役員の分掌変更の翌事業年度に支払われた金員を当該役員に対する退職金として取り 扱うことはできないとした事例(裁決事例集第 36 集 312 頁) 税理士 有賀武夫 はじめに 役員退職金に対する損金算入の否認事例として、高額な退職金及び、支給実態(支払時 期、分割払いの理由)に関するものがある。本件事例は後者に関するものである。 役員退職金に対する法人税法上は、法第34条第2項及び政令70条2号において役員 退職給与で不相当に高額な役員退職給与は損金に算入しないと規定している。しかし、通 常の役員報酬としての給与についての損金算入の要件は、法第34条第1項で詳細に規定 しているものの、役員退職給与については損金算入時期等の規定がない。このため実務に おいては役員退職給与の損金算入時期を示した基本通達を基に運用されているものと思わ れる。したがって、役員退職給与の損金算入の可否については、この通達の解釈適用を巡 っての争いとなっている。当に通達が法令に代わって運用されている現状の問題点を事例 を通して検討するものである。 Ⅰ 事案の概況 1 事案の概要 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、役員の分掌変更に伴い退職慰労金 として役員給与を支給することを決定し、その一部を当該分掌変更のあった事業年度及び その翌事業年度に支給したとして、これを当該支給をした各事業年度の損金の額にそれぞ れ算入して法人税の確定申告をしたところ、原処分庁が、当該分掌変更の翌事業年度に支 給された金員は退職給与ではなく損金の額に算入されない役員給与に当たるとして法人税 の更正処分等及び源泉徴収に係る所得税の納税告知処分等を行ったことから、請求人が、 当該金員は退職給与として取り扱われるべきであるなどとして、その全部の取消しを求め た事案である。 2 イ 審査請求に至る経緯 請求人は、平成 19 年 9 月 1 日から平成 20 年 8 月 31 日までの事業年度(以下「平成 20 年 8 月期」といい、他の事業年度についても同様に略称する。)の法人税について、青色 の確定申告書を法定申告期限までに申告した。 ロ 原処分庁は、平成 23 年 5 月 27 日付で、平成 20 年 8 月期の法人税について、所得金 額及び納付すべき税額の増額更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加 算税の賦課決定処分(以下「本件過少申告加算税賦課決定処分」という 。)をするととも に、平成 20 年 8 月分の源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)について、 本件第二金員が退職所得でなくて役員賞与に当たるとして、当該役員賞与に対する源泉所 得税と退職所得としての源泉所得税との差額を「納税告知処分等」欄記載のとおりの納税 告知処分(以下「本件納税告知処分」という 。)及び不納付加算税の賦課決定処分(以下 「本件不納付加算税賦課決定処分」という。)をした。 -1- ハ 請求人は、これらの処分を不服として国税通則法の規定により、平成 23 年 6 月 23 日 に審査請求をした。 3 基礎事実 以下の事実については、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結 果によってもその事実が認められる。 イ 請求人の代表取締役であった D(以下「本件役員」という。)は、平成 19 年 8 月 31 日に代表取締役を辞任し、非常勤取締役となった(以下、本件役員が非常勤取締役となっ たことを「本件分掌変更」という 。)。本件分掌変更に伴い、本件役員の役員報酬は月額 870,000 円から 400,000 円に減額となった。 ロ 請求人の取締役会は、平成 19 年 8 月 10 日付で、「退職慰労金の計算」と題する書面 (以下「本件計算書」という。)を作成した。本件計算書には、本件役員に退職慰労金と して支給する役員給与について「250,000,000 円を退職慰労金の額とし、支払は、平成 19 年 8 月末日 75,000,000 円、平成 20 年 8 月以降残額とする(3 年以内)」旨記載されている (以下、この 250,000,000 円の役員給与を「本件退職慰労金」という。)。 なお、本件計算書のほかに、本件退職慰労金の支給決定等に関する取締役会議事録及 び株主総会議事録等の書面はない。 