 幾度 も消さ れた 。花
嫁 は花婿 に、 どれほ どの 愛情を こめ て、殉 教の 冠を勝 ち取 るため の出 撃を、 少し でも
延 ばして くれ るよう に願 ったこ とで あろう か。 それに 対し 、花婿 はこ う答え るの であ
った。
「もう時間の余裕はない。栄光の冠を得るために急がなければならない。来世で
か な ら ず 再 会 し よ う 。 来 世 こ そ 、 よ ろ こ び に 満 ち た 永 遠 の 再 会 の 住 家 な の だ 。」
(pp.560-561)
こ の激 動の期 間に 、二百 人ほ どの若 者が 結婚し た。 ある者 は一 ヵ月間 、ほ かの者 は
数 日間、 また 、ほか の者 は短時 間だ け邪魔 され ずに花 嫁と いっし ょに 過ごす こと がで
き た。突 撃の 時間を 合図 するド ラム の音が 聞こ えたと き、 皆よろ こん で応じ た。 一人
残 らず最 愛の 御方に すす んで身 をさ さげた ので ある。 こう して皆 殉教 の杯を 飲み 干す
こ とにな った 。口で は言 い表せ ない ほどの 苦し みと英 雄的 行動の 舞台 となっ たこ の場
所 が、バ ブに よって 「高 められ た場 所」と 呼ば れたの は少 しも不 思議 ではな い。 この
名称は、バブ自身の聖なる名前と関連してきているのである。
仲 間の 一団に 、ア ブドル ・バ ギとい う者 がいた 。か れには 七人 の息子 がお り、そ の
う ち五人 はホ ッジャ トの 勧めで 結婚 した。 結婚 式が終 わる 前に、 とつ ぜん、 敵の 攻撃
が 再開し た。 息子た ちは すばや く立 ち上が り、 敵を撃 退す るため に飛 び出し た。 その
戦 いで、 五人 の息子 は皆 引きつ づき 命を落 とし ていっ た。 頭脳明 晰さ と勇気 で大 いに
尊 敬され てい た長男 は、 捕らえ られ 、司令 官の 前に連 れ出 された 。怒 った司 令官 はこ
う叫んだ。
「その男を地面に寝かせ、生意気にもホッジャトに深い愛をいだいたその胸
に 火をつ け、 その愛 を燃 やして しま え。」 それ にもひ るま ず、若 者は とつぜ ん叫 んだ。
「 不幸な 人よ 、あな たの 従者が 燃や せる火 は、 わたし の心 に燃え さか る愛の 火を 消す
ことはできないのだ。」こうして、この若者は、息を引き取るまで最愛なる御方を賛美
しつづけた。(pp.561-562)
固 い信 仰をも ちつ づけた 女性 の中に 、オ ンム・ アシ ュラフ がい た。ザ ンジ ャンの 動
乱 が起こ った とき、 かの 女は結 婚し たばか りで あった 。砦 内で、 息子 アシュ ラフ が誕
生 し、母 親と 息子両 人と もに、 砦の 大虐殺 をの がれた 。後 年、息 子が 前途有 望な 若者
に 成長し たと き、バ ハイ の仲間 たち を襲っ た迫 害にま き込 まれた 。敵 は、か れに 信仰
を取り消すように強いたが、それに応じないため、母親にかれを説得させようとした。
息子の前に連れ出された母親は、こう叫んだ。
「そのような悪質な誘惑に心を向け、真
理に背を向けるならば、お前をわたしの息子と認めません。」母親の忠告に忠実に従い、
ア シュラ フは 恐れる こと なく、 平然 として 死に のぞん だ。 母親は 、息 子に加 えら れた
残 忍行為 を目 撃して も、 悲嘆せ ず、 涙も流 さな かった 。こ の恥ず べき 行為を 犯し た者
ら は、母 親の おどろ くべ き勇気 と不 屈の精 神に 仰天し た。 母親は 、息 子の遺 体に 別れ
の視線を投げかけながら、声高らかに言った。
「包囲された砦内でお前を生んだ日、わ
た しが立 てた 誓いを 今、 思い出 しま した。 神が 授けて 下さ った唯 一の 息子が 、そ の誓
いを果たせて、これほどうれしいことはありません。」(pp.562-563)
仲 間た ちの勇 敢な 心に燃 える 熱意を 、わ たしの ペン では描 くこ とがで きな いし、 ま
た 、それ に対 して適 切な 賞賛の 言葉 を見つ ける ことも でき ない。 苦難 の嵐は はげ しく
吹 きまく った が、か れら の心の 炎を 消すこ とは できな かっ た。男 女共 に、砦 の防 備を
強 化し、 敵が 破壊し た個 所の修 理に 全力を そそ いだ。 少し でもひ まに なれば 、そ の時
間 は祈り にさ さげら れた 。すべ ての 思いは 、自 分たち の砦 を、敵 の猛 襲から 守る こと
に 集中さ れた 。この 仕事 に貢献 した 女性の 役割 は、男 性が 果たし た役 割にお とら ず困
難 なもの であ った。 地位 や年令 にか かわら ず、 女性は 皆、 共同作 業に 力をそ そい だの
で ある。 衣服 を縫い 、バ ンを焼 き、 病人と 負傷 者を世 話し 、バリ ケー ドを修 理し 、敵
が 撃った 弾丸 などを 中庭 やテラ スか ら除き 、弱 気にな って いる者 を元 気づけ 、た めら
っ ている 者の 信仰を 強め た。子 供た ちも共 同作 業に加 わっ て手伝 い、 両親の 熱意 にお
とらない熱意で燃えているようであった。
こ の共 同一致 の精 神の高 まり と、勇 敢な 行動の 見事 さに、 敵は 、砦内 には 一万人 ほ
ど がいる と思 った。 生活 必需品 は、 何らか の神 秘的な 方法 で砦に 届け られ、 増援 隊も
ナ イリズ 、コ ラサン 、そ してタ ブリ ズから 送ら れてき てい ると信 じら れてい た。 敵に
は、一団の力はゆるぎないもので、その資源は無尽蔵に思えたのである。(p.563)
司 令官 は、一 団の 強固な 粘り 強さに いら 立ち、 また 、中央 政府 からの けん 責と抗 議
に 拍車を かけ られ、 一団 を完全 に征 服する ため に、あ さま しくも 裏切 り手段 に訴 える
こ とにし た。 戦場で 堂々 と戦っ ても 勝利を 得る ことは でき ないこ とを 確信し た司 令官
は 、まず 、た くみに 停戦 を呼び かけ ること にし た。そ して 、国王 はこ の戦い の全 面中
止 を命じ られ ている とい うニュ ース を流し た。 さらに 、国 王は最 初か ら、マ ザン デラ
ン とナイ リズ の軍隊 支援 に賛成 され なかっ たし 、また 、取 るに足 らな い運動 のた めに
多 量の血 を流 すこと を悲 しんで おら れたと 伝え たので ある 。そこ で、 ザンジ ャン とそ
の 近隣の 村々 の住民 は、 国王が 実際 に、ホ ッジ ャトと の和 解を司 令官 に命じ 、こ の不
幸な事件をできるだけ迅速に終わらせる意図であると信じたのである。
司 令官 は、住 民が この陰 謀に だまさ れた のを確 認し たあと 、和 解のた めの 宣言書 を
作 成した 。そ の中で 、ホ ッジャ トに 、自分 は永 続する 和解 を真心 から 求めて いる と述
べ た。そ して 、その 誓約 が神聖 なも のであ ると いう証 拠に 、コー ラン を添え たの であ
る。さらに、つぎのように付け加えた。「国王は、あなたを許された。したがって、あ
な たと仲 間は 、陛下 の保 護のも とに あるこ とを 厳粛に 宣言 する。 この 神の書 コー ラン
が証人である。砦から出てくる者は皆安全に守られよう。」
ホ ッジ ャトは 、使 者の手 から 、コー ラン をうや うや しく受 け取 り、そ の宣 言書に 目
を通した。そのあとすぐ、翌日返事を出すと司令官に告げるように指示した。その夜、
ホッジャトは主な仲間を集め、敵の宣言書の誠意に疑念をいだいていることを述べた。
「 マザン デラ ンとナ イリ ズでの 裏切 り行為 は、 今もわ れわ れの記 憶に 生々し い。 同じ
よ うに、 ここ でもわ れわ れを裏 切ろ うとし てい るのだ 。し かし、 コー ランに 敬意 をは
ら って、 この 提案に 応じ 、こち らか ら何人 かを かれら の陣 地に送 ろう 。それ によ り、
かれらの策略があきらかになるであろう。」(pp.564-565)
わ たし (著者 )は 、ザン ジャ ンの虐 殺を まぬか れて 生き残 った アリ・ バダ ッドか ら
つぎのように聞いた。
「わたしは、ホッジャトが、司令官のもとに送った代表一団にと
も なった 子供 の一人 でし た。子 供は 全部十 才以 下で九 人い ました 。大 人は皆 八十 才以
上の老人でした。その中には、アガ・ダダシュ、ダービッシュ・サラー、モハメッド・
ラ ヒムと モハ メッド が含 まれて いま した。 ダー ビッシ ュ・ サラー は、 印象深 い容 姿を
し ており 、背 が高く 、白 ひげを つけ 、神秘 的な 美しさ をそ なえた 人で した。 かれ は、
高 潔さと 公正 な行動 で大 いに尊 敬さ れてお り、 虐げら れた 人びと のた めに尽 力し たた
め 、当局 から も敬意 と好 意を受 けて いまし た。 バブの 信者 になっ て以 来、そ れま でに
受 けた栄 誉の すべて をす て、高 齢に もかか わら ず、砦 の一 団に参 加し たので す。 かれ
が先頭に立ち、コーランをもって、司令官のところに進んで行きました。
司 令官 のテン トに 着き、 その 入り口 の前 に立ち 、か れの指 示を 待ちま した 。司令 官
は 、わた した ちを軽 蔑し 、あい さつ にも答 えま せんで した 。半時 間も 立たせ たあ と、
きびしく叱るような語調で、声を張り上げて言いました。
「お前たちほど卑劣で、恥知
らずの人間を見たことがない。」つづけて、非難の言葉を浴びせていたとき、一団のう
ち 一番高 齢で 、弱々 しい 老人が 、少 し話さ せて くれる よう に頼み まし た。老 人は 無学
で したが 、許 可を得 て話 し出し まし た。そ れは 、賞賛 せず にはお れな いすば らし いも
のでした。
『われわれは、現在も今後も国王に忠節で、法を守る臣民であり、政府と人
民 の利益 を促 進する 以外 の望み をも ってい ない ことを 神は ご存知 です 。われ われ に敵
意 をいだ く者 たちに より 、われ われ のこと が、 ひどく 誤り 伝えら れて きまし た。 国王
の 代理は だれ も、わ れわ れを保 護す ること も、 理解を 示す ことも あり ません でし た。
国 王の前 で、 われわ れの 大業を 弁護 する者 もい ません でし た。わ れわ れは幾 度も 国王
に 訴えま した が、無 視さ れ、耳 を傾 けてく れる ことは あり ません でし た。敵 は、 支配
者 たちの 無関 心に自 信を つけ、 四方 八方か らわ れわれ を攻 撃し、 財産 を略奪 し、 妻た
ち や娘た ちを 辱め、 子供 たちを 捕ら えまし た。 政府か らの 保護は なく 、敵か ら取 り巻
かれたわれわれは、自己防衛に立ちあがることを余儀なくされたのです。』(pp.565-566)
司 令官 は副官 に向 かい、 この 件の処 置に 関して 意見 を聞き まし た。そ して 、こう 付
け加えました。
『この老人にどう返事をしたらよいか困っている。もし、わたしに宗教
心 があれ ば、 この大 業を ためら いな く信じ るで あろう 。』 副官は 答え ました 。『 このい
ま わしい 異端 からわ れわ れを救 って くれる のは 、剣だ けし かあり ませ ん。』 その とき、
ダービッシュ・サラーがつぎの言葉をさしはさみました。
『わたしは、コーランをまだ
手 にして おり 、また 、あ なたご 自身 で作成 され た宣言 書も もって いま す。今 聞い た言
葉が、あなたの要請に応じた報いなのですか。』
この言葉に、司令官は怒りを爆発させ、ダービッシュ・サラーのひげを引きはがし、
ほ かの仲 間と いっし ょに 地下牢 に投 げ込む よう に命じ た。 わたし とほ かの子 供た ちは
怖くなり、逃げ出しました。
『この時代の主なる御方よ!』と叫びながら、バリケード
に 向かっ て走 りまし た。 何人か は追 いつか れ、 捕らえ られ て投獄 され ました 。男 が追
っ てきて 、わ たしの 衣の 裾をつ かみ ました が、 それを 振り きり、 疲れ 切って 砦の 門に
た どりつ いた のです 。仲 間の一 人で あるエ マム ・ゴリ が、 敵に残 酷に も手足 を切 断さ
れたのを見たとき、どれほど仰天したことでありましょうか。そのぞっとする光景に、
身 の毛が よだ つばか りで した。 その 同じ日 に、 停戦が 宣言 され、 今後 一切暴 力行 為は
犯 さない とい う厳粛 な誓 いが立 てら れたこ とを 知って いた からで す。 やがて 、わ たし
は 、その 殺さ れた人 は、 かれの 兄か ら裏切 られ たこと を知 りまし た。 その兄 は、 かれ
に話しがあるからと呼び出して、迫害者に渡したのです。(p.566)
わ たし は、急 いで ホッジ ャト のとこ ろに 行きま した 。ホッ ジャ トはわ たし を愛情 深
く 迎え、 顔の ほこり をふ き、新 しい 衣服を 着せ てくれ まし た。そ して 、かれ のそ ばに
座 り、ほ かの 仲間が どう なった かを 語るよ うに 命じま した 。そこ で、 見たこ とを すべ
て述べたところ、ホッジャトは、こう説明しました。『今は復活の日の嵐なのだ。これ
ま で、世 のだ れもが 見た ことの ない はげし い嵐 なのだ 。こ の日は まさ しく< 自分 の兄
弟 から逃 げ、 また、 母親 と父親 、妻 と子供 たち から逃 げる >(コ ーラ ン)日 なの だ。
こ の日は 、自 分の弟 をす てるだ けで は満足 せず 、近親 の血 を流す ため に、財 産ま で犠
牲にする日なのだ。
『乳飲み子をかかえた女は、その乳飲み子をかえりみず、子をはら
ん だ女は 、そ の子を 落と すであ ろう 。男た ちは 酔って いる ように 見え るが、 本当 は酔
っているのではない。それは、神の大なる懲罰なのである。』』(コーラン)
ホ ッジ ャトは 中庭 の中心 に座 し、仲 間を 集めた 。皆 が集ま ると 立ちあ がり 、つぎ の
ように語った。
「わが愛する仲間よ。皆のたゆまぬ努力に十分満足している。敵は、わ
れ われを 滅亡 させよ うと 必死で ある 。皆を だま して砦 から 出させ 、思 う存分 惨殺 する
つ もりで あっ た。そ の裏 切り行 為が あばか れた ので、 腹を 立て、 仲間 のうち 最高 齢者
た ちと子 供た ちを虐 待し 、投獄 した のだ。 この 砦を占 領し 、皆を 追い 散らす まで は、
戦 いをつ づけ 、迫害 もや めない こと があき らか だ。皆 がこ の砦に 居つ づけれ ば、 その
う ち、敵 の捕 虜とな り、 妻たち は辱 められ 、子 供たち は殺 される こと は確か だ。 した
が って、 皆は 、真夜 中に 、妻と 子供 たちを 連れ て逃れ るが よい。 この 暴虐行 為が しず
ま るまで 、各 人、安 全な 場所に 避難 するが よい 。わた し一 人がこ こに 残り、 敵に 立ち
向 かおう 。皆 が全部 殺さ れるよ りも 、わた しの 死で、 敵の 復讐心 をし ずめる 方が よい
のだ。」(p.567)
仲間は深く感動し、目には涙をうかべ、最後まで、ホッジャトと共に居残りたいという
固い決意を宣言した。
「あなたを、人殺しの敵のなすがままにさせることはできません。わ
たしたちの命はあなたの命よりも貴いのではありません。あなたの親族よりも高貴な家柄
であるわたしたちの家族も同じです。あなたが受けられる災難はすべて、わたしたちも受
けたいのです。」ほとんど全員が誓いを守ったが、少数は、長引く包囲でますます困難にな
っていく生活に耐えられず、ホッジャトの勧告に従って、砦外の安全な場所に移った。こ
うして、この者たちは、ほかの仲間から離れたのである。
司 令官 は、奮 起し て、ザ ンジ ャンの 強壮 な男た ちに 、自分 の本 営近く に集 まるよ う
に 命じた 。か れは、 自分 の連隊 を再 編成し 、指 揮官を 任命 し、町 であ らたに 募集 した
軍 勢に加 えた 。それ ぞれ 十個の 大砲 をそな えた 十六連 隊に 、砦に 向か って進 軍す るよ
う に命じ た。 そのう ち八 連隊は 、毎 日午前 中に 砦への 攻撃 を命じ られ 、午後 夕方 まで
は 、残り の連 隊が攻 撃す るよう に命 じられ た。 司令官 自身 も戦場 に出 て、毎 日午 前中
に 連隊を 指揮 してい るの が見ら れた 。かれ は兵 士たち に、 戦いに 勝て ば、報 酬が 得ら
れると元気づけ、負ければ、国王から罰が下されると警告した。
こ の包 囲攻撃 は一 ヵ月つ づい た。敵 は、 昼間の 攻撃 だけで は満 足せず 、夜 間にも 数
回 攻撃し てき た。敵 の猛 撃、圧 倒的 な兵士 の数 、矢継 ぎ早 の攻撃 で、 仲間の 数は 減っ
て ゆき、 困難 さもま して いった 。敵 軍には 、増 援隊が 多方 面から 送ら れてき たが 、砦
の仲間は苦難と空腹で弱っていった。
一 方、 総理大 臣は 司令官 を援 助する ため に、ハ サン ・アリ に、 ソンニ 派の ニ連隊 を
率 いてザ ンジ ャンに 向か うよう に命 じた。 この ニ連隊 の到 着で、 砦へ の集中 砲撃 がは
じまり、そのすさまじさで、砦の崩壊がおびやかされてきた。砲撃は何日間もつづき、
ま すます 頻度 をまし てい ったが 、そ の間、 ホッ ジャト の仲 間は、 見事 な武勇 と腕 前を
見せ、それは最悪の敵さえも賞賛せずにはおれないほどであった。(pp.568-569)
砲 撃が つづい てい たある 日、 ホッジ ャト が祈り の前 の洗浄 を行 ってい ると き、右 腕
に 砲弾が あた った。 ホッ ジャト は従 者に、 自分 の受け た傷 を妻に は知 らせな いよ うに
命 じた。 しか し、従 者の 嘆きは 深く 、感情 をか くすこ とが できな かっ た。か れの 流す
涙 で、ホ ッジ ャトの 妻は 、夫が 傷つ いたこ とを 知り、 すぐ 、かれ のも とに駆 けつ けて
き た。と ころ が、ホ ッジ ャトは 動じ た様子 はな く静か に祈 りにふ けっ ていた 。腕 の傷
口から大量の血が流れ出していたが、落ち着いた表情で、つぎのように祈っていた。
「お
お わが神 よ。 これら の者 らを許 した まえ。 かれ らは、 自分 たちが 何を してい るの か分
か らない から です。 かれ らに慈 悲を 与えた まえ 。かれ らを 誤り導 き、 非行を 犯さ せた
者らだけに責任があるからです。」
ホ ッジ ャトは 、自 分の血 だら けにな った 身体を 見て かき乱 され た妻と 親族 の者ら を
落ち着かせようとして、こう述べた。
「よろこびなさい。われはまだ皆といっしょにい
る ではな いか 。皆が 、神 の意志 に完 全に身 を任 せるよ うに 願う。 今、 皆が目 にし てい
る のは、 わが 死に際 して 襲って くる 激しい 苦難 に比べ ると 一滴に すぎ ないの だ。 神の
定めがどのようなものであれ、われわれの義務は、それにいさぎよく従うことである。」
ホ ッジ ャトが 負傷 したこ とを 聞いた 仲間 は、す ぐ武 器をお いて 、かれ のも とに駆 け
つ けてき た。 その間 、敵 は、反 撃す る者た ちが いなく なっ たとい う有 利な立 場を 利用
し て、攻 撃を 倍増し 、砦 の門を 押し 開けて 中に 侵入し た。 その日 、女 子供百 人ほ どを
捕 らえ、 かれ らの所 有物 を略奪 した 。かれ らは 、十五 日間 、ザン ジャ ンでは 異常 なほ
ど の極寒 の中 に置き 去り にされ てい た。う すい 衣以外 には 身体を おお うもの はな く、
食 べ物も 屋根 もなく 、荒 野にさ らさ れたま まで あった 。頭 をおお う薄 織の布 を顔 にか
け 、無情 に吹 きつけ る寒 風を避 けよ うとし たが むだで あっ た。ザ ンジ ャン市 のあ ちこ
ち から、 多数 の女た ちが 群がっ てき て、苦 しん でいる 女性 たちに 、軽 蔑とあ ざけ りの
言葉を投げかけ、かれらのまわりを狂ったように踊りながら、さげずむように叫んだ。
「お前たちは神を見つけたが、その神に報いをたっぷり受けているのだ。」さらに、か
の女らの顔につばをかけ、下品な悪口雑言をあびせたのである。(pp.569-570)
砦 が敵 に占拠 され たため 、ホ ッジャ トの 仲間は 主な 防御手 段を 失った 。し かし、 か
れ らの精 神を ひるま せる ことも 、落 胆させ るこ ともで きな かった 。仲 間の所 有物 は全
部 略奪さ れ、 防御の すべ のない 女子 供は捕 虜と なった 。仲 間と残 った 女子供 は、 ホッ
ジ ャトの 家の 近くに ある 家々に ぎっ しり詰 め込 まれた 。か れらは 、五 つの組 に分 けら
れ た。一 つの 組は三 六一 名(十 九x 十九) から 成って いた 。各組 から 十九人 が一 斉に
飛び出て、
「この時代の主なる御方よ!」と叫びながら、敵中に突入し、相手を敗走さ
せ た。こ れら 九十五 名の 意気盛 んな 叫び声 だけ で敵の 力を まひさ せ、 その精 神を 打ち
ひしぐのに十分であったのである。(pp.569-570)
こ の状 態は数 日つ づき、 すば やく大 勝利 をおさ める と信じ てい た敵に 屈辱 と敗北 を
も たらし た。 敵の多 数が 戦死し た。 将校に 悲し みをあ たえ たのは 、士 官たち が、 持ち
場 を見捨 ては じめ、 砲兵 隊の隊 長は 武器を 放棄 しはじ め、 一方、 兵士 たちは 士気 を失
い 、疲労 困憊 したこ とで あった 。司 令官自 身も 、兵士 の規 律を維 持し 、その 能率 と気
力 を保つ ため に用い てき た高圧 的な 手段に 疲れ 切って いた 。かれ は再 度、残 った 士官
た ちと協 議し 、事態 を改 善する ため に、非 常手 段を見 出す ことに した 。この 事態 を放
っ ておけ ば、 ザンジ ャン の住民 だけ でなく 、か れ自身 の命 まで危 なく なりそ うで あっ
た。かれは言った。
「実を言うと、ホッジャトの仲間の頑として動かない抵抗に疲れた
の だ。か れら は、あ る精 気で鼓 舞さ れてい るこ とはあ きら かだ。 国王 がどれ ほど 兵士
を 激励し よう として も、 これほ どの 効果は 絶対 生み出 せな いのだ 。こ れほど の自 己犠
牲 を示せ る者 は、わ れわ れの軍 隊に はいな いこ とは確 かだ 。わた しの 力では 、失 望の
泥 沼に落 ち込 んだ兵 士た ちを奮 起さ せるこ とは できな い。 勝って も負 けても 、兵 士た
ちは、永遠の罪を受ける運命にあると信じているのだ。」(pp.570-571)
慎 重な 協議の 結果 、軍の 陣地 からホ ッジ ャトの 仲間 の居住 地ま で地下 通路 を掘る 決
心 をした 。そ れによ り建 物を爆 破し 、ホッ ジャ トの仲 間を 無条件 降伏 させよ うと 決断
し たので ある 。そこ で一 ヵ月間 地下 通路を 掘り つづけ 、そ こにさ まざ まな種 類の 爆薬
を 置いた 。同 時に、 まだ 立って いる 家々を 残酷 に取り 壊し ていっ た。 司令官 は、 破壊
を 速める ため に、砲 兵隊 に、ホ ッジ ャトの 家を 砲撃す るよ うに命 じた 。その 家と 軍の
陣 地の間 に立 ってい た家 屋は全 部完 全に破 壊さ れてし まっ ていた ので 、妨害 され るこ
となく砲撃できたのである。
ホ ッジ ャトの 家の 一部は 破壊 されて いた が、か れは まだそ こに 住みつ づけ ていた 。
