平成23年産アスパラガス低収要因解析

平成23年産アスパラガス低収要因解析
アスパラガスの平成22年秋の生育状況は概ね良好でしたが、根中Brixはやや低めで越冬
し、平成23年春からの収穫では、2L規格の出荷割合が低く低収となりました。
この要因について以下のとおり検討しました。
1
春芽形成の仕組み
(1) りん芽と貯蔵根の形成
養 成 茎 →
・立茎した茎(養成茎)のそばからり
ん芽が形成される。
・平均気温が15℃を下回るとりん芽と
り ん 芽 →
新しい貯蔵根が形成される。
※貯蔵根は1本の養成茎に4本、太い
茎には太い貯蔵根ができる。
貯 蔵 根 →
翌年の春芽となる
2
写真1
低収要因として考えられること
秋期におけるりん芽の形成状況
(1) 気象的要因
アスパラガス養成期におけるH22年の気象は高温かつ多雨で、9月に入っても平年よ
り高温が続きました(図1)。
図1
H22年の養成期間(7/1~10/20)における気象経過(半旬毎)※1半旬は5日
- 21 -
平成12年~23年の養成時期の降水量と根中Brixの推移(図2)を見ると、多雨年ほど
根中Brixが低い傾向でした。また、地下水位が高いと根は地下上部に多くなり、根の総量
も少なくなるため収量の低下につながります(図3)。
700
H23
600
H22
降
水 500
量
H17
H18
(mm)
H21
H14
400
平年
GI低い
斑点病多発
300
H15
H19
H20
H16
200
16
17
18
19
20
21
22
根中Brix(%)
図2 養成期間の積算降水量と根中Brixの関係 (普及センター)
図3
地下水位と根量(福岡農総試)
○養成期の気象による影響○
・夏期から続く高温によりりん芽形成期間および養分転流
期間が短く、養分の蓄積量が少なかった。
・多雨により根量が少なく、根の伸長も抑制された。
越冬前の養分総量不足 → 春芽の萌芽不良
3
対策
(1) 十分な株養成
◎養分の動きを理解する
→春芽の萌芽だけではなく、打ち切り後養成茎を立茎す
るためにも養分が必要。過収穫は厳禁!
◎貯蔵根を十分に伸長させる
→年数が進むと根はうね間へ拡大するため、通路の土づ
くり(有機物の施用)は重要。
太い貯蔵根は太い茎から作られる!
◎りん芽を安定して形成させる
図4
同化養分の分配先と収量
の考え方(上杉原図改 )
→乾燥するとりん芽数は減少するため、保水力向上と地
温上昇を抑えるために堆肥やわらでマルチングする。
(2) 排水対策
アスパラガスは湿害に弱い作物です。定植時および定植後
年数の浅いほ場は、停滞水のないよう心土破砕等による排水
対策を十分に行いましょう。
写真2 うね及び通路にわらを
敷いたほ場
(3) 適正施肥
◎過剰施肥は増収にはつながらない
→窒素:生育後半の過剰は養分の転流や蓄積が低下、過繁茂は病害虫の発生を助長
する。
→低pH:吸収根が発生しずらい。pHを確認し、低い場合は石灰資材の施用を!
肥料分が過剰に蓄積しているほ場が多いです。減肥をして適正施肥を行いましょう!