ハ 請求人は、本件退職慰労金として、平成 19 年 8 月 31 日に 75,000,000 円を、平成 20 年 8 月 29 日に 125,000,000 円をそれぞれ本件役員に支払った(以下、平成 19 年 8 月 31 日 に支払われた 75,000,000 円を「本件第一金員」といい、平成 20 年 8 月 29 日に支払われた 125,000,000 円を「本件第二金員」という。)。 なお、本件退職慰労金のうち残額の 50,000,000 円は支払われていない。 ニ 請求人は、本件役員が実質的に退職したと同様の事情にあり、本件第一金員及び本件 第二金員が退職給与に当たるものとして、それぞれ平成 19 年 8 月期及び平成 20 年 8 月期 の損金の額に算入して法人税の確定申告をするとともに、本件第一金員に対する源泉所得 税○○○○円を平成 19 年 9 月 6 日に、本件第二金員に対する源泉所得税○○○○円を平 成 20 年 9 月 8 日にそれぞれ納付した。 ホ 請求人は、原処分に係る調査において、原処分庁に対し、要旨次のとおり記載された 平成 22 年 10 月 20 日付の書面(以下「本件書面」という。)を提出した。 (イ) 平成 19 年 8 月 10 日∼ 正式に臨時株主総会及び臨時取締役会を開催し、退職金の 支給等について決定。新代表の選任を行った。当社の業態では常に資金需要があり、今後 の取引を考えると金融機関に対し欠損の決算書は出したくない。そこで分割払とし支給時 に経費計上することとした。当期の支給金額は 75,000,000 円とした。新代表には B が選 任された。いずれについても異議なく承認、可決された。これらの議事録の控えについて は、司法書士事務所にも確認したが現在見つかっていない。 (ロ) 平成 19 年 8 月末 (ハ) 平成 20 年 8 月 退職金として 75,000,000 円を支給。 退職金として 125,000,000 円を支給。その後は金融機関に対して欠 損の申告書は出せないとの理由から残金の支払を一時中断している。 ヘ 原処分庁は、本件第二金員は退職給与ではなく損金の額に算入されない役員給与に当 たるとして、更正通知書に更正の理由を付記して本件更正処分及び本件過少申告加算税賦 -2- 課決定処分を行うとともに、本件第二金員が役員賞与に該当するものとして本件納税告知 処分及び本件不納付加算税賦課決定処分を行った。 4 争点 イ 本件更正通知書の理由付記に不備があるか否か。(注・本稿では省略した。) ロ 本件第二金員を退職給与として取り扱うことができるか否か。 5 争点ロについて イ 原処分庁 下記の理由から、本件第二金員を退職給与として取り扱うことはできない。 (イ) 基本通達9−2−32(以下「本件通達」という)は、役員の分掌変更等により、 実質的に退職したと同様の事情にある役員に対して支給した臨時的な給与を退職給与と認 める旨定めている。本件通達は、引き続き在職する場合の一種の特例として打切り支給を 認めているものであり、本件通達が適用されるのは、その趣旨及び弊害防止の必要性から、 原則として、債務の確定だけではなく、実際に金銭等の支給があった場合に限られるとこ ろ、資金繰り等の理由による一時的な未払金等への計上までも本件通達の適用が排除され るものではないが、未払の期間が長期にわたったり、長期間の分割払となっていたりする ような場合には適用されない。 (ロ) 本件退職慰労金は、平成 22 年 8 月期においていまだ残金が支払われておらず、未 払の期間が長期である場合に該当する。また、本件第二金員の分割支給の理由につき、一 括で支給できる資金力がなかったことのほか、これまでに続けてきた黒字決算が途切れる こと及び赤字決算を銀行に提出できないことなどを理由としていることからすると、利益 調整の目的があったと認められ、本件通達の射程外であるといわざるを得ない。 ロ 請求人 下記の理由から、本件第二金員を退職給与として取り扱うことができる。 (イ) 本件通達は、役員が現実に退職しなくとも、常勤役員が非常勤役員になったことな ど、その職務内容、役員としての地位が激変したことによる場合で、実質的に退職と同様 の事情にあるものについては「退職した」場合に該当するものとして取り扱う旨定めてい る。