HS!02 僧帽弁閉鎖不全症の犬におけるパルス組織ド - 酪農学園大学

HS!
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1
実験的上室頻拍性不整脈の犬に対するアップ
ストリーム治療としてのアンジオテンシン変
換酵素阻害剤の有効性
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2
僧帽弁閉鎖不全症の犬におけるパルス組織ド
プラ左室 Tei index を用いた左室機能評価
○福 島 隆 治1,2、小 山 秀 一1、青 木 麻 莉 子1、
土肥あずさ1、持田比佐子1、松本浩毅1、内
野富弥2、廣瀬昶1(1日本獣医生命科学大学・
・動物エムイーリサー
獣医内科学教室、2(株)
チセンター)
○手島健次1、浅野和之1、上地正実2、鯉江
洋2、菅野信之1、関真美子1、久楽賢治1、枝
村一弥1、長谷川篤彦3、田中茂男1(1日本大
学・獣医外科学研究室、2日本大学・獣医内
科学研究室、3日本大学・臨床病理学研究室)
【背景】上室頻拍性不整脈の発生とその持続に関与する基質の形成
因子として、RAA 系の関与が注目されている。また、不整脈の発
生とその持続に関与する基質を制御することで治療する、アップス
トリーム治療が注目されつつある。【目的】上室頻拍性不整脈モデ
ルである高頻度心房刺激犬に対して、RAA 系のうちアンジオテン
シンⅡ生成を制御する ACEI を投与し、心室の収縮機能、心房の
電気的リモデリング、心室の構造的リモデリングに関して無投薬群
と比較する。それにより、上室頻拍性不整脈のアップストリーム治
療薬として ACEI の有効性を評価する。
【材料と方法】1
2頭の高頻
度心房刺激犬(3
9
0bpm)を無作為に、無投薬群7頭とベナゼプリ
ル群(塩酸ベナゼプリル0.
5mg/kg、SID)5頭に分けた。術後7
日間の回復期間後より、高頻度心房刺激を、または刺激と共に投薬
を2
1日間継続した。そして、刺激開始前と刺激開始7、1
4、2
1日目
に高頻度心房刺激を一時的に停止し検査を行った。QOL の指標と
して食欲、心電図から心拍数、心エコーから心室収縮機能の指標で
ある FS、PEP/ET などを測定した。心房の電気的リモデリング指
標として、バースト刺激後に上室頻拍性不整脈誘発の有無を確認し
た。2
1日目に全頭の心室の内腔、中隔そして自由壁の観察を行った。
【結果】ベナゼプリルの投与は、無投薬群で認められた心室収縮機
能の低下、心房電気的リモデリング生成、心室構造的リモデリング
生成の3者を軽減し、さらに、QOL の低下を軽減する作用を示し
たが、HR を低下させなかった。【結論】ACEI は、犬の上室頻拍性
不整脈に対するアップストリーム治療薬として適用できると判断し
た。
【背景】我々は以前にパルスドプラ心エコー法を用いた左室 Tei index
(PD Tei index)が、犬の僧帽弁閉鎖不全症(MR)の重症度評価
に有用であることを報告した。しかし、PD Tei index は2つの波
形から算出する必要があり、1心拍の間に測定することができない。
一方、パルス組織ドプラ法を用いた左室 Tei index(TD Tei index)
は1心拍の間に測定が可能である。本研究の目的は、犬の TD Tei
index が心機能を反映するか否かを検討すること、および TD Tei
index と PD Tei index を比較すること、さらには MR 犬における
TD Tei index の有用性を検討することである。
【材料と方法】実験1:全身麻酔下の健常犬6頭を用いて左室 peak
+dP/dt および!dP/dt を記録し、同時に TD および PD Tei index
を測定した。実験2:非心疾患犬7
3頭、MR 犬(無症候性2
3頭、症
候性1
0頭)を対象に TD および PD Tei index を無麻酔下にて測定
した。
0.
6
9)
、
【結果】実験1:TD Tei index と左室 peak+dP/dt(r=!
6
0)
、および PD Tei index(r=0.
7
1)との間に有
!dP/dt(r=0.
意な相関を認めた。実験2:TD Tei index は非心疾患犬において
のみ PD Tei index と相関が認められた(r=0.
5
4)
。TD Tei index
は MR 犬で高値を示したものの、無症候性と症候性 MR との間に
有意差は認められなかった。
【考察】実験1より TD Tei index は犬の収縮機能および拡張機能
を反映していた。実験2では MR 犬の重症度評価には PD Tei index
の方が優れた指標であると考えられたが、今後 TD Tei index の有
用性に関してさらなる検討が必要である。
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3
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4
僧帽弁逆流犬におけるアドレノメデュリン投
与の循環動態に及ぼす影響
○菅野信之1、浅野和之1、手島健次1、久楽
賢 治1、関 真 美 子1、枝 村 一 弥1、田 中 茂 男1
(1日本大学・獣医外科学研究室)
【背景】アドレノメデュリン(AM)
はヒトの褐色細胞腫より分離・
同定された血管作動性ホルモンであり、血管拡張作用や利尿作用な
どの生理活性を有し、心機能を改善する効果を持ち合わせているた
め、循環器医学領域では心不全治療薬としての可能性が検討されて
いる。一方、獣医学領域においては AM 投与の効果に関する報告
はない。【目的】本研究は僧帽弁逆流(MR)
犬に AM を投与し、循
環動態変化を評価することを目的とした。【材料および方法】実験
には実験的に作出した MR モデル犬4頭を用いた。AM は橈側皮
0分 間 投 与 し た 後、0.
0
5
0µg/kg/min
静脈より0.
0
2
5µg/kg/min で3
で同様に3
0分間投与し、投与開始から投与後6
0分間まで心拍数
(HR)
、
平 均 動 脈 血 圧(MAP)
、平 均 肺 動 脈 圧(MPAP)
、肺 動 脈 楔 入 圧
(PCWP)
、中心静脈圧(CVP)
、全身血管抵抗
(SVR)
、心拍出量
(CO)
を1
5分ごとに測定した。最初に、生理食塩水を投与した実験
(コン
トロール群)
を行い、2週間後に AM を投与した実験(AM 投与群)
を行った。【結果】AM 投与群において、AM0.
0
2
5µg/kg/min 投与
開始1
5分後から血行動態は変化し始め、0.
0
5
0µg/kg/min ではさら
に有意な変化が認められた。特に、コントロール群と比較して PCWP、
SVR および MPAP は有意に低下し、CO は有意に増加した。一方、
HR および MAP は投与中に変化は認められなかった。【考察】犬
の MR において、AM 投与は後負荷を低減するとともに、MAP を
有意に低下することなく、CO を増加することが示された。したがっ
て、AM は犬の MR の急性増悪例に対して有用な治療薬になりう
る可能性が示唆された。
犬の僧帽弁閉鎖不全症(Mitral Regurgitation;MR)に 対 す る 僧 帽 弁 形 成 術(Mitral
valve plasty;MVP)の検討∼至適腱索長の
推定∼
○青木卓磨1、藤井洋子1、伊藤雄介1、梅原
庸平1、若尾義人1(1麻布大学・外科学第一
研究室)
【背景および目的】イヌの MR に対する MVP の詳細な検討は少な
く、特に至適腱索長の決定に関しては術中の目測によるのみで、逆
流防止は主に弁輪縫縮術に頼るのが現状である。そこで我々は、至
適腱索長を知ることの重要性を考え、術前および術中に至適腱索長
を推定し、手術時間短縮も考慮しつつ、一定の条件下の MR 犬に
対して MVP を実施した。【材料と方法】Ⅰ.正常犬1
7頭を用いて、
僧帽弁前尖の形態ならびに心エコーを用いた正常腱索長(前・後乳
頭筋からの僧帽弁前尖への腱索をそれぞれ AMS1,
2,
2’
、AMS
3’
,3,
4とした)の推定法を検討した。Ⅱ.正常犬4頭を用いて、
Ⅰ.の結果を元に術前に人工腱索を作成後、腱索再建術を実施し、
Ⅰ.の 方 法 が 応 用 可 能 か 否 か を 検 討 し た。Ⅲ.自 然 発 症 MR 犬
(ISACHC 分類、Ⅰ a−b)4頭を用い、心エコーにより逆流部位
を検討し、次いでループテクニック変法で腱索再建術が可能か否か
を検討した。【成績】①心エコーにより、正常 AMS1長の推定が
可能であった。②正常犬では、前乳頭筋側は推定値とその1
1
0%の
長さ2本、後乳頭筋側は AMS4の実測値3本の人工腱索で逆流防
止が可能であった。③ MR 犬において、腱索の伸展部位は超音波
検査により推定可能であった。④ MR 犬において、AMS1,
4の腱
索の2
0%短い人工腱索を、それぞれ AMS2,3に2−3本適用す
ることによって、逆流防止が可能であった。【考察】AMS1のみが
心エコーにより推定可能であったが、罹患犬では AMS2,
3が MR
の主たる原因であった。術中における推定では、AMS1,
4の実測
値から2
0%減じたループを各々 AMS2,
3に適応することによっ
て腱索が再建される可能性が示唆された。
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5
犬の全肝阻血における血行動態の変化
○関真美子1、浅野和之1、小泉裕美1、菅野
信之1、久楽賢治1、手島健次1、枝村一弥1、
田中茂男1(1日本大学・獣医外科学研究室)
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6
犬における腹腔鏡下手術時の気腹および体位
変換が循環および呼吸器系に及ぼす影響
○朴永泰1、岡野昇三1、奈須俊介1、藤塚淳
史1、佐野忠士1、高瀬勝晤2(1北里大学・小
動物第3外科、2北里大学・小動物第1外科)
【背景】ヒトの肝切除では肝阻血手技が一般的に用いられており、
それによって術中出血量の軽減が図られている。一方、犬の肝切除
においても肝阻血手技は報告されているものの、阻血法の検討、阻
血中の血行動態や肝障害の程度の評価、合併症の発生に関する詳細
な報告は認められない。
【目的】犬の全肝阻血モデルにおいて、術
中の血行動態の変化について調査した。【材料および方法】正常犬
1
2頭を以下の3群(n=4)
に分けた;対照(Sham ope)
群、腹腔動
脈遮断(CA)
群(腹腔動脈、前腸間膜動脈、肝動脈、門脈および肝臓
前後の後大静脈を遮断)
、大動脈遮断(Ao)
群(胸部大動脈、肝動脈、
門脈および肝臓前後の後大静脈を遮断)
。CA 群および Ao 群にお
ける血行遮断は2
0分間実施し、Sham ope 群では血管の遮断は実施
しなかった。頚動静脈、大腿動静脈、腸間膜静脈に各々カテーテル
を挿入し、血流遮断前、遮断1
0、2
0分後、再灌流1
5、3
0分後に各血
圧を測定した。【結果】CA 群は Sham ope 群と比較して、遮断中
に頚動脈圧と大腿動脈圧の低下が認められた。特に、CA 群の遮断
中の頚動脈圧は Ao 群と比較しても有意に低下していた。また、大
腿静脈圧は CA 群、Ao 群とも Sham ope 群と比較して、遮断中に
上昇が認められた。門脈圧は CA 群において、遮断中に上昇が認め
られた。【考察】CA 群では Ao 群と比較して、遮断中の動脈圧が
低下し、静脈圧と門脈圧が増加する傾向が認められた。したがって、
阻血手技としては大動脈を遮断する方が安定した血行動態を維持で
きることが明らかになった。しかし、その機序については不明な点
もあり、今後さらなる検討が必要であると思われる。
【目的】腹腔鏡下手術の際、手術部位によりトレンデレンブルグ体
位(低頭位)
、あるいは逆トレンデレンブルグ体位(高頭位)をと
ることが多い。しかし、犬における腹腔鏡下手術での気腹および体
位変換による循環ならびに呼吸器系へ与える影響については十分に
検討されていない。そこで、犬におけるトレンデレンブルグ体位、
および逆トレンデレンブルグ体位での気腹が、循環および呼吸器系
におよぼす影響について検討した。【方法】実験には臨床上健康な
ビーグル犬6頭を用いた。アトロピン、ブトルファノール、プロポ
フォールで麻酔導入後、イソフルラン(1.
3MAC)にて維持した。
呼吸換気条件は、人工呼吸器を用いて実験中一定にした。供試犬に
対して、頚動静脈および大腿静脈にカテーテルを留置し、循環動態
および、血液ガスの測定に用いた。実験は、始めに水平位で CO2を
用いて腹腔内圧が1
5mmHg になるように2
0分間気腹した。各パラ
メーターは、気腹前および気腹2
0分後に測定した。測定終了後に脱
気し、体位変換した後に循環および呼吸器系を安定させた。その後、
引き続き水平位と同様に気腹および測定を実施した。体位は、水平
位、トレンデレンブルグ体位(1
5度)
、逆トレンデレンブルグ体位
(1
5度)の順に変換した。【結果と考察】全ての体位において気腹
後、大腿静脈圧、中心静脈圧、気道内圧、PaCO2の有意な上昇およ
び、動脈血 pH の有意な低下が認められた。また、血圧も同様に全
ての体位において増加傾向を示した。さらに水平位、逆トレンデレ
ンブルグ体位では気腹後、心拍出量の有意な増加が認められた。
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8
Adenosine Deaminase Activity in Cats
Infected with Feline Immunodeficiency
Virus.
○Hankanga Careen 、小林沙織 、山田裕
一1、百田豊1、佐藤れえ子1、安田 準1(1岩
手大学・小動物内科)
1
1
Adenosine deaminase (ADA),
an enzyme involved in
purine metabolism,
has been shown to be of clinical
importance in several diseases in humans.
To investigate
whether ADA is of any clinical significance in cats,
plasma
ADA (P!ADA) and T cell ADA (T!ADA) activities were
measured in feline immunodeficiency virus (FIV) negative
and positive cats. Nylon wool fractionation was employed to
separate T cells and the resulting suspension was measured for
CD4 cell count and T!ADA activity.
The AIDS!related
complex (ARC) group showed a significant elevation in P!
ADA activity compared to the asymptomatic carrier (AC),
and FIV!negative groups .
T!ADA activity was
significantly elevated in the ARC group.
A correlation was
found between P!ADA and T!ADA activities in the FIV!
negative group.
T!ADA activity and CD4+ cell number
showed a strong negative correlation in FIV!positive cats CD
4+ cell numbers were significantly reduced in the ARC
group compared to the healthy controls. Our results showed
that T!ADA activity is increased in FIV!positive cats during
the ARC stage.
These results also suggest that ADA may
be an indicator of T cell activation in the ARC stage of FIV
infection.
