20nm世代配線の実現を目指す銅配線プロセ ス及び装置の開発

ULVAC TECHNICAL JOURNAL No.67 2007
20nm 世代配線の実現を目指す銅配線プロセ
ス及び装置の開発
座間秀昭**,西村祐二*,矢後三千代*,渡部幹雄*
成膜の容易さではそれまで評価されてきた原料に比べて
1.はじめに
群を抜いており,ほぼ完全に Cu 2+ 原料を中心とした既
シリコンデバイスチップを構成する上での最重要プロ
存の開発原料を駆逐した。しかし,下地との電子交換を
セス要素に格上げされつつある銅多層配線技術の中で
ともなう不均化反応やその極端な反応性状を緩和するた
も,最も難易度の高いのはトランジスタ層の直上3層程
めの添加剤の存在などが反応を複雑にし,種々の検討が
度の配線ルールの厳しい Intermediate Layer と呼ばれる
行なわれたが,結果的にはプロセスとしての実用化には
層間の配線接続における信頼性である。微細化が国際半
至っていない。
弊社内でも Cu-CVD については現在まで 10 年以上にわ
導体技術ロードマップに沿って進んだ場合,2013 年量
産開始予定の Technology Node hp32 でφ 45nm 程度,
たって検討してきた経緯があり,当初は Cu(hfac)TMVS
2016 年量産開始予定の hp22 でφ 30nm 程度の層間貫通
を用いたプロセスを中心に検討してきたが,6年前に新
ビアを完全に埋めるプロセス技術が必要不可欠となる。
エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事
これは開発上のボトルネックの1つであり,現状では
業に採択されたことをきっかけにして,新しいコンセプ
ロ ー ド マ ッ プ 上 で 所 謂 “ レ ッ ド ブ ロ ッ ク ”( =
トへ転換した開発を改めて開始した。本報告では,表題
Manufacturable solutions are NOT known)に分類され
にした『NEDO 産業技術実用化助成事業「20nm 世代配
線の実用化を目指す銅配線プロセスおよび装置の開発」
ている重要開発項目である。
(開発期間:平成 17 年1月∼平成 18 年 12 月)』における
現世代(hp65)あるいは次世代(hp45)までは,ス
成果を中心に紹介する。
パッタ法によるシード層形成と電解メッキ法による埋め
込みの組み合わせによるプロセスで対応されてきた,あ
2. 基礎開発要素とその内容
るいはその見通しであるが,成膜粒子が方向性を持つス
パッタ法と液体を用いるメッキ法では,物理的な限界の
Cu 1+ 原料で問題となった不均化反応を中心とした成
壁に当然のごとく直面することは多くの人が認めるとこ
膜原理を根本から転換するために,Cu 1+ 原料から Cu 2+
ろである。
一方,成膜前駆体としてガスを用い,細くて深い穴の
原料への先祖返りとも言える大転換を行い,単純な水素
奥深くまで進入することが原理的に可能な化学的気相成
還元反応を成膜原理とするプロセスを一から再考するこ
長(Chemical Vapor Deposition; CVD)法への置き換え
とにした。
は,hp130 前後の世代から期待されてきたが,未だに実
また,今回目標としたプロセス実証のためには,φ
用化に至っていない。これには2つの理由がある。1つ
45nm 以下のビア構造が必要不可欠である。しかし,現
はスパッタとメッキを組み合わせたプロセスへの集中的
状では露光やエッチング等の微細構造作製技術がそれに
な開発投資による予想を遥かに超えた現行技術の延命で
追いついていないため,現状技術の組み合わせによって
あり,もう1つは CVD プロセス開発の思った以上の遅
検証サンプルを作製する手段から自主開発する必要があ
延である。
った。
以上のように,今回のプロセス開発のために必要とし
Cu-CVD プロセスは,1991 年の Cu(hfac)TMVS の開発
1―3)
1+
た基礎開発要素とその個々の内容について,以下に述べ
をきっかけとする Cu 原料を使用したプロセス開
ていく。
発により一気に進んだが,その後多くの問題を残したま
1+
ま前記の理由もあり,収束してしまった。Cu 原料は
2.1 原料開発
そもそも歴史的に最初の Cu-CVD は Cu(hfac)2 等の
* ㈱アルバック 半導体技術研究所
** 現 ㈱アルバック 千葉超材料研究所
Cu 2+ 原料を用いたものであり,水素還元によって成膜
5
するプロセスの基礎評価が行なわれていた4)。しかし,
をプロセス開発と並行して用い,実施するプロセス条件
分解温度や還元温度の低温化が困難であり,さらに原料
下で均一なガス流れが実現することを確認しながらプロ
が固体で蒸気圧が低いことから,安定的かつ実用的な成
セス開発を進めた。
膜レートを得にくいことが問題とされてきた。結局,そ
れらの問題点の大部分が解決する Cu 1+ 原料の提案とと
2.3 プロセス検証用ビア開発
(1) 埋め戻し細穴作製技術
もに,その研究開発自体が衰退していった。
以上の背景を踏まえての今回の Cu 2+ 原料採用である
