トマト黄化葉巻病の防除対策を掲載しました (H25.7.18)

平成 25 年 6 月 1 日
トマト黄化葉巻病の防除対策
防除指導用資料
生物工学研究所 生物防除研究室
知っておこう
トマト黄化葉巻病とは
・病原体
トマト黄化葉巻ウイルス(Tomato yellow leaf curl virus;以下 TYLCV)
トマトとトルコギキョウに感染するイスラエル系統とトマトのみに感染するマイルド系統
がありますが、県内では両系統が発生しています。ウイルスの病原力(発病の程度)に差は
ありませんが、発生している系統により使える耐病性品種が異なります。
・感 染
TYLCV に感染したトマトを吸汁したタバココナジラミが、健全なトマトを吸汁することで
感染します。接ぎ木によっても感染しますが、種子伝染や接触伝染はしないと報告されていま
す。
・症 状
発病初期は上位葉の葉色が淡くなり、小葉の縁が軽く巻いて葉脈間が黄化します。発病が進
むと、生長点付近の節間が短くなり側枝が密生します。発病後は開花しても結実しません。ま
た、生育初期に感染した場合、ほとんど収穫は望めません。
図1 トマト黄化葉巻病の症状(左:発病初期、右:発病が進み頂部が密生状態)
・県内の発生状況
県内では、平成 18 年に初めて
発生を確認しました。生物工学研
究所で遺伝子診断を実施した結
果、平成 24 年度までに 30 市町
から採集されたトマトで、
TYLCV の感染が認められまし
た(図2)
。
:イスラエル系統とマイルド系統
:イスラエル系統
:マイルド系統
:不検出
:未調査
図2 病害診断でトマト黄化葉巻ウイルス
1
が検出された地域(平成18~24 年度)
タバココナジラミとは
・生 態
体長 0.8mm 程度の白い羽を持つ微小害虫です。春秋の気温では約1か月で世代を繰り返し、
雌成虫はトマトでは約 60 個、キュウリとナスでは 160 から 200 個産卵します。また、トマ
トで育った成虫は約 20 日、キュウリとナスで育った成虫は約 30 日の寿命です。
・バイオタイプ
農薬に対する感受性や寄生植物など、生物学的な特性によって分類されるグループで、日本では
4 種のバイオタイプ(B、Q、JpL、Nauru)が知られています。このうち、バイオタイプB(=
シルバーリーフコナジラミ)とバイオタイプQが TYLCV の感染に関わっています。
・寄生植物
トマト、ナス、キュウリ、スイカ、メロン、イチゴ、ダイコン、ダイズ、セイタカアワダチ
ソウ、ホトケノザ、ヒマワリ等に寄生します。
図3 タバココナジラミ(左:4 齢幼虫、右:成虫)
タバココナジラミの見分け方
タバココナジラミはオンシツコナジラミによく似ていますが、左右の羽が重なり合わないこと、
体が黄色っぽいことで区別できます。しかし、バイオタイプは、遺伝子診断によらなければ判別
できません。
タバココナジラミ成虫
オンシツコナジラミ成虫
タバココナジラミ幼虫
図4 タバココナジラミとオンシツコナジラミの違い
表1 タバココナジラミとオンシツコナジラミの見分け方
タバココナジラミ
オンシツコナジラミ
卵
白色→淡黄色、褐色
白色→黒褐色
1~3 齢幼虫
淡黄色
無毛
淡黄色
山高(長蛇円形腹部端が細い)
淡黄色。細い
重ならない
羽と葉面が 45 度の角度
透明から白色
周りに毛が多数
白色
厚みがある(小判型)
白色。幅広
重なる
羽と葉面が平行
4 齢幼虫
(最終齢)
成虫の体
成虫の羽
2
オンシツコナジラミ幼虫
トマト黄化葉巻病の感染経路
TYLCV に感染したトマトをタバココナジラミが吸汁することで、TYLCV を体内に保毒(保持)
した虫が発生します。TYLCV を保毒したタバココナジラミは、一生涯ウイルスを伝搬する能力
を持ち続けます。
ハウス栽培のトマトへのトマト黄化葉巻病の感染経路には、感染苗の持込みと、TYLCV を保毒
したタバココナジラミの侵入があげられます(図5)
。特に、感染苗を持込んだ場合は、生育初期に
感染が拡がるため大きな被害が発生します。
タバココナジラミ