胸水または腹水を用いて猫伝染性腹膜炎の診
断を行った1
2症例
○輪田真 理1,2、谷 憲 一 郎2、相 馬 武 久3、田
島朋子1(1大阪府立大学・獣医微生物学教室、
2
谷動物病院・内科・外科、3マルピー・ライ
フテック株式会社・臨床検査センター)
【はじめに】猫伝染性腹膜炎(FIP)
の臨床診断は、貯留液の性状や
血液検査結果、および飼育状況などによっているが、確定診断は難
しい。そこで、胸水・腹水疾患を呈した猫1
2症例で、貯留液塗抹標
本を用いた免疫蛍光染色による細胞内 FIP ウイルス(FIPV)抗原の
検出、貯留液上清ならびに貯留液細胞を用いた PCR を行い、確定
診断を行ったのでその概要と一部症例における経過を報告する。
【方法】大阪府(6例)
、埼玉県(2例)
、富山県(1例)
、静岡県(3
例)
の動物病院に来院した猫の腹水・胸水の細胞塗抹標本を作成し、
抗 FIPV マウス血清を用いて免疫蛍光染色を行った。細胞質内に蛍
光を認めたものを抗原陽性と判断した。また、貯留液上清および細
胞より抽出した RNA を用いて RT!PCR を行った。【結果】免疫染
色陽性は8例、貯留液上清 PCR が陽性は5例、貯留液細胞 PCR が
陽性は9例であった。免疫染色、貯留液上清の PCR、貯留液細胞
の PCR ともに結果が一致したのは7例で、そのうち陽性は5例で
あった。免疫染色と貯留液細胞の PCR 結果が陽性となったのは2
例であった。貯留液細胞の PCR のみ陽性となったものが2例、免
疫染色のみが陽性となったものは1例であった。当院に来院した症
例は4例で、いずれも貯留液細胞 PCR が陽性であり、FIP と確定
診断した。ステロイド、猫インターフェロン、塩酸オザグレル等に
よる治療を試みたが、全例、診断から1ヶ月以内に死亡した。
【総
括】貯留液細胞を用いた RT!PCR が最も感度が高いと思われるが、
実際に病院でこの方法で確定診断を行うのは難しい。免疫染色は非
特異的蛍光が見られる場合もあり、モノクローナル抗体を用いるな
ど特異性を高めるための検討が必要である。今後、さらに検討を重
ねて、実用的な方法を開発したい。
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9
1型糖尿病犬における血漿マンノースおよび
ピルビン酸濃度の変動
HS!
1
0
○森昭博1、武光浩史1、佐藤稲子2、田崎弘
之2、片 山 欣 哉2、左 向 敏 紀3、新 井 敏 郎1
(1日本獣医生命科学大学・獣医生化学教室、
2
日本獣医生命科学大学・生物構造情報学教
室、3日本獣医生命科学大学・保健看護学科
臨床部門教室)
1型糖尿病犬の血液中免疫担当細胞数の変動
○相良芙美1、森昭博1、新井敏郎1、植松洋
介1,2、山口智宏1,2(1日本獣医生命科学大学・
獣医生理化学教室、2(有)ケーナインラボ・
検査培養研究室)
近年、犬においても糖尿病の発症が増えている。犬ではインスリン
不足による1型糖尿病の発症が多いという特徴を示す。今回1型糖
尿病犬1
7頭および正常犬1
0頭を用いて、種々の血漿代謝産物量を測
定し、これらの変動が糖尿病診断マーカーとなるか検討した。血漿
代謝産物としてグルコース(Glu)
、マンノース、総コレステロール、
中性脂肪(TG)
、遊離脂肪酸(FFA)
、インスリン(IRI)
、ピルビン
酸、乳酸を測定した。正常犬では、食後血漿 Glu および IRI 濃度は
増加し、逆にマンノース、FFA 濃度は有意に低下した。マンノー
スはグリコーゲン分解産物と考えられ、正常犬における食後のマン
ノースの減少は、肝臓でのグリコーゲン合成が亢進したためと考え
られた。糖尿病犬はインスリン注射による血糖コントロールを行なっ
ていたため、血漿 TG、FFA、乳酸およびコレステロール濃度は正
常犬に比較的近い値であったが、糖尿病犬の血漿グルコース、マン
ノース、ピルビン酸濃度および P/L(ピルビン酸/乳酸)比は有意
に増加していた。ピルビン酸濃度の上昇は糖尿病犬における TCA
サイクルの活性低下により、ピルビン酸が他の代謝産物へ変化が阻
害されるためと考えられ、マンノース濃度の上昇は糖尿病犬におけ
るインスリン作用の低下により、肝臓におけるグリコーゲン分解が
亢進したためと考えられた。血漿マンノースおよびピルビン酸濃度
は肝臓におけるグリコーゲン貯蔵状態および組織におけるエネルギー
代謝状況を反映し、糖尿病をはじめとする代謝性疾患において、体
全体のエネルギー代謝状況を評価するのに有用なマーカーとなるこ
とが示唆された。本研究は「文部科学省学術フロンティア推進事業」
の助成を受けた。
近年犬においても糖尿病の発症が増えている。犬ではインスリン分
泌不足による1型糖尿病の発症が多い。ヒトでは1型糖尿病と免疫
機能の低下に強い相関があることが報告されている。今回1型糖尿
病犬1
0頭および正常犬1
3頭を用いて、血漿代謝産物量およびサイト
カイン、免疫グロブリン(IgG)
、リンパ球数を測定し、これらの変
動が1型糖尿病犬における免疫機能の変動を評価するマーカーとな
るか検討した。代謝産物としてグルコース、フルクトサミン、イン
スリン、サイトカインとしてインターフェロン γ(IFN!γ)とイン
ターロイキン6(IL!
6)の血漿中濃度を測定した。リンパ球は CD
3+ (T 細胞)
、 CD4+ (ヘルパー T 細胞)
、CD8+ (細胞
障害性 T 細胞)数をフローサイトメーターを用いて測定した。糖
尿病犬はインスリン注射にもかかわらず血漿グルコースとフルクト
サミン濃度は正常犬より有意に高かった。IFN!γ と IL!
6濃度に糖
尿病犬と正常犬の間に有意差はみられなかった。IgG 濃度は糖尿病
犬で有意に低下した。総白血球数と CD8+ 細胞数は糖尿病犬と
正常犬の間に差はなかったが、CD3 +、 CD4+、CD2
1+細胞
数は糖尿病犬で減少し、そのため糖尿病犬の CD4/CD8比は正常
犬に比べ有意に低下した。IgG 濃度の低下は抗体産生を誘導する CD
4+ および CD2
1+ 細胞数の低下によるものと考えられる。IgG
濃度および CD4/CD8比は糖尿病犬における免疫機能を評価する
有用なマーカーとなることが示唆された。 本研究は「文部科学省
学術フロンティア推進事業」による私学助成を得て行われた。
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1
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2
糖尿病発症後の木酢液の効果
○菅沼眞澄1、友田弥里2、浅田忠利3、七戸
和博1(1日本医科大学・実験動物管理室、
2
東京医科歯科大学・国際環境寄生虫病学、
3
日本獣医生命科学大学・獣医保健看護)
[目的]補完代替医療の一種として、糖尿病において血糖の降下作
用があるといわれている木酢液について、実験動物モデルを用いて
その作用を検討した。
[材料と方法]6週齢の ddY 系雄性マウスにアロキサン7
0mg/kg
を静注し、市販の齧歯類用固形飼料と水道水を自由摂取させた。2
週間後随時血糖値が3
5
0mg/dl 以上に上昇したマウスを3群に分け、
飲料水として、水道水、木酢液(SF!
2;東海化成)1%あるいは
5%水溶液を自由摂取させた。5ヶ月間、体重、血糖値、摂餌・摂
水量を経時的に測定し、血液生化学的検査および病理組織学的観察
を行った。
[結果]木酢液投与群の血糖値は5%では3ヶ月目から、1%では
5ヶ月後に、水道水投与群と比べて有意に低下した。飲水量は1ヶ
月目から木酢液投与群において有意に少なかった。病理組織学検査
からは、木酢液5%投与群では1ヶ月後から、1%群では3ヶ月後
から、水道水供与(コントロール)群よりインスリンの分泌が顕著
に増加したことが観察された。血液生化学的検査により、木酢液投
与群では、糖尿病によるアルブミンの低下と尿酸の増加が抑制され
た。
[考察]本実験系では、糖尿病発症後に木酢液を摂取することによ
り、血糖値の低下やインスリン産生細胞の修復が観察された。また、
糖尿病進行によってコントロール群に観察された動きの鈍化や毛づ
やの低下などの一般状態の悪化も木酢液摂取群では軽度であった。
これらの糖尿病症状の緩和は、5%木酢液の方が顕著であったが、
1%であっても長期間の継続摂取により徐々に症状が改善されるこ
とが明らかとなった。また合併症としての腎機能低下を抑制する効
果も示唆された。
トリロスタンによる副腎皮質機能抑制が犬の
下垂体‐副腎軸に及ぼす影響について
○手嶋隆洋1、原康1、根津欣典1、余戸拓也1、
原田恭治1、長村義之2、寺本明3、多川政弘1
(1日本獣医生命科学大学・獣医外科学教室、
2
東海大学医学部・病理診断学教室、3日本医
科大学医学部・脳神経外科教室)
【背景】Cushing 病罹患犬の治療に使用されるトリロスタンに関し
ては、臨床症状の改善に関する報告はあるものの、下垂体への影響
は健常犬においても詳細な調査がなされていないのが現状である。
今回、トリロスタンにより副腎皮質機能を抑制したモデル犬の下垂
体−副腎軸について調査した結果、若干の知見を得たので報告する。
【材料と方法】供試犬:健常ビーグル犬1
8頭を無作為に対照群と TR
群に分けて使用した。プロトコール:TR 群に対してトリロスタン
5mg/kg を1日2回8週間、経口投与した。投与期間中は CRH、
および ACTH 刺激試験を実施し、頭部 MR 画像より下垂体脳比
(PBR)を算出した。投与期間終了後は安楽死を行い下垂体および
副 腎 組 織 を 採 取 し た。下 垂 体 に つ い て は 免 疫 組 織 化 学 に よ る
Corticotroph の評価、POMC、Corticoid Receptor(−R)
、CRH-R、
1
1βHSD mRNA 定量を行った。副腎については副腎皮質の組織学
的評価、および ACTH-R mRNA 定量を行った。【結果】投与期間
中、TR 群において cortisol 濃度の減少、ならびに ACTH 濃度の上
昇がみられた。下垂体に関しては経時的な PBR の増加、および
Corticotroph の細胞質面積の増加が認められ、副腎皮質には過形成
がみられた。mRNA 発現量に関しては、TR 群に POMC、ACTHR の増加、ならびに1
1βHSD1の減少が認められた。【考察】トリ
ロスタンによる副腎皮質機能抑制の結果、Corticotroph の機能亢進
に起因した下垂体の腫大が認められたことから、Cushing 病罹患犬
に対する使用は下垂体腺腫の成長を助長する危険性があることが示
唆された。
HS!
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3
正常犬の血中遊離サイロキシン濃度および血
中 TSH 濃度の生理的変動の評価
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正常ネコの血漿インスリン濃度 ELISA 測定
系に対する抗インスリン自己抗体の干渉
○佐々木東1、山崎真大1、大田寛1、前出吉
光1(1北海道大学・獣医内科学教室)
○西飯直仁1、高須正規2、Okkar Soe1、保
田恭志1、小島正章3、蜂巣達之3、岩澤淳2、
前田貞俊2、大場恵典2、北川均2(1岐阜大学・
連合獣医学研究科、2岐阜大学・応用生物科
学部、3株式会社・シバヤギ)
【背景と目的】血中遊離サイロキシン濃度(FT4)には個体によ
る独自の変動があると報告されており、それを元に基準値が定めら
れているが、FT4のみで原発性甲状腺機能低下症と Euthyroid Sick
Syndrome を 鑑 別 す る こ と は 困 難 で あ る。近 年、血 中 TSH 濃 度
(TSH)をこれらの症例の診断に応用することが考えられている
が、犬の TSH の生理的変動には不明な点が多い。そこで、正常犬
の FT4と TSH の1日の変動を観察した。【方法】健康なビーグル
犬4頭および雑種犬5頭を用い、2時間間隔で2
4時間にわたり採血
を行い、FT4および TSH を測定した。さらに別の日に、運動前
後の FT4の変化を観察した。FT4および TSH の測定には市販キッ
トを用いた。【結果】FT4の変動と値は個体差が大きく、一般的な
基準値を下回る犬も存在した。一定の日内変動は認められず、年齢・
性別による差も認められなかった。7頭の犬で1日の最大値は最小
値の2倍程度であり、さらに6頭の犬では運動・食事の後に FT4
の上昇が見られた。TSH はほぼ一定の低値を示したが、2頭の犬
で短期的な高値が観察されたことから TSH サージの存在の可能性
が示唆された。また、TSH が極めて高値を維持する犬も1頭存在
した。【考察】FT4はこれまでの報告と同様に不規則に大きく変動
するため、1点のみの測定で甲状腺機能を評価することは危険であ
ると考えられた。運動や食事によって変動する犬もおり、測定のタ
イミングにも注意が必要であることが示唆された。TSH はほぼ一
定の値を示すが、偶然 TSH サージと思われるものを捕らえしまう
可能性があり、TSH も1点のみの測定で評価することは危険であ
ると考えられた。
【背景】我々はネコの血漿インスリン濃度 ELISA 測定系の確立の
過程において血漿中の測定阻害物質の存在を明らかにした。本研究
はネコの血漿インスリン濃度測定における測定阻害物質の同定を目
的とした。
【材料と方法】過去にインスリン投与歴のない正常ネコの血漿を用
いた。ウシインスリンを用いたアフィニティークロマトグラフィー
によりインスリン結合物質を精製し、SDS!PAGE を行った。また
ELISA によりインスリン結合物質中の IgG を検出した。125I 標識ウ
シインスリンおよび抗ネコ IgG 抗体を用いた RIA を行い、スキャ
チャードプロットにより抗インスリン抗体の解離定数と最大結合容
量を算出した。またインスリン蛋白を構成する合成ペプチドと抗ネ
コ IgG 抗体を用いた ELISA により抗インスリン自己抗体のエピトー
プマッピングを行った。
【結果】正常ネコ血漿中のインスリン結合物質の SDS!PAGE によ
り5
0kDa および2
5kDa にバンドが得られ、ELISA により IgG であ
ることが確認された。抗インスリン抗体の解離定数は9.
3
4×1
0!8∼
0∼3
0
9nM であった。ELISA による
3.
8
8×1
0!7M、最大結合容量は9
エピトープマッピングでは、インスリン A 鎖の N 末端および B 鎖
の C 末端への結合が多くみられた。
【考察】正常ネコの血漿インスリン濃度の測定阻害物質として血漿
中に低親和性で高濃度の抗インスリン自己抗体が存在することが明
らかとなった。正常ネコにおける抗インスリン自己抗体の生理学的
な意義は不明である。
HS!
1
5
HS!
1
6
犬のイソフルランの MAC-BAR に対するフェ
ンタニル静脈内持続投与の効果
○鎌田正利 、長濱正太郎 、村上勲 、金澤
秀子4、佐々木伸雄3、西村亮平1(1東京大学・
獣医高度医療科学教室、2東京大学・動物医
療センター、3東京大学・獣医外科学教室、
4
共立薬科大学・創薬物理化学講座)
1
2
4
【背景と目的】演者らは第1
4
2回本学会で、犬のイソフルランの MAC
に対してフェンタニルがおよぼす効果について発表した。今回、よ
り臨床的意義が高いと考えられる MAC!BAR におよぼす効果を血
中濃度も含めて検討した。【方法】実験には、健康なビーグル犬6
頭を繰り返し用いた。まず、イソフルランの MAC!BAR を測定し
て対照値とした。次に、フェンタニルを負荷量に加え5、1
0、2
0、
4
0µg/kg/hr のいずれかで静脈内持続投与して、再度 MAC!BAR
の測定を行った。実験中は心拍数と血圧を記録し、持続投与中の血
中フェンタニル濃度も測定した。【結果】対照値およびフェンタニ
(mean±SD)
は、
ル5、1
0、2
0、4
0µg/kg/hr 投 与 時 の MAC!BAR
2.