か れは、 幼児 のハデ ィを 抱いて いた 妻カデ ィジ ェに向 かい 、お前 と息 子が捕 らえ られ
る 日がせ まっ ている ので 、その 準備 をする よう に警告 した 。かの 女が 苦しい 思い をも
ら してい たと き、飛 んで きた砲 弾で 即死し た。 かの女 が胸 に抱い てい た息子 は、 そば
に あった ひば ちに落 ち、 まもな くし て、ザ ンジ ャンの 高僧 ミルザ ・ア ボルの 家で 死亡
した。
ホ ッジ ャトは 悲痛 な思い であ ったが 、悲 しみに 身を ゆだね るこ とを拒 み、 こう叫 ん
だ。
「おおわが神よ。あなたの最愛なる御方を発見し、その御方が、あなたの永遠なる
聖 霊の顕 示者 だと認 めた 日、あ なた のため に、 わたし が受 けるべ き苦 悩を予 知し まし
た 。これ まで も大変 悲し い思い をし てきま した が、そ れは 今後あ なた の名の もと に、
わ たしが 進ん で受け る苦 悶には 比較 できな いも のです 。妻 と息子 を失 い、親 族や 仲間
が 犠牲に なっ たこの みじ めなわ たし の命と 、あ なたの 顕示 者を認 めた ことで わた しに
付 与され る祝 福を比 べる ことが でき ましょ うか 。わた しが 無数の 命を もって いた とし
て も、世 界中 の富と その 栄誉を もっ ていた とし ても、 わた しは、 あな たの道 にす べて
を惜しげなく、よろこんで棄てるでありましょう。」(p.572)
敬 愛す る指導 者が 、重傷 を負 い、妻 と子 供を失 った ことで 、仲 間はは げし い怒り で
い っぱい にな った。 そし て、殺 害さ れた同 胞の 血に復 讐す るため に、 最後の 命が けの
攻 撃を決 心し た。し かし 、ホッ ジャ トは、 その 決意を 思い 切らせ 、戦 いを早 めな いよ
う に忠告 した 。そし て、 神の意 志に 身をま かせ 、最後 がい つ来よ うと も、落 ち着 いて
固い信念をもちつづけるように命じた。
時 間が たつに つれ て、仲 間の 人数は 減少 してゆ き、 苦難は 増し ていっ た。 また、 安
全 と感じ る場 所もせ まく なって きた 。一八 五一 年一月 八日 の朝で あっ た。そ れま での
十 九日間 、受 けた傷 の激 痛を耐 えて きたホ ッジ ャトは 、祈 りのた めに 身を伏 せて 、バ
ブの名を唱えていたとき、とつぜん息絶えた。
ホッジャトの突然死は、親族と仲間にとって大きな衝撃であった。これほど有能で、
こ れほど 熟達 し、こ れほ ど心を 奮起 させて くれ る指導 者の 死がも たら した嘆 きは 深か
っ た。こ の死 は償う こと ができ ない もので あっ た。仲 間の ディン ・モ ハメッ ドと ミー
ル ・レザ イの 二人は 、敵 がホッ ジャ トの死 に気 づく前 に、 すぐ遺 体を 、親族 にも 仲間
に も知ら れな いとこ ろに 埋葬す るこ とにし た。 真夜中 に、 遺体は ディ ン・モ ハメ ッド
の 部屋に 移さ れ、そ こに 埋めら れた 。その あと 、遺体 が汚 されな いよ うに、 その 部屋
は破壊され、埋葬場所がだれにも見つからないように注意がはらわれた。
悲 壮な 事件を 生き 抜いた 五百 人以上 の女 性たち は、 ホッジ ャト の死後 すぐ 、かれ の
家 に集ま った 。指導 者で あった ホッ ジャト の死 にかか わら ず、仲 間た ちは、 同じ 熱意
を もって 敵の 軍勢に 対抗 した。 ホッ ジャト の旗 のもと に集 合して いた 大多数 の仲 間の
う ち、残 って いたの は二 百人の 強健 な男た ちで 、その ほか の者ら は、 戦死す るか また
は負傷して動けなくなっていた。(p.573)
敵 は、 一団を 大い に鼓舞 して きた指 導者 がいな くな ったこ とを 知り、 奮起 した。 こ
れ まで征 服で きなか った おそる べき 一団の 残り を抹殺 する 決意を 固め たので ある 。そ
こ で、こ れま で以上 に激 烈で、 決定 的な総 攻撃 を開始 した 。ドラ ムと ラッパ の音 と住
民 の声援 には げまさ れた 敵は、 一団 が全滅 する までや めな い覚悟 で、 凶暴に 突撃 して
き た。こ の猛 攻撃に 対し て、仲 間は ふたた び「 この時 代の 主なる 御方 よ!」 と叫 びを
あ げて、 恐れ ずに突 進し 、勇敢 な戦 いをつ づけ たが、 つい に、全 員が 殺害さ れる か、
または捕虜となった。
虐殺が終わらないうちに、略奪の合図が出された。それは、これまでにない規模で、
狂 暴きわ まる もので あっ た。司 令官 が、家 に残 されて いる ホッジ ャト の所有 物を 略奪
し てはな らな い、ま た、 かれの 親族 に暴行 を働 いては なら ないと の命 令を出 さな かっ
た ならば 、貪 欲な軍 隊の 襲撃は 、よ り卑劣 なも のにな って いたで あろ う。司 令官 は、
中 央政府 に事 態を知 らせ 、勧告 を求 めたい と思 ったの であ るが、 殺気 立った 兵士 たち
の 暴力行 為を いつま でも 抑えて おく ことは でき なかっ た。 ザンジ ャン の僧侶 たち は、
勝 利で得 意に なり、 捕ら えられ た男 たちに 最悪 の暴行 を加 え、女 たち を辱め るよ うに
住民をそそのかした。この勝利は、僧侶たちの大変な努力と生命の損失によるもので、
ま た、か れら の名声 と信 望が、 先例 のない ほど かかっ てい たもの であ った。 ホッ ジャ
ト の家の 門を 見張っ てい た番兵 は、 その後 の騒 動の中 で、 持ち場 を追 われた 。住 民は
軍 隊と手 を組 んで、 ホッ ジャト とそ の仲間 の所 有物を 略奪 し、戦 いを 生きの びた 少数
の 者たち に暴 行を加 えた 。司令 官も 知事も 、町 全体を 捕ら えた略 奪と 復讐へ の渇 望を
し ずめる こと はでき なか った。 この 大混乱 の中 では、 秩序 も規律 もな くなっ てし まっ
たのである。(p.574)
し かし ながら 、知 事は軍 の士 官を納 得さ せて、 捕虜 をハジ ・ゴ ーラム の家 に集め 、
テ ヘラン から 指示が 来る まで拘 留さ せてお くこ とがで きた 。捕虜 の一 団は、 羊の 群れ
の ように 、厳 冬の冷 気に さらさ れた ひどい 場所 に詰め 込ま れた。 一団 が入れ られ た建
物 には屋 根も 家具も なか ったの であ る。ニ 、三 日間、 食べ 物もあ たえ られず に放 置さ
れ たまま であ ったが 、そ の後、 女た ちは高 僧ミ ルザ・ アボ ルの家 に移 された 。自 由の
身になることを条件に、信仰を取り消させるためであった。ところが、貪欲な高僧は、
妻 や姉妹 や娘 たちに 手伝 わせて 、女 たちの 所有 物をう ばい 、衣服 をは ぎとり 、そ の代
わ りにぼ ろ着 を着せ た。 そして 、う ばった 所持 品のう ち、 貴重品 だけ は自分 が横 領し
たのである。
言 語に 絶する 苛酷 な苦し みを 受けた あと 、女た ちは 、親族 のと ころに もど ること が
で きた。 しか し条件 とし て、親 族は 、かの 女ら の今後 の行 動に全 責任 をもつ こと にな
っ た。残 りの 女たち は、 近隣の 村々 に分散 させ られた が、 村民は 、ザ ンジャ ンの 住民
と ちがっ て、 かの女 らを 歓迎し 、真 心から の愛 情を示 した 。ただ し、 ホッジ ャト の親
族 は、テ ヘラ ンから 明確 な指示 がく るまで ザン ジャン に留 められ た。 負傷者 たち も、
テ ヘラン の政 府当局 から 処置方 法に ついて 指示 がくる まで 拘留さ れた 。その 間、 酷寒
にさらされ、残忍な仕打ちを受けたかれらは、ニ、三日のうちに全員死亡した。
(pp.574-575)
司 令官 は、残 りの 捕虜を 、カ ルルシ 、カ ムセ、 およ びイラ キの 三つの 連隊 に渡し 、
即 刻処刑 する ように 命じ た。か れら は、ラ ッパ とドラ ムの 鳴物入 りで 、軍の 駐屯 地ま
で 連行さ れた が、こ の合 同連隊 は、 あわれ な受 難者た ちに 最悪の 残虐 行為を はた らい
た のであ る。 長短の やり を振り まわ して、 七十 六人の 捕虜 に飛び かか り、容 赦な くか
れ らの身 体を やりで 突き 通し、 手足 を切断 した のであ る。 それは 、国 内の拷 問屋 によ
る もっと も手 の込ん だ残 虐行為 をし のぐも ので あった 。そ の日、 残忍 な兵士 たち は、
常 軌をは るか に逸し た復 讐の執 念で 行動し てい たので ある 。兵士 たち は、巧 みに 工夫
し た残虐 行為 を連隊 同士 で張り 合い 、あわ れな 犠牲者 たち に、ふ たた び飛び かか ろう
と してい たと き、ア バ・ バシー ルの 父親モ ハメ ッド・ ハサ ンがと つぜ ん立ち 上が り、
祈 りの呼 びか けの言 葉を 唱えは じめ た。そ れは 、まわ りに 集まっ てき ていた 群集 に深
い 感動を 与え るもの であ った。 そし て、死 に直 面した かれ が「神 は最 も偉大 なり !」
と いう言 葉を 高らか に叫 んだと き、 その強 烈な 熱情と 威厳 に心を 打た れたイ ラキ 連隊
の全員は、その恥ずべき蛮行には加わりたくないと宣言し、自分の持ち場を放棄し、
「お
お 、アリ よ! 」と叫 びな がら、 恐怖 と吐き 気を もよお すほ どの嫌 悪感 をもっ てそ の場
から逃げ去った。かれらは、その忌まわしい流血の光景に背を向けながら、
「司令官に
のろいあれ!」と絶叫した。
「あの卑劣漢はわれわれをだましたのだ。これらの捕虜が
が 、エマ ム・ アリと その 親族に 不実 である など と、執 拗に われわ れに 信じ込 ませ よう
と したの だ。 われわ れ全 員が殺 され ても、 今後 絶対そ のよ うな犯 罪行 為を援 助す るつ
もりはない。」(pp.575-577)
大砲で吹き飛ばされた捕虜も多数いた。裸にされ、氷のように冷たい水をかけられ、
む ちで激 しく 打たれ た者 たちも いた 。また 、糖 蜜を身 体に なすり つけ られ、 息が 絶え
る まで雪 の中 に置き 去り にされ た者 たちも いた 。この よう に、捕 虜た ちは、 屈辱 と虐
待 を受け て苦 しんだ が、 だれも 信仰 を取り 消す 者はい なか った。 また 、迫害 者た ちに
対 して、 怒り の言葉 を一 言も口 にす ること はな かった 。不 満をさ さや くこと もな く、
表 情から も、 後悔や 嘆き の気配 さえ 感じら れな かった 。ど れほど の苦 難がふ りか かっ
て も、か れら の顔を 照ら す光を くも らすこ とは できず 、ど れほど の侮 辱的な 言葉 も、
表情の平静さを乱すことはできなかったのである。
迫 害者 は、捕 虜を 処分し たあ と、ホ ッジ ャトの 遺体 をさが しは じめた 。し かし、 仲
間 はホッ ジャ トの埋 葬場 所を用 心深 くかく し、 どれほ ど冷 酷な拷 問を 受けて も、 その
か くし場 所を 明かす こと はなか った 。いら 立っ た知事 は、 七才に なる ホッジ ャト の息
子 ホセイ ンを 連れて 来る ように 命じ 、埋葬 場所 を聞き 出そ うとし た。 知事は 、か れを
やさしくなでながら言った。
「わが息子よ。お前の両親が受けた苦しみを知って大変悲
しんでいる。悪行を犯したのは、ザンジャンの僧侶たちで、わたしではないのだ。今、
わ たしは お前 の父上 の遺 体を手 厚く 埋葬し 、父 上に対 する 恥ずべ き行 為の償 いを した
いのだ。」知事は、このようにやさしい態度で子供にうまく取り入って、遺体のかくし
場 所を語 らせ た。そ こで 知事は 、従 者に、 遺体 を自分 のと ころに 運ば せ、そ れに ロー
プ をくく りつ けて、 ザン ジャン の街 路をド ラム とラッ パの 鳴物入 りで 引きず りま わす
ように命じた。そのあと三日三晩、遺体は広場に放置され、公衆の目にさらされたが、
そ の間、 言語 に絶す る侮 辱行為 が遺 体に加 えら れたの であ る。三 日目 の夜半 に、 馬に
乗 った男 たち の一団 が現 れて、 遺体 をガズ ビン 町の方 角に ある安 全な 場所に 運ん でい
っ たと伝 えら れてい る。 ホッジ ャト の親族 に関 しては 、テ ヘラン 当局 から、 シラ ズに
連 行し、 知事 の手に 渡す ように との 司令が 下さ れた。 知事 は、か れら の持ち 合わ せの
所 有物を 横領 し、シ ラズ の荒れ 果て た家で 、み じめな 生活 を強い たの である 。ホ ッジ
ャ トの末 の息 子メヘ ディ は、そ の窮 乏生活 のた め死亡 し、 荒廃し た家 の中心 に埋 葬さ
れた。(pp.577-578)
こ の忘 れがた い戦 いの終 末か ら九年 後に 、わた し( 著者) は、 ザンジ ャン を訪れ 、
あ の恐ろ しい 虐殺の 場を 目にす るこ とがで きた 。廃墟 とな ったア リ・ マルダ ン・ カー
ン の砦を 悲痛 な思い と恐 怖感を もっ て見つ め、 その不 滅の 防御者 たち の血が しみ 込ん
だ 地面に 足を 踏み入 れる ことが でき た。砦 のく ずれか かっ た門や 壁に 、虐殺 の痕 跡を
認 めるこ とが できた が、 それは 、一 団の降 伏を しるす もの であっ た。 また、 バリ ケー
ドとして使用された石にも、おびただしく流された血痕を見つけることができた。
(p.579)
砦 の戦 いで命 を落 とした 者ら の数に 関し ては、 今の ところ 正確 には推 定さ れてい な
い 。この 戦い に加わ った 者の数 は膨 大で、 包囲 期間が ひじ ょうに 長引 いたた め、 参加
者 の名前 や数 を確か める 仕事は 、わ たしも ため らって いる 位であ る。 ミムと アサ ドの
二 人が、 一応 仮の名 簿を 作成し てい るので 、か れらと 相談 するの もよ かろう 。ザ ンジ
ャ ンで、 ホッ ジャト の旗 の下で 殉教 した者 らの 正確な 数に ついて は、 多くの 報告 があ
るが、それらは一致していないのである。殉教者の数は千人と推定した者らもいれば、
そ れより もっ と多か った と述べ てい る者ら もい るので ある 。が、 わた しは、 つぎ のよ
う に聞い た。 殉教者 の名 前を記 録し ていた ホッ ジャト の仲 間の報 告書 による と、 ホッ
ジ ャトの 逝去 以前に 殉教 した者 の数 は千五 百九 十八名 、死 後の殉 教者 の数は 二百 二人
と推定されると。
ザ ンジ ャンで の出 来事の 記述 は、主 にア リ・タ ビブ 、アバ ・バ シール 、セ イエド ・
ア シュラ フか ら得た 情報 による 。こ の三人 は皆 殉教し たが 、それ ぞれ わたし と親 交が
あ った。 ほか の部分 は、 ホセイ ン・ ザンジ ャン が記録 し、 バハオ ラの もとに 送っ た原
稿 にもと づく 。その 中で 、かれ はザ ンジャ ンの 戦いに 関し て、多 方面 から集 めた 情報
を全部記録している。
マ ザン デラン の戦 いに関 する 記述は 、同 じく感 動を 与える もの である が、 その大 部
分 は、ア ブタ レブ・ シャ ームル ザデ が聖地 に送 った記 録と 、信者 のハ イダー ル・ アリ
が 、ここ で準 備した 簡潔 な調査 結果 にもと づく もので ある 。さら に、 実際に 戦い に加
わ った人 たち からも 情報 を得る こと ができ た。 すなわ ち、 モハメ ッド ・サデ ィク 、フ
ォルギ、バディの父で殉教者のアブドル・マジドである。(pp.579-580)
ヴ ァヒ ドの生 涯と 業績に 関し て、ヤ ズド で起こ った 出来事 につ いては 、ヴ ァヒド の
親 密な友 人レ ダール ・ル ーから 情報 を得た 。ナ イルズ 戦い の終わ りご ろの出 来事 につ
い ての記 述は 、その 町の 信者モ ラ・ シャフ ィが 聖地に 送っ た詳細 な記 録から 取っ たも
の である 。か れは、 慎重 に調査 して バハオ ラに 報告し てい たので ある 。記録 から もれ
た 出来事 につ いては 、今 後の世 代が 情報を 集め て、後 世の ために 記録 を残す こと を望
ん でいる 。こ の物語 には 多くの 空白 が残さ れて いるが 、そ のこと につ いては 大目 に見
て 下さる よう 読者に お願 いする 次第 である 。わ たしの 後に 、それ らの 感動的 な出 来事
に ついて 余す ところ なく 情報を まと め、編 さん する人 が出 てくる であ ろう。 それ によ
り 、空白 が埋 められ るこ とを願 って やまな い。 それら の出 来事の 意義 は、現 在の われ
われにはまだ、ほとんど理解できないのである。
第二十五章
バ ハオラのカルベラへの旅
こ の啓 示の初 期の 出来事 につ いて書 きは じめて 以来 、わた しは 、バハ オラ の口か ら
時 折聞い た計 り知れ ない ほど貴 重な 言葉を 含め ようと 固く 決心し てい た。そ れら の言
葉 は、バ ハオ ラから わた しにだ け宛 てられ たも のもあ るし 、バハ オラ の面前 で、 わた
し が仲間 の信 者たち に語 ったも のも あるが 、そ れらは 主に 、すで に叙 述した 出来 事に
関 するも ので あった 。た とえば 、バ ダシュ トの 大会に つい てのバ ハオ ラの見 解、 その
最 後の段 階で 起こっ た騒 ぎへの バハ オラの 言及 などで 、そ れらを 含め ること によ り、
わたしの物語を豊かで、貴重なものにしたいと願っているのである。
わ たし (著者 )は 、ザン ジャ ンの戦 いの 叙述を 終え たとき 、バ ハオラ の面 前に案 内
さ れ、ほ かの 多数の 信者 たちと 共に 、祝福 を受 けた。 かた じけな くも 、二回 にわ たっ
て その祝 福を 受けた ので ある。 二回 ともに 、バ ハオラ がア ガ・カ リム (バハ オラ の実
弟 )の家 に滞 在され た四 日間に 起こ った。 それ は、バ ハオ ラが実 弟の 家に到 着さ れて
二 日目と 四日 目の夜 であ った。 四日 目は一 八八 九年一 月九 日にあ たる 。その 日、 サル
ヴ ェスタ ンと ファラ ンか ら来た 巡礼 の一群 と土 地の信 者何 人かと 共に 、バハ オラ の面
前に案内されたのである。(p.582)
バハオラはつぎのように述べられた。
「神に賛美あれ。この啓示で、信者に語るべき
基 本はす べて 明らか にさ れた。 わが 書で、 信者 の義務 は明 確に定 めら れ、取 るべ き行
動 は明白 に説 明され てい る。今 こそ 立ち上 がり 、義務 を果 たすと きで ある。 われ が与
え た勧告 を行 動で示 すと きだ。 皆の 神に対 する 愛、心 に燃 え立つ 愛に よって 、中 庸の
度 を越さ ない ように 、ま た、わ れが 定めた 限界 を踏み 越え ないよ うに 気をつ けよ 。こ
れに関して、われはイラク滞在中に、ムセイ・ゴミにつぎのように書いた。『もし、信
仰 と確信 の泉 から、 知識 の川を すべ て飲み 干し ても、 友人 にも敵 にも 、その おど ろく
べ き内容 を口 からも らさ ないよ うに 自制し なけ ればな らな い。心 が神 への愛 で燃 え上
が ってい ても 、ほか の人 の目に は内 部の興 奮が わから ない ように 、そ して、 魂が 大洋
の ように 波立 ってい ても 、表情 は平 静に、 また 、強烈 な感 情を態 度に 現わさ ない よう
に気をつけなければならない。』
わ れは 、何時 であ れ、自 分自 身もこ の大 業もか くそ うとし たこ とはな いこ とを神 は
ご 存知で ある 。学識 者の 衣は身 につ けてい ない が、ヌ ール とマザ ンデ ランで 、高 い学
識をもつ者たちと何度も論じ、この啓示が真実であることを納得させることができた。
わ れは、 決断 をひる ませ たこと はな く、だ れが 挑戦し てき ても、 すべ てため らわ ずに
受 けた。 当時 われが 語り かけた 者は すべて 、わ れの呼 びか けに応 じ、 その教 えを 信じ
る 準備が でき ていた 。バ ヤンの 人び と(バ ブの 信者) が恥 ずべき 行動 を取り 、わ れが
成 就した 仕事 を汚さ なか ったな らば 、ヌー ルと マザン デラ ンの住 民は 全部こ の大 業を
受け入れ、今では、重要な拠点となっていたであろう。(pp.582-583)
メ ヘデ ィ・ゴ リ王 子の率 いる 軍隊が 、タ バルシ の砦 を包囲 した とき、 われ はヌー ル
を 出て、 その 勇敢な 防御 者たち を援 助しよ うと 決心し た。 アブド ル・ ヴァハ ブと いう
仲 間を先 に送 り、わ れの 到着を 砦の 一団に 知ら せても らう 予定で あっ た。敵 軍に 包囲
さ れてい たが 、われ は、 不動の 信念 をもっ た砦 の仲間 と運 命を共 にし 、危険 を冒 す決
意 であっ た。 しかし なが ら、そ のよ うな定 めで はなか った のであ る。 全能者 は、 われ
を 砦の一 団と 運命を 共に させず 、今 後の事 業の ために われ を守ら れた のであ る。 神の
計 りがた い英 知によ り、 わが意 図は 、砦に われ が到着 する 前に、 ヌー ルの住 民た ちを
通して、アモルの知事(代理)ミルザ・タギに伝えられたのである。そこで、ミルザ・
タ ギは兵 士を 送って われ と仲間 を捕 らえた 。わ れが紅 茶を 飲みな がら 休んで いる と、
と つぜん 、騎 兵隊が 現わ れてわ れを 取り囲 み、 われと 仲間 の所持 品と 馬を略 奪し た。
そ の代わ りに 、きわ めて 乗り心 地の 悪い貧 弱な 馬をあ たえ たので ある 。わが 仲間 は、
手 錠をか けら れ、ア モル に連行 され た。わ れの 到着で 、住 民の間 に騒 動が起 こり 、僧
侶 の反対 にも かかわ らず 、ミル ザ・ タギは われ を救い 出し 、自宅 に案 内して 、手 厚く
もてなしてくれた。時折、ミルザ・タギは、僧侶の執拗な圧力に屈することもあった。
か れらが 、わ れに害 をあ たえる のを 阻止で きな いと感 じた のであ る。 われが まだ 知事
の 家に滞 在し ていた とき 、マザ ンデ ランで 軍隊 に参加 して いたサ ルダ ール( 知事 )が
ア モルに もど ってき た。 われが 虐待 を受け たこ とを知 ると 、知事 は、 ミルザ ・タ ギを
叱 責した 。か れが、 われ を敵か ら守 れなか った からで あっ た。そ して 、憤慨 して こう
言 った。『こ れらの 無知 な者ら を非 難して どう するの か。 そんな に重 要なの か。 なぜ、
僧侶の抗議に左右されたりするのか。
(バハオラの)一団が目的地に行くのを阻止する
だ けで十 分で あった 。か れらを この 家に留 めな いで、 すぐ テヘラ ンに 安全に どら すべ
きであったのだ。』
サ リで も、わ れは 住民か ら侮 辱を受 けた 。この 町の 名士の 大半 は、わ れの 友人で あ
り 、数回 にわ たって テヘ ランで われ に会っ たこ とがあ った が、わ れが 、ゴッ ドス とい
っ しょに 街路 を歩い てい ると、 われ われを のの しりは じめ たので ある 。どこ へ行 って
も、
『バビだ!