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近年気になる病害虫・生理障害
近年発生が多く見られる、今後発生の拡大が懸念される病害虫、生理障害を紹介します。
思い当たる症状があれば、確認し、対策を講じましょう
1
小麦
眼紋病(シュードサーコスポレラ
ヘルポオトリコイデス)
(1) 症状
5月中旬頃から茎に周辺部が褐色、中心部が
灰白色の眼の形をした紡錘形の病斑が見られる。
その後茎全体を取り巻き、茎内部には白いカビ
が見られる。病斑部から折れて、倒伏する。5
月が低温に推移すると多発しやすい。
(2) 対策
①
写真1
連作を避け、3年
眼紋病による早期からの枯れ上がり
以上の輪作を維持す
る。
②
茎数過剰、過繁茂
にならないような栽
培管理を行う。
③
田畑輪換を行う。
④
やむを得ず連作し
た場合は、幼穂形成
期頃に薬剤散布を行
う。
写真2
2
豆類
眼紋病による倒伏
写真3
ダイズシストセンチュウ
眼紋病の病斑
現在作付けされているダイズシストセンチュ
ウ抵抗性品種「ユキホマレ」に寄生する新レー
スが地区内でも確認されている。
(1) 症状
生育が抑制され、茎葉が淡黄色となる部分見
られる。地上部は湿害による症状と同様だが、
根部には白いケシ粒大のシストが見られ、根粒
の着生が少ない。
早期に落葉し枯死するため、着莢数、粒重の
低下が見られ、大きな減収となる。
写真4
小豆、菜豆も加害するが、他の作物には加害
しない。
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センチュウ寄生による黃化症状
(2) 対策
①
豆類以外と4年以上の輪作をする。
②
捕獲作物赤クローバを緑肥として栽培し、密度を低下させる。
寄生程度:少
写真5
3
写真6
根に寄生しているシスト
アスパラガス
茎枯病(ホモプシス
多
寄生程度と粒形
アスパラギ)
暖地のアスパラガスの重要病害であるが、近年名寄地区
でも発生が確認され、今後最も注意を要する病害である。
(1) 症状
成茎や側枝に紡錘形で周縁が濃褐色、内側が灰白色の2
~3mmの小斑点が発生する。その後、病斑が拡大、融合し
て赤褐色の大型病斑となり、表面に多数の黒色小粒点が見
られる。初期病斑は斑点病と似ているが、黒色小粒点の有
無によって判別できる。茎内部は褐変し、地下部への栄養
の転流が出来なくなり、次年度の収穫量が減収する。
(2) 対策
①
前年の枯死茎葉や発病茎はほ場から持ち出
写真7
茎枯病病斑
し、処分する。
②
収穫後の立茎数は、多すぎると内部がむれ
るので、適正数にする。
③
ひこばえは一次伝染源となるので、早めに
除去し、処分する。
④
収穫後から薬剤散布を行う。
⑤
バーナー等による地表面熱処理を行う。
写真8
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茎枯病病斑と黒色小粒点
4
アスパラガス
株腐病(フザリウム
モリニフォルメ)
(1) 症状
定植2~3年目の比較的若い株に発病が多い。
罹病株はほとんど萌芽しない。病株の鱗芽や地下
茎は、褐変、腐敗するが、維管束部は褐変しない。
類似症の立枯病は維管束部が褐変するので、判別
できる。
(2) 対策
写真9
①
発生地では連作をしない。
②
前年の枯死茎葉や発病茎はほ場から持ち出
株腐病により萌芽少ない株
し、処分する。
③
発病株は速やかに堀上げ、適切に処分する。
④
排水対策を行う。
写真10 株腐病による地下茎の褐変
5
かぼちゃ
クリスタル症
(1) 症状
白色固形物(クリスタル)が果実内部に発生する。これは、かぼちゃの成分である糖
質やでんぷん質が白く結晶化したものである。食べても人体に影響はないが、苦みがあ
る。原因は、果実肥大期の高温、干ばつの影響が大きいと言われている。発生果実は、
扁平果、果梗部がへこんでる、骨張っている傾向が見られる。品種間差は無いようであ
る。
(2) 対策
①
土作りよる保水性向上。
②
生育中期以降は中耕等によって断根
をしない。
ややへんこでいる
写真13 発生果実
写真11
写真12
骨張っている
発生果実の外観
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果実内部のクリスタル
6
かぼちゃ
