東日本大震災への対応 (平成 23・24 事務年度の記録) 平成 25 年 6 月 仙台国税局 はじめに 東日本大震災への対応は、仙台国税局の最優先課題であり、職員 3,200 名の総力を挙げて 取り組んだ。 23 事務年度は、1 年を通して被災された納税者の税の還付、納税猶予申請等の税務手続 きの支援、被災酒類業者への対応、酒類の安全性の確保等に取り組んだ。24 事務年度は、 被災者生活再建支援金の見直し事務のほか、繰越損失適用者の所得税申告への対応等引き続 き、震災関連事務に従事した。確定申告期には、両年とも挙署一体体制、仙台局内の東北6 県の職員の応援派遣はもとより、全庁的支援の下、東京局等の職員の応援、協力を得つつ、 各般の取組みを実施した。 他方、震災後、被災地の復旧・復興のための復興予算をはじめとして、復興マネーが東北 に流入し、税収面でも、顕著な動きが出てきている。そのため、24 事務年度は、仙台局と しても、納税者のコンプライアンス維持の観点から、震災前の事務運営への回復が求められ ており、限られた事務量の中で、調査・徴収面の課題にも適切に対応した。 岩手県、宮城県の被災地では、がれきの処理に目処がつき土地の嵩上げ工事や高台への集 団移転促進等の復興事業が本格化しているが、福島県では、平成 25 年 6 月時点では東電福 島第一原発の避難区域の再編がようやく完了しつつある段階にとどまっており、旧警戒区域 の本格的な除染作業やインフラ復旧作業は、今後本格化していくものと思われる。 このように、仙台局を取り巻く環境は、被災地でありながらも徐々に変化していることか ら、仙台局の取組みや経済情勢についても、記録として残し、全国に情報発信するため、財 務省広報誌ファイナンスに 6 回の投稿を行った。 今後の執務の参考及び関係民間団体等への広報・講演資料として活用されるとともに、被 災地が一日も早く復興することを祈念してやまない。 平成 25 年 6 月 仙台国税局長 上 羅 豪 目 次 管内の被災状況と平成 23 年 8 月までの取組状況 (ファイナンス平成 23 年 10 月号) ・・・・・・・・・・・・ 1 平成 23 年 12 月までの取組状況 ・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・ (ファイナンス平成 24 年 2 月号) 8 被災酒類業者等への対応 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (ファイナンス平成 24 年 3 月号) 19 平成 23 年分確定申告期を振り返って (ファイナンス平成 24 年 6 月号) 24 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 被災納税者に対する納税緩和制度の早期適用と 被災酒類業者等への対応(補追) 税務統計から見た震災後の東北の姿 (ファイナンス平成 25 年 2 月号) ・・・・・・・・・・・・ 34 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 36 東日本大震災後 2 回目の確定申告を振り返って (ファイナンス平成 25 年 6 月号) ・・・・・・・・・・・・ 44 ファイナンス 平成 23 年 10 月号 管内の被災状況と平成 23 年 8 月までの取組状況 1.はじめに 7 月 10 日付で、仙台国税局長の辞令をいただいた。仙台局に着任後、関係する行政機関、地方公共 団体、民間団体及び報道機関へ挨拶回りを行った。挨拶の際には、①東日本大震災の被災者等の負担 軽減を図るため、震災特例法の対応に仙台局の総力を挙げて取り組むこと、②酒類の復興は東北復興 にもつながるため、必要な支援を行うこと、③仙台局は、従来より地方公共団体や民間団体との連携 の下、税務行政を円滑に実施してきており、被災した関係団体の再生・復興について、国税局として も支援させていただくこと、以上、3 点について重要課題として説明させていただいた。 先方からは、 「この時期に仙台局でのお仕事、大変ですね。頑張ってください。」とのいたわりや励 ましのお言葉を多数頂戴した。 私としては、この言葉は、自分のみならず、仙台国税局全職員、ひいては、被災納税者に向けられ たメッセージであるものと理解し、仙台局の重要課題に対する取組とその状況について、以下、簡単 に紹介させていただく。 (備考) 1.震災特例法( 「東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律」平成 23 年 4 月 27 日公布・ 施行)の制定により、例えば、所得税関係については、住宅や家財などについて東日本大震災(以下「大震災」と いう)により生じた損失の金額について、納税者の選択により、平成 22 年において生じた損失の金額として、平 成 22 年分の所得税において雑損控除の規定の適用ができることとされた。これらの各税目の概要は、本ファイナ ンス平成 23 年 6 月号「震災特例法等の解説」において詳述されており、ここでは説明を省略する。 2.仙台局(青森県、岩手県、秋田県、宮城県、山形県及び福島県の6県を管轄、52 税務署)は、職員数約 3,200 名であるが、大震災により、非常勤職員を含む職員死亡 3 名、家族に死亡者・行方不明者のいる職員 20 名という 人的被害、自宅損壊職員 509 名等の物的被害を受けた。さらに、大きな庁舎被害としては、岩手県大船渡税務署が 津波により一部が水没し、また、福島県須賀川税務署が地震により、庁舎使用不能となった。こうした厳しい状況 ではありながら、当局は、直ちに災害対策本部を立ち上げ、平成 23 年 3 月 14 日以降、被災地の税務署において、 順次申告書収受等の業務を再開し、5 月の連休明けからは、局及び他署からの応援体制を図りつつ、震災特例法に 関する相談業務等に従事してきた。大震災以降、国税庁、東京局をはじめとして各国税局から、多くの業務支援、 人的支援を受けている。 3.以下、本稿の計数は、原則として平成 23 年 8 月 31 日現在のものを記載。 2.仙台局管内被災状況 (1)物的被害状況 平成 23 年 3 月 11 日に発生した大震災は、改めて申すまでもなく、津波、地震による被害の激甚 さと被害が広範囲にわたっていることが特徴である。 申告・納付期限の延長措置がとられた岩手県、宮城県及び福島県の税務署(青森県を除く 29 署) では、署の管内世帯数約 214 万に対し、人的被害は死者・行方不明者が約 2 万人、物的被害約 54 万 件うち半壊以上が約 26 万件となっている。 物的損害では、宮城県が約 31 万件、福島県が約 20 万件という状態となっている。特に、半壊以 上の被害件数では、岩手県では宮古署(1.0 万件)が、宮城県では、仙台市内 3 署(合計 8.2 万件)、 石巻署(5.4 万件) 、気仙沼署(1.4 万件)及び塩釜署(1.2 万件)が、福島県では、いわき署(2.8 万件) 、郡山署(1.4 万件)がそれぞれ 1 万件を超えている。 1 ファイナンス 平成 23 年 10 月号 (備考)大震災による税務行政への影響としては、平成 21 年分所得税申告件数は、例えば、石巻署約 4 万件、気仙沼 署約 2 万件、塩釜署約 3 万件といった状況にあり、各税務署の通常の処理件数と比較しても、被害規模及びそ れに伴う事務処理が極めて大きいと判断される。 (2)酒類業者の被災状況 仙台局管内の酒類製造場等 437 場のうち、およそ 150 場が何らかの被害を受け、うち 14 場が津波 により流出したほか、5 場は、福島第一原子力発電所の事故により避難を余儀なくされている。なお、 清酒製造場については、273 場のうち 109 場が被害を受け、半壊以上が 30 場、津波による流出は 6 場となっている。 また、酒類販売業者については、卸売業者を中心として在庫酒類に大きな被害が生じた。 3.仙台局における取組 (1)震災特例法等への対応 ① 震災特例法等への対応の基本的考え方 震災特例法の目的が、大震災で被災された方の負担軽減等を図ること、具体的には雑損控除の 適用等により平成 22 年分の税額からの減免調整にあることから、仙台局としても、できるだけ早 期にお金が被災された方の手元に戻るよう、所得税の還付、更正の請求等の申告等手続の支援に 万全を期すことを最重要課題として、局署を挙げて取り組んでいる。被災された方からの相談に 当たっては、その心情にも配意しつつ、親切、丁寧かつ的確な対応を行うよう、各税務署に指示 している。 平成 23 年 8 月末現在の相談等の状況等は、電話相談件数は約 8.1 万件、雑損控除等の適用判定 や平成 22 年分確定申告、更正の請求書提出など申告等手続を了した件数(以下、「申告相談済件 数」という)は約 6.3 万件となっている。申告相談済件数が物的被害のうち全半壊等の割合が 2 割程度であることについては、制度内容が被災者に対し十分には浸透されていないことのほか、 物的被害について修理が終わっていない、必要な書類が手元にない等、相談する準備が整ってい ないと判断されているのではないか等の様々な理由が考えられる。 そのため、被災者の立場に立ったわかりやすい広報や制度の周知に心掛けるとともに、引き続 き、電話相談及び個別相談等の体制整備を実施していくこととしている。 <県別の申告相談済件数(平成 23 年 8 月末現在)> 申告相談済 件 数 建 築 物 被害件数 内全半壊等 件 棟 棟 31,195 26,606 宮城県 9,037 45,301 317,129 169,547 福島県 8,356 195,375 62,300 62,694 543,699 258,453 岩手県 合 計 (注1) 「申告相談済件数」とは、①雑損控除等を適用し平成 22 年分に係る確定申告書又は更正の請求書を 提出された方、②平成 23 年分で雑損控除の適用を受けるために必要な「被災した住宅、家財等の損失 の計算書」の作成を終えた方及び③相談の結果、雑損控除等の適用がないと判定された方の件数とし ている。 (注2) 「建築物被害件数」は、各県及び消防庁調べの被害状況によっている。また、 「全半壊等」は、全壊・ 半壊・全焼・半焼・床上浸水・床下浸水の件数としている。 2 ファイナンス 平成 23 年 10 月号 (広報、説明会) 新聞、テレビ、ラジオ等への広告掲載依頼や地方公共団体の広報紙への掲載を依頼するととも に、報道機関からの個別取材にも局署において積極的に対応している。特に、地元紙における震 災特例法の対応状況や制度の仕組みの解説記事の掲載は、掲載当日以降の電話相談件数に大きな 影響を及ぼしている。これまでの広報は、正確性に重点を置いたものとなっていたが、物的被害 について修理が終わっていない場合でも、雑損控除の適用の判定や簡便法による損害額の計算は 可能であることから、気軽に税務署にご相談いただけるような内容の広報も実施していくことと している。 また、説明会については、被災された方の状況、被災した市町村の復旧・復興状況を踏まえつ つ、5 月の連休明けから実施してきているところであるが、9 月以降は、サラリーマンのみならず、 農協、漁協及び商工会等と連携して業種等に応じた説明会の開催も検討していくこととしている。 (電話相談体制) 電話相談については、最寄りの税務署へお電話いただくと、東日本大震災関係の専用番号「0」 番を音声案内して対応している。仙台局の税務相談室職員だけでは対応が困難であることから、 局員応援のほか、東京局内に仙台局東京サテライトを設置し東京局税務相談室からの応援も受け て、対応している。 特に、電話相談は、税務署における個別相談の事前準備という位置付けになることから、11 月 末までは、土曜日・日曜日・祝日も要員を確保することとしている。 (税務署相談体制) 被災地域の太平洋沿岸部の税務署は、職員数 20 人から 50 人規模といった小規模署が多く、自 署職員のみでは対応が困難であり、他署からの応援を要する税務署が 10 数署にのぼることから、 8 月 22 日以降、一日当たり 200 人程度の規模の局署間・署間応援を実施している。例えば、署間 応援は、近接署のみならず、青森県、秋田県及び山形県の税務署からも、一人 2 週間単位で複数 名応援を出している。応援に当たっては、必ずしも所得税に従事していない職員も要員の確保上 必要であり、これらの応援職員についても、被災納税者の心情に配意し、的確な対応ができるよ う、事前に研修等を受けることとしている。 また、避難先の最寄りの税務署においても、相談を受け付けており、これについても適切な広 報を行っていくこととしている。 税務署における相談は、被災された方の被害状況、年税額の確認等のため職員が個別対応をし ており、平均して一人当たり約 45 分程度の相談時間となっている。職員に聞くと、被災された方 の個別事情を踏まえつつ申告手続を説明、支援することから、タッチパネル導入以前の昔の確定 申告期の相談風景を彷彿させるという。 多くの被災された方々との相談は、まずは相談会場の確保が必要となることから、税務署にお いては、市町村等と協議して相談会場の確保等に努めていくこととしているが、被災した地方公 共団体や民間施設の復旧が遅れていることから、会場確保が容易でない場合もある。 なお、被災地署に従事する職員は、避難所等での相談や宿泊所からの通勤など、不慣れな環境 下に置かれていることから、職員の健康管理については最も配慮しているところである。 3 ファイナンス 平成 23 年 10 月号 (被災納税者に対する納税緩和制度の早期適用) 震災により財産に相当の損失を受けた場合や、国税を一時に納税することが困難となった場合 には、納税の猶予などの納税緩和制度を受けることができる。 仙台局においては、震災による被害の激甚さを考慮し、申告等手続において納付相談を行うほ か、被災が想定される納税者に対して積極的な広報や接触を行い、納税緩和制度の周知などに努 めている。 特に、津波被害が大きかった地域の滞納者に対しては、局及び他署からの応援により最優先で その実情把握に努め、納税緩和制度を早期に適用している。 ② 各署の状況 被災の大きかった地域に所在する、各税務署の震災当時や現在の状況を簡単に紹介する。 【大船渡署】 東日本大震災において最も被害の大きかった税務署であり、沿岸から 1.6km 離れていたが、津 波により 1 階事務室が水没した。被災直後から地方振興局や法務合同庁舎会議室を間借りしてい るものの、30 畳ほどに会議用テーブルを並べ、署長を含めた 20 名の職員が執務に当たっている。 また、電気・水道・ガス・電話などのライフラインが遮断されたほか、パソコン、コピー機な どの備品や通信機器もすべて使用不能となっているため、提出された申告書等は隣接する釜石署 に運んで処理している。 7 月から近隣の店舗跡地に設置したプレハブ内で申告相談を受け付けているが、大船渡署との連 絡は、9 月までは携帯電話のみで対応している。 <震災当日の大船渡署> <大船渡署申告相談会場> 【石巻署】 人的被害、物的被害ともに最も被害が大きかった地域であり、8 月末現在でも 75 ヶ所に 2,300 人余りの被災者が避難所生活を強いられている状況にある。これらの地区は未だにガレキに覆わ れたまま手付かずの状態となっており、津波の傷跡が生々しく残っている。特に、女川町は全壊 した建物が全体の 75%を占めるなど、壊滅的な被害となっている。これらの甚大な被害を踏まえ、 震災特例法に係る申告相談は地方団体と連携し、避難所や公共施設に職員が出張して相談すると いう体制を継続しており、6 月末以降現在も署の職員を上回る 60 名もの応援職員が個別相談等に 従事している。 幸いに庁舎に被害はなかったものの、JRなどの公共交通機関が遮断されたため、管理者は単 身赴任の総務課長の宿舎を間借りしたほか、一部の職員は出勤できない状態が長期間続いた。 4 ファイナンス 平成 23 年 10 月号 <管内東松島市での申告相談風景> <石巻署庁舎での申告相談風景> 【気仙沼署】 庁舎は高台に位置していたため、かろうじて津波の被害は免れたものの、職員の中には自宅や 車などが津波に流されるなど、大きな被害が生じている。 また、管内の被害は甚大であり、主要産業の基盤となる水産加工場や冷蔵施設の大多数が津波 被害により壊滅したが、地盤沈下による浸水被害の建築制限が足かせとなり、設備等の再建は進 んでいない。 気仙沼魚市場は、6 月 28 日に業務を再開しカツオの水揚げが開始され、8 月 24 日にはサンマが 初水揚げされてはいるものの、生鮮出荷だけに限定された現状では、気仙沼港での本格的な水揚 げ増加は望めない上、漁船の気仙沼離れも危惧される。 「生鮮カツオの水揚げ日本一」を支え、 「雇 用面での大きな受け皿」となっていた加工業者や冷蔵業者の早期再建が緊急課題となっている。 このような中、自宅や職場を失った方々が震災特例法を適用して早期に税金の還付・軽減が受 けられるよう、地元新聞社に協力を要請するなど、広報周知に力を入れている。 【須賀川署】 地震被害が大きかった福島県の内陸部に位置しており、庁舎は外壁剥離や壁の亀裂などの損傷 が激しく、壁などが崩落する危険性が高いため立入禁止となっている。震災直後から、産業会館 や商工会館の会議室を間借りするなど不便な執務環境で業務を行っている。 また、管内の主要産業である果樹・野菜が、放射線による風評被害で大打撃を受けたほか、観 光の目玉である「須賀川牡丹園」や「釈迦堂川全国花火大会」の入場者数に影響が出ている。 <立入禁止となった須賀川署庁舎> <須賀川署仮庁舎での申告相談風景> 【相馬署】 東京電力福島第一原子力発電所の爆発事故に伴い、管内 12 市町村のうち 9 町村が役場機能を管 外に移転し、管内人口 196 千人のうち 6 割近くが全国すべての都道府県及び海外に避難している ほか、爆発事故に係る仮払補償金を受け取るため、3,200 件もの納税証明書や申告書の閲覧の申請 5 ファイナンス 平成 23 年 10 月号 等がされている。 また、JR常磐線の一部の駅舎が津波で流失するなどにより、職員の多くがバスを乗り継ぐな ど不便な通勤を余儀なくされている。 【仙台北・仙台中・仙台南署】 震災直後は、ライフラインの寸断と大雪により多くの市民が暗闇と寒さに震え、仙台駅周辺は 帰宅することができない通勤・通学者で溢れていた。 JRや高速道路のほか仙台空港や仙台港も津波で使用不能となり、物資供給がストップしたた め、コンビニやスーパー、ガソリンスタンドは連日、長蛇の列が目立った。家族を実家等に避難 させる職員も見受けられた一方、そばやうどんとガスボンベを署に持参して昼食を作る職員もい た。 8 月になって、ようやく震災前の平穏を取り戻したかに見えるが、中心部から離れた地域では、 いまだに傾いたままの住宅や津波により押し流された船舶や自動車が放置された光景が見られる。 (2)被災酒類業者支援 ① 被災酒類業者支援の基本的考え方 「酒類業の健全な発達」は、国税庁の任務の一つである。大震災により被災した酒類業者も数 多く、また、東北は日本有数の酒どころであることから、仙台局としても、酒類業者の事業再開 や酒税還付について行政手続の弾力化や支援を行うとともに、酒類の安全性確保や、被災した酒 類業者の復旧・復興に向けたニーズの把握に努めていくこととしている。 ② 取組状況 (特例免許の取扱い) 津波や地震により大きな被害を受けた酒類製造者や酒類販売業者(卸、小売)が免許を受けて いる製造場や販売場以外の場所で事業再開にこぎつけられるよう、製造場又は販売場の仮移転や 期限付販売業免許について、その手続の弾力化等を図っている。これまで、600 件余りの相談が局 署に対しなされ、製造関係では 6 件、販売業関係では 142 件、合計 148 件の手続を処理している。 特に、沿岸部で被災した酒類製造業者等の事業再開は、地元の関心も高く、被災した地元の復 興・再生と重ね合わせて新聞等に採り上げられるケースも多い。 (被災酒類に関する酒税相当額の還付手続) 酒税は蔵出し税であり、製造場からの出荷段階で課税されているため、酒類販売業者の所有し ている酒類が被災したことにより、商品として取扱えなくなった場合には、被災酒類に係る酒税 相当額の還付を受けることができる。 今回の大震災により、酒類卸売業者を中心として在庫酒類に大きな被害が生じたことから、早 期に還付手続の周知、相談を開始しているところであるが、特に、津波被害が大きかった地域を 管轄する 10 署(宮古、大船渡、釜石、仙台中、仙台南、石巻、塩釜、気仙沼、相馬及びいわきの 各署)において、今後、制度の周知、広報、説明会及び個別相談を本格化することとしている。 その際、被災酒類に係る酒税相当額の還付手続等についても、酒販組合等からの要請と協力に基 づき、被災酒類の数量等の確認手続の簡素化・弾力化等を図っていくこととしている。 6 ファイナンス 平成 23 年 10 月号 (酒類の安全性対策) 福島第一原子力発電所における事故を受けて、我が国からEU諸国、韓国等に輸出される酒類 については、政府等が発行する輸出証明書を求められており、仙台局においては、酒類製造に関 する生産日や産地に関する証明書について 154 件、輸出先国・地域が求める上限値を超える放射 性物質を含まないことを証明するための放射能分析依頼について、37 件対応している。また、放 射能分析結果については、県安全部局に情報提供しているほか、酒類製造者に放射線の基礎知識 等を情報提供するなど、酒類の安全性確保に努めている。 (3)地方公共団体への人的支援 政府緊急災害対策本部の指示を受け、3 月 19 日以降、被災した地方公共団体への人的支援を開始 した。大震災直後は、救援物資の搬入整理支援や被害調査が中心であったが、り災証明書発行業務 の増加に対応して、5 月以降は、税務署等から派遣した職員も基本的にり災証明書の発行業務の支援 に従事している。3 月の派遣開始以降、派遣対象団体数は 31 団体、従事延人員は 5 千人を超える状 況となっており、国税職員の派遣について、仙台市長をはじめ多くの団体から謝意が表明されてい る。 (4)岩手県、宮城県及び福島県の地域指定解除に向けた取組 大震災による災害等に伴い延長されていた岩手県、宮城県及び福島県における国税に関する申告 ・納付等の期限は、宮古市や石巻市等の太平洋沿岸部及び南相馬市等の福島原発事故に伴い全域又 は一部が避難区域となっている市町村を除き、9 月 30 日とされた。なお、この期日以降においても、 大震災による災害等により申告等ができない場合においては、個別に期限の延長措置を受けること ができることとされている(青森県については、申告・納付等の期限は 7 月 29 日とされ、特に混 乱なく事務が推移している) 。 仙台局としては、改めてこの地域指定の解除に関する広報を適切に行うとともに、申告書未提出 者の申告相談、予定納税額通知書の送付、延長後の納期限等に関するKSK入力や事後処理等の事 務を適切に実施していくこととしている。 4.おわりに 3 番目の重要課題である被災した地方公共団体や民間団体の再生状況の把握については、法人会関係 では、県連から被害の大きかった石巻法人会や福島原発避難区域と重なる相双法人会の状況のお話を 伺った。また、同様に、青色申告会関係でも、県連から被災が大きかった単位会に対する支援方策の 検討のお話も伺うことができた。引き続き、情報収集を行うとともに、現場に一番近い署長にもお願 いしており、情報集約によりできるだけの支援をしていきたい。 国税庁の任務として、 「内国税の適正かつ公平な賦課及び徴収の実現」を図ることと定められており、 そのためには、適切な広報、相談を通じた納税者サービスの遂行、納税者支援を行うことにより納税 環境整備を図ることが重要施策の一つとされている。今回、仙台局総力を挙げて対応している震災特 例法への対応は、正に、この任務そのものであり、年内に一人でも多くの被災された方々の申告等手 続の支援を行うという重要な責務が果たせるよう、関係団体や職員の意見も聞きながら、改善を図っ ていきたいと考えている(文中、意見、感想にわたる部分は、個人としての見解である) 。 7 ファイナンス 平成 24 年 2 月号 平成 23 年 12 月までの取組状況 1.はじめに 本誌、平成 23 年 10 月号において、仙台国税局における震災特例法への対応や被災酒類業者への支 援等の取組について、紹介させていただいた。 被災された方の雑損控除の適用等に係る申告手続の支援は、震災特例法の制定趣旨である被災者の 負担軽減等を図ることにあり、これを尐しでも早期に実現する観点から、仙台国税局においては平成 23 年 11 月末までを集中対応期間と位置付け、局署の総力を挙げて、広報、電話相談及び申告相談体制 を整備・拡充しつつ実施した。この結果、平成 23 年内の岩手県、宮城県及び福島県 3 県の申告相談済 件数は、約 19.5 万件となり、半壊以上の被害件数合計約 33.4 万件に比し、約 58%となった(申告書 等提出件数は、約 11.9 万件) 。 被災酒類業者への対応についても、事業再開に向けての販売場、製造場等の移転等に関する各種行 政手続の弾力化や酒税相当額の還付手続の支援のほか、10 月以降は、酒類の安全性確保の観点から、 放尃性物質の分析、指導の事務も新たに加わった。 納税緩和制度の早期適用については、定期人事異動後、被災地署への応援要員の派遣等の体制整備 を図り、滞納者の被災状況の確認から事務をスタートさせた。途中、津波被害により壊滅的な被害を 受けた沿岸部の滞納者への対応について、道路や道路標識等の流出により現地確認が容易でなく、事 務量が不足する状況となったことから、国税庁の指導・調整により東京国税局から応援要員の派遣を いただくこととなった。 また、11 月 1 日に公開された路線価等の調整率を踏まえた相続税・贈与税の申告や更正の請求に対 する事務もスタートさせた。 本稿では、震災対応に関するこれらの各税事務のその後の取組状況や現場力による工夫を紹介する こととしたい。なお、酒税関係の取組については、次号で紹介したい。 (備考)1 震災特例法(「東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律」平成 23 年 4 月 27 日公布・施行、平成 23 年 12 月 14 日一部改正)において、被災された方等の負担軽減を図るため、所得税を はじめとする各種特例措置が規定されている。 2 以下、本稿の計数は、原則として、平成 23 年 12 月 31 日現在のものである。 2.震災特例法等の取組状況 (1) 所得税関係 ① 広報体制 震災特例法の広報・周知は、主に報道機関を通じて実施した。6 月に実施した新聞記事下広告、 テレビ・ラジオCM等の結果、広報前の 2、3 倍もの電話相談や個別相談が増加するなど広報効果 が高いことを踏まえての対応であり、改めて 8 月から 10 月の毎月末に広告を行った。 訴求ポイントは、電話センターを通じた個別相談への誘導のため「必要書類が整っていなくて も、まずは最寄りの税務署にお電話を」とし、被災された方の動向・態様・ニーズなど、毎月の 広報効果も検証しながら、できるだけ広報効果が持続するよう、新聞の広告日やテレビCMの放 送時間などの工夫も加えた。 また、これらの広告を後押しするため、申告相談済件数等の状況や取組について、9 月に国税局 幹部による記者会見を行い、以降、12 月まで毎月取組状況について記者発表を行うとともに、積 極的に報道機関からの取材も受けた。この取組に対しては、各報道機関から「税務署が異例の還 8 ファイナンス 平成 24 年 2 月号 付PR」と見出しに付されるなど、新聞、テレビでも大きく取り上げられ、早期の申告相談を促 進する誘因となった。 八戸、釜石、大船渡、気仙沼、石巻署においても、署幹部が地元新聞社に対し取組状況を説明 し、各記事を見て税務署に相談される方も多かった。 ② 電話相談体制 電話相談は、電話相談センターの税務相談官が対応し、被災者を個別相談へ誘導するための相 談窓口の柱と位置付け、広報や署の申告案内等の施策との連携を図った。 特に、広告や記者会見などの広報施策を実施する場合は、着信件数の増加が見込まれることか ら、電話相談の従事者に国税局職員を追加配置するなど、弾力的に対応するとともに、被災され た方の置かれた状況やニーズを踏まえ、11 月末までの土曜日、日曜日及び祝日も電話相談を実施 した。 仙台国税局の税務相談官は盛岡・郡山サテライトを含め 49 名であるが、仙台国税局職員のみに よる対応も限界があることから、5 月からは東京国税局、11 月からは札幌・金沢国税局の支援も いただいた。それでも、ピーク時で 1 日当たり 2,800 件もの電話相談があり、受電できなかった ケースが発生したことは反省材料である。 震災特例法に関して寄せられた電話相談は 12 月末現在で約 15.6 万件にものぼった。 ③ 税務署相談体制 太平洋沿岸部を中心として津波・地震被害が大きかった税務署においては、国税局や他の税務 署などからの支援により、震災特例法の施行直後から申告相談を実施した。 申告相談会場は原則として税務署としていたものの、庁舎が被災したことにより署内に相談会 場を確保することが難しい税務署もあった。また、避難所や仮設住宅が点在している上、公共交 通機関の途絶なども考慮する必要があった。 このため、当初は避難所や公共施設に出向き、説明会・相談会を約 600 回開催したが、9 月以降 は避難所や仮設住宅の近くの公共施設等に相談会場を合わせて 135 か所設置するなど、できるだ け被災された方々の状況やニーズに配慮した相談体制とした。 <表 1 外部相談会場の設置状況> 外部相談会場設置数(18 署計) 9月 10 月 35 か所 51 か所 11 月 49 か所 計 延 135 か所 (注)18 署:宮古、大船渡、久慈、釜石、仙台北、仙台南、石巻、塩釜、気仙沼、大河原、築館、福島、郡山、 いわき、白河、須賀川、相馬及び二本松署 ④ 雑損控除の適用等申告相談状況 被災者に対する震災特例法の制度や申告会場等の周知を行うため、地方広報紙への掲載やチラ シ・パンフレットなどの配布、新聞・テレビ・ラジオのマスメディアを活用した広報のほかに、 各署において、地方税当局と連携して、り災証明書の発行を受けた方のうち、半壊以上の被災者 に対しては申告案内等の送付、一部損壊の被災者に対しては、雑損控除適用判断のための自己判 定表を送付した。 その結果、12 月末現在の県別の申告相談済件数は、表 2 のとおりとなっている。県別に見て、 申告相談状況に差が生じているのは、地震・津波による被害状況が異なるためと考えられる。岩 手県は、沿岸地域を中心に被害が甚大、宮城県は、沿岸地域の津波被害に加え仙台市内の内陸部 9 ファイナンス 平成 24 年 2 月号 に被害多数、福島県は、内陸部の一部損壊の被害が多いほか福島第一原発事故による避難者が多 数発生している状況を反映しているのかもしれない。 また、月別の申告相談済件数は表 3 のとおりであり、6 月や 8 月以降はマスメディアを活用した 広報により申告相談済件数が増加し、その後、多くの税務署の申告期限が 9 月 30 日とされたこと から、9 月が一つのこぶとなった。10 月に入り、来署者は一旦沈静化したが、被災された方々へ の申告案内の本格化や電話確認等により、11 月は再び増加に転じた。11 月の記者発表時には、被 災者は、保険金や見舞金、義援金について課税されるかもしれないので、そもそも申告案内を開 封しないのではないかとの情報も得たため、これらのお金には課税されないことも併せて説明し た。 また、一部損壊が多い地域については、相談状況が低調な地域も多いことから、一部の署にお いて、申告案内の送付と同時にアンケート調査も実施した。調査結果からは一部損壊の方の申告 見込割合は約 10%程度ではないかと考えられる。 <表 2 県別の申告相談済件数(平成 23 年 12 月末現在)> 申告相談済 建 築 物 件 被害件数 数 内全半壊等 岩手県 件 22,682 棟 34,159 棟 26,853 宮城県 133,286 424,876 224,479 福島県 38,809 225,012 82,987 194,777 684,047 334,319 合 計 (注 1) 「申告相談済件数」とは、①雑損控除等を適用し平成 22 年分に係る確定申告書又は更正の請求書を提 出された方、②平成 23 年分で雑損控除の適用を受けるために必要な「被災した住宅、家財等の損失の計 算書」の作成を終えた方及び③相談の結果、雑損控除等の適用がないと判定された方の件数としている。 (注 2) 「建築物被害件数」は、各県及び消防庁調べの被害状況によっている。また、 「全半壊等」は、全壊・ 半壊・全焼・半焼・床上浸水・床下浸水の件数としている。 <表 3 月別の申告相談済件数> (件) ⑤ 応援要員の確保 仙台国税局は、震災直後に「仙台国税局災害対策本部」を立ち上げ、同本部に、 「震災特例法対 策PT」と「震災派遣PT」を設置した。 震災特例法対策PTは、各被災地署における震災対応事務の進捗状況等の把握や事務指導はも とより、申告相談専用のパソコンや消耗品の要望に至るまで震災対応に関するあらゆるニーズに 対して一元的な管理・調整を行っている。 また、震災派遣PTは、局署間・署間応援者数の査定・派遣を行うため、局内・局署間の調整 10 ファイナンス 平成 24 年 2 月号 などを行っている。 応援者の派遣期間は、応援事務量を効果的に活用する観点から、1回当たり原則 2 週間とした。 しかしながら、 (イ)9 月から 11 月にかけては祝日による連休が多いこと、 (ロ)震災の影響で宿 泊可能な施設が極端に尐なく署から宿泊施設まで遠距離の場合があること、 (ハ)宿泊所のシング ルルームの確保が困難で相部屋での宿泊を余儀なくされること、といった様々な問題が発生した。 このような応援者の負担軽減にも配慮し、状況に応じて、1 週間派遣の組入れや同一署への連続派 遣の縮減などの工夫により、勤務環境の改善に努めてきた。 12 月末現在の応援実績は、局及び派遣元税務署 32 署から延べ約 2.3 万人日にも達しており、仙 台国税局全職員約 3,200 人に比較しても相当な人員となっている。 また、東北地方は地理的にも広大で、震災被害が甚大な太平洋沿岸地域は南北に 3 県をまたが るなど、応援者所属署と被災地署間の移動は遠距離で所要時間も長く、さらに震災による交通事 情の悪化も重なったことから、公用車又は新幹線等とレンタカーの組合せなど、様々な移動手段 により派遣ルートの調整を行ってきた。特に、確定申告期後までは厳冬期となり、事故防止の観 点から公用車等利用から公共交通機関利用へのシフトや署間派遣ルートの見直しを行うとともに、 公共交通機関の復旧が遅れている一部地域についてはチャーターバスの活用等、応援者の安全確 保を最優先とした移動となるよう配意している。 ⑥ 主な税務署の取組 被災地署では、署の状況に応じて、広報、申告相談体制や予約受付について工夫した。例えば、 来署人員に応じて相談担当者の配置を弾力的に調整し相談事務と内部事務の効率化を図った(仙台 中) 、個別相談の予約受付をシステム化することにより複数の職員が入力・管理できるようにした(宮 古、気仙沼、大河原) 、納税者を特定できない避難所や仮設住宅にチラシや案内文をポスティングし た(宮古、大船渡、釜石、石巻)など、署独自の工夫を施した。代表的な取組は、次のとおりであ る。 【宮古署】 岩手県内において、最も津波被害が大きかった宮古署管内は全世帯の約 3 割に当たる 1 万件余り の家屋が全半壊の被害を受けた。地方団体の庁舎も冠水したため、り災証明書の発行手続の遅れな どから申告相談の開始時期が大きく出遅れたものの、仮設住宅近くのスーパーにおいて買い物客へ のチラシの配布やポスティング、防災無線による申告相談会開催の周知など、独自の施策を行った。 また、管内の主要産業でもある水産養殖業についても、漁業所得者への説明会を 11 月上旪に実施 するなど、被災者の目線に立った各種施策を講じた。 <宮古署管内のスーパー> 11 ファイナンス 平成 24 年 2 月号 【大船渡署】 大船渡署は、庁舎が津波被害により使用不能となったため、震災直後は、岩手県沿岸振興局の事 務室を一時借用する形で、窓口業務を再開させた。その後、5 月には、大船渡法務合同庁舎の一室を 借上げるとともに、同駐車場敷地に簡易なプレハブ(ユニットハウス)を設置し、また、7 月には、 冷房設備を備えたユニットハウスを民間駐車場借上地に設置し、震災特例法の申告相談事務を実施 した。10 月には、法務合同庁舎の駐車場に、2 階建ての常設プレハブによる仮設庁舎が設置され、 税務署の窓口業務、各税事務のほか、それまでの間、釜石署内において実施していたKSK入力事 務を、約半年ぶりに大船渡署において再開することができ、ようやく税務署の全ての業務を自署に て実施することができた。 2 階には、小規模ながら会議室が配備され、平成 23 年度納税表彰式を実施した。受彰者の中には、 津波被害によリ自宅が流失した方もおり、このような形であっても、署において実施できたことは 望外の喜びであったとの署長の言葉が印象的であった。 同署の職員は、平成 23 年内は数多くの事務室や相談会場の引越しを行いつつ、震災特例法関係の チラシの配布、申告案内の送付及び申告相談等をこなした。 確定申告用相談会場としては、相談事務量との関係上、現仮設庁舎では手狭であるため、別途ユ ニットハウスを整備し、申告相談事務に従事している。 なお、甚大な被害を受けた陸前高田市も、確定申告事務には、可能な範囲で協力していただける と聞いており、地方税当局の再生も着実に進んでいる。 <大船渡署仮設庁舎(外観)> 【仙台市内 3 署】 (確定申告相談体制) <企業向けの国税庁HP説明会> 平成 22 年分の確定申告期から、仙台市内 3 署の合同 署外会場にて、ITを利用した申告書作成を推進してい 外 るが、平成 23 年分については、被災者からの雑損控除 部 適用に関する相談も多く見込まれることから、合同署外 相 会場の他に、被災者対応の相談を仙台北、仙台中、仙台 談 南のそれぞれの税務署において受け付けることとして 会 いる。 場 (大口源泉徴収義務者等への取組) 設 仙台市内 3 署は、宮城県の中心部に位置し、サラリーマン等給与所得者が多い地域であると同時 置 に、被害件数も最大である(半壊以上の割合が 49%)ことから、被災された方々の大部分がサラリ 数 12 (18 署) ファイナンス ーマンであることを想定し、国税局において、パソコン 平成 24 年 2 月号 <国税庁HPの社内LAN掲載依頼> 操作を前提とする「損失額計算システムを利用した確定 申告書作成入力例」に関するマニュアルを作成した。 外 このマニュアルは、国税庁ホームページを利用して損 部 失額計算書と確定申告書を作成できるものであり、所得 相 税の還付が受けられるかどうかの判定や平成 22 年また 談 は平成 23 年分で申告するかを選択できるなど、利用者の 会 利便性を考慮したほか、マニュアルを格納した CD-ROM 場 を利用して勤務先の電子掲示板の掲載やメール配信などにより社員等に周知することもできる。ま 設 た、税務署にとっても事務効率化につながる。 置 この施策については、国税局と仙台市内 3 署が重点的に取り組み、報道機関、官公庁、大手企業 数 等 240 社に CD-ROM 等を周知したほか、年末調整説明会においても周知した。この結果、国税庁HP (18 に関する問い合わせや郵送による申告書が増加した。 署) また、この取組については、 「サラリーマンが申告手続をしていない」という実態を踏まえ、NH Kがキリンビール仙台工場の社員への取材と合わせて報道した。 (パンフレットの配備) サラリーマンへ還付手続を周知するため、雑損控除等の適用に係るパンフレットを公共機関のほ か、地下鉄 11 駅、JR18 駅のパンフレットラックに配備した。