現状でも調達可能なエキシマレーザ露光や X 線露光に
ことから,実用的なプロセスに適合できる新しい材料を
よるφ 100 ∼ 200nm サイズのホール構造(図1(a))を
開拓することから始めることが必須である。ポイントは
基にして,段差被覆性の良好なバリアメタル CVD プロ
2つで,低温分解性と液体原料化である。
セスや SiN-CVD プロセスを利用して,当該ホールを埋
め戻すプロセスを経て,穴径がさらに細いホールを作製
原料メーカー数社に今回の我々のプロセスコンセプト
した(図1(b))。
と原料特性の必須要件を伝達し,候補として挙がった数
種類の原料を評価した。最終的に,宇部興産株式会社の
新規原料 Cu(sopd)2 5)(= Bis(2,6-dimethyl-2-trimethyl-
(2) 表面平坦化技術
前述した埋め戻しによって作製したホールは,図1
silyloxy-3,5-heptanedionato)copper(II); C24H46CuO6Si2)
を選定した。Cu(sopd)2 は常温では固体であったが,各
(b)中の矢印部のように入口が曲率半径を持った構造
種溶媒に対して易溶であり,高濃度溶液原料が作製可能
となってしまう。現実のコンタクトビア入口は垂直形状
であった。今回の開発には,主に n-オクタンを溶媒とし
をしているはずである。CVD のようなガス流れをとも
た 0.5M-Cu(sopd)2 /n-オクタン溶液を原料として用い
なう成膜手法の場合,このような構造的な差異はプロセ
た。
ス結果に影響する可能性が高いため,現実に即した垂直
形状のビア構造を作製することを試みた。
手法としては,銅多層配線プロセスから本格導入され
2.2 装置開発
2+
前述新規原料 Cu(sopd)2 は,従来の Cu 原料よりも
た CMP プロセスを検討した。ホール入口の R 形状を研
1+
磨により平坦化した(図1(c))。その後,ホール内に
液体原料化により使い勝手に考慮した。しかし,Cu
原料からの転換によるマイナス要素である蒸気圧の低さ
留まった研磨スラリーを除去する洗浄プロセスを経て,
に起因する安定供給系構築の難しさを装置面から保証す
図2のようなφ 50nm,φ 40nm,φ 20nm と系統的に直
るのが,この原料によるプロセス構築のためには必須で
径制御されたプロセス検証用ビア構造を完成させた。
あった。低蒸気圧原料を使いこなすための装置開発にあ
たってのポイントは以下の3点であった。
①原料気化供給技術
②原料供給経路,ガスシャワー面,チャンバ壁面を中
心とした装置温度管理技術
③高温部シール技術
①については,液体気化ユニットの製造メーカーとの
気化供給条件(温度,圧力等)の詳細な検討を進めて克
図1 プロセス検証用ビア作製工程
服した。②については,オイル循環装置,テープ状ヒー
ター,配管保温材料等の組み合わせの最適化を行った。
③については,前項②の温度管理の最高温度域が 200 ℃
程度になり,しかもそのような温度でも反応ガスとして
用いる分子サイズの小さな H 2 を透過しない真空面シー
ル技術が必要となったが,O リングシール材メーカーと
SiN
の共同評価により克服した。
また,水素還元反応を効率良く行うために,通常の
200n m
CVD ではほとんど前例の無い,高反応圧・高 H 2 分圧の
( a ) φ50nm
雰囲気が必要となったことから,
( b ) φ40nm
( c ) φ20nm
図2 プロセス検証用ビア作製結果
④チャンバ内ガス流れ評価技術
6
埋め込みプロセスの実現のために,上記反応プロセスの
(3) 成長表面層作製技術
SiN-CVD による埋め戻しを用いた場合,そのままの
活性化過程の確認を行った。
表面では Cu-CVD による Cu 核発生が促進されず,成長
C u( s o p d )2 原 料 と H 2 ガ ス の 供 給 量 は そ れ ぞ れ
モードが異常になってしまうことから,極薄の成長表面
1.2g/min,10L/min で一定として,反応温度(ウエハ温
層を作製することが必要であった。今回は,バリア層と
度)と反応圧をパラメータ(連動して水素分圧を変化)
して別途開発を進めていた CVD 成膜による VN 層を利用
として評価を行った。結果は,活性化過程を把握する目
することにした。
的から,図4に示すようにアレニウスプロットとしてま
とめた。反応温度 210 ℃から成膜反応の活性化エネルギ
6)
2.4 CVD 開発
ーに関連すると思われる傾きを持った活性化過程が見ら
Cu(sopd)2 原料による CVD 開発は,水素還元反応に
れ,広い温度領域で表面反応律速であると推定された。
基づく Cu 成膜を念頭にしているが,新規原料であるこ
反応圧により多少の差異は見られるが,3500Pa では
とから,基本的な反応条件を系統的に調べるところから
270 ℃以上で飽和して供給律速に移行していると考えら
始める必要があった。
れる結果となった。
3. 埋め込みプロセス開発6)
(1) 水素還元プロセスの検証
水素還元反応であることを前提にすると,H 2 ガスの