バビだ!』という叫びを聞いた。かれらのはげしい非難を避けること
はできなかった。(pp.583-584)
テ ヘラ ンで、 われ は二度 投獄 された 。そ れは、 残酷 な迫害 者か ら、無 実の 人びと を
守 るため に立 ち上が った ためで あっ た。最 初の 投獄は 、モ ラ・タ ギ( タヘレ の義 父)
が 殺害さ れた あと、 無実 の者ら が捕 らえら れ不 当な厳 罰を 受けた ので 、その 者ら に援
助の手を差しのべたときであった。二回目の投獄はより苛酷なものであった。それは、
無 責任な 信者 が国王 の命 をうば おう とした のが 原因で あっ た。投 獄の 後、わ れは バグ
ダ ッドに 追放 された が、 そこに 到着 後まも なく して、 クル ディス タン の山に 入り 、あ
る 期間、 完全 に孤独 の生 活を送 った 。人家 から 三日間 はか かる遠 隔の 山の頂 上に 宿っ
た 。まっ たく 不自由 な生 活であ った 。シェ イキ ・エス マイ ルとい う者 が、わ が住 居を
発見し、必要としていた食料品を持参するまで、われは完全に孤独であった。
バ グダ ッドに もど って、 大変 おどろ いた ことに 、バ ブの大 業は 極度に おろ そかに さ
れ 、その 影響 力は弱 まり 、その 名さ へほと んど 忘れら れて いた。 そこ でわれ は、 バブ
の 大業を 再生 し、堕 落か ら救い 上げ るため に立 ち上が った 。当時 、恐 怖と困 惑で 混乱
し ていた わが 仲間た ちに 、バブ の大 業の基 本的 な真理 を、 固い決 意で 大胆に くり 返し
て 説き、 熱意 を失っ た者 らすべ てが 、ふた たび バブの 信教 を熱烈 に支 持する よう に呼
び かけた 。わ れはま た、 世界の 人び とにも 呼び かけ、 バブ の啓示 の光 に目を すえ るよ
うに勧めた。
ア ドリ アノー プル から出 発後 、コン スタ ンチノ ープ ルの政 府役 人の間 で、 われと わ
が 仲間を 海に 投げ入 れる べきか どう かとい う論 議が起 こっ た。こ の論 議が、 ペル シャ
に とどき 、わ れわれ が実 際に海 に投 げ入れ られ たとい うう わさが 生じ た。と くに コラ
サ ンでは 、わ が仲間 はひ じょう に不 安にな った 。アー マド ・アズ ガン ディは 、こ の知
ら せを聞 くと すぐ、 その ような うわ さは、 いか なるこ とが あって も信 用でき ない と、
断言したと伝えられている。
『もし、そのうわさが真実であれば、バブの啓示は、まっ
たく根拠のないものであるとみなさなければならない。』われわれがアッカの牢獄都市
に 無事到 着し たとの 知ら せを受 けて 、わが 友人 たちは よろ こび、 コラ サンの 信者 たち
の アーマ ド・ アズガ ンデ ィの信 念に 対する 賞賛 も高ま り、 また、 かれ に対す る信 頼感
も深まった。(pp.585-586)
最 大牢 獄から 、わ れは世 界の 為政者 と国 王数人 に書 簡を送 り、 神の大 業を 信奉す る
よ うに呼 びか けた。 ペル シャ国 王に は、バ ディ という 使者 に書簡 をも たせ、 国王 に手
渡 すよう に命 じた。 バデ ィは、 その 書簡を 群衆 の前で 高く かかげ 、声 をあげ て国 王に
書 簡の言 葉に 注意す るよ うに求 めた 。ほか の書 簡も、 それ ぞれの 受取 人にと どい た。
フ ランス 皇帝 にあて た書 簡に、 かれ の大臣 から 返事を 受け 取った 。そ の原文 は、 今、
最 大の枝 (ア ブドル ・バ ハ)が 保有 してい る。 フラン ス皇 帝には 、つ ぎの言 葉を 宛て
た。『おお、フランス皇帝よ。僧侶らに、もはや鐘を打たないように命ぜよ。なぜなら
見 よ。最 も強 大な鐘 が、 主なる 神の 御手で 打た れてい るか らであ る。 それは 、神 が選
ばれた者に顕示されている。』ロシア皇帝にあてた書簡だけは送り先にとどかなかった
が 、かれ に宛 てたほ かの 手紙は とど いた。 この 書簡も やが て皇帝 の手 に渡さ れる であ
ろう。
皆 がこ の大業 を認 めるこ とが できた こと を神に 感謝 せよ。 この 祝福を 受け た者は 、
以 前ある 行い をし、 神の 定めに より 、それ を通 して、 真理 に導か れ、 受け入 れる こと
となったのである。しかし、本人は、その行いの性格については何も気づいていない。
こ の祝福 を失 ってい る者 につい て言 うと、 かれ ら自身 の行 いのみ が、 この啓 示の 真理
を 認める こと を妨げ てい るので ある 。この 光を 受けた 皆は 、人び との 中から 、迷 信と
不信の暗やみを一掃するために全力をつくすように念願している。行いで信仰を示し、
誤りにある人たちを永遠の救済の道に導くことができるように祈る。この夜のことは、
け っして 忘れ 去られ るこ とはな い。 時間の 経過 によっ ても 消され るこ とはな い。 永遠
に人びとに語り継がれるであろう。」(p.586)
バ ブの 宣言日 から 七回目 の新 年は、 一八 五一年 三月 二一日 で、 ザンジ ャン の戦い の
終 末から 一ヵ 月半が たっ ていた 。同 じ年の 春が 終わり を告 げる六 月の 初旬、 バハ オラ
は テヘラ ンを 離れ、 カル ベラに 向か われた 。当 時、わ たし (著者 )は バブの 秘書 ミル
ザ ・アー マド と共に ケル マンシ ャー に住ん でい た。ミ ルザ ・アー マド は、バ ハオ ラか
ら 、聖な るバ ブの書 き物 をすべ て集 め、書 き写 すよう に命 じられ てい た。か れは 、バ
ブ の原文 の大 半を所 有し ていた ので ある。 テヘ ランで の七 人の殉 教者 が残酷 な運 命に
会 ったと き、 わたし はザ ランド の父 親の家 に滞 在して いた 。その 後、 聖なる 廟に 参拝
に 行くと いう 理由を つけ てクム に行 くこと がで きた。 しか し、そ こで ミルザ ・ア ーマ
ド を見つ ける ことが でき なかっ たの で、カ シャ ンに向 かっ た。ム セイ ・ゴミ が、 ミル
ザ ・アー マド の居所 を知 ってい るの はカシ ャン に住ん でい るアジ ムだ けであ ると 知ら
せ てくれ たか らであ る。 アジム に会 い、か れと いっし ょに ふたた びク ムにも どっ た。
そ こで、 セイ エド・ アボ ルとい 人に 紹介さ れた 。かれ は以 前ミル ザ・ アーマ ドの ケル
マ ンシャ ーへ の旅に 同行 した人 であ る。ア ジム は、セ イエ ド・ア ボル に、わ たし を町
の 門に案 内す るよう に指 示した 。そ こで、 かれ はわた しに ミルザ ・ア ーマド の滞 在場
所 を教え 、わ たしの ハマ ダンに 行き を準備 して くれる こと になっ た。 セイエ ド・ アボ
ル は、わ たし に、ハ マダ ンでア リ・ タビブ に会 えば、 かれ は、わ たし がミル ザ・ アー
マ ドと会 える 場所に 案内 してく れる と言っ た。 わたし は、 この指 示に 従い、 アリ ・タ
ビ ブの案 内で 、商人 のゴ ーラム ・ホ セイン とい う人に 会っ た。こ の人 が、ミ ルザ ・ア
ーマドが住んでいる家に案内してくれたのである。(p.587)
到 着し てニ、 三日 後、ミ ルザ ・アー マド は、ク ム町 で、カ ンラ ール・ ミル ザの兄 イ
ル デリム ・ミ ルザに 大業 を教え るこ とがで きた ことを 知ら せてく れた 。ミル ザ・ アー
マ ドは、 この 人にバ ブの 書を贈 呈し たいの で、 わたし にそ の役目 を受 けてく れる よう
に頼んだ。イルデリム・ミルザは、当時、ロレスタン州のコルラム・アバドの知事で、
カ ヴェ・ ヴァ レシュ ター ル山中 に、 自分の 軍隊 と野営 して いた。 わた しは、 ミル ザ・
ア ーマド の要 請をよ ろこ んで受 け入 れ、す ぐ出 発する 用意 がある こと を述べ た。 クル
ド 人の案 内人 と共に 、六 日間山 を越 え、森 を通 りぬけ て、 知事の 本営 に到着 した 。そ
こ で、頼 まれ た書を 渡し 、ミル ザ・ アーマ ドへ の返事 をも らった 。そ の返事 は、 贈り
物に対する感謝と大業への献身を約束するものであった。
も どる とすぐ 、バ ハオラ がケ ルマン シャ ーに到 着さ れたと いう うれし い知 らせを 、
ミルザ・アーマドからもらった。バハオラの面前に出ると、ラマダン月であったので、
か れはコ ーラ ンを読 まれ ていた 。わ れわれ は、 バハオ ラが その聖 なる 書を朗 読さ れる
の を聞い て祝 福を受 けた 。わた しは 、イル デリ ム・ミ ルザ が、ミ ルザ ・アー マド に宛
て た手紙 をバ ハオラ に差 し出し た。 バハオ ラは 、それ を読 まれた あと 、この よう に言
われた。
「カジャール王朝に属する者が公言する信仰は信頼できない。その者の信仰の
告 白は偽 りで ある。 かれ は、バ ビた ち(バ ブの 信者) が、 いつか 国王 を暗殺 し、 その
あ と自分 が後 継者と なる 願望を 抱い ている 。バ ブに対 する かれの 愛は 、そう いっ た動
機に駆られているのだ。」ニ、三ヵ月内に、このバハオラの言葉が真実であることがわ
か った。 イル デリム ・ミ ルザは 、セ イエド ・バ シール とい う熱心 な信 者の処 刑を 命じ
たからである。(pp.587-588)
こ の時 点で、 話題 からそ れて 、この 殉教 者がど のよ うに信 者と なり、 死に いたっ た
状 況を簡 潔に 述べて みた いと思 う。 バブは 、宣 言後ま もな く弟子 たち に分散 して 大業
を 普及す るよ うに命 じら れた。 弟子 の中に 、生 ける者 の文 字の一 人、 シェイ キ・ サイ
ド がいた 。か れは、 イン ド全国 に旅 し、バ ブの 教えを 広め るよう に指 示され た。 旅行
中 に、ム ール タン町 を訪 れ、そ こで 、セイ エド ・バシ ール に会っ た。 かれは 、盲 人で
あ ったが 、内 なる目 で、 シェイ キ・ サイド がも たらし た教 えの意 義を すぐ認 める こと
ができた。
か れの 深い学 識は 、大業 の価 値を認 める 妨げに はな らず、 かえ って、 それ により 、
大 業の意 味を 把握し 、そ の威力 を理 解する こと ができ た。 指導者 の地 位にあ るな どと
い う虚飾 をす て、友 人と 親族か らも 離れ、 固い 決意で 、大 業の奉 仕に 自分の 役割 を果
そ うと立 ち上 がった 。ま ず、最 愛な る御方 に会 うため に、 シラズ に巡 礼に出 た。 シラ
ズ で、バ ブが アゼル バエ ジャン の山 に追放 され 、孤独 の生 活を送 って いられ るこ とを
知 ってお どろ き、嘆 いた 。そこ で、 テヘラ ンに おもむ き、 そこか らヌ ールに 行き 、バ
ハ オラに 会っ た。こ の会 見で、 バブ に会え なか ったこ とで 悲嘆し てい たかれ の心 は重
荷 から解 放さ れた。 その 後、会 う人 にはす べて 、その 人の 階級や 信条 にかか わら ず、
バ ハオラ から あり余 るほ ど受け 取っ たよろ こび と祝福 を分 かちあ たえ た。ま た、 バハ
オ ラとの 交わ りを通 して 、魂の 奥底 に注ぎ 込ま れた力 をか れらに あた えるこ とが でき
たのであった。
わたし(著者)は、シェイキ・シャヒドがつぎのように語るのを聞いた。
「わたしは、
真 夏に、 セイ エド・ バシ ールに 会う ことが でき ました 。か れは、 カシ ャンの 名士 たち
が 避暑に 行く ガムサ ール を通過 中で した。 昼夜 、その 村に 集まっ てき た指導 層の 僧侶
た ちと議 論す るのを 見ま した。 かれ は、イ スラ ム教の 難解 な点を 見事 な洞察 力を もっ
て 論じ、 恐れ たりた めら ったり する ことな く、 バブの 大業 の基本 的な 教えを 説明 し、
か れらの 議論 を完全 に論 破しま した 。どれ ほど の学識 と経 験をも つ者 も、か れが 提出
し た大業 の教 えが真 実で あると いう 証拠を 否認 するこ とは できま せん でした 。イ スラ
ム 教の教 えと 法規に つい てのか れの 見識と 知識 はひじ ょう に深く 、そ のため 敵は 、か
れ を妖術 師と みなし 、そ の有害 な影 響で自 分た ちの地 位を 失うの も時 間の問 題だ とお
それたのです。」(pp.589-590)
わ たし はまた 、モ ラ・エ ブラ ヒムが 、セ イエド ・バ シール から 受けた 印象 をつぎ の
よ うに語 るの を聞い た。 かれの 称号 はモラ ・バ シで、 ソル タン・ アバ ドで殉 教し た人
である。
「 セイエ ド・ バシー ルが 晩年、 ソル タン・ アバ ドに立 ち寄 った際 、わ たしは かれ に会
うことができました。そのころかれは、主な僧侶たちと交わりつづけておりましたが、
か れのコ ーラ ンにつ いて の知識 、モ ハメッ ドの ものだ とさ れる伝 承の 知識を しの ぐ者
は だれも いま せんで した 。その 理解 力の見 事さ に敵は 恐れ をなし たの です。 かれ の敵
は 、しば しば 、かれ が引 用した 句が 正確で ある かどう かを 問うた り、 論点を 支え るた
め に用い た伝 承の存 在を 否定し たり しまし た。 それに 対し て、か れは 、イス ラム 教の
伝 承を収 めた 二つの 編纂 集から 、直 ちに必 要な 句を引 き出 して、 自分 の論点 の正 しさ
を 証明し たの です。 同様 に、か れの 議論の 流暢 さと、 論題 を支え る証 拠を引 き出 す手
早さに匹敵する者はいませんでした。」
セ イエ ド・バ シー ルは、 ソル タン・ アバ ドから ロリ スタン に行 き、そ こで 、イル デ
リ ム・ミ ルザ の野営 を訪 れ、特 別待 遇を受 けた 。ある 日、 二人で 会話 中に、 大変 度胸
の あるセ イエ ドがモ ハメ ッド国 王に 言及し たと き、イ ルデ リム・ ミル ザは猛 烈に 怒っ
た 。かれ は、 セイエ ドの 語調と 熱意 に激怒 して 、セイ エド の舌を 首の 後ろか ら引 き抜
く 刑を命 じた のであ る。 セイエ ドは 、この 残酷 な拷問 にお どろく ほど の不屈 の精 神で
耐 えたが 、苦 痛のあ まり 息絶え てし まった 。同 じ週に 、イ ルデリ ム・ ミルザ が弟 カン
ラ ール・ ミル ザを虐 待し たとい う手 紙が、 その 弟によ って 発見さ れた 。弟は すぐ 国王
に 知らせ 、兄 を思う よう に処分 して よいと いう 許しを 得た 。この 弟は 、兄に 対し て抜
き がたい 憎し みを抱 いて いたの であ る。そ こで 、兄の 衣服 をはぎ とり 、裸の まま くさ
り をつけ てア ルデビ ルに 連行し 、そ こで投 獄す るよう に命 じた。 この 兄は、 やが て獄
死した。(p.590)
バ ハオ ラは、 ラマ ダン月 をケ ルマン シャ ーで過 ごさ れた。 親族 の一人 であ るショ ク
ロ ラ・ヌ ーリ とタバ ルシ の戦い を生 き抜い たモ ハメッ ド・ マザン ダラ ニの二 人だ けカ
ル ベラに 同行 させた 。わ たし( 著者 )は、 バハ オラか ら直 接、テ ヘラ ンから 離れ た理
由を聞いた。「あるとき、総理大臣はわれに、面会にくるように要請した。かれは、わ
れ を丁重 に迎 え、わ れを 召した 目的 を明ら かに した。 つぎ のよう に、 おだや かに ほの
めかしたのである。
『あなたの活動の特質とその影響に十分気がついている。また、あ
な たが、 モラ ・ホセ イン とその 仲間 を支持 し、 援助を あた えなか った ならば 、戦 いの
経 験もな い学 生の一 団が 七ヵ月 間も 、国王 の軍 隊を阻 止す ること はで きなか った と確
信 してい る。 一団の 戦い を指揮 し、 学生た ちを 激励し たあ なたの すぐ れた手 腕に 賞賛
の 意を表 さず にはお れな い。し かし 、この 事件 にあな たが 共謀し たと いう証 拠を 得る
こ とがで きな いでい る。 あなた ほど の知謀 に富 んだ者 が、 国家と 国王 に仕え る機 会を
あ たえら れず に、何 もし ないで いる ことは 残念 だと思 う。 そこで 思い ついた のだ が、
国 王がエ スフ ァハン 訪問 を考慮 され ている この 時期に 、あ なたに カル ベラを 訪れ てい
た だきた い。 わたし の意 図は、 国王 がもど られ たとき 、あ なたに 知事 の地位 (ま たは
政 府の高 官の 地位) を付 与され るよ うに準 備す ること であ る。あ なた は、そ の職 務を
見事に果してくれるであろう。』われは、そのような非難に強く異議を申し立て、かれ
が 提供し た地 位を受 け入 れるこ とを 拒否し た。 この会 見の ニ、三 日後 、われ はテ ヘラ
ンからカルベラに向かった。」
ケ ルマ ンシャ ーを 出発す る前 に、バ ハオ ラは、 ミル ザ・ア ーマ ドとわ たし を呼び 出
し 、テヘ ラン に向か うよ うに命 じら れた。 わた しの任 務は 、テヘ ラン に到着 後す ぐヤ
ー ヤに会 い、 かれを シャ ールッ ド近 くの砦 に連 れて行 き、 そこで 、バ ハオラ の帰 りを
待 つこと であ った。 ミル ザ・ア ーマ ドは、 バハ オラの 帰り までテ ヘラ ンに留 まる よう
に 指示さ れ、 同時に 砂糖 菓子の 箱と アガ・ カリ ムに宛 てた 手紙を 託さ れた。 アガ ・カ
リ ムはそ の箱 を、最 大の 枝(ア ブド ル・バ ハ) とかれ の母 親が住 んで いるマ ザン デラ
ンに送るようになっていた。(p.591)
わ たし はヤー ヤに バハオ ラの メッセ ージ を伝え たが 、かれ はテ ヘラン を離 れるこ と
を 拒否し た。 そして 、わ たしに ガズ ビンに 行く ように 指示 し、何 通か の手紙 をガ ズビ
ン の友人 たち に渡す よう に強制 した のであ る。 テヘラ ンに もどっ たわ たしは 、親 族の
要 請で、 やむ を得ず ザラ ンドに 行く ことに なっ た。そ のと き、ミ ルザ ・アー マド は、
わ たしが 再度 テヘラ ンに もどれ るよ うに手 配す ると約 束し てくれ 、後 日その 約束 を果
してくれた。
二 ヵ月 後、わ たし は、ふ たた び、ミ ルザ ・アー マド と共に ノウ 門の外 にあ る隊商 宿
で 冬を過 ごし た。そ の間 かれは 、バ ブが著 わし た「ペ ルジ ャン・ バヤ ン」と 「ダ ラエ
ル ・サベ 」の 二冊を 大変 熱心に 写し た。そ して 、わた しに 「ダラ エル ・サベ 」の 写本
二 冊を、 ママ レクと タフ ァルシ の二 人に渡 すよ うに頼 んだ 。ママ レク はそれ を読 んで
深 く感動 し、 信者と なっ た。し かし 、タフ ァル シの見 解は まった く異 なって いた 。ア
ガ・カリムが出席した集まりで、信者の活動について否定的な感想を述べたのである。
「この宗派は、いまだに活発で、弟子たちは懸命に、その教えをひろめている。先日、
若 者の弟 子が きて、 わた しに一 冊の 論説書 を渡 した。 わた しは、 この 本をき わめ て危
険 なもの であ ると見 てい る。一 般の 人がそ れを 読めば 、か ならず その 語調に まど わさ
れるであろう。」
ア ガ・ カリム は、 タファ ルシ が言及 して いる本 は、 ミルザ ・ア ーマド が贈 ったも の
で 、自分 がそ の使い とな ってか れに 渡した もの である こと をすぐ 悟っ た。そ の日 のう
ち に、ア ガ・ カリム は、 わたし にタ ファル シを 訪問し 、そ のあと ザラ ンドの 故郷 にも
ど るよう に忠 告した 。同 時に、 ミル ザ・ア ーマ ドには 、す ぐクム に向 かうこ とを 勧め
る ように 、わ たしに 頼ん だ。か れと わたし の二 人は危 険に さらさ れて いると 、ア ガ・
カリムは見たからである。ミルザ・アーマドの指示に従い、わたしはタファルシから、
そ の本を 返し てもら うこ とがで きた 。その 後ま もなく して 、ミル ザ・ アーマ ドに 別れ
を 告げた が、 それ以 来か れに会 って いない 。つ まり、 ある 地点ま でか れに同 行し 、そ
こから、かれはクムに向かい、わたしはザランドに向かったのである。(p.592)
一 八五 一年の 八月 、バハ オラ はカル ベラ に到着 され た。こ の聖 なる町 に向 かう途 中
で 、バハ オラ はバグ ダッ ドにニ 、三 日滞在 され た。バ グダ ッドは 、バ ハオラ がそ の後
ま もなく 再訪 するこ とに なって いた 都市で 、そ こでか れの 大業が 熟し 、世界 に明 らか
に される 運命 にあっ た。 バハオ ラが カルベ ラに 到着さ れた とき、 その 町の名 士の 多く
が 、セイ エド ・オロ ヴの 有害な 影響 の犠牲 とな り、か れの 支持者 とな ってい た。 その
中 には、 シェ イキ・ ソル タンと ジャ ヴァド がい た。か れら は、迷 信に おぼれ 、オ ロヴ
を 聖霊の 顕現 だと信 じて いた。 シェ イキ・ ソル タンは 、オ ロヴの 弟子 の中で も、 もっ
と も熱心 で、 自分は オロ ヴに次 ぐ国 民の重 要な 指導者 であ ると思 って いた。 バハ オラ
は 、かれ に数 度会い 、慈 愛と勧 告に より、 その むだな 空想 をのぞ き、 みじめ な隷 属状
態 からか れを 解放し て、 バブの 大業 の固い 信者 となし 、信 教普及 の熱 望を心 に燃 え立
た された ので ある。 かれ の同胞 弟子 たちは 、そ のおど ろく べき即 座の 改宗を 見て 、つ
ぎ からつ ぎへ と、オ ロヴ への忠 誠を すて、 バブ の大業 を受 け入れ た。 弟子た ちか ら見
捨 てられ 、軽 蔑され たオ ロヴは 、つ いに、 バハ オラの 権威 とその 高い 地位を 認め ざる
を 得なく なっ た。そ して 、自分 の行 動を後 悔し 、今後 一切 、自分 の理 論や主 義の 唱導
を中止すると誓いさえしたのである。
こ のカ ルベラ 訪問 中のこ とで ある。 バハ オラは 散歩 の途中 でゾ ヌジに 出会 い、後 日
バ グダッ ドで 使命を 宣言 する予 定だ という 秘密 を打ち 明け られた 。バ バオラ は、 ゾヌ
ジ が「約 束さ れたホ セイ ン」を 熱心 に探し てい るのを 見ら れたの であ る。バ ブは 、深
い 愛情を 込め てその 御方 に言及 して おり、 ゾヌ ジに、 カル ベラで その 御方に 会え ると
約 束して いた のであ る。 前の章 で、 ゾヌジ とバ ハオラ の出 会いに つい ての状 況は すで
に述べた。その日以来、ゾヌジは、新しく発見した聖なる師の魅力に魅されていった。
も し自制 する ように と忠 告され なか ったな らば 、カル ベラ の住民 に、 かれら が待 望し
てきた「約束されたホセイン」が再来されたことを公言していたであろう。(pp.593-594)
バ ハオ ラの内 部に ひそむ 威力 を感じ 取っ た者ら の中 には、 アリ ・タビ ブが いた。 か
れ の心に まか れた種 は、 成長し 、強 固な信 仰に 開花し た。 激烈な 迫害 も、そ の信 仰を
消 すこと はで きなか った 。バハ オラ も、か れの 献身、 高潔 さ、目 的遂 行への 専心 を証
言 してい る。 この信 仰に より、 やが て、か れは 殉教の 場へ とみち びか れるこ とに なっ
た 。アブ ドル ・マジ ドの 息子、 アブ ドル・ ヴァ ハブも 同じ 運命を 共に した。 かれ は、
カ ルベラ で店 を開い てい たが、 聖な る師( バハ オラ) に従 うため に、 全財産 を放 棄し
た いとい う衝 動に駆 られ た。し かし バハオ ラは 、テヘ ラン に召さ れる まで、 仕事 を離
れ ず、生 計を 立てる よう にかれ に忠 告し、 忍耐 するよ うに 励まし 、い くらか のお 金を
あ たえて 、店 を拡大 する ように すす めた。 それ でも仕 事に 専心で きな かった かれ は、
テ ヘラン に行 き、そ こで バハオ ラが 投獄さ れた 地下牢 に投 げ入れ られ 、バハ オラ のた
めに殉教したのである。
ミ ルザ ・シラ ジも またバ ハオ ラに惹 かれ 、最後 の息 を引き 取る まで大 業の 熱心な 支
持 者とな った 。かれ は自 己をす て、 深い献 身を もって 大業 に奉仕 した 。それ は十 分に
称 賛でき ない ほどの もの で、友 人に も見知 らぬ 人にも 同じ ように 、バ ハオラ から 受け
た 影響が いか におど ろく べきも ので あった かを 語り、 信者 になる 前後 に目撃 した もろ
もろの不思議な出来事を熱心に述べたのであった。(p.594)
第二十六章
国 王の暗殺未遂事件とその結果
一 八五 二年、 バブ の宣言 から 八回目 の新 年、バ ハオ ラはま だイ ラクに 滞在 中で、 教
え をひろ めな がら、 新し い啓示 の基 盤を固 めて いた。 かれ は分散 した バブの 弟子 たち
の 気力復 活と 人材組 織と 活動の 指導 に専心 しつ づけて いた が、そ の熱 意と能 力は 、こ
の運動の初期に、かれがヌールとマザンデランで示した活動を思わせるものであった。
敬 愛する 指導 者(バ ブ) の残酷 な殉 教と仲 間た ちの悲 劇的 な運命 を目 撃して 方向 を失