そして、本件通達の定めにより「退職した」として取り扱われる以上、退職給与の損 金算入時期について定めた法人税基本通達 9 − 2 − 28 が適用されるというべきであり、 同通達のただし書の定めにより、法人がその退職給与の額を支払った日の属する事業年度 の損金の額に算入できる。 (ロ) 請求人は、本件役員が本件分掌変更により退職したと同様の事情にあることから、 本件退職慰労金を支払うことを決定したものの、資金繰りの都合により一括で支払うこと ができなかったため分割で支払い、その支払った事業年度の損金の額に算入したものであ り、このことは、上記各通達の定めに従っている。 なお、原処分庁は、分割支給に利益調整の目的があった旨主張するが、赤字決算を回 避し黒字決算を組む目的は、翌事業年度における銀行借入れを円滑に実行することにあり、 このことは、正に資金繰りの事情に該当するものである。 Ⅱ 審判所の判断 -3- イ 本件役員は、本件分掌変更により請求人の代表権を有しなくなるとともに、非常勤 取締役として実質的にも請求人の経営に直接関与しなくなったことが認められ、その報酬 額もおおむね 50 %以上減額されていることが認められることからすると、本件分掌変更 は、本件通達に定める実質的に退職したと同様の事情がある場合に当たると認めることが できる。 しかしながら、本件第二金員は、本件分掌変更から 1 年近くを経て支給されたもので あり、本件分掌変更の時に支給された金員とはいえない。そこで、本件分掌変更の時に当 該支給がされなかったことが合理的な理由によるものであるかどうかについてみると、平 成 19 年 8 月末における現金及び預金の残高のみでは本件退職慰労金の全額を支給できる 状況にはなかったことがうかがえるものの、請求人の代表取締役は、本件第二金員の支給 時期に関する事情について、当座貸越額に余裕はあるものの、先行して資金需要があるな どの資金繰りの事情によるものである旨説明するにとどまり、本件退職慰労金に関する株 主総会議事録や取締役会議事録が存在せず、請求人が主張する資金需要を認めるに足りる 具体的な資料もない。以上の事実及び証拠からすると、本件分掌変更から、請求人の役員 退職慰労金規程で定められた支給期限である 2 か月を大幅に経過する 1 年後に本件第二金 員が支払われることとなった事情やその支払額の決定に関する経緯が明らかでないという ほかはない。かえって、上記基礎事実や代表取締役の回答内容によれば、本件退職慰労金 の総額に関する株主総会議事録又は取締役会議事録は存在せず、本件計算書においては、 「平成 19 年 8 月末日 75,000,000 円 平成 20 年 8 月以降 残額とする(3 年以内)」と、 本件第一金員を除く本件退職慰労金について支払時期やその支払額を具体的に定めずに漠 然と 3 年以内とされており、本件退職慰労金の支払に関しては、請求人の決算の状況を踏 まえて支払がされていることがうかがえることからすると、本件第二金員をその支払日の 属する事業年度において損金算入を認めた場合には、請求人による恣意的な損金算入を認 める結果となり、課税上の弊害があるといわざるを得ない。 以上によれば、本件分掌変更の時に本件第二金員が支払われなかったことが合理的な 理由によるものであると認めるに足りる証拠はなく、本件第二金員を本件通達の定めに基 づき退職給与として取り扱うことはできないというべきである。 ロ この点に関し、請求人は、赤字決算を回避する目的は、翌事業年度における銀行借入 れを円滑に実行することにあり、これが資金繰りの事情に該当する旨主張するが、請求人 の主張する事情は翌事業年度以降における銀行融資を円滑に実施するにとどまるものであ って、分掌変更等に際して支給をすることができなかった合理的な理由に当たるとはいえ ないから、この点に関する請求人の主張は採用できない。 また、請求人は、本件第二金員について法人税基本通達 9 − 2 − 28 の定めが適用され るべきである旨主張するが、同通達は実際に退職した役員に対する退職給与の損金算入時 期について定めたものであって、本件役員に退職の事実はないのであるから、本件第二金 員について同通達の定めは適用されず、また、役員の分掌変更等に際し退職給与として支 給した役員給与の取扱いについて定めた本件通達の取扱いからしても、本件第二金員を退 職給与として取り扱うことはできないことは上記(イ)のとおりであるから、請求人の主張 は採用できない。 -4- Ⅲ 研究 裁決に反対 本件裁決の判断について 1 本件事案は、支払われた金員が役員退職給与か役員賞与かの区分の問題である。支出 した法人サイドではそれが損金算入の可否の問題となり、支払を受けたサイドでは負担す る所得税の多寡の問題である。すなわち、退職所得の優遇課税の制度適用の可否を巡る争 いである。 2 本件事案の要旨は、分掌変更に伴う地位又は職務内容が激変し、実質的に退職したこ とと同様の事情にあると認められながら、事業年度を跨いだ分割払いが、退職した役員の 例外規定とされる本件通達における注記の「原則として、未払金等の額は含まれない」に 該当するから、本件第二金員を退職給与として取り扱うことはできず、したがって役員賞 与と認定し、損金不算入処分及び源泉所得税の納税告知処分を行ったものである。これは 同通達を、あたかも損金算入の限定要件として執行通達としての機能を認めたものである。 しかし、通達は上級庁の下級庁に対する所掌事務に関する指揮命令に過ぎず納税者たる 国民を拘束するものでない*1 が、本通達に関しては裁判所においても、役員としての地位 又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められるときは分掌 変更又は再任の時に支給される給与も「退職給与」として損金算入が相当であり 、また、 *2 このような場合には多くの企業では退職給与を支給する慣行があるという企業実体に配慮 したもの *3 としているが、この裁判例は分割払いの事案ではない。従って分割払いの扱い についての判断は不明である。しかし、本件通達が具体的に規定している事情はあくまで 例示にすぎないのであるから、分掌変更又は退任の時に支給される給与を「退職給与」と して損金に算入することができるか否かについては、当該分掌変更又は再任に係る役員が 法人を実質的に退職したと同様の事情にあると認められるか否かを、具体的な事情に基づ いて判断する必要があるというべきであると判示している。そこで、職務内容の激変に伴 い実質的に退職したと同様の事情にあると認められるとして審判所においても判断された 本件事案は、しかし、一方において分割払いに合理的理由がななく、本件第二金員をその 支払日の属する事業年度において損金算入を認めた場合には、請求人による恣意的な損金 算入を認める結果となり、課税上の弊害があるとして損金算入を否認した。 しかし、役員退職給与の支給基準は、一般的に、勤続年数×最終の月額報酬額×功績倍 率とされていて、役員の就任期間が長期に及ぶ同族法人にあってはその額はかなりの高額 となる。しかし、分掌変更後は月額報酬が大幅に減額となることから、この機に過去の清 算を目的として退職金を支給する例は多いが、その支給時期については支給額と当該事業 年度との業績を考慮して決定される場合が多く、これを以て恣意的な損金算入と決めつけ る審判所の判断には疑問である。 *1 松沢智著「税理士の職務と責任第3版」106頁・中央経済社 *2 平成20年6月27日、東京地裁・平成18年(行ウ)466号、なお、同様の趣旨 の判断が裁判例に多くみられる。 *3 平成18年6月13日東京高裁判決・平成18年(行コ)第15号 -5- 支給時期については、役員退職給与引当金の計上をしている業績の良い法人は格別とし て、多くの同族法人は事前の内部留保としてのこの手当ができないため、当該役員を被保 険者とする生命保険契約を締結し、この保険金を以てその財源とする例が多く見受けられ る。この保険の解約時期と退職とみなされる時期とは必ずしも同一事業年度内でない場合 があり、仮にそれが恣意的であったとしても、役員退職給与の損金算入が「損金経理」を 要件とされず、債務確定主義により予め確定した金額が損金算入されるべきで、その支払 方法により損金算入に影響を及ぼすことは妥当でない。 また、本件通達における同様な事例は、同族法人においては後継者育成の要請から、代 表者交代が促されながらも、当該役員の知識・経験の有用性や金融機関に対する債務保証 の関係から、完全には法人を退くことができないため、名目上の役員に留まる場合が多い が、実態は当に退職であり 、「退職した役員」して扱うべきで、これを殊更、分掌変更の 場合として損金算入要件を一律に区分し、その適用を厳格にする必要はないと考える。従 って、本件通達の適用は、実質的に退職したと同様な事情が無いにもかかわらず退職給与 を支給した場合の損金算入否認規定と考えるべきではないだろうか。 