供給量(実際には規格化して,Cu(sopd)2 原料との供給
2.3で作製したプロセス検証用ビア(図2)に対し
モル比で記述)と H 2 分圧をパラメータにして反応系が
て,2.4で調整した CVD 条件を系統的に適用して,
決定されると推測された。この2つのプロセスパラメー
最終目的とするビア埋め込みのためのプロセス開発を実
ターを種々に変えながら成膜を試みた。
施した。
図4のアレニウスプロットより,実用的な成膜速度が
様々な条件での成膜試験を通じて,
図3に示すように,
Cu(sopd)2 と H 2 の供給モル比と H 2 分圧との関係で整理
得られる反応温度(ウエハ温度)250 ℃から 310 ℃まで
されることがわかった。Cu(sopd)2 に対して H 2 の供給
に絞り込んで,φ 50nm 程度のビア構造に対して Cu 埋
量が多く,H 2 分圧が高いところで,赤色の純 Cu 膜が成
め込みを実施した。ウエハ温度と反応圧のマトリックス
膜された。一方,図3中の破線より下の条件では,還元
の形で結果を整理して図5に示す。アレニウスプロット
反応が充分で無く,未反応の C コンタミを含有した黒ず
において飽和領域に相応する条件では,ビア底に向かっ
んだ Cu 膜になり,その差は目視でも明確であった。こ
て Cu 密度が低くなる埋め込み欠陥が見られた(図5中
の結果より,Cu(sopd)2 からの Cu 成膜が H 2 ガス供給量
矢印部)。これは供給律速に起因する現象と考えられる。
と H 2 分圧に対して依存性があり,本成膜が水素還元反
図5より,埋め込みのための最適な条件を 270 ℃,
応に基づくことが示された。
2500Pa と判断した。これは,アレニウスプロットより
表面反応律速と推定される領域である。
(2) 活性化プロセスの検証
次に,水素還元反応が確実・充分に起こる条件の中で,
図3 各種条件における Cu 成膜結果
図4 Cu 成膜速度の反応温度依存性(アレニウスプロット)
7
図2に示されたプロセス検証用ビアに対して,これま
込まれている様子が観察されたが,φ 20nm ビアではCu
でにチューニングした条件(270 ℃,2500Pa)によって
柱が段切れる欠陥がいくつか観察されるようになり,さ
Cu 埋め込みを実施した結果を図6に示す。目標とする
らなるプロセス調整の必要性が示唆される結果となっ
φ 30nm よりも小さなφ 20nm ビアのビア底まで Cu 成膜
た。
が均一に生じていることが確認された。これは本 Cu-
4. まとめ
CVD 法による極小ビア埋め込みの可能性を証明するも
のである。一方,φ 40nm ビアまでは完全に Cu で埋め
Technology Node hp32 および hp22 への適用を目指し
て,古くて新しい水素還元反応に基づいた Cu-CVD プロ
セスに再注目して,原料から対応装置・プロセス検証用
ビア・ CVD/埋め込みプロセスまでを一貫して開発を行
った。
Cu(sopd)2 原料を用いた Cu-CVD プロセスは条件の最
適化によって,hp32 で必要になるφ 45nm 以下のビア構
造(φ 40nm プロセス検証用ビア)に対して完全に埋め
込めることが示された。さらに,hp22 で必要になるφ
30nm 以下のビア構造(φ 20nm プロセス検証用ビア)
に対しても埋め込む能力があることが検証された。ただ
し,φ 20nm プロセス検証用ビア内には段切れ欠陥が見
られたことから,さらなる開発継続が必要である。
参考文献
1)J. A. T. Norman, B. A. Muratore, P. N. Dyer, D. A.
Roberts and A. K. Hochberg : J de Phys. IV, Coll. C2,
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Kodas, J. D. Farr and M. Paffett : Mater. Res. Soc.
図5 Cu 埋め込み状態の反応温度及び反応圧依存性
Symp. Proc., 204(1991)421.
3)S. K. Reynolds, C. J. Smart, E. F. Baran, T. H. Baum,
C.E. Larson and P. J. Brock : Appl. Phys. Lett.,
59(1991)2332.
4)R. L. Van Hemert, L. B. Spendlove and R. E. Sievers
: J. Electrochem. Soc., 112,(1965)1123.
5)T.Kadota, C. Hasegawa and K. Watanuki : wo
03064437 A1.
6)H. Zama, Y. Nishimura, M. Yago and M. Watanabe
: Mat. Res. Soc. Symp. Proc., 990(to be published).
図6 プロセス検証用ビアへの Cu 埋め込み結果
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