通勤客の目にも止まり、まとめて持 ち帰って勤務先やマンションの郵便受けに配布する方もいたようであり、パンフレットを片手に来 署される方も多く見受けられた。 <地下鉄へのパンフレット配備> 【石巻署】 津波による被害が最も大きかった石巻署管内では、11 月 9 日に全避難所が閉鎖され、3 市町の世 帯の 13%に当たる約 10,300 世帯が仮設住宅に居住している。特に、女川町では、全国初めての 3 階 建仮設住宅を町独自に発注するなど、全世帯の 34%に当たる約 1,300 世帯が仮設住宅に居住してい る。 これらの被災者に対し、職員が申告相談を呼び掛けるとともに、市町広報紙への掲載、地元新聞 を通じて周知した。これにより 10 月までは相談予約が 2 週間先まで埋まる状態となったが、10 月中 旪から被災者への申告案内の送付及び仮設住宅へのポスティングなどを実施したことから、来署者 の更なる増加を見込み、10 月下旪より応援職員を 90 名に増員し、税務署会場や各市町会場のほか、 出張相談会場 13 か所で事前予約制による申告相談体制をとった。11 月末においても、半壊以上の被 災者が多く来署し、年内の相談予約が引きも切らない状況が続いた。 13 ファイナンス 平成 24 年 2 月号 また、相談者は家庭の主婦及び年配者が多く、家族分を合わせて申告するケースが見受けられる。 相談に従事している職員の 6 割以上が局及び他署からの支援職員であるため、熟練の自署職員(通 称フリーマン)を配置して、サポート体制を取っている。申告案内に当たっては、応援職員の移動 日も考慮した。 なお、確定申告期においても、例年以上の相当な申告相談件数が見込まれることから、仙台局や 他署のほか、他の国税局からの応援により対応することとしている。 <石巻署管内女川町の 3 階建て仮設住宅> 【塩釜署】 塩釜署は太平洋沿岸に位置する沿岸署であり、津波で官用車 4 台が流されたほか、庁舎内設備も 相当の被害を受けた。また、管内の多賀城市は仙台港から押し寄せた津波により街の中心部が浸水 するなど被害が甚大であったため、申告・納付期限が他の 4 市町村よりも延長(平成 23 年 12 月 15 日が申告等の期日)された。 被災者に係る申告相談は、当初避難所への出張相談を主体としたが、一定の相談スペースの確保 の必要性や、納税者の認知度を踏まえ、例年の申告指導会場である「マリンゲート塩釜」 (松島湾の 遊覧船の発着場所)において実施した。 管内面積は仙台局の中では仙台中税務署に次いで狭く、仙台市に隣接するという交通の利便性も 幸いし、ライフラインの復旧や市町村との連携体制が早期に構築できたため、り災証明書の発行手 続や被災者の情報収集など、他の沿岸署に比べても申告相談が順調に推移した。 なお、地方団体への人的支援を早期に実施したことが、り災証明書の早期発行に結び付いたと考 えている。 <塩釜署の外部相談会場> 14 ファイナンス 平成 24 年 2 月号 【いわき署】 いわき市は 3 月 11 日に発生した地震・津波による被害のほか、4 月 11 日、12 日の両日に連続し て発生した震度 6 弱の余震による被害も大きく、地震による全半壊は全体の 8 割強を占めている。 このため、震災直後から各種広報施策に加え、個別案内を実施するとともに、来署割合を高めるた め独自施策として新聞全紙へのチラシ折込みも行った。 また、署内会場のほか 7 か所の署外会場を開設し、短期間で周期的に巡回するという申告相談を 行い、仮設住宅や雇用促進住宅へ避難している被災者の誘導を行ったほか、大規模事業所や商工会・ JAでの個別相談会など、被災者の現況や心情に配意した運営を行った。 <いわき署の外部相談会場> (2)資産税関係 震災特例法により、震災日前に相続及び贈与により被災地の土地等を取得し、震災日以後に申告 期限が到来する場合の、相続税・贈与税における当該土地等の価額は、 「震災の発生直後の価額」に よることができることとされるとともに、その申告期限は、申告等の期日が延長されている地域を 除き平成 24 年 1 月 11 日とされた。 ① 調整率の公開 「震災の発生直後の価額」については、被災された方々の相続税・贈与税の申告の便宜等を図 る観点から、震災による地価下落を反映させた調整率を定め、平成 23 年分の路線価等に、この調 整率を乗じて計算できることとした。この調整率については、11 月 1 日に公開した。 震災特例法(相続税・贈与税)の適用 延長後の 申告期限 震 災 H22.1.1 H22.5.11 H23.1.1 H23.3.11 H24.1.11 相続等により特定土地等を取得 申告期限の延長 ※ 贈与により特定土地等を取得 震災の発生 直後の価額 被災地の土地等 贈与税は、平成22年中の贈与 = 路線価等(H23.1.1時点の価額) × 調整率 (適用する土地等の価額) (((通常の評価:取得時の価額) (震災特例法による取扱い) ② 調整率公開前の取組 調整率を適用する方からの申告相談や更正の請求書等の提出の集中が見込まれたため、調整率 公開前から調整率適用見込者の抽出事務や更正の請求手続に向けた準備を行い、納税者からの問 い合わせに速やかに対応できるよう事務処理の平準化にも努めた。 15 ファイナンス 平成 24 年 2 月号 ③ 調整率公開後の取組 申告手続等が可能となる調整率公開後から震災特例法に基づく申告期限までが短いことを踏ま え、調整率適用見込者に対し早期の申告手続のための個別案内を速やかに実施した。 また、更正の請求見込者に対しては、電話連絡等や関与税理士に対する早期手続への協力要請 などを実施し、制度の周知漏れがないよう心掛けた。 なお、12 月末の相続税等の更正の請求を含めた処理件数は約 4,000 件となっている。 (3)自動車重量税関係 東日本大震災による津波で被災した自動車は、宮城県で約 14.6 万台、宮城・岩手・福島の 3 県合 計で約 24 万台に上るとの新聞報道があった。 自動車重量税の特例還付制度は、自動車検査証の有効期間内に被災自動車の所有者が運輸支局又 は軽自動車検査協会事務所(以下「運輸支局等」という。 )において被災自動車の永久抹消登録等の 手続を行い、運輸支局等を経由して税務署へ自動車重量税の特例還付申請書(以下「還付申請書」 という。 )を提出することにより還付を受けることができる制度であり、震災特例法施行直後から、 申請窓口となる運輸支局等に対して膨大な件数の還付申請書が提出されている。 当該還付申請書の審査に当たっては、その効率化を図るため、5 月から国税局消費税課に「自動車 重量税特例還付センター」を設置し、運輸支局等から国税局へ還付申請書の移送を受けて一元的・ 集中的に実施しており、12 月末現在で提出された約 9.2 万件のうち大半の審査を了している。 また、審査を了した還付申請書は、順次管轄税務署に回付され管理運営部門において還付金支払 手続を行うが、被災地署の還付金支払事務を軽減するため、9 月から国税局管理運営課に「自動車重 量税の還付事務支援センター」を設置して処理している。12 月末現在の支払済件数は約 8.3 万件と なっている。 なお、震災特例法の追加措置では、新たに自動二輪車等に係る自動車重量税の特例措置が加わっ たことから、引き続き、運輸支局等との連携・協力により、迅速かつ適切な処理を進めていくこと としている。 (4)被災納税者に対する納税緩和制度の適切な運用 震災等により財産に相当な損失を受けたことにより、国税を一時に納付することが困難となった 場合には、国税通則法及び国税徴収法に基づいた様々な納税緩和措置が認められている。 これにより、納税緩和制度の適用に向けた取組として、被災した納税者からの納付相談のほか、 全ての滞納者に電話や文書、臨場により接触を図り、被災の事実が把握された方に対しては、納税 の猶予などの納税緩和制度の早期かつ適切な適用を実施している。 特に、津波による被害が甚大な地域を所轄する沿岸署においては、被災した地域の滞納者に早い 時期から接触しているが、署の職員だけでは事務量が不足すると見込まれた宮古・大船渡・釜石・ 石巻・塩釜・気仙沼署に対して、8 月 22 日から 12 月末まで延べ 982 人日の局署間・署間応援を実施 した。 また、津波による被害が想定された地域でも、情報の錯綜などにより、実際には被害がない場合 や、その逆のケースも見られたことから、法令に基づき、可能な限り現地に赴き、被災状況の確認 を行っている。しかし、津波被害で道路や標識等が流失していることにより現場確認等が難航した ことや面接等に想定以上の事務量を要することが判明したことなどから、11 月 7 日~12 月 16 日の 間、東京局徴収部から延べ 290 人日の応援をいただき、仙台中・仙台南・石巻・塩釜署の滞納者に ついて接触を図った。 16 ファイナンス 平成 24 年 2 月号 被災地域によっては道路等の流失に加え、海岸線すら変形している場所があり、滞納者の住所地 を特定するのにも大変苦労している。車載ナビゲーションでも場所が特定できないため、目標とな るものを探し出し、地図を重ね合わせるなどの地道な作業を繰り返している。職員の中には、スマ ートフォンのGPS機能を活用するなどの工夫も見られたが、すぐに電池切れとなってしまうとい うこともあった。 滞納者が仮設住宅に居住している場合には、税務職員と分からないよう作業着を着込んで訪問し ているほか、隣人に聞こえないように小声で話したり、筆談を併用するなど、滞納者の立場や心情 に配意した親切・丁寧な対応を行っている。 これらの取組の結果、12 月末現在の被災納税者及び滞納者に係る納税の猶予の申請件数は 4,000 件を超えている。 (5)地域指定解除関係 東日本大震災により延長措置が採られていた岩手県、宮城県及び福島県における国税に関する申 告・納付等の期限は、宮古市や石巻市等の太平洋沿岸部及び南相馬市等の福島原発事故に伴い全域 又は一部が避難区域となっている市町村を除き、9 月 30 日とされた。その後、太平洋沿岸地域の津 波被害からの復興状況等を踏まえ、岩手県内 7 市町及び宮城県内 3 市町については、申告・納付等 の期限が 12 月 15 日とされた。その結果、現在(平成 24 年 1 月 1 日)も期限が延長されているのは、 石巻署管内の 3 市町(石巻市、東松島市及び女川町)及び福島原発事故に伴う避難区域(旧緊急時 避難準備区域を含む)の福島県内 12 市町村となっている。 この申告・納付等の期限の指定に際しては、国税庁ホームページのほか、関係団体の協力を得て、 各市町村の広報紙やホームページ、税理士会・法人会等の関係民間団体の会報等を通じて広報した。 また、広報に当たっては、期日の周知と併せて、期日以降においても、大震災による災害等により 申告等ができない場合には、個別に期限の延長措置を受けられることを周知するとともに、職員数 の尐ない署においては、局からの応援職員が申告書等の処理に従事することにより、特に混乱なく 事務が推移している。 (6)税理士会による無料相談会等 今回の大震災により東北税理士会の会員の被害も大きいが、このような中にあって、東北税理士 会では震災特例法施行直後から、独自に無料税務相談所や電話相談所を開設し、被災された納税者 の支援に当たっている。 また、日本税理士会連合会では 11 月 26 日(土)、27 日(日)の両日に全国 15 税理士会で無料税 務相談所を一斉に開設し、全国に避難している被災者も対象とした税務相談を行った。さらに、東 北税理士会では平成 23 年分の確定申告に向けて、1 月下旪から 3 月上旪の休日にも無料税務相談所 の開設を予定している。 税理士会によるこのような社会貢献事業に対し、行政の立場として改めて敬意を表するものであ る。 3.平成 23 年分確定申告に向けて 仙台国税局には東北 6 県 52 の税務署があるが、そのうち、青森県、岩手県、宮城県及び福島県に所 在する被災地を抱える税務署が 20 署近くに上り、 平成 23 年分の確定申告期の事務運営に当たっては、 ①雑損控除の適用等について、平成 23 年分の確定申告期に相談したいと考えている納税者も多く、ま た、全半壊の損害の場合には、平成 23 年分の繰越損失控除適用も受けられる納税者も多く見込まれ、 17 ファイナンス 平成 24 年 2 月号 これらに関する電話照会や来署者等が相当数見込まれる、②地方税当局自体が被災している地域にあ っては、例年どおりの協力体制の構築が困難である等の事情を十分考慮する必要がある。 このため、10 月末に、局内に「確定申告準備対策本部」を立ち上げ、確定申告事務運営の在り方、 申告相談体制、広報施策、応援職員の配置及び宿泊所の確保等様々な課題を検討した。この結果、平 成 23 年分確定申告期においては、納税者対応に万全を期すため、被災地署にあっては、例年のITを 活用した申告相談体制に加え、被災された方々の置かれた状況や心情に十分配意した申告相談体制及 び電話相談体制も整備することとした。また、被災地署以外の署においても、避難している方々に対 する適切な相談体制を整備することとした。 これらの取組に当たっては、仙台国税局職員だけでは対応が困難であり、全庁的支援をいただくこ とになった。確定申告期においては、特定の署及び職員に過重な負担がかかることがないよう、また、 従事する職員の健康管理にも十分配意することを基本として、各事務の平準化策や広報施策のほか、 全庁的支援、局署応援及び署間応援等の支援措置を効果的に講ずるとともに、挙署一体体制により、 事務を円滑に実施していくこととしている。 (備考)全庁的支援の枠組み 国税庁において、確定申告期間中、①仙台国税局管内税務署に東京国税局等他局の職員を派遣し、申告相 談事務等の支援を行うこと、②大阪国税局に仙台局専用の電話相談センターを設置し、大阪国税局等他局の 職員が仙台国税局管内納税者の電話相談への対応を行うことが、支援措置として決定され、各局から多くの 応援をいただくこととなった。 4.おわりに 平成 23 年内の震災特例法への取組は、半壊以上の建物被害件数が約 33.4 万件あり、これを一つの ものさしとして対応を考えてきた(もちろん、一部損壊でも損害額が大きい場合もある一方で、半壊 以上といっても税額のある方が対象となるので、あくまでも一つのものさしである) 。新聞広告、記者 発表、申告案内等の送付、仮設住宅へのお知らせの配布等、局から署に至るまで制度の広報・周知に は、最大限の努力をしてきたと考えている。 この確定申告期が終了した段階では、最終的にどれだけの申告書が提出されているだろうか。広報、 申告案内等の取組についての納税者の理解、認知状況も検証してみる必要があろう。そもそも、税務 署と今まで縁がなかったサラリーマンの方や納税者が、税務署に相談することに躊躇があるのかもし れない。また、地震保険やJA共済からの保険金の支払、義援金、見舞金等の支給など他の経済的要 因が影響しているのかもしれない。県別では、福島県の相談状況が低調であり、これは、被害全体の 中で一部損壊の割合が高く修理が済んでいないこと(県は異なるが、11 月下旪に宮城県内陸部におい て、ブルーシートを外して屋根修理を行っている風景を自分自身初めて目にした。)や、東京電力福島 第一原発の賠償金請求関係で手一杯であるといった理由があるかもしれない。要因は、いくつかある のだろう。 とにかく、仙台国税局では、これまで経験のない超大型な確定申告期を迎える。国税庁による全庁 的支援もいただき、職員の健康管理にも十分留意しつつ、まずは、納税者対応に万全を尽くしたい。 その上で、自分なりに、今回の取組を改めて検証してみたい(文中、意見、感想にわたる部分は、個 人としての見解である) 。 18 ファイナンス 平成 24 年 3 月号 被災酒類業者等への対応 1.はじめに 東日本大震災により、多くの酒類業者も被災した。被災した酒造業者、酒販業者に対する支援措置 も仙台局を挙げて取り組んできた。現在、税務署の酒税担当者は、効率的な運営の観点から、大規模 署に要員を配置し、そこを拠点として複数署を担当するという広域運営を行っているが、太平洋側沿 岸の被災地署における被災酒類業者への酒税相当額の還付等の事務量を補うため、雑損控除等の申告 相談体制と同様、日本海側の税務署の酒税担当職員も応援に回った。 被災した酒造業者には、被災地での酒造りの再開を希望しながらも、当面は別の蔵において酒造り を再開させているところもあり、自分も復旧状況を確認したく、いくつかの蔵を訪問させていただい た。杜氏の方にお会いしたが、以前の蔵と同様な設備もなく自信はないが、地元の皆さんが心待ちに しているのでどうしても造りたかったとのお話を伺った。東北の杜氏のプライドと被災した地元のた めに酒の復興をなんとしてでもやり遂げるという強い気持ちの現れであろう。 今回は、被災した酒類業者への取組を、昨秋に実施した清酒鑑評会の状況と併せて紹介する。 2.被災酒類業者等への対応 (1)中小企業等復旧・復興支援補助事業への対応 今回の震災では、仙台国税局管内の酒類製造場等 437 場のうち、およそ 150 場が何らかの被害を 受け、うち 14 場が津波により流出したほか、依然として 5 場が福島第一原子力発電所の事故により 避難を余儀なくされている。特に東北の産業を代表する清酒製造業については、273 場のうち 109 場 (岩手、宮城、福島の 3 県で 86 場)が被害を受け、そのうち津波による流出 6 場を含めた 30 場が 半壊以上の大きな被害を受けている。 これら被害を受けた清酒製造者のうち、岩手、宮城及び福島県の酒造組合に加入する 68 者につい ては、中小企業庁が震災関連支援策の一つとして実施している「中小企業等復旧・復興支援補助(グ ループ補助) 」を活用すべく、各県の酒造組合グループ等に積極的に参加するよう仙台国税局からも 各種の助言をした結果、これらの者から復興事業計画認定申請が行われ、昨年 11 月末にこれらの清 酒製造者が関係する 7 事業が各県から認定された。これにより、グループ補助に参加した清酒製造 者は、被災した施設・設備の復旧・整備に要した額のうち、2 分の 1 を国から、4 分の 1 を県から、 合わせて 4 分の 3 の補助を受けることが出来ることとなり、事業の再生に向けて取り組んでいる。 (2)酒税の軽減割合拡充への対応 震災特例法の改正法が平成 23 年 12 月 14 日に公布、施行されたことに伴い、甚大な被害を受けた 清酒等の中小製造者が平成 23 年 4 月 1 日から平成 28 年 3 月 31 日までに移出する清酒等の 200kl ま でのものに係る酒税の軽減割合が拡充されることとなった。これに伴い、昨年中に酒類製造者にパ ンフレットを送付して周知を図るとともに、被害状況の実態を把握しており、現在、個別相談を本 格化させている。 (3)被災地等における免許処理 仮設住宅の設置の進展等、被災した方々の生活基盤が回復するに伴い、生活拠点近隣における酒 類の購入要望が増加し、酒類販売業免許に関する相談はこれまでに 700 件あまり寄せられており、 そのうちおよそ 230 件(うち仮設住宅などに近接した店舗は約 90 件)について新たな酒類販売場を 19 ファイナンス 平成 24 年 3 月号 設ける手続を行っている。 販売業免許の処理に当たっては、住民のニーズに早急に応えるため店舗のオープンに合わせて免 許を付与するなど、迅速性、実効性の高い処理に心掛けている。 なお、仮設住宅等におけるアルコール依存症問題 <岩手県大槌町内の仮設店舗> の拡大を懸念する報道があることから、免許付与等 に当たり、酒類販売場への「適正飲酒の推進ポスタ ー」の掲示など適正飲酒に向けた指導を行っている。 また、津波や地震により大きな被害を受けた酒類 製造者が、別の場所で営業を再開するために必要な 製造免許等の手続を 11 件処理しており、新たな場 所で本年の酒造期を迎えている。 (4)被災酒類に関する酒税相当額の還付 酒類の販売業者が所有している酒類が被災したことにより商品として取り扱えなくなった場合に は、被災酒類に係る酒税相当額の還付を受けることができ、今般の震災に係る還付手続等は、酒販 組合等からの要請と協力に基づき大幅に簡素化、弾力化されている。 