3 退職給与の分割払が、本件分掌変更の時の支給された金員といえないとの審判書の判 断については、分割支払いによる、役員の分掌変更に伴い支給された金員が退職所得か、 賞与たる給与所得にあたるかの事案につき、京都地裁 *1 は注目すべき判断を示した。これ によると、所得税法第30条第1項の規定にいう「・・一時に受ける給与」に当たるとい うためには、それが、①退職すなわち勤務期間の終了という事実によって初めて給付され ること。②従来の継続的な勤務に対する報償ないしその間の労務の対価の一部の後払いの 性質を有すること。③一時金として支払われること、との要件を備えることが必要である として、③の一時金について、本件金員は、平成16年2月∼平成19年11月にかけて 分割して支払われたものあるが、原告の年金制度等に基づき支払われたものでないことは もとより、平成15年12月13日開催の原告理事会において本件金員の総額が決定され ていたこと、年金と同視しうる程度に長期に及んでいたとまでいうことはできないことを 併せ考慮すれば 、「一時金として支払われること」の要件を欠くものではないと解される と判示している。これは所得税の事案であるが、退職所得についての考え方は法人税と同 一であり、法人税で退職所得とされなかった給与は所得税でも当然退職所得とはならない。 従って、本件裁決事案の場合も、この判断に従えば退職給与と認定されるべきである。 4 退職給与における意義について法人税法及び同法通達では何ら規定していないが、所 得税法第30条は、退職所得とは、退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける 給与及びこれらの性質を有する給与に係る所得をいうと規定し、所得税基本通達30−1 は、退職手当等の範囲につき、退職手当等とは、本来退職しなかったとしたならば支払わ れなかったもので、退職したことに基因して一時に支払われることとなった給与をいうと していて、法人税法においても同意義として考えられていると思われる。なお、所得税基 本通達30−2の(3)は、役員等の分掌変更については本件通達と同様な定めをしてい るが、本件通達の注記の未払金等の額は含まれない旨の記載はない。 *1 京都地方裁判所・平成23年4月14日/判決/平成20年(行ウ)第23号 -6- 「但書き」と「注書き」の相違につき、東京高裁平成18年6月13日判決(行コ・第 15号)では、基本通達9−2−24(( 退職給与の打切支給)筆者注・現行9−2−3 5)が本文や但書きではなく注書きの形で未払金として計上した場合を含まないと記載し ていることからすれば、本文の「支給した」退職給与には、未払金等として計上された場 合を含んでおり、これを注書きを付することにより未払金の場合を除外したものでなく、 本文の「支給した」退職給与等が既に支給したもののみを指していることを明確にするた めに付されたものと解すべきである 。・・上記通達が実際に支払われた場合にのみに適用 されるとして、法人税法上の債務確定主義の例外を定めたものと解したとしても、特に不 合理であるとはいえないと判示している。このように解釈すると分割支払いの場合は、現 実に支払われた都度損金算入が可能であると解釈でき、審判書の判断と異なる結論になる。 5 以上、裁決の判断と異なる判断を裁判所の判示例から導いてきたが、裁判所はいずれ の場合であっても本件通達の存在意義は肯定しているものである。しかし、本件通達はあ くまでも一つの例示であり、審判書の本件通達に当てはまらないことを以て直ちに損金算 入を否認した判断は肯定できない。思うに、本来なら不相当に高額な退職所得と認定すべ きところを、その理由付けの困難さから安易に、本件通達の注記事項に該当するとして否 認したと考えるのは穿った考えだろうか。 -7- 参照条文 法人税法 34条 役員給与の損金不算入 1 内国法人がその役員に対して支給する給与(退職給与を除く。以下この項において同 じ。)のうち次に掲げる給与のいずれにも該当しないものの額は、その内国法人の各事業 年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。 2 内国法人がその役員に対して支給する給与(前項又は次項の規定の適用があるものを 除く 。)の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その内国法人 の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。 