4
6±0.
2
0、1.
4
5±0.
1
4、1.
1
3±0.
1
3、0.
9
3±0.
1
6、0.
7
7±0.
1
1%
であった。また、このときの平均血中フェンタニル濃度は1.
6
9±0.
1
1、
3.
2
8±0.
4
9、7.
0
9±1.
4
0および1
3.
5
3±2.
5
3ng/ml であ っ た。フ ェ
ンタニルの血中濃度依存性に MAC!BAR は減少し、フェンタニル
の血中濃度4ng/ml 程度までは、MAC!BAR は大きく減少したが、
以降は緩やかに減少した。また、フェンタニル投与量の増加に伴い
MAC!BAR における心拍数は減少したが、血圧は上昇する傾向を
示し、4
0µg/kg/hr 群では対照値より有意に上昇した。【考察】犬
において、フェンタニルをイソフルランと併用することでイソフル
ラン単独時より良好な侵害刺激遮断効果が期待でき、同時に良好な
循環動態を得ることが可能と考えられた。
高齢犬におけるトラマドールの薬物動態
○内田陽介1、北澤多喜雄2、井上博紀3、山
下和人1(1酪農学園大学・獣医学部伴侶動物
医療部門、2酪農学園大学・獣医学部生体機
能部門獣医薬理学教室、3酪農学園大学・環
境システム学部環境生化学研究室)
【目的】演者らは、第7
2回獣医麻酔外科学会において、トラマドー
ルは心血管系抑制が少なく、高齢犬のセボフルラン要求量を2
0%程
度減少できることを報告した。今回、高齢犬におけるトラマドール
の薬物動態を検討した。【方法】臨床上健康なビーグル犬6頭(8
∼1
0歳)にトラマドール4mg/kg を静脈内投与し、血漿トラマドー
ル濃度(Cp)の変化を観察した。トラマドール投与直後から頚静
脈より経時的に採血して血漿を回収し、高速液体クロマトグラフィー
(HPLC)で Cp を 分 析 し た。HPLC 分 析 に は、デ ュ ア ル ポ ン プ
(DP!
8
0
2
0,
東ソー,東京)
、HPLC カラム(Unison UK!C1
8,
東ソー)
、
および蛍光検出器(FS!
8
0
2
0,
東ソー)からなる HPLC システムを
用 い た。移 動 相 に は、A 液:メ タ ノ ー ル/水/酢 酸 ア ン モ ニ ウ ム
(2
4/7
6/0.
0
6)と B 液:1
0
0%メタノール溶液を用い、0.
3ml/分で
送液して1
5分間で A 液から B 液に置き換わるリニアグラジエント
とした。カラムで分離したサンプルは励起波長2
7
0nm および蛍光
波長3
0
4nm で蛍光検出し、インテグレーションソフトウェア(LC!
8
0
2
0 Model,東ソー)でピーク面積を求めて Cp を算出した。ト
ラマドールの薬物動態分析には、分析ソフト GraphPad PRISM
version 4(GraphPad Software,San Diego,USA)を用いた。
【結
果】Cp は、投与後2分目に1,
0
2
0±2
6
0ng/ml、5分目に79
1±2
7
8
ng/ml、1
0分 目 に4
7
4±1
2
6ng/ml、2
0分 目 に3
4
6±1
1
8ng/ml、3
0分
目に2
9
1±8
6ng/ml、6
0分 目 に3
0
3±1
9
4ng/ml、1
2
0目 に1
0
6±5
4ng/
ml、4時間目に7
5±4
5ng/ml、および6時間目に3
7±5ng/ml となっ
た。トラマドールの薬物動態は2
!コンパートメントモデルに良く適
応し、分布相における生物学的半減期(t1/2α)は0.
3
2±0.
5
8時
間、消失相における生物学的半減期(t1/2β)は1.
1
7±0.
7
4時間
であった。
HS!
1
7
鎮静・鎮痛薬が犬末梢血単核球の組織因子発
現に与える影響
HS!
1
8
○藤塚淳史1、岡野昇三1、奈須俊介1、朴永
泰1、佐野忠士1、高瀬勝晤2(1北里大学・小
動物第3外科、2北里大学・小動物第1外科)
猫におけるメデトミジンとミダゾラムの併用
が神経内分泌および代謝に及ぼす影響
○神田鉄平1、松鵜彩1、日笠喜朗1(1鳥取大
学・獣医内科学教室)
【背景】敗血症の病態には、組織因子(TF)を介する外因系凝固
による DIC が重要である。TF は、通常では単球に発現していない
が、LPS やサイトカインなどの刺激により発現する。一方、敗血
症の治療に際して、感染巣の除去や動物の安定化のために麻酔、鎮
静・鎮痛薬を投与する場合が多い。しかし、鎮静・鎮痛薬が TF 発
現にどのような影響を与えているかは十分に検討されていない。そ
こで、鎮静・鎮痛薬が犬末梢血単核球(PBMC)の TF 発現にどの
ような影響を与えているかを検討した。
【材料と方法】実験は、ビー
グル成犬4頭(雄2、雌2)を用いた。PBMC は、比重遠心法に
0%FBS 添加
より末梢血より分離し、1×1
06cell/ml になるように1
RPMI!
1
6
4
0で調製した。細胞浮遊液 は、LPS 群(LPS 1
0
0pg/ml
添加)
、薬剤添加群(LPS 1
0
0pg/ml+各種薬剤添加)に群分けし
た。検討した薬剤は、ミダゾラム、メデトミジン、ドロペリドール、
フェンタニルであり、最終添加濃度は文献的な臨床血中濃度(ミダ
0
0
ゾラム 1
5
0ng/ml、メデトミジン 1ng/ml、ドロペリドール 1
ng/ml、フェンタニル 1ng/ml)および、その5倍量とした。各
薬剤を添加後3
7℃、5%CO2 下で6時間培養した後に PBMC を
回収した。TF は、犬プール血清を用いた凝固時間短縮の割合で評
価した。【結果と考察】ドロペリドールは臨床血中濃度,5倍量と
もに TF 発現を有意に低下させた。メデトミジンは5倍量で、フェ
ンタニルは臨床血中濃度で TF 発現を有意に低下させた。それに対
して、ミダゾラムは両濃度ともに有意な差はなかった。検討した鎮
静・鎮痛薬は、薬剤により TF 発現に与える影響に差が認められ、
敗血症の治療に際しては病態に適した薬剤の選択が必要であること
が示唆された。
【目的】α2!アドレナリン受容体作動薬のメデトミジンは鎮静、鎮
痛あるいは筋弛緩薬として獣医学領域で広く使われている。しかし、
猫における本薬剤の神経内分泌や代謝に与える影響についての報告
は少ない。本研究は猫において、メデトミジンによる神経内分泌お
よび代謝の変化に対するベンゾジアゼピン受容体作動薬のミダゾラ
ムの併用効果を明らかにすることを目的とした。【材料と方法】健
康な猫5頭を用い、対照群(control)
、メデトミジン4
0 µg/kg お
よ び8
0 µg/kg 群(Med4
0,Med8
0)
、ミ ダ ゾ ラ ム0.
5 mg/kg 群
(Mid0.
5)
、メデトミジン4
0 µg/kg およびミダゾラム0.
5 mg/kg
併用群(Med4
0
!Mid0.
5)に繰り返し使用した。各薬物投与前後の
経時的な採血を行い、血漿グルコース、インスリン、グルカゴン、
コルチゾール、遊離脂肪酸、ノルエピネフリン、エピネフリン濃度
を測定した。【結果】Med4
0
!Mid0.
5は Med4
0に比べて、血糖値の
上昇が軽減され、インスリン濃度は一過性の低下を示した後の回復
が早まる傾向を示した。Mid0.
5ではグルコースおよびインスリン
濃度の有意な変化は観察されなかった。Mid0.
5はノルエピネフリ
ン濃度の有意な上昇を示し、Med4
0
!Mid0.
5は MED4
0に比べノル
エピネフリン濃度の減少が軽減される傾向を示した。グルカゴン、
コルチゾール、エピネフリンは各群で有意な変化を示さなかった。
遊離脂肪酸は各群で同様の低下を示した。【結論】メデトミジンお
よびミダゾラムの併用は猫において、同量のメデトミジン単剤投与
に比べ鎮静効果を増強させるにも関わらず、過血糖は軽度であるこ
とが示された。
HS!
1
9
HS!
2
0
犬におけるキシラジンおよびメデトミジンの
利尿効果の比較
○Talukder Hasanuzzaman1、高橋元1、佐
藤加奈子1、日笠喜朗1(1鳥取大学・獣医内
科学教室)
【目的】メデトミジン(MED)とキシラジン(XYL)は数種の動
物で利尿作用の報告があるが、犬における用量依存性効果と時間経
過に伴う反応の解析は未だ十分でなく、利尿作用の機序も明確でな
い。本研究では健康犬における MED と XYL の利尿効果を比較す
ることを目的とした。【材料と方法】実験には5頭の成犬を用い、
各群に繰り返し使用した。実験群は対照として生理食塩液、XYL
0.
2
5,0.
5,1,2,4 mg/kg、MED 5, 1
0,2
0,4
0,8
0 µg
/kg 筋肉内投与の計11群を設けた。薬物投与前と投与後2
4時間の
間に計1
1回の採血と採尿を行い、尿量、尿 pH、尿比重、尿中クレ
アチニン濃度、尿中・血中の浸透圧、電解質、アルギニンバソプレ
シン(AVP)濃度、および血中心房性 ナ ト リ ウ ム 利 尿 ペ プ チ ド
(ANP)濃度を測定した。【結果】MED と XYL は投与後4時間ま
で尿量を顕著に増加した。XYL は用量依存性に尿量を増加したが、
MED は今回の用量では用量依存性を示さなかった。両薬は尿比重、
尿浸透圧、尿中クレアチニン、ナトリウム、カリウム、クロールお
よび AVP 濃度を用量依存性に減少し、尿中 pH の低下傾向を示し
た。血漿浸透圧、ナトリウムおよびクロールは有意な変動がなかっ
たが、血漿カリウムは両薬群で増加した。血漿 AVP は両薬物群に
おいて初期に減少し、その後増加した。血漿 ANP は MED 投与に
より用量依存性に増加し、その効果は XYL より強力であった。
【考察】 XYL と MED は顕著な利尿作用を示すが、MED の利尿
効果は XYL に反して用量依存性でないことを明らかにした。AVP
と ANP の変化は利尿効果に一部影響したかもしれないが、両薬の
利尿作用機序には他の要因の関与も示唆される。
イヌの腕神経叢ブロックにおける神経刺激装
置の有用性
○左近允巌1、前川良子1、前橋理恵1、角田
知子1、高瀬勝晤1(1北里大学・小動物第1
外科学研究室)
【背景】腕神経叢ブロック(ABPB)
は、前肢の手術時に有効な鎮痛
法であるが、従来の方法では穿刺法が盲目的であるがゆえに安定し
た鎮痛効果を得ることが難しい。
【目的】本研究では、イヌの ABPB
に対して神経刺激装置を神経の探査装置として使用し、その有用性
を検討すると同時に、ブピバカインとロピバカインのブロック効果
を比較した。【材料と方法】実験には、健康なビーグル犬1
4頭を用
いた。実 験1で は、TOF (TB)
群: 0.
5%ブ ピ バ カ イ ン(Bupi)
(MB)
群:
2mg/kg を神経刺激装置を用いて投与した群、Manual
同薬剤を従来の手法で投与した群の2群を設定した。実験2では、
5
!Ropi 群:0.
5%ロ
0.
5
!Bupi 群:0.
5%Bupi 2mg/kg 投与群、0.
7
5
!Ropi 群: 0.
7
5%Ropi
ピ バ カ イ ン(Ropi)2mg/kg 投 与 群、0.
3mg/kg 投与群の3群を設定した。ブロックの効果は、皮膚知
覚反応および神経学的検査所見 (BS)、ブロックの開始時間
(OT)
、
持続時間(DT)
をスコア化して評価し、全検査項目でブロックが成
立した場合をフルブロック(FB)とした。
【結果】実験1において、
FB 成立率は、MB 群の2
5%に対し TB 群で7
5%と有意に高かった
(p<0.
0
5)
。実験2では、FB の平均 OT は、0.
7
5
!Ropi 群で他の2
群よりも有意に低かったが(p<0.
0
5)
、平均 DT に有意な差は認め
られなかった。また、各検査時間における総 BS では、0.
5
!Ropi 群
および0.
7
5
!Ropi 群で30
0分付近まで高く、その後低下するのに対
し、0.
5
!Bupi 群では、3
6
0分以降も他の2群よりも高い値で推移し
た。【考察】以上のことより、神経刺激装置の使用によって、より
確実な腕神経叢ブロックが可能になることが明らかとなった。また、
Bupi は Ropi と比較してブロック効果の発現は遅いが、長時間の
鎮痛効果が得られることが示唆された。
HS!
2
1
イヌの脳血流速度および血流量に対するデキ
ストラン加高張食塩液の効果
1)正常モデルでの検討
HS!
2
2
○小林史奈1、福嶋知1、鯉江洋2、浅野隆司1
(1日大・獣医薬理学研究室、2日大・獣医内
科学研究室)
イヌの脳血流量および血流速度に対するデキ
ストラン加高張食塩液の効果
2)実験的脱血モデルでの検討
○福嶋知1、小林史奈1、鯉江洋2、浅野隆司1
(1日大・獣医薬理学研究室、2日大・獣医内
科学研究室)
【背景および目的】現在,イヌの脳循環改善のための第一選択薬と
して,2
0%マンニトール(MAN)
が用いられているが,頭蓋内圧の
リバウンド効果などの様々な副作用が報告されている.その代替薬
品として脳血管内浸透圧を持続的に高く維持できる6%デキストラ
ン加7.
2%高張食塩液(HSD)が期待されている.本研究では,上
矢状静脈血流速度および血流量を測定し,HSD の脳循環に及ぼす
影響について MAN と比較検討した.
【材料および方法】イソフルラン吸入麻酔下のビーグル種イヌ(n
に対して,5mL/kg の 生 理 食 塩 液(ISS)
, MAN ま た
=6/群)
は HSD のいずれかを15分間で静脈内投与し,MRI を用いて下垂体
垂直断面軸位像で上矢状静脈の血流速度および血流量を Phase Shift
法により測定した.また,pre 値に対する循環血漿量の変化量
(rPV)
を算出した.【結果】HSD 群の rPV は投与終了時の1
2
7.
3±4.
7%
を最高値として有意(p<0.
0
5)
に増加した.一方,MAN 群では投
与終了時に1
1
5.
4±3.
7%の最高値を示したものの,その後 ISS 群に
比べて低値を推移した(p<0.
0
5)
. HSD 群の血流速度および血
流量は投与開始3
0分後にそれぞれ pre 値に対して1.
4
7±0.
3倍,1.
5
3
±0.
3倍を最高値とする有意な増加が認められ,他群よりも有意
(p<0.
0
5)に高値を推移した.