っ た弟子 たち は、暗 黒に 取り巻 かれ ていた が、 その中 での 唯一の 光は バハオ ラで あっ
た。バハオラだけが、かれらに勇気と不屈の精神をあたえて鼓舞し、それにより、数々
の 苦難に 耐え ること がで きたの であ る。バ ハオ ラだけ が、 今後定 めら れてい る重 荷に
耐 え得る よう にかれ らを 準備し 、ま た、ま もな く直面 する であろ う嵐 と危機 に立 ち向
かわせることができたのであった。 (p.595)
そ の年 の春に 、ナ セルデ ィン 国王の 総理 大臣タ ギ・ カーン が、 カシャ ン近 くのフ ィ
ン の公衆 風呂 で死亡 した 。(国 王の 命令で 処刑 された ので ある。)か れは、 バブ とその
弟 子たち に、 恥ずべ き蛮 行を加 え、 信教の 急速 な発展 を必 死にな って つぶそ うと した
が、みじめにも失敗した。かれの名声と栄誉は、死とともに消滅する運命にあったが、
か れが抹 消し ようと した バブの 影響 は消え るこ とはな かっ た。か れが ペルシ ャの 総理
大 臣であ った 三年間 、そ の職務 は最 悪の破 廉恥 行為で 汚さ れた。 バブ が築い た組 織を
破 壊する ため に、何 とい う残忍 な方 法を用 いた ことか 。大 業を恐 れ、 憎んで いた かれ
は 、その 活力 をうば うた めに、 何と いう裏 切り 手段に 訴え たこと か。 総理大 臣に 就任
し た年に 、国 王軍を 送っ て、タ バル シの砦 の防 御者た ちに 非道な 猛攻 撃をか け、 神の
信 教を守 る無 実な人 びと を、ど れほ ど残酷 に抑 圧しよ うと したこ とか 。どれ ほど の怒
り と大胆 さを もって 、ゴ ッドス とモ ラ・ホ セイ ンをは じめ 、国民 の中 で最も 高貴 な三
百 十三人 の処 刑を主 張し たこと か。 任期二 年目 は、首 都テ ヘラン 内の 信教を 根絶 する
た めに、 どれ ほどの 残忍 きわま る決 意をも って 奮闘し たこ とか。 テヘ ラン内 に住 む信
者 たちの 逮捕 を認可 した のもこ の総 理大臣 であ った。 テヘ ランの 七人 の殉教 者の 処刑
を 命じた のも かれで あっ た。ヴ ァヒ ドとそ の仲 間に対 する 攻撃を 許可 したの もか れで
あ った。 かれ は、ヴ ァヒ ドに対 して 復讐運 動を 起こし 、ヴ ァヒド の迫 害者た ちを そそ
の かして 、忌 まわし い非 行を犯 させ たので ある 。この 事件 へのか れの 関わり は永 久に
変 わるこ とは ない。 さら に同じ 年に 、それ まで の迫害 より もはる かに 激烈な 打撃 をバ
ブ の共同 体あ たえた 。そ れは、 バブ の命を 悲劇 的に終 わら せると いう 打撃で あっ た。
か れは、 努力 しても 抑圧 できな かっ たバビ 共同 体の力 の源 泉であ るバ ブを殺 害し たの
で ある。 かれ の晩年 の運 動は、 自ら 巧妙に 編み 出した 大規 模な迫 害運 動の中 でも 、最
も 残忍で 、永 久に残 るも のであ る。 それは 、ホ ツジャ トと 仲間千 八百 人の虐 殺に かか
わ る運動 であ った。 これ が、ペ ルシ ャでも めっ たに見 られ ない恐 怖政 治で始 まり 、恐
怖政治で終わった総理大臣の生涯の著しい特徴であった。(pp.595-598)
後 継者 のアガ ・カ ーンは 、総 理大臣 にな るとす ぐ、 政府と バハ オラの 間に 和解を も
た らす仕 事に とりか かっ た。か れは 、バハ オラ をバブ の弟 子の中 で最 も有能 な人 物だ
と みなし てい た。そ こで バハオ ラに 温かい 手紙 を送り 、テ ヘラン にも どって 自分 と会
見 するよ うに 求めた 。バ ハオラ は、 その手 紙を 受け取 る前 に、す でに イラク から ペル
シャに向かうことを決めていた。
バ ハオ ラは、 一八 五二年 のラ ジャブ の月 (四月 二十 一日か ら五 月二十 一日 の間) に
テ ヘラン に到 着した 。総 理大臣 の弟 ゴリ・ カー ンがバ ハオ ラを出 迎え た。か れは その
任 務を命 じら れてい たか らであ る。 丸一ヵ 月間 、バハ オラ は総理 大臣 の賓客 であ った
が 、その 接待 は、総 理大 臣に代 わっ てその 弟が 担当し た。 多数の テヘ ランの 名士 や高
官 が、バ ハオ ラに会 見す るため に群 がって きた ため、 バハ オラは 自宅 にもど るこ とが
で きなか った 。その ため 、シェ ミラ ンに向 けて 出発す るま でゴリ ・カ ーンの 家に 滞在
しつづけた。(pp.598-599)
シ ェミ ランへ の旅 の途中 で、 バハオ ラが アジム に会 ったこ とを 、わた し( 著者) は
ア ガ・カ リム から聞 いた 。アジ ムは バハオ ラに 会うた め長 い間努 力し てきて いた 。バ
ハ オラは アジ ムに、 かれ の計画 (ナ セルデ ィン 国王暗 殺計 画)を すて るよう に、 ひじ
ょ うに強 い言 葉で忠 告し た。バ ハオ ラは、 アジ ムの陰 謀を 非難し 、か れが犯 そう とし
て いる非 行か ら自分 を完 全に切 り離 し、こ う警 告した 。そ れを実 行す れば、 これ まで
以上の大災難がふりかかってくるであろうと。
バハオラが、ナセルディン国王暗殺未遂事件を知らされたのは、ラヴァサンに行き、
総 理大臣 所有 のアフ チェ ー村に 滞在 してい ると きであ った 。ゴリ ・カ ーンは つづ けて
総 理大臣 に代 わって バハ オラを 接待 してい た。 その事 件は 、一八 五二 年八月 十五 日に
起 こった 。低 い身分 の無 責任な 二人 の若者 によ る犯行 であ った。 二人 の名前 はサ ディ
ク ・タブ リズ とファ ソラ ・ゴミ で、 共にテ ヘラ ンで生 計を 立てて いた 。国王 自ら 率い
る 国王軍 がシ ェミラ ンで 野営中 に、 このお ろか な二人 が、 虐殺さ れた 仲間の ため に復
讐 しよう と、 絶望の あま り狂乱 状態 となり 犯行 におよ んだ のであ った 。これ がい かに
愚 行であ った かは、 かれ らが用 いた 銃で明 らか になっ た。 国王の 命を 狙うの に、 効果
的 な武器 を用 いる代 わり に、理 性の ある人 であ れば絶 対用 いない よう なピス トル を使
っ たから であ る。も し、 かれら の犯 行が、 判断 力と常 識の ある人 から 扇動さ れた ので
あ れば、 その 人はけ っし て、そ のよ うな役 に立 たない 武器 を使わ せる ことは なか った
であろう。(pp.599-600)
こ の犯 行は、 乱暴 で薄弱 な狂 信者二 人に よるも ので 、また かれ らは、 最高 の責任 者
で あるバ ハオ ラから その ような 行動 は絶対 避け るよう にと 強く忠 告さ れてい たの であ
る が、そ の後 つづい た迫 害と虐 殺の はじま りと なった 。そ の残忍 さは 、マザ ンデ ラン
と ザンジ ャン での残 虐行 為に匹 敵す るもの であ った。 その 犯行が 起こ した嵐 で、 テラ
ン 市全体 は驚 愕と苦 悩の ただ中 に投 げ込ま れた 。それ まで に、度 重な る迫害 を生 き抜
い た仲間 たち の生命 も、 この事 件に まき込 まれ た。そ の結 果、バ ハオ ラと有 能な 弟子
た ちのう ち何 人かは 共に 、不潔 きわ まる暗 黒の 地下牢 に投 げ込ま れる ことに なっ たの
で ある。 何人 もが熱 病に かかり 、バ ハオラ は、 極悪の 犯罪 者にか けら れるひ じょ うに
重 いくさ りを 首にか けら れ、そ の重 圧で四 ヵ月 間苦し んだ 。その 残酷 な仕打 ちの なま
なましい傷跡は、生涯消えることはなかった。
国 王と 国家機 構が 脅威に さら された こと で、ペ ルシ ャの聖 職者 全体が 怒り で燃え 上
が った。 かれ らは、 これ ほどの 大胆 な犯行 には 、即刻 それ 相当の 刑罰 があた えな けれ
ば ならな いと 考えた 。政 府とイ スラ ム教を 飲み 込もう とし ている 潮流 をせき 止め るた
め には、 これ まで以 上の きびし い処 置が必 要だ とさわ ぎ立 てたの であ る。バ ブの 信教
が 始まっ て以 来、信 者た ちは全 国の いたる とこ ろで自 制し てきて おり 、また 、指 導的
立 場にあ る弟 子は仲 間に 、暴力 行為 を避け 、政 府に忠 実に 従い、 聖戦 の意図 はな いこ
と を明確 にす るよう に、 くり返 し訓 示して きた 。にも かか わらず 、敵 は、バ ブの 信教
の 特質と 目的 を、政 府当 局に故 意に あやま り伝 えてい た。 そうい う時 期に、 大業 の信
者 が重大 な過 失を犯 した ため、 敵は これ幸 いに 、その 非難 を大業 に向 けてき たの であ
る 。つい に、 為政者 に、 国家の 基盤 をおび やか してい る異 教の迅 速な 根絶を 認識 させ
る時期がきたように見えた。
国 王が 襲撃さ れた とき、 シェ ミラン にい たゴリ ・カ ーン( 総理 大臣の 弟) は、た だ
ちにバハオラに手紙を書き、その事件を知らせた。
「国王の母上は激怒されており、息
子 の殺害 を試 みたの はあ なたで ある と、宮 中で も民衆 の前 でも公 言さ れてい ます 。さ
ら に、か の女 はアガ ・カ ーン( 総理 大臣) をも この事 件に まき込 もう とされ てお り、
かれを、あなたの共犯者であると非難されています。」そして、バハオラに、大衆の激
情 がしず まる まで、 近く でしば らく 身を隠 すよ うにす すめ た。ア ガ・ カーン は、 熟練
し た老人 の使 者をア フチ ェに送 り、 バハオ ラに 仕え、 バハ オラの 望ま れる安 全な 場所
への案内準備を命じた。(pp.601-602)
し かし 、バハ オラ はゴリ ・カ ーンの 提案 をこと わり 、使者 の申 し出も 無視 して、 翌
朝 まった く平 静に、 ラヴ ァサン から 当時シ ェミ ラン区 のニ ヤヴァ ラン に置か れて いた
国 王軍の 本営 に向か った のであ る。 そして 、ニ ヤヴァ ラン の近く にあ るザル カン デェ
村 に到着 した 。その 村に はロシ アの 公使館 があ り、バ ハオ ラの義 弟の ミルザ ・マ ジッ
ドが迎えにきて、自宅に滞在するように招待した。この義弟は、ロシア公使の秘書で、
公 使の家 の隣 に住ん でい た。政 府高 官ハジ ・ア リ・カ ーン の従者 はバ ハオラ を認 め、
す ぐ自分 の主 人に伝 えた 。そこ で、 ハジ・ アリ ・カー ンは 、バハ オラ の到着 を国 王に
知らせた。
バ ハオ ラの到 着の 知らせ に、 国王軍 の士 官たち はび っくり した 。ナセ ルデ ィン国 王
も 、自分 の暗 殺の扇 動者 として 非難 されて いる 本人が 取っ た大胆 で思 いがけ ない 行動
に 大変お どろ いた。 そし て、す ぐ信 頼でき る士 官を公 使館 に送り 、そ の罪に 問わ れて
いる者(バハオラ)を引き渡すように要求した。ロシア公使は、その要求をことわり、
バ ハオラ に総 理大臣 の家 に向か うよ うに要 請し た。か れは 、今の 状況 下では その 家が
最 適だと 考え たので あっ た。バ ハオ ラがこ の要 請に同 意し たので 、公 使は、 総理 大臣
に公式に伝え、こう警告した。
「わが政府があなた委任するバハオラを安全に保護され
る ように 、細 心の注 意を はらっ てい ただき たい 。そう され ない場 合は 、あな たが 責任
を負うことになる。」(p.603)
総 理大 臣は、 要請 通りに する ことを 約束 し、最 高の 敬意を 表し て自宅 にバ ハオラ を
迎 えた。 しか し、自 分の 地位が 危な くなら ない かと心 配し 、約束 通り の歓待 をバ ハオ
ラにあたえることはできなかった。
バ ハオ ラがザ ルカ ンデー 村を 離れよ うと してい たと き、公 使の 娘は、 バハ オラに 生
命 の危機 がせ まって いる のを大 変心 配し、 胸い っぱい にな り、涙 をお さえる こと がで
きなかった。そして、いさめるように父にこう言った。
「家に迎え入れた客を保護でき
なければ、父上の公使としての権限は何の役に立つのですか。」娘に深い愛情をいだい
ていた公使は、その涙を見て心を動かされ、バハオラの命をおびやかしている危機を、
全力をつくしてそらすことを約束し、娘を安心させた。
同 じ日 に、国 王の 軍隊内 は大 さわぎ とな った。 暗殺 未遂事 件後 、国王 がき びしい 命
令 を出し たこ とで、 でた らめな うわ さが流 れは じめ、 近隣 の住民 の激 情をあ おり たて
た のであ る。 さわぎ はテ ヘラン にひ ろがり 、大 業の敵 の心 にくす ぶっ ていた 憎悪 が炎
と なって 燃え 上がっ た。 これま でに 見たこ とが ないほ どの 大混乱 がテ ヘラン をお そっ
た 。非難 の一 語、合 図ま たはさ さや きだけ で、 無実の 人び とが言 語に 絶する ほど の激
烈 な迫害 を受 けた。 生命 と財産 の安 全は完 全に 消えた 。テ ヘラン の聖 職者の 最高 指導
者 たちは 、政 府で最 大の 影響力 をも つ高官 たち と手を 組み 、かれ らの 敵(バ ハオ ラ)
に 、致命 的な 打撃を あた えるこ とに した。 かれ らにと って 、この 敵は 、八年 間国 家の
平 安を大 きく 揺るが して きてお り、 どれほ ど巧 妙な方 法も 、暴力 によ っても 、か れを
黙らすことはできないでいたのである。(pp.604-605)
バブがいなくなった今、バハオラが大敵となった。したがって、バハオラを捕らえ、
投 獄する こと が最初 の義 務だと 感じ た。か れら にとっ て、 バハオ ラは バブの 精神 の再
来 であっ た。 この精 神に より、 バブ は国民 の生 活と習 慣を 完全に 変え ること がで きた
の である 。ロ シア公 使は 、バハ オラ を守る ため に予防 策を とり、 警告 をあた えた が、
バ ハオラ の貴 重な生 命を ほろぼ そう と、固 い決 意をも って 伸ばさ れた 手を阻 止す るこ
とはできなかった。(p.606)
シ ェミ ランか らテ ヘラン に連 行され る途 中、バ ハオ ラは数 回衣 服をは ぎと られ、 の
の しりと あざ けりの 言葉 を浴び せら れた。 真夏 の炎天 下、 裸足で 、シ ェミラ ンか ら前
述 の牢獄 まで 歩かせ られ たので ある 。その 途中 どこに おい ても、 群衆 から石 を投 げつ
け られ、 悪態 をつか れた 。群衆 は、 バハオ ラは 国王の 敵で あり、 国家 の破壊 者で ある
と 信じ込 まさ れてい たの であっ た。 テヘラ ンの シア・ チャ ール( 暗黒 の穴) と呼 ばれ
る 地下牢 に連 れて行 かれ る途中 で、 バハオ ラが 受けた 残酷 な仕打 ちを 描写す る言 葉は
な い。地 下牢 に近づ いた とき、 老女 が、石 ころ をバハ オラ の顔に 投げ つけよ うと 、群
衆 の中か ら出 てきた 。か の女の 目は 、ほか の同 年老女 には めった に見 られな い狂 信的
な 信念で 燃え ていた 。身 体全体 を怒 りでふ るわ せ、石 ころ をもっ た手 を上に あげ なが
ら、一行に追いつこうと走った。そして、護衛にこん願した。「セイエド・ショウハダ
(エマム・ホセイン)に誓ってお願いだ。その男の顔にこの石ころを投げさせてくれ。」
バハオラは背後に近づいてきた老女を見て、護衛に言った。
「この老女が、神から賞賛
されると信じている行為をさせてあげよ。」(p.607)
バ ハオ ラが入 れら れた牢 獄シ ア・チ ャー ルは、 以前 はテヘ ラン の公衆 風呂 の貯水 槽
で あった 。の ちに、 凶悪 犯を監 禁す る地下 牢と して用 いら れてい た。 中は真 っ暗 で、
不 潔きわ まり 、囚人 も悪 質で、 人間 が監禁 され るとこ ろと しては 、最 悪の場 所で あっ
た 。足に はさ らし枷 をは められ 、首 にはく さり をかけ られ た。こ のく さりは 、そ のと
て つもな い重 さで、 全国 で悪名 高か った。 三日 三晩、 バハ オラに は食 べ物も 飲み 物も
与 えられ ず、 睡眠も 休息 もでき なか った。 その 陰惨な 牢獄 には寄 生虫 がむら がり 、も
の すごい 悪臭 がたち こめ ていた 。そ の匂い だけ でも、 そこ に入れ られ た者の 精神 はつ
ぶ されて しま うほど であ った。 バハ オラは 、そ のよう な状 態にお かれ たので ある 。そ
の 悲惨さ を見 て、守 衛の 一人は 哀れ みを感 じ、 数回に わた って、 ひそ かに持 ち込 んだ
茶 をバハ オラ に飲ま せよ うとし た。 しかし 、バ ハオラ はそ れを拒 んだ 。家族 もし ばし
ば 、バハ オラ に食べ させ るため に、 食べ物 を牢 獄内に 持ち 込ませ てく れるよ うに 守衛
に 頼んだ 。最 初は、 どれ ほど頼 んで も、き びし い規則 をゆ るめて もら えなか った が、
徐 々に、 その 熱心な こん 願を聞 き入 れてく れる ように なっ た。し かし 、持参 した 食べ
物 が、実 際バ ハオラ に届 いたか どう かはわ かっ ていな い。 また、 いっ しょに 投獄 され
た 仲間た ちが 飢えて いる のを目 前に して、 バハ オラが その 食べ物 を口 にした かど うか
も わかっ てい ない。 国王 の怒り の犠 牲者と なっ たこれ らの 無実な 人び とにふ りか かっ
た苦難よりきびしいものは想像できない。(pp.608-609)
国 王暗 殺を試 みた 若者サ ディ ク・タ ブリ ズの運 命は まこと に残 酷であ り、 同時に 屈
辱 的であ った 。国王 を馬 から引 きず り落と し、 剣で刺 そう とした 瞬間 取り押 さえ られ
た のであ る。 国王の 従者 二人が 、こ の若者 の正 体を知 るこ となく 、そ の場で 殺害 し、
住 民の興 奮を しずめ るた めに、 その 遺体を 二つ に切り 裂き 、一つ をシ ェミラ ンの 門、
も う一つ をシ ャー・ アブ ドル・ アジ ムの門 に吊 り下げ 、公 衆の目 にさ らした 。国 王に
か すり傷 を負 わせた 若者 の仲間 二人 、ファ ソラ ・ゴミ とハ ジ・ガ ゼム は、残 酷な 仕打
ち を受け 、そ のため 死亡 した。 ファ ソラは 、大 変な虐 待を 受けた が、 尋問に 一切 答え
なかった。どれほど拷問されても沈黙を守っていたので、口がきけない者と思われた。
つ いに、 いら 立った 迫害 者は、 かれ ののど に溶 かした 鉛を 流し込 んだ 。こう して 、か
れの苦しみは終わった。(pp.609-610)
ハ ジ・ ガゼム が受 けた仕 打ち はいっ そう 残忍で あっ た。こ の不 運な男 は、 ソレイ マ
ン が、ひ どい 迫害を 受け たと同 じ日 、シェ ミラ ンで同 じよ うな拷 問を 受けた 。衣 服を
は がれ、 身体 にいく つか の穴を あけ られ、 そこ に点さ れた ローソ クを 差しこ まれ て、
行 進させ られ た。民 衆は 、かれ に向 かって どな り、呪 いの 言葉を 投げ つけた 。こ のよ
う に迫害 者た ちの心 をか き立て る復 讐の念 は、 飽くこ とを 知らな かっ た。毎 日、 あら
た な犠牲 者が 、無実 の罪 のため に血 を流す こと を強い られ たが、 かれ らには 、罪 に問
わ れてい る理 由はま った くわか らな かった ので ある。 テヘ ランの 拷問 屋が思 いつ いた
あ りとあ らゆ る巧妙 な仕 掛けで 、そ れらの 不運 な人び とは 残酷な 拷問 を受け たが 、裁
判 にかけ られ ること も、 尋問さ れる ことも なか った。 無実 を訴え 、証 明する 権利 も一
切無視されたのである。
当 時、 恐怖の 日が 毎日つ づき 、バブ の弟 子二人 が殉 教した 。一 人はテ ヘラ ンで、 も
う 一人は シェ ミラン で殺 害され たの である 。二 人共同 じよ うな拷 問を 受け、 共に 民衆
の 手で復 讐さ れた。 逮捕 された 者た ちは、 さま ざまな 階層 の人び とに 分配さ れた 。そ
れ ぞれ使 いの 者が毎 日地 下牢に 来て 、犠牲 者を 要求し 、処 刑場に 連行 し、民 衆に 攻撃
の 合図を あた えたの であ る。す ると 、男も 女も 、犠牲 者に 近づき 、身 体をバ ラバ ラに
切 断し、 もと の姿が まっ たく消 えて しまう まで 細かく 切り 裂いた ので ある。 その 残酷
さ に、冷 酷き わまる 死刑 執行人 も仰 天した ほど であっ た。 かれら は、 人を殺 すの に慣
れ ていた ので あるが 、民 衆が示 した ほどの 残虐 行為を した ことは なか ったの であ る。
(pp.611-612)
飽 くこ とを知 らな い敵は 、犠 牲者た ちに 身の毛 がよ だつよ うな 拷問を あた えたが 、
そ のうち 、最 悪のも のは ソレイ マン ・カー ンを 死にい たら しめた 拷問 であっ た。 かれ
の 父親ヤ ーヤ ・カー ンは 、モハ メッ ド国王 の父 親ナエ ブス ・サル タネ に仕え る士 官で
あ った。 ソレ イマン は、 若いと きか ら地位 や官 職に対 して まった く気 乗りが しな かっ
た 。バブ の大 業を受 け入 れて以 来、 まわり の人 びとが ささ いなこ とに 没頭し てい るの
を 気の毒 に思 い、ま た軽 蔑を感 じた 。かれ らの 野心の 空し さが手 に取 るよう に見 えた
の である 。ま だ若年 のこ ろ、首 都テ ヘラン の騒 々しさ を逃 れ、聖 なる 町カル ベラ への
隠 遁を切 望し た。カ ルベ ラで、 セイ エド・ カゼ ムに出 会い 、熱心 な弟 子とな った 。こ
の ように 、敬 虔で、 質素 で、隠 遁を 愛好す るこ とがか れの 主な特 徴で あった 。シ ラズ
からバブの宣言がとどくまで、カルベラの滞在したが、この知らせをもたらしたのは、
親友のアルデビリとメヘディ・コイであった。かれは、バブの教えを熱烈に受け入れ、
カ ルベラ から テヘラ ンに もどり 、タ バルシ の砦 の一団 に加 わる予 定で あった が、 到着
が 遅すぎ たた め目的 を果 すこと がで きなか った 。そこ で、 テヘラ ンに 留まり 、カ ルベ
ラ で身に つけ はじめ た衣 服を着 つづ けた。 とこ ろが総 理大 臣は、 小型 のター バン と、
黒 色のマ ント でおお われ た白い チュ ニック とい う姿に 不快 感をも ち、 かれに 軍服 に着
か えるよ うに すすめ た。 そこで 、か れは頭 には 羊皮で つく られた 帽子 をかぶ させ られ
た のであ る。 それは 、か れの父 親の 地位に ふさ わしい もの と考え られ たので あっ た。
さ らに総 理大 臣は、 政府 の要職 につ くよう にと 主張し たが 、かれ は、 その要 請を 固く
こ とわり 、大 半の時 間を 、バブ の弟 子たち 、と くにタ バル シの戦 いを 生き抜 いた 仲間
た ちと過 ごし た。そ して 、仲間 たち におど ろく ほどの 思い やりと 親切 さを示 した ので
あった。
か れと かれの 父親 の影響 力は 強大で あっ たので 、総 理大臣 はか れの命 を取 るどこ ろ
か 、かれ に対 する暴 力行 為を一 切さ けた。 かれ が、親 しく 交際し てい たバブ の弟 子七
人 が殉教 した とき、 かれ はテヘ ラン にいた が、 政府の 官吏 も一般 の住 民も、 かれ の逮
捕 を要求 する ことは なか った。 総理 大臣も 、か れがバ ブの 大業に 奉仕 してい るこ とを
知らされたが、かれとかれの父親と対立するよりも、無視することを選んだのである。
(pp.613-615)
ザ イノ ル・ア ベデ ィンの 殉教 後まも なく してう わさ がひろ まっ た。そ れは 、政府 が
死 刑予定 であ った者 らは 、バブ の秘 書セイ エド ・ホセ イン とタヘ レを 含め、 すべ て釈
放 され、 今後 の迫害 は完 全にな くな ったと いう うわさ であ った。 総理 大臣に つい ても
つ ぎのよ うな うわさ がひ ろまっ てい た。か れは 、自分 の死 期が近 づい ている こと を感
じ 、とつ ぜん 恐怖感 にお そわれ 、悔 恨の苦 しみ の中で 、つ ぎのよ うに 叫んだ とい うう
わさであった。
「わたしは、バブの幻に取りつかれている。わたしが、かれの殉教の原
因 をつく った のだ。 わた しは恐 ろし い間違 いを 犯した 。わ たしに 、バ ブとそ の仲 間の
血 を流す よう に圧力 をか けた者 らの 暴力を 抑え るべき であ った。 今は っきり 分か った
が、国家のためには、そうべきであったのだ。」かれの後継者アガ・カーンも同じよう
に 、総理 大臣 の職務 につ いたと き、 自分と バブ の信者 の間 に、永 続的 な和解 をす る予
定 であっ た。 その準 備を してい たと き、国 王の 暗殺未 遂事 件が起 こり 、その 計画 はつ
ぶされ、首都テヘランは前例のない混乱状態となったのである。(p.615)
わたしは(著者)、当時八才であった最大の枝(アブドル・バハ)からつぎの話を聞
いた。「わたしたちは、叔父ミルザ・エスマイルの家に避難しました。時折、市場に行
く ために 家を 出まし た。 門から 道路 に出る か出 ないう ちに 、外で 走り まわっ てい た同
じ年頃の男の子たちが、わたしのまわりに群がって、
『バビだ!
