書評「ワンダフル・バタフライ 不思議にみちたその世界」 内藤 忍 京都教育大学 大学院 [email protected] キーワード:理科教育,チョウ (受付:2006 年 1 月 30) 本田計一・村上忠幸 著 発行所:化学同人 発行年月日:2005 年 5 月 30 日 ISBN:4-7598-0995-3 定価(本体 1500+税) 「モンシロチョウはいつからいつまで見られますか」これは著書「ワンダフル・バタフ ライ 不思議にみちたその世界」からの一文である。私は,著者の一人の村上先生から授 業の中で同じ問いかけをされた記憶がある。モンシロチョウは学内でもよく見かけるが, じっくり考えてみるといつごろ飛んでいるものか分からないものである。普段なにげなく 過ごしていると,色々なものを見落としている。しかし,五感を使い,興味を持って眺め てゆくといつもとは違うものが見えてくる。この本との出会いは,このことをもう一度再 認識させてくれる。 本書は, 「素晴らしきチョウの世界」と「チョウのいる生活」の2部構成でできている。 「素晴らしきチョウの世界」では,チョウのつくり,ガとの違い,飛んでいる季節などチ ョウの基本的な解説から,交尾や産卵などにまつわるチョウの不思議について述べられて いる。ここでは村上先生の大学院での研究や,学生が行った実験などの話も多く扱われて おり,苦労話やその当時考えておられたことなどにも触れられていて,現在学生である私 はとても励まされた。 「チョウのいる生活」では,実際にモンシロチョウやアゲハチョウの 飼い方が述べられている。卵の見つけ方から,飼育に必要となるもの,卵,幼虫,蛹,成 虫のそれぞれの飼い方など,イラストや写真入りで細かく記載されている。実際の体験を 基に書かれているため,困ったことや,工夫する点も具体的に書かれていてとても分かり やすい。また,アオムシを使った摂食実験や,産卵実験なども取り上げられており,学校 でも扱える内容なので,子どもたちの興味関心にあわせて用いることもできるだろう。 この本の節々で,小学生の子どもを持つ「お父さん」としての著者が描かれている。学 校で「チョウ」の学習が始まるのを心待ちにし,子どもたちに「チョウを好きになっても らいたい,興味を持ってもらいたい」という熱い気持ちとは裏腹に,娘とその友達関係に 空回りをしてしまう父親。普段見ることのできない一面を,この本の中で見たような気が した。著者はあとがきの中で,この本の位置づけを「チョウをテーマとした化学生態学と 理科および科学教育が融合した本」としている。とても難しいような気がするが,丁寧な 口調で書かれており,エッセイのようにとても読みやすい。科学的なことも多く触れられ ているが,それがチョウの不思議につながり,自然界への興味に変わったように思う。理 科を専門とする人はもちろんだが,あまり興味がなかった人にも是非この本を手にとって いただき,もう一度周りの自然に目を向けてもらいたい。 - 55 -
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