【考察】HSD 群は上矢状静脈血流速度および血流量のいずれにお
いても,MAN 群より有意に高値を推移した.これらの結果から,
イヌ医療分野においても HSD は MAN に代替する脳血液循環改善
薬として極めて有用であると思われる.
【背景および目的】現在,出血性ショック動物の脳浮腫に対する第
一選択薬は2
0%マンニトール(MAN)であるが, 6%デキスト
ラン7
0加7.
2%高張食塩液(HSD)の脳循環改善効果が MAN の効
果よりも持続的かつ優れているのであれば,これに代替することが
できる.本研究では脱血モデルを用いて,イヌの脳血液循環に対す
る HSD の効果を,上矢状静脈血流速度および血流量を指標に検討
した.
【材料および方法】イソフルラン吸入麻酔下の正常ビーグル種イヌ
0mL/kg の血液を3
0分間で
(n=6/群)における大腿股動脈より3
抜き取り,脱血モデルを作出した.その後,5mL/kg の HSD また
は MAN を1
5分で静脈内投与し,MRI を用いて上矢状静脈血流速
度および血流量を PhaseShift 法により計測した.また pre 値に対
する循環血漿量の変化量(rPV)を算出した.
【結果】HSD 群の rPV は投与終了時に1
5
4.
1±1
7.
9%の最高値を
示し,MAN 群の1
2
7.
0±9.
6%と比べて有意(p<0.
0
5)に高値を
示した.MAN 群の上矢状静脈血流速度は投与終了時に pre 値の1.
8
±0.
2倍の最高値を示し,同様に上矢状静脈血流量では1.
7±0.
2倍
の最高値を示した.一方,HSD 群では上矢状静脈血流速度で2.
1±
0.
1倍,上矢状静脈血流量は1.
9±0.
1倍を示し,双方とも MAN と
比較して有意(p<0.
0
5)に高値を示した.
【考察】HSD は MAN と比較して有意に上矢状静脈断面積を拡張
させると同時に,上矢状静脈血流速度を増加させ,上矢状静脈血流
量も増加させた.これらの結果から,出血性ショックによる脳血液
循環不全の改善には MAN よりも HSD の方が有効であると思われ
る.
HS!
2
3
HS!
2
4
イヌ肥満細胞腫における腫瘍化抑制標的分子
の検討
○雨貝陽介1、田中あかね1、松田浩珍1(1東
京農工大学・獣医分子病態治療学)
【目的】肥満細胞の腫瘍化には c!kit レセプター(KIT)
の変異が関
与しているとされながら、KIT に変異を有するイヌ肥満細胞腫症
例は全体の2∼3割にすぎない。本研究では KIT 遺伝子の詳細な
変異解析に加え、腫瘍化への関与が示唆される受容体チロシンキナー
ゼについて検討を行い新規腫瘍化機構を検索した。
【方法】8
0症例
のイヌ肥満細胞腫サンプルより DNA および RNA を抽出し、PCR
法およびダイレクトシークエンス法にて KIT 遺伝子を解析した。
シグナル系の検討には初代培養から樹立した1種類を含む計3種類
のイヌ肥満細胞株を用い、様々なキナーゼの発現をウエスタンブロッ
ト法で調べた。また、活性化キナーゼの特異的阻害剤を用いて、増
殖抑制効果を MTT 法で評価した。【結果】KIT 変異は全体の2割
以下で、8症例で膜直下 Juxtamembrane 領域に繰り返し配列が挿
入されていたほか、同領域の欠損・置換変異、また細胞外ドメイン
の点突然変異が各2症例認められた。EGF 及び PDGF 受容体の発
現は一部の細胞株で認められたが微弱で、Flt3の発現はすべての
細胞株に検出できなかった。受容体チロシンキナーゼ特異的阻害剤
の増殖抑制効果は限定的であったが、PI3K シグナル伝達系および
転写因子 NF!κB 阻害剤はすべての細胞株で有効に増殖を抑制した。
【総括】以上の結果から、さらなる未知の腫瘍化メカニズムの存在
が示唆される一方で、PI3K シグナル伝達系や NF!κB が広く肥満
細胞の腫瘍性増殖を抑制するための標的分子となることが明らかと
なった。このことは、これら分子を標的とした薬剤が、有効な治療
薬となる可能性を示唆するものである。
イマチニブが奏功した c!kit エクソン11 non!
ITD の肥満細胞腫の犬3例
○冨永美樹1、大野耕平1、福岡由高1、礒谷
真弓1、八木原紘子1、田村恭一1、盆子原誠1、
小野憲一郎2、鷲巣月美1(1日本獣医生命科
学大学・獣医臨床病理学教室、2東京大学大
学院・獣医臨床病理学教室)
【背景と目的】KIT は c!kit 遺伝子にコードされるチロシンキナー
ゼ受容体であり、c!kit 遺伝子の突然変異は KIT の自己リン酸化
を亢進し細胞の腫瘍性増殖を引き起こす。犬の肥満細胞腫では、KIT
の細胞膜近傍領域をコードする c!kit エクソン1
1に重複配列の挿入
変異(ITD)
が知られており、これらの症例ではチロシンキナーゼ阻
害剤であるイマチニブが著効を示す。人の腫瘍では、自己リン酸化
を引き起こす変異は膜近傍領域だけでなく、キナーゼ領域を含む細
胞内領域で多く見られている。今回、エクソン1
1に ITD が見られ
なかった肥満細胞腫の犬3例においてイマチニブが著効を示したた
め、c!kit 遺伝子の細胞内領域の変異を検索した。【症例】症例は皮
膚に多発性の腫瘤が認められ、針吸引生検により肥満細胞腫と診断
された。摘出手術が困難であることから、イマチニブを1
0 mg/kg
/day で連日経口投与した。イマチニブの投与期間中は、他の抗癌
剤の投与を行わなかった。【材料と方法】腫瘍細胞を針吸引により
採取し、これらの細胞から RNA を抽出した。RT!PCR により細胞
内領域をコードする塩基を増幅し、その塩基配列を解析した。
【結
果と考察】全ての症例において、イマチニブ投与後1週間で部分寛
解が認められた。しかしながら、塩基配列の解析では3症例とも c
!kit 遺伝子の細胞内領域には変異が認められず、KIT の細胞外領
域の変異あるいは他のチロシンキナーゼ受容体における異常である
可能性が示唆された。また、今回の結果から、KIT の膜近傍領域
およびキナーゼ領域をコードする遺伝子に変異が見られない場合で
も、イマチニブに反応する可能性が示された。
HS!
2
5
猫の肥満細胞腫2
1例における c!kit 遺伝子変
異の解析
HS!
2
6
○礒谷真弓1、八木原紘子1、田村恭一1、盆
子原誠1、小野憲一郎2、鷲巣月美1(1日本獣
医生命科学大学・獣医臨床病理学教室、2東
京大学大学院・獣医臨床病理学教室)
【背景と目的】c!kit 遺伝子がコードする KIT は受容体型チロシン
キナーゼであり、SCF の結合により細胞の分化・増殖が誘導され
る。人ではいくつかの腫瘍で c!kit 遺伝子の変異が報告されており、
これらの変異により SCF 非依存性に KIT の自己リン酸化が亢進し、
細胞の腫瘍性増殖が惹起される。犬の肥満細胞腫では、KIT の細
胞膜近傍領域をコードするエクソン1
1に重複配列の挿入変異(ITD)
が多発することが報告されている。一方、猫の肥満細胞腫における
c!kit 遺伝子変異は、エクソン8における ITD が1症例で報告され
ているのみで、変異多発部位は同定されていない。そこで今回、猫
の肥満細胞腫2
1症例の c!kit 遺伝子を解析し、変異の有無を検討し
た。【材料と方法】細胞診あるいは病理検査により、肥満細胞腫と
診断された猫2
1症例の腫瘍細胞からゲノム DNA を抽出した。PCR
法により c!kit 遺伝子エクソン8およびエクソン1
1を増幅し、塩基
配列の解析を行った。【結果および考察】2
1症例中7症例でエクソ
ン8に ITD が認められ、これらは全て以前報告された ITD と同一
の1
2塩基が挿入されていた。また、2症例では、エクソン8におい
て欠失!挿入変異が認められた。一方、エクソン1
1の挿入変異は1
症例のみで認められた。他の1
1症例では、エクソン8および1
1に変
異は認められなかった。これらの結果から、猫の肥満細胞腫は犬と
異なり、エクソン8が変異多発部位であると考えられた。
演題取り下げ
HS!
2
7
HS!
2
8
犬組織球性肉腫細胞株7株におけるヌードマ
ウス移植腫瘍の検討
○呰上大吾1、岩城周子2、加藤里奈2、新倉
由美子2、盆子原誠2、鷲巣月美2、小野憲一
郎3(1日獣大・獣医保健看護、2日獣大・獣
医臨床病理、3東大・院・獣医臨床病理)
【目的】犬の組織球性肉腫(histiocytic sarcoma; HS)は有効
な治療法が報告されておらず,臨床挙動の非常に悪い腫瘍であり,
その研究を行う上で有用な移植腫瘍系を確立することが必要である.
我々は既に in vitro にて犬 HS 細胞株7株を樹立したことを報告し
たが,今回,これらの細胞株をヌードマウスに接種しその造腫瘍能
と移植腫瘍の性状を検討した.【方法】6週齡,雄のヌードマウス
(BALB/cA Jcl!nu/nu)を実験に供した.これらのマウスは SPF
環境のアイソレーター内で,滅菌蒸留水および γ 線滅菌固形飼料を
不断給餌して飼育した.HS 細胞株は1株あたりヌードマウス3匹
に対し,左あるいは右の側腹部皮下に1×1
07個接種し,接種部位
における腫瘤の形成を7
2日間観察した.観察期間終了後,常法に従
いヌードマウスを安楽死し,細胞学的検査とホルマリン固定組織の
病理組織学的検査を行った.
【結果・考察】樹立した株化細胞はい
ずれもヌードマウスに腫瘍を形成した.また,形成された移植腫瘍
は,独立円形細胞の瀰漫性増殖で構成され,個々の腫瘍細胞は組織
球様の形態を示し,さらに細胞化学ならびに免疫組織化学的染色態
度(ペルオキシダーゼ陰性,非特異エステラーゼ陽性,サイトケラ
チン陰性,ビメンチン陽性およびライソザイム陽性)が HS 腫瘍細
胞と一致しており,原発腫瘍と同様の腫瘍組織を形成した.一方,
腫瘍細胞のリンパ節転移や他臓器への遠隔転移は観察期間中には認
められなかった.以上の結果より,我々の樹立した HS 細胞株は,
ヌードマウス皮下接種によって原発腫瘍と極めて類似した HS 腫瘍
組織を効率的に形成することが明らかになり,犬の HS の移植腫瘍
系として有用であると考えられた.
マウス線維肉腫と皮膚に対する放射光マイク
ロスリットビームの照射効果
○武藤光 伸1、大 野 由 美 子2、古 澤 佳 也2、小
山田敏文1、鈴木雅 雄2、八 木 直 人3、小 池 幸
子2、鵜澤玲子2、柿崎竹彦1、和田成一1、取
越正己2、伊藤伸彦1(1北 里 大 学・獣 医 畜 産
学部、2放射線医学総合研究所・重粒子医科
学センター、3高輝度光科学研究センター・
利用研究促進部門)
【背 景】薄 い 平 面 状 放 射 光 X 線 を 多 層 ス リ ッ ト 状 に 照 射 す る
microbeam radiation(MR)は、新しいがん治療法として期待さ
れており、MR の腫瘍や正常組織に対する影響の解明が試みられて
いる。
【目的】マウス線維肉腫(NFSa)に対して MR を施し、腫瘍治療
効果と正常組織の耐容線量について検討する。
【材料と方法】実験は大型放射光施設 SPring!
8の共用ビームライ
ン BL2
8B2で行った。ビームラインに輸送される白色 X 線をタン
グステンとカプトンフィルムの多層スリットコリメータ(幅2
5µm、
2
0
0µm ピッチ)に通過させて、多層の薄いスリット状のビームを
形成した。照射8日前に NFSa を C3H マウスの後肢に移植した。
一部のマウスは照射部位を剃毛し、皮膚反応を観察した。なお、皮
膚の評価は Skin Reaction Score に基づいて行った。
【結果】腫瘍体積が1cm3に達するまでの日数は、対照群に比べ、
MR で 有 意 に 延 長 し た。他 方、ス リ ッ ト を 通 さ な い broadbeam
radiation(BR)では、組織に対する吸収線量が同一の場合でも MR
よりさらに増殖抑制効果が強かった。
皮膚に対する影響は、約2
0
0Gy の照射において、MR 後10日目に
は、BR よりも Score が高くなったが、1
4日目以降には BR よりも
Score が低くなる傾向が認められた。
【考察】同等の増殖抑制効果を持つ MR と BR であっても、MR で
は実際の照射面積は BR の1/8と少なく、かつビーム幅も極めて
小さいことから細胞の補填効果などで細胞の修復が早くなる。一方、
BR では照射面積が大きく、正常組織も多くの障害を受けることか
ら皮膚の治癒も遅くなると考えられた。
HS!
2
9
イヌ腫瘍細胞におけるウシラクトフェリンお
よびプロポリスの抗腫瘍効果の検討
HS!
3
0
○森光俊晴1、山田裕一1、小林沙織1、百田
豊1、鈴 木 幸 一2、安 田 準1、佐 藤 れ え 子1
(1岩手大学・小動物内科学研究室、2岩手大
学・応用昆虫学研究室)
犬赤血球膜主要グライコフォリン遺伝子の同
定
○佐藤耕太1、安達啓一1、新敷信人1、小松
智彦1、大塚弥生1、稲葉睦1(1北大・院獣医・
臨床分子生物学教室)
[背景] 腫瘍性疾患の治療法として行われる化学療法の問題点と
しては、抗がん剤に対する多剤耐性の発現がある。そのため既知の
抗がん剤とは異なった作用機序を持ち、薬剤耐性の腫瘍細胞にも有
効な抗腫瘍性物質が求められている。本研究では、我々が BRM 療
法として用いているウシラクトフェリン(bLF)
とプロポリスの直接
的抗腫瘍効果を検索した。また多剤耐性の機序の一つとして注目さ
れている p!糖タンパク質の各種細胞における発現、bLF とプロポ
リスがそれに及ぼす影響を検索することを目的とした。 [方法]
イヌ乳腺腫瘍細胞に bLF とプロポリスの添加培養を行い、増殖
抑制効果を観察した。次に正常犬の臓器と培養細胞において、p!