バビだ!』と叫ぶの
で す。テ ヘラ ンの全 住民 が、年 令を 問わず 興奮 状態に なっ ている のを 知って いま した
の で、か れら の騒ぎ を無 視し、 そっ と家に 帰り ました 。あ る日、 市場 を通っ て叔 父の
家 にもど ろう として いた とき、 振り 向くと 、小 さなご ろつ きたち が、 わたし を追 って
き ていま した 。わた しに 石ころ を投 げつけ 、お どすよ うに 『バビ だ!
バ ビ だ ! 』と
叫 んでい たの です。 この 危険か らの がれる ため の唯一 の方 法は、 かれ らをお どす しか
な いと思 いま したの で、 わたし は向 きを変 えて 、決然 とし て、か れら に向か って 突進
し ました 。す ると、 かれ らはこ わが って逃 げ去 ってし まっ たので す。 遠くか ら、 叫び
が聞こえてきました。
『小さなバビが追っかけてくる!
ぼ くたちはつかまって殺され
る!』家に帰りかけていたとき、ある人が、このように大声で叫ぶのを耳にしました。
『 よくや った 。恐れ を知 らない 大胆 な子だ 。お 前の年 頃の 子が一 人で 、がき たち の攻
撃に逆らえる者はいなかった。』その日以来、近所の少年から悩まされることも、不快
な言葉を耳にすることもなくなりました。」(p.616)
混乱の中で、捕らえられ、投獄された人たちの中にソレイマンがいた。この時点で、
か れの殉 教の 状況に つい て述べ たい と思う 。こ こで語 る内 容は、 わた し自ら 厳密 に調
べ 、確か めた もので ある 。また 、そ の大部 分は アガ・ カリ ムに負 うと ころが 多い 。ア
ガ ・カリ ムは 、当時 テヘ ランに 居住 してお り、 仲間た ちが 受けた 恐怖 と苦悶 を共 にし
ていた。かれはつぎのように語ってくれた。
「ソレイマンが殉教した日、わたしは、ミ
ル ザ・ア ブド ル・マ ジド とテヘ ラン の集ま りに 出席し てい ました 。そ こには 、か なり
の 数の名 士や 著名人 がお り、そ の中 には、 学問 の長モ ラ・ マムー ドが いまし た。 かれ
は 市長に 、ソ レイマ ンの 死の状 況に ついて 述べ るよう に求 めまし た。 市長は 、区 長の
ミ ルザ・ タギ を指し 、宮 殿近く から ナオの 門外 の処刑 場ま でソレ イマ ンを連 行し たの
は かれで ある と述べ まし た。そ こで 、ミル ザ・ タギは その とき見 聞し たこと をす べて
話すことになりました。
『わたしと助手は、九本のローソクを購入し、ソレイマンの身
体に九つの深い穴を開け、それぞれの穴にローソクを突き刺すように命じられました。
そ して、 それ らのロ ーソ クに火 を点 し、ド ラム とトラ ンペ ットの 鳴り 物入り で、 市場
を 通りぬ けて 処刑場 まで 連行し 、そ こで、 かれ の身体 を二 つに裂 き、 それぞ れの 断片
を ナウ門 の両 側に吊 り下 げるよ うに 命じら れた のです 。ソ レイマ ン自 身がこ の殉 教方
法 を選び まし た。国 王は 、政府 の高 官(ハ ジ・ アリ・ カー ン)に 、ソ レイマ ンが 事件
に 関わっ てい たかど うか を調べ 、も し無実 なら ば、か れに 信仰否 認を 説得す るよ うに
命 じまし た。 もし、 信仰 を否認 すれ ば、処 刑は せず、 最終 的な判 断を 下すま で監 禁し
て おくよ うに 、もし 、そ うしな い場 合は、 かれ 自身が 選ぶ 方法で 処刑 するよ うに と命
じたのです。(pp.616-617)
調 査の 結果、 ソレ イマン の無 実が明 らか となり まし た。し かし 、信仰 を否 認する よ
う にと説 得さ れたと き、 ソレイ マン はうれ しそ うに叫 びま した。 <生 命の血 が、 わた
し の血管 に流 れつづ ける かぎり 、最 愛なる 御方 への信 仰を 否定す るこ とは絶 対に あり
え ない!
エ マム・ アリ が腐肉 にた とえた この 世は、 わた しの心 の的 なる御 方か ら、
わ たしの 心を うばう こと は絶対 にな いのだ 。> どの方 法で 命を断 ちた いかと 聞か れた
と き、か れは 即座に こう 答えま した 。<身 体に 九つの 穴を あけ、 それ ぞれの 穴に ロー
ソ クを突 き刺 し、火 を点 して、 テヘ ランの 街路 を歩か せて くれ。 大勢 の人び とを 集め
て 、わた しの 栄光あ る殉 教を目 撃さ せよ。 わた しの死 の状 況が人 びと の心に 刻ま れ、
か れらが わた しのは げし い苦悶 を思 い起こ し、 わたし が受 け入れ た聖 なる光 を認 める
こ とがで きる ように 。絞 首台に たど りつき 、こ の世で の最 後の祈 りを したあ と、 わた
し の身体 を二 つに引 き裂 き、テ ヘラ ンの門 の両 側に吊 り下 げてく れ。 その下 を通 りす
ぎ る大勢 の人 びとが 、バ ブの信 教が 弟子た ちの 心に点 した 愛を目 撃し 、その 献身 の証
拠を見るように。>
高 官は 、ソレ イマ ンの望 み通 りに処 刑す るよう に死 刑執行 人に 命じ、 わた しには 市
場 を通り ぬけ て、処 刑場 までか れを 連行す るよ うに指 示し ました 。死 刑執行 人は 、購
入 してき たロ ーソク をソ レイマ ンに 渡し、 かれ の胸に 短刀 を突き 刺そ うと準 備し てい
た とき、 かれ は、と つぜ ん、そ のナ イフを 死刑 執行人 のふ るえる 手か ら取ろ うと 腕を
の ばしな がら 言いま した 。<な ぜ、 恐れ、 ため らって いる のか。 わた しが自 分で 、胸
に 穴をあ け、 ローソ クを 突き刺 して 火を点 した いのだ 。> わたし は、 かれか ら襲 われ
る かも知 れな いと思 い、 従者に 短刀 を渡さ ない ように 命じ 、また 、か れの両 手を 後ろ
に まわし てく くるよ うに 指示し まし た。か れは 、さら にこ ん願し まし た。< わた しの
指で短刀を突き刺す場所を示させてくれ。これ以外には要請することは何もない。>
そ して 、胸に 二ヵ 所、肩 に二 ヵ所、 首す じに一 ヵ所 、背中 に四 ヵ所の 穴を 開ける よ
う に頼み まし た。穴 を開 けられ る間 、かれ は平 然とし てそ の拷問 の苦 しみに 耐え 、神
秘 につつ まれ た沈黙 を守 ってい まし たが、 かれ の目は 、不 動の確 信に 燃えて いる よう
でした。群衆のどなり声も、身体中に流れ出す血を見ても、沈黙をやぶることはなく、
九本のローソクが各々の穴に差し込まれ、火が点されるまで落ち着き払っていました。
(pp.617-618)
準 備が ととの った とき、 かれ は背骨 をま っすぐ にし て立ち 上が り、同 じ断 固たる 信
念 を顔に 浮か べて殉 教の 場に向 かっ て歩き だし ました 。ま わりに 集ま ってき た群 衆は
か れにつ づき ました 。数 歩ごと に、 かれは 歩み を止め 、あ っけに とら れた傍 観者 たち
を 見つめ 、叫 びまし た。 <今日 、栄 光の冠 を得 るため に、 わたし と共 に歩ん でき た者
た ちの行 列ほ ど威風 堂々 とした もの はない であ ろう。 バブ に栄光 あれ 。バブ は、 愛す
る 者らの 胸に 強烈な 献身 の炎を 点し 、国王 の権 力をし のぐ 威力を あた えられ た。 >時
折 、かれ は熱 烈な信 仰の 念に酔 った かのよ うに 、こう 叫び ました 。< 昔、ア ブラ ハム
は苦悶にあえぎながら、神に活力を求めて祈っていたとき、見えざる神の声を聞いた。
[おお火炎よ。炎を弱め、アブラハムを守れ。]
だが、このソレイマンは、荒れ狂う心
の奥底からこう叫んでいるのだ。[主よ、わが主よ、あなたの火をわたしの内部で燃や
しつづけ、その火炎で、わたしを焼き尽くしたまえ。]
> ローソクの火が傷口でちら
つ くのを 見て 、かれ は強 烈なよ ろこ びで大 声を あげま した 。<わ たし の魂を 燃え 上が
ら せた御 方が 、ここ に来 てわた しの 状態を 見て 下され ばと 思う。 >そ して、 ソレ イマ
ンの状態を見て、肝をつぶされたように立ちすくんでいる群衆に向かって叫びました。
< この世 のぶ どう酒 で、 わたし が酔 ってい ると 思って はな らない 。わ たしの 魂は 、最
愛 なる御 方へ の愛で みた されて いる のだ。 その 愛が、 国王 でさえ うら やまし く思 う主
権を、わたしがもっていると感じさせるのだ。>
死 が近 づいて きた とき、 ソレ イマン が口 からも らし た喜悦 の叫 び声を はっ きりと 思
い 出すこ とは できま せん 。おぼ えて いるこ とは 、二、 三の 感動的 な言 葉だけ で、 歓喜
の 絶頂時 に観 衆に呼 びか けたも ので した。 その ときの かれ の表情 を描 写する こと も、
かれの言葉が群衆にあたえた影響も計ることはできません。(p.619)
ソ レイ マンが まだ 市場を 通り すぎて いた とき、 そよ 風が吹 きつ け、か れの 胸に刺 さ
れ たロー ソク の火が あお られま した 。ロー ソク はすば やく 溶け、 炎は 傷口ま で達 しま
し た。二 、三 歩後に つづ いてい たわ れわれ は、 かれの 肌が 焼ける 音を はっき りと 聞き
取 ること がで きまし た。 かれの 身体 をつつ んだ 血と火 炎は 、かれ を沈 黙させ るど ころ
か 、抑え られ ない熱 情を いっそ う高 めたよ うに 見えま した 。そし て、 傷口を なめ つく
す 火炎に 向か って、 つぎ のよう に呼 びかけ る声 が聞き 取れ ました 。< おお火 炎よ 。お
ま えは、 とっ くにわ たし を苦し める 力を失 った 。早く わが 身体を なめ つくせ 。お まえ
の炎の舌から、わたしをわが最愛なる御方へと招く声が聞こえるのだ。>
熱 烈さ のあま り、 かれの 激痛 も苦し みも 消えた よう に見え まし た。火 炎に つつま れ
た かれは 、征 服者が 勝利 の場へ と行 進する よう に歩い てい きまし た。 興奮し た群 衆の
間 を、炎 とな った身 体を 進めて いっ たので す。 処刑台 のも とに到 着す ると、 ふた たび
群 衆に向 かっ て声を あげ 、最後 の訴 えをし まし た。< 火炎 と血の えじ きとな って いる
こ のソレ イマ ンは、 最近 まで、 この 世があ たえ てくれ るす べての 恩恵 と富を 享受 して
き たので はな かった か。 わたし が、 この世 の栄 誉をす てて 、これ ほど 身を落 ちぶ れさ
せ 、苦し みを 受け入 れた 原因を 皆は 知って いる のか。 >そ の後、 エマ ム・ハ サン の廟
に 向かっ て身 を伏せ 、ア ラビア 語で 何かさ さや きまし たが 、わた しに は聞き 取れ ませ
ん でした 。祈 りが終 わる とすぐ 、死 刑執行 人に 向かっ て叫 びまし た。 <仕事 は終 わっ
た 。さあ 、処 刑せよ 。> かれの 身体 がおの で二 つに切 り裂 かれる とき 、かれ はま だ生
き ていま した 。この 信じ がたい ほど の苦し みに かかわ らず 、最愛 の御 方を称 える 言葉
が、最後の息を引き取るまで口からもれつづけていました。』(pp.619-620)
こ の悲 惨な話 を聞 いた者 たち は、深 く心 を動か され ました 。細 かいと ころ まで熱 心
に 聞いて いた 学問の 長は 、ぞっ とし て絶望 のあ まり両 手を にぎり しめ 、叫ぶ よう に言
い ました 。『 この大 業は 、何と 不可 解で、 何と 不思議 なも のか。』そ の後は 何も 言わず
に、立ち去りました。」
こ の時 期の混 乱つ づきの 中で 、もう 一人 のバブ のす ぐれた 弟子 が殉教 した 。それ は
偉 大で勇 敢な 女性タ ヘレ で、か の女 もテヘ ラン 中に猛 威を ふるっ てい たはげ しい 嵐に
巻き込まれた。ここで、タヘレの殉教の状況について語りたいと思うが、その情報は、
信 頼でき る人 びとか ら入 手した もの である 。そ の中の 何人 かは、 実際 にその 殉教 を目
撃 した人 たち である 。か の女は テヘ ランに 長期 間滞在 した が、そ の間 、その 都市 の主
要 な女性 たち から温 かく 迎えら れ、 大いに 尊敬 されて いた 。当時 かの 女は人 気の 絶頂
に 達して いた のであ る。 かの女 が監 禁され てい た家は 、女 性の賛 美者 たちで 取り 巻か
れ ていた 。か の女ら は、 タヘレ から 知識を 得た いと門 に押 しかけ てき た。そ の中 には
カランタールの妻がいた。
(タヘレはカランタールの家に監禁されていた。)この妻は、
タ ヘレを 大い に尊敬 し、 女主人 とし てテヘ ラン のより すぐ りの女 性た ちをタ ヘレ に紹
介 し、異 常な ほどの 熱意 をもっ てか の女に 仕え た。こ うし てタヘ レの 女性た ちへ の影
響 が深ま るこ とを助 けた のであ る。 かの女 と親 密であ った 人びと が、 かの女 がつ ぎの
ように語るのを聞いた。
「タヘレがまだわたしの家に滞在していたときでした。ある晩、
か の女か ら呼 ばれた ので 行って みる と、か の女 は、真 っ白 な絹の ガウ ンで盛 装し てお
り 、部屋 は甘 い香り のす る香水 でみ たされ てい ました 。あ まりに も様 子が変 わっ てい
たので、おどろいたことを告げると、かの女はこう述べました。『わたしは、最愛なる
御 方にお 会い する準 備を してい ます 。監禁 の身 である わた しの世 話や 心配か ら、 あな
たを自由にしてあげたいのです。』わたしは、ひじょうにおどろき、タヘレと別れなけ
れ ばなら ない という 思い で涙が こみ あげて きま した。 タヘ レはわ たし を元気 づけ よう
として、こう言いました。
『嘆く時間はまだきていません。わたしの最後の望みを聞い
て くださ い。 という のも 、わた しの 逮捕と 殉教 の時間 が近 づいて いる からで す。 あな
た の息子 さん に、わ たし の処刑 場ま で来て いた だきた いの です。 そし て、監 視人 や死
刑執行人が、わたしのガウンをはぎ取らないように見守ってもらいたいのです。また、
遺 体を穴 に投 げ入れ 、土 と石こ ろで 埋めて もら いたい ので す。死 後三 日たつ と、 女性
が 訪れて きま すので 、こ の包み を渡 してく ださ い。最 後の お願い です が、わ たし の部
屋 にだれ も入 れない よう にして くだ さい。 今か ら、こ の家 から出 る呼 び出し がく るま
で 、わた しの 祈りを だれ からも 妨げ られた くな いから です 。今日 は断 食しま す。 最愛
なる御方に会うまで断食を破らないつもりです。』かの女はわたしに、部屋にかぎをか
け 、出発 の時 間まで けっ して開 けな いよう に、 そして 、か の女の 敵が 公表す るま で、
自分の死を秘密にしておくように頼みました。(pp.622-624)
わ たし は、か の女 を深く 愛し ていま した ので、 その 要請ど おり にしま した 。かの 女
の 望みを 叶え てあげ なけ ればと いう 強い思 いが なかっ たな らば、 一瞬 間でも かの 女と
別 れなけ れば ならな いよ うなこ とは しなか った でしょ う。 それか ら、 かの女 の部 屋に
か ぎをか け、 抑えき れな い悲痛 な思 いで、 自分 の部屋 に閉 じこも りま した。 タヘ レの
殉 教の時 間が せまっ てい ること を思 うと、 わた しの心 は引 きちぎ られ るよう な感 じが
しました。絶望のあまり神に祈りました。『主よ、主よ、あなたのお望みであれば、か
の女が飲みたいと望んでいる杯を逆さにしたまえ。』その日、夜まで、いたたまれなく
な って、 数回 部屋を 出て 、かの 女の 部屋の 入り 口にそ っと 立ち、 かの 女の口 から もれ
ている言葉を聞き取ろうとしました。かの女は、魂が魅惑されるような美しい調べで、
最 愛なる 御方 を賛美 して いまし た。 わたし の心 の動揺 はは げしく 、立 ってい るこ とが
できないほどでした。
日 没か ら四時 間後 、ドア を叩 く音が しま した。 そこ で、い そい で息子 のと ころに 行
き 、タヘ レの 望みを 伝え たとこ ろ、 その要 請を すべて 実行 するこ とを 約束し てく れま
し た。そ の夜 、偶然 夫は 不在で した 。息子 は、 アジズ ・カ ーン( 将軍 )の従 者が 家の
入 り口に 立っ ていて 、タ ヘレの 引渡 しを要 求し ている こと を告げ まし た。そ の知 らせ
を 聞いて 、恐 怖感で いっ ぱいに なっ たわた しは 、タヘ レの 部屋の 入り 口によ ろめ きな
が ら近づ き、 ふるえ る手 でかぎ を開 けまし た。 すると 、タ ヘレは 、ヴ ェール をか ぶっ
て 、部屋 を出 る準備 をし ていま した 。かの 女は 、歩き 回り ながら 悲し みと勝 利を 表わ
す 祈りを 唱え ていた ので す。わ たし に気が つく とすぐ 、近 づいて 接吻 しまし た。 そし
て、わたしの手にタンスのかぎを渡し、
『中のものは、つまらないものですが、あなた
の 家に滞 在し た記念 にお あげし ます 。それ らを 見て、 わた しを思 い出 し、わ たし のた
めによろこんで下さい。』
タ ヘレ は、こ の別 れの言 葉を 最後に 、わ たしの 息子 に伴わ れて 去って 行き ました 。
か の女の 美し い姿が 次第 に遠ざ かる のを見 なが ら、わ たし は、悲 痛な 思いで 立ち すく
ん でいま した 。かの 女は 、知事 が準 備した 馬に 乗り、 息子 と多数 の従 者に伴 われ て殉
教の場となる庭園に向かったのです。
三 時間 後、息 子が もどっ てき ました 。そ して、 涙で 顔をぬ らし 、知事 や下 劣な将 校
た ちをの ろい ました 。わ たしは 、息 子を落 ち着 かせ、 そば に座ら せて 、タヘ レの 殉教
の 状況を くわ しく話 して くれる よう に頼み まし た。か れは 、涙に むせ びなが ら、 こう
答えました。
『母上、わたしが見たことをどう述べていいのかわかりません。われわれ
は 、市の 門外 にある 庭園 に直行 し、 そこで 、ぞ っとす る光 景を目 にし ました 。知 事と
将 校たち が、 酒に酔 って 大声で 笑い ながら 、ど んちゃ んさ わぎを して いたの です 。タ
ヘ レは馬 から おり、 わた しを呼 んで 、こう 頼み ました 。< この人 たち は、わ たし を絞
め 殺すつ もり です。 その ために 使っ てもら いた いと思 って 絹のス カー フを以 前か ら用
意 してい まし た。こ れを あの酔 っ払 いに渡 して 、わた しの 命を取 るよ うに説 得し て下
さい。>(pp.625-626)
知 事の ところ に行 ったと ころ 、相当 酒に 酔って いた かれは 叫び ました 。< 人が祝 っ
て 楽しん でい るのを じゃ まする な!