収穫後の突起(たんこぶ)
(1) 症状
収穫時は正常だった果実が、キュアリン
グ中に果実表面の一部が盛り上がる。突起
部の表面がコルク化しひび割れている。
収穫時の打撲が主な原因と考えられ、キ
ュアリング中の高温や過湿条件(ムレ)は、
果実温度が上がり、発生を助長すると考え
られる。
(2) 対策
①
写真13
収穫する果実は打撲に注意し、丁寧に
突起症状
取り扱う。
②
外皮が薄い品種は特に注意する。
③
キュアリングは、湿気がたまらないよ
う3段重ねを基本とする。
写真14
7
とうもろこし
発生ハウスの果実の状況
亜鉛欠乏
(1) 症状
亜鉛欠乏は節間伸長が著しく抑制され、草丈
が短くなり、中位葉では葉緑素が抜けて葉が黄
白化する。激しくなると、下位葉から枯死する。
りん酸の施肥量が多いと亜鉛欠乏が発生しや
すくなる。亜鉛欠乏の発生しやすい土壌は、土
壌のりん酸含量が高い、高pHほ場である。
写真15
亜鉛欠乏
(2) 対策
①
土壌診断によって、pH、リン酸含量、亜
鉛含量を確認する。
②
緊急的には、0.2%硫酸亜鉛溶液(薬害防
止のため石灰加用)を散布する。
③
土壌中の含有量が少ないほ場では、亜鉛入
り肥料、FTEを施用する。
写真16
- 26 -
葉脈間の白化
8
トマト
褐色根腐病(ピレノケータ)
(1) 症状
徐々に草勢が弱くなり、下葉から黃化し、晴天で高温になる
としおれる。急激な激しい黃化や維管束褐変は見られない。根
は褐色に腐敗し、細根や支根の一部は脱落し、太い支根や直根
のみとなる。褐変した根の表面は、多数の亀裂ができ、コルク
化して松の根のようになる。比較的地温が低い13~18℃で最も
発生しやすい。
(2) 対策
①
抵抗性台木を利用する。
②
連作を避ける。
③
発病株は見つけ次第抜き取り処分する。
④
無病土を用いて育苗する。
⑤
薬剤や太陽熱を利用し土壌消毒を行う。
写真17
写真18
9
トマト
しおれ症状
コルク化した根部
半身萎凋病(バーティシリウム ダーリエ)
(1) 症状
下葉の葉脈間が淡黄色となり、葉全体が黃化し、しだいに上葉へ黃化が進む。下葉か
ら枯れ上がり、株全体が萎れる。草丈の伸長、果実の着生、肥大が不良となる。発病株
の維管束はやや褐変している。根の褐変は、萎凋病に
比べると少ない。比較的冷涼な(22~25℃)気候で、
湿潤な土壌での発生が多い。
ナス、ばれいしょ、ほうれん草、ウリ科、アブラナ
科などでも発病させ多犯性である。
(2) 対策
①
抵抗性台木を利用する。抵抗性品種を栽培する。
②
連作を避ける。
③
発病株は見つけ次第抜き取
り処分する。
④
無病土を用いて育苗する。
⑤
薬剤や太陽熱を利用し土壌
消毒を行う。
写真19
写真20 維管束の褐変
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しおれ症状と気中根の発生
10
たまねぎ
小菌核病(スクレロチニア アーリ)
(1) 症状
下位葉に小豆大の白色病斑が形成され、しだ
いに拡大し縦長の病斑となり、ついに葉全体が
枯れて垂下し、最後には漂白されて白色に変わ
る。病斑部の表皮下には直径2~3mmの黒いゴ
マ状の菌核が形成される。枯死前の病斑の内側
には、白色綿毛状のかびが見られる。病原菌の
生育気温は5~30℃で、最適気温は25℃である。
写真21
小菌核病の初期病斑
白斑葉枯病、日焼けによる白化症状は類似しているので、確認して薬剤を選定する。
(2) 対策
①
罹病葉はほ場から持ち出して処分する。
②
発生前から薬剤散布を行う。
写真22
11
花ユリ
小菌核病の小菌核
写真23
白斑葉枯病
写 真 24
日焼けによる白化
すみ症
(1) 症状
葉が黒く墨を塗った様に変色する。出らい期
以降に下位葉の葉先を中心に葉縁や葉脈間が黒
色、茶褐色に変色し、上位葉に進展する。
低pH(4.8~5.5)、多窒素による鉄過剰症で
ある。
(2) 対策
①
写真25
土壌pHを5.8~6.2程度を目標に矯正する。
すみ症
また、高pH(6.4以上)では、まだら症(鉄、
マンガン、亜鉛欠乏)が発生するので、土壌
pHをチェックしながら、石灰を施用する。
②
窒素の過剰施用、過度の土壌乾燥を避ける。
写真26
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すみを塗った様な黒色斑点