糖タンパク質をコードしているイヌ MDR1の発現を RT!PCR で
検索した。更に培養細胞からイヌ MDR1cDNA をクローニングし
た。また bLF とプロポリスをイヌ乳腺腫瘍細胞へ添加培養し、MDR
1発現への影響を調べた。[結果と考察]bLF とプロポリスを添加
培養することにより、イヌ乳腺腫瘍細胞の増殖抑制効果が観察され
た。正常犬の肝臓、腎臓、末梢血単核球では MDR1の発現が見ら
れたが、末梢血多形核球では認められなかった。培養細胞では乳腺
腫瘍、腎臓由来細胞では発現が認められたが、リンパ系腫瘍細胞で
は見られなかった。MDR1の発現が見られた腫瘍細胞においても
bLF とプロポリスの増殖抑制効果が認められたことから、これら
は多剤耐性腫瘍の補助療法薬としても有望であることが示唆された。
一方、今回使用したリンパ系腫瘍細胞では MDR1の発現が見られ
なかったことから、MDR1導入細胞もしくは既知の発現細胞を用
いての検討が必要であると思われた。
【背景】グライコフォリン(GP)は赤血球膜に発現する主要シア
ロ糖蛋白質であり、赤血球膜骨格の維持、血液型抗原や病原微生物
の受容体として機能するなどさまざまな役割を果たしている。しか
し、犬ではその分子構造が明らかでなく、犬における GP の機能や
性状は不明である。そこで本研究では、犬 GP の性状を明らかにす
るために、犬グライコフォリン A(GPA)および C(GPC)の遺
伝子クローニングを行った。【方法】犬赤血球膜に見られる糖蛋白
質を同定する一方、犬ゲノム配列検索で得られたヒト GPA および
GPC 類似配列をもとに、骨髄細胞について rapid amplification cDNA
ends(RACE)法を行い、犬 GPA ならびに GPC cDNA を増幅、
単離した。【結果と考察】犬赤血球膜シアロ糖蛋白質は、PAS 染色
で2
8 および3
2 kDa に観察された。イムノブロットの結果から、
これらは GPC と推定された。犬 GPA は他種由来 GPA と膜貫通領
域で相同性を示し、細胞外領域では数カ所の O!結合型糖鎖付加が
予想される配列がみられた。一方、犬 GPC は膜貫通および細胞内
領域において他種 GPC と相同性が高く、細胞外ドメインに N!お
よび O!結合型糖鎖が付加され得る配列・部位が確認された。以上
の結果より、本研究で単離した cDNA は犬 GPA および GPC 遺伝
子であると考えられた。次に、これらの遺伝子の発現分布を調べた
ところ、骨髄や網状赤血球に加え、肝、腎および小腸などにおいて
も発現が観察され、GP の他臓器における役割の存在が示唆された。
【結論】本研究により、犬 GPA および GPC の性状(一次構造お
よび組織分布)が明らかになった。
HS!
3
1
HS!
3
2
小胞放出経路による犬網状赤血球からの
stomatin と Na,K!ATPase の消失
○小松智彦1、大塚弥生1、佐藤耕太1、稲葉
睦1(1北大・院獣医・臨床分子生物)
【背景と目的】犬の赤血球は、網状赤血球の成熟に伴う Na,K!ATPase
の消失により低 K+濃度の LK 型となる。これまでに我々は、Na,K
!ATPase の消失と同時期に赤血球膜蛋白質 stomatin が消失するこ
と、遺伝的に高 Na,K!ATPase 活性を保つ HK 型犬赤血球の stomatin
含量が著しく多いことを明らかにした。これらのことは、stomatin
と Na,K!ATPase の消長が共通の過程を経ることを示唆している。
本研究の目的は、この過程における小胞放出経路の関与の有無を明
らかにすることである。【方法】犬網状赤血球を2
4時間培養し、培
養上清から1
8,
0
0
0 x g 、1
0分の遠心で分離される小胞画分(P
1)と、1
0
0,
0
0
0 x g 、6
0分で得られる画分(P2)を得た。網
状赤血球、P1ならびに P2に含まれる小胞について走査型/透過
型 電 子 顕 微 鏡 で の 形 態 観 察 を 行 う と と も に、stomatin、Na,K!
ATPase、transferrin receptor (TfR) 等の存在、含量を解析し
た。【結果と考察】網状赤血球内には3
0∼5
0 nm の exosome 様小
胞を複数含む小胞が認められ、また網状赤血球表面には5
0∼3
0
0
nm の小胞の突出が認められた。P2画分には前者に相当する3
0∼
5
0 nm 程度のサイズの膜小胞が、P1画分には後者と同等の、よ
り 大 き な 膜 小 胞 が 含 ま れ て い た。ま た、P2画 分 の 膜 小 胞 に は
stomatin、Na,K!ATPase、ならびに TfR がイムノブロットで検出
されたが、一方 P1画分では stomatin は認められたものの、他は
認められなかった。したがって、stomatin と Na,K!ATPase は TfR
同様に exosome 様小胞に含まれ、その放出により網状赤血球から
失われると考えられた。【結論】犬網状赤血球の成熟過程において、
stomatin と Na,K!ATPase の一部は exosome 様小胞放出経路で失
われる。
Hydroxyethyl starch を用いた犬赤血球の
−80℃凍結保存法の保存時間による影響
○田浦保穂1、宇野堅太1、金喜廷1、板本和
仁1、中市統三1、宇根智2、隅田幸 男3(1山
口大学農学部・臨床獣医学講座、2山口大学
農学部・附属動物医療センター、3日本低温
医学輸血学研究所・隅田研究室)
獣医臨床では輸血の必要性が高い半面、十分なドナー血液を入手す
るのは困難である。人医学では赤血球の凍結保存は凍害保護物質と
して Glycerol
(GL)
を用い−1
9
6℃で行われているが、GL は解凍後
の洗浄除去が必要であり、獣医臨床領域へは応用されていない。我々
は、非洗浄で輸血が可能な Hydroxyethyl starch(HES)を用い、
−1
9
6℃で急速冷却後に−8
0℃超低温フリーザーに移す2ステップ
冷凍保存法を試みた結果、ヘモグロビン(Hb)回収率、浸透圧脆
弱試験はともに GL 群よりも HES 群の方が良好であった。さらに、
−8
0℃凍結保存血の自己輸血では輸血後の重篤な副作用の発現は認
められなかった。そこで、−8
0℃凍結保存血の経時的な in
vitro
での変化を観察することにより、−8
0℃凍結保存での保存可能な期
間について検討した。【材料と方法】実験群は保存期間、2
4時間、
1ヵ月、2ヵ月、3ヵ月の保存血群と対照群(凍結保存を行ってい
ない血液)の5群とした。6頭の健常実験犬から採血後作製した濃
厚赤血球と2
5%HES を等量混合し、液体窒素内で急速凍結し、そ
の後−8
0℃超低温フリーザー内で2
4時間、1ヵ月、2ヵ月、3ヵ月
凍結保存後、急速解凍し、Hb 回収率、浸透圧脆弱性試験、走査電
子顕微鏡による観察を実施した。【結果および考察】2
4時間、1ヵ
月、2ヵ月、3ヵ月保存血群の Hb 回収率はそれぞれ9
7.
8±1.
6%、
9
5.
6±3.
6%、9
6.
3±3.
3%、9
5.
9±3.
3%と な っ た。Hb 回 収 率、
浸透圧脆弱性試験での5
0%溶血濃度、走査電子顕微鏡による観察に
よる赤血球の形態的な分類ではそれぞれに保存期間による有意差は
認められなかった。以上の結果により、 −8
0℃で HES を用いた
2ステップ冷凍保存法が犬赤血球を長期に保存する方法になりうる
ことが示唆された。
HS!
3
3
犬糸状虫成虫駆除を目的としたイベルメクチ
ン投与時のCTによる肺野の経時的観察
HS!
3
4
○高橋歩土 、山田一孝 、岸本海織 、清水
純一郎1、前田龍一郎2(1帯畜大・臨床獣医
学講座、2帯畜大・基礎獣医学講座)
1
1
1
犬糸状虫の抗凝固活性に関する研究
○土井純子1、亘敏広1、関泰一郎2、森友忠
昭1、野上貞雄1(1日本大学生物資源科学部・
獣医、2日本大学生物資源科学部・農芸化学)
【目的】イベルメクチン長期投与により犬糸状虫成虫駆除効果があ
ることが知られているが,死滅虫体による肺動脈塞栓の詳細な過程
は明らかにされていない.そこで今回,Computed Tomography
(CT)を用いて成虫駆除に伴う肺野の変化を経時的に観察した.
【材料および方法】ビーグル犬2匹(個体 A:1
6.
5kg,個体 B:
1
4.
5kg)に犬糸状虫第3期幼虫1
0
0隻を皮下接種し,1
0ヵ月後から
毎月1回,パナメクチンチュアブル(イベルメクチン,2
7
2µg/匹,
明治製菓)を経口投与し,定期的に検査を行った.動物は投与開始
1
5ヵ月後に安楽死し,生存成虫数の計測および病理学的検査を行っ
た.
【結果】個体 A の CT 画像上では,投与1ヵ月後から肺動脈塞栓
症と考えられる肺動脈末梢の拡張および肺炎が認められたものの,
投与7ヵ月後には消失した.また,投与1
3ヵ月後に新たな病変が認
められたが,翌月には消失していた.試験期間中,犬糸状虫症に起
因すると考えられる臨床徴候は認められなかった.病理検査時の生
存成虫数は,個体 A,B それぞれ2
5隻と3
1隻であった.CT 画像上で
肺動脈塞栓症を疑った部位の病理組織学的検査では,血栓,死滅虫
体による塞栓像および再疎通像が確認された.
【考察】CT 画像の経時的変化から,投与開始1ヵ月後に死滅した
成虫もいれば,1年以上経過した後に死滅した成虫もいることが示
唆された.このことから,肺動脈に寄生する成虫が徐々に死滅した
ため,臨床徴候を示さなかったと考えられた.さらに,投与を継続
することで致命的な症状を起こさず完全駆虫に至る可能性が示唆さ
れた.
【背景および目的】犬糸状虫(Di)症では、外科的虫体除去時に虫
体が損傷すると凝固異常を呈することがある。また、Di 抽出物の
静脈投与によりショックを伴い凝固が遅延することから、Di 虫体
成分中に抗凝固作用に関与する物質の存在が示唆されている。今回、
Di 成虫抽出物を正常犬の血漿に添加し、直接的な凝固遅延作用を in
vitro で確認したので報告する。
【材料および方法】3頭の正常犬のクエン酸処理血漿に2
0%の割合
になるように Di 抽出物を添加し、in vitro で活性化部分トロンボ
プラスチン時間 (APTT)およびプロトロンビン時間(PT)を
測定した。対照には、牛血清アルブミン(9,
0
0
0µg/ml)を用いた。
測定にはウエット法で、AMELUNG KC 4 A micro(Sigma
社)を用い、duplicate で測定してその平均値を凝固時間とした。
【結果】Di 雌雄成虫の抽出は PT に対してはほとんど影響を及ぼ
さなかったが、濃度依存的に APTT を延長した。この凝固遅延活
性は、雌雄虫体両者の抽出物中に存在すること、分子量1
0
0kDa 以
0分間の熱処理により失活する易熱性物質であること
上で、1
1
0℃/1
が確認された。
【考察】Di 症の病態解明において、Di の有する生理活性物質の把
握が重要である。本研究で確認された凝固遅延物質は、Ⅷ、Ⅸ、Ⅹ
Ⅰ、
ⅩⅡ因子、プレカリクレイン、高分子キニノーゲンなどの凝固系因
子に作用することが推測された。Di 虫体に直接的な抗凝固作用が
認められたことから、手術時や駆虫時などに成虫が破壊された場合
には、虫体による塞栓だけでなく、同時に凝固が遅延する可能性が
示唆された。
HS!
3
5
HS!
3
6
Flow cytometry 法による犬の活性化血小板・
網状血小板の検出−基礎的検討(第1報)
非ステロイド性消炎鎮痛剤長期投与における
犬の骨折治癒過程に及ぼす影響
○矢野久美子1、鬼頭克也1、高島康弘1(1岐
阜大学・獣医寄生虫病学分野)
○越智広樹1、原康1、原田恭治1、根津欣典1、
余戸拓也1、多川政弘1(1日本獣医生命科学
大学・獣医外科学教室)
[背景]フローサイトメトリーによる血小板解析(FC 法)は、測
定精度の高く多岐にわたる項目を解析できる。さらに、全血を用い
ることで、より生理的な条件下での解析が可能である。犬では FC
法による血小板解析の報告は少なく、全血による検討も不十分であ
る。[目的]犬の全血を用いた FC 法により、活性化血小板の検出
が可能であるかの検討と、血小板産生・消費の指標である網状血小
板(RP)
率測定条件を検討した。[方法]健常犬4頭の3.
2%クエン
、PAF
酸加全血に、ADP
(終濃度2
0 µM)
、collagen(同1
0 µg/ml)
(同1
0 nM)それぞれの刺激剤を添加し、血小板を刺激した。つ
いで、血小板活性化マーカーの CD6
2P 抗体、血小板・白血球凝集
体(PLA)検出のための CD4
5抗体を、それぞれ血小板マーカーで
ある CD6
1抗体と共に反応させ二重染色した。RP 率は、健常犬3
頭の EDTA 加全血を CD6
1抗体と Thiazole Orange(TO)で染色
し測定した。
[結果] 未刺激状態での CD6
2P 発現率は0.
2
4±0.
2
0%
(mean±SD)
,PLA 発現率は7.
7
4±5.
3
8%であった。これを ADP,
collagen,PAF で 刺 激 す る と CD6
2P 発 現 率 は,そ れ ぞ れ1.
1
8±
0.
8
4%,2.
4
6±1.
2
4%,2
2.
9
6±1
6.
3
2%に、PLA 発現率は15.
3
8±
7
5±1
4.
2
7%に有意に上昇した。 RP
5.
7
8%,1
8.
7
7±8.
0
7%,4
4.
率は、染色時間1時間では3.
6
5±0.
3
5%、3時間では6.
5±3.
2
4%
であった。また検体の最終希釈倍率2
0
0倍では、血小板と赤血球の
共在現象が見られ測定値への影響が考えられた。[考察]犬全血を
用いた FC 法により、各種刺激剤による血小板の活性化を鋭敏に検
出することができた。RP 測定については、測定値に影響を及ぼす
と考えられる条件について検討を進めている。
【背景】骨折治癒過程には様々なサイトカインや成長因子が複雑に
関わる。近年、マウスおよびラットを使用した実験において、非ス
テロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)の使用による、骨折治癒過程の
遅延ならびに癒合不全の発生が報告されており、NSAIDs が骨折治
癒過程に抑制的な影響を及ぼすことが示唆されている。【目的】
NSAIDs の長期投与が、犬の骨折治癒過程に及ぼす影響を検討する。
【材料および方法】健常ビーグル成犬6頭を NSAIDs 投与群(n=
3)と対照群(n=3)に分け使用した。両群共に、右側脛骨に単
純骨切り術を実施後、髄内ピンにより内固定を行った。NSAIDs 投
与群にはカルプロフェンを2.
2mg/kg で1日2回、12
0日間経口投
与した。実験期間中は術後1
2
0日目まで定期的に X 線撮影を行い、
骨治癒過程ならびに仮骨比を経時的に評価した。実験期間終了後、
Quantitative CT 法により骨切り部の骨塩量測定ならびに、安楽死
後左右脛骨の採取を行い、三点曲げ試験により骨強度を評価した。
【結果】X 線写真上、NSAIDs 投与群では、対照群と比較して骨治
癒期間の遅延が認められた。仮骨比は、両群共に術前と比較して術
後有意な増加を示したが、NSAIDs 投与群では、対照群と比較して
術後2
0日目から9
0日目まで持続的に有意な低値を示した。また、骨
切り部の骨塩量ならびに骨強度は、NSAIDs 投与群は対照群と比較
して低値を示した。【考察】犬の骨折後における NSAIDs の長期投
与は、骨折の二次性癒合で認められる外仮骨形成過程を顕著に抑制
し、骨治癒過程の遅延を生じることが示唆された。
HS!
