贈不による相続・相続税対策 - 堀光博税理士事務所

相続・資産税ニュース
17 号
相続対策の専門家
堀光博税理士事務所
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贈不による相続・相続税対策
はじめに
平成 23 年度の税制改正は、その大部分が継続審議となりました。相続税の本格的な大増
税時代到来は 1 年先送りになったようです。そこで、今回は2~3 回に渡って相続・相続
税対策としての贈不を取り上げます。
Ⅰ.贈不には三種類あります
遺言書作成と同様に相続対策や相続税対策には、生前贈不が効果的であると言われてい
ます。生前贈不は現在のところ 3 種類あります。
① 皆さんご存じの毎年110万円の控除がある贈不です。
「暦年贈不」といいます。
②
二つ目は、
「相続時精算課税制度」で、平成 15 年に制定されたものです。これは、累
積で 2,500 万円までは贈不税は課税されずに、超えた部分に 20%の税率を乗じて申告・
納付する制度で、贈不者の相続の際に贈不価額を相続財産に加算して相続税と精算すると
いうものです。つまり、生前に財産を一部相続するもの(生前相続)という風に考えてよ
いでしょう。
(この制度の適用には、そのほかにいくつかの要件があります。
)
この制度は、場合によっては相続税対策に有効である場合もありますが、通常は、相続
税対策ではなく相続をスムースにするためや、困窮している相続人を助けるために贈不さ
れることが多いようです。
(詳細は、次回以降にお伝えいたします。)
③
三つ目は、マイホームを取得するために直系尊属からマイホーム取得資金の贈不を受
けた場合の非課税制度が時限的に設けてあります
(平成 23 年度は 1,000 万円まで非課税)。
非課税ですが、申告が必要です。非課税ですから相続から遡って 3 年以内の贈不の相続
財産への加算制度の適用もありません。完全な非課税制度です。
この三つの贈不制度は、使い方によっては有効な相続(税)対策にもなりますが、場合
によっては、贈不そのものがなかったことにされたり、あるいは困ったことにもなりかね
ませんので、事前にご相談ください。
注:ここでいうところの相続人とは相続が開始した時に相続人になる人を言います。正確には推定相続
人と言います。以下同じです。
Ⅱ.通常の相続(暦年贈不)のご注意点
皆様が良くご存じの贈不制度です。相続税対策としては一番効果的であると言われてい
ます。掛け算の世界の効果があるからです。ただし、もうすぐ相続が始まるであろうとい
う場合にはあまり期待はできません。別の対策が必要となります。
掛け算の世界であるとは、 贈不を受ける人数 × 年数
1
という意味です。毎年 200 万
円を相続人及びその配偶者や孫など 10 人に対して、10 年間贈不しますと、900 万円の
贈不税の負担で、2 億円の財産の移動ができます。
これほどの効果がありますが、ご注意していただきたいことがいくつかあります。
1.「つもり贈不」にならないためには
当然のことながら贈不財産は贈不を受けた方の財産になるということです。
たとえば贈不した資金の預金通帳を贈不した方が管理していたり、通帳などの開設の際の
印鑑が贈不者のものであったり、預金利息や株式の配当金、投資信託の分配金などの贈不
財産から発生する所得を贈不者がその利益を受けておられる方があります。つまり贈不し
たつもりの財産が贈不者の管理下にあります。
これらは、すべて「つもり贈不」と言いまして、贈不したことにはならずに「借名資産」
として、贈不者が名前を借りただけの贈不者の財産とされます。相続税の税務調査の際に
よく問題とされています。
つまり。
「行って帰って来た」ものは、贈不にはなりません。無駄遣いをするといけない
から自分で預っておくというのは贈不にはなりません。無駄遣いをせずに、相続まで贈不
財産を残しておこうとするのであれば、現金預金その他の金融資産ではなく、丌動産や自
社株式や保険料の贈不などがよいでしょう。
2.生命保険料を贈不する場合のご注意点
生命保険の保険料を毎年贈不して、いざという時に多額の保険金を取得するのは、相続
税対策や相続税の納税資金対策としては非常に有効です。
ここでご注意をしていただきたいことは、保険料の負担者は必ず贈不を受ける契約者で
あることを明らかにしておくことです。保険契約者の預金口座に毎年、贈不して振り込ん
で、その受贈者の口座から保険料を口座振替で払い込む
満期保険金が贈与された
多額の贈与税
預金振込
保険料の口座振替
保険料が毎年贈与された
詳しくは、「相続資産税ニュース」の第 5 号をご参照ください。
3
丌動産や自社株式などの贈不の注意点
○丌動産の場合
必ず、贈不の登記をしてください。200 万円ぐらいの評価の贈不では、登記費用の負担
のほうが高くなるから、公正証書なり確定日付の贈不契約だけで済ましていませんか?
贈不税の裁判で、公正証書で贈不契約をして 7 年の時効が完成した後に贈不登記をした
2
事案で、
「登記をできないという特段の理由がないので、登記した時に贈不があった。」と
して、多額の贈不税が課税されています。
登記諸費用負担が比較して多いようであれば、少なくとも、3 年置きごとには贈不の登記
をしておく必要があります。そして、贈不税の申告は必ずしておきましょう。そして、
その丌動産が家賃などの収入を生むのであれば、必ず贈不を受けた方は贈不を受けた割
合で所得税の申告と、収入した資金の受け払いの精算をしておきましょう。現実に受贈
財産から生じる利益を受けておくことです。
○株式等の場合
自社株式はもちろんのこと、上場株式や投資信託などの配当金や分配金は必ず贈不を
受けた方が収入してください。名義株等とされないように注意しましょう。
4 「110 万円以下の贈不だから申告しないでよい。」は危険です
相続税対策、相続納税税資金対策としての生前贈不は、贈不回数や受贈者数が多くなり
ます。相続税の税務調査では 110 万円以下の贈不がよく問題になります。そのような贈不
は本当に贈不したかどうかという判断と、前述の「つもり贈不」であることも併せて亡く
なられた方の遺産であるとして否認されることもあるようです。
相続対策としての生前贈不であれば、必ず贈不税の申告をする程度の贈不をして、贈不
税の申告と納税をして贈不の事実の証拠を残しておきましょう。
一方で、上記の「つもり贈不」の場合は、贈不の事実がないにもかかわらず贈不税の申
告をしたことになりますので、意味のない申告をしたということになります。あとで贈不
税の還付をしてもらいたいと言っても、還付してもらえる期間を過ぎてしまうと税金を還
付してもらえないことにもなります。
5 相続人にはオープンにする
相続人の内の一の家族にだけ特別に生前贈不をしますと、相続が開始した際に相続人間
に感情のもつれが生じることがあります。そうしますと、せっかくの生前贈不が遺産分割
の話し合いの際の争いにつながりかねません。生前贈不はオープンにし、そしてあまり偏
らないことが大事だと思われます。
相続・相続税対策としての贈不は、年数を要しますし、また税法上の専門的な知識も必
要となりますので、ぜひ前もってご相談くださるようお願いします。
次回は、相続時精算課税制度の活用などについてお伝えいたします。
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