【疑惑の濁流】グッドウィル折口氏欺き、300億円取得…脱税捜 査直前に

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2009/8/15
【疑惑の濁流】グッドウィル折口氏欺き、300億円取得…脱税捜
査直前に海外逃亡した会計士の巧妙手口
(産経新聞)
バブル期のディスコブームの仕掛け人で、人材派遣大手の旧グッドウィル・グループ
(GWG、現ラディアホールディングス、東京都港区)を率いた折口雅博氏による人材
派遣会社の買収をめぐり、巨額の仲介利益を得たファンド運営会社元社長の公認
会計士に脱税疑惑が浮上している。会計士は、折口氏の買収欲を巧みに利用して
約300億円相当の利益を得ていた。さらに数十億円もの脱税容疑で捜査の手が迫
ると、パスポートを押収されていたにもかかわらず、捜査権が及ばない海外に“逃
亡”した。「ぬれ手でアワ」ともいえる巨額利益を手にし、出国にも成功したその巧妙
手口とは…。
3回目の事情聴取を前に香港へ
東京地検特捜部が法人税法違反(脱税)容疑で逮捕状を取っているのは、ファンド
運営会社「コリンシアンパートナーズ」(港区)元社長で、公認会計士の中村(旧姓・
中沢)秀夫容疑者(51)。
周辺関係者によると、中村容疑者は7月6日、特捜部から任意の事情聴取を受け
ていた。聴取は同月3日に続いて2回目だったという。このとき、中村容疑者は「大
阪にいる父親の具合が良くないので、見舞いに行かなければならない。次の聴取は
期間をあけてほしい」と、担当検事に要望し、3回目の聴取は7月15日に決まったと
される。
ところが、中村容疑者が向かった先は、大阪ではなく、中部国際空港だった。
中村容疑者は3回目の聴取を前にした7月10日、香港に向けて飛び立ち、いまだ
に帰国していないのだ。
さかのぼること、9カ月前の昨年10月16日。
東京国税局は、中村容疑者に対する脱税容疑で、強制調査(査察)に乗り出した。
中村容疑者の自宅など複数の関係先を家宅捜索し、パスポートなどを押収していた。
パスポートがないのに、中村容疑者は一体どうやって香港に出国することができた
のか。
姓変え、パスポートを再取得
周辺関係者の話を総合すると、中村容疑者は当初、香港ではなく、米国への永住
を希望していたようだ。理由は、かつて何度も渡米しており、米国で不動産や株など
を保有していたからではないかといわれている。
6月中旬に、中村容疑者の側近らについて、特捜部の事情聴取が始まると、中村
容疑者は米国の永住権ビザ取得について、知人に相談を持ちかけた。しかし、中村
容疑者は、かつて米国で旅券トラブルを起こしていたため断念したという。
一方で、パスポートの再取得を申請。中村容疑者は6月下旬、離婚した元妻の家
と養子縁組を結び、姓を「中沢」から「中村」に変え、出国する前日の7月9日にパス
ポートの再取得に成功していたのだ。
特捜部では「中村容疑者が海外逃亡をもくろんでいる」との情報をキャッチし、予定
を早めて強制捜査に踏み切る方針を固めていたとされるが、パスポートの再取得に
ついては把握できなかったとみられる。
特捜部は、中村容疑者が出国した3日後の7月13日に逮捕状を請求。通報を受
けた外務省は、旅券法に基づき、24日付で旅券の返納命令を出した。
中村容疑者にとって香港は、関連会社名義でマンションを所有するなど土地勘の
ある場所だったという。
M&Aに精通し、投資事業も
こうして、特捜部の強制捜査の直前に、出国に成功した中村容疑者は一体どんな
人物なのか。また、300億円相当ともいわれる巨額資金をどのような手口を使って
手中に収めたのだろうか。
民間の信用調査機関や関係者によると、中村容疑者は昭和32年生まれで大阪