3
7
犬の若齢期股関節形成不全に対して三点骨盤
骨切り術を適用した4股関節の術後関節鏡検
査所見
HS!
3
8
犬培養滑膜線維芽細胞に対するリポキシゲナー
ゼ(LOX)阻害薬のアポトーシス誘導作用
○須永隆 文1、奥 村 正 裕1,2、溝 部 文 彬1、田
崎竜也1、星野有希2、高木哲1,2、藤永 徹1,2
(1北海道大学・獣医学研究科診断治療学講
座獣医外科学教室、2北海道大学・獣医学部
診断治療学講座獣医外科学教室)
○山口伸也1,2、藤田幸弘1,2、原康2、織間博
光3、多川政弘2(1やまぐちペットクリニッ
ク・東京都開業、2日本獣医生命科学大学・
獣医外科学教室、3日本獣医生命科学大学・
獣医放射線学教室)
【はじめに】小動物整形外科領域において、犬の若齢期股関節形成
不全(Canine hip dysplasia!immature type:iCHD)症例に対する
三点骨盤骨切術(Triple pelvic osteotomy:TPO)
は有用な予防的
手術法として認識されている。しかしながら、適応症例に TPO を
実施した場合においても長期的には様々な程度の骨関節炎が進行す
ることが指摘されている。今回、TPO により治療を受けた iCHD
症例に対して、術前・術後に関節鏡検査を行うことにより、TPO
が骨関節炎の進行に及ぼす効果について検討したところ、若干の知
見を得たのでここに報告する。
【材料ならびに方法】症例:整形外
科学的および放射線学的検査の各所見に基づいて iCHD と診断され
た犬3症例の計4股関節を対象とした。手 術 法:TPO は Slocum
B.らの方法に準じて実施した。X 線検査:股関節伸展位腹背方向
X 線写真を使用して骨関節炎の重症度を評価した。Distraction Index
(DI)
:PennHIP 検査によって求めた。関節鏡検査法:Beale B.
らの方法に準じて実施し、関節組織の炎症の重症度および軟骨損傷
領域の評価方法は Holsworth IG.らの報告に準じて実施した。【成
績および考察】術前の各放射線学的検査所見と関節鏡検査所見を比
較した場合、それらは必ずしも一致しなかった。DI は術前に比較
して術後において減少傾向が認められた。関節鏡検査では、術前と
比較して術後には関節軟骨の損傷程度に変化が認められず、滑膜炎
の程度は減少傾向を示す傾向が認められた。一方、放射線学的な骨
関節炎の重症度に関しては、術後に若干の進行が認められた。今回
得られた成績より、iCHD に対する TPO は罹患股関節弛緩の程度
を改善し、骨関節炎の進行を軽減することが示唆された。
【背景】非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、犬の関節疾患の
対症療法薬として、消炎・鎮痛作用により症状を改善させることを
目的に使用されている。しかし、痛みの原因となる滑膜炎の発現・
消退機構におけるそれら薬剤の効果とその機序は明確に理解されて
はいない。
【目的】滑膜炎に対する NSAIDs の効果を検討するため、犬培養
滑膜線維芽細胞における LOX 阻害とアポトーシス誘導作用との関
連を評価すること。
【材料と方法】臨床的に関節に異常がない犬、変形性関節症罹患犬
および炎症性関節症罹患犬から採取した滑膜組織より、コラゲナー
ゼ処理により滑膜線維芽細胞を分離して単層培養した。インターロ
イキン(IL)!
1β 存在あるいは非存在下で、それぞれの培養細胞に
LOX 阻害薬(MK8
8
6および AA8
6
1)
、テポキサリン、メロキシカ
ムあるいはピロキシカムを作用させ、MTT 法によりそれぞれの細
胞活性を評価した。さらに、それら薬剤によるアポトーシス誘導を
ヘキスト3
3
3
4
2蛍光染色およびカスパーゼ3阻害試験により評価し
た。
【結果および考察】MK8
8
6、AA8
6
1、およびテポキサリンにより
有意に犬培養滑膜線維芽細胞にアポトーシスが誘導され、IL!
1β 存
在下ではその効果が減弱した。また、カスパーゼ3阻害薬によりそ
れぞれの薬剤によるアポトーシス誘導作用が減弱したが、テポキサ
リンの場合で最もその作用が抑制された。メロキシカムおよびピロ
キシカムでは犬培養滑膜線維芽細胞に対する明確なアポトーシス誘
導作用は認められなかった。これらの結果から、NSAIDs による犬
培養滑膜線維芽細胞のアポトーシス誘導作用は LOX の抑制と関連
していることが示唆された。
HS!
3
9
HS!
4
0
盲導犬訓練の継続的行動観察による盲導犬適
性判断に関する一検討
○水越美奈1(1日本獣医生命科学大学・獣医
学部獣医保健看護学科臨床部門)
【目的】盲導犬候補犬として訓練を始めた犬に対して、訓練開始直
後より定期的に訓練を観察することで、どの時点でどのような行動
がより早く適切に盲導犬としての適性に反映するのかについて明ら
かにすることを目的とした。【方法】実際の盲導犬候補犬であるラ
ブラドールレトリバー8頭を用い、観察開始時点を訓練開始時と一
致させた。観察は2週間ごと行ない最大2
2週を行った。観察1とし
て 歩行中に見られたストレス行動とその回数を調べ、次に、興奮
や不安の指標となる歩行中の尾の位置を観察した。【結果】盲導犬
になった犬では訓練の進行に伴いストレス反応の出現回数は減少し、
安定したが、その他の犬ではストレス反応の出現回数は安定しなかっ
た。ストレス反応は延べ4
4
2回観察されたが、これらのうち、自身
の鼻を舐める行動は全体の4
3%、地面の匂いを嗅ぐ行動は3
3%を占
めた。尾の位置は盲導犬になった犬とPR犬では比較的早期に尾の
位置が安定するが、その他の犬では最後まで不安定であった。【考
察】尾の位置やストレス反応の回数は、盲導犬になった犬とそうで
ない犬の間に差異があり、それらの相違はかなり早期から見られた。
鼻舐め行動や地面の匂い嗅ぎ行動などを犬ではカーミングシグナル
と呼ぶ。これらの行動は、新奇刺激に対して現れるストレス反応の
ひとつであり、また刺激に対する適応行動である。つまり、盲導犬
となる犬は、そうでない犬よりも新奇刺激に対する適応が早いと考
えることができるのかもしれない。今回、各々の相違が観察された
ので、訓練早期における適性スクリーニングテスト作成に向けて、
今後観察頭数を増やしていく予定である。
酪農学園大学付属動物病院行動治療科を受診
した犬4
6
3例の分析
○内田佳子1、竹本千佳子1、橋本佳奈1、森
元絢香1(1酪農学園大学・伴侶動物医療部門)
1
9
9
7年より現在までの約1
0年間に酪農学園大学付属動物病院行動治
療科を受診した犬の質問票を精査し十分な情報が得られた4
6
3例を
用いて、当科における受診犬を総括した。
これらは雄3
0
2(去勢済み1
3
1)
・雌1
3
8(避妊済み4
9)
・不明2
3で、
導入年齢は0週から8歳(2.
8±5.
2
6か月)齢、犬種は雑種5
6・柴
犬5
2・Mダックス4
6・Wコーギー2
8・ラブラドール2
5・シーズー2
0
などであった。体重は1.
0から7
0.
0㎏(1
1.
6±9.
0
4)で、入手先は
ペットショップ2
4
9・ブリーダー9
6・知人4
9などであった。飼育場
所は一軒家3
3
1・集合住宅1
2
1・不明1
0で、室内飼育3
8
3・屋外飼育
5
8・両方1
6・不明6であった。飼い主が初めて問題行動を認識した
年齢は2か月から1
3歳(1.
2±1.
7
8歳)齢、問題行動が深刻さを増
し何らかの対処が必要だと認識した年齢は2か月から1
3歳(1.
6±
2.
1
0歳)齢、受診時年齢は2か月から1
7歳(2.
9±2.
6
5歳)齢であっ
た。飼い主の訴えは家族への攻撃が2
4
0、吠えが1
2
8、他人への攻撃
が5
3、留守番ができない3
0などであった。攻撃の程度として出血す
る咬み方をしていた犬は2
3
5で、病院での加療を要する攻撃をした
犬は1
0
1であった。実際の診断名は、飼い主に対する攻撃(恐怖・
所有欲・優位性・母性等)3
5
5、他人に対する攻撃(恐怖・所有欲
等)7
2、他犬に対する攻撃(恐怖・優位性・テリトリー等)4
4、吠
え(テリトリー、興奮、恐怖、犬種特性等)1
2
8、分離不安3
5、恐
怖症(花火、雷、車)2
2、強迫障害(尾追い、舐性肉芽腫等)2
2な
どであった(重複あり)
。
以上のことから、飼い主が問題行動に気づいてから受診するまで
には行動が定着するのに十分な期間経過していること、ヒトに危害
を加える攻撃行動が多いことが示され、行動治療に対する啓発の重
要性が示唆された。
HS!
4
1
犬アトピー性皮膚炎における感作アレルゲン
の秋季全国調査
HS!
4
2
イヌのハウスダストマイトアレルギーにおけ
る DNA ワクチン療法の検討について
○津久井 利 広1、阪 口 雅 弘2、高 井 敏 朗3、奥
村康3、小川秀興3、大橋秀一1、増田健一4、
大野耕一5、辻本元5、岩淵成紘5(1ゼノアッ
ク日本全薬工業・ALS 研、2麻布大学・微生
物、3順天堂大学・アトピー研、4理化学研究
所・免疫・アレルギー、5東京 大 学・獣 医 内
科学教室)
○荒井延明1、垰田高広2、安田隼也1、安田
英巳2、原康3、多川政弘3(1スペクトラム・
ラボ・ジャパン㈱・テクニカルサービス、
2
安田獣医科医院・目黒区、3日本獣医生命科
学大学・獣医外科学教室)
【背景】犬のアトピー性皮膚炎(Atopic Dermatitis:AD)の原因・
悪化因子として環境因子、食物、マラセチア、ブドウ球菌などが挙
げられる。個体ごとに感作アレルゲンを把握するために血中特異 IgE
抗体の測定は臨床上有用とされているが、その結果の全国規模の調
査報告は見あたらない。【目的】2
0
0
6年9月から2
0
0
6年1
1月までの
秋季3ヵ月間に、日本全国の動物病院にて AD と診断され、皮膚
臨床症状が評価された犬5
8
0例(0.
2∼1
6歳)を対象とした特異IgE
抗体測定結果から、その値や陽性項目数と犬種、年齢、および症状
などの関連性について検討を行なうことを目的とした。【材料と方
法】ELISA 法を基本原理とした US スペクトラム社の SPOT TEST
を用いて9
2アレルゲン(環境抗原6
2種および食物抗原3
0種)に対す
る血清中特異 IgE 抗体値を測定した。市販の統計処理ソフトを用
いて統計解析を行ない、危険率5%未満を有意差ありとした。
【結
果】最も特異 IgE 抗体陽性率が高かった環境アレルゲンはハウス
ダストマイトで、以下ヨモギ、セイヨウトネリコ、ホルモデンドラ
ム、ヘラオオバコの順で高値を示した。食物アレルゲンに関しては
米・玄米、鶏肉・七面鳥、アヒル/カモで高値を示した。発症頻度
が上位の犬種は順に、ワイヤー・フォックス・テリア、ウエスト・
ハイランド・ホワイト・テリア、柴、シーズー、フレンチ・ブルドッ
クであった。陽性項目数との関連性においてブドウ球菌、タバコ、
マラセチアの順に有意な差がみとめられた。【考察】感作アレルゲ
ンの全国規模調査により、高率に陽性となるアレルゲンや犬種差の
動向を把握できたことは疫学上有意義であった。特にブドウ球菌、
タバコ、マラセチアは、抗原感作数を増強させる因子であることが
示唆された。継続的調査により、季節差を加えた動向を続報とする
計画である。
【目的】イヌにおけるアレルギー性疾患は近年増加傾向にあり、原
因アレルゲンのなかでもハウスダストマイトに対する IgE 反応性
は高く、安全性の高い免疫療法の開発は急務とされる。我々は、ハ
ウスダストマイト(Dermatophagoides farinae)主要アレルゲン(Der
f 2)を用いた DNA ワクチン療法の有効性の評価をイヌを用い
て実施した。【材料と方法】DNA ワクチン:哺乳類細胞発現ベク
ターに Der f 2を挿入したものを構築し、細胞での Der f 2タ
ンパク質の発現をウエスタンブロットにて確認した。イヌ:ビーグ
、
ル(約6ヶ月齢)1
2頭を使用した。群わけ:0.
5mg/dog 群(4頭)
1.
5mg/dog 群(4頭)およびコントロール(生理食塩水)群(4
頭)とした。ワクチン接種:1週間隔で5回筋注接種した。Der f
2人工感作:5回目のワクチン接種から5週間後に、組換え Der
f 2タンパク質をアラムアジュバントとともに2週間隔で3回皮
下投与した。IgG および IgE の検出:血清中の Der f 2特異的 IgG
および IgE の検出は、抗イヌ IgG 抗体(BETHYL 社)および組換
えイヌ IgE レセプター α 鎖を用いて実施した。【結果および考察】
5mg/dog 群のいずれにおいても、Der f
0.
5mg/dog 群および1.
2特異的 IgG 値の上昇が確認された。さらに、組換え Der f 2タ
ンパク質を用いた人工感作後の Der f 2特異的 IgE 値の測定の結
果、IgE の産生が抑制されることも確認された。また、血液学的お
よび血液生化学的検査においても安全性が認められたことから、DNA
ワクチンを用いたアレルゲン特異的免疫療法は有効性が高く、安全
性も高いと期待される。
HS!
4
3
HS!
4
4
犬の皮膚の創傷治癒におけるシクオロキシゲ
ナーゼ!
2の発現
○濱本岳志1、矢吹映1、松元光春1、藤木誠2、
三角一浩2、鈴木秀作1(1鹿児島大・獣医解
剖、2鹿児島大・獣医外科)
シクロオキシゲナーゼ!
2 (COX!
2) は炎症時に誘導される PG 合
成酵素であり、近年、創傷の治癒に関与することが指摘されている
が、犬の皮膚では報告がみられない。本研究では、犬の皮膚の創傷
治癒における COX!
2の発現を検索した。【材料と方法】実験は本学
動物実験委員会の承認を得て行った。実験には3
3∼4
0ヶ月齢のビー
グル5頭 (雄2、雌3) を用いた。麻酔下で背部の皮膚を3㎜ト
レパンを用いて6ヶ所生検した後、ナイロン糸で一針縫合した。そ
の 後 1, 3, 5, 7, 1
0お よ び1
4日 目 (D1∼D1
4) に 縫
合部分を中心とする皮膚を8㎜トレパンで生検し、ホルマリン固定
した。常法に従いパラフィン包埋し、HE 染色および COX!
2に対
する免疫染色を行った。皮膚の炎症および線維芽細胞様細胞の増殖
の程度は半定量的に評価した。また、表皮の COX!
