産業ニュース 炭素繊維市場が拡大、日本メーカーの競争力高まる

マーケットウィークリー・751号
産業ニュース
2013.10.11
炭素繊維市場が拡大、日本メーカーの競争力高まる
作成者:柿崎裕
日本メーカーが炭
素繊維市場シェア
60%弱
炭素繊維市場が拡大期を迎えている。鉄より強く、アルミより軽い特徴を活か
して航空機、宇宙、スポーツ、レジャー、医療機器、建設、機械、自動車など用
途は拡大している。炭素繊維は技術力や多額の設備投資、研究開発などが必要で
参入壁が非常に高い。事実、1990年代に日米欧アジアの多くの企業が参入したが、
顧客からの要求レベルの高さや、中長期に渡る開発費用の負担などで00年頃から
事業撤退、事業譲渡、生産縮小を余儀なくされた。そんな中で日本メーカーは経
営ビジョンがぶれなかったことや、20年以上に及ぶ政府からの開発費用の支援な
どを受けて世界をリードしている。特に帝人(3401)の子会社の東邦テナックス、
東レ(3402)、三菱ケミカルHD(4188)の子会社三菱レイヨンの3社で世界シェア60%
弱を占めている。製造コストなどの問題はあるが、今後は自動車用途が本格的な
普及期に入ると見られ、日本メーカーは中長期的な市場拡大の恩恵を享受しよう。
炭素繊維の特徴は
軽く、強く、錆び
ない
炭素繊維は1879年にトーマス・エジソンによって発明された素材である。最大の
特徴は軽くて、強くて、錆びない。比重は鉄の4分の1で、アルミやガラス繊維よ
りも軽い。比強度は鉄の10倍、ひずみにくさを示す比弾性率は7倍。その他の特性
としては加工性が良く、耐熱性、耐低温性、耐薬品性、X線透過率に優れ、熱や
電気の伝導性が高い。さらに環境にも優しい。炭素繊維を1トン製造する時に二酸
化炭素を約20トン排出するが、自動車や航空機の軽量化に伴い燃費向上などトー
タルでは排出量の大幅削減につながる。具体的には自動車30%、航空機20%を軽
量化することで、10年間でそれぞれ約50トン、約1,400トンの削減効果が見込まれ
ている。炭素繊維の使用方法は単独ではばらけてしまうため、多くの場合が樹脂
と一緒に使われる。糸を一方向に並べ、シート状にした後で樹脂を浸透させる。
これは炭素繊維強化樹脂(以下CFRP carbon fiber reinforced plastics)と
呼ばれている。理想的な素材ではあるが、問題点もいくつかある。炭素繊維自体
の価格が鉄やアルミに比べ非常に高く、製造工程が多く、破損した場合は全部を
取り替えなければならないがリサイクル市場がないなどデメリットがある。
◇PAN系炭素繊維の大手メーカー年間の生産能力
(単位:トン)
企業名
06年
08年
10年
12年
[レギュラートウ(RT)]
東レ
10,900
17,900
17,900
21,100
東邦テナックス
9,100
11,800
13,900
13,900
三菱レイヨン
5,200
7,400
7,400
7,400
ヘクセル(米国)
2,500
4,000
4,200
7,200
台湾プラスチックス
2,150
6,150
6,150
6,900
サイテック(米国)
2,300
2,300
1,900
3,400
ダウアクサ(米国・トルコ)
-
-
1,500
1,500
[ラージトウ(LT)]
ゾルテック(米国)
6,200
8,500
10,500
11,500
SGL(ドイツ)
2,900
3,900
4,000
4,000
三菱レイヨン
500
750
750
2,700
(注1) レギュラートウは糸数が 2 万 4,000 本までのもの、ラージトウは 4 万本以上のもの
(注2) 炭素繊維はPAN系とピッチ系がある。前者アクリロニトリルから後者は石油副産物から製造、性能面も異なる
(出所)炭素繊維協会資料、各社資料よりCAM作成
マーケットウィークリー・751号