あ の み じ めで恥 知ら ずの女 の首 を絞め 、穴 に投
げ 込め! >知 事にそ れ以 上頼ん でも 無理だ と思 い、以 前か ら知り 合い の従者 二人 に、
そ のスカ ープ を渡し まし た。そ こで 、タヘ レは 望みど おり に自分 のス カーフ で首 を絞
め られ殉 教し ました 。そ の直後 、庭 師に遺 体を かくせ る場 所を聞 いた ところ 、最 近掘
り かけた 井戸 のある 場所 を教え てく れまし た。 ほかの 者ら の手を かり て、遺 体を 井戸
に 下ろし 、か の女の 望み どおり に、 土と石 ころ で埋め まし た。タ ヘレ の殉教 を目 撃し
た者らは、深く心を打たれ、悲しみに沈んで去って行きました。』(pp.626-627)
息 子の 悲壮な 話に 、わた しの 目から 涙が あふれ 出て きまし た。 そして 、感 情を抑 え
る ことが でき ず、意 識を 失って 地面 に倒れ てし まいま した 。意識 がも どった とき 、息
子 もまた 苦痛 でいっ ぱい になっ てい るのが わか りまし た。 かれは 、長 椅子に 横た わり
悲 嘆にく れて いたの です 。わた しの 状態を 見て 、近づ き、 なぐさ めて くれま した 。そ
して、こう言いました。『涙を流すと父上にわかってしまいます。父上は、自分の占め
て いる重 要な 地位を 考え て、わ れわ れを見 捨て 、関係 を断 ってし まう でしょ う。 涙を
お さえな いと 、父親 は、 国王の 面前 でわれ われ を憎む べき 敵に魅 惑さ れた者 らと して
非 難する でし ょう。 そし て国王 の許 可を得 て、 自分の 手で われわ れを 殺害し かね ませ
ん。大業を受け入れていないわれわれが、そのような運命に甘んじるべきでしょうか。
わ れわれ がす べきこ とは 、タヘ レを 不純で 、不 名誉だ と非 難する 者ら から守 るだ けで
す 。タヘ レの 愛をわ れわ れの心 に留 め、敵 の中 傷に対 して 、タヘ レの 高潔な 生き 方を
実施すべきではないでしょうか。』(p.627)
息 子の 言葉で 、わ たしの 心の 動揺は しず まりま した 。そこ で、 タンス のと ころま で
行 き、タ ヘレ がくれ たか ぎで開 けま した。 そこ には、 最上 の香水 びん 、じゅ ず、 サン
ゴ のネッ クレ ース、 指輪 が三つ 置か れてい まし た。指 輪に はそれ ぞれ 、トル コ石 、カ
ー ネリア ン、 ルビー がは められ てい ました 。か の女の 所持 品を見 なが ら、そ の波 乱に
み ちた生 涯に ついて 考え ました 。か の女の 大胆 さ、熱 意、 崇高な 責任 感、不 動の 信仰
を感動にあふれながら思い起こしたのです。かの女の文学的才能、そして監禁、恥辱、
中 傷に耐 えた 不屈の 精神 に思い をめ ぐらし まし たが、 今や 、その 晴れ やかな 顔は 、土
と 石ころ の下 に埋め られ てしま った のです 。か の女が しば しば口 にし ていた 言葉 をわ
た し自ら くり 返して いる うちに 、か の女の 情熱 的な雄 弁が 思い出 され 、心が 温ま って
き ました 。か の女の 広い 知識、 コー ランへ の精 通、信 教へ の熱烈 な忠 誠心、 熱烈 な信
仰 の弁護 、大 業への 奉仕 、そし て、 耐えな けれ ばなら なか った苦 難と 悲哀、 仲間 に示
し た模範 、大 業の進 展に 与えた 刺激 、同胞 国民 の心に 刻み 込んだ 名前 などな ど、 タン
ス のそば に立 ったま ま思 い出し 、こ れほど 偉大 な女性 が、 なぜ富 と栄 誉をす て、 シラ
ズ から現 われ た名も ない 若者の 大業 の信者 とな ったの か不 思議に 思っ たので す。 かの
女 を親族 から 切り離 し、 波乱の 生涯 を支え 、最 後に殉 教の 場へと 運ん だ力の 秘密 は何
で あった ので しょう か。 それは 、神 の力に ちが いあり ませ ん。神 の御 手がか の女 の運
命をみちびき、危機にはらんだかの女の生涯に道を開いたのでありましょう。
(pp.627-628)
タ ヘレ の殉教 後三 日して 、約 束どお り、 女性が 現わ れまし た。 かの女 の名 前を聞 い
た ところ 、タ ヘレが 述べ ていた 名前 と同じ でし たので 、依 頼され てい た小包 を渡 しま
した。この女性には以前に会ったことはなく、その後も会うことはありませんでした。」
そ の不 滅の女 性の 名前は ファ テメで 、姓 はオン ム・ サルメ で、 ザキエ とも 呼ばれ て
い た。生 まれ た年は 、バ ハオラ の生 誕の年 の一 八一七 年で 、三十 六才 のとき テヘ ラン
で 殉教し た。 かの女 の同 時代の 人び とは、 かの 女を適 切に 認める こと ができ なか った
が 、将来 の世 代が、 かの 女の生 涯に ついて 貴重 な記録 を残 してく れる ことを 願っ てい
る 。また 、将 来の歴 史家 が、か の女 の影響 を十 分認め 、国 家と国 民に ささげ たそ の独
特 な奉仕 につ いて記 録し てくれ るで あろう 。信 教の信 者が 、かの 女の 模範に 従い 、そ
の 業績を 語り 、その 書き 物を収 集し 、その 能力 の秘密 を明 らかに し、 世界の 人び とか
ら慕われるようになることを願うばかりである。(pp.628-629)
同 じ激 動の時 期、 テヘラ ンで 殉教し たバ ブの弟 子た ちの中 です ぐれた 人物 は、ホ セ
イ ン・ヤ ズデ ィであ る。 かれは 、マ ークー とチ ェリグ でバ ブの秘 書を つとめ た。 バブ
は ミルザ ・ヤ ーヤに 書簡 を宛て たが 、その 中で 、信教 の教 えに深 く精 通して いた ホセ
イ ン・ヤ ズデ ィに教 えを 乞うよ うに すすめ てい る。声 望と 経験が あり 、バブ から 最大
の 信頼を 受け 、バブ と親 しく交 わっ たかれ は、 バブの 殉教 後、テ ヘラ ンの地 下牢 で長
期 間監禁 され 、大変 な苦 しみを 受け て殉教 した 。バハ オラ は、か れの 苦難を やわ らげ
る ために 、最 大限の 援助 をし、 毎月 、必要 経費 を送っ たり した。 かれ はまた 、看 守か
ら も賞賛 され ていた 。バ ブとの 長期 間にわ たる 親密な 交際 で、信 教の 理解は 深ま り、
魂 にも力 がつ き、そ れは 生涯の 終わ りが近 づく につれ て、 より一 層行 動で表 わさ れる
よ うにな った 。かれ は牢 獄で横 たわ りなが ら、 師バブ と同 じよう な死 を迎え る日 を切
望 してい た。 バブと 同じ 日に殉 教す ること が、 最大の 望み であっ たが 、それ は実 現で
き なかっ たの で、バ ブと 同じ殉 教の 杯を飲 み干 す時間 を待 ち望ん でい たので ある 。テ
ヘ ランの 高官 たちは 、幾 度もか れを 監獄と 死刑 から救 い出 そうと した が、か れは それ
を はっき りと 拒否し た。 かれの 目か らは涙 がと めども なく 流れて いた が、そ れは 、ア
ゼ ルバエ ジャ ンの残 酷な 監禁の 暗黒 の中で 光を 放った バブ の御顔 をふ たたび 見た いと
い う熱望 の涙 であっ た。 その御 顔の かがや きは また、 冬の 寒々と した 夜を温 めた ので
あ る。暗 い監 獄で、 バブ と過ご した 喜びに みち た日々 を思 い出し てい るとき 、か れの
魂にのしかかってきた苦悩を除いてくれる御方が現われた。それはバハオラであった。
ホ セイン ・ヤ ズディ は、 殉教の 時間 までバ ハオ ラと共 に過 ごすと いう 恩恵に あず かっ
た のであ る。 このバ ブの 秘書ホ セイ ン・ヤ ズデ ィを殺 した のは、 タヘ レを殺 害し たサ
ル ダール であ ったが 、そ の状況 を説 明する 必要 はない と思 う。こ うし てホセ イン ・ヤ
ズ ディも また 、ほか の仲 間と同 様残 酷な辱 めを 受けて 、長 い間切 望し てきた 殉教 の杯
を飲んだのであった。(pp.629-631)
こ こで 、バハ オラ と恐怖 の投 獄を共 にし た残り のバ ブの弟 子た ちに、 どの ような こ
と がふり かか ったか を述 べてみ たい 。わた し( 著者) は、 バハオ ラの 口から 、し ばし
ばつぎのように聞いた。
「テヘランで、忘れがたい年に荒れ狂った嵐で倒された者らは
す べて、 われ が監禁 され ていた 地下 牢シヤ ・チ ャール の囚 人とな った 。われ われ は、
ひ とつの 部屋 に詰め 込ま れ、足 をさ らしか せに はめら れ、 ひじょ うに 重いく さり をか
け られた 。そ こには 異様 な悪臭 が立 ちこめ てお り、床 は汚 物でお おわ れ、寄 生虫 がむ
ら がって いた 。その 地下 牢には 一切 光は射 しこ まず、 氷の ような 寒気 が暖ま るこ とは
な かった 。わ れわれ は、 二列に 向き 合うよ うに 並ばさ れた 。仲間 の囚 人たち は、 われ
が教えた句を毎夜、熱烈に唱えた。『神こそはわれを満たしたもう。まことに、神こそ
は すべて を満 たす者 であ りたも う。』と一 列が 唱える と、 もう一 列が 、『神 を信 頼する
者らには、信頼させよ。』と答えるのであった。このよろこびの合唱は、夜明け時まで
と どろき つづ けた。 その 響きは 、牢 獄をみ たし 、厚い 壁を 突き通 って 、それ ほど 遠く
ないところにある宮殿の国王の耳にとどいた。
『一体この音は何か?』と国王が叫んだ
と き、『 バビ たちが 牢獄 で唱え てい る聖歌 です 。』と 従者 は答え た。 国王は 、そ れ以上
何も言わなかった。また、囚人たちが、残酷な牢獄に監禁されているにもかかわらず、
熱烈に唱えつづける合唱を止めることもしなかった。(PP.631-632)
ある日、国王が囚人に分配するようにと命じた焼肉がもち込まれた。
『国王は、約束
を 果すた めに 、今日 を選 んで羊 肉を 送られ た。』と従 者は 述べた 。仲 間たち は沈 黙し、
われがかれらに代わって返事するのを待った。われはこう応えた。
『この贈り物をお返
ししたい。われわれには必要でないのだ。』看守たち自身、その焼肉を食べたがってい
た ので、 この 返事に 怒る ことは なか った。 仲間 たちは 皆空 腹に襲 われ ていた が、 まこ
と に英雄 的と いえる 不屈 の精神 をも って、 一言 の不平 もも らさず 、こ の痛ま しい 状況
に 耐えた 。た だ一人 、モ タヴァ リと いう者 が、 国王が 送っ てきた 焼肉 を口に した いと
い う欲望 を示 しただ けで あった 。神 に賛美 あれ 。仲間 たち は、国 王の 取り扱 いに 不満
を 言うど ころ か、賛 美の 言葉を 絶え 間なく 口か らもら した のであ る。 それは 残酷 な監
禁の苦しさをよろこびに変えるものであった。(p.632)
毎 日、 看守が 入っ てきて 、一 人の仲 間の 名前を 呼び 、絞首 台の ところ まで ついて く
る ように 命じ た。名 前を 呼ばれ た者 は、ど れほ どの熱 望を もって 、そ の厳粛 な呼 びか
け に応じ たこ とであ ろう か。く さり から解 放さ れると すば やく立 ち上 がり、 よろ こび
を 抑えき れず 、われ のと ころに きて 、われ を抱 擁した ので ある。 われ は、来 世で の永
遠 の生命 を確 信させ てな ぐさめ 、そ の者の 心を 希望と よろ こびで みた し、栄 光の 冠を
勝 ち取る ため に送り 出し たので ある 。それ から 、かれ は残 りの仲 間の 囚人た ちを 抱擁
し 、勇敢 に生 きたよ うに 、勇敢 に死 に向か った のであ る。 このよ うに 一人ず つ殉 教し
て いった が、 その度 に、 われに 親愛 感をも つよ うにな った 看守が 、か れらの 死の 状況
を 知らせ てく れた。 かれ らは皆 、最 後の時 間ま で、よ ろこ びをも って 苦しみ に耐 えた
ことをわれに教えてくれたのである。
あ る夜 、われ と同 じくさ りに つなが れて いたア ブド ル・ヴ ァハ ブから 起こ された 。
か れは、 カゼ マイン から われに 同行 し、テ ヘラ ンで捕 われ 、投獄 され た仲間 であ る。
かれは、われが目をさましているかどうかを聞き、その夜見た夢を話しはじめた。
『夢
の 中で、 わた しは無 限に ひろが る美 しい空 間に 舞い上 がっ ていま した 。わた しに は翼
が ついて おり 、行き たい ところ には どこに でも 行ける よう でした 。魂 は、恍 惚と した
喜 悦感で みた されて おり 、その 無限 の空間 をす みやか に、 楽々と 飛び まわる こと がで
き ました が、 それを 言葉 で表現 する ことは でき ません 。』 われは 、こ う答え た。『今日
は 、あな たが 大業に 身を 犠牲に する 日だ。 最後 まで不 動の 信念を もち つづけ るよ うに
祈 ってい る。 そうす れば 、夢で 見た とおり 、無 限の空 間に 舞い上 がり 、すみ やか に、
ま た楽々 と、 不滅の 主権 の領域 に達 し、< 無限 の地平 線> なる御 方を 恍惚と して 眺め
ることができよう。』
その朝、看守が牢獄に入ってきて、アブドル・ヴァハブの名前を呼んだ。アブドル・
ヴ ァハブ は、 くさり から 自由に なる とすば やく 立ち上 がり 、仲間 を一 人ずつ 抱擁 し、
わ れを腕 でま き、心 臓の あたり に愛 情深く 押し つけた 。そ のとき 、か れは靴 をは いて
い ないこ とに 気がつ いた 。そこ で、 われの 靴を あたえ 、は げまし て殉 教の場 へと 送り
出 した。 その あと、 死刑 執行人 がわ れのと ころ にきて 、若 者アブ ドル ・ヴァ ハブ の精
神をほめたたえた。この証言に、われはどれほど神に感謝したことであろうか。」(p.633)
こ の仲 間たち の苦 しみも 、国 王の命 を狙 った者 らへ の残酷 な復 讐も、 国王 の母上 の
怒 りをし ずめ ること はで きなか った 。昼夜 、か の女は バハ オラの 処刑 を要求 して 、執
念 深くさ わぎ たてた 。い まだも って 、バハ オラ こそが 暗殺 事件の 主犯 である と信 じて
いたのである。かの女は声をあげて要求した。
「その男を死刑執行人に渡しなさい。国
王 の母で ある わたし が、 卑怯な 罪を 犯した 者を 罰する こと ができ ない など、 これ 以上
の 屈辱が あり ますか !」 かの女 の復 讐への 叫び は強ま って いった が、 それは 報わ れな
い 運命に あっ た。か の女 の陰謀 にも かかわ らず 、バハ オラ は救わ れた のであ る。 やが
て バハオ ラは 監獄か ら釈 放され 、国 王の主 権を はるか にし のぐ王 国を 設立す るこ とが
で きた。 かの 女には 、そ ういっ たこ とが可 能で あるな ど、 想像も つか なかっ たの であ
る 。テヘ ラン でその 年に 流され た血 は、バ ハオ ラの釈 放の 代償と して 支払わ され たも
の であっ た。 この血 は、 バハオ ラと 共に投 獄さ れてい た勇 敢な仲 間が 流した もの であ
っ た。敵 は、 神から 委任 された 目的 を、バ ハオ ラが達 成し ようと する のを懸 命に 阻止
し てきた 。バ ハオラ は、 バブの 大業 を受け 入れ て以来 、そ の擁護 を一 度も怠 った こと
は なく、 その ためも ろも ろの危 機に さらさ れて きた。 これ らの危 機は 、バブ の信 教の
始 まりに 、弟 子たち が直 面しな けれ ばなら なか ったも ので あった 。さ らに、 バブ の弟
子 の中で 、最 初に超 脱と 大業へ の奉 仕の模 範を 示した のも バハオ ラで あった 。バ ハオ
ラ は、さ まざ まな危 険に 襲われ たが 、その 命を 救った のは 神の御 手で あった 。神 は、
バ ハオラ を特 定の目 的の ために 選ば れたが 、そ れを公 に宣 言する には まだ早 すぎ ると
みなされたのである。(p.634)
テ ヘラ ンを震 撼さ せた恐 怖は 、バハ オラ の命が さら された 危機 のひと つに 過ぎな か
っ た。テ ヘラ ンの男 性、 女性、 子供 は、大 業の 敵が信 者た ちを残 忍に 追跡す るの を見
て ふるえ た。 アッバ スと いう名 の若 者は、 以前 ソレイ マン の召使 いを してい た。 主人
の ソレイ マン の交際 は広 かった ので 、アッ バス は、バ ブの 弟子た ちの 名前や 住所 と人
数 に通じ てお り、か れも また信 教を 信じ、 熱心 な支持 者で あった 。そ こで、 敵は 陰謀
を 実行す るた めに、 かれ を利用 する ことに した 。騒動 が起 こった とき 、敵は かれ を逮
捕 し、知 って いる信 者の 名前を すべ て当局 に明 らかに する ように 強い た。主 人の 仲間
で ある信 者た ちを知 らせ れば報 酬が 貰え、 そう しない 場合 は、残 酷な 拷問を 受け ると
警 告した ので ある。 そこ でアッ バス は、執 行官 ハジ・ アリ ・カー ンの 従者に 、要 請ど
お りに、 信者 と名前 と住 所を知 らせ ると約 束し た。そ こで 、テヘ ラン の道路 に連 れ出
さ れ、バ ブの 信者を 指さ すよう に命 じられ た。 かれは 、バ ブやそ の大 業にま った く関
係 のない 人た ちを指 さし たため 、こ れまで 会っ たこと もな いよう な人 びとが 多数 、従
者 に引き 渡さ れた。 その 後、か れら は高額 なわ いろを 贈っ て自由 の身 となっ た。 この
ように、貪欲な従者はアッバスに、高額な身代金を払えるような者らをとくに選んで、
か れらに 知ら せるよ うに 強い、 そう しなけ れば 、命が あぶ ないと おど したの であ る。
そして、搾取したお金を、アッバスにも分け与えると約束さえしたのである。
(pp.634-635)
それからアッバスは、地下牢シア・チャールに連れ出され、バハオラに紹介された。
そ れは、 バハ オラを 裏切 らせる ため であっ た。 アッバ スは 、以前 数回 主人ソ レイ マン
に 同伴し てバ ハオラ に会 ってい た。 高官の 従者 は、か れに 、バハ オラ を裏切 れば 、国
王 の母上 から たくさ んの 褒美が もら えると も約 束した 。ア ッバス は、 バハオ ラの 面前
に 連れ出 され るごと に、 二、三 分立 ち止ま って バハオ ラの 顔をじ っと 見つめ た後 、自
分 はこの 人に 会った こと はない 、と 強く否 認し てその 場を 去った ので ある。 これ に失
敗 した敵 は、 国王の 母上 の愛顧 にあ ずかろ うと 、バハ オラ を毒殺 する ことに した 。家
か らバハ オラ のもと に運 ばれて くる 食べ物 を途 中でう ばい 、それ に毒 を混入 した ので
あ る。こ のた め、バ ハオ ラは何 年も 健康を 損な われた が、 毒殺の 目的 は未遂 に終 わっ
た。
敵 はつ いに、 バハ オラを 暗殺 事件の 主犯 と見な すこ とを中 止し 、アジ ムに その責 任
を 負わせ るこ とにし た。 そこで 、ア ジムが 犯行 の張本 人と なった ので あるが 、敵 はこ