が発病トマトから
TYLCV を保毒
TYLCV を保毒したタバココナ
ジラミにより苗に感染
感染苗
感染苗の栽培ハウス
への持ち込み
発病株
ハウス
保毒虫がハウスに侵入
ハウスから出た保毒虫が
他のトマトに感染させる
健全株
ハウス内でタバココナジラミが増殖するとともに
保毒虫が増え、急速に病気が拡がる
保毒虫(ウイルスを持っている)
トマト前作の栽培作物でタ
バココナジラミの発生が多
いと感染の危険性が高まる
無毒虫(ウイルスを持っていない)
図5 タバココナジラミによる TYLCV の伝搬経路
3
トマト黄化葉巻病防除対策のポイント
発病株の早期抜き取りと適正処分
トマト黄化葉巻病の見分け方
・発病初期は、上位葉の葉色が薄くなり、健全株と比べて伸長が遅れ気味に見えます。
生長点付近の小葉は、縁が軽く巻き葉脈間が黄化します(図6)。
・生理的な障害と異なる点のひとつに、発生の仕方がハウス内でスポット的であることがあげ
られます。発病が進むと、生長点付近の節間が短くなり側枝が密生して奇形となります(図7)。
こうなると、すでに多くのトマトが感染してしまっており、防除対策は手遅れに…。
図6 発病初期の小葉の症状
図7 発病が進んだ状況
発病株の処理
発病株は病気の伝染源になるため、見つけ次第抜き取り土中に埋めるか、ビニル袋に
入れて完全に腐らせてから処分してください。
*摘除した脇芽・葉・果実などの残渣も同様に処分してください。
*果実が着いているからといって、放置しないでください。発病した部分を折り取っても、
ウイルスはすでに全身に分布しています。
4
ウイルスを媒介するタバココナジラミの防除対策
黄化葉巻病防除の三原則:「入れない、出さない、増やさない!」
入れない
・ハウス開口部への防虫ネット(0.4mm 目合い以下)の設置
(ただし、0.4mm 目合いネットでも、完全には侵入を防止できません)
・光反射マルチ、UVカットフィルムの活用
・黄色粘着シートの設置 (2m 間隔以内で設置)
・地域単位で作付け体系を統一
出さない
・栽培終了時の蒸し込みによる拡散防止
(萎れたトマトの上でも幼虫は生存できるので、完全に枯らして全ての虫を餓死させます)
・残さ、発病株の適正処分
・ハウス内の除草の徹底 (蒸し込みでトマトを枯らしても、雑草に寄生しています)
増やさない
・前作作物における防除 (特に抑制トマト栽培前の作物)
※参考データ:H23 年度主要成果「トマト黄化葉巻病の多発生には前作からの
タバココナジラミ発生量が関与する」
・播種時、鉢上げ時、定植時の粒剤処理
・防除効果の高い薬剤の選択と散布の工夫(丁寧な散布、薬剤のローテーション)
・ハウス内や周辺の除草
タバココナジラミはハウス周辺の雑草にも寄生
ハウス周辺に雑草があると、寄生しているタバココナジラミがハウス内に侵入します。特に、
セイダカアワダチソウやシロザ等には多数寄生しています。
タバココナジラミ成虫
図10
ハウス間のセイタカアワダチソウ
ハウス周辺の雑草に寄生するタバココナジラミ
シロザ
キュウリやナスもタバココナジラミの増殖源
キュウリやナスではタバココナジラミの増殖速度が速いので、これらのトマトハウスや周辺への植
付けをできるだけひかえ、植え付けたときは防除を徹底します。
5
薬剤処理による育苗期の防除
感染苗の本圃への持込みは、大きな被害につながるため、育苗期の防除対策が重要です。
保毒虫により感染するが、タバココナジ
ラミの防除で感染拡大は抑えられます
播種
鉢上げ期
:殺虫剤の土壌処理
定植期
本圃栽培
4 週間有効
4 週間有効
発芽
図8 トマト播種時または鉢上げ時の殺虫剤処理効果(平成 24 年度主要成果)
播種時のニテンピラム粒剤処理:播種1週間後(発芽開始時)から4週間後(鉢上げ時期)
まで防除効果が持続します。
鉢上げ時のニテンピラム粒剤
またはジノテフラン粒剤処理:鉢上げ4週間後まで防除効果が持続します。
注意:ニテンピラム粒剤は、播種時または鉢上げ時のいずれか 1 回しか使えません。