法人税法施行令 70条 過大な役員給与の額 二 内国法人が各事業年度においてその退職した役員に対して支給した退職給与の額 が、当該役員のその内国法人の業務に従事した期間、その退職の事情、その内国法人と同 種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況 等に照らし、その退職した役員に対する退職給与として相当であると認められる金額を超 える場合におけるその超える部分の金額 法人税基本通達 9−2−28 役員に対する退職金の損金算入の時期 退職した役員に対する退職給与の額の損金算入の時期は、株主総会の決議等によりその額 が具体的に確定した日の属する事業年度とする。ただし、法人がその退職給与の額を支払 った日の属する事業年度においてその支払った額につき損金経理をした場合には、これを 認める。 法人税基本通達 9−2−29 退職年金の損金算入の時期 法人が退職した役員又は使用人に対して支給する退職年金は、当該年金を支給すべき時 の損金の額に算入すべきものであるから、当該退職した役員又は使用人に係る年金の総額 を計算して未払金等に計上した場合においても、退職の際に退職給与引当金勘定の金額を 取り崩しているといないとにかかわらず、当該未払金等に相当する金額を損金の額に算入 することはできないことに留意する。 法人税基本通達 9−2−32 役員の分掌変更等の場合の退職給与 法人が役員の分掌変更又は改選による再任等に際しその役員に対し退職給与として支給 した給与については、その支給が、例えば次に掲げるような事実があったことによるもの であるなど、その分掌変更等によりその役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質 -1- 的に退職したと同様の事情にあると認められることによるものである場合には、これを退 職給与として取り扱うことができる。 (1)常勤役員が非常勤役員(常時勤務していないものであっても代表権を有する者及び 代表権は有しないが実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を 除く。)になったこと。 (2)取締役が監査役(監査役でありながら実質的にその法人の経営上主要な地位を占め ていると認められる者及びその法人の株主等で令第71条第1項第5号《使用人兼務役員 とされない役員》に掲げる要件の全てを満たしている者を除く。)になったこと。 (3)分掌変更等の後におけるその役員(その分掌変更等の後においてもその法人の経営 上主要な地位を占めていると認められる者を除く。)の給与が激減(おおむね50%以上 の減少)したこと。 (注)本文の「退職給与として支給した給与」には、原則として、法人が未払金等に計上 した場合の当該未払金等の額は含まれない。 所得税法 30条 退職所得 1 退職所得とは、退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれら の性質を有する給与(以下この条において「退職手当等」という 。)に係る所得をいう。 所得税基本通達 30−1 退職手当等の範囲 退職手当等とは、本来退職しなかったとしたならば支払われなかったもので、退職した ことに基因して一時に支払われることとなった給与をいう。したがって、退職に際し又は 退職後に使用者等から支払われる給与で、その支払金額の計算基準等からみて、他の引き 続き勤務している者に支払われる賞与等と同性質であるものは、退職手当等に該当しない ことに留意する。 所得税基本通達 30−2 引き続き勤務する者に支払われる給与で退職手当等とするもの (3)役員の分掌変更等により、例えば、常勤役員が非常勤役員(常時勤務していない者 であっても代表権を有する者及び代表権は有しないが実質的にその法人の経営上主要な地 位を占めていると認められるものを除く。)になったこと、分掌変更等の後における報酬 が激減(おおむね50%以上減少)したことなどで、その職務の内容又はその地位が激変 した者に対し、当該分掌変更等の前における役員であった勤続期間に係る退職手当等とし て支払われる給与 -2-
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