昨年 8 月以降、甚大な被害を受けた地域における制度の周知、広報、説明会及び個別相談を本格 化させ、およそ 2,000 件に対して 4 億 6 千万円あまりの酒税相当額を還付している。 <被災酒類に関する還付税額、件数の推移(累計)> 還付税額・件数の推移 百万円 500 400 300 200 100 0 税額(千円) 件数(件) 件 2,000 1,500 1,000 500 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 19,200 67,362 94,138 145,682 256,622 375,025 465,805 117 260 356 681 1,145 1,649 1,995 (5)輸出証明書の発行 0 <国ごとの輸出証明書発行件数> 放射性物質による汚染問題を受けて、我が国から (平成 23 年 12 月末現在:計 490 件) EU諸国、アジア等に輸出される酒類を含む農林水 タイ 12 産物・食品については、政府等が発行する輸出証明 書が引き続き求められており、仙台国税局において マレーシア 39 中国 16 EU 英国 83 は、酒類製造に関する製造日や産地に関する証明書 について 318 件、輸出先国・地域が求める上限値を 超える放射性物質を含まない旨の証明書を 172 件 発行している。 発行に当たっては、酒類製造者の輸出日程に可能 な限り応えることとし、迅速な発行に努めているも のの、証明書の発行件数は増加の一途である。酒類 20 韓国 78 EU その他 127 EU フランス 65 EU ドイツ EU 32 オランダ 38 ファイナンス 平成 24 年 3 月号 製造者からは負担緩和のため、これまでの放射能分析の結果を踏まえ、諸外国における輸入規制の 出来るだけ早い緩和を求める声がある。 3.被災地署における執務体制等 (1)税務署間の応援体制 冒頭でも述べたとおり、仙台国税局管内の税務署における酒税事務については、酒税担当職員を 核となる税務署 10 署(以下「中心署」という。)に集約し、その他 42 署の事務も合わせて実施して いく広域運営体制を採っている。 今回の震災関連事務についても基本的には中心署で対応するものであるが、地震・津波により甚 大な被害を受けた地域(宮古、釜石、大船渡、気仙沼、石巻、塩釜署など) 、原発事故により避難者 の多い地域(相馬、いわき署)において震災関連事務が大量に発生することが見込まれたことから、 迅速かつ的確な事務処理を行うために署間応援を行うこととした。具体的には、青森、秋田、山形 県等比較的被害の尐ない中心署の酒税担当職員を、甚大な被害を受けた被災地を抱える中心署(盛 岡、仙台北、古川、福島、郡山署)に 1 週間単位で併任させ、昨年 8 月 22 日から 12 月 16 日までの 間に延べ 687 人日の応援を実施している。 (2)被災地署等における取組 被災地署における主な取組としては、被災酒類の確認書を交付するための説明会の開催、個別相 談、販売場の現地確認、小売酒販組合等から被災者の情報収集、避難先等への被災状況確認のアン ケート配付等を行ったほか、連絡のない免許者に対しては周知漏れがないよう電話での個別相談に より手続を指導した。その結果、全ての酒類販売業者への周知が終了したほか、避難している免許 者の実情も把握することができた。 なお、個々の事情により申請手続が未了の者も一部いるが、今後もきめ細かな個別相談を実施し ていくこととしている。 4.酒類の安全性確保への対応 食品の安全性に対する国民の関心が高まっていることを踏まえ、酒類の放射性物質に対する安全性 の確保に万全を期す必要があることから、次の施策を実施している。 (1)酒類製造者への情報提供等 東北 6 県の酒類製造者に対して、放射能汚染防止のため遵守すべき事項や、放射線に関する基礎 知識などの技術情報を提供しているほか、安全な酒類製造を進める上での技術的疑問点については、 仙台国税局鑑定官室において、随時、相談に応じている。 今後も、放射性物質に関する技術情報の提供を行っていくこととしている。 (2)出荷前酒類等の放射能分析 酒類製造場内にある出荷前の酒類及び醸造用水の放射能分析を酒類製造者の協力のもと、次の基 準により順次実施しており、平成 23 年 12 月 28 日現在、133 点の分析が終了している。 ① 福島第一原子力発電所から 150km 以内の酒類製造場 全ての酒類製造場を対象として、1 場当たり 4 点を分析 ② 東北 6 県のうち上記に該当しない酒類製造場 対象製造場のうち概ね 4 割を無作為抽出し、1 場当たり 3 点を分析 21 ファイナンス 平成 24 年 3 月号 なお、分析が終了したものには、飲料水の放射性物質に関する暫定規制値(放射性ヨウ素:300Bq/ ㎏、放射性セシウム:200Bq/㎏ 厚生労働省による)を超えるものはない。今後は、酒造りの最盛 期を迎えている清酒を中心とした分析を実施していくほか、清酒、果実酒以外の酒類についても分 析を行うこととしている。 また、輸出証明書用を含めた放射能分析結果については、県食品衛生等担当部局に情報提供して いるほか、国税庁ホームページでも県別に公表している。 5.清酒の出荷動向 東北 6 県の清酒製造業の出荷状況は、昨年 3 月以降大きく変動した。 東北 6 県全体としては、震災直後の 3 月は前年比で 20%程度落ち込んだが、その後の首都圏等にお ける被災地復興支援の高まりから、4 月以降は被災 3 県を中心に大きな伸びを示し、3 月から 9 月まで の累計でおよそ 5%増加している。 特に宮城県は、50%を超える伸びを示した月があり、9 月までの 7 ヶ月間では 27%の伸びとなって いるほか、岩手県及び福島県についても 4%から 10%程度の伸びとなっている。 一方、青森県、秋田県及び山形県においては出荷の落ち込みが懸念されたが、7 ヶ月間では、ほぼ前 年並みの出荷状況となっている。 <東北 6 県及び被災 3 県における清酒の月別出荷動向:速報値> 清酒の出荷動向(東北) 清酒の出荷動向(岩手県) 10,000kl 8,000kl 200% 2,000kl 200% 150% 1,500kl 150% 100% 1,000kl 100% 6,000kl 4,000kl 0kl 500kl 50% 2,000kl 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 0kl 0% 50% 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 H22年度 5,714 6,304 4,215 5,030 4,380 3,966 4,886 移出数量(kl) H22年度 移出数量(kl) 484 478 331 449 322 332 370 H23年度 4,631 6,771 5,172 5,437 4,668 4,487 5,111 移出数量(kl) H23年度 移出数量(kl) 296 586 473 502 384 397 391 対前年比(%) 対前年比(%) 61.1 81.0 107.4 122.7 108.1 106.6 113.1 104.6 清酒の出荷動向(宮城県) 0% 122.5 143.0 111.8 119.4 119.5 105.6 清酒の出荷動向(福島県) 2,000kl 200% 2,000kl 200% 1,500kl 150% 1,500kl 150% 1,000kl 100% 1,000kl 100% 500kl 0kl 50% 500kl 0% 0kl 50% 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 H22年度 移出数量(kl) 695 758 552 567 551 485 542 H22年度 1,304 1,460 1,018 1,173 1,101 移出数量(kl) H23年度 移出数量(kl) 398 1,021 948 886 758 625 651 H23年度 1,016 1,608 1,237 1,286 1,083 移出数量(kl) 対前年比(%) 57.3 134.7 171.7 156.4 137.5 128.9 120.1 対前年比(%) 3月 77.9 4月 5月 6月 110.2 121.5 109.7 7月 98.4 8月 9月 860 1,052 966 1,088 0% 112.4 103.5 6.東北清酒鑑評会の状況 仙台国税局では、東北地方における清酒の製造技術及び品質の向上を目的として、例年東北清酒鑑 評会を開催している。昨年 10 月に開催した東北清酒鑑評会においては、清酒製造場の被災により出品 への影響が非常に懸念されたところであったが、出品した実製造場数では、一昨年の 160 場から 151 22 ファイナンス 平成 24 年 3 月号 場へと 9 場の減尐に止まった。このうち、「吟醸酒の部」で 52 場、「純米酒の部」で 43 場に対し、出 品された清酒の品質が特に優秀と認められたとして「優等賞」を授与している。 <東北清酒鑑評会表彰式:受賞者代表謝辞> <清酒製造技術研究会> 今回出品された清酒は、醸造期真っ只中に震災に見舞われ、停電により品温管理に困難を来たした ほか、貯蔵管理能力を求められる夏場の猛暑の時期にも、電力不足への対応を求められるといった幾 多の困難を乗り越えて出品にこぎつけたものであり、どのような試練に見舞われても揺らぐことのな い東北清酒の製造・貯蔵管理両面にわたる技術水準の高さと、清酒製造に寄せる関係者の不屈の思い を垣間見ることができた。 7.おわりに 東北に赴任して各地を回ると、素晴らしいお酒が沢山あることを知った。酒類業者の方々からお話 しを伺うと、先祖代々からの蔵も多く、街が分散的に形成されているために、その土地々ではお米と 水に次いで、何百年も昔からその地域の人々の生活とは切り離せないのではないかと言っても過言で はない感じがした。私が訪問したいくつかの蔵からは、津波が迫り来る中、蔵人が原料米を命がけで 浸水から守ったものの、その後の地域の物資不足のひどさを見かねて原料米を炊き出しに使ったり、 製造場に併設された飲食施設を活用して食材が底をつくまで食事の提供を行って地域住民の命をつな いだという話を伺い、その絆の強さも実感した。また、被災地の酒造りについての報道機関の報道振 りを見ても、如何にお酒が東北地方の人々の生活に根ざしているかが伝わって来る。先般の清酒鑑評 会の受賞者代表である福島の方からも、復興のための宣言として大変力強いお言葉をいただいた。被 災地の復興とともに、酒造りの復興が歩むことを信じてやまない(文中、意見、感想にわたる部分は、 個人としての見解である)。 23 ファイナンス 平成 24 年 6 月号 平成 23 年分確定申告期を振り返って 1.はじめに 確定申告期は、申告納税制度の下、納税者にとって重要な税務手続を行う時期であり、同時に、国 税組織にとっても最大の事務繁忙期となる。 東日本大震災は、平成 22 年分確定申告期間中である平成 23 年 3 月 11 日(金)に発生し、東北地方 に広範かつ甚大な被害をもたらした。そのため、青森県、岩手県、宮城県及び福島県の全地域は申告 期限の延長措置がとられた。その後、ライフラインや交通インフラ等の復旧状況を踏まえつつ、原発 避難関係地域を除き順次解除され、仙台国税局にとっては 2 年振りにいわゆる 3 月 15 日を迎えること となった(石巻署は申告等の期日指定が平成 24 年 4 月 2 日とされた)。 大震災の発生から約 1 年の間、仙台局は被災者の負担軽減を目的とする震災特例法(平成 23 年 4 月 27 日施行)の対応として、被災者の立場に立った親切かつ丁寧な電話相談、申告相談等に取り組んで きたが、他方、事務運営面からはその申告相談等のピークはいつ来るのか、その時の相談体制は万全 かという大きな課題を抱えていた。こうした懸念を持ちつつ、平成 24 年 3 月 15 日(木)は大きな混 雑のない比較的静かな最終日となった。私も含めて、平成 23 年 5 月の連休明けから震災対応事務に取 り組んできた署長や職員は、ようやくほっと安堵できたのではないかと思う。 川北国税庁長官は、確定申告期に宮城県最大の津波被害地域を所管する石巻署を視察され、東京局 からの支援職員を含む職員に対し「税務署は納税者とともにあり、大震災後の確定申告は被災者支援 の観点からも国税組織を挙げて取り組むべき最優先課題である。そのため、各局から皆さんに東北に 来ていただいており、今回の経験を今後の税務行政において活かしていただきたい。」旨のご挨拶をさ れた。私も、同様の思いを持っていた。 今回は確定申告期の取組について紹介させていただくとともに、職員の激励のため現場視察を行い つつ感じたこと、今後の課題や考え方などについて、簡単に整理してみたい。 2. 平成 23 年分確定申告事務への対応 (1)概観 被災された多くの納税者にとって初めての確定申告となり、雑損控除適用のためには、住宅、家 財等の被害の状況に基づく損失額の算定や所得金額等の確認作業を必要とすることから、税務署職 員との個別相談を行いつつ申告手続を行っていただくことが基本となる。そのため、従来からのI T化による申告手続とは別の申告相談体制を準備しなければならない。そうでなければ、被災され た納税者やそうでない一般の納税者にも、混雑や長い待ち時間をお願いせざるを得なくなる。 こうした事態を回避するために、平成 23 年内にも震災関連の申告相談等を仙台局の局署の総力を 挙げて実施してきたが、例年の確定申告期の事務処理体制では限界があると認められた。この絶対 的な事務量不足を補い納税者への対応に万全を期すため、国税庁の決定により、各国税局から仙台 局への職員派遣、大阪サテライトにおける電話相談等の全庁的支援体制をとっていただいた。 今回の確定申告期の取組については、今後検証する必要があると考えるが、現場を預かる私とし ては、被災者に対する申告相談等の事務について、①全庁的支援等による申告相談体制の整備、② 時間的対応(被災者向けの申告相談会場のキャパシティや一日当たりの相談要員には制約があり、 これに対処するための被災地署の申告相談・受付の前倒し等、事務の平準化策)、③現場力の発揮(署 長のリーダーシップや職員の創意工夫、支援職員の全面的な協力等)といった 3 つの要素の全てが 24 ファイナンス 平成 24 年 6 月号 噛み合い、その結果、期間中大きな混乱もなく無事終了できたものと考えている。どれ一つ欠けて も今回の確定申告期の申告相談事務はうまくいかなかった。 また、被災地署ならではの現実的な問題として、昨年までの申告相談会場の被災等に伴う代替施 設、宿泊施設や非常勤職員の確保等、目に見えない後方支援作業もあったが、これも何とか解決さ せた。こうした諸々の制約要因を抱えながら、申告相談会場ではいずれの会場においても、支援職 員を含む職員の強い使命感、責任感とともにお互いを支え合う国税組織の絆の強さを痛感した。 (2)確定申告書の提出状況等 仙台局管内の平成 23 年分所得税の確定申告書の提出件数は、平成 24 年 3 月末日現在約 161.9 万件 であり、申告期限が延長された平成 22 年分(154.4 万件)より 7.5 万件(4.9%)増加したものの、 平成 21 年分(172.0 万件)より、10.1 万件(5.9%)の減少となった。 平成 23 年分の提出件数が平成 21 年分より減少したのは、被災による所得の減少により申告義務が 無くなった方が増加したほか、平成 23 年の所得税改正によって、公的年金等の収入金額が 400 万円 以下の場合は、確定申告書の提出を要しないこととされたことが大きな要因と考えられる。 なお、この内、納税額のあるものは約 37.7 万件、 所得金額は 1 兆 5,912 億円、納税額は 880 億円と 平成 23 年分確定申告期申告相談 の状況(特に申告相談件数が増加した署)> <グラフ1 なっている。 これを平成 21 年分と比較すると、件数 (21.5%)、 所得金額(11.6%)納税額(3.5%)はいずれも減 少している。 一方、還付は約 100.4 万件であり、雑損控除の 適用等の増加を要因に平成 21 年分よりも増加 (2.4%)している。 こうした状況の下で、平成 23 年分確定申告期に おいて、全管ベースでも申告相談件数は平成 21 年分に比べ約 120%となった。特に同件数が増加 した署はグラフ1のとおりであり、津波被害が甚 大であった石巻署では平成 21 年分比約 360%とな る等、例年の 1.5 倍以上の署も数多く見られた。 申告相談件数が大きく増加した要因としては、 雑損控除の適用に関する相談の増加に加え、震災 の影響による地方団体の申告相談体制の縮小な どが考えられる。 (3)申告相談等の状況 ① 全体の状況 平成 24 年 1 月から確定申告期終了までの間に 13.3 万件の雑損控除についての申告書の提出が なされた。その結果、建築物被害件数のうち、損失額が大きいと判断される全半壊ベースで見る と、岩手県、宮城県及び福島県の被災 3 県の申告相談済件数*1 は、全半壊件数 33.4 万件に対し、 平成 23 年内の 18.9 万件を含め 31.3 万件、その割合は 93.6%となっている(申告書提出件数は 24.5 万件、全半壊に対する割合は 73.3%)*2。このような状況を踏まえると、被災者の多くが雑 損控除の適用等に関する相談をされたのではないかと考えられる。 25 ファイナンス 平成 24 年 6 月号 *1)雑損控除の適用は、納税者の所得金額、住宅・家財等の損失額(資産の取得時からの年数等にもよる)及び 補填される保険金額等により、個別に判定する必要がある。 「申告相談済件数」とは、①雑損控除等を適用して平成 22・23 年分の確定申告書等を提出した者(平成 23 年分の繰越控除適用者を除く)、②相談の結果、雑損控除等の適用がないと判定された者の合計である。 *2)損害保険会社の地震保険、JA共済保険の支払件数は、岩手県及び福島県は、建物被害(全半壊)件数を上回 っており、宮城県でも 96.1%となっている(平成 24 年 2 月末現在) 。1 件あたり平均支払額は、岩手県 179 万 円、宮城県 209 万円、福島県 153 万円となっている(著者調べ) 。一部損壊の場合、仮に、保険金支払額が 100 万円のケースで雑損控除の適用となるためには、少なくとも 2 千万円以上の資産に対する損害が必要となる。 ② 県別状況 県別に見ると、岩手県の相談割合は、126.2%と全半壊件数を上回る相談状況となっており、三 陸沿岸部の津波被害が大きい地域が大半を占めることから、建築物被害のみならず世帯に複数の 所得を得る者がいる場合は、家財や自動車について、各々の損失の相談がなされているものと考 えられる。宮城県は、津波被害とともに地震被害も多く、95.3%となっているが、岩手県と同様、 総じて津波被害が甚大であった地域(塩釜、気仙沼署等)において相談が進んでいるものと判断 される。福島県は、78.5%にとどまっており、内陸部において地震被害の地域が多いため被災家 屋の修繕等が進んでいないことや、東京電力福島第一原発事故の避難者も多いこと等から、今後 も震災関連の相談がなされるものと考えている*3。 *3)被災者生活再建支援金は、住宅について大規模半壊以上の損害を受けた者等の申請に基づき、市町村から被 害の程度に応じて支給される(全壊 100 万円、大規模半壊 50 万円等)が、その支給状況は、全半壊件数に比べ、 岩手県 83.3%、宮城県 50.9%、福島県 27.8%となっている(平成 24 年 3 月末現在) 。 <表1 被災地県別の申告相談済件数(平成 23 年 4 月 27 日から平成 24 年 3 月末日までの集計値)> 建築物 申告相談済 提出件数 被害件数 内全半壊等 件数 ②に対する割合 ① ② ③ ④=③/② 3 県合計 684,047 334,319 313,006 93.6% 244,986 73.3% 岩手県 34,159 26,853 33,886 126.2% 26,729 99.5% 宮城県 424,876 224,479 213,937 95.3% 169,493 75.5% 福島県 225,012 82,987 65,183 78.5% 48,764 58.8% 署 ⑤ ②に対する割合 ⑥=⑤/② ※建築物被害件数は、平成 23 年 12 月末(各県及び消防庁調べ)である。 ③ <グラフ2 時系列状況 仙台局では、平成 23 年 7 月の人事 異動後に申告相談体制の拡充を図り、平成 23 年 9 月から 11 月までを集中対応期間と して震災関連の申告相談等を実施した。そ の後、被災地署では年明けの 1 月中旬から 事務の平準化のため、震災関連の申告相談 を前倒しで受付する体制を整備した結果、 月単位で見ると次のような推移状況となっ ている(グラフ 2 参照)。 申告相談済件数は、 平成 23 年内では、申告期限の延長措置がと 26 被災3県における月別の申告相談済件数> ファイナンス 平成 24 年 6 月号 られていた被災 3 県の多くの税務署において期日指定が 9 月 30 日とされたことから 9 月が多く、 年明けは 2 月が山となった。 次に、グラフ 3 は、被災地署における平成 24 年の年明け後の申告相談の状況を示したものであ る。 線が平成 23 年分の申告相談件数の合計、 の震災関連の申告相談件数、 線が平成 21 年分、 線が平成 23 年分 線は平成 23 年分の申告相談件数の合計から震災関連分を除いた ものである。 震災前の平成 21 年分では、2 月 1 日から 16 日までの日次の平均申告相談件数に比べ、3 月分は 2 倍かそれ以上の状況であったのに対し、平成 23 年分は 3 月に入ってもほぼ 2 倍以内に収まって いる。また、震災関連の申告相談件数は、2 月に入ってから 3 月 15 日まで緩やかに増加し、一日 当たり約 1,200 件から約 2,500 件で推移したが、一番懸念された 3 月の確定申告期終盤での震災 関連の急激な駆け込み相談は発生しなかった。 これは、後述する各署の申告相談・受付の前倒し、相談期日を予め指定した申告案内、広報等 の各種施策が奏功したものと考えている。 <グラフ3 被災地署における 1 日当たりの申告相談件数> ・ 例年申告分の前倒し ・ 繰越損失分 石巻署申告分 ④ 納税者からの評価 確定申告期の納税者対応には、細心の注意を払っているところであるが、 「会場が混雑している、 駐車場が足りない、指導が不親切である」等のご批判、苦情をいただいているのも否定できない。 今回の場合には、これに加えて、 「会場の混雑が何回も生じる、長時間待たせられた、大阪サテラ イトでの電話相談や他局からの支援職員の言葉が分かりにくい」などの苦情が数多く出るのでは ないかと懸念された。 申告相談件数が平成 21 年分に比べ増加したにもかかわらず、会場混雑も例年ほどはなく、また、 申告相談や大阪サテライトの電話相談に従事していただいた職員も、丁寧かつゆっくりとした言 葉で応対した結果、殆ど言葉に関する苦情は出なかった。むしろ、各地から遠路はるばる東北ま で来て従事している支援職員に対して、納税者から感謝の言葉を多数頂戴した。 ⑤ 支援職員からのコメント 被災地署に支援いただいた他局の職員は、東日本大震災の惨状を理解した上で志願したり、自 局の大規模災害時への対応を念頭において来られた方々であるが、休日に被災地を回り、映像等 27 ファイナンス 平成 24 年 6 月号 ではわからない現状を目の当たりにし、改めて被災者の苦労と努力に真剣に聞き入ったとの言葉 があった。その気持ちが被災者の話に耳を傾け、親切・丁寧な対応へとつながった。 支援職員からは、総じて被災者支援をできたことについての感謝と被災地署の職員の活躍振り や対応を評価する言葉をいただいているが、被災地署に遠慮して言いたいことも言えない雰囲気 や場面は多々あったものと思うが、それも反省点の一つである。 また、申告相談や電話相談で言葉の問題を懸念する声もあったが、事前研修などにより思った ほどの問題は発生しなかったとの評価が多数であった。これも従事した職員の努力と熱意により 乗り越えられたものと考える。 (4)事前準備 ① 確定申告期における仙台局支援(申告相談等) 事務処理体制の整備 仙台局における平成 23 年分の確定申告期の納税者 対応に万全を期し、特定の署や職員に過度の負担が 掛かることがないよう、仙台局管内からの支援とと もに国税庁全体での支援が実施された。 これにより、仙台局管内被災地 8 署*4 へ、国税庁、 札幌・東京・名古屋・大阪・福岡局から、総数約 470 名、延べ約 4,500 人日の職員が*5、また、仙台局の電 話相談を支援した大阪サテライトには、大阪・広島・ 高松・熊本局、沖縄事務所から総数約 180 名、延べ 約 2,300 人日の職員*6 が派遣され、被災者の申告相 談や電話相談に従事した。仙台局管内からの支援に ついても、延べ約 7,000 人日(局職員は延べ約 4,200 人日、被災地署以外の署職員は 延べ約 2,800 人日) の職員を被災地署に派遣した*7。派遣に当たっては支 援職員を併任発令し、被災地署の各事務に弾力的に 従事できる体制を整えるとともに、支援元署におい ても、従来より効率的な相談体制を構築した。なお、 全庁的支援を受けるに当たり、被災地署での申告相 談への従事内容や宿泊場所等の状況確認が必要であ ることから、確定申告期前に支援局からの先遣隊が 電話相談への対応(西日本の各局による支援) 実際に被災地署に滞在し相談事務に従事するととも に、年明けの 1 月には、支援局に当局幹部が赴き震 災対応に係る説明会を開催し、 「応援者のためのガイ ドブック」を配付するなど、被災地署の状況、災害 発生時の避難場所、緊急医療機関、生活情報等につ いてできる限りの情報提供を行った。 *4)被災地 8 署とは、被害が甚大であり大幅な事務量不足が 見込まれた仙台北、仙台中、仙台南、石巻、塩釜、いわき、 白河、須賀川の各税務署である。仙台北・仙台中・仙台南 署に派遣された職員は、実際には市内 3 署の合同会場、仙台北署、仙台南署において従事した。 28 ファイナンス 平成 24 年 6 月号 *5)被災地 8 署へは、2 月 6 日(月)から 3 月 16 日(金)の 6 週間において段階的に支援職員を増加させ、最終週 は総数 180 名を確保した。特に、3 月 5 日以降は、月曜日の午前中の混雑が想定されるため、4 日(日)を移動日 とした。 *6)電話相談センター大阪サテライトは、1 月 17 日(火)から 3 月 15 日(木)の間、開設され、2 月 6 日(月) 以降は、大阪局に加え、広島、熊本、高松の各局、沖縄事務所の職員が従事した。この間、土日も電話相談対 応を実施した。 *7)被災地 8 署以外の太平洋沿岸で被害が甚大であった地域については小規模署(宮古・大船渡・釜石・古川・気 仙沼署)が多く、仙台局管内の約 3 分の 1 の支援職員を国税局と北三県(青森・秋田・岩手(内陸地域))の署 から、1 月 23 日(月)(局職員は 1 月 16 日(月) )から 3 月 30 日(金)までの間、原則 2 週間の交替制により 派遣した。 ② 被災地署の施策 イ 申告相談会場の確保・増設 地震・津波により庁舎が被災し申告相談会場として使用できなくなった署(大船渡署、須賀 川署)、申告相談会場として使用していた外部会場が使用できなくなった署(郡山署、相馬署等)、 他方で多数の被災者に対応するため、新規会場の確保や縮小していた署内・署外会場を拡大し た署(仙台市内 3 署、石巻署、いわき署等)もあり、各署とも人員配置やレイアウト等に工夫 を加えるなど、適切な相談体制を構築した。 ロ 相談体制の工夫 全署において多数の被災者の来署を見込み、個別相談用の震災コーナーを設置した。特に被 災地署においては、被害状況に応じて、震災コーナーの席数を多く確保し(仙台北署、石巻署、 いわき署ともに 40 席程度用意し、これにより一日当り 300 件の個別相談にも対応可能とした) 、 来署状況により従事する職員数を調整するなど、効率面にも配慮した。 ハ 平準化、前倒施策 申告相談会場の混雑緩和のためには、予め来署、来場が想定される納税者に対する申告案内 等の取組や環境作りが重要となる。 平成 23 年 12 月末までの取組として、被災されたサラリーマンの方が年明け早期に申告でき るよう、官公庁や企業などの大口源泉徴収義務者に対し、源泉徴収票の早期発行を依頼すると ともに、国税庁HPの利用促進を図るためのマニュアル「損失額計算システムを利用した確定 申告書作成入力例」を作成し、大口源泉徴収義務者への配付、社内LANへの掲載を依頼した。 また、税務署窓口や各種説明会会場にも備え付け、利用者からは「わかりやすく簡単に手続が できた。」との評価をいただいた。なお、被害が大きかった納税者は翌年以降に損失額の繰越が あるため、平成 24 年分の確定申告対策として繰越損失用のマニュアルの作成を検討している。 年明け以降である確定申告前(2 月 15 日まで)の取組としては、平成 22 年分の申告書を提出 し繰越損失が発生した者、平成 23 年分に確定申告を行うとして損失額の計算のみを行った者、 年内には来署されなかった者等に対して、年明けに申告案内文書を送付したところ、雑損控除 適用者の約 4 割の方が、2 月 16 日の確定申告期スタート迄に申告書を提出するに至った。 ③ 広報 確定申告期の事務量の平準化を図るため、様々な広報施策を行った。特に、被災者向けの相談 受付の前倒しに伴う早期申告を促すため、例年より早く確定申告に係る記者発表を実施するとと もに、発表方法も従来の資料提供から局幹部による会見に変更した。 訴求項目としては、例年通りの申告相談では会場混雑が見込まれる旨を強調し、①被災地署に 29 ファイナンス 平成 24 年 6 月号 おいては 1 月 23 日から申告相談・受付を前倒しで開始する、②仙台市内会場の分担化(税務署で は震災相談、合同会場は一般相談)を図る、③石巻署では事前予約も受付する、④閉庁日対応は 仙台市内 3 署と石巻署を拡大する、⑤電話相談は 1 月 17 日から開始し土日も対応する、⑥全国の 国税局から申告相談、電話相談の支援を受けて取り組む等とした。 併せて、広報媒体としてポスター、チラシのほかにJR、地下鉄、路線バスへの交通広報を実 施した。これは、主として仙台市内会場の分担化の周知を図るためである。 また、地元に密着した地域紙に有料の広告を依頼したほか、1 月 23 日の相談前倒し時、2 月 1 日の合同会場開設時、2 月 16 日の確定申告初日など、適宜のタイミングで報道機関へ取材機会の 提供を行った結果、多くの新聞・テレビで報道され、予想以上に来署者が増加するなど、高い効 果が得られたものと考える。 (5)現場力の発揮 各署の現場力の発揮として、代表的な署を以下、紹介する。 ① 被災者配慮の相談体制の整備 今年の確定申告期は、全庁的支援に加え、支援を受ける被災地署のみならず支援元署において も、これまでにない挙署一体体制で臨んだ。特に、全半壊の被害件数約 13 万件(管内の被害の約 4 割に相当)を抱える仙台市内 3 署は、それぞれの役割を十分果たした。元々、仙台北署及び仙台 南署は個人部門が、仙台中署は法人部門が、中心となっている署である。また、仙台南署は仙台 市のほか、名取市、亘理町等の沿岸部を抱えている。 仙台北署においては、他局支援職員を含む合同会場と自署の運営について、合同会場の来場者 の状況に応じた職員配置の弾力的運用や震災相談以外の来署者に対する合同会場への誘導案内を 行った。仙台中署においては、多くの職員を合同会場に送り出すとともに法人部門活用による挙 署一体体制により署内会場の相談ブースの拡大を図った。仙台南署においては、自署における申 告相談のみならず、仮設住宅の近隣の公共施設(亘理町には被災地最大となる 558 戸の仮設住宅 を設置している地域もある)に職員を定期的に派遣して申告相談を行った。いずれの署において も被災者の状況に配慮したきめ細かな体制を構築する上で、署長等の強いリーダーシップが発揮 された。 ② 応援者とのコミュニケーション 他局応援者の協力については、事前に局先遣隊の派遣や税法や取扱い等に関する事前研修を実 施したが、それでも、現場での一番の懸念材料は、仙台局内からの支援者も含め、被災者との応 接、損失額計算に当たっての統一的な対応、実際の現場対応における不明点や疑問点の把握等で あった。この懸念を解消し無用な事務処理ミスを防止するために、支援職員のチーフもミーティ ングに参加していただく等の方法により、支援職員と申告相談会場の責任者とのコミュニケーシ ョンを積極的に図り、支援職員から疑問点等や事務運営上の改善すべき点についても率直に意見 を伺うこととした。 例えば、震災コーナーから申告書作成コーナーへの誘導方法の見直しや、次のクールの支援職 員に対する研修内容の拡充等、効率的な相談体制や事務処理体制について適時の見直しを行った (合同会場、仙台北署、仙台南署、釜石署ほか多数)。その結果、支援先職員との間において一体 感と参画意識の醸成が図られた。また、支援職員のチーフも、次のクールのチーフに管内の被災 状況や相談状況を確実に引き継いでいただき、円滑な事務運営が可能となった。 30 ファイナンス ③ 平成 24 年 6 月号 申告相談会場の運営の工夫 震災相談に当たっては、被災者毎に個別事情等の相談を行う必要があり、一般相談よりも時間 を要するため、受付段階で、被災納税者と一般納税者の順番待ちを別に振り分けるなどの工夫を 行った。また、震災相談は原則として損失額計算までを行い、申告書の作成は作成コーナーとし た(パソコン操作に慣れていない方には非常勤職員が補助した)。この場合、作成コーナーに案内 する際は、被災納税者と一般納税者双方から苦情が出ないように順番案内を行ったり、パーティ ションの活用を図る等の工夫を施した(石巻署、いわき署、郡山署等)。 ④ 非常勤職員の募集、有効活用 確定申告期には、パソコン操作補助や確定申告書の処理事務のため多くの非常勤職員を採用し ているが、被災地署における非常勤職員等の募集は、被災による避難、復興に伴う人材逼迫や学 校の授業の延長、失業保険給付期間の延長等いくつかの要因により極めて困難な状況となった。 例年は年末までに採用の見通しが付いていたが、署によっては、1 月に入りようやく求人チラシ広 告の掲載により確保できた署(塩釜署、いわき署等)や、やむなく派遣契約社員での代替確保を 行った署(石巻署)もある。 また、仙台市内 3 署の合同会場においては、当初見込んでいたほどの混雑が発生しなかったた め、非常勤職員等に対し、署内会場への勤務地変更の意向確認を行い、配置換えにより署の混雑 緩和を図ったり(仙台北署)、予め募集時にパソコン操作補助や確定申告書の処理事務のいずれに も従事していただく旨を明記し、事務の繁閑に応じて、申告相談会場から内部事務への振替をす るなど、非常勤職員を有効に活用した署(久慈署等)がある。 ⑤ 閉庁日対応の状況 他局からの支援職員の派遣期間は 2 週間サイクルであったが、閉庁日対応を行った 2 月 19 日及 び 26 日の日曜日は、次週も続けて被災地署(仙台市内 3 署の合同会場、仙台北署、仙台南署、石 巻署)を支援する他局職員についても従事していただく体制とした。これは、自署職員を閉庁日 対応に多く従事させると、週休日の振替により平日の管理事務等が回らなくなるためである。な お、週休日の振替は、必ずしも併任先で行わなくても差し支えないとの弾力的な運用を国税庁に 認めていただいた。 特に、石巻署については、沿岸部の被害が甚大であり、かつ、サラリーマン等の給与所得者が 多いことから、今回初めて閉庁日対応を行ったものであるが、仙台局職員と東京局からの支援職 員が一丸となって、震災相談や来署者対応に臨んだことにより、円滑な申告相談会場の運営を行 うことができた。仙台市内 3 署の合同会場や署会場でも同様の支援体制を行っていただいたが、 大きな混乱もなく対応できた。 (6)確定申告書の処理状況 提出された確定申告書の処理に当たっては、特定の職員に過度の負担が掛かることがないよう計 画的な処理を指示するとともに、これまでにない挙署一体体制で取り組んだ結果、石巻署を除き、 全ての署において、平成 24 年 3 月末までに申告書入力を終えることができた。また、還付金の処理 についても、4 月末にはほぼ支払を完了した。 当初は、雑損控除に係る還付申告書の増加に伴い、被災地署を中心に還付処理の遅延が予想され たものの、署幹部の的確な指示と適切な進行管理はもとより、還付金の局集中監査や局署間・署間 31 ファイナンス 平成 24 年 6 月号 の支援(1 月から 4 月末まで延べ 280 人日)などの施策により円滑に事務処理が進んだものと考える。 (7)地方税当局、関係団体との協調 仙台局は従来から地方税当局の協力を得て確定申告事務を円滑に実施してきたが、被災地署にお いては被害の大きかった地方税当局から例年どおりの協力を得ることは困難であり、申告相談に従 事する職員の確保も難しい状況にあった。このため、大船渡署、石巻署、仙台南署及び気仙沼署等 は、市町村の申告会場に職員の派遣を行った。 他方、仙台市内 3 署のように、震災直後から多くの職員を地方団体のり災証明書の発行業務など に派遣した署においては、閉庁日対応時にも地方団体職員も申告相談等に協力いただくなど、従来 にない協力体制が見られ、被災地ならではの絆の強さを垣間見ることができた。現場の職員も、画 期的な相互協力であると評価している。 また、税理士会においても、被災者支援のため、1 月 28 日から 3 月 4 日までの土曜・日曜(閉庁 日対応の週を除く)に独自事業として無料申告相談会を実施した。特に、2 月 4 日と 5 日は日本税理 士会連合会主催によるものであり、東京会、近畿会等各会所属の税理士も、仙台市内において震災 関連の相談に従事された。このような社会貢献事業としての取組に対し、改めて敬意を表するもの である。 3.震災対応関連事務の残された課題 (1)東京電力福島第一原発事故避難者の状況 相馬署、福島署及び郡山署の一部の地域では、東京電力福島第一原発事故のため申告・納付期限 の延長措置が継続している。多くの避難指示区域等を管轄する相馬署では、管内人口約 19.5 万人に 対し、平成 24 年 3 月末現在、管内に居住する人口は約 9 万人となっているが、他署と同様に申告相 談体制を整備し、署外会場において震災相談等を実施した。このような状況の下でも、相馬市、新 地町を除き、南相馬市や双相地区に住民登録のある納税者から自主的に提出された確定申告書は、 震災前の平成 21 年の約半分に相当する状況となっている。これは、震災関連のほか、事業継続や原 発賠償金請求のためによるものと考えられる。 また、多くの避難者が避難先の最寄りの税務署でも申告相談を行ったため、全国の税務署から申 告書が回付された。 今後、関係自治体及び国において、避難指示区域の再編、見直しが進められていくこととなるが、 引き続き、避難者からの相談について、最寄りの税務署等においても対応できるよう万全の相談体 制を図っていくこととしている。 (2)被災者生活再建支援金の見直し 被災者が受取った被災者生活再建支援金については、従来、損失を補てんするものとして雑損失 の金額から控除することとして取り扱ってきたところであるが、国税庁において、再検討の結果、 義援金などと同様に雑損失の金額から控除しないものとして取り扱うことになった(平成 23 年 12 月 20 日公表)。このため、当該支援金を控除した申告を是正(職権更正)する必要があり、この事 務は平成 24 年 5 月以降に行うこととした。 