ただし、保毒虫が侵入した場合は殺虫効果が現れる前に TYLCV に感染することがあります。
参考防除例
育苗期の薬剤処理によるタバココナジラミの防除例
ハウス開口部への 0.4ミリ目合ネット展張、成虫捕獲用の黄色粘着シートなどの物理的防除
法を併用してください。
播種
例1
発芽
定植
鉢上げ
本圃栽培
(育苗培土混和)
(株元散布)
散布剤による防除
ニテンピラム粒剤
(ベストガード粒剤)
ジノテフラン粒剤(アルバ
リン/スタークル粒剤)
鉢上げ
例2
1
購入苗の場合
(育苗培土混和)
ニテンピラム粒剤
(ベストガード粒剤)
定植 3 日前
本圃栽培
(株元散布)
ジノテフラン粒剤(アルバリ
ン/スタークル粒剤)
図9 育苗期のタバココナジラミの防除例
※ニテンピラム粒剤の使用基準は、播種時または鉢上げ時の育苗培土混和、育苗期の株元処理、
および定植時の植穴処理土壌混和のいずれか1回以内です。
※ジノテフラン粒剤の使用基準は、育苗期の株元散布 1 回以内、および定植時の植穴土壌混和 1
回以内です。
農薬の使用にあたっては、適用作物、適用病害虫、使用基準を確認し、周辺圃場に薬剤が飛散
しないよう注意しましょう!(本資料中の農薬登録情報は、H25 年6月 1 日現在のものです)
6
トマト黄化葉巻病の遺伝子診断技術
参考資料
「マルチプレックス PCR 法を活用したトマト黄化葉巻ウイルスの迅速診断法」
(平成 22 年度主要成果)
試料
FTAカード
① 試料の転写・固定
② パンチング
③ 洗浄
④ PCR
葉をFTAカード上に置き、
試料固定部分を
ディスクをチューブ
洗浄液を除去して
軽く押し付けて組織液を
デ ィ ス ク 状
に移して、0.1 x TE
PCR反応に供試する。
転写させた後、室温で1時
(φ 2mm)にくり抜く。
で10分間洗浄する。
間乾燥させる。
図11 FTAカードを用いたPrint-capture法による核酸の簡易調整法
表2 植物由来遺伝子およびTYLCV系統特異的検出用プライマーの塩基配列
検出遺伝子
植物由来遺伝子
(rbcL)
TYLCV
プライマー名
rbcL1-F
rbcL1375-R
Is2574-V
IsM2756-V
TY412-C
配列
増幅サイズ
5’-ATGTCACCACAAACAGAGACTAAAGC-3’
5’-AAGCRGCVGCWAGTTCVGGRCTCCA-3’
5’-CCGTTGGTTCTTACATTGG-3’
5’-CAATTTATTTGGAAGCGCTTAGG-3’
5’-CTCGTAAGTTTCCTCAACGGACTG-3’
1.4kbp
630bp1)
440bp2)
1) イスラエル系統を検出するプライマーセットは、Is2574-V / TY412-Cであり630bpの増幅バンドが得られる。
2) マイルド系統を検出するプライマーセットは、IsN2756-V / TY412-Cであり440bpの増幅バンドが得られる。
<反応液組成>
2 x Ampdirect Plus
5.0 l
10 x Primer Mix*
1.0 l
ExTaq
0.1 l
滅菌水
3.9 l
Total
10.0 l
*10 x Primer Mix:表1のプライマーを
全て10 Mとなるように混合して調製。
<反応条件>
95℃ ― 2min
|
95℃ ― 20sec
60℃ ― 20sec
35cycle
72℃ ― 60sec
|
72℃ ― 2min
図12 FTAカード調製核酸を鋳型としたマルチプレックスPCR法の条件
M
1
2
3
rbcL遺伝子 : 1.4kbp
イスラエル系統 : 630bp
マイルド系統 : 440bp
図13 Print-capture-マルチプレックスPCR法によるTYLCVの診断
M:100bp ladder マーカー、1:トマト健全葉、2:イスラエル系統感染葉、3:マイルド系統感染葉
1 ×TAE、1.5%アガロースゲル、35分間電気泳動
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