2陽性細胞率を
定量した。【結果と考察】炎症スコアは、治癒の進行にともない有
意に低下し、線維芽細胞様細胞の増殖スコアは有意に上昇した。こ
の2つのスコアの間には高い負の相関が認められた。COX!
2陽性
反応は D1∼D7で浸潤した好中球のみならず創傷部位近傍の表皮
に認められた。表皮の COX!
2陽性細胞率を計測したところ D1∼
D7の群間に有意差は認められず、炎症および線維芽細胞様細胞の
増殖スコアとの間に強い相関は認められなかった。以上の結果から、
犬の皮膚では創傷の治癒過程で表皮に COX!
2が発現し、それは炎
症や線維芽細胞様細胞の増殖とは異なるメカニズムで創傷治癒に関
与すると考えられた。
表皮過形成に伴う犬ケラチノサイト分化関連
蛋白 Kdap 発現の変化
○西村雄 大1、篠 崎 奈 穂1、八 木 原 紘 子1、田
村恭一1、礒谷真弓1、高橋公正2、中垣和英3、
盆子原誠1、小野憲一郎4、鷲巣月美1(1日本
獣医生 命 科 学 大 学・獣 医 臨 床 病 理 学 教 室、
2
日本獣医生命科学大学・獣医病理学教室、
3
日本獣医生命科学大学・獣医野生動物学教
室、4東京大学大学院・獣医臨床病理学教室)
【背景と目的】ケラチノサイト分化関連蛋白(Kdap)は角化重層
扁平上皮特異的蛋白質で、これまでの解析から、表皮の分化に関与
する液性因子であること分かっている。ケラチノサイトは慢性的な
炎症や持続性の物理的刺激を受けると分化過程に異常を来たし、そ
の結果表皮の過形成が見られるようになる。今回、ケラチノサイト
の分化異常における Kdap の動態を検討するため、表皮の著明な過
形成がみられた犬の皮膚組織における Kdap の発現の変化を調べた。
【材料と方法】犬 Kdap 遺伝子を2
9
3T 細胞に導入し、リコンビナ
ント Kdap を作製した。これを抗原としてマウスを免疫し、抗犬 Kdap
モノクローナル抗体を作成した。病理組織検査で著しい表皮の過形
成がみられた感染性およびアレルギー性皮膚炎の皮膚組織を用いて、
抗犬 Kdap 抗体による免疫組織染色を行った。【結果および考察】
正常な皮膚において、Kdap は主に表皮顆粒層のケラチノサイトで
発現が認められた。一方、感染性およびアレルギー性皮膚炎では、
いずれも過形成した表皮有棘層および顆粒層のケラチノサイトで発
現が見られた。このことから、Kdap は、表皮の分化異常に関連し
て発現が増加すると考えられた。
HS!
4
5
胸 部 X 線 像 に て diffuse patchy
infiltrates を示した猫4例
alveolar
HS!
4
6
○城下幸仁1、松田岳人2、柳田洋介2、佐藤
陽子2(1相模が丘動物病院・呼吸器科、2相
模が丘動物病院・一般診療科)
犬の脾臓腫瘤における超音波造影法の有用性
の検討
○久楽賢治1、浅野和之1、寺町さちほ1、菅
野信之1、関真美子1、手島健次1、枝村一弥1、
田中茂男1(1日本大学・獣医外科学研究室)
【背景】Diffuse patchy alveolar infiltrates(DPAI)は猫特有の
胸部異常陰影だがその意義に一定の見解がない。【目的】DPAI を
示した猫の診断と結果、および臨床所見を記述する。【対象と方法】
2
0
0
2年1
1月から2
0
0
7年1月まで胸部 X 線像にて DPAI を示し気管
支鏡検査で確定診断された猫の診療記録を後向きに調べた。【結果】
対象は4例(3.
1
!
1
0.
5歳;F2/M2;アメリカンショートヘアー
2/雑種2)
。診断は下気道感染症2例;無菌性急性肺炎1例;特発
性間質性肺炎1例であった。結果は完治1例;部分治癒1例;診断
後2日以内に死亡2例であった。死亡例は下気道感染症の2例で気
道内吸引が誘因となった。症状は呼吸困難4例;浅速呼吸3例;発
熱2例;吸気努力1例;急性発咳1例;慢性発咳1例;流涎1例、
随伴疾患は肥満3例;削痩1例;唾液腺炎1例、血液検査は白血球
数増加3例;高血糖3例、動脈血ガス分析は低酸素血症4例;高炭
酸ガス血症1例;過換気1例、他 X 線像は気管内に扁平塊病変1
例;心陰影拡大1例、気管支鏡検査の肉眼所見は中枢気道内に粘稠
分泌物2例;異常なし2例、気管支肺胞洗浄液(BALF)解析は好
中球数増加4例(6
0
!
9
8%)
;総細胞数増加3例(>5
0
0
0,
5
0
4
0,
4
1
3/
mm3);培養陽性2例(Pasteurella multocida>1.
0×1
05,
Pasteurella
2
spp.1.
0∼9.
0×1
0CFU/ml)であった。初期に全例で酸素室が利
用され状態改善1例;やや改善2例;維持1例であった。診断後の
治療は気道内吸引2例;吸入療法1例;内科療法2例であった。治
癒例では診断後6または3日目に DPAI が消失した。
【考察】DPAI
に対し下気道感染症は予後注意の鑑別診断である。全例で呼吸困難
症状、低酸素血症、BALF に好中球増加を認めた。
【背景】医学領域において、超音波造影法は肝臓や脾臓を含む腹部
臓器の腫瘤病変の診断に有用であると報告されている。【目的】今
回、健常犬および脾臓腫瘤犬に用いて超音波造影法を施行し、その
時相の評価と臨床的有用性について検討した。【材料および方法】
実験1:脾臓の超音波造影法における血管相の検討のために、健常
犬9頭を用いた。超音波造影剤投与後1分間、脾動脈内に設置した
関心領域(ROI)
内の輝度を記録した。さらに、健常犬1
0頭を用いて、
超音波造影剤投与後1分毎に脾実質、門脈、大動脈内に設置した ROI
内の輝度を記録し、実質相を検討した。実験2:本学動物病院外科
に来院した脾臓腫瘤犬1
0頭(血管肉腫3頭、血腫3頭、結節性過形
成4頭)
に対して超音波造影法を実施し、得られた染影画像から特
徴的な所見を検討した。【結果】実験1:脾動脈では、超音波造影
剤の出現時間は9.
2
6±2.
3
8秒、最大輝度到達時間は2
7.
2
6±4.
0
5秒
であった。一方、脾実質は投与後1分から高輝度を示し、その後に
減衰が見られなかったのに対し、門脈および大動脈の輝度は有意に
減衰し、投与後5分ではほとんど消失していた。実験2:結節性過
形成は、血管相では腫瘤の濃染を認め、実質相では腫瘤の染影は部
分的になったのに対し、血管肉腫および血腫では血管相、実質相と
ともに明らかな染影度が得られない傾向を示した。【考察】犬の脾
臓の超音波造影法では、血管相は投与後約1
0秒から、実質相は投与
後5分から評価することが最適であると示唆された。それを元に、
犬の脾臓腫瘤の自然発生例に対して超音波造影法を実施した結果、
結節性過形成では特徴的な所見が得られたものの、血管肉腫と血腫
の鑑別は困難であった。
HS!
4
7
HS!
4
8
犬の膵疾患における超音波ヒストグラム解析
の有用性に関する基礎的研究
○中村健介1、森下啓太郎1、滝口満喜2(1酪
農学園大学・附属動物病院、2酪農学園大学
獣医学部・伴侶動物医療部門)
【目的】非侵襲的な超音波検査は膵臓において主要な画像診断法で
あるが、装置や検者の技量に依るところが大きく客観性に欠ける短
所を有する。超音波ヒストグラム解析は組織性状の評価に有用で、
医学領域では膵疾患や肝疾患の診断に応用されている。そこで本研
究では、超音波による膵臓の定量的評価法を確立する目的で、正常
犬および膵疾患が疑われた症例犬における膵臓の超音波ヒストグラ
ム解析を行い、超音波ヒストグラム解析の臨床応用の可能性につい
て基礎的検討を行った。【方法】リニア型プローブ(1
3MHz)を用
いて右腎頭極部における膵右葉の横断像を描出し、ヒストグラム解
析を行って平均輝度(MD)
、標準偏差(SD)ならびに膵右葉の横
断面の面積を算出した。【結果】正常犬(n=10)における膵右葉
の超音波画像は均一で、周囲脂肪組織のエコー源性とほぼ等エコー
性であった。一方、症例犬(n=4)においては実質の腫大、およ
び内部エコーの不均一性が認められた。MD 値の平均値±標準偏差
は両群間で有意差は認められなかったが、SD 値および面積の平均
値±標準偏差においては、症例犬では正常犬よりも有意に高値を示
し た(P <0.
0
5, P <0.
0
1)
。【考 察】本 研 究 の 結 果 か ら SD 値 は
MD 値では捉えきれない膵臓組織性状の変化をより鋭敏に反映する
可能性が考えられ、SD 値の測定は膵疾患の診断に有用である可能
性が示唆された。また、面積の測定は腫大性の膵疾患の診断におい
て有用であることが示された。今後はヒストグラム解析における明
確で統一された条件・方法を確立するとともに、多くの臨床例での
情報を集積することで、犬の膵疾患診断における超音波ヒストグラ
ム解析の有用性を明らかにする必要がある。
ヨード濃度の異なる造影剤製剤の血管造影 CT
における造影効果の比較
○経田涼1、山田一孝1、岸本海織1、清水純
一郎1(1帯畜大・臨床獣医学講座)
【背景】ヨード造影剤のX線吸収率はヨード濃度に比例すると考え
られているが、生体において造影剤の浸透圧、粘度および分子量な
ど物性が異なる場合、ヨード濃度の高い製剤の造影効果が必ずしも
高くなるわけではない。本研究ではヨード濃度や物性の異なる3つ
の造影剤製剤を同じヨード投与量で使用して血管造影 CT を行い、
その造影効果を大動脈時間濃度曲線を用いて比較した。
【材料および方法】臨床上健康なビーグル犬4頭(クロスオーバー)
、オムニパー
を用い、造影剤はオムニパーク3
5
0(3
5
0mgI/ml 製剤)
2
0(3
2
0mgI/ml 製剤)
ク1
8
0(1
8
0mgI/ml 製剤)およびビジパーク3
3ml/秒で投与し、投与
を全て6
0
0mgI/kg で使用した。造影剤は1.
開始と同時に5秒間隔で7
0秒間のダイナミックスキャンを行い、腹
大動脈に関心領域を設定し時間濃度曲線を作成して評価した。
【結果および考察】大動脈時間濃度曲線において最大 CT 値はビジ
パーク3
2
0、オムニパーク3
5
0、オムニパーク1
8
0の順、Area Under
Curve はビジパーク3
2
0、オムニパーク1
8
0、オムニパーク3
5
0の順
に高値であった。以上のことから、造影剤の造影効果は必ずしもヨー
ド濃度に比例するものではなく、造影剤の物性や投与条件によって
も左右されることが示唆された。
HS!
4
9
オムニパーク180、オムニパーク240、イソビ
スト2
40を用いた脊髄造影および脊髄造影 CT
の造影効果の比較
HS!
5
0
Perfusion CT による犬の膵血流測定法の検
討
○岸本海織1,2、山田一孝1,2、方波見奈々1、
辻 喜 久3、清 水 純 一 郎1,2、森 下 康 之5、岩 佐
亜 紀 子5、岩 崎 利 郎2,4、三 宅 陽 一1,2(1帯 畜
大・臨床獣医学講座、2岐阜大・臨床連合講
座、3京大・医・消化器内科、4農工大・農・
獣医内科、5東芝メディカルシステムズ(株)
・
東京本社)
○清水純一郎1,2、山田一孝1,2、岸本海織1,2、
岩崎利郎2,3、三宅陽一1,2(1帯畜大・臨床獣
医学講座、2岐阜大・臨床連合講座、3農工大・
農・獣医内科)
【目的】脊髄造影の承認が得られている造影剤製剤はイソビストと
オムニパークであるが、造影剤製剤により濃度と粘稠度が異なるた
め造影効果も異なると考える。そこで各造影剤製剤におけるX線お
よび CT での造影効果を比較した。
【材料および方法】ビーグル犬3頭を用い、3種類の造影剤製剤
(オムニパーク1
8
0、オムニパーク2
4
0、イソビスト2
4
0)による脊
!
6間穿刺)をそれぞれ3頭のクロスオーバー
髄造影(0.
3ml/kg、L5
にて行った。脊髄造影直後にX線撮影、造影後5、1
5、3
0、4
5およ
び6
0分に CT 撮像し、6
5分後に再度X線撮影を行った。各造影剤製
剤の造影効果は CT 値として数値化し、X線像は獣医師3名による
4段階評価により数値化した。
【成績および考察】CT 値の評価:造影5分後では、尾側は粘稠度
の高いイソビスト2
4
0(粘稠度 3.
9)が最も造影効果が高く、頭側
は粘稠度の低いオムニパーク1
8
0(粘稠度 2.
0)が最も造影効果が
高かった。つまり粘稠度が低い造影剤製剤ほど拡散しやすいと考え
られた。造影1
5分以降ではオムニパーク1
8
0の造影効果は全体的に
低下した。一方オムニパーク2
4
0(粘稠度 3.
3)およびイソビスト
2
4
0は尾側で造影効果が低下したが、頭側では逆に上昇した。これ
は造影直後には十分拡散しなかった造影剤製剤が時間経過とともに
頭側へ拡散したためと考えられた。X線の評価:注入直後はいずれ
の造影剤製剤も十分な造影効果を示した。またX線像においてもイ
ソビスト2
4
0はオムニパーク1
8
0およびオムニパーク2
4
0より尾側で
強く造影効果を示した。以上、各造影剤製剤の造影効果には製剤の
粘稠度が影響すると考えられた。
【背景】犬の壊死性膵炎はしばしば致死的となるため,急性膵炎に
おける膵実質の壊死を早期に診断することが重要である.膵実質の
虚血が壊死を引き起こすことが報告されていることから,膵実質の
血流の変化を早期に把握できれば,膵実質壊死への発展を予見でき
る可能性がある.そこで本研究では,ヒトで脳の虚血部位の判定に
用いられる Perfusion CT 法を利用して,犬の膵血流の測定を試み
た.
【方法】動物はビーグル犬(n=1
0)を使用した.造影剤はイオヘ
,3
0秒間の dynamic
キソールを使用し(2
0
0 mgI/kg, 2秒間注入)
撮像を行った.データの解析には CT 装置に付属の脳血流解析ソフ
トウェア(CBP study, 東芝メディカルシステムズ)を使用し,
box!MTF 法および maximum slope 法により膵実質の毛細血管系
0
0 ml tissue/min)を計測した.
における膵血流(ml/1
【結果】脳血流解析ソフトウェア上で算出された box!MTF 法に
0
0 ml tissue/min,maximum
よる膵血流の平均値は5
2.
6±2
4.
3 ml/1
0
0 ml tissue/min であっ
slope 法による平均値は1
5
2.
7±1
0
3.
0 ml/1
た.