の 方法で 、国 王の愛 顧を 得よう とし たので ある 。高官 ハジ ・アリ ・カ ーンは 、こ れに
大 賛成で あっ た。か れは 、バハ オラ の逮捕 には 関わっ てい なかっ たの で、ア ジム を主
犯として告発する機会をとらえたのである。
ロ シア 公使は 、代 理を通 して 、この 事件 の行方 とバ ハオラ の状 態を注 意深 く見守 っ
て いた。 つい に、通 訳を 通じて 、強 い語調 のメ ッセー ジを 総理大 臣に 送った 。そ の中
で 、総理 大臣 の行為 に抗 議し、 使者 を一人 選ん で、政 府の 代表と 高官 ハジ・ アリ ・カ
ー ンの代 表同 伴で、 地下 牢シア ・チ ャール に行 かせ、 あら たに公 認さ れた指 導者 (ア
ジ ム)に 、バ ハオラ の立 場につ いて 、公に 宣言 させる よう に要請 した 。そし て、 こう
書いた。
「その指導者が宣言することは、それがバハオラを賞賛するものであれ、非難
す るもの であ れ、す べて 即刻記 録さ れなけ れば ならな い。 それが 、こ の事件 の最 終判
断の土台となされるべきである。」総理大臣は、公使の忠告に従うことを通訳に約束し、
要請通り、かれらをシア・チャールに行かせる日まで決めた。(p.636)
国王暗殺未遂事件を起こしたグループの責任者はバハオラであるのか、という質問に、
アジムはこう答えた。
「この共同体の指導者はバブのほかにはいません。バブはタブリズで
殺害されました。わたしは、その復讐に立ち上がったのです。わたし一人で国王暗殺計画
を立て、実施したのです。国王を馬から引きずり落としたのは、サディクという若者でし
た。かれはテヘランの菓子屋で、召使いとしてわたしの下で二年間働いていました。この
若者は、バブの殉教に復讐したいという念で、わたし以上に燃えていました。しかしなが
ら、あせりすぎて暗殺に失敗したのです。」公使の通訳と総理大臣の代表は、アジムの言葉
を書き取り、総理大臣に提出した。バハオラが釈放されたのは、主にこの文書による。
ア ジム は僧侶 たち の手に 渡さ れた。 かれ らは、 アジ ムをす ぐ処 刑した かっ たが、 テ
ヘ ランの 僧侶 の長ミ ルザ ・アボ ルが ためら って いたの で、 実行で きな いでい た。 高官
ハ ジ・ア リ・ カーン は、 モハラ ム月 が近づ いて きてい たの で、僧 侶た ちを兵 営の 二階
に 集合さ せ、 いまだ にア ジムの 処刑 に反対 して いた僧 侶の 長を出 席さ せるこ とに 成功
し た。高 官は 、アジ ムも その場 所に 召し、 判決 が下さ れる まで待 たせ ておく よう に命
じ た。ア ジム は、街 路を 乱暴に 引っ 張りま わさ れ、住 民か らあざ けら れ、の のし られ
な がら連 行さ れてき た。 そこで 、高 官と僧 侶た ちは、 巧妙 な策略 をめ ぐらせ て、 アジ
ム に死刑 宣告 を言い 渡す ことに 成功 した。 その 後、こ ん棒 をもっ た男 が、ア ジム に走
り 寄り、 頭を 強く打 ち、 それに つづ いて、 群衆 が棒き れや 石ころ や短 刀でか れに 襲い
か かり、 手足 を切断 した のであ る。 国王の 暗殺 未遂事 件後 の動乱 で殉 教した 者ら の中
に 、ジャ ニ( パルパ )も いた。 総理 大臣が 、か れに危 害を あたえ るの を反対 して いた
ので、ほかの敵からひそかに殺害されたのである。(pp.636-637)
テ ヘラ ンで点 され た火炎 は近 隣の州 にひ ろがっ てい った。 その 結果、 多数 の無実 の
人 たちの 財産 は略奪 され 、悲惨 な状 態に陥 れら れた。 この 火炎は 、バ ハオラ の故 郷マ
ザ ンデラ ンに も猛威 をふ るった が、 それは 、主 にバハ オラ の所有 財産 を目指 した もの
で あった 。バ ブの献 身的 な弟子 で、 ヌール の住 民であ った モハメ ッド ・タギ ・カ ーン
とアブドル・ヴァハブの二人はこの動乱で殉教した。
信 教の 敵は、 バハ オラの 釈放 がほと んど 確実に なっ たこと を知 って残 念が り、国 王
を おどし て、 バハオ ラを 殺害す る計 画にま き込 もうと した 。そこ で、 ミルザ ・ヤ ーヤ
の 愚行が 口実 に利用 され た。か れが 信教の 指導 者にな ろう と空し い努 力をし てき てい
た からで ある 。敵は 、バ ハオラ がマ ザンデ ラン で保持 して いる影 響力 を一掃 する よう
に国王に進言したのである。
こ れを 聞いた 国王 は、暗 殺事 件で負 った 傷から まだ 回復し てい なかっ たが 、強い 復
讐 の念を かき たてら れた 。そこ で、 総理大 臣を 召し、 かれ の故郷 の親 族が多 数い る州
の 住民間 で、 秩序と 規律 を守れ なか ったこ とを 叱責し た。 当惑し た総 理大臣 は、 国王
の 命令を すべ て実施 する ことを 誓っ た。国 王は 、その 州に 数連隊 を即 刻派遣 する よう
に命じた。公安を乱した者らを容赦なく鎮圧せよ、という厳命であった。(p.638)
総 理大 臣は、 その 地方か らの 報告は 誇張 された もの であっ たこ とを十 分知 ってい た
が 、国王 の命 令に従 わざ るを得 なく なり、 ヌー ルのタ コー ル村に ホセ イン・ アリ ・カ
ー ンの率 いる 連隊を 派遣 した。 その 地方に はバ ハオラ の家 があっ た。 総理大 臣は 、甥
の アブ・ タレ ブを最 高司 令官と した 。かれ は、 バハオ ラの 異母弟 ミル ザ・ハ サン の義
弟であった。総理大臣は、村に野営中は細心の注意をはらうように忠告した。
「兵士た
ち がやり 過ぎ ると、 かえ ってミ ルザ ・ハサ ンの 威信を そこ ない、 あな たの妹 を苦 しま
せることになる。」そして、その村についての報告の実態を調べ、三日以上はその近く
に野営しないように命じた。
つ ぎに 、総理 大臣 は、連 隊長 ホセイ ン・ アリ・ カー ンを呼 び寄 せ、細 心の 注意を は
らい、賢明に行動するように忠告した。「アブ・タレブは、まだ若年で経験もない。と
く にかれ を選 んだの は、 ミルザ ・ハ サンの 親族 だから だ。 かれは 、妹 のため にも 、タ
コ ールの 村民 に不必 要な 危害を あた えるこ とは ないと 信じ ている 。あ なたは 、年 令も
上 で、経 験も ある。 従っ て、り っぱ な模範 を示 し、政 府と 国民の 利益 のため に奉 仕す
べ きこと をか れに銘 記さ せなけ れば ならな い。 あなた と相 談する まで は、い かな る軍
事行動も絶対とらせないようにせよ。」さらに、総理大臣は、必要な場合の増援を、そ
の地方の指導者たちに文書で指示しているので安心するように述べた。
誇 りと 熱意で 興奮 したア ブ・ タレブ は、 中庸を 守る ように との 総理大 臣の 勧告を 忘
れ 、住民 と不 必要な 争い を起こ さな いよう にと いう連 隊長 の強い 願い も無視 した 。そ
し て、タ コー ル村に 近い ヌール 地方 に入る とす ぐ、そ の村 民への 攻撃 準備を 命じ たの
で ある。 連隊 長は必 死に なって 駆け つけ、 攻撃 をしな いよ うに懇 請し た。ア ブ・ タレ
ブは横柄に答えた。
「どんな方策を取り、どのように国王に仕えるかを決めるのは、上
官のわたしの方だ。」(p.639)
こ うし てタコ ール 村の防 御の すべの ない 村民に 攻撃 がしか けら れたの であ る。村 民
は 、この とつ ぜんの 猛攻 撃に仰 天し 、ミル ザ・ ハサン に訴 えた。 ミル ザ・ハ サン は、
ア ブ・タ レブ との面 会を 申し込 んだ が、拒 否さ れた。 最高 司令官 のア ブ・タ レブ は、
つぎのメッセージを従者に託した。「ミルザ・ハサンにこう伝えよ。わたしは、国王か
ら 、この 村の 住民を 虐殺 し、女 ども を捕ら え、 財産を 略奪 する任 務を 託され てい るの
だ 。しか し、 あなた のた めに、 あな たの家 に避 難した 女ど もには 手を つけな いこ とに
する。」ミルザ・ハサンは面会をことわられたことで憤慨し、アブ・タレブと国王の行
為 を強く 非難 して家 にも どった 。そ の間、 村の 男たち は近 くの山 中に 逃げ込 んだ 。残
された女たちは、ミルザ・ハサンの家に行き、敵から守ってくれるようにこん願した。
ア ブ・ タレブ はま ず、バ ハオ ラの邸 宅に 向かっ た。 その邸 宅は 、バハ オラ が大臣 で
あ った父 親か ら受け 継い だもの で、 立派な 家具 と貴重 品で かざら れて いた。 かれ は、
兵 士たち に、 貴重品 をす べて運 び去 るよう に命 じ、運 び去 れない もの は、そ の場 で破
壊 するよ うに 指示し た。 こうし てテ ヘラン の宮 殿より 壮大 な邸宅 は修 復でき ない ほど
こわされ、梁は燃やされ、飾りは灰と化したのである。
つ ぎに 、かれ は住 民の家 屋に 侵入し 、貴 重品を すべ て自分 と兵 士たち のた めに略 奪
し たあと 、建 物を全 部破 壊した 。男 たちが すべ て逃亡 した この村 は、 放火さ れて 全焼
し た。ア ブ・ タレブ は、 強壮な 男た ちが逃 亡し たこと を知 って、 近く の山を 探索 する
よ うに命 じた 。発見 され た者ら は、 射殺さ れる か、逮 捕さ れた。 しか し、逮 捕さ れた
者 らは、 遠く まで逃 げら れなか った 少数の 年輩 の男た ちと 羊飼い だけ であっ た。 その
う ち、男 二人 が山の 斜面 に流れ る小 川のそ ばに 横たわ って いるの が発 見され た。 かな
り 遠くの 方で あった が、 かれら がた ずさえ てい た武器 が太 陽の光 でき らめい てい たた
め、見つかったのである。
兵 士た ちが小 川ま でくる と、 二人は 向こ う岸で 眠っ ている のが わかっ たの で、か れ
ら めがけ て発 砲した 。こ の二人 は、 アブド ル・ ヴァハ ブと モハメ ッド ・タギ ・カ ーン
で 、前者 は即 死し、 後者 は重傷 を負 った。 二人 は、ア ブ・ タレブ のと ころに 運ば れた
が 、重傷 を負 ったモ ハメ ッド・ タギ ・カー ンの 命を救 うた めには 全力 がつく され た。
と いうの は、 かれの 勇敢 さは、 ひろ く知れ わた ってい たの で、勝 利の トロフ ィー とし
て 首都テ ヘラ ンに連 行し たいと 思っ たから であ る。し かし 、受け た傷 のため 、二 日後
に かれも 死亡 した。 捕ら えられ たほ かの数 人は 、くさ りを つけら れて テヘラ ンに 連行
され、バハオラが監禁されていたと同じ地下牢に投げ入れられた。その中には、モラ・
ア リ・バ バも いたが 、ほ かの仲 間と 共に死 亡し た。そ の地 下牢生 活が あまり にも 苛酷
であったからである。 (pp.640-642)
一 年後 、アブ ・タ レブは 疫病 に襲わ れ、 悲惨な 状態 でシェ ミラ ンに運 ばれ たが、 家
族 の者で さえ かれに 近づ こうと しな かった 。屈 辱感を 感じ ながら 淋し く病に 伏し てい
た とき、 看病 にきた のは 、かれ から 侮辱さ れた ミルザ ・ハ サンで あっ た。死 の直 前、
総 理大臣 も訪 れてき たが 、その とき ベッド のそ ばに居 たの は、か れか ら無礼 に取 り扱
わ れたミ ルザ ・ハサ ンだ けであ った のであ る。 その日 、こ の卑劣 な専 制者は 、生 涯い
つくしんできた野心をすべて失い、失望のうちに息絶えた。
テ ヘラ ンで起 こっ た動乱 の波 紋は、 ヌー ルとそ の周 囲の地 方で も感じ られ 、さら に
ヤ ズドや ナイ リズに まで ひろが った 。それ らの 町で、 かな りたく さん のバブ の弟 子た
ち が捕ら えら れ、残 酷に 殺され た。 その大 激動 の衝撃 はペ ルシャ 全体 で感じ とら れた
の である 。さ らに、 その 衝撃の 波は 、遠か くの 地方の 小村 にまで 押し 寄せて きた 。そ
の 結果、 すで に迫害 され ていた バブ の弟子 たち にさら なる 苦しみ をも たらし た。 地方
の 知事や 属官 は、貪 欲と 復讐の 念に 燃え、 富を ふやし 、国 王の愛 顧を 受ける ため に、
こ の機会 をと らえよ うと 立ち上 がっ た。情 けも 節度も 恥も 無視し て、 どれほ ど卑 劣で
無 法な方 法で あって もか まわず 、無 実の住 民の 財産を 強奪 した。 また 、正義 や礼 儀を
無 視して 、バ ビ(バ ブの 信者) と思 える者 らを 逮捕し 、投 獄し、 拷問 にかけ 、そ の勝
利結果を、急遽テヘランのナセルディン国王に知らせたのである。(p.642)
ナ イリ ズでは 、動 乱の影 響は 、支配 者と 住民が バブ の信者 たち を迫害 しは じめた こ
と で明ら かと なった 。国 王暗殺 未遂 事件か ら二 ヵ月し て、 ミルザ ・ア リとい う若 者が
見 事な勇 気を 示し、 その ため、 アリ ・サル ダー ルとい う称 号を得 た。 かれは 、ヴ ァヒ
ド とその 支持 者たち が殉 教した 戦い で生き 残っ た人た ちに 、極度 の心 遣いを 示し たこ
と で名を 知ら れるよ うに なった 。し ばしば 、真 夜中に 家を 出て、 でき るかぎ りの 援助
を 、苦し んで いる未 亡人 や孤児 にあ たえた 。す なわち 、か れらに 食べ 物や衣 服を 惜し
み なくあ たえ 、また 負傷 者の看 護を し、悲 嘆に 暮れて いる 人たち をな ぐさめ たの であ
る 。ミル ザ・ アリの 仲間 の何人 かは 、この 無実 の人び との 苦しみ を見 て、は げし い怒
り に燃え 、ザ イノル (ナ イリズ の知 事)へ の復 讐を決 意し た。ザ イノ ルはま だ、 ナイ
リ ズに住 んで おり、 バビ たちに 苦難 をもた らし た張本 人だ とみな され ていた 。仲 間た
ち は、ザ イノ ルが今 後も 苦しみ をも たらそ うと してい ると 信じて 、か れの命 を取 るこ
と にし、 公衆 浴場に いた かれに 突然 襲いか かり 、殺害 した のであ る。 この結 果、 暴動
が起こり、最終的には、ザンジャンの大虐殺の悲劇となった。
ザ イノ ルの未 亡人 は、当 時シ ラズに 在住 してい た権 力者ミ ルザ ・ナイ ムに 、夫の 復
讐 をせき 立て 、自分 の宝 石全部 と、 かれの 欲す る所有 品を すべて 報酬 として 与え るこ
と を約束 した 。そこ で当 局は裏 切り 工作に より 、多数 のバ ブの信 者を 逮捕し 、そ の多
くを残忍なむち打ち刑に処した。そして全員を投獄し、テヘランからの指示を待った。
総 理大臣 は、 投獄さ れた 者らの 名前 のリス トと 報告を 国王 に提出 した 。国王 は、 シラ
ズ の代理 の努 力が成 功し たこと に大 変満足 し、 そのめ ざま しい貢 献に 、十分 な褒 美を
あたえ、逮捕された全員をテヘランに連行してくるように命じた。(p.643)
こ の事 件は大 虐殺 で終わ った が、そ れに いたっ たさ まざま な状 況を記 録す るつも り
は ない。 シャ フィと いう 人が別 の小 冊子に 、そ の事件 の詳 細を正 確に 記録し てい るの
で 、それ を参 照して いた だくよ うに 読者に すす める次 第で ある。 バブ の勇敢 な弟 子百
八 十人以 上が 殉教し たこ とだけ は述 べてお こう 。同数 の弟 子たち が負 傷し、 動け ない
状 態にあ った が、そ れで もテヘ ラン に向か うよ うに命 じら れた。 困難 な旅で 、生 き残
っ たのは 二十 八人だ けで あった 。そ のうち 十五 人が、 到着 した日 に絞 首台に 送ら れ、
残 りは投 獄さ れた。 その 後二年 間、 残虐行 為を 受けて 苦し みつづ け、 最後に は釈 放さ
れ たが、 多く は故郷 へ向 かう途 中で 、監獄 生活 の苦難 から 疲労困 憊し 、息絶 えた ので
あった。
シ ラズ では多 数の バブの 弟子 たちが 、タ ハマス ブ・ ミルザ の命 令で殺 害さ れた。 迫
害 者たち は、 殺害さ れた 二百名 の頭 部を銃 剣に 刺して 意気 揚々と ファ ルス州 のア バデ
村 に運ん だ。 かれら は、 テヘラ ンに 運ぶ予 定で あった が、 国王の 使者 から、 それ を中
止するように命じられたため、アバデ村に埋葬することにしたのであった。(p.644)
女 性は 六百名 いた が、そ の半 数はナ イリ ズで釈 放さ れた。 残り は、二 人づ つ鞍な し
の 馬に強 制的 に乗せ られ 、シラ ズに 送られ た。 そこで 、は げしい 拷問 を受け たあ と見
捨 てられ た。 多くは シラ ズに行 く途 中で命 を落 とした 。残 りは苦 難に 耐え、 最後 には
自 由の身 とな った。 この ように 、信 仰のた めに 極度に 苦し められ た勇 敢な男 女に ふり
か かった こと を述べ ると き、わ たし のペン は恐 怖で縮 み上 がるの であ る。バ ブの 弟子
たちに対する理不尽な残忍さは、その痛ましい事件の最終段階で最悪の醜行となった。
前 に述べ たザ ンジャ ンの 包囲の 恐怖 、そし てホ ツジャ トと その支 持者 たちに 加え られ
た 侮辱も 、二 、三年 後の ナイリ ズと シラズ で起 こった 極悪 な残虐 行為 に比べ ると うす
れ てしま うの である 。今 後もっ と能 力のあ る人 が、言 語に 絶する 蛮行 を詳細 に記 録に
残 すであ ろう 。その 内容 がどれ ほど 残忍な もの であっ ても 、それ は、 バブの 大業 が、
信者に注入できた信仰の貴重な証拠の一つとして永遠記憶されるであろう。(p.645)
ア ジム の告白 で、 ついに バハ オラは 生命 にせま って いた危 機か ら解放 され た。ア ジ
ム が国王 暗殺 の主な 扇動 者と自 白し て処刑 され たこと で、 騒然と して いた住 民の 怒り
は やわら いだ 。かれ らの 憤怒と 復讐 を求め る叫 びは、 バハ オラか らそ らされ 、は げし
い 非難の 声も かなり しず まった ので ある。 テヘ ランの 指導 者たち は、 それま でバ ハオ
ラ を国王 の主 敵と見 なし ていた が、 暗殺事 件に は一切 かか わって いな いとい う確 信を
固 めてき てい た。そ こで 、総理 大臣 ミルザ ・ア ガ・カ ーン は、信 頼で きるハ ジ・ アリ
を 代理と して 、地下 牢シ アーチ ャー ルに行 かせ 、バハ オラ に釈放 命令 を伝え るよ うに
命じた。(pp.646-647)
この代理人は、地下牢のあまりのひどさに仰天し、悲痛な思いでいっぱいとなった。
か れは、 その 光景を 信じ ること がで きなか った のであ る。 バハオ ラは 、寄生 虫の むら
が る床に くさ りでつ なが れ、首 はそ の重さ でま がり、 顔は 悲しみ にあ ふれ、 髪は ぼう
ぼ うとし 、衣 服も汚 れた ままで 、最 悪の地 下牢 の醜悪 な空 気を吸 わさ れてい た。 この
様 子に、 かれ の目か ら涙 があふ れて きた。 暗や みの中 で、 バハオ ラの 姿を認 めた とた
ん、こう叫んだ。「ミルザ・アガ・カーンにのろいあれ!
