地盤工学会基準(案) JGS 20XX 1221:2011 固定ピストン式シンウォールサンプラーによる 土試料の採取方法 Method for obtaining soil samples using thin-walled tube sampler with fixed piston 適用範囲 1 この基準は,軟らかい粘性土及び砂質土を対象とし,固定ピストン式シンウォールサンプラーを用いて 乱れの少ない土試料を採取する方法について規定する。 注記 1 粘性土の場合,サンプリングチューブを連続的に押し込むことができ,サンプリングチュー ブが変形しない程度の軟らかさのものに適用する。また,砂質土については,その締まり程 度が緩く,サンプラーの引上げ時にサンプラー内の試料が脱落しない場合に適用する。 注記 2 この基準は,3.4 に規定する採取試料の品質 A 相当の試料の採取を目的にしているが,採取 した試料の品質を保証するものではない。 引用規格・基準 2 次に掲げる基準は,この基準に引用されることによって,この基準の規定の一部を構成する。この引用 基準は,その最新版(追補を含む。)を適用する。 JIMS M-1001 回転式コアボーリングツールス 用語及び定義 3 この基準で用いる主な用語及び定義は,次による。 3.1 固定ピストン式シンウォールサンプラー ピストンを固定し,所定の長さのサンプリングチューブを地盤に連続的に押し込み,試料を採取するサ ンプラー。水圧式サンプラーとエキステンションロッド式サンプラーの 2 種類がある。 3.2 水圧式サンプラー ピストンをサンプラーヘッドで固定し,水圧を利用してサンプリングチューブを地盤に押し込み,試料 を採取するサンプラー。 3.3 エキステンションロッド式サンプラー ピストンエキステンションロッドを利用してピストンを地上で固定し,ボーリングロッドでサンプリン グチューブを地盤に押し込み,試料を採取するサンプラー。 3.4 2 JGS1221:2011 採取試料の品質 採取試料の品質は,次の 3 つに区分する。 採取試料の品質 A 土・岩等の構造に乱れが無いか,ほとんど無い試料。そして,含水比や間隙比が a) 原位置のそれらと等しく,土・岩等の構成や化学成分の変化も無い試料。 採取試料の品質 B 土・岩等の構造は乱れているが,含水比や構成は原位置のそれらと同じであり, b) 土層やその構成も特定できる試料。 採取試料の品質 C 土・岩等の構造が全体的に変化し,土層やその構成が原位置の状態から変化して c) 正確に特定できない試料。また,含水比も原位置のそれと異なる試料。 採取装置及び用具 4 4.1 掘削用具 4.1.1 掘削装置 試料採取位置の地盤を乱すことなく,所定の深さまで掘削できる性能を有するロータリー式ボーリング マシン。掘削装置は,試料採取時に水圧式サンプラーを固定する時にも使用する。 4.1.2 ボーリングロッド JIMS M-1001(回転式コアボーリングツールス)に規定された呼び径 40.5 以上のもの。下端に取り付 けられたビットに掘削装置の回転力と給進力を伝達してボーリング孔を掘削し,中空部を通して掘削流体 をビットの刃先に供給するために使用する。また,下端に固定ピストン式シンウォールサンプラーを接続 し,試料採取時の水圧式サンプラーの固定やエキステンションロッド式サンプラーのサンプリングチュー ブの押込みにも使用する。 4.1.3 ビット 先端に超硬チップを強固に溶着し,ボーリングロッド下端に取り付けて地盤を掘削するもの。 4.1.4 ボーリングポンプ ボーリングロッドを通して掘削流体を孔底に送水・循環させるためのもの。 4.1.5 掘削流体 ボーリング孔の孔壁保護,水圧による孔壁の安定,孔内のスライムの除去の他,ボーリングロッドの回 転抵抗の低減,掘削時のビットの冷却などを目的として,ボーリング孔内に送水・循環させる流体。 4.2 水圧式サンプラー 4.2.1 水圧式サンプラーの構成 水圧式サンプラーは,サンプラーと押込み装置で構成される。 4.2.2 サンプラー サンプラーは,次の各部で構成される(附属書 A 参照)。 a) サンプリングチューブ ステンレス製の引抜きパイプとし,押込み力に対して十分な剛性を有し,先 端に刃先が付いているもの(附属書 B 参照)。 b) サンプラーヘッド 上部がボーリングロッドに,下部がアウターチューブとピストンロッドに固定で き,サンプリングチューブを押し出すための注水孔を有するもの。 