【考察】box!MTF 法と maximum slope 法で測定値に差が見られ
た.また使用した解析ソフトウェアがヒトの脳血流測定用のもので
あることから,算出された数値の定量性を確保するためには,実測
した膵血流との比較検討が必要である.しかしながら今回の研究か
ら,Perfusion CT を用いることで膵血流を測定できる可能性が示
唆された.また,今回は正常例における検討であるが,急性膵炎例
でのデータを蓄積することで,臨床応用も可能であると考える.
HS!
5
1
HS!
5
2
マルチスライス CT を用いた犬の体表面積計
測
○三好雅史1、石川濶1、宮原和郎1(1帯広畜
産大学・附属家畜病院)
【背景】多くの抗癌剤の投与量は体重(BW)ではなく体表面積
(BSA)当たりで計算され、動物の BSA は Meeh(1
8
7
9)の式、
BSA(cm2)=k×BW(g)2/3によって推定されている。k は体形
によって変化する定数であり、犬では k=10.
1が一般的に用いられ
ているが、この値は6頭の子犬から得られたものであり、全ての犬
に適用するのは不適切かもしれない。従来の BSA 計測法は多大な
労力と時間を要し、精度も低いと考えられている。マルチスライス
CT(MSCT)によって物体の表面積を精度良く計測可能であるが、
MSCT を用いて犬の BSA を計測した報告は見当たらない。【目的】
MSCT を用いて体形の異なる2犬種の BSA を計測し、k=10.
1を
用いた Meeh の式による BSA 推定値と比較検討すると共に、k の
品種差について検討する。
【材料と方法】ビーグル成犬7頭とダッ
クスフンド成犬6頭を全身麻酔下にて4列 MSCT で撮像し、得ら
れたボリュームデータから3D 画像解析ソフト(TRI/3D!VOL、
RATOC)を用いて BSA を計測した。その値を BW と共に Meeh
の式に代入して k を求めた。【結果】MSCT を用いることにより、
犬の BSA を容易に計測することが可能であった。両犬種において、
MSCT による BSA 計測値と k=1
0.
1とした Meeh の式による BSA
推定値の間には有意差が認めら れ た。k は ビ ー グ ル で1
1.
0±0.
2
(mean±SD)、ダックスフンドで1
0.
5±0.
3であり、両犬種間に有
意差が認められた。【考察】MSCT は新たな BSA 計測法として有
0.
1×BW(g)2/3ならびにこ
用であると考えられ、BSA(cm2)=1
の式に基づく BSA 換算表について、犬種による体形の違いを考慮
する必要性が示唆された。
癌免疫治療に向けた独立分泌型イヌインター
ロイキン‐1
8遺伝子の作製
○杉浦喜久弥1、Wijewardana Viskam1、藤
本真理子1、赤澤隆2、八幡麻奈1、鳩谷晋吾1、
稲葉俊夫1(1大阪府立大学・先端病態解析学、
2
大阪府成人病センター・分子遺伝学部門)
【背景と目的】インターロイキン(IL)!
1
8は、T細胞からのイン
ターフェロンガンマ(IFN!γ)の産生を誘導し、抗腫瘍免疫効果を
著しく増強するサイトカインである。しかし、IL!
1
8遺伝子は小胞
体内にタンパクを送り込むためのシグナルシークエンス(SS)を
欠くため、同遺伝子を単独で哺乳類細胞に導入しても、細胞からサ
イトカインタンパクを分泌させることができず、遺伝子導入による
癌治療への応用が困難となっている。そこで、本研究では、他のサ
イトカイン遺伝子の SS を IL!
1
8遺伝子に連結することによって、
単独遺伝子導入でも IL!
1
8サイトカインの分泌が可能な独立分泌型
IL!
1
8遺伝子を作製し、その特性を解析した。【材料と方法】既報の
DNA 配列を基にプライマーを設計し、イヌ末梢血単核球から得た
cDNA から、IL!
1
8 cDNA の成熟タンパクコード配列と IL!
1
2 p
4
0 cDNA の全塩基配列を PCR によって増幅し、クローニングを
行った後、塩基配列を確認した。クローニングした IL!
1
2 p4
0
cDNA を myc タグ付きの哺乳類発現ベクター(pcDNA3.
1)に組
み込んだ後、SS 下流の塩基配列を切断して除き、そこに IL!
1
8の
成熟タンパクをコードする配列を組み入れることにより、SS 連結 IL
!
1
8 cDNA を含む発現ベクター(SS!IL!
1
8
!pcDNA)を作製した。
【結果と考察】SS!IL!
1
8
!pcDNA を導入した CHO 細胞において、
myc タグタンパクの発現を蛍光抗体法によって確認できた。また、
この CHO 細胞の培養上清をイヌ末梢血 T 細胞に作用させたところ、
IFN!γ の産生が有意に増加した。これらの結果から、SS を連結し
たイヌ IL!
1
8遺伝子は、単独でも機能的タンパクを細胞から分泌で
きることを証明できた。この遺伝子を樹状細胞や癌周囲組織に導入
することによって、癌免疫が増強できると思われる。
HS!
5
3
犬のテロメレース遺伝子プロモーター領域の
クローニングと活性解析
HS!
5
4
○小澤世里香1、今村智子1、岡元理恵1、杉
林加奈1、谷戸三紗1、安田賢1、柿市徳英1、
田中良和1(1日本獣医生命科学大学・獣医衛
生学教室)
猫 MHC クラスⅠ
(FLA!A,!B)
遺伝子のクロー
ニングとタイピング
○佐野順一1、藤原哲1、島津美樹1、斎藤敏
樹1(1財団法人 日本生物科学研究所・実験
動物部)
腫瘍の治療においては遺伝子治療の有用性が期待されている.遺伝
子治療は実験的には高い効果が報告されているものもあるが,臨床
応用に至るには解決すべき課題が残されている.正常細胞に比べ腫
瘍細胞で TERT のプロモーター活性が高いことを利用し,本来な
らば TERT の遺伝子が存在する領域に細胞の自殺遺伝子を組み込
んで癌細胞に導入することで,癌細胞を自殺に導くことができない
かと考えた.TERT のプロモーター活性を利用することで,TERT
のプローモーター活性が抑制されている正常細胞には影響を与えず,
癌細胞で特異的に自殺遺伝子を発現させることができると考えられ
る.本実験ではその第一段階として犬の TERT プロモーター領域
をクローニングし,プロモーターの最小活性領域の決定と,癌細胞
と正常細胞との TERT のプロモーター活性の違いの観察を試みた.
初めに犬の TERT プロモーター領域のクローニングを行った.次
に転写活性に最も重要なプロモーター領域を決定するために,いろ
いろな細胞株用いてプロモーター領域の長さが異なる6種類の変異
体を PCR 法により作成し細胞へ導入後,デュアルルシフェラーゼ
アッセイにより TERT プロモーター活性を測定した.犬の TERT
の転写活性の測定の結果,−2
7
3∼−8
4の領域がプロモーターの活
性化に,−5
7
3∼−2
7
4の領域にリプレッサー領域が存在すると考え
られた.また,正常線維芽細胞では活性が認められなかった.本実
験の結果は癌の遺伝子治療において癌細胞を特異的に抑制するため
に TERT のプロモーターが有用であることを示していた.今後の
課題として,犬の TERT プロモーターを有するアポトーシス誘導
遺伝子をクローニングし,癌細胞を特異的に細胞死に導くか検討し
ていく予定である.
【背景・目的】HLA(Human Leukocyte Antigen)は高度な遺伝子
多型性を有し、ヒト免疫機構に重要な役割を果たしており、HLA
の遺伝子多型の検索は骨髄移植・臓器移植の適合性の確認や疾患感
受性の研究に欠かすことのできないものとなっている。猫における
MHC は FLA と呼ばれるが、まだ十分な検索が行われておらず、
特にクラスⅠの報告は少ない。そこで、従来報告の少ない FLA ク
ラスⅠ遺伝子(FLA!A, !B)
の塩基配列および多型を明らかにし、
臓器移植や疾患感受性の研究に役立てることを目的とした。【材料
と方法】当研究所にて確立した猫のうち、1
0頭の末梢血より単核細
胞を採取し、mRNA を抽出後、cDNA を合成し、ヒトおよび猫 MHC
の塩基配列を参考にして設計したプライマーを用いてクローニング
を行い、その塩基配列を解析した。【結果・考察】FLA!A 遺伝子
に関しては1
1個、FLA!B 遺伝子に関しては3個の多型を検出した。
FLA!A, !B 遺伝子ともに3
6
2個のアミノ酸をコードし、その構
造は塩基配列から Leader 領域、α1
!domain 領域、α2
!domain 領域、
α3
!domain 領域、膜結合領域、細胞内領域に分類された。塩基配
列を解析した結果、遺伝子多型は FLA!A, !B 遺伝子ともに各
領域に渡り広く存在することが判明した。我々が得たクローンは
Yuhki らが報告したクローンとは異なっており、猫の品種や地域に
より異なった多型が存在することが示唆された。
HS!
5
5
HS!
5
6
性差が犬における LPS 刺激によるサイトカ
イン産生へ与える影響
犬末梢血単球由来樹状細胞の効率的誘導条件
の検討
○奈須俊介1、岡野昇三1、藤塚淳史1、朴永
泰1、佐野忠士1、高瀬勝晤2(1北里大学・小
動物第3外科、2北里大学・小動物第1外科)
○吉田昌充1、斉藤康貴1、佐藤隆治1、西山
美衣1、田村恭一1、礒谷真弓1、八木原紘子1、
盆子原誠1、小野憲一郎2、鷲巣月美1(1日本
獣医生命科学大学・獣医臨床病理学教室、
2
東京大学大学院・獣医臨床病理学教室)
【背景】感染、侵襲に対する免疫反応およびサイトカイン産生には、
性差があることが報告されており、一般に女性は男性より免疫応答
が強いと考えられている。しかし、犬における報告は少なく十分に
は解明されていない。そこで、性差が犬におけるサイトカイン産生
にどのような影響を与えているのかを明らかにする目的で、検討1
では、培養全血における LPS 刺激による TNF!α および IL!
1
0産生
量を測定した。また、検討2では、LPS 静脈内投与による末梢血
単核球(PBMC)
における TNF!α および IL!
1
0遺伝子発現量を測定
した。【材料と方法】検討1では、臨床上 健 康 な ビ ー グ ル 犬8頭
(雄4頭、雌4頭)を用いた。全血を RPMI!
1
6
4
0で2倍希釈し、LPS
を添加して3
7℃、5%CO2下で2
4時間培養後に上清を
(1
0
0 pg/ml)
回収した。TNF!α および IL!
1
0産生量は、ELISA 法にて測定した。
検討2では、臨床上健康なビーグル犬6頭(雄3頭、雌3頭)を用
いた。両群に LPS 5 ng/kg を静脈内投与し、LPS 投与前、投
与後3、6時間に採血した。TNF!α および IL!
1
0遺伝子発現量は、
比重遠心法にて PBMC を分離し、Real!time PCR にて定量した。
【結果と考察】培養全血における TNF!α および IL!
1
0産生量は、
雄群が雌群に比較して約2倍高値を示した。また、TNF!α および
IL!
1
0遺伝子発現量は、雄群では LPS 投与前に比べ3時間、6時間
とも増加傾向にあったのに対して、雌群では LPS 投与前に対し3
時間で抑制される傾向を示した。以上より、犬における LPS 刺激
に対するサイトカイン産生には性差があることが示唆された。
【背景】樹状細胞(DC)はきわめて強力な抗原提示能を持つこと
から、犬の癌免疫治療への応用が期待されている。これまで犬の骨
髄からの DC の分化誘導法を確立し、in vivo で効率的に免疫反応
を誘導することを示してきた。骨髄から DC を誘導する場合、採取
可能な細胞数は4
!
5 x 1
07/head と多いが、骨髄の採取は動物の
負担が大きい。一方、末梢血単球由来 DC の分化誘導法は報告され
ているが、従来の方法では得られる DC の数が少なく、より効率的
な誘導法を確立する必要がある。そこで今回、末梢血単球由来 DC
の誘導条件について検討した。
【材料と方法】健常犬から血液を2
0
ml 採取し、比重1.
0
7
7あるいは1.
1
1
9の Ficoll 液を用いて単核細胞
を回収した。次いで、単核細胞をプレートで2時間あるいは2
4時間
培養し、プレートに付着した細胞のみを犬組み換え GM!CSF およ
び IL!
4存在下で7日間培養した。得られた細胞を、フローサイト
メトリーにより表面抗原の解析を行った。【結果および考察】従来
報告されていた比重1.
0
7
7の Ficoll 液を用いて2時間培養し付着細
胞を得る方法では、培養後の CD1
1c 陽性細胞は5
0 %以下であり、
1
1
9
得られた DC の数は1
!
2 x 1
06個であった。これに対し、比重1.
の Ficoll 液を用いて2
4時間培養し付着細胞を得る方法では、3
!
4 x
1c 陽性細胞は8
0 %以上と高率に認
1
06個の DC が得られ、CD1
められた。以上のことから、今回用いた方法では、従来の方法に比
べ高い純度で、かつより多くの DC が回収できることが明らかとな
り、今後、骨髄由来 DC と共に癌免疫治療に利用可能と考えられた。
HS!
5
7
犬の自己活性化型カスパーゼ3の作製とその
活性の検討
○染谷麻美1、澁谷祐希1、鈴木康之1、木脇
彰人1、礒谷真弓1、八木原紘子1、田村恭一1、
盆子原誠1、小野憲一郎2、鷲巣月美1(1日本
獣医生命科学大学・獣医臨床病理学教室、
2
東京大学大学院・獣医臨床病理学教室)
【背景と目的】カスパーゼ3はアポトーシスの最終段階を担うため、
腫瘍細胞に導入する自殺遺伝子として有用と考えられる。しかしな
がら、野生型のカスパーゼ3は不活性であり、活性化には上位カス
パーゼの作用を受ける必要がある。カスパーゼ3遺伝子には2つの
サブユニット(Large subunit;LS および Small subunit;SS)
をコードする領域が含まれている。近年、N 末端側の LS と C 末端
側の SS をコードする塩基配列を逆に組み換えることで、カスパー
ゼ3は自己活性が可能な構造になることが報告された。今回、犬カ
スパーゼ3遺伝子の LS および SS 遺伝子の組み換えを行い、その
活性を検討した。【材料と方法】犬の末梢血単核球を7
2時間培養し、
RNA を抽出した。PCR により犬カスパーゼ3遺伝子の全長を増幅
し、その PCR 産物を鋳型として LS および SS 領域を PCR 増幅し
た。SS が N 末端側に、LS が C 末端側に位置するよう遺伝子を組
み替えた後に発現ベクターに組み込み、自己活性化型カスパーゼ3
発現ベクターとした。自己活性化型カスパーゼ3発現ベクターおよ
び野生型カスパーゼ3を組み込んだベクターを犬の組織球性肉腫株
化細胞に遺伝子導入し、導入後の生細胞数により自己活性化能を評
価した。また、対照としてベクターのみの遺伝子導入も行った。
【結果と考察】自己活性化型カスパーゼ3発現ベクターを導入した
犬の組織球性肉腫株化細胞は、野生型カスパーゼ3発現ベクターお
よびベクターのみを導入した細胞に比べ、総生細胞数が明らかに減
少した。このことから、今回作製したカスパーゼ3の組み換え体は
自己活性化能を有しており、犬の腫瘍における自殺遺伝子として有
用であると考えられた。