見直し対象は、既に平成 23 年内に確定申告書等が提出されている約 12 万件の内、大規模半壊以 上の住宅被害等がある方であるが、この是正に伴う事務量も相当なものとなっている。被災地署に おいては、挙署一体体制で処理しているが、なお事務量が不足すると見込まれた石巻署等 8 署につ 32 ファイナンス 平成 24 年 6 月号 いては、5 月の連休明けから、局署・署間応援を実施し当該署の事務負担の軽減を図っている。また、 この作業に当たっては、仙台局の税務相談官が対応していた電話相談の一部を、局間転送機能を活 用して、東京局、関東信越局等 4 国税局で支援していただくことにより、是正に関する進行管理や 決裁関係などに要する事務量の確保を図っている。 (3)震災関連についての未相談者への対応と平成 24 年分確定申告に向けての準備 震災被害に伴う雑損控除の適用等に関しては、多くの被災者がこれまでに申告相談や手続をされ たものと思われるが、地域により状況を異にするため、引き続き、署の相談窓口体制を整備すると ともに、地方団体広報紙等を活用して、制度の内容や税務署での相談について周知を行うこととし ている。 平成 24 年分の確定申告に向けての準備としては、平成 23 年分の各署における雑損控除を含めた 申告状況や平成 23 年分の繰越損失適用の発生見込割合、被災した地方税当局の状況等、各種のデー タを分析、精査しつつ、想定事務量の見積り、事務の平準化、申告書作成会場のキャパシティ等を 踏まえ、必要な方策を検討していく必要がある。 4.おわりに 仙台局として、震災特例法等の法令上の措置に関し、被災者に対して可能な範囲で最大限の支援を 行う姿勢で取り組んできたが、震災後一年経った平成 23 年分確定申告が終了するタイミングで、被災 した滞納者への納税緩和制度の早期適用に係る事務や、被災した酒類業者への対応事務についても、 目処を立てることができた。 また、平成 23 年 10 月以降、放射性物質に対する酒類の安全性確保のため、出荷前の酒類等につい て業者の協力を得て、放射性物質に関する調査を実施したが、政府関係者の努力のほか、放射性物質 に対する官民の取組や調査結果に問題がないこと等が評価されたのであろうか、EUへ輸出する清酒、 ウィスキー、しょうちゅうについては、4 月 2 日以降、証明書添付が不要とされた。酒造りの復興なく して東北の復興なしと考えていた私としては、このようなEUの対応は、今後の復興に大きなインパ クトを与えるものと考えている。 職員の中には、自身や家族、友人が被災に遭われた方も多く、辛い思いを秘めてのこの一年だった と思うが、とにかく強い使命感、責任感をもって各事務を乗り切っていただいた。確定申告終了後の 職員の顔からは、長丁場であった仕事に区切りがついたとの安堵感とともに、国税組織に課された被 災地における大きなミッションをやり遂げたとの充足感も同時に見て取れた。 沿岸部の被災地を回ると、復興の始動は見られるものの、その長い道のりの緒にやっと着いたよう にも感じられる。他方、仙台市内は復興支援関係でヒト、モノ、カネが集中しているとの報道等が目 に付くようになった。震災後 2 年目は、各署の状況に応じた事務運営が必要となる。 東北魂を秘めた仙台局職員、支援等を通じ多くの励ましの言葉とパワーをいただいた全国の職員に 対し、心から感謝するとともに、広報施策や事務運営面において弾力的な取扱いを積極的に検討して いただいた国税庁にも感謝申し上げる。本稿が、今後の事務運営において、何らかの形でお役に立て れば幸いである(文中、意見、感想にわたる部分は、個人としての見解である) 。 33 被災納税者に対する納税緩和制度の早期適用と 被災酒類業者等への対応(補追) 被災納税者に対する納税緩和制度の適用と被災酒類業者等への対応は、被災された方の震災関連相談 事務と同様に、仙台国税局において大きな課題となった。平成 23 年 8 月以降、対応を本格化させ、応援 職員を含む担当職員の努力により、平成 24 年 3 月末には、その取組についてほぼ目処がついた。以下、 取組状況を簡単に紹介する。 1.被災納税者に対する納税緩和制度の早期適用 震災等により財産に相当な損失を受けたことにより、国税を一時に納付することが困難な場合には、 国税通則法及び国税徴収法に基づいた様々な納税緩和措置が認められている。仙台局としては、まず、 東日本大震災が発生した時点において滞納状態にある者に対して、これらの措置の適用に該当するか どうか等被災による財産の損失状況等の確認を行い、また、申告・納付期限の措置が解除された地域 の納税者で、申告時に納税猶予手続きが必要と判断される者に対して適切な指導を行った。 この結果、平成 24 年 3 月末までの管内の納税の猶予の申請件数は、6,000 件を超え、宮城県、福島 県 2 県合計で全体の 4 分の 3 に相当する状況となっている(ファンナンス平成 24 年 2 月号の補追)。 2.被災酒類業者等への対応 (1)被災酒類業者への対応 被災地における特例免許の付与、被災酒類に係る酒税相当額の還付、中小企業等復旧・復興支援 補助金(いわゆるグループ補助金)への対応事務のほか、平成 23 年 12 月 14 日に施行された震災特 例法第二弾の措置として、甚大な被害を受けた中小酒類製造者(前年度の純課税移出数量が 1,300kl 以下)に対して、酒税の軽減割合が 5 年に限り拡充(例:20%軽減⇒25%軽減)されることとなっ た。仙台局管内では、関係事業者に対し周知を図るとともに個別相談等を実施し、65 事業者がその 認定を受けることとなった。 その後、被災地を回ると、グループ補助金を活用して、24 年酒造期に間に合わせるべく、製造設 備の補修や工場開設を急ピッチで取り組んでいる事業者も多く見られ、酒造りの復興に向けて大き く前進しているように受け止めている。 (参考)特例免許、被災酒類に関する酒税還付状況等(東北 6 県合計 平成 24 年 3 月末現在) 製造免許関係 相談 件数 90 販売業免許関係 移転 蔵置場 許可 許可 件数 件数 4 7 相談 件数 770 移転 期限付 許可 付与 件数 件数 155 107 被災酒類に係る酒税還付状況 件数 2,565 被災数量 酒税額 (KL) (千円) 3,712 550,364 (2)酒類の安全性確保 平成 23 年 9 月以降、23 年酒造期に合わせ酒類製造業者 379 者に対して、放射能汚染防止のため遵 守すべき事項や放射線に関する基礎知識等の技術情報を国税局から提供するとともに、酒類製造場 内にある出荷前の酒類及び醸造用水の放射能分析を実施し、酒類の安全性を確認している。なお、 34 輸出先国から求められている輸出証明書用の分析結果を含めて、平成 24 年 5 月末現在、国が定めた 暫定規制値及び新基準値を超えていたものは確認されていない(ファイナンス平成 24 年 3 月号の補 追)。 (参考 1)輸出証明書の発行件数等(東北 6 県合計 平成 24 年 3 月末現在)) ○ 証明区分別 ○ 製造日 製造地 放射性物質の 証明 証明 検査証明 121 310 271 輸出先国別 合計 EU 韓国 マレーシア 中国 タイ ブラジル 合計 702 446 131 58 47 19 1 702 (参考 2)放射能分析点数(東北 6 県合計 平成 24 年 3 月末現在)) 輸出酒類 180 出荷前酒類等 酒類 醸造水 404 151 35 ファイナンス 平成 25 年 2 月号 税務統計から見た震災後の東北の姿 1.はじめに 仙台国税局は、東日本大震災後 2 年目となる平成 24 事務年度の組織目標として、 「東日本大震災へ の取組みと全庁的課題である改正国税通則法施行に向けた準備等に的確に対応しつつ、震災前の事務 運営への回復を目指すこと」を掲げ、事務運営を行っている。震災後約 1 年間は、震災特例法対応や 確定申告事務等の震災関連事務が最優先であり、いわゆる納税者のコンプライアンスの維持のための 調査・徴収事務は、限られた範囲での対応となっていた。こうしたことから、2 年目は、納税者の被災 状況等にも十分配慮しつつ、事務の優先順位を考えながら、震災前の税務行政の姿に戻していくこと が大きな課題となっている。 このような状況の下において、従来から国税局において管内の各種税務統計を公表しているが、被 災地ならではの例年とは異なる数字の動きも見られ、行政機関等の発表資料や関係者から耳にしたこ とも参考に、税務統計上、震災後の東北はどのような姿になっているのか、自分なりに解説を加えて みたい。 2.各種税務統計等から見た東北の姿 (1)行政機関等の判断概況(平成 24 年 4 月時点) 東北に関する地域経済動向は、東北財務局や日本銀行仙台支店等から公表されており、それらに よれば、震災後 1 年を経過した時点での景気判断として、 「管内経済は、東日本大震災の影響が残る ものの、持ち直している」(24 年 4 月 東北財務局)、「東北地域の景気は、震災関連需要による押し 上げ効果もあって、被災地以外の地域では震災前を上回って推移しているほか、被災地でも経済活 動再開の動きが見られるなど、全体として回復している。」 (同 日本銀行仙台支店)とされた。また、 地元のマスコミ論調としては、1 年経って、瓦礫の撤去は概ね進捗しているが、住民の集団移転の合 意形成に時間がかかっており、そこから先が進んでおらず、復興の遅れを指摘するもの、保険金、義援 金の支給や生活再建、復興支援等により、仙台を中心に個人消費や住宅需要が底堅いとするもの等が 多く見られた。 (2)税務統計等 ① 租税収納状況 イ.概観 管内の税務申告及び更正処分等に伴い納付された租税収納済額の動向について、過去 6 年間 の推移を見ると、リーマンショック等の影響を受け震災前の平成 21 年度まで、管内税収は逓減 傾向にあったが、23 年度の租税収納済額は、1 兆 5,690 億円となり、前年度比 1,239 億円 8.6% の増加となっている(図表 1)。 これについては、東日本大震災の発生に伴い、23 年 3 月 11 日以後に到来する申告・納付等の 期限を延長する措置がとられたため、大震災が発生していなければ本来 22 年度に納付されるべ きものが 23 年度に納付されていることに留意する必要があるが、各税目について 22 年度及び 23 年度の動向を見ると、酒税や揮発油税等が製造場等の被災、出荷見合わせにより前年度より 大きく減少する一方で、消費税、法人税及び申告所得税が、22 年度に減少したものの 23 年度は 増加となっている。中でも法人税は、22 年度の減少以上に 23 年度は増加している。 36 ファイナンス 平成 25 年 2 月号 (備考)震災に伴う申告・納付期限の延長措置について 23 年度に入って、被災、避難状況や生活インフラ等の復旧状況を踏まえ、青森県(23 年 7 月 29 日)、宮城 県、岩手県及び福島県の一部(9 月 30 日)、気仙沼市等宮城県及び岩手県の一部(12 月 15 日)、石巻市等宮 城県の一部(24 年 4 月 2 日)と、順次、申告・納付等の期日が指定された(( )内が申告等の最終期限日) 。 (図表 1) ロ.法人税の状況と地域別の状況 申告・納付期限の延長措置の影響を正確に分析することはできないが、単純に震災前の 21 年 度の納付税額と 22 年度及び 23 年度の 2 年間の平均の納付税額とを比較すると、法人税のみが増 加しており、全国の平均と比べても増加率は 15.9%と高い(前掲図表 1(参考))。これは、この 2 年間 15.9%の増加が続いたと考えることもでき、仮に、22 年度は 21 年度の税額と横ばいと仮置 きした場合、震災後の 23 年度は 21 年度比約 30%の大幅な増加率となる(図表 2)。 これを、県別にみていくと、被災地である岩手県及び宮城県の増加が顕著であることに加え、 奥羽山脈を隔てて隣接する山形県も増加している。東京電力福島第一原発事故の影響を大きく 受ける福島県でも他県ほどではないものの一定の増加を示しており、23 年度の法人税収に関し ては、被災県を中心に納付税額が伸び、その波及効果が被災した県以外にも一部及んだことが うかがえる(図表 2)。 なお、租税収納状況とは若干異なる統計データではあるが、23 年 4 月から 24 年 3 月までの管 内法人税の申告事績についても、申告所得金額、申告税額のいずれも 5 年ぶりの増加となって いる(図表 3)。 (図表 2) 37 ファイナンス 平成 25 年 2 月号 (図表 3) 23 年度における法人税の申告事績の概要 ○ 法人税の申告件数は 159 千件で、その申告所得金額の総額は 9,028 億円、申告税額の総額は 2,442 億円。 前年度と比べると、それぞれ 3,057 億円(51.2%) 、861 億円(54.4%)増加し、5 年ぶりの増加となっ た。黒字申告の割合は 28.0%と、過去最低の前年度(26.6%)及び震災前 21 年度(26.9%)と比べ、若干上 昇した。 21 年度 22 年度 件数等 件数等 件数等 増減額 前年対比 前々年対比 157 147 159 12 108.1 101.5 申告所得金額(億円) 6,609 5,971 9,028 3,057 151.2 136.6 申告税額(億円) 1,735 1,581 2,442 861 154.4 140.7 申告件数(千件) 23 年度 (注)23 年度は、23 年 4 月 1 日から 24 年 3 月 31 日までに終了した事業年度に係る申告について、24 年 7 月末までに申告があったものを集計したものである。法人税の申告事績は、租税収納に比べ、 法人業績の期間対応関係がより明確となる。 ハ.法人税増加の要因 法人の場合、今回の大震災により申告水準に大きな影響を与えるものとして、営業面での影 響(事業再開の有無、復旧・復興需要の有無等)、被災による事業用資産の損害状況、支援金 及び保険金等の受領の状況等があると考えられる。大震災以降、被災地を中心に交付・支給さ れた復興予算と被災による義援金、支援金、損害に対する保険金等が、被災地域の公共投資は もちろん、個人消費や設備投資などを相当程度押し上げたことは容易に想像できる。 23 年度では、被災地県の法人税増加の要因として、補正予算等による瓦礫の撤去といった 復旧事業、被災者の生活再建のための消費財、生活拠点の購入及び賃貸需要、東北を応援する 復興支援需要が考えられる。 例えば、被災 3 県における公共工事請負金額は、復旧・復興事業の本格化に伴い、震災発生 半年以降、宮城県を中心に急増している。その中には、本格工事発受注の前提となる大量の瓦 礫撤去等の復旧作業が含まれ、そうした緊急的事業の請負により企業活動を維持できた地元事 業者も多いと聞く(図表 4)。 (図表 4) また、直接的被害が少なかった山形県においても税額が増加しているのは、被災 3 県のみで は復興需要に対する供給力に限界があることや、その結果として、従来担っていた山形県など 県外地域の工事にまで被災 3 県業者の手が回らなくなったことの影響も大きいのではないか 38 ファイナンス 平成 25 年 2 月号 と思われる。 (備考) 1. 法人税法上、法人が受けた支援金や保険金などの収入金額は益金の額に算入される一方で、例えば、被 災を受けた法人の有する商品、店舗、事務所等の資産の損失額は損金の額に算入されるほか、一定の要 件の下、代替取得資産価額に相当する課税を繰り延べることもできる。なお、東日本大震災の被害を受け た法人に対しては、震災特例法による各種の特例措置が別途設けられている。 2. 仙台局管内の法人税収は、あくまでも管内(東北)地域に本店のある法人の申告納税額の集計額であ る。仮に、復興予算等による公共投資や個人消費が被災地域で伸びたとしても、首都圏の大手ゼネコン が工事の元請であったり、同大手スーパー等の支店店舗であったりする場合の被災地域での収益は、そ の本店所在地の申告納税額に反映することになる。したがって、必ずしも、復旧・復興に伴い被災地域 で生じた収益の全てが仙台局の申告納税額に直接反映する訳ではない点に留意する必要がある。東北 6 県の県民総生産は全国の約 6.5%であるが、管内税収は 4%を切っている。 3. 宮城県の建設関連競争入札参加登録業者は、24 年秋以降工事発注が本格化することを見込んで、県外 業者の登録数が増加しており、登録総数約 4,100 者中、24 年 9 月現在約 42.5%の約 1,700 者となって いる。管内視察でよく利用する宮城県仙台市と山形県天童市を結ぶ国道 48 号線(作並街道)は廃材や 土砂を乗せた県外ナンバーの大型ダンプの往来が一段と激しくなっているように感じる。 4. 岩手、宮城及び福島県の商工会及び商工会議所被災会員を対象とする調査によれば、東京電力福島第 一原発事故の影響を直接受けた福島県内の地域を除くと、仮復旧や一部再開を含め、既に 8 割程度の商 工業者が営業を再開している(図表 5)。 (図表 5) ニ. 今後の見通し 政府の 25 年 1 月の月例経済報告発表前までの認識として、全国的に景気悪化の兆しがみられ たなか、東北地域についても、鉱工業生産の緩やかな減少、個人消費や雇用情勢の落ち着きな どを理由として「東北地域では、景気は弱含んでいる。」 (24 年 11 月 内閣府「地域経済動向」)、 「東北地域の景気は、回復の動きが一服している。」 (25 年 1 月 日銀「地域経済報告-さくらレ ポート-」)とする判断が示されるなど、回復基調にあるとされた東北地域の景況判断を下方 修正する動きが指摘されている。復興需要が一巡するなかで、海外経済減速などの影響が輸出 関連産業を中心に東北地方にも及んだ形である。 東北地方の企業活動に関しては、24 年 12 月の「法人企業景気予測調査」(東北財務局)によれ ば、情報通信機械などが振るわず、製造業全体で、24 年度経常利益前年度比約 36%の減益、全産 業でも約 25%の減益見通しが示されている。また、同時期の日銀仙台支店の短観においても同様 39 ファイナンス 平成 25 年 2 月号 に、全産業の業況判断で 2 期連続の悪化となっている。他方、同短観から、24 年度の設備投資 計画面で前年度を大きく上回る(全産業+20.9%)ほか、岩手、宮城及び福島県の被災 3 県非製造 業で依然として良好な業況や建設業の安定的な好況など、一定の地域・業種で続く衰えをみせ ない企業活動の状況も感じられるところである。(図表 6) 。 東北経済は、このように海外経済減速などの影響を受けつつも、年明け以降見られる円安の動 きとともに、前年度を大幅に上回る公共事業や住宅の建替え需要等による住宅建設の動きが続 いている。更に、先般、経済の再生と復興などを実現する政策パッケージの第一弾として取りま とめられた「日本経済再生に向けた緊急経済対策」(25 年 1 月 閣議決定)においても、「復興の加 速」を第一番目に取り上げていることなどから、被災 3 県を中心とする震災復興需要を経済の下 支え役としながら、引き続き、東北経済は一定の景気水準を維持していくのではないかと思わ れる。 なお、被災地域で大幅に増加している公共工事は、現在、人手・資材不足、建設費の高騰、 入札不調といった問題を生じさせているものの、今後、復興作業の加速化とともに、防潮堤の 整備、沈下した地盤の嵩上げ、復興公営住宅の建設や住民集団移転等のコミュニティーの復興 のための事業等が進展することが計画されており、引き続き、これらの動きを注視して参りた い。 (備考) 1.東京商工リサーチ東北支社等の調査(24 年 10 月)によれば、宮城県、岩手県及び福島県の建設業者につ いて震災前後の業績を比較分析したところ、震災後復興需要の影響により、宮城県では売上高上位 100 社中増収増益が約 60%となる等の震災後の業績が大幅に好転している。 2.復興庁ホームページ等によれば、応急仮設住宅では、約 11 万人の被災者が暮らしている(24 年 10 月 1 日現在 居住期間原則 3 年間まで)。