府出身。同志社大学を卒業後、公認会計士の資格を取得して大手監査法人に入社。
昭和60年に独立し、大阪市内で公認会計士事務所を開業した。国内外に顧客を持
っていたとされ、M&A(企業の合併・買収)に精通する会計士として知られていたと
いう。平成18年5月には、東京・港区にパートナーズ社を設立して、投資事業にも
参入する。
そんなさなか、大手衣料品メーカーの創業者ら関西を中心とした富裕層に広い人
脈を持っていたという中村容疑者のもとに舞い込んできたのが、京都からスタートし、
当時、人材派遣大手だった「クリスタル」(現ラディアホールディングス・プレミア、港
区)の会社売却話だった。
中村容疑者が売却先として考えたのが、当時、訪問介護大手「コムスン」を完全子
会社化して業界トップに上り詰め、さらに人材派遣でもトップを狙っていた折口氏の
GWGだった。
「ぬれ手でアワ」の巨額利益
中村容疑者は同年10月23日、「クリスタルの株45%を600億円で買わないか」
とGWG側に打診。当時、GWG会長だった折口氏は「子会社化したいので51%以
上なら買う」と応じた。ただ、一つだけ問題があった。クリスタル創業者の売却条件
が「同業社以外」だったのだ。
このため、中村容疑者は、投資ファンドを間に媒介させることで、売却先がGWG
であることを隠し、クリスタル株を取得するスキームを考案したという。
受け皿となったのは、パートナーズ社が代表を務める「コリンシアン投資事業有限
責任組合弐号」という投資ファンド。中村容疑者は、ここでも一計をめぐらす。
実際にはGWG以外の出資者はいなかったにもかかわらず、GWGに「ファンドへ
の出資総額は約1185億円」と虚偽の取引内容を説明したのだ。GWGは、みずほ
銀行から融資を受け、別の投資ファンドを通じ、同ファンドに約883億円を出資し
た。
同ファンドはクリスタルの発行済み株式の約91%(5万1825株)を約500億円で
取得し、GWGは中村容疑者が示した虚偽の出資比率に基づき、このうち約74%、
全体では67%(3万8190株)を取得してクリスタルを子会社化した。同ファンドには
差額として約380億円と1万3635株(約131億円相当)が残った。つまり、中村容
疑者は、労せずして巨額の資金と株を手にしたのだ。まさに「ぬれ手でアワ」といっ
ていい。
このうち、約180億円とクリスタル株を中村容疑者のパートナーズ社が受け取り、
約200億円を出資者とされた格闘技団体代表らが分け合ったという。
ちらつく大物議員と暴力団の影
捜査関係者によると、中村容疑者は、約131億円相当のクリスタル株について適
正に税務申告していなかったほか、約180億円についても架空経費を多数計上す
るなど法人所得を圧縮して20年4月期の所得として申告していたとされる。最終的
な所得隠しの総額は50億円以上にものぼり、数十億円を脱税した疑いが持たれて
いる。
特捜部が強い関心を示しているのが、巨額脱税マネーの行方だ。
周辺関係者によると、中村容疑者は、巨額資金の運用を側近に任せ、投資などに
充てていたという。捜査関係者によると、この側近は、特捜部の事情聴取に対し、複
数の大物国会議員の名前を挙げ、資金の一部が、議員側に渡ったという趣旨の供
述をしているとされる。ただ実際に議員に渡ったかどうかは不透明だ。
また、特捜部が中村容疑者の逮捕状を取った翌日の7月14日には、パートナー
ズ社の関連会社関係者で、元暴力団組員の男が警視庁に恐喝未遂容疑で逮捕さ
れた。男は、嫌疑不十分で不起訴となったが、中村容疑者の指示を受けてさまざま
なトラブル処理に当たっていたとの情報もあり、中村容疑者の周辺では、暴力団の
影もちらついている。