あなたが、これほど屈辱的
な 監禁を 強い られて おら れるこ とは 、わた しに は想像 もつ きませ んで した。 それ は神
も ご存知 です 。総理 大臣 が、こ れほ ど残忍 なこ とがで きる など思 いも よりま せん でし
た 。」そ して 、マン トを はずし 、バ ハオラ に差 し出し 、「 総理大 臣と 顧問に 会わ れると
き 、これ を着 て下さ い」 とこん 願し た。し かし 、バハ オラ はその 要請 に応え ず、 囚人
の衣服のまま、政府の建物に向かった。
総理大臣は、最初にバハオラにつぎのように述べた。
「わたしの忠告を聞き、バブの
信 教との 交わ りを絶 って いたな らば 、あな たは 苦痛も 屈辱 も味わ うこ とはな かっ たで
あ ろう。」バ ハオラ は答 えた。「あ なたの 方で 、わた しの 勧告を 聞き 入れて いれ ば、政
局はこれほど危機に瀕するようにはならなかったであろう。」(p.648)
こう述べて、バハオラは、バブの殉教のとき語った言葉を、かれに思い起こさせた。
「 点され た炎 は、今 後は げしく 燃え さかる であ ろう」 とい う言葉 が、 総理大 臣の 脳裏
を横切った。かれはこう述べた。
「あなたの警告通りのことが起こりました。今わたし
にどんな忠告をあたえられますか?」バハオラは即刻答えた。
「この国のすべての知事
に 、こう 命ぜ よ。無 実の 人びと の血 を流す こと を止め 、女 性を辱 めた り、子 供を 傷つ
け たりす るこ とを中 止し 、バブ の信 教の迫 害を 止め、 その 信者た ちを 一掃す ると いう
無駄な望みをすてるようにと。」(p.649)
そ の日 、総理 大臣 は全国 の知 事に、 残酷 で恥ず べき 行為を 中止 せよ、 との 命令を 下
した。その令状にはこう書かれていた。
「これまで実施してきたことで十分だ。今後は
住民を逮捕し、罰するのは中止せよ。国民の平和と平穏をこれ以上乱してはならない。」
政 府は、 国家 にふり かか った災 いを 一掃す るた めの最 上策 を審議 し、 その結 果、 釈放
直 後のバ ハオ ラを国 外に 追放す るこ とに決 定し た。す なわ ち、バ ハオ ラとそ の家 族に
一ヵ月以内にペルシャから離れるように命じたのである。
ロ シア 公使は 、政 府の計 画を 知ると すぐ バハオ ラの 保護を 申し 出、ロ シア に招待 し
た 。しか し、 バハオ ラは それを こと わりイ ラク に行く こと を選ん だ。 バハオ ラは 、カ
ル ベラか らも どって 九ヵ 月後の 一八 五三年 一月 十二日 、最 大の枝 (ア ブドル ・バ ハ)
と アガ・ カリ ム(バ ハオ ラの実 弟) をはじ め、 ほかの 家族 のメン バー と共に 、護 衛の
一 団とロ シア の公使 一行 に付添 われ て、テ ヘラ ンから バグ ダッド に向 けて出 発し た。
(p.650)
エピローグ
バ ハオ ラが自 国か らイラ クに 追放さ れた 時期ほ ど、 バブの 信教 が衰退 した ことは な
か った。 バブ が命を 捧げ 、バハ オラ が苦労 しな がら進 めて きた大 業は 、今に も消 滅す
る かに見 えた 。その 力は 失われ 、抵 抗力も 回復 できな いよ うに思 われ た。失 望と 災難
が 、おど ろく ほどの 早さ でつぎ から つぎへ と、 度をま して 起こり 、熱 心な支 持者 の活
力 をうば い、 希望を くも らした ので ある。 事実 、ナビ ルの この物 語の 表面だ けを 読み
取 る者に は、 最初の ペー ジから 、敗 北と虐 殺、 屈辱と 失望 の連続 で、 それも 起こ るた
び に強烈 とな って行 き、 最後に はバ ハオラ の故 国から の追 放で最 高潮 に達す るこ とを
記 述した にす ぎない と思 えるで あろ う。疑 念を もつ読 者は 、この 信教 が天の 威力 を付
与 されて いる ことを 認め ようと せず 、バブ がも たらし た概 念はす べて 、失敗 の運 命に
あ ると思 った 。バブ が勇 敢に推 進し た大業 は無 残な失 敗に 終わっ たか に見え たの であ
る。そのような読者は、このシラズの不運な若者バブが残酷に殺害されたことを見て、
その一生を、実りを結ばない、もっとも悲しむべき生涯の一例と見なし、それはまた、
人 間の宿 命で もある と思 ったの であ る。そ の短 い、英 雄的 な生涯 は、 流星の よう にす
ば やくペ ルシ ャの天 空を 横切り 、そ の間、 全国 をおお って いた暗 やみ に永遠 の救 済の
光 をもた らし たよう に見 えたが 、や がて暗 黒と 絶望の 深淵 に落ち 込ん だので あっ た。
(p.651)
努 力を 進める たび に、バ ブの 魂に重 くの しかか って いた悲 しみ と失望 は深 まって い
っ た。聖 なる 都市メ ッカ とメジ ナで 、自ら の使 命をは じめ て公に 宣言 すると いう 計画
は 望み通 りに はいか なか った。 メッ カの州 長官 は、ゴ ッド スから バブ のメッ セー ジを
受 け取っ たが 、軽蔑 をも って、 よそ よそし い無 関心さ を示 した。 バブ が心に いだ いて
い た計画 、す なわち 、巡 礼から カル ベラと ナジ ャフに 成功 裡にも どり 、それ らの シー
ア 派の本 拠地 で大業 を樹 立する 計画 もまた 完全 にくじ かれ た。十 九人 の弟子 にあ たえ
て いた指 示も 、大部 分成 就され ない ままで あっ た。か れら は、節 度を 守るよ うに との
バ ブの勧 告を 熱意の あま り忘れ 去り 、その ため バブが 抱い ていた 望み の実現 を大 いに
妨げたのである。
賢 明で 機敏な モタ メッド (マ ヌチェ ール ・カー ン、 知事) は、 バブの 貴い 生命に せ
ま ってい た危 機を見 事に かわし 、だ れより も深 い献身 をも ってバ ブに 仕えた 。そ のモ
タ メッド のと つぜん の死 で、バ ブは 、不誠 実な ゴルジ ン・ カーン の掌 中に移 され た。
か れは、 敵の うちで もも っとも 憎む べき、 破廉 恥な男 であ った。 モハ メット 国王 に会
見 できる 唯一 の機会 も、 気まぐ れで 、卑怯 な総 理大臣 アガ シの妨 害で 失われ た。 その
会 見は、 バブ 自身が 要請 し、そ れに 希望を かけ ていた ので あるが 。総 理大臣 は、 すで
に 大業に 対し て大い に好 意を抱 いて いる国 王が バブに 会え ば、自 分の 立場が 不利 にな
ることを恐れたのである。
バ ブの 激励で 、主 な弟子 二人 、モラ ・ア リとシ ェイ キ・サ イド がそれ ぞれ 、トル コ
領 土とイ ンド に信教 を紹 介しよ うと したが 、み じめな 失敗 に終わ った 。モラ ・ア リは
努 力をは じめ てすぐ 惨殺 され、 挫折 した。 シェ イキ・ サイ ドはわ ずか ながら 結果 を生
み 出し、 一人 の男性 がバ ブを受 け入 れたが 、そ の奉仕 は、 ロリス タン でイル デリ ム・
ミルザの裏切り行為でとつぜん阻止された。バブ自身は、宣言以来ほとんど監禁され、
ア ゼルバ エジ ャンの 山中 の砦に 閉じ 込めら れて いた間 は、 強欲な 敵に 苦しめ られ てい
た信者たちから隔離されていた。
(以上のもろもろの事件の中で)とくに、かれ自身の、
激 烈で、 屈辱 的な殉 教の 悲劇を 見る と、こ の高 貴な大 業は 、最低 の恥 辱に落 とさ れた
か に見え たで あろう 。バ ブの波 乱に 富んだ 短い 生涯の 終末 で、英 雄的 な努力 も、 その
目的を達することができなかったように見えたであろう。(pp.652-653)
バ ブ自 身の苦 難は 激烈で あっ たが、 多数 の弟子 たち にふり かか った災 難に くらべ る
と 、その 一滴 にすぎ なか った。 バブ は悲哀 の杯 を飲ん だが 、その 後に 残され た者 たち
は 、その 残り を余す とこ ろなく 飲ま なけれ ばな らなか った のであ る。 シェイ ク・ タバ
ルシでの大惨事では、もっとも有力な弟子ゴッドスとモラ・ホセインを失い、さらに、
三 百十三 人の 忠実な 弟子 たちも 巻き 込んだ 。こ れは、 バブ がそれ まで に受け た打 撃の
う ち最悪 で、 すばや くせ まりつ つあ った生 涯の 終わり を暗 黒で包 んだ 戦いで あっ た。
残 忍非道 のナ イリズ の戦 いでは ヴァ ヒドを 失っ た。ヴ ァヒ ドは、 最高 の学識 者で 、最
大 の影響 力を もち、 バブ の弟子 のう ちで最 高の 業績を もっ ていた 。か れの死 は、 大業
の たいま つを 掲げつ づけ る弟子 たち にとっ て、 さらな る大 打撃で あっ た。ナ イリ ズの
災 難直後 に起 きたザ ンジ ャンで の虐 殺で、 信教 の資源 は枯 渇して しま った。 弟子 たち
を 支えて いた ホッジ ャト の死で 、最 後に残 って いた指 導者 は消え 去っ たので ある 。こ
れ らの信 教の 指導者 たち が、ほ かの 弟子た ちよ り卓越 して いたの は、 聖職者 の権 威を
も ち、学 識が 深く、 勇敢 で強力 な性 格をそ なえ たいた から であっ た。 バブの 弟子 たち
の 精華は 、容 赦のな い殺 戮で消 され 、残っ たの は、奴 隷に された 多数 の女子 供で 、無
慈 悲な敵 の支 配下で 苦し みにあ えい でいた 。信 教の指 導者 たちは 、知 識と模 範で 、勇
敢な弟子たちの心に点された炎を支えていたが、かれらもまた殺害され、その事業は、
迫害された共同体にふりかかった混乱の中で放棄されてしまったのである。
(pp.653-654)
バ ブの 大業を 推進 できる 能力 を示し た者 たちの うち 、残っ たの は一人 バハ オラだ け
で あった 。ほ かの者 たち はすべ て敵 の剣に 倒さ れた。 信教 の名目 上の 指導者 ミル ザ・
ヤ ーヤは 、不 面目に もテ ヘラン の動 乱の危 機を 逃れて 、マ ザンデ ラン の山中 に身 をひ
そ めた。 托鉢 僧を装 って 、椀を 手に し、危 険な 場所か らギ ランの 森へ と逃げ たの であ
る 。バブ の秘 書セイ エド ・ホセ イン とその 共同 者ミル ザ・ アーマ ドは 、両人 とも 、バ
ブ が著わ した バヤン 書の 教えと 意味 を理解 し、 またバ ブと 親密に 交わ り、信 教の 教え
に 通じて いた ので、 ほか の弟子 たち の理解 と信 仰を深 める 立場に あっ たが、 テヘ ラン
の 地下牢 シア ・チャ ール にくさ りで つなが れて いた。 その ため、 かれ らを大 いに 必要
と してい た残 りの弟 子た ちから 完全 に切り 離さ れてい た。 この二 人に は残酷 な殉 教の
運 命が定 めら れた。 バブ を幼少 のと きから 、父 親以上 に深 い愛情 で世 話をし 、シ ラズ
で 苦しん でい たバブ に重 要な奉 仕を してき た伯 父も投 獄さ れてい た。 かれは 、バ ブの
死 後、二 、三 年生き 延び ること がで きれば 、計 り知れ ない ほどの 奉仕 ができ たは ずで
あったが、獄中で、最愛の大業に奉仕をつづける望みを失ってわびしく過ごしていた。
バ ブの 大業の 燃え る象徴 であ るタヘ レも 、その 不屈 の勇気 、は げしい 気性 、固い 信
仰 、燃え るよ うな熱 意、 深い知 識で 、ある 期間 、ペル シャ の女性 をバ ブの大 業に 勝ち
取 ること がで きたよ うに 見えた 。し かし、 遺憾 ながら 、勝 利の寸 前、 敵の怒 りの 犠牲
となったのである。タヘレの遺体が穴に落とされるとき、そばに立っていた者らには、
か の女の 影響 は完全 に消 されて しま ったと 思わ れた。 バブ の「生 ける 者の文 字」 と呼
ば れる弟 子た ちの残 りも 、殺害 され るか、 獄中 で足か せを かけら れて いるか 、ま たは
辺鄙な土地で人目につかない生活を送っていた。
バ ブが 書いた おび ただし い数 にのぼ る文 献も、 大部 分、弟 子た ちにふ りか かった と
同 様の屈 辱を 受けた 。そ の多く は、 抹消さ れる か焼き 捨て られ、 中に は改悪 され たも
の も少数 あっ た。こ のよ うに、 大半 は敵に 略奪 され、 残り は、判 読で きない 状態 で、
乱 雑に、 危険 な場所 にか くされ てい た。す なわ ち、生 き残 ったバ ブの 弟子た ちの 間に
散在していたのである。(pp.654-655)
バ ブが 宣言し 、全 生命を ささ げた信 教は 、最低 限に 落ち込 んだ 。信教 を攻 撃して き
た 火炎は 、そ の構造 をほ とんど ほろ ぼした かに 見えた 。死 の翼が その 上を舞 って いる
よ うであ った 。その 生命 は、回 復で きない ほど 完全に 根絶 される ので はない かと 思わ
れ た。暗 雲が すばや く迫 ってい る中 で、大 業を 救って くれ る人物 とし て光を 投げ かけ
ていたのは、バハオラだけであった。バブの大業を擁護するために立ち上がって以来、
バ ハオラ は、 明確な ビジ ョン、 勇気 、英知 を幾 度とな く示 してき た。 もし、 ペル シャ
に留まることができれば、かれこそは、消滅しつつある信教を復活できると思えたが、
そ のよう な運 命では なか ったの であ る。信 教の 歴史上 、類 を見な い大 災難が 、こ れま
で 以上の 激烈 さでふ りか かって きて 、この 度は 、バハ オラ 自身、 その 渦巻き に巻 き込
ま れたの であ る。生 き残 った弟 子た ちが抱 いて いたわ ずか の望み も、 その混 乱の 中で
く じかれ た。 かれら の唯 一の望 みで あるバ ハオ ラは、 動乱 の嵐で 打ち のめに され 、回
復 は不可 能に 見えた ので ある。 バハ オラは 、ヌ ールと テヘ ランの 全財 産を略 奪さ れた
あ と、国 王暗 殺事件 の主 犯とし て告 発され 、親 族から 見放 され、 以前 の友人 や賞 賛者
た ちから も軽 蔑され 、暗 黒の寄 生虫 のむら がる 地下牢 に入 れられ た。 そのあ と、 家族
と ともに 、国 外に追 放さ れ、迫 害さ れた信 教の 唯一の 救済 者とし ての 期待は 、一 時、
完全に消滅したかに見えた。(pp.655-656)
ナセルディン国王が、自らを大業の破壊者として誇りに思ったのも不思議ではない。
か れは、 大業 を公然 と抑 圧しつ づけ 、つい に、 表面で は根 絶した と思 ったの であ る。
国 王は、 この 大規模 な流 血の戦 いの さまざ まな 局面を 思い 出しな がら 、自ら バハ オラ
の 追放命 令に 署名し たこ とで、 人民 の心を 震撼 した憎 い異 端の滅 亡を 宣告し たと 想像
し たので ある が、そ れも 不思議 では ない。 その とき、 恐怖 のまじ ない は解か れ、 全国
を 荒らし た波 はつい にお さまり 、人 民が求 めて いた平 和が もどっ てき はじめ たと 、国
王 は思っ たの である 。バ ブはも はや 居なく なっ た。そ の大 業を支 えて いた強 力な 柱も
つ ぶされ た。 全国に ちら ばる多 数の 信者た ちも おじけ づき 、疲れ 果て た。指 導者 のい
な くなっ た共 同体の 唯一 の望み であ るバハ オラ も国外 に追 放され た。 バハオ ラは 自ら
進 んで、 狂信 的シー ア派 の本拠 地の 近くを 追放 先に選 んだ 。これ で、 王座に つい て以
来 自分を なや ましつ づけ てきた 亡霊 は、完 全に 消滅し た。 この運 動は すばや く忘 れ去
ら れてい ると いう助 言者 らの言 葉を 信じれ ば、 今後一 切、 この憎 むべ き運動 につ いて
聞くことはないと、国王は信じたのである。(p.656)
迫 害を 生き抜 いた バブの 信教 の信者 でさ え、大 業の 目的は 達せ られな かっ たと、 一
瞬 、思っ たか もしれ ない 。さら に、 雪にお おわ れたイ ラク との国 境の 山々を 越え て行
くバハオラの一行のうちには、少数をのぞいて、同じように思った者もいたであろう。
大業を四方八方から包囲した暗黒の勢力は、ついに勝利を得、若々しい栄光の王子が、
自国に点した光を消してしまったように見えたのである。
と もか く、国 王の 目には 、一 時、全 国を 襲った (バ ブの信 教の )勢力 は、 政府軍 の
力 で征服 され たよう に見 えたの であ る。バ ブの 信教は 、そ の誕生 時か ら不運 に会 い、
や がて、 国王 の武力 に屈 服せざ るを 得なか った 。信教 は打 撃(国 王の 暗殺事 件) を受
け たが、 それ は当然 報い を受け るに 足るも ので あった 。国 王は、 心配 のあま り眠 れな
い 日々を 過ご してい たが 、今や 、そ ののろ いか らも解 放さ れ、そ のと てつも ない 妄想
が もたら した 荒廃か ら、 国を建 て直 す事業 に集 中しは じめ ること がで きた。 今後 の真
の 使命は 、教 会と国 家の 基盤を 強化 し、同 じよ うな異 端の 侵入を 防ぐ ことで ある と、
思ったのである。異端は、今後とも国民の生活に毒を流しかねないからである。(p.657)
国 王の 想像は 何と 空しく 、ま た何と いう 誇大な 妄想 であっ たろ うか。 かれ が潰し た
と あさは かに も想像 した 大業は まだ 生きて いた 。そし て、 大動乱 の中 から、 以前 より
も 強力と なり 、純化 され 、高潔 とな って出 現す るよう に定 められ てい た。こ のお ろか
な 国王に は、 大業は すば やく絶 滅に 向かっ てい るよう に思 えたの であ るが、 実際 は、
変 革期の 激烈 な試練 を通 ってい たの であっ た。 この試 練を 通して 、大 業は、 その 高貴
な運命の途上で、つぎの段階へと進んで行くようになっていたのである。その歴史で、
これまで以上にかがやかしい新しい章が開かれようとしていた。国王は、抑圧により、
大 業の運 命を 封じて しま ったと 思っ たので ある が、そ れは 、進化 にお ける最 初の 段階
で 、時が くれ ば、バ ブが 宣言し たも のより 強大 な啓示 へと 発展す るも のであ った 。バ
ブ の手で 植え られた 種は 、しば らく の間、 前例 のない はげ しい嵐 にさ らされ たが 、そ
の 後、国 外の 土壌に 移植 された 。し かし、 それ は成長 発展 しつづ け、 時期が くれ ば、
大 木とな って 、地上 のす べての 民族 と国民 の避 難所と なる ように 定め られて いた ので
ある。バブの弟子たちは拷問を受けて殺害されたり、屈辱を受けて弾圧されたりした。
弟 子たち の数 は減少 し、 信教の 声は 武力で 黙ら され、 その 運命は 絶望 的とな り、 有能
な 弟子た ちは 信仰を 捨て たりし た。 しかし 、バ ブの言 葉の 殻に埋 めら れた約 束は 、い
か なる手 もう ばい去 るこ とはで きず 、いか なる 力もそ の発 芽と成 長を とめる こと はで
きなかったのである。(pp.657-658)
バ ブは 自分の 後に 下され る啓 示の先 駆者 だと宣 言し たが、 その 啓示の 最初 のきざ し
は 、バハ オラ が監禁 され ていた テヘ ランの 暗黒 の地下 牢で 、すで に認 められ た。 バブ
は 、その 出現 がせま って いるこ とを くり返 し言 及して いた のであ る。 バブの 重大 な啓
示 から生 み出 された 威力 は、や がて 、その 栄光 を十分 に表 わし、 地球 を取り 巻く よう
に なって いた が、そ れは すでに 、死 刑執行 人の 剣の下 に、 牢獄に 監禁 されて いた バハ
オ ラの中 に脈 打って いた 。はげ しい 苦しみ の最 中にあ るバ ハオラ に、「なん じこ そは、
神 の代弁 者に 選ばれ た」 と告げ る静 かな声 は、 信教の 滅亡 を祝う 準備 をして いた 国王
の耳にとどくはずはなかった。この投獄で、バハオラの名に汚名をきせたが、それは、
よ り屈辱 的な イラク への 追放の 前置 きであ ると 国王は 信じ ていた 。と ころが 実際 、イ
ラ クはバ ハオ ラの運 動の 最初の 活動 場とな った 。その 運動 は、最 初バ グダッ ドで 公に
さ れ、後 に、 アッカ の牢 獄都市 から 、ナセ ルデ ィン国 王を はじめ 、世 界の為 政者 や国
王に宣布されたのである。(pp.658-659)
国 王は 、バハ オラ に追放 命令 を出し たこ とで、 実際 は、神 の目 的の推 進を 助けて い
た こと、 そし てかれ 自身 はその 手段 にすぎ なか ったこ とに 気づか なか った。 さら に、
自 分の統 治が 終わり に近 づいて きた とき、 自分 がその 根絶 に全力 をつ くした 信教 が復
活 するこ とに も気が つか なかっ た。 この復 活で 、信教 の活 力が示 され たので ある が、
国 王は、 失望 の奈落 にあ ったと き、 信教が それ ほどの 活力 をもっ てい るなど 信じ るこ
と はでき なか ったの であ る。国 内、 そして 隣国 のイラ クと ロシア だけ でなく 、東 は遠
方 のイン ドま で、西 はヨ ーロッ パの トルコ まで 、信教 の炎 が再燃 した ことで 、国 王は
あ さはか な夢 からさ まさ れたの であ った。 バブ の大業 は、 死から よみ がえり 、以 前よ
り もはる かに 強大な 姿で 出現し たの である 。バ ハオラ の人 格、そ の具 現であ る啓 示の
力 で、バ ブの 大業に あら たなひ ずみ がつい たが 、国王 は、 そのよ うな ことを 想像 さえ
で きなか った のであ る。 無活動 状態 であっ た信 教が迅 速に 復活し 、国 内で強 化さ れた
こ と。国 外に も拡大 して いるこ と。 バハオ ラ自 らイス ラム 教本拠 地を 居住地 に選 び、
そ の中心 で、 おどろ くべ き宣言 をし たこと 。ヨ ーロッ パの トルコ で、 自らの 使命 を公
に 宣言し たこ と。そ の宣 言を書 簡に して、 地上 の君主 たち に送っ たこ と。そ の書 簡の
一 通は、 国王 自らも 受け 取るよ うに なって いた こと。 その 宣言が 、無 数の信 者の 心に
熱 意を喚 起し たこと 。大 業の中 心が 聖地に 移さ れたこ と。 バハオ ラの 生涯が 終わ りに
近 づくに つれ て、厳 重で あった 監禁 がゆる めら れてい った こと。 東方 の国々 から バハ
オ ラの監 獄を 訪れる 多数 の訪問 者や 巡礼と の会 見を禁 止す るオス マン 帝国皇 帝の 条例
が 解禁さ れた こと。 西欧 の思想 家た ちの間 で探 索心が 生じ たこと 。バ ハオラ の信 者た
ち の間に 分裂 をもた らそ うとし た勢 力が完 全に つぶさ れ、 その主 な扇 動者に 悲惨 な運
命 がふり かか ったこ と。 とくに 、バ ハオラ は、 崇高な 教え の書を 多数 出版し 、そ れら
は 、ます ます 増加し てい く信者 たち によっ て、 ロシア のト ルキス タン 、イラ ク、 イン
ド 、シリ ヤ、 さらに 遠方 のヨー ロッ パのト ルコ まで伝 えら れたこ と。 以上が 、信 教は
抑圧され、滅亡したと信じていた国王の目に、信教は征服不可能であるということを、
確 信させ た主 な要素 であ った。 国王 は、信 教の 根絶の 努力 が無駄 であ ったこ とを かく
そ うとし たが 、それ はだ れの目 にも 明らか であ った。 国王 は、バ ブの 大業の 誕生 と苦
難 を目撃 して きたが 、今 や、そ れが 不死鳥 のよ うに灰 から よみが えり 、想像 もで きな
かった業績に向かって進展しているのを目前にしていた。(pp.662-663)
ナ ビル 自身も 、こ の物語 を書 いて四 十年 以内に 、過 去のあ らゆ る宗教 の結 実であ る
バ ハオラ の啓 示が、 これ ほど発 展し 、世界 に広 がり、 認め られる 道を 直進し てい るこ
と を想像 でき なかっ た。 また、 バハ オラの 死後 四十年 以内 に、ペ ルシ ャと東 方の 国々
を 越えて 最遠 隔の地 方に まで浸 透し 、全地 球を 一周す るな ど思い もよ らなか った 。さ
ら に、こ の大 業が、 その 期間内 に、 アメリ カ大 陸の中 心に その旗 をす え、ヨ ーロ ッパ
の 主要都 市に 進出し 、ア フリカ 南部 の辺境 まで とどき 、遠 隔のオ ース トラレ ーシ アに
も基点を設置するであろうという予言を聞いても、信じなかったであろう。ナビルは、
信教の運命にたいする確信で燃えていたが、バブの廟を心に描くことはできなかった。
か れは、 バブ の遺体 が最 終的に どこ に安置 され るか知 らな かった 。そ れが、 カル メル
山 の中心 に置 かれ、 世界 の隅々 から 訪れて くる 多数の 訪問 者たち の巡 礼場所 とな り、
光 の標識 とな ること など 想像で きな かった ので ある。 旧バ グダッ ドの 小道に ある バハ
オ ラの質 素な 住居が 、そ の後、 執拗 な敵の 陰謀 の結果 、注 目をあ びる ように なり 、ヨ
ー ロッパ 列強 国の代 表が 集まる 会議 で真剣 に審 議され るこ とにな るな ど想像 でき なか
っ た。最 大の 枝(ア ブド ル・バ ハ) の力で 、短 期間に アメ リカ大 陸の 北部の 州が 栄光
あ るバハ オラ の啓示 にめ ざめる など 想像で きな かった 。ナ ビルは 、こ の物語 の中 で、
国王たちの暴虐をあざやかに描写したが、それらの王朝が、没落し、自分たちの敵(バ
ブ の信教 )に あたえ た苦 しみを 、自 ら味わ うこ とにな るな ど想像 でき なかっ た。 かれ
は 、信教 に激 烈な迫 害を 加えた 自国 の聖職 者機 構全体 が、 自分た ちが 抑圧し よう とし
た 勢力に よっ て、す みや かに打 倒さ れるな ど想 像でき なか った。 イス ラム教 のソ ンニ
派 の最高 機関 で、バ ハオ ラの信 教を 迫害し たサ ルタン の位 とカリ フの 位が、 イス ラム
教 の信者 によ って、 容赦 なく一 掃さ れるな ど、 信じる こと はでき なか った。 バハ オラ
の 大業の 着実 な拡大 と共 に、行 政機 構が強 化さ れ、異 なっ た人種 や民 族から なる ユニ
ー クな共 同体 を世界 に示 すこと がで きるよ うに なるな ど想 像でき なか った。 その 共同
体 は、世 界の 隅々に わた り、同 じ目 的をも ち、 活動は 整合 され、 いか なる逆 境に もそ
がれることのない熱意で燃えるなど想像がつかなかったのである。(pp.664-667)
過 去と 現在の 業績 をしの ぐ偉 業が、 今後 その貴 重な 遺産を 委任 された 者ら によっ て
成 し遂げ られ るであ ろう ことを だれ が知り 得よ うか。 現在 の社会 の混 乱から 、わ れわ
れ の期待 より もすみ やか に、バ ハオ ラの世 界秩 序が出 現す るかも しれ ないと 、だ れが
想 像でき よう か。そ の輪 郭は、 世界 中のバ ハイ 共同体 の間 で、す でに かすか に認 めら
れ るので ある が。こ れま での業 績は 偉大で 、す ばらし いも のであ った が、大 業の 黄金
時 代の栄 光は まだ現 われ ていな い。 黄金時 代の 出現の 約束 は、バ ハオ ラの不 朽の 言葉
に 埋め込 まれ ている ので ある。 この 大業を いま だに苦 しめ る暗黒 の力 の猛襲 はは げし
く 、その 戦い は絶望 的で 、長引 き、 また、 いま だもっ て強 い失望 感を もたら すも ので
あ っても 、大 業は、 やが てほか の宗 教が史 上成 し遂げ た以 上の勢 いを もつよ うに なろ
う。
東 西の 社会が 、世 界的な 同胞 関係に 結び 合わさ れる こと、 それ は、過 去の 詩人や 夢
想家が歌ってきたもので、バハオラの啓示の中心として約束されているものであるが。
す なわち 、バ ハオラ の法 が、世 界の 諸民族 と諸 国民を 和合 させる 永久 的なき ずな とし
て 認めら れる こと、 また 、最大 平和 の君臨 が宣 布され るこ と。こ れら は、バ ハオ ラの
信教が展開して行くときのかがやかしい物語の章に語られるものである。
こ の上 ない光 輝に みちた 勝利 が、努 力を つづけ る大 多数の バハ オラの 信者 のため に
準 備され てい ること をだ れが知 り得 ようか 。確 かに、 われ われは バハ オラが 建て た巨
大 な建造 物に あまり にも 近くに いる ため、 その 啓示の 進化 の現段 階で は、そ の約 束の
栄 光を十 分想 像する こと さえで きな いので ある 。無数 の殉 教者の 血で 染めら れた 大業
の 歴史を 考え ると、 われ われは 鼓舞 されず には おれな いの である 。今 後、ど れほ どの
恐 るべき 勢力 で襲わ れて も、ど れほ ど無数 の災 難で苦 しま されて も、 大業の 前進 は阻
ま れるこ とは 絶対に なく 、バハ オラ の言葉 に秘 められ た最 後の約 束が 完全に 実現 され
るまで進展しつづけるであろう。(pp.667-668)