2013.10.11
東レが米国炭素繊
維を買収、自動車
向けに参入
13年9月27日に東レは米国炭素繊維メーカー・ゾルテック社の全株式を5億8,400
万ドルで買収すると発表した。かねてからラージトウへの参入を検討していた東
レに対して、売却の打診があったと見られる。買収価格は直近3カ月の平均価格に
約20%のプレミアムを付けて買い取る。素材セクター内ではやや割高な買収価格
であるが、市場成長性や技術力などを考慮すれば許容範囲であろう。ゾルテック
社は1988年にラージトウ炭素繊維事業に参入した。13年の生産能力は1万2,200ト
ンで、世界3位の生産能力を持つ。12.9期の業績は売上高が1億8,600万ドル、営業
利益が2,564万ドル。売上高の50%以上が風力発電用ブレーキ向けである。今回の
買収で炭素繊維のグローバルでの生産能力が30%超になる。これは世界シェア2位
の帝人を20%近く引き離すことになる。さらに製品ラインナップの拡充や、長期
的に需要をけん引する自動車向けでも競争力が高まったと言えよう。東レは高機
能のレギュラートウに経営資源を集中させていた。しかし自動車向けは部位によ
りラージトウとレギュラートウの使い分けが進むと見られ、今回の参入に至った。
自動車向けで技術
進歩
ポテンシャルがもっとも高い自動車向けに採用されない最大の要因は価格であ
ろう。CFRPの価格は数万円/㎏と、鉄の約100円/㎏、アルミの約500円/㎏に比
べて割高である。作業工程が多く、1日の生産量が限定されているため、生産コス
トが高い。東レはRTMという新しい成型技術を使い、生産時間を短縮させてい
る。一方で帝人はGMと量産化に向けて共同開発を実施している。加熱すると柔
らかくなる熱可塑性樹脂CFRPを使い自動車生産に求められている1工程1分を
達成した。さらに熱可塑性樹脂CFRPは再利用や補修にも優れている。
高級車以外にも採
用が拡大
自動車向けの炭素繊維の用途が拡大している。炭素繊維が使用されている自動
車は従来ランボルギーニのアヴェンタドールLP700-4や、トヨタ自動車のレクサス
LFAなどの2,000万円を超える高額自動車や、受注生産による生産台数が極めて
尐ないものに限られていた。しかしBMW社の電気自動車 i3は量産化予定で、価
格も相対的に低い。13年9月から量産を開始し、11月に欧州で発売予定である。価
格が3万4,950ユーロ(約465万円)。車重は1,195㎏と、同じく電気自動車である
日産自動車LEAFの1,440㎏に比べて大幅な軽量化が図られている。
◇主なCFRP採用車
社名
日産自動車
フィアット
トヨタ自動車
ランボルギーニ
マクラーレン・オートモーティブ
富士重工業
ダイムラー
BMW
車名
GT-R
AifaRomeo 8C Spider
レクサスLFA
Aventador LP700-4
MP4-12C
インプレッサWRX STIts
Mercedes-Benz SL
i3
適用部位
ラジエータ
外板・後部リッド
キャビン
キャビン
キャビン
ルーフ
後部リッド内側
キャビン
発売
2007年
2009年
2010年
2011年
2011年
2011年
2012年
2013年
価格
869万円
約2,650万円
3,750万円
約4,000万円
約2,800万円
422万円
約920万円
約465万円
(出所)各社資料よりCAM作成
◇主な炭素繊維関連企業
銘柄
コード
帝人
3401
東レ
3402
三菱ケミカルHD
4188
(単位:円、倍)
株価
216
609
428
(注)株価は10月8日の終値、PERは14.3期予
(出所)各社資料よりCAM作成
PER
コメント
26.7 東南アジアやインドなどで用途開発を推進
14.2 14.3期予の炭素繊維複合材の売上高1,050億円
13.0 大型産業・自動車用途に重点を置いて事業展開