フォトレジスト剥離液とポリマー除去液

フォトレジスト剥離液とポリマー除去液
中村 昌洋
デバイスの高性能化に伴って、新しい配線材料、層間絶縁膜の評価が進められている。本稿では、リソグラ
フィー工程及び、エッチング工程後のレジスト剥離とポリマー除去の工程に関し、各アプリケーションごとの技
術動向及び、剥離液に求められる性能について述べる。
1.
はじめに
ね返り物質、反応生成物が、サイドウォールポリマ
微細パターンは、フォトリソグラフィー工程で加
ーとして配線側壁に堆積し、異方性エッチングに寄
工されたレジストをマスクとして、エッチングガス
与している。しかしながら、このサイドウォールポリ
により加工する。不要になったレジストは剥離液
マーは通常の硬化レジスト以上に剥離されにくい。
によって除去される。従来はネガ型レジスト剥離
以下、Al 配線向けの剥離液に関する特有事項を述
液として、アルキルベンゼンスルホン酸などを成
べる。
分とした有機酸系の薬液が使用されてきた。また、
2.2 配線腐食と防止策
アルカリ可溶樹脂を主成分としたポジ型レジスト
①潜在的腐食
剥離液としては、エタノールアミン類を代表とした
Al 配線側壁に堆積するサイドウォールポリマ
有機アミンと極性溶剤との混合物が広く用いられ
ーには、塩素ラジカル、塩素イオンなどが残留し
てきた。
ており、これが空気中の水分を吸収することによ
一方で、不要となったレジストを酸素プラズマ
り塩酸を生成し、Al 配線を腐食してしまう。このよ
にて灰化(アッシング)して除去するドライプロセ
うな現象を潜在的腐食という。特にエッチング後
スもある。現在主流となるプロセスは、硬化・変質
の据え置き時間が長いと発生し易い傾向があ
したレジストをアッシングにて除去した後、剥離液
る。
にてエッチングガスとの反応生成物(サイドウォ
②電池腐食
ールポリマー)及び、その酸化物を除去する方法
Al-Cu、Al-Si-Cu 合金配線では、Cu 結晶粒が
が最もポピュラーである。
本稿では、各種配線材料、層間絶縁膜ごとの
アプリケーションに応じた剥離液の技術及び動向
プロセスに曝されることにより局在化し、電解質溶
液(剥離液)中で電池を形成し、Alがアノードとして
ピット状に腐食する現象も観察される。
について述べる。
Ashland-ACT 社では、このような腐食を抑制
2.
Al 配線向けポリマー除去液
するため、種々のキレート剤、酸化防止剤などを検
2.1 概要
討し、効果的な防食剤を含有した製品を商品化し
通常 Al 配線のエッチング加工は塩素系ガスが、
ている。中でもヒドロキシルアミンを含有している
ホール形成時はフッ素系ガスが使用されている。配
『ACT-930 シリーズは』、非常に高い洗浄性を有し、
線材料をエッチングする際、下地材料に由来した跳
且つ上記腐食問題を改善した組成となっている。こ
の ACT-930 シリーズは配線洗浄、ホール洗浄の
的な剥離液である ACT-935 の剥離前後の SEM
両工程に使用できる他、硬化レジストの除去も可
写真を示す。
能な剥離液である。図 1、2 にこのシリーズの代表
ACT-935 処理後
処理前
図 1. Al 配線での ACT-935 適用事例
処理前
ACT-935 処理後
図 2. 未アッシング酸化膜ホールでの ACT-935 のプロセス適用事例
③Ti 層のエッチング
察される。この現象に起因する直接の水リンス
バリアメタルとして Al 配線に使用されている Ti
時の腐食も大きな問題として挙げられている。
もまた溶出し易い材料の一つである。
通常この現象を抑制するために、イソプロピル
Ashland-ACT 社では Ti を選択的に保護する防食
アルコール(IPA)などの不活性溶剤による中
剤を開発し、商品化している。
間リンスや、混入したアルカリを中和するため
に炭酸水が導入されている。IPA に替わる専用
2.3 水リンス時の腐食
図 3 に、アルカリ系剥離液の水希釈時の Al
Etch Rate の変化を示す。水希釈度が大きい
ほど、Etch Rate が大きくなるという現象が観
リンス溶剤として、Ashland-ACT 社も幾つか
の製品を持ち合わせている。
30
25
Etch Rate
20
15
10
5
0
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100
wt% Water
図3. Al Etch Rate for Dilutions of an amine base stripper
3.
Cu ダマシン向けポリマー除去液
Cu プロセスでは、層間絶縁膜として、低誘
半導体の微細化に伴い、現在主流である
電率(LowK)材料の導入が検討されている。
Al 配線では配線抵抗が高く、所望のデバイス
ACT-970 は無機系の FSG、MSQ や有機系膜
デザインが不可能となる。Al に替わる新しい配
(SiLK™, FLARE™など)への適合もでき、誘
線材料として、Cu を使用したダマシンプロセス
電率の変化、膜減り、膜物性値の変化、密着性
が検討されている。
の劣化などを起こす事なく、サイドウォールポリ
従来の Al 表面はパッシベート酸化膜が形
マーや硬化したレジストを剥離することが可能
成され、これが不導体層として機能し、強アル
となっている。又、HOSP™や HSQ のような、
カリや強酸の腐食から保護している。一方 Cu
ポリマー骨格にシラン結合を有する LowK 材
表面の酸化状態は非常に不安定であり、0 価
料は、通常は剥離液耐性が低い。このような材
の Cu も非常に腐食の影響を受け易い材料で
料に関しても、低ダメージ型のマイルド組成を
ある。Ashland-ACT 社では、Al 配線向け剥離
製品化している。
液の開発経験を生かし、効果的に Cu 腐食を抑
LowK 材料は有機系、無機系、そのハイブ
制する防食剤を使用した組成を最適化し、
リッド系などが存在し、その成膜方法も塗布型、
『ACT-970』として既に商品化している。この剥
CVD 型と多種多様に紹介されている。更に、
離液の特長として、0 価の Cu に対する Etch
次世代LowK 材料としてポーラス LowK なども
Rate は 1Å/分以下でありながら、酸化された
開発されており、各種 LowK 材料に適合可能
Cu を選択的に溶解する性質がある。ACT-970
なマージンの広い剥離液の開発が望まれてい
は非ヒドロキシルアミン系のアルカリ系剥離液
る。
であり、Al 配線へも適用可能で、未アッシュレ
ジストの除去も可能な剥離液である。
4.
た。
フッ素系ポリマー除去液
もう一方の剥離液の代表的な組成としてフ
Ashland-ACT 社では、フッ化アンモニウム
ッ化アンモニウムを必須とした剥離液がある。
含有剥離液として、上記問題を改善した『ACT
この種の剥離液は、硬化レジストの除去能力
NE シリーズ』を商品化している。ACT NE シリ
はほとんどなく、酸化膜を薄くエッチングするこ
ーズは、各種アプリケーションに対応したグレ
とにより無機性のサイドウォールポリマーのみ
ードがあり、例えば、ウエハの大口径化により、
を剥がし取ることができる。従って、フッ素系剥
洗浄装置は枚葉式が好まれる傾向があり、特
離液は、有機性のサイドウォールポリマーを溶
に短時間で処理できるように最適化した品番も
解する能力が低いことや、酸化膜をエッチング
揃えている。図 4 に枚葉式で処理した事例の
しすぎることによる寸法制御性等の問題があり、
SEM 写真を示す。
一般的にプロセスマージンが低い欠点があっ
処理前
NE-89 処理後
図 4. 枚葉式装置での短時間剥離の事例(室温、1 分)
ACT NE シリーズの特長は、
①
電荷を帯びて露出した W プラグの腐食を抑制することが可能。一般のアルカリ系薬液では改
善できないが、この ACT NE シリーズの剥離液はこの腐食を抑制しながら、ポリマーを除去す
ることが可能である。図 5 にその SEM 写真を示す。
処理前
図5 W プラグの溶出事例
一般的なアルカリ系剥離液
NE-14
②
③
④
直接の水リンスの際の影響を受けに
⑥
Al 配線、Cu ダマシンいずれにも適用
くく、ウエハ面内の性能均一性が高
可能であり、一部の LowK 材料にも
い。
適合性がある。図 6 に Cu と SiLK™
バスライフが長くなるため COO 低減
を積層した事例の SEM 写真、図 7 に
に寄与することが可能である。
SiLK 膜の浸漬処理前後の FT-IR ス
有機性サイドウォールポリマーの溶
ペクトルの変化をそれぞれ示す。
解力が高い。
⑤
使用環境の影響を受けにくく、保存安
定性が高い。
NE-14
処理前
図6
Cu と SiLK™の適用事例
5 終わりに
Cu ダマシンや各種 LowK 材料向けの新規
薬液の開発に成功したが、そのプロセスマージン
は十分ではなく、今後も更なる薬液の開発・改良
を行っていく。又、次世代の材料に向けた開発を
いち早く着手し、市場にタイムリーに貢献できるよ
うに開発を進めていく。
図 7. 処理前後の FT-IR 変化