こうした状況を受け、被災各自治体では、合計 20,000 戸以上(宮城 県:約 15,000 戸、岩手県:約 5,600 戸、福島県:未定)の災害公営住宅の整備事業(最終 27 年度までの整備 完了を目途)を進めている。 例えば、仙台市では、24 年 9 月より、被災者用の復興公営住宅約 3,000 戸のうち民間企業が整備する住 宅約 1,400 戸を購入する公募買取事業をスタートさせた。これにより、市内遊休不動産が活用されると の指摘もある。また、仙台中心部のマンションでは、 「マンション売りませんか」との勧誘チラシが毎日 頻繁に投函される状況であったり、著者の宿舎の近隣でも、景気低迷により震災まで凍結されていたマ ンション建設が 24 年夏以降急ピッチで進められるなど仙台を中心として住宅需要は依然として強い。 (図表 6) ② 租税滞納状況 滞納状況については、例年であれば、新規滞納の発生がある一方、徴収担当職員の地道な滞納 整理事務により、事務年度末の滞納残高が減少しているケースが多い。 40 ファイナンス しかしながら、23 事務年度は、管内の納税者 平成 25 年 2 月号 (図表 7) の震災による被災や財産の状況の把握を行い、 全税目の租税滞納状況 滞納者に対し状況に応じて納税の猶予等の納税 緩和制度等を説明し、相談を受ける事務を優先 して取り組んだ結果、滞納整理額が新規発生滞 納額を大幅に下回り、滞納残高は、22 年度に比 べ、全ての税目で約 43 億円(対前年比 110.4%) の増加となった(図表 7)。 新規発生滞納額については、納付期限の延長 措置がとられたため、震災が発生していなけれ ば 22 年度に計上されているはずのものも 23 年 度に含まれている可能性はあるが、大きな増加 は見られず、実額として、23 年度は前年とほぼ 同様となっている。 これについて、地域的に見ると、岩手県、宮 城県及び福島県の被災3県の方が、それ以外の 3県よりも、新規発生滞納割合(徴収決定済額 に対する新規発生滞納額)が低くなっている。 これは、震災により課税額の発生しない被災事業者がある一方で、震災関連需要の高まりや保険金 等による資金が手元にあり、当面新規滞納の発生の減少となっているのではないかと考えられる (図表 8)。 しかしながら、このような状況は、一時的な現象とも考えられ、今後とも、被災された納税者の 置かれた立場、心情等に配意しつつ、滞納の未然防止とともに、納税の猶予の延長の確認事務や滞 納整理事務に適切に対応していく必要がある。 (図表 8) (備考) 「東北地区主要金融経済指標」 (日本銀行仙台支店) によれば、東北の金融機関の流動性預金等残高は、23 年度は、6 月以降ほぼ対前年同月比 10%増で推移した (図表 9)。被災地の金融機関の預金残高の増加率はさ らに高い状況にある。 (図表 9) 41 ファイナンス 平成 25 年 2 月号 ③ 清酒出荷状況等 イ.清酒出荷状況 震災直後は、東北の清酒出荷量は前年比で 2 割程度落ち込んだほか、被災者の心情を考慮し て飲酒に対する自粛ムードが一時期広がった。これを懸念した一部蔵元がネットの動画サイト を活用し「東北の酒を飲んで復興の支援をしてほしい」と呼びかけたところ、翌 4 月から岩手、 宮城を中心に清酒の出荷が増加に転じ、23 年度の東北の清酒出荷量は 16 年ぶりにプラスとなっ た。24 年 4 月以降は、前年の出荷数量には及ばないものの、宮城県を中心に一昨年の数量より 伸びている状況が続いている。なお、福島県は、一昨年に比べてもおよそ 5%程度減少しており、 。 今後の出荷状況について、注視する必要がある(図表 10) ロ.復興の状況 被災した酒類業者の復興を支援するため、グループ補助金制度や酒税の軽減制度が活用され た。このうちグループ補助金については、清酒業界では岩手、宮城、福島県の酒造組合グルー プ(70 事業者)が認定され、復興に向けた蔵の改修などが進められている。24 年 8 月末段階で は、6 割程度まで補助金の手続が終了しているが、建設工事業者の逼迫から損壊した建物の取り 壊しの順番待ちや地域の復興計画の遅れなどにより、思うように復興が進んでいない業者もお り、当局としてもヒアリングを継続しながら支援を行っていきたいと考えている。 ハ.最近の業界の課題 冬季の今、まさに清酒の製造時期を迎えているが、今期の酒造りには加工米不足や米価高騰 が大きな問題として立ちはだかっている。背景には、津波被害による被災地での加工米の作付 けの減少、農家の手取りの高い飼料米への鞍替えや環境整備米制度の廃止などが挙げられてい る。代替措置として一般米や政府備蓄米からの調達により何とか対応している模様であるが、 製品価格の問題はぬぐいきれていないようだ。清酒メーカーは昨年来各種資材や原料アルコー ルの高騰に見舞われており、一層のコストアップが経営に大きな打撃を与え、品質への影響の ほか、出荷数量が伸びない中で価格転嫁の可能性を検討する動きがあるなど、業界の動向を見 守っていく必要がある。 また、福島県では、食品の安全性を確保するため、県内で生産された全ての米を対象に放射 性物質についての全量全袋検査を実施していることから、酒造好適米の入荷の遅れも懸念され ており、消費の最盛期に影響が出ないことを願いたい。 (図表 10) ※ 速報値である。 3.おわりに 復興予算や民間マネーにより、税務統計上は、徐々に管内の情勢は好転しつつあるものと思われるが、 宮城県震災復興計画では、復興を達成するまでの期間として 10 年を見ており、これから復興事業が本 42 ファイナンス 平成 25 年 2 月号 格化していく段階であると考えられる。 また、先般の緊急経済対策は、復興に向けた課題にも取り組むものでもあり、こうした対策の着実な実 施により、被災地の復興の加速化が望まれるところである。 このような状況の下、被災者が、本当に粘り強く生活再建、事業再建に向けて一歩でも前進させよう と懸命な努力をされている姿を拝見する。所管行政の分野で見れば、被災された酒造会社は、地元の希 望の灯りをともし復興の先駆けとなるよう、新酒造りに励んでいる。震災後初めて製造された酒類を審 査した清酒鑑評会の出品酒類について、その多くが東北の高い製造技術、品質を維持し、東北の伝統的 な酒造りを守っていただいたと認識している。こうした努力が評価されたからと思うが、昨年 10 月に 仙台市で開催された IMF・世銀年次総会仙台会合のレセプションでは、東北の被災地の清酒が振る舞わ れた。関係者の地道な努力に対して、深く敬意を表したい。 この冬、仙台局は、震災後 2 回目の確定申告期を迎える。被災者の多くの方から、23 年分確定申告期 に、雑損控除の適用等震災関連の申告相談や申告書の提出をいただいたが、2 年目においても、地域に よっては未申告の方や、沿岸部では住宅、家財等の損失額が 1 年間の所得を大きく上回るため繰越損失 が発生する方からの多くの申告相談、申告書の提出が予想される。今回も、被災地署の申告相談体制に 万全を期すため、国税庁より全面的な支援をいただくこととなった。職員一丸となって、被災者の心情 等に配意しつつ、広報、相談、指導等の的確な納税者サービスを実施し、地域の復興を後押したいと考 えている(文中、意見、感想にわたる部分は、個人としての見解である)。 43 ファイナンス 平成 25 年 6 月号 東日本大震災後 2 回目の確定申告を振り返って (今世紀最強クラスの寒波の下での東北の確定申告風景) 1.はじめに 東日本大震災後 2 回目となった仙台国税局の平成 24 年分確定申告は、被害が甚大であった地域にお いて、雑損控除の繰越損失適用者を中心に、前年と同様、多くの所得税の確定申告書の提出がなされ た。特に印象に残ったことを 2 点挙げれば、閉庁日対応の 2 月 24 日は、折からの今世紀最強クラスと も言われた寒波の到来とも重なり、日本海側の地吹雪のみならず太平洋側の仙台市や石巻市でも風雪 注意報が出て、納税者の出足が懸念されたが、納税者は朝から確定申告書作成会場に足を運び、それ までの平日を大きく上回る申告書の作成や提出がなされたこと、また、震災の追悼式典が各地で挙行 された 3 月 11 日は静かに推移するのではないかと考えていたが、月曜日でもあったせいか予想に反し て確定申告期間中最大の来署人員となったことである。 今回も被災された納税者対応に万全を期すため、国税庁及び関係局からの支援をいただき、大きな 混乱もなく無事乗り切ることができた。24 年分の確定申告の状況と、被災納税者への対応を含め仙台 国税局の局署の各種の取組を簡単に紹介したい。また、財務省から国税調査官として仙台局に出向し 石巻署での応援事務に従事した加塩雄斗君、澤田多実子さん、長久善彦君の 3 名のレポートも紹介す る。 2.24 年分確定申告の状況と今後の課題 (1)準備段階での検討課題 被災地では、宮城県、岩手県において、がれきの撤去作業は概ね目処がつきつつあるが、25 年 3 月 現在、震災や東京電力福島第一原発事故による避難者は全体で約 31.3 万人(24 年 3 月 34.4 万人)にも 上り、その多くが岩手県、宮城県及び福島県の被災者等である。これらの被災者は、依然として仮設 住宅等での生活が続いている*1。今回の確定申告期を迎えるに際し、仙台局では、引き続き、被災者 の置かれた立場や心情に配意しつつ職員一丸となって対応することとし、確定申告期における納税者 対応を円滑に行うためには、申告相談等の事務量を的確に見積った上で、申告相談体制の整備と事務 の平準化のための施策を実施して行くことが求められた。 *1) 岩手県、宮城県及び福島県の3県の県外避難者合計は、25 年 3 月現在 6.6 万人(24 年 3 月 7.3 万人)であり、 その中でも福島県が 5.7 万人と大宗を占める。 ① 23 年分の申告状況から想定される申告相談体制の準備 (基本的考え方) <図1 被災地県別の申告相談済件数等> 震災により住宅や家財に損失を受けた納 税者に対しては、23 年分の確定申告期までに、 申告案内や積極的な広報等を通して雑損控 95.3% 宮城県 除や納税緩和制度の周知に努め、多くの被災 者から所得税に係る雑損控除等の震災関連 78.5% 福島県 の申告相談を受けた。全半壊以上の建築物件 数 33.4 万件に比し、申告相談を了した件数 44 数字は建物全半壊 等件数に対する申 告相談件数の割合 (注)1 10 20 30 40(万件) 申告相談済件数は H23.3.27 から H24.3 月末までの計数 2 建物被害件数は H23.12 の計数(各県及び消防庁調べ) 0 当しているが、課題として、原発事故による 建物全半壊等件数 93.6% 3県合計 31.3 万件は、被災3県全体では約 94%に相 申告相談済件数 126.2% 岩手県 ファイナンス 平成 25 年 6 月号 避難生活が続いていること、家屋の修理が終了していないこと等により雑損控除の申告相談が低調 な地域もあることも踏まえつつ、対応する必要があった(図1)。 このような状況の下、24 年分確定申告期では被災地署において、 イ.損失額が大きいために、23 年分では引き切れなかった損失の繰越控除を受ける方(繰越 損失適用者) ロ.納税者の被災の個別事情により手続が遅れ震災後初めての申告相談を行う方 ハ.既に雑損控除の申告をされている方で、住宅等の修繕をし、その費用が当初の損失額を上 回るため相談を行う方 について、それぞれ見込む必要があり、特に、イ. <図2 応援体制のイメージ> の前提となる雑損控除等の申告等の手続をされた 方は、23 年 12 月末までに約 11.4 万人、23 年分確 定申告期に約 13.3 万人、合計で約 24.7 万人とな っており、今回は、この類型の納税者からの申告 相談等が多くあるものと見込んだ。 なお、繰越損失適用者への申告相談については、 医療費控除の還付申告と同様、申告書作成会場の 作成コーナー用パソコンでも十分対応できるため、 初めての雑損控除の申告相談に要するほどの事務 量を見込む必要はないが、依然として、震災前の 2~3倍の申告相談が見込まれる署もあることか ら、特定の署及び職員に過重な負担が掛かること のないよう、職員の派遣等必要な支援体制を組む こととした。職員派遣に当たっては、小規模署に おいては、統括官の業務が、日々の申告書作成会 場の運営、事務の改善、申告書審査事務などの内 部事務管理等と多岐にわたるため、事務運営面を 補強するための職員も派遣することとした。 ② 各種の施策 (申告相談開始日の前倒しと申告相談体制の充実) 宮古署、釜石署、大船渡署、気仙沼署及び石巻署等の三陸沿岸部の被災地署は、例年以上の多く の申告相談が見込まれ、申告書作成会場のキャパシティーにも限りがあることから、混雑緩和のた め、大口源泉徴収義務者に対して源泉徴収票の早期発行を要請するとともに、申告相談開始日を前 倒しし1月下旬からスタートさせ、繰越損失適用者に対しては期間を指定した早期の申告書作成を 促す案内を実施することとした。併せて、相談事務等の支援策として、仙台局内の税務職員による 応援体制を組むこととした*2。 さらに、仙台市内3署、石巻署及びいわき署など被災地署であり、かつ納税者数が特に多い署で は、3月に入ってからのピーク時に仙台局職員のみでは円滑な申告相談の実施が困難な状況が想定 されたことから、今回も全庁的支援をお願いし、東京国税局、関東信越国税局の職員の派遣を受け、 申告相談体制に万全を期すこととした。 閉庁日対応(2 月 24 日、3 月 3 日)を実施する署については、宮城県においては、前回同様、被害 45 ファイナンス 平成 25 年 6 月号 が甚大であり、かつ、会社員等の給与所得者が多く繰越損失適用者が多く見込まれる仙台市内3署 の2つの署外合同会場と石巻署とした*3。 *2) 応援者派遣体制としては、被災地署 16 署(宮古、大船渡、釜石、仙台北、仙台中、仙台南、石巻、塩釜、古 川、気仙沼、大河原、いわき、白河、須賀川、相馬、二本松)を選定し、応援元としては、国税局及び管内 16 税務署から職員派遣を実施。派遣期間は、1 月 21 日から 3 月 29 日までの期間。ピーク時の 3 月 4 日からの2週 間は、全庁的支援の下、東京局、関信局の応援も含む約 160 名(内東京局 30 名、関信局 10 名)の応援体制と した。この職員派遣のほか、仙台局の電話相談事務について、東京局、札幌局及び金沢局から支援を受けるこ ととなった。 *3) 仙台市内 3 署の申告書作成会場は、昨年は、被災者は各税務署、一般の納税者は合同署外会場(1 箇所)で の申告相談を実施したが、今回は、仙台市内の青葉区と太白区に、3 署合同の署外会場を 2 箇所設置し、全ての 納税者の申告相談を受ける体制とした。市内南部に位置する太白区に会場を開設したのは、多数の申告相談件 数が見込まれたほか仙台平野の南部も津波被害が甚大な地域があり被災者に配意したことによるものである。 <石巻署の震災関連相談> <アズテックミュージアム仙台合同会場> (広報、繰越損失適用者に対するICTを利用した申告の推進) 被災地署とそれ以外の署では、申告書作成会場の開設期間が異なること、特に被災地署において は、混雑緩和のため早期の申告手続をお願いする広報に主眼を置くこととした。今回も局主導によ り、仙台局の取組について 1 月中旬に記者発表するとともに、被災地署の署長も独自に地元紙に働 きかけることとした。 また、繰越損失に係る申告手続は、国税庁ホームページの「確定申告書等作成コーナー」の利用 になじむことから、e-Tax の利用や郵送等による提出(ICTの利用)も呼び掛けるとともに、被災 した給与所得者の方向けに、「所得税の確定申告書入力例〈雑損失の繰越控除用〉」と題するマニュ アルを作成し、官公庁や企業などの大口源泉徴収義務者へ配布することとした。 (被災自治体への職員派遣、相談協力) <岩手県大槌町の仮設集会所での出張相談> 前回は、地方税当局も被災や復旧・復興事務への注 力により、確定申告期において震災前と同様の協力を 得ることは困難な状況にあったが、今回は、多くの自 治体において、震災前並に各支所等の相談会場で国税 の申告相談も可能であるとの回答を得ていた。そうし た中で、被害が甚大であった市町村(陸前高田市、大 槌町、南三陸町、石巻市、女川町、東松島市及び亘理 町等)では、税務課職員の被災が甚大であったり、避 46 ファイナンス 平成 25 年 6 月号 難先の仮設住宅から税務署へ申告に赴くには時間がかかるといった事情を抱えていたことから、こ れらの市町村には、税務職員を派遣し、各支所等における申告相談に対し協力支援体制をとること とした。 (税理士会等関係団体との協調) 東北税理士会は、被災者支援のため、2 月 2 日から 3 月 3 日までの土日合計 10 日間、東北税理士 会館において無料相談事業を実施することを決定していただいた(2 月 23 日、24 日は日本税理士会 連合会との共催の事業として実施) 。 (2)確定申告の状況と評価 ① 確定申告書の提出状況 <図3 所得税の確定申告書提出状況の推移> (単位:万件) 仙台局管内の平成 24 年分の確定申告書の 21年分 提出件数は、25 年 3 月末日現在約 158.5 万 件であり、前年分より、3.4 万件(2.1%) の減少となった。減少した要因としては、公 的年金等の収入金額が 400 万円以下の場合 申告不要であることの浸透や昨年申告され た方の中には平成 24 年分に繰越損失が発生 しない納税者もいたためと考えられる。 こうした状況の下で、被災地署では、平 成 24 年分の申告相談件数は、前年よりは若 干減少したものの、平成 21 年分に比べ 140%を超える状況となった。特に、震災前 申告納税額 (95.2) のあるもの 48.0 (99.4) 還付申告 98.0 (103.0) 上記以外 26.0 (98.7) 合 計 172.0 22年分 23年分 24年分 (86.9) 41.7 (91.5) 89.7 (88.6) 23.0 (89.8) 154.4 (90.4) 37.7 (112.0) 100.4 (103.4) 23.8 (104.9) 161.9 (111.3) 41.9 (94.6) 94.9 (90.8) 21.6 (97.9) 158.5 (注)1 いずれも翌年3月末日までに所得税の確定申告書を提出した人員。 2 かっこ書は、対前年比(%) 。 <図4 被災地署における確定申告期申告相談の状況> (23・24 年分の比較) 所得税申告件数〈署相談分〉(件) 45,000 と比較して申告相談が多い署は、図4のと おりであり、津波被害が甚大であった石巻 署では、21 年分比 300%、宮古署、大船渡 23年分 40,000 24年分 35,000 仙台北 署でも同 250%を超えている。また、人口が 最も多い仙台市内 3 署でも、総じて同 100% 30,000 を超えている状況にある。 25,000 仙台南 なお、雑損控除等の申告件数は、今回の 確定申告期を終えて、24 年 3 月末までの約 20,000 24.7 万件を含め約 27 万件となった。 15,000 ② 分析 (被災地署は総じて前倒しの状況) 石巻 いわき 仙台中 10,000 塩釜 気仙沼 5,000 相馬 大船渡 釜石 1 月下旬からの被災地署申告書作成会場 0 100 における申告相談のスタートのほか、仙台 市内 3 署では、一般の確定申告をされる方 150 200 宮古 250 300 350 申告件数対 21 年比〈%〉 に先駆けて、被災者を対象とした申告相談を開催した。広報施策も奏功し、その結果、前年と同様、 2 月中旬までに例年以上の申告書の作成、提出がなされたことにより、相談事務の平準化につながり、 期間終盤に懸念された大きな混雑は見られなかった(図5)。3 月 15 日を過ぎての期限後申告*4 も、 前回に比べ落ち着いていたようである。 47 ファイナンス 平成 25 年 6 月号 また、東北税理士会による無料税務相談も、悪天候の日もあったにもかかわらず、前年同様多く の納税者からの申告相談を受けたと聞いており、このような社会貢献事業には改めて深く敬意を表 したい。 *4) <図5 災害等の理由により期限までに申告できない場合は、申請により申告・納付の期限が延長される。 被災地署における 1 日当たりの申告相談件数の推移> 10,000 H21申告相談件数 H23申告相談件数 8,000 H24申告相談件数 6,000 4,000 2,000 0 1/4 1/23 2/1 2/16 3/15 4/1 (震災関連相談の内容が多岐にわたる) 仙台市内やその周辺地域である大河原署(宮城県村田町等を管轄し亘理町等に隣接)、佐沼署(宮 城県登米市等を管轄し石巻市や南三陸町に隣接)等において、震災後被災者の住宅取得や不動産取 引が活発化しており、住宅の再取得等に係る住宅ローン控除の特例や土地の譲渡に関する申告相談 が数多く見られた。被害が甚大である自治体からは、被災地署に対し土地収用等に関する税の取扱 いについての照会がなされており、今後、被災者からも土地の譲渡に関する照会や申告相談の増加 が見込まれる。 (職員間のコミュニケーションも十分) 被災地署に応援、支援で派遣された職員が、的確にその地での納税者対応ができるか否かは、そ の署の会場運営者とのコミュニケーションが十分できているかにかかっている。その意味で、各署 ともミーティングや反省会を適宜開催し、その地の被災された納税者の状況やこれまでの事務の取 扱いでの注意事項をよく理解してもらうことが出来、派遣された職員が即戦力となった。また、東 京局、関信局の支援者は、前年に引き続き派遣された経験者や事務精通者であり、個別相談コーナ ー、事前準備(集計)コーナー、申告書作成コーナーとその日の状況に応じて事務配置にも柔軟に 対応していただくとともに、これらの職員からも改善が必要な事項について意見をいただいた。 さらに、普通科採用 1 年目でこの 4 月から税務署配属となった研修生 14 名にも、仙台局職員であ る以上若いうちに被災地署での研修を通じて納税者と向き合って欲しいとの考えから、石巻署での パソコン操作補助に 3 日間従事してもらった。反省会では、当初は被災地で納税者にどう接すれば いいのか大きな不安があったようだが、被災時の話をされるものの笑顔で話す方も多く、逆に勇気 づけられたとか、安心につながったとの感想が出たようだ。自分で答えられない質問は、先輩職員 が対応したが、その説明振りや納税者対応など多くのことを学んだとのことである。 ここで、財務省から出向していた 3 名の若手職員が石巻署で多くの被災者に直に接して感じたこ とをレポートして紹介する。 48 ファイナンス 平成 25 年 6 月号 「石巻からの宿題」と題するレポート (平成 25 年 3 月 加塩雄斗、澤田多実子、長久善彦) 今年の確定申告期の一ヶ月間、本省から仙台国税局へ出向中の私たちは、石巻税務署の支援に参加 しました。石巻税務署へ申告に訪れる納税者の大半は東日本大震災の被災者であり、震災特例法に基 づき、被災損失額に応じた雑損控除の適用を受けています。漁を再開するために津波で流された漁具 を買いそろえる漁師さん、店舗を修理する小売店主など、事業や生活の再建途上にある被災者にとっ て、税の減免が自助努力で再出発するための後押しとなっていることを実感しました。一方、仮設住 宅で年金生活をしているお年寄りなどにとっては、そもそも納税額が発生しない場合がほとんどであ るため、税の減免措置は意味を持ちません。混雑した申告会場を訪れたお年寄りが、還付がないと知 ってがっかりされるのを見ると、制度の趣旨が周知されていないという問題点を感じるとともに、税 制による被災者支援の限界を痛感しました。 申告手続の最中、被災者の方は色んな話をされます。被災直後の石巻の様子や津波の恐ろしさ、復 興途上にある町の様子など。しかし、本当に辛いのはまだ悲しみを吐き出せずにいる被災者かもしれ ません。それを実感させられる出来事がありました。ある納税者が 3 年分の確定申告に訪れたときの こと、職員が申告手続を進める間、その方はただ黙ってニコニコと眺めていました。しかし 3 年分の 源泉徴収票を並べてみると、扶養親族として記載されていた奥様と二人のお子さんの名前が震災後の 源泉徴収票には載っていないのです。一見穏やかに見えるその納税者がどれほどの悲しみを抱えてい るのだろうと思うと、かける言葉が見つかりませんでした。 被災者と一口に言っても本当に千差万別です。被災状況も再建状況も異なる被災者の方がみな、着 実に前に進んでいくために、税制面に加え、国や地方自治体からの補助、あるいは NPO からの支援な ど、様々な性格を持つ政策をパッケージで展開することが行政には求められています。しかし同時に、 行政が提供できる政策や制度では対処できない、被災者の深い喪失感があることも痛感しました。そ れは、石巻から行政の意義と限界を突きつけられるようなものでした。私たちはこれからも、本当の 意味での被災者の再建とは何かについて考え続けていきたいと思います。 (被災自治体への協力、被害甚大地域への配慮) 被害が甚大であった市町村に対しては、チームを編成して税務職員を派遣し、地方税当局の各支 所、公民館等において繰越損失等の相談事務に従事してもらった。派遣された職員からは、 「被災者 は主に漁業や農業に従事しており、震災からの生活の再建、復興に前向きな話をされる方が多かっ た一方、担当する市町村の税務課職員が津波被害にあったため 2 年経過しても当該自治体職員のみ では確定申告時に対応できず、全国の市町村等から派遣された職員の支援を受けて申告相談体制を とる所が多かった。」との話を伺った。被害が甚大であった地方税当局については、行政共助の観点 から引き続きその協力関係に配慮していく必要があると考える。 (東電福島第一原発事故避難地域からの申告も増加) 相馬署、福島署及び郡山署の一部の地域では、国税の申告・納付期限の延長措置が継続した状況 にあるが、還付申告や自主的な申告相談に対応するため、避難先の最寄りの税務署でも申告相談を 受け付ける体制をとった。多くの避難指示区域を管轄する相馬署では、管内人口 19.5 万人に対し、 南相馬市等平成 25 年 3 月末現在管内に居住する人口は約 9.5 万人で、1 年前に比較し約 4 千人の増 加となっている。 49 ファイナンス 平成 25 年 6 月号 これらの地域に住民登録のある納税者から自主的になされた確定申告件数は、前年よりも増加し ている。これは、繰越損失による還付申告のほか、市町村が住民税の申告相談体制をとれる環境に なってきたことや東電に対する原発賠償金請求が進んできていることによるものと考えている。 ③ 評価 被災された納税者の申告相談は、前回は被災、被害の状況の確認から始まったが、今回は、繰越 損失適用者が多く、震災前の生活への回復にはまだ途上段階にあるが、未来に向かって歩み始めて いる前向きな姿が見られるなど比較的落ち着いてきているのではないかとの印象を受けた。 石巻署は、1 年前は申告期限が 4 月 2 日 <図6 被災3県における指導機関別申告相談割合の推移> まで延長されていたのに対し、今回は通常 の 3 月 15 日までであり、10 日ほど期間が 21年分 短縮された形であるため、署が混雑しない 署相談 か大いに心配したが、このような署を含め、 地方団体 関係団体 23年分 各署において、職員の丁寧かつ真摯な仕事 税理士関与 振りとともに、事務運営面で改善すべき点 指導機関なし について職員の意見を吸い上げて改善し 24年分 ていくという現場力の発揮により、確定申 告期間中大きな混雑もなく申告相談体制 0% に応じて安定的に申告書の作成、提出がな 20% 40% 60% 80% 100% (注)岩手県、宮城県及び福島県における 3 月末時点の所得税 確定申告書提出件数を基に作成。 されたことが、一番の成果であると思う。 指導機関別に見ても、被災3県では、税 務署の申告相談のウエイトが昨年よりも低下する一方で、税務署以外の指導機関(地方団体、関係 団体、税理士等)による申告相談のウエイトが増加した(図6)。e-Tax や国税庁 HP 等 ICT を利用し た申告も増加しており、徐々にではあるが震災前の姿に戻りつつあると考える(図7)。また、還付 金処理の事務等についても順調に推移した。 今後は、被災者の状況に配意しつつ、国税庁全体で取り組んでいる確定申告事務の効率化や効果 的な取組にもチャレンジして行く必要があると考える。 <図7 ICT を利用した所得税申告書の提出人員> ICT提出人員 対20年分比139% 提出人員(単位:千人) 687 700 600 500 560 42.4% 43.4% 40% 《税務署でのICT利用》 36.0% 32.6% 400 50% ICT利用人員/確定申告人員 556 495 688 利用割合 署ハ ゚ソコン・書面 30% 署ハ ゚ソコン・e-Tax 28.4% 300 20%《自宅等でのICT利用》 HP作成コーナー・書面 200 10% HP作成コーナー・e-Tax 100 各種ソフト・e-Tax 0% 0 20年分 21年分 22年分 23年分 24年分 50 ファイナンス 平成 25 年 6 月号 (3)今後の課題 東日本大震災に係る繰越損失は、繰越控除の期間が 5 年間認められている。 今後の課題としては、25 年分の確定申告に向けて、繰越損失適用者の状況を含む 24 年分の申告 状況を精査しつつ、申告相談体制を検討していく必要があると考える。その際、今回の申告では、 震災特例法に基づき雑損控除等の申告をした方が、その後、就業困難、事業の廃業等により、所得 を得ることが難しく、申告案内対象となった繰越損失適用者が 100%申告手続を済ませたとは判断で きないといった状況も踏まえつつ、来年以降も、被災者の就業状況等に留意しながら検討していく 必要があると考える。 また、雑損控除の未申告や災害関連支出の相談については、当初考えたほど多くの相談は見られ なかった。自宅の新築、補修等のための被災者生活再建支援金の加算支援金の申請件数が低調な地 域があるように、再建、補修が思うように進んでいないことや原発事故による避難状態が続いてい ることも一つの要因であると考えている。 他方、今後、土地区画整理事業や防災集団移転事業の本格化等復興の進展に伴い、被災地の土地 の譲渡に関する照会や申告相談の増加も考える必要がある。 相馬署等の一部の地域では、現在もなお、国税の申告・納付期限の延長措置が継続している状況 にあるが、ほとんどの市町村において避難指示区域の再編が実施され、除染作業や復興に向けての 取組や東電の財物補償も含め損害賠償金の支払も本格化してきており、関係市町村と連携を図りつ つ、避難者からの照会や質問等に適切に対応していく必要がある。 3.雪国での確定申告 東北 6 県各地とも、25 年 2 月末時点で軒並み積雪量は観測史上最大となる様相を呈した。青森県の 酸ヶ湯温泉では、566cm と国内積雪最高値を記録し、平地の弘前市でも、平年の 2.5 倍の 150cm を越え 最大の積雪となった。税務署や署外申告書作成会場は雪に埋れがちになりそうだが、納税者対応とし て、安全に来署できる環境を整えることから朝はスタートする。このような雪国での税務署の確定申 告風景を簡潔に伝えてみたい。 (1)雪国ならではの取組 (地方税当局等との一層の連携) 仙台市等一部の地域を除き、東北6県 52 署中その多くが、比較的降雪量の多い地域に所在してお り、管内の関係市町村は、平成の大合併後でも標準的な姿として3から5つの自治体を抱えている。 確定申告期になると、国、県及び市町村の三つの税務当局の協力連携の下、地方税当局に対し臨時 に国税の確定申告書の作成、相談を許可するいわゆる臨税により、合併前の旧市町村単位に設けた 支所等の会場で、住民税の申告と同時に国税の申告書作成等に対応していただいている。署によっ ては、自署での申告相談が申告書提出件数の2割以下であるのに対し、地方税当局相談分が4割を 超えるところもある。この他、青色申告会及び商工会等の指導機関や税理士会に負うところも大で ある。これらの関係団体には、会員への指導の際、e-Tax の利用等を強く推奨するよう要請している。 内部事務の平準化も、このような署の課題である。申告書の多くは、市町村から回付されて来る ため、申告書の受付、還付処理等の内部事務について、計画的に処理できるよう、予め地方税当局 と回付の頻度や曜日の調整を図っている。 51 ファイナンス 平成 25 年 6 月号 (挙署一体体制で乗り切る) 連日大雪に見舞われることもあり、都市部の税務署と違って、朝一番から納税者が多数来署し、 税務署がごったがえす様子はあまり見られない。申告の前に、自宅等の雪かきを終え、10 時頃から 税務署に出向く傾向にあるそうだ。震災前は、最繁忙期には、このような署(職員数は 15 名から 20 名程度)に対しても、局からの応援を出していたが、震災後はそのような余裕がないことから、相 談要員が足りない場合には、正に、事務系統にかかわりなく挙署一体体制で乗り切っていただいた。 (2)職員の苦労 納税者の来署は、朝一番からはさほど多くないにしても、降雪があった場合には、駐車場や一般 道との連絡部分について、雪かきが必要となる。多くの署では、除雪業者と契約しているが、今冬 のように、短時間に大雪が降ったり、除雪車が手一杯で回って来ないような場合には、業者だけの 対応では十分でなく、職員も雪かきに協力して対応していただいた。 また、各署でのこの時期の一番の心配事は、職員が自家用車での通勤の際、地吹雪に遭遇しない か、朝夕の路面凍結により、事故に巻き込まれないかであるそうだ。職員には、いつもよりも安全 運転を心がけるよう指導しているが、この時期の通勤には本当に気を使っていただいている。 <新庄署の雪山> <横手署の雪かき風景> 4.おわりに 震災後 2 年目の事務運営として、24 年内は納税者のコンプライアンス維持のための調査、徴収上の 課題に取り組むとともに、確定申告の準備を進めることとした。申告相談のための局内の応援、全庁 的支援は一年振りの施策であったが、職員の理解と協力の下、前回からの改善事項も織り込みながら、 円滑な申告相談や申告書の事務処理を行うことが出来た。これも被災地の復興のために、被災地での 申告書作成会場の運営を実施した署、被災自治体への職員派遣、応援職員を送り出した署、そして局 の後方支援部隊、それぞれの苦労は様々ではあるが、今回も心をひとつにして国税組織として職員全 員が全力を尽くしていただいたお陰だと考えている。 石巻、仙台平野等の被災地において、復興公営住宅の整備や生活インフラの基盤整備が本格化し、 復興の槌音が徐々に大きくなって来ているような感じがする。また、24 年分確定申告では、被災 3 県 の所得税額は復興需要の高まり等により、震災前に比べ 20%を超える増加となった。 今後の課題は、被災者一人ひとりがどのような形で生活再建に向けて歩んでいくのか、行政として 復興過程において何が出来るのかをきちんと把握していく必要があると思う。東北経済産業局の見方 52 ファイナンス 平成 25 年 6 月号 にあるように、被災地では、地域により復興速度差が広がり、直面する課題は複雑化・多様化してい るように感じる。復興需要の恩恵を受けている方がいる一方で、今もなお事業再開の目処がつけられ ない、事業を再開したが販路が回復しない、自分に合った仕事が見出せない、元の場所に戻れない等 の苦悩が続いている方も多い。震災後、時が経過するにつれ、被災地の模様を正確に伝えることが難 しくなりつつある。引き続き、被災地の動向を注視していきたい(文中、意見、感想にわたる部分は、 個人としての見解である)。 53 ファイナンス 平成 25 年 6 月号 被災地視察報告(25 年 4 月) (宮城県県北の沿岸部) 宮城県気仙沼市から南三陸町を経て、女川町、石巻市、東松島市野蒜地区を回った。これらの地区で は、護岸工事、河川復旧工事、道路復旧工事、嵩上げ工事、農地除塩作業、災害公営住宅の建設、防災 集団移転事業のための土地区画整理事業等至る所で、公共工事がフル稼働の状態で実施されている。こ のため、2 年あまりの間で、幹線道路では、大型ダンプやミキサー車の往来、重機のリース会社、土木 作業員のための簡易宿泊施設、簡易な復興店舗(コンビニ、簡単な飲食店等)、採石場への出入りが一 番多くなってきているように感じた。また、自力で住宅の補修や新築をしようとする姿も目につくよう になってきた。 マスコミ的には、復興が遅れているとの報道があるが、これ以上、大型ダンプ(東北 6 県以外に北海 道、神奈川県、滋賀県等のナンバー有り)や重機を動員できるのかという感じである。平日なのに、盛 り土作業場で重機のみが稼働せずに置いてある所が多々あるように見受けられた。重機操作者のやりく りがついていないのかもしれない。進みだした復興に制約があるとすれば、自治体の意見集約・土地の 権利関係の確認の他に、土木作業員の確保が困難であることが大きな要因ではないかと考える。 石巻地区の有効求人倍率は、25 年 4 月現在 1.50(気仙沼地区は 1.34)と引き続き高水準を維持して いる。道中、県の業務委託を受けた事業者からの石巻・女川地区の求人のチラシを見た。それによれば、 土木関係作業、大型ダンプ、トレーラー等運転手、水産加工作業員、料飲店従業員、販売スタッフ、サ ービス一般、介護・看護職員が募集されている。水産加工業者の呼びかけは、「新工場が夏オープン予 定、復興に向けて頑張る」、 「震災より再生し地域とともに再興を目指す」、 「あなたのその手が必要」等 となっていた。 また、幹線道路沿いから半島や岬の方に入っていく道路について、ようやく補修工事が始まっている のは、工事の需給関係のバランスが崩れていることも要因であろう。他方、海を見ると養殖やワカメ漁 も回復しつつあるように見えた。 〈女川町の嵩上げのための準備工事〉 〈石巻河南 IC 近くの大規模な土地区画整理事業〉 54 ファイナンス 平成 25 年 6 月号 (福島県南相馬市、相双地区等) 南相馬市は、市の南部の小高区を中心として避難指示解除準備区域や居住制限区域等を抱えている。 人口も震災前は、7.1 万人であったが、25 年 4 月末現在 6.4 万人(うち市内に居住しているのは 4.6 万人)であり、その一部は、就学児童を抱える世帯を中心に今もなお市外避難が続いている。小高区で は、がれきの撤去、除染作業、農地の除塩作業とともに、随所で住民帰還のための電気工事、上下水道 工事、道路補修工事が続いている(25 年 3 月末での上水道の復旧率は 38%)。 区役所や郵便局、信用金庫の店舗も、昼間自宅等の整理のために一時帰宅している住民サービスのた め、4 月以降業務を再開している。住民の動きとしては、一時帰宅した者が犬の散歩をするなどの光景 が見られるようになった一方で、全体的には、人影はまだ少ないように思われる。 川俣町から、田村市都路地区、川内村にかけては、自治体等の除染作業の進捗にもよるが、徐々に、 山間の斜面、農地等の除染作業に重点が移っているように見える。避難指示区域の再編が 24 年 4 月に 実施された川内村では、一年前に比べ、コンビニ等生活面での店舗や人通りも目に付くようになってき た。 福島第一原発に近い富岡町、浪江町等の沿岸部に近い居住制限区域では、家屋、自動車の流失、損壊 等 2 年前の津波被害の状況がそのまま残っている。これらの地域は、避難指示区域の再編からまだ時間 が経っておらず、除染作業も一部に留まっている。また、交通では、主要幹線道路である国道 6 号線の 信号機が回復しているのみであり(25 年 4 月現在)、道路、上下水道、電気等のインフラの復旧作業は これからという状況にある。東電関係の事故処理にあたる作業員を送迎するバスや警察関係のパトロー ル車両が目についた。 警戒区域や帰還困難区域においても、住民の一時帰宅が、4 月 24 日以降毎月 1 回は認められること となり、今後、住民帰還に向けての取組みの加速化が期待されている。 〈被災したJR富岡駅〉 55
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