c) アウターチューブ 上部がサンプラーヘッドに固定でき,下部に圧力水解放孔を有するステンレス製 のパイプ。圧力水解放孔の位置は,加圧用ピストンがサンプリングチューブの押込み可能な長さの 90% で停止する場所とする。 d) サンプリングチューブヘッド 下部がサンプリングチューブを固定でき,中心をピストンロッドが一 3 JGS1221:2011 方向に移動できるロッキング装置及び水抜き孔を有するもの。ロッキング装置は,ボールコーンクラ ンプ等により,引上げ時のサンプリングチューブの落下を防止する機構を備えていなければならない。 また,水抜き孔は,サンプリングチューブを地盤に押し込むことによってサンプリングチューブ内の 水が押し出されるのに十分な大きさとする。 ピストン e) 通気孔を備えたピストンベースとパッキングから成る。ピストンは,サンプリングチュー ブとの気密を保持し,かつ,滑らかに動くもの。また,通気孔は,試料を採取した後,サンプラーを 解体する時に,試料とピストンの間に負圧が生じないように外部から操作できるもの。 f) ピストンロッド ピストンをサンプラーヘッドに連結して固定するロッド。 g) 加圧用ピストン 下部がサンプリングチューブヘッドを固定でき,外側はアウターチューブ,内側は ピストンロッドとの気密を保持し,かつ,滑らかに動くもの。 4.2.3 押込み装置 サンプリングチューブを地盤に連続的に押し込むのに必要な水圧を発生させることができるポンプ。 4.3 エキステンションロッド式サンプラー 4.3.1 エキステンションロッド式サンプラーの構成 エキステンションロッド式サンプラーは,サンプラー,ピストンエキステンションロッド,固定器具, 押込み装置で構成される。 4.3.2 サンプラー サンプラーは,次の各部で構成される(附属書 C 参照)。 a) サンプリングチューブ b) サンプラーヘッド 4.2.2 a)による。 上部がボーリングロッドに接続され,下部でサンプリングチューブを固定できる もので,その中心をピストンロッドが一方向に移動できるロッキング装置及び水抜き孔を有するもの。 ロッキング装置は,ボールコーンクランプ等により,引上げ時のサンプリングチューブの落下を防止 する機構を備えていること。また,水抜き孔は,サンプリングチューブを地盤に押し込むことによっ てサンプリングチューブ内の水が押し出されるのに十分な大きさとする。 c) ピストン d) ピストンロッド 4.2.2 e)による。 ピストンをピストンエキステンションロッドに連結して固定するロッド。 4.3.3 ピストンエキステンションロッド ピストンを固定するためにピストンロッドから地上の固定器具まで接続するロッド。 4.3.4 固定器具 サンプリングチューブを押し込む時,ピストンが動かないように地上で固定する金具(附属書 D 参照)。 4.3.5 押込み装置 サンプリングチューブを地盤に連続的に押し込む装置。 4.4 シール材 試料端面の保護及び試料の品質劣化等を防ぐための材料。材料として松脂を添加したパラフィン等を用 いる。 採取方法 5 5.1 掘削 掘削用具を用いて,試料採取深さまでボーリング孔を掘削する。ボーリング孔は,使用するサンプラー の外径に応じた孔径とし,孔底のスライムを除去する。その際,試料採取位置の地盤を乱さないように注 4 JGS1221:2011 意する。 注記 ボーリング孔の孔壁は,掘削流体により保護されるが,特に崩壊の恐れがある場合は,ケーシ ングチューブを挿入して孔壁の崩壊を防止する。ケーシングチューブを挿入する時は,試料採 取位置の地盤を乱さないように注意する。 5.2 サンプラーの組立て サンプラーの各部品に異常がないことを確認した後,サンプラーを組み立てる。 5.3 水圧式サンプラーによる試料採取 水圧式サンプラーによる試料採取は,次による。 a) 組み立てたサンプラーにボーリングロッドを継ぎ足しながら孔底にサンプラーを下ろす。 b) サンプラーが孔底に達した深さを試料採取の開始深さとする。 c) サンプラーが孔底に達したらボーリングロッドを掘削装置に固定する。 d) 押込み装置で加圧用ピストンに水圧を加えて,連続的にサンプリングチューブを押し込む。 e) サンプリングチューブの押込み長さは,試料採取有効長さ(サンプリングチューブの先端からピスト ンが後退できる長さ)の 90%以内,かつ,80 cm 以下とする。 試料採取有効長さまでサンプリングチューブを押し込んだ後,直ちにサンプラーに衝撃を与えないよ f) うに静かに引き上げる。サンプラーを引き上げる時は,縁切りのためにボーリングロッドを回転させ ない。また,サンプリングチューブの押込み途中で押し込みが困難になった場合,押込みを中止して 直ちにサンプラーに衝撃を与えないように静かに引き上げる。 注記 サンプリングチューブの押込み長さを計測できる機構がある場合は,サンプリングチューブ の押込み長さを測り,その時の深さを試料採取の終了深さとする。 試料に衝撃を与えないように注意しながら,サンプリングチューブを慎重に取り外す。また,サンプ g) リングチューブからピストンを外す時は,ピストンの通気孔を開ける。この時,試料に変形や衝撃を 与えないように注意する。 5.4 エキステンションロッド式サンプラーによる試料採取 エキステンションロッド式サンプラーによる試料採取は,次による。 a) 組み立てたサンプラーにボーリングロッドとピストンエキステンションロッドを継ぎ足しながら孔 底にサンプラーを下ろす。 b) サンプラーを降下させる時,ピストンが移動しないようにピストンエキステンションロッドをボーリ ングロッドに固定する。また,サンプラーが孔底に達したらボーリングロッドをロッドホルダーで支 える。 c) サンプラーが孔底に達した深さを試料採取の開始深さとする。 d) サンプラーが孔底に達したら,ピストンエキステンションロッドと固定器具を用いてピストンを固定 する。ピストンは,サンプラーを押し込む時に動かないように固定する。 e) ボーリングロッドを利用してサンプリングチューブを連続的に押し込む。押し込んだ後,サンプラー の押込み長さを測り,その時の深さを試料採取の終了深さとする。 f) サンプリングチューブの押込み長さは,試料採取有効長さの 90%以内,かつ,80 cm 以下とする。 g) 押込み長さの測定後,直ちにサンプラーに衝撃を与えないように静かに引き上げる。サンプラーを引 き上げる時は,縁切りのためにボーリングロッドを回転させない。 h) サンプリングチューブの押込み途中で押込みが困難になった場合,押込みを中止してその時の押込み 長さを測り,直ちにサンプラーに衝撃を与えないように静かに引き上げる。 5 JGS1221:2011 試料に衝撃を与えないように注意しながら,サンプリングチューブを慎重に取り外す。また,サンプ i) リングチューブからピストンを外す時は,ピストンの通気孔を開ける。この時,試料に変形や衝撃を 与えないように注意する。 試料の取扱い 6 試料の取扱いは,次による。 a) 試料の上端部のスライムを除去し,試料の両端面を観察して試料採取長さを測る。 b) 試料がサンプリングチューブの中で移動したり,試料の状態が変化しないよう試料の両端をシールす る。 試料は,速やかに試験室に搬入する。試料を運搬する時は,試料に衝撃,振動及び直射日光等による c) 温度変化を与えない。 現場で試料を一時保管する場合は,試料に衝撃,振動及び直射日光等による温度変化を与えない。 d) 注記 1 細粒分含有量の少ない砂質土で,凍結・融解による試料の品質低下がないと判断される場 合は,試料中の水を脱水後,凍結処理をしてもよい。試料を凍結する場合は,凍結前後の 試料の重さ,排水量,試料の長さ方向の凍結による膨張量を測る。また,試料を凍結する 場合は,シールする必要はない。 サンプリングチューブ側面に次の事項を明記する。 e) 1) 調査名 2) 地点番号と試料の番号 3) 試料採取の開始深さと終了深さ 注記 2 水圧式サンプラーでサンプリングチューブの押込み長さが測定できない場合は,試料採 取の開始深さと試料採取長さから試料採取の終了深さを求めてもよい。 7 4) サンプラーの押込み長さと試料採取長さ 5) 採取年月日 調査地点の復旧 調査地点の復旧は,次による。 a) 予定深度の試料採取が終了した後,特別な目的がある場合を除きボーリング孔を閉塞し,調査地点を 適切な方法で復旧する。 b) 復旧に当たっては,危険がないよう,また動植物や自然環境に害を与えないように必要な措置を講ず る。 c) ボーリング孔は充填材を用いて埋め戻し,閉塞する。充填する時は,孔内に空洞が残らないよう確実 に埋め戻す。また,ボーリング孔の埋戻しに起因する周辺地盤の変状が発生しないよう留意する。 d) ボーリング孔の埋戻し方法,充填材,調査地点の復旧方法に条件がある場合は,それに準ずる。 e) 地下水の汚染や地盤内の透水層の短絡等が懸念される場合は,周辺地盤と同等の透水性かそれよりも 低い充填材を使用するなど,適切な方法でボーリング孔を埋め戻す。 f) ボーリング孔の最終的な埋め戻しを行うまでの間は,フェンス等による調査地点の仮囲いやボーリン グ孔に仮蓋を設けるなどして,安全を確保する。 8 報告事項 6 JGS1221:2011 次の事項を報告する。 a) 調査名 b) 地点番号と試料の番号 c) 試料採取の開始深さと終了深さ d) サンプラーの押込み長さと試料採取長さ 注記 水圧式サンプラーでサンプリングチューブの押込み長さが測定できない場合は,試料採取長 さを報告する。 e) 使用したサンプラーの構造とサンプリングチューブの材質,形状,寸法 f) 採取年月日 g) 採取した土試料を凍結させる場合は,凍結前後の試料の重さ,排水量,凍結による試料の膨張量 h) この基準と部分的に異なる方法を用いた場合は,その内容 i) その他特記すべき事項 7 JGS1221:2011 附属書 A (参考) 水圧式サンプラーの例 A.1 水圧式サンプラーの例 水圧式サンプラーの例を図 A.1 に示す。 ボーリングロッド サンプラーヘッド 注水孔 チューブ調整用カラー ボールコーンクランプ スプリング サ チ ン プ リ ブ ン ヘ グ ド ッ 水抜き孔 チューブ取付けビス アウターチューブ ピストンロッド 圧力水解放孔 サンプリングチューブ 通気孔 パッキング ピストンベース 図 A.1-水圧式サンプラーの例 ュー 加圧用ピストン クランプ解除突起部 ピストン 8 JGS1221:2011 附属書 B (参考) サンプリングチューブの例 B.1 サンプリングチューブの例 サンプリングチューブの形状と寸法の例を図 B.1 と表 B.1 に示す。 注記 サンプリングチューブの刃先角度について,ISO 22475-1 では一般に 5°を超えてはならず,採 取試料の品質に影響が無いことが示された場合に限り 5~15°のものを使用できるとされてい る。我が国では,固定ピストン式シンウォールサンプラーに関する最初の基準である土質工学 会基準 JSF T-1 1982 の制定にあたり,1965 年~1970 年のサンプリング委員会(委員長:福岡 正巳)において,刃先角度の違いが採取試料の品質に与える影響に関する研究結果を総括し, 刃先の強さや刃先加工の点なども考慮して 6±1°の刃先角度が採用され,現在に至っている。 ~ 1000 mm 長さ 950950~1000mm 刃先角度 6 ± 1° 肉厚 15~ 20 mm 肉厚 1.5~2.0mm 刃先肉厚 0.2±±0.05 0.05mm mm 0.2 図 B.1-サンプリングチューブの形状の例 表 B.1-サンプリングチューブの寸法の例 内径 mm 肉厚 mm 75.0~75.5 1.5~2.0 刃先角度 ° 刃先肉厚 mm 長さ 扁平度 mm 注記 mm 6±1 0.2±0.05 950~1000 De(max)-De(min)<1.5 De(max)と De(min)は,それぞれ任意の断面 における最大外径と最小外径 9 JGS1221:2011 附属書 C (参考) エキステンションロッド式サンプラーの例 C.1 エキステンションロッド式サンプラーの例 エキステンションロッド式サンプラーの例を図 C.1 に示す。 ピストンエキステンションロッド ピストンエキステンションロッドストッパー ボーリングロッド 逆ねじレデューサー サンプラーヘッド スプリング ボールコーンクランプ ロッキング装置 スパイダー アダプター 水抜き孔 サンプリングチューブ取付けビス サンプリングチューブ ピストンロッド 通気孔 パッキング ピストン ピストンベース 図 C.1-エキステンションロッド式サンプラーの例 10 JGS1221:2011 附属書 D (参考) エキステンションロッド式サンプラーのピストンの固定例 D.1 エキステンションロッド式サンプラーのピストンの固定例 エキステンションロッド式サンプラーのピストンの固定例を図 D.1 に示す。 U金具 シャックル チェーン 固定器具 やぐら ターンバックル リングフック ピストンエキステンションロッド ピストンエキステンションロッドストッパー ボーリングロッド 押込み長印 スピンドル上端 ボーリングマシン チャック アンカー アンカー 図 D.1-エキステンションロッド式サンプラーのピストンの固定例
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