土木学会第65回年次学術講演会(平成22年9月) Ⅵ-264 土留壁の計測管理への WEB モニタリングシステムの現場適用 飛島建設 正会員○上明戸昇 正会員 田村琢之 飛島建設 細見孝治 礒田和宏 飛島建設 加藤一郎 大貫 茎 1.はじめに 土留工事においては,掘削時の安全性を確認するため計測管理が実施されている.土留壁の変位は,掘削の 進行に伴い変化するため,リアルタイムで把握することが望ましい.本稿では,通信回線を用いて掘削の進行 に伴う土留壁変位をリアルタイムで遠隔監視し,管理基準値を越えた際に警告メールを自動で送信する WEB モニタリングシステム 1)により,土留壁の計測管理を実施した事例について報告する. 2.工事および計測概要 適用現場は,事業主体静岡県静岡土木事務所,日本下水道事業団発注の静清浄化センター増設工事(静岡市) である.図-1,図-2 にそれぞれ適用現場の平面図と断面図を示す.また,図-3 に平面図(図-1)内のボーリ ング調査地点 No.1(▲印)の土質柱状図を示す.土質は,主として砂質シルトが盛土下(G.L.+0.168)から G.L.-22m まで続いている. 本工事における土留壁の計測管理においては,挿入式傾斜計による定期的な手動計測を主体とし,特定の計 測断面のみ埋設型傾斜計による常時計測を実施した.また,常時計測において異常が確認された場合は,他の 計測位置の定期計測断面においても,直ちに土留壁の変位を計測する体制をとった.挿入式傾斜計による土留 壁の変位の手動計測断面は,図-1 の計測断面 A~G とし,掘削段階に応じて定期的に計測した.また,埋設型 傾斜計による常時自動計測は,ソイルセメント地中連続壁(以下,SMW)と鋼矢板の接合部付近であり,土留 壁の剛性変化点で掘削深 度が深い計測断面 H を選 計測断面 E 計測断面 F 9 鋼矢板 (VL 型,壁長 L=16.5m) 計測断面 A WEB モニタリングシステ 掘削範囲 1) ム を適用することで,現 桟橋⑤ 鋼矢板 (VL 型,壁長 L=21m) ソイルセメント地中連続壁 (壁長 L=21.0m,径 φ650mm, 計測断面 G 芯材 H-500×200×10×16) 桟橋④ 桟橋③ る飛島建設技術研究所(千 141.3m 葉県野田市)からも監視で 9 6 2 桟橋① I 既設構造物 ボーリング調査地点 No.1 場事務所の他,遠隔地であ 桟橋② 5 42.0m における土留壁の変位は, 3 3 N 3 計測断面 A~G(定期手動計測) 計測断面 H(常時自動計測) 3 FBG 傾斜計 1 計は,地下水の影響に対し 2 て 耐 久 性 の 高 い 3 FBG(Fiber Bragg Grating) 4 光ファイバセンサ式傾斜 5 計 2)(以下,FBG 傾斜計) を適用した.常時計測は, 3 ソイルセメント地中連続壁(φ650,芯材 H-500×200×10×16) 切梁 H-400×400×13×21 既設構造物 中間杭 床付け深さ 掘削前 G.L+2.0m G.L.-12.3m 1 次掘削 G.L-0.4m 2 次掘削 G.L-3.2m 3 次掘削 G.L-5.6m 4 次掘削 G.L-8.1m 5 次掘削 G.L-10.6m 最終掘削 G.L-12.3m G.L.+0.6m G.L.-2.2m G.L.-4.6m ※切梁段数:5段 G.L.-7.1m G.L.-9.6m 42.0m 42.0m 土留の仮設設計において 図-2 適用現場の断面図(I-I) G.L.-10m 3 4 G.L.-12m 4 3 G.L.-14m 4 5 G.L.-16m 6 5 10 11 G.L.-18m ソイルセメント 地中連続壁 9 10 11 ※深度の単位は G.L.m 図-3 土質柱状図と 傾斜計設置深さ キーワード: 土留壁,計測管理,モニタリング,FBG 連絡先: 〒270-0222 千葉県野田市木間ヶ瀬 5472 飛島建設㈱技術研究所 TEL:04-7198-7572 -527- FBG 傾斜計 3 図-1 適用現場の平面図 6.0m 計測に用いた埋設型傾斜 I 計測断面 D 定した(図-1).計測断面 H きるようにした.常時自動 計測断面 H(常時自動計測) 計測断面 B 計測断面 C 土木学会第65回年次学術講演会(平成22年9月) Ⅵ-264 最も大きな変位が予測された G.L.-9m から-19m の範囲とし, FBG 傾斜計は 1 基で上下 1m 間の傾斜を代表さ せることを考え,2m 間隔で 5 箇所に設置した(図-2,図-3). 3.WEB モニタリングシステムによる計測結果 図-4 に,平成 21 年 6 月 19 日から年末の 12 月 22 日までの 187 日間における,WEB モニタリングシステム による計測断面 H の水平変位の計測結果を,G.L.-19m を基点として示す.掘削の進行に伴い,土留壁の水平 変位は大きくなり,5 次掘削完了後に G.L.-9m の水平変位は 20mm となる結果が得られた.しかし,その水平 変位は,土留の仮設設計時に予測された 70mm よりも小さく,予測変位が安全側であった.この要因として, 土留の仮設設計時に使用した地盤条件が,複数ある候補の中で最も小さな N 値の結果を用いたことが挙げら れる.現場事務所では,定期的な手動計測と共に,計測断面 H の水平変位を常時監視していたが,5 次掘削完 了までの水平変位は予測範囲内であった.このように,土留壁の変位に対し,挿入式傾斜計を用いて複数断面 における定期的な手動計測と,特定の断面において WEB モニタリングシステムを用いた常時計測を実施する ことで,安全かつ効率的な土留壁の計測管理を実施することができた. 平成 21 年 8 月 11 日 5 時 7 分,駿河湾を震源とする地震(マグニチュード 6.5)が発生し,現場から距離 2km の地震観測点で震度 4 を記録した.当現場でも,土留壁の G.L.-13m 以浅において水平変位が生じたことを, 地震直後に,WEB モニタリングシステムを通じて現場事務所と飛島建設技術研究所で確認した.図-5 に示す ように,地震直後の土留壁の変位は G.L.-9m の深度において 1.3mm の水平変位,G.L.-11m の深度において 0.6mm の水平変位を生じたことがわかる.その後,数時間の間に土留壁の変位が進行することはなく,地震当 日の正午には土留壁近傍への立入りが可能と判断して,土留壁変位の手動計測,目視による現場点検,ならび にトランシットを用いた計測断面 A~G の土留頭部計測を実施し,現場全体での安全を確認した.これらの計 測においても異常な水平変位は確認されなかったことを受け,工事を速やかに再開することができた. 4.まとめ 定期的な手動計測と,特定の常時計測断面における WEB モニタリングシステムの運用により,掘削の進行 に伴う土留壁の計測管理を効率的に実施できた.また,駿 監視データを共有しながら安全確認を行い,地震発生後の 工事再開の判断に役立てることができた.今後,リアルタ イムで遠隔監視ができる特長を持つ WEB モニタリングシ ステムを,光ファイバセンシングと組み合わせ,大規模構 造物の長期監視システム構築に適用していきたい. 計測断面 H 各深度の水平変位(mm) 河湾の地震発生時に,現場事務所と飛島建設技術研究所で 25 4次掘削 駿河湾の地震発生 (8月11日) 20 15 5次掘削 3次掘削 2次掘削 1次掘削 G.L.‐9m 10 5 G.L.‐11m 1.3mm G.L.‐13m 0 G.L.‐17m ‐5 G.L.‐15m ‐10 6月 謝辞 7月 8月 9月 10月 11月 12月 図-4 WEB モニタリングシステムによる 計測断面 H の水平変位計測結果 (計測開始日(6 月 19 日)を 0mm とする) 本計測は,静岡県静岡土木事務所,日本下水道事業団の 協力を経て実施することができました.ここに感謝の意を 表します. 参考文献 1)松元和伸, 熊谷幸樹, 柏木克之, 加藤一幸, 神谷耕雄, 青木一郎 :ダム切土法面の動態監視への WEB 常時モニ タリングシステムの適用, 第 41 回地盤工学研究発表会 発表講演集, pp.2249-2250, 2006. 2)田村琢之, 熊谷幸樹, 本山寛, 峯尾卓光, 樋川健次 : FBG 光ファイバセンサによる傾斜計の開発と現地適用, 土 木 学 会 第 63 回 年 次 学 術 講 演 概 要 集 Ⅰ-No.255, pp.503-504, 2008. -528- 計 測断面 H 各 深度の水平変位(mm) 8 6 駿河湾の地震発生 計測断面Hでは,地震発生前後の変位挙動に比べ (5時7分) て大きな動きを生じていないことを確かめた. 4 G.L.‐9m 1.3mm 2 G.L.‐11m 0.6mm 0 G.L.‐13m G.L.‐15m -2 0:00 6:00 12:00 18:00 G.L.‐17m 0:00 時刻 図-5 駿河湾の地震(平成 21 年 8 月 11 日 5 時 7 分) 前後